説明

卵巣癌のバイオマーカー:CTAP3関連タンパク質

本発明は、患者における卵巣癌の症状を認定するのに有用な、タンパク質ベースのバイオマーカーを提供する。特に、本発明のバイオマーカーは、対象のサンプルを卵巣癌又は非卵巣癌として分類するのに有用である。バイオマーカーは、SELDI質量分析により検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2005年6月22日出願の米国特許仮出願第60/693,324号の便益を主張するもので、その全てを参照して本明細書に組み込まれている。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、卵巣癌の検出において重要であるバイオマーカーを提供する。上記マーカーは、SELDI分析を用いて、卵巣癌の患者における血清タンパク質プロフィールを健常者と識別することにより同定される。本発明は、上記バイオマーカーが卵巣癌の症状を認定するために用いる、バイオマーカーの方式及び方法に関する。本発明はまた、公知のタンパク質としてのバイオマーカーであるCTAP3を識別する。
【背景技術】
【0003】
卵巣癌は、先進国において最も死亡率の高い婦人科の悪性腫瘍の一つである。アメリカ合衆国だけでも年間に、約23,000名の女性が本疾患であると診断され、ほぼ14,000名が本疾患により死亡している(Jamal, A., et al., CA Cancer J. Clin, 2002; 52:23-47)。癌治療法の進歩に拘らず、卵巣癌の死亡率は、過去20年間実質的には変化がないままである(同上の文献)。疾患が診断された段階に応じた生存率の急勾配を考慮するならば、初期検出は、引き続き卵巣癌患者の長期生存率の改善に最も重要な要素であり続けている。
【0004】
後期段階に診断された卵巣癌の予後不良、確証的診断手段に関連した費用とリスク並びに一般の母集団における比較的少ない患者数が相俟って、一般母集団における卵巣癌患者のスクリ−ニングに適用する検査の感度及び特異性に極めて厳しい要件が求められている。
【0005】
癌の初期検出及び診断に適した腫瘍マーカーの識別により、患者の臨床成績の改善が大きく期待できる。曖昧な症状を示す患者、全く症状を示さない患者又は検診において比較的判断しにくい癌を有する患者にとって、腫瘍マーカーは特に重要である。初期段階における検出を目指して大きな努力が払われているにも拘らず、対費用効果の高い検査は開発されておらず(Paley PJ., Curr Opin Oncol, 2001;13(5):399-402)、女性は一般に、診断時に播腫性の疾患の症状を示す(「婦人科腫瘍の本質と実際(Hoskins WJ, Perez CA, Young RC, editors., 3rd ed. Philadeiphia: Lippincott、Williams and Wilkins; 2000, p.981-1057)」の「上皮性卵巣癌(Ozols RF, et al.)」)。
【0006】
最も良く特徴が知られている腫瘍マーカーであるCA125は、ステージIの卵巣癌のおよそ30%から40%では陰性であり、多くの良性の疾患ではその割合は上昇する(Meyer T, et al., Br J Cancer, 2000; 82(9):1535-8; Buamah P., J Surg Oncol, 2000;75(4):264-5; Tuxen MK, et al., Cancer Treat Rev, 1995;21(3):215-45)。卵巣癌の初期段階での検出の集団ベースのスクリ−ニングの手段として並びに診断としてのそれの使用は、感度及び特異性が低いため無理である(「MacDonald ND, et al., Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol, 1999:82(2):155-7」;「Jacobs I, et al., Hum Reprod, 1989;4(1):1-12」;「腫瘍マーカーの生理学的、病理生物学的、技術工学的並びに臨床的適用(Diamandis EP, Fritsche, H., Lilja, H., Chan, D.W., and Schwartz, M., editor., Philadelphia: AACC Press; in press)」における「卵巣癌における腫瘍マーカー(Shih I-M, et al.)」)。骨盤及び更に近年では膣の超音波検査が、リスクの高い患者をスクリ−ニングするために使用されているが、いずれも一般集団に適用するためには技術的に感度及び選択性が十分ではなかった。(MacDonald ND, et al., supra)。癌モデルの長期リスク(Skates SJ, et al., Cancer, 1995;76(10 Suppl);2004-10)において、別の腫瘍マーカーとCA125との併用(「Woolas RP XF, et al., J Natl Cancer Inst, 1993;85(21):1748-51」;「Woolas RP et al., Gynecol Oncol, 1995;59(1):111-6」;「Zhang Z, et al., Gynecol Oncol, 1999;73(1):56-61」;「ステージIの上皮卵巣癌を検出するための複数マーカーの利用:ニューラル・ネットワーク解析による性能の向上(Zhang Z, et al., American Society of Clinical Oncology 2001);年会の要旨」)、並びに2次検査として超音波検査と平行してのCA125の使用(「Jacobs I DA, et al., Br Med J, 1993:306(6884):1030-34」及び「Menson U TA, et al., British Journal of Obstetrics and Gynecology, 2000;107(2):165-69」)での近年の試みでは、比較的低い有病率を示す卵巣癌のような疾患にとって極めて重要な、検査全体の特異性の改善に繋がる有望な結果が得られている。
【0007】
後期卵巣癌の悲惨な予後のために、最小の陽性予測値が10%の検査でさえも臨床医は受け入れるであろうということは、一般的なコンセンサスである。(Bast, R.C., et al., Cancer Treatment and Research, 2002; 107:61-97)。これを一般の集団に拡張するには、一般スクリ−ニング検査の感度は70%を超え、選択性は99.6%を超える必要がある。近年、CA125、CA72−4又はM−CSF等の現存の血清マーカーは、何れも一つ一つではそのような性能を有していない(Bast, R.C., et al., Int J Biol Markers, 1998; 13:179-87)。
【0008】
従って、それ自体で又は他のマーカー若しくは診断モダリティーとの併用で卵巣癌の初期検出において必要な感度及び特異性を示す、新しい血清マーカーが切実に求められている(「卵巣癌:卵巣癌の初期検出、展望と実現性」(Bast RC, et al.,:ISIS Medical Media Ltd.、Oxford、UK;2001.in press)。許容されるスクリーニング検査がない状態での初期検出は、卵巣癌患者の長期生存率を改善させる最も重要な要因を依然として残したままである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、患者の卵巣癌の症状を判定するための信頼できる且つ正確な方法の確保が、希求されており、その様な方法の結果を用いて対象の治療が管理可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の概要)
CTAP3は、卵巣癌患者における血清中で上方制御されることが知られている。従って、CTAP3のレベルは、対象における卵巣癌の判定を行う際のバイオマーカーとして有用である。同様に、CTAP3関連タンパク質は、対象における卵巣癌の判定を行う際のバイオマーカーとして有用である。
【0011】
本発明は、1つ又はそれ以上の特異的なバイオマーカー、例えばCTAP3のようなCTAP3関連分子を測定することによる、卵巣癌の症状を判定することに関して有用である感度の高い且つ迅速な方法、並びにキットを提供する。患者のサンプルにおけるこのマーカーの測定値は、診断者がヒト癌の見込み診断又は負の診断(例えば、正常又は疾患なし)と関連付けることのできる情報を提供する。マーカーは、分子量及びその公知のタンパク質特性により特性化される。マーカーは、多様な分別技法、例えば、質量分析法と組み合わせたクロマトグラフィ−分離法、固定化抗体を用いるタンパク質捕捉法又は従来の免疫学的測定により、サンプルにおける他のタンパク質から分離することができる。好ましい態様では、分離方法には、表面増強レーザー脱離/イオン化(「SELDI」)質量分析法を含み、ここにおける質量分析プローブの表面は、マーカーと結合する吸着剤を含んでなる。
【0012】
本発明は、対象からの生体サンプル中のCTAP3関連ペプチド、例えばCTAP3を含む少なくとも一つのバイオマーカーを測定すること、及び(b)測定結果を卵巣癌の症状と関連付けることを含んでなる、対象における卵巣癌の症状を認定する方法を提供する。特定の態様では、測定段階は、サンプル中にマーカーが存在するかしないかを検出することを含んでなる。他の方法では、測定段階は、サンプル中のマーカーの量を認定することを含んでなる。他の方法では、測定段階は、サンプル中のマーカーのタイプを認定することを含んでなる。
【0013】
本発明はまた、測定段階が、対象の血液又は血液製剤のサンプルを提供すること、陰イオン交換樹脂上にサンプル中のタンパク質を分別すること、そしてこのタンパク質バイオマーカーと結合する捕捉剤を含んでなる基質の表面の画分からCTAP3関連ペプチド、例えばCTAP3を含む画分を収集すること、を包含する方法に関する。血液製剤は、例えば、血清又は血漿である。好ましい態様では、基質は、銅IMAC表面を包含しているSELDIプローブであり、そしてここにおけるタンパク質バイオマーカーは、SELDIにより検出される。他の態様では、基質は、例えば、CTAP3と結合する、生体特異的な親和性剤を含んでなるSELDIプローブであり、そしてここにおけるタンパク質バイオマーカーは、SELDIにより検出される。他の態様では、基質は、CTAP3と結合する、生体特異的な親和性剤を含んでなるマイクロタイタープレートであり、そしてタンパク質バイオマーカーは、免疫学的測定により検出される。
【0014】
特定の態様では、本発明の方法は、本発明の方法により判定された症状を基に、対象の治療を管理することを更に含んでなる。例えば、本発明の方法による結果が不確定的である、又は症状の確認が必要となる理由がある場合には、医師は更なる検査を指示してもよい。或いは、症状が外科的手術が適当であると示す場合、医師は患者に外科手術の計画をたてることができる。更には、治療が成功しているという結果が示される場合、更なる治療管理を必要としないかもしれない。
【0015】
本発明は又、対象の管理、即ち治療の後に再びCTAP3関連バイオマーカーを測定するような方法も提供する。これらの場合には、対象の治療を管理する段階は、得られた結果に依存して、その後繰り返す及び/又は変更される。更なる態様では、測定結果を疾患の進行と関連付ける。
【0016】
「卵巣癌の症状」という用語は、患者における疾患の症状を示す。卵巣癌の症状のタイプの具体例には、これらに限定されないが、対象の癌に対するリスク、疾患の有無、患者における疾患の段階、及び疾患治療に対する有効性を含む。他の症状及び各症状の度合いは当業者に公知である。
【0017】
特定の好ましい態様では、卵巣癌の症状を認定するための方法は、CA125、トランスフェリン、ハプトグロビン、ApoA1、トランスサイレチン、ITIH4の内部フラグメント、β2−ミクログロブリン、ヘプシジン、プロスタチン、オステオポンチン、好酸球由来の神経毒、レプチン、プロラクチン、IGF−II、ヘモグロビン及びそれらの修飾型よりなる群から選ばれる、少なくとも一つのバイオマーカーを測定すること及び卵巣癌の症状と関連付けることを更に包含する。
【0018】
他の好ましい態様では、卵巣癌の症状を判定するための方法は、CA125II、CA15−3,CA19−9,CA72−4,CA195、腫瘍関連のトリプシン抑制剤(TATI)、CEA、胎盤アルカリフォスファターゼ(PLAP)、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF、CSF−1)、 リゾホスファチジン酸(LPA)、上皮成長因子受容体の細胞外領域の110kD成分(p110EGFR)、組織カリクレイン(例えば、カリクレイン6及びカリクレイン10(NES−1))、プロスタシン、HE4、クレアチンキナーゼB(CKB)、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、Dianon NB70/K、組織ペプチド抗原(TPA)、SMRP、オステオポンチン、及びハプトグロビン、レプチン、プロラクチン、インスリン様成長因子I又はインスリン様成長因子IIよりなる群から選ばれる、少なくとも一つのバイオマーカーを測定すること及び卵巣癌の症状と関連付けることを更に包含する。
【0019】
一態様では、本発明は、CA125又はCA125IIの測定と併用して、対象からの生体サンプル中のCTAP3マーカーを測定すること、そして2つの測定の調整された値を卵巣癌の症状と関連付けること含んでなる方法を提供する。発明者らは、CA125と併用した又は組み合わせたCTAP3の測定値が、どちらかのマーカー単独の測定値よりも、改善された結果(例えば、向上した識別力または検出力)を提供できることを見出した。
【0020】
別の態様では、本発明は、対象からの生体サンプル中のCTAP3マーカーを測定すること、そして測定結果を卵巣癌の症状と関連付けること含んでなる方法を提供し、ここにおける症状は、侵襲性卵巣癌に対して不明確な(境界域の)卵巣癌である。発明者らは、CTAP3が侵襲性卵巣癌に対する不明確な卵巣癌を識別できることを見出した。
【0021】
本発明のCTAP3関連バイオマーカーは、1つ又はそれ以上の態様で特徴付けを行うことができる。とりわけ一態様では、このマーカーは、本明細書中に特定される条件の下で、具体的には質量分析法により判定されるものとして、分子量により特徴付けられる。別の態様では、マーカーは、マーカーのスペクトルピークの大きさ(領域を含む)及び/又は形状のようなマーカーのマススペクトルの特異的な特性、近似値、隣接するピークの大きさ及び形状を含む特性等により特徴付けることができる。さらに別の態様では、マーカーは、親和的結合特性、とりわけ、特定の条件下での銅IMAC吸着剤(しかしながら、他の金属、例えばニッケルを用いることができる)に対する結合力により特徴付けることができる。好ましい態様では、本発明のマーカーは、このような各態様、即ち分子量、マススペクトルの特徴、及びIMAC−Cu吸着剤との結合、により特徴付けることができる。
【0022】
本明細書に開示のマーカーの質量の値に関して、スペクトル機器の質量精度は、開示される分子量の値の約±0.15%以内と見なされる。さらに、そのように認定された機器の精度の変動性に対して、スペクトル質量の判定は、約400〜1000m/dmの分解能の範囲で変化可能であり、ここでmは質量であり、そしてdmは質量分析のピークの半値幅である。これらの質量精度及び分解能の変動は、マススペクトルの機器に関連していて、そしてそれらの操作は、マーカーIの質量の開示における「約」という用語の使用に反映する。そのような質量精度及び分解能の変動、並びに本明細書に開示のマーカーに関する「約」という用語の意味合いは、対象の性別、遺伝子型及び/又は民族性、並びに特定の癌又はそれらの原発部位若しくは段階により存在してもよい、マーカーの変動性を含む。
【0023】
本発明は、(a)対象からのサンプル中のCTAP3マーカーを測定すること、そして(b)測定結果を卵巣癌の症状と関連付けることを含んでなる、対象における卵巣癌の症状を認定する方法もさらに提供する。特定の方法では、測定の段階は、サンプル中のマーカーの有無を検出することを包含する。他の方法では、測定段階は、サンプル中のマーカーの量を認定することを包含する。
【0024】
診断検査の精度は、受信者動作特性分析曲線(「ROC curve」)により特徴付けられる。ROCは、診断検査の異なる可能性のカットポイントに対して、偽陽性割合に対する真陽性割合をプロットしたものである。ROC曲線は、感度と特異性の間の関係を示すものである。即ち、感度の増加は、特異性の減少に付随して起こるものであろう。曲線が左軸の方に、次いでROC空間の上端により近づくと、検査の精度はより高くなる。逆に、曲線がROCグラフの45度の対角線により近づくと、検査の精度はより低くなる。ROCの下の領域は、検査精度の尺度である。検査の精度は、被験グループを、問題となる疾患を患っている対象と患っていない対象とにどのようにうまく分けるかに依存している。0.5の領域が検査の非有用性を表す一方で、1の曲線下の領域(「AUC」と呼ばれる)は、検査の完全性を表す。よって、本発明のマーカー及び診断の方法は、0.50より高いAUCを有する、さらに好ましい検査は0.60より高いAUCを有し、さらに好ましい検査は0.70より高いAUCを有する。
【0025】
バイオマーカーを測定する好ましい方法には、バイオチップアレイの使用を含む。本発明に有用なバイオチップアレイは、タンパク質及び核酸アレイを含む。1つ又はそれ以上のマーカーは、バイオチップアレイ上に捕捉され、そしてレーザーイオン化法に従いマーカーの分子量が検出される。マーカーの分析は、例えば、総イオン電流に対して正規化されている閾値の強さに対するマーカーの分子量によるものである。好ましくは、対数変換を用いて、ピーク強度の幅を減少させて、検出するマーカーの数を限定する。
【0026】
本発明の好ましい方法では、バイオマーカーの測定値を卵巣癌の症状に関連付ける段階は、ソフトウェアの分類アルゴリズムにより実施される。好ましくは、データを、当該バイオチップアレイをレーザーイオン化法で処理すること、及び質量対電荷の比に関する信号の強度を検出することにより、バイオチップアレイ上に固定化された対象のサンプルで作成する;そして、データをコンピューターに読み込み可能なフォームに変換し;そして、ユーザーの入力するパラメータに従ってデータを分類するアルゴリズムを実行して、卵巣癌の患者に存在する(癌でない対象の対照には存在しない)シグナルを検出する。
【0027】
好ましくはバイオチップの表面は、例えば、イオン性、陰イオン性、固定化されたニッケルイオンから成る、陽及び陰イオンの混合物から成る、1つ又はそれ以上の抗体から成る、一本鎖又は二本鎖の核酸、タンパク質、ペプチド又はそれらのプラグメント、アミノ酸のプローブ、又はファージ・ディスプレイ・ライブラリーである。
【0028】
他の好ましい方法では、1つ又はそれ以上のマーカーは、レーザー脱離/イオン化質量分析法を用いて測定されるが、このレーザー脱離/イオン化質量分析法は、付着する吸着剤を包含する質量分析計の使用に適したプローブを提供すること、そして対象のサンプルを吸着剤に接触させること、マーカーをプローブから脱離及びイオン化すること、及び脱イオン化された/イオン化されたマーカーを質量分析計で検出することを含んでなる。
【0029】
好ましくは、レーザー脱離/イオン化質量分析計は、それらに付着する吸着剤を含んでなる基質を提供すること;対象のサンプルを吸着剤と接触させること;それらに付着する吸着剤を含んでなる質量分析計の使用に適したプローブ上に基質を配置すること;そしてマーカーをプローブから脱離及びイオン化すること、及び脱イオン化された/イオン化されたマーカーを質量分析計で検出することを包含する。
吸着剤は、例えば、ニッケル又は抗体のような、疎水性の、親水性の、イオン性の又は金属性のキレート吸着剤、一本鎖又は二本鎖のオリゴヌクレオチド、アミノ酸、タンパク質、ペプチド又はそれらのフラグメントであってもよい。
【0030】
本発明の方法は、そのような方法に適しているであろう何れかのタイプの患者のサンプル、例えば、血液、血清、血漿において実施されてもよい。
【0031】
本発明は更に、(a)CTAP3関連バイオマーカーを結合する捕捉剤、及び(b)バイオマーカーを包含する容器を含んでなる、キットも提供する。好ましい態様では、捕捉剤は、バイオマーカーを結合する。捕捉剤は何れかのタイプの試薬であってもよいが、好ましくは、試薬は、SELDIプローブである。捕捉剤は更に、本明細書に開示される他の公知のバイオマーカーを結合してもよい。特定の好ましい態様では、キットは、第1の捕捉剤が結合しなかったバイオマーカーを結合する、第2の捕捉剤を更に含んでなる。
【0032】
本発明の特定のキットでは、捕捉剤は固定化金属キレート(「IMAC」)を含んでなる。
【0033】
本発明の特定のキットは、洗浄の後に、他のバイオマーカーと比較して、捕捉剤に結合するバイオマーカーを選択的に保持できる洗浄用溶液を更に含んでなる。
【0034】
本発明は更に、(a)CTAP3関連バイオマーカーを結合する第1の捕捉剤、及び(b)バイオマーカーを測定するために捕捉剤を用いることに関する説明書を含んでなる、キットも提供する。これらのキットの特定の態様では、捕捉剤は抗体を含んでなる。更に、幾つかのキットは、捕捉剤が付着する又は付着できる、MSプローブを更に含んでなる。幾つかのキットでは、捕捉剤はIMACを含んでなる。キットは、洗浄の後に、他のバイオマーカーと比較して、捕捉剤に結合するバイオマーカーを選択的に保持できる洗浄用溶液を更に含んでなる。好ましくは、キットは、卵巣癌の症状を判定するためのキットの使用に関して記載される説明書を含んでなり、そして説明書は、検査のサンプルを捕捉剤に接触させること、及び捕捉剤に保持される1つ又はそれ以上のバイオマーカーを測定することを提供する。
【0035】
キットは、捕捉剤もまた提供し、その捕捉剤は、抗体、一本鎖又は二本鎖のオリゴヌクレオチド、アミノ酸、タンパク質、ペプチド又はそれらのフラグメントである。キットを用いるタンパク質のバイオマーカーの測定は、質量分析法又はELISAのような免疫学的測定法によるものである。
【0036】
卵巣癌の検出及び/又は更なる診断的アッセイのための抗体の生成に関する、精製されたタンパク質も又提供される。精製されたタンパク質には、例えば、CTAP3の精製ペプチドを含む。本発明は、検出できる標識を更に含んでなる、精製ペプチドも又提供する。
【0037】
別の態様では、経膣超音波法、ポジトロン放出断層撮影法(PET)又は単光子放出コンピュータ断層撮影法(SPECT)画像のような非侵襲性の医療用画像技術法は、癌、冠動脈疾患、脳疾患の検出に関して特に有用である。X線法、CT法及びMRI法のような他の画像技術法が主に構造を示すのに対して、ドップラー流れを伴う超音波法、PET法、及びSPECT法の画像は、臓器及び組織の化学的機能を示す。流れを伴う超音波法、PET法及びSPECT法の画像の使用は、卵巣癌のような疾患の進行を認定する及びモニターすることに関して、有用性が増大してきている。
【0038】
本明細書に開示のCTAP3関連バイオマーカー又はそのフラグメントは、PET法及びSPECT法の適用に関連して用いてもよい。PET法又はSPECT法の適用に好適なトレーサの残留物での修正の後で、腫瘍のタンパク質と相互作用するCTAP3関連バイオマーカーは、卵巣癌の患者におけるバイオマーカーの沈着を画像化するために用いることができる。
【0039】
本発明の他の態様に関しては、以下で考察した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
(発明の詳細な説明)
1. 緒言
バイオマーカーは、別の表現型状態(例:疾患なし)と比較して、或る表現型状態(例:疾患あり)の対象から採取したサンプルに特異的に存在する有機生体分子である。異なったグループにおけるバイオマーカーの発現の平均又は中央値が、統計学的に有意であると算定された場合には、バイオマーカーは異なった表現型状態に対して特異的に存在している。統計学的有意に対する一般的な検定は多くあるが、特に、t検定、ANOVA、クラスカル・ウォリス検定(Kruskal-Wallis)、ウィルコクソン検定(Wilcoxon)、マン・ホイットニー検定(Mann-Whiteney)及びオッズ比(odds ratio)が挙げられる。バイオマーカーは、それ自体又は他との併用で、対象がある表現型又は別の表現型の状態に属していることを示す相対危険率の指標を提供する。従って、バイオマーカーは、疾患(診断)、医薬品の治療効果(治療的診断法)及び薬剤の毒性のためのマーカーとして有用である。
【0041】
2. 卵巣癌のバイオマーカー
2.1 バイオマーカー
本発明は、卵巣癌、特に正常(非卵巣癌)に対しての卵巣癌を有する対象に特異的に存在する、ポリペプチドベースのバイオマーカーであるCTAP3関連タンパク質(「CTAP−III関連タンパク質」とも呼ばれる)を提供する。バイオマーカーは、質量分析法により確定される質量対電荷の比、飛行時間型質量分析法におけるそれらのスペクトルピークの形、及びそれらの吸着表面に対する結合特性により特徴付けられる。これらの特徴は、特別に検出された生体分子が本発明のバイオマーカーであるかを判定するための一つの方法を提供する。これらの特徴は、生体分子の固有の特徴を示しており、生体分子を識別する方法におけるプロセス上の限定を示すものではない。一態様では、本発明は、このバイオマーカーを分離された形態で提供する。
【0042】
本発明のバイオマーカーは、Ciphergen Biosystems社(Fremont, CA)製のプロテインチップアレイ(「Ciphergen」)を用いたSELDI技術により見いだされた。血清サンプルは、卵巣癌を有すると診断された対象及び正常であると診断された対象から採取した。サンプルを、陰イオン交換クロマトグラフィーにより分別した。分別したサンプルをSELDIバイオチップに添加し、サンプル中のポリペプチドのスペクトルを、飛行時間型質量分析計又はCiphergenPCS4000質量分析計を用いて作成した。このようにして得たスペクトルは、Ciphergen Biosystems社製のBiomarker Wizard付きCiphergen Express(登録商標)Data Managerソフトウエア及びBiomarker Patternソフトウエアを用いて解析した。各群のマススペクトルは、散布図(scatter plot)により解析した。散布図における各タンパク質クラスターに関して、卵巣癌群と対照群を比較するためにマン・ホイットニー検定解析を実施し、両群間で有意に(P<0.0001)異なるタンパク質を選定した。本方法は、実施例の項で詳細に記載されている。
【0043】
本発明は、本明細書中でCTAP3関連タンパク質又はCTAP3関連バイオマーカーとして呼されるバイオマーカーを提供する。CTAP3関連バイオマーカーは、前駆体血小板塩基性タンパク質(PPBQ)(SEQ ID NO:1)に由来するアミノ酸配列を包含するペプチド及びペプチド、更にそれらのフラグメントも含む。
【0044】
特定の態様では、本発明はCTAP3バイオマーカーを提供する。CTAP3は、PPBP由来の85個のアミノ酸からなるタンパク質(SwissProt P02775)である。CTAP3は、例えば、Chemicon International(カタログ1484P)(www.chemicon.com, Temecula, CA.)から入手可能な抗体により認識される。CTAP3は、前駆体血小板塩基性タンパク質のフラグメントであり、SEQ ID NO:1の44〜128個のアミノ酸を含有する。
【0045】
「プロテインチップアッセイ」の欄は、以下に示されるようにバイオマーカーが見い出されたクロマトグラフィーの画分、バイオマーカーが結合するバイオチップの種類及び洗浄の条件を示すものである。
【0046】
【表1】

【0047】
本発明のバイオマーカーは、質量分析法により決定されるようにそれらの質量対電荷の比により特徴付けられている。バイオマーカーの質量対電荷の比は、表1の「M」の後に示される。よって、例えば、CTAPは、9313.9の測定の質量対電荷の比を有する。質量対電荷の比は、Ciphergen Biosystems社のPBSII質量分析計を用いて作成した質量分析スペクトルを用いて決定した。この機器は、約±0.15%の質量精度を有する。更に、本機器は、約400〜1000m/dm(ここにおいて、mは質量を、dmは質量分析ピークの半値幅を示す)の質量分解能を有している。バイオマーカーの質量対電荷の比は、Biomarker Wizard(登録商標)ソフトウエア(Ciphergen Biosystems, Inc.)を用いて決定した。Biomarker Wizardでは、PBSIIで決定したように、すべての解析スペクトルにおける同一ピークの質量対電荷の比をクラスター化すること、クラスターにおける質量対電荷の比の最大値及び最小値を選ぶこと、そして2で割ること、により質量対電荷の比がバイオマーカーに割り付けられる。従って、質量は、これらの特徴を反映している。
【0048】
本発明のバイオマーカーは更に、そのマススペクトルのピーク(複数を含む)の形状及び/又は位置によっても特徴付けられる。バイオマーカーを示すピークが認められるマススペクトルを、図1に示した。この図1では、スペクトル(図1A〜1E)はSELDI分析法により作成され、そして表1で記した値とは異なる質量の値を示す。これらの異なる質量の値は、分析手段の内部較正における差異によるものである。
【0049】
本発明のバイオマーカーは更に、クロマトグラフィーの表面におけるそれらの結合特性により特徴付けられる。CTAP3は、pH7のリン酸ナトリウムで洗浄した後、IMAC−Cuに結合する。
【0050】
本発明のバイオマーカーの同定が行われ、表1に示される。この判定を行うのに用いた方法は、以下の実施例の項に記述される。
【0051】
バイオマーカーを検出するための好ましい生体サンプルは、血清である。しかし他の態様では、バイオマーカーを、尿及び血漿中に検出することができる。
【0052】
本発明のバイオマーカーは、ポリペプチドである。よって、本発明は、単離された形態のこのポリペプチドを提供する。バイオマーカーは、尿又は血清のような生体液から分離することができる。それは、それらの質量及びそれらの結合特性に基づき、当該技術分野で公知の方法の何れかにより分離することができる。例えば、ポリペプチドを含んでなるサンプルを、本明細書に記載のように、クロマトグラフィーの分別法で処理して、そして例えば、アクリルアミドゲル電気泳動法による、更なる分離法で処理することができる。バイオマーカーの同定に関する知識により、免疫親和性クロマトグラフィ−によりそれらを分離することもできる。
【0053】
本発明のバイオマーカーであるCTAP3は、いくつかの分類において特異的に存在することが実証されている。健康な対照に対する初期の卵巣癌;手術後の癌の無い(治療前及び後の患者からの順次的サンプル)に対する初期の卵巣癌;及び良性の卵巣疾患又は非卵巣疾患のどちらかに対する初期の卵巣癌、からのサンプルにおける比較において、それは見出された。
【0054】
3. バイオマーカー及びタンパク質の異なった形態
タンパク質は、しばしば複数の異なった形態でサンプル中に存在する。これらの形態は、転写前及び転写後の修飾の何れか又は両方の結果によるものである。転写前の修飾形態には、対立遺伝子多型、スプライス変異体及びRNA編集形態等がある。転写後の修飾形態には、タンパク質分解的切断(例えば、親タンパク質のフラグメント)、グリコシル化、リン酸化、リピド化、酸化、メチル化、システイン化、スルフォン化及びアセチル化等がある。
【0055】
従って、本発明は、本明細書中で「CTAP3関連タンパク質」又は「CTAP3関連バイオマーカー」として呼されるバイオマーカーを提供する。CTAP3関連バイオマーカーは、前駆体血小板塩基性タンパク質(PPBQ)(SEQ ID NO:1)に由来するアミノ酸配列を包含するペプチド及びペプチドを含み、更にそれらのフラグメントも含む。具体的なCTAP3関連バイオマーカーには、文献において、BTG1、βTG、βトロンボグロブリン、ケモカイン(CXCモチーフ)リガンド7、結合組織活性化ペプチドIII、CXCケモカイン・リガンド7、CXCL7、LAPF4、LDGF、低親和性血小板因子IV、MDGF、NAP2L1、好中球活性ペプチド2、PBP、血小板塩基性タンパク質前駆体、Pro−血小板塩基性タンパク質、SCYB7、小誘導性サイトカインB7、小誘導性サイトカイン・サブファミリーBメンバー7、TC1、TC2、TGB、TGB1、THBGB、THBGB1、トロンボシジン1、トロンボシジン2、及びトロンボグロブリンβ1を含む。表2は、具体的なCTAP3関連分子、及び各分子を含有するPPBPのアミノ酸残基を表す。
【0056】
【表2】

【0057】
サンプル中のタンパク質を検出又は測定する場合に、タンパク質の異なる形態間を区別する能力は、形態の異なる性質及び検出又は測定に用いる方法に依存する。例えば、モノクローナル抗体を用いる免疫学的測定は、抗原決定基を含有するすべてのタンパク質形態を検出し、それらを識別しない。しかしながら、タンパク質上の異なる抗原決定基を指向した2種類の抗体を使用するサンドイッチ免疫学的測定では、両抗原決定基を含有するタンパク質のすべての形態を検出するが、抗原決定基の一方のみを含有する形態は検出しない。診断アッセイでは、特別な方法を用いて検出された形態が、特別な形態として同等の良好なバイオマーカーであるならば、タンパク質の形態の識別ができなくとも殆ど問題にはならない。しかしながら、タンパク質の特別な形態(又は特別な形態のサブセット)が、特別な方法で同時に検出される異なった形態の集合体よりもバイオマーカーとして良好である場合には、アッセイの検出力は劣る可能性がある。この場合には、タンパク質の形態を相互に識別し、且つタンパク質の形態(複数を含む)を特異的に検出し、測定するアッセイを採用することが有効である。分析対象物の異なった形態を識別すること、又は分析対象物の特殊な形態を特異的に検出することを、分析対象物を「分離すること(resolving)」と称する。
【0058】
質量分析は、異なった形態のタンパク質が、一般的には質量分析計で分離可能な異なる質量を有しているため、異なった形態を分離するためには特に強力な方法である。従って、タンパク質の一つの形態が、他の形態のバイオマーカーよりもある疾患に対して優れたバイオマーカーでありながら、従来の免疫学的測定がその形態を識別できず且つその有用なバイオマーカーを特異的に検出できない場合にも、質量分析では有用な形態を特異的に検出し測定できる可能性がある。
【0059】
有用な方法の一つは、質量分析と免疫学的測定を組み合わせたものである。先ず、生体特異的な捕捉剤(例えば、バイオマーカーとそのバイオマーカーの他の形態を認識する抗体、アプタマー又はAffibody)を、目標のバイオマーカーの捕捉のために使用する。好ましくは、生体特異的な捕捉剤は、ビーズ、プレート、膜又はチップのような固相に結合させる。非結合の物質を洗い去った後、捕捉された分析対象物を、質量分析にて検出及び/又は測定する。(この方法では、タンパク質と結合する又は場合によっては抗体により認識される、及びそれ自体がバイオマーカーとなり得る、タンパク質相互作用物が、捕捉されることになる。) 従来のMALDI又はSELDIのようなレーザー脱離法及びエレクトロスプレーイオン化法を含めた種々の形の質量分析が、タンパク質の形態を検出するために有用である。
【0060】
従って、特定のタンパク質の検出又は特定のタンパク質の定量について述べる時、それは種々の形態のタンパク質を分離して或いは分離せずに、そのタンパク質を検出及び測定することを意味する。例えば、「CTAP3を測定すること」という段階には、種々の形態のタンパク質を区別しない方法(例えば、免疫学的測定)、更にある形態を他の形態から区別する方法又はタンパク質の特定の形態を測定する方法、によるCTAP3の測定も含まれる。対照的に、タンパク質の特定の形態(複数を含む)(例えば、CTAP3の特定の形態)を測定することが望まれる場合には、その特定の形態(又は複数の形態)が特定される。例えば、「M9313.9を測定すること」ということは、他の形態のCTAP3から、M9313.9を識別する方法でのCTAP3の測定を意味する。
【0061】
4. 卵巣癌に関するバイオマーカーの検出
本発明のバイオマーカーは、すべての適切な方法により検出可能である。検出法の例として、光学的方法、電気化学的方法(ボルタンメトリー及び電流測定法)、原子間力顕微鏡及び例えば多極共鳴スペクトロスコピー等の高周波法がある。共焦点及び非共焦点の顕微鏡検査に加えて、光学的方法の実例としては、蛍光、発光、化学発光、吸光度、反射率、透過率、及び複屈折又は屈折率(例えば、表面プラズモン共鳴、偏光解析法、共振ミラー法、グレーティングカプラ導波管法(grating coupler waveguide method)又は干渉分光法)による検出がある。
【0062】
一態様では、サンプルは、バイオチップを用いて分析される。バイオチップは一般に、捕捉剤(吸着剤又は親和性試薬とも称される)が付着する、一般に平らな表面を有する固定基質を包含する。しばしばバイオチップの表面は、それぞれが捕捉剤と結合する複数のアドレス可能な部位を包含する。
【0063】
プロテインバイオチップは、ポリペプチドの捕捉に適応したバイオチップである。多くのプロテインバイオチップが、当該技術分野で記載されている。これらには、例えば、Ciphergen Biosystems社(Fremont, CA)、Zyomyx(Hayward, CA)、Invitrogen(Carlsbad, CA)、Biacore(Uppsala, Sweden)及びProcognia(Berkshire, UK)により製造されているプロテインバイオチップがある。その様なプロテインバイオチップの例が、以下の特許又は公開特許出願に記載されている:US特許第6,225,047号(Hutchens & Yip)、US特許第6,537,749号(Kuimelis & Wagner)、US特許第6,329,209号(Wagner et al.)、PCT国際公開第WO00/56934号公報(Englert et al.)、PCT国際公開第WO03/048768号公報(Boutell et al.)並びにUS特許第5,242,828号(Bergstrom et al.)。
【0064】
4.1 質量分析による検出
好ましい態様では、本発明のバイオマーカーは、気相イオンを検出するための質量分析計を用いる方法である、質量分析により検出される。質量分析計の例としては、飛行時間型、磁場型、四重極フィルター型、イオン・トラップ型、イオンサイクロトロン共鳴、静電場型(electrostatic sector)分析計及びこれらの複合型がある。
【0065】
更なる好ましい方法では、質量分析計は、レーザー脱離/イオン化質量分析計である。レーザー脱離/イオン化質量分析計では、分析対象物を、質量分析計のプローブ・インターフェイス作動のために適合させ、且つイオン化及び質量分析計への導入のために分析対象物をイオン化エネルギーに曝露する器具である、質量分析プローブの表面に置く。レーザー脱離質量分析計では、表面から分析対象物を離脱、揮発、イオン化させて、質量分析計のイオン光学系にそれらを曝露させるために、赤外線レーザーも用いられるが主として紫外線レーザー由来のレーザー・エネルギーが用いられる。LDIによるタンパク質の分析では、MALDI又はSELDIの形式を採用することができる。
【0066】
単一のTOF装置のレーザー脱離/イオン化法は、一般に直列抽出様式で実施される。タンデム質量分析計では、直交抽出様式を用いることができる。
【0067】
4.1.1. SELDI
本発明において使用される好ましい質量分析技術は、例えば、US特許第5,719,060号及び同第6,225,047号(共に「Hutchens & Yip」)に記載されているように「表面増強レーザー脱離イオン化質量分析法」又は「SELDI」である。これは、分析対象物(ここでは、1つ又はそれ以上のバイオマーカー)がSELDI質量分析計プローブの表面に捕捉されている、脱離/イオン化気相イオン分析計(例えば、質量分析計)の方法を意味する。
【0068】
SELDIはまた、「親和性捕捉質量分析計」又は「表面増強親和性捕捉」(SEAC)とも称される。当該バージョンには、物質と分析対象物間の非共有結合の親和性相互作用(吸着)を介して、分析対象物を捕捉する物質をプローブ表面に有しているプローブの使用が含まれる。この物質は、「吸着剤」、「捕捉剤」、「親和剤」又は「結合部」とさまざまに称されている。その様なプローブは、「親和性捕捉プローブ」として、及び「吸着表面」を有しているものを示すことができる。捕捉剤には、分析対象物と結合可能であれば何れの物質でもよい。捕捉剤は、物理吸着又は化学吸着によりプローブ表面に付着する。ある態様では、プローブは、表面に既に付着されている捕捉剤を有するものである。他の態様では、プローブは、予め活性化され、例えば、共有結合又は配位結合を形成する反応を介して、捕捉剤を結合できる反応部を有している。エポキシド及びアシル−イミダゾールが、抗体又は細胞受容体のようなポリペプチド捕捉剤と共有結合する有用な反応部である。ニトリロ三酢酸及びイミノ二酢酸は、ヒスチジン含有のペプチドと非共有結合的に相互作用する金属イオンと結合する、キレート剤として機能する有用な反応部である。吸着剤は一般に、クロマトグラフィー用吸着剤と生体特異的な吸着剤に類別される。
【0069】
「クロマトグラフィー用吸着剤」は、クロマトグラフィーで一般的に使用される吸着剤を指す。クロマトグラフィー吸着剤としては、例えば、イオン交換物質、金属キレート剤(例えば、ニトリロ三酢酸及びイミノ二酢酸)、固定化金属キレート剤、疎水性相互作用吸着剤、親水性相互作用吸着剤、色素、単純生体分子(例えば、核酸、アミノ酸、単糖及び脂肪酸)及び混合モードの吸着剤(例えば、疎水性吸引/静電反発力吸着剤)がある。
【0070】
「生体特異的な吸着剤」とは、例えば核酸分子(例:アプタマー)、ポリペプチド、多糖、脂質、ステロイド又はこれら物質の抱合体(例:糖タンパク質、リポタンパク質、糖脂質、核酸(例えば、DNA)−タンパク質抱合体)を指す。ある例においては、生体特異的な吸着剤は、多タンパク質複合体、生体膜又はウイルスのような巨大分子構造である場合もある。生体特異的な吸着剤の例としては、抗体、受容体タンパク質及び核酸がある。一般に生体特異的な吸着剤は、クロマトグラフィー吸着剤より高い特異性を有している。SELDIに使用される吸着剤の更なる例は、US特許第6,225,047号に見い出すことができる。「生体選択的な吸着剤」とは、少なくとも10−8Mの親和性で分析対象物に結合する吸着剤を指す。
【0071】
Ciphergen Biosystems社が製造したプロテインバイオチップは、アドレス可能な部位に付着されるクロマトグラフィー吸着剤又は生体特異的な吸着剤を有する表面を包含する。Ciphergenプロテインチップ(登録商標)アレイには、NP20(親水性);H4及びH50(疎水性);SAX−2、Q−10及び(陰イオン交換);WCX−2及びCM−10(陽イオン交換);IMAC−3、IMAC−30及びIMAC−50(金属キレート);並びにPS−10、PS−20(アシル−イミダゾール、エポキシドを有する反応性表面)及びPG−20(アシルイミダゾールを介して結合したプロテインG)が含まれる。疎水性プロテインチップアレイは、イソプロピル又はノニルフェノキシ-ポリ(エチレングリコール)メタクリル樹脂官能基を有している。陰イオン交換プロテインチップアレイは、四級アンモニウム官能基を有する。陽イオン交換プロテインチップアレイは、カルボン酸官能基を有する。固定化金属キレートプロテインチップアレイは、キレートを作ることにより銅、ニッケル、亜鉛及びガリウム等の遷移金属イオンを吸着するニトリロ三酢酸官能基(IMAC3及びIMAC30)又はO−メタクリロイル-N,N-ビス-カルボキシメチルチロシン官能基(IMAC50)を有する。予め活性化されたプロテインチップアレイは、タンパク質上の基と反応し共有結合できる、アシル−イミダゾール又はエポキシド官能基を有する。
【0072】
この様なバイオチップに関しては更に、US特許第6,579,719号(HutchensとYipの「Retentate Chromatograpy」、2003年6月17日)、US特許第6,897,072号(Richらの「気相イオン分光計のプローブ」、2005年5月24日)、US特許第6,555,813号(Beecherらの「気相質量分析計における疎水性被覆含有サンプルホルダー」、2003年4月29日)、US特許公開第US2003-0032043A1号公報(PohlとPapanuの「ラテックスをベースとする吸着剤チップ」、2002年7月16日)、PCT国際特許公開第WO03/040700号公報(Umらの「疎水性表面チップ」、2003年5月15日)、US特許公開第US2003-0218130A1号公報(Boschettiらの「多糖をベースとするヒドロゲルで被覆された表面を有するバイオチップ」、2003年4月14日)及びUS特許第7,045,366号(Huangらの「光架橋ヒドロゲル・ブレンド表面被覆」、2006年5月16日)に記載されている。
【0073】
一般に、吸着剤表面を有するプローブは、サンプル中に存在しているバイオマーカー(複数を含む)が吸着剤に結合するに十分な時間でサンプルと接触させる。インキュベーション後、非結合の物質を除去するために基質を洗浄する。適切な洗浄溶液は、すべて使用可能であるが、水溶性溶液を用いることが好ましい。分子が結合して残存する割合は、洗浄の程度を調整することにより操作可能である。洗浄溶液の溶離特性は、例えばpH、イオン強度、疎水性、カオトロピズムの程度、洗浄の強度、及び温度に依存し得る。プローブがSEAC及びSENDの特性の何れも有していない場合には(ここに記載されているように)、分子を吸収するエネルギーが、結合バイオマーカーを有する基質に適用される。
【0074】
別の方法においては、バイオマーカーに結合する抗体を有している固相結合の免疫吸着剤によりバイオマーカーが捕捉され得る。非結合物質を除去するために吸着剤を洗浄した後、バイオマーカーを固相から溶出し、バイオマーカーに結合するSELDIチップに添加し、SELDIにて分析する。
【0075】
基質に結合するバイオマーカーは、例えば飛行時間型質量分析計のような気相イオン分光計にて検出される。バイオマーカーは、例えばレーザーのようなイオン化源によりイオン化され、生成したイオンはイオン光学アセンブリにて集束させ、続いて質量分析計にて通過イオンを分散させて、通過イオンを分析する。続いて検出器により検出イオンの情報を質量対電荷の比に変換する。一般に、バイオマーカーの検出には、シグナル強度の検出が含まれる。従って、バイオマーカーの量及び質量を、共に測定することができる。
【0076】
4.1.2 SEND
レーザー脱離質量分析計を用いた別の方法は、表面増強Neat脱離法(SEND)と称される。SENDには、プローブの表面に化学的に結合するエネルギー吸収分子から成るプローブ(SENDプローブ)の使用が含まれる。「エネルギー吸収分子」(EAM)という語句は、レーザー脱離/イオン化源からエネルギーを吸収でき、続いてその後直ちに接触して分析対象物の分子の脱離及びイオン化に寄与できる分子を意味する。EAMカテゴリーには、しばしば「マトリックス」と称されるMALDIに使用される分子が含まれ、実例として桂皮酸誘導体、シナピン酸(SPA)、シアノ水酸化桂皮酸(CHCA)及び二水酸化安息香酸、フェルラ酸及び水酸化アセトフェノン誘導体がある。ある態様においては、エネルギー吸収分子は、例えばポリメタクリレート等の直鎖又は架橋ポリマーに組み込まれている。例えば、その組成物は、α-シアノ-4-メタクリロイルオキシ桂皮酸及びアクリレートの共重合体である場合もある。別の態様では、その組成は、α-シアノ-4-メタクリロイルオキシ桂皮酸、アクリレート及び3−(トリエトキシ)シリルプロピルメタクリレートの共重合体である。また、別の態様では、その組成物は、α-シアノ-4-メタクリロイルオキシ桂皮酸及びオクタデシルメタクリレート(C18SEND)の共重合体である。SENDは更に、US特許第6,124,137号及びPCT国際特許公開第WO03/64594号(キタガワらの「分析対象物の脱離/イオン化に使用するエネルギー吸収部位を有するモノマー及びポリマー」2003年8月7日)に記載されている。
【0077】
SEAC/SENDは、捕捉剤及びエネルギー吸収分子の両方が、サンプルの存在する表面に付着している、レーザー脱離質量分析計のバージョンである。従って、外部マトリックスを適用することを必要としないで、親和性捕捉及びイオン化/脱離を介してSEAC/SENDプローブに分析対象物を捕捉することが可能となる。C18のSENDバイオチップは、捕捉剤として機能するC18、及びエネルギー吸収部位として機能するCHCA部分からなるSEAC/SENDのバージョンである。
【0078】
4.1.3. SEPAR
LDIの別のバージョンは、表面増強感光付加及び脱離(Surface-Enhanced Photolabile Attachment and Release)(SEPAR)と称される。SEPARには、分析対象物と共有結合でき、続いて光(例えば、レーザー光(US特許第5,719,060号を参照されたい))に曝露された後その部分の光に不安定な結合が開裂することにより分析対象物を脱離する、表面に付着する部分を有するプローブの使用が含まれる。SEPAR及びその他のSELDIの形態は、本発明に従ってバイオマーカー又はバイオマーカー・プロフィールを検出するのに容易に適応する。
【0079】
4.1.4. MALDI
MALDIは、タンパク質及び核酸のような生体分子を分析するために使用されるレーザー脱離/イオン化の従来からの方法である。MALDIの一方法において、サンプルをマトリックスと混合し、直接MALDIチップ上に置く。しかしながら、血清又は尿のような生体サンプルの複雑性により、サンプルを予め分別しない場合にはこの方法は最適とはならない。従って、ある態様では、生体特異的な物質(例えば抗体)又は樹脂のような固体担体に結合したクロマトグラフィー材料(例えば、スピン・カラムで)で、バイオマーカーを先ず捕捉させる。本発明のバイオマーカーに結合する特異的な親和性物質に関しては、上述の通りである。親和性物質上での精製後、バイオマーカーを溶出し、続いてMALDIにより検出する。
【0080】
別の質量分析法では、バイオマーカーは、先ずバイオマーカーに結合するクロマトグラフィー特性を有するクロマトグラフィー樹脂上で捕捉される。本発明の実施例では、これには、多様な方法が含まれる。例えば、一方法では、バイオマーカーをCMセラミックHyperD F樹脂のような陽イオン交換樹脂上に捕捉し、樹脂を洗浄し、バイオマーカーを溶出し、そしてMALDIにより検出することができる。或いは、この方法に先行して、陽イオン交換樹脂での処理の前にサンプルを陰イオン交換樹脂で分別する。別の態様では、陰イオン交換樹脂で分別して、直接MALDIにより検出することができる。更に別の方法では、バイオマーカーと結合する抗体を包含する、免疫クロマトグラフィー樹脂上にバイオマーカーを捕捉し、樹脂を洗浄して結合しない物質を取り除き、樹脂からバイオマーカーを溶出し、そしてMALDI又はSELDIにより溶出したバイオマーカーを検出することができる。
【0081】
4.1.5 質量分析計におけるイオン化のその他の形態
別の方法では、バイオマーカーを、LC−MS又はLC−LC−MSにて検出する。この方法には、液体クロマトグラフィーを1回又は2回通過させてサンプル中のタンパク質を分離し、次いで一般的にはエレクトロスプレーイオン化にて質量分析する過程が含まれる。
【0082】
4.1.6 データ解析
飛行時間型質量分析法による分析対象物の分析では、飛行時間スペクトルが得られる。最終的に解析された飛行時間スペクトルは一般的に、サンプルに対するイオン化エネルギーの単一パルスからのシグナルを示すのではなく、複数のパルスからのシグナルの総計を示している。これによりノイズが減少し、ダイナミックレンジが高くなる。次にこの飛行時間型データを、データ処理にかける。Ciphergenのプロテインチップ(登録商標)ソフトウエアでは、データ処理にはマススペクトル作成のためのTOF-to-M/Z変換処理、機器オフセットを除外するためのベースラインの減算処理及び高周波数雑音を減少させるための高周波数雑音フィルター処理が含まれる。
【0083】
バイオマーカーの脱離及び検出により作成されるデータは、プログラムを組むことができるデジタル・コンピュータを使用して解析可能である。コンピュータプログラムを用いて、検出されたバイオマーカーの数を示すデータ、並びに場合に応じてシグナル強度及び検出された各バイオマーカーの分子の質量を決定する。データ解析には、バイオマーカーのシグナル強度を決定する段階、及び予め定めておいた統計的分布から外れたデータを除外する段階を組み込むことができる。例えば、幾つかの標準に対する各ピークの高さを計算することにより、観察されるピークを正規化することができる。
【0084】
コンピュータは、得られたデータを表示のために種々のフォーマットに変換することができる。標準的なスペクトルが表示可能であるが、一つの有用なフォーマットではピークの高さ及び質量の情報のみがスペクトル図に保持され、その結果見易い画像が得られ、ほぼ同等の分子量を有するバイオマーカーがより容易に認識できる。別の有用なフォーマットでは、2つ又はそれ以上のスペクトルを比較し、固有のバイオマーカー及びサンプル間で上方又は下方制御されるバイオマーカーを都合良く強調表示されている。これらのフォーマットの何れかを用いることにより、特定のバイオマーカーがサンプル中に存在しているか否かを、容易に判定できる。
【0085】
一般に分析には、分析対象物からのシグナルを示すスペクトルのピークの同定も含まれる。ピークの選択は目視で行うが、ピークの検出を自動で行えるCiphergenのプロテインチップ(登録商標)ソフトウエア・パッケージの一部としてソフトウエアを入手できる。一般に、このソフトウエアは、選択した閾値を越えるシグナル対ノイズの比を示すシグナルを同定し、そしてピークシグナルの質量中心にあるピークの質量を標識する機能がある。有用な適用の一つでは、多くのスペクトルを比較して、マススペクトルにおいて或る選択された割合で存在している同一ピークを同定する。このソフトウエアのバージョンの一つでは、種々のスペクトルに出現するすべてのピークを、規定された範囲内にクラスター化し、質量(M/Z)クラスターの中心点に近いすべてのピークの質量(M/Z)を決定する。
【0086】
データを解析するために用いられるソフトウエアには、シグナルが本発明によるバイオマーカーに対応するシグナル内にピークを示しているか否かを判定するために、シグナルの分析にアルゴリズムを適用するコードを含めることができる。またそのソフトウエアにより、検査中の特定の臨床パラメータの状態を示す、バイオマーカーピーク又はバイオマーカーピークの組み合わせが存在しているか否かを判定するために、観察されたバイオマーカーのピークに関するデータを分類ツリー解析又はANN解析することができる。データの解析には、直接的又は間接的の何れかでサンプルの質量分析から得られる種々のパラメータが「重要(keyed)」となる可能性がある。これらのパラメータには、1つ又はそれ以上のピークが存在するか否か、1つのピーク又は1群のピークの形状、1つ又はそれ以上のピークの高さ、1つ又はそれ以上のピークの高さの対数、及びその他のピークの高さに関するデータの算術乗算が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0087】
4.1.7 卵巣癌に対するバイオマーカーのSELDI検出のための一般的なプロトコール
本発明のバイオマーカーの検出に関する好ましいプロトコールは、以下の通りである。例えば、血清等の検査される生体サンプルは、SELDI分析の前に予備分別することが望ましい。この予備分別工程が、サンプルを簡素化し、感度を向上させる。予備分別の好ましい方法には、Q HyperD(BioSepra, SA)のような陰イオン交換クロマトグラフィー材料にサンプルを接触させることが含まれる。続いて結合物質を、pH9、pH7、pH5、pH4、pH3の緩衝液及び有機洗浄液を用いて、段階的なpHでの溶出を実施する。バイオマーカーを含有している種々の画分を採取する。CTAP3は、有機洗浄液の画分において見い出されて、そしてpH4の画分においても見い出すことができる。
【0088】
検査されるサンプル(好ましくは、予備分別する)を、次いでIMAC−Cuバイオチップからなる親和性捕捉プローブに接触させる。プローブは、バイオマーカーを保持するが、非結合分子を洗い流す緩衝液で洗浄する。各バイオマーカーに対する適切な洗浄には、表1に同定されている緩衝液を用いる。バイオマーカーは、レーザー脱離/イオン化質量分析計にて検出する。
【0089】
あるいは、CTAP3のバイオマーカーを認識する抗体が入手可能な場合には、これらを、予め活性化したPS10又はPS20プロテインチップアレイ(Ciphergen Biosystems, Inc.)のようなプローブの表面に付着させることができる。これらの抗体は、サンプル中のバイオマーカーをその表面に捕捉することができる。続いてバイオマーカーは、例えば、レーザー脱離/イオン化質量分析等にて検出できる。
【0090】
4.2 免疫学的測定による検出
本発明の別な態様において、本発明のバイオマーカーは、質量分析又はバイオマーカーの質量測定に基づく方法以外によって、測定される。質量に基づかない一態様では、本発明のバイオマーカーを免疫学的測定により測定する。免疫学的測定では、バイオマーカーを捕捉するために、抗体のような生体特異的な捕捉剤が必要である。抗体は、例えば動物をバイオマーカーで免疫化する等の、当該技術分野において広く知られた方法により作成可能である。バイオマーカーは、それらの結合特性に基づいてサンプルから単離可能である。あるいは、ポリペプチド・バイオマーカーのアミノ酸配列が既知の場合には、ポリペプチドは合成可能であり、当該技術分野で良く知られている方法により抗体の産生に利用できる。
【0091】
本発明では、例えば、ELISA又は蛍光ベースの免疫学的測定等を含むサンドイッチ免疫学的測定、更に他の酵素免疫学的測定を含めた従来の免疫学的測定も考慮に入れている。比濁分析は、液層で行われるアッセイであり、その場合には抗体は溶液に存在している。抗原が抗体に結合すると吸着能が変化するが、それを測定する。SELDIベースの免疫学的測定では、バイオマーカーに対する生体特異的な捕捉剤は、予め活性化されたプロテインチップアレイのようなMSプローブの表面に付着している。従って、バイオマーカーは、この試薬を介してバイオチップに特異的に捕捉され、捕捉されたバイオマーカーが質量分析計にて検出される。
【0092】
5. 対象の卵巣癌症状の判定
本発明のバイオマーカーは、例えば卵巣癌を診断するために対象における卵巣癌の症状を評価するための診断検査に使用できる。「卵巣癌の症状」という語句は、疾患ではないことを含め疾患に関するすべての識別可能な徴候が含まれる。例えば、卵巣癌の症状には、疾患の有無(例えば、卵巣癌対非卵巣癌)、疾患の進行リスク、疾患の段階、疾患の経過(例えば、経時的な疾患の悪化又は疾患の緩解)及び疾患治療に対する有効性又は応答が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0093】
検査結果と卵巣癌の症状との相関には、幾つかの分類アルゴリズムをその症状を惹起する結果に適用することが含まれる。分類アルゴリズムは、CTAP3関連のタンパク質、例えばCTAP3の測定量が、特定のカットオフ番号より大きいか又は小さいかを判定するだけという単純な場合もある。複数のバイオマーカーを利用する場合には、分類アルゴリズムは線形回帰式である場合もある。あるいは、分類アルゴリズムは本明細書に記載されている多くの学習アルゴリズムの内の何れかの産物であってもよい。
【0094】
複雑な分類アルゴリズムの場合には、データに関してアルゴリズムを実施することが必要となる場合もあり、これにより、コンピュータ、例えばプログラム可能なデジタル・コンピュータ等を用いて分類を決定する。何れの場合においても、メモリー・ドライブ、ディスク又は紙に印刷されている等のコンピュータの読み取り可能なフォーマットにおいて有形の表現媒体上にその症状を記録できる。結果はまた、コンピュータのスクリ−ン上に報告することも可能であろう。
【0095】
5.1 単一のマーカー
本発明のバイオマーカーは、例えば卵巣癌を診断するために対象における卵巣癌の症状を評価するための診断検査に使用できる。「卵巣癌の症状」という語句は、疾患ではないことを含め疾患に関するすべての識別可能な徴候が含まれる。例えば、疾患の症状には、疾患の有無(例えば、卵巣癌対非卵巣癌)、疾患の進行リスク、疾患の段階、疾患の経過(例えば、経時的な疾患の悪化又は疾患の緩解)及び疾患治療に対する反応又は有効性が含まれるが、これらに限定されるものではない。この症状を基に、付加的な診断検査又は治療手順若しくは計画を含む、更なる手順が示されてもよい。
【0096】
症状を正しく予測する診断検査の検出力は、アッセイの感度、アッセイの特異性又は受診者動作特性(ROC)分析曲線下面積として通常測定される。感度は、陽性であると検査で予測される真陽性の割合であるが、特異性は、陰性であると検査で予測される真陰性の割合である。ROC曲線は、(1−特異性)の関数として検査の感度を与える。ROC曲線下面積が大きければ大きいほど、検査の予測値はより正確となる。検査の効用に関する他の有用な尺度は、陽性予測値及び陰性予測値である。陽性予測値は検査で陽性であり、実際に陽性であった人の割合である。陰性予測値は検査で陰性であり、実際に陰性であった人の割合である。
【0097】
本発明のバイオマーカーは、異なった卵巣癌の症状において統計学的な差異を、少なくともP≦0.05、P≦10−2、P≦10−3、P≦10−4又はP≦10−5で示す。これらのバイオマーカーを単独又は組み合わせて使用する診断検査は、感度及び特異性が少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%及びおよそ100%であることをを示す。
【0098】
CTAP3は、卵巣癌に異なって存在し、従ってそれぞれが個々に卵巣癌の症状を判定する際の補助として有用である。その方法には、第一に、例えば、SELDIバイオチップに捕捉し次いで質量分析計にて検出する等の、本明細書に記載されている方法を用いて対象のサンプル中の選択されたバイオマーカーを測定すること、第二に、陽性の卵巣癌の症状を陰性の卵巣癌の症状と識別する診断量又はカットオフ値と測定値を比較することが含まれる。診断量は、バイオマーカーの測定量がその診断量より大きい又は小さいかで、対象が特定の卵巣癌症状にあるとして識別される量を表す。例えば、バイオマーカーが、正常と比較して卵巣癌では上方に制御されることから、測定量が診断カットオフ値より大きければ、卵巣癌と診断される。或いは、バイオマーカーが、卵巣癌では下方に制御されることから、測定量が診断カットオフ値より小さければ、卵巣癌と診断される。当該技術分野で良く理解されているように、アッセイにおいて用いられる特定の診断カットオフ値を調整することにより、診断者の選択に基づいて診断アッセイの感度及び特異性を良くすることは可能である。特定の診断カットオフ値は、例えば本明細書で実施した様に異なった卵巣癌の症状にある対象からの統計学的に有意な数のサンプルにおけるバイオマーカーの量を測定し、そして診断者の望むレベルの特異性及び感度に合ったカットオフ値を描くことにより決定できる。
【0099】
5.2 マーカーの組み合わせ
個々のバイオマーカーは有用な診断バイオマーカーであるが、バイオマーカーの組み合わせは、単一のバイオマーカーを単独で使用するよりも特定の症状に対してより大きな予測値を与えることが見出されている。具体的には、サンプル中の多数のバイオマーカーの検出により、検査の感度及び/又は特異性を増加させることができる。少なくとも2つのバイオマーカーの組み合わせは、場合によっては「バイオマーカー・プロフィール」又は「バイオマーカー・フィンガープリント」と称される。従って、CTAP3関連タンパク質、例えばCTAP3は、診断検査の感度及び/又は特異性を改善するために、卵巣癌又は子宮内膜癌に対する他のバイオマーカーと組み合わせることができる。
【0100】
特に、CTAP3及び表3に示される卵巣癌に関する以下のバイオマーカーの何れか(それらの適切に修飾された形態を含む)の測定を含む卵巣癌症状の診断検査は、CTAP3関連タンパク質、例えばCTAP3のみの測定よりも大きな予想検出力を有する。
【0101】
【表3】


【0102】
日本人集団のサンプルの検討で、ヘプシジン、ApoA1、β2ミクログロブリン及びCTAP3の組み合わせは、特に有効な診断組み合わせであることが見出された。
【0103】
卵巣癌の診断には、通常CA125の測定がなされ、このマーカーのレベルの増大が卵巣癌と関連付けられる。従って、卵巣癌の症状を判定するために、CA125のレベルが上記マーカーの何れかの組み合わせと関連付けられる。卵巣癌の検査を受ける女性は、通常その一部としてCA125の検査を受けるので、CA125は特に有用である。
【0104】
CTAP3を組み合わせることのできる他のバイオマーカーとしては、以下のものがあるが、これらに限られるものではない;CA125II、CA15−3,CA19−9,CA72−4,CA195、腫瘍関連トリプシン抑制剤(TATI)、CEA、胎盤アルカリフォスファターゼ(PLAP)、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF、CSF−1)、 リゾホスファチジン酸(LPA)、上皮成長因子受容体の細胞外領域の110kD成分(p110EGFR)、組織カリクレイン(例えば、カリクレイン6及びカリクレイン10(NES−1))、プロスタシン、HE4、クレアチンキナーゼB(CKB)、LASA,HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、Dianon NB70/K、組織ペプチド抗原(TPA)、SMRP、オステオポンチン、ハプトグロビン、レプチン、プロラクチン、インスリン様成長因子I又はII。
【0105】
5.3 発症リスクの判定
一態様では、本発明は、対象に於ける疾患の発症リスクを判定する方法を提供する。バイオマーカーの量又はパターンは、種々なリスク状態(例えば、高い、中程度又は低い)の特性である。発症のリスクは、関連のバイオマーカー(複数を含む)を測定し、次いで分類アルゴリズムを適用するか又は特定のリスクレベルと関連するバイオマーカーの参考量及び/又はパターンと比較することにより判定される。
【0106】
5.4 疾患の段階の判定
一態様では、本発明は、対象に於ける疾患の段階を判定する方法を提供する。疾患の各段階において、バイオマーカーの特徴的な量又はバイオマーカーのセット(パターン)の相対量が存在する。疾患の段階は、関連バイオマーカー(複数を含む)を測定し、次いで分類アルゴリズムを適用するか又は特定の段階と関連するバイオマーカーの参考量及び/又はパターンと比較することにより判定される。
【0107】
5.5 疾患の経過(進行/緩解)の判定
一態様では、本発明は、対象での疾患の経過を判定する方法を提供する。疾患の経過とは、疾患の進行(悪化)、緩解(改善)を含む経時的変化を言う。時間の経過と共に、バイオマーカーの量又は相対的な量(例えば、パターン)が変化する。例えば、CTAP3は疾患と共に増大する。そこで、これらバイオマーカーの傾向(疾患又は無疾患に対して、経時的に増大するか又は減少するかのどちらか)が、疾患の経過を示すことになる。従って、この方法では、対象での1つ又はそれ以上のバイオマーカーを少なくとも2つの異なる時点(例えば、1回目、2回目)で測定し、変化が存在すればそれを比較する。疾患の経過は、これら比較に基づいて判定される。
【0108】
5.6 症状の報告
本発明の追加の態様は、アッセイ結果若しくは診断結果の何れか又はそれらの両方を、例えば技師、医者又は患者に伝えることに関する。ある態様では、アッセイ結果又は診断結果の何れか又はそれらの両方を、関心を有する者、例えば医者とその患者に伝えるのにコンピュータが用いられる。幾つかの態様では、結果又は診断が報告される国又は法域とは異なった国又は法域で、アッセイ又はアッセイ結果の分析が行われる。
【0109】
本発明の好ましい態様では、CTAP3関連タンパク質の検査の対象に於ける差別的な存在に基づいた診断を、その診断後できるだけ早くその対象に伝える。診断はその対象を治療している医者から伝えるか、あるいは検査の対象に電子メール又は電話で伝えてもよい。電子メール又は電話で診断を伝えるのにコンピュータを用いてもよい。ある態様では、診断検査の結果を含むメッセージを作成し、電気通信業界の当業者にはよく知られたコンピュータソフト及びハードの組み合わせを用い、対象に自動的に送られる。ヘルスケア指向のコミュニケーションシステムの一例が、米国特許第6,283,761号に記述されているが、本発明はこの特定のコミュニケーションシステムを用いる方法に限られるものではない。本発明の方法のある態様では、サンプルのアッセイ、疾患の診断、及びアッセイ結果又は診断の伝達を含む方法の全てのステップ又は一部が、種々な法域(例えば、外国)で実施される。
【0110】
5.7 対象の管理
卵巣癌症状を認定する方法のある態様では、症状に応じて対象の治療を管理することが方法に含まれる。そのような管理には、卵巣癌症状の判定に続いて取られる医師又は臨床医の活動が含まれる。例えば、医者が卵巣癌の診断をすれば、例えば、処方又は治療薬の投与のようなある特定の治療が実施される。あるいは、卵巣癌でないとの診断又は卵巣癌でない場合、患者が罹っている特定の疾患を判定するために更に検査が行われる。また、診断検査で卵巣癌であるとの結論が得られない際は、更なる検査が必要となる。
【0111】
本発明の追加の態様は、アッセイ結果若しくは診断結果の何れか又はそれらの両方を、例えば技師、医者又は患者に伝えることに関する。ある態様では、アッセイ結果又は診断結果の何れか又はそれらの両方を、関心を有する者、例えば医者とその患者に伝えるのにコンピュータが用いられる。幾つかの態様では、結果又は診断が報告される国又は法域とは異なった国又は法域で、アッセイ又はアッセイ結果の分析が行われる。
【0112】
本発明の好ましい態様では、バイオマーカーの検査対象に於ける差別的な存在に基づいた診断を、その診断後できるだけ早くその対象に伝える。診断はその対象を治療している医者から伝えるか、あるいは検査の対象に電子メール又は電話で伝えてもよい。電子メール又は電話で診断を伝えるのにコンピュータを用いてもよい。ある態様では、診断検査の結果を含むメッセージを作成し、電気通信業界の当業者にはよく知られたコンピュータソフト及びハードの組み合わせを用い、対象に自動的に送られる。ヘルスケア指向のコミュニケーションシステムの一例が、米国特許第6,283,761号に記述されているが、本発明はこの特定のコミュニケーションシステムを用いる方法に限られるものではない。本発明の方法のある態様では、サンプルのアッセイ、疾患の診断、及びアッセイ結果又は診断の伝達を含む方法の全てのステップ又は一部が、種々な法域(例えば、外国)で実施される。
【0113】
5.8 製剤の治療効果の判定
別な態様では、本発明は、製剤の治療効果を判定する方法を提供する。これらの方法は、薬剤の臨床治験の実施、更にその薬剤の投与を受けている患者の進行をモニターするのに有用である。治療又は臨床治験では、薬剤を特定の投薬計画に基づき投与する。投薬計画としては、薬剤の単回投与量、又はある期間にわたる反復投与量が含まれうる。医者又は臨床研究者が、投与期間中の患者又は対象に対する薬の効果をモニターする。薬剤が、症状に薬理効果を有するならば、本発明のバイオマーカーの量又は相対量(例えば、パターン、又はプロフィール)は、疾患ではないプロフィールへと変化する。そこで、治療期間中に対象でのこれらバイオマーカー量の経過をフォローできる。従って、この方法では、薬剤治療を受けている対象での1つ又はそれ以上のバイオマーカーを測定し、対象の疾患の症状とバイオマーカー量を関連付けることが含まれる。本方法の一態様では、薬剤治療期間中の少なくとも2つの異なる時点(例えば、1回目及び2回目)での1つ又はそれ以上のバイオマーカーのレベルを判定し、バイオマーカー量の変化(もしあるとすれば)を比較する。例えば、1つ又はそれ以上のバイオマーカーを、薬剤投与の前後で、又は薬剤投与の2つの異なる時点で測定する。治療の効果は、これら比較に基づき判定する。もし治療が効果をあげているならば、1つ又はそれ以上のバイオマーカーは正常に向かい、もし治療効果がなければ、複数のバイオマーカーは疾患を示す方向に変化する。もし治療が効果をあげているならば、1つ又はそれ以上のバイオマーカーは正常に向かい、もし治療効果がなければ、1つ又はそれ以上のバイオマーカーは疾患を示す方向に変化する。
【0114】
6. 卵巣癌症状の認定のための分類アルゴリズムの作成
ある態様では、「公知のサンプル」のようなサンプルを用いて得られたスペクトル(例えば、マススペクトル又は飛行時間型スペクトル)から得られたデータは、分類モデルを「トレーニングする(train)」ために利用できる。「公知のサンプル」とは、前もって分類されたサンプルである。スペクトルから得られ、そして分類モデルを作成するために用いられるデータは、「トレーニングデータセット」と称する。一旦トレーニングされると、分類モデルは、未知のサンプルから得られたスペクトルから導かれたデータのパターンを認識できる。そこで、分類モデルは、未知のサンプルをクラスに分類するのに用いられる。これは、例えば、ある特別な生体サンプルをある特定の生体の状態に関連しているか又はそうでないのか(疾患対疾患でない)を、予想するに有用である。
【0115】
分類モデルを作成するのに用いるトレーニングデータは、生のデータ又は前もって処理したデータで構成される。幾つかの態様では、生のデータは飛行時間型スペクトル又はマススペクトルから直接得られ、その後上記のように任意に「前もって処理される」であってもよい。
【0116】
分類モデルは、データ中に存在する客観的パラメータに基づくクラスに、データ集団を分離することを試みる適切な統計的分類(又は「学習(learning)」)法を用い作成できる。分類方法は、監督又は不監督(監督されていない)どちらでもよい。監督又は不監督分類過程の例は、Jainの「統計的パターン認識:概説」(IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol. 22, No.1, January 2000)に記述されており、その教えるところは、参照することにより取り込まれている。
【0117】
監督下分類では、公知のカテゴリーの例を含むトレーニングデータが、学習機構に提供され、それが公知のクラスの各々を定義する1つ又はそれ以上のセットの関係を学ぶ。その後、新しいデータを学習機構に適用し、それは学んだ関係を用いて新しいデータを分類する。監督下分類過程の例としては、線形回帰過程(例えば、多重線形回帰(MLR)、部分最小二乗(PLS)回帰及び主構成要素回帰(PCR))、二分岐決定ツリー(例えば、CART−分類、回帰ツリーのような再帰形分割過程)、バック・プロパゲーションネットワークのような人工ニューラルネットワーク、判別分析(例えば、ベイジアン分類子又はフィッシャー分析)、ロジスティク分類子、及びサポートベクター分類子(サポートベクターマシン)が挙げられる。
【0118】
より好ましい監督下分類法は、再帰形分割過程である。再帰形分割過程では、未知のサンプルから誘導されるスペクトルを分類するために再帰形分割ツリーを利用する。再帰形分割過程の更なる詳細は、米国特許出願第20020138208A1号公報(Paulseらの「マススペクトルの分析法」)に記されている。
【0119】
他の態様例では、作成される分類モデルは、不監督の学習法を用い作成される。不監督の分類では、トレーニングデータセットを得たスペクトルを前もって分類すること無しに、トレーニングデータセットの類似性に基づき分類を学ぶことを試みるものである。不監督の学習法には、クラスター分析が含まれる。クラスター分析では、理想的には互いに非常に類似し、そして他のクラスターのメンバーとは相違した「クラスター」又はグループに、データを分割することが試みられる。類似性は、次にデータ項目間の距離を測定するある距離関数を用いて測定し、そして互いに近いデータ項目を一緒にしてクラスター化する。クラスター化技術としては、MacQueenのK平均アルゴリズム及びKohonenの自己組織化マップアルゴリズムがある。
【0120】
生体情報を分類するに用いるよう主張される学習アルゴリズムは、例えば、PCT国際公開第WO01/31580号公報(Barnhillらの「生体システムのパターン認定法及びその装置並びにその使用法」)、米国特許出願第20020193950A1号(Gavinらの「マススペクトル法及び分析」)、米国特許出願第20030004402A1号(Hittらの「生体データからの隠れたパターンに基づき生体の状態間を区別する工程」)、米国特許出願第20030055615A1号(ZhangとZhangの「生体発現データの処理システム及び方法」)が挙げられる。
【0121】
分類モデルは、適切なデジタルコンピュータで作成、また使用できる。適切なデジタルコンピュータとしては、Unix、Windows(登録商標)又はLinux(登録商標)ベースのオペレーティングシステムのような、標準又は特殊オペレーティングシステムの何れかを利用するマイクロ、ミニ、又は大型コンピュータが含まれる。用いるデジタルコンピュータは、目的のスペクトルを得るために用いる質量分析計から、物理的に分離しているか、又は質量分析計と結合していてもよい。
【0122】
本発明の態様によるトレーニングデータセット及び分類モデルは、デジタルコンピュータで実施又は使用できるコンピュータコード化できる。コンピュータコードは、オプティカル、又は磁気ディスク、スティック、テープ、その他のコンピュータで読める適切な媒体に保存でき、またC、C++、ビジュアルベーシック等適切なコンピュータ言語で書ける。
【0123】
上記の学習アルゴリズムは、既に見いだされたバイオマーカーの分類アルゴリズムの開発、及び卵巣癌の新しいバイオマーカーの発見の両方に有用である。また分類アルゴリズムは、単独又は組み合わせで用いられたバイオマーカーの診断値(例えば、カットオフポイント)を提供し、診断検査の基礎を形成する。
【0124】
7. 物質の組成
別の態様として、本発明は、本発明のバイオマーカーをベースにした物質の組成物を提供する。
【0125】
一態様では、本発明は精製した形態で本発明のバイオマーカーを提供する。精製のバイオマーカーは、抗体を増大させる抗原として有用である。精製のバイオマーカーは、アッセイ方法での標準としても有用である。本明細書で用いられる「精製のバイオマーカー」とは、バイオマーカーが見出される生体サンプルからの、他のタンパク質、ペプチド及び/又は他の物質から単離されたバイオマーカーである。バイオマーカーは、機械的分離(例えば、遠心分離)、硫酸アンモニウム沈殿、透析(サイズ排除の透析を含む)、サイズ排除のクロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、及び金属キレートクロマトグラフィーを含む、当該技術分野で公知の方法で精製されるが、これらに限られるものではない。これら方法は例えば、クロマトグラフィーカラム又はバイオチップ等の何れか適当なスケールで実施できる。
【0126】
別な態様では、本発明は、本発明のバイオマーカーに特異的に結合する生体特異的な捕捉剤(精製した形態であってもよい)を提供する。一態様では、生体特異的な捕捉剤は、抗体である。そのような組成物は、検出アッセイ、例えば、診断でバイオマーカーを検出するのに有効である。
【0127】
別な態様では、本発明は、本発明のバイオマーカーに結合する生体特異的な捕捉剤(ここにおける捕捉剤は固体相に結合する)を提供する。例えば、本発明では、生体特異的な捕捉剤で被覆されるビーズ、チップ、膜、モノリス又はマイクロタイタープレートからなる装置が考えられる。そのような物体は、バイオマーカー検知アッセイで有用である。
【0128】
別の態様では、本発明は、本発明のバイオマーカーに結合する抗体のような生体特異的な捕捉剤からなる組成物(精製した形態であってもよい)を提供する。そのような組成物は、バイオマーカーの精製又はバイオマーカーを検出するアッセイで有用である。
【0129】
別な態様では、本発明は、吸着剤、例えば、クロマトグラフィー吸着剤又は生体特異的な捕捉剤に付着する固体基質(本発明のバイオマーカーに更に結合する)からなる物体を提供する。一態様では、その物体は、バイオチップ又は質量分析プローブ、例えば、SELDIプローブである。そのような物体は、バイオマーカーの精製又は検出に有用である。
【0130】
8. 卵巣癌のバイオマーカーの検出キット
別な態様として、本発明は、卵巣癌の症状を認定するためのキットを提供し、そのキットは本発明によるバイオマーカーの検出に用いられる。一態様では、キットは、捕捉剤が付着したチップ、マイクロタイタープレート、ビーズ又は樹脂のような固体担体からなり、ここにおいて、捕捉剤は本発明のバイオマーカーに結合する。従って、例えば、本発明のキットは、プロテインチップ(登録商標)アレイのようなSELDI用の質量分析プローブを包含できる。生体特異的な捕捉剤の場合、キットは、反応性表面を有する固体担体及び生体特異的な捕捉剤を包含する容器を含んでなる。
【0131】
前記キットは、洗浄液又は洗浄液を作るための説明書も包含し、捕捉剤と洗浄液の組み合わせは、例えば質量分析計での、その後の検出のための固体担体上にバイオマーカー(複数を含む)の捕捉を可能にする。このキットでは、異なった固体担体上に、それぞれ存在する、より多くのタイプの吸着剤を含むことができる。
【0132】
更なる態様では、このようなキットは、ラベル又は別個の挿入物の形態で、適切な操作パラメータの説明書を包含できる。例えば、その説明書で使用者にサンプルの採取法、プローブの洗浄法、又は検出すべき特定のバイオマーカーについての情報を提供することができる。
【0133】
更なる別な態様では、キットは、較正用の標準(複数を含む)として用いられるバイオマーカーのサンプルを有している1つ又はそれ以上の容器を包含できる。
【0134】
9. 製剤の治療効果の判定
別な態様では、本発明は、製剤の治療効果を判定する方法を提供する。これらの方法は、薬剤の臨床治験の実施、更にその薬剤の投与を受けている患者の進行をモニターするのに有用である。治療又は臨床治験では、薬剤を特定の投薬計画に基づき投与する。投薬計画としては、薬剤の単回投与量、又はある期間にわたる反復投与量が含まれうる。医者又は臨床研究者が、投与期間中の患者又は対象に対する薬の効果をモニターする。薬剤が、症状に薬理効果を有するならば、本発明のバイオマーカーの量又は相対量(例えば、パターン、又はプロフィール)は、疾患ではないプロフィールへと変化する。例えば、ヘプシジンは疾患と共に増大し、トランスサイレチンは疾患と共に減少する。そこで、治療期間中に対象でのこれらバイオマーカー量の経過をフォローできる。従って、この方法では、薬剤治療を受けている対象での1つ又はそれ以上のバイオマーカーを測定し、対象の疾患の症状とバイオマーカー量を関連付けることが含まれる。本方法の一態様では、薬剤治療期間中の少なくとも2つの異なる時点(例えば、1回目及び2回目)でのバイオマーカーのレベルを判定し、バイオマーカー量の変化(もしあるとすれば)を比較する。例えば、バイオマーカーを、薬剤投与の前後で、又は薬剤投与の2つの異なる時点で測定する。治療の効果は、これら比較に基づき判定する。もし治療が効果をあげているならば、複数のバイオマーカーは正常に向かい、もし治療効果がなければ、複数のバイオマーカーは疾患を示す方向に変化する。もし治療が効果をあげているならば、複数のバイオマーカーは正常に向かい、もし治療効果がなければ、複数のバイオマーカーは疾患を示す方向に変化する。
【0135】
10. スクリーニングアッセイでの卵巣癌用バイオマーカーの使用及び卵巣癌の治療法
本発明の方法には、更に他の応用もある。例えば、バイオマーカーは、インビトロ又はインビボでのバイオマーカーの発現を調節する化合物のスクリーニングに用いられ、この化合物は、患者の卵巣癌の治療又は防止に有用である。別の例では、バイオマーカーは、卵巣癌に対する治療の応答をモニターするために使用できる。他の実施例では、バイオマーカーは、対象が卵巣癌を発症するリスクがあるかを判定する遺伝検討に用いることができる。
【0136】
従って、例えば、本発明のキットは、プロテインバイオチップ(例えば、CiphergenH50プロテインチップアレイ、例えば、プロテインチップアレイ)のような疎水性機能を有する固体基質、及び基質を洗浄するための酢酸ナトリウム緩衝液、更にチップ上の本発明のバイオマーカーを測定し、そしてこれらの測定値を卵巣癌の診断に用いるプロトコールを提供する説明書も含むことができる。
【0137】
治療治験に適した化合物は、1つ又はそれ以上のCTAP3関連タンパク質と反応する化合物を同定することで、まずスクリーニングされる。例示として、スクリーニングには、CTAP3関連タンパク質、例えばCTAP3を組み換え発現させること、バイオマーカーを精製すること、バイオマーカーを基質に接着させることが含まれる。次に、テスト化合物を基質に接触させ(通常、水溶液条件下で)、テスト化合物とそのバイオマーカー間の相互作用を、例えば、塩濃度の関数として流出率を測定することで、測定する。ある特定のタンパク質は、CTAP3関連タンパク質を認識し、開裂しうるが、そのような場合には、そのタンパク質は、標準アッセイ、例えばタンパク質のゲル電気泳動によって、1つ又はそれ以上のバイオマーカーの消化をモニターすることにより検出できる。
【0138】
関連した態様では、1つ又はそれ以上のCTAP3関連タンパク質の活性を抑制するテスト化合物の能力が測定される。当業者は、特定のバイオマーカーの活性を測定する技術がバイオマーカーの機能及び特性に依存して変動することを認めている。例えば、バイオマーカーの酵素活性は、適切な基質が利用でき、また基質の濃度又は反応生成物が容易に測定できるならば、アッセイできる。所与のバイオマーカーの活性を抑制する又は強化する潜在的に治療効果のあるテスト化合物の能力は、テスト化合物の存在下又は非存在で触媒の率を測定し判定できる。CTAP3関連タンパク質の、非酵素(例えば、構造的)機能又は活性に干渉するテスト化合物の能力が測定できる。例えば、CTAP3関連タンパク質の一つを含む多タンパク質複合体の自己集合は、テスト化合物の存在下又は非存在で分光法でモニターできる。あるいは、バイオマーカーが転写の非酵素的なエンハンサーであるなら、転写を強化するバイオマーカーの能力に干渉するテスト化合物を、テスト化合物の存在下又は非存在でのインビボ又はインビトロでのバイオマーカー依存の転写レベルを測定することによって同定できる。
【0139】
CTAP3関連タンパク質の活性を調節できるテスト化合物は、卵巣癌又は他の癌を患っている又はそのリスクのある患者に投与できる。例えば、特定のバイオマーカーの活性を増大させるテスト化合物の投与は、もしその特定のバイオマーカーの活性が卵巣癌のタンパク質の蓄積をインビボで防止するならば、患者での卵巣癌のリスクを低減するであろう。また特定のバイオマーカーの活性を低減させるテスト化合物の投与は、そのバイオマーカーの活性の増大が、少なくとも一部、卵巣癌の発症の原因であれば、患者での卵巣癌のリスクを減少させることができる。
【0140】
更に追加の態様では、本発明は、CTAP3の修飾された形態のレベルの増大と関連する卵巣癌のような疾患の治療に有用な化合物を同定するための方法を提供する。例えば、一態様では、細胞抽出物又は発現ライブラリーが、全長のCTAP3の開裂で先を切断した形のCTAP3を形成する触媒となる化合物のスクリーニングに利用できる。そのようなスクリーニングアッセイの一態様として、CTAP3の開裂は、CTAP3が開裂されていないときは抑制された状態で、そのタンパク質が開裂したときは蛍光を発する蛍光プローブをCTAP3に結合して、検出できる。あるいは、アミノ酸xとyの間に開裂できないアミノ結合を提供するように修飾された全長CTAP3が、インビボでのサイトで全長CTAP3を開裂する細胞プロテアーゼを選択的に結合又は「トラップ」するのに用いられる。プロテアーゼ及びそれらのターゲットをスクリーニングし、同定する方法は、科学文献に詳しく記述されている。例えば、Lopez−Ottinらの「Nature Reviews, 3:509-519(2002)」を参照されたい。
【0141】
更に、別な態様では、本発明は、疾患、例えば、卵巣癌(これは、先を切断したCTAP3のレベル増大と関連している)の進行若しくは可能性を治療又は低減する方法を提供する。例えば、全長のCTAP3を開裂する1つ又はそれ以上のタンパク質を同定した後、同定したタンパク質の開裂活性を抑制する化合物について組み合わせライブラリーをスクリーニングする。その様な化合物の化学ライブラリーをスクリーニングする方法は、当該技術分野で公知である。例えば、Lopez−Otinらの文献(2002)を参照されたい。あるいは、抑制化合物は、CTAP3の構造に基づいて理知的に設計できるであろう。
【0142】
CTAP3のN末端の切断は、CTAP3のプロテアーゼ抑制活性を低減させると考えられている。例えば、「Abrahamson et al.(Biochem. J. 273: 621-626(1991)」を参照されたい。先を切断したCTAP3に全長のCTAP3の機能性を提供する化合物は、ゆえに卵巣癌(これは、先を切断した形のCTAP3と関連している)のような症状の治療に有用であると見込まれる。従って、更なる態様では、本発明は、その標的のプロテアーゼに対して、先を切断したCTAP3の親和性を増大させる化合物を同定するための方法を提供する。例えば、化合物が、先を切断したCTAP3に全長のCTAP3のプロテアーゼ抑制活性を提供する能力についてスクリーニングされる。次に、CTAP3の抑制活性又はCTAP3と相互作用する分子の活性を、調節する能力を有するテスト化合物を、対象における卵巣癌を遅延又は停止させる能力について、インビボでテストする。CTAP3を用いた上記の例示的な方法は、本明細書中のCTAP3関連タンパク質の何れかにも適用できることを、当業者は理解されるであろう。
【0143】
臨床レベルでは、テスト化合物のスクリーニングは、テスト化合物に対象を曝露する前後に、検査対象からサンプルを得ることが含まれる。1つ又はそれ以上のCTAP3関連タンパク質のサンプル、たとえばCTAP3のレベルを測定し、テスト化合物に曝露後のバイオマーカーのレベルが変化するかどうかを判定するために、分析する。本明細書に記したように、質量分析でサンプルを分析してもよいし、又は当業者に公知の他の方法の何れかで分析しても良い。例えば、CTAP3関連タンパク質のレベルは、それらバイオマーカーに特異的に結合する放射性標識又は蛍光標識の抗体を用いる、ウエスタンブロットで直接測定できる。あるいは、バイオマーカーの1つ又はそれ以上をコードするmRNAのレベルの変化を測定し、対象に投与した所定のテスト化合物の投与と相関付けられる。更なる態様では、バイオマーカーの1つ又はそれ以上の発現レベルの変化を、インビトロでの方法及び材料を用いて測定する。例えば、CTAP3関連タンパク質の1つ又はそれ以上を発現する又は発現できるヒト組織培養の細胞に、テスト化合物を接触しても良い。テスト化合物で処置された対象は、その治療による生理的効果につき定期的に検査を受ける。特に、対象での疾患可能性を低減する能力について、テスト化合物を評価する。あるいは、卵巣癌と先に診断された対象にテスト化合物を投与する際は、その疾患の進行を遅延する又は停止する能力について、テスト化合物をスクリーニングする。
(11. 実施例)
【実施例1】
【0144】
卵巣癌に関するバイオマーカーの発見
プロファイリングの方法:
血清の分別: 25ulの上澄み液を37.5ulの変性緩衝液(U9:9Mの尿素、2%のCHAPS、50mMのトリス緩衝液、pH9)と混合して、4℃にて30分間よくかき混ぜた。50mMのトリス緩衝液(pH9)37.5ulを加えて、全容量を100ulにした。各サンプルに関して、まず100ulのQ Ceramic HyperD20陰イオン交換樹脂を50%の懸濁液として、50mMのトリス緩衝液(pH9)100ulで、次いでU1緩衝液(50mMのトリス緩衝液(pH9)中で1:9に希釈したU9)で3回平衡化した。100ulの変性した血清を、樹脂に添加して、4℃で30分間結合させた。非結合物質を採取して、次いで75ulの洗浄緩衝液1(50mMのトリス−HCl+0.1%のOGP+50mMの塩化ナトリウム、pH9)を樹脂に加えた。樹脂を10分間、Micromix上で攪拌した。この洗浄液を採取して、そして非結合物質に混ぜた(フロースルー(flow through)、画分1)。次いで、pH7、5、4、3の洗浄緩衝液及び有機溶媒の、各々75ul×2のアリコートを用いて、段階的なpH勾配を持つような画分を収集した。毎回樹脂を10分間、Micromix上で攪拌した。これにより6つの画分の全てを収集した。緩衝液は以下の通りである:洗浄緩衝液2:50mMのHEPES+0.1%のOGP+50mMの塩化ナトリウム(pH7);洗浄緩衝液3:100mMの酢酸ナトリウム+0.1%のOGP+50mMの塩化ナトリウム(pH5);洗浄緩衝液4:100mMの酢酸ナトリウム+0.1%のOGP+50mMの塩化ナトリウム(pH4);洗浄緩衝液5:50mMのクエン酸ナトリウム+0.1%のOGP+50mMの塩化ナトリウム(pH3);洗浄緩衝液6:33.3%の2−プロパノール/16.7%のアセトニトリル/0.1%のトリフルオロアセチル酸。分別処理は、Tecan Aquurius96(Tecan)及びMicromixシェーカー(DPC)上で実施した。ヒトの血清(Intergen)を貯蔵した対照のサンプルは、サンプルの各カラムの一つのウェル中で同様に処理した。
【0145】
チップの結合:
20ulの各画分は、まず20ulの異なる緩衝液を用いてpHを調整して、そしてIMAC及びCM10プロテインチップアレイに結合させた。IMACアレイに関して、スポットを銅で電荷し、洗浄し、そして平衡化した。画分1及び2は、20ulのIMAC結合緩衝液(500mMのNaClを含む、100mMのリン酸ナトリウム溶液、pH7.0)と混合し;画分3〜6は、100mMのトリス−HCL(pH10)と混合した。CM10に関して、画分1、2及び3は、20ulの100mM酢酸と混合し;画分4、5及び6は、20ulのCM10結合緩衝液(100mMの酢酸ナトリウム、pH4.0)と混合した。結合処理は、室温で120分間実施した。その後チップを、150ulの結合緩衝液で2回、次いで200ulの水で2回洗浄した。用いたマトリックスは、SPA(400ulの50%アセトニトリル及び0.5%TFA溶液を一つのチューブに加えて、5分間混合したもの)である。各スポットは、1ulのマトリックスを2回用いて沈着させた。チップの結合処理は、Tecan Aquurius96(Tecan)及びMicromixシェーカー(DPC)上で実施した。
【0146】
データの取得及び解析:
プロテインチップアレイは、CiphergenExpressソフトウェアversion3.0を用いてPCS4000装置に読み込んだ。装置は、インスリン及び免疫グロブリン標準を用いて、動作に関して、毎週モニターを実施した。各チップは、2つのレーザーエネルギー(低及び高)で読み取った。スペクトルを、体系化して、ベースラインを差し引いた。スペクトルを、較正セットを用いて外部較正を実施した。次いで、以下のパラメータに従い、スペクトルを総イオン電流に対して正規化した:SPAを含むチップに関して、低エネルギーの出発質量は、2000M/Zであり;高エネルギーの出発質量は10000M/Zであった。ピーク・クラスター化に関しては、シグナル対ノイズの比は、3に設定した。
【実施例2】
【0147】
卵巣癌のマーカーのクロマトグラフィーアッセイ
50ulのIDA−Ni(II)ビーズ(Biosepra IMAC Hypercel、0.1MのNiSOで負荷)の50%懸濁液を、96−ウェルフィルタープレートに加える。IDA−Niスラリーをプラスチックビーカーに移して、スラリーウェルを分注時には手で又は攪拌用磁性プレート上で混ぜ続ける。大きな開口部を有するピペットチップを用いて、ビーズを分注する。
【0148】
ビーズを、各々、0.02%(w/v)Triton X100PBS(2×)200ulを用いて3回洗浄する。v−ボトムの96−ウェルプレート中の血清5ul+7.5ul(9Mの尿素、2%(w/v)のCHAPS、50mMのトリス−HCL(pH9))をRTで2分間よくかき混ぜる。
【0149】
プロテアーゼ抑制剤の混合物(カクテル)(Roche、EDTA無し、50ml当たり1錠)を含む、0.02%(w/v)のTriton X100PBS(2×)150ulで希釈する。
【0150】
IDA−Niプレートに加えて、Micromixシェーカー(設定:15、6、30)上でRTにて30分間振動させる。
【0151】
減圧マニホールドで減圧ろ過処理する。
【0152】
プレートを0.02%のTX100 PBS(2×)200ulで8回洗浄する、混合せず。
【0153】
Kimwipe上でフィルタープレートのボトム部を徐々に吸い取り乾燥する(フィルター膜の端部を乾燥することを忘れずに)。
【0154】
75ul(10mMのイミダゾール、1Mの尿素、0.1%(w/v)のCHAPS、0.3MのKCl、100mMのトリス−HCL(pH7.5))で4回溶出して、各回10分間混合する(15、6、10)。減圧ろ過を実施して、0.45mlのv−ボトムの96−ウェルプレート中に収集する。
【0155】
バイオプロセッサーにおけるIMAC30のチップ結合:
各ウェルに50mMのCuSO溶液50ulを加える。10分間Micromix上で振動させる(15、5、10)。
【0156】
ウェルを空にする。150ulの水加えて、ウェルを空にする。
【0157】
各ウェルに50mMのNaOAc溶液(pH4)50ulを加える。5分間振動させる。
【0158】
ウェルを空にする。150ulの水加えて、ウェルを空にする。
【0159】
200ul(1Mの尿素、0.1%のCHAPS、0.3MのKCl、100mMのトリス−HCL(pH7.5))で2回平衡化する。
【0160】
5分間Micromix上で振動させる(各々15、5、10)。
【0161】
溶出プレートをMicromix上で1分間ゆっくりとした速度で混ぜる。
【0162】
40ulの溶出物を、IMAC30−Cu(II)チップ上の、150ul(最終的イミダゾール2.1mM)(1Mの尿素、0.1%のCHAPS、0.3MのKCl、100mMのトリス−HCL(pH7.5))に加える。テープで封印して、RTで60分間(15、5、60)よくかき混ぜる。
【0163】
200ul(1Mの尿素、0.1%(w/v)のCHAPS、0.3MのKCl、50mMのトリス−HCL(pH7.5))で1回洗浄して、5分間混ぜる。
【0164】
200ulの水で2回洗浄して、各々1分間混ぜる。
【0165】
1ulのシナピン酸を2回加える。1チューブのSPA+200ulのACN+200ulの1%TFA。
【0166】
低い強度のレーザーを用いてチップを読み取る。14KDaに焦点を合わせる。
【0167】
バイオプロセッサーにおけるQ10のチップ結合:
200ulの0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)で2回平衡化する。5分間各々(15、5、5)で振動させる。
【0168】
溶出プレートをMicromix上で1分間ゆっくりとした速度で混ぜる。
【0169】
40ulの溶出物を、Q10チップ上の、150ulの(最終的イミダゾール2.1mM)の0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)に加える。テープで封印して、RTで60分間(15、5、60)よくかき混ぜる。
【0170】
200ulの0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)で2回洗浄して、各回5分間混ぜる。
【0171】
200ulの水で1回洗浄して、1分間混ぜる。
【0172】
1ulのシナピン酸を2回加える。1チューブのSPA+200ulのACN+200ulの1%TFA。
【0173】
高い強度のレーザーを用いてチップを読み取る。14KDaに焦点を合わせる。
【0174】
IDA−Niビーズの調製:
目盛り付けしたシリンダーに、100mlのIMAC Hypercel(Biosepra)の充填ゲルを測定する。
【0175】
フィルターユニット(0.45μmの酢酸セルロース)に移す。ビーズを500mlの水で洗浄する。
【0176】
充填したビーズを500mlの円形瓶に移す。
【0177】
ビーズに0.1MのNiSO溶液100mlを加えて、回転装置中でRTにて2時間混合する。
【0178】
フィルターユニット中でビーズを1000mlの水で洗浄する。
【0179】
500mlのPBS(2×)(pH7.2)で洗浄する。
【0180】
IDA−Niビーズを、4℃でPBS(2×)(pH7.2)に50%スラリーとして保管する。
【0181】
物質及び試薬:
IMAC Hypercel(Biosepra)
【0182】
大きな開口部を有するピペットチップ(1〜200ul)(VWR53503〜612) NiSO・7H
PBS(pH7.2)、10×(GIBCO、2倍に希釈する)
尿素
CHAPS(10%(w/v)のCHAPS貯蔵溶液を水で調製する)
トリス緩衝液ベース(U9CHAPS、トリス−HCL(pH9)に調製)
トリス緩衝液ベースのpH調整用のHCL
Triton X100(1%(w/v)のTX100貯蔵溶液を水で調製する、PBS(2×)で希釈して、0.02%にする)
【0183】
完全なプロテアーゼ抑制剤の混合物錠剤、EDTA無し(Roche、1873580)
【0184】
Silent Screenフィルタープレート96ウェル、Loprodyne膜1.2μm孔(Nalge Nunc、256065)
【0185】
96−ウェルプレート用減圧マニホールド
イミダゾール
KCl
1Mのトリス−HCL(pH7.5)(Invitrogen)
CuSO・5H
酢酸ナトリウム及び酢酸(50mMの酢酸ナトリウム緩衝液pH4を作成するため)
一塩基性及び二塩基性のリン酸ナトリウム(0.1Mのリン酸ナトリウム緩衝液pH7.5を作成するため)
シナピン酸(Ciphergen Biosystems)
アセトニトリル
TFA
IMAC30チップ
Q10チップ
【0186】
本明細書に記した実施例及び態様は、例示のためのみであり、それらに基づく種々の修正及び変更は当業者には示唆されるものであり、それらは本出願及び添付の特許請求の範囲の精神及び範疇に含められるものであることを理解されたい。本明細書に参照した出版物、特許及び特許出願の全ては、全ての目的のためにそれらの全てを参照して本明細書に取り込む。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】図1(F1A〜1Eを含む)は、CTAP3マーカーのマススペクトルを示す。マーカーのマススペクトルピークは、描かれたスペクトル上の縦軸に示される。
【図2】図2は、前駆体血小板塩基性タンパク質(PPBP)のアミノ酸配列(Swiss Prot Accession No.:P02775)を示す。CTAP3は、PPBPの44〜128個のレーザー脱離/イオン化質量分析法を用いて測定されるアミノ酸残基を含んでなる85個のアミノ酸タンパク質である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)対象からの生体サンプル中のCTAP3関連タンパク質を含む、少なくとも一つのバイオマーカーを測定すること;そして
(b)測定結果を卵巣癌の症状と関連付けること:
を含んでなる、対象における卵巣癌の症状を認定する方法。
【請求項2】
前記CTAP3関連タンパク質が、CTAP3(SEQ ID NO:1の残基44〜128)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
CTAP3を、SELDIプローブの吸着剤表面上のバイオマーカーを捕捉すること、及び捕捉したバイオマーカーをレーザー脱離イオン化質量分析で検出することにより測定する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
CTAP3を、免疫学的測定で測定する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記サンプルが、血清である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記関連付けが、ソフトウェア分類アルゴリズムによって実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
卵巣癌の症状が、卵巣癌及び非卵巣癌から選ばれる、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
卵巣癌の症状が、初期及び後期2から選ばれる、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
(c)対象に前記症状を報告すること、
を更に含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
(C)具体的な媒体に症状を記録すること、
を更に含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
(c)前記症状を基にして対象の治療を管理すること、
を更に含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
(d)治療を管理した後に、CTAP3を測定し、そしてその測定値を疾患の進行と関連付けること、
を更に含んでなる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記吸着剤が、銅IMAC吸着剤である、請求項3に記載の方法。
【請求項14】
前記吸着剤が、生体特異的な吸着剤である、請求項3に記載の方法。
【請求項15】
CA125、トランスフェリン、ハプトグロビン、ApoA1、トランスサイレチン、ITIH4の内部フラグメント、β2−ミクログロブリン、ヘプシジン、プロスタチン、オステオポンチン、好酸球由来の神経毒、レプチン、プロラクチン、IGF−II、ヘモグロビン及びそれらの修飾型よりなる群から選ばれる、少なくとも1つのバイオマーカーを測定すること及び関連付けることを更に含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項16】
CA125II、CA15−3,CA19−9,CA72−4,CA195、腫瘍関連のトリプシン抑制剤(TATI)、CEA、胎盤アルカリフォスファターゼ(PLAP)、シアリルTN、ガラクトシルトランスフェラーゼ、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF、CSF−1)、リゾホスファチジン酸(LPA)、上皮成長因子受容体の細胞外領域の110kD成分(p110EGFR)、組織カリクレイン(例えば、カリクレイン6及びカリクレイン10(NES−1))、プロスタシン、HE4、クレアチンキナーゼB(CKB)、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、Dianon NB70/K、組織ペプチド抗原(TPA)、SMRP、オステオポンチン、及びハプトグロビン、レプチン、プロラクチン、インスリン様成長因子I又はインスリン様成長因子IIよりなる群から選ばれる、少なくとも1つのバイオマーカーを測定すること及び関連付けることを更に含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項17】
(a)1回目に、対象からの生体サンプル中のCTAP3関連タンパク質を含む少なくとも1つのバイオマーカーを測定すること;
(b)2回目に、対象からの生体サンプル中の前記CTAP3関連タンパク質を測定すること;そして
(c)1回目の測定値と2回目の測定値を比較すること(ここにおいて、測定値の比較から卵巣癌の経過を判定する):
を含んでなる、卵巣癌の経過を判定する方法。
【請求項18】
前記CTAP3関連タンパク質が、CTAP3(SEQ ID NO:1のアミノ酸残基44〜128)である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
(a)少なくとも1つの捕捉剤(ここにおいて、捕捉剤はCTAP3関連タンパク質に結合する)を付着している固体担体;及び
(b)この固体担体を、CTAP3関連タンパク質を検出するために使用する説明書:
を含んでなる、キット。
【請求項20】
前記CTAP3関連タンパク質が、CTAP3(SEQ ID NO:1のアミノ酸残基44〜128)である、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
捕捉剤を包含している前記固体担体が、SELDIプローブである、請求項19に記載のキット。
【請求項22】
前記吸着剤が、銅IMAC吸着剤である、請求項19に記載のキット。
【請求項23】
(C)CTAP3バイオマーカーを包含する容器、
を更に含んでなる、請求項19に記載のキット。
【請求項24】
(C)免疫特異的なクロマトグラフィ−吸着剤、
を更に含んでなる、請求項19に記載のキット。
【請求項25】
(a)少なくとも1つの捕捉剤(ここにおいて、捕捉剤は、CTAP3関連のタンパク質に結合する)が、付着している固体担体、及び
(b)CTAP3関連タンパク質を包含する容器、
を含んでなる、キット。
【請求項26】
前記CTAP3関連タンパク質が、CTAP3(SEQ ID NO:1のアミノ酸残基44〜128)である、請求項25に記載のキット。
【請求項27】
前記捕捉剤が、IMAC捕捉剤又は生体特異的な捕捉剤である、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
a.サンプル中のCTAP3関連タンパク質を含む少なくとも1つのバイオマーカーの測定値を包含する、サンプルに起因するデータにアクセスするコード、及び
b.サンプルの卵巣癌の症状を、測定値の関数として分類する分類アルゴリズムを実行するコード、
を含んでなる、ソフトウェア製品。
【請求項29】
対象からのサンプル中の3つのCTAP3関連タンパク質の相互関係から判定される、卵巣癌の症状に関する診断を、対象に伝達することを含んでなる方法。
【請求項30】
前記診断が、コンピューター処理した媒体を介して対象に伝達される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
a)CTAP3関連タンパク質をテスト化合物に接触させること、及び
b)テスト化合物が、CTAP3関連タンパク質と相互作用するかを判定すること、
を含んでなる、CTAP3関連タンパク質と相互作用する化合物を同定する方法。
【請求項32】
前記CTAP3関連タンパク質が、CTAP3(SEQ ID NO:1のアミノ酸残基44〜128)である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
a)CTAP3関連タンパク質の発現を抑制する小分子に当該細胞を接触させること、
を含んでなる、細胞におけるCTAP3関連タンパク質の濃度を調節する方法。
【請求項34】
前記CTAP3関連タンパク質が、CTAP3(SEQ ID NO:1のアミノ酸残基44〜128)である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
対象に小分子(ここにおける小分子は、CTAP3の発現を抑制する)の治療有効量を投与することを含んでなる、対象における卵巣癌を治療する方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−547025(P2008−547025A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−518376(P2008−518376)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/024269
【国際公開番号】WO2007/002264
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(505045908)ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティ (21)
【出願人】(507316479)サイファージェン バイオシステムズ, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】