説明

印刷物の真偽判別方法、真偽判別装置及び真偽判別用のプログラム

【課題】 印刷物の真偽判別を行う具体的な方法、装置及びそのプログラムを提供する。
【解決手段】 線画に含まれる画線の少なくとも一部が分断画線に置き換えられて情報が埋め込まれた印刷物の真偽判別を行う装置であって、線画を読み取って画像データを出力する読み取り部M1、画像データにフーリエ変換を行ってFFTパターンを生成し、FFTパターンにおける横・縦軸の中心から任意の角度方向に沿って中心からの距離に対する周波数強度を複数の角度方向に沿って求め、求めた複数の周波数強度に平均化処理を行い中心からの距離に対する周波数強度平均値を求め、中心からの距離に対する周波数強度平均値に含まれる複数の強度ピーク値を抽出し、複数の強度ピーク値から第1の逆空間距離を求め、第1の逆空間距離を真正な印刷物から取得される第2の逆空間距離と比較して印刷物の真偽判別を行い判別結果を出力する演算部とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物の真偽判別方法、真偽判別装置及び真偽判別用のプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
銀行券、株券、債券等の有価証券、各種証明書、重要書類等の印刷物において、例えば、図14に示されるような模様を有する証券用線画1がある。この証券用線画1は、印刷された細画線2から成る彩紋エレメント3を有しており、これらの細画線2や彩紋エレメント3は人間の視覚で認識できるものである。
【0003】
本願出願人は、このような証券用画線に対し、後述する特許文献1(特開2003−200647「真偽判別可能な印刷物及び判別方法、並びに該印刷物への情報の埋め込み方法」)及び特許文献2(特開2003−246134「真偽判別可能な印刷物及び判別方法、並びに該印刷物への情報の埋め込み方法」)において、真偽判別用の情報を埋め込んだ印刷物について出願している。
【0004】
まず、特許文献1において記載された、証券用線画の一例である彩紋エレメントを用いて複数の情報を埋め込む方法及びその印刷物の構成について説明する。図15に、図14の彩紋エレメント5を構成する複数の細画線の少なくとも一部を、一本おきに、間隔6を130μmに設定した複数の分断画線7から成る分断画線部4と、間隔8を110μmに設定した複数の分断画線9から成る分断画線部10とで置き換えて構成したものを示す。以下、このような情報の埋め込み手法を「アンサンブル法」と称する。この図15に示す複数の分断画線を施した画像からビットマップデータを取得し、このデータにフーリエ変換して得られたFFTパターンを図16に示す。
【0005】
また、特許文献2は、図14の証券用線画1の彩紋エレメント3に基づいて、図17(a)に示す印刷物12を作成する。印刷物12は、彩紋エレメント3を構成する複数の細画線2の少なくとも一部が、それぞれ複数の同じ構成のユニット13から成るユニット画線14で置き換えられ、このユニット画線14で彩紋エレメント3が描画された線画を備えている。以下、このような情報の埋め込み手法を「ユニット法」と称する。すなわち、複数のユニット画線14が集合したユニット画線群15で彩紋エレメント3が表示されている。このユニット画線14は、画線同志の間隔及び方向は原図の細画線2と全く同じである。
【0006】
図17(a)の円内に、ユニット画線14の一部拡大図が示されている。この拡大図中の1本のユニット画線14を、更に拡大して図17(b)に示す。ユニット画線14を構成する各ユニット13A、13B及び13Cは、それぞれ同じ構成を有し、あらかじめ決められた所定の長さ(以下「ユニット長」という。)を有し、複数の分断画線から構成される。具体的には、ユニット13A、13B及び13Cは、それぞれ情報を埋め込む複数の情報用分断画線16と、情報用分断画線16の両側の始端分断画線17及び終端分断画線18とを有する。
【0007】
ところで、ユニット画線14は、複数の同じ構成のユニット13が連続的に繰り返し配置されて構成されるが、互いに隣接するユニット13A及び13Bは、始端分断画線17及び終端分断画線18を共有している。これを図17(b)を用いて説明すると、ユニット13Aの終端分断画線18は、ユニット13Bの始端分断画線17として両ユニット13A及び13Bに共有され、ユニット13Bの終端分断画線18は、ユニット13Cの始端分断画線17として両ユニット13B及び13Cに共有されている。
【0008】
ユニット13は、所定の情報を埋め込むことが可能な構成を備えており、図18に、所定の情報を埋め込んだユニット13の具体的な構成例を示す。このユニット13は、始端分断画線17と終端分断画線18の間に4本の情報用分断画線16〜16が配置されて構成されている。所定の情報は、4本の情報用分断画線16〜16の互いの間隔を適宜決めることで埋め込まれる。
【0009】
あらかじめ埋め込む情報を構成する情報要素(例;数字等の記号)に対応して間隔をあらかじめ決めておく。本実施例1では、情報要素を十進数字とし、対応する間隔の一例を次の表1において示す。この表1中、「*」、「♯」は、それぞれ識別子を表し、その必要性については後述するが、識別子*は、始端分断画線17と情報用分断画線16との間隔に対応するものであり、識別子♯は、終端分断画線18と情報用分断画線16との間隔に対応するものである。
【0010】
【表1】

【0011】
この表1に基づいて、ユニット13について、「831」という十進数字の組合せから成る情報を埋め込むためには、識別子*と情報用分断画線16との間隔を150μm、情報用分断画線16と情報用分断画線16の間隔を70μm、情報用分断画線16と情報用分断画線16との間隔を110μm、情報用分断画線16と情報用分断画線16との間隔を90μm、情報用分断画線16と識別子♯との間隔を160μmにそれぞれ配置すれば良い。
【0012】
この場合のユニット長は、これらの間隔を合計した値である580μmとなる。ユニット画線14は、このような構成の複数のユニット13が、図14に示された原図の細画線2に沿って連続的に繰り返すように配置されて構成される。
【0013】
ここで、ユニット13内に、識別子*及び識別子♯を配置する必要性について説明する。この印刷物は、後述するようにフーリエ変換画像を用いて真偽判別を行う対象物である。しかし、情報「264」をフーリエ変換画像で確認すると対称的に画像が現れるため、数字を入れ替えた情報「462」を埋め込んだ印刷物から取得したフーリエ変換画像と、同じ周波数位置において同じ強度を有することとなり、両者の区別が不可能となる。
【0014】
そこで、このような判別を可能とするために、識別子*を間隔150μmに対応させ、識別子#を間隔160μmに対応させ、情報要素と共に表1に登録し、*は情報の開始を表す識別子、#は情報の終了を表す識別子としてそれぞれ使用するのである。ここで、情報の開始を表す識別子*のみを使用し、情報の終了を表す識別子#を使用しない場合は、すなわち、「*264」と「*462」を比較すると「*264」は「264*」と同等に置き換えることが可能となる。さらに、前述のように反対方向から読むと「*462」となってしまい、「*264」と「*462」とは同じフーリエ変換パターンとなることが分かる。そこで、情報の終了を表す識別子#を用いれば、「*264#」と「*462#」とは同じパターンとならないことから、両者の識別が可能となる。
【0015】
しかし、従来はアンサンブル法により分断画線が用いられて情報が埋め込まれた印刷物、又はユニット法によりユニット画線が用いられて情報が埋め込まれた印刷物に対して、具体的な真偽判別の方法並びに装置を提案するには至っていなかった。
【特許文献1】特開2003−200647号公報
【特許文献2】特開2003−246134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記事情にかんがみ、アンサンブル法やユニット法により情報が埋め込まれた印刷物の真偽判別を行う方法、装置及びそのプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の印刷物の真偽判別を行う装置は、線画に含まれる画線の少なくとも一部が、複数の分断線が画線の長手方向に沿って連続的に配置された分断画線に置き換えられて情報が埋め込まれた印刷物の真偽判別装置であって、分断線の間隔が情報に対応して設定されており、線画を読み取って画像データを出力する読み取り部と、画像データにフーリエ変換を行ってFFTパターンを生成し、FFTパターンにおける横・縦軸の中心から任意の角度方向に沿って、中心からの距離に対する周波数強度を、複数の角度方向に沿って求め、求めた複数の周波数強度に平均化処理を行い、中心からの距離に対する周波数強度平均値を求め、中心からの距離に対する周波数強度平均値に含まれる複数の強度ピーク値を抽出し、複数の強度ピーク値から第1の逆空間距離を求め、第1の逆空間距離を、真正な印刷物から取得される第2の逆空間距離と比較して、印刷物の真偽判別を行い判別結果を出力する演算部とを備えることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の印刷物の真偽判別を行う装置は、線画に含まれる画線の少なくとも一部が、複数のユニットが画線の長手方向に沿って連続的に配置されたユニット画線に置き換えられて情報が埋め込まれた印刷物の真偽判別装置であって、ユニット画線は、画線の長手方向に対し直交する方向に延び、かつ、画線の長手方向に沿って並列配置された複数の分断線から成り、分断線のうち隣接する分断線がなす間隔が情報に対応して設定されており、線画を読み取って画像データを出力する読み取り部と、 画像データにフーリエ変換を行ってFFTパターンを生成し、FFTパターンにおける横・縦軸の中心から任意の角度方向に沿って、中心からの距離に対する周波数強度を、複数の角度方向に沿って求め、求めた複数の周波数強度に平均化処理を行い、中心からの距離に対する周波数強度平均値を求め、 中心からの距離に対する周波数強度平均値に含まれる複数の強度ピーク値を抽出し、抽出した複数の強度ピーク値の間の平均距離を算出し、平均距離から実空間距離に相当する第1のユニット長を算出し、平均距離のi(iは整数)倍の数値を算出し、平均距離のi倍の数値における第1の強度をそれぞれ求め、平均距離のi倍の数値間の中間値における第2の強度をそれぞれ求め、それぞれの第1の強度から、対応する第1の強度と第2の強度との平均値を差し引いた第1の差分を算出し、第1のユニット長と、真正な印刷物から取得される第2のユニット長と比較し、さらに差分と真正な印刷物から取得される第2の差分とを比較して、印刷物の真偽判別を行い判別結果を出力する演算部とを備えることを特徴とする。
【0019】
本発明の印刷物の真偽判別を行う方法は、線画に含まれる画線の少なくとも一部が、複数の分断線が画線の長手方向に沿って連続的に配置された分断画線に置き換えられて情報が埋め込まれた印刷物を、読み取り部、演算部を有する真偽判別装置を用いて真偽判別を行う方法であって、分断線の間隔が情報に対応して設定されており、読み取り部により、線画を読み取って画像データを出力するステップと、演算部により、画像データにフーリエ変換を行ってFFTパターンを生成するステップと、 演算部により、FFTパターンにおける横・縦軸の中心から任意の角度方向に沿って、中心からの距離に対する周波数強度を、複数の角度方向に沿って求めるステップと、演算部により、求めた複数の周波数強度に平均化処理を行い、中心からの距離に対する周波数強度平均値を求めるステップと、演算部により、中心からの距離に対する周波数強度平均値に含まれる複数の強度ピーク値を抽出するステップと、演算部により、複数の強度ピーク値から第1の逆空間距離を求めるステップと、演算部により、第1の逆空間距離を、真正な印刷物から取得される第2の逆空間距離と比較して、印刷物の真偽判別を行い判別結果を出力するステップとを備えることを特徴とする。
【0020】
本発明の印刷物の真偽判別を行う方法は、線画に含まれる画線の少なくとも一部が、複数のユニットが画線の長手方向に沿って連続的に配置されたユニット画線に置き換えられて情報が埋め込まれた印刷物を、読み取り部、演算部を有する真偽判別装置を用いて真偽判別を行う方法であって、ユニット画線は、画線の長手方向に対し直交する方向に延び、かつ、画線の長手方向に沿って並列配置された複数の分断線から成り、分断線のうち隣接する分断線がなす間隔が情報に対応して設定されており、 読み取り部により、線画を読み取って画像データを出力するステップと、演算部により、画像データにフーリエ変換を行ってFFTパターンを生成するステップと、演算部により、FFTパターンにおける横・縦軸の中心から任意の角度方向に沿って、中心からの距離に対する周波数強度を、複数の角度方向に沿って求めるステップと、演算部により、求めた複数の周波数強度に平均化処理を行い、中心からの距離に対する周波数強度平均値を求めるステップと、演算部により、中心からの距離に対する周波数強度平均値に含まれる複数の強度ピーク値を抽出するステップと、演算部により、抽出した複数の強度ピーク値の間の平均距離を算出するステップと、演算部により、平均距離から実空間距離に相当する第1のユニット長を算出するステップと、演算部により、平均距離のi(iは整数)倍の数値を算出するステップと、演算部により、平均距離のi倍の数値における第1の強度をそれぞれ求めるステップと、演算部により、平均距離のi倍の数値間の中間値における第2の強度をそれぞれ求めるステップと、演算部により、それぞれの第1の強度から、対応する第1の強度と第2の強度との平均値を差し引いた第1の差分を算出するステップと、演算部により、第1のユニット長と、真正な印刷物から取得される第2のユニット長と比較し、さらに差分と真正な印刷物から取得される第2の差分とを比較して、印刷物の真偽判別を行い判別結果を出力するステップとを備えることを特徴とする。
【0021】
本発明の印刷物の真偽判別用のプログラムは、線画に含まれる画線の少なくとも一部が、複数の分断線が画線の長手方向に沿って連続的に配置された分断画線に置き換えられて情報が埋め込まれた印刷物の真偽判別をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、分断線の間隔が情報に対応して設定されており、線画を読み取って画像データを出力するステップと、画像データにフーリエ変換を行ってFFTパターンを生成するステップと、FFTパターンにおける横・縦軸の中心から任意の角度方向に沿って、中心からの距離に対する周波数強度を、複数の角度方向に沿って求めるステップと、求めた複数の周波数強度に平均化処理を行い、中心からの距離に対する周波数強度平均値を求めるステップと、中心からの距離に対する周波数強度平均値に含まれる複数の強度ピーク値を抽出するステップと、複数の強度ピーク値から第1の逆空間距離を求めるステップと、第1の逆空間距離を、真正な印刷物から取得される第2の逆空間距離と比較して、印刷物の真偽判別を行い判別結果を出力するステップと、を備えることを特徴とする。
【0022】
本発明の印刷物の真偽判別用のプログラムは、線画に含まれる画線の少なくとも一部が、複数のユニットが画線の長手方向に沿って連続的に配置されたユニット画線に置き換えられて情報が埋め込まれた印刷物の真偽判別をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、ユニット画線は、画線の長手方向に対し直交する方向に延び、かつ、画線の長手方向に沿って並列配置された複数の分断線から成り、分断線のうち隣接する分断線がなす間隔が前記情報に対応して設定されており、読み取り部により、線画を読み取って画像データを出力するステップと、演算部により、画像データにフーリエ変換を行ってFFTパターンを生成するステップと、演算部により、FFTパターンにおける横・縦軸の中心から任意の角度方向に沿って、中心からの距離に対する周波数強度を、複数の角度方向に沿って求めるステップと、演算部により、求めた複数の周波数強度に平均化処理を行い、中心からの距離に対する周波数強度平均値を求めるステップと、演算部により、中心からの距離に対する周波数強度平均値に含まれる複数の強度ピーク値を抽出するステップと、演算部により、抽出した複数の強度ピーク値の間の平均距離を算出するステップと、演算部により、平均距離から実空間距離に相当する第1のユニット長を算出するステップと、演算部により、平均距離のi(iは整数)倍の数値を算出するステップと、演算部により、平均距離のi倍の数値における第1の強度をそれぞれ求めるステップと、演算部により、平均距離のi倍の数値間の中間値における第2の強度をそれぞれ求めるステップと、演算部により、それぞれの第1の強度から、対応する第1の強度と第2の強度との平均値を差し引いた第1の差分を算出するステップと、演算部により、第1のユニット長と、真正な印刷物から取得される第2のユニット長と比較し、さらに差分と真正な印刷物から取得される第2の差分とを比較して、印刷物の真偽判別を行い判別結果を出力するステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の印刷物の真偽判別を行う方法、装置及びそのプログラムによれば、アンサンブル法やユニット法により情報が埋め込まれた印刷物の真偽判別を行う具体的な方法、装置並びにプログラムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0025】
本実施の形態による印刷物の真偽判別方法及びその装置について説明する。本装置は、図1に示されたように、光学スキャナ等の読み取り部M1、操作パネル等の入力部M2、CRT、液晶パネル、プリンタ等の表示部M3、通信インターフェースM4、記憶部M6、さらに変換部M5a、解析部M5b、判定部M5cを有する演算部M5を備えている。
【0026】
演算部M5は、真偽判別処理に必要な演算のすべてを行うもので、フーリエ変換等を行う変換部M5a、画像データの解析等の処理を行う解析部M5b、印刷物の真偽を判定する判定部M5cを有し、記憶部M6、通信インターフェースM4、読み取り部M1、入力部M2、表示部M3に接続されている。
【0027】
読み取り部M1は、真偽判別の対象となる印刷物の画像を読み取って画像データを取得するものである。取得された画像データは、演算部M5を介して記憶部M6に転送され記憶される。
【0028】
入力部M2は、真偽判別の処理に必要なデータを入力し、演算部M5に転送するものである。
【0029】
表示部M3は、入力部M2に入力されたデータや、演算部M5が真偽判別を行った結果等の表示を行うものである。
【0030】
通信インターフェースM4は、真偽判別に必要なデータ、例えば真正な印刷物に関する基準値等を取得するため、図示されていないコンピュータ端末に接続されているものである。
【0031】
記憶部M6は、演算部M5から与えられた各種データや判別結果を記憶するものである。
【0032】
本実施の形態による印刷物の真偽判別方法は、図1に示された真偽判別装置を用いて、図2、図3、図9、図12のフローチャートに示された処理ステップによって実行されるものである。
【0033】
図2に示されたように、ステップf1として、アンサンブル法又はユニット法で情報が埋め込まれた印刷物を、光学式スキャナ等の読み取り部M1を用いて、例えば、1200dpiというような高解像度で、1024×1024ピクセルの画像サイズで読み取りを行う。
【0034】
ステップf2として、ステップf1で読み取られた高解像度画像を変換部M5aにてフーリエ変換し、FFTパターンを作成する。
【0035】
ステップf3として、ステップf2で作成されたFFTパターンに対し、解析部M5bにより周波数の強度の抽出を行う。このとき、FFTパターンの中心から縦軸乃至横軸に至る複数の角度方向に沿って、中心からの距離に対する周波数の強度の抽出を行う。
【0036】
ステップf4において、ステップf3で得られた周波数の強度を用いて解析部M5bが平均強度の算出を行う。FFTパターンの周波数の強度は、中心からの角度方向によってばらつきがある。複数の角度方向に沿う周波数の強度に対し、中心からの距離毎に平均化処理を行うことで、角度に依存しない平均強度を取得することができる。
【0037】
ステップf5として、ステップf1で読み取られた印刷物がアンサンブル法又はユニット法のいずれかにより情報が埋め込まれているかに応じて、入力部M2からの入力に従って選択する。又は、その両方に対して順に真偽判別を行っても良い。両方の方式に対して真偽判別を行う場合は、まず一方の方式で真偽判別を行い、不適合、すなわち、真正な印刷物でないと判定された場合に引き続いて、さらに他方の方式で真偽判別を行うという手順を経ていく。以下、アンサンブル法により情報が埋め込まれた印刷物に対する真偽判別処理と、ユニット法により情報が埋め込まれた印刷物に対する真偽判別処理とに分けて説明を行う。
【0038】
図3に、アンサンブル法で情報が埋め込まれた印刷物に対する真偽判別処理の手順を示す。ステップf8において、ステップf4で得られた平均強度における特徴的な強度ピークを複数個抽出する。なお、特徴的な各強度ピークの数i(iは、2以上の整数)は、アンサンブル法によって埋め込まれている情報によって異なる。
【0039】
ステップf9として、解析部M5bが各強度ピークの実測逆空間距離q[i]を算出し、記憶部M6にこの実測逆空間周波数q[i]の値を格納する。ここで、実測逆空間距離における「実測」とは、真偽判別の対象となっている印刷物を実測して得られた数値であることを表す。これに対し、真偽判別の処理において比較対象となる真正な印刷物から理論上算出して得られた数値は、例えば「真正逆空間距離」と称する。また、「逆空間距離」とは、印刷物の画像データにフーリエ変換を行って得られたFFTパターン上における距離を意味する。印刷物上で実測して得られた距離は、「実空間距離」と称する。ここで、フーリエ変換の性質上、逆空間距離と実空間距離とは相互に逆数の関係にある。
【0040】
ステップf10において、真正な印刷物に関する設定値を、入力部M2、演算部M5を介して記憶部M6に記憶する。ここで設定値とは、真正実空間距離であり、アンサンブル法では、一例として図15に示された分断画線7における間隔6(130μm)、分断画線4における間隔8(110μm)が相当する。
【0041】
ステップf11において、解析部M5bが設定値を用いて、真正な印刷物における強度ピークの真正逆空間距離とその整数倍の値pa、pd、pc[i]を算出し、記憶部M6に格納する。
【0042】
ステップf12として、判定部M5cが、真偽判別の対象としての印刷物の強度ピークの実測逆空間距離q[i]と、真正な印刷物の強度ピークの真正逆空間距離p[i]との照合を行う。
【0043】
ステップf13において、判定部M5cが、実測逆空間距離q[i]と真正逆空間距離p[i]との差が、所定の幅の範囲内にあるか否か、すなわち、近似度の判定を行う。両者の差が所定の幅の範囲内にあり、近似度が高いと判定された場合は、判定部M5cが適合と判断してステップf14へ移行する。ステップf14として、表示部M3が、真偽判別の対象となっている該印刷物は適合である旨を表示し、終了する。
【0044】
逆に、ステップf13において、両者の差が所定の幅の範囲を超えており、近似度が低いと判定された場合は、判定部M5cが不適合と判断してステップf14へ移行する。ステップf14として、表示部M3が、該印刷物は不適合である旨を表示して、終了する。
【0045】
なお、図1に示された読み取り部M1、入力部M2、表示部M3、演算部M5、記憶部M6と同等の機能を備えるコンピュータに、上述した印刷物の真偽判別方法を実行させるためのプログラムを用いて、真偽判別を実現することもできる。
【0046】
本実施の形態によれば、アンサンブル法やユニット法により情報が埋め込まれた印刷物の真偽判別を行うための具体的な方法、装置並びにプログラムが実現される。
【0047】
(実施例1)
アンサンブル法により情報が埋め込まれた本発明の実施例1による印刷物に対して真偽判別を行う場合の処理の手順について説明する。ここで、アンサンブル法は上述したように、図15に示すように、例えば彩紋エレメント5を構成する複数の細画線を、一本おきに、間隔6を、例えば、130μmに設定した複数の分断画線7から成る分断画線部4と、間隔8を、例えば、110μmに設定した複数の分断画線9から成る分断画線部10とで置き換えて構成するものである。
【0048】
まず、図2に示されたステップf1において、印刷物1の彩紋エレメント5を読み取り部M1で1200dpiの高解像度により1024×1024ピクセルの画像サイズで読み取りを行い画像データを取得する。この画像データに、図2に示されたステップf2においてフーリエ変換し、図16に示すFFTパターン11を得る。
【0049】
また、図2に示されたステップf3において、FFTパターンにおける周波数の強度の抽出を行う。このとき図4に示すように、FFTパターンの中心から横軸乃至縦軸方向に沿って、中心からの距離である計測長さD、例えば、本実施例では、512ピクセルの長さDに対する空間周波数の強度の抽出を行う。本実施例1では、0度以上180度未満の範囲で0.2度単位の角度を刻んで計測し、それぞれの角度方向における空間周波数の強度を取得する。
【0050】
さらに、図2に示されたステップf4において平均強度を算出する。図5に、本実施例1における0度以上180度未満の計測角度の範囲内で0.2度単位の角度方向における計測長さDに対する周波数強度と、各計測長さDにおいて計測角度の平均化を行って得られた平均強度とを示す。なお、0度以上180度未満に設定している根拠は、FFTパターンの特性によるもので、FFTパターンは、2次元座標の象限が原点を中心とした点対称である。すなわち、第I象限と第III象限とが同じで、第II象限と第IV象限とが同じである。このため、0度以上180度未満の範囲で360度すべての範囲での計測を行うことができる。これにより、FFTパターン中に各方向に分散して現れた強度ピークの平均値を取得することができ、空間周波数の強度の特徴を明確に表すことが可能となる。
【0051】
このステップf4の平均化処理は、画像処理による手法を用いて行っても良い。例えば、FFTパターンにアフィン変換によって回転を与えた画像を50%の透明度をもって合成するという処理を幾度か繰り返す手法を用いても良い。より詳細には、まず90度回転させた画像を50%の透明度をもって合成し、更にその合成画像に45度回転させた合成画像を50%の透明度をもって合成し、又、さらにその合成画像に22.5度回転させた合成画像を50%の透明度をもって合成する。このように、回転角度を順に2分の1ずつに減少させて合成させていくことによって、強度ピークの平均値を取得することができる。
【0052】
ここで、情報を印刷物に埋め込むアンサンブル法とユニット法の2つの方式に分けて真偽判別処理を行うため、図2に示されたステップf5の分岐が存在する。ここでは、入力部M2を介してアンサンブル法を選択する。しかし、上述したように、双方の処理を順に行っても良い。
【0053】
次に、図3に示されたステップf8によって、図4に示されたように平均強度における特徴的な複数の強度ピークの抽出が行われる。図6に、平均強度の特徴をグラフにより表示する。このグラフは、計測長さDに対する平均強度Iを表示したものである。これにより、印刷物を読み取って取得した画像データにフーリエ変換を行った際に角度により存在した異方性を解消して均一化し、一次元で評価することができる。すなわち、図15に示されたように細画線の少なくとも一部がアンサンブル法により分断画線7、9に置き換えられた印刷物のFFTパターンから、平均強度Iにおいて一定以上の強度を識別することで、印刷物に埋め込まれた情報を特定することが可能となる。
【0054】
図6に示された計測長さDに対する平均強度Iでは、4つの強度ピークの実測逆空間距離q[1]〜q[4]が確認される。強度ピークによって示される実測逆空間距離は、ピクセル数で表される。ここでは、q[1]=167ピクセル、q[2]=197ピクセル、q[3]=333ピクセル、q[4]=394ピクセルという測定結果が得られる。これらの数値の間には、q[3]はq[1]の約2倍、更にはq[4]はq[2]の約2倍という関係が存在する。これは、FFTパターンにおける特徴として、FFTパターン上に存在する情報、具体的には複数の同心の間に相互に存在する規則性を示すものである。そして、図3に示されたステップf9において、これら算出された数値を記憶部M6に格納する。
【0055】
なお、強度ピークの実測逆空間距離q[i]を求める際には、図7に示されたような条件が用いられる。まず、平均強度Iを計測長さの軸で順に評価した場合、例えばI[a]<I[b]<I[c]>I[d]>I[e]の条件に一致するとき、I[c]が最も強度が高いことがわかる。又は、I[a]≦I[b]≦I[c]≧I[d]≧I[e]の条件に一致するときは、I[b]、I[c]、I[d]の辺りの強度が高い状態を示している。本実施例1では、このような条件式をもって強度ピークの抽出を行っているが、強度ピークの位置する実測逆空間距離q[i]を調べる手法は、この限りではない。
【0056】
また、印刷物に埋め込まれた情報が真正なものであるか否かを判定するため、FFTパターンから計測された各強度ピークの実測逆空間距離q[i]が、真正な情報から取得される値と比較して一致しているか否かを判定する処理が必要である。まず、図3に示されたステップf10において、真正な印刷物における実空間距離、すなわち、現実の分断画線間の距離を示す設定値を、入力部M2を介して入力し記憶部M6に記憶する。本実施例1では、3種類の真正実空間距離に相当する設定値として、Aタイプの分断画線間の距離を示す設定値110μm、Bタイプの分断画線間の距離を示す設定値130μm、Cタイプの分断画線間の距離を示す設定値150μmを用意する。
【0057】
ここで、これらの設定値は、入力部M2を介して真偽判別処理の開始時に入力するものであるか、又はプリセットによりあらかじめ設定されたものであるかは作業性により決定され、本発明では何ら限定するものではない。
【0058】
次に、図3に示されたステップf11において、設定値が用いられて真正逆空間距離pとその整数倍の真正逆空間距離p[i]とが算出され、記憶部M6に格納される。ここで倍数の真正逆空間距離p[i]を求めるのは、上述したようにFFTパターンには複数の同心円が相互に倍数の関係を有するという特徴が存在することに対応するものである。また、逆空間距離は実空間距離の逆数の関係にある。このため、真正実空間距離、すなわち、ここでは設定値をd、FFTパターンの縦横ピクセル数をa、光学式スキャナの読み取り解像度をRとしたとき、式(1)により真正逆空間距離p[i]のピクセル数を求めることができる。なお、真正実空間距離の単位はμm、解像度はインチ換算とする。
【0059】
【数1】

【0060】
この演算の結果、Aタイプの分断画線における距離を示す設定値(110μm)を用いたときの真正逆空間距離は、197ピクセルとなった。よって、その整数倍として1倍をp[1]=197ピクセル、2倍をp[2]=394ピクセル、3倍をp[3]=591ピクセルという演算結果が記憶部M6に格納される。併せて、Bタイプの設定値を用いたときの真正逆空間距離は、167ピクセルとなった。そこで、その整数倍として1倍をp[1]=167ピクセル、2倍をp[2]=333ピクセル、3倍をp[3]=501ピクセルという演算結果が記憶部M6に格納される。さらに、Cタイプの設定値を用いたときの真正逆空間距離は、144ピクセルとなった。よって、その整数倍として1倍をp[1]=144ピクセル、2倍をp[2]=288ピクセル、3倍をp[3]=432ピクセルという演算結果が記憶部M6に格納される。なお、図3におけるp[i]という表記は、p[i]、p[i]、p[i]をすべて含むものとする。
【0061】
また、図3に示されたステップf12によって、記憶部M6に格納された、真偽判別の対象としての印刷物のFFTパターンから得た強度ピークの実測逆空間距離q[i]と、真正な印刷物における真正逆空間距離p[i]との照合が行われる。本実施例1では、実測逆空間距離q[1]と真正逆空間距離p[1]とが共に167ピクセルであるため一致したことが確認される。また、実測逆空間距離q[2]と真正逆空間距離p[1]とが共に197ピクセルであるため、一致が確認される。さらに、実測逆空間距離q[3]と真正逆空間距離p[2]が共に333ピクセルであるため一致したことが確認される。又、さらに、実測逆空間距離q[4]と真正逆空間距離p[2]がいずれも394ピクセルであるため一致したことが確認される。この結果、図3ステップf13で実測逆空間距離q[i]と真正逆空間距離p[i]における近似度の判定により、実測されたFFTパターンには、Aタイプの分断画線とBタイプの分断画線とが存在することが明らかとなった。
【0062】
次に、図3に示されたステップf13において近似度の判定にて適合と判断された場合、ステップf14において表示部M3に適合であることが表示される。不適合と判断された場合は、ステップf15において不適合であることが表示される。
【0063】
(実施例2)
以下、ユニット法により情報が埋め込まれた実施例2による印刷物について説明する。
【0064】
図14に示された証券用線画1の彩紋エレメント3に基づき、ユニット法を用いて情報を埋め込んで図17(a)に示されたような印刷物12を作成する。印刷物12は、彩紋エレメント3を構成する複数の細画線2の少なくとも一部が、それぞれ複数の同じ構成のユニット13から成るユニット画線14に置き換えられており、このユニット画線14によって彩紋エレメント3が描画されている。
【0065】
なお、本実施例2では、図18に示されたようにユニット13には、「*831#」という情報が施されているとする。上述したように、「*831#」という情報が施される場合には、始端分断画線17と終端分断画線18との間の距離に相当するユニット長は580μmとなる。以下、真偽判別対象となる印刷物から画像データを取得し、フーリエ変換を行って実測逆空間距離を求め、その逆数である実測実空間距離から求めたユニット長をL1とし、真正な印刷物における真正実空間距離としてのユニット長をL2とする。
【0066】
図2に示されたステップf1において、ユニット画線14を読み取り部M1で1200dpiの高解像度による1024×1024ピクセルの画像サイズで読み取りを行う。取得した画像情報に図2におけるステップf2のフーリエ変換処理を行い、図8に示されたようなFFTパターン19を得る。
【0067】
なお、図2に示されたステップf3として、FFTパターンにおける周波数の強度の抽出を行い、ステップf4として平均強度の算出を行う。これらの処理は、上記実施例1におけるものと同様であり、説明を省略する。
【0068】
図2に示されたステップf5において、印刷物に情報を埋め込む際にアンサンブル法とユニット法のいずれを用いたかに応じて、2つの方式分けを行う分岐処理が存在する。ここでは、ステップf7としてユニット法を選択する。しかし、上述したようにアンサンブル法及びユニット法の両方について処理を順に行っても良い。
【0069】
次に、図9に示されたステップf16として、平均強度における特徴的な複数の強度ピークの抽出が行われる。図10に、計測長さDに対する平均強度Iを示す。i(i=1、2、3、…13)個の強度ピークの抽出は、図6を用いて上記実施例1において述べた手法により行うことができるが、他の手法を用いて行っても良い。
【0070】
さらに、図9に示されたステップf17として、各強度ピーク間における計測長さD軸における平均距離qを算出する。本実施例2において、各強度ピーク間の平均距離を求めたところ、約38ピクセルの平均距離が算出された。
【0071】
図9に示されたステップf18において、平均距離qを用いて実測実空間距離としてのユニット長L1が算出される。上述したように、FFTパターンから取得される逆空間距離は、実空間距離と逆数の関係にある。よって、FFTパターン上における縦軸、横軸のピクセル数をa、光学式スキャナの読み取り解像度をRとしたとき、以下の式(2)によってユニット長L1を求めることができる。
【0072】
【数2】

【0073】
なお、実測実空間距離の単位はμm、解像度はインチ換算とする。本実施例2においてユニット長L1を求めたところ、約580μmであった。
【0074】
次に、図9に示されたステップf19において、平均距離qの整数倍q[i]を算出して記憶部M6に格納する。本実施例2では、表2に示すように、平均距離qが約37乃至38ピクセルであり、その整数倍q[i]が実測逆空間距離となる。
【0075】
図9に示されたステップf20において、平均強度Iにおける複数の強度ピークは平均距離qの倍数、すなわち、実測逆空間距離q[i]である。それぞれの実測逆空間距離q[i]上における各強度ピークの最大強度Max[i]を求める。求めた結果を、表2に示す。
【0076】
さらに、図9に示されたステップf21において、実測逆空間距離q[i]の中間値q[i]−q/2を求め、各強度ピークの中間位置にそれぞれ存在する最小強度Min[i]を求める。得られた結果を表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
図9に示されたステップf22として、強度Max[i]から、強度Min[i]と強度Min(i+1)との平均値を差し引いた差分S[i]を算出し、記憶部M6に格納する。この差分S[i]は、ここでは図11に示された値S[3]、S[4]、S[5]、・・・、S[13]に対応する。なお、雑音の多い低周波成分が含まれる値S[1]、S[2]は図11において削除されている。得られた値S[1]〜S[13]を表2に示す。
【0079】
本実施例2による印刷物に埋め込まれた情報が真正なものであるか否かを判断するためには、この印刷物のFFTパターンから計測された各強度ピークの強度の差分S[i]が、真正な印刷物から得られる値と一致するか否かを判断する必要がある。まず、図12に示されたステップf24において、入力部M2によって入力され、又はあらかじめプリセットされた設定値を記憶部M6に格納する。この設定値は、真正な印刷物における実空間距離に対応したユニット長L2であり、本実施例2では、設定値として「*831#」を示すコードを用いる。
【0080】
次に、図12に示されたステップf25として、真正な印刷物に埋め込まれた情報が有するユニット長L2から、真正逆空間距離を算出して記憶部M6に格納する。本実施例2で埋め込んだ情報は、「*831#」であり、表1を参照すると対応するユニット長L2は580μmとなる。これを数2の数式を用いて計算すると、ユニット長L2の真正逆空間距離は、約38μmとなる。
【0081】
図12に示されたステップf26において、真正な印刷物に埋め込まれた情報におけるユニットの識別子*#及び情報用分断画線16〜16の間隔から、FFTパターンにおける各強度ピークの強度I(k)を算出し記憶部M6に格納する。真正な印刷物における強度I(k)は、真偽判別の対象となる印刷物から実測された上記差分S[i]と比較照合されるものであって、差分S[i]を第1の差分とした場合、強度I(k)は第2の差分に相当する。
【0082】
ここで、強度I(k)は、特開平2003−246134号公報に記載されているように、以下の式(3)により求めることができる。
【0083】
【数3】

【0084】
ここで、Nは印刷物の画線全体に存在するユニットの数、nは1つのユニットの中に存在する分断画線の本数、xijはユニット中のi番目の分断画線とj番目の分断画線との間隔をユニット長で規格化した数値を表し、以下の式(4)により与えられるものとする。
【0085】
【数4】

【0086】
さらに、図12に示されたステップf27において、記憶部M6に格納された、真偽判別の対象となっている印刷物から取得したFFTパターンから得られた各強度ピークにおける強度の差分S[i]と、真正な印刷物から算出した強度I(k)との比較照合を行う。
【0087】
併せて、真偽判別の対象物である印刷物のFFTパターンから得た実測実空間距離に相当するユニット長L1と、真正な印刷物から取得した真正実空間距離に相当するユニット長L2との比較照合を行う。
【0088】
図13に、真偽判別対象物である印刷物Bから得た強度の差分S[i]と、真正な印刷物から算出した強度I(k)とを、相対的な比率として示す。なお、上述したように本実施例2では、真正逆空間距離p[1]とq[2]とについては、低周波域の雑音成分の影響を大きく受けていることを考慮し、照合対象から除外している。
【0089】
図12に示されたステップf28において、真偽判別の対象物である印刷物から得た強度の差分S[i]と、真正な印刷物から得た強度I(k)との比較照合により近似度を判定する。ここでは、近似度が高いと判定された。この近似度の判定については、図13に示されたような相対的な比率で評価することも可能である。
【0090】
ここで、印刷物12の印刷品質、又は読み取り部M1における雑音成分の影響もあり、真偽判別の対象となっている印刷物から測定した強度の差分S[i]と、真正な印刷物において算出して得られた強度I(k)とが完全一致することはほとんどない。このため、近似度の判定基準には、測定環境に応じて許容範囲を設けるのが判定精度を高める上で適当である。なお、近似度を判定する手法については本発明において何ら限定するものではない。
【0091】
図12におけるステップf29、f30に示すように、近似度の判定にて適合と判断された場合は、表示部M3において適合であることが表示され、近似度の判定にて不適合と判断された場合、表示部M3において不適合であることが表示される。
【0092】
上述した実施の形態、実施例はいずれも一例であって、本発明を限定するものでなく、本発明の技術的範囲内において様々に変形することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の一実施の形態による印刷物の真偽判別装置の構成を示すブロック図
【図2】本発明の一実施の形態による印刷物の真偽判別方法における処理の手順を示したフローチャート
【図3】図2に示されたフローチャートにおいて、画線を分断画線に置き換えるアンサンブル法により情報が埋め込まれた印刷物の真偽判別処理の手順を示したフローチャート
【図4】FFTパターンから空間周波数の強度を抽出する処理を示す説明図
【図5】FFTパターンの空間周波数の強度の平均化処理を示す説明図
【図6】図4に示されたFFTパターンの平均強度を示すグラフ
【図7】FFTパターンの空間周波数の強度ピークの実測逆空間距離を求める処理を示す説明図
【図8】ユニット画線を用いた印刷物の画像データにフーリエ変換を行って得られたFFTパターンを示す説明図
【図9】図2に示されたフローチャートにおいて、画線をユニット画線に置き換えるユニット法により情報が埋め込まれた印刷物の真偽判別処理の手順を示したフローチャート
【図10】図8に示されたFFTパターンの平均強度を示すグラフ
【図11】図8に示されたFFTパターンにおける強度Min[i]と強度Min(i+1)との平均値と強度Max[i]の差分S[i]とを算出する処理を示す説明図
【図12】図2に示されたフローチャートにおいて、ユニット法により情報が埋め込まれた印刷物の真偽判別処理の手順を示したフローチャート
【図13】真偽判別の対象としての印刷物から実測した強度Min[i]と強度Min(i+1)との差分S[i]と、真正な印刷物において算出した強度I(k)とを相対比で示すグラフ。
【図14】本発明における真偽判別の対象となる印刷物の一例を示した説明図
【図15】図14における画線の一部を分断画線に置き換えた実施例1による印刷物の一例を示した説明図
【図16】図15に示された印刷物の画像データにフーリエ変換を行って得られたFFTパターンを示す説明図
【図17】図14における画線の一部をユニット画線に置き換えた実施例2による印刷物の一例を示した説明図
【図18】ユニット画線の具体的な構成の一例を示す説明図。
【符号の説明】
【0094】
1 印刷物
2 細画線
3 彩紋エレメント
4 分断画線部
5 彩紋エレメント
6 間隔
7 分断画線
8 間隔
9 分断画線
10 分断画線部
11 FFTパターン
12 印刷物
13 ユニット
13A ユニット
13B ユニット
13C ユニット
13 ユニット
14 ユニット画線
15 ユニット画線群
16 情報用分断画線
17 始端分断画線
18 終端分断画線
19 FFTパターン
L1 ユニット長
L2 ユニット長
M1 読み取り部
M2 入力部
M3 表示部
M4 通信インターフェース
M5 演算部
M5a 変換部
M5b 解析部
M5c 判定部
M6 記憶部
p 真正逆空間距離
q 実測逆空間距離
S 差分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線画に含まれる画線の少なくとも一部が、複数の分断線が前記画線の長手方向に沿って連続的に配置された分断画線に置き換えられて情報が埋め込まれた印刷物の真偽判別装置であって、前記分断線の間隔が前記情報に対応して設定されており、
前記線画を読み取って画像データを出力する読み取り部と、
前記画像データにフーリエ変換を行ってFFTパターンを生成し、
前記FFTパターンにおける横・縦軸の中心から任意の角度方向に沿って、前記中心からの距離に対する周波数強度を、複数の角度方向に沿って求め、
求めた複数の前記周波数強度に平均化処理を行い、前記中心からの距離に対する周波数強度平均値を求め、
前記中心からの距離に対する周波数強度平均値に含まれる複数の強度ピーク値を抽出し、
前記複数の強度ピーク値から第1の逆空間距離を求め、
前記第1の逆空間距離を、真正な印刷物から取得される第2の逆空間距離と比較して、前記印刷物の真偽判別を行い判別結果を出力する演算部と
を備えることを特徴とする印刷物の真偽判別装置。
【請求項2】
線画に含まれる画線の少なくとも一部が、複数のユニットが前記画線の長手方向に沿って連続的に配置されたユニット画線に置き換えられて情報が埋め込まれた印刷物の真偽判別装置であって、前記ユニット画線は、前記画線の長手方向に対し直交する方向に延び、かつ、前記画線の長手方向に沿って並列配置された複数の分断線から成り、前記分断線のうち隣接する分断線がなす間隔が前記情報に対応して設定されており、
前記線画を読み取って画像データを出力する読み取り部と、
前記画像データにフーリエ変換を行ってFFTパターンを生成し、
前記FFTパターンにおける横・縦軸の中心から任意の角度方向に沿って、前記中心からの距離に対する周波数強度を、複数の角度方向に沿って求め、
求めた複数の前記周波数強度に平均化処理を行い、前記中心からの距離に対する周波数強度平均値を求め、
前記中心からの距離に対する周波数強度平均値に含まれる複数の強度ピーク値を抽出し、
抽出した複数の前記強度ピーク値の間の平均距離を算出し、
前記平均距離から実空間距離に相当する第1のユニット長を算出し、
前記平均距離のi(iは整数)倍の数値を算出し、
前記平均距離のi倍の数値における第1の強度をそれぞれ求め、
前記平均距離のi倍の数値間の中間値における第2の強度をそれぞれ求め、
それぞれの前記第1の強度から、対応する前記第1の強度と前記第2の強度との平均値を差し引いた第1の差分を算出し、
前記第1のユニット長と、真正な印刷物から取得される第2のユニット長と比較し、更に前記差分と前記真正な印刷物から取得される第2の差分とを比較して、前記印刷物の真偽判別を行い判別結果を出力する演算部と
を備えることを特徴とする印刷物の真偽判別装置。
【請求項3】
線画に含まれる画線の少なくとも一部が、複数の分断線が前記画線の長手方向に沿って連続的に配置された分断画線に置き換えられて情報が埋め込まれた印刷物を、読み取り部、演算部を有する真偽判別装置を用いて真偽判別を行う方法であって、前記分断線の間隔が前記情報に対応して設定されており、
前記読み取り部により、前記線画を読み取って画像データを出力するステップと、
前記演算部により、前記画像データにフーリエ変換を行ってFFTパターンを生成するステップと、
前記演算部により、前記FFTパターンにおける横・縦軸の中心から任意の角度方向に沿って、前記中心からの距離に対する周波数強度を、複数の角度方向に沿って求めるステップと、
前記演算部により、求めた複数の前記周波数強度に平均化処理を行い、前記中心からの距離に対する周波数強度平均値を求めるステップと、
前記演算部により、前記中心からの距離に対する周波数強度平均値に含まれる複数の強度ピーク値を抽出するステップと、
前記演算部により、前記複数の強度ピーク値から第1の逆空間距離を求めるステップと、
前記演算部により、前記第1の逆空間距離を、真正な印刷物から取得される第2の逆空間距離と比較して、前記印刷物の真偽判別を行い判別結果を出力するステップと
を備えることを特徴とする印刷物の真偽判別方法。
【請求項4】
線画に含まれる画線の少なくとも一部が、複数のユニットが前記画線の長手方向に沿って連続的に配置されたユニット画線に置き換えられて情報が埋め込まれた印刷物を、読み取り部、演算部を有する真偽判別装置を用いて真偽判別を行う方法であって、前記ユニット画線は前記画線の長手方向に対し直交する方向に延び、かつ、前記画線の長手方向に沿って並列配置された複数の分断線から成り、前記分断線のうち隣接する分断線がなす間隔が前記情報に対応して設定されており、
前記読み取り部により、前記線画を読み取って画像データを出力するステップと、
前記演算部により、前記画像データにフーリエ変換を行ってFFTパターンを生成するステップと、
前記演算部により、前記FFTパターンにおける横・縦軸の中心から任意の角度方向に沿って、前記中心からの距離に対する周波数強度を、複数の角度方向に沿って求めるステップと、
前記演算部により、求めた複数の前記周波数強度に平均化処理を行い、前記中心からの距離に対する周波数強度平均値を求めるステップと、
前記演算部により、前記中心からの距離に対する周波数強度平均値に含まれる複数の強度ピーク値を抽出するステップと、
前記演算部により、抽出した複数の前記強度ピーク値の間の平均距離を算出するステップと、
前記演算部により、前記平均距離から実空間距離に相当する第1のユニット長を算出するステップと、
前記演算部により、前記平均距離のi(iは整数)倍の数値を算出するステップと、
前記演算部により、前記平均距離のi倍の数値における第1の強度をそれぞれ求めるステップと、
前記演算部により、前記平均距離のi倍の数値間の中間値における第2の強度をそれぞれ求めるステップと、
前記演算部により、それぞれの前記第1の強度から、対応する前記第1の強度と前記第2の強度との平均値を差し引いた第1の差分を算出するステップと、
前記演算部により、前記第1のユニット長と、真正な印刷物から取得される第2のユニット長と比較し、更に前記差分と前記真正な印刷物から取得される第2の差分とを比較して、前記印刷物の真偽判別を行い判別結果を出力するステップと
を備えることを特徴とする印刷物の真偽判別方法。
【請求項5】
線画に含まれる画線の少なくとも一部が、複数の分断線が前記画線の長手方向に沿って連続的に配置された分断画線に置き換えられて情報が埋め込まれた印刷物の真偽判別をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記分断線の間隔が前記情報に対応して設定されており、
前記線画を読み取って画像データを出力するステップと、
前記画像データにフーリエ変換を行ってFFTパターンを生成するステップと、
前記FFTパターンにおける横・縦軸の中心から任意の角度方向に沿って、前記中心からの距離に対する周波数強度を、複数の角度方向に沿って求めるステップと、
求めた複数の前記周波数強度に平均化処理を行い、前記中心からの距離に対する周波数強度平均値を求めるステップと、
前記中心からの距離に対する周波数強度平均値に含まれる複数の強度ピーク値を抽出するステップと、
前記複数の強度ピーク値から第1の逆空間距離を求めるステップと、
前記第1の逆空間距離を、真正な印刷物から取得される第2の逆空間距離と比較して、前記印刷物の真偽判別を行い判別結果を出力するステップと
を備えることを特徴とする印刷物の真偽判別用のプログラム。
【請求項6】
線画に含まれる画線の少なくとも一部が、複数のユニットが前記画線の長手方向に沿って連続的に配置されたユニット画線に置き換えられて情報が埋め込まれた印刷物の真偽判別をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記ユニット画線は、前記画線の長手方向に対し直交する方向に延び、かつ、前記画線の長手方向に沿って並列配置された複数の分断線から成り、前記分断線のうち隣接する分断線がなす間隔が前記情報に対応して設定されており、
前記読み取り部により、前記線画を読み取って画像データを出力するステップと、
前記演算部により、前記画像データにフーリエ変換を行ってFFTパターンを生成するステップと、
前記演算部により、前記FFTパターンにおける横・縦軸の中心から任意の角度方向に沿って、前記中心からの距離に対する周波数強度を、複数の角度方向に沿って求めるステップと、
前記演算部により、求めた複数の前記周波数強度に平均化処理を行い、前記中心からの距離に対する周波数強度平均値を求めるステップと、
前記演算部により、前記中心からの距離に対する周波数強度平均値に含まれる複数の強度ピーク値を抽出するステップと、
前記演算部により、抽出した複数の前記強度ピーク値の間の平均距離を算出するステップと、
前記演算部により、前記平均距離から実空間距離に相当する第1のユニット長を算出するステップと、
前記演算部により、前記平均距離のi(iは整数)倍の数値を算出するステップと、
前記演算部により、前記平均距離のi倍の数値における第1の強度をそれぞれ求めるステップと、
前記演算部により、前記平均距離のi倍の数値間の中間値における第2の強度をそれぞれ求めるステップと、
前記演算部により、それぞれの前記第1の強度から、対応する前記第1の強度と前記第2の強度との平均値を差し引いた第1の差分を算出するステップと、
前記演算部により、前記第1のユニット長と、真正な印刷物から取得される第2のユニット長と比較し、更に前記差分と前記真正な印刷物から取得される第2の差分とを比較して、前記印刷物の真偽判別を行い判別結果を出力するステップと
を備えることを特徴とする印刷物の真偽判別用のプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2008−134677(P2008−134677A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318217(P2006−318217)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】