説明

単一装置上の位置決定(POD)ならびにPODを利用する自律型超音波位置決定システムおよびその方法

【課題】対象の所在確認および追跡を行う自律型超音波屋内追跡システムを用いて対象の所在確認ならびに位置決定を行なう方法を提供する。
【解決手段】自律型超音波屋内追跡システム(AUITS)200は、RF信号および超音波信号を送信するためのRF送信器205および超音波送信器206を含む移動するタグ装置201と、タグ装置から送信されたRF信号および超音波信号を受信し対象の所在を確認する位置決定機能(POD)202とを備える。PODは複数のリーフモジュールから構成され、各リーフモジュールには位置信号の超音波受信器があり、タグ装置から送信された超音波位置信号を受信する。リーフモジュール間には既知の構造トポロジー関係があり、各超音波受信器からの位置信号検出時間ならびにPODの構造トポロジー関係を利用して、位置計算ユニット210で対象の位置が計算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は屋内所在確認システム(ILS)および位置検出に関し、具体的には、超音波に基づく位置決定装置、自律型超音波位置決定システムならびに位置決定装置を用いて移動する対象の所在確認および追跡を行う方法を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ環境が広がっていく中で、既存のアプリケーションを強化し、新しいアプリケーションを使用可能にする位置決定サービスを提供するために、屋内所在確認システム(ILS)が必要とされる。現在、健康管理、セキュリティ、炭坑、地下鉄、インテリジェントビル、レストランなど、多くの様々な適用分野において、リアルタイムで人物および資産を高精度で追跡することに関し、市場のニーズが高まりつつある。潜在的な応用シナリオの一部を以下に列挙する。
【0003】
オフィス環境では、従業員は一定の安全区域で機密情報データベースにアクセスしなければならない。そのような区域外では、いかなるアクセスも禁止される。たとえば、様々なグループのメンバーが、その職場でグループに従属する情報データベースにアクセスでき、一部の安全なコンピュータは一定の区域に置かれたときだけ利用できるのである。このような方針は、他のどんな既存メカニズムよりも、所在に基づくサービス(LBS)を用いることにより実施できる。また、LBSは、個人の決まったデスクがなく、利用できるスペースをどこでも利用するというオフィス環境ではきわめて便利である。その理由はILSは、対話方式でリアルタイムマップを表示することができ、これにより誰がオフィス内にいるか、ならびにその所在を示すことができるからである。
【0004】
また、病院では、ILSを使ってリアルタイムで患者、スタッフおよび資産を追跡できるので、記録を取ることや作業の流れを相当に単純化できる。たとえば、医師が歩いて患者のところへ行く際、関連する記録は自動的に医師のタブレット式のパソコンに表示され、書式には現在のデータと時間が記入されるので、医師はこの対話に何か追加する詳細事項がある場合にこれを記録するだけでよい。
【0005】
LBSにより、日常の仕事の中で人間と機械との新たな対話体験がユーザにもたらされる。ユーザがコンピュータの前にいる時、コンピュータはユーザが何者かわかっていて、自動的にそのデスクトップを画面上に表示する。ユーザが好きなビデオクリップを見ているとしよう。ユーザが突然何か他の用事のために席を離れたら、コンピュータは聡明にもそのビデオを一時停止させることができる。コンピュータは、ユーザが戻ってくるまでそのビデオファイルの再生を続けることはしない。他の例としては、ユーザに電話がかかってきた場合、本人に最も近い電話機に自動的に回すことができる。
【0006】
さらに、兵士、消防士、運動選手等の訓練演習は、ILSを用いることで相当強化することができる。
【0007】
基本的にILSは、多くの利用分野および産業において広範囲の適用可能性のある技術である。上述の適用シナリオは可能性のほんの一部の例に過ぎない。
【0008】
上記の通り、リアルタイムで正確に人と物を追跡する必要性が増加しているため、所在に基づいたサービスを提供するための多くの位置決定システムが開発されてきた。しかし、こうしたシステムはユーザにとって満足のゆくものではなく、現在、ほとんどは実験室や大学にとどまっている。ユーザの抵抗の主要な理由は、設置や較正に相当の努力が必要なことで、利用前に設置および較正を要するというのは位置決定システムの特殊な必要条件である。実際のところ、大多数のILSで大抵、用いている基本的な三角測量法によれば、多くの様々なセンサを手作業で設置し較正する必要がある。こうして、既存ILSのこのような要求条件の結果、下記の課題が出てきた。
【0009】
(1) 設置費用が高い
現在の屋内所在確認システムではいずれも、多種多様なセンサを参照点として対象室内に設置することがユーザに要求され、たとえば壁に孔を開ける、配線を引き回す、電源を確保するなど、ユーザ側で設置のために非常に手間がかかる。
【0010】
(2) 手作業による較正
参照点の実際の位置は、位置決定システムの利用を開始する前に最初に較正しなければならない。現在、このような較正プロセスは主に手作業で行われるため、やっかいで不正確である。他方、学習型の位置決定システムでは、基本的に信号スペースと物理スペースとの間の地図を獲得するためのオフライン訓練段階を経るため、ここでも多くの手作業が必要となる。
【0011】
(3) 複雑なネットワークプロトコル
多くの現行の位置決定システムでは、データ等を同期させ、処理するためのセンサネットワークの調整に、複雑な信号とネットワークプロトコルを要する。環境の混乱により調整が不正確になった場合、所在確認も不正確になる。
【0012】
一般に、屋内位置決定システムでよく用いられる技術は3つある。すなわち、赤外線、高周波(RF)および超音波による位置決定システムである。たとえば、R.Want氏が取得した「赤外線ビーコン位置システム」という名称の特許文献1(米国特許No. 6, 216, 087)では、近接関係に基づく赤外線位置決定システムである「アクティブバッジ」(以下、「アクティブバッジシステム」という)が提供されている。これは二方向の赤外線リンクにわたって構築されるもので、各部屋に赤外線ビーコン1個を配置し、移動ユニットは小型軽量の赤外線トランシーバであって、一定の間隔で一意のIDを送信する。赤外線信号が壁を通り抜けることはまずないので、ID送信は容易にオフィス内に収まり、部屋単位で高精度の所在確認ができる。
【0013】
非特許文献1(P. Bahl氏他の「レーダ:建物内RFによるユーザ所在確認・追跡システム」(Proc. IEEE INFOCOM, 2000掲載))では、802.11無線ネットワークの受信信号の強さに基づくRFによる所在確認システム(以下「レーダシステム」という)が提示されている。基本的なレーダによる所在確認方法は、二段階で実施される。まず、オフライン段階で、システムを較正し、目標区域に分布する有限個所の位置での受信信号の強さによりモデルを構築する。次に、目標区域でのオンライン動作中に、移動ユニットが各基地局から受信した信号の強さを報告し、システムはオンラインでの観察内容とオンラインモデル中のいずれかの地点との間でもっともよく合致するものを決定する。もっともよく合致する地点の位置が、推定位置として報告される。
【0014】
以下は、従来技術で現在用いられている、超音波に基づく屋内位置決定システムの例である。
【0015】
たとえば、「対象に関する位置その他の情報を定める検出システム」と題する、Jones氏が取得した特許文献2(米国特許No.6,493,649)の「コウモリ」システムでは、ユーザは、中央システムが無線で命令を出すと超音波パルスを送信する小型のバッジを着用する。システムはバッジから天井に設置した高密度の受信器アレイまでのパルスのTOA(到着時間)を測定し、マルチラテレーションアルゴリズムに基づいてバッジの3次元位置を算出する。
【0016】
もう一つのシステム、非特許文献2(B. Nissanka氏他による「クリケット所在確認支援システム」(2000年8月に米国マサチューセッツ州ボストンで行われた第6回モバイルコンピューティングおよびネットワーキング国際会議の議事録から引用))のクリケット所在確認システムは、建物中に分布する独立した、接続されていないビーコンから成る。ビーコンは超音波パルスの送信と同時にRF信号を送信する。ユーザが携行するリスナーと呼ばれる小型の装置が、飛行時間法を用いて位置を推定する。
【0017】
さらに、「対象の位置決定のためのシステムおよび方法」と題するS.Holm氏が取得した特許文献3(PCT特許No.WO 03/087871 A1)の「ソニター」システムは、部屋ごとの所在精度を達成するための超音波専用屋内位置決定システムを提供する。ソニターシステムでは、タグ装置が、聴取区域にある受信器に向けて20kHzから40kHzまでの超音波信号を送信する。周波数変調を通じて、各タグ装置は一意の信号を受信器と交換し、アルゴリズムを用いて信号を読みとり、そのIDを中央のサーバに送る。
【0018】
表1は、屋内位置決定アプリケーションに使用されたときの3つの信号(赤外線、RF、超音波)の詳細な比較を示している。便宜的に、比較に当たっては、3つの信号それぞれについて現在の代表的システムを選択した。すなわち、赤外線については「アクティブバッジ」、RFについては「レーダ」システム、超音波については「コウモリ」システムである。
【表1】

【0019】
表1から、赤外線に基づく所在確認システムは、精度が低く、自然光に弱いことから稀にしか用いられず、また、所在位置の推測に信号の強度を用いるRFシステムでは、建物内でのRFの伝播が実験での数学モデルから大きく逸脱するために満足な結果を得られないと基本的に結論づけることができる。従って、超音波システムが、高精度でありコストもかからないことから、ますます魅力的な形態となっている。ナローバンドの超音波トランスジューサは安価で簡単に入手できる。さらに、超音波信号がRFなどの他の信号に比べると比較的ゆっくりと移動することから、高価で高精度の発振装置は必要ない。
【0020】
しかし、現在の超音波位置決定システムには、以下の通りいくつかの弱点がある。
1. 設置および保守に多額の費用が必要であり、実際の状況の中でこのようなネットワークシステムは配置しにくい。
2. 超音波センサーすべての実際の位置に手作業でラベルを付ける作業に手間がかかる。
3. 時間を同期させ、無線リンクを介してデータのやりとりをするためには、送信器、受信器および基地局の間で複雑な信号送信およびネットワークプロトコルが必要である。ソフトウェア/ハードウェアならびに環境による妨害から入り込む時間ジッタのせいで所在確認が不正確になる。
4. 対象の位置を推定するには少なくとも3つの距離サンプルが必要であるため、超音波センサを建物内に非常に高密度に配置する必要があり、システムコストが高くなる。
【0021】
特に、上述のような超音波位置決定システムでは、以下のような弱点がある。第一に、「コウモリ」システムに関しては、天井に超音波受信器ネットワークを高密度で配置する必要があり、マルチラテレーションアルゴリズムを用いて目標の位置を特定するには、対象の位置推定に最低でも4つの距離例を必要とする。「クリケット」システムについては、一般的な問題のほかに、このシステムが位置追跡システムというよりは所在確認支援システムであり、自分の位置を推定するためには顧客側に十分なコンピュータ処理能力が必要である。追跡システムを期待するなら、対象はその位置をサーバに報告する必要があり、これによりRFチャネルがさらに輻輳する可能性がある。クリケット受信器は一度に一つの超音波ビーコンの音しか聞き取らず、様々なビーコンの音から音へと移動する可能性がある。その結果、距離サンプルの同時性は保証されず、位置の推定を誤る可能性がある。「ソニター」システムは、環境ノイズ、反響およびドップラー偏移のために生じる干渉に弱い。このシステムも、ナローバンドのものよりずっと高価なワイドバンドの超音波トランスジューサを必要とし、従って位置決定システムのコストが高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許No.6216087
【特許文献2】米国特許No.6,493,649
【特許文献3】PCT特許No.WO 03/087871 A1
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】P. Bahl氏他の「レーダ:建物内RFによるユーザ所在確認・追跡システム」(Proc. IEEE INFOCOM, 2000掲載)
【非特許文献2】B. Nissanka氏他による「クリケット所在確認支援システム」(2000年8月に米国マサチューセッツ州ボストンで行われた第6回モバイルコンピューティングおよびネットワーキング国際会議の議事録から引用)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
上記の分析に基づいて、非常に精度が高く、配置しやすく、較正不要で低コストで単純に調整できる位置決定装置およびILSを設計する必要がある。本発明は建物内で移動する対象の位置決定および追跡のための自律型超音波屋内追跡システム(AUITS)を提供する。AUITSの中核は、単一装置上で位置決定を行う(POD)という考えであり、これは、超音波を位置決定媒体として使用し、構造トポロジーと装置内調整を利用して上記の課題を解決する。PODは、使っていないときは小型の装置(ほぼフリスビーのように見える)であり、ユーザの必要に従ってどこにでも簡単に設置できる。使用時、PODは伸縮式の複数の棒を傘の骨のように伸ばすことができ、棒の先に超音波受信器がある。伸ばしたPODの形は固定されており、そうした受信器の座標は簡単に計算できるので、超音波受信器の手作業による較正はもう必要ない。その上、受信器はすべて一つの装置上にあるので、複雑な無線による信号送信およびネットワークプロトコルも必要ない。PODを配置する場合、アクティブ送信モードで動作する超音波送信器付きのタグ装置を、所在確認を行う移動対象に携行させることができる。こうして、PODおよびタグ装置は本発明によるAUITSシステムを形成することができる。
【0025】
本発明の第一の側面によれば、対象の所在を確認するための位置決定装置が提供される。この装置は、複数のリーフモジュールと計算モジュールで構成される。複数のリーフモジュールでは、各リーフモジュールに位置信号の受信器があり、対象から送信された位置信号を受信し、リーフモジュール間に既知の構造トポロジー関係がある。また計算モジュールでは、各位置信号受信器からの位置信号検出時間および構造トポロジー関係に従って対象の位置を計算する。一部の実施例では、位置決定装置はヘッドモジュールも備えており、これは同期信号を受信する同期信号受信器と、対象との間で同期を取る同期ユニットとから成る。
【0026】
本発明の第二の側面によれば、位置決定装置を用いて対象の所在を確認する方法が提供される。位置決定装置は複数のリーフモジュールで構成され、各リーフモジュールに位置信号の受信器があり、対象から送信された位置信号を受信し、リーフモジュール間に既知の構造トポロジー関係がある。そして上記の方法とは、位置信号受信器の起動、位置信号受信器の起動時間T0,i の記録(ここでiはi番目の位置信号受信器の指標)、各位置信号受信器による対象からの位置信号の受信、その位置信号検出時間Δt,iの記録、そして記録された位置信号検出時間および位置決定装置の構造トポロジー関係に基づく対象の位置の計算という処理から構成される。
【0027】
本発明の第三の側面によれば、対象の所在を確認するための自律型超音波追跡システムが提供される。これは、位置信号を送信するための位置信号送信器を備え、対象に設置されるタグ装置と、対象の位置がどこかを確認するための位置決定装置とから成る。位置決定装置は、複数のリーフモジュールと位置計算モジュールで構成される。複数のリーフモジュールでは、各リーフモジュールに位置信号の受信器があり、対象から送信された位置信号を受信し、リーフモジュール間に既知の構造トポロジー関係がある。位置計算モジュールでは、位置決定装置の各位置信号受信器からの位置信号検出時間、および構造トポロジー関係に従って、対象の位置を計算する。
【0028】
本発明の第四の側面によれば、対象に固有のIDコードの取得、IDコードを送信用の一連の超音波パルスにする暗号化、暗号化した一連の超音波パルスの送信という処理から構成される超音波署名法が提供される。一例を挙げると、移動する対象において一意のIDコードが生成され、パルス間の時間間隔を変えることにより一連の超音波パルスに変調される。もちろん、本発明は、この特定の超音波署名法に限定されるべきではない。他の例では、時間暗号化、振幅変調、周波数変調、位相変調等、当業ではよく知られているその他の技術的手段も、超音波署名を実施するために用いることができる。
【0029】
本発明の第五の側面によれば、同期信号を送信するための同期信号送信器と位置信号を送信するための位置信号送信器とから構成され、同期信号と位置信号の送信の間には事前に定めた時間を挿入するタグ装置が提供される。
【0030】
従来技術に比べて、本発明のAUITSシステムは、配置しやすさ、較正不要、装置内調整、精度向上、柔軟性など、複数の利点がある。
【0031】
本発明のAUITSは、従来の技術で配置していたようなネットワーク化された超音波センサの代わりに、自律型位置決定装置、すなわちPODを使用して、空中に送られる超音波信号の収集を行い、位置の推定を行うため、簡単に設置および保守を行うことができる。また、PODの構造トポロジーでは、ヘッドモジュールとリーフモジュールの座標(構造トポロジー関係)が公式によって自動的に得られるように設計されている。従って、手作業での較正はもう必要ない。
【0032】
さらに、上記の通り、本発明では、PODの構成に関して役割差別化戦略に基づく協働メカニズムが示される。ヘッドモジュールとリーフモジュールが一つの装置上にあるため、別々の仕事を割り当てられていても、完全に協調して作動し、移動する対象の位置決定および追跡を共同して行う。装置内の協調のほか、ヘッドとリーフの同期における時間ジッタに抵抗し、所在確認精度を向上させるため、バックオフ時間同期法が提案されている。
【0033】
さらに、本発明では超音波署名法も提案されている。この方法では、所在を確認する各対象に一意のIDコードが割り当てられ、このIDコードがパルス間の時間間隔を変えることにより一連の超音波パルスに変調される。このようにして、本発明のAUITSシステムは、複数の移動する対象の正確な追跡に柔軟に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
本発明の上述およびその他の特徴は、添付図面と合わせて以下の説明により詳細にわたって理解できるであろう。
【0035】
【図1】本発明の自律型超音波屋内追跡システム(AUITS)100の完全な構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施例によるAUITSシステム200の内部構造を示すブロック図である。
【図3】本発明によるPODおよびタグ装置のハードウェア構造をそれぞれ示すPCBレイアウト図である。
【図4】本発明によるPODおよびタグ装置のハードウェア構造をそれぞれ示すPCBレイアウト図である。
【図5】PODが3個、4個もしくは6個のリーフモジュールを備える3つの事例を示した本発明のPODの標準構造例を示す略図である。
【図6】本発明のPODの設置プロセスを示す略図である。
【図7】本発明によるAUITSシステムの役割差別化戦略に基づく作業フローを説明する略図である。
【図8】本発明によるAUITSシステムの動作600を示すフローチャート図である。
【図9】PODとタグ装置との同期プロセスで発生したビット調整エラーを説明する略図である。
【図10】本発明によるAUITSシステムのタグ装置とPODとの間の対話プロセスを説明するタイミングチャートである。
【図11】本発明の別の実施例によるAUITSシステム900の内部構造を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1は、本発明による自律型超音波屋内追跡システム(AUITS)100の完全な構造を示すブロック図である。図に示すように、システム100は単一装置上の位置決定機能(POD)101と、所在を確認する対象が携行するタグ装置102と、状況情報サーバ103とを備えている。システム100では、タグ装置102はRF信号(同期信号)と超音波パルス(位置信号)の両方を送信することができる。天井に設置されたPOD101は、超音波パルスの到着時間(TOA)および適応融合法に基づいて対象の位置を推定することができる。
【0037】
図2は本発明の一実施例によるAUITSシステム200の内部構造を示すブロック図である。図2に示す通り、タグ装置201はメモリ203を備えることができ、このメモリは、たとえば各対象に対して一意のIDコードを保存する。その後の通信により、IDコードは送信される同期信号か位置信号の一部として受信側(例:POD202)へ送信することができる。受信側は、ID コードに従って異なる対象を識別することができる。たとえば、他の実施例について以下に記載するように、IDコードは一連の超音波パルスの形に暗号化できる(すなわち、超音波署名法)。この後、受信側は超音波パルスを復号化することで異なる対象のIDコードを取得することができる。超音波署名法については、図11に関連して詳細に後述する。さらに、タグ装置102は、マイクロコントローラ204、RFトランシーバ205および超音波送信器206(これはたとえば40kHzの単一周波数で動作するナローバンドの超音波送信機とすることができる)も備えることができる。
【0038】
図2に例示されているAUITSシステム200では、POD202は、ヘッドモジュール209と、既知の特定の構造トポロジーによる複数のリーフモジュール207−1、207−2...207−Nから成るものとして示されている。図5を参照すると、本発明のPODの典型的な構造例が示されており、PODが3個、4個もしくは6個のリーフモジュールを備えている3つの事例が示されている。図5から、PODの中では、ヘッドモジュールとリーフモジュールとが同じ装置上に配置されており、動作状態では、ヘッドモジュールがPODの中央にあって、リーフモジュールがこれに結び付けられ、傘の骨のようにヘッドモジュールの周囲に広がっていることがわかる。一般的には、PODは、実際の用途に従った伸縮自在の構造を有する設計とすることができる。特に、使用していないとき(「縮小」状態)、PODの最初の形はちょうど、ヘッドモジュール1個を複数のリーフモジュールが取り囲んだ小型の「フリスビー」のようである。使用時(「拡張」状態)には、PODは傘の骨のように複数の伸縮自在のロッドを伸ばすことができる。図2に戻ると、POD202のヘッドモジュール209は、RFトランシーバ213と超音波受信器214を備えており、一方、リーフモジュール207はそれぞれ、超音波受信器208だけを備える。ヘッドモジュールと各リーフモジュールは、たとえば、伸縮自在もしくは折り畳み可能なワイヤで結合することができる。ある実施例では、ヘッドモジュール209は対象の位置の計算を担当している。このような場合、ヘッドモジュール209は、位置計算ユニット210、同期ユニット211およびメモリ212を備えることができる。メモリ212(例:フラッシュメモリ)を用いて事前にわかっているPODの構造トポロジーを保存することができる。たとえば、ある実施例では、ヘッドモジュールおよびリーフモジュールの座標を保存することができる。別の実施例では、相対座標系の下で対象の所在確認ができる。すなわち、PODに対しての対象の位置を計算する。このようにして、設置の際、リーフモジュールとヘッドモジュールの相対的位置関係が公式に従って判定できる限り、全リーフモジュールの座標を記録する必要はない。同期ユニット211は、受信した同期信号(例:RF信号)に基づき、バックオフ法を行って、ヘッドモジュールと対応するリーフモジュールとの間の同期における時間ジッタ(後述)に抵抗する。位置計算ユニット210は、各超音波受信器が検出した超音波パルスの到達時間(TOA)ならびにPODの構造トポロジー関係に従って対象の位置を計算することができる。
【0039】
本発明の一実施例では、位置信号(距離測定信号)としてたとえば超音波パルスが用いられており、位置計算ユニット210が、それぞれの受信器が検出した超音波パルスの到着時間(TOA)を用いて対象の位置を計算する。しかし、本発明は、このような特定の例に限定されるべきではない。他の実施例では、音波および力学的な波などの他の信号も、本発明の位置信号として用いることができる。
【0040】
図2の例に示すとおり、ヘッドモジュール209の位置計算ユニット210が対象の位置の計算に用いられている。しかし、本発明はこれに限定されるべきではない。実際的な用途では、単数または複数のリーフモジュールもしくはPODから独立した外部サーバも、位置信号の測定結果に従って対象の位置の計算に用いることができる。
【0041】
図3および図4は、本発明のPODおよびタグ装置のハードウェア構造をそれぞれ示すPCBレイアウト図である。図3に示す通り、本発明によれば、PODの傘のようなトポロジー構造を実現するために、PCB回路設計を実行する際にトポロジー構造を含めて対応する回路を設計する必要がある。たとえば、PCB回路は、インタフェース回路を分散して備えるように設計することができる。さらに、リーフモジュールが確実に伸ばせるように、ヘッドモジュールとリーフモジュールとの接続には伸縮自在もしくは折り畳み可能なワイヤや同様の構造を利用する必要がある。
【0042】
図3に示すハードウェア図で、PODのヘッドモジュール209は、同期を行い、TOAの結果を記録し、対象の位置を計算し、およびその他の機能を行うためのヘッドモジュールプロセッサを含むものとして示されている。しかし、本発明はこれに限定すべきではない。別の実施例では、PODのリーフモジュール207は、それ自体によるTOA測定結果を記録するためのリーフモジュールプロセッサを備えることができ、リーフモジュール207のひとつは、ヘッドモジュールから送られる同期時間、超音波受信器の開始時間、PODの構造トポロジー関係等々に従った対象の位置計算に用いることができる。また、リーフモジュールがリーフモジュールプロセッサを備えている場合、必要であれば、ヘッドモジュールプロセッサとリーフモジュールプロセッサは、同じPCBメインボードに配置することもできるし、別々に配置することもできる。
【0043】
図3に示す通り、中心動作を行うためのプロセッサ、リーフモジュールのインタフェースとしてのヘッドモジュールとリーフモジュールのコネクタ、ならびに上述のRFトランシーバおよび超音波受信器に加えて、ヘッドモジュール209は、プログラミングインタフェース、通信インタフェース、電源、LED、メモリ等を備えることができる。こうした部品は当業者にはよく知られているので、こうした部品についての詳細はここでは省略する。
【0044】
また、上述の通り、さらに別の実施例では、リーフモジュールおよびヘッドモジュールで測定したTOAおよびRSSの結果を外部サーバに送り、このサーバを用いて対象の位置を計算することもできる。
【0045】
説明を簡単にするために、対象の位置決定にヘッドモジュールを用いる場合を、以下に例として記載する。もちろん、当業者であれば、リーフモジュールの一つや外部サーバを対象の位置決定に利用できるその他の場合にも本発明が同様に適用できることは容易に理解できるであろう。
【0046】
図4は、タグ装置のハードウェア構造を示すためのPCBレイアウト図である。図2を参照しながら上述した通り、タグ装置201は、プロセッサ、RFトランシーバ、超音波送信機を備えることができる。図3と同様、プログラミングインタフェース、通信インタフェース、電源、LEDおよびメモリなどの当業者によく知られている部品についての説明はここでは省略する。メモリは各タグ装置に固有のIDコードを保存するために用いることができる。IDコードに関する超音波署名法については後述する。
【0047】
以下に、本発明によるPODの構造トポロジーと、PODの設置プロセスとを、図5および図6を参照しながら説明する。図5は本発明のPODの標準的な構造例を示す略図である。ここでは、PODが3個、4個、または6個のリーフモジュールを備える3つの場合が示されている。図6は本発明のPODの設置プロセスを示す略図である。
【0048】
上記の通り、超音波センサ(受信器)の設置と較正は、位置決定システムを実際の用途で利用可能にするために重要な要因である。「コウモリ」システムや「クリケット」システムなどのシステムの参照点の当初位置を提供すること(超音波受信器を使うかビーコンを使うかに関わらず)は、設置時のオーバーヘッドの中で大きな比率を占める。従来のシステムの較正段階では、位置精度を向上させるためには参照点の座標を正確に定めなければならない。しかし、手作業で較正を行うとなるとユーザが相当に努力する必要があり、また、誤りにつながることがある。
【0049】
逆に、本発明によるAUITSシステムの大きな利点の一つは、PODの構造的性質である。これにより較正作業は大幅に軽減され、較正精度も上がって、そして構造に基づいた自律型自己較正ができるようになる。本発明のPODは、リーフモジュール同士の角度およびリーフモジュールからヘッドモジュールまでの距離がPODの基礎構造の中で固定される、構造トポロジーを有する一つの装置として設計される。この構造トポロジーにより、リーフモジュールやヘッドモジュールに関して距離や角度を測定する作業が不要になる。較正の段階で、手作業での測定が必要なのはヘッドモジュールの座標だけであり、各リーフモジュールの座標は、公式から自動的に算出される。たとえば、図5の例に示すように、第一リーフモジュールの方向がX軸に設定されて、各リーフモジュールからヘッドモジュールまでの距離がlに設定される場合、時計と反対回りにi番目のリーフモジュールの座標は次のような公式(1)により与えられる。
【数1】

ここで(x,y)はヘッドモジュールの座標を表しており、n はリーフモジュールの総数、lはヘッドモジュールと各リーフモジュールとの間の距離を示している。
【0050】
図5は、本発明によるPODの標準的な構造の例をいくつか示している。従来の超音波所在確認システムに比べると、較正が容易であることから、PODの方が便利で利用者にとって使いやすいことがわかる。
【0051】
図6はPODの設置プロセスを示している。PODは建物の天井など、検出を行うスペースのどこにでも簡単に設置することができる。設置後、各リーフモジュールの座標を上記の公式(1)から得ることができる。
【0052】
以下に本発明のAUITSシステムの作業フローを、図7から図10を参照しながら詳しく説明する。
【0053】
従来の超音波位置決定システムでは、受信器モジュールはすべて同一の機能を備えており、信号を集めて対象の位置を推定するには追加ベースステーションが必要である。超音波受信器とベースステーションとの間で複雑な信号およびネットワークプロトコルが必要であり、システムの費用がかさむことになる場合がある。これとは逆に、本発明ではPODの構造について役割差別化戦略に基づく協働メカニズムが提案されている。PODは別々の役目を割り当てられ、移動する対象の追跡を共同で実行するように調整された、ヘッドノード1個とその他のリーフノードとを備える。本発明では、ヘッドモジュールとリーフモジュールの役割は次の通り。
・ ヘッドモジュールはPODの構造トポロジーの取得、対象からの同期信号および位置信号の受信、対象との同期実行、リーフモジュール同士の調整、位置計算などの機能を果たすことを求められる。
・ リーフモジュールの役割は、移動する対象からの位置信号を取得し、位置信号の検出時間をヘッドモジュールに報告することである。
【0054】
もちろん、ヘッドモジュールとリーフモジュールとの間の役割の割当ては、上記の例に限定されるものではない。 当業者であれば、実際の用途に従ってヘッドモジュールとリーフモジュールに様々な役割を割り当てられることを容易に考えることができる。たとえば、リーフモジュールはそれ自体に位置信号の検出時間を保存でき、これに従って対象の位置を計算することができる。別の例としては、PODと対象との間で完全に同期が取れている場合、PODはヘッドモジュールを備えず、検出、位置信号の記録、対象位置の計算を含めた全機能をリーフモジュールが行うことができる。
【0055】
図7は本発明によるAUITSシステムの作業フローの例を示している。これは以下のステップから成る。
【0056】
ステップS101では、移動する対象が携行しているタグ装置が、まず同期信号(例:RF信号)を送信し、バックオフ期間(後述)の後、位置信号(例:超音波パルス)を送信する。
【0057】
ステップS102では、ヘッドモジュールはRF信号を聞き取り次第、それ自体に接続されているリーフモジュールすべてとの間で同期を取ってヘッドモジュールおよびリーフモジュールの超音波検出器を起動し、その後に続く超音波パルスを待つ。RF信号の受信信号強度(RSS)は、ヘッドモジュールで測定することができる。また、上記の通り、タグ装置は、様々な対象を認識するため、送信されるRF信号に、その対象に固有のIDコードを入れておくことができる。従って、S102の同期プロセスでヘッドモジュールは、受信したRF信号からIDコードも取得して対象を識別し、追跡の信頼性を向上させることができる。
【0058】
本実施例ではヘッドモジュールはRF信号を用いて対象との同期を行うが、本発明は、この特定の例に限定されるべきではない。たとえば、PODは赤外線信号、マイクロ波信号、あるいは可視光線を用いて対象との同期を行うことができる。また、リーフモジュール自体が適切なプロセッサを装備できる場合には、同期プロセスは、このリーフモジュールが対象からの同期信号(例:RF信号、赤外線信号、マイクロ波信号、可視光線)を受信するための装置を備えている限りにおいて、リーフモジュールが行うことができる。
【0059】
ステップS103では、タグ装置から送信され、空中にある超音波信号をリーフモジュールが検出し、検出時間をヘッドモジュールに報告する。ヘッドモジュールは次に到着時間(TOA)に基づいてリーフモジュールからタグ装置までの距離を計算し、適応融合法を用いて位置を推定する。
【0060】
ステップS104で、位置決定の結果はPODから有線もしくは無線のネットワークを介して状況情報サーバに送られる。
【0061】
図8は本発明によるAUITSシステムの動作600の一例を詳細に示すフローチャート図である。プロセス600はステップ601から始まる。このステップでは、タグ装置がRF信号を送信する。ここでRF信号はPOD102のヘッドモジュールにより受信される。POD102のヘッドモジュールは、後で利用するため、RF信号の受信信号強度(RSS)も記録する。ステップ602では、ヘッドモジュールはタグ装置との同期を取り、同期時間Sを記録する。ヘッドモジュールがタグ装置と同期するとすぐに、ステップ603で、ヘッドモジュールはリーフモジュールに対して「Open」コマンドを送り、ステップ604でヘッドモジュールおよびリーフモジュールの超音波検出器すべてを起動させる。この「Open」というコマンドの目的は、ヘッドモジュールおよびリーフモジュールの超音波検出装置すべてを同時に開き、タグ装置からの超音波パルスを待つことである。ここで、ヘッドモジュールは超音波検出装置の起動時間をTとして記録する。タグ装置101は、RF信号の送信後、超音波パルス送信のためのバックオフ時間TBACKOFF (後述)の間、待機する(ステップ605)。ステップ606で、各リーフモジュールはタグ装置から送信された超音波パルスを検出し、それぞれの検出時間Dt,i をヘッドモジュールに報告する(ステップ607)。次にステップ608で、各リーフモジュールから報告された超音波パルス検出時間 Dt,iおよび事前にわかっているPODの構造トポロジーとに従って、ヘッドモジュールが各リーフモジュールとタグ装置との距離を計算し、そして対象の位置を推定する。位置測定の精度を改善するため、ステップ608では、ヘッドモジュールで検出したRF信号のRSSも利用して、対象の所在確認を容易にすることができる。最後にステップ609で、ヘッドモジュールが位置決定結果を状況情報サーバ103に報告する。
【0062】
AUITSシステムで用いているTOA法では、送信機と受信器との間の距離を示すために、超音波の伝播時間を測定し、それに超音波速度を掛ける。TOAを正確に測定するため、送信機と受信器のクロックは正確に同期している必要がある。超音波の速度はおよそ340メートル/秒なので、時間同期で1ミリ秒の誤差があれば、距離の測定では34センチの誤差が生じる。高精度での位置の識別を要するアプリケーションではこのような誤差は認められない。であるから、位置決定精度を改善する重要な問題のひとつは時間の同期の精度を実現することである。本発明のAUITSシステムでは、作業フロー中に潜在的な時間の不確実性が入り込んでいる。PODの構造トポロジーに基づいて、タグ装置の通信および内部装置の調整における時間の不確実性をなくすために、一連の時間同期スキームを提案する。
【0063】
第一に、タグ装置とPODのヘッドモジュールのクロックは同期信号(例:RF信号)により同期している。AUITSシステムでは、タグ装置から一定のバイトが送られる時点がヘッドモジュールで正確にわかる。電波の移動速度は十分に速いので、RFを介した1バイトのデータの送信と受信は同時に行われると理解することができる。従って、送信側と受信側は今、バイトレベルで「同期している」ことになる。しかしながら、ソフトウェアのオーバーヘッドや中止による干渉(ハードウェアやソフトウェアの中断など)のために、同じバイトで同期している送信機と受信器が同じビットで同期することにはならない。図9はPODとタグ装置の同期プロセス中に発生したビット調整エラーを説明する略図である。図9の(a)に示されるように、理想的な事例では、タグ装置とヘッドモジュールが同じビットで同期する。この場合、送信機と受信器のクロックは完全に同期している。だが通常、ソフトウェアやハードウェアの遅延のために、図9の(b)および(c)に示すようなビットのずれがあり、その結果、同期の誤差が生じる。
【0064】
本発明では、受信器側でビットのずれを測定することによりこの誤差をなくすための補償法が提案されている。実際、ある例では、TinyOSの低レベル機能を呼び出してそのバイトの現在のビット指標を取得することができる。このビット指標は、電波の受信器が送信器からどのくらい遅れているかを示す。これはビットの遅れなので、数値は0から7までの間である。数値0はもっとも遅れが大きいことを示し、7は遅れがないことを示す。ここで、ビット調整測定により補償される時間をTcompと表示し、送信器と受信器との同期時間をSと表示する。そうすると、送信器(すなわちタグ装置)が同期バイトを送信する時間はS−Tcompである。タグ装置とヘッドモジュールとの間での同期の誤差をなくすための方法は、上記の方法に限定されないと理解されるべきであり、当業者であれば、同期の誤差をなくすために他の方法も利用できることは容易に思いつく。
【0065】
ヘッドモジュールがタグ装置と同期してすぐ、図8に示す通り、ヘッドモジュールはリーフモジュールに対して「Open」コマンドを送り、超音波検出器を起動させる。このコマンドの目的は、ヘッドモジュールとリーフモジュールの超音波検出器すべてを同時に開くことである。PODの対称的な構造トポロジーにより、実験ではすべてのリーフモジュールの超音波検出器がほぼ同時に、30マイクロ秒未満の時間差(すなわち、距離の誤差は1センチに満たない)で、この「Open」というコマンドを受け取った。従って、ヘッドモジュールとリーフモジュールの超音波検出装置は同時に開かれるものと見なされ、開始時間を次のように表示する。
Ti=T0,
i=1,2,…,n
(2)
ここでTはヘッドモジュールでの超音波受信器の開始時間を示し、Tはi番目のリーフモジュールでの超音波受信器の開始時間を示す。従って、本発明によれば、ここでは1センチの誤差は許容できるため、ヘッドモジュールでTだけを用いて他のリーフモジュールのTを示すこととし、リーフモジュール側でそれほどたくさんのTを測定する必要はない。上記の分析によればSはヘッドモジュールとタグ装置との同期時間であり、TはPODの超音波受信器の開始時間である。しかし、ソフトウェア/ハードウェアの中断および遅延のため、T-Sという時間差は固定値ではない。様々な場合に測定されたT-Sの時間ジッタは、1000マイクロ秒より大きくなることがあり、測定するたびに特徴づけて対象の位置決定を行う必要がある。
【0066】
およびTは、いずれもヘッドモジュールで測定した一対のタイムスタンプの役割をする。ヘッドモジュールで測定した方が、リーフモジュールすべてで測定するよりもずっと簡単で、利用しやすい。この単純さは、PODの構造設計のおかげでもある。対象の所在確認の区切りごとに、SおよびTはオンラインで記録され、RF同期から超音波検出機の起動までの時間の不確実性を管理することができる。
【0067】
従来の超音波位置決定システムでは、RF信号と超音波信号は移動するタグ装置から同時に送信される。であるから、一度RF信号を受信したら、超音波検出機を同時に開かなければならない。しかし、これは本発明によるAUITSには適さない。ヘッドモジュールとリーフモジュールの調整の遅れのために、RF信号と超音波パルスとが同時にタグ装置から送信された場合、検出機側は超音波の最初のピークを捉えそこなう可能性がある。
【0068】
ここで、こうした問題を解決するため、本発明ではバックオフ時間同期スキームが提案されている。すなわち、タグ装置側でRFと超音波との送信の間に一定のバックオフ時間を挿入する。目的は、ヘッドモジュールとリーフモジュールの両方が、同時に超音波検出機を開いた後、必ず正確に超音波の最初のピークを検出できるようにすることである。バックオフ時間はTBACKOFFと表示される。こうして、受信器側では、超音波の送信時間はS0-Tcomp+TBACKOFFと推定される。リーフモジュールは、超音波のピークを検出すると、反応時間Dt,iを分類し、これをヘッドモジュールに送り返す。時間Dt,iはi番目のリーフモジュールでの超音波検出機の初期時刻(T)から超音波検出までの時間である。こうして、i番目のリーフモジュールで測定した超音波の伝播時間(TOAと表示する)は、次のように計算できる。
TOAi=(T0ti)(S0-Tcomp+TBACKOFF)
(3)
ここでS、Tcomp、およびTはヘッドモジュールで測定され、Dt,iはi番目のリーフモジュールで測定されてヘッドモジュールに報告される。TBACKOFFは一定のバックオフ時間であり、ヘッドモジュールでは上記公式(3)の数値がすべてわかる。TOAはi番目のリーフモジュールの超音波検出機に到達するまでの超音波伝播時間を示しており、これはヘッドモジュールにより計算できる。
【0069】
図10は本発明によるAUITSシステムでのタグ装置とPODとの間の対話プロセスを説明するタイミングチャートである。ここで、上述のバックオフ時間同期スキームを明確に説明する。バックオフ同期スキームに基づいて、PODは移動する対象とそれぞれの受信リーフモジュールとの間の距離を正確かつ効率的に計算することができる。
【0070】
上述の通りPODは、PODとタグ装置との同期中など、通信中に受信したRF信号から、対象に固有のIDコードを取得することができる。しかし、別の実施例では、IDコードは、一連の超音波パルスを暗号化することによりPODに送信することができる。次に、超音波でIDコードを送信する超音波署名法について、図11を参照しながら説明する。
【0071】
図11は本発明の別の実施例によるAUITSシステム900の内部構造を示すブロック図である。図2に示す実施例と比べると、図2の例のタグ装置はPODとタグ装置との間の距離を測定する際にID情報なしで超音波パルスだけを送信すればよい。しかし図11の実施例では、タグ装置201がさらに超音波署名エンコーダ901を備え、これに応じてPOD202のヘッドモジュール209がさらに超音波署名デコーダ902を備える。
【0072】
図11の例では、超音波署名デコーダ902はヘッドモジュール209の一部として示されている。しかし、当業者であれば、本発明がこの例に限定されるものではないと理解できるだろう。用途に従って、超音波署名デコーダ902は、いずれかのリーフモジュール207に配置されることも、あるいは独立モジュールとしてPOD202に含めることもできる。
【0073】
この実施例では、タグ装置側で、超音波署名エンコーダ901が、移動する対象に固有のIDコード(ID署名)を用いて超音波パルスを暗号化し、暗号化超音波パルスのセグメントを生成する。暗号化した超音波が放送されると、POD202がこれを捕らえ、超音波署名デコーダ902が超音波信号を復号化してIDコードを取得し、個別の目標追跡の信頼性を高める。
【0074】
AUITSシステムの例では、タグ装置は超音波パルスの送信に、たとえば40 kHzなど、送信できる周波数の範囲の狭い低コストの超音波送信機を使用することができる。 この場合、「ソニター」システムのように、送信された超音波の周波数を修正することにより超音波を暗号化することは実行可能ではない。しかし、タグ装置は、一連の単独周波数の超音波パルスを迅速に送信する構成とされる。さらに正確には、事前定義した一連の間隔に従って各パルスの送信時間を変えることにより、目標のIDコードを一連のパルスに埋め込むことができる。たとえば、nビットのIDコード{c,c,c}があるとしよう。この一連の超音波パルスの送信間隔は次のように定義できる。
【数2】

ここでMinIntvlはパルス間の最小間隔である。
【0075】
当業者であれば、超音波でIDコードを暗号化する方法が上述の例に限定されるわけではないことを了解できるであろう。様々な超音波送信器を用いる場合、時間暗号化、振幅変調、周波数変調、位相変調など、当業でよく知られている一連の超音波パルスを暗号化する他の暗号化方法も利用することができる。
【0076】
前述の説明は、添付図面を参照しながら行われた。これらの図面では、本発明による、単一装置上での位置決定機能(POD)の特別な構造トポロジー、ならびにPODを用いて移動する対象の位置決定と追跡を行うAUITSシステムの構造および作業フローを示している。上記の内容から、本発明の効果は以下の通りである。
【0077】
本発明のAUITSは、従来技術で使っていたネットワーク化された超音波センサの代わりに自律型位置決定装置、すなわちPODを使って位置信号(例:超音波信号)の収集を行い、位置を推定するのであり、簡単に設置および保守ができる。また、PODの特別構造トポロジーは、ヘッドモジュールとリーフモジュールの座標が公式により自動的に取得できる設計となっている。従って、手作業による較正はもう必要ない。
【0078】
さらに、本発明で提案されているバックオフ時間同期法により、ヘッドとリーフとの同期で生じる時間ジッタに抵抗することができ、所在確認精度が向上する。
【0079】
さらに、本発明では、超音波署名法も提案されている。この方法では、所在を確認する各対象に一意のIDコードが割り当てられ、このIDコードが、パルス間の時間間隔を変えることにより一連の超音波パルスに変調される。このようにして、本発明のAUITSシステムは、複数の移動する対象の正確な追跡に柔軟に適用することができる。
【0080】
以上、本発明の具体的な実施例について、添付図面を参照しながら説明したが、本発明は、添付図面に示す特定の構成および処理に限定されるものではない。また、単純化のため、既存の方法や技術についての説明はここでは省略した。
【0081】
上記実施例では、例としていくつかの具体的なステップが示され、説明されている。しかし、本発明の方法のプロセスは、こうした特定のステップに限定されるものではない。当業者であれば、本発明の精神および本質的な特徴から逸脱することなく、これらステップを変更、修正、補完等することや、一部のステップの順序を変更することが可能であると察知するであろう。
【0082】
以上、本発明について特定の実施例を参照しながら説明したが、本発明は、上記特定の実施例や、図面に示される特定の構成に限定されるものではない。たとえば、複数の部品として図示されているものを互いに結合して一つの部品とすることもできるし、一つの部品を複数の子部品に分けることもできるし、あるいは、何か他の既知の部品を追加することもできる。動作プロセスも、例に示すものには限定されない。当業者であれば、本発明の精神および本質的な特徴から逸脱することなく、本発明を他の特定の形で実施できることを察知するであろう。従って本実施例はあらゆる面で説明として考えられるが、制限としては考えられない。本発明の範囲はここまでの説明よりもむしろ付随する請求項により示される。従って、請求項の意味および同等である範囲を逸脱しない変更一切は、請求項に包含されることを意図している。
【符号の説明】
【0083】
101: POD
102: タグ装置
103: 状況情報サーバ
201: タグ装置
203: メモリ(IDコード)
204: マイクロコントローラ
205: RFトランシーバ
206: 超音波送信器
202: POD
207−1、207−2、207−N: リーフモジュール
208−1、208−2、208−N: 超音波受信器
209: ヘッドモジュール
210: 位置計算ユニット
211: 同期ユニット
212: メモリ
213: RFトランシーバ
214: 超音波受信器
601: RF信号送信
605: 超音波パルス送信
602: タグ装置との同期
603: 「Open」コマンド
604: 超音波検出機の起動
606: 超音波検出
609: 状況情報サーバに位置決定結果を報告
901: 超音波署名エンコーダ
902: 超音波署名デコーダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象から送信された位置信号を受信する位置信号受信手段と、
前記位置信号受信手段における位置信号検出時間に従って前記対象の位置を計算する計算手段と、
前記対象から同期信号を受信する同期信号受信手段とを備え、
前記対象は、
前記同期信号の送信と前記位置信号の送信との間に、予め定められた時間間隔を挿入する
ことを特徴とする位置決定装置。
【請求項2】
前記対象との間で同期を取る同期手段
を備えることを特徴とする請求項1に記載の位置決定装置。
【請求項3】
前記同期手段が、
前記対象からの遅れを取得する手段と、
前記遅れを補償する手段と
を含むことを特徴とする請求項2に記載の位置決定装置。
【請求項4】
前記同期手段により前記対象との間で同期が取られた後に、前記位置信号受信手段を起動する手段
を含むことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の位置決定装置。
【請求項5】
前記遅れを取得する手段は、
前記対象からのビットの遅れを示すビット指標を取得する
ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の位置決定装置。
【請求項6】
位置決定装置が備える位置信号受信手段が、対象から送信された位置信号を受信する位置信号受信ステップと、
前記位置決定装置が備える計算手段が、前記位置信号受信ステップにおける位置信号検出時間に従って前記対象の位置を計算する計算ステップと、
前記位置決定装置が備える計同期信号受信手段が、前記対象から同期信号を受信する同期信号受信ステップと、
前記対象が、前記同期信号の送信と前期位置信号の送信の間に、予め定められた時間間隔を挿入するステップと
を有することを特徴とする位置決定方法。
【請求項7】
前記位置決定装置が備える同期手段が、前記対象との間で同期を取る同期ステップ
を含むことを特徴とする請求項6に記載の位置決定方法。
【請求項8】
前記同期ステップで、
前記対象からの遅れを取得するステップと、
前記遅れを補償するステップと
を含むことを特徴とする請求項7に記載の位置決定方法。
【請求項9】
前記同期ステップにおいて前記対象との間で同期が取られた後に、前記位置信号受信ステップが実行される
ことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の位置決定方法。
【請求項10】
前記遅れを取得するステップで、
前記対象からのビットの遅れを示すビット指標を取得する
ことを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の位置決定方法。
【請求項11】
同期信号を送信する同期信号送信手段と、
位置信号を送信する位置信号送信手段とを備え、
前記同期信号と前記位置信号の送信の間に、予め定められた時間間隔を挿入する
ことを特徴とするタグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−211910(P2012−211910A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−128020(P2012−128020)
【出願日】平成24年6月5日(2012.6.5)
【分割の表示】特願2009−12245(P2009−12245)の分割
【原出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(505418870)エヌイーシー(チャイナ)カンパニー, リミテッド (108)
【氏名又は名称原語表記】NEC(China)Co.,Ltd.
【Fターム(参考)】