説明

即時放出製剤の設計

【課題】難溶性薬物、特にセフェム系抗生物質に対して簡便で且つ効果的に薬効効果を増進できる技術の提供
【解決手段】難溶性物質であるセフェム経口性物質、特にセフテラム若しくはその誘導体又はその塩を完全若しくは一部溶解することのできる溶媒で溶解させた後、その溶液を水膨潤性高分子に吸着させる。この結果、通常の設備でより効果的に薬効を増加する難溶性薬物製剤を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗生物質、特にセフジトレンピボキシルの可溶化及び即時溶解を示す製剤設計に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品は、その適用となる疾患によって、薬効を素早く示すことを目的とした製剤と持続して示すことを目的とした製剤に分類することができる。しかし、どちらの場合でも有効成分が有効血中濃度に到達することが必要である。脈管へ適用する注射剤は直接血管に投与するので特段問題にならないが、経口剤については消化管での動向、体内への吸収等、有効成分を効率よく利用することがよりよい治療に繋がる。
通常、医薬有効成分を製剤化する場合は水にほとんど溶解しない医薬有効成分を製剤化することはほとんどなかったが、昨今の技術の発達によりこのような水に溶解しない薬物についても製剤化が可能になってきた。
ところで、難溶性薬物であるセフジトレン若しくはその誘導体は数多くの可溶化方法が発明されている。シクロデキストリンとの包摂化(特許文献1)、水溶性カゼインとの配合(特許文献2)などによる可溶化が開示されている。しかし、前者はセフジトレンの独特の苦みを増幅させるために、服用性を著しく悪くしてしまう。また、後者はカゼインが牛乳由来のタンパク質であるためアレルギー症状を発する可能性があり、必ずしも望ましい技術とはいえなかった。また、酸とアルカリを用いた中和を利用した方法も開示されている(特許文献3)。しかし、この場合、非常に多くの段階を踏むため作業効率の観点より問題がある。
【0003】
【特許文献1】特公平06−78234
【特許文献2】特許2831135
【特許文献3】特許3413406
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、難溶性薬物を効率よく体内へ吸収させるためには非常に困難であることが知られている。これらを解消し且つ既存の施設で簡便に製剤化できる方法が必要とされてきた。また、通常知られている方法では即時に有効成分が溶解しないことも確認されたため、即時に有効成分が溶解する製剤設計も重要になってきた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は難溶性医薬有効成分を水溶性高分子基材と共に有機溶媒に溶解させ、この溶液を何らかの水膨潤性物質に吸着させることにより、既存の設備で難溶性医薬有効成分を可溶化させ、更には水等に溶解させた際に即時に溶解することの可能な製剤を製造することが可能であることを見出した。
すなわち、本発明は下記の内容をその要旨とするものである。
(1)水膨潤性高分子に難溶性医薬有効成分の溶液を吸着させることを特徴とする難溶性医薬有効成分の易吸収性医薬組成物
(2)難溶性医薬有効成分が水への溶解度が1g/L以下である(1)の医薬組成物
(3)難溶性薬物がセフェム系抗生物質である(1)ないし(2)の医薬組成物
(4)セフェム系抗生物質がセフジトレン若しくはその誘導体又はその塩である(1)ないし(3)の医薬組成物
(5)水膨潤性高分子が崩壊剤であることを特徴とする(1)ないし(4)の医薬組成物
(6)崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース若しくはその塩、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、部分アルファー化デンプン、若しくはカルボキシメチルスターチナトリウムの1種類以上を含有した(1)ないし(5)の医薬組成物
(7)難溶性医薬有効成分の溶液を、当該医薬有効成分の溶解度が1g/L以上である溶媒に溶解して作成することを特徴とする(1)ないし(6)の医薬組成物
(8)溶解させる溶媒が精製水、塩化メチレン、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、酢酸エチル若しくはこれらを組み合わせた(1)ないし(7)の医薬品組成物
(9)難溶性医薬品有効成分の溶液に水溶性高分子を加えた(1)ないし(7)の医薬組成物
(10)水溶性高分子がヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マクロゴール、ポリビニルピロリドンである(9)の医薬組成物
(11)(1)ないし(10)の医薬組成物にケイ酸類及びその他滑沢剤又は増量剤等を添加して打錠することを特徴とする難溶性医薬有効成分の錠剤
(12)ケイ酸類が軽質無水ケイ酸である(11)の製剤
【発明の効果】
【0006】
本発明により難溶性薬物医薬成分、特にセフェム経口性物質を何らかの溶媒に溶解させ、水膨潤性高分子に吸着させることにより、服用後、早急に溶出し、結果的に薬効効果を最大限に発揮した製剤が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は難溶性医薬有効成分、特にセフェム系抗生物質、更にはセフジトレン若しくはその誘導体又はその塩について水溶性高分子と共に有機溶媒に溶解させた後、水膨潤性高分子に吸着させることにより、即時放出型の製剤を得ることができる。
この発明における難溶性医薬有効成分は、この場合、精製水に溶解させた場合に1g/L以下、特に好ましくは0.1g/L以下の溶解度を示す。これらの条件を示す代表的な薬物としてはセフェム系抗生物質、特にはセフジトレン若しくは誘導体又はその塩が挙げられる。
【0008】
水膨潤性高分子については特に限定されることはない。具体的には水や消化液等に接触すると素早く膨潤する物質である崩壊剤等が好ましい。このような物質としては、具体的には低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース若しくはその塩、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、部分アルファー化デンプン、若しくはカルボキシメチルスターチナトリウムが挙げられ、特に好ましくは低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース若しくはその塩、クロスカルメロースナトリウムが挙げられる。
難溶性医薬品有効成分と水膨潤性高分子との割合は、難溶性医薬品有効成分が素早く溶解する割合であれば特段限定するものではない。なお、具体的にはその割合は難溶性有効成分に対して10〜500%、更に好ましくは50〜200%である。
【0009】
難溶性医薬有効成分を溶解させる溶媒は特に限定されないが、好ましくは精製水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、塩化メチレン、酢酸エチルが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、複数組み合わせることによる相乗効果を利用することもできる。
また、難溶性医薬有効成分を溶解させた溶液に必要に応じて水溶性高分子を更に溶解させることができる。この場合に使用することのできる水溶性高分子はヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルメロースナトリウムなどが挙げられる。特に好ましい水溶性高分子はヒドロキシプロピルセルロースである。水溶性高分子の割合については難溶性医薬有効成分が水膨潤性物質に吸着し、製造時に再粉化しなければ独断限定はされない。なお、その割合は具体的には難溶性医薬有効成分に対して0.1〜50%、更に好ましくは1〜10%である。
【0010】
難溶性医薬有効成分を含有した溶液を水膨潤性高分子に吸着させる方法は常法で実施できる。好ましくは流動層造粒機、攪拌造粒機、押出造粒機、転動造粒機、微粒子コーティング機若しくはこれらを組み合わせた造粒機で製造することができる。特に好ましくは流動層造粒機若しくは微粒子コーティング機である。
【0011】
また、これらの添加剤以外にも本発明の効果を損なわなければ適宜、従来公知の種々の滑沢剤、可溶化剤、緩衝剤、吸着剤、結合剤、懸濁化剤、抗酸化剤、充填剤、pH調整剤、賦形剤、分散剤、崩壊剤、崩壊補助剤、防湿剤、防腐剤、溶剤、溶解補助剤、流動化剤等を使用することができる。
【0012】
賦形剤としては、例えば乳糖、精製白糖、結晶セルロース、コーンスターチ、バレイショデンプン、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール等の糖アルコール、トレハロース、無機塩、デキストラン、デキストリン、ブドウ糖、粉糖等が挙げられる。崩壊剤としては例えば、コーンスターチ、バレイショデンプン等のデンプン類、部分アルファー化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルメチルセルロース、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルスターチ等が挙げられる。結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、アルファー化デンプン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、寒天、ハチミツ等が挙げられる。
滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、タルク、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。また、コーティング剤としてはヒドロキシプロピルメチルセルロース、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、アミノアクリルメタクリレートコポリマーE、アミノアクリルメタクリレートコポリマーRS、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS等が挙げられる。更に、矯味成分としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸などが挙げられる。発泡剤としては、例えば、重曹などが挙げられる。人口甘味料としては、例えば、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、アスパルテーム、ステビア、ソーマチンなどが挙げられる。マスキング剤としては、例えば、エチルセルロース等の水不溶性高分子、メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジエチルアミノエチル・コポリマー等の胃溶性高分子などが挙げられる。
【0013】
これらを用いて顆粒を製造することもできる。顆粒の製造方法としては常法であれば特に問題はない。具体的には湿式造粒としては流動層造粒、攪拌造粒、押し出し造粒、転動造粒、これらを組み合わせた造粒方法が挙げられる。また、乾式造粒としてはローラーコンパウンダー等が挙げられる。また、溶融造粒もこの場合の顆粒製造には適当であると考える。
【0014】
これらの方法により造粒した顆粒はそのまま服用することも可能である。しかし、一定量を服用するためには散剤や顆粒剤よりもカプセル剤や錠剤などがより好ましい。
カプセル剤の場合はその材質等には特段、制限はない。具体的にはゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プルラン、ポリビニルポリマー等が挙げられる。
また、錠剤の場合は何らかの方法で圧縮成型をすることが必要になる。圧縮成型する方法としては常法であれば特に問題にはならない。圧縮成型する方法としては具体的にはロータリー打錠機、単発打錠機等が挙げられる。また、圧縮成型する圧力については、生産、輸送時に割れ欠けを生じさせなければ特段制限はない。
【0015】
また、顆粒、カプセル、圧縮製剤の場合は持続性、薬物分配機能(DDS)、味の遮蔽等の特殊な機能を付与させるために、その表面にコーティングを実施することも可能である。コーティングの方法としては、具体的にはスプレーガンを用いたフィルムコーティング、糖衣等が挙げられる。コーティング基材としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリオキシエチレングリコール、ポリビニルアルコール、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE、メタアクリル酸コポリマーL、メタアクリル酸コポリマーLD、メタアクリル酸コポリマーS、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーRS,アクリル酸エチルメタクリル酸エチルコポリマー、セラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、カウナウバロウ、カルボキシビニルポリマー、酢酸セルロース、酢酸ビニル樹脂、酢酸フタル酸セルロース、白糖、プルラン、ポビドン、アラビアゴム末、ポリソルベート80、プルロニック、クエン酸トリエチル、グリセリン脂肪酸エステル、酸化チタン、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸類、タルク、乳酸カルシウム、マクロゴール、硫酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、色素等が挙げられる。また、有核打錠機、多層錠打錠機を用いることによっても同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
実施例1
(担体として使用する部分)
カルメロースカルシウム 207.4 g
(主薬コーティング部分)
セフジトレンピボキシル 248.6 g
ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910 14 g
セフジトレンピボキシル 248.6g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910(TC−5(E):信越化学株式会社製) 14gをジクロロメタン600mLとメタノール200mLの混合溶媒に添加し完全に溶解させた。次にカルメロースカルシウム(ECG−505:五徳工業株式会社製)を流動層造粒機に入れ、先に調整した主薬入りの造粒液を噴霧して造粒を行った。
実施例 2
表1に示す成分を秤量し、実施例1に準じて製造した。
実施例 3
表1に示す成分を秤量し、実施例1に準じて製造した。
比較例 1
表1に示す成分を秤量し、実施例1に準じて製造した。
【0017】
【表1】

※1 :ECG−505(五徳工業株式会社製)
※2 :L−HPC LH−31(信越化学株式会社製)
※3 :Ac−di−sol(旭化成株式会社製)
※4 :乳糖DMV80M(DMV製)
※5 :TC−5(E)(信越化学株式会社製)
【0018】
試験例 1
実施例1〜3及び比較例1で製造した製剤を用い、溶出試験を実施した。
(溶出試験方法)
日本薬局方の溶出試験第2法パドル法に従い溶出試験を実施した。その条件はパドル回転数を50rpm、溶出試験液(水)を900mlとして、試験を実施した。なお、セフジトレンピボキシルの検出方法は270nmと700nmとの吸光度を測定し、溶出率は2の吸光度より算出した。その結果を表2に示す
【表2】

【0019】
上記のように水膨潤性薬物を用いることにより難溶性医薬成分であるセフジトレンピボキシルを敏速に溶出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は難溶性物質であるセフェム経口性物質、特にセフジトレンの即時溶出する製剤である。結果的に今までの製剤に比べて少量の薬物で効果的に薬効を発揮することが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水膨潤性高分子に難溶性医薬有効成分の溶液を吸着させることを特徴とする難溶性医薬有効成分の易吸収性医薬組成物
【請求項2】
難溶性医薬有効成分が水への溶解度が1g/L以下である請求項1の医薬組成物
【請求項3】
難溶性薬物がセフェム系抗生物質である請求項1ないし2の医薬組成物
【請求項4】
セフェム系抗生物質がセフジトレン若しくはその誘導体又はその塩である請求項1ないし3の医薬組成物
【請求項5】
水膨潤性高分子が崩壊剤であることを特徴とする請求項1ないし4の医薬組成物
【請求項6】
崩壊剤が低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース若しくはその塩、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、部分アルファー化デンプン、若しくはカルボキシメチルスターチナトリウムの1種類以上を含有した請求項1ないし5の医薬組成物
【請求項7】
難溶性医薬有効成分の溶液を、当該医薬有効成分の溶解度が1g/L以上である溶媒に溶解して作成することを特徴とする請求項1ないし6の医薬組成物
【請求項8】
溶解させる溶媒が精製水、塩化メチレン、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、酢酸エチル若しくはこれらを組み合わせた請求項1ないし7の医薬品組成物
【請求項9】
難溶性医薬品有効成分の溶液に水溶性高分子を加えた請求項1ないし7の医薬組成物
【請求項10】
水溶性高分子がヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マクロゴール、ポリビニルピロリドンである請求項9の医薬組成物
【請求項11】
請求項1ないし10の医薬組成物にケイ酸類及びその他滑沢剤又は増量剤等を添加して打錠することを特徴とする難溶性医薬有効成分の錠剤
【請求項12】
ケイ酸類が軽質無水ケイ酸である請求項11の製剤

【公開番号】特開2006−298810(P2006−298810A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121834(P2005−121834)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000208145)大洋薬品工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】