説明

厚膜化可能なコーティング方法及びプラスチックレンズ

【課題】 浸漬方式を採用して優れた耐擦傷性を示すハードコート膜を効率よく形成しうる厚膜化可能なコーティング方法及び厚膜のハードコート付きプラスチックレンズを提供すること。
【解決手段】 浸漬方式によるハードコート膜の形成にあたり、ハードコート液への浸漬時間を40〜80秒とすることを特徴とする厚膜化可能なコーティング方法及びこの方法で形成された膜厚3.0μm以上のハードコート膜を有することを特徴とするハードコート付きプラスチックレンズ。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プラスチックレンズ基材に対する厚膜化可能なコーティング方法及びこの方法によってコーティングされたハードコート付きプラスチックレンズに関する。
【0002】
【従来の技術】プラスチックレンズは、軽量であると共に耐衝撃性や染色性に優れているものの、耐擦傷性に劣るため、この耐擦傷性の向上を目的として、プラスチックレンズ表面にハードコート膜を設ける手法が一般的に行われている。また、その耐擦傷性、つまり傷の付き難さは、コート膜の膜厚に依存することが知られている。つまり、一般的には膜厚が厚いほど耐擦傷性は良くなる傾向にある。しかし、膜厚を無制限に厚くすれば耐熱性の点で劣り、クラックが発生する。また、膜厚を厚くする目的でコーティング組成物を改良したとき、例えば濃度を高くした場合にはタレや液自体の安定性に問題が生じ、浸漬後の引上げ速度を上げることにより膜厚が厚くする方式を採用したとしても、被塗布物における引上げ方向に対する膜厚の均一性が損なわれる。さらに、液自体の粘度を上げようとして増粘剤を添加した場合は、液自体の安定性やポットライフに問題が生じる。さらに、複数回操作を繰り返してハードコート膜を積層する方法もあるが、加工上時間がかかり、生産性に劣る。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】そこで本発明は、上記問題点に鑑みて、浸漬方式を採用して優れた耐擦傷性を示すハードコート膜を効率よく形成しうる厚膜化可能なコーティング方法及び厚膜のハードコート付きプラスチックレンズを提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、浸漬方式によるハードコート膜の形成にあたり、ハードコート液への浸漬時間を40〜80秒とすることを特徴とする厚膜化可能なコーティング方法を提供するとともに、この方法で形成された膜厚3.0μm以上のハードコート膜を有することを特徴とするハードコート付きプラスチックレンズを提供するものである。
【0005】
【発明の実施の形態】浸漬方式によるコーティング方法は、コーティング液中へ被塗布物を浸漬し、しかるべき時間の後、被塗布物を液中から所定の速度で引き上げる方法である。この浸漬方式において厚膜を得るための条件を種々検討したところ、浸漬時間が厚膜を得るための最も重要な条件であることが判明した。浸漬時間は、溶媒の種類、コーティング液の粘度、コート膜に求める物性などにより異なるが、厚膜を形成する目的で40〜80秒とするのが好ましい。浸漬時間が40秒未満であると、コーティング液の塗布量が少なすぎて十分な膜厚を得られない。一方、80秒を超えて浸漬時間を長くしても膜厚は変わらない。
【0006】コーティング液の塗布量は、浸漬時間を調節することによりハードコート膜の膜厚が3.0μm以上となるように選定される。このハードコート膜の膜厚が3.0μm未満であると、耐擦傷性に劣る。しかし、膜厚が厚すぎると耐熱性の点で問題が生じるので、10μm以下にするのが好ましい。
【0007】コーティング液の粘度は、被塗布物の材質に依存し、適宜求める膜厚に相応した粘度であることが望ましい。本発明に用いるコーティング液においては、粘度は、4.0〜50.0cpsであることが好ましい。4.0cps未満であると、厚膜が得られにくくなり、耐擦傷性の向上が不充分であり、50.0cpsを超えると、被膜の表面にシワやブラッシングが発生し外観を損ねる。
【0008】コーティング液の固形分は、コーティング液の成分によって制限されるが、求める膜厚に応じて変更できることが好ましい。本発明に用いるコーティング液において、固形分は20〜40重量%であることが好ましい。20重量%未満であると、厚膜を得ることが困難となり、40重量%を超えると、ポットライフに問題が生じる。
【0009】本発明のコーティング方法における引上げ速度は、コーティング液の粘度及び固形分に左右されるが、通常、100〜300mm/minの範囲で用いられることが好ましい。引上げ速度が100mm/min未満であると、厚膜が得られにくくなり、300mm/minを超えると、塗布面にタレが生じて外観を損ねる。
【0010】本発明において用いられるコーティング液の成分としては、用途、目的に応じて使い分けられるが、現状では有機珪素化合物と金属酸化物微粒子ゾルを混合したコーティング液が最も簡便かつ効果的であり、一般に広く使用されている。有機珪素化合物としては、加水分解性のものが好ましく、例えば、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキジシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシランが挙げられる。これらは単独で用いても、2種類以上を組み合わせてもよい。また、これらは、酸により加水分解して用いるのが好ましい。
【0011】本発明に用いるコーティング液に含まれる金属酸化物ゾルとしては、珪素、スズ、タングステン、鉄、ジルコニウム、チタンなどから選ばれる1種以上の金属の酸化物微粒子のコロイド状分散体を挙げることができる。具体的には、これらの金属酸化物微粒子を溶媒中にコロイド状に分散させてあるものが好ましい。
【0012】本発明に用いるコーティング液としては、粘度の維持管理が簡便になり、また厚膜を求める目的で高沸点溶媒を添加した、あるいは添加可能なコーティング組成物であることが好ましい。ここで用いられる高沸点溶媒としては、シクロヘキサン、2−プロパノール、1,2−ジメトキシエタン、水、トルエン、エチレンジアミン、1−ブタノール、2−メトキシエタノール、酢酸ブチル、2−エトキシエタノール、キシレン、N,N−ジメチルホルムアミド、フェノール、1,2−プロパンジオール、ベンジルアルコールなどが挙げられる。これらの溶媒は1種のみを用いてもよいが、コーティング液の粘度、揮発性及び基材に対する濡れ性を考慮して異なる2種類以上の溶媒を用いることが出来る。上記以外の低沸点溶媒は、溶解性、粘度調整の点で良溶媒であるが、揮発速度が高いため多量に混合すると、コーティング液の濃度変化を引き起こす恐れがある。このとき濃度変化が生じると、それに倣う形で固形分変化も起こり、コーティング液のポットライフに問題が生じる恐れがある。
【0013】本発明に用いるコーティング組成物には、硬化を促進する目的で硬化触媒を用いることが出来る。硬化触媒としては、アミン類、金属キレート、有機酸金属塩、過塩素酸類、金属塩から選ばれる1種以上の硬化剤である。具体例としては、グアニジン、トリエチルアミン、アニリンなどのアミン類、アセチルアセトンが配位した、クロム(III)、コバルト(III)、鉄(III)、ジルコニウム(IV)、インジウム(III)などの金属アセチルアセトネート、酢酸ナトリウム、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛、オクチル酸スズなどの有機酸金属塩、過塩素酸、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸マグネシウムなどの過塩素酸塩類、塩化スズ、塩化アルミニウム、塩化鉄、塩化チタン、塩化亜鉛などの金属塩化物などが挙げられる。硬化触媒の添加量としては、溶媒への溶解度と硬化触媒としての効果を考慮して、シリコーン化合物に対して0.1〜10.0重量%の割合とするのがよい。さらに好ましくは、0.5〜3.0重量%の範囲で用いるのがよい。
【0014】本発明に用いるコーティング組成物には、本発明の目的を損なわない限り、必要に応じてさらにレベリング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、染料、顔料、フィラー、安定剤、界面活性剤、帯電防止剤、不燃剤、香料などを添加し、コーティング液の塗布性、被膜の性質、被膜加工の作業性等を改良することができる。
【0015】本発明のコーティング方法を適用する基材としては、プラスチックレンズ基材、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、脂肪族アリルカーボネート、芳香族アリルカーボネート、ポリチオウレタン等の合成樹脂が挙げられ、特に透明性の高いものが光学用として好適である。また、本発明のコーティング方法を適用するにあたり、基材と被膜の密着性を向上させる目的で、基材表面を予めアルカリ処理、酸処理、界面活性剤処理、各種有機溶媒による化学処理、無機物又は有機物の微粒子による研磨処理、各種樹脂を用いたプライマー処理、紫外線、電子線などによる放射線処理、プラズマ処理などを行うことができる。
【0016】上記の方法で形成したハードコート膜上に無機化合物を単層又は多層に成膜して反射防止膜を施すことができる。この成膜方法としては、例えば真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、イオンアシスト法などが挙げられる。また、使用する無機化合物としては、具体的にはZnO、TiO2 、Sb23 、Sb25 、SnO2 、ZrO2 、Al23 、MgF2 、SiO2 、SiO、LiF、3NaF・AlF3 、AlF3 、Na3 AlF3 、Ta25 、Yb23 などが挙げられる。
【0017】
【実施例】次に、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。また、以下「部」は「重量部」をあらわす。
【0018】実施例1〜5(1)コーティング組成物の作製マグネチックスターラーを備えたガラス製フラスコ中にγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン100.1部を入れ、0.01規定塩酸27.0部を加え、一昼夜攪拌して加水分解物を調製した。該加水分解物にメタノール分散コロイダルシリカ(固形分濃度30重量%、平均粒子径10mμ)260.0部、硬化触媒としてアルミニウムアセチルアセトネート3.9部、水143.0部、シリコーン系界面活性剤0.1部を順次加え、一昼夜攪拌し、24時間5℃で静置して熟成させ、コーティング組成物を作製した。このコーティング組成物の粘度は6.5cps(20℃)であった。
(2)ハードコート膜の作製基材であるジエチレングリコールビスアリルカーボネートレンズを45℃に保温した10%水酸化ナトリウム水溶液中に4分間浸漬して洗浄した。次いで、上記コーティング組成物を用いて浸漬法によりプラスチックレンズを塗布した。このときのコーティング条件を表1に示した。コーティング処理されたレンズを120℃で2時間加熱硬化を行い、ハードコート膜を作製した。
【0019】(3)試験及び性能評価以上の処理により得られたレンズについて下記の方法で試験を行い、得られた結果を表1に示した。
■耐擦傷性#0000のスチールウールを用い、500g荷重で20往復させた後の被膜の状態を肉眼で観察し、下記の基準で判定を行った。
A:傷つかないB:擦傷面の50%未満に傷がつくC:擦傷面の50%以上に傷がつく■密着性カッターナイフにより1mm間隔で11本の平行線を縦横に入れ、100個のマス目を作り、セロファン粘着テープ(ニチバン社製)を密着して貼り付け、急速に剥がして残ったマス目の数を数えた。
■耐候性サンシャインウェザーメーター(スガ試験機社製)を用い、300時間暴露した後、被膜の状態を肉眼で観察し、下記の基準で判定を行った。
A:被膜に変化無しB:被膜が荒れているC:被膜が溶解して下地が見える■耐熱性80℃のオーブンにレンズを入れ、10分間後に取出してスライドプロジェクターを用いて調べ、下記の基準で判定を行った。
良好:被膜に異常なし不良:被膜にクラックが入っている
【0020】比較例1及び2前記実施例のハードコート膜の作製条件において、表1に示すコーティング条件で行った以外は、実施例1と同様にして行った。評価試験の結果を表1に示した。
【0021】
【表1】


【0022】
【発明の効果】本発明によれば、コーティング組成物中への浸漬時間を長くするという簡便な方法により厚膜のコーティング膜を容易に形成することができ、耐擦傷牲に優れ、かつプラスチックレンズとの密着性にも優れたハードコート膜を得ることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 浸漬方式によるハードコート膜の形成にあたり、ハードコート液への浸漬時間を40〜80秒とすることを特徴とする厚膜化可能なコーティング方法。
【請求項2】 ハードコート液の主成分が有機珪素化合物である請求項1記載のコーティング方法。
【請求項3】 ハードコート液に高沸点溶媒を添加した請求項1又は2記載のコーティング方法。
【請求項4】 請求項1記載の方法で形成された膜厚3.0μm以上のハードコート膜を有することを特徴とするハードコート付きプラスチックレンズ。

【公開番号】特開2001−305302(P2001−305302A)
【公開日】平成13年10月31日(2001.10.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−119509(P2000−119509)
【出願日】平成12年4月20日(2000.4.20)
【出願人】(000000527)旭光学工業株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】