説明

印刷用塗工紙及び印刷用塗工紙の製造方法

【課題】顔料として炭酸カルシウムを全顔料の90質量%以上の高配合率で含有する塗工層を有し、高白色度で面感及び印刷適性が良好な印刷用塗工紙及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】塗工層の少なくとも最表層の塗工に用いる塗工液は、顔料中に占める炭酸カルシウム含有量が90質量%以上であり、かつ、前記接着剤としてヒドロキシエチルデンプンを含ませる。ブレードコーターのドクターブレードは、母材のすくい面側の先端部近傍を覆うように表面硬化部を設け、すくい面側の表面硬化部には、2箇所以上の屈曲部を設ける。そして、すくい面の先端部から、すくい面の先端部に最も近い第一屈曲部までの長さ(S1)を、第一屈曲部から、すくい面先端部から最も遠い最終屈曲部までの長さの合計(S2)よりも短くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工層の塗料中に顔料として重質炭酸カルシウムを90質量%以上含有しながら、表面の面感及び印刷適性に優れる印刷用塗工紙及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷用塗工紙には、より白色度が高く、面感及び印刷適性が良好であることが求められている。印刷適性の低下は、主に塗工ムラに起因すると考えられている。特に、微小な塗工ムラが多く発生すると、印刷インキの紙への転写量が不均一となりやすく、印刷ムラが低下するなど、印刷適性が低下しやすい。印刷適性が低下すると、例えば、黒一色などのベタ印刷部分においては、印刷インキの転写量にムラが発生し、均一な画像が得られず、見栄えの悪い印刷物となる。
【0003】
面感とは、見た目の均一さを示したものであり、白色度や白紙光沢度の微小なムラの程度を表している。面感はカレンダー処理などの平坦化工程により向上しやすい一方で、充分な平坦化条件が得られない場合は、平坦性が低く面感が悪い塗工紙になりやすい。面感が悪いと、例えば、白黒のコントラストが高い印刷物においては、黒色部分が均等に印刷されていても、地色である白色部分の白色度、白紙光沢度に微小なムラがあるため、全体としてすっきりしない、見栄えの悪い印刷物となる。
【0004】
特に、マット調及びダル調の塗工紙においては、白紙光沢度を抑えるためソフトカレンダーやスーパーカレンダー等の平坦化設備による平坦化を充分に行なうことができず、面感を改善し難い。マット調及びダル調の塗工紙において面感を向上させるには、より緩やかな平坦化条件で光沢を上昇させずに平坦性を向上させる必要がある。これを実現するために顔料として、平坦性の高いカオリンクレー(特許文献1参照)や、潰れやすく白紙光沢が向上し易いプラスチックピグメント(特許文献2参照)を配合する技術があるが、何れも炭酸カルシウムより白色度が低いため、得られる塗工紙の白色度を向上させにくい問題があった。
【0005】
白色度を向上させる方法としては、高白色顔料である炭酸カルシウムや二酸化チタンを配合したり、蛍光染料を添加して蛍光増白効果により白色度を向上する方法がある。二酸化チタンを用いた場合は、高価な顔料であるためコスト面で不利であり、蛍光染料による蛍光増白効果は退色が高くなる問題があった。
【0006】
高白色顔料である炭酸カルシウムを使用した場合は、白色度は向上するが、クレーに比べて潰れ難い顔料であるため、得られる塗工紙の平坦性が低く、面感が低い塗工紙となる問題があった。塗工層の顔料として炭酸カルシウムを80〜100質量%含有した塗工液をロール転写型コーターで塗工する技術については、既に知られているが(特許文献3を参照)、ロールコーターで塗工しているため、得られる塗工紙の平坦性及び面感に劣る問題がある。
【0007】
また、塗工速度1500m/分以上で塗工する技術も知られているが(特許文献4を参照)、充分な面感及び印刷適性が得られない問題がある。上記技術を用いてブレード塗工方法で塗工を行なっても、ブレード近傍の塗料にはシェア(剪断力)が掛かりやすく、微小な塗工ムラが発生しやすいため、面感に劣る塗工紙となる。
【0008】
ブレードの形状を工夫した技術も知られているが(特許文献5及び6を参照)、重質炭酸カルシウムを90質量%以上含有した塗工液を塗工した場合には、充分な面感及び印刷適性が得られなかった。
【0009】
顔料として炭酸カルシウムを高配合率、特に全顔料の90質量%以上の高配合率である塗工層を有する塗工紙は、高白色度の塗工紙が得られやすいが、面感に優れたブレード塗工方法によって紙基材上に塗工層を塗工しても、1500m/分以上という高速の塗工速度においては、充分な面感が得られなかった。特に、マット調及びダル調の塗工紙においては、平坦化するためにカレンダーの過大な線圧が必要となり、白紙光沢度を抑えつつ面感を向上できず、その製造が困難であった。
【特許文献1】特開2004−091997号公報
【特許文献2】特開2006−193864号公報
【特許文献3】特開2006−257590号公報
【特許文献4】特開2005−194660号公報
【特許文献5】特開2006−124863号公報
【特許文献6】特開2006−124864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
顔料として炭酸カルシウムを全顔料の90質量%以上の高配合率で含有する塗工層を有し、高白色度で面感及び印刷適性が良好な印刷用塗工紙及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、ブレードコーターを用いて塗工液を紙基材表面に塗工して塗工層を設ける印刷用塗工紙及びその製造方法について検討を重ねた結果、最表層の塗工に用いる塗工液が、顔料中に占める炭酸カルシウム含有量が90質量%以上であり、接着剤としてヒドロキシエチルデンプンを含む場合に、特定形態のドクターブレードを使用することによって、高速塗工においても面感及び印刷適性に優れた塗工紙を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
具体的に、本発明は、
顔料と接着剤とを含む塗工液を紙基材表面に塗工して塗工層を設けた印刷用塗工紙であって、
前記塗工層の少なくとも最表層の塗工に用いる塗工液は、顔料中に占める炭酸カルシウムの割合が90質量%以上であり、かつ、前記接着剤としてヒドロキシエチルデンプンを含み、
前記塗工層はブレードコーターで設けられ、
前記ブレードコーターのドクターブレードは、母材のすくい面側の先端部近傍を覆うように表面硬化部が設けられ、
前記すくい面側の表面硬化部には、2箇所以上の屈曲部が設けられ、
前記すくい面の先端部から、前記すくい面の先端部に最も近い第一屈曲部までの長さ(S1)が、前記第一屈曲部から、前記すくい面先端部から最も遠い最終屈曲部までの長さの合計(S2)よりも長い、
ことを特徴とする印刷用塗工紙に関する。
【0013】
また、本発明は、
顔料と接着剤とを含む塗工液を紙基材表面に塗工して塗工層を設ける印刷用塗工紙の製造方法であって、
前記塗工層の少なくとも最表層の塗工に用いる塗工液は、顔料中に占める炭酸カルシウムの割合が90質量%以上であり、かつ、前記接着剤としてヒドロキシエチルデンプンを含み、
前記塗工層液はブレードコーターで設けられ、
前記ブレードコーターのドクターブレードは、母材のすくい面側の先端部近傍を覆うように表面硬化部が設けられ、
前記すくい面側の表面硬化部には、2箇所以上の屈曲部が設けられ、
前記すくい面の先端部から、前記すくい面の先端部に最も近い第一屈曲部までの長さ(S1)が、前記第一屈曲部から、前記すくい面先端部から最も遠い最終屈曲部までの長さの合計(S2)よりも長い、
ことを特徴とする印刷用塗工紙の製造方法に関する。
【0014】
本発明の印刷用塗工紙及びその製造方法では、ブレード塗工において使用するドクターブレードを特殊な形態とすることによって、炭酸カルシウム含有率が90質量%以上の塗工液を均質に紙基材上に塗工することができるため、面感及び印刷適性が高い印刷用塗工紙を得ることができる。
【0015】
前記接着剤は、さらにスチレン−ブタジエンラテックスを含み、ヒドロキシルエチルデンプンに対するスチレン−ブタジエンラテックスの固形分換算での質量割合が、1.4以上7.0以下であることが好ましい。
【0016】
前記(S1)は、300μm以上400μm以下であることが好ましい。
【0017】
前記(S2)は、100μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の印刷用塗工紙及びその製造方法は、塗工速度が1500m/分以上である高速塗工において、特に有用である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の印刷用塗工紙及びその製造方法によれば、白色度が高く、面感及び印刷適性も高い印刷用塗工紙を高速塗工することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参酌しながら説明する。なお、本発明は以下の記載に限定されない。
【0021】
<ドクターブレード>
図1及び図2は、本発明の印刷用塗工紙及びその製造方法で使用するドクターブレードの要部構成を示す図であり、図1は上面図、図2は図1のA−A断面図である。図1及び図2において、ドクターブレード1は、斜線部にて示される母材2と、この母材2上に設けられた表面硬化部3とを備えている。
【0022】
表面硬化部3は、母材2のすくい面(紙基材と当接及び対向する面)の先端部近傍を覆うように形成されており、図1及び図2ではドクターブレード1が紙基材上の塗工液と接触する部分に設けられている。なお、図1及び図2と異なり、母材2のすくい面側の全体に表面硬化部3を設けても良い。
【0023】
このドクターブレード1は、図1及び図2の左端部(自由端部)側が変形するのを許容された状態で、図の右端部側がブレードコーターのクランプにて固定されている(図示せず)。
【0024】
また、ドクターブレード1は、バッキングロール上で、当該バッキングロールの回転によって図中の二点鎖線の矢印方向に走行する紙基材(原紙)に対向して配置されるようになっている。そして、ドクターブレード1は、塗工液が塗工された紙基材に、表面硬化部3のすくい面4が接触することにより、塗工液の固形分の付着量が片面当たり6〜12g/m2となるよう基紙上の塗工量が調節され、平滑な塗工面が形成された印刷用塗工紙が製造される。
【0025】
なお、ドクターブレード1は、表面硬化部3の紙基材に対する接触圧(ブレード線圧)を制御可能にブレードコーターに取り付けられており、このブレード線圧を調節することで塗工量を容易に変更できるようになっている。
【0026】
ブレードコーター内におけるドクターブレードと紙基材上の塗料との接触部分の拡大図を、図3に示す。図3では、バッキングロール11上に紙基材12が乗っており、基材12上には塗工液13が塗布されている。バッキングロール11は、図2の右側から左側へと移動するため、紙基材12及び塗工液13も同じ方向に移動する。ドクターブレード1は、第一傾斜部4dと紙基材12上の塗工液13とが当接するように固定されている。
【0027】
第一傾斜部4dによって紙基材12上の過剰な塗工液13がすくい取られ、ドクターブレード1の下流には、厚みが減少した塗工液からなる塗工層14が形成される。過剰な塗工液13は、ドクターブレード1の第二傾斜部4eに当たって、表面硬化部3の上面3aに沿って掻き取られる。このとき、紙基材12と第二傾斜部4eと間に、塗工液13の液溜まりが発生する。
【0028】
母材2は、適度な硬度(例えば、ロックウェル硬さCスケール22以上)を有するとともに、紙基材との接触圧の制御が容易となるように、ある程度の弾性を有する材質であることが好ましい。例えば、炭素工具鋼(SK材)、合金工具鋼、ステンレス鋼等であることが好ましい。また、この母材2には、平坦な下面2aと、この下面2aに直交するランド面2bと、このランド面2bに傾斜する母材すくい面2cと、下面2aに平行に形成された平坦な上面2dとが設けられており、互いに平行に構成された下面2a及び上面2dがクランプに接続されるようになっている。なお、母材2の硬度は、実用的及び経済的見地からビッカース硬度では240Hv〜940Hv程度とすることが好ましい。
【0029】
表面硬化部3は、母材2よりも硬い材料から構成されており、ビッカース硬度が1000Hv以上1700Hv以下であることが好ましい。硬度を上記範囲にすることにより、1500m/分以上の高速塗工においても、適切な耐摩耗性を表面硬化部3に付与しつつ、塗工面感の向上効果を確実に発揮させることができる。ビッカース硬度が1000Hvよりも小さい場合には、表面硬化部3が摩耗しやすくなり、ドクターブレードの寿命低下を招くことがある。一方、ビッカース硬度が1700Hvよりも大きい場合には、屈曲部を形成し難くなって、表面硬化部ひいてはドクターブレードの形成に時間及び手間を要したり、コストアップを招いたりすることがある。
【0030】
特に本発明のごとく、重質炭酸カルシウムの割合が90質量%以上の塗料をブレードコーターで設ける場合には、上述したように表面硬化部のビッカース硬度を1000Hv以上1700Hv以下とすることで、ブレードの摩耗が少なく、面感の良い塗工紙が得られるため好ましい。さらに、接着剤としてヒドロキシエチルデンプンを含むことで塗工液の粘度の上昇を抑制できるため、特に面感に優れた印刷用塗工紙を得ることができる。
【0031】
表面硬化部3は、例えば、タングステンを主成分とする材料等より構成されていることが好ましい。この表面硬化部3には、母材2の下面2aに平行に形成された上面3aと、母材下面2aに直交するように母材ランド面2bに連続的に設けられたランド面3bと、上面3aとランド面3bとの間に位置するすくい面(ベベル面)4とが形成されている。
【0032】
この表面硬化部3は、例えば主成分であるタングステンに酸化アルミを添加した材料を、母材2の母材すくい面2c及び上面2d上に被覆するように、プラズマ溶射法によって蒸着することで形成することができる。酸化アルミの替わりに、少量のクロムやチタン等をタングステンに添加した材料を用いても良い。
【0033】
タングステンを主成分とする材料を用いて表面硬化部3を形成することにより、耐摩耗性を十分に確保しつつ、その靱性を高めることができるとともに、屈曲部による塗工面感の向上効果を容易に得ることが可能となる。すなわち、タングステンは耐摩耗性に優れた素材であり、表面硬化部、ひいてはドクターブレードの長寿命化を容易に図ることができる。また、タングステンはその粒子が細かいことから、良好な塗工面感を容易に得ることができるとともに、表面硬化部に摩耗が生じたときでも、塗工面感が悪化するのを極力抑えることができる。
【0034】
タングステンを主成分とする材料以外として、一種又はそれ以上の金属酸化物、金属炭化物若しくは金属窒化物、又はこれらの組み合わせたサーメット等のセラミックス材料、炭化タングステンや炭化クロムを含んだ超硬合金、クロムメッキ等のメッキ金属によって表面硬化部3を構成しても良い。
【0035】
母材2上への表面硬化部3の形成方法としては、プラズマ溶射法以外に、他の溶射法、PVD、CVD等の蒸着法などを用いても良い。ただし、上記タングステンを主成分とする材料を用いた場合の方が、他の材料を用いた場合に比べて、表面硬化部3の耐摩耗性を十分に確保しつつ、その靱性を高めることができるとともに、第一屈曲部4b及び第二屈曲部4cによる塗工面感の向上効果を容易に得ることができる点で好ましい。
【0036】
なお、金属窒化物系のセラミックス材料やクロムメッキなどの靱性の比較的低い材質を用いて、ビッカース硬度が1500Hvよりも大きい硬さの表面硬化部3を形成させた場合には、表面硬化部3が脆くなってドクターブレード1の寿命が短くなることがある。それ故、このような材質を使用して表面硬化部3を形成させた場合には、1500m/分以上の高速塗工を行うときでも、ドクターブレード1の寿命低下を十分に抑制できるように、ビッカース硬度を1200Hv以上とし、かつ屈曲部4c等の形成を比較的行い易く、塗工面感を高めることができるように、ビッカース硬度を1500Hv以下とすることがより好ましい。
【0037】
なお、表面硬化部3は、母材2上で厚み0.2μm〜0.4μm程度となるように形成される。また、母材2の上面2d全部を被覆する必要はなく、少なくとも使用時に塗工液と接触する可能性のある部分に被覆されていれば足り、その場合、母材上面2dのみがクランプに接続されることになる。
【0038】
すくい面4には、ドクターブレード1の自由端(図1及び図2左端)側から固定端(図1及び図2右端)側に向かって、すくい面先端部4a、第一屈曲部4b、第二屈曲部4cが順次設けられており、すくい面4は、第一傾斜部4d及び第二傾斜部4eを備えている。
【0039】
なお、図1及び図2に示すドクターブレードでは、屈曲部は2箇所であるため、第二屈曲部4cが最終屈曲部となっているが、屈曲部は3箇所以上としても良い。屈曲部が3箇所の場合には、ドクターブレード1の自由端(図1及び図2左端)側から固定端(図1及び図2右端)側に向かって、すくい面先端部4a、第一屈曲部4b、第二屈曲部4c、第三屈曲部(図示せず)が順次設けられることになり、第三屈曲部が最終屈曲部となる。
【0040】
複数個の屈曲部は、プラズマ溶射法によって母材2上に形成した表面硬化部3の傾斜部4に対して、研削加工等を実施することにより形成することが可能である。
【0041】
複数個の屈曲部をすくい面4に設けることで、紙基材と、第二傾斜部4eとの間に適切な塗工液の液溜まりを形成でき、塗工面感を向上することができる。さらに、より高白色な塗工紙を得るために、炭酸カルシウムを90質量%以上、好ましくは100質量%となる塗料を塗工すると、塗料濃度が68質量%を越える高濃度塗料となり、塗布する場合には、すくい面先端部4aから、すくい面先端部4aに最も近い屈曲部である第一屈曲部4bまでの長手方向の長さ(S1)を、第一屈曲部4bから、すくい面先端部4aから最も遠い屈曲部である最終屈曲部(図1では第二屈曲部4c)までの長手方向の長さの合計(S2)よりも長くすることで、より第一傾斜部4dと塗工液13との接触面積が増大し、塗工液を平坦化させる作用を向上させる事が可能となり、塗工面感が向上しやすい。
【0042】
ここで、S1及びS2の長さとは、ドクターブレードのランド面に直交する方向(ドクターブレード幅方向に直交する方向)の長さをいい、図1及び図2においては、ドクターブレード1の自由端(図1及び図2の左端)側と固定端(図1及び図2の右端)側とを結ぶ方向の長さをいう。なお、図2では、第一屈曲部4b及び第二屈曲点4cから下面2aに垂線を引いた場合、点P−点Q間の距離がS1、点Q−点R間の距離がS2となる。
【0043】
すくい面先端部4a、第一屈曲部4b及び第二屈曲部4cは、研削後にR加工部分を設けても良い。R加工を施すと、ブレードの初期なじみが良好となり、塗工プロファイルの早期安定化が図られるだけでなく、塗工液の引っかかりが低減できるために、ストリークが発生しにくくなるため好ましい。具体的なR加工の寸法は、0.1±0.02mmとすることが好ましい。
【0044】
S1はS2よりも長くする必要がある。S1がS2より短い、又は同じ長さであると、塗料がブレードのS1部分により平坦化される作用が少なくなるため、微小な塗工ムラが発生し、塗工層表面の平坦性が得られ難くなる一方、液溜まりが大きくなり、均一な塗工性が得られにくく、面感が低下する。
【0045】
S1は、300μm以上400μm以下であることが好ましく、320μm以上380μm以下であることがさらに好ましい。S1が300μmを下回ると、ブレードによる塗工層表面の平坦性を向上させることができず、面感が悪化し易くなる。一方、400μmを超過すると、過度の押付け圧にしても設定塗工量まで下がらず、塗工面にブレードシェアがかかることで微小な塗工刷ムラが発生しやすく、印刷適性が低下する可能性がある。この点において、S1が500μm、S2が400μmと記載されている特許文献6のブレード形状と、本願発明の好ましいブレード形状とは異なる。
【0046】
S2は、100μm以上200μm以下であることが好ましく、120μm以上180μm以下であることがさらに好ましい。100μmを下回ると、第二傾斜部4eにおける塗工液の液溜まりが小さくなり、微小な塗工ムラが発生しやすく、印刷適性が低下する可能性がある。一方、200μmを上回ると、第二傾斜部4eにおける液溜まりが大きくなって均一な塗工が得られず、印刷適性が低下する可能性がある。
【0047】
すくい面(ベベル面)4において、S1及びS2の長さを規定することにより、後述するように、顔料中に占める炭酸カルシウム含有量が90質量%以上である塗工液を、塗工ムラを抑えて塗工できるため、カレンダーによる平坦化処理後、より面感が向上しやすい。その結果、得られる塗工紙は白紙部分の見栄えが良好となり、また、印刷適性が高いために印刷部分の見栄えも良好となる。特に、マット調及びダル調塗工紙においては、従来よりも平坦化に必要なカレンダーでの線圧が低くなる結果、光沢を抑えつつ印刷適性を向上させる事ができるため、高級感のあるマット調及びダル調塗工紙が得られる。さらに、ドクターブレードの表面硬化部のビッカース硬度を1000Hv以上1700Hv以下とすることで、面感の良い塗工紙を、塗工速度1500m/分以上の高速塗工においても得ることができる。
【0048】
なお、固定端側の母材2の厚み(S3)は、0.5mm以上0.7mm以下とすることが好ましい。また、固定端側の表面硬化部3の厚み(S4)は、0.2mm以上0.4mm以下とすることが好ましい。S3及びS4が上記範囲であれば、第一すくい面4d及び第二すくい面4eによって発生する塗工液の液溜まりに起因する、面感及び印刷適性の向上効果が得られやすいためである。
【0049】
<塗工液の成分1:顔料>
塗料の主成分である顔料には炭酸カルシウムを用いる。炭酸カルシウムは白色度が高く、得られる塗工紙の白色度が高くなる点で好ましい。炭酸カルシウムはカオリンクレーと比較して保水性が低いため、塗工液中に顔料として高配合すると、塗料が不動化し易くなって均一に塗工しにくく、均一な塗工層が得られない問題があった。また、炭酸カルシウム濃度が高いと塗料濃度が高くなり、塗工ムラが発生しやすく、印刷適性が低下しやすい。しかしながら、本発明の印刷用塗工紙及びその製造方法においては、接着剤として、後述するヒドロキシエチルデンプンを用いるため、上記問題を抑制することができ、面感及び印刷適性に優れる塗工紙を得ることができる。
【0050】
炭酸カルシウムとしては、重質炭酸カルシウム又は軽質炭酸カルシウムのいずれも使用することができる。ただし、重質炭酸カルシウムの形状が不定形であるのに対し、軽質炭酸カルシウムは紡錘状、柱状、針状等の特定の形状を有しているため、全顔料に占める軽質炭酸カルシウムの割合が80質量%以上になると、塗工性が悪くなり均一な塗工層表面が得られにくくなるため印刷適性が低下しやすくなる。しかしながら、軽質炭酸カルシウムを用いた場合は、重質炭酸カルシウムと比較して潰れやすい顔料であるため、平坦性が向上し、面感が向上しやすくなるため、塗工紙に必要とされる面感及び印刷適性に応じて、軽質炭酸カルシウムを適宜、重質炭酸カルシウムと併用することが好ましい。
【0051】
重質炭酸カルシウムとしては、例えば、白色結晶質石灰石を乾式粉砕又は湿式粉砕した、5μm程度以下の数平均粒子径を有するものを使用しうるが、数平均粒子径が0.3μm以上2.0μm以下であり、かつ粒子径2.0μmを超える粒子の割合が10%以下の湿式重質炭酸カルシウムを使用することが好ましい。重質炭酸カルシウムの数平均粒子径を0.3μmよりも小さくした場合には、重質炭酸カルシウム粒子が塗工液中で再凝集し易くなり、異物が発生してストリークなどの欠陥が発生し易くなることがある。一方、数平均粒子径を2.0μmよりも大きくした場合には、塗工面感が悪くなったり、表面硬化部の硬度を高くしたときでも、表面硬化部での摩耗が進行し易くなり、塗工速度等などを上げ難くなる。また、2.0μmよりも大きい粒子径の粒子の割合を10%よりも大きくした場合には、表面硬化部を比較的硬くしたときでも、その硬化部での摩耗が進行し易くなって塗工速度などを上げ難くなる場合がある。
【0052】
なお、数平均粒子径は一般的な粒度測定機で測定することができ、後述する実施例においては、粒度分布測定機(機器名:MICROTRAC PARTICLE-SIZE ANALIZER、メーカー:LEEDS&NORTHRUP INSTRUMENTS)を用いて測定した。
【0053】
軽質炭酸カルシウムとしては、例えば、石灰石を焼成して化学的に製造した、数μm前後の数平均粒子径を有するものや、0.02μm〜0.10μm程度の数平均粒子径を有するものが使用できる。軽質炭酸カルシウムの形状としては、例えば、柱状、針状、紡錘型の他、これらの形状を有する結晶構造が凝集及び結晶化した毬栗状等が挙げられる。
【0054】
炭酸カルシウムの配合量としては、顔料全体の90質量%以上である必要があり、95質量%以上が好ましく、97%以上が最も好ましい。炭酸カルシウムが90質量%を下回ると白色度が低下し易くなるため好ましくない。高白色塗工紙としては、白色度が85%以上であれば好ましく、87%以上であればより好ましい。これらの白色度を得るには、炭酸カルシウム含有率を上記範囲で増加させることが好ましい。上記範囲の炭酸カルシウム高配合塗料を均一に塗工するには、上述のとおり、2箇所以上の屈曲部が設けられ、かつ、S1がS2よりも長いドクターブレードを用いることが好ましい。より好ましくは、ビッカース硬度が1000Hv以上1700Hvである表面硬化部を有し、S1が300μm以上400μm以下、更に好ましくはS2が100μm以上200μm以下であるドクターブレードを用いると、より面感に優れた塗工紙を得ることができる。
【0055】
本発明の印刷用塗工紙及びその製造方法では、炭酸カルシウムを全顔料の90質量%以上と高配合するため、白色度が87%以上と高白色度の塗工紙が得られる。さらに、後述する水溶性高分子としてヒドロキシエチルデンプンを含有することで、炭酸カルシウムを高配合した塗料を塗工しても、面感及び印刷適性を向上させることができる。
【0056】
炭酸カルシウム以外の顔料としては、一般に製紙用の顔料として用いられるものを併用することができる。例えば、カオリンクレー、デラミネーテッドカオリン、タルク、ホワイトカーボン、二酸化チタン、硫酸カルシウム、サチンホワイト、亜硫酸カルシウム、石膏、硫酸バリウム、珪藻土、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ベントナイト、セリサイト等の無機顔料や、ポリスチレン樹脂微粒子、尿素ホルマリン樹脂微粒子、微小中空粒子、多孔質微粒子等の有機顔料等が使用可能であり、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して塗工液に配合することもできる。
【0057】
<塗工剤の成分2:接着剤>
接着剤としては、水溶性高分子を用いる。水溶性高分子としては、ヒドロキシエチルデンプン(HES)を用いると、塗工液粘度の上昇を軽減できるため、炭酸カルシウムを全顔料の90質量%以上含有する高配合塗料においても、ブレード塗工後の平坦性が高くなり面感が向上しやすく、また、均一な塗工層表面が得られるため印刷適性が高くなりやすくなるため、特に好ましい。
【0058】
HESの配合部数は、全顔料を100質量部とした場合に、1質量部以上5質量部以下とすることが好ましく、2質量部以上3質量部以下とすることがより好ましい。1質量部を下回ると顔料を充分に固定できず、塗工ムラが発生するため面感が低下し、5質量部を超過すると塗料濃度が低下して、均一に塗工できないだけでなく、微小な塗工ムラが発生しやすく、印刷適性が悪化し易くなるため好ましくない。また、塗工層表面でデンプン類が成膜することで面感及び印刷適性が低下しやすくなることもあり、好ましくない。
【0059】
本発明の印刷用塗工紙及びその製造方法においては、炭酸カルシウムを90質量%以上と高配合するため、高白色度の塗工紙を得ることができるが、さらに接着剤としてHESを併用することで、炭酸カルシウム高配合塗工液を塗工しても、得られる塗工層表面は平坦性が高くなり面感が向上しやすく、また、均一な塗工層表面が得られるため印刷適性が高くなりやすくなる。さらに、接着剤としてHESの他にラテックスも配合することにより、より効果的に面感及び印刷適性を向上させることができる。
【0060】
接着剤としては、HESに加えて、合成樹脂であるラテックスを併用することが好ましい。前述したとおり、塗工層表面でデンプン類が成膜することで、白紙光沢度の局所的なムラが発生し易く、面感及び印刷適性が低下しやすい。このため、水溶性高分子であるHESの量を最低限とし、必要な顔料の固定をラテックスで補うことが好ましい。
【0061】
ラテックスとしては、スチレン−ブタジエンラテックス(SBR)が、熱安定性が良い点で好ましい。特に、ラテックス粒子の内部と外部とで組成が異なる傾斜型ラテックスを用いると、従来の単一構造のラテックスと比べて低配合部数で高強度が得られる。また、より高強度が実現できる傾斜型ラテックスを使用すると、顔料をより塗工層に固定しやすくなり、微小な塗工ムラが発生しにくくなり、水溶性高分子やヒドロキシエチルデンプンを低減でき、面感及び印刷適性が向上しやすくなるため好ましい。
【0062】
特に、印刷適性の低い重質炭酸カルシウムを全顔料の90質量%以上と高配合した塗工層を有する印刷用塗工紙においては、同じく印刷適性を低下させやすいラテックスの配合量は低減することが好ましい。なお、ラテックスとしては、より接着力が強い傾斜型のラテックスを用いることが好ましい。特に、HESを併用し、2箇所以上の屈曲部が設けられ、かつ、S1がS2よりも長いドクターブレードを用いて塗工すると、より印刷適性に優れた塗工紙が得られるため好ましい。より好ましくは、ビッカース硬度が1000Hv以上1700Hvである表面硬化部を有し、S1が300μm以上400μm以下、さらに好ましくはS2が100μm以上200μm以下であるドクターブレードを用いる。
【0063】
傾斜型ラテックスの場合、配合部数は、全顔料を100質量部とした場合に、4質量部以上10質量部以下とすることが好ましく、6質量部以上8質量部以下とすることがより好ましい。4質量部を下回ると顔料の固定にムラが発生するため均一な平坦化効果が得られず面感が悪化し、10質量部を超過すると塗料濃度が低下して、均一な塗工が得られず、印刷適性が低下しやすくなる可能性がある。
【0064】
HES及びラテックスの割合としては、質量割合でHES1に対して、ラテックスは1.4以上7.0以下であることが好ましく、2.3以上4.0以下であることがさらに好ましい。
【0065】
本発明の印刷用塗工紙及びその製造方法においては、炭酸カルシウムを90質量%以上と高配合し、接着剤としてHESを使用することで、面感及び印刷適性に優れた塗工紙を得ることができる。さらに、質量割合でHES1に対して、1.4以上7.0以下の割合でスチレン−ブタジエンラテックスを用いた場合には、面感及び印刷適性がより向上しやすいため好ましく、特にラテックスとして傾斜型ラテックスを使用することで、炭酸カルシウム高配合塗工液を、面感及び印刷適性の低下を防止しつつ塗工することができる。加えて、上記構成の塗料を均一に塗工するには、2箇所以上の屈曲部が設けられ、S1がS2よりも長く、ビッカース硬度が1000Hv以上1700Hvである表面硬化部を有するドクターブレードを用いることが好ましい。より好ましくはS1が300μm以上400μm以下、さらに好ましくはS2が100μm以上200μm以下であると、より面感に優れた印刷用塗工紙を得ることができる。
【0066】
上記以外の接着剤としては、一般的に製紙用途で使用できる接着剤を併用することができる。例えば、(1) カゼイン、大豆蛋白等の蛋白質類;(2) メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン−メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス等の共役ジエン系ラテックス、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの重合体ラテックスもしくは共重合体ラテックス等のアクリル系ラテックス、エチレン−酢酸ビニル重合体ラテックス等のビニル系ラテックス、あるいはこれらの各種共重合体ラテックスをカルボキシル基等の官能基含有単量体で変性したアルカリ部分溶解性又は非溶解性のラテックス等のラテックス類;(3) ポリビニルアルコール、オレフィン−無水マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂等の合成樹脂系接着剤;(4) 酸化澱粉、陽性化澱粉、エステル化澱粉、デキストリン等の澱粉類;(5) カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体等、を用いることができ、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して用いることもできる。
【0067】
塗料における顔料と接着剤との割合は、顔料100質量部に対して接着剤が5質量部以上15質量部以下に調整することが好ましく、7質量部以上11質量部以下となるように調整することがより好ましい。接着剤の配合量が5質量部未満では、顔料の固定にムラが発生するため顔料が塗工層表面から脱落しやすくなり、充分な平坦性が得られないため好ましくない。逆に接着剤の配合量が15質量部を超過すると、塗工層中で接着剤が成膜し、印刷適性が低下するため好ましくない。
【0068】
<その他助剤>
塗工剤を調製する方法には特に限定がなく、顔料、接着剤の他にも、ダスト防止剤、蛍光染料、消泡剤、離型剤、着色剤、保水剤等、製紙用途で一般に用いられる各種助剤を適宜配合することもできる。
【0069】
<塗工量>
本発明の印刷用塗工紙及びその製造方法においては、塗工液は、紙基材片面あたり6g/m2以上12g/m2以下で紙基材の片面に塗工することが好ましく、8g/m2以上10g/m2以下で塗工することがより好ましい。塗工量が紙基材片面あたり6g/m2未満では、塗工ムラに起因する印刷適性の低下が発生しやすく、塗工量が10g/m2を超過すると、塗工量が多く塗工ムラが発生しやすいため、印刷適性が低下し易くなるため好ましくない。
【0070】
本発明の塗工紙では、接着剤としてHESと、好ましくはスチレン−ブタジエンラテックスとを併用するため、顔料として炭酸カルシウムを高配合、特に全顔料の90質量%以上含有する高配合塗工液を、紙基材の片面あたり6〜12g/m2程度で塗工しても、面感良く、印刷適性に優れた塗工紙を得ることができる。
【0071】
従来、炭酸カルシウムを顔料中に90質量%以上含む塗工液を、塗工量6〜12g/ m2程度で塗工する場合は、充分に面感を向上させることができず、印刷適性が低下する問題があった。しかしながら本発明においては、この問題を解決できるため、炭酸カルシウムのような顔料を多く含む塗料を面感良く塗工し、印刷適性が良好な塗工紙を得ることができるのである。しかも、特定形状のブレードを使用することで、炭酸カルシウムが全顔料の90質量%以上と高配合の塗料を、面感の良いブレード塗工で、塗工速度1500m/分以上の高速塗工で塗工することができる。
【0072】
<平坦化処理>
塗工液を紙基材上に塗工した後、塗工層の光沢や平滑性、印刷適性をさらに向上させる目的で、スーパーカレンダーやソフトカレンダー等、弾性ロールと金属ロールとを組み合わせた平坦化設備によって、印刷用塗工紙に平坦化処理を施すことができる。このような平坦化設備は、従来のマシンカレンダーとは異なり、用紙表面を幅広の面で、高温で処理することで、基紙の密度や塗工層の密度を過度に高めることなく平坦化が可能であり、例えば、オフセット印刷、電子写真印刷等において好適な印刷面を形成させることができる。
【0073】
中でも、マルチニップカレンダー(特に、6段、8段又は10段のマルチニップカレンダー)が、ニップ圧を調整しやすく、塗工面の光沢や平坦性を調整しやすいため最適である。また、カレンダーの設置場所としては、抄紙機及び塗工機と一体になったオンマシンタイプが好ましい。オンマシンタイプでは、抄紙及び塗工後すぐに、紙面温度が高い状態で平坦化処理できるため、面感が向上しやすいだけでなく、目的の印刷用塗工紙を得るために必要な線圧が低く、紙力の低下が少ないため好ましい。
【0074】
特に、重質炭酸カルシウムを全顔料の90質量%以上と高配合した塗工層を有するマット調及びダル調塗工紙においては、白紙光沢度を向上させずに平坦性を向上させるために、HES及びスチレン−ブタジエンラテックスを塗工液に配合し、かつ、抄紙及び塗工後すぐに、マルチニップカレンダーで平坦化処理を行うと、より面感に優れたマット調及びダル調塗工紙が得られるため好ましい。
【0075】
ソフトカレンダーによる平坦化処理の線圧や温度、速度は特に限定されないが、処理後の塗工層の平滑性を充分に向上させ、また最終的に得られる塗工紙の緊度が過度とならないようにするために、例えば、線圧は10〜100kN/m、金属ロール温度は100〜200℃、速度は1500 m/分以上2000m/分以下となるように調整することが好ましい。
【0076】
製造システムは上記以外にも、抄紙機とコーターパートとを分離したオフマシンコーターを用いても良く、抄紙機とソフトカレンダーを分離したオフマシンカレンダーを含むシステムを用いても良い。
【0077】
かくして得られる印刷用塗工紙の坪量は、紙質強度の確保という点から、JIS P8124「坪量測定方法」に記載の方法に準拠して測定し、30g/m2以上200g/m2以下であることが好ましく、50g/m2以上170g/m2以下であることがより好ましい。坪量が30g/m2未満の場合、紙質強度を確保することが困難となり、印刷時の断紙等、操業トラブルが発生する可能性があるため好ましくない。一方、坪量が200g/m2を超える場合には、近年要求されてきている軽量化や省資源化を達成することが困難となる。
【0078】
本発明の印刷用塗工紙及びその製造方法では、紙基材上に顔料及び接着剤からなる塗工層を1層のみ塗工しても良く、2層以上としても良い。2層以上の塗工の場合は、下塗り塗工層及び上塗り塗工層の双方が本発明の塗工方法であることが好ましい。下塗り塗工層を本発明以外の塗工方法で設けても良いが、少なくとも最表層の塗工層は、本発明の塗工方法である必要がある。また紙基材としては、未塗工紙又は澱粉やポリビニルアルコール等の水溶性高分子を塗布した基紙、接着剤及び顔料を塗工した塗工紙を使用しても良い。
【0079】
[実施例]
(ドクターブレード)
ブレードコーターのドクターブレードは、図1及び図2に示した形状であり、炭素工具鋼(SK材)からなる母材の上に、溶射によりタングステンを主成分とする表面硬化部を設けたものを使用した。表面硬化部のすくい面上には、先端部及び2箇所の屈曲部(第一屈曲部及び第二屈曲部)を設け、先端部及び第一屈曲部には0.1mmのR加工を施した。なお、表面硬化部のビッカース硬度は、1000Hvであった。また、S1及びS2は、後述する表1のとおりとし、S3は0.635mm、S4は0.300mmとした。
【0080】
(塗工液)
表1に示す割合で調製した塗工液を、表1の塗工量となるよう塗工した。用いた顔料及び薬品は以下のとおりである。
【0081】
(1)顔料
・重質炭酸カルシウム(品番:ハイドロカーブ90K、オミヤコーリア社製)
・軽質炭酸カルシウム(品番:タマパールTP-121-6S、奥多摩工業社製)
・微粒カオリンクレー(品番:カオファイン、イメリス社製)
(2)接着剤
・スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス
傾斜構造:(品番:PA-6082、日本エイアンドエル社製)
単一構造:(品番:PA-2070、日本エイアンドエル社製)
・水溶性高分子
HES:ヒドロキシエチルエーテル化澱粉(品番:K96F、GPC社製)
リン酸:リン酸エステル化澱粉(品番:MS4600、日本食品加工社製)
PVA:ポリビニルアルコール(品番:PVA-110、クラレ社製)
【0082】
(製造手順)
原料パルプとしてLBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)とNBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)を80:20の質量割合で配合し、このパルプ(絶乾量)に対して、固形分で、内添サイズ剤(品番:AK-720H、ハリマ化成(株)製)0.02質量%、カチオン化澱粉(品番:アミロファックスT-2600、アベベジャパン(株)製)1.0質量%、及び歩留向上剤(品番:NP442、日産エカケミカルス(株)製)0.02質量%をそれぞれ添加してパルプスラリーを得た。
【0083】
次に、ワイヤーパート、プレスパート、プレドライヤーパート、アンダーコーターパート、アフタードライヤーパート、トップコーターパート、スキャッフドライヤーパート、カレンダーパート、リールパートを含む製紙システムを用いワインダーパートにて印刷用塗工紙に仕上げた。
【0084】
まず、パルプスラリーをワイヤーパートにて抄紙し、次いでプレスパート、プレドライヤーパートに供して、坪量37〜55g/m2の紙基材を製造した。次いでアンダーコーターパートにて、サイズ剤(ハーサイズAK720H、ハリマ化成社製)を片面あたり0.5g/m2となるよう、紙基材の両面に下塗り塗工し、アフタードライヤーパートで乾燥させた。その後、トップコーターパートにて、後述する表1に示す形状のドクターブレードを有するブレードコーターを用いて、表1に示す上塗り塗料を塗工した。なお、比較例7及び比較例8では、屈曲部を設けないブレードを使用した。
【0085】
塗工層は、片面あたり表1に示す塗工量(g/m2)となるよう、両面を塗工し、坪量60g/m2の印刷用塗工紙を製造した。乾燥設備はIRT(赤外線乾燥装置)及び熱風乾燥(スキャッフドライヤー)を用いて行った。
【0086】
次に、カレンダーパートにて、線圧50kN/m、速度1800m/分で平坦化処理を施し、ワインダーパートに供して印刷用塗工紙を得た。ただし、実施例30のみ速度1500m/分で平坦化処理を施した。
【0087】
なお、ワイヤーパートではギャップフォーマーを用いて抄紙し、アンダーコーターパートではロッドメタリングサイズプレスコーターを用い、トップコーターパートではブレードコーターを用いた。またカレンダーパートでは、マルチニップカレンダーを用いた。尚、実施例及び比較例では、上記ワイヤーパート〜カレンダーパートまでが一体となった、オンマシンシステムを用いた。このため、カレンダーパートの平坦化処理速度が抄造速度及び塗工速度となる。
【0088】
このようにして得られた実施例及び比較例の印刷用塗工紙について、白色度、面感、印刷適性を、以下の方法によって調べた。その結果を、表1及び表2に示す。
【0089】
(a)白色度
JIS P8148 (2001)「紙、板紙及びパルプ−ISO白色度(拡散青色反射率)の測定方法」に従って測定した。
【0090】
(b)面感
塗工紙表面に発生した微小な塗工ムラについて、以下の評価基準に基づいて評価した。
◎:微小な塗工ムラが発生せず、面感が特に良好で実使用可能
○:微小な塗工ムラがわずかに発生したが、面感が充分に良く実使用可能
△:微小な塗工ムラが多少発生したが、面感は良く実使用可能
×:微小な塗工ムラが発生し、面感が悪く実使用不可能
【0091】
(c)印刷適性
オフセット印刷機(型番:リソピアL-BT3-1100、三菱重工業(株)製)を使用し、カラーインク(品番:ADVAN、大日本インキ化学工業(株)製)で、印刷用塗工紙にカラー4色印刷を5000部行った。この5000部の印刷面について、目視及びルーペ(10倍)によって、印刷面の印刷ムラを観察し、その程度を以下の評価基準に基づいて評価した。
◎:印刷ムラがない
○:印刷ムラがわずかに発生したが、実使用可能
△:印刷ムラが多少発生し、印刷適性に多少劣るが、実使用可能
×:印刷ムラが多数発生したため、実使用不可能
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
表1及び表2において、顔料の質量%は、顔料全体に占める重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム及び微粒カオリンクレーの比率を示している。例えば、「炭酸カルシウム80、クレー20」とは「顔料が、重質炭酸カルシウム80質量%と微粒カオリン20質量%の混合物である」ことを意味している。なお、表1及び表2では、重質炭酸カルシウムを「重カル」、軽質炭酸カルシウムを「軽カル」と表示している。
【0095】
また、表2に示す比較例7及び比較例8で使用したドクターブレードは、表面硬化部のすくい面が単一平面であり、すくい面の中に屈曲部が存在しない。
【0096】
表1及び表2より明らかなように、各実施例では、特定形状のブレードを使用しているため、炭酸カルシウムを全顔料の90質量%以上の高配合とした塗工液を、1500m/分以上の塗工速度で塗工しても、塗工ムラが発生し難く、均一な塗工が得られた。そして、得られた印刷用塗工紙は、白色度が高く、面感がよく、印刷適性が良好であった。しかし、比較例1〜比較例8では、上記のような効果は得られなかった。
【0097】
なお、S1を1とした場合、S2は0.25以上0.67以下であることが好ましく、0.32以上0.56以下であることがより好ましいことも確認された。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の一実施形態に係る、印刷用塗工紙の製造方法で使用するドクターブレードの上面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】ブレードコーター内におけるドクターブレードと紙基材上の塗料との接触部分の拡大図である。
【符号の説明】
【0099】
1 ドクターブレード
2 母材
2a 母材の下面
2b 母材のランド面
2c すくい面
3 表面硬化部
3a 表面硬化部の上面
3b 表面硬化部のランド面
4 ベベル面
4a 先端部
4b 第一屈曲部
4c 第二屈曲部
4d 第一傾斜部
4e 第二傾斜部
S1 先端部から第一屈曲部までの長さ
S2 第一屈曲部から最終屈曲部までの長さの合計
11 バッキングロール
12 紙基材
13 塗工液
14 塗工面
15 液溜まり

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と接着剤とを含む塗工液を紙基材表面に塗工して塗工層を設けた印刷用塗工紙であって、
前記塗工層の少なくとも最表層の塗工に用いる塗工液は、顔料中に占める炭酸カルシウムの割合が90質量%以上であり、かつ、前記接着剤としてヒドロキシエチルデンプンを含み、
前記塗工層はブレードコーターで設けられ、
前記ブレードコーターのドクターブレードは、母材のすくい面側の先端部近傍を覆うように表面硬化部が設けられ、
前記すくい面側の表面硬化部には、2箇所以上の屈曲部が設けられ、
前記すくい面の先端部から、前記すくい面の先端部に最も近い第一屈曲部までの長さ(S1)が、前記第一屈曲部から、前記すくい面先端部から最も遠い最終屈曲部までの長さの合計(S2)よりも長い、
ことを特徴とする印刷用塗工紙。
【請求項2】
前記接着剤がさらにスチレン−ブタジエンラテックスを含み、ヒドロキシルエチルデンプンに対するスチレン−ブタジエンラテックスの固形分換算での質量割合が、1.4以上7.0以下である、請求項1に記載の印刷用塗工紙。
【請求項3】
前記(S1)が、300μm以上400μm以下である、請求項1又は2に記載の印刷用塗工紙。
【請求項4】
前記(S2)が、100μm以上200μm以下である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の印刷用塗工紙。
【請求項5】
顔料と接着剤とを含む塗工液を紙基材表面に塗工して塗工層を設ける印刷用塗工紙の製造方法であって、
前記塗工層の少なくとも最表層の塗工に用いる塗工液は、顔料中に占める炭酸カルシウムの割合が90質量%以上であり、かつ、前記接着剤としてヒドロキシエチルデンプンを含み、
前記塗工層はブレードコーターで設けられ、
前記ブレードコーターのドクターブレードは、母材のすくい面側の先端部近傍を覆うように表面硬化部が設けられ、
前記すくい面側の表面硬化部には、2箇所以上の屈曲部が設けられ、
前記すくい面の先端部から、前記すくい面の先端部に最も近い第一屈曲部までの長さ(S1)が、前記第一屈曲部から、前記すくい面先端部から最も遠い最終屈曲部までの長さの合計(S2)よりも長い、
ことを特徴とする印刷用塗工紙の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−90500(P2010−90500A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260513(P2008−260513)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】