説明

原子炉水位計および原子炉水位測定方法

【課題】原子炉水位を、高精度かつロバストに計測する。
【解決手段】原子炉水位計は、計測配管1の下部の外壁面に取り付けられて計測配管1へ超音波エコーを送信し、超音波反射エコーを受信して反射電気信号に変換する超音波送受信部15と、超音波送受信部15に送信電気信号を送り超音波送受信部15から超音波反射エコーに対応する反射電気信号を受信する超音波信号送受信部16と、液面25が安定している状態における超音波反射エコーに対応する反射電気信号の波形の包絡線を基準エコーとして記憶する波形記憶部5と、反射電気信号の波形から基準エコーとの相関値を求めることで、液面25で反射した超音波液面反射エコーを求めてその超音波液面反射エコーの伝搬時間から液位を算出する液位算出部6と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波エコーを用いた原子炉水位計および原子炉水位測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、沸騰水型原子炉の水位は差圧方式により測定されているが、代替の水位測定方式として、フロート方式、中性子やγ線による放射線方式や超音波方式などが検討されている。
【0003】
超音波方式の原子炉水位計としては、超音波水位計が挙げられる(特許文献1)。典型的な超音波水位計は、測定対象となる容器の流体が流れ込む音響導波管と、流体内に超音波信号を発生するための超音波トランスデューサ部と、超音波信号が導波管内の流体表面に向かって進行し流体表面から戻る伝播時間を測定する計時部と、伝搬時間に基づいた導波管内の水位算出および温度補償を行なう算出部とから構成される。伝搬時間が往復の時間であることから片道の時間に直し、これに温度補正された水中の音速を乗じることにより、導波管内の水位を求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−289520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した原子炉水位計においては、原子炉の水位が過渡変化する場合、液面や液中における超音波の散乱や減衰が大きくなるため超音波信号が小さくなり、過渡時は水位計測が困難になることが課題であった。
【0006】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、原子炉水位が過渡変化する場合においても、高精度かつロバストな水位計測をすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る原子炉水位計は、原子炉圧力容器内の気相部に接続された上部配管部と、前記原子炉圧力容器内の液相部に接続された下部配管部と、前記上部配管部と下部配管部の間を接続して内部に液面を形成する液面形成配管部とを備えた計測配管と、前記計測配管の下部の外壁面に取り付けられ、送信電気信号により前記計測配管の内部の液相部へ超音波エコーを送信して、前記液面形成配管部内の液面および前記計測配管の壁面で反射する超音波反射エコーを受信して反射電気信号に変換する超音波送受信部と、前記超音波送受信部に前記送信電気信号を送り、前記超音波送受信部から前記超音波反射エコーに対応する前記反射電気信号を受信する超音波信号送受信部と、前記液面形成配管部に形成される液面が安定している状態における前記超音波反射エコーに対応する前記反射電気信号の波形の包絡線を基準エコーとして記憶する波形記憶部と、前記反射電気信号の波形と前記波形記憶部に記憶されていた前記基準エコーとの相関値を求めることで、前記反射電気信号の波形から前記液面形成配管内の液面で反射した前記超音波液面反射エコーを検出し、その超音波液面反射エコーの伝搬時間から液位を算出する液位算出部と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る原子炉水位測定方法は、原子炉圧力容器内の気相部に接続された上部配管部と、前記原子炉圧力容器内の液相部に接続された下部配管部と、前記上部配管部と下部配管部の間を接続して内部に液面を形成する液面形成配管部とを備えた計測配管と、前記計測配管の下部の外壁面に取り付けられ、送信電気信号により前記計測配管の内部の液相部へ超音波エコーを送信して、前記液面形成配管部内の液面および前記計測配管の壁面で反射する超音波反射エコーを受信して反射電気信号に変換する超音波送受信部と、前記超音波送受信部に前記送信電気信号を送り、前記超音波送受信部から前記超音波反射エコーに対応する前記反射電気信号を受信する超音波信号送受信部と、を備えた原子炉水位計を用いた原子炉水位測定方法であって、前記液面形成配管部に形成される液面が安定している状態における前記超音波反射エコーに対応する前記反射電気信号の波形の包絡線を基準エコーとして記憶する基準波形記憶ステップと、前記反射電気信号の波形と前記基準波形記憶ステップによって記憶されていた前記基準エコーとの相関値を求めることで、前記反射電気信号の波形から前記液面形成配管内の液面で反射した前記超音波液面反射エコーを検出する超音波液面反射エコー検出ステップと、前記超音波液面反射エコー検出ステップで得られた前記超音波液面反射エコーに基づいてその超音波液面反射エコーの伝搬時間を求め、この伝搬時間に基づいて液位を算出する液位算出ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、原子炉水位が過渡変化する場合においても、高精度かつロバストな水位計測をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る原子炉水位計の第1の実施形態を示す模式図。
【図2】原子炉水位が過渡変化状態にあるときの液面の反射エコーの実測例を示すグラフ。
【図3】反射エコーの正符号成分から抽出された包絡線の例を示すグラフ。
【図4】相関値φ(s)の例を表すグラフ。
【図5】図1の原子炉水位計の第1の実施形態の計測配管の第1の変形例を示す立断面図。
【図6】図1の原子炉水位計の第1の実施形態の計測配管の第2の変形例を示す立断面図。
【図7】本発明に係る原子炉水位計の第2の実施形態を示す模式図。
【図8】本発明に係る原子炉水位計の第3の実施形態を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る原子炉水位計の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
[第1の実施形態]
(第1の実施形態の構成)
まず、図1ないし図4を用いて本発明に係る原子炉水位計の第1の実施形態を説明する。この第1の実施形態では、原子炉圧力容器20内に液面21が形成され、液面21の上方に気相部が、液面21の下方に液相部がそれぞれ形成されている。
【0013】
原子炉圧力容器20内の液面21をはさむ位置に、計測配管1が取り付けられ、その上部をなす上部配管部22は原子炉圧力容器20内の気相部に接続され、計測配管1の下部をなす下部配管部23は原子炉圧力容器20内の気相部に接続されている。上部配管部22と下部配管部23はそれぞれがほぼ水平方向に延びており、鉛直方向に延びる液面形成配管24によって互いに接続されている。液面形成配管24内には、原子炉圧力容器20内の液面21とほぼ同じ高さの液面25が形成される。計測配管1は、ステンレス鋼、ニッケル基合金、炭素鋼などの高温高圧環境に適応可能な材料で構成される。計測配管の長さは測定範囲から設定する。
【0014】
液面形成配管24の底部の外壁には、液面形成配管24内に超音波を送り出してその反射エコーを受信する超音波送受信部15が取り付けられている。また、超音波送受信部15に送信電気信号を送信し、超音波送受信部15から得られた反射電気信号を受信する超音波信号送受信部16が配置されている。超音波信号送受信部16で得られた反射電気信号を処理して液位を算出するために、出力変換部3と統計処理部4と、波形記憶部5と、液位算出部6が設けられている。
【0015】
超音波送受信部15は、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウムなどの振動子で構成される。そして、超音波送受信部15は、金属の接触媒質を用い、計測配管1の下端表面に設置される。超音波送受信部15が下端表面に設置され、計測配管1の内部へ挿入される物がないため、計測配管1に不具合が発生する可能性がない。超音波の周波数は、計測配管1の壁内部および水中を伝搬するように数10kHz〜数100MHzの範囲にある周波数を用いる。
【0016】
超音波信号送受信部16は、パルス電圧を加えて超音波送受信部15から超音波を送信する一方、超音波送受信部15において受信して電圧信号に変換された超音波を増幅する。送信される超音波の周波数、エネルギー、パルス数、毎秒の送信回数は、パルス電圧の時間幅、波高値、パルス数、繰り返しレートを変えることにより設定される。また、受信された超音波は、必要に応じて周波数フィルタリングされた後、後段の処理に応じて増幅度が設定される。周波数フィルタリングは、アナログ回路またはMPU(Micro Processing Unit)と、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのデジタル回路、あるいはソフトウエア処理により行なわれる。
【0017】
出力変換部3は、超音波信号送受信部16で得られた電気信号の各値の絶対値を求めるものである。また、統計処理部4は、出力変換部3の出力波形を一定の抽出時間毎に区切り、区切られた各抽出時間内における最大値または最小値、平均値または中央値、標準偏差または分散など統計値の中から一つを求めて各抽出時間の代表値とし、時系列に沿って各抽出時間の代表値を並べて、波形を生成するものである。
【0018】
出力変換部3および統計処理部4は、アナログ回路またはMPU、ASIC、FPGAなどのデジタル回路、あるいはPC(パーソナルコンピュータ)などから構成される。
【0019】
波形記憶部5は、反射エコーの包絡線を基準エコーとしてあらかじめ記憶するものである。波形記憶部5は、SRAM(Static Random Access Memory)やDRAM(Dynamic Random Access Memory)、その他の半導体メモリ、磁気式ハードディスク、光学式記憶媒体などにより構成され、入力波形をデジタルデータとして記憶する。
【0020】
液位算出部6は、統計処理部4が出力する波形の中から波形記憶部5に記憶された基準エコーとの相関が高い包絡線を検出することにより反射エコーを求め、反射エコーの伝搬時間から液位を算出する。
【0021】
液位算出部6は、アナログ回路またはMPU、ASIC、FPGAなどのデジタル回路、あるいはPCなどから構成される。液位算出部6では、入力波形f(t)の中から液面における反射エコーを検出し、その伝搬時間tを用いて式(1)から液位Lを求める。
【0022】
L=v・t/2 (1)
ただし、vは超音波の音速度である。
【0023】
反射エコーの伝搬時間tを求めるには、入力波形f(t)に加えて基準エコーg(t)を用い、式(2)により定義される相関値φ(s)を計算する。ただし、t、sは時間であり、f(t)、g(t)はそれぞれ、時間tの関数である。
【数1】

【0024】
ここで、基準エコーg(t)は、波形記憶部5に記憶され、解析あるいは実際の測定により取得される液面の反射エコーである。そして、φ(s)は、sが液面からの反射エコーの伝搬時間tと一致した場合に最大となることから、φ(s)の最大値となる場合のsが反射エコーの伝搬時間tとなる。
【0025】
(第1の実施形態の作用)
最初に、超音波信号送受信部16において、送信される超音波エコーの周波数、エネルギー、パルス数、毎秒の送信回数が設定される。そして、この設定に基づいて超音波送受信部15から超音波エコーが送信され、計測配管1の管壁を透過する透過成分が液相へ伝搬する。
【0026】
超音波送受信部15から超音波エコーが送信されて計測配管1の管壁を透過するのと同時に、超音波エコーの一部は外壁面で反射し、さらに反対側の内壁面においても反射して管壁内で反射を繰り返す反射成分も存在する。管壁と液相の境界では、この反射成分が透過成分と反射成分に毎回分かれるため、透過成分が管壁の厚さ分の時間遅れを持って次々と液相へ伝搬する。なお、透過成分の強度は、管壁内の反射回数に応じて順次小さくなる。そして、順次液相へ伝搬した透過成分は液面において反射するため、パルス列化された反射エコーが超音波信号送受信部16で受信される。
【0027】
原子炉水位が安定状態にある場合、液面21、25も静定している。このため、受信された液面25の反射エコーは、パルス間隔が規則正しく管壁厚さの時間間隔となり、またパルスの強度が規則的に小さくなることから容易に検出可能である。
【0028】
しかし、原子炉水位が過渡変化状態になった場合、液相中ではボイドが発生し、原子炉圧力容器20内の液面21では沸騰並びに液面揺れが起きるため、液面形成配管24内の液面25も揺動する。これにより、送受信される超音波が時間的および場所的にランダムな散乱および減衰を受け、また液面の反射エコーのうち超音波送受信部15に戻る成分が減少し、ノイズが増大するとともに超音波送受信部15で受信される液面の反射エコーの強度が低下する。このため、過渡変化状態における液面の反射エコーは、そのパルス間隔が不規則となり、またパルスの強度も小さくかつ不規則となり、たとえば、図2に示すように反射エコーEの検出が困難になる。ここで、図2は、原子炉水位が過渡変化状態にあるときの液面の反射エコーの実測例を示すグラフである。
【0029】
これに対し、この実施形態では反射エコーを構成する個々のパルス列の強度や時間間隔が時間的および場所的に不規則になっても、反射エコーの包絡線形状が保たれることを利用し、受信された波形の中から反射エコーの包絡線を特定することにより高精度かつロバストに反射エコーを検出する。
【0030】
そこで、液面25が安定状態にある場合など液面25の反射エコーが容易に検出可能な場合に、超音波信号送受信部16において液面25の反射エコーをあらかじめ受信する。なお、液面25の状態としては、静止していることが望ましいが、必ずしも静止していなくともよく、過渡変化状態よりも液面揺れや沸騰による影響が小さい状態であれば良い。そして、出力変換部3で、液面25の反射エコーを正符号のデジタル値に変換する。
【0031】
さらに、統計処理部4で、一定の区間の抽出時間ごとに区切って区切られた各抽出時間内における最大値または最小値、平均値または中央値、標準偏差などの中から一つを求めて各抽出時間の代表値とし、時系列に沿って各抽出時間の代表値を並べて波形を生成する。
【0032】
そして、この波形に対して最小二乗法あるいは補間法などによって関数近似して包絡線を求めることにより、たとえば、図3に示すように液面の反射エコーの包絡線を抽出し、基準エコーとして波形記憶部5へ記憶する。近似関数としては、累乗、指数、対数、線形など挙げられ適宜選定する。また、抽出する包絡線は、液面の反射エコーの一部から求めてもよく、必ずしも液面の反射エコー全体から求める必要はない。
【0033】
つづいて、液位算出部6では、超音波信号送受信部16において新たに受信された波形の正符号成分を入力波形f(t)とし、波形記憶部5に記憶された反射エコーの包絡線を基準エコーg(t)として式(2)に示すφ(s)を計算する。この計算は、入力波形f(t)の中から反射エコーの包絡線g(t)を検出する計算であり、φ(s)が最大となる場合のsが反射エコーの伝搬時間tとなる。式(2)では、t、sの時間刻みを小さくして計算することにより伝搬時間tを高精度に求めることができ、同時に入力波形f(t)の中から反射エコーの包絡線を検出することからロバストである。この結果、液位算出部6では、式(2)から、図4に示すように、相関値φ(s)を表すグラフを得ることができる。この図4におけるピーク値をとる時間から伝搬時間tを特定でき、式(1)から液位Lを高精度かつロバストに求めることができる。
【0034】
さらに、超音波信号送受信部16の出力を出力変換部3から出力することにより、超音波信号送受信部16の受信波形の負符号成分を正符号成分に変換し、受信波形のデータ量を増加させることができる。受信波形は、式(2)の入力波形f(t)であり、データ量の増加はt、sの時間刻みが小さくなることに相当して計測精度が向上する。さらに、波形記憶部5に記憶する反射エコーの包絡線についても、受信波形の負符号成分が正符号成分に変換されてデータ量が増加した反射エコーから包絡線を高精度に抽出できる。反射エコーの包絡線は式(2)の基準エコーg(t)であるため、式(2)の計算精度が向上する。
【0035】
超音波信号送受信部16または出力変換部3の出力にノイズが重畳する場合は、超音波信号送受信部16または出力変換部3の出力を統計処理部4から出力する。
【0036】
統計処理部4では、入力波形を一定の抽出時間毎の区間に区切り、区切られた各抽出時間内における最大値または最小値、平均値または中央値、標準偏差または分散など統計値の中から一つを求めて各抽出時間の代表値とし、時系列に沿って各時間の代表値を並べて出力波形とする。出力波形は、式(2)の入力波形f(t)であり、各時間の代表値をとるために入力波形f(t)のデータ量は減少するがノイズが除去され、式(2)のロバスト性が向上する。
【0037】
さらに、波形記憶部5に記憶する反射エコーの包絡線についても、データ量は減少するがノイズが除去された反射エコーから包絡線がロバストに抽出できる。反射エコーの包絡線は式(2)の基準エコーg(t)であるため、式(2)の計算精度が向上する。この結果、液位算出部6では、図4に示すように伝搬時間tが特定でき、式(1)から液位Lを高精度かつロバストに求めることができる。
【0038】
(第1の実施形態の効果)
本実施の形態によれば、液面25からの反射エコーの包絡線を基準エコーとしてあらかじめ記憶し、超音波信号送受信部16が出力する波形の中からの相関が高い包絡線を検出する。これにより、液面からの反射エコーの伝搬時間を高精度に求めることができ、原子炉水位が過渡変化する場合においても高精度かつロバストな水位計測が可能となる。
【0039】
また、超音波信号送受信部16が出力する波形を出力変換部3で絶対値に変換する。これにより、データ量が増加し、さらにデータ量が増加した反射エコーから包絡線を高精度に抽出するため、式(2)より液面25からの反射エコーの伝搬時間を高精度に求めることができ、原子炉水位が過渡変化する場合においても高精度かつロバストな水位計測が可能となる。
【0040】
さらに、超音波信号送受信部16が出力する反射エコーの波形を一定の抽出時間毎に区切り、区切られた各抽出時間内における最大値または最小値、平均値または中央値、標準偏差または分散など統計値の中から一つを求めて各抽出時間の代表値とし、時系列に沿って各抽出時間の代表値を並べて出力する。これにより、ノイズが除去でき、さらにノイズが除去された反射エコーから包絡線をロバストに抽出できる。そのため、式(2)より液面からの反射エコーの伝搬時間を求めることができ、原子炉水位が過渡変化する場合においても高精度かつロバストな水位計測が可能となる。
【0041】
[第1の実施形態の変形例]
上記の例(図1)では、上部配管部22と下部配管部23はそれぞれがほぼ水平方向に延びているものとしたが、第1の変形例として、計測配管1の上部に非凝縮性ガスが蓄積する場合は、図5に示すように、上部配管部22が原子炉圧力容器20に向かって上り勾配となるようにするとよい。他方、下部配管23についても、上記の例(図1)では水平に設置されるが、定期検査などにおける排水時に冷却水が残留する場合は図5に示すように原子炉圧力容器20に向かって下り勾配をつけるとよい。
【0042】
さらに、計測配管1の第2の変形例として、図6に示すように、上部配管部22と下部配管23がともに原子炉圧力容器20に向かって上り勾配となるようにしてもよい。
【0043】
さらに、図示は省略するが、図5の構成とは逆に、上部配管部22が原子炉圧力容器20に向かって下り勾配で、下部配管23が原子炉圧力容器20に向かって上り勾配であってもよい。さらに、図6の構成とは逆に、上部配管部22と下部配管23がともに原子炉圧力容器20に向かって下り勾配となるようにしてもよい。
【0044】
なお、液面形成配管24、並びに上部配管22および下部配管23は、通常、断面形状が円形の配管より構成されるが、断面形状が多角形や楕円形の配管によって構成することもできる。
【0045】
[第2の実施形態]
(第2の実施形態の構成)
次に、図7を用いて本発明に係る原子炉水位計の第2の実施形態を用いて説明する。なお第1の実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。この第2の実施形態では、出力変換部3が出力する波形に対して、累乗または対数の演算や算術演算などを行なう演算処理部8と、反射エコーの包絡線を解析的に生成し、基準エコーとして記憶する波形生成部9とが備えられている。液位算出部6は、演算処理部8が出力する波形の中から波形生成部9に記憶された基準エコーとの相関が高い包絡線を検出することにより反射エコーを求め、反射エコーの伝搬時間から液位を算出する。
【0046】
演算処理部8は、アナログ回路またはMPU、ASIC、FPGAなどのデジタル回路、あるいはPCなどから構成される。演算処理部8では、入力波形に対して累乗または対数の演算や算術演算などを行なって出力する。
【0047】
たとえば、累乗演算は、計測信号がノイズ信号より大きい場合に有効であり、計測信号は累乗の指数が大きいほどノイズ信号より大きくなって信号/ノイズ比(SN比)が向上する。同様に、計測信号がノイズ信号より大きい場合には、入力波形の振幅強度に応じ、大きな振幅ほど大きな係数を乗じる乗算、大きな振幅ほど小さな係数を除する除算を行なうことにより、計測信号がノイズ信号より大きくなって信号/ノイズ比が向上する。
【0048】
また、算術演算の例として、入力波形に対して移動平均を求める方法もある。すなわち、移動平均数kの場合、出力波形y(t)は、入力波形x(t)に対して次の式(3)で表わされる。
【数2】

【0049】
波形生成部9は、反射エコーの包絡線を解析的に生成するアナログ回路またはMPU、ASIC、FPGAなどのデジタル回路、あるいはPCに加え、生成された反射エコーの包絡線を基準エコーとして記憶するSRAMやDRAM、その他の半導体メモリ、磁気式ハードディスク、光学式記憶媒体などにより構成される。
【0050】
(第2の実施形態の作用)
まず、波形生成部9において、パルス列から構成される液面の反射エコーを解析的に生成する。パルス間の間隔は、超音波パルスの管壁間の往復時間であり、各パルスの強度は、管壁間の反射がなく管内液相へ最初に伝搬する超音波エコーに対し、管壁の反射係数を反射回数分だけ乗じた値となる。そして、受信された液面の反射エコーから包絡線を求める第1の実施形態と同様に、解析的に求めた液面の反射エコーから関数近似によって包絡線が抽出され、図3に示されるような液面の反射エコーの包絡線が基準エコーとして波形生成部9に記憶される。これにより、原子炉水位が安定状態にある時の液面の反射エコーを基準エコーとしてあらかじめ受信する必要がなく、原子炉水位が安定状態になる場合がほとんど無い時でも基準エコーが用意でき、高精度かつロバストな水位計測が可能となる。
【0051】
他方、超音波信号送受信部16の設定に基づいて超音波送受信部15から超音波エコーが送信され、第1の実施形態と同様の作用により、液面の反射エコーを含む受信波形が超音波信号送受信部16または出力変換部3から出力される。
【0052】
ここで、超音波信号送受信部16の出力または出力変換部3において、液面25の反射エコーより小さいノイズが重畳する場合は、超音波信号送受信部16または出力変換部3の出力を演算処理部8から出力する。演算処理部8では、入力波形に対して累乗または対数の演算、算術演算などを行なって出力波形とするため、出力波形に含まれる反射エコーの信号/ノイズ比が向上する。受信波形は、式(2)の入力波形f(t)であり、入力波形f(t)に含まれる反射エコーの信号/ノイズ比が向上するため、式(2)のロバスト性が向上する。この結果、液位算出部6では、図4に示すように伝搬時間tが特定でき、式(1)から液位Lを高精度かつロバストに求めることができる。
【0053】
(第2の実施形態の効果)
本実施の形態によれば、超音波送受信部が出力する波形に対して、累乗または対数の演算、算術演算などを行なうことにより、反射エコーの信号/ノイズ比が向上し、式(2)より液面25からの反射エコーの伝搬時間を求めることができ、原子炉水位が過渡変化する場合においても高精度かつロバストな水位計測が可能となる。
【0054】
また、反射エコーの包絡線を解析的に生成し、基準エコーとして記憶することにより、原子炉水位が安定状態にある時の液面25の反射エコーをあらかじめ受信する必要がなく、原子炉水位が安定状態になる場合がほとんど無い時でも基準エコーが用意でき、原子炉水位が過渡変化する場合においても高精度かつロバストな水位計測が可能となる。
【0055】
なお、この第2の実施形態における波形生成部9は、反射エコーの包絡線を解析的に生成し、基準エコーとして記憶する機能を有するものであるから、波形記憶部としての機能を有しているということができる。
【0056】
[第3の実施形態]
(第3の実施形態の構成)
次に、図8を用いて本発明に係る原子炉水位計の第3の実施形態を用いて説明する。なお第1、第2の実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。この第3の実施形態は、超音波信号送受信部16が出力する波形を一定の抽出時間毎に区切り、区切られた各抽出時間内から1点または複数点を抽出して各抽出時間の代表値とし、時系列に沿って各抽出時間の代表値を並べて波形を生成する波形抽出部10と、反射エコーの包絡線を解析的に生成し、基準エコーとして記憶する波形生成部9とを有する。
【0057】
この実施形態ではさらに、波形抽出部10が出力する波形を一定の分割処理時間毎に分割する波形分割部11と、分割された各波形に対して波形生成部9に記憶された基準エコーとの相関が高い包絡線を検出する処理を並列して行なうことにより反射エコーを求め、反射エコーの伝搬時間から液位を算出する並列算出部12とが設けられている。
【0058】
波形抽出部10および波形分割部11は、アナログ回路またはMPU、ASIC、FPGAなどのデジタル回路、あるいはPCなどから構成される。
【0059】
波形抽出部10は、入力波形を一定抽出時間毎に区切り、区切られた各抽出時間内から1点または複数点を抽出して各抽出時間の代表値とし、時系列に沿って各抽出時間の代表値を並べて出力波形とする。これにより、波形のデータ量が調整できる。
【0060】
波形分割部11は、入力波形を一定の分割処理時間毎に分割し、分割された各波形をパラレルまたはシリアルに出力する。
【0061】
並列算出部12についても、アナログ回路またはMPU、ASIC、FPGAなどのデジタル回路、あるいはPCなどから構成されるが、アナログ回路またはデジタル回路、あるいはCPUを複数備えて並列処理が効率的にできる構成が適する。並列算出部12では、複数の入力波形に対して式(2)に示す演算処理を並列して行なう。たとえば、波形分割部11によりN個に分割された波形に対し、並列してそれぞれ演算処理を行なうことにより、演算時間は1/Nに短縮できる。そして、φ(s)の最大値から反射エコーの伝搬時間tを求めることにより、式(1)から液位Lが算出できる。
【0062】
(第3の実施形態の作用)
第2の実施形態と同様の作用により、波形生成部9では、解析的に求めた反射エコーの正符号成分から包絡線が抽出され、基準エコーとして記憶される一方、液面の反射エコーを含む受信波形が超音波信号送受信部16から出力される。
【0063】
ここで、超音波信号送受信部16の出力を波形抽出部10から出力することにより、超音波信号送受信部16の受信波形のデータ量を調整でき、受信波形のデータ量が低減できる。受信波形は、式(2)の入力波形f(t)であり、データ量の低減はt、sの時間刻みが大きくなることに相当して演算時間が短縮する。この結果、並列算出部12では、式(2)の演算時間が短縮されることにより伝搬時間tが短時間で特定でき、式(1)から液位Lを高精度かつロバストに求めることができる。
【0064】
また、液位Lをさらに短時間で求める必要がある場合は、波形抽出部10の出力波形が波形分割部11によりN個に分割され、N個の波形が並列算出部12へパラレルに伝送される。N個の波形は、それぞれが式(2)の入力波形f(t)となり、式(2)の演算処理がN個並列して行なわれるため演算速度が高速化する。この結果、並列算出部12では、式(2)の演算を並列処理して高速化されることにより、伝搬時間tが短時間で特定でき、式(1)から液位Lを高精度かつロバストに求めることができる。
【0065】
(第3の実施形態の効果)
本実施の形態によれば、超音波送受信部が出力する波形を一定の抽出時間毎に区切り、区切られた各抽出時間内から1点または複数点を抽出して各抽出時間の代表値とし、時系列に沿って各抽出時間の代表値を並べて波形を生成することにより、データ量が低減でき、式(2)の演算時間が短縮されることにより、原子炉水位が過渡変化する場合においても高精度かつロバストな水位計測が可能となる。
【0066】
また、超音波送受信部が出力する波形を一定の分割処理時間毎に分割し、分割された各波形に対して基準エコーとの相関が高い包絡線を検出する処理を並列して行なうことにより、処理速度が高速化でき、式(2)の演算速度が高速化されることにより、原子炉水位が過渡変化する場合においても高精度かつロバストな水位計測が可能となる。
【0067】
なお、第1の実施形態における統計処理部4は、各抽出時間内における統計値の中から一つを求めて各抽出時間の代表値とするものであり、第3の実施形態における波形抽出部10は、各抽出時間内の信号から一つまたは複数の値求めて各抽出時間の代表値とするものである。したがって、第3の実施形態における波形抽出部10の機能は、第1の実施形態における統計処理部4の機能の一つの類型であるということができる。
【0068】
[他の実施形態]
以上説明した各実施形態は単なる例示であって、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
各実施形態の種々の特徴を組み合わせることも可能である。
【0070】
たとえば、第1の実施形態の変形例として図5および図6に示した例を含む上部配管部22および下部配管部23の傾斜構造を、他の実施形態に適用することが可能である。
【0071】
また、第3の実施形態における波形分割処理部11と並列算出処理部12を第1または第2の実施形態に適用することも可能である。
【0072】
また、各実施形態においては、液面形成配管24内部の液面25の反射エコーから基準エコーを求めるものとして説明したが、例えば液面形成配管24に相当するモックアップ等を用いてもよい。例えば、液面形成配管24の近傍に液面形成配管24と同様の材料、長さ、径を有し、内部に液面が形成された円筒を設置し、液面形成配管24と同様に底部から超音波を送信して反射エコーを得、この反射エコーを用いて基準エコーを得ることができる。このような場合、実際の運転環境に近い環境におかれ、かつ常に液面が安定している円筒を用いて基準エコーを得ることが可能である。
【符号の説明】
【0073】
1… 計測配管
3… 出力変換部
4… 統計処理部
5… 波形記憶部
6… 液位算出部
8… 演算処理部
9… 波形生成部
10… 波形抽出部
11… 波形分割部
12… 並列算出部
15… 超音波送受信部
16… 超音波信号送受信部
20… 原子炉圧力容器
21… 液面
22… 上部配管部
23… 下部配管部
24… 液面形成配管
25… 液面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器内の気相部に接続された上部配管部と、前記原子炉圧力容器内の液相部に接続された下部配管部と、前記上部配管部と下部配管部の間を接続して内部に液面を形成する液面形成配管部とを備えた計測配管と、
前記計測配管の下部の外壁面に取り付けられ、送信電気信号により前記計測配管の内部の液相部へ超音波エコーを送信して、前記液面形成配管部内の液面および前記計測配管の壁面で反射する超音波反射エコーを受信して反射電気信号に変換する超音波送受信部と、
前記超音波送受信部に前記送信電気信号を送り、前記超音波送受信部から前記超音波反射エコーに対応する前記反射電気信号を受信する超音波信号送受信部と、
前記液面形成配管部に形成される液面が安定している状態における前記超音波反射エコーに対応する前記反射電気信号の波形の包絡線を基準エコーとして記憶する波形記憶部と、
前記反射電気信号の波形と前記波形記憶部に記憶されていた前記基準エコーとの相関値を求めることで、前記反射電気信号の波形から前記液面形成配管内の液面で反射した前記超音波液面反射エコーを検出し、その超音波液面反射エコーの伝搬時間から液位を算出する液位算出部と、
を有することを特徴とする原子炉水位計。
【請求項2】
前記波形記憶部は、前記液面形成配管部に形成される液面が安定している状態における前記超音波反射エコーに対応する前記反射電気信号を実測してその実測された反射電気信号の波形の包絡線を基準エコーとして記憶するものであること、を特徴とする請求項1に記載の原子炉水位計。
【請求項3】
前記波形記憶部は、前記液面形成配管部に形成される液面が安定している状態における前記超音波反射エコーに対応する前記反射電気信号の波形の包絡線を解析的に求めた結果を基準エコーとして記憶するものであること、を特徴とする請求項1に記載の原子炉水位計。
【請求項4】
前記超音波信号送受信部が出力した前記反射電気信号の各値を絶対値に変換する出力変換部をさらに有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の原子炉水位計。
【請求項5】
前記超音波信号送受信部が出力した前記反射電気信号の各値に対して、累乗演算、対数演算または算術演算のいずれかを行なって信号/ノイズ比を向上させる演算処理部をさらに有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の原子炉水位計。
【請求項6】
前記超音波信号送受信部が出力した前記反射電気信号の波形を一定の抽出時間毎に区切り、区切られた各抽出時間内から少なくとも一つの値を抽出してこの抽出された値を前記各抽出時間内の代表値とし、時系列に沿って前記各時間の前記代表値を並べて波形を生成する抽出処理部をさらに有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の原子炉水位計。
【請求項7】
前記抽出部は、前記区切られた各抽出時間内における最大値、最小値、平均値、中央値、標準偏差および分散のうちの少なくとも一つの統計値に基づいて前記各抽出時間内の代表値を求める統計処理部を有することを特徴とする請求項6に記載の原子炉水位計。
【請求項8】
前記超音波信号送受信部が出力した前記反射電気信号の波形を一定の分割処理時間毎に分割する波形分割部をさらに有し、
前記液位算出部は、前記波形分割部で分割された前記反射電気信号の各波形について、前記波形記憶部に記憶されていた前記基準エコーとの相関値を求めることで、前記反射電気信号の波形から前記液面形成配管内の液面で反射した前記超音波液面反射エコーを検出する処理を並列に行なうことによって、前記液面形成配管内の液面で反射する前記超音波液面反射エコーを求めることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の原子炉水位計。
【請求項9】
原子炉圧力容器内の気相部に接続された上部配管部と、前記原子炉圧力容器内の液相部に接続された下部配管部と、前記上部配管部と下部配管部の間を接続して内部に液面を形成する液面形成配管部とを備えた計測配管と、
前記計測配管の下部の外壁面に取り付けられ、送信電気信号により前記計測配管の内部の液相部へ超音波エコーを送信して、前記液面形成配管部内の液面および前記計測配管の壁面で反射する超音波反射エコーを受信して反射電気信号に変換する超音波送受信部と、
前記超音波送受信部に前記送信電気信号を送り、前記超音波送受信部から前記超音波反射エコーに対応する前記反射電気信号を受信する超音波信号送受信部と、
を備えた原子炉水位計を用いた原子炉水位測定方法であって、
前記液面形成配管部に形成される液面が安定している状態における前記超音波反射エコーに対応する前記反射電気信号の波形の包絡線を基準エコーとして記憶する基準波形記憶ステップと、
前記反射電気信号の波形と前記基準波形記憶ステップによって記憶されていた前記基準エコーとの相関値を求めることで、前記反射電気信号の波形から前記液面形成配管内の液面で反射した前記超音波液面反射エコーを検出する超音波液面反射エコー検出ステップと、
前記超音波液面反射エコー検出ステップで得られた前記超音波液面反射エコーに基づいてその超音波液面反射エコーの伝搬時間を求め、この伝搬時間に基づいて液位を算出する液位算出ステップと、
を有することを特徴とする原子炉水位測定方法。
【請求項10】
前記基準波形記憶ステップは、前記液面形成配管部に形成される液面が安定している状態における前記超音波反射エコーに対応する前記反射電気信号を実測してその実測された反射電気信号の波形の包絡線を基準エコーとして記憶すること、を特徴とする請求項9に記載の原子炉水位測定方法。
【請求項11】
前記基準波形記憶ステップは、前記液面形成配管部に形成される液面が安定している状態における前記超音波反射エコーに対応する前記反射電気信号の包絡線を解析的に求めてその解析結果を基準エコーとして記憶すること、を特徴とする請求項9に記載の原子炉水位測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−180052(P2011−180052A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46099(P2010−46099)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】