説明

単結晶製造装置及び単結晶製造方法

【課題】本発明は、単結晶製造装置及び単結晶製造方法に係り、誘導加熱コイルのコイル上面側とコイル下面側とで最適な磁界を形成することにある。
【解決手段】上面側コイル24aと下面側コイル24bとにより構成され、シリコン単結晶32を成長させるべくシリコン原料棒12を加熱溶融する誘導加熱コイル24と、上面側コイル24a及び下面側コイル24bに、それぞれ独立した高周波電流を供給する電流供給手段と、を設ける。そして、誘導加熱コイル24の上面側コイル24a及び下面側コイル24bにそれぞれ独立した高周波電流を供給することにより、シリコン原料棒12を加熱溶融してシリコン単結晶32を成長させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶製造装置及び単結晶製造方法に係り、特に、FZ法(フローティングゾーン法)により誘導加熱コイルを用いて例えばシリコンなどの原料棒を加熱溶融して単結晶を成長させるうえで好適な製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、FZ法により誘導加熱コイルを用いてシリコン原料棒を加熱溶融してシリコン単結晶を成長させる単結晶製造装置及び単結晶製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この単結晶製造装置は、シリコン原料棒を保持する上軸と、種結晶を保持する上軸と、シリコン原料棒を加熱溶融するための加熱装置と、を備えている。加熱装置は、上軸に保持されたシリコン原料棒の一端を加熱溶融する輪環状の誘導加熱コイルを有している。
【0003】
上記した製造装置を用いてシリコン原料棒からシリコン単結晶を製造させる場合、まず、誘導加熱コイルに高周波電流を供給することで、上軸に保持されたシリコン原料棒の下端を加熱溶融し、その溶融帯を下軸に保持された種結晶に融着した後、種絞りによってその直径を絞り無転位化しながらシリコン原料棒と種結晶とを一体化する。次に、上軸に保持されたシリコン原料棒を誘導加熱コイルに対して相対的に回転させながら軸線方向に相対移動させることで、溶融帯をシリコン原料棒と種結晶との融着部からシリコン原料棒の他端に向けて徐々に移動させる。加熱溶融された溶融帯は、誘導加熱コイルから離れる過程で輻射熱を発しながら徐々に冷却され、種結晶の結晶方位に従って単結晶化する。従って、上記した製造装置によれば、シリコン原料棒から棒状のシリコン単結晶を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−104590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記した単結晶製造装置において、シリコン原料棒を加熱溶融するためには、輪環状の誘導加熱コイルに給電端子を介して高周波電流を流すことが必要である。誘導加熱コイルに高周波電流が供給されると、その誘導加熱コイルのコイル上面側及びコイル下面側にそれぞれ磁界が形成される。コイル上面の磁界領域内にシリコン原料棒が配置されると、そのシリコン原料棒が加熱溶融されることで上記の溶融帯が形成される。従って、シリコン原料棒を加熱溶融するためには、誘導加熱コイルのコイル上面側に、シリコン原料棒を加熱溶融するための磁界を形成することが重要である。一方、誘導加熱コイルのコイル下面側に形成される磁界は、溶融帯の溶融液に液ダレを生じさせないローレンツ力を作用させる。従って、溶融帯の溶融液を液ダレが生じないように保持するためには、誘導加熱コイルのコイル下面側に、その溶融液にローレンツ力を作用させるための磁界を形成することが重要である。
【0006】
しかしながら、上記した単結晶製造装置においては、コイル上面に形成される磁界とコイル下面に形成される磁界とが、一つの誘導加熱コイルへの高周波電流の供給により形成されるため、コイル上面側に形成されるシリコン原料棒の一端を加熱溶融するための磁界と、コイル下面側に形成される溶融液にローレンツ力を作用させるための磁界と、がそれぞれ最適なものとならないおそれがある。
【0007】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、誘導加熱コイルのコイル上面側とコイル下面側とで最適な磁界を形成することが可能な単結晶製造装置及び単結晶製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、上面側コイルと下面側コイルとにより構成され、単結晶を成長させるべく原料棒を加熱溶融する誘導加熱コイルと、前記上面側コイル及び前記下面側コイルに、それぞれ独立した高周波電流を供給する電流供給手段と、を備える単結晶製造装置により達成される。
【0009】
また、上記の目的は、上面側コイルと下面側コイルとにより構成された誘導加熱コイルの前記上面側コイル及び前記下面側コイルにそれぞれ独立した高周波電流を供給することにより、原料棒を加熱溶融して単結晶を成長させる成長工程を備える単結晶製造方法により達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、誘導加熱コイルのコイル上面側とコイル下面側とで最適な磁界を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例である単結晶製造装置の構成図である。
【図2】本発明の一実施例である単結晶製造装置の要部断面図である。
【図3】本発明の一実施例である単結晶製造装置が備える誘導加熱コイルの上面側コイル及び下面側コイルに供給する電圧波形を表した図である。
【図4】本発明の第1変形例である単結晶製造装置の要部断面図である。
【図5】本発明の第2変形例である単結晶製造装置の要部断面図である。
【図6】本発明の第3変形例である単結晶製造装置の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて、本発明に係る単結晶製造装置及び単結晶製造方法の具体的な実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施例である単結晶製造装置(以下、単に製造装置と称す)10の構成図を示す。尚、図1(A)には製造装置10の縦断面図を、また、図1(B)には製造装置10の図1(A)におけるA−A´部位での横断面図を、それぞれ示す。また、図2は、本実施例の製造装置10の要部構成図を示す。本実施例の製造装置10は、フローティングゾーン法(FZ法)によりシリコン原料棒からシリコン単結晶を成長させる装置である。
【0014】
製造装置10は、多結晶のシリコン原料棒12を保持する上軸14と、シリコンからなる種結晶16を保持する下軸18と、シリコン原料棒12を加熱溶融するための加熱装置20と、を備えている。加熱装置20は、成長炉22と、成長炉22内に配設された誘導加熱コイル24と、を有している。シリコン原料棒12及び種結晶16は、成長炉22内に収容されている。上軸14及び下軸18はそれぞれ、シリコン原料棒12又は種結晶16を保持したまま、成長炉22に対して相対的に上下方向に移動可能でありかつ回転可能である。
【0015】
シリコン原料棒12は、所定の直径を有している。誘導加熱コイル24は、金属により構成され、成長炉22内でシリコン原料棒12と同軸に配置された輪環状の部材である。誘導加熱コイル24は、シリコン原料棒12の直径よりも小さな内径を有しており、シリコン原料棒12を囲繞するように配置されている。誘導加熱コイル24は、軸線方向において内径側が薄くかつ外径側が厚くなるように形成されている。
【0016】
誘導加熱コイル24には、給電端子26を介してコントローラ28が接続されている。コントローラ28は、誘導加熱コイル24に印加すべき高周波電圧を生成する。誘導加熱コイル24には、コントローラ26による制御により生成された高周波電圧が給電端子26を介して印加される。誘導加熱コイル24は、高周波電圧の印加により高周波電流が流れることにより、軸線方向上面側に磁束変化が生じる磁界を形成すると共にかつ軸線方向下面側に磁束変化が生じる磁界を形成する。
【0017】
上記した製造装置10において、コントローラ28は、シリコン原料棒12からシリコン単結晶30を成長させる場合、高周波電圧を生成して高周波電流を給電端子26を介して誘導加熱コイル24へ供給する。誘導加熱コイル24に高周波電流が供給されると、その誘導加熱コイル24の周囲(上面側及び下面側の双方)に磁束変化が生じる磁界が形成される。かかる磁界が形成されると、その誘導加熱コイル24による磁界の作用により上軸14に保持されたシリコン原料棒12の内部にその磁束変化を妨げる方向に向けて渦電流が発生することで、そのシリコン原料棒12の先端(下端)が加熱溶融される。この際、シリコン原料棒12の先端側には加熱溶融された溶融帯32が形成される。この溶融帯32は、下軸18に保持された種結晶16に融着された後、種絞りによってその直径を絞り無転位化される。これにより、シリコン原料棒12と種結晶16とが一体化される。
【0018】
次に、シリコン原料棒12が誘導加熱コイル24に対して相対的に回転しながら軸線方向に相対移動される。この場合には、上記の溶融帯32がシリコン原料棒12と種結晶16との融着部からシリコン原料棒12の他端(上端)に向けて徐々に移動する。加熱溶融された溶融帯32は、誘導加熱コイル24から離れる過程で輻射熱を発しながら徐々に冷却され、主結晶16の結晶方位に従って単結晶化する。従って、製造装置10によれば、誘導加熱コイル24を用いてシリコン原料棒12から棒状のシリコン単結晶30を得ることができる。
【0019】
図3は、本実施例の製造装置10が備える誘導加熱コイル24の上面側コイル24a及び下面側コイル24bに供給する電圧波形を表した図を示す。尚、図3(A)には上面側コイル24aへの電圧波形を表した図を、また、図3(B)には下面側コイル24bへの電圧波形を表した図を、それぞれ示す。
【0020】
本実施例の製造装置10において、誘導加熱コイル24は、図2に示す如く、軸線方向に分離された上面側コイル24aと下面側コイル24bとにより構成されている。上面側コイル24a及び下面側コイル24bは共に、輪環状に形成されており、中心から径方向外側にかけて断面テーパ形状を有している。上面側コイル24aの内径と下面側コイル24bの内径とは、互いに略同じであり、また、上面側コイル24aの外径と下面側コイル24bの外径とは、互いに略同じである。上面側コイル24aの最外径部位及び下面側コイル24bの最外径部位はそれぞれ、軸線方向において所定の厚さを有している。また、上面側コイル24aと下面側コイル24bとは、軸線方向に対して互いに同方向に巻回されている。
【0021】
上面側コイル24aと下面側コイル24bとは、軸線方向において絶縁部材34を介して対向している。絶縁部材34は、上方又は下方から見た場合に上面側コイル24a及び下面側コイル24bの平面形状と略同一の平面形状を有しており、上面側コイル24a及び下面側コイル24bの内径と略同一の内径を有すると共に、上面側コイル24a及び下面側コイル24bの外径と略同一の外径を有する。絶縁部材34は、誘電率の比較的低い材料により構成されており、内径側から外径側にかけて軸線方向に所定の厚さを有している。絶縁部材34は、上面側コイル24aと下面側コイル24bとの間に生じる磁界を遮る機能を有している。
【0022】
また、上面側コイル24aには給電端子26aを介して、また、下面側コイル24bには給電端子26bを介して、それぞれコントローラ28が接続されている。コントローラ28は、上面側コイル24aに印加すべき高周波電圧及び下面側コイル24bに印加すべき高周波電圧をそれぞれ独立して生成する。具体的には、コントローラ28は、図3に示す如く、上面側コイル24aに印加すべき高周波電圧と下面側コイル24bに印加すべき高周波電圧と、を互いに半波長分のずれが生じるように生成する。そして、それらの互いに半波長分のずれが生じた高周波電圧を給電端子26a,26bを介して上面側コイル24a及び下面側コイル24bへ印加する。この際、かかる高周波電圧の印加は、上面側コイル24a側の磁界と下面側コイル24b側の磁界とが互いに打ち消されるように行われることとなる。このように、コントローラ28から誘導加熱コイル24への高周波電圧の印加は、2つの高周波電源を用いて実施される。
【0023】
上面側コイル24aに高周波電圧が印加されると、その上面側コイル24aに高周波電流が流れることにより、その上面側コイル24aの軸線方向上面側にシリコン原料棒12の下端を加熱溶融するための磁界が形成されるので、その磁界の作用によりシリコン原料棒12の内部に渦電流が発生して、そのシリコン原料棒12が加熱溶融されて溶融帯32が形成される。また、下面側コイル24bに高周波電圧が印加されると、その下面側コイル24bに高周波電流が流れることにより、その下面側コイル24bの軸線方向下面側に溶融帯32の溶融液に液ダレを生じさせないローレンツ力を作用させるための磁界が形成されるので、その磁界の作用により溶融帯32の溶融液に液ダレを生じさせないローレンツ力が作用する。
【0024】
本実施例においては、コントローラ28による制御により、上面側コイル24aに印加又は供給される高周波電圧又は高周波電流と、下面側コイル24bに印加又は供給される高周波電圧又は高周波電流と、をそれぞれ独立したものとすることができるので、誘導加熱コイル24の上面側に形成する磁界を、シリコン原料棒12を加熱溶融するための最適なものとすることができると共に、誘導加熱コイル24の下面側に形成する磁界を、溶融帯32の溶融液に液ダレを生じさせないローレンツ力を作用させるための最適なものとすることができる。
【0025】
また、上面側コイル24a側の高周波電圧又は高周波電流と、下面側コイル24b側の高周波電圧又は高周波電流と、は互いに半波長分ずれているので、上面側コイル24aと下面側コイル24bとの間に、上面側コイル24aに供給される高周波電流に基づいて発生する磁界と、下面側コイル24bに供給される高周波電流に基づいて発生する磁界と、が互いを打ち消すように作用する。この点、本実施例によれば、誘導加熱コイル24の周囲に不均一な磁界が形成されるのは抑制される。
【0026】
また、上面側コイル24aと下面側コイル24bとの間には、誘電率の低い絶縁材料34が介在している。絶縁材料34は、通過しようとする磁界を遮る機能を有する。このため、絶縁材料34の存在により、上面側コイル24aに供給される高周波電流に基づいて発生する磁界が下面側コイル24b側に及ぶのは抑制されると共に、また逆に、下面側コイル24bに供給される高周波電流に基づいて発生する磁界が上面側コイル24a側に及ぶのは抑制される。この点、本実施例によれば、シリコン原料棒12を加熱溶融するための磁界と、溶融帯32の溶融液に液ダレを生じさせないローレンツ力を作用させるための磁界と、が互いに影響しあうのは抑制される。
【0027】
従って、本実施例の製造装置10によれば、誘導加熱コイル24として2つのコイル24a,24bを用いることで、誘導加熱コイル24の周囲に、シリコン原料棒12を加熱溶融するうえで最適な磁界領域を形成しかつ溶融帯32の溶融液に液ダレを生じさせないローレンツ力を作用させるうえで最適な磁界領域を形成することが可能であり、これにより、シリコン原料棒12からシリコン単結晶30を成長させるうえで必要な製造条件設定を容易に行うことが可能である。
【0028】
尚、上記の実施例においては、コントローラ28が誘導加熱コイル24の上面側コイル24a及び下面側コイル24bにそれぞれ独立した高周波電流を供給することにより特許請求の範囲に記載した「電流供給手段」及び「成長工程」が実現されている。
【0029】
ところで、上記の実施例においては、誘導加熱コイル24の上面側コイル24aと下面側コイル24bとを、略同じ内径及び略同じ外径を有するように形成するものとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、内径及び/又は外径を異ならせることとしてもよい。
【0030】
すなわち、図4に示す如く、誘導加熱コイル24の下面側コイル24bの内径を上面側コイル24aの内径よりも大きくすることとしてもよい。かかる変形例の構成においては、シリコン原料棒12が加熱溶融される溶融帯32の溶融柱に下面側コイル24b側の磁界を作用させ難くして、その溶融柱に作用させる磁界を上面側コイル24a側の磁界に限定することができるので、シリコン原料棒12からシリコン単結晶30を得る製造過程での制御性を高めることが可能である。
【0031】
また、図5に示す如く、誘導加熱コイル24の下面側コイル24bの外径を上面側コイル24aの外径と異ならせること(例えば、上面側コイル24aの外径よりも大きくすること)としてもよい。かかる変形例の構成においては、製造すべきシリコン単結晶30の外径が、上軸14に保持されるシリコン原料棒12の外径と異なる場合にも、その外径の違いに合わせて下面側コイル24bの外径を設定すれば、下面側コイル24bによる磁界を、溶融帯32の溶融液に液ダレを生じさせず所望の外径を形成させるローレンツ力を作用させるように形成することができるので、シリコン原料棒12から得られるシリコン単結晶30を所望の形状に形成することが可能である。
【0032】
また、図6に示す如く、図4に示す構成と図5に示す構成とを組み合わせることとしてもよい。かかる変形例の構成においては、図4に示す構成による効果及び図5に示す構成による効果の双方を得ることができる。
【0033】
更に、上記の実施例は、フローティングゾーン法(FZ法)によりシリコン原料棒からシリコン単結晶を成長させる製造装置10の例であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の材料からなる原料棒から単結晶を成長させる製造装置に適用することとしてもよい。
【符号の説明】
【0034】
10 単結晶製造装置
12 シリコン原料棒
16 種結晶
24 誘導加熱コイル
24a 上面側コイル
24b 下面側コイル
28 コントローラ
30 シリコン単結晶
32 溶融帯


【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面側コイルと下面側コイルとにより構成され、単結晶を成長させるべく原料棒を加熱溶融する誘導加熱コイルと、
前記上面側コイル及び前記下面側コイルに、それぞれ独立した高周波電流を供給する電流供給手段と、
を備えることを特徴とする単結晶製造装置。
【請求項2】
上面側コイルと下面側コイルとにより構成された誘導加熱コイルの前記上面側コイル及び前記下面側コイルにそれぞれ独立した高周波電流を供給することにより、原料棒を加熱溶融して単結晶を成長させる成長工程を備えることを特徴とする単結晶製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−162419(P2012−162419A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23631(P2011−23631)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】