説明

原子炉機器およびその表面改質方法

【課題】被施工材にSCC発生防止の材質因子と応力因子を同時に改善し、SCC損傷形態の発生を未然にかつ確実に防止した原子炉機器およびその表面改質方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る原子炉機器は、原子炉内構造物、配管等の被施工材の材料表面部に、圧縮応力付与の圧縮応力層を兼ねた高耐食層を高温高圧流体環境中で実現した表面改質層を構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントを構成する被施工材の表面改質技術に係り、特に被施工材に表面改質プロセスを施した原子炉機器およびその表面改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントを構成する商用軽水炉として多数の沸騰水型原子炉(BWR)や加圧水型原子炉(PWR)が国内外で稼動中であり、原子力発電プラントの主要機器はいずれも高温高圧水という過酷な腐食環境下に晒されている。中でも原子炉内構造物は高温高圧水中の腐食環境に長時間晒されており、引張応力が残留する炉内構造物の溶接部あるいは機械加工を受けた部材に応力腐食割れ(SCC)と呼ばれる損傷が発生することが知られている。
【0003】
このSCC損傷防止対策として耐SCC性の高い金属や合金材料の採用、水質制御あるいは残留応力改善によりSCCの発生を未然に防止する対策が行なわれている。特に、SCC発生の主要因である引張残留応力を塑性変形させて圧縮応力に変換させることにより、SCCの発生を抑制する応力改善プロセスが開発され、ピーニング処理技術として実用化されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、原子力分野に限らず、腐食環境下で使用される機器や部品の信頼性を向上させ、寿命延長を図る目的で、使用機器や部品の表面に高耐食性を有する表面層を形成する表面改質技術が出願されている(特許文献2参照)。
【0005】
さらに、自動車などの輸送機器や回転機器に使用の摺動性部品に、レーザピーニングによる表面改質技術を適用し、部品表面の硬度あるいは潤滑性を改善する手法が出願されている。
【特許文献1】米国特許第6993948(B2)号明細書
【特許文献2】特開平10−30190号公報
【特許文献3】特開2000−34581号公報
【特許文献4】特開2006−320907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
原子力発電プラントのうち、特に運転開始から長期間経過した高経年化プラントでは、応力腐食割れ(SCC)という、残留応力、腐食性環境、材質劣化の3因子が重畳して発生する損傷形態の事例報告が生じている。残留応力因子は主に構造物溶接部に発生する引張残留応力であり、環境因子としてはBWRの場合、溶存酸素、各種不純物、PWRにおいては温度、特定濃度範囲の水素がその要因として挙げられる。また、材質面(材質劣化因子)では粒界近傍のクロム濃度の低下が一因と言われている。
【0007】
SCC発生防止対策としてBWR、PWRとも各種対策工法が開発され実機に適用されている。残留応力因子を抑制する立場からはピーニングプロセスがBWR、PWRの両原子力プラントで適用されている。古くはPWRの蒸気発生器(SG)のSCC対策としてショットピーニング(SP)が適用され、その効果が実証されている。
【0008】
原子力発電プラントにおいては、BWR、PWRの炉内機器の残留応力改善技術としては遠隔施工性に優れたレーザピーニング(LP)やウォータジェットピーニング(WJP)が実用化されている。
【0009】
また、環境因子抑制の点からは、BWRプラントにおける水素注入による溶存酸素濃度の低減、PWRプラントにおけるノーブルメタル注入技術が適用され、その効果が実証されつつある。
【0010】
さらに、金属や合金材料の材質面の改善として、従来の材料に比較して高クロム化を計ったニッケル基溶接金属の適用、あるいは高クロムニッケル基合金が開発されPWRの取替え機器などに適用されている。
【0011】
しかしながら、従来のSCC発生防止対策は、いずれの工法もSCC発生防止要因のうちの1因子のみを改善するものである。原子炉機器によっては製造履歴により不可避的に形成される機械加工層、運転中の熱、外部負荷履歴などの影響が重なることによりSCC発生が誘発される懸念もある。
【0012】
したがって、SCC発生防止対策を複数の発生因子を同時に低コストで改善できる表面改質プロセスが開発されれば、より確実なSCC発生防止対策が可能となり、原子炉機器の信頼性向上につながり、延いては安全・安心でより信頼性の高い原子力発電プラントの実現に貢献することができる。
【0013】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、被施工材にSCC発生防止対策を材質因子と応力因子を同時に改善し、SCCの損傷形態の発生を未然かつ確実に防止し、信頼性の高い原子炉機器およびその表面改質方法を提供することを目的とする。
【0014】
本発明の他の目的は、軽水炉の商用原子炉のみならず、高速増殖炉(FBR)の原子炉機器全般の被施工材を対象機器とし、高経年化プラントの予防保全に適用可能な原子炉機器およびその表面改質方法を提供するにある。
【0015】
本発明の別の目的は、プラント建設時の被施工材の溶接部や機器溶接部の表面改質技術に適用して、機器全体の信頼性を向上させ、被施工材に高価な改善材料を用いることなく、製造コストの低減を図ることができる原子炉機器およびその表面改質方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る原子炉機器は、上述した課題を解決するために、原子炉内構造物、配管等の被施工材の材料表面部に、圧縮応力付与の圧縮応力層を兼ねた高耐食層を高温高圧流体環境中で実現した表面改質層を構成したものである。
【0017】
また、本発明に係る原子炉機器の表面改質方法は、原子炉機器等の被施工材の材料表面に、圧縮応力を付与した圧縮応力層を兼ねた高耐食層を高温高圧水環境中で実現する表面改質層を形成する方法である。
【0018】
ここにおいて、原子炉機器は、商用軽水炉としてのBWR,PWRのみならず、FBRの原子炉機器全般が対象機器である。被施工材は、原子炉機器だけでなく、炉内構造物、炉内機器、配管や部品の高温高圧流体(水、蒸気)中に露出したり、高温高圧流体を通す部材が対象となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る原子炉機器およびその表面改質方法では、被施工材にSCC発生を構成する材質因子と応力因子を同時に改善する表面改質層を形成し、SCC損傷形態の発生を未然にかつ確実に防止し、原子炉機器の信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係る原子炉機器およびその表面改質方法の実施形態について添付図面を参照して説明する。
【0021】
[第1の実施形態]
図1は、本発明に係る原子炉機器およびその表面改質方法の第1実施形態を示すものである。この図に示された原子炉機器10は、BWRおよびPWRの原子力発電プラント(原子炉関連施設)に適用されるもので、BWRでは高温高圧流体(水、蒸気)に晒される炉内構造物、炉内機器や高温高圧流体を案内する主蒸気管、復水・給水管等の各種配管、周辺機器に用いられ、また、PWRでは高温高圧流体に晒される炉内構造物、炉内機器や高温高圧水を発生させる加圧器、蒸気発生器、周辺機器、各種配管に適用される。
【0022】
原子炉機器10の炉内構造物や主蒸気管等を構成する原子炉関連施設の被施工材(構造材)11は、高温高圧流体(水、蒸気)という腐食環境に長時間晒される。被施工材11には高温高圧流体に晒される表層部12に表面改質層を構成したものである。被施工材11は、表層部12が母材13から材質因子と応力因子とを改善した表面改質層として得られる。ほぼ層状に区分される。
【0023】
図1は、被施工材11の表面近傍に形成される表面改質層の残留応力分布とクロム(Cr)濃度分布とを断面構造表示で示す模式図である。この原子炉機器10は、高温高圧流体に晒される被施工材11に表面改質プロセスを適用し、被施工材11の表面近傍の表層部12に母材13のクロム濃度α、例えば18wt%より高い濃度の高濃度クロム層が形成され、同時に応力腐食割れ防止に効果的な圧縮応力を付与したものである。圧縮応力が付与された被施工材11を高温高圧流体環境下で高耐食性を付与して高耐食層を表層部12に構成してもよい。
【0024】
図1に示された原子炉機器10でも被施工材11の表層部12に、表面改質層を構成し、この表面改質層は母材13のクロム濃度αより高濃度の高濃度クロム層(高耐食層)を兼ねた圧縮応力層を共通に有する内容としたものである。
【0025】
原子炉機器10の被施工材11に表面改質プロセスを適用してその表層部12に高温高圧流体環境下で高濃度クロムからなる高耐食層と圧縮応力を付与して塑性変形させた圧縮応力層との双方を共通に備えたものである。例えば、被施工材11がSUS304製の炉内構造物である場合、その表面に表面改質プロセスを適用することにより、高温高圧水に晒される高腐食環境においても、従来の表面改質プロセスに比較して耐応力腐食割れ(SCC)性に優れ、信頼性の高い炉内構造物を実現することができる。
【0026】
また、原子炉機器10の被施工材11は、施工条件を制御することにより、被施工材11の表層部12に形成される圧縮応力層の厚さ、表層部12のクロム濃度を制御することができる。被施工材11の母材13のクロム濃度、例えば18wt%より大きな20wt%以上のクロム濃度を含有する表層部12を形成することにより、高耐食性を確保することができる。被施工材11が炉内構造物である場合には、高耐食性を確保して信頼性を向上させることができる。クロム濃度に関しては、SUS鋼のオーステナイト層の安全性の観点から26wt%以下であることが望ましい。
【0027】
さらに、被施工材11の表層部12に形成される高クロム濃度層は、被施工材11である原子炉機器10が高温高圧流体(水、蒸気)中に晒された際に、被施工材11の表面に耐食性の良好な緻密な酸化皮膜を形成し、耐SCC性の大幅な改善が期待できる。
【0028】
耐SCC性の改善効果に関しては、被施工材11の表面に形成される酸化皮膜中にクロム(Cr)に代えて亜鉛(Zn)を取り込むことによっても得られる。被施工材11の表層部12はクロム濃度の代りに亜鉛濃度の高い表層部を高耐食層として構成してもよい。
【0029】
図1に示された原子炉機器10に表面改質プロセスを適用し、被施工材11の材料表面に、圧縮応力を付与した圧縮応力層と高温高圧流体環境中で高耐食性を有する表面改質層を形成し、被施工材11の表層部12に塑性変形させた圧縮応力層と高耐食性の表面改質層としての機能を同時に持たせることで、SCC発生要因を構成する因子のうち、材質因子と応力因子を同時に改善することができ、より安定したSCC発生防止対策を施すことができる。
【0030】
[第2の実施形態]
図2は、原子炉機器の表面改質方法の第2実施形態を示すものである。
【0031】
この実施形態に示された原子炉機器の表面改質方法は、例えば、SUS304鋼からなる被施工材11に、超音波ショットピーニングを適用して、被施工材11の表面近傍に圧縮応力を付与した表面改質を施したものである。図1に示された原子炉機器の構成と同じ構成は同一符号を施して説明する。
【0032】
図2は、被施工材11の表層部12に超音波ショットピーニングを適用した場合における、被施工材11の表面近傍の深さ方向の硬度分布を示す図である。超音波ショットピーニングにより、被施工材11の表面近傍の残留応力改善を施し、表層部12に圧縮応力を付与して塑性変形させ、加工硬化層を形成する。
【0033】
被施工材11の表層部は、ビッカース硬度で300Hvを超える過度の硬度上昇は、亀裂進展速度を加速するなどの悪影響が懸念されるため、ピーニング処理による施工後の硬度上昇はなるべく低く抑え、ビッカース硬度で300Hv未満とすることが望ましい。
【0034】
この原子炉機器の表面改質方法によれば、表面改質プロセスに超音波ピーニングを採用することにより、被施工材11の表層部12に、ビッカース硬度が300Hv以下の表面改質層を形成することにより、表面改質層に過度の硬度上昇を抑えることができ、より信頼性の高い炉内構造物を提供できる。
【0035】
原子炉機器の表面改質方法によれば、表層部の圧縮応力層を超音波ショットピーニングに代えてウォータジェットピーニングやレーザピーニングを施すことによっても、信頼性の高い表面改質層を形成することができ、この表面改質層は、高温高圧流体(水)環境中でクロム濃度や亜鉛濃度をより高い濃度とする表面改質プロセス処理と併用させてもよい。
【0036】
[第3の実施形態]
図3は、原子炉機器の表面改質方法の第3実施形態を示すものである。
【0037】
この実施形態に示された原子炉機器10Aの表面改質方法は、被施工材11の施工部表面に予め高温高圧流体(水、蒸気)中で、高耐食性皮膜を形成する合金組成を得る耐食性改善元素(A)を含有する揮発性溶液を塗布し、塗布層15を形成する。この揮発性溶液を塗布した被施工材11の表面に形成した塗布層15に鋼球等のショット材16を打ち込むショットピーニング処理を施すものである。耐食性改善元素(A)は、例えばクロム(Cr)あるいは亜鉛(Zn)で構成される。
【0038】
被施工材11を高温高圧流体環境下でショットピーニング処理の表面改質プロセスを実施することにより、被施工材11の表面に塗布された塗布層15を構成する耐食性改善元素(A)の一部は、ショットピーニングのエネルギにより被施工材11の表層部12に打ち込まれ、耐食性改善元素(A)の濃度が高い層が形成されると同時に、被施工材11の表層部12に塑性変形による圧縮応力層が形成される。
【0039】
この表面改質プロセスを適用した炉内構造物等の被施工材11が、プロセス処理中に高温高圧流体に晒されることにより、被施工材11の表面に安定した皮膜が形成され、耐SCC発生防止効果を向上させることができる。
【0040】
被施工材11の表層部12に表面改質プロセスを実施するピーニング方法としては、ショットピーニングのほかにレーザピーニング、ウォータジェットピーニング、超音波ショットピーニング、超音波キャビテーションピーニング、超音波を照射しながら部材や棒でたたく超音波ロトピーニングなどいずれの施工方法でも良く、施工環境、施工面積に応じて適宜選択される。
【0041】
そして、被施工材11の表面に耐食性改善元素(A)を有する揮発性溶液を塗布した塗布層15を形成し、この塗布層15上から表面改質処理プロセスにより、ピーニング処理を施すことにより、被施工材11の表層部12に高耐食性層を兼ねる圧縮応力層を改善した表面改質層を形成することができ、SCCの材質因子と応力因子を同時に改善することができる。SCCの発生防止をより効果的に確実に図ることができ、原子炉機器10の信頼性を向上させることができる。
【0042】
[第4の実施形態]
図4は、原子炉機器の表面改質方法の第4実施形態を示すものである。
【0043】
この実施形態に示される原子炉機器10Bの表面改質方法では被施工材11の表面に高温高圧流体(水、蒸気)中で高耐食性皮膜を形成する合金組成を得るクロム(Cr)、亜鉛(Zn)等の耐食性改善元素(A)あるいはこの元素(A)が高濃度で含有する粉末層17を形成する。そして、この粉末層17を表面に形成した被施工材11に、表面改質プロセスを施し、ショットピーニング処理を実施する。
【0044】
被施工材11の表面に形成された粉末の一部はショットピーニングのエネルギにより被施工部に打ち込まれ、耐食性改善元素の濃度を向上させた高濃度層が形成されると同時に、ピーニング材16の噴射による表層部12の塑性変形により圧縮応力層が形成される。
【0045】
被施工材11の表層部12に表面改質プロセスを適用して粉末層17の上方からショットピーニング処理を施し、かつ高温高圧流体で晒すことにより、被施工材11の表面(表層部12)に安定な圧縮応力を付与した高耐食性の皮膜が形成され、耐SCC防止の改善効果を向上させることができる。
【0046】
この場合にも、被施工材11の表層部12に表面改質プロセスを実施するピーニング方法としては、ショットピーニングのほかにレーザピーニング、ウォータジェットピーニング、超音波ショットピーニング、超音波キャビテーションピーニング、超音波ロトピーニングなどいずれの施工方法でも良く、施工環境、施工面積に応じて適宜選択される。
【0047】
[第5の実施形態]
図5は、原子炉機器の表面改質方法の第5実施形態を説明する。
【0048】
この実施形態に示された原子炉機器10Cの表面改質方法では、被施工材11の表面に予め高温高圧流体環境下で高耐食性皮膜を形成する合金組成を得るクロム(Cr)や亜鉛(Zn)等の耐食性改善元素(A)あるいはこの元素(A)が高濃度で含有するフィルム状あるいはシート状の薄膜18を形成する。被施工材11の表面に設けたシート状あるいはフィルム状の薄膜18の上から表面改質プロセスを実施し、ショットピーニング処理を施す。
【0049】
ショットピーニング処理機構により、被施工材11の表面に形成された薄膜18を構成する耐食性改善元素(A)の一部はショットピーニングのエネルギにより被施工部に打ち込まれ、耐食性改善元素(A)の高温度層が表層部12に形成されると同時に、表層部12に圧縮応力を付与して塑性変形された圧力応力層が形成される。
【0050】
表面改質プロセスが適用された被施工材11が高温高圧流体に晒された状態で、炉内構造物を構成する被施工材11の表面に薄膜18の上からショットピーニング処理を施すことにより、安定した耐食性および圧縮応力が付与された皮膜が形成され、耐SCC発生防止の改善効果を高めることができる。
【0051】
被施工材11の表面に表面改質処理を施すピーニング方法としては、ショットピーニングのほかにレーザピーニング、ウォータジェットピーニング、超音波ショットピーニング、超音波キャビテーションピーニング、超音波ロトピーニングなどいずれの施工方法でも良く、施工環境、施工面積に応じて所要のピーニング方法が適宜選択される。
【0052】
[第6の実施形態]
図6は、原子炉機器の表面改質方法の第6実施形態を示すものである。
【0053】
この実施形態に示された原子炉機器10Dの表面改質方法は、超音波ショットピーニングを利用した表面改質方法の例を示す。超音波ショットピーニングに用いられる鋼球からなるショット材20の材質は、被施工材11の表面に高温高圧水中で高耐食性皮膜を形成する合金組成を得るクロム(Cr)、亜鉛(Zn)等の耐食性改善元素(A)あるいはこの元素(A)が高濃度で含有する合金が用いられる。
【0054】
この実施形態では、耐食性改善元素(A)あるいはこの元素(A)が高濃度で含有する合金製のショット材20を用意し、被施工材11の表面に表面改質施工装置21を設置する。表面改質施工装置21は処理ボックス22内に超音波振動子23を取り付けて構成される。
【0055】
図6に示した原子炉機器10Dの表面処理方法では、被施工材11の表面に表面改質施工装置21を設置し、処理ボックス22内のチャンバ24に高温高圧流体(水)中で超音波振動子23に通電して、超音波ショットピーニングを実施する。この超音波ショットピーニングにより、ショット材20が被施工材11の施工面(表面)に移行して打ち込まれ、被施工材11の表面に耐食性改善元素(A)を有する高濃度の表面層が形成されると同時に、被施工材11の表層部12に圧縮応力層が形成される。
【0056】
この実施形態においては、被施工材11の表面改質処理プロセスにより、超音波ショットピーニングを施すことにより、被施工材11の表面に耐食性に富み、圧縮応力が付与されて、塑性変形した表面改質層が形成される。この被施工材11の表層部12に形成される表面改質層は、SCC発生因子を構成する材質因子と応力因子を同時に改善することができる。被施工材11の表面に安定した高耐食層と圧縮応力層を同時に共通して実施できる。
【0057】
この実施形態においては、原子炉機器10Dに表面改質処理プロセスを実施した被施工材11を用いて、この被施工材11を高温高圧流体(水)に晒しても、表面に安定した皮膜が形成されるので、耐SCCの改善効果をより一層高めることができる。ピーニング方法としては、超音波ショットピーニングに代えてショットピーニングでも同様な効果が得られた。
【0058】
[第7の実施形態]
図7は、原子炉機器の表面改質方法の第7実施形態を示すものである。
【0059】
この実施形態に示される原子炉機器10Eの表面改質方法は、超音波ショットピーニングを利用した表面改質方法の例を示すものである。
【0060】
この実施形態では、被施工材11の表面に表面改質施工装置21を設置し、この施工装置21の処理ボックス22内に超音波振動子23を取り付け、この超音波振動子23に通電することにより、鋼球製のショット材16と粉末25を混在させた状態で超音波ショットピーニング処理を施すものである。
【0061】
超音波ショットピーニング処理は、処理ボックス22内の超音波ショットピーニングチャンバ24中に、高温高圧流体中で被施工材11の表面に高耐食性皮膜を形成する合金組成の耐食性改善元素(A)あるいはこの元素(A)が高濃度で含有する粉末を混在させた状態で超音波ショットピーニング施工を実施する。
【0062】
この超音波ショットピーニング施工中に、粉末を構成する表面改善元素(A)が被施工材11の表面(被施工面)に移行し、被施工材11の表面に表面改質元素(A)の高濃度層が形成されると同時に、表層部12に圧縮応力層が形成される。
【0063】
この表面改質処理プロセスを実施した被施工材11を原子炉機器10Eの炉内構造物に用いて、高温高圧水中に晒されても、被施工材11の表面に高耐食層と圧縮応力層からなる表面改質層が形成されているので、被施工材11の表層部12に安定した皮膜が形成され、SCC発生防止の改善効果を高めることができる。
【0064】
[第8の実施形態]
図8は、原子炉機器の表面改質方法の第8実施形態を示すものである。
【0065】
この実施形態に示される原子炉機器10Fの表面改質方法では、被施工材11の表面改質処理プロセスに図8に示す施工フローが実施される。
【0066】
この原子炉機器10Fの表面改質方法においては、表面改質プロセスを実施する前に被施工材11の表面に予め微細な凹凸成形がグラインダ加工により実施され、被施工材11の表面に付着するクロム(Cr)や亜鉛(Zn)等の耐食性改善元素(A)あるいはこの元素を含有する元素の付着確率を改善することができる。
【0067】
高温高圧流体中で被施工材11の表面に高耐食性皮膜を形成する合金組成を得ることがあり、耐食性改善元素(A)やこの元素(A)を含有する元素を付着確率を改善して耐食性改善元素(A)の高濃度層を被施工材11の表面層として形成することができる。このため、被施工材11の表面に高耐食性を有する高濃度層の表面改質層を形成することができる。
【0068】
被施工材11の表面にグラインダ加工等で凹凸面を形成し、この凹凸形成手段を用いることで、表面改質プロセスの施工時間の短縮を図ることができる。
【0069】
[第9の実施形態]
図9は、原子炉機器の第9実施形態を示すものである。
【0070】
この実施形態に示された原子炉機器は、被施工材11の原子炉構造物溶接部26に超音波ショットピーニングの表面改質処理プロセスを実施した例を示す。原子炉構造物溶接部26は、炉内構造物や配管の溶接部のように、溶接部による材質劣化、引張残留応力の形成などにより、SCCの発生が懸念される部位が対象となる。
【0071】
図9に示された原子炉機器10Gでは、被施工材11を構成する原子炉構造物(配管)の溶接部26に表面改質プロセスを実施することにより、原子炉構造物溶接部26およびその近傍の表層に表面改質装置21を用いて表面改質層を形成することができる。表面改質層は、表面改質装置21を用いて、第3実施形態ないし第7実施形態のいずれかの表面改質処理方法を用いて高温高圧流体環境下で表面改質処理プロセスを実施することで、原子炉構造物溶接部26およびその近傍の表層に、圧縮応力層を兼ねた高耐食層の表面改質層を施すことができる。表面改質層は原子炉構造物溶接部26およびその近傍の全周に亘って形成することもできる。
【0072】
この原子炉機器10Gにおいても、被施工材11の溶接部およびその近傍に、材質因子と応力因子を同時に改善したSCC発生防止対策を施すことができ、SCC損傷形態の発生を未然にかつ確実に防止することができる。
【0073】
なお、本発明の実施形態では、BWR、PWRの原子炉機器に適用した例を示したが、FBRの原子炉機器を対象とすることができ、この原子炉機器には炉内機器や周辺機器だけではなく、炉内構造物、配管、部品等も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る原子炉機器およびその表面改質方法の第1実施形態を示す構成図。
【図2】本発明に係る原子炉機器の表面改質方法の第2実施形態を示すもので、表面改質処理を施した被施工材の断面硬度分布測定例を示す図。
【図3】本発明に係る原子炉機器の表面改質方法の第3実施形態を示す表面改質プロセスの構成図。
【図4】本発明に係る原子炉機器の表面改質方法の第4実施形態を示す表面改質プロセスの構成図。
【図5】本発明に係る原子炉機器の表面改質方法の第5実施形態を示す表面改質プロセスの構成図。
【図6】本発明に係る原子炉機器の表面改質方法の第6実施形態を示すもので、表面改質施工装置を用いた構成図。
【図7】本発明に係る原子炉機器の表面改質方法の第7実施形態を示すもので、表面改質施工装置を用いた構成図。
【図8】本発明に係る原子炉機器の表面改質方法の第8実施形態を示すもので、表面改質プロセスのフローを示す構成図。
【図9】本発明に係る原子炉機器の第9実施形態を示す構成図。
【符号の説明】
【0075】
10,10A,10B,10C,10D,10E,10F,10G 原子炉機器
11 被施工材(構成材)
12 表層部(表面改質層)
13 母材
15 塗布層
16 ショット材
17 粉末層
18 薄膜
21 表面改質施工装置
22 処理ボックス
23 超音波振動子
24 超音波ショットピーニングチャンバ
25 粉末
26 原子炉構造物溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉関連施設に使用される被施工材の材料表面部に、圧縮応力付与の圧縮応力層を兼ねた高耐食層を高温高圧流体環境中で実現した表面改質層を構成したことを特徴とする原子炉機器。
【請求項2】
前記被施工材の表面改質層は、母材中のクロム濃度あるいは亜鉛濃度より高い濃度を有する表層である請求項1に記載の原子炉機器。
【請求項3】
前記被施工材の表面改質層は、クロム濃度が20wt%以上26wt%以下の表層である請求項1に記載の原子炉機器。
【請求項4】
前記被施工材の表面改質層は、ビッカース硬度が300Hv以下の硬度である請求項1に記載の原子炉機器。
【請求項5】
前記被施工材は、その溶接部および溶接部近傍の表層に表面改質層を形成した請求項1に記載の原子炉機器。
【請求項6】
原子炉関連施設に使用される被施工材の材料表面に、圧縮応力を付与した圧縮応力層を兼ねた高耐食層を高温高圧水環境中で実現する表面改質層を形成することを特徴とする原子炉機器の表面改質方法。
【請求項7】
前記被施工材は、母材中のクロム濃度あるいは亜鉛濃度より高い濃度の表層を表面改質層として形成する請求項6に記載の原子炉機器の表面改質方法。
【請求項8】
前記被施工材は、クロム濃度が20wt%以上26wt%以下の表層を表面改質層として形成する請求項6に記載の原子炉機器の表面改質方法。
【請求項9】
前記被施工材はビッカース硬度が300Hv以下の硬度の表層を表面改質層として形成する請求項6に記載の原子炉機器の表面改質方法。
【請求項10】
前記被施工材は高温高圧水中で高耐食性を付与する耐食性改善元素が被施工部表面あるいは表層に存在する状態でピーニング処理を施し、表面改質層を形成する請求項6に記載の原子炉機器の表面改質方法。
【請求項11】
前記被施工材の表面あるいは表層に圧縮応力を付与する手段がショットピーニング、レーザピーニング、ウォータジェットピーニング、超音波ショットピーニングまたは超音波ロトピーニングである請求項10に記載の原子炉機器の表面改質方法。
【請求項12】
前記被施工材の表面あるいは表層にピーニング処理を施す前に、高温高圧流体中で高耐食性を付与する耐食性改善元素を含有する溶液あるいは粉末を被施工部表面に塗布する請求項10に記載の原子炉機器の表面改質方法。
【請求項13】
前記被施工材の表面あるいは表層にピーニング処理を施す前に高温高圧流体中で高耐食性を付与する耐食性改善元素を含有する薄膜を被施工部表面に形成する請求項10に記載の原子炉機器の表面改質方法。
【請求項14】
前記被施工材の表面あるいは表層に圧縮応力を付与する手段が超音波ショットピーニングあるいはショットピーニングであり、ピーニング処理に使用するショット材が、高温高圧流体中で高耐食性を付与する耐食性改善元素、この耐食性改善元素を含有する合金または耐食性改善元素を構成元素とする複合材である請求項6に記載の原子炉機器の表面改質方法。
【請求項15】
前記被施工材の表面あるいは表層に圧縮応力を付与する手段が超音波ショットピーニングであり、前記超音波ショットピーニングのチャンバー中に高温高圧水中で高耐食性を付与する耐食性改善元素を含有する粉末を混在させた状態で前記超音波ショットピーニングを実施する請求項6に記載の原子炉機器の表面改質方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−210285(P2009−210285A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50915(P2008−50915)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】