説明

印刷版及び缶の印刷装置

【課題】レーザー彫刻加工しても画像部に歪みを生じることなく精細な画像形成が可能であり、高いインキ転移性を有し、印刷の精度を高めることができる印刷版及び缶の印刷装置を提供する。
【解決手段】樹脂層3をレーザー彫刻加工して画像部を形成した印刷版10であって、前記樹脂層3は、前記画像部が配置される表面層5と、前記表面層5の内側に積層され、前記表面層5とは異なる硬度の支持層4と、を備え、少なくとも2層以上からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂層をレーザー彫刻加工して画像部を形成した印刷版及びこれを用いた缶の印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ダンボールなどの紙製品や包装フィルム等の印刷には、フレキソ印刷なる版式が多く用いられており、例えば特許文献1,2に開示されるものが知られている。
フレキソ印刷は、印刷版の表層部分に柔軟(フレキシブル)な樹脂層を備えており、この樹脂層に三次元の凹凸を形成し、該凹凸の凸部(画像部)にインキを着肉させた後、ダンボール等の被印刷体にインキを転写させて印刷するようになっている。このようなフレキソ印刷によれば、印刷時の印圧を低く設定でき、ベタ部分のインキ掠れが少なく、網点部分が精細に表現可能であり、近年様々な物品の印刷に用いられている。
【0003】
フレキソ印刷の印刷版の素材としては、一般に感光性樹脂からなるものが採用されている。感光性樹脂を用いて印刷版を製作するには、まず、感光性樹脂上にネガフィルムを設置し、ネガフィルムを介して感光性樹脂に露光して架橋反応を起こさせた後、非架橋部分を現像液で洗い流し(現像工程)、さらに後露光して機械的強度を上げ、画像部を形成する。このようなフレキソ印刷版は凸版であるから、凸版印刷全般、例えばブランケットを介して印刷対象物に画像を転写するオフセット印刷用版材にも使用可能であり、オフセット印刷方式をとる缶印刷にも転用できる。
【0004】
また近年では、印刷版の製作に現像工程が不要な、レーザー彫刻加工による画像形成の技術が提案されている。これは、印刷版に直接レーザー彫刻加工を施して画像部を形成するものであり、加工用のレーザーとしては、例えば炭酸ガス(CO)レーザーやYAGレーザー等が用いられる。
【0005】
レーザー彫刻加工を用いて画像形成するには、例えば図3に示すように、略円柱状の印刷版胴20の外周に沿うように予め印刷版21をロール状に配設した状態で、印刷版胴20をその中心軸C周り、すなわち周方向(副走査方向)Rに回転させながら、レーザーを中心軸Cと平行な方向(主走査方向)Sに移動させ、レーザー光線Lをパルス照射して行うことができる。
【0006】
このようなレーザー彫刻加工によれば、現像工程を用いた従来の画像形成に比べて、網点部分をよりシャープエッジに成形でき、精細な画像部を形成することが可能である。すなわち、従来の露光・現像工程を用いて画像部を形成した場合のように、画像部の周縁部分がダレたり、曲がって形成されたりするようなことが抑制されるため、より精度の高い画像形成を行うことができる。また、このようなレーザー彫刻加工によれば、樹脂層の硬度の設定による影響を受けにくく、安定した彫刻が可能である。
【0007】
特に被印刷体として、缶等、表面が比較的滑らかに形成される物品が用いられる場合には、その画像部の網点面積率が1%程度に設定されるケースがあり、より精細な画像形成技術が要求されるため、このようなレーザー彫刻加工が採用されている。
【特許文献1】特開2005−326722号公報
【特許文献2】特開2007−185917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、レーザーを用いて印刷版を彫刻した場合に、彫刻で加熱された樹脂層が熱膨張・収縮して、形成した画像部が歪むことがあった。特に、画像部として細い線や小さな点を成形する際には、この症状が見受けられやすかった。すなわち、例えば図3、図4に示すように、印刷版21上に、副走査方向Rに延びる細い線状の凸条22aと、主走査方向Sに延びる細い線状の凸条22bとを交差させるようにして略T字状に配置した画像部を形成する場合、レーザー彫刻加工されたこれら凸条22a,22bの交差部分近傍において、湾曲状の歪みが生じることがあった。
【0009】
このような歪みの発生を防止するために、樹脂層の硬度を高めて、熱膨張・収縮による歪みを抑制する方法が考えられるが、硬度を高めると、インキ付けローラから印刷版へ、または印刷版から印刷物(被印刷体)若しくはブランケットへのインキ転移性が低減してしまうという別の問題が生じる。すなわち、樹脂層の硬度を高めると、インキ転移性が低い分、インキの盛りを上げる必要が生じ、それによる汚れの問題や、高精度印刷への障害となり、好ましくない。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたもので、レーザー彫刻加工しても画像部に歪みを生じることなく精細な画像形成が可能であり、高いインキ転移性を有し、印刷の精度を高めることができる印刷版及び缶の印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち本発明は、樹脂層をレーザー彫刻加工して画像部を形成した印刷版であって、前記樹脂層は、前記画像部が配置される表面層と、前記表面層の内側に積層され、前記表面層とは異なる硬度の支持層と、を備え、少なくとも2層以上からなることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る印刷版によれば、樹脂層の積層する表面層と支持層との各々の硬度を適宜調整することで、印刷時にかかる印圧やレーザー彫刻加工時の熱膨張・収縮に対する強度と、画像部のインキ転移性と、を具備した優れた版を提供することができる。また、樹脂層は、レーザー彫刻加工を用いて彫刻されているので、硬度の異なる2層(表面層、支持層)を備えた構成であっても、安定して精度よく彫刻することができる。
【0013】
また、本発明の印刷版において、前記支持層は、前記表面層より硬度が高く設定されていることとしてもよい。
【0014】
本発明の印刷版によれば、樹脂層は、硬度の高い支持層と、硬度は低いがインキ転移性に優れる表面層とが積層して形成されているので、印刷版にレーザー彫刻加工が施された際、硬度の高い支持層によって表面層の画像部の熱膨張・収縮に起因する歪みが防止され、特に画像部として細い線や小さな点が成形される場合にも、確実に歪みを抑制する。また、インキが盛られる画像部が配置される表面層は、インキ転移性が充分に確保されているので、低いインキの盛りでもインキ掠れ等を生じさせることがなく、精度の高い印刷が可能である。
【0015】
また、前記支持層の硬度が、ショア硬度(A)で80以上とされ、前記表面層の硬度が、ショア硬度(A)で70以下とされていることとしてもよい。
本発明によれば、支持層の硬度をショア硬度(A)で80以上に設定し、表面層の硬度をショア硬度(A)で70以下に設定しているので、前述の効果をより確実に奏功することができる。
【0016】
また、本発明の印刷版において、前記樹脂層をレーザー彫刻加工して形成した非画像部の深さが、前記表面層の厚み寸法より大きく、かつ、前記表面層の厚み寸法及び前記支持層の厚み寸法の和より小さく設定されていることとしてもよい。
【0017】
本発明によれば、樹脂層をレーザー彫刻加工して形成される画像部と非画像部とのうち、非画像部の深さ、すなわち画像部の表面から非画像部の底部までの長さは、表面層の厚み寸法よりも大きく設定されているので、例えば網点部分に密集してドット部が形成されるような場合であっても、ドット部同士の間にインキが目詰まりするようなことがなく、精細かつ精度の高い印刷が可能である。
【0018】
さらに、非画像部の深さは、表面層の厚み寸法及び支持層の厚み寸法の和よりも小さく設定されているので、レーザー彫刻加工された非画像部の最深部分の底部が、確実に支持層内に形成されるようになっている。ここで、予め支持層の硬度を高く設定しておけば、印刷時に印刷版にかかる印圧をこの支持層が支持し強度を確保することができるので、印圧の影響による画像部の歪みが防止され、印刷の精度が向上する。
【0019】
また、本発明の印刷版において、前記表面層と前記支持層とは、互いに異なる色に設定されていることとしてもよい。
【0020】
本発明によれば、積層される表面層と支持層とを互いに異なる色に設定しているので、樹脂層をレーザー彫刻加工した後の作業者の目視による検版工程において、形成された画像部と非画像部との判別が容易になり、作業性が飛躍的に向上する。すなわち、彫刻される加工の深さが僅か0.5mm程度であるにも関わらず、従来は、樹脂層が単層(単色)で形成されていたため、検版工程における画像部と非画像部との判別がしにくく作業性が妨げられていたが、本発明を用いることによりこの問題が解消する。
【0021】
また本発明は、印刷版を用いて缶に印刷する印刷装置であって、前述の印刷版を用いたことを特徴とする。
本発明に係る缶の印刷装置によれば、精細で多種多様な缶の印刷の要望に柔軟に対応することが可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る印刷版及び缶の印刷装置によれば、レーザー彫刻加工しても画像部に歪みを生じることなく精細な画像形成が可能であり、高いインキ転移性を有し、印刷の精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る印刷版をレーザー彫刻加工する前の概略構成を示す部分断面図、図2は本発明の一実施形態に係る印刷版の概略構成を示す部分断面図、図3は従来の印刷版へのレーザー彫刻加工を説明する概略斜視図、図4は従来の印刷版へレーザー彫刻加工を施して形成された画像部の形状を説明する部分拡大図、図5は本発明の一実施形態に係る印刷版を用いた缶の印刷装置を示す概略図である。
【0024】
本実施形態の印刷版10は、印刷のための樹脂層を備えるとともに、凸版印刷、例えばオフセット印刷若しくは低印圧で印刷可能なフレキソ印刷に用いられるものであり、また印刷する被印刷体としては、被印刷面に凹凸が少なく滑らかな曲面状に形成されるとともに金属材料等からなる缶を対象としている。
【0025】
図1に示すように、本実施形態の印刷版10は、印刷の図柄となる画像部を形成する前の印刷版10aとして、ベースフィルム(基材)2の上面(図1における上方側)に、樹脂層3が積層されたものを用いている。樹脂層3は、基材2の上面に配置される支持層4と、この支持層4に支持されるようにして該支持層4の上面に積層し印刷のためのインキが盛られる表面層5と、の2層で形成されている。
【0026】
樹脂層3の材料としては、レーザー彫刻加工が可能なものであればよく、例えば、天然ゴム、シリコンゴム、エチレン−プロピレンゴム、固体状感光性樹脂又は液体状感光性樹脂等を用いることができる。特に、印刷版10aの生産性や印刷品質の確保の観点から鑑み、固体状又は液体状感光性樹脂を採用しこれら感光性樹脂を硬化させて印刷版10aとすることが、より好ましい。すなわち、これら感光性樹脂を用いて樹脂層3とした場合には、後述するようにして印刷版胴20の外周に沿って印刷版10aを配設するにあたり、ロール状に成形しやすく、また製造プロセスが容易となる。
【0027】
樹脂層3の支持層4は、その積層方向(図1における上下方向)の厚み寸法taが、0.3mm〜1.2mm程度とされており、またその硬度がショア硬度(A)で80以上に設定されている。また、樹脂層3の表面層5は、その積層方向の厚み寸法tbが、0.2mm〜0.3mm程度とされており、その硬度がショア硬度(A)で70以下に設定されている。すなわち、表面層5の硬度が、支持層4の硬度よりも低くなるように設定されている。
【0028】
また、樹脂層3全体としての厚み寸法(ta及びtbの和)は、0.5mm〜1.5mm程度とされている。また、支持層4と表面層5とは、互いに異なる色に設定されている。すなわち、例えば支持層4が白色系で形成されるとともに、表面層5が青色系で形成されていて、目視した際の色の違いが容易に認識できるようになっている。
【0029】
このような印刷版10aに画像部を形成して、図2に示す印刷版10とするには、図3に示す従来の印刷版21と同様に、略円柱状の印刷版胴20の外周に沿うようにして予め印刷版10aをロール状に配設した状態で、印刷版胴20をその中心軸C周り、すなわち周方向(副走査方向)Rに回転させながら、例えば炭酸ガス(CO)レーザーを用いて中心軸Cと平行な方向(主走査方向)Sに移動させ、レーザー光線Lをパルス照射することにより、画像部を形成すればよい。このようなレーザー彫刻加工によれば、樹脂層3として感光性樹脂を用いる場合であっても、従来のように現像工程を行うような必要がなく、作業性に優れ、また網点部分を精度よくシャープエッジに成形できるので、より精細な印刷が行える。
【0030】
尚、印刷版胴20に印刷版10aを直接配設せずに、略円筒状のスリーブ(不図示)の外周に沿うようにして印刷版10aを配設しておき、該スリーブをその中心軸周りに回転させながらレーザー彫刻加工した後、印刷版10aをスリーブごと印刷版胴20の外周面に嵌挿して配設するようにしても構わない。
【0031】
また、図2に示すように、印刷版10aにレーザー彫刻加工を施して画像部を形成した印刷版10には、均一な色付けを目的とした画像部の領域であるベタ部分6と、微細レリーフ等の精細な色付けを目的とした画像部の領域である網点部分7とが存在している。ベタ部分6には、レーザー彫刻加工が殆ど施されておらず、インキの盛られる画像部が略平滑に形成されている。また、網点部分7は、レーザー彫刻加工が細かく施されて凹凸状に形成されており、略円錐状の複数のドット部9がその先端を外方側(図2における上方側)に突出させるように延びていて、これら各ドット部9の先端部分が画像部とされている。
【0032】
これらベタ部分6の画像部及び網点部分7のドット部9の画像部は、共に表面層5内に配置されている。また、ベタ部分6の周縁部分及び網点部分7のドット部9の側面部分は、夫々が基材2側(図2における下方側)へ向かうに従い漸次幅広となるテーパ状の傾斜面に形成されており、該傾斜面の下端は支持層4内に配置されている。
【0033】
また、網点部分7のドット部9の先端部分(画像部)の高さは、ベタ部分6の画像部の配置される高さよりも、寸法hだけ僅かに低く設定されている。これは、印刷時に、ベタ部分6にインキ掠れを生じさせない程度に充分な印圧を確保させるとともに、この印圧により網点部分7のドット部9にドットゲイン(網点太り現象)を生じさせないようにするための寸法設定であって、例えばこの寸法hが、0.1mm程度とされている。
【0034】
また、レーザー彫刻加工により彫刻された画像部以外の領域は、非画像部8とされている。非画像部8は、その樹脂層3の厚み方向の深さHが、印刷版10全体の領域に亘って略同一となるように設定されている。すなわち、例えば、複数のドット部9が密集して配置される網点部分7に着目した場合、隣り合うドット部9同士の幅狭のピッチ寸法Dに対応するようにしてこれらドット部9の側面部分の傾斜面が比較的急勾配に形成されるとともに、ドット部9同士の間の最深部分の底部が前記深さHを確保して、形成されている。
【0035】
また、非画像部8の深さHは、表面層5の厚み寸法tbよりも大きく、かつ、表面層5の厚み寸法tb及び支持層4の厚み寸法taの和よりも小さく設定されている。そして、例えばこの深さHが、0.4mm〜0.8mm程度とされている。すなわち、非画像部8の深さHの底部は、表面層5内や基材2内に形成されることなく、必ず支持層4内に形成されるようになっている。
【0036】
次に、本発明の印刷版10を用いた缶の印刷装置50について説明する。
図5に示すように、この缶の印刷装置50は、インキ付着機構51と、缶移動機構52とを有している。
インキ付着機構51は、印刷される各色それぞれに設けられる複数のインカーユニット55と、各インカーユニット55から転写されたインキをサイズコート膜が形成された略円筒状のワーク(缶)56の外周面に転写するブランケットホイール57とを備えている。
【0037】
インカーユニット55は、印刷される色のインキが充填されたインキ源61と、インキ源61と接触してインキを受け取るダクティングローラ62と、このダクティングローラ62からゴムローラ63にインキを受け渡す複数のローラからなる中間ローラ64と、ゴムローラ63に接触する印刷版胴20とを有する。この印刷版胴20の外周には、レーザー彫刻加工して画像部を形成したロール状の印刷版10が配設されており、また印刷版胴20は缶の印刷装置50のシャフト部(不図示)に回転可能に支持されている。
また、ブランケットホイール57の外周面には、印刷版胴20の印刷版10と接触するブランケット66が複数枚設けられている。
【0038】
缶移動機構52は、ワーク56を取り入れる缶シュータ67と、缶シュータ67から供給されたワーク56を回転自在に保持するマンドレル68と、このマンドレル68に装着されたワーク56を順次インキ付着機構51方向に回転移動させるマンドレルターレット69とを備える。
【0039】
缶の印刷装置50では、各インカーユニット55のインキ源61からそれぞれ異なる色のインキが、ダクティングローラ62、中間ローラ64及びゴムローラ63を介して印刷版胴20の外周面に配設される印刷版10に付着する。そして、各インキが、これら印刷版10から回転するブランケットホイール57上のブランケット66にパターンとして乗せられ、このパターンがマンドレル68に保持されたワーク56の缶胴に接触しながら印刷される。そして、これら各色のインキのパターンが重なり合って、缶胴に1つの図柄が印刷されるようになっている。すなわち、缶胴に印刷される図柄は、各色の印刷版胴20の印刷版10の画像部のパターンが重なり合って形成されている。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の印刷版10によれば、樹脂層3が表面層5と支持層4とを積層した2層からなり、また、支持層4の硬度が高く、表面層5の硬度が低く設定されているので、印刷版10aにレーザー彫刻加工が施された際、硬度の高い支持層4によって熱膨張・収縮に起因する歪みが良好に防止され、特に表面層5の画像部に細い線や小さな点が成形される場合であっても、支持層4が確実に前記歪みを抑制するようになっている。また、画像部が配置される表面層5は、硬度が低く設定されていて、充分にインキ転移性が確保されているので、低いインキの盛りでも印刷時にインキ掠れ等を生じさせることがなく、精度の高い印刷が可能となる。
【0041】
また、本実施形態のように、支持層4の硬度をショア硬度(A)で80以上に設定し、表面層5の硬度をショア硬度(A)で70以下に設定した場合には、前述の効果をより確実に奏功することができ、好ましい。すなわち、支持層4の硬度をショア硬度(A)で80未満に設定した場合、画像部として例えば線太さ0.2mm程度の細線からなる略枠状若しくは略梯子状の画像形状をレーザー彫刻加工した際に、細線同士の交点部分近傍に歪みが生じる虞がある。また、表面層5の硬度をショア硬度(A)で70を超えて設定した場合には、ベタ部分6にインキ掠れが生じる虞がある。また、支持層4の硬度を、ショア硬度(A)で90以上に設定した場合には、より一層前記歪みが防止されるので望ましい。
【0042】
また、レーザー彫刻加工により彫刻される非画像部8の深さHは、表面層5の厚み寸法tbよりも大きく設定されているので、例えば網点部分7に密集してドット部9が形成されるような場合であっても、これらドット部9同士の間にインキが目詰まりするようなことがなく、従ってより精細かつ精度の高い印刷が可能である。
【0043】
さらに、深さHは、表面層5の厚み寸法tb及び支持層4の厚み寸法taの和よりも小さく設定されているので、非画像部8の底部が確実に支持層4内に形成されるようになっている。ここで、本実施形態では支持層4の硬度が高く設定されているので、印刷時に、印刷版10にかかる印圧をこの支持層4が確実に支持することとなり、印圧の影響による印刷歪みが防止され、印刷の精度がより向上する。
【0044】
また、樹脂層3は、その表面層5と支持層4とを互いに異なる色に設定しているので、レーザー彫刻加工された後の作業者の目視による検版工程において、画像部と非画像部8との判別が容易となり、作業性が飛躍的に向上する。
【0045】
また、本実施形態では、このように形成される印刷版10を缶の印刷装置50に用いることとしているので、多種多様かつ精細な缶の印刷の要望に柔軟に対応することが可能である。
【0046】
尚、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、本実施形態では、印刷版10を用いて缶の印刷を行うこととして説明したが、これに限定されるものではなく、缶以外にも種々様々な物品からなる被印刷体の印刷に用いることが可能である。
【0047】
また、本実施形態の印刷版10は、予め印刷版胴20の外周にロール状に配設された印刷版10aをレーザー彫刻加工することとして説明したが、これに限らずに、例えば平板状の印刷版にレーザー彫刻加工して形成した後、この印刷版を印刷版胴20の外周にロール状に形成して配設しても構わない。すなわち、印刷版10のインキの盛られる樹脂層3が、本実施形態のように表面層5と支持層4とを積層して備える構成であればよい。
また、レーザー彫刻加工して形成した平板状の印刷版10を、ロール状に形成せずに、平板状のまま印刷に用いることとしても構わない。
【0048】
また、本実施形態では、COレーザーを用いてレーザー彫刻加工することとして説明したが、これに限らず、例えばそれ以外の、YAGレーザー、半導体レーザー、紫外線レーザー、エキシマーレーザー又は銅蒸気レーザー等を用いてレーザー彫刻加工することとしても構わない。また、本実施形態ではレーザー光線Lをパルス照射することとして説明したが、連続照射して彫刻加工しても構わない。
【0049】
また、樹脂層3の支持層4及び表面層5の配色は、作業者が検版工程での目視において互いの色の違いを認識できるよう設定されていればよく、本実施形態の白色系と青色系との色設定に限定されるものではない。
【0050】
また、本実施形態では、印刷版10は樹脂層3と基材2とを積層して形成されているとして説明したが、これに限られることはなく、例えばこれら樹脂層3と基材2との間に、さらにクッション層を設けることとしたり、基材2の下面側にクッション層を設けたりして構成しても構わない。また、これらクッション層が複数層設けられていても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態に係る印刷版をレーザー彫刻加工する前の概略構成を示す部分断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る印刷版の概略構成を示す部分断面図である。
【図3】従来の印刷版へのレーザー彫刻加工を説明する概略斜視図である。
【図4】従来の印刷版へレーザー彫刻加工を施して形成された画像部の形状を説明する部分拡大図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る印刷版を用いた缶の印刷装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0052】
3 樹脂層
4 支持層
5 表面層
8 非画像部
10,10a 印刷版
50 缶の印刷装置
H 非画像部の深さ
L レーザー光線
ta 支持層の厚み寸法
tb 表面層の厚み寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層をレーザー彫刻加工して画像部を形成した印刷版であって、
前記樹脂層は、前記画像部が配置される表面層と、
前記表面層の内側に積層され、前記表面層とは異なる硬度の支持層と、を備え、
少なくとも2層以上からなることを特徴とする印刷版。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷版であって、
前記支持層は、前記表面層より硬度が高く設定されていることを特徴とする印刷版。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の印刷版であって、
前記支持層の硬度が、ショア硬度(A)で80以上とされ、
前記表面層の硬度が、ショア硬度(A)で70以下とされていることを特徴とする印刷版。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の印刷版であって、
前記樹脂層をレーザー彫刻加工して形成した非画像部の深さが、前記表面層の厚み寸法より大きく、かつ、前記表面層の厚み寸法及び前記支持層の厚み寸法の和より小さく設定されていることを特徴とする印刷版。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の印刷版であって、
前記表面層と前記支持層とは、互いに異なる色に設定されていることを特徴とする印刷版。
【請求項6】
印刷版を用いて缶に印刷する印刷装置であって、
前記印刷版として、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の印刷版を用いたことを特徴とする缶の印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−190264(P2009−190264A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33264(P2008−33264)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(305060154)ユニバーサル製缶株式会社 (219)
【Fターム(参考)】