説明

印刷機の廃液再生方法および廃液再生装置

【課題】 印刷機で使用したインキ顔料、水、洗浄液を含む洗浄廃液を単一の装置で容易に分離する。
【解決手段】 インキ顔料、有機系洗浄液、及び水を含む廃液を、再生容器を有する再生装置に投入して再生する廃液再生方法において、水と洗浄液から主としてなるエマルションを破壊しかつインキ顔料粒子を凝集させるエマルション処理剤を前記廃液に添加し、次いで重力沈降を利用して再生洗浄液、インキ顔料、及び水に分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷機のブランケット胴などのインキが付着する印刷機の構成部品の洗浄時に出る廃液を再生する方法に関し、特に、インキ顔料、油性の洗浄液、及び水の3成分が混在した系において、簡便な装置で3成分を分離する、印刷機の廃液再生方法および廃液再生装置に関する。さらに詳しくは、前記3成分が混在した廃液を強く攪拌すると発生するヘドロ状物質が含まれる系において、重力場、ろ過などの物理的な作用だけでは3成分が分離できないような状況でさえも、容易に前記3成分を分離することができる印刷機の廃液再生方法および廃液再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷機のブランケット胴や圧胴の洗浄時には廃液が出るが、環境を考慮して、また洗浄剤のランニングコスト低減のため、この廃液を再生処理して洗浄液を再利用しようとする動きが出てきている。
【0003】
再生方法として最も低コストな方法が沈降法である。図4に、洗浄液中に混入した顔料を沈降法によって分離する方式の廃液再生装置の概略構成を示す(特許文献1参照)。図4に示すように、従来の廃液再生装置51は、洗浄廃液(廃液)52を溜める容器53を備えており、この容器53の底壁には底部排出配管54が接続され、容器53の側壁には側部排出配管55が接続されている。さらに、これらの排出配管54,55のうち、底部排出配管54の出口下方には濃縮廃液回収容器56が配設され、側部排出配管55の出口下方には再生洗浄液回収容器57が配設されている。また、一方の底部排出配管54の通路には開閉バルブ58が接続され、他方の側部排出配管55の通路には、その上流側に開閉バルブ59が接続され、その下流側にフィルタ60が配設されている。
【0004】
このように構成された廃液再生装置51では、印刷機のブランケット胴等を洗浄した後の廃液52を容器53に溜め、インキ顔料(単に、顔料ともいう)61の沈降を促進する薬剤を廃液52に添加することにより、インキ顔料61を容器53の底部に沈降させる。次いで、沈降したインキ顔料、すなわち濃縮廃液63を底部排出配管54から濃縮廃液回収容器56に回収し、廃液52の上澄み液を側部排出配管55からフィルタ60で濾過することによりインキ顔料61を除去し、再生洗浄液回収容器57に回収する。こうして得られた洗浄液62は再利用されることになる。
【0005】
ところが、この方法では再生洗浄液の純度が不充分なだけでなく、インキと洗浄液の組合せによってはインキ顔料61の沈降が不充分で、すぐにフィルタ60が目詰まりしてしまうことから、フィルタ60の交換もしくは清掃を頻繁に行なわなければならないという課題があった。
一方、電子写真の分野では、溶媒中に分散させた帯電トナーを電気泳動により静電潜像に付着させて可視化する湿式現像法も一部で採用されている。このシステムにおいて、クリーニング後の廃液から帯電したトナー粒子を電気的に除去する方式も提案されている(特許文献2)。
また、非特許文献1には、トナー粒子除去装置が提示されている。
【0006】
【特許文献1】特許第3586656号公報
【特許文献2】特開昭53−10440号公報
【非特許文献1】黒鳥他,「液体現像剤を用いたフルカラー電子写真プリンター」,Japan Hardcopy ’96 論文集,1996年,p.153−156
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2および非特許文献1に開示された技術では、導電性の水が混入した場合は想定されていない。例えば非特許文献2の装置は、回収したキャリア液に水が含まれている場合に、キャリア液と水との比重の違いを利用して水分を分離しているが、この方式では大きな装置が必要なだけでなく、分離に長い時間が掛かってしまうのは必至である。
【0008】
また、近年は有機溶剤使用の制約が厳しくなっていることもあり、洗浄時に必要最低限の有機溶剤系洗浄剤を用いた後、水で仕上げ洗浄する方式が増えている。この場合、洗浄廃液は有機溶剤系洗浄剤、顔料及び水の3成分が混合した液となるが、図4の再生装置では水が混入した3成分の洗浄廃液の再生は想定されていない。
上記の3成分を含む洗浄廃液は、強く攪拌された場合、主として洗浄剤成分と水からなるエマルションが、嵩高いヘドロ状物質として形成される。この嵩高いヘドロ状物質であるエマルションを含む廃液を重力沈降で処理しようとしても、静置するだけではエマルションはほとんど減容しないため、再生して再利用できる洗浄液は極わずかになる。また、エマルションと洗浄液及び水とを分離するために濾過操作を行うと、インキ顔料だけでなくエマルションも固形分としてフィルタ上に濾し取られ、このヘドロ状のエマルションによってフィルタがすぐに目詰まりを起こし、廃液を濾過するのに多大の手間と時間を要する。
また、濾過したエマルションを廃棄するためには産業廃棄物として処理しなければならず、処理費用が発生するなどの課題がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、印刷機で使用したインキ顔料、水、洗浄液を含む洗浄廃液を単一の装置で容易に分離することのできる印刷機の廃液再生方法及び廃液再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の廃液再生方法及び廃液再生装置は、以下の手段を採用する。
本発明の印刷機の廃液再生方法は、インキ顔料、有機系洗浄液、及び水を含む廃液を、再生容器を有する再生装置に投入して再生する廃液再生方法であって、前記再生容器において前記廃液を、重力沈降を利用して再生洗浄液、インキ顔料、及び水に分離する分離工程を有し、前記分離工程より前に、水と洗浄液から主としてなるエマルションを破壊しかつインキ顔料粒子を凝集させるエマルション処理剤を前記廃液に添加するエマルション処理剤添加工程を有することを特徴とする。
上記本発明の印刷機の廃液再生方法では、インキ顔料、有機系洗浄液、及び水の3成分が混在した系を単一の装置で分離するために、エマルションを破壊する機能とインキ顔料を凝集させる機能を少なくとも有する物質(以後、「エマルション処理剤」と記す)を洗浄廃液に添加して重力沈降法で処理する。このエマルション処理剤の添加により、上記3成分を含む廃液が強く攪拌された場合に生じる洗浄液成分と水から主としてなるエマルションが凝集した嵩高いヘドロ状物質の容積を1/5以下、好ましくは1/10以下に減容できるため、廃液の攪拌状態に関わらず重力沈降法によりインキ顔料、洗浄剤、水の3成分を速やか且つ効率よく分離することが可能となる。インク顔料は、下部の水相と上部の洗浄剤相の界面に堆積する。インキ中では顔料粒子は1μm以下程度まで微細に分散されているが、前記界面に堆積したインク顔料は、エマルション処理剤の効果により凝集粒子となっているため、濾過で容易に分離できる。
【0011】
前記エマルション処理剤は、非イオン性界面活性剤を主成分とするものが好ましい。
界面活性剤は構造的には一定の大きさの親水基と疎水基を分子内に併せ持つが、親水基が水中でイオン解離しない非イオン性界面活性剤、水中でイオン解離して界面活性剤がプラス帯電するカチオン界面活性剤、マイナス帯電するアニオン界面活性剤があり、カチオン活性剤とアニオン活性剤は自身が帯電する際には、自身の帯電特性と逆の帯電特性のイオン(カウンターイオン)を水中に放出する。
本発明のエマルション処理剤は、エマルションを破壊すると同時に顔料粒子を凝集させる作用を発現することが求められる。インキは油性インキであるため、顔料は油性インキとの親和性が高い表面、すなわち疎水性であるのが一般的である。イオン性界面活性剤はイオン性が強いため親水性が強く、疎水性顔料表面へ吸着しにくく、その点でイオン解離しない非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0012】
前記非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレン鎖を構造の一部として有する共重合体であり、HLBが10以下のものが好ましい。
エチレンオキサイドCHCHOを付加重合させて得られるポリオキシエチレン鎖(CHCHO)は親水基として機能し、このポリオキシエチレン鎖を構造の一部として有する非イオン性界面活性剤は、疎水基の種類やアルキレンオキサイドの付加モル数を変えることによって、目的の物性を持つ界面活性剤とすることが可能になる。
親水性と疎水性の強さのバランスを数値として表したものがHLB(Hydrophile − Lipophile Balance)で、非イオン界面活性剤の基本物性を表す代表的な指標である。親水基を全く持たない界面活性剤はHLB=0、またポリエチレングリコールのように親水基のものものはHLB=20となるので、非イオン性界面面活性剤のHLB範囲は0〜20となる。このHLB値は、数字が小さいほど疎水性が強く、大きいほど親水性が強いことを意味する。
【0013】
インキ顔料、有機系洗浄液、及び水の3成分を含む廃液が強く攪拌された場合には、洗浄液成分と水から主としてなるエマルションが凝集した嵩高いヘドロ状物質が生じる。エマルションにはO/W型とW/O型があるが、インキの種類や洗浄液の種類の組み合わせが変わっても、常にO/W型かW/O型のどちらか一方のエマルションが形成されるか確認できていないが、HLBが10以下、好ましくは8以下の非イオン性界面活性剤を主成分とするエマルション処理剤を添加することで、前記へドロの発生を抑制できる、あるいは発生したヘドロの容積を1/5以下、好ましくは1/10以下まで減少できることを実験的に見出した。しかし、印刷機で使用されているインキの種類や洗浄液の種類にほとんど影響されること無く、本発明のエマルション処理剤が有効である理由は明確ではないが、現時点では以下のような仮説を立てている。
【0014】
インキ中に含有されている界面活性物資が廃液中のエマルションを安定化させていると推定されるが、この界面活性物質がHLBを有するとすれば、おそらく中程度ないし高めのHLB値を持つために、HLBが10以下、好ましくは8以下のような低めのHLB値を持つエマルション処理剤の添加により、前記エマルションの不安定化ないしエマルションの破壊を引き起こし、エマルション発生防止、ないし発生したエマルションの減容が可能になると推定する。
また、前記のように、疎水性である顔料粒子表面に吸着しやすいという観点からも、HLBが10以下、好ましくは8以下のような低めのHLB値を持つエマルション処理剤が適する。
【0015】
前記非イオン性界面活性剤の質量平均分子量(Mw;以下、単に「平均分子量」と呼ぶ)は、1200以上であることが好ましい。
本発明の再生方式では、エマルション処理剤を添加した後、重力沈降方式で、再生洗浄液と再生水に分離するが、微細なインキ顔料は再生水層表面に堆積させて、再生洗浄液とインキ顔料成分を分離する。この顔料粒子が微細なままであると、その後の濾過などの方法によって、洗浄液、顔料、を分離する際に時間が掛かってしまう。
しかしながら、平均分子量が1200以上の非イオン性界面活性剤を主成分とするエマルション処理剤には、エマルション発生防止あるいはエマルション減容化すると同時に、インキ顔料成分を凝集させて粗大化させる凝集剤としての機能があることを実験的に見出した。
【0016】
イオン性の界面活性剤の場合であれば、分子量がより小さくても、顔料の帯電特性の反対電荷(活性剤とそのカウンターイオンが電荷を持った状態で存在するため、顔料粒子がプラスまたはマイナスのどちらに帯電していても、活性剤とそのカウンターイオンのどちらかは、必ず顔料粒子と静電気的に引き合うことになる)が帯電した顔料表面に吸着して顔料粒子の電荷をキャンセルし、静電気的反発を無くすことで顔料粒子を凝集させることが可能である。しかし、本発明のエマルション処理剤は非イオン界面活性剤であるため、静電気的反発力の中和による凝集作用は発現できない。
非イオン性界面活性剤による顔料微粒子の凝集では、1つの非イオン性界面活性剤分子が複数の顔料微粒子に吸着して、それらの顔料粒子を絡め取るようにして凝集粒子を形成するため、非イオン性界面活性剤の分子鎖には、ある程度の長さが必要である。その必要な長さを確保するためには平均分子量が1200以上必要であることを実験的に見出したものである。
非イオン性界面活性剤による顔料微粒子の凝集により、濾過速度はエマルション処理剤未添加の場合の10倍以上に速くなる。濾過により顔料粒子を除去した洗浄廃液は有機系洗浄剤と水の比重差により、10〜15分で速やかに分離し、再生洗浄液を透明のクリーンな液として回収できる。
【0017】
このような非イオン性界面活性剤としては、三洋化成工業株式会社のポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマーであるニューポールPE−61(HLB 1.8〜2.0、ポリオキシプロピレン部分の平均分子量1,750)、ニューポールPE−62(HLB 4.0〜4.3、ポリオキシプロピレン部分の平均分子量1,750)、第一工業製薬株式会社のポリオキシエチレンラウリルエーテルであるDSK NL−15(HLB 5.0、ポリオキシエチレン部分の平均分子量2,900)、DSK NL−30(HLB 8.1、ポリオキシエチレン部分の平均分子量5,800)、ポリオキシエチレンオレイルセチルエーテルであるノイゲンET−69型(HLB 5.7、ポリオキシエチレン部分の平均分子量4,440)、ノイゲンET−89型(HLB 7.9、ポリオキシエチレン部分の平均分子量7,170)、ポリアルキレンポリアミン・プロピレンオキサイドーエチレンオキサイド付加物であるディスコール206(HLB 6.0 、平均分子量93,000)、ポリオキシエチレン・ラウリルエーテルであるノイゲンET−83(HLB 6.4、ポリオキシエチレン部分の平均分子量3,870)、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンのブロックポリマーであるエパン410(HLB 6.0、疎水基の分子量1,200・・・これに親水基の分子量が加わったものが活性剤の分子量)などがあるが、これらに限るものではない。
【0018】
前記エマルション処理剤添加工程は、前記分離工程までに前記エマルション処理剤の有効成分が前記廃液全体に対して0.05質量%以上5質量%になるように、前記エマルション処理剤を前記廃液に添加する工程とすることが好ましい。
本発明のエマルション処理剤を廃液に添加し攪拌した後に、静置すると、嵩高いへドロは減容し、上部が洗浄液層、中央部が減容したヘドロ層(このヘドロ層にインキ顔料成分が含まれる。エマルション処理剤の効果が十分なときは、ヘドロ層は消失しインキ顔料微粒子の堆積層となる)下部が水層の3層に分離するが、前記3成分(有機系洗浄液、インキ顔料、及び水)の分離時間は、エマルション処理剤濃度と相関性があり、基本的には添加濃度が高いほうが処理時間は短縮される。廃液によって多少の差はあるが、十分なヘドロ減容効果を得るためには、エマルション処理剤の添加量を少なくとも0.05質量%とする必要がある。
一方、エマルション処理剤の添加量が5質量%を超えると、エマルション処理剤処理費用アップや、さらに洗浄廃液を強攪拌した場合に、エマルション処理剤自体によって水層の中に洗浄剤が再乳化する場合があり、好ましくない。
【0019】
なお、本発明のエマルション処理剤は低めのHLBを持つから、有機溶剤への溶解性があり、再生洗浄液中にも溶解しているため、再生洗浄液を使用してブランケット洗浄を行った後の廃液再生の際には、新たにエマルション処理剤を廃液に対して0.05質量%〜5質量%加える必要はないことは言うまでも無い。そのような場合は、前期適正濃度範囲以下になった場合に、不足分を補充すれば良い。
なおエマルション処理剤の廃液中の濃度管理方式としては、再生処理前の廃液中あるいは再生後の再生洗浄液中のエマルション処理剤濃度をモニターし、最適濃度範囲を下回りそうになったら補充する方式が好ましい。濃度モニターの方法としては、一定時間毎に化学分析する方法、一定時間または連続的に再生洗浄液の電気伝導率を測定する方法などがあるが、これに限るものではない。
最も簡素な濃度管理方法としては、最適濃度範囲になるようにエマルション処理剤を添加したブランケット洗浄液を最初から使用し、ブランケット洗浄液を補充する場合も、最適濃度範囲になるようにエマルション処理剤を添加したブランケット洗浄液を補充すればよい。
【0020】
本発明のエマルション処理液の添加方法としては、廃液にエマルション処理剤を添加した後、適度に攪拌し、廃液処理装置の重力沈降式の廃液再生容器で静置し分離処理すればよい。すなわち、上記本発明の印刷機の廃液再生方法は、印刷機から排出された前記廃液を前記再生装置に投入するまで該廃液を保管容器中に保管しておく保管工程を有し、該保管工程中において、前記エマルション処理剤添加工程を行い、前記廃液及び前記エマルション処理剤を含む液を攪拌し、前記保管工程の後に、前記再生装置において前記分離工程を行うこととしてもよい。あるいは、上記本発明の印刷機の廃液再生方法は、印刷機から排出された前記廃液を前記再生装置に投入するまで該廃液を保管容器中に保管しておく保管工程を有し、前記保管工程と前記分離工程との間において、前記保管容器と前記再生容器との間に設けられた廃液流路のいずこかで前記エマルション処理剤を前記廃液に添加し、前記廃液及び前記エマルション処理剤を含む液をそれ自身の流れで攪拌することにより前記エマルション処理剤添加工程を行うこととしてもよい。
従って、エマルション処理剤は、印刷機から排出された前記廃液を再生装置に投入するまで保管しておく保管容器中の廃液に添加してもよく、また、廃液貯留容器から廃液再生容器内の重力沈降層の間の廃液流路のどこかで、廃液に添加しても良い。
【0021】
あるいは、印刷機から排出される洗浄廃液の受け入れ槽に本発明のエマルション処理剤を添加しても良い。すなわち、上記本発明の印刷機の廃液再生方法において、前記エマルション処理剤添加工程は、前記エマルション処理剤を、印刷機から排出される廃液を受け入れる廃液受け入れ槽に添加する工程であってもよい。
この廃液受け入れ槽は、各印刷ユニット毎に設けられた廃液受け入れ槽でもよく、また各印刷ユニットから排出される洗浄廃液を集合して受け入れる廃液受け入れ槽でもよい。さらにまた、廃液受け入れ槽内の洗浄廃液は強く攪拌されるような状況でもよく、逆に攪拌はほとんどない(廃液がタンク内に液が流入することによる液の流動程度を指す)ような状況でも、差し支えない。
【0022】
本発明の廃液再生装置は、インキ顔料、有機系洗浄剤、及び水を含む廃液を再生する廃液再生装置であって、前記廃液を一定時間滞留させ該廃液を重力沈降によって再生洗浄液、インキ顔料、及び水に分離する再生容器と、前記再生容器に隣接して設けられ、該再生容器内で分離された再生洗浄液を回収する再生液貯留容器と、前記再生容器に隣接して設けられ、該再生容器内で分離された再生水を回収する回収水貯留容器と、前記再生容器の下方に設けられ、内部にインキ顔料回収フィルタを備えた濾過器と、該濾過器からの濾液を重力沈降によって再生洗浄液と水に分離する濾液分離容器とを有する装置とすることができる。
【0023】
この廃液再生装置を用いれば、バッチ方式又は連続方式により印刷機の廃液再生方法を行うことができる。バッチ方式によりインキ顔料、有機系洗浄剤、及び水を含む廃液を再生する廃液再生方法では、前記廃液を前記廃液再生装置に投入する工程と、前記廃液再生装置を用いて前記廃液を再生洗浄液、インキ顔料、及び水に分離する工程とが、バッチ方式で行われる。
【0024】
連続方式によりインキ顔料、有機系洗浄剤、及び水を含む廃液を再生する廃液再生方法では、前記廃液を前記廃液再生装置に供給する工程と、前記廃液再生装置を用いて前記廃液を再生洗浄液、インキ顔料、及び水に分離する工程とが、連続方式で同時に行われる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、インキ顔料、有機系洗浄液、及び水の3成分が混在した印刷機の洗浄廃液を単一の装置で容易に分離することができる。すなわち、エマルションを破壊する機能とインキ顔料を凝集させる機能を少なくとも有する物質(以後、エマルション処理剤と記す)を前記洗浄廃液に添加することで、上記3成分を含む洗浄廃液が強く攪拌された場合に生じる洗浄液成分と水から主としてなるエマルションが凝集した嵩高いヘドロ状物質の発生を防止する、あるいは発生した嵩高いヘドロの容積を1/5以下、好ましくは1/10以下に減容できるため、廃液の攪拌状態に関わらず重力沈降法により上部が洗浄液層、下部が水層で洗浄液と水の界面のインキ顔料層の3成分として速やか且つ効率よく分離することが可能となる。
【0026】
さらに、印刷機の洗浄廃液の静置により上部が洗浄液層、下部が水層で洗浄液と水の界面のインキ顔料層の3成分として分離した廃液から顔料を取り除くために濾過する場合も、本発明のエマルション処理剤を洗浄廃液に添加することで、微粒子状態で存在しているインキ顔料粒子が凝集して粗大化し、濾過が極めて容易になるため、処理速度の向上が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面および実施例により、本発明の実施の形態について説明する。
[廃液再生装置]
図1は本発明の廃液再生装置を示すもので、図1はその廃液再生装置の側面方向から見た模式的な断面図である。
図1に示すように、この廃液再生装置1には、廃液を一定時間滞留させ該廃液を重力沈降によって再生洗浄液3と水2に分離する廃液再生容器5と、該廃液再生容器5内で分離された再生洗浄液である再生液を回収する再生洗浄液貯留容器6と、該廃液再生容器内で分離された再生水を回収する回収水貯留容器7と、該廃液再生容器の下方に配置され、内部にインキ顔料回収フィルタ8を備えた濾過タンク(濾過器及び濾液分離容器)9とが備えられている。
【0028】
まず、本発明の廃液再生装置1をバッチ方式で用いる場合について説明する。
廃液再生容器5の側部に設けられ、この廃液再生容器5とこれに隣接する回収水貯留容器7との間の流路を開閉する開閉弁11、及び廃液再生容器5の底部に設けられた開閉弁12を閉じ、廃液再生容器5に廃液を投入する廃液投入管13に設けられた開閉弁14を開いた後、この廃液投入管13からエマルション処理剤が添加された洗浄廃液15を廃液再生容器5内に送り込む。廃液再生容器5と再生液貯留容器6の間の壁16を洗浄廃液15がオーバーフローして、廃液再生容器5に隣接する再生液貯留容器6や回収水貯留容器7に流れ込む前に洗浄廃液15の送液を止めて、廃液投入管13に設けられた開閉弁14を閉じる。
その後、廃液再生容器5内で洗浄廃液15を静置することにより、洗浄廃液15は再生洗浄液3、インキ顔料4、及び水2に分離する。図1には、再生洗浄液3、インキ顔料4、及び水2が分離された状態を示している。
【0029】
分離に要する時間はエマルション処理剤添加量と相関するため、処理時間を短くしたい時は、適正添加量の範囲でエマルション処理剤の添加量を増加させればよい。大まかな目安としては、ヘドロ状物質がある場合でも廃液に対するエマルション処理剤濃度0.2質量%となるように添加して数時間静置すれば分離できる場合が多い。しかし、洗浄液及びインキの種類によって差はあるため、夫々のケースについて、処理時間との関係でエマルション処理剤の添加量を決めればよい。エマルション処理剤を添加しなければ、ヘドロ状物質がある場合は廃液を廃液再生容器5内で一晩静止しても分離できないことは言うまでもない。
【0030】
再生洗浄液3、インキ顔料4、水2が分離されたら、廃液再生容器5の底部に設けられた開閉弁12を開き、濾過タンク9に分離した廃液を流し落とす。このとき、分離した3成分が再び混合してしまうことを避けるために、勢いよく流し落とすことは避けることが好ましい。分離した状態で流し落とされた廃液は、濾過タンク9内に設けられたフィルタ8によって濾過される。エマルション処理剤の顔料凝集作用でインキ顔料4は嵩高い凝集体18となっているため、インキ顔料4の凝集体18は濾過タンク9内のフィルタ8を目詰まりさせることなくフィルタ8上に濾し取られ、水2と再生洗浄液3は速やかに濾出されて濾過タンク9に貯蔵される。
【0031】
濾過後、濾過タンク9に貯蔵された水と再生洗浄液の界面が安定したら、濾過タンク9の下部に接続する抜き出し管20を開閉するための開閉弁21を開き、濾過タンク9の側壁の一部を構成する透明の覗き窓22から前記界面の位置を確認しながら、抜き出し管20から濾過タンク9に貯蔵された水を抜き出す。前記界面が抜き出し管20の開閉弁21に接近し、再生洗浄液が抜き出し管20に差し掛かったら、この開閉弁21を閉じる。抜き出し管20より抜き出され、回収された水は、必要によっては適切な処理をした後、廃棄すればよい。
【0032】
次に抜き出し管20の開閉弁21を開いて、抜き出し管20から出てくる再生洗浄液を適当な容器(図示略)に移す。容器に移された再生洗浄液は、印刷機の洗浄に再利用すればよい。
上記のような濾過操作を何回か繰り返して、フィルタ8の濾過速度が遅くなってきた時点で、濾過タンク9からフィルタ8を取り外し、新しいフィルタ8と交換する、あるいはフィルタ8上に溜まったインキ顔料を除去した後、再び濾過タンク9にフィルタ8を取り付けるなどの対応をすれば良い。
上記の操作を終了したら、再び同じ操作を繰り返し、バッチ方式で洗浄廃液15の再生処理を繰り返せばよい。
【0033】
次に、本発明の廃液再生装置1を連続方式で用いる場合について説明する。
廃液再生容器5の底部に設けられた開閉弁12及び廃液投入管13に設けられた開閉弁14を閉じ、廃液再生容器5と回収水貯留容器7との間の流路を開閉するように廃液再生容器5側部に設けられた開閉弁11と、再生洗浄液貯留容器6の下部に接続された再生洗浄液流出管25を開閉する開閉弁26と、回収水貯留容器7の側部に接続された回収水流出管28を開閉する開閉弁29とを開く。次に、回収水流出管28の入り口から水が多少流出するまで廃液再生容器5に水を蓄える。水は廃液再生容器5上部の蓋30を取って、上から入れてもよい。
【0034】
次に前記の水の上に洗浄液層を形成する。すなわち、廃液再生容器5と再生液貯留容器6の間の壁16を洗浄液がわずかにオーバーフローする程度まで、先に入れた水と混合しないように廃液再生容器5内に静かに洗浄液を注ぎこむ。この洗浄剤は新しいものでも良いが、再生した洗浄剤でもよい。
この後、廃液投入管13に設けられた開閉弁14を開き、廃液投入管1313からエマルション処理剤が添加された洗浄廃液15を廃液再生容器5内に徐々に送り込む。この時の洗浄廃液15の送液速度は、廃液再生容器5内部で洗浄廃液15が再生洗浄液3、インキ顔料4、水2の3成分に分離するのに必要な滞留時間となるような送液速度とする必要がある。廃液再生容器5内で滞留する間に、洗浄廃液15は再生洗浄液3、インキ顔料4、水2に分離する。再生洗浄液3は、廃液再生容器5と再生洗浄液貯留容器6の間の壁16をオーバーフローして再生洗浄液貯留溶液6に流れ込む。一方、水2は廃液再生容器5の側部に設けられた開閉弁11を通過して回収水貯留容器7に流れ込む。
【0035】
連続方式で洗浄廃液15を再生する際には、再生洗浄液流出管25と回収水流出管28のそれぞれの開閉弁26、28は開けておき、再生洗浄液貯留容器6及び回収水貯留容器7にそれぞれ回収された再生洗浄液および水が、それぞれ貯蔵される貯蔵容器(図示略)に流れ込むようにしておくと良い。再生洗浄液は再び印刷機の洗浄液として再利用すればよい。回収水は必要によって適切な処理をした後、廃棄すればよい。
【0036】
ここで、分離に要する時間、すなわち必要な滞留時間は、エマルション処理剤添加量と相関するため、処理時間を短くしたい時は、適正添加量の範囲でエマルション処理剤の添加量を増加させればよい。大まかな目安としては、廃液再生容器5の容量が20リットルの場合、ヘドロ状物質がある場合でも廃液に対するエマルション処理剤濃度0.2質量%とすると、廃液の送液速度2.5リットル/時間(滞留時間8時間)で処理ができる場合が多いが、洗浄液、インキの種類によって差はあるため、夫々のケースについて、処理時間との関係を確認すればよい。エマルション処理剤を添加しなければ、ヘドロ状物質がある場合は廃液を廃液再生容器内で滞留時間を24時間としても処理できないことは言うまでもない。
【0037】
洗浄廃液15の再生処理を進めていくと、インキ顔料4は廃液再生容器5内部の再生洗浄液3と水2の界面に蓄積されていくため、インキ顔料4がある程度蓄積した時点で、洗浄廃液15の再生処理を一度中断し、インキ顔料4の排出を行う必要がある。このインキ顔料排出操作を以下に説明する。
廃液再生容器5の側部に設けられた開閉弁11と廃液投入管13に設けられた14を閉じた後、廃液再生容器5の底部に設けられた開閉弁12を開き、廃液再生容器5内部に残留している再生洗浄液3、インキ顔料4、及び水2を濾過タンク9に流し落とす。このとき、分離した3成分が再び混合してしまうことを避けるために、勢いよく流し落とすことは避けることが好ましい。流し落とされた再生洗浄液3、インキ顔料4、及び水2は、濾過タンク9内に設けられたフィルタ8によって濾過される。エマルション処理剤の顔料凝集作用でインキ顔料4は嵩高い凝集体18となっているため、インキ顔料4の凝集体18は濾過タンク9内のフィルタ8を目詰まりさせることなくフィルタ8上に濾し取られ、水2と再生洗浄液3は速やかに濾出されて濾過タンク9に貯蔵される。
【0038】
濾過後、濾過タンク9に貯蔵された水と再生洗浄液の界面が安定したら、濾過タンク9の下部に接続する抜き出し管20を開閉するための開閉弁21を開き、濾過タンク9の側壁の一部を構成する透明の覗き窓22から前記界面の位置を確認しながら、抜き出し管20から濾過タンク9に貯蔵された水を抜き出す。前記界面が抜き出し管20の開閉弁21に接近し、再生洗浄液が抜き出し管20に差し掛かったら、この開閉弁21を閉じる。抜き出し管20より抜き出され、回収された水は、必要によって適切な処理をした後、廃棄すればよい。
次に抜き出し管20の開閉弁21を開いて、抜き出し管20から出てくる再生洗浄液を適当な容器(図示略)に移す。容器に移された再生洗浄液は、再生洗浄液流出管25から回収された再生洗浄液と一緒に印刷機の洗浄に再利用すればよい。
【0039】
上記のような濾過操作を何回か繰り返して、フィルタ8の濾過速度が遅くなってきた時点で、濾過タンク9からフィルタ8を取り外し、新しいフィルタ8と交換する、あるいはフィルタ8上に溜まったインキ顔料を除去した後、再び濾過タンク9にフィルタ8を取り付けるなどの対応をすれば良い。
上記の操作を終了したら、再び同じ操作を繰り返し、連続方式で洗浄廃液15の再生処理を繰り返せばよい。
【0040】
[洗浄廃液(模擬廃液)]
以下のインキと洗浄液、および水を混合して模擬廃液を調製し廃液再生テストを実施した。
(インキ)
1)ハイエコーMZ(東洋インキ製造株式会社製)
2)ジオスーGN(大日本インキ化学工業株式会社製)
3)スーパーテックプラスH(株式会社ティーアンドケイ東華製)
4)ダイアトーンM(サカタインクス株式会社製)
5)セルボY(東京インキ株式会社製)
【0041】
(洗浄液)
1)ダイクリーン(大日本インキ化学工業株式会社製)
2)オートクリーン(日研化学株式会社製)
3)ブラクリンS(ニッカ株式会社製)
4)プリントクリーナ(東洋インキ製造株式会社製)
5)スーパークリーン(ザ・インクテック株式会社製)
【0042】
[実施例1]
ハイエコーMZの藍、紅、黄、墨の4色のインキを均等に混合して、ダイクリーンで顔料濃度2質量%に希釈し、さらに顔料を分散した洗浄液と同量の水を加えて、模擬廃液を20kg調製した。この模擬廃液をホモジナイザー(商品名 ULTRA TURRAX Disperser T−50、MASUDA製)で15分攪拌した後、10分間静置したが、模擬廃液全体が洗浄液と水からなるエマルションと推定される物質(流動性が低く、特に下部は弾力のあるゼリー状である。以後、「ヘドロ状物質」と記載する)になっており、洗浄液層や水層は目視で確認できなかった。この状態の模擬廃液を模擬廃液201とする。図2に、模擬廃液201の構成図を示す。
この模擬廃液201にエマルション処理剤としてニューポールPE−61((HLB 1.8〜2.0、ポリオキシプロピレン部分の平均分子量1,750、三洋化成製)を模擬廃液201に対して0.05質量%となるように添加した。
【0043】
このエマルション処理剤を添加した模擬廃液211(20リットル)を、廃液投入管13から廃液再生装置1の廃液再生容器5内にポンプで4リットル/時の送液速度で送液した。廃液再生容器5と再生液貯留容器6の間の壁16を模擬廃液211がオーバーフローする前に模擬廃液211の送液を止めて、廃液投入管13に設けられた開閉弁14を閉じた後、模擬廃液211を廃液再生容器5内で8時間静置した。図3は、エマルション処理剤を添加し、攪拌後、8時間静置した模擬廃液221の状態を示す模式図である。
この8時間静置後の模擬廃液221を、廃液再生容器5の底部に設けられた開閉弁12を半開にして、濾過タンク9にゆっくり流し落とし、約5分で20リットルの液を濾過した。
【0044】
覗き窓22から濾過タンク9内を観察し、濾過後15分で濾過タンク9の回収水と再生洗浄液の界面が安定したため、抜き出し管20の開閉弁21を開いた。廃液再生容器5に設けられた覗き窓22から前記界面の位置を確認しながら抜き出し管20から回収水を抜き出した。前記界面が抜き出し管20の開閉弁21に接近し、再生洗浄液が抜き出し管20に差し掛かったところで、この開閉弁21を閉じた。回収水は回収水用貯蔵容器に受け入れ、必要に応じて生物学的酸素要求量(BOD)や化学的酸素要求量(COD)の基準値を満たすように廃水処理をした後、廃棄した。
【0045】
次に抜き出し管20の開閉弁21を開いて、抜き出し管20から出てくる再生洗浄液を再生洗浄液用貯蔵容器に受け入れ、印刷機の洗浄に再利用した。
上記のような模擬廃液を5回繰り返し処理した。5回目の再生処理における濾過時間は初回再生処理の濾過時間に比べて約2倍の濾過時間を要したため、濾過タンク9からフィルタ8を取り外し、新しいフィルタ8と交換した。
このようにして5回の再生処理で回収された再生洗浄液は約47リットル、再生水は約48リットル、インキ顔料(液を含む湿潤な状態)は約0.35kgであった。
【0046】
本実施例の処理方法によれば、重力沈降および濾過操作だけで再生処理できない嵩高いヘドロ状物質を含有する洗浄廃液に、エマルション処理剤を添加することで、バッチ方式により重力沈降と濾過操作で洗浄液、インキ顔料、回収水に分離でき再生処理することが可能となる。すなわち、本実施例の処理方法では、処理嵩高いヘドロ状物質を含有する洗浄廃液を有機系洗浄液、インキ顔料、及び水に分離する時間を短縮できるとともに、最終的に分離された洗浄液は再利用が可能であり、廃棄されるインキ顔料の容積も減容するため、廃棄処理コストを含む印刷機のランニングコストの低減ができる。
また、本実施例の処理方法は、エマルション処理剤を添加する以外は、洗浄廃液の分離に電力などのエネルギーを使用しないため、環境にやさしい処理方法である。
【0047】
[比較例1]エマルション処理剤の添加なし
実施例1において、模擬廃液201にエマルション処理剤としてニューポールPE−61(三洋化成製)を添加しなかった以外は、同様にして模擬廃液201を処理した。
静置8時間後、廃液再生容器5の底部に設けられた開閉弁12を半開にして、濾過タンク9に廃液をゆっくり流し落とした。最初1分ほどで約1リットルほどの濾液(再生洗浄剤と回収水の合計)がタンク内に溜まったが、その後はフィルタ8が目詰まりを起こし、8時間たっても濾液は2リットル程度であり、20リットルの廃液は8時間では濾過処理できなかった。
【0048】
[実施例2]
実施例1と同じ模擬廃液201に対してエマルション処理剤としてニューポールPE−61((HLB 1.8〜2.0、ポリオキシプロピレン部分の平均分子量1,750、三洋化成製)を0.2質量%添加した液を、模擬廃液211とした。
廃液再生容器5の底部に設けられた開閉弁12、14を閉じ、開閉弁11を26、29を開いた後、廃液再生容器5上部の蓋30を取って、回収水流出管28の入り口から水が多少流出するまで廃液再生容器5に水を蓄えた。
次に廃液再生容器5と再生液貯留容器6の間の壁16を洗浄液がわずかにオーバーフローする程度まで、先に入れた水と混合しないように廃液再生容器5内に静かに新しい洗浄液を注ぎこんだ。
【0049】
この後、開閉弁14を開き廃液投入管13からエマルション処理剤が添加された前記模擬廃液211の50リットルを廃液再生容器5内に2.5リットル/時間の送液速度で連続的に送り込んだ。廃液再生容器5に送り込まれた模擬廃液211は廃液再生容器5に滞留する間に再生洗浄液、インキ顔料、及び水に分離された。
再生洗浄液は、廃液再生容器5と再生洗浄液貯留容器6の間の壁16をオーバーフローして再生洗浄液貯留溶液6に流れ込み、更に再生洗浄液流出管25から流出させて再生洗浄液用貯蔵容器に貯蔵した。再生できた洗浄液の量は約24リットルであった。
【0050】
一方、水は廃液再生容器5側部の開閉弁11を通過して回収水貯留容器7に流れ込み、更に回収水流出管28から流出させて回収水用貯蔵容器に受け入れた。回収水は約24.5リットルで、下水に排出できる水質であることを分析により確認した後、排水した。
インキ顔料は廃液再生容器5内に残留していたが、模擬廃液211の処理を続けることは可能であった。しかし、残留しているインキ顔料の量を確認するため、以下の手順でインキ顔料を排出した。
廃液再生容器5側部の開閉弁11及び廃液投入管13の開閉弁14を閉じた後、廃液再生容器5底部の開閉弁12を半開にして、廃液再生容器5に残留している再生洗浄液、インキ顔料、水を濾過タンク9にゆっくり流し落とし、濾過した。
【0051】
覗き窓22から濾過タンク9内を観察し、濾過終了後15分で濾過タンク9の回収水と再生洗浄液の界面が安定したため、抜き出し管20の開閉弁21を開いた。廃液再生容器5に設けられた覗き窓22から前記界面の位置を確認しながら抜き出し管20から回収水を抜き出した。前記界面が抜き出し管20の開閉弁21に接近し、再生洗浄液が抜き出し管20に差し掛かったところで、この開閉弁21を閉じた。回収水は回収水用貯蔵容器に受け入れ、上記と同様にして排水した。
次に抜き出し管20の開閉弁21を開いて、抜き出し管20から出てくる再生洗浄液を再生洗浄液用貯蔵容器に受け入れ、印刷機の洗浄に再利用した。
その後、濾過タンク9からフィルタ8を取り外し、湿潤状態のインキ顔料の重量を測ったところ約0.18kgであった。なお、濾過タンク9には新しいフィルタ8を装着した。
【0052】
本実施例の処理方法によれば、重力沈降および濾過操作だけで再生処理できない嵩高いヘドロ状物質を含有する洗浄廃液に、エマルション処理剤を添加し、連続方式の重力沈降で、洗浄液、インキ顔料、回収水に分離でき洗浄液を再生処理することが可能となる。すなわち、本実施例の処理方法では、処理嵩高いヘドロ状物質を含有する洗浄廃液を有機系洗浄液、インキ顔料、及び水に連続処理で、かつ短時間で分離できるとともに、最終的に分離された洗浄液は再利用が可能であり、廃棄されるインキ顔料の容積も減容するため、廃棄処理コストを含む印刷機のランニングコストの低減ができる。
また、本実施例の処理方法は、エマルション処理剤を添加する以外は、洗浄廃液の分離に電力などのエネルギーを使用しないため、環境にやさしい処理方法である。
【0053】
[比較例2]エマルション処理剤の添加なし
実施例2において、模擬廃液201にエマルション処理剤としてニューポールPE−61(三洋化成製)を添加しなかった以外は、同様にして模擬廃液201を処理した。
開閉弁14を開き廃液投入管13からエマルション処理剤が添加されてない模擬廃液201を廃液再生容器5内に2.5リットル/時間の送液速度で連続で送り込んだ。送液開始後約4時間後に、本来透明な再生洗浄液が流出してくるはずの再生洗浄液流出管25から洗浄廃液(模擬廃液201)そのものが流出してきたため、その時点で送液をストップした。廃液再生容器5の蓋30を外して廃液再生容器5内部を観察すると、廃液再生容器内部はヘドロ状物質で充満しており、洗浄液、インキ顔料、水への分離は全く出来てないことを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】廃液再生装置の一例を示す模式断面図である。
【図2】実施例及び比較例で再生処理した模擬廃液の、エマルション処理剤を添加しない状態を示す模式図である。
【図3】実施例で再生処理した模擬廃液にエマルション処理剤を添加し、攪拌後、8時間静置した状態を示す模式図である。
【図4】沈降法で用いられる従来の廃液再生装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 廃液再生装置
2 水
3 再生洗浄液
4 インキ顔料
5 廃液再生容器
6 再生洗浄液貯留容器
7 回収水貯留容器
8 インキ顔料回収フィルタ
9 濾過タンク
11 開閉弁
12 開閉弁
13 廃液投入管
14 開閉弁
15 洗浄廃液
16 壁
18 インキ顔料の凝集体
20 抜き出し管
21 開閉弁
22 覗き窓
25 再生洗浄液流出管
26 開閉弁
28 回収水流出管
29 開閉弁
30 蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキ顔料、有機系洗浄液、及び水を含む廃液を、再生容器を有する再生装置に投入して再生する廃液再生方法であって、
前記再生容器において前記廃液を、重力沈降を利用して再生洗浄液、インキ顔料、及び水に分離する分離工程を有し、
前記分離工程より前に、水と洗浄液から主としてなるエマルションを破壊しかつインキ顔料粒子を凝集させるエマルション処理剤を前記廃液に添加するエマルション処理剤添加工程を有することを特徴とする、印刷機の廃液再生方法。
【請求項2】
前記エマルション処理剤が、非イオン性界面活性剤を主成分とすることを特徴とする、請求項1に記載の印刷機の廃液再生方法。
【請求項3】
前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレン鎖を構造の一部として有する共重合体であり、HLBが10以下であることを特徴とする、請求項2に記載の印刷機の廃液再生方法。
【請求項4】
前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレン鎖を構造の一部として有する共重合体であり、HLBが8以下であることを特徴とする、請求項2に記載の印刷機の廃液再生方法。
【請求項5】
前記非イオン性界面活性剤の質量平均分子量が1200以上であることを特徴とする、請求項2から請求項4のいずれかに記載の印刷機の廃液再生方法。
【請求項6】
前記エマルション処理剤添加工程が、前記分離工程までに前記エマルション処理剤の有効成分が前記廃液全体に対して0.05質量%以上5質量%になるように、前記エマルション処理剤を前記廃液に添加する工程であることを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれかに記載の印刷機の廃液再生方法。
【請求項7】
印刷機から排出された前記廃液を前記再生装置に投入するまで該廃液を保管容器中に保管しておく保管工程を有し、
該保管工程中において、前記エマルション処理剤添加工程を行い、前記廃液及び前記エマルション処理剤を含む液を攪拌し、
前記保管工程の後に、前記再生装置において前記分離工程を行うことを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれかに記載の印刷機の廃液再生方法。
【請求項8】
印刷機から排出された前記廃液を前記再生装置に投入するまで該廃液を保管容器中に保管しておく保管工程を有し、
前記保管工程と前記分離工程との間において、前記保管容器と前記再生容器との間に設けられた廃液流路のいずこかで前記エマルション処理剤を前記廃液に添加し、前記廃液及び前記エマルション処理剤を含む液をそれ自身の流れで攪拌することにより前記エマルション処理剤添加工程を行うことを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれかに記載の印刷機の廃液再生方法。
【請求項9】
前記エマルション処理剤添加工程が、前記エマルション処理剤を、印刷機から排出される廃液を受け入れる廃液受け入れ槽に添加する工程であることを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれかに記載の印刷機の廃液再生方法。
【請求項10】
インキ顔料、有機系洗浄剤、及び水を含む廃液を再生する廃液再生装置であって、
前記廃液を一定時間滞留させ該廃液を重力沈降によって再生洗浄液、インキ顔料、及び水に分離する再生容器と、
前記再生容器に隣接して設けられ、該再生容器内で分離された再生洗浄液を回収する再生液貯留容器と、
前記再生容器に隣接して設けられ、該再生容器内で分離された再生水を回収する回収水貯留容器と、
前記再生容器の下方に設けられ、内部にインキ顔料回収フィルタを備えた濾過器と、
該濾過器からの濾液を重力沈降によって再生洗浄液と水に分離する濾液分離容器とを有することを特徴とする、印刷機の廃液再生装置。
【請求項11】
インキ顔料、有機系洗浄剤、及び水を含む廃液を再生する廃液再生方法であって、
前記廃液を請求項10に記載の廃液再生装置に投入する工程と、
前記廃液再生装置を用いて前記廃液を再生洗浄液、インキ顔料、及び水に分離する工程とを、バッチ方式で行うことを特徴とする印刷機の廃液再生方法
【請求項12】
インキ顔料、有機系洗浄剤、及び水を含む廃液を再生する廃液再生方法であって、
前記廃液を前記請求項10に記載の廃液再生装置に供給する工程と、
前記廃液再生装置を用いて前記廃液を再生洗浄液、インキ顔料、及び水に分離する工程とを、連続方式で同時に行うことを特徴とする印刷機の廃液再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−222710(P2007−222710A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43808(P2006−43808)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】