説明

半連続的発酵方法

本発明は、微生物に対して不透過性であるが、少なくとも一部分領域においてガス透過性である外壁を有する多数の発酵容器(1)中で微生物によって生体分子を生合成するための方法において、以下の工程
(a)栄養培地を前記発酵容器中に導入する工程と、
(b)該発酵容器を適宜閉鎖する工程(こうして、周囲との物質輸送は、もはや発酵容器の外壁を通じて進行しうるにすぎない)と、
(c)該発酵容器を適宜滅菌する工程と、
(d)各発酵容器で該栄養培地に、微生物の無菌的添加によって接種する工程と、
(e)該発酵容器を、ガスもしくはガス混合物が溶解されている発酵浴(4)中に導入する工程と、
(f)該発酵容器を発酵浴から適宜取り出す工程と
を含む方法に関する。更に、本発明は、発酵容器と、それを本発明による方法において用いる使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物による生体分子の生合成のための方法並びに本発明の方法で好ましく使用できる発酵容器に関する。
【0002】
多くの医薬品(中間体)生成物は、現在、生化学的経路によって生産されている。この場合に、しばしば、微生物、例えば細胞系統、菌類(酵母)又は細菌は、所望の生体分子の生合成に必要とされる栄養素を供給した好適な培地中でしばしば培養される。使用される微生物に応じて、通常は、生合成が成功し、それを比較的長期間にわたり維持できるように、厳密に明確に定義された境界条件、例えばpH、温度、塩濃度及び栄養素濃度、一定のガスの種類及び分圧を維持する必要がある。
【0003】
前記のように、ある特定の生物について最適な増殖条件を作り上げねばならないだけでなく、異種生物によるコンタミネーション又は任意の他のコンタミネーションが起きないことを保証することに気をつける必要がある。通常は、係る方法は、例えば撹拌機、給気フィルタ及び排気フィルタ、加熱装置などの多くの内部構造物を有する発酵器中で行われる。更に、全プロセスの間で、通常は、無菌条件が維持される。
【0004】
生物工学的方法は、原則的に、連続的に、半連続的に、又は回分式に行うことができる。
【0005】
連続的方法は、原則的に、装填法(バッチ法)よりも、かなり廉価で、より論理的に、より低い品質変動を伴って、そしてより確実に行われることが知られている。それにもかかわらず、製剤生物工学においては、連続法は、今まで殆ど使用されていなかった。これには、特に2つの理由:
第一に、監督機関の部分では、個々の装填物の再現的な定義が望まれていること、
第二に、最小(微生物学的)コンタミネーションであっても、不測の結果が起こりうること、堆積が起こりうること、又はプロセスの崩壊さえも起こりうること
が原因である。
【0006】
生化学的プロセスの半連続的な手法の場合には、通常は、培養のために発酵器が使用され、そして定義された時点で、存在する発酵培地の一部が取り出され、そして新たな培地に置き換えられる(流加培養と呼称される)。その際に規則的な間隔で取り出される発酵培地は、生合成によって合成される生体分子を含有する。この関連で、例えば、US5,342,765号及びUS6,610,516号を参照できる。しかしながら、前記の半連続的なプロセス手順の種類は、培養された微生物が、少なくとも部分的に、比較的長い時間にわたり発酵器中に残留し、それが比較的低い遺伝的安定性を有する微生物の場合には、突然変異による問題を引き起こすことがある。更に、取り出すことの繰り返しと培地の再貯留は、異種生物による発酵バッチのコンタミネーションの危険を高める。
【0007】
生化学的方法の断続的な手法(装填法又はバッチ法)の場合には、1つの発酵器につき1つのプロセスが構成されているので、完全に処理される。断続的なプロセス手法の場合のコストの最小化は、事実上、1装填あたりのバッチを増大させる場合にのみ、すなわち例えばその手法を、1000lの容量を有する反応器から、15000lの容量を有する反応器へと切り替えた場合にのみ、可能であるに過ぎない。しかしながら、コンタミネーションの場合に、大規模なバッチ全体を廃棄する必要があるので、バッチが増大するが、またコストのリスクも増大する。
【0008】
コンタミネーションのリスクの他に、大規模な容量では、係る方法は、物質輸送の不足において大きな問題がある。例として例えば、供給される気体、例えばO2は、その供給部位から微生物に到達する前に、発酵培地を通じた比較的長い経路を覆わねばならない。これは同様に、例えば除去せねばならないCO2のようなプロセスの副生成物にも当てはまる。物質輸送の問題は、プロセス規模の増大に反比例して高まることは知られている。この問題は、しばしば、高い動的エネルギーを発酵培地中に導入する強力な撹拌機によって解決される。しかしながら、この場合に、同時に高い剪断力が発生して、微生物に損傷を与うることが欠点である。
【0009】
従って、従来技術の方法の前記欠点を最小限にする又は回避する、生体分子の生合成のための方法に要求がある。
【0010】
本発明の課題は、従来技術に対して利点を有する、微生物による生体分子の生合成のための方法を提供することである。本方法は、また、大規模に実施できることが望ましく、かつコンタミネーションの場合に、特に異種生物によるコンタミネーションの場合に、全体の(大部分の)バッチを廃棄せねばならないという危険性を減らすことが望ましい。更に、本方法は、廉価で、自動化されていることが望ましく、かつクリーンルーム設計に組み込むことができる。
【0011】
前記課題は、本発明の特許請求の範囲の発明主題によって解決される。驚くべきことに、コンタミネーションの可能性に付随するコストのリスクは、発酵培地を、複数の発酵容器に細分し、そしてこれらを好適な条件下で生合成を通じてインキュベートした場合に、低下させることができることが判明した。
【0012】
本発明は、微生物に対しては不透過性であるが、少なくとも一部の領域でガス透過性である外壁を有する複数の発酵容器において微生物により生体分子を生合成(発酵)するための方法において、以下の工程:
(a)前記の複数の容器中に栄養培地を導入する工程と、
(b)適宜、周囲との物質交換、有利にはガス交換が、わずかにまだ該発酵容器の外壁を通じて進行しうるように発酵容器を閉じる工程と、
(c)適宜、該発酵容器を滅菌する工程と、
(d)各発酵容器中の栄養培地に、微生物の無菌的添加によって接種する工程と、
(e)ガスもしくはガス混合物が有利には発酵浴に気泡導通して、そのガスもしくはガス混合物が溶解されている発酵浴中に発酵容器を導入する工程と、
(f)適宜、発酵容器を発酵浴から取り出す工程と
を含む方法に関する。
【0013】
本発明による方法は、生合成が複数の発酵容器中で別々の区分として進行するので、任意のコンタミネーションが、1つだけの個別の発酵容器に影響を及ぼすだけで、全反応バッチに影響を及ぼさないという利点を有する。個別のコンタミネーションされた発酵容器は、通常、異常な着色のため肉眼で同定でき、取り除くことができる。このようにして、方法全体のコストのリスクは、かなり低下する。それにもかかわらず、実質的に反応バッチの拡大に伴う全ての利点は利用することができる。本発明による方法は、自動化することができ、かつ/又は半連続的に実施することができる。
【0014】
図1は、本発明による方法の1つの好ましい形態の概略図を示している。図2は、本発明による方法の工程(e)及び(f)の1つの好ましい態様を示している。図3〜7は、本発明による発酵容器の好ましい形態を示している。
【0015】
本発明の詳細な説明の意味における"生合成"という用語は、任意の発酵を含む、すなわち微生物、特に細菌培養、菌類培養又は細胞培養による生物学的材料の反応を含む。
【0016】
本発明の詳細な説明の意味における"生体分子"とは、遺伝子操作されていてよい微生物による生合成(発酵)の経路によって生産できる任意の有機分子を意味するものと解されるべきである。生体分子の例は、タンパク質であり、それは、適宜、翻訳後修飾されていてよい。
【0017】
本発明の詳細な説明の意味における"栄養培地"とは、原則的に微生物の培養に適しているが、まだそれを含有しない培地を意味するものと解されるべきである。また、その用語は、後の生合成のために、必須の添加物(例えば活性化剤もしくはある特定の栄養素)が、本方法の後続の時点までは供給されない培地を含む。
【0018】
本発明の詳細な説明の意味における"発酵培地"とは、栄養培地をまだ転化しない、それを既に部分的に転化した、又はそれを完全に転化した微生物を既に含有する培地を意味するものと解されるべきである。
【0019】
本発明による方法の工程(a)において、栄養培地は、発酵容器中に導入される。栄養培地の種類及び組成は、生合成に使用される微生物に依存する。有利には、栄養培地は、慣用の栄養素及び助剤が溶解及び/又は懸濁された形態で存在する液体である。係る栄養素及び助剤は、当業者に公知である。この関連において、例えばその全体として、S.Isaac著のKultur von Mikroorganismen[Culture of microorganisms],Spektrum Akademischer Verlag,1996;K.Schuegerl著のBioreaktionstechnik,Bioprozesse mit Mikroorganismen und Zeilen[Bioreaction techniques,bioprocesses with microorganisms and cells],Birkhaeuser Verlag,1997;M.A.Harrison他著のGeneral Techniques of Cell Culture(Handbooks in Practical Animal Cell Biology),Cambridge University Press(1997);M.Clynes著のAnimal Cell Culture Techniques,Springer,Berlin,1998;T.Lindl著のZeil− und Gewebekultur[Cell and tissue culture],Spektrum Akademischer Verlag,2002;V.Vinci他著のHandbook of Industrial Cell Culture:Mammalian,Microbial,and Plant Cells,Humana Press,2002;並びにC.D.Helgason他著のBas/c Cell Culture Protocols(Methods in Molecular Biology),Humana Press,3rd Bk&Cdr ed.(2004)を参照できる。
【0020】
慣用には、係る栄養培地は、緩衝液、電解質、単糖類、オリゴ糖類、多糖類、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ビタミン及び/又は補酵素を含有する。しかしながら、更に、例えば使用される微生物が耐性を有する抗生物質、色素などが存在してもよい。
【0021】
有利には、該発酵培地は、この時点では、後に生合成を行う更なる微生物を含有しない(すなわち、この時点では、有利には発酵培地は存在しない)。
【0022】
栄養培地は、発酵容器へと種々の様式で導入することができる。発酵容器には、無菌条件下で栄養培地が装填されるか、又は、充填された発酵容器の最終的な滅菌が、工程(d)の接種前に行われるべきであれば、非無菌条件下で栄養培地が装填される。
【0023】
有利には、発酵容器は、栄養培地を装填するのに適していて、有利には再閉鎖可能なオリフィスを有する。
【0024】
栄養培地が液体であれば、この培地を、発酵容器に、例えば流し込み、注入し、滴加し、噴霧し、又は圧入でき、又は他の様式で導入することができる。充填は、市販されている液体用充填器、例えば非経口組成物用の高容量バッグ又はボトルで行うことができる。
【0025】
栄養培地が、後にまで溶解されない固体を含む場合には、この固体は、発酵容器へと、例えば漏斗、スプーン、パドル又はスパチュラを用いて装填することができる。固体を溶解させるために、引き続き、好適な液体、慣用には水、水溶液又はハロゲン化された炭化水素、特にペルフルオロ炭化水素、例えばパーフルブロンを、該発酵容器中に装填することができる。
【0026】
有利には、発酵容器の容量の少なくとも70%が、より有利には少なくとも80%が、特に少なくとも90%が、又は少なくとも95%が、栄養培地で充填される。これは、栄養素又は発酵培地が、生合成の間に広い範囲にまで発酵容器の外壁を濡らすことを保証するので、生合成の間に外壁の少なくとも一部を通じて行われるガス交換は、高い効率に至る。
【0027】
好ましい一実施態様において、本発明による方法は、有利には工程(a)の直後に実施される、任意の工程(b)を含む。この場合に、発酵容器は、周囲との物質交換が、わずかにまだ発酵容器の外壁を通じて進行しうるように閉鎖される。発酵容器の外壁は、この目的のためには、少なくとも一部の領域で、周囲との物質交換、特にガス交換を後に可能にする材料から構成される。
【0028】
例えば工程(a)で栄養培地が発酵容器中に導入される、発酵容器の複数のオリフィスは、この任意の方法工程において閉鎖される。これは、不可逆的に、例えば溶接又は接着によって行ってよい。しかしながら、有利には、その閉鎖は、可逆的な様式で行われる。このために、発酵容器は、例えばねじ込みクロージャ又は同様に作用するクロージャであって、繰り返しの開閉に適したクロージャを有してよい。係るクロージャは、当業者に公知である。発酵容器に位置する接続部もしくはオリフィスに応じて、多数のクロージャ技術及びクロージャ機械、例えばゴム栓、固定アルミニウムキャップ、ねじ込みクロージャ又はプッシュインクロージャ(例えばルアーロッククロージャ)を利用可能である。
【0029】
発酵容器の閉鎖は、制御されない物質輸送が、発酵容器の周囲とその内部との間に起こりえないように行われる。発酵容器の外壁は、微生物に対して不透過性であるので、発酵容器内部から微生物が逃出できないだけでなく、特に該微生物は、外部から発酵容器中に進入することもできない。
【0030】
有利には、工程(a)及び(b)を実施した後に、発酵容器の内部に、生合成を後に行うべき微生物は存在しない(すなわち、この時点で、発酵培地はもう存在しない)。
【0031】
本発明による方法の好ましい一実施態様において、工程(c)に引き続き、発酵容器を滅菌する。この方法工程は、工程(a)における装填と、適宜、工程(b)における閉鎖が、無菌条件下で行われず、従って充填された発酵容器は最後に、すなわち装填プロセスの終わりに充填された状態で、滅菌される場合に望ましい。随時の滅菌は、種々の様式で実施することができる。当業者は、このために種々の可能性を認識しており、例えば滅菌は、過熱蒸気、乾熱、電離線(α−滅菌又はβ−滅菌)によって又はエチレンオキシドを用いて実施することができる。
【0032】
好ましい一実施態様において、滅菌は、過熱蒸気によって、逆圧オートクレーブ中で、121℃で、例えば30分間にわたって実施される。ここでの十分な逆圧は、膨張による発酵容器の破損を防ぐために好ましい。適宜、改善された熱伝導を達成し、そして局所的な過熱による発酵容器内の栄養培地の膠着を防ぐために、滅菌の間に充填された発酵容器を回転させるのが好ましいことがある(回転オートクレーブ)。
【0033】
随時の滅菌工程(c)は、例えば細菌、細胞又は菌類などの異種生物による栄養培地の任意のコンタミネーションが無害となることを保証する。
【0034】
工程(c)における発酵容器の随時の滅菌に引き続き、工程(d)において、各発酵容器の栄養培地に、微生物の無菌的な添加により接種する。こうして、栄養培地は、発酵培地に変えられる。このために、有利には一時的に、発酵容器の外側から内側への出入り口がつくられる。この出入り口は、オリフィスであってよく、それは、適宜、工程(b)で事前に閉じられている。
【0035】
本発明による方法の工程(d)は、当業者に公知の種々の様式で実施できる。例えば、発酵容器は、固体又は液体の組成物の無菌的な添加用の装置であって、微生物の添加の目的のために、針又は針幹によって穴を開けることができ、その針又は針幹を取り除いた後に再び自然に閉鎖する装置を備えてよい。係るクロージャを作製するのに適した材料は、当業者に公知である。例えば、好適な膜は、隔膜を作製するため、例えばカニューレを用いた注射用血清の無菌的採取のためにも使用される膜である。
【0036】
発酵容器に接種するために使用される微生物は、有利には、まず、振盪培養又は前培養中で、標準的な微生物学的方法と特定の微生物の要求に従って培養することができる。
【0037】
選択的に、その接種のために、微生物は、既に本発明による方法を通過し、合成されるべき生体分子の生合成に寄与した発酵容器から取り出すことができる。完全に反応された(発酵された)発酵容器は、このための稼働中のプロセスから取り出すことができる。適宜、微生物学的コンタミネーションについての発酵容器の試験と細胞密度の測定の後に、栄養培地で充填された新たな発酵容器に接種するために、発酵培地を、これらの発酵容器から、無菌条件下で取り出す。どのような試験が必要であるかは、それぞれの微生物と、生合成により生産されるべき生体分子の要求に依存する。どれ程頻繁に該プロセスを、完全に反応された先行する発酵容器を用いてプロセスそれ自体から再接種でき、再接種してよいか、又はどれ程頻繁に新たな前培養を培養せねばならないかは、使用される生物の遺伝的安定性、又は不所望の遺伝子変化(突然変異、逆突然変異など)の発生に依存する。
【0038】
栄養培地が充填され、かつ滅菌された発酵容器に、次いで、振盪培養からか又は完全に反応された(発酵された)発酵容器からの発酵培地を接種する。このために、発酵培地の定義された量(一般に、数マイクロリットルないし数ミリリットルの範囲内)を、無菌的に、振盪培養からか又は完全に反応された発酵容器から取り出し、そして無菌的に、新たな栄養培地で充填された滅菌された発酵容器に添加する。こうして、新たな栄養培地で充填された多くの滅菌された発酵容器に、振盪培養の又は発酵された発酵容器の発酵培地を接種できる。これは、手動で、又は相応の市販の装置、例えば研究室用サンプラ又は少容量の非経口用の医薬品充填器を用いて実施することができる。
【0039】
本発明による方法の好ましい一実施態様においては、微生物は、細菌、細胞系統及び酵母からなる群から選択される。選択される微生物の種類は、生合成によって合成されるべき生体分子に依存する。
【0040】
好ましくは、合成されるべき生体分子は、ペプチド又はタンパク質であり、それらは、適宜、翻訳後修飾されていてよい。その発現のためには、遺伝子操作された細菌、細胞系統又は酵母を使用することが好ましい。
【0041】
本発明による方法の特に好ましい一実施態様においては、微生物は、組み換えSP−C封入体を産生する細菌である。SP−Cは、サーファクタント−タンパク質Cであり、そのポリペプチドは、とりわけ、未熟児及び成人の急性呼吸窮迫症候群の治療のために適している。この関連で、例えば、DE−A4418936号及びA.ten Brinke他著のBiochim Biophys Acta.2002,1583(3):253−65に参照がなされる。
【0042】
接種後に、発酵容器中で、それらの生体分子は、微生物によって生合成される。このために、本発明による方法の工程(e)において、発酵容器を、ガス又はガス混合物が溶解されている発酵浴中に導入する。好ましくは、ガス又はガス混合物を、発酵浴に気泡導通させる(ガス分散トラフ)。これらの条件下で、微生物は、増殖し、倍増し、そして生合成によって所望の生体分子を産生する。
【0043】
複数の発酵容器を、同時に発酵浴中に導入することができる。選択的に、発酵容器を、連続的に発酵浴中に導入することができる。好ましくは、所定の時点で、複数の発酵容器は、発酵浴中に位置し、他の発酵容器は、発酵浴中に位置せず、また他の発酵容器は、もはや発酵浴中にはない。
【0044】
該ガス分散トラフを、液体(発酵浴)で満たすことが好ましく、その中に、ガス又はガス混合物は、溶解してよく、それをもってガス分散トラフはガスで処理される。好ましくは、この液体は水、水溶液、又はハロゲン化炭化水素、特に過フッ素炭化水素、例えばパーフルブロンである。ガス又はガス混合物が溶解され、かつそこに気泡が通過する液体から、発酵容器の内部への気泡の直接的な通過が行われるが、その大部分の通過は、液相から発酵容器へと行われる。発酵容器とのガス交換に利用可能な大部分のガスは、該液体中に溶解されている。
【0045】
液体中でガスにより発酵容器を処理することは、周囲気体でのガスによる直接的なガス処理と比べて、とりわけ、気泡が該液体中に形成し、前記液体は、それらの浮力のため、非常に緩慢に、発酵容器内での発酵培地の渦動を保証するという利点を有する。加えて、液体は、ガスより良好に加熱/冷却することができ、そして更に機械的インパルス(振動、超音波など)の伝達のために利用することができる。
【0046】
また、液相から発酵容器へのガス通過は、気相から発酵容器への通過より良好に進行しうる。ガス処理媒体として不活性ガス(N2、He、Arなど)を用いた無菌的発酵の場合には明確に、液体で満たされたガス分散トラフの人員安全性は、ガスで満たされたチャンバのそれよりも容易に保証される。加えて、ガス分散トラフは、ガスで満たされたチャンバよりも、溶解された酸素をかなり迅速に除去することができる。その不活性ガス流は、加えて、適宜、微生物に毒性がある物質、例えば酸素(嫌気的発酵)、硫化水素、メタン及び他の炭化水素、揮発性アミンなどの排出を担う。最後に、発酵流は、また、発酵容器の導入及び除去のために使用することもできる。
【0047】
該発酵容器は、有利には、該液体中に完全に浸漬される。しかしながら、また、発酵容器を部分的にのみ浸漬させることも可能である。
【0048】
該生物が、生合成を嫌気的条件下で進行するものである場合に、ガス又はガス混合物は、有利には、不活性ガス、例えば窒素又は窒素含有ガス混合物である。該生物が、生合成を好気的条件下で進行するものである場合に、ガス又はガス混合物は、有利には、酸素、又は酸素含有混合物、例えば空気である。
【0049】
本発明による方法の好ましい一実施態様においては、工程(e)において、ガス又はガス混合物は、大気圧より高い圧力である。例えば、ガス又はガス混合物は、発酵容器中に、少なくとも0.1バールの、より有利には少なくとも0.2バールの、なおもより有利には少なくとも0.3バールの、最も有利には少なくとも0.4バールの、特に少なくとも0.5バールの超過圧力で導入することができ、その結果として、ガス交換は、発酵容器の外壁を通じて改善することができる。ここで超過圧力は、大気の周囲圧力、通常は1.0バール(1013hPa)に基づくものである。前記の圧力は、供給導管中でのガス入口圧力であり、その際、最低ガス圧は、必ずしも、少なくとも0.1バールの超過圧力である必要はない。
【0050】
最低暴露超過圧力は、発酵浴の充填高さから計算され(充填媒体の密度・充填高さ)、加えて、ガス供給導管及びガス配量装置中での流動抵抗からと、また所望のガス導入速度(m3/分)からも決定される。有利には、ガスを吹き込む場合に、その圧力は、周囲空気圧力と、発酵浴中の静水圧(密度・充填高さ)との合計よりも高い。
【0051】
この場合に、ガス分散トラフは、有利には、圧力容器として構築される。発酵容器外部の発酵浴と発酵容器内部、すなわち発酵培地との間でのガス交換は、有利には、原則的に、溶解状態で発酵浴中に位置するガスを介して進行する。直接的なガス交換、すなわち気体状の未溶解状態でのガス分子の発酵容器外壁を通じた輸送はまさに起こるが、副次的な役割をになうに過ぎない。
【0052】
有利には、ガス又はガス混合物は、発酵浴中に発酵浴の下側で好適な入口ノズルを介して吹き込まれるので、そのガス又はガス混合物は、まず発酵浴中に溶解し、その次に発酵浴中で小さい気泡の形態で、従って気泡の形態で発酵浴に位置する発酵容器を通じて上昇する。発酵容器外部は、少なくとも部分領域でガス透過性なので、発酵容器は、特に、溶解されたガス又はガス混合物の一部を発酵浴から取り込む。
【0053】
発酵容器の生産に使用した材料のガス透過性に依存して、周囲とのガス交換、すなわち発酵浴とのガス交換は、多かれ少なかれ強く表れる。ガス交換の大部分は、ガスの溶解された形態で行われる。これは、液相から気相への付加的な通過及びその逆での場合よりも交換を効率的にする。
【0054】
好気的過程において、酸素のガス輸送は、気泡から境界層を通ってガス分散トラフ(発酵浴)の充填媒体中に進み、そこから発酵容器の表面の近傍に進み、発酵浴の充填媒体の境界層を通って発酵容器の壁の透過性材料中に進み、発酵容器の外側から内側に進み、その壁内部から栄養培地もしくは発酵培地の境界層を通じて進み、栄養培地もしくは発酵培地を通じて微生物へと進み、最終的にはその細胞膜を通じて進む。排出ガス(CO2、CH4、H2S、アミンなど)の物質輸送は、逆の順序で行われる。
【0055】
好ましい一実施態様においては、溶解されたガスは、発酵容器の外壁を通過し、そして発酵容器内部で気体状態に変換されるので、気泡は、また発酵容器内部で形成される。発酵容器内に位置し、そこで上昇する気泡は、その浮力のため、発酵培地の渦動を保証するので、発酵容器中に位置する微生物の沈降が回避されて、集中的な物質伝達が保証される。
【0056】
従って、強力な撹拌機を避けることができるので、また高い剪断力も生じない。微生物は、発酵培地に位置し、有利には発酵浴中には位置しないので、しかしながら、発酵浴中での物質輸送を改善し、これを運動エネルギーの導入により渦動させることも可能である。この過程で生ずる如何なる剪断力も、比較的に微生物には無害である。それというのも、該微生物は、発酵容器の外壁によって十分に保護されているからである。また高い剪断力は、特に発酵容器中の微生物が、発酵浴中の外力から実質的に保護されているので、生じない。発酵浴中の強力な撹拌機は、全ての場合に避けられるわけではない。それというのも、その撹拌機のエネルギー入力は、気泡から発酵浴の充填媒体へのガス輸送に決定的に影響を及ぼすからである。
【0057】
ガス処理のためには、ガス分散トラフは、ガス処理を進める装置を有する。以下のものがガス導入を担うことがある:気泡を渦動させるための付加的な機械的装置を有する簡単な浸漬管、又は多くの細かいボアホールを有する浸漬管(これは"散布リング"と呼ばれる)(つまり多くの細かいボアホールを有する環状管)、散布ディスク又は細孔を有する材料から製造されたガス導入装置及びガス分配装置。検討される細孔を有する材料は、例えば焼結鋼、(焼結)プラスチック、有孔ゴム膜(例えば自動閉鎖式の散布ディスクの場合に)、フィルター膜材料などである。
【0058】
本発明による方法の好ましい一実施態様においては、工程(e)において、発酵浴を加熱/冷却する。その加熱/冷却は、好適な加熱エレメント又は冷却エレメントによって実施することができる。慣用には、20〜60℃、有利には30〜40℃の範囲の温度が設定される。
【0059】
好ましい一実施態様においては、ガス分散トラフ、すなわち発酵浴中の液体を、撹拌及び混合して、液体中のガスのための拡散経路長をできる限り短く保つ。その混合は、撹拌機又はポンプを介して行うことができる。有利には、発酵容器及びそこに含まれる発酵培地を、圧力振動、浴液の運動及び/又は振動による撹拌に保ち、発酵浴及び発酵培地における物質輸送及び拡散を促進させることができる。
【0060】
本発明による方法の好ましい一実施態様においては、工程(e)において、発酵浴を超音波で超音波処理する。使用される周波数は、有利には20〜120kHzの範囲である。一般的なエネルギー入力は、一般的な研究室用の超音波浴の場合には導入の枠組みであることが望ましい。エネルギーが少なすぎると、エネルギーが発酵容器により吸収されることとなり、栄養培地又は発酵培地に到達する量が少なすぎる。エネルギーが多すぎると、細胞が破壊されることとなる。当業者は、容器及びプラントのサイズ及び形状に応じて、正確な設定をなすことができる。
【0061】
超音波での超音波処理は、発酵培地中に懸濁されている微生物及び任意の粒子の沈降が積極的に抑制されるという利点を有するので、できる限り均質な分布が保証される。
【0062】
本発明による方法の好ましい一実施態様においては、発酵浴は、ガス又はガス混合物に加えて、生合成のために微生物によって必要とされ、かつそれに対して発酵容器の外壁が少なくとも一部領域で透過性である少なくとも1種の物質を含有する。この場合に、該物質の物質輸送は、発酵容器の外壁を通じて拡散(浸透)によって進行する。発酵容器内の微生物は連続的にこの物質を消費するので、発酵培地と発酵浴との間の該物質の化学的ポテンシャルの勾配が連続的に維持される。有利には、該物質は、比較的低い分子量の分子である。有利には、該物質の分子量は、5000g/モル未満、より有利には2500g/モル未満、特に1000g/モル未満である。
【0063】
本発明による方法の好ましい一実施態様においては、該微生物は、それに対して発酵容器の外壁が不透過性である生体分子を生合成によって合成する。このように、合成された生体分子は、発酵容器中に保留される。単離は、生体分子の生合成のためのプロセスが完了し、発酵容器を空にした後までは行わない。しかしながら、原則的に、また、発酵容器の外壁が合成の生体分子に対して透過性であると考えられるので、発酵容器内部の発酵培地からだけではなく、発酵浴の液体からも単離することができる。
【0064】
好ましい一実施態様においては、工程(e)を実施するための発酵容器は、保持装置中に固定され、該装置により、該発酵容器は同等に物質輸送(ガス交換)に関与可能となり、又は例えば除去の間に、浴中の個々の発酵容器の定義された取り外しと同定を容易にする。この目的のために、該保持装置には、刻印、例えば番号付けがなされていてよい。
【0065】
好ましい一実施態様においては、ガス分散トラフは、搬送システムを有し、そこに該発酵容器が取り付けられ、それにより発酵容器は、ガス分散トラフを通じて搬送される。複数のガス分散トラフに順次に通過することが可能なので、該搬送システムは、個々の発酵容器を、ガス分散トラフからガス分散トラフへと搬送する。個々のガス分散トラフの間で、微生物増殖、発現及び所望の生体分子の制御のための種々のプロセス、例えば出発物質、制御物質又はメッセンジャー物質の添加、栄養培地の補充などが行われてよい。
【0066】
有利には、発酵容器は、発酵浴中で、生合成が生体分子の一定の最小変換率に至って、供給された栄養物質が実質的に消費されるまでインキュベートされる。選択された条件下で定義された変換率に至るのに必要な時間は、簡単な予備試験によって決定することができる。発酵容器は、例えば時間又は経過の制御をしつつ取り出すことができ、その際、生合成の進行は、また、一定間隔で細胞密度測定によって試験することもできる。また、プロセスがそれを必要とする場合に、発酵容器は、再接種の目的のために発酵浴から取り出すことができる。これは、栄養培地及び/又は微生物の一定の増殖段階と生産の制御、誘導又は停止のために定義された物質を用いて必要となることがある。
【0067】
その後に、発酵容器は、適宜、工程(f)において発酵浴から取り除かれる。有利には、該発酵容器は、外部から清浄化され、自動のもしくは視覚的な検査に供される。
【0068】
個々の取り除かれた発酵容器は、工程(d)のために、すなわち新たな栄養培地で充填された発酵容器の接種のために使用することができる。
【0069】
残りの発酵容器は、引き続き、例えばクロージャキャップ又はストッパを取り除くことによって開放することができる。引き続き、内容物を更なる処理、例えば均質化及び細胞分離のために空にする。生合成によって得られた生体分子は、その後に、好適な方法、例えば抽出、結晶化、遠心分離又はクロマトグラフィー法、例えばアフィニティークロマトグラフィーによって単離することができる。特に合成される生体分子の種類に依存する好適な方法は、当業者に公知である。この関連において、例えばH.Schott著のAffinity Chromatography:Template Chromatography of Nucleic Acids and Proteins(Chromatographic Science),Marcel Dekker(1984);R.K.Scopes著のProtein Purification:Principles and Practice,Springer;3ed.(1993);S.Roe著のProtein Purification Techniques:A Practical Approach(Practical Approach Series),Oxford University Press;2nd ed.(2001);及びH.Ahmed著のPrinciples and Reactions of Protein Extraction,Purification,and Characterization,CRC Press (2004)に参照がなされる。
【0070】
生合成によって得られる生体分子があまり感受性でなければ、発酵容器は、空にして更に処理する前に滅菌することができる。
【0071】
その反対に、生体分子の感受性が非常に高い場合には、発酵容器は、有利にはまず好適な無菌条件下で開放し、空にし、引き続き空にした発酵容器を滅菌して、その後に清浄化するか、又はその逆である。
【0072】
本発明による方法の工程(b)、(c)及び(f)は、任意であり、工程(a)、(d)及び(e)は、必須である。好ましい一実施態様においては、本発明による方法は、工程(a)、(d)及び(e)に加えて、少なくとも1つの、有利には少なくとも2つの任意の工程(b)、(c)及び(f)を含む。特に好ましい一実施態様においては、本発明による方法は、工程(a)、(b)、(c)、(d)、(e)及び(f)の全ての工程を、有利にはこの順序で含む。
【0073】
本発明による方法の好ましい一実施態様においては、発酵容器の容量は、一般に、1ml〜10lの範囲である。有利には、発酵容器の容量は、それぞれの場合に、多くても10000ml、有利には多くても1000ml、より有利には多くても800ml、なおもより有利には多くても600ml、最も有利には多くても500ml、特に多くても400mlである。
【0074】
これは、何百もしくは何千リットルのバッチを、十分に多数の区分に細分することを保証し、その結果として、全バッチのコンタミネーションの危険性がかなり低減される。
【0075】
コンタミネーションを有する発酵容器は、一般に、発酵培地の変色によって認識することができる。好ましい一実施態様においては、発酵容器の外壁は、少なくとも一部分領域において透明材料で構成されるので、発酵培地の係る変色は、簡単な視覚的な制御によって確立することができ、相応して、変色したら、すなわちコンタミネーションされたら、発酵容器を排除することができる。
【0076】
本発明による方法の好ましい一実施態様においては、空にした発酵容器を、任意の工程(g)において再使用する。
【0077】
このために、必要であれば、発酵培地を、合成された生体分子及び微生物と一緒に空にした後で、それらは、目下の清浄化法によって、例えば高温の精製水(欧州薬局方による)によって、それを発酵容器内部にノズルを用いて噴霧することで洗浄し、オリフィスを介してそれを排出させることができる。発酵容器の清浄化の後に、乾燥工程を、例えば濾過した吹込空気を用いて行うことができる。
【0078】
引き続き、空の、あるいは清浄化された、乾燥された発酵容器を滅菌に供することができる。このために、好適な標準的方法が利用可能であり、それは本発明による方法の工程(c)に関連して既に前記したものである。
【0079】
コンタミネーション、漏洩及び後続工程での問題を回避するために、空にした発酵容器を、再利用前に損傷及び材料疲労についての検査に供することが望ましい。有利には、空にした発酵容器の損傷及び漏洩についての視覚的な検査は、最後に行われる。
【0080】
本発明による方法の好ましい一実施態様においては、半連続的に実施され、それは種々の様式で達成することができる。本発明の意味のなかでの半連続的な方法は、工程(a)で充填された多数の発酵容器のうち、少なくとも2個の発酵容器を、時間的に順次、工程(e)においてインキュベートに供する方法を含む。
【0081】
半連続的に実施される本発明による方法の好ましい一実施態様においては、全ての発酵容器全体は、所定の時点で、少なくとも3つのグループ:
(i)空の発酵容器;
(ii)栄養培地で充填されているが、まだ微生物を接種していない発酵容器;
(iii)発酵培地で充填され、すなわち栄養培地で充填され、既に微生物を接種した発酵容器
に細分することができる。
【0082】
有利には半連続的に実施される本発明による方法の特に好ましい一実施態様において、所定の時点で、少なくともN個の発酵容器は、本発明による方法のN個の種々の工程で使用され、その際、N個の種々の工程は、工程(a)、(b)、(c)、(d)、(e)及び(f)から選択され、そしてNは、2、3、4、5もしくは6であってよい。
【0083】
図1は、本発明による好ましい一実施態様の図式表現を示している。空の、適宜、清浄化された、かつ適宜、滅菌された発酵容器に、工程(a)において、栄養培地を充填し、工程(b)において閉鎖し、そして適宜、工程(c)で滅菌する。このようにして調製された発酵容器に、引き続き、工程(d)において、楕円により示される微生物を接種する。工程(e)において、微生物を倍増させ、そして所望の生体分子(図示せず)を、ガス分散トラフ中で生合成させた。工程(f)において、完全に反応された(発酵された)発酵容器を開放し、そして微生物を、合成された生体分子と一緒に取り出す。引き続き、使用される発酵容器を、工程(g)において、適宜、清浄化、乾燥及び/又は滅菌の後に、該方法の開始点に返送する。発酵された発酵容器からの微生物の一部が、該プロセスに再循環され、そして工程(d)での(一新された)接種を担う。
【0084】
図2は、本発明による方法の工程(e)及び(f)の好ましい一実施態様を示している。発酵容器(1)は、好適な外部取り付け手段(2)を用いて、搬送装置(3)に取り付けられ、そして矢印の方向に移動する。搬送装置(3)の搬送方向と並行して、ガス分散トラフ(4)が配置され、それは発酵浴(5)で満たされ、かつガス分散装置(6)を有し、その装置を介して、空気又は酸素が、ガス分散トラフ(4)中に、すなわち発酵浴中に吹き込まれる。その空気又は酸素の気泡は、ガス分散トラフ(4)内で矢印(7)の方向で発酵浴(5)において上昇する。酸素の代わりに、不活性ガス(例えばHe、Ar、N2など)又はCO2又は他のガス又はそれらの混合物を、それぞれの発酵プロセスの要求(嫌気的と好気的)に応じて使用することもできる。発酵容器(1)を搬送装置(3)を用いて搬送する過程において、個々の発酵容器(1)は発酵浴(5)中に浸漬され、そして前記のようにガスで処理される。ガス分散トラフ(4)の長さと、搬送装置(3)の速度に応じた一定時間後に、発酵容器(1)を、再び、ガス分散トラフ(4)中の発酵浴(5)から取り出す。当業者は、引き続き、更なるガス分散トラフを搬送装置(3)によって制御し、そしてその間に、該発酵容器を、所定の方法工程、例えば栄養培地の補充、微生物の増殖の制御、合成されるべき生体分子の部分的取り出し、コンタミネーションの監視などに供給することができる。
【0085】
本発明による、有利には半連続的な方法は、更に、以下の特徴によって特徴付けることができる:
− 発酵トラフの内容物(発酵浴)を、ポンプ圧送によって循環させることができること;
− 発酵浴を、微生物負荷の低減もしくは制御のために、ポンプ圧送による循環の間に濾過することができること;
− 発酵浴を、ポンプ圧送による循環の間に、連続流において滅菌又は微生物数を減らすことができること;このために適した方法は、当業者に公知である(加熱滅菌、低温滅菌、UV滅菌、イオン化線を用いた滅菌);
− 発酵浴を、ポンプ圧送による循環の間に、固体、沈殿物及び不所望な物質、例えばエンドトキシン類を除去するために、濾過もしくは限外濾過することができること;
− 発酵浴を、H2Sを除去するために(例えば嫌気的発酵の場合に)、溶解された金属塩であってそのカチオンが僅かに可溶性のスルフィドを形成するもの(例えばCoCl2、FeCl2)を含有してよいこと;得られた沈殿物を、濾別及び除去できること;このようにして、H2Sの高い濃度勾配を、連続的に発酵容器と発酵浴との間で維持できるので、発酵容器からのH2Sの連続的な拡散及び除去を達成できること;
− 発酵浴が、更なる物質を溶解された形態で含有してよく、その物質が、不所望な物質と僅かに可溶性の沈殿物を形成し、それを次いで濾別できること;及び/又は
− 発酵浴を、ポンプ圧送による循環の間に、一定の不所望な物質を除去するために、充填塔もしくは充填床にポンプ圧送することができること;このために、塔の充填物もしくは床が、除去されるべき物質に親和性を有するか又はそれと化学的に反応する固定化材料を含有することが望ましいこと;該充填物もしくは床を、定期的に一新することができること(例えば焼結された純粋な鉄の相応の充填物は、H2Sの除去に使用することができる − 硫化鉄が、鉄粒の表面上に形成する)。
【0086】
本発明による方法は、環境に優しいだけでなく、特に、医薬品製造のためのクリーンルームから成る要求を考慮すれば、経済的な利点をも有する。医薬品製造のためのクリーンルームの構築と運転は、コスト集中的である。そのコストは、一般に、クリーンルームの容積が変更されると共に、事実上線形的に増加する。
【0087】
医薬品製造のためのクリーンルームの場合に、外的コンタミネーションに対する製品の保護が前面にある。従って、係るクリーンルームは、一般に、周囲の部屋と比べて超過圧力を有する。
【0088】
環境と人間を遺伝子改変された微生物から保護する理由のために、環境に対して減圧な発酵室を提供することが努められる。
【0089】
一方で超過圧力であることと、他方で減圧であることという両方のコンセプトは、しかしながら、非常に複雑に互いに組み合わせることができるにすぎず、究極的には、種々の圧力レベルを有する相互連動クリーンルームに導かれる。係るクリーンルーム設計は、更に、クリーンルームにおける生産を行うためのコストを増加させる。従って、クリーンルームの容積についての要求をできる限り低くする設計に大きな要求がなされている。
【0090】
驚くべきことに、本発明の基礎となるコンセプトは、クリーンルーム容積の最小化を可能にし、超過圧力と減圧の設計を有するクリーンルームの部分的分離を可能にするので、連動させることは実質的に回避される。
【0091】
慣用の発酵容器の作業において、事実上全ての方法工程は、一箇所で、慣用には一室で行われる。このように、その室の要求は高いので、比較的大規模なクリーンルームが必要である。製品保護だけでなく、環境の保護もまた、その際に、前記の室について保証されねばならない。
【0092】
それに対して、本発明による方法は、半連続的に、従ってクリーンルーム設計に個別に適合された条件を有する種々の箇所又は室で実施でき、その全体で、クリーンルーム設計を簡単にし、かつそのコストを低下させる。
【0093】
発酵容器の充填(工程(a))に際して、生成物の保護のみを考慮に入れる必要があるに過ぎない。個別の発酵容器は比較的小さいので、小さいクリーンルーム領域、例えば隔離装置で十分である。
【0094】
発酵容器の接種(工程(d))のためには、生成物の保護だけでなく、環境の保護も考慮に入れる必要がある。小さい寸法の発酵容器のため、ここでも、比較的小さいクリーンルーム領域、例えば小さい寸法の隔離装置で十分である。
【0095】
全ての搬送、中間貯蔵及び、特に発酵自体(工程(e))は、閉鎖系で行われるので、特定のクリーンルーム設計は必要ない。発酵容器からの潜在的な漏洩による災害は、発酵浴への殺生剤の添加によって防止することができる。
【0096】
発酵容器を空にするために(工程(f))、生成物の保護と、先行した滅菌が不可能であれば、環境の保護も考慮に入れる必要がある。小さい寸法の発酵容器のため、ここではまた、最小のクリーンルーム領域、例えば最小の隔離装置で十分である。
【0097】
本発明の更なる一態様は、前記の方法で有利に使用することができる発酵容器に関する。本発明による発酵容器は、
− 微生物に対して不透過性であるが、少なくとも部分領域でガス透過性、有利には酸素透過性である外壁と、
− 閉鎖可能な充填オリフィスと、
− 適宜、固体もしくは液体の組成物の無菌的添加のための装置と
を有し、その際、発酵容器の外表面積とその内容積との比率は、少なくとも0.5cm2/ml、有利には少なくとも1.0cm2/ml、より有利には少なくとも2.5cm2/ml、さらにより有利には少なくとも4.0cm2/ml、最も有利には少なくとも5.0cm2/ml、特に少なくとも6.0cm2/mlである。
【0098】
種々のタイプの発酵容器が従来技術に開示されている。例えば、US5,686,304号は、シリコーンゴムから構成される薄いガス透過性の外壁を有するバッグを開示している。
【0099】
しかしながら、先行技術の発酵容器は、発酵培地と周囲との間のガス交換が最適ではなく、その結果として、生合成のための条件が損なわれるという欠点を有する。表面積/容積の比率をできる限り高く達成するために、先行技術の発酵容器は、事実上ガスを含まないように充填せねばならない。発酵容器内の栄養培地又は発酵培地の層の厚さをできる限り小さく保つために、フレキシブルバッグの場合の作業容積は、該バッグの完全な膨れで達成できる最大充填容量のわずか一部分であるに過ぎない。
【0100】
先行技術の発酵容器は膨れる。その膨れは、特にバッグの寸法の増大を伴って、程度が増大しつつ不確定な様式で進行する。工業法のために、経済的理由から、200mlより高い作業容量が好ましい。不確定な変形は、不均一な増殖条件をもたらす。これらはまた、標準化された反復型の工業法のために該発酵容器を使用するにあたり欠点を意味する。従って、先行技術の発酵容器は、研究室の実験には適しているが、半連続的な工業法のためには制限を伴ってのみ適しているに過ぎない。
【0101】
驚くべきことに、発酵容器内での生合成のための条件は、発酵容器の外表面積がその内容量に対して定義された比率である場合に改善できることが判明した。この比率は、生合成の過程において大きな効果を有することがある。
【0102】
まず、物質輸送は、その比率が高くなればなるほど、よくなる。
【0103】
しかしながら、第二には、その比率が小さくなれば、個々の発酵容器はよりコンパクトになり、取り扱いが簡単になり、直接的に接触する容器壁を有する領域(へこみ)を回避するのが容易になり、必要な容器材料の量が少なくなり、そして発酵容器がより廉価になることは事実である。
【0104】
それぞれの枠組みの条件のために、従って、物質輸送と、技術的取り扱い性と、容器コストの要求の間に最適条件がある。この最適条件は、また、容器材料の特性によって、かつ発酵トラフの充填物と発酵容器の内容物との間の溶解されたガスの可能な最大分圧差によって影響される。
【0105】
約50〜150μmの容器材料(外壁)の層厚で、50〜1000mlの作業容量を有し、ポリマー材料(ポリシロキサンフィルム)から製造された、約150〜200ミリバールの酸素分圧差(溶解)の培地濃度の発酵容器から出発して、最適な表面積/容積の比率は、0.01cm2/ml〜5.0cm2/ml、有利には0.025cm2/ml〜2.5cm2/ml、なおも有利には0.1cm2/ml〜1.0cm2/mlであることが望ましい。
【0106】
有利には、本発明による発酵容器は、好ましくは本発明による方法に適しているように実装されている。従って、本発明による発酵容器の好ましい実施態様は、本発明による方法の説明に関連して(例えば容量に関連して)前記で既に説明されている。
【0107】
本発明による発酵容器は、微生物に対して不透過性であるが、少なくとも部分領域においてガス透過性、有利には酸素透過性である外壁を有する。
【0108】
本発明による発酵容器の好ましい一実施態様において、その外壁は、少なくとも部分領域において、少なくとも500cm3-2-1バール-1、より有利には少なくとも600cm3-2-1バール-1、なおもより有利には少なくとも750cm3-2-1バール-1、最も有利には1000cm3-2-1バール-1、特に少なくとも1500cm3-2-1バール-1の酸素透過性を有する。酸素透過性を測定するために適した方法は、当業者に公知である。有利には、酸素透過性は、DIN ISO 53 380に規定されるようにして測定される。
【0109】
ガス透過性膜を製造するために適した材料は、当業者に公知である。この関連において、例えばR.W.Baker著のMembrane Technology and Applications,Wiley,2nd ed.,2004;P.E.Odendaal他著のWater Treatment Membrane Processes,McGraw−Hill Professional,1996;T.Melin他著のMembranverfahren[Membrane methods],Springer,Berlin,2003;K.Corner著のGasreinigung und Luftreinhaltung[Gas purification and clean air maintenance],Springer,2001;R.Rautenbach他著のMembrane Processes,John Wiley & Sons,1989;R.E.Kesting著のPolymeric Gas Separation Membranes,Wiley−lnterscience,1993;及びD.R.Paul他著のPolymeric Gas Separation Membranes,CRC Press,1993に参照がなされる。
【0110】
本発明による発酵容器の好ましい一実施態様においては、その外壁は、少なくとも部分領域において、少なくとも1種のポリシロキサンを基礎とする膜から構成される。好適なシリコーン膜は、例えばUS3,489,647号、US3,510,387号、US3,969,240号及びUS4,093,515号に記載されており、それらの内容は、参照をもって本発明の詳細な説明に開示されたものとする。
【0111】
有利には、本発明による発酵容器の外壁のガス透過性の部分領域は、外壁の面積の少なくとも50%、有利には少なくとも60%、なおも有利には少なくとも70%、最も有利には少なくとも80%、特に少なくとも90%にも及ぶ。
【0112】
有利には、本発明による発酵容器の外壁は、少なくとも部分領域において、CO2、H2S、CH4及び/又は揮発性アミンに対して透過性である。本発明の詳細な説明の意味内での揮発性アミンは、有利には、大気圧で、40℃未満の沸点を有するアミンである。その例は、CH3NH2、(CH32NH、(CH33N及びCH3CH2NH2である。
【0113】
本発明による発酵容器の好ましい一実施態様においては、その外壁は、少なくとも部分領域において、高くても150μm、より有利には高くとも125μm、なおもより有利には高くとも100μm、最も有利には高くても75μm、特に高くても50μmの厚さを有する。その膜の層厚は、慣用の方法によって、有利には顕微鏡によって測定することができる。
【0114】
好ましい一実施態様においては、本発明による発酵容器は、固体もしくは液体の組成物の無菌的な添加のための装置を有する。好適な装置は、当業者に公知である。有利には、該装置は、添加の目的のために、ニードルもしくはマンドレルによって穿孔することができ、そのニードルもしくはマンドレルを取り出した後に、再び自発的に閉鎖することができる。
【0115】
本発明による発酵容器の好ましい一実施態様においては、その外壁は、少なくとも部分領域において、水に対して、有利には液体状態の水に対して透過性である。好ましい一実施態様においては、発酵容器の外壁は、少なくとも一部分領域において、比較的低分子量の溶解された物質に対して透過性である。この場合に、その溶解された物質の物質輸送は、発酵容器の外壁を通じて拡散(浸透)によって進行する。有利には、いまだ通過される物質の限界分子量("カットオフ"とも言う)は、10000g/モル未満、より有利には5000g/モル未満、最も有利には2500g/モル未満、特に1000g/モル未満である。
【0116】
本発明による発酵容器の好ましいもう一つの実施態様においては、その外壁は、少なくとも部分領域において、水に対して、有利には液体状態の水に対して不透過性である。
【0117】
本発明による発酵容器の好ましい一実施態様においては、外部取り付け手段を有する。その外部取り付け手段は、本発明による容器を自動化搬送装置に取り付けるために、例えば本発明において該容器を使用するために使用することができる。
【0118】
有利には、本発明による発酵容器は、その内部に、微生物が固定化され得ない、有利には接着し得ない組成を有する。この目的のために適した組成及び表面は、使用される微生物の種類に依存し、それは当業者に公知である。
【0119】
図3は、本発明による発酵容器の好ましい一実施態様を示している。発酵容器は、少なくとも部分領域においてガス透過性な外壁(8)を有する。その側面に、固体組成物を添加するための装置(9)が配置され、それはねじ込みクロージャ(10)で閉鎖される。上部側に、液体組成物の無菌的添加のための装置(11)が位置しており、それは、添加の目的のために、ニードルもしくはマンドレルによって穿孔されていてよく、かつそのニードルもしくはマンドレルを取り除いた後に、再び自発的に閉鎖する。このために、装置(11)は、隔壁(12)を有する。更に、その上部側に、孔(14)を有する取り付け装置(13)が位置しており、それを介して発酵容器は、例えば搬送装置に取り付けることができる。
【0120】
本発明による発酵容器の好ましい一実施態様においては、該容器は滅菌可能である、すなわち該容器は、滅菌法に応じて見受けられる条件に抵抗性である。該容器は、有利には、それを繰り返し滅菌することができるように設計されていることが望ましい。利用可能な滅菌法は、熱/飽和蒸気、熱/乾式のエチレンオキシドガス処理、オゾンガス処理、UV照射、超音波、イオン化線、ガンマ線、ベータ線の使用である。
【0121】
有利には、本発明による発酵容器は、液体を充填した後に、その当初の空間的拡がりを実質的に保つ寸法安定性を有する。有利には、その寸法安定性は、内部取付物及び/又は外部取付物(補強手段)によって達成される。
【0122】
有利には、本発明による発酵容器は、バッグを形成するように形作られる。発酵容器が硬質の容器ではなく、フレキシブルバッグである場合に、そのバッグは、有利には内部取付物及び/又は外部取付物(補強手段)を有し、それは、発酵容器内の栄養培地の層厚が比較的一定に保たれることを保証し、その際、発酵容器の膨れもしくはへこみは回避される。このことは、拡散(物質輸送)のために製造され、かつ意図される容器表面のできる限り大部分が物質輸送に関与することを可能にする。
【0123】
有利には、本発明によれば、栄養培地又は発酵培地の層厚は、その主要な拡がり面に対して垂直な発酵容器の最大の拡がりとして定義される。
【0124】
好ましい一実施態様においては、本発明による発酵容器は、空の状態でのその主要な拡がり面に対して垂直な最大の拡がりは、栄養培地又は発酵培地での発酵容器の充填によって、多くとも30%だけ、より有利には多くとも25%だけ、なおもより有利には多くとも20%だけ、最も有利には多くとも15%だけ、特に多くとも10%だけ増大する。この増大は、充填による発酵容器の膨らみのための係数と見なすことができ、その際、その拡がりは、有利には、自由状態で、すなわち発酵浴に浸漬されていない状態で測定される。
【0125】
機械的強度を改善するために、本発明による発酵容器の膜は、例えばUS4,093,515号に記載される好適な強化手段もしくは補強手段を備えていてよい。更に、記載された発酵容器は、以下の付加的な特徴:
− 液体又は懸濁液、エマルジョン、溶液の滅菌/無菌的な取り出しと添加のための更なる接続部;
− ポンプ圧送による循環と、適宜、内容物の濾過を可能にする接続部
を有する。
【0126】
容器壁から発酵培地中の微生物への最適なガス拡散及び物質拡散を達成するために、発酵容器の機械的特性及び形状的特性を、充填された発酵容器内の栄養培地もしくは発酵培地の層厚を、数mmないし数cmの範囲で比較的一定に保つように選択することが好ましい。
【0127】
設定されるべき層厚は、バッグの作業内容物、形状的要求(発酵容器の技術的取り扱い性)、許されるプロセス時間、特定のプロセスのためのガス及び物質の要求、微生物、使用されるバッグ形状及びバッグ材料などに従って変更される。有利には、栄養培地又は発酵培地の平均層厚は、0.1mm〜200mm、より有利には1.0mm〜50mm、なおもより有利には2.0mm〜25mm、最も有利には3.0mm〜15mmの範囲である。前記の値は、有利には、約200mlの作業容量での酸素輸送と、材料厚75〜125μmを有する典型的なメディカルグレードのポリシロキサンから成る容器に限定して、典型的な好気的発酵(例えばE.コリによる)に適用する。前記の値は、使用される材料、材料の層厚、材料輸送に関与する容器表面及び当該物質に関する材料の特異的な拡散定数に依存する。
【0128】
発酵容器内部における栄養培地又は発酵培地の層厚は重要である。それというのも特に、有利には本発明による方法では、発酵容器中に撹拌機内部構造が提供されないので、栄養培地もしくは発酵培地中での物質輸送は、大部分が拡散を介して進み、流動もしくはキャビテーションによってはより少ない程度までしか進まないからである。流動とキャビテーション(撹拌機と比較して)は、流れと力の変換(例えば超音波もしくは機械的振盪)によって発酵浴中の媒体を介して、比較的低い程度までしか進行しえない。
【0129】
この理由のために、リムで密封(溶着、接着又は締め付け)されているだけの1つのフィルムから成る簡単なバッグが、本発明による方法のためには条件的に最も適している。特に薄い壁厚を採用した係るバッグは、大きく膨れてしまい、その際、薄い層厚の利点は失われる。更に、その膨れのため、バッグのフィルムの一部だけが栄養培地もしくは発酵培地で十分に湿潤することとなり、それは、湿潤していない部分がガス交換にほとんど関与しないことを意味する。特にバッグの寸法が大きくなれば、それは、例えば工業的規模での方法には好ましいが、リムで溶着された1つのフィルムから成る慣用のバッグの膨れは、常に均一に起こりうるわけではない。これは、方法全体の均一性と予測性に悪影響を及ぼす。
【0130】
驚くべきことに、この問題は、発酵容器が、一定の範囲内で発酵容器の形状を留め、ひいてはその中に存在する栄養培地もしくは発酵培地の層厚を留めることを可能にする内部及び/又は外部の取付物(補強手段)を有する場合に解決できることが判明した。この場合に、発酵容器は、固定するにもかかわらず、依然として、外力作用(超音波、流動など)を許容するのに十分な機械的可撓性を有するので、流れ及び撹拌を、発酵容器内部で発酵培地において誘導できる場合に好ましい。
【0131】
本発明による発酵容器の好ましい一実施態様においては、該発酵容器は、寸法安定な材料から構築されるか、又はその形状を安定化する内部及び/又は外部の取付物(補強手段)又は付加的な接続部を有するかのいずれかであるので、栄養培地もしくは発酵培地の層厚はできる限り一定に保たれ、かつ/又は外壁のへこみは抑えられるので、外壁のできる限り大部分が物質輸送に関与することができる。
【0132】
係る本発明による発酵容器の安定化は、
− ガス透過性の可撓性の材料からなる窪み("窓")を有する硬質材料から発酵容器を形成すること;
− また可撓性の材料から成る発酵容器を、発酵容器の膨れを防ぎ、有利には発酵容器に固定される外部硬質フレーム中に導入すること;
− 発酵容器中に、その外壁に固定され、こうして膨れを防ぐ硬質材料から成る内部取付物を導入すること;
− 発酵容器の外壁(バッグフィルム)を1つ以上の位置で、栄養培地もしくは発酵培地の最大層厚を制限するために、発酵容器の反対側の外壁(バッグフィルム)に接続すること;及び/又は
− 発酵容器を硬質フレームもしくは外部容器(それらは、例えば搬送取り付け部として同時に使用できる)中に導入すること(その際、該発酵容器は、前記フレームもしくは外部容器に固定されていないが、発酵容器の形状は固定され、かつ膨れは防止される)
によって達成できる。
【0133】
安定化された本発明による発酵容器は、先行技術の発酵容器と比較して、機械的観点において、特に以下の利点:
− 垂直位では:充填後の不確定で制御されない膨れもしくは変形が回避され、また発酵容器の上半分でバッグフィルムのへこみが回避されること;及び/又は
− 水平位では:種々の位置でバッグフィルムのへこみが回避されること
を有する。これは、種々の好ましい効果:
− 発酵容器内部において栄養培地もしくは発酵培地の定義された薄い層厚が達成されること;
− 栄養培地もしくは発酵培地において物質輸送につちえ短く定義された平均拡散経路が、定義された均一な増殖条件をもたらすこと;
− その表面の大部分が、バッグフィルムのへこみの最小化のため、物質輸送に関与できること(このことは、発酵培地において全ての細胞についてより良好かつ定義された増殖条件をもたらす);
− より定義された全体の条件が、定義された半連続的な工業法での使用、プロセス制御及びプロセスの安定性を改善すること;
− 栄養培地もしくは発酵培地の定義された層厚が、発酵内容物の品質(例えば比色評価、混濁性評価)及び閉鎖された発酵容器での発酵の進展(光学的細胞密度測定)の改善された標準化された視覚的もしくは物理的及び光学的な評価を可能にすること
を奏する。
【0134】
図4は、安定化を伴わない慣用の充填された発酵容器を示している。該発酵容器は、リム溶着された接合部(16)と、物質輸送に関与しない表面領域(17)とを有する。その側面図は、発酵容器(バッグ)の材料が安定化を欠くとどのように膨れるかを示している。発酵容器内の発酵培地の層厚(15)は、従って所望されるよりも断然大きい。
【0135】
図5〜7は、本発明による発酵容器の好ましい実施態様の前面図と側面図のそれぞれを示している。発酵培地の所望の層厚(15)が、ここでは種々の構造エレメントによってもたらされている。
【0136】
図5は、安定化接続部もしくは接着部を有する充填された発酵容器を図示するものである。それらの接続は、上方のフィルムと下方のフィルムとの間でなされている(18)。
【0137】
図6は、安定化取付物を有する発酵容器を示しており、ここでは固定された一体型フレーム(19)を有している。そのフレームは、発酵容器の形状を単に固定するだけで、該容器を別々の区分に細分するものではない。
【0138】
図7は、安定化外部フレーム(20)を有する発酵容器を示している。
【0139】
本発明の更なる一態様は、微生物による生合成によって生体分子を合成するための前記の1つ以上の発酵容器の使用に関する。
【0140】
本発明による使用の好ましい一実施態様においては、生体分子は、前記の本発明による方法に従って合成される。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】図1は、本発明による好ましい一実施態様の図式表現を示している。
【図2】図2は、本発明による方法の工程(e)及び(f)の好ましい一実施態様を示している。
【図3】図3は、本発明による発酵容器の好ましい一実施態様を示している。
【図4】図4は、安定化を伴わない慣用の充填された発酵容器を示している。
【図5】図5は、安定化接続部もしくは接着部を有する充填された発酵容器を図示するものである。
【図6】図6は、安定化取付物を有する発酵容器を示しており、ここでは固定された一体型フレーム(19)を有している。
【図7】図7は、安定化外部フレーム(20)を有する発酵容器を示している。
【符号の説明】
【0142】
1 発酵容器、 2 外部取り付け手段、 3 搬送装置、 4 ガス分散トラフ、 5 発酵浴、 6 ガス分散装置、 7 気泡上昇方向、 8 ガス透過性な外壁、 9 固体組成物を添加するための装置、 10 クロージャ、 11 液体組成物を添加するための装置、 12 隔壁、 13 取り付け装置、 14 孔、 15 発酵培地の層厚、 16 接合部、 17 物質輸送に関与しない表面領域、 18 接続、 19 一体型フレーム、 20 安定化外部フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物に対して不透過性であるが、少なくとも一部分領域においてガス透過性である外壁を有する多数の発酵容器中で微生物によって生体分子を生合成するための方法において、以下の工程
(a)栄養培地を前記発酵容器中に導入する工程と、
(b)該発酵容器を適宜閉鎖する工程(こうして、周囲との物質輸送は、もはや発酵容器の外壁を通じて進行しうるにすぎない)と、
(c)該発酵容器を適宜滅菌する工程と、
(d)各発酵容器で栄養培地に、微生物の無菌的添加によって接種する工程と、
(e)該発酵容器を、ガスもしくはガス混合物が溶解されている発酵浴中に導入する工程と、
(f)該発酵容器を発酵浴から適宜取り出す工程と
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、各発酵容器の容量が、多くても1000mlであり、かつ/又は各発酵容器の外表面積とその内容量との比率が、少なくとも0.5cm2/mlであることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、工程(e)において、ガスが、酸素であるか、又はガス混合物が、酸素を含有することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法において、工程(e)において、ガスもしくはガス混合物を、発酵浴に気泡導通させ、その際、吹き込むガスが、大気圧と等しいか又はそれより高い圧力であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、ガスもしくはガス混合物が酸素を含有し、かつ好気的発酵について酸素の導入を担い、かつ/又は好気的発酵で形成される揮発性副生成物の排出を担うか、又はガスもしくはガス混合物が酸素を含有せず、かつ嫌気的発酵において副生成物として形成される酸素の排出を担うことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の方法において、ガス混合物が、不活性ガスと一緒に、CO2、CH4及び/又はH2Sを含有することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法において、工程(e)において、発酵浴を加熱/冷却することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法において、工程(e)において、発酵浴を超音波で超音波処理することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法において、微生物が、細菌、細胞系統及び酵母からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法において、発酵浴が、ガスもしくはガス混合物に加えて、生合成のために微生物によって必要とされ、かつそれに対して発酵容器の外壁が少なくとも一部領域で透過性である少なくとも1種の物質を含有することを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法において、微生物が、生合成によって、それに対して発酵容器の外壁が不透過性である生体分子を合成することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法において、半連続的に実施することを特徴とする方法。
【請求項13】
発酵容器であって、
− 微生物に対しては不透過性であるが、少なくとも一部分領域においてガス透過性である外壁と、
− 閉鎖可能な充填オリフィスと、
− 適宜、固体もしくは液体の組成物の無菌的添加のための装置と
を有し、その際、発酵容器の外表面積とその内容量との比率が、少なくとも0.5cm2/mlである発酵容器。
【請求項14】
請求項13に記載の発酵容器であって、固体もしくは液体の組成物の無菌的添加のための装置を有していて、添加の目的のために、ニードルもしくはマンドレルによって穿孔することができ、かつそのニードルもしくはマンドレルを取り除いた後に、再び自発的に閉鎖することを特徴とする発酵容器。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の発酵容器であって、その外壁が、少なくとも一部分領域において、少なくとも500cm3-2-1バール-1の酸素透過性を有することを特徴とする発酵容器。
【請求項16】
請求項13から15までのいずれか1項に記載の発酵容器であって、その外壁が、少なくとも一部分領域において、少なくとも1種のポリシロキサンを基礎とする膜から構成されていることを特徴とする発酵容器。
【請求項17】
請求項13から16までのいずれか1項に記載の発酵容器であって、その外壁が、少なくとも一部分領域において、多くても150μmの厚さを有することを特徴とする発酵容器。
【請求項18】
請求項13から17までのいずれか1項に記載の発酵容器であって、その外壁が、少なくとも一部分領域において、水に対して不透過性であることを特徴とする発酵容器。
【請求項19】
請求項13から18までのいずれか1項に記載の発酵容器であって、その外壁が、少なくとも一部分領域において、CO2、H2S、CH4及び/又は揮発性アミンに対して透過性であることを特徴とする発酵容器。
【請求項20】
請求項13から19までのいずれか1項に記載の発酵容器であって、滅菌可能であることを特徴とする発酵容器。
【請求項21】
請求項13から20までのいずれか1項に記載の発酵容器であって、成形されてバッグを形成していることを特徴とする発酵容器。
【請求項22】
請求項13から21までのいずれか1項に記載の発酵容器であって、外部取り付け手段を有することを特徴とする発酵容器。
【請求項23】
請求項13から22までのいずれか1項に記載の発酵容器であって、その内部に、微生物を固定化できる組成物を有することを特徴とする発酵容器。
【請求項24】
請求項13から23までのいずれか1項に記載の発酵容器であって、寸法安定性を有するため、液体で満たした後に、その当初の空間的拡がりを実質的に保つことを特徴とする発酵容器。
【請求項25】
請求項24に記載の発酵容器であって、寸法安定性が、内部及び/又は外部の補強手段によって達成されていることを特徴とする発酵容器。
【請求項26】
請求項13から25までのいずれか1項に記載の発酵容器を、微生物による生合成によって生体分子を合成するために用いる使用。
【請求項27】
請求項26に記載の使用であって、生体分子が、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法によって合成されることを特徴とする使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−505672(P2009−505672A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528501(P2008−528501)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【国際出願番号】PCT/EP2006/065779
【国際公開番号】WO2007/025968
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(507229021)ニコメッド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (90)
【氏名又は名称原語表記】Nycomed GmbH
【住所又は居所原語表記】Byk−Gulden−Str. 2, D−78467 Konstanz, Germany
【Fターム(参考)】