説明

単結晶α−アルミナナノチューブとその製造方法

【課題】 簡単な手段によって、高温実験用微小反応管や種々の一次元ナノ構造物を製造するための鋳型等として有用な単結晶α−アルミナナノチューブとその製造方法を提供する。
【解決手段】 Al44Cナノワイヤーを減圧雰囲気下で加熱してC−Al23−Cナノチューブを形成する第1工程と、この形成したC−Al23−Cナノチューブを空気雰囲気中で加熱する第2工程とを有することとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、単結晶α−アルミナナノチューブとその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、本願発明は、高温実験用微小反応管や種々の一次元ナノ構造物を製造するための鋳型等として有用な単結晶α−アルミナナノチューブとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミナは、結晶相としてα−アルミナ、γ−アルミナなど種々の結晶形態を有しており、中でもα−アルミナは最も安定で、その融点はおよそ2050℃であり、電気絶縁性、耐熱性に優れている。例えば、単結晶のα型アルミナウエハは、酸化亜鉛単結晶をエピタキシャル成長させる基板として有用である。
【0003】
ところで、電子デバイスや光デバイスなどの機能材料として、ナノ構造体が注目されている。特に筒状の形状を有するナノチューブは、中空部に異種材料を充填でき多様な機能を実現することができることから、さまざまな製造方法が提案されている。例えば、非晶質のアルミナナノチューブの製造方法としては、カーボンナノチューブあるいは酸化亜鉛ナノワイヤーを鋳型に用いる方法や、アルミニウム箔の陽極酸化、多孔質アルミナ膜のエッチングなどにより製造されることが知られている(例えば、非特許文献1〜4、特許文献1参照。)。また、多結晶のγ−アルミナナノチューブの製造方法としては、カーボンナノチューブを鋳型とし、アルミニウム,アルミナをアンモニア雰囲気中で処理する方法や、アルミニウムイソプロポキサイドで処理する方法が知られている(例えば、非特許文献5、6参照。)。さらに、γ−アルミナナノチューブは界面活性剤を鋳型とする方法でも製造されている(例えば、非特許文献7、8、特許文献2参照。)。
【0004】
一方、単結晶のα−アルミナについて、ナノベルトの製造方法がすでに提案されているが(例えば、非特許文献9参照。)、単結晶のα−アルミナナノチューブやその製造方法については、いまだ報告された例はなくその実現が望まれていた。
【非特許文献1】J.S.Lee,ほか、J.Crystal Growth 254巻、443頁、2003年
【非特許文献2】J.Hwang,ほか、Adv.Mater.16巻、422頁、2004年
【非特許文献3】J.P.Zou,ほか、Appl.Phys.Lett.80巻、1079頁、2002年
【非特許文献4】Z.L.Xiao,ほか、Nano Lett.2巻、1293頁、2002年
【非特許文献5】Y.J.Zhang,ほか、Chem.Phys.Lett.360巻、579頁、2002年
【非特許文献6】B.C.Satishkumar,ほか、J.Mater.Res.12巻、604頁、1997年
【非特許文献7】D.kuang,ほか、J.Mater.Chem.13巻、660頁、2003年
【非特許文献8】H.C.Lee,ほか、J.Am.Chem.Soc.125巻、2882頁、2003年
【非特許文献9】X.S.Fang,ほか、J.Mater.Chem.13巻、3040頁、2003年
【特許文献1】特開2001-205600号公報
【特許文献2】WO2004/014799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本願発明は、以上のような背景から、簡単な手段によって、高温実験用微小反応管や種々の一次元ナノ構造物を製造するための鋳型等として有用な単結晶α−アルミナナノチューブとその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、Al44Cナノワイヤーを
減圧雰囲気下で加熱してC−Al23−Cナノチューブを形成する第1工程と、この形成したC−Al23−Cナノチューブを空気雰囲気中で加熱する第2工程とを有することを特徴とする単結晶α−アルミナナノチューブの製造方法を提供する。
【0007】
また、本願発明は、上記の単結晶α−アルミナナノチューブの製造方法において、第2には、第1工程の加熱温度は1000〜1300℃の範囲であることを、第3には、第1工程の加熱時間は0.3〜0.8時間の範囲であることを、第4には、第1工程の減圧度は50〜200Paの範囲であることを特徴とする単結晶α−アルミナナノチューブの製造方法を提供する。
【0008】
さらに、本願発明は、上記の単結晶α−アルミナナノチューブの製造方法において、第5には、第2工程の加熱温度は650〜1000℃の範囲であることを、第6には、第2工程の加熱時間は15〜30分の範囲であることを特徴とする単結晶α−アルミナナノチューブの製造方法を提供する。
【0009】
また、本願発明は、第7には、外径が50〜200ナノメートル、チューブ壁の厚さが10〜30ナノメートルである単結晶α−アルミナナノチューブを提供する。
【発明の効果】
【0010】
上記のとおり、第1の発明によれば、Al44Cナノワイヤーを減圧雰囲気下で加熱してC−Al23−Cナノチューブを形成する第1工程と、この形成したC−Al23−Cナノチューブを空気雰囲気中で加熱する第2工程とを有することにより、高温実験用微小反応管や種々の一次元ナノ構造物を製造するための鋳型等として有用な単結晶α−アルミナナノチューブを製造することができる。
【0011】
第2の発明によれば、第1工程の加熱温度が1000〜1300℃の範囲であることにより、効率よくチューブ状構造とすることができる。
【0012】
第3の発明によれば、第1工程の加熱時間が0.3〜0.8時間の範囲であることにより、反応を効率よく進行させ製造することができる。
【0013】
第4の発明によれば、第1工程の減圧度が50〜200Paの範囲であることにより、以上の効果に加えて、より一層効率よく製造することができる。
【0014】
第5の発明によれば、第2工程の加熱温度は650〜1000℃の範囲であることにより、C−Al23−Cナノチューブの炭素の層を効率よく除去することができるとともに、反応を十分に進行させることができる。
【0015】
第6の発明によれば、第2工程の加熱時間は15〜30分の範囲であることにより、反応を効率よく進行させ製造することができる。
【0016】
第7の発明によれば、高温実験用微小反応管や種々の一次元ナノ構造物を製造するための鋳型等として有用な単結晶α−アルミナナノチューブが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本願発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0018】
本願発明の単結晶α−アルミナナノチューブの製造方法では、Al44Cナノワイヤーを減圧雰囲気下で加熱してC−Al23−Cナノチューブを形成する第1工程と、この形
成したC−Al23−Cナノチューブを空気雰囲気中で加熱する第2工程の、少なくとも以上の2つの工程を経て単結晶α−アルミナナノチューブを製造する。
【0019】
具体的には、まず、第1工程において、加熱装置として、好適には石英管の内側に断熱材のカーボン繊維で覆われたグラファイト製の誘導加熱円筒管を有する縦型高周波誘導加熱炉を用いて、例えば好ましくは窒化ホウ素るつぼの中に、Al44Cナノワイヤーを入れ、このるつぼをグラファイト製の誘導加熱円筒管を有する縦型高周波誘導加熱炉の下部に設置する。縦型高周波誘導加熱炉の内部を真空ポンプにて所定の圧力まで減圧する。所定の圧力に達したとき、真空ポンプの吸引を止め、加熱炉の温度を上げて加熱する。この第1工程を経ることにより、C−Al23−Cナノチューブが生成する。ここで、C−Al23−Cナノチューブとは、筒状の形状を有するナノチューブにおいて、外壁と内壁がグラファイト状炭素の層で形成され、これらグラファイト状炭素の層に挟まれるようにアルミナの層が形成されて円筒部が構成されている、三層構造のナノチューブのことをいう。
【0020】
Al44Cナノワイヤーは、アルミナ粉末とグラファイト粉末を、例えば2.5×10-3Paの減圧下で1550〜1600℃に1時間加熱して作製される。
【0021】
第1工程の加熱温度は1000〜1300℃の範囲であることが好ましい。1300℃を超えると、チューブ状構造が得られず、ナノワイヤーになる場合がある。1000℃未満では、反応が十分に進行せず収量の向上が望めない。このときの加熱時間は、0.3〜0.8時間の範囲が好ましく、0.8時間で反応が十分進行する。0.3時間未満の場合では、反応が十分に進行しないため好ましくない。
【0022】
また、第1工程における減圧度はおよそ50〜200Paの範囲が好ましい。この範囲から大幅に外れると、残存する空気が多すぎたり、あるいは少なくなりすぎてしまう。残存する空気が多すぎると、グラファイト製の誘導加熱円筒管が酸化される場合があるため好ましくない。少なくなりすぎると、炭素との反応に要する酸素の量が十分でないないため、アルミナを完全に生成することができない場合がある。
次に、第2工程として、加熱装置として、好適には電気炉を用い、例えば好ましくは石英ボートの中に、第1工程で得られたC−Al23−Cナノチューブを入れ、この石英ボートを電気炉内に設置する。そして、空気雰囲気中で所定の温度に加熱する。
【0023】
第2工程における加熱温度としては、650〜1000℃の範囲が好ましい。1000℃を超えると、エネルギーロスや加熱装置の熱劣化などの不具合が生じる場合があるので好ましくない。650℃未満では、C−Al23−Cナノチューブの炭素の層を十分に除去できない。このときの加熱時間は、15〜30分の範囲が好ましい。反応は30分で十分に進行し終結するため、これ以上時間をかけても反応の進行は望めない。15分未満では反応が十分に進行しないため好ましくない。
【0024】
以上の工程を経て、外径が50〜200ナノメートル、チューブ壁の厚さが10〜30ナノメートルである単結晶α−アルミナナノチューブが得られる。
【0025】
以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって発明が限定されることはない。
【実施例】
【0026】
第1工程:アルミナとグラファイトを2.5×10-3Paの減圧下で1550〜1600℃に1時間加熱して作製した淡緑色のAl44Cナノワイヤー200mgを窒化ホウ素るつぼに入れ、このるつぼをグラファイト加熱円筒管を有する縦型高周波誘導加熱炉の下
部に配置した。加熱炉内を100Paの減圧にした後、真空ポンプで吸引することを止めた。加熱炉を昇温し、1200℃に30分間保持した。加熱炉を室温に冷却した後、暗灰色の繊維状物質が180mg得られた。
【0027】
第2工程:次に、第1工程で得られた暗灰色の繊維状物質100mgを石英ボートに入れ、この石英ボートを電気炉内に設置した。石英ボートの内容物を800℃で20分間空気中で加熱した。室温に冷却後、白色の繊維状物質が80mg得られた。
【0028】
図1(a)、図1(b)に、第1工程で得られた暗灰色の繊維状物質の透過型電子顕微鏡像の写真を示す。これらの図から、チューブ状構造であることと、薄い外壁や内壁の層の存在が確認される。さらに、高分解能透過型電子顕微鏡像ならびにエネルギー分散型X線分析の結果から、外壁、内壁の薄い層はグラファイト状炭素からなり、中間層の厚い円筒部は六方晶系のα−アルミナからなることも分かった。なお、図1(a)では、チューブ内がグラファイトで充填されている。図1(b)ではチューブ内は中空で何も充填されていない。外側のグラファイト層の厚さは3〜5ナノメートルで、内側のグラファイト層の厚さは1〜2ナノメートルである。
【0029】
次に、第2工程で得られた白色繊維状物質の透過型電子顕微鏡像の写真を図2に示す。この写真から、外径50〜200ナノメートル、壁の厚さ10〜30ナノメートルを有するナノチューブが形成されていることが確認できる。
【0030】
図3に、この白色繊維状物質のエネルギー分散型X線分析の結果を示したが、アルミニウムと酸素のシグナルが現れており、完全に炭素のシグナルが消失しており、化学組成は酸化アルミニウム(アルミナ)からなることが確認された。なお、銅のシグナルは試料を取り付ける際に用いた銅グリッドに由来している。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(a)(b)C−Al23−Cナノチューブの透過型電子顕微鏡像の写真である。
【図2】α−アルミナナノチューブの透過型電子顕微鏡像の写真である。
【図3】α−アルミナナノチューブのエネルギー分散型X線分析の測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al44Cナノワイヤーを減圧雰囲気下で加熱してC−Al23−Cナノチューブを形成する第1工程と、この形成したC−Al23−Cナノチューブを空気雰囲気中で加熱する第2工程とを有することを特徴とする単結晶α−アルミナナノチューブの製造方法。
【請求項2】
第1工程の加熱温度は1000〜1300℃の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の単結晶α−アルミナナノチューブの製造方法。
【請求項3】
第1工程の加熱時間は0.3〜0.8時間の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の単結晶α−アルミナナノチューブの製造方法。
【請求項4】
第1工程の減圧度は50〜200Paの範囲であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の単結晶α−アルミナナノチューブの製造方法。
【請求項5】
第2工程の加熱温度は650〜1000℃の範囲であることを特徴とする請求項1からから4のいずれかに記載の単結晶α−アルミナナノチューブの製造方法。
【請求項6】
第2工程の加熱時間は15〜30分の範囲であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の単結晶α−アルミナナノチューブの製造方法。
【請求項7】
外径が50〜200ナノメートル、チューブ壁の厚さが10〜30ナノメートルである単結晶α−アルミナナノチューブ。


【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−188385(P2006−188385A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−903(P2005−903)
【出願日】平成17年1月5日(2005.1.5)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】