説明

単結晶金属成長方法並びにその装置

大単結晶金属の成長方法が公開される。金属試料の多結晶形態が当初、非酸化環境において加熱される。最小塑性歪がそれから加熱金属試料内部で選定粒子の成長を開始させるために加熱金属試料に加えられる。付加塑性歪が、選定粒子の大単結晶への成長を伝播させるために、加熱金属試料に引き続き加えられる。

【発明の詳細な説明】
【関連特許分野】
【0001】
本特許出願は2005年5月12日提出の共同保留暫定米国出願連続番号第60/680,273号に対する優先権を請求するものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は全般に結晶成長、特に、金属に関する単結晶成長の方法とその装置に関するものである。尚、さらに詳細には、本発明は塑性歪化による大単結晶金属成長のための方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0003】
多結晶金属は結晶境界の存在による限定された高温クリープ抵抗および低温脆性を有することが多い。これと対照的に、単結晶金属には結晶境界による良好な機械特性がある。従って、多くの用途向けに、単結晶金属が多結晶金属よりも好まれる。
【0004】
単結晶金属生成用の現状技術は主に次の5つの基本処理の1つに基づいている。
(a)様々な蒸着処理による低速成長薄膜単結晶(半導体工業で現在採用されている)
(b)種結晶が採用される溶融金属による低速成長バルク単結晶(すなわち、チョコラルスキ法、ブリッジマン法あるいはチョコラルスキおよびブリッジマン法の変型)
(c)帯域溶融による低速生成バルク単結晶(凝固に続く多結晶金属の局在化溶融を実行する移動加熱帯域が採用される浮遊帯域法としても知られる)
(d)加熱帯域が多結晶金属に沿って通過して局部的に再結晶、結晶成長および単結晶の境界移動を生じさせる、帯域焼鈍によって生ずるバルク単結晶
(e)低温変形が次に続くとともに1800℃を越える温度での焼鈍がさらに続く酸化物生成要素を伴う合金により生成される耐火性金属バルク単結晶
【0005】
上述の処理のすべては一般的に極めてゆっくりした生成速度であるとともに、処理(b)から(e)までのような大単結晶を生むことのできるこれらの処理に関して、通常、極高温が生成中に必要とされる。従って、より速い生成速度でかつ上述の処理におけるものよりも低温において大単結晶金属が生成されるための改善方法が提供されることが望ましい。
【発明の開示】
【0006】
本発明の好ましい実施例によると、金属試料の多結晶形態は非酸化環境で、当初、加熱される。最小塑性歪が、その後、加熱金属試料内部で選定結晶の成長を発生させるために、加熱金属試料に加えられる。引き続き大単結晶金属となる選定結晶の成長を伝播させるために加熱金属試料に追加の塑性歪が加えられる。
【0007】
本発明のあらゆる特色と利点は以降の文面による詳細説明の中で明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
さて図面および特に図1を参照すると、本発明の好ましい実施例による大単結晶金属の成長装置の図解が描かれている。示されるように、金属試料11は熱源12aと12b間に位置する。さらに金属試料11の両末端は金属試料11への塑性歪化作用の可能な力学装置(図示されず)に固定される。金属試料11は再結晶されるかあるいは作動される条件のどちらかにある多結晶試料であるのが好ましい。金属試料11は、切板、棒、板、線、管等の多様な形態であってよい。金属試料11は高純度かあるいは商用純度のものであるかあるいは合金添加物が含まれてよい。
【0009】
次に図2を参照すると、本発明の好ましい実施例による図1の装置が利用された大単結晶金属成長方法に関する高度論理流れ図が例示されている。当初、金属試料11は区分21に示されるように金属試料11の融点温度のおよそ60%(すなわち、0.6の相同温度)以上まで熱源12aと12bによって加熱される。金属試料11の加熱はさまざまな加熱手段によって達成可能である。たとえば、金属試料11は、輻射熱伝達、伝導熱伝達、あるいは対流熱伝達を通じて熱源12aと12bによって加熱可能である。金属試料11はまた輻射加熱(例えば、赤外線ランプによる)、誘導加熱、あるいは直接抵抗加熱(金属試料11を通過する電流による)によっても加熱可能である。金属試料11の加熱は、真空、不活性ガスあるいは減圧雰囲気といった様々な非酸化環境で行われてもよい。
【0010】
その後、区分22に書かれているように最小初期塑性歪が加熱金属試料11に力学装置によって加えられる。最小初期塑性歪が金属試料11内選定粒子の成長開始に必要とされる。最小初期塑性歪量は温度、マイクロストラクチャおよび金属試料11の合金組成の関数である。最小初期塑性歪の変動幅はおよそ4%から40%の間にあるのが好ましい。
【0011】
付加塑性歪は、区分23に示されるように、その後引き続き、選定粒子の成長を伝播させて大きな単結晶を生成するために加熱金属試料11に加えられる。付加塑性歪は処理多結晶試料を消耗させる選定粒子の成長前線駆動に必要とされる。付加塑性歪速度は幅広く変動しうるが真歪速度で10-5s-1を越え 10-1s-1未満であるのが好ましい。
【0012】
力学装置により制御された方法での加熱金属試料11の歪化が可能となる。塑性歪化を起こす金属試料11に必要な応力は所望される歪速度、温度、マイクロストラクチャおよび金属試料11の合金組成次第で変化する。
【0013】
塑性歪はまた金属試料11が所望の速度で歪化されるように金属試料11の両末端に変位を加えることによっても発生させることが可能である。他端より速い速度で金属試料11の片端を変位させることによって、処理領域を通して試料材料を連続的に供給することが可能である。
このように処理することによって、成長前線が金属試料11の長さに沿って動かされて長単結晶の生成が可能となる。
【0014】
次に図3を参照すると、本発明の好ましい実施例による単結晶金属試料の成長用マイクロストラクチャ処理が図により例示されている。選定単一粒子(すなわち結晶)は高温時に塑性歪化状態にある試料の幅と厚みを消耗する。単一粒子の境界(すなわち、成長前線)はその後金属試料の長さに沿って進行すると同時に多結晶材料を消耗する。成長前線の動きは高温時に塑性歪化によって駆動される。背後に残される材料が以前の選定粒子から成長した単結晶である。前述したように、選定粒子の成長前線の駆動に必要な付加歪量は温度、マイクロストラクチャならびに金属試料の合金組成の関数である。
【0015】
最終的な単結晶に成長する粒子の選定は多数の機構を通じて行われる。最も単純なものは、多結晶試料内部の都合よく向けられた単一粒子が周囲粒子よりも速い速度で成長する自然選定処理である。この自然選定処理は多結晶試料における結晶学上のテクスチャの発達によって影響されうる。選定された向きの種結晶への多結晶試料の溶接などによって多結晶試料に貼られる種結晶は、単結晶金属がこれから成長する選定粒子として作用しうる。最終的な単結晶金属の結晶学上の向きはこれから成長した選定粒子によって制御される。
【0016】
単結晶金属の生成は選定粒子の成長前線が一旦、金属試料の所望の長さを越えると完了する。生成単結晶は処理中に塑性変形し得るので、該生成単結晶にはいくらかの転位密度、および準粒子のようないくらかの転位構造が含まれうる。この欠点は単結晶の所望特性の大半にはそれほどは影響しないであろう。多くの欠点は高温時の焼鈍によって除去可能である。
【0017】
本発明の方法は秒あたり1.0×1O-6 から 1.0×10-4までの真歪速度で力学的に歪がかけられる間1400℃から1800℃の間の高温で加熱される切板形態の商業純度のモリブデンを利用して首尾よく示された。上述の温度変動幅で、かつ上述の歪速度変動幅内で行われる度重なるテストにおいて多結晶モリブデン切板からの単結晶成長が4%から40%の間の蓄積歪の後に生じた。
【0018】
図4を参照すると、本発明の好ましい実施例による1×10-4s-1の塑性真歪速度で1640℃において処理されたモリブデン切板試料のマイクロストラクチャ写真が描かれている。示される通り、モリブデン切板試料により平均粒子直径70 μm未満の粒子を有する多結晶切板から成長した大単結晶(およそ幅5ミリ長さ15ミリ)が示された。単結晶(左側の)はより幅の広い多結晶領域(右側で)で終わる。切板形態のモリブデンだけが本発明を例示するために利用されたが、専門技術者により本発明の方法は任意の他の形態の別の金属にも適用できるものと理解される。
【0019】
これまで述べられたように、本発明は大単結晶金属成長の方法ならびにその装置を提供する。本発明の方法により従来設備を利用してコスト効率よい大単結晶金属の製造が可能となる。本発明の方法には現状製造技術を越えた単純さとスピードの利点がある。本発明の方法によりまた他の既存処理よりも低温のバルク単結晶製造も可能となる。
【0020】
本発明が好ましい実施例を参照して特に示されかつ説明されたけれども、技術専門家によって本発明の精神や範囲から逸脱することなく形態や詳細に関する様々な変更がなされうることが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
付録の図面と関連して読まれる場合に、例示的実施例に関する以降の詳細説明が参照されることによって本発明自体は、好ましい利用形態、さらには目的ならびにその利点とも合わせて、最もよく理解されよう。
【0022】
【図1】本発明の好ましい実施例による大単結晶金属向け装置の図解図
【図2】本発明の好ましい実施例による図1の装置を採用する大単結晶金属成長向け方法の高度論理流れ図
【図3】本発明の好ましい実施例による単結晶金属試料成長用マイクロストラクチャ処理の図解図
【図4】本発明の好ましい実施例により生成されるモリブデン板試料のマイクロストラクチャ写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非酸化環境における多結晶形態金属試料の加熱、前記加熱金属試料内部における選定結晶成長発生のための前記加熱金属試料への最小塑性歪作用、ならびに、大単結晶金属形成のための前記選定結晶成長伝播用前記加熱金属試料への付加塑性歪作用が含まれる大単結晶金属成長方法。
【請求項2】
前記金属試料がモリブデン、タングステン、ニオブあるいはタンタルの群から選定される耐火性金属である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属試料が合金添加物含有の耐火性金属である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記非酸化環境が真空、不活性ガスあるいは減圧雰囲気である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記加熱が輻射、伝導、あるいは対流による外部加熱源によりもたらされる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記加熱が赤外線ランプによる輻射加熱、誘導加熱によりあるいは前記金属試料を通る通電による直接抵抗加熱によりもたらされる請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記金属試料がTmを前記金属試料の融点とする場合に0.55から0.8 Tm間で加熱される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記塑性歪が引張、圧縮、せん断、あるいはこれらの組み合わせ状態である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記選定結晶が再結晶されるマイクロストラクチャ、テクスチャ処理マイクロストラクチャあるいは種結晶から自然選定される請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記方法にさらに前記金属試料の加熱帯域の通過が含まれるかあるいは連続的な方法による前記金属試料の長単結晶発生のための歪進行中のよる前記金属試料に沿った加熱帯域の通過による請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記金属試料がモリブデンであると同時に前記塑性歪化が1400℃から1800℃の間の温度で4%を越える大きさである請求項1に記載の方法。
【請求項12】
非酸化環境における多結晶形態の金属試料の加熱用加熱手段、ならびに、前記加熱金属試料内部の選定結晶成長発生のための前記加熱金属試料に対する最小塑性歪作用向け、および大単結晶金属を形成する前記選定結晶成長伝播のための前記加熱金属試料に対する付加塑性歪化作用向けの力学装置が含まれる大単結晶金属成長装置。
【請求項13】
前記金属試料がモリブデン、タングステン、ニオブあるいはタンタルからなる群から選定される耐火性金属である請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記金属が合金添加物含有の耐火性金属である請求項12に記載の装置。
【請求項15】
前記非酸化環境が真空、不活性ガスあるいは減圧雰囲気である請求項12に記載の装置。
【請求項16】
前記加熱手段により輻射、伝導あるいは対流による前記金属試料への熱がもたらされる請求項12に記載の装置。
【請求項17】
前記加熱手段が赤外線ランプである請求項12に記載の装置。
【請求項18】
前記金属試料がTmを前記金属試料の融点温度とする場合におよそ0.55から0.8 Tm間の温度で加熱される請求項12に記載の装置。
【請求項19】
前記塑性歪が引張、圧縮、せん断、あるいはこれらの組み合わせ状態である請求項12に記載の装置。
【請求項20】
前記選定結晶が再結晶マイクロストラクチャ、テクスチャ処理マイクロストラクチャあるいは種結晶から自然選定される請求項12に記載の装置。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−540319(P2008−540319A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511166(P2008−511166)
【出願日】平成18年5月3日(2006.5.3)
【国際出願番号】PCT/US2006/016771
【国際公開番号】WO2006/124266
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(507372187)ザ ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティー オブ テキサス システム (1)
【Fターム(参考)】