説明

原動機を備えた車両用の空調装置

【課題】原動機を備えた車両用の空調装置を改良すること。
【解決手段】冷媒循環路10を有し、冷媒がこの冷媒循環路内を圧縮機14により圧送されて流通する、原動機を備えた車両用の空調装置5において、前記冷媒循環路内に前記冷媒を気化させるエバポレータ11を設け、該エバポレータ11を通過した低温空気22の温度TLV、前記圧縮機14の冷媒流通方向15,16,17,18手前における冷媒圧力pND、及び前記圧縮機14の圧縮行程を調整するための制御入力信号IKの少なくとも何れか2つに基づいて、前記圧縮機14を駆動するに必要な駆動トルクMKを算出するトルク演算装置31を備える構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
冷媒循環路を有し、冷媒がこの冷媒循環路内を圧縮機により圧送されて流通する、原動機を備えた車両用の空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような空調装置は非特許文献1に開示されており、この空調装置においては、希望する車内温度、風量及び風量配分の自動調節をする、プログラム選択可能な自動制御を用いることが記載されている。
【0003】
ところが、上記車内温度、風量及び風量配分は互いに関連しており、それぞれ自由に変更することができない。
【0004】
そして、この空調装置に設けられた電子制御装置は、主要な入力量、外乱量及び乗員により設定される設定温度から目標温度を決定するとともに、この目標温度と実際の(現在の)温度の偏差に応じた暖房制御、冷房制御及び風量制御を行い、更に、乗員が選択したプログラムに基づき、風量配分のためのフラップ制御も行う。
【0005】
即ち、全ての制御回路において、乗員が入力量を設定し、目標量はフィードバック制御により達成される。ここで、風量の調節は、ブロワを段階的又は無段階に調節することにより目標量に到達するように行われている。
【0006】
ところで、一般に、制御は実際の測定値を操作することなく行われているが、車速が大きくなると、これに伴う圧力により風量も大きくなるため十分な制御を行うことができない。これに関し、増大する車速に応じて先ずブロワ回転数をゼロになるまで低下させ、更に車速が上昇し、圧力が高まるようであれば、スロットルバルブにより流量を制限することが考えられる。
【非特許文献1】Bosch「Kraftfahrtechnisches Taschenbuch」,23.Auflage,Vieweg,1999,ISBN 3-528-03876-4,p.778, 779
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的とする処は、原動機を備えた車両用の空調装置を改良することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明によれば、冷媒循環路を有し、冷媒がこの冷媒循環路内を圧縮機により圧送されて流通する、原動機を備えた車両用の空調装置において、前記冷媒循環路内に前記冷媒を気化させるエバポレータを設け、該エバポレータを通過した低温空気の温度、前記圧縮機の冷媒流通方向手前(例えば直前)における冷媒圧力、及び/又は前記圧縮機の圧縮行程を調整するための制御入力信号に基づいて、前記圧縮機を駆動するに必要な駆動トルクを算出するトルク演算装置を備える構成としたことを特徴としている。
【0009】
ここで、本発明において、圧縮機の冷媒流通方向手前における冷媒圧力とは、特に冷媒循環路におけるエバポレータと圧縮機の間の冷媒圧力を意味する。又、本発明において冷媒循環路に設けられて冷媒を気化するエバポレータを通過する空気は、特にエバポレータの冷却用フィン設備を通過するものである。更に、本発明において、圧縮機を駆動するに必要な駆動トルクとは、特に、圧縮機を目標回転数又は実際の回転数で駆動するのに必要なトルクである。
【0010】
又、本発明の一実施の形態によれば、制御入力信号は電流であり、冷媒はR134a、R152a又は炭酸ガスである。
【0011】
更に、本発明の一実施の形態によれば、トルク演算装置を、圧縮機の冷媒流通方向後方における冷媒圧力に基づいて駆動トルクを算出するよう設定している。ここで、圧縮機の冷媒流通方向後方における冷媒圧力とは、特に冷媒循環路における圧縮機とエバポレータの間での冷媒圧力であって、特に圧縮機とエバポレータの間に設けた弁における冷媒圧力である。
【0012】
又、本発明の一実施の形態によれば、トルク演算装置を、圧縮機の回転数に基づいて駆動トルクを算出するよう設定している。
【0013】
而して、上記目的は、更に、冷媒循環路を有し、冷媒がこの冷媒循環路内を圧縮機により圧送されて流通する空調装置を有する、原動機を備えた車両において、前記冷媒循環路内に前記冷媒を気化させるエバポレータを設け、該エバポレータを通過した低温空気の温度、前記圧縮機の冷媒流通方向手前(例えば直前)における冷媒圧力、及び/又は前記圧縮機の圧縮行程を調整するための制御入力信号に基づいて、前記圧縮機を駆動するに必要な駆動トルクを算出するトルク演算装置を備える構成としたことで達成される。
【0014】
又、本発明の一実施の形態によれば、上記車両は、当該車両及び圧縮機を原動機で駆動するとともに、トルク演算装置により算出された駆動トルクに基づき原動機を制御する駆動制御装置を設けたことを特徴としている。ここで、原動機とは、例えば内燃エンジン、モータ、或いはハイブリッドエンジンであり、駆動制御装置とは、例えばエンジン制御装置である。
【0015】
更に、上記目的は、冷媒循環路を有し、特にR134a、R152a又は炭酸ガスである冷媒がこの冷媒循環路内を圧縮機により圧送されて流通する、原動機を備えた車両用の空調装置の作動方法であって、冷媒循環路内に冷媒を気化させるエバポレータを設け、エバポレータを通過した低温空気の温度、圧縮機の冷媒流通方向手前(例えば直前)における冷媒圧力、及び/又は圧縮機の圧縮行程を調整するための制御入力信号に基づいて、圧縮機を駆動するに必要な駆動トルクを算出することを特徴とする空調装置の作動方法によっても達成される。
【0016】
又、本発明の一実施の形態によれば、トルク演算装置を、圧縮機の冷媒流通方向後方における冷媒圧力に基づいて駆動トルクを算出するよう設定している。
【0017】
更に、本発明の一実施の形態によれば、トルク演算装置を、圧縮機の回転数に基づいて駆動トルクを算出するよう設定している。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、原動機を備えた車両用の空調装置を改良することができる。その他の効果は以下の実施の形態の説明において説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は原動機を備えた車両1の概略構成図であり、この車両1は、内燃エンジン2と、該内燃エンジン2を制御するエンジン制御装置3と、空調装置5とを備えて構成されている。
【0021】
空調装置5は冷媒循環路10を含んで構成されており、R134a、R152a、炭酸ガス等の冷媒が圧縮機14で圧送されてこの冷媒循環路10内を流通している。尚、圧縮機14は内燃エンジン2により駆動されており、その回転数nKは内燃エンジン2の回転数に比例する。ここで、冷媒循環路10内を流通する冷媒の体積流量は圧縮機14の圧縮行程を調整することにより調整することが可能であり、この圧縮行程については、圧縮機電流IKを制御入力信号とすることにより制御することができる。
【0022】
又、冷媒循環路10内には冷媒を蒸発(気化)させるエバポレータ11が設けられており、空気23がこのエバポレータ11に設けられた冷却用のフィン(不図示)を通過し低温空気22が排気される。
【0023】
ところで、矢印15,16,17,18で示す方向は冷媒の流通方向であり、この流通方向に見たエバポレータ11の手前(以下、「手前」或いは「後方」とは、冷媒流通方向に関するものとする。)にはサーモスタット式の膨張弁21が設けられており、該膨張弁21は、エバポレータ11の後方に配置された冷媒温度センサ25で計測される冷媒温度TVに応じて制御される。
【0024】
又、圧縮機14の後方には凝縮器12が設けられており、ここで冷媒が液化される。更に、凝縮器12の後方には冷媒回収器20が設けられており、ここに冷媒が貯留される。
【0025】
而して、空調装置5は空調制御装置30を備えており、該空調制御装置30は、圧縮機電流IKを出力して圧縮機14を制御する。空調制御装置30への入力量は、
−圧縮機14の後方、特に凝縮器12或いは冷媒回収器20の後方(即ち、エバポレータ11或いは膨張弁21の手前)において圧力センサ34で計測される冷媒圧力pHD
−空調制御装置30がエンジン制御装置3から供給される、圧縮機14の回転数nK
−温度センサ33で計測される、低温空気22の温度TLV、及び
−圧縮機14の手前、特にエバポレータ11の後方において圧力センサ32で計測される冷媒圧力pND
である。
【0026】
又、空調制御装置30は図1及び図2に示すトルク演算装置31を備えており、該トルク演算装置31は、
−圧縮機14の後方、特に凝縮器12或いは冷媒回収器20の後方(即ち、エバポレータ11或いは膨張弁21の手前)における冷媒圧力pHD
−圧縮機14の回転数nK
−低温空気22の温度TLV
−圧縮機14の手前、特にエバポレータ11の後方における冷媒圧力pND、及び
−圧縮機電流IK
に基づいて、圧縮機14を駆動するに必要な駆動トルクMKを算出する。
【0027】
ところで、このトルク演算装置31には多次元の表、又はニューロン状の回路網を備えさせることができ、本実施の形態においては、以下の表1に示すような表が備えられている。そして、この表1には、圧縮機14の後方、特に凝縮器12或いは冷媒回収器20の後方(即ち、エバポレータ11或いは膨張弁21の手前)における冷媒圧力pHD及び圧縮機14の回転数nKに応じた前記駆動トルクMKが入力される。
【0028】
ここで、例えば冷媒圧力pHDが20bar、圧縮機14の回転数nKが1000min-1(rpm)であれば、前記駆動トルクMKは20Nmとなる。そして、トルク演算装置31は表1のような表を複数備えており、その入力値は、
−低温空気22の温度TLV
−圧縮機14の手前、特にエバポレータ11の後方における冷媒圧力pND、及び/又は
−圧縮機電流IK
に応じたものとなる。
【0029】
尚、表1は、本実施の形態においてIK=0.7A、TLV=3℃、pND=3barである場合の一例である。
【0030】
【表1】

更に、前記駆動トルクMKを、トルク演算装置31により
−圧縮機14の後方、特に凝縮器12或いは冷媒回収器20の後方(即ち、エバポレータ11或いは膨張弁21の手前)における冷媒圧力pHD及び
−圧縮機14の回転数nK
並びに
−低温空気22の温度TLV
−圧縮機14の手前、特にエバポレータ11の後方における冷媒圧力pND
−圧縮機電流IK
のうち1つ又は2つに基づいて決定するように設定することもできる。
【0031】
図3は空調制御装置30内で実行される空調装置5の駆動方法を示しており、ステップ40では、圧縮機電流IKの実際の値が算出され、この値が圧縮機14に入力される。
【0032】
又、ステップ41では圧縮機14を駆動するに必要な駆動トルクMKをトルク演算装置31により算出し、更に、ステップ42ではこの駆動トルクMKが空調制御装置3に入力される。
【0033】
尚、図中に示した各要素は、本実施の形態の理解が容易となるよう簡単化するために縮尺通りには記載されておらず、例えば一部の要素は他の要素に比して誇張されて記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】内燃エンジン及び空調装置を備えた車両の概略構成図である。
【図2】圧縮機を駆動するに必要な駆動トルクを算出する駆動トルク演算装置を示す図である。
【図3】本発明による空調装置の駆動方法を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 車両
2 内燃エンジン
3 エンジン制御装置
5 空調装置
10 冷媒循環路
11 エバポレータ
12 凝縮器
14 圧縮機
15,16,17,18 冷媒循環方向
20 冷媒回収器
21 膨張弁
22 低温空気
23 空気
25 冷媒温度センサ
30 空調制御装置
31 トルク演算装置
32,34 圧力センサ
33 温度センサ
40,41,42 ステップ
K 圧縮機電流
K 駆動トルク
K 回転数
HD,pND 冷媒圧力
LV 低温空気温度
V 冷媒温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒循環路(10)を有し、冷媒がこの冷媒循環路内を圧縮機(14)により圧送されて流通する、原動機を備えた車両用の空調装置(5)において、
前記冷媒循環路内に前記冷媒を気化させるエバポレータ(11)を設け、
−該エバポレータ(11)を通過した低温空気(22)の温度(TLV)、
−前記圧縮機(14)の冷媒流通方向(15,16,17,18)手前における冷媒圧力(pND)、又は
−前記圧縮機(14)の圧縮行程を調整するための制御入力信号(IK
に基づいて、前記圧縮機(14)を駆動するに必要な駆動トルク(MK)を算出するトルク演算装置(31)を備える構成としたことを特徴とする空調装置。
【請求項2】
前記トルク演算装置(31)を、前記温度(TLV)と、前記冷媒圧力(pND)とに基づいて駆動トルク(MK)を算出するよう設定したことを特徴とする請求項1記載の空調装置。
【請求項3】
前記トルク演算装置(31)を、前記温度(TLV)と、前記制御入力信号(IK)とに基づいて駆動トルク(MK)を算出するよう設定したことを特徴とする請求項1記載の空調装置。
【請求項4】
前記トルク演算装置(31)を、前記冷媒圧力(pND)と、前記制御入力信号(IK)とに基づいて駆動トルク(MK)を算出するよう設定したことを特徴とする請求項1記載の空調装置。
【請求項5】
前記トルク演算装置(31)を、前記温度(TLV)と、前記冷媒圧力(pND)と、前記制御入力信号(IK)とに基づいて駆動トルク(MK)を算出するよう設定したことを特徴とする請求項1記載の空調装置。
【請求項6】
前記冷媒をR134a又はR152aとしたことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の空調装置。
【請求項7】
前記冷媒を炭酸ガスとしたことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の空調装置。
【請求項8】
前記トルク演算装置(31)を、前記圧縮機(14)の冷媒流通方向後方における冷媒圧力(pHD)に基づいて駆動トルク(MK)を算出するよう設定したことを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の空調装置。
【請求項9】
前記トルク演算装置(31)を、前記圧縮機(14)の回転数(nK)に基づいて駆動トルク(MK)を算出するよう設定したことを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の空調装置。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載の空調装置を備える構成としたことを特徴とする、原動機を備えた車両。
【請求項11】
当該車両(1)及び前記圧縮機(14)を前記原動機(2)で駆動するとともに、前記トルク演算装置(31)により算出された駆動トルク(MK)に基づき前記原動機(2)を制御する駆動制御装置(3)を設けたことを特徴とする請求項10記載の車両。
【請求項12】
冷媒循環路(10)を有し、冷媒がこの冷媒循環路内を圧縮機(14)により圧送されて流通する、原動機を備えた車両用の空調装置(5)の作動方法において、
前記冷媒循環路内に前記冷媒を気化させるエバポレータ(11)を設け、
−該エバポレータ(11)を通過した低温空気(22)の温度(TLV)、
−前記圧縮機(14)の冷媒流通方向(15,16,17,18)手前における冷媒圧力(pND)、又は
−前記圧縮機(14)の圧縮行程を調整するための制御入力信号(IK
に基づいて、前記圧縮機(14)を駆動するに必要な駆動トルク(MK)を算出することを特徴とする空調装置の作動方法。
【請求項13】
前記駆動トルク(MK)を前記圧縮機(14)の冷媒流通方向後方における冷媒圧力(pHD)に基づいて算出することを特徴とする請求項12記載の空調装置の作動方法。
【請求項14】
前記駆動トルク(MK)を前記圧縮機(14)の回転数(nK)に基づいて算出することを特徴とする請求項12又は13記載の空調装置の作動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−521668(P2008−521668A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−541712(P2007−541712)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【国際出願番号】PCT/EP2005/010530
【国際公開番号】WO2006/056260
【国際公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(591037096)フオルクスワーゲン・アクチエンゲゼルシヤフト (56)
【氏名又は名称原語表記】VOLKSWAGEN AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】