厚膜印刷物の作製方法
【課題】 本発明は、300kV以下の低エネルギー電子線を印刷物の乾燥方式として利用する分野において、用紙劣化を最小限に抑えられ、溶剤や光重合開始剤を含まない環境にやさしい安全なインキを使用した厚膜印刷物に関するものである。
【解決手段】 エネルギーの低い加速電圧30kV〜80kVの超低エネルギーレベルの電子線を使用して硬化させる「超低エネルギー電子線硬化組成物」と、酸素で乾燥させる「酸化重合組成物」とを含有する酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキを使用した厚膜印刷物の作製方法を提供する。
【解決手段】 エネルギーの低い加速電圧30kV〜80kVの超低エネルギーレベルの電子線を使用して硬化させる「超低エネルギー電子線硬化組成物」と、酸素で乾燥させる「酸化重合組成物」とを含有する酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキを使用した厚膜印刷物の作製方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、300kV以下の低エネルギー電子線を印刷物の乾燥方式として利用する分野において、用紙劣化を最小限に抑えられ、溶剤や光重合開始剤を含まない環境にやさしい安全なインキを使用した厚膜印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インキ膜厚が数十μmにも及ぶ厚膜印刷物として、例えば、彫刻凹版印刷物やスクリーン印刷物等が挙げられる。彫刻凹版印刷においては、版面の凹部の深度が最大100μm以上にも達するが、印刷用紙に転移するのは、版面の凹部内に着肉によって詰め込まれたインキの一部で、印刷物のインキの盛り上がりとしては、10μmから40μm程度である。また、スクリーン印刷においては、厚膜スクリーンの場合には数十μmのインキ膜厚になり、インキ粘度が低いため、紙等の基材への浸透が早い。
【0003】
厚膜印刷物の場合、印刷機の排紙部では、先に印刷した印刷物の上に、直ちに次に印刷された印刷物が重なるため、印刷物の裏面が印刷インキで汚れるという「裏移り」と呼ばれる事象が発生する。また、積載した印刷済み用紙のインキが粘着性を持っているため、印刷物が乾燥する際に互いに接着し、印刷物を無理にはがそうとすると紙がむけたり、破れたりする「ブロッキング」と呼ばれる事象が発生する。
【0004】
このような「裏移り」や「ブロッキング」の問題を解決するために、彫刻凹版印刷では様々な方法が提案されている。例えば、(1)印刷物の間に間紙を入れる。(2)インキに溶剤を添加し、印刷後のインキから溶剤分を蒸発又は浸透せてインキをセットさせる。(3)インキを常温で硬くし、印刷時に加温印刷することによって印刷に必要な流動性を保持しながら印刷後の流動性を低下させる、等の方法が挙げられる。
【0005】
また、より効果的なインキとして、外部から紫外線のエネルギーを加えて表層部の紫外線硬化成分を硬化させ、インキ皮膜内部を酸化重合成分で重合乾燥させるインキが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、柔軟性及び硬化性に優れる紫外線重合型及び酸化重合併用型印刷用インキが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、印刷インキのような不透明なインキ層に対して、光学的な透過性に左右されない透過性に優れた低エネルギー電子線を応用した電子線乾燥型の彫刻凹版インキが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
一方、紫外線硬化成分と酸化重合性成分を併用し、顔料分散性の改善や基材(被印刷体)との密着並びに接着性を向上させるインキ及びその方法が提案されており、例えば、高級脂肪酸(酸化重合性成分)を分子内に含んだ光重合性物質を合成する手段が提案されている(例えば、特許文献4、5及び6参照)。
【0009】
また、別の例として、光重合物質にアルキド樹脂(酸化重合成分)を混合したインキが提案されている(例えば、特許文献7参照)。
【0010】
一方、酸化重合型インキに酸素の存在下で電子線を照射して、分子内の二重結合を活性化するとともに、発生するオゾンによって相乗的にインキを乾燥させる方法が提案されている(例えば、特許文献8参照)。
【0011】
【特許文献1】特公平08−892号公報
【特許文献2】特開2002−38065号公報
【特許文献3】特許2969167号公報
【特許文献4】特開昭49−97788号公報
【特許文献5】特開昭51−16107号公報
【特許文献6】特開昭50−95006号公報
【特許文献7】特開昭54−25941号公報
【特許文献8】特開2001−158080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
印刷機の高速化に伴う印刷物の高速乾燥方式としては、紫外線照射により硬化するインキが一般的である。しかし、多くのインキは、顔料及び染料等によって着色されているため、紫外線照射によって硬化し得るインキ皮膜の厚さは、紫外線が透過することのできる深さが限界である。
【0013】
オフセット印刷等では紫外線乾燥が普及しているが、数十μm以上にも及ぶ彫刻凹版印刷等では、これらの紫外線乾燥のみのシステムの利用は困難である。スクリーン印刷でも膜厚、着色度合い及び基材への浸透度合いによって使用できない場合があり、紙のような基材によっては、浸透性がある場合、紫外線のみでは乾燥することが不可能である。
【0014】
特許文献1及び特許文献2で提案されているインキの場合、裏移り防止効果を確保するためにはインキ表面の硬化皮膜を強固にする必要があり、インキのワニス中に占める紫外線硬化成分が酸化重合成分と比較して多くなり、更に紫外線硬化成分に多官能のアクリレート樹脂を必要とする場合があり、硬化速度を速くするために多官能のアクリレート樹脂を使用したり、光重合開始剤の配合量を多くしたりする必要が生じる。
【0015】
また、彫刻凹版印刷では、ワイピングによって多くのインキが印刷に使用されずに廃棄されるため、酸化重合ワニスと比較して、価格の高いアクリレート樹脂成分及びこれに含まれる光重合開始剤が多いことは、インキのコスト面からも不利となる。また、彫刻凹版印刷で最も重要となるワイピング適性を損なう場合が多々発生する。
【0016】
また、紫外線硬化型のワニスを併用するインキ系においては、光重合開始剤に起因する臭気の問題、毒性の問題、更には紫外線乾燥による残留モノマーのマイグレーション等の懸念される問題が付随する問題がある。
【0017】
特に、安全性を重視される食品包装、玩具等の印刷物においては、残留する光重合開始剤やモノマーの安全性の問題からも紫外線硬化型システムの使用は制約がある。
【0018】
特許文献3で提案されているインキの場合、インキ硬化皮膜が硬くてもろい紙に代表されるような放射線崩壊型の印刷基材を使用した場合、印刷基材の劣化等、副次的に発生する問題を含めて実用化の障害となっていた。
【0019】
特許文献4、特許文献5、特許文献6及び特許文献7で提案されているインキの場合、これらの提案はいずれも、顔料分散性の改善や基材との密着、接着性の向上のみを目的としているため、本発明のごとく、紫外線照射により皮膜表層部を瞬時に硬化させ、印刷又は塗工直後の積み重ねや二次加工を可能にし、その後、皮膜内部は、酸化重合により自然乾燥させることを第一義的な目的とした方法とは異なる。
【0020】
特許文献8で提案されている、酸素の存在下で酸化重合型インキに電子線を照射し、分子内の二重結合を活性化するとともに発生するオゾンによって相乗的にインキを乾燥させる方法では、発生したオゾンが基材の表面にダメージを与え、照射装置内部がオゾンに対する耐腐食性の仕様である必要があるとともに、発生するオゾンを安全に処理する必要がある。
【0021】
また、通常の印刷物では、乾燥させたい画線面積は少ないが、画線部分のみに選択的に電子線を照射することは困難であるため、乾燥させるためには印刷基材全体に電子線を照射することとなる。しかし、印刷基材が紙の場合、紙を構成しているセルロースは、放射線分解型の天然高分子であるため、100kVよりも高エネルギーの電子線を照射することで紙が劣化し、更に耐折強度や引裂き強度などの諸強度が低下する。
【0022】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、具体的には、エネルギーの低い加速電圧30kV〜80kVの超低エネルギーレベルの電子線を使用して硬化させる「超低エネルギー電子線硬化組成物」と、酸素で乾燥させる「酸化重合組成物」とを含有する酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキを使用した厚膜印刷物の作製方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の厚膜印刷物の作製方法は、基材上の少なくとも一部に、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキによって所定の模様を印刷し、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキが印刷された被印刷物上に、超低エネルギー電子線を照射することで、インキ皮膜表層部から内部にかけて硬化させ、次いで、被印刷体上のインキ皮膜内部を乾燥させることを特徴とする。
【0024】
本発明の膜厚厚印刷物の作製方法は、超低エネルギー電子線における加速電圧が、30kV〜80kVであることを特徴とする。
【0025】
本発明の厚膜印刷物の作製方法は、基材上に印刷されるインキが、超低エネルギー電子線の照射によって硬化する超低エネルギー電子線硬化性組成物と、酸素によって乾燥する酸化重合性組成物を含有することを特徴とする。
【0026】
本発明の厚膜印刷物の作製方法は、基材上に印刷されるインキにおいて、超低エネルギー電子線硬化性組成物と酸化重合性組成物の重量比が、95:5〜30:70の範囲であることを特徴とする。
【0027】
本発明の厚膜印刷物の作製方法により作製された印刷物は、基材上の少なくとも一部に、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキによって厚膜印刷されて成り、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキにおけるインキ皮膜表層部から内部にかけては、超低エネルギー電子線によって硬化されて成り、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキにおけるインキ皮膜内部が酸化重合によって乾燥されて成り、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキにおける皮膜は、インキ皮膜表層部からインキ皮膜内部にわたって、連続的に橋かけ密度が低下した皮膜であることを特徴とする。
【0028】
本発明の厚膜印刷物は、超低エネルギー電子線は、加速電圧30kV〜80kVであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
照射する電子線の加速電圧が30kVから80kV以下の超低エネルギーであるため、それよりも加速電圧の高い電子線を照射した場合と比較すると、被照射物(印刷基材)における耐折強度の低下を抑えつつ、インキ皮膜表面を瞬時に硬化させることができる。
【0030】
この電子線照射により皮膜表層部が瞬時に硬化乾燥するため、印刷後直ちに印刷物を積み重ねても裏移りやブロッキングの発生を抑制できる。インキ皮膜内部の未硬化層は、酸化重合により自然乾燥するため、インキ中のワニスの用紙基材内部への浸透成分も乾燥することによって、密着性の発現効果も期待できる。
【0031】
酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキは、電子線硬化性と酸化重合乾燥性の両者の機能を有し、紫外線硬化性と酸化重合性を兼ね備えたインキ系と比較して、はるかに厚い硬化皮膜をインキ表層部から内部にかけて形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、以下に記載する実施するための最良の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲における技術的思想の範囲内であれば、いろいろな形態が実施可能である。
【0033】
本発明の酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキは、電子線硬化性と酸化重合性を有する材料を単独又は混合することによって得られるワニスに、各種顔料、酸化重合触媒、耐摩擦剤、摩耗剤、インキ特性調整用等の添加剤及びその他から成る。
【0034】
高速乾燥性と内部乾燥性を可能にするには、電子線硬化型ビヒクルと酸化重合性ビヒクルをインキ膜厚及び印刷速度等の異なる目的に応じて、バランスよく配合したインキを必要とする。
【0035】
電子線硬化性と酸化重合性を兼ね備えたビヒクルの構成は、共役二重結合を有する乾性油又は半乾性油及び乾性油又は半乾性油を変性したアルキド樹脂、乾性油又は半乾性油変性物にアクリロイル基を導入したアクリル変性アルキド樹脂、アルキド樹脂又は乾性油とアクリレート混合物等があるが、いずれの構成でもよい。
【0036】
電子線硬化性成分としては、(メタ)アクリレートとして、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、(カプロラクトン変性)ジペンタエリスルトールエキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスルトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスルトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、(アルキレンオキサイド変性)トリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1、3−ブチレングルコールジ(メタ)アクリレート、(エチルカルビトール変性)1、6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチルー1、8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1、9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルフォリン等及びこれらを水溶化変性した(メタ)アクリレート等を挙げることができ、これらを数種組み合わせて用いることができる。電子線硬化性を重視する場合は、特にアクリレートの使用が有効である。
【0037】
酸化重合性成分としての共役二重結合を有する乾性油若しくは半乾性油の亜麻仁油、桐油、大豆油、やし油、綿実油等又はこれらを変性したものを用いることができる。
【0038】
特に、彫刻凹版インキのようにワイピングを必要とし、アルカリ水溶液ワイピング方式により版面上の余剰インキを除去する場合、電子線硬化性成分としては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、水溶性エポキシアクリレート、エチルカルビトール変性1、6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン若しくはカルボキシル基を有するか、又はカルボキシル化した(メタ)アクリレート等の使用が有効である。酸化重合成分としては、乾性油変性アルキド樹脂を更にカルボキシル化した樹脂が有効である。
【0039】
インキとしては、前述のビヒクルと着色顔料、体質顔料及び乾燥剤、時に重合禁止(抑制)剤が必要となる。また、ワックス等の添加剤の添加も印刷物の堅牢性を改善する上では効果的となる。なお、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキに使用できる顔料には制限がないため、どのような種類の顔料でも利用できる。
【0040】
顔料は、着色性の有機顔料及び無機顔料、インキ流動特性又は印刷適性調整等の用途である白色無機顔料、隠ぺい性顔料であるチタン、光学機能材料、磁性材料、導電材料等の各種機能性材料等インキの用途に応じてあらゆる材料を使用することができる。
【0041】
本発明に用いるインキは、紫外線乾燥で必要な光重合開始剤が不要であり、酸化重合成分を乾燥せしめる乾燥剤が必要となるだけであるため、放射線重合性成分の重合が起こりにくく、インキが安定しており、保存安定性が良好となる。必要に応じて重合禁止(抑制)剤の添加は、インキの保存安定を更に改善するものである。重合禁止(抑制)剤としては、公知の材料を使用することができ、例えば、p−メトキシフェノール、(アルキル)ハイドロキノン等が挙げられる。
【0042】
その他のワニス構成要素としては、酸化重合触媒であるコバルト、マンガン、鉛、鉄等の金属化合物である硼酸コバルト、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト又は一酸化鉛等が挙げられる。耐摩擦及び摩耗性のためのワックス成分として、パラフィンワックス、エチレン・アクリル酸共重合ワックス、エチレン・酢ビ共重合ワックス、ポリオレフィンワックス、カルナバワックス等で呼称される様々なワックスが異なる性状で使用できる。その他の添加剤として、顔料分散剤、レベリング剤等を添加しても良い。
【0043】
酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型ワニスは、前述の電子線硬化性成分と酸化重合性成分を適切に混合し作製するが、その混合比は、電子線硬化成分99〜20%に対し酸化重合性成分1〜80%とすることが好ましく、より好ましくは、電子線硬化成分90〜30%に対し、酸化重合性成分10〜70%の範囲である。
【0044】
前述のワニス成分と、顔料及び添加剤等を3本ロールミルやビーズミルのような公知の装置及び方法で練合し、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキを作製する。
【0045】
酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキを使用し、印刷機で連続印刷を行う。連続して印刷される印刷物は、印刷後速やかに電子線照射装置内を通し、排紙部にそのまま積載する。このとき照射する電子線は、加速電圧20kV〜300kVの超低加速電圧から低加速電圧であることが好ましい。印刷基材への電子線照射の影響を考慮すると、照射した電子線が基材に達しない150kVまでの加速電圧にすることが好ましい。さらに望ましくは、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキの特徴を生かし、内部は酸化重合により乾燥させるため表面から数十μm程度に効果的に作用する80kVまでの加速電圧であることが好ましい。電子線照射装置の電子線の取り出し効率も考慮し、30kV〜80kVの加速電圧で加速した電子線を照射することが効果的である。
【0046】
電子線の照射線量は、表面から十数μmの電子線硬化成分の反応性基がほぼすべて反応し、かつ、いくらかの不飽和結合が反応し、分子の主鎖の切断が優位にならない範囲の線量を照射することが好ましい。電子線によるインキの重合性と電力効率を考慮し、10kGy〜100kGyの範囲にすることが、より好ましい。
【0047】
積載された連続印刷物は、酸化重合による内部乾燥を行わせるため、積載状態のまま1日〜数日間静置する。十分に酸化重合による乾燥を行った後、積載した印刷物をさばいても何の抵抗もなく1枚ずつの印刷物として捌くことができる。
【0048】
この時、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化インキにおいては、インキ皮膜表層部から内部にかけて加速電圧30kV〜80kVの超低エネルギー電子線によって橋かけ反応を伴って硬化されて成り、インキ皮膜内部が酸化重合によって乾燥されて成るため、インキ皮膜表層部からインキ皮膜内部にわたって、超低エネルギー電子線の照射効果が傾斜的に発現した皮膜となる。「傾斜的に発現した皮膜」とは、印刷物表層部は橋かけ密度が高く、内部に入るに従って連続的に橋かけ密度が低下した状態により硬化したインキ皮膜のことであり、超低エネルギー電子線を照射した際、印刷物の表層部の線量は高く、内部に入るほど線量は低下しているために、皮膜全体として強じんな性質を生じる現象によって得られた性能を有した皮膜である。
【0049】
これは、電子線照射によりインキ表面が十分な橋かけ密度で重合したことにより、表面タックが残らず高硬度に硬化したことに起因する。よって、上に重なった用紙に「裏移り」を起こすことがない。
【0050】
電子線照射による重合で高い橋かけ密度が得られるため、耐チョーキング等の堅牢性に対しても良い効果が得られる。なお「橋かけ(架橋)反応」とは、様々な高分子に電子線を照射すると、分子内の結合が切れてラジカルが発生し、ここで発生したラジカル同士が反応して高分子材料の分子間で新たな化学結合が起こり、網目状の構造を持つようになる反応のことである。また「橋かけ密度」とは、単位当たりの橋かけの数を表すパラメータである。
【0051】
「裏移り」の発生を抑えることができれば、作業性の向上のみならず、厚膜印刷物の盛り上がりを高く設計することが可能となり、より指感性に優れた厚膜印刷物の大量製造が可能となり、偽造防止効果、意匠性に富んだ付加価値の高い印刷物を得ることができる。
【0052】
また、これにより、印刷作業における作業性の改善、すなわち、印刷機の排紙部における印刷物の取扱いや印刷後の印刷物の移動に対する取扱いの際の制約を大幅に軽減することができる。
【0053】
電子線硬化と酸化重合を併用することで、最も超低エネルギー電子線が強く作用する表面付近は、高い橋かけ密度が得られて強度が高く、内部は、酸化重合により電子線硬化成分と分子量の高い酸化重合成分が自然に内部応力を緩和させながら重合していくため、酸化重合性成分の基材への浸透もあり、基材への密着性及び接着性を持たせることができる。
【実施例1】
【0054】
表1に示した配合例に基づき諸材料を配合し、3本ロールミルを用いて通常の方法で練合して酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキを作製した。練合されたインキは、粘弾性測定装置(HAAKE社製Reostress600型)により粘度及び降伏価を測定した結果、25℃における粘度12.1Pa・s、降伏価957Paであった。ワイピング方式によっても異なるが、インキ粘度が高すぎると彫刻凹版版面上の余剰インキが拭き取りづらくなる。そのような事象が発生した場合には、印刷速度を低下させたり、ワイピングローラの周速比を上げたり、版面温度を上げたりすることで対応することも可能である。
【0055】
【表1】
【0056】
酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキは、凹版印刷適性試験機を使用して、証券印刷用紙に彩紋模様の深度150μmの凹版版面にて印刷を行った。酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキ及び従来型の彫刻凹版インキ(酸化重合型)と比較して、凹版印刷機において、そんしょくなく良好な印刷適性を示した。印刷物に対し、電子線照射装置(ウシオ電機(株)製超小型電子線照射装置Min-EB labo SFY01)を使用して、加速電圧60kVにて40kGy照射した。
【0057】
電子線照射を行った後の印刷物に、印刷していない同じ証券用紙を載せ、印刷適性試験機(熊谷理機工業製)にて、印刷速度0.5m/min.で、1kg、2kg、5kg、10kg、20kg、30kg、40kg及び50kgに設定し、アルミの無地ディスクで荷重を変化させて加圧し、印刷機の排紙部で積載された用紙によって荷重がかかった状態による裏移りの発生状況をシミュレーションし、電子線照射によってインキ表面を硬化したインキ皮膜の耐裏移り性と耐ブロッキング性を評価した。
【0058】
電子線照射を行った後の証券用紙の印刷物では、図1に示したように、5kgまでは印刷後のインキの転移による汚れはまったく認められず、10kg以上の荷重において、ごくわずかなインキの転移が認められたが、50kgでも大きく汚れることはなく、強固な乾燥皮膜が表層部に形成されていることが分かった。
【0059】
すなわち、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキの凹版印刷は、印刷適性試験機(熊谷理機工業製)にて5kgの荷重をゆっくりとした速度で線圧でかけても、インキ皮膜表面は破壊せず、内部の未硬化インキに起因する裏移りも起こらなかった。
【0060】
酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキの凹版印刷は、酸化重合成分の硬化後、表面及び界面物性解析装置(ダイプラ・ウィンテス社製)で深さ方向の硬さを連続的に測定した結果を表2に示す。表面が固く内部が柔らかくなる連続性の物性変化を有しており、強さと柔軟性を兼ね備えた強じんな硬化皮膜が得られていることが確認できた。
【0061】
【表2】
【0062】
酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキの彫刻凹版印刷物は、酸化重合成分の硬化後、強さと柔軟性を兼ね備えた強靭な硬化皮膜が得られ、亀裂、割れ、剥離等を生じることなく、特に問題はなかった。
【0063】
また、電子線硬化された表面は、橋かけ密度が高く、耐薬品性、耐摩擦性、堅牢性等の耐性に優れているとともに、内部にわたって橋かけ密度が連続的に低下するために表面が硬く、内部は、柔軟性を保持した理想的なインキ皮膜物性となっている。
【0064】
また、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキは、光重合開始剤を必要としないため、光重合開始剤によるインキ保存の不安定性がなく、必要に応じて添加する重合禁止(抑制)剤の量を抑えることができる。
【0065】
また、電子線の透過性は、インキの色に左右されないため、使用可能な着色顔料には特段の制限がないため、どのような種類の顔料でも利用可能である。
【0066】
さらに、本実施例では凹版印刷機を用いたが、浸透しやすい低粘度成分が用紙内部まで浸透する前に乾燥できるため、低粘度成分の裏抜け防止効果が得られることから、ロータリースクリーンのような高速スクリーン印刷にも対応が可能である。
【実施例2】
【0067】
表3に示した配合例に基づき諸材料を配合し、3本ロールミルを用いて通常の方法で練合し、放射線硬化性向上タイプの酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキを作製した。練合されたインキは、粘度及び粘弾性測定装置(HAAKE社製Reostress600型)により、粘度及び降伏価を測定した結果、25℃における粘度が23.4Pa・s、降伏価が535Paであった。
【0068】
【表3】
【0069】
酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキは、凹版印刷適性試験機を使用して、証券印刷用紙に版面深度150μmの凹版版面を用いて印刷を行った。酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキは、従来型の彫刻凹版インキ(酸化重合型)と比較して、凹版印刷機においてそんしょくない良好な印刷適性を示した。印刷物に対し、電子線照射装置(ウシオ電機(株)製超小型電子線照射装置Min-EB labo SFY01)を使用して、加速電圧60kVにて40kgyを照射した。
【0070】
電子線照射を行った後の印刷物に、印刷していない同じ証券用紙を載せて、印刷適性試験機(熊谷理機工業製)で、印刷速度0.5m/min.により、1kg、2kg、5kg、10kg、20kg、30kg、40kg及び50kgに設定してアルミの無地ディスクで荷重を変えて加圧し、印刷機の排紙部で積載された用紙によって荷重がかかった状態による裏移りの発生状況をシミュレーションし、電子線照射によって、インキ表面を硬化したインキ皮膜の耐裏移り性と耐ブロッキング性を評価した。
【0071】
電子線照射を行った後の証券用紙の印刷物では、図2に示したように、5kgまでは印刷後のインキの転移による汚れは認められず、10kg以上の荷重において、ごくわずかなインキの転移が認められたが、50kgでも大きく汚れることはなく、強さと柔軟性を兼ね備えた強固な乾燥皮膜が表層部から内部にわたって形成されていることが分かった。
【0072】
酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキの凹版印刷は、印刷適性試験機(熊谷理機工業製)にて5kgの荷重をゆっくりとした速度で線圧でかけても、インキ皮膜は破壊せず、裏移りも起こらなかった。
【0073】
酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキの凹版印刷物を、酸化重合成分の硬化後、学振型摩擦試験機を用いて、荷重200gとして綿布により往復100回の摩擦試験を行った。その結果、図3に示したように、摩擦布へのインキの転移は認められたものの、画線部に脱落や汚れは認められず、画線状態は良好であり、優れた摩擦堅牢度を有している事が分かった。
【0074】
酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキの凹版印刷物を、酸化重合成分の硬化後、酸、アルカリ及び有機溶剤(アセトン)に5時間浸漬して耐薬品性試験を行った結果(図4に示す)、いずれの薬品においても溶脱や剥離等の変化はなく、耐薬品性が良好であることが確認できた。
【0075】
(比較例1)
表4に示した配合例に基づき諸材料を配合し、3本ロールミルを用いて通常の方法で練合して紫外線硬化及び酸化重合併用彫刻凹版インキを作製した。練合されたインキは、粘度及び粘弾性測定装置(HAAKE社製Reostress600型)により粘度及び降伏価を測定した結果、25℃における粘度が1403Pa・s、降伏価が1105Paであった。
【0076】
【表4】
【0077】
紫外線硬化及び酸化重合併用型凹版インキは、凹版印刷適性試験機を用いて、証券印刷用紙に凹版版面深度150μmの版面により印刷を行った。印刷物は、紫外線照射装置(日本電池(株)製コンベヤUV照射装置)にて、空冷式120W/cm、メタルハライドランプで80mJ/m2照射した。
【0078】
紫外線照射を行った後の用紙に印刷していない同じ証券用紙を載せて、印刷適性試験機(熊谷理機工業製)にて、印刷速度0.5m/min.で1kg、2kg及び5kgに設定してアルミの無地ディスクで荷重を変えて加圧し、印刷機の排紙部で積載された用紙によって荷重がかかった状態による裏移りの発生状況をシミュレーションし、紫外線照射によってインキ表面を硬化したインキ皮膜の耐裏移り性と耐ブロッキング性を評価した。
【0079】
紫外線照射を行った後の証券用紙の印刷物では、図5に示したように、1kgの荷重でも印刷後のインキの転移が画線全体に認められて、強固な乾燥皮膜が表面に得られていないことが分かった。
【0080】
紫外線硬化及び酸化重合型凹版インキの凹版印刷について、酸化重合成分の硬化後、表面及び界面物性解析装置(ダイプラ・ウィンテス社製)により、深さ方向の硬さの変化を連続的に測定した結果を表5に示す。表面から内部20μm程度まで、比較的変化がない物性を有していることが確認できた。
【0081】
【表5】
【0082】
(比較例2)
表6に示した配合例に基づき諸材料を配合し、3本ロールミルを用いて通常の方法で練合して紫外線硬化性向上タイプの紫外線硬化及び酸化重合併用彫刻凹版インキを作製した。練合されたインキは、粘度及び粘弾性測定装置(HAAKE社製Reostress600型)により粘度及び降伏価を測定した結果、25℃における粘度が21.11Pa・s、降伏価が1146Paであった。
【0083】
【表6】
【0084】
紫外線硬化及び酸化重合併用型凹版インキは、凹版印刷適性試験機を用いて、証券印刷用紙に凹版版面深度150μmの版面により印刷を行った。印刷物は、紫外線照射装置(日本電池(株)製コンベヤUV照射装置)にて、空冷式120W/cm、メタルハライドランプで80mJ/m2照射した。
【0085】
紫外線照射を行った後の用紙に印刷していない同じ証券用紙を載せて、印刷適性試験機(熊谷理機工業製)にて、印刷速度0.5m/min.で1kg、2kg及び5kgに設定してアルミの無地ディスクで荷重を変えて加圧し、印刷機の排紙部で積載された用紙によって荷重がかかった状態による裏移りの発生状況をシミュレーションし、紫外線照射によってインキ表面を硬化したインキ皮膜の耐裏移り性と耐ブロッキング性を評価した。
【0086】
紫外線硬化性を向上させるように配合した紫外線硬化及び酸化重合併用型凹版インキにおいては、比較例1の配合のインキと比較して裏移りが低減しているものの、図6に示したように、1kgの荷重でも印刷後のインキの転移がほぼ画線全体に認められ、十分な表面乾燥性が得られていないことが分かった。
【0087】
紫外線硬化性を向上させるように配合した紫外線硬化及び酸化重合併用型凹版インキの凹版印刷物を、酸化重合成分の硬化後、学振型摩擦試験機を用いて荷重200gとして、綿布により往復100回の摩擦試験を行った。その結果、図7に示したように、摩擦布へのインキの転移が認められ、画線部のインキは十分に残存していたものの、摩擦面に汚れが見られ、また、画線表面がうすく削られている様子が観察でき、印刷画線の摩擦堅牢度が劣ることが分かった。
【0088】
紫外線硬化性を向上させるように配合した紫外線硬化及び酸化重合併用型凹版インキの凹版印刷物を、酸化重合成分の硬化後、酸、アルカリ及び有機溶剤(アセトン)に5時間浸漬し、耐薬品性試験を行った結果を図8に示す。その結果、酸及びアセトンで溶脱や剥離等の変化はなく、耐薬品性が良好であったが、アルカリ浸漬によって全体に軽く変色し画線部の光沢がなくなった。
【0089】
次に、低エネルギー電子線照射装置と超低エネルギー電子線とが被照射物(印刷基材)に与える影響の違いについて調査するため、用紙に照射した場合の劣化挙動の一例として、劣化が顕著に表れる耐折強さについて、JIS P8115に基づいて耐折試験を行った。
【0090】
低エネルギー電子線照射装置を用い、加速電圧を200kVとして深度線量分布を測定した結果と、超低エネルギー電子線照射装置を用い、加速電圧を40〜60kVとして深度線量分布を測定した結果を図9に示す。
【0091】
図9において、x軸は、比重1の物質における電子線到達深度に相当する。図9(a)の加速電圧200kVでは、比重1の物質で400μm程度まで達している。照射される物質の比重によって異なるが、印刷インキの膜厚では完全に透過し、内部まで硬化させることができる。凹版印刷を含め、製品に使用されているほとんどのインキは、膜厚が50μm以下であり、画線部に照射された電子線のうち硬化に寄与する電子線はわずかで、ほとんどが透過する。印刷やコーティングの膜厚に対しては、低エネルギーの分類に入る200kVでも過剰であることが容易に理解できる。
【0092】
一方、(b)加速電圧が40〜60kVでは、60kVの場合に比重1の物質で40数μmまで、50kVでは30数μmまでであり、50μmまでにすべて吸収されている。40及び50kVでは、10μmまでに80%以上のエネルギーが使われている。印刷インキ程度の膜厚に対し、効率よく作用させることができる。
【0093】
この線量の減衰状態から、印刷インキ程度の膜厚において、表面は、線量が高いために樹脂の橋かけ密度が高く強度の高い皮膜になり、内部は、橋かけが緩くなることで柔軟性や接着性を兼ね備えた適度な傾斜効果を持たせることができると予想された。また、紙への印刷においては、用紙上のインキ皮膜は数μmでも内部に浸透したインキ成分も存在する。40〜60kVの電子線の透過力で、オフセット、凸版、フレキソ及びスクリーン(厚膜すぎない場合)印刷の膜厚においては、浸透したインキ成分まで硬化することができる。
【0094】
電子線のエネルギーが被照射物に与える影響の違いを見るために、縦目のNPi上質紙に対し、MIT耐折試験を行った結果を図10に示す。
【0095】
図10のグラフから、加速電圧が200kVと比較して50kVの方が照射した線量に対して耐折回数の減少が少ない、すなわち、劣化が抑えられていることが分かる。特に、照射する線量が大きいほど差が顕著になっている。これは、電子線の透過性によるもので、透過力の低い50kVでは照射量が多くなってもほとんどが表面付近で作用するため、用紙全体の劣化とならないためであると思われる。印刷していない白紙用紙の結果であるが、印刷を施した用紙の場合、若干でも用紙上に付与されたインキによる吸収によって劣化が抑えられると予想される。
【0096】
印刷物に電子線照射した場合の概念図を図11(a)及び(b)に示す。図9(a)の深度線量分布のデータからも分かるように、図11(a)に示した加速電圧が200kVの場合、透過力が高いためインキ層及び基材全体にわたって電子線が作用し、「×」印で示したように基材へのダメージがある。また、図9(a)のカーブから、相対線量は、表面よりも数十ミクロン内部に入ったところで最大値を示していることが分かる。印刷物について考えると、インキ層部分よりも、その下の基材で強く作用することになる。
【0097】
一方、図11(b)に示した加速電圧が40〜60kVの場合、透過力が小さいため、電子線は、50μm以内で吸収されている。インキ層に効率よく作用し、基材の途中で電子線は止まる。よって、基材の劣化が抑えられている。これは、従来型の電子線装置で問題とされていた、基材劣化を少なく抑えられることを示す一つの結果となっている。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキを使用した凹版印刷物の印刷直後に荷重がかかった状態をシミュレーションした評価方法における、インキ皮膜の耐裏移り性と耐ブロッキング性を示す図である。
【図2】電子線硬化性をより向上させるよう配合した酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキを使用した凹版印刷物の印刷直後に荷重がかかった状態をシミュレーションした評価方法における、インキ皮膜の耐裏移り性と耐ブロッキング性を示す図である。
【図3】電子線硬化性をより向上させるよう配合した酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキを使用した凹版印刷物の耐摩擦試験結果を示す図である。
【図4】電子線硬化性をより向上させるよう配合した酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキを使用した凹版印刷物の耐薬品性試験結果を示す。
【図5】紫外線硬化及び酸化重合併用彫刻凹版インキを使用した凹版印刷物の印刷直後に荷重がかかった状態をシミュレーションした評価方法における、インキ皮膜の耐裏移り性と耐ブロッキング性を示す。
【図6】紫外線硬化性をより向上させるよう配合した紫外線硬化及び酸化重合併用彫刻凹版インキを使用した凹版印刷物の印刷直後に荷重がかかった状態をシミュレーションした評価方法における、インキ皮膜の耐裏移り性と耐ブロッキング性を示す。
【図7】紫外線硬化性をより向上させるよう配合した紫外線硬化及び酸化重合併用彫刻凹版インキを使用した凹版印刷物の耐摩擦試験結果を示す。
【図8】紫外線硬化性をより向上させるよう配合した紫外線硬化及び酸化重合併用彫刻凹版インキを使用した凹版印刷物の、耐薬品性試験結果を示す。
【図9】(a)は、低エネルギー電子線照射装置で加速電圧を200kVとして深度線量分布を測定した結果を示し、(b)は、超低エネルギー電子線照射装置で加速電圧40〜60kVとして深度線量分布を測定した結果を示す。
【図10】低エネルギー電子線により照射した場合と、超低エネルギー電子線により照射した場合の被照射物における耐折試験結果を示す。
【図11】(a)は、低エネルギー電子線照射における被照射物への影響の概念図を示し、(b)は、超低エネルギー電子線照射における被照射物への影響の概念図を示す。
【符号の説明】
【0099】
1 印刷画線部
2 加圧により逆転移したインキ
3 摩擦試験により摩擦布に転移したインキ
4 耐薬品性試験における未試験部
5 耐薬品性試験におけるアルカリ性液浸漬部
6 耐薬品性試験における酸性液浸漬部
7 耐薬品性試験におけるアセトン浸漬部
【技術分野】
【0001】
本発明は、300kV以下の低エネルギー電子線を印刷物の乾燥方式として利用する分野において、用紙劣化を最小限に抑えられ、溶剤や光重合開始剤を含まない環境にやさしい安全なインキを使用した厚膜印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インキ膜厚が数十μmにも及ぶ厚膜印刷物として、例えば、彫刻凹版印刷物やスクリーン印刷物等が挙げられる。彫刻凹版印刷においては、版面の凹部の深度が最大100μm以上にも達するが、印刷用紙に転移するのは、版面の凹部内に着肉によって詰め込まれたインキの一部で、印刷物のインキの盛り上がりとしては、10μmから40μm程度である。また、スクリーン印刷においては、厚膜スクリーンの場合には数十μmのインキ膜厚になり、インキ粘度が低いため、紙等の基材への浸透が早い。
【0003】
厚膜印刷物の場合、印刷機の排紙部では、先に印刷した印刷物の上に、直ちに次に印刷された印刷物が重なるため、印刷物の裏面が印刷インキで汚れるという「裏移り」と呼ばれる事象が発生する。また、積載した印刷済み用紙のインキが粘着性を持っているため、印刷物が乾燥する際に互いに接着し、印刷物を無理にはがそうとすると紙がむけたり、破れたりする「ブロッキング」と呼ばれる事象が発生する。
【0004】
このような「裏移り」や「ブロッキング」の問題を解決するために、彫刻凹版印刷では様々な方法が提案されている。例えば、(1)印刷物の間に間紙を入れる。(2)インキに溶剤を添加し、印刷後のインキから溶剤分を蒸発又は浸透せてインキをセットさせる。(3)インキを常温で硬くし、印刷時に加温印刷することによって印刷に必要な流動性を保持しながら印刷後の流動性を低下させる、等の方法が挙げられる。
【0005】
また、より効果的なインキとして、外部から紫外線のエネルギーを加えて表層部の紫外線硬化成分を硬化させ、インキ皮膜内部を酸化重合成分で重合乾燥させるインキが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、柔軟性及び硬化性に優れる紫外線重合型及び酸化重合併用型印刷用インキが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、印刷インキのような不透明なインキ層に対して、光学的な透過性に左右されない透過性に優れた低エネルギー電子線を応用した電子線乾燥型の彫刻凹版インキが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
一方、紫外線硬化成分と酸化重合性成分を併用し、顔料分散性の改善や基材(被印刷体)との密着並びに接着性を向上させるインキ及びその方法が提案されており、例えば、高級脂肪酸(酸化重合性成分)を分子内に含んだ光重合性物質を合成する手段が提案されている(例えば、特許文献4、5及び6参照)。
【0009】
また、別の例として、光重合物質にアルキド樹脂(酸化重合成分)を混合したインキが提案されている(例えば、特許文献7参照)。
【0010】
一方、酸化重合型インキに酸素の存在下で電子線を照射して、分子内の二重結合を活性化するとともに、発生するオゾンによって相乗的にインキを乾燥させる方法が提案されている(例えば、特許文献8参照)。
【0011】
【特許文献1】特公平08−892号公報
【特許文献2】特開2002−38065号公報
【特許文献3】特許2969167号公報
【特許文献4】特開昭49−97788号公報
【特許文献5】特開昭51−16107号公報
【特許文献6】特開昭50−95006号公報
【特許文献7】特開昭54−25941号公報
【特許文献8】特開2001−158080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
印刷機の高速化に伴う印刷物の高速乾燥方式としては、紫外線照射により硬化するインキが一般的である。しかし、多くのインキは、顔料及び染料等によって着色されているため、紫外線照射によって硬化し得るインキ皮膜の厚さは、紫外線が透過することのできる深さが限界である。
【0013】
オフセット印刷等では紫外線乾燥が普及しているが、数十μm以上にも及ぶ彫刻凹版印刷等では、これらの紫外線乾燥のみのシステムの利用は困難である。スクリーン印刷でも膜厚、着色度合い及び基材への浸透度合いによって使用できない場合があり、紙のような基材によっては、浸透性がある場合、紫外線のみでは乾燥することが不可能である。
【0014】
特許文献1及び特許文献2で提案されているインキの場合、裏移り防止効果を確保するためにはインキ表面の硬化皮膜を強固にする必要があり、インキのワニス中に占める紫外線硬化成分が酸化重合成分と比較して多くなり、更に紫外線硬化成分に多官能のアクリレート樹脂を必要とする場合があり、硬化速度を速くするために多官能のアクリレート樹脂を使用したり、光重合開始剤の配合量を多くしたりする必要が生じる。
【0015】
また、彫刻凹版印刷では、ワイピングによって多くのインキが印刷に使用されずに廃棄されるため、酸化重合ワニスと比較して、価格の高いアクリレート樹脂成分及びこれに含まれる光重合開始剤が多いことは、インキのコスト面からも不利となる。また、彫刻凹版印刷で最も重要となるワイピング適性を損なう場合が多々発生する。
【0016】
また、紫外線硬化型のワニスを併用するインキ系においては、光重合開始剤に起因する臭気の問題、毒性の問題、更には紫外線乾燥による残留モノマーのマイグレーション等の懸念される問題が付随する問題がある。
【0017】
特に、安全性を重視される食品包装、玩具等の印刷物においては、残留する光重合開始剤やモノマーの安全性の問題からも紫外線硬化型システムの使用は制約がある。
【0018】
特許文献3で提案されているインキの場合、インキ硬化皮膜が硬くてもろい紙に代表されるような放射線崩壊型の印刷基材を使用した場合、印刷基材の劣化等、副次的に発生する問題を含めて実用化の障害となっていた。
【0019】
特許文献4、特許文献5、特許文献6及び特許文献7で提案されているインキの場合、これらの提案はいずれも、顔料分散性の改善や基材との密着、接着性の向上のみを目的としているため、本発明のごとく、紫外線照射により皮膜表層部を瞬時に硬化させ、印刷又は塗工直後の積み重ねや二次加工を可能にし、その後、皮膜内部は、酸化重合により自然乾燥させることを第一義的な目的とした方法とは異なる。
【0020】
特許文献8で提案されている、酸素の存在下で酸化重合型インキに電子線を照射し、分子内の二重結合を活性化するとともに発生するオゾンによって相乗的にインキを乾燥させる方法では、発生したオゾンが基材の表面にダメージを与え、照射装置内部がオゾンに対する耐腐食性の仕様である必要があるとともに、発生するオゾンを安全に処理する必要がある。
【0021】
また、通常の印刷物では、乾燥させたい画線面積は少ないが、画線部分のみに選択的に電子線を照射することは困難であるため、乾燥させるためには印刷基材全体に電子線を照射することとなる。しかし、印刷基材が紙の場合、紙を構成しているセルロースは、放射線分解型の天然高分子であるため、100kVよりも高エネルギーの電子線を照射することで紙が劣化し、更に耐折強度や引裂き強度などの諸強度が低下する。
【0022】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、具体的には、エネルギーの低い加速電圧30kV〜80kVの超低エネルギーレベルの電子線を使用して硬化させる「超低エネルギー電子線硬化組成物」と、酸素で乾燥させる「酸化重合組成物」とを含有する酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキを使用した厚膜印刷物の作製方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の厚膜印刷物の作製方法は、基材上の少なくとも一部に、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキによって所定の模様を印刷し、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキが印刷された被印刷物上に、超低エネルギー電子線を照射することで、インキ皮膜表層部から内部にかけて硬化させ、次いで、被印刷体上のインキ皮膜内部を乾燥させることを特徴とする。
【0024】
本発明の膜厚厚印刷物の作製方法は、超低エネルギー電子線における加速電圧が、30kV〜80kVであることを特徴とする。
【0025】
本発明の厚膜印刷物の作製方法は、基材上に印刷されるインキが、超低エネルギー電子線の照射によって硬化する超低エネルギー電子線硬化性組成物と、酸素によって乾燥する酸化重合性組成物を含有することを特徴とする。
【0026】
本発明の厚膜印刷物の作製方法は、基材上に印刷されるインキにおいて、超低エネルギー電子線硬化性組成物と酸化重合性組成物の重量比が、95:5〜30:70の範囲であることを特徴とする。
【0027】
本発明の厚膜印刷物の作製方法により作製された印刷物は、基材上の少なくとも一部に、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキによって厚膜印刷されて成り、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキにおけるインキ皮膜表層部から内部にかけては、超低エネルギー電子線によって硬化されて成り、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキにおけるインキ皮膜内部が酸化重合によって乾燥されて成り、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキにおける皮膜は、インキ皮膜表層部からインキ皮膜内部にわたって、連続的に橋かけ密度が低下した皮膜であることを特徴とする。
【0028】
本発明の厚膜印刷物は、超低エネルギー電子線は、加速電圧30kV〜80kVであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
照射する電子線の加速電圧が30kVから80kV以下の超低エネルギーであるため、それよりも加速電圧の高い電子線を照射した場合と比較すると、被照射物(印刷基材)における耐折強度の低下を抑えつつ、インキ皮膜表面を瞬時に硬化させることができる。
【0030】
この電子線照射により皮膜表層部が瞬時に硬化乾燥するため、印刷後直ちに印刷物を積み重ねても裏移りやブロッキングの発生を抑制できる。インキ皮膜内部の未硬化層は、酸化重合により自然乾燥するため、インキ中のワニスの用紙基材内部への浸透成分も乾燥することによって、密着性の発現効果も期待できる。
【0031】
酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキは、電子線硬化性と酸化重合乾燥性の両者の機能を有し、紫外線硬化性と酸化重合性を兼ね備えたインキ系と比較して、はるかに厚い硬化皮膜をインキ表層部から内部にかけて形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、以下に記載する実施するための最良の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲における技術的思想の範囲内であれば、いろいろな形態が実施可能である。
【0033】
本発明の酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキは、電子線硬化性と酸化重合性を有する材料を単独又は混合することによって得られるワニスに、各種顔料、酸化重合触媒、耐摩擦剤、摩耗剤、インキ特性調整用等の添加剤及びその他から成る。
【0034】
高速乾燥性と内部乾燥性を可能にするには、電子線硬化型ビヒクルと酸化重合性ビヒクルをインキ膜厚及び印刷速度等の異なる目的に応じて、バランスよく配合したインキを必要とする。
【0035】
電子線硬化性と酸化重合性を兼ね備えたビヒクルの構成は、共役二重結合を有する乾性油又は半乾性油及び乾性油又は半乾性油を変性したアルキド樹脂、乾性油又は半乾性油変性物にアクリロイル基を導入したアクリル変性アルキド樹脂、アルキド樹脂又は乾性油とアクリレート混合物等があるが、いずれの構成でもよい。
【0036】
電子線硬化性成分としては、(メタ)アクリレートとして、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、(カプロラクトン変性)ジペンタエリスルトールエキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスルトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスルトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、(アルキレンオキサイド変性)トリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1、3−ブチレングルコールジ(メタ)アクリレート、(エチルカルビトール変性)1、6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチルー1、8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1、9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルフォリン等及びこれらを水溶化変性した(メタ)アクリレート等を挙げることができ、これらを数種組み合わせて用いることができる。電子線硬化性を重視する場合は、特にアクリレートの使用が有効である。
【0037】
酸化重合性成分としての共役二重結合を有する乾性油若しくは半乾性油の亜麻仁油、桐油、大豆油、やし油、綿実油等又はこれらを変性したものを用いることができる。
【0038】
特に、彫刻凹版インキのようにワイピングを必要とし、アルカリ水溶液ワイピング方式により版面上の余剰インキを除去する場合、電子線硬化性成分としては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、水溶性エポキシアクリレート、エチルカルビトール変性1、6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン若しくはカルボキシル基を有するか、又はカルボキシル化した(メタ)アクリレート等の使用が有効である。酸化重合成分としては、乾性油変性アルキド樹脂を更にカルボキシル化した樹脂が有効である。
【0039】
インキとしては、前述のビヒクルと着色顔料、体質顔料及び乾燥剤、時に重合禁止(抑制)剤が必要となる。また、ワックス等の添加剤の添加も印刷物の堅牢性を改善する上では効果的となる。なお、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキに使用できる顔料には制限がないため、どのような種類の顔料でも利用できる。
【0040】
顔料は、着色性の有機顔料及び無機顔料、インキ流動特性又は印刷適性調整等の用途である白色無機顔料、隠ぺい性顔料であるチタン、光学機能材料、磁性材料、導電材料等の各種機能性材料等インキの用途に応じてあらゆる材料を使用することができる。
【0041】
本発明に用いるインキは、紫外線乾燥で必要な光重合開始剤が不要であり、酸化重合成分を乾燥せしめる乾燥剤が必要となるだけであるため、放射線重合性成分の重合が起こりにくく、インキが安定しており、保存安定性が良好となる。必要に応じて重合禁止(抑制)剤の添加は、インキの保存安定を更に改善するものである。重合禁止(抑制)剤としては、公知の材料を使用することができ、例えば、p−メトキシフェノール、(アルキル)ハイドロキノン等が挙げられる。
【0042】
その他のワニス構成要素としては、酸化重合触媒であるコバルト、マンガン、鉛、鉄等の金属化合物である硼酸コバルト、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト又は一酸化鉛等が挙げられる。耐摩擦及び摩耗性のためのワックス成分として、パラフィンワックス、エチレン・アクリル酸共重合ワックス、エチレン・酢ビ共重合ワックス、ポリオレフィンワックス、カルナバワックス等で呼称される様々なワックスが異なる性状で使用できる。その他の添加剤として、顔料分散剤、レベリング剤等を添加しても良い。
【0043】
酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型ワニスは、前述の電子線硬化性成分と酸化重合性成分を適切に混合し作製するが、その混合比は、電子線硬化成分99〜20%に対し酸化重合性成分1〜80%とすることが好ましく、より好ましくは、電子線硬化成分90〜30%に対し、酸化重合性成分10〜70%の範囲である。
【0044】
前述のワニス成分と、顔料及び添加剤等を3本ロールミルやビーズミルのような公知の装置及び方法で練合し、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキを作製する。
【0045】
酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキを使用し、印刷機で連続印刷を行う。連続して印刷される印刷物は、印刷後速やかに電子線照射装置内を通し、排紙部にそのまま積載する。このとき照射する電子線は、加速電圧20kV〜300kVの超低加速電圧から低加速電圧であることが好ましい。印刷基材への電子線照射の影響を考慮すると、照射した電子線が基材に達しない150kVまでの加速電圧にすることが好ましい。さらに望ましくは、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキの特徴を生かし、内部は酸化重合により乾燥させるため表面から数十μm程度に効果的に作用する80kVまでの加速電圧であることが好ましい。電子線照射装置の電子線の取り出し効率も考慮し、30kV〜80kVの加速電圧で加速した電子線を照射することが効果的である。
【0046】
電子線の照射線量は、表面から十数μmの電子線硬化成分の反応性基がほぼすべて反応し、かつ、いくらかの不飽和結合が反応し、分子の主鎖の切断が優位にならない範囲の線量を照射することが好ましい。電子線によるインキの重合性と電力効率を考慮し、10kGy〜100kGyの範囲にすることが、より好ましい。
【0047】
積載された連続印刷物は、酸化重合による内部乾燥を行わせるため、積載状態のまま1日〜数日間静置する。十分に酸化重合による乾燥を行った後、積載した印刷物をさばいても何の抵抗もなく1枚ずつの印刷物として捌くことができる。
【0048】
この時、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化インキにおいては、インキ皮膜表層部から内部にかけて加速電圧30kV〜80kVの超低エネルギー電子線によって橋かけ反応を伴って硬化されて成り、インキ皮膜内部が酸化重合によって乾燥されて成るため、インキ皮膜表層部からインキ皮膜内部にわたって、超低エネルギー電子線の照射効果が傾斜的に発現した皮膜となる。「傾斜的に発現した皮膜」とは、印刷物表層部は橋かけ密度が高く、内部に入るに従って連続的に橋かけ密度が低下した状態により硬化したインキ皮膜のことであり、超低エネルギー電子線を照射した際、印刷物の表層部の線量は高く、内部に入るほど線量は低下しているために、皮膜全体として強じんな性質を生じる現象によって得られた性能を有した皮膜である。
【0049】
これは、電子線照射によりインキ表面が十分な橋かけ密度で重合したことにより、表面タックが残らず高硬度に硬化したことに起因する。よって、上に重なった用紙に「裏移り」を起こすことがない。
【0050】
電子線照射による重合で高い橋かけ密度が得られるため、耐チョーキング等の堅牢性に対しても良い効果が得られる。なお「橋かけ(架橋)反応」とは、様々な高分子に電子線を照射すると、分子内の結合が切れてラジカルが発生し、ここで発生したラジカル同士が反応して高分子材料の分子間で新たな化学結合が起こり、網目状の構造を持つようになる反応のことである。また「橋かけ密度」とは、単位当たりの橋かけの数を表すパラメータである。
【0051】
「裏移り」の発生を抑えることができれば、作業性の向上のみならず、厚膜印刷物の盛り上がりを高く設計することが可能となり、より指感性に優れた厚膜印刷物の大量製造が可能となり、偽造防止効果、意匠性に富んだ付加価値の高い印刷物を得ることができる。
【0052】
また、これにより、印刷作業における作業性の改善、すなわち、印刷機の排紙部における印刷物の取扱いや印刷後の印刷物の移動に対する取扱いの際の制約を大幅に軽減することができる。
【0053】
電子線硬化と酸化重合を併用することで、最も超低エネルギー電子線が強く作用する表面付近は、高い橋かけ密度が得られて強度が高く、内部は、酸化重合により電子線硬化成分と分子量の高い酸化重合成分が自然に内部応力を緩和させながら重合していくため、酸化重合性成分の基材への浸透もあり、基材への密着性及び接着性を持たせることができる。
【実施例1】
【0054】
表1に示した配合例に基づき諸材料を配合し、3本ロールミルを用いて通常の方法で練合して酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキを作製した。練合されたインキは、粘弾性測定装置(HAAKE社製Reostress600型)により粘度及び降伏価を測定した結果、25℃における粘度12.1Pa・s、降伏価957Paであった。ワイピング方式によっても異なるが、インキ粘度が高すぎると彫刻凹版版面上の余剰インキが拭き取りづらくなる。そのような事象が発生した場合には、印刷速度を低下させたり、ワイピングローラの周速比を上げたり、版面温度を上げたりすることで対応することも可能である。
【0055】
【表1】
【0056】
酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキは、凹版印刷適性試験機を使用して、証券印刷用紙に彩紋模様の深度150μmの凹版版面にて印刷を行った。酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキ及び従来型の彫刻凹版インキ(酸化重合型)と比較して、凹版印刷機において、そんしょくなく良好な印刷適性を示した。印刷物に対し、電子線照射装置(ウシオ電機(株)製超小型電子線照射装置Min-EB labo SFY01)を使用して、加速電圧60kVにて40kGy照射した。
【0057】
電子線照射を行った後の印刷物に、印刷していない同じ証券用紙を載せ、印刷適性試験機(熊谷理機工業製)にて、印刷速度0.5m/min.で、1kg、2kg、5kg、10kg、20kg、30kg、40kg及び50kgに設定し、アルミの無地ディスクで荷重を変化させて加圧し、印刷機の排紙部で積載された用紙によって荷重がかかった状態による裏移りの発生状況をシミュレーションし、電子線照射によってインキ表面を硬化したインキ皮膜の耐裏移り性と耐ブロッキング性を評価した。
【0058】
電子線照射を行った後の証券用紙の印刷物では、図1に示したように、5kgまでは印刷後のインキの転移による汚れはまったく認められず、10kg以上の荷重において、ごくわずかなインキの転移が認められたが、50kgでも大きく汚れることはなく、強固な乾燥皮膜が表層部に形成されていることが分かった。
【0059】
すなわち、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキの凹版印刷は、印刷適性試験機(熊谷理機工業製)にて5kgの荷重をゆっくりとした速度で線圧でかけても、インキ皮膜表面は破壊せず、内部の未硬化インキに起因する裏移りも起こらなかった。
【0060】
酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキの凹版印刷は、酸化重合成分の硬化後、表面及び界面物性解析装置(ダイプラ・ウィンテス社製)で深さ方向の硬さを連続的に測定した結果を表2に示す。表面が固く内部が柔らかくなる連続性の物性変化を有しており、強さと柔軟性を兼ね備えた強じんな硬化皮膜が得られていることが確認できた。
【0061】
【表2】
【0062】
酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキの彫刻凹版印刷物は、酸化重合成分の硬化後、強さと柔軟性を兼ね備えた強靭な硬化皮膜が得られ、亀裂、割れ、剥離等を生じることなく、特に問題はなかった。
【0063】
また、電子線硬化された表面は、橋かけ密度が高く、耐薬品性、耐摩擦性、堅牢性等の耐性に優れているとともに、内部にわたって橋かけ密度が連続的に低下するために表面が硬く、内部は、柔軟性を保持した理想的なインキ皮膜物性となっている。
【0064】
また、酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキは、光重合開始剤を必要としないため、光重合開始剤によるインキ保存の不安定性がなく、必要に応じて添加する重合禁止(抑制)剤の量を抑えることができる。
【0065】
また、電子線の透過性は、インキの色に左右されないため、使用可能な着色顔料には特段の制限がないため、どのような種類の顔料でも利用可能である。
【0066】
さらに、本実施例では凹版印刷機を用いたが、浸透しやすい低粘度成分が用紙内部まで浸透する前に乾燥できるため、低粘度成分の裏抜け防止効果が得られることから、ロータリースクリーンのような高速スクリーン印刷にも対応が可能である。
【実施例2】
【0067】
表3に示した配合例に基づき諸材料を配合し、3本ロールミルを用いて通常の方法で練合し、放射線硬化性向上タイプの酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキを作製した。練合されたインキは、粘度及び粘弾性測定装置(HAAKE社製Reostress600型)により、粘度及び降伏価を測定した結果、25℃における粘度が23.4Pa・s、降伏価が535Paであった。
【0068】
【表3】
【0069】
酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキは、凹版印刷適性試験機を使用して、証券印刷用紙に版面深度150μmの凹版版面を用いて印刷を行った。酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキは、従来型の彫刻凹版インキ(酸化重合型)と比較して、凹版印刷機においてそんしょくない良好な印刷適性を示した。印刷物に対し、電子線照射装置(ウシオ電機(株)製超小型電子線照射装置Min-EB labo SFY01)を使用して、加速電圧60kVにて40kgyを照射した。
【0070】
電子線照射を行った後の印刷物に、印刷していない同じ証券用紙を載せて、印刷適性試験機(熊谷理機工業製)で、印刷速度0.5m/min.により、1kg、2kg、5kg、10kg、20kg、30kg、40kg及び50kgに設定してアルミの無地ディスクで荷重を変えて加圧し、印刷機の排紙部で積載された用紙によって荷重がかかった状態による裏移りの発生状況をシミュレーションし、電子線照射によって、インキ表面を硬化したインキ皮膜の耐裏移り性と耐ブロッキング性を評価した。
【0071】
電子線照射を行った後の証券用紙の印刷物では、図2に示したように、5kgまでは印刷後のインキの転移による汚れは認められず、10kg以上の荷重において、ごくわずかなインキの転移が認められたが、50kgでも大きく汚れることはなく、強さと柔軟性を兼ね備えた強固な乾燥皮膜が表層部から内部にわたって形成されていることが分かった。
【0072】
酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキの凹版印刷は、印刷適性試験機(熊谷理機工業製)にて5kgの荷重をゆっくりとした速度で線圧でかけても、インキ皮膜は破壊せず、裏移りも起こらなかった。
【0073】
酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキの凹版印刷物を、酸化重合成分の硬化後、学振型摩擦試験機を用いて、荷重200gとして綿布により往復100回の摩擦試験を行った。その結果、図3に示したように、摩擦布へのインキの転移は認められたものの、画線部に脱落や汚れは認められず、画線状態は良好であり、優れた摩擦堅牢度を有している事が分かった。
【0074】
酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキの凹版印刷物を、酸化重合成分の硬化後、酸、アルカリ及び有機溶剤(アセトン)に5時間浸漬して耐薬品性試験を行った結果(図4に示す)、いずれの薬品においても溶脱や剥離等の変化はなく、耐薬品性が良好であることが確認できた。
【0075】
(比較例1)
表4に示した配合例に基づき諸材料を配合し、3本ロールミルを用いて通常の方法で練合して紫外線硬化及び酸化重合併用彫刻凹版インキを作製した。練合されたインキは、粘度及び粘弾性測定装置(HAAKE社製Reostress600型)により粘度及び降伏価を測定した結果、25℃における粘度が1403Pa・s、降伏価が1105Paであった。
【0076】
【表4】
【0077】
紫外線硬化及び酸化重合併用型凹版インキは、凹版印刷適性試験機を用いて、証券印刷用紙に凹版版面深度150μmの版面により印刷を行った。印刷物は、紫外線照射装置(日本電池(株)製コンベヤUV照射装置)にて、空冷式120W/cm、メタルハライドランプで80mJ/m2照射した。
【0078】
紫外線照射を行った後の用紙に印刷していない同じ証券用紙を載せて、印刷適性試験機(熊谷理機工業製)にて、印刷速度0.5m/min.で1kg、2kg及び5kgに設定してアルミの無地ディスクで荷重を変えて加圧し、印刷機の排紙部で積載された用紙によって荷重がかかった状態による裏移りの発生状況をシミュレーションし、紫外線照射によってインキ表面を硬化したインキ皮膜の耐裏移り性と耐ブロッキング性を評価した。
【0079】
紫外線照射を行った後の証券用紙の印刷物では、図5に示したように、1kgの荷重でも印刷後のインキの転移が画線全体に認められて、強固な乾燥皮膜が表面に得られていないことが分かった。
【0080】
紫外線硬化及び酸化重合型凹版インキの凹版印刷について、酸化重合成分の硬化後、表面及び界面物性解析装置(ダイプラ・ウィンテス社製)により、深さ方向の硬さの変化を連続的に測定した結果を表5に示す。表面から内部20μm程度まで、比較的変化がない物性を有していることが確認できた。
【0081】
【表5】
【0082】
(比較例2)
表6に示した配合例に基づき諸材料を配合し、3本ロールミルを用いて通常の方法で練合して紫外線硬化性向上タイプの紫外線硬化及び酸化重合併用彫刻凹版インキを作製した。練合されたインキは、粘度及び粘弾性測定装置(HAAKE社製Reostress600型)により粘度及び降伏価を測定した結果、25℃における粘度が21.11Pa・s、降伏価が1146Paであった。
【0083】
【表6】
【0084】
紫外線硬化及び酸化重合併用型凹版インキは、凹版印刷適性試験機を用いて、証券印刷用紙に凹版版面深度150μmの版面により印刷を行った。印刷物は、紫外線照射装置(日本電池(株)製コンベヤUV照射装置)にて、空冷式120W/cm、メタルハライドランプで80mJ/m2照射した。
【0085】
紫外線照射を行った後の用紙に印刷していない同じ証券用紙を載せて、印刷適性試験機(熊谷理機工業製)にて、印刷速度0.5m/min.で1kg、2kg及び5kgに設定してアルミの無地ディスクで荷重を変えて加圧し、印刷機の排紙部で積載された用紙によって荷重がかかった状態による裏移りの発生状況をシミュレーションし、紫外線照射によってインキ表面を硬化したインキ皮膜の耐裏移り性と耐ブロッキング性を評価した。
【0086】
紫外線硬化性を向上させるように配合した紫外線硬化及び酸化重合併用型凹版インキにおいては、比較例1の配合のインキと比較して裏移りが低減しているものの、図6に示したように、1kgの荷重でも印刷後のインキの転移がほぼ画線全体に認められ、十分な表面乾燥性が得られていないことが分かった。
【0087】
紫外線硬化性を向上させるように配合した紫外線硬化及び酸化重合併用型凹版インキの凹版印刷物を、酸化重合成分の硬化後、学振型摩擦試験機を用いて荷重200gとして、綿布により往復100回の摩擦試験を行った。その結果、図7に示したように、摩擦布へのインキの転移が認められ、画線部のインキは十分に残存していたものの、摩擦面に汚れが見られ、また、画線表面がうすく削られている様子が観察でき、印刷画線の摩擦堅牢度が劣ることが分かった。
【0088】
紫外線硬化性を向上させるように配合した紫外線硬化及び酸化重合併用型凹版インキの凹版印刷物を、酸化重合成分の硬化後、酸、アルカリ及び有機溶剤(アセトン)に5時間浸漬し、耐薬品性試験を行った結果を図8に示す。その結果、酸及びアセトンで溶脱や剥離等の変化はなく、耐薬品性が良好であったが、アルカリ浸漬によって全体に軽く変色し画線部の光沢がなくなった。
【0089】
次に、低エネルギー電子線照射装置と超低エネルギー電子線とが被照射物(印刷基材)に与える影響の違いについて調査するため、用紙に照射した場合の劣化挙動の一例として、劣化が顕著に表れる耐折強さについて、JIS P8115に基づいて耐折試験を行った。
【0090】
低エネルギー電子線照射装置を用い、加速電圧を200kVとして深度線量分布を測定した結果と、超低エネルギー電子線照射装置を用い、加速電圧を40〜60kVとして深度線量分布を測定した結果を図9に示す。
【0091】
図9において、x軸は、比重1の物質における電子線到達深度に相当する。図9(a)の加速電圧200kVでは、比重1の物質で400μm程度まで達している。照射される物質の比重によって異なるが、印刷インキの膜厚では完全に透過し、内部まで硬化させることができる。凹版印刷を含め、製品に使用されているほとんどのインキは、膜厚が50μm以下であり、画線部に照射された電子線のうち硬化に寄与する電子線はわずかで、ほとんどが透過する。印刷やコーティングの膜厚に対しては、低エネルギーの分類に入る200kVでも過剰であることが容易に理解できる。
【0092】
一方、(b)加速電圧が40〜60kVでは、60kVの場合に比重1の物質で40数μmまで、50kVでは30数μmまでであり、50μmまでにすべて吸収されている。40及び50kVでは、10μmまでに80%以上のエネルギーが使われている。印刷インキ程度の膜厚に対し、効率よく作用させることができる。
【0093】
この線量の減衰状態から、印刷インキ程度の膜厚において、表面は、線量が高いために樹脂の橋かけ密度が高く強度の高い皮膜になり、内部は、橋かけが緩くなることで柔軟性や接着性を兼ね備えた適度な傾斜効果を持たせることができると予想された。また、紙への印刷においては、用紙上のインキ皮膜は数μmでも内部に浸透したインキ成分も存在する。40〜60kVの電子線の透過力で、オフセット、凸版、フレキソ及びスクリーン(厚膜すぎない場合)印刷の膜厚においては、浸透したインキ成分まで硬化することができる。
【0094】
電子線のエネルギーが被照射物に与える影響の違いを見るために、縦目のNPi上質紙に対し、MIT耐折試験を行った結果を図10に示す。
【0095】
図10のグラフから、加速電圧が200kVと比較して50kVの方が照射した線量に対して耐折回数の減少が少ない、すなわち、劣化が抑えられていることが分かる。特に、照射する線量が大きいほど差が顕著になっている。これは、電子線の透過性によるもので、透過力の低い50kVでは照射量が多くなってもほとんどが表面付近で作用するため、用紙全体の劣化とならないためであると思われる。印刷していない白紙用紙の結果であるが、印刷を施した用紙の場合、若干でも用紙上に付与されたインキによる吸収によって劣化が抑えられると予想される。
【0096】
印刷物に電子線照射した場合の概念図を図11(a)及び(b)に示す。図9(a)の深度線量分布のデータからも分かるように、図11(a)に示した加速電圧が200kVの場合、透過力が高いためインキ層及び基材全体にわたって電子線が作用し、「×」印で示したように基材へのダメージがある。また、図9(a)のカーブから、相対線量は、表面よりも数十ミクロン内部に入ったところで最大値を示していることが分かる。印刷物について考えると、インキ層部分よりも、その下の基材で強く作用することになる。
【0097】
一方、図11(b)に示した加速電圧が40〜60kVの場合、透過力が小さいため、電子線は、50μm以内で吸収されている。インキ層に効率よく作用し、基材の途中で電子線は止まる。よって、基材の劣化が抑えられている。これは、従来型の電子線装置で問題とされていた、基材劣化を少なく抑えられることを示す一つの結果となっている。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキを使用した凹版印刷物の印刷直後に荷重がかかった状態をシミュレーションした評価方法における、インキ皮膜の耐裏移り性と耐ブロッキング性を示す図である。
【図2】電子線硬化性をより向上させるよう配合した酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキを使用した凹版印刷物の印刷直後に荷重がかかった状態をシミュレーションした評価方法における、インキ皮膜の耐裏移り性と耐ブロッキング性を示す図である。
【図3】電子線硬化性をより向上させるよう配合した酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキを使用した凹版印刷物の耐摩擦試験結果を示す図である。
【図4】電子線硬化性をより向上させるよう配合した酸化重合併用超低エネルギー電子線硬化型インキを使用した凹版印刷物の耐薬品性試験結果を示す。
【図5】紫外線硬化及び酸化重合併用彫刻凹版インキを使用した凹版印刷物の印刷直後に荷重がかかった状態をシミュレーションした評価方法における、インキ皮膜の耐裏移り性と耐ブロッキング性を示す。
【図6】紫外線硬化性をより向上させるよう配合した紫外線硬化及び酸化重合併用彫刻凹版インキを使用した凹版印刷物の印刷直後に荷重がかかった状態をシミュレーションした評価方法における、インキ皮膜の耐裏移り性と耐ブロッキング性を示す。
【図7】紫外線硬化性をより向上させるよう配合した紫外線硬化及び酸化重合併用彫刻凹版インキを使用した凹版印刷物の耐摩擦試験結果を示す。
【図8】紫外線硬化性をより向上させるよう配合した紫外線硬化及び酸化重合併用彫刻凹版インキを使用した凹版印刷物の、耐薬品性試験結果を示す。
【図9】(a)は、低エネルギー電子線照射装置で加速電圧を200kVとして深度線量分布を測定した結果を示し、(b)は、超低エネルギー電子線照射装置で加速電圧40〜60kVとして深度線量分布を測定した結果を示す。
【図10】低エネルギー電子線により照射した場合と、超低エネルギー電子線により照射した場合の被照射物における耐折試験結果を示す。
【図11】(a)は、低エネルギー電子線照射における被照射物への影響の概念図を示し、(b)は、超低エネルギー電子線照射における被照射物への影響の概念図を示す。
【符号の説明】
【0099】
1 印刷画線部
2 加圧により逆転移したインキ
3 摩擦試験により摩擦布に転移したインキ
4 耐薬品性試験における未試験部
5 耐薬品性試験におけるアルカリ性液浸漬部
6 耐薬品性試験における酸性液浸漬部
7 耐薬品性試験におけるアセトン浸漬部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線硬化性組成物と酸化重合性組成物を含有したインキを用いた印刷物の作製方法であって、
基材上に前記インキを用いて所定の模様を印刷し、
前記インキが印刷された被印刷物上に、超低エネルギー電子線を照射することで、前記インキのインキ皮膜表層部から内部にかけて硬化させ、次いで、インキ皮膜内部を乾燥させることを特徴とする厚膜印刷物の作製方法。
【請求項2】
前記超低エネルギー電子線における加速電圧が、30kV〜80kVであることを特徴とする請求項1記載の厚膜印刷物の作製方法。
【請求項3】
前記インキは、超低エネルギー電子線の照射によって硬化する超低エネルギー電子線硬化性組成物と、酸素によって乾燥する酸化重合性組成物を含有することを特徴とする請求項1乃至2記載の厚膜印刷物の作製方法。
【請求項4】
前記インキは、超低エネルギー電子線硬化性組成物と酸化重合性組成物の重量比が、95:5から30:70までの範囲であることを特徴とする請求項1乃至3記載の厚膜印刷物の作製方法。
【請求項1】
電子線硬化性組成物と酸化重合性組成物を含有したインキを用いた印刷物の作製方法であって、
基材上に前記インキを用いて所定の模様を印刷し、
前記インキが印刷された被印刷物上に、超低エネルギー電子線を照射することで、前記インキのインキ皮膜表層部から内部にかけて硬化させ、次いで、インキ皮膜内部を乾燥させることを特徴とする厚膜印刷物の作製方法。
【請求項2】
前記超低エネルギー電子線における加速電圧が、30kV〜80kVであることを特徴とする請求項1記載の厚膜印刷物の作製方法。
【請求項3】
前記インキは、超低エネルギー電子線の照射によって硬化する超低エネルギー電子線硬化性組成物と、酸素によって乾燥する酸化重合性組成物を含有することを特徴とする請求項1乃至2記載の厚膜印刷物の作製方法。
【請求項4】
前記インキは、超低エネルギー電子線硬化性組成物と酸化重合性組成物の重量比が、95:5から30:70までの範囲であることを特徴とする請求項1乃至3記載の厚膜印刷物の作製方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−119678(P2009−119678A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295147(P2007−295147)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】
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