説明

半銀付調人工およびその製造方法

【課題】 天然皮革様の高級な外観を有し、家具内装や車両、袋物、靴、雑貨等の使用に耐え得る十分な堅牢度と表面強度を有する半銀付調人工皮革を提供する。
【解決手段】 極細長繊維からなる絡合不織布およびその内部に5質量%以下の高分子弾性体Aが含有された基体層の表面に前記極細長繊維と高分子弾性体Bが混在した表面層を有する半銀付調人工皮革であって、極細長繊維は染料で着色されているが、前記高分子弾性体Bは染料で実質的に着色されていないことを特徴とする半銀付調人工皮革である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半銀付調人工皮革およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、使用による経時的な外観変化が天然皮革のような味のある自然な変化であり、かつ、天然皮革に匹敵する高級な半銀付調の外観を有し、家具や車両の内装、袋物、靴、雑貨等の使用に耐え得る堅牢度と表面強度を有する半銀付調人工皮革である。
【背景技術】
【0002】
従来、半銀付調天然皮革様の高級感ある人工皮革は種々提案されている。例えば、柔軟性、透気透湿性に優れた半銀付調の外観を有する皮革様シート状物として、極細繊維からなる三次元絡合不織布とその絡合空間に存在する弾性重合体の緻密な発泡体とからなる表面平滑な繊維質基体層の表面に、該基体層の極細繊維と連続した非絡合繊維と最大孔径の平均値が0.5〜5μmの範囲にある連続孔を有する弾性重合体を主体とした樹脂からなる厚さ5〜40μmの表面層を有している半銀付調シート状物が提案されている(特許文献1)。しかしながら、前記半銀調シート状物の銀面部分が微多孔質になっており表面強度が十分でない場合がある。また表面強度を高めるためや表面に凹凸模様を付与するために加熱加圧処理を行うことで、昇華堅牢度が低下する。また、幅広い色調での耐光堅牢性と発色性に優れる半銀付調人工皮革として、3次元絡合体が特定の有機系顔料及びカーボンブラック顔料を含有し、かつ高分子弾性体が特定の有機系顔料及びカーボンブラックから選ばれた顔料等を含有したスエード調人工皮革の少なくとも一方の面に別の高分子弾性体を付与して得られる半銀付調人工皮革が提案されている(特許文献2)。しかしながら、この半銀付調人工皮革は、顔料によって主に着色されており、染料独特の鮮明な色調が得られにくいものであり、染色による昇華堅牢度の低下に対する対策は記載されていない。また、ポリウレタン樹脂が含浸された極細繊維絡合不織布からなる着色されたスェード調人工皮革の表面を熱エンボス加工し、その後表面をバフィングなどにより起毛して半銀付調人工皮革を製造する場合、ベースとなるスェード調人工皮革が分散染料で染色されていると、加熱処理によって含浸されたポリウレタン樹脂に分散染料が移行して昇華堅牢度等の染色堅牢度が悪化する問題があった。これらの問題は未だ解決されておらず、例えば。この問題を解決するために、表面に厚い銀面層を形成した場合には、半銀付調人工皮革として外観や風合い等に劣る傾向があった。また、前記特許文献1の半銀調シート状物の着色方法として記載されたように含金染料で染色する場合には、染色堅牢度の悪化は起こらないものの、樹脂と繊維の染料吸尽性の差に起因する、色むらが避けられず、また、鮮明な色相も得られ難いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−268781公報
【特許文献2】特開2004−143654公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、半銀付調天然皮革様の高級な外観を有し、使用に耐え得る十分な染色堅牢度と表面強度を有する半銀付調人工皮革およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。すなわち、本発明は、極細長繊維からなる絡合不織布およびその内部に5質量%以下の高分子弾性体Aが含有された基体層の表面に前記極細長繊維と高分子弾性体Bが混在した表面層を有する半銀付調人工皮革であって、極細長繊維は染料で着色されているが、該高分子弾性体Bは染料で実質的に着色されていないことを特徴とする半銀付調人工皮革である。
【0006】
また本発明は、下記工程(1)〜(8)を順次行う半銀付調人工皮革の製造方法である。
(1)極細繊維束形成性長繊維からなる長繊維ウェブを製造する工程
(2)前記長繊維ウェブに絡合処理を施し、絡合ウェブを製造する工程
(3)前記絡合ウェブ中の極細繊維束形成性長繊維を極細長繊維に変換し、絡合不織布を製造する工程
(4)前記絡合不織布の表面を起毛処理する工程
(5)高分子弾性体Aを絡合不織布に対して5質量%以下付与する工程
(6)絡合不織布を染色する工程
(7)表面に凹凸模様を付与する工程
(8)表面に高分子弾性体Bを付与する工程
(但し、工程(4)は工程(5)または工程(6)の後に行っても良く、また工程(6)は工程(5)の前に行っても良い)
【発明の効果】
【0007】
本発明の半銀付調人工皮革は、天然皮革様の高級な外観を有し、家具や車両の内装、袋物、靴、雑貨等の使用に耐え得る十分な堅牢度と表面強度を有する半銀付調人工皮革および、この半銀付調人工皮革を効率よく製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[半銀付調人工皮革]
本発明の半銀付調人工皮革は、基体層とこの基体層の一方の面に形成されてなる表面層とを有する。基体層は、極細長繊維を複数本含む繊維束と高分子弾性体とを含み、表面層は極細長繊維と高分子弾性体Bとからなる。
【0009】
また、本発明の半銀付調人工皮革は、極細長繊維からなる絡合不織布であることから、基本物性に優れると共に皮革様の柔軟で充実感のある風合いを有する。また、その内部に5質量%以下の高分子弾性体Aを含有することで、ゴムライクな風合いを抑制すると共に、染色後の染料の高分子弾性体への移行量を低減させると共に必要最低限の極細繊維同士のバインダー効果を有する。そして、上記構成に加えてさらに、基体層の表面に前記極細長繊維と高分子弾性体Bが混在した表面層を形成することで半銀付調人工皮革とし、極細長繊維は染料で着色されているが、高分子弾性体Bは染料で実質的に着色されていないことによって、初めて染料の昇華堅牢度に優れた半銀付調人工皮革とすることができる。
【0010】
表面層の厚みは、10〜500μmであることが好ましく、10〜200μmであることがより好ましい。10〜500μmであることで、半銀調の外観と皮革様の風合いを両立することができ、さらに、本発明の半銀付調人工皮革の表面層を構成する極細長繊維が一方向に切断した際の断面において、表面層が極細長繊維、又は、極細長繊維と高分子弾性体とからなり、下記条件を満たすことで、良好な金属光沢感と天然皮革調の優美な外観を両立させることができる。
X/Y≧1.5
(上記式中、Xは該半銀付調人工皮革の任意断面における表面から20μmの深さに存在する前記極細長繊維の切断端の数であり、Yは該断面と直交する断面における表面から20μmの深さに存在する前記極細長繊維の切断端の数であり、かつ、X>Yである。)
上記比がこの範囲にあることで、表面層の極細長繊維の向きが部分的に、もしくは全体的に一定方向に揃う配向性が備わる。その結果、良好な金属光沢と次の熱エンボス工程で樹脂が存在しなくても、均一で平滑の表面が得られる。
なお、上記比が1.5より小さいと、良好な金属光沢と十分な平滑感が得られない。一方、理論的には、上記比が無限大に近づくほど良好な金属光沢と均一な平滑が得られると予想されるが、20以上では均一性にほとんど変化が無く、また生産コストの観点からも処理回数が増加するだけでメリットが無く、実質的には20以下での使用が現実的である。
従って、上記比は、1.5以上、50以下であることが好ましく、2以上、20以下であることがより好ましい。
【0011】
基体層の厚みは200〜4000μmであることが好ましく、300〜2000μmであることがより好ましい。200〜4000μmであることで、半銀付調人工皮革材としての十分な強度と天然皮革調のソフト性、充実感を満足することができる。
また、本発明の極細長繊維はポリエステル系樹脂からなることが物性と鮮明な染色を行うことができる点で好ましく、前記ポリエステル繊維の染色として分散染料が好ましく用いられる。
さらに、本発明の半銀付調人工皮革は、天然皮革様の外観を有するために表面層に凹凸模様を有することが好ましい。但し、単に凹凸を付与するだけでは、前述の昇華堅牢度が低下しやすいことから、高分子弾性体Bは染料で実質的に着色されていない状態にする必要があり、高分子弾性体Bは、前記凹凸を付与する工程で加熱加圧されていない状態であることが好ましく、凹凸模様の凸部に偏在していることが、昇華堅牢度に優れることと半銀調の天然皮革のシボ外観を兼ね備える点でより好ましい。
【0012】
以下、本発明の半銀付調人工皮革の製造方法について、工程毎に詳述する。
【0013】
本発明の半銀付調人工皮革の製造方法は、下記工程(1)〜(8)を順次行う。
(1)極細繊維束形成性長繊維からなる長繊維ウェブを製造する工程
(2)前記長繊維ウェブに絡合処理を施し、絡合ウェブを製造する工程
(3)前記絡合ウェブ中の極細繊維束形成性長繊維を極細長繊維に変換し、絡合不織布を製造する工程
(4)前記絡合不織布の表面を起毛処理する工程
(5)高分子弾性体Aを絡合不織布に対して5質量%以下付与する工程
(6)絡合不織布を染色する工程
(7)表面に凹凸模様を付与する工程
(8)表面に高分子弾性体Bを付与する工程
(但し、工程(4)は工程(5)または工程(6)の後に行っても良く、また工程(6)は工程(5)の前に行っても良い)
そして、上記工程(7)の前に、表面層が極細長繊維、又は、極細長繊維と高分子弾性体とからなり、下記条件を満たすように、起毛処理後の前記極細長繊維を整毛する工程(9)を行うことが好ましい。
X/Y≧1.5
(上記式中、Xは該半銀付調人工皮革の任意断面における表面から20μmの深さに存在する前記極細長繊維の切断端の数であり、Yは該断面と直交する断面における表面から20μmの深さに存在する前記極細長繊維の切断端の数であり、かつ、X>Yである。)
【0014】
工程(1)では、極細繊維束形成性長繊維からなる長繊維ウェブを製造する。極細繊維束形成性長繊維は、例えば、海島型長繊維を用いて製造することができる。以下、海島型長繊維を用いた例を主として、本発明の製造方法を説明する。
海島型長繊維は少なくとも2種類のポリマーからなる多成分系複合繊維であって、海成分ポリマー中にこれとは異なる種類の島成分ポリマーが分散した断面を有する。海島型長繊維は、絡合不織布構造体に形成した後、高分子弾性体を含浸させる前または後で海成分ポリマーを抽出または分解して除去することで、残った島成分ポリマーからなる極細長繊維が複数本集まった繊維束に変換される。
【0015】
島成分ポリマーとしては、特に限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエステル弾性体等のポリエステル系樹脂またはそれらの変性物;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、芳香族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、ポリアミド弾性体等のポリアミド系樹脂またはそれらの変性物;ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリエステル系ポリウレタンなどのポリウレタン系樹脂など、公知の繊維形成性の水不溶性熱可塑性ポリマーが挙げられる。これらの中でも、PET、PTT、PBTおよびこれらの変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂は、熱処理により収縮しやすく、充実感のある風合いを有し、耐磨耗性、耐光性、形態安定性などの実用的性能が優れた製品が得られる点で特に好ましい。また、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂はポリエステル系樹脂に比べて吸湿性があってしなやかな極細長繊維が得られるので、膨らみ感のある柔らかな風合いを有する。
【0016】
島成分ポリマーの融点は160℃以上であるのが好ましく、融点が180〜330℃であり結晶性であるのがより好ましい。なお、本発明でいうポリマーの融点とは、後述するように示差走査熱量計の所為2nd Runでの吸熱ピーク(融点ピーク)のトップ温度である。本発明で使用する島成分ポリマーは示差走査熱量計での1st Run測定において、融点ピークの他にも吸熱ピーク(以下、副吸熱ピークと称する場合がある)を有することが好ましい。副吸熱ピークを有すると、島成分ポリマーの融点以上に昇温しなくても、表面を構成する極細繊維同士が一部融着することで銀面を形成し易くなることから、本願発明のように染色昇華堅牢度を向上させることと半銀付調の表面に凹凸模様を付与させることを両立させる点で好ましい。すなわち、基体層として高分子弾性体の含有比率が5質量%以下と極めて高分子弾性体が少ない状態でも表面に凹凸模様を付与することが可能となる。さらに、良好な表面物性および天然皮革並の柔軟な風合いを兼ね備えた半銀付調人工皮革が得られる。
【0017】
なお、島成分ポリマーの副吸熱ピークの温度は、融点よりも30℃以上低いことが、風合いを損なうことなく極細繊維同士を融着処理しやすい点で好ましく、50℃以上低いことがより好ましい。副吸熱ピークの温度の下限は特に限定しないが、融点よりも160℃以上低い場合でも問題なく製造することができる。
【0018】
融点ピークと副吸熱ピークを有する島成分ポリマーとしては、前述したポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂およびポリウレタン系樹脂の変性物が好ましく用いられる。中でも表面物性、風合い、および極細繊維融着性を兼ね備える点で、変性ポリエステル系樹脂がより好ましく、イソフタル酸変性ポリエステル系樹脂がさらに好ましい。但し、上記変性ポリマーは公知の方法により部分配向(POY)されていることが副吸熱ピークを維持し易い点で好ましい。
【0019】
海島型長繊維を極細長繊維の繊維束に変換する際に、海成分ポリマーは溶剤または分解剤により抽出または分解除去される。従って、海成分ポリマーは溶剤に対する溶解性または分解剤による分解性が島成分ポリマーよりも大きいことが必要である。海島型長繊維の紡糸安定性の点から島成分ポリマーとの親和性が小さく、かつ、紡糸条件において溶融粘度及び/又は表面張力が島成分ポリマーより小さいことが好ましい。このような条件を満たす限り海成分ポリマーは特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−エチレン共重合体、スチレン−アクリル共重合体、ポリビニルアルコール系樹脂などが好ましく用いられる。有機溶剤を用いることなく繊維銀面銀付調皮革を製造することができるので、海成分ポリマーに水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(水溶性PVA)を用いるのが特に好ましい。
【0020】
水溶性PVAの粘度平均重合度(以下、単に「重合度」と略記する)は200〜500が好ましく、230〜470がより好ましく、250〜450がさらに好ましい。重合度が200以上であると、溶融粘度が適度で島成分ポリマーとの複合化が容易である。重合度が500以下であると、溶融粘度が高すぎて紡糸ノズルから樹脂を吐出することが困難となる問題を避けることができる。重合度500以下のいわゆる低重合度PVAを用いることにより、熱水で溶解するときに溶解速度が速くなるという利点も有る。水溶性PVAの重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。
水溶性PVAのケン化度は90〜99.99モル%が好ましく、93〜99.98モル%がより好ましく、94〜99.97モル%がさらに好ましく、96〜99.96モル%が特に好ましい。ケン化度が90モル%以上であると、熱安定性が良く、熱分解やゲル化することなく満足な溶融紡糸を行うことができ、生分解性も良好である。更に後述する共重合モノマーによって水溶性が低下することがなく、極細化が容易になる。ケン化度が99.99モル%よりも大きい水溶性PVAは安定に製造することが難しい。
水溶性PVAの融点(Tm)は、160〜230℃が好ましく、170〜227℃がより好ましく、175〜224℃がさらに好ましく、180〜220℃が特に好ましい。融点が160℃以上であると、結晶性が低下して繊維強度が低くなることがなく、熱安定性が悪くなり繊維化が困難になることも避けることができる。融点が230℃以下であると、PVAの分解温度より低い温度で溶融紡糸することができ、海島型長繊維を安定に製造することができる。
【0021】
従来の人工皮革の製造においては、極細繊維束形成性長繊維を任意の繊維長にカットして得たステープルにより繊維ウェブを製造していたが、本発明では、スパンボンド法などにより紡糸した海島型長繊維(極細繊維束形成性長繊維)をカットすることなく長繊維ウェブにする。海島型長繊維は前記の海成分ポリマーと島成分ポリマーを複合紡糸用口金から押出すことにより溶融紡糸する。紡糸温度(口金温度)は海島型長繊維を構成するポリマーのそれぞれの融点よりも高く、180〜350℃が融点ピークと副吸熱ピークを存在させ易い点で好ましい。口金から吐出した溶融状態の海島型長繊維を冷却装置により冷却した後、エアジェットノズルなどの吸引装置を用いて、目的の繊度となるように1000〜6000m/分の引き取り速度に相当する速度の高速気流により牽引細化し、移動式ネットなどの捕集面上に堆積させて実質的に無延伸の長繊維からなるウェブを形成する。必要に応じて、得られた長繊維ウェブをプレス等により部分的に圧着して形態を安定化させてもよい。
このような長繊維ウェブ製造方法は、従来の短繊維を用いる繊維ウェブ製造方法では必須の原綿供給装置、開繊装置、カード機などの一連の大型設備を必要としないので生産上有利である。また、長繊維ウェブおよびそれを用いて得られる人工皮革は連続性の高い長繊維からなるので、従来一般的であった短繊維ウェブおよびそれを用いて製造した人工皮革に比べて、強度などの物性、芯材表面に積層した場合に人工皮革の周囲をカットしても繊維屑が発生し難い点においても優れている。
【0022】
海島型長繊維の平均断面積は30〜800μmであるのが好ましい。海島型長繊維の断面において、海成分ポリマーと島成分ポリマーの平均面積比(ポリマー体積比に相当)は5/95〜70/30が好ましい。得られた長繊維ウェブの目付は10〜1000g/mが好ましい。
【0023】
本発明において、長繊維とは、繊維長が通常3〜80mm程度である短繊維よりも長い繊維長を有する繊維であり、短繊維のように意図的に切断されていない繊維をいう。例えば、極細化する前の長繊維の繊維長は100mm以上が好ましく、技術的に製造可能であり、かつ、物理的に切れない限り、数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。
【0024】
工程(2)では、前記長繊維ウェブに絡合処理を施して絡合ウェブを得る。前記長繊維ウェブを、必要に応じてクロスラッパー等を用いて厚さ方向に複数層重ね合わせた後、両面から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチする。パンチング密度は、300〜5000パンチ/cmの範囲が好ましく、より好ましくは500〜3500パンチ/cmの範囲である。上記範囲内であると、充分な絡合が得られ、海島型長繊維のニードルによる損傷が少ない。該絡合処理により、海島型長繊維同士が三次元的に絡合し、厚さ方向に平行な断面において海島型長繊維が平均600〜4000個/mmの密度で存在する、海島型長繊維が極めて緻密に集合した絡合ウェブが得られる。長繊維ウェブにはその製造から絡合処理までのいずれかの段階で油剤を付与してもよい。必要に応じて、70〜150℃の温水に浸漬するなどの収縮処理によって、長繊維ウェブの絡合状態をより緻密にしてもよい。また、熱プレス処理を行うことで海島型長繊維同士をさらに緻密に集合させ、長繊維ウェブの形態を安定にしてもよい。ただし、本発明では、後述のように極細長繊維を構成する島成分ポリマーの副吸熱ピークを利用して低温で凹凸模様を形成させるため、該副吸熱ピークが消失しないような温度条件を選ぶ必要がある。絡合ウェブの目付は100〜2000g/mあるのが好ましい。
【0025】
工程(3)では、海成分ポリマーを除去することにより極細繊維束形成性長繊維(海島型長繊維)を極細化して極細長繊維の繊維束からなる絡合不織布を製造する。海成分ポリマーを除去する方法としては、島成分ポリマーの非溶剤または非分解剤であり、かつ、海成分ポリマーの溶剤または分解剤で絡合ウェブを処理する方法が本発明においては好ましく採用される。島成分ポリマーがポリアミド系樹脂やポリエステル系樹脂である場合、海成分ポリマーとしては、前記水溶性PVAであれば温水が、また、海成分ポリマーが易アルカリ分解性の変性ポリエステルであれば水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性分解剤が使用される。海成分ポリマーの除去は人工皮革分野において従来採用されている方法により行えばよく、特に制限されない。本発明においては、抽出処理の際に有機溶剤を用いることが無い為、環境負荷が少なく、VOCの発生を抑制する点、また、労働衛生上好ましいので、海成分ポリマーとして前記水溶性PVAを使用し、有機溶媒を使用することなく85〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理し、除去率が95質量%以上(100%を含む)になるまで抽出除去し、極細繊維束形成性長繊維を島成分ポリマーからなる極細長繊維の繊維束に変換するのが好ましい。
必要に応じて、極細繊維束形成性長繊維を極細化する前または極細化と同時に、下記式:
[(収縮処理前の面積−収縮処理後の面積)/収縮処理前の面積]×100
で表される面積収縮率が好ましくは25%以上、より好ましくは30〜75%になるように収縮処理を行って高密度化してもよい。収縮処理により形態保持性がより良好になり、起毛時または整毛時の繊維の素抜けが防止され、表面近傍の繊維の配向程度が下記条件を満たしやすい点で好ましい。
X/Y≧1.5
(上記式中、Xは該半銀付調人工皮革の任意断面における表面から20μmの深さに存在する前記極細長繊維の切断端の数であり、Yは該断面と直交する断面における表面から20μmの深さに存在する前記極細長繊維の切断端の数であり、かつ、X>Yである。)
【0026】
極細化前に上記収縮処理を行う場合、水蒸気雰囲気下で絡合ウェブを収縮処理するのが好ましい。水蒸気による収縮処理は、例えば、絡合ウェブに海成分に対して30〜200質量%の水分を付与し、次いで、相対湿度が70%以上、より好ましくは90%以上、温度が60〜130℃の加熱水蒸気雰囲気下で60〜600秒間加熱処理することが好ましい。上記条件で収縮処理すると、水蒸気で可塑化された海成分ポリマーが島成分ポリマーにより構成される長繊維の収縮力で圧搾・変形するので緻密化が容易になる。次いで、収縮処理した絡合ウェブを85〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理して海成分ポリマーを溶解除去する。また、海成分ポリマーの除去率が95質量%以上になるように、水流抽出処理してもよい。水流の温度は80〜98℃が好ましく、水流速度は2〜100m/分が好ましく、処理時間は1〜20分が好ましい。
【0027】
収縮処理と極細化を同時に行う方法としては、例えば、絡合ウェブを65〜90℃の熱水中に3〜300秒間浸漬した後、引き続き、85〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理する方法が挙げられる。前段階で、極細繊維束形成性長繊維が収縮すると同時に海成分ポリマーが圧搾される。圧搾された海成分ポリマーの一部は繊維から溶出する。そのため、海成分ポリマーの除去により形成される空隙がより小さくなるので、より緻密化した絡合不織布が得られる。
【0028】
任意に行われる収縮処理および海成分ポリマー除去により、好ましくは140〜3000g/mの目付を有する絡合不織布が得られる。前記絡合不織布中の繊維束の平均繊度は0.5〜10dtex、好ましくは0.7〜5dtexである。極細長繊維の平均繊度は0.001〜2dtex、好ましくは0.002〜0.2dtexである。前記範囲内であると、得られる半銀付調人工皮革の緻密性、その表層部の不織布構造の緻密性が向上する。極細長繊維の平均繊度および繊維束の平均繊度が上記範囲内である限り繊維束中の極細長繊維の本数は特に制限されないが、一般的には5〜1000本である。
【0029】
前記絡合不織布の湿潤時の剥離強力は4kg/25mm以上であることが好ましく、4〜15kg/25mmであることがより好ましい。剥離強力は極細長繊維束の三次元絡合度合いの目安である。上記範囲内であると、絡合不織布および得られる半銀付調人工皮革としての表面摩耗が少なく、形態保持性および充実感が良好である。後述するように、高分子弾性体を付与する前に絡合不織布を分散染料で染色してもよい。湿潤時の剥離強力が上記範囲内であると、染色時の繊維の素抜けやほつれを防止することができる。
【0030】
工程(4)では、前記絡合不織布の表面を起毛処理する。起毛処理の方法は、公知の方法の何れも採用可能であるが、サンドペーパーや針布等を用いたバフがけを用いることが好ましい。
【0031】
工程(5)では、高分子弾性体Aを前記絡合不織布に対して5質量%以下付与する。高分子弾性体としては、人工皮革製造に従来用いられているポリウレタン弾性体、アクリロニトリル系高分子弾性体、オレフィン系高分子弾性体、ポリエステル弾性体、(メタ)アクリル系高分子弾性体などから選ばれる少なくとも1種の弾性体を用いることができるが、ポリウレタン弾性体及び/又は(メタ)アクリル系高分子弾性体が特に好ましい。
【0032】
ポリウレタン弾性体としては、高分子ポリオール、有機ポリイソシアネート、及び、必要に応じて鎖伸長剤を所望の割合で、溶融重合法、塊状重合法、溶液重合法などにより重合して得られる公知の熱可塑性ポリウレタンが好ましい。
【0033】
前記高分子弾性体Aは水溶液または水分散体として前記絡合不織布に含浸させる。水溶液または水分散体中の高分子弾性体含量は0.1〜60質量%が好ましい。高分子弾性体Aの水溶液または水分散体は、高分子弾性体Aを固形分換算で極細繊維からなる絡合不織布に対して5質量%以下となるように含有させる必要がある。5質量%を越える場合、分散染料で染色した後に、染料が高分子弾性体に移行しやすくなり、その影響が無視できなくなる傾向がある。高分子弾性体による極細繊維の把持効果による風合いと機械物性の向上に加えて昇華堅牢度を兼ね備える点で好ましくは、3質量%以下、より好ましくは、2質量%以下、最も好ましくは、1質量%以下であることが好ましい。なお、下限に関しては、0%であっても良く、極細繊維不織布の物性や製品の要求性能によって適宜設定すればよい。
【0034】
高分子弾性体の水溶液または水分散体を絡合不織布に含浸させる方法は特に制限されないが、例えば、浸漬などにより絡合不織布内部に均一に含浸する方法、表面と裏面に塗布する方法などが挙げられる。
【0035】
工程(6)では、工程(5)で得られた絡合不織布を染色する。
例えば、構成する繊維がポリエステル系の繊維の場合には、分散染料による染色は過酷な条件(高温、高圧)で行われるため、高分子弾性体Aを付与する工程(5)の前に染色(先染め)すると極細繊維の破断などが生じ易い。本発明では極細繊維が長繊維であるので先染めが可能となる。前記した収縮処理により極細長繊維は高収縮して分散染色条件に十分耐える強度を持つので、先染めする場合には予め収縮処理することが好ましい。通常、高分子弾性体を含む絡合不織布を染色した場合、高分子弾性体Aに付着した分散染料を除去して染色堅牢度を向上させるために強アルカリ条件下での還元洗浄工程と中和工程が必要であった。本発明では、工程(5)(高分子弾性体A付与)の前に染色することも可能であるので、これらの工程が不要になる。また、染色中に高分子弾性体Aが脱落するなどの問題があったが、先染めによりこの問題が回避されると共に高分子弾性体Aの選択範囲が広がる。先染めした場合、余分な染料は湯や中性洗剤液等を使用した洗浄で除去できる。従って、極めてマイルドな条件で染色によって、摩擦堅牢度、特に、湿摩擦堅牢度を向上させることができる。また、高分子弾性体Aを付与する前に染色すると、高分子弾性体Aが染色されていないので、繊維と高分子弾性体との染料吸尽性の違いに起因する色斑を防止することもできる。
【0036】
使用する分散染料としては、分子量が200〜800の、モノアゾ系、ジスアゾ系、アントラキノン系、ニトロ系、ナフトキノン系、ジフェニルアミン系、複素環系等のポリエステル染色に通常使用される分散染料が好ましく、用途や色相に応じて単独あるいは配合して使用する。染色濃度は要求される色相に応じて異なるが、30%owfを超える高濃度で染色した場合には湿潤時の摩擦堅牢度が悪化するので、30%owf以下が好ましい。浴比は特に制限はないが、1:30以下の低浴比が、コスト、環境への影響の観点で好ましい。染色温度は、70〜130℃が好ましく、95〜120℃がより好ましい。また、染色時間は30〜90分が好ましく、淡色では30〜60分、濃色では45〜90分がより好ましい。染色後の還元洗浄は染色濃度が10%owf以上の場合は3g/L以下の低濃度の還元剤を使用しても良いが、中性洗剤を使用して40〜60℃の温水で洗浄するのが好ましい。
【0037】
工程(7)では、工程(6)で得られた染色後の絡合不織布の表面に凹凸模様を付与する。工程(7)で表面に凹凸模様を付与することで、天然皮革様の外観を付与すると共に表面の極細繊維同士の一部を融着させ、半銀付調の外観の一部を形成する。凹凸模様を付与する方法は、公知の凹凸模様付与方法を適宜採用可能であるが、加熱エンボスロールを用いて加圧処理することが生産効率に優れる点で好ましい。上記半銀付調の一部を形成する方法としては、工程(6)で得られた染色後の絡合不織布の表面を、前記海島型長繊維の紡糸温度よりも50℃以上低く、かつ、前記高分子弾性体の融点以下の温度で熱プレスする。これにより半銀付調の外観の一部が形成される。凹凸模様が形成される限り特に限定されないが、加熱温度は130℃以上であるのが好ましい。熱プレスは、例えば、加熱した金属ロールによって行われ、1〜1000N/mmの線圧で熱プレスするのが好ましい。なお、熱プレス温度が上記温度(海島型長繊維の紡糸温度よりも50℃以上低い温度)よりも高い場合は、極細長繊維を構成するポリマー同士の融着が大きくなり、板状の非常に硬いものになってしまう。一方、熱プレス温度が前記高分子弾性体の融点以上の場合は、高分子弾性体が溶融し、プレス機に接着するため、生産効率が低下し、また平滑面は得られ難くなる。
【0038】
これらの方法によれば、銀面をより低温で形成することができるが、その理由は極細長繊維に存在する副吸熱ピークによる極細繊維の部分的な融着に起因していると考えられる。本発明の方法により得られた銀面は天然皮革様の外観、低反発性、充実感を有するのみならず、表面に付着した水分を急速に吸収、拡散させる。上記方法は、半銀付調の外観の一部を形成すると同時に、高分子弾性体を極力減少させることによって染色昇華堅牢度向上に優れる点で好ましい。
【0039】
工程(8)では、工程(7)で形成された凹凸模様が付与された表面に高分子弾性体Bを付与する。付与方法としては、高分子弾性体Bの水分散体または水溶液をグラビア塗布し、熱を加えて高分子弾性体を乾燥、凝固させる任意の工程を行うのが好ましい。特に、表面層に選択的に塗布した場合、上記の方法で得られたエンボス模様の固定性が良好となり、製品となっても使用中にその模様が消失し難い傾向がある。高分子弾性体Bは、人工皮革の銀面層を形成する公知の樹脂を用いることが可能であるが、基体層と銀面層の密着性が高い方が表面強度は強くなり好ましいことから、例えば高分子弾性体Aとしてポリウレタン弾性体を用いた場合には高分子弾性体Bもポリウレタン弾性体を用いるか、高分子弾性体Bの少なくとも1成分にポリウレタン弾性体を含むように、高分子弾性体Bを選択することが好ましい。
【0040】
そして、繊維銀面部に、上記した高分子弾性体Bの水溶液または水分散体を固形分として2〜30g/mグラビア塗布し、90〜140℃の熱風を吹きつけて乾燥、凝固させて半銀付調の外観を付与することが好ましい。
上記方法により製造された繊維からなる半銀付調人工皮革の表面を形成する極細長繊維同士は、工程(7)の加圧加熱により少なくとも一部融着している。そして、本発明では、極細長繊維の融着により半銀付の一部の面が形成され、高分子弾性体Bがその形態を保持している。「一部融着」とは、極細長繊維同士が長さ方向に部分的に融着している状態、および、繊維束のある断面において一部の極細長繊維同士が融着している状態を表す。
最後に工程(8)による高分子弾性体Bを付与することで、意外にも極細繊維の染料が、高分子弾性体Bに移行し難く、また半銀付調人工皮革の銀面の一部を構成する極細繊維は染料により着色されているものの、昇華堅牢度に優れた半銀付調人工皮革が得られる。
また、グラビア塗布時の印刷圧力を制御調整することで、高分子弾性体Bを凹凸模様の凸部に偏在させることが可能である。
【0041】
そして、本発明の半銀付調人工皮革は、工程(9)として、上記工程(7)の前に、前記表面層が極細長繊維、又は、極細長繊維と高分子弾性体とからなり、下記条件を満たすように起毛処理後の前記極細長繊維を整毛する。
X/Y≧1.5
(上記式中、Xは該半銀付調人工皮革の任意断面における表面から20μmの深さに存在する前記極細長繊維の切断端の数であり、Yは該断面と直交する断面における表面から20μmの深さに存在する前記極細長繊維の切断端の数であり、かつ、X>Yである。)
【0042】
整毛する手段としては、工程(4)で表面に存在する繊維束から極細長繊維を起毛し、既に表面に起毛した極細長繊維(立毛極細繊維)に対して、最終的に表面から20μmの深さまでに存在する極細長繊維の全てもしくは部分的に配向するように表面層を形成できるものであれば特に限定されない。例えば、針布、エチケットブラシ(登録商標)等の斜毛ブラシ、及びサンドペーパーなどをブラッシング材として使用すればよい。例えば、ブラッシング材を巻き付けたロールにより絡合不織布の表面をブラッシングする。このとき、絡合不織布を3〜20m/分の速度で引き取りながら、ロールを200〜800rpmの速度で回転させるのが好ましい。ブラッシング材表面の粗さは特に限定されないが、サンドペーパーの粗さは280〜1200メッシュであるのが好ましく、針布および斜毛ブラシの場合はこれに相当する粗さであればよい。
【0043】
整毛(配向)する方向は縦方向(MD)、横方向(巾方向:TD)のいずれでもよいが、製造効率上MD方向に整毛するのが好ましい。MD方向に整毛した場合、TD方向に沿って得られた断面における切断端の数がX、MD方向に沿って得られた断面における切断端の数がYとなる。従って本発明では常にX>Yとなる。
なお、上記比を求めるに当たり、半銀付調人工皮革を切断するが、その切断方法としては、例えば、半銀付調人工皮革の表面を165℃、400N/cmの条件で熱プレス処理を行い、表面付近の毛羽配向を固定したのち、方刃カミゾリを使用し、該繊維配向が崩れないように表面から一気に切断する。
そして、切断面の画像をSEMにより撮影し、当該画像をもとに表面から20μmの深さ(所謂、表面から20μmまでの範囲)における前記極細長繊維の切断端の数(X)と上記方向と直交する方向に切断した際の切断端の数(Y)を求めて上記比を算出する。
【実施例】
【0044】
(1)融点
示差走査熱量計(TA3000、メトラー社製)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温からポリマー種類に応じて300〜350℃まで昇温後、直ちに室温まで冷却し、再度直ちに昇温速度10℃/分で300〜350℃まで昇温したとき(2nd Run)に得られた吸熱ピーク(融点ピーク)のピークトップ温度を求めた。
【0045】
(2)副吸熱ピーク温度
示差走査熱量計(TA3000、メトラー社製)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温からポリマー種類に応じて300〜350℃まで昇温後、直ちに室温まで冷却し、再度直ちに室温から昇温速度10℃/分で300〜350℃まで昇温したとき(1st Run)に得られた吸熱ピークの内、上記融点ピークよりも低温側のピークのトップ温度を求めた。
【0046】
(3)昇華堅牢度
JIS L 0854に準じて評価を行った。
【0047】
実施例1
水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール((以下、変性PVAと称す)(海成分)と、変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ−ト(島成分)を、海成分/島成分が25/75(質量比)となるように260℃で溶融複合紡糸用口金(島数:25島)より吐出した。紡糸速度が3700m/minとなるようにエジェクター圧力を調整し、繊維束の平均繊度が2.1デシテックスの海島型長繊維をネット上に捕集した。ついで、表面温度42℃の金属ロールでネット上の海島型長繊維シートを軽く押さえ、表面の毛羽立ちを抑えてネットから剥離し、表面温度55℃の金属ロール(格子柄)とバックロール間で200N/mmの線圧で熱プレスして表面繊維が格子状に仮融着した目付31g/mの長繊維ウェブを得た(工程(1))。
【0048】
上記長繊維ウェブに油剤および帯電防止剤を付与し、クロスラッピングにより8枚重ねて総目付が250g/mの重ね合わせウェブを作製し、更に針折れ防止油剤をスプレーした。次いで、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、針深度8.3mmにて両面から交互に3300パンチ/cmでニードルパンチした(工程(2))。このニードルパンチ処理による面積収縮率は68%であり、ニードルパンチ後の絡合ウェブの目付は320g/mであった。
【0049】
絡合ウェブを巻き取りライン速度10m/分で70℃熱水中に14秒間浸漬して面積収縮を生じさせた。ついで95℃の熱水中で繰り返しディップニップ処理を実施して変性PVAを溶解除去し、平均単繊維繊度0.1デシテックスの極細長繊維を25本含む、平均繊度2.5デシテックスの繊維束が3次元的に交絡した絡合不織布を作製した(工程(3))。乾燥後に測定した面積収縮率は52%であり、目付は480g/m、見掛け密度は0.52g/cm、剥離強力は、4.2kg/25mmであった。該絡合不織布を構成する極細長繊維の融点ピークは238℃で副吸熱ピークは115℃であった。
【0050】
該絡合不織布の表面をバフィングにより厚みを0.82mmに調整すると同時に起毛した(工程(4))後、ソフトセグメントがポリへキシレンカーボネートジオールとポリメチルペンタンジオールの70:30の混合物からなり、ハードセグメントが主として水添メチレンジイソシアネートからなるポリウレタン(融点が180〜190℃、損失弾性率のピーク温度が−15℃、130℃での熱水膨潤率が35%の高分子弾性体A)を固形分で、極細繊維絡合不織布に対して0.2質量%付与し(工程(5))、5%owfの分散染料により茶色に染色した(工程(6))。工程通過性(染色時の繊維の素抜けやほつれ、バフィング時の繊維の抜け等がない)は良好で、発色の良好な極細長繊維からなる絡合不織布を得た。
【0051】
得られた起毛表面からなる人工皮革の表面を172℃、9kg/cm2の条件で熱プレス処理を行い表面に凹凸模様を付与すると共に、表面付近の起毛繊維同士の一部を融着した(工程(7))。その後、#110メッシュのグラビアロールを使用して、高分子弾性体Aとポリエチレン系ワックス(PE−381:成瀬化学(株))の75:25(固形分質量比)の混合物を高分子弾性体Bとして凹凸模様の表面にWetで約20g/m(固形分:9g/m)、塗布し、110℃で乾燥し(工程(8))、半銀付調人工皮革を得た。得られた半銀付調人工皮革を70℃で24時間放置させた時の昇華堅牢度は3級以上と優れていた。なお、昇華堅牢度の測定は、温度と測定時間以外は JIS L 0854に準拠して実施し、汚染レベルはグレースケールで判断した。
【0052】
実施例2
実施例1と同様の処理を行い得られた半銀付調人工皮革の表面同士を合わせて、半銀付調人工皮革の上下(半銀付調人工皮革の裏側)から60℃の温度をかけながら機械的にもみ加工を施した。得られた半銀付調人工皮革は、表面に2色感があり、ソフトで天皮ライクなものだった。得られた半銀付調人工皮革を70℃で24時間放置させた時の昇華堅牢度は3級以上と優れていた。
【0053】
実施例3
実施例1で得られた染色された極細長繊維からなる絡合不織布の表面を、斜毛ブラシ部材を巻きつけた回転数400rpmのロールで速度7m/分の引き取り速度で毛玉を除去し、進行方向に極細繊維束が配向するように整毛した。さらに粒度400メッシュのサンドペーパーを回転数400rpmで絡合不織布の表面を構成して進行方向に配向した極細繊維束を内部から引き出しつつ極細繊維束の束をカットして、個々の極細長繊維に分離し、実質的に細表面には繊維束が存在しない状態で配向し、金属光沢の外観を有する様に整毛処理した(工程(9))以外は実施例1と同様の処理を行い、その後得られた半銀付調人工皮革同士を重ねて上下(半銀付調人工皮革の裏側)から60℃の温度をかけながら機械的にもみ加工を施した。得られた半銀付調人工皮革は、表面に金属光沢を有するものであり、70℃で24時間放置させた時の昇華堅牢度は3−4級であった。なお、半銀付調人工皮革の表面を165℃、400N/cmの条件で熱プレス処理を行い、表面付近の繊維の配向を固定したのち、該繊維配向が崩れないように、片刃カミゾリを使用してTD方向に平行な方向で表面から裏面まで一気に切断した。そして、切断面の画像を300倍のSEMにより撮影し、当該画像(13.5×18cmのSEM写真)をもとに表面から20μmの深さに存在する前記極細長繊維の切断端の数(X)を求め、上記方向と直交する方向(MD方向に平行な方向)に切断し、同様にして切断端の数(Y)を求めた。X/Yは3.2であった。
【0054】
実施例4
表面に凹凸模様を付与した後にポリエチレン系ワックスのみを用い、かつグラビアロールの印刷圧力を弱めて表面層の凸部に偏在させた以外は実施例1と同様の処理を行った。得られた半銀付調人工皮革は、ヌメリ感のある天皮ライクなものだった。得られた半銀付調人工皮革を70℃で24時間放置させた時の昇華堅牢度は3級以上と優れていた。
【0055】
比較例1
高分子弾性体Aを固形分で、極細繊維絡合不織布に対して8質量%付与し、高分子弾性体Aを表面側にマイグレーションさせた後、染色し、高分子弾性体Bを付与した後に凹凸模様処理を行った以外は、実施例1と同様の処理を行った。得られた半銀調人工皮革の銀付部分は染料の移行により染色された状態であり、70℃で24時間放置させた時の昇華堅牢度は1−2級であった。
【0056】
比較例2
工程(7)と工程(8)を入れ替えると同時に高分子弾性体BをWetで約50g/m(固形分:22g/m)、塗布した以外は実施例1と同様の方法で半銀付調人工皮革を製造した。得られた半銀調人工皮革の銀付部分は染料の移行により染色された状態であり、70℃で24時間放置させた時の昇華堅牢度は1−2級であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細長繊維からなる絡合不織布およびその内部に5質量%以下の高分子弾性体Aが含有された基体層の表面に前記極細長繊維と高分子弾性体Bが混在した表面層を有する半銀付調人工皮革であって、極細長繊維は染料で着色されているが、前記高分子弾性体Bは染料で実質的に着色されていないことを特徴とする半銀付調人工皮革。
【請求項2】
表面層が極細長繊維、又は、極細長繊維と高分子弾性体とからなり、下記条件を満たす請求項1に記載の半銀付調人工皮革。
X/Y≧1.5
(上記式中、Xは該半銀付調人工皮革の任意断面における表面から20μmの深さに存在する前記極細長繊維の切断端の数であり、Yは該断面と直交する断面における表面から20μmの深さに存在する前記極細長繊維の切断端の数であり、かつ、X>Yである。)
【請求項3】
極細長繊維がポリエステル系樹脂からなり、染料が分散染料である請求項1または2に記載の半銀付調人工皮革。
【請求項4】
表面層に凹凸模様を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の半銀付調人工皮革。
【請求項5】
表面層に凹凸模様を有し、高分子弾性体Bが凸部に偏在している請求項1〜4のいずれか1項に記載の半銀付調人工皮革。
【請求項6】
下記工程(1)〜(8)を順次行う半銀付調人工皮革の製造方法。
(1)極細繊維束形成性長繊維からなる長繊維ウェブを製造する工程
(2)前記長繊維ウェブに絡合処理を施し、絡合ウェブを製造する工程
(3)前記絡合ウェブ中の極細繊維束形成性長繊維を極細長繊維に変換し、絡合不織布を製造する工程
(4)前記絡合不織布の表面を起毛処理する工程
(5)高分子弾性体Aを絡合不織布に対して5質量%以下付与する工程
(6)絡合不織布を染色する工程
(7)表面に凹凸模様を付与する工程
(8)表面に高分子弾性体Bを付与する工程
(但し、工程(4)は工程(5)または工程(6)の後に行っても良く、また工程(6)は工程(5)の前に行っても良い)
【請求項7】
上記工程(7)の前に、表面層が極細長繊維、又は、極細長繊維と高分子弾性体とからなり、下記条件を満たすように、起毛処理後の前記極細長繊維を整毛する工程(9)を行う請求項6に記載の半銀付調人工皮革の製造方法。
X/Y≧1.5
(上記式中、Xは該半銀付調人工皮革の任意断面における表面から20μmの深さに存在する前記極細長繊維の切断端の数であり、Yは該断面と直交する断面における表面から20μmの深さに存在する前記極細長繊維の切断端の数であり、かつ、X>Yである。)

【公開番号】特開2011−184814(P2011−184814A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49121(P2010−49121)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】