説明

卵白起泡安定剤及びその卵白起泡安定剤が添加されて作られた起泡卵白が使用されている食品

【課題】加熱処理や冷凍処理を行なっても、加熱処理や冷凍処理を行なう前の卵白と同等の気泡力を有することを可能とする卵白起泡安定剤及びそれが添加された起泡卵白が使用されている食品を提供することである。
【解決手段】コンニャクマンナンとpH調整剤が含まれたことを特徴とする卵白起泡安定剤であって、前記pH調整剤は、卵白に添加されたときにpH5.8〜7.8になるように調製されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵白を使用して起泡させる際に起泡を安定化させる卵白起泡安定剤、及びその卵白起泡安定剤が添加されて作られた起泡卵白が使用されている食品に関する。
【背景技術】
【0002】
卵成分である卵白は、オボアルブミンやコンアルブミン、グロブリンなどの蛋白質よりなるコロイド溶液であり、この蛋白質分子の表面にある疎水基を利用することによって起泡を形成することができる。この卵白の起泡は、フランスメレンゲ、イタリアメレンゲ、又はスイスメレンゲなどのメレンゲ生地に利用されており、メレンゲ生地は、卵白に砂糖を加えて起泡させることにより得ることができる。このメレンゲ生地は、多くの菓子に利用されており、例えばビュスキュイなどのスポンジ生地を作るコールド・スポンジ法においては、メレンゲ生地に卵黄や小麦粉が加えられる。同様にシフォンケーキ、ムース、スフレなどもメレンゲ生地が利用された洋菓子である。一方、和菓子においても淡雪羹やホウズイなどの菓子に起泡卵白が使用されている。
【0003】
ところで、配合飼料の内容による養鶏状態がもたらす生卵成分のばらつきや卵そのものの鮮度などにより、卵中の卵白より作られるメレンゲにおいて、起泡力が異なり、これら成分のばらつきや鮮度などは、製品ボリュームや食感に影響を及ぼすという問題がある。特に鮮度においては、生みたてのときに比べて卵の殻から炭酸が抜けて、経時的に卵白液がアルカリ側に変化するという現象があり、これが起泡力を低減させるという問題がある。
【0004】
このような問題を解決するものとして、特許文献1には、クエン酸などのpH調整剤により卵白のpHを安定化させることによりキサンタンガム、グアーガム、タマリンドガム、タラガム、カラギナン、ジェランガム及びアルギン酸ナトリウムなど増粘剤による卵白の気泡が安定することが開示されている。この特許文献1に記載された卵白起泡安定剤は、天然物で構成され、生卵の経時変化に影響されることがないという作用効果を有する。
【0005】
【特許文献1】特開2004−194519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、食品衛生法に基づく食品の規格基準として、厚生省通知(平成10年11月25日第1674号)には、生卵に多いサルモネラ菌の殺菌として、液卵白を連続式で殺菌する場合、56℃で3.5分間以上、パッチ式で殺菌する場合、54℃で10分間以上の熱殺菌が必要であることが示されているが、殺菌により本来の起泡力が得られないという問題がある。また、卵白を大量に処理して安定的に流通させる方法として、冷凍保存が行われているが、卵白を冷凍し、使用時に解凍すると生卵白の起泡力が低下するという問題がある。また、起泡する際に増粘剤を添加すると安定性が増すことが知られているが、一方で食感も変化してしまうという問題もあり、食感を変えずに安定性を保持することが望まれている。
【0007】
そこで、本発明は、加熱処理や冷凍処理を行なっても、加熱処理や冷凍処理を行なう前の卵白と同等の気泡力を有することを可能とする卵白起泡安定剤及びそれが添加された起泡卵白が使用されている食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、pH調整剤により卵白のpHを安定化させるとともに、増粘剤としてコンニャクマンナンを用いることにより、加熱処理や冷凍処理を行なっても起泡力に影響を与えることはないことを見出した。すなわち、本発明は、コンニャクマンナンとpH調整剤が含まれたことを特徴とする卵白起泡安定剤である。
【0009】
増粘剤は、通常攪拌により粘度が低下するが、コンニャクマンナンは、攪拌による粘度低下が生じにくく、このため、起泡する際に攪拌速度を上げても十分な保形性を保つことができる。また、コンニャクマンナンは、中性多糖であるため、起泡力の向上に重要なpHへ影響を与えることはない。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、加熱処理や冷凍処理を行なっても、加熱処理や冷凍処理を行なう前の卵白と同等の気泡力を有することを可能とする卵白起泡安定剤及びそれが添加された起泡卵白が使用されている食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
コンニャクマンナンは、コンニャク芋を洗浄後にスライスし、乾燥後粉砕したものであり、必要により溶解を速めるために微粉砕化しても良い。また、アルコール洗浄や多糖類の抽出を行なっても良く、臭いや不純物が取り除かれて精製されたものを用いても良い。
【0012】
本発明に係る卵白起泡安定剤において、前記pH調整剤は、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、乳酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸ニ水素カリウム、グルコノデルタラクトン、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、アジピン酸、クエン酸一カリウム、コハク酸一ナトリウム、酢酸、フマル酸一ナトリウムクエン酸一カリウム、コハク酸一ナトリウム、酢酸、フマル酸一ナトリウム及びフィチン酸のうち少なくとも1以上であることが好ましく、その添加量としてpH調整剤を添加した卵白液がpH5.8〜7.8になるように調製されていることが好ましい。pH5.8未満やpH7.8を超えると卵白の起泡力が明らかに劣ってしまう。
【0013】
また、本発明は、上記卵白起泡安定剤が添加されて作られた起泡卵白が使用されている食品であって、例えばビュスキュイ、シフォンケーキ、スフレ、ムラング、ムースなどがある。
【実施例】
【0014】
次に、本発明に係る卵白起泡安定剤の実施例について説明する。本実施例に係る起泡安定剤として、コンニャクマンナン(伊那食品工業製)とpH調整剤であるクエン酸を用意した。先ず、未殺菌の卵白1000gにコンニャクマンナンを0.5g添加し、次いでクエン酸を用いて、pHが7.2、6.7、6.2、5.6になるように調整した。それぞれを実施例1乃至4とする。pH調整後、54℃で10分間熱殺菌をバッチ殺菌によって行い、その後、冷凍庫で冷凍保存した。解凍後、キッチンエンドスタンドミキサー(KichenAId製)によって、60秒間、目盛6で攪拌した。ここに卵白の60重量%の砂糖を加えてさらに60秒、180秒間、420秒間(佐藤を加える前の攪拌を含めて、それぞれ120秒間、240秒間、480秒間とする)、撹拌速度(300〜400rpm)でそれぞれ攪拌した。それぞれ攪拌した卵白については、次の方法で比重、強度、安定性について試験を行った。また、比較として、未殺菌の卵白及び同様に熱殺菌した卵白について、冷凍解凍後、同様に攪拌を行い、比重、強度、安定性についての試験を行った。未殺菌のものを比較例1とし、熱殺菌済みのものを比較例2とした。これの結果を表1及び図1乃至4に示す。
【0015】
比重
200ml計量カップに泡沫をとり、その重量を測定し、その測定された重量を基に比重を算出した。
【0016】
強度
泡沫を充たした200mlの計量カップを使用し、レオメーター(不動工業(株)製MRM−2002J)によって、圧縮応力を測定した。圧縮応力の測定条件は、試料台スピード=6cm/min、=30mm平板プランジャー使用、メーターレンジ=200gとし、ピーク時数値(g)÷プランジャー表面積(7.065cm2)=圧縮強度(g/cm2)によって圧縮強度を算出した。
【0017】
安定性
1Lのビーカーに泡沫100gを採取し、25度で1時間後に濾紙によってろ過を行い、起泡が壊れた液体としてのドリップ量の重量(g)を測定した。
【0018】
【表1】

【0019】
表1並びに図1乃至4に示すように、本発明に係るpH調整剤とコンニャクマンナンを加えずに、熱殺菌処理を行った比較例2は、熱殺菌処理を行う前の比較例1に比べて、何れの点においても劣っているが、本発明に係るpH調整剤とコンニャクマンナンを加えることにより、熱殺菌処理を行った場合であっても、比重と強度に関しては、熱殺菌処理を行う前の比較例1と同等の値を得ることができ、特に安定性に関しては、比較例1よりも優れた結果を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】pHと強度の関係を示すグラフである。
【図2】pHと比重の関係を示すグラフである。
【図3】攪拌時間と強度の関係を示すグラフである。
【図4】攪拌時間と比重の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンニャクマンナンとpH調整剤が含まれたことを特徴とする卵白起泡安定剤。
【請求項2】
前記pH調整剤は、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、乳酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸ニ水素カリウム、グルコノデルタラクトン、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、アジピン酸、クエン酸一カリウム、コハク酸一ナトリウム、酢酸、フマル酸一ナトリウム及びフィチン酸のうち少なくとも1以上の塩類であることを特徴とする請求項1の卵白起泡安定剤。
【請求項3】
前記pH調整剤は、卵白に添加されたときにpH5.8〜7.8になるように調製されていることを特徴とする請求項1又は2記載の卵白起泡安定剤。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか記載の卵白起泡安定剤が添加されて作られた起泡卵白が使用されていることを特徴とする食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−296383(P2006−296383A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−127199(P2005−127199)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】