説明

原子発振器

【課題】PLL回路の回路構成を単純化することが可能となり、調整箇所の削減と低消費
電力化を実現した原子発振器を提供する。
【解決手段】この原子発振器40のPLL回路4は、VCXO2の出力周波数を1/Rに
分周する1/R分周器5と、VCXO2に同期したマイクロ波周波数を生成する電圧制御
発振器6と、VCO6から出力されるマイクロ波周波数を分周する1/Mプリスケーラ7
と、1/Mプリスケーラ7の出力周波数をK/Lに分周するK/L分周器8と、1/R分
周器5の出力とK/L分周器8の出力との位相差を出力する位相比較器9と、位相比較器
9の出力に基づいて直流分を取り出すLPF10と、を備えて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子発振器に関し、さらに詳しくは、PLL回路内の分周回路を単純化する
技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4は、特許文献1に開示されている従来のルビジウム原子発振器の構成を示すブロッ
ク図である。このルビジウム原子発振器50は、電圧制御水晶発振器51からの出力は、
シンセサイザー57で5.3125MHzの信号に変換され混合器59において電圧制御
発振器56の信号6840MHzと混合され、光マイクロ波共鳴部53に供給される。光
マイクロ波共鳴部53は、与えられたマイクロ波によって誤差信号を発生させ、周波数制
御器52に供給し、周波数制御器52は、光マイクロ波共鳴部53からの誤差信号を電圧
制御水晶発振器51への制御電圧に変換している。これにより電圧制御水晶発振器51の
出力周波数は、光マイクロ波共鳴部53の周波数安定度と同等となり高安定となる。
一方、電圧制御発振器56からの信号は、分周器60、分周器61、分周器62によっ
て分周され、電圧制御水晶発振器51からの信号は、分周器54によって分周される。分
周器60、61、62によって分周された信号と、分周器54によって分周された信号と
は、位相比較器58によって位相比較することができる。例えば、電圧制御水晶発振器5
1の周波数を10MHz、分周器54及び分周器60のプリスケーラをそれぞれ1/16
、1/64とすると、位相比較周波数は0.625MHzとなり、その位相比較時の差分
を所定ループ定数で直流電圧に変換するローパスフィルタ55を組み合せることにより電
圧制御発振器56は電圧制御水晶発振器51の周波数安定度と同等となる。即ち、電圧制
御発振器56の出力周波数も光マイクロ波共鳴部の周波数安定度と同等となり高安定なル
ビジウム原子発振器を構成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−257119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の従来技術は、光マイクロ波共鳴部へ供給するマイクロ波を電圧制御発振器
の出力とシンセサイザーからの信号とを混合することによって得られる構成をとることに
より、マイクロ波を発生させるための逓倍用ダイオード及び整合器が不要となり、調整箇
所を大幅に減少させることができるため、安価なルビジウム原子発振器を提供できる。又
、逓倍用ダイオードを用いないことにより、消費電力に対する信号の効率を大幅に改善で
き、低消費電力化できる効果がある。しかし、電圧制御発振器56の出力周波数が、電圧
制御水晶発振器51の出力周波数の整数倍でしか設定できない構成であるため、原子共鳴
周波数を得るためにシンセサイザー57と混合器59が必要となり、依然として回路構成
が複雑となるといった問題がある。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、PLL回路にフラクショナル分周
器を用いることにより、PLL回路の回路構成を単純化することが可能となり、調整箇所
の削減と低消費電力化を実現した原子発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の
形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]原子共鳴周波数と入力されたマイクロ波の周波数との差を周波数誤差信号
として出力する原子共鳴器と、該原子共鳴周波数に同期した周波数の信号を出力する電圧
制御型圧電発振器と、前記周波数誤差信号に応じた制御信号を生成し、前記電圧制御型圧
電発振器の出力信号の周波数を制御する周波数制御器と、前記電圧制御型圧電発振器の出
力信号を基準信号として、ループ内の発振器からの出力信号との位相差が一定になるよう
、ループ内発振器にフィードバック制御をかけて発振をさせるPLL回路と、を備えた原
子発振器であって、前記PLL回路は、前記電圧制御型圧電発振器の出力周波数を1/R
に分周する1/R分周器と、前記電圧制御型圧電発振器の出力信号の周波数に同期した周
波数の前記マイクロ波を生成する電圧制御発振器と、該電圧制御発振器から出力されるマ
イクロ波の周波数を分周する1/Mプリスケーラと、該1/Mプリスケーラの出力周波数
をK/Lに分周するK/L分周器と、前記1/R分周器の出力とK/L分周器の出力との
位相差を出力する位相比較器と、該位相比較器の出力に基づいて直流分を取り出すLPF
と、を備え、前記K/L分周器は、前記1/R分周器の出力をFpd、前記1/Mプリス
ケーラの出力をFpoとすると、前記K/L分周器の分周比K/LをFpo/Fpdによ
り決定することを特徴とする。
【0007】
PLL回路は、1/R分周器とK/L分周器により、VCOのマイクロ波周波数が、V
CXO周波数の整数倍でなくても位相同期が可能な構成になっていることが必要である。
即ち、原子共鳴器の周波数とVCXOの周波数は、整数で割り切れるとは限らず、端数が
必ず発生する。従って、整数部分と少数部分に分かれるため、分周比K/Lを決定してそ
の分周比で分周することが必要がある。これにより、原子共鳴周波数を得るためにシンセ
サイザーが不要となり、調整箇所の削減と低消費電力化が可能となる。
【0008】
[適用例2]前記K/L分周器がフラクショナル分周器により構成されていることを特
徴とする。
【0009】
フラクショナルPLL回路は、PLL回路の負帰還ループ中の分周器の分周比Nが整数
だけでなく分数(小数)を含む有理数である。このフラクショナルN分周によって、与え
られたチャンネルスペーシングに対する広いループ帯域は高速・セットリングタイムを可
能とし、電圧制御発振器に要求される位相ノイズ要求を低くすることができる。
【0010】
[適用例3]前記PLL回路をモジュール化したことを特徴とする。
【0011】
PLL部分をモジュール化することで、筐体や構造を変えずに、簡単にルビジウム・セ
シウム等の原子共鳴周波数に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る原子発振器の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る原子発振器の構成を示すブロック図である。
【図3】図1の回路構成に基づいて計算した結果を一覧にした図であり、(a)はM=1の場合の計算結果を示し、(b)はM=10の場合の計算結果を示す図である。
【図4】特許文献1に開示されている従来のルビジウム原子発振器の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記
載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限
り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0014】
図1は本発明の第1の実施形態に係る原子発振器の構成を示すブロック図である。この
原子発振器40は、原子共鳴周波数と入力されたマイクロ波周波数との差を周波数誤差信
号として出力する原子共鳴器1と、原子共鳴周波数に同期した周波数の信号を出力する電
圧制御型圧電発振器(以下、VCXOと呼ぶ)2と、周波数誤差信号に応じた制御信号を
生成し、VCXO2を制御する周波数制御器3と、前記電圧制御型圧電発振器の出力信号
を基準信号として、ループ内の発振器からの出力との位相差が一定になるよう、ループ内
発振器にフィードバック制御をかけて発振をさせるPLL回路4と、を備えた原子発振器
40であって、PLL回路4は、VCXO2の出力周波数を1/Rに分周する1/R分周
器5と、VCXO2に同期したマイクロ波周波数を生成する電圧制御発振器(以下、VC
Oと呼ぶ)6と、VCO6から出力されるマイクロ波周波数を分周する1/Mプリスケー
ラ7と、1/Mプリスケーラ7の出力周波数をK/Lに分周するK/L分周器8と、1/
R分周器5の出力とK/L分周器8の出力との位相差を出力する位相比較器9と、位相比
較器9の出力に基づいて直流分を取り出すLPF10と、を備えて構成されている。
【0015】
そして、K/L分周器8は、1/R分周器5の出力周波数をFpd、1/Mプリスケー
ラの出力周波数をFpoとすると、K/L分周器8の分周比K/LをFpo/Fpdによ
り決定する。
即ち、PLL回路4は、1/R分周器5とK/L分周器8により、VCO6のマイクロ
波周波数が、VCXO2の周波数の整数倍でなくても位相同期が可能な構成になっている
ことが必要である。つまり、原子共鳴器1の周波数とVCXO2の周波数は、整数で割り
切れるとは限らず、端数が必ず発生する。従って、整数部分と少数部分に分かれるため、
分周比K/Lを決定してその分周比で分周することが必要である。これにより、原子共鳴
周波数を得るためにシンセサイザーが不要となり、調整箇所の削減と低消費電力化が可能
となる。
【0016】
また、K/L分周器8がフラクショナル分周器により構成されている。フラクショナル
PLL回路は、PLL回路の負帰還ループ中の分周器の分周比Nが整数だけでなく分数(
小数)を含む有理数である。このフラクショナルN分周によって、与えられたチャンネル
スペーシングに対する広いループ帯域は高速・セットリングタイムを可能とし、電圧制御
発振器に要求される位相ノイズ要求を低くすることができる。
また、PLL回路4をモジュール化することで、筐体や構造を変えずに、簡単にルビジ
ウム・セシウム等の原子共鳴周波数に対応することができる。
【0017】
次にフラクショナルPLLの計算例について説明する。
ここで、位相比較周波数をFPD=REFIN/R、VCO出力周波数をFLO、プリ
スケーラ出力周波数をFPO=FLO/Mとすると、このための分周比はDIV=K/L
=FPO/FPDとなる。
フラクショナルPLLでは、DIVが整数でないのが特徴である。DIVの整数部分を
INTとすると、小数部分はFRAC=FPO/FPD−INTとなる。
分周比DIVは、INTとINT+1の間の値である。
そこで、整数分周器の分周比をINTとINT+1の間で適切な設定にて切替を行うこ
とにより、平均した分周比がDIVに等しくなるようにすればよい。
今、分周比INTの回数をT1、分周比T2の回数をT2とすると、その平均分周比が
DIVに等しいので、
{INT・T+(INT+1)・T}/(T+T)=FPO/FPD
これを変形すると、
T2/T1=(FPO/FPD−INT)/{1−(FPO/FPD−INT)=FR
AC/(1−FRAC)
となり、T1とT2の比が求まるので、最も小さい整数比をT1とT2とすればよい。
【0018】
図2は本発明の第2の実施形態に係る原子発振器の構成を示すブロック図である。
図2が図1と異なる点は、図1の1/R分周器5とK/L分周器8の配置を入れ替えた
点である。位相比較器9は1/R分周器5とK/L分周器8との位相を比較して、その差
分又は加算分を生成するので、基本的にはどちらに配置されても構わない。
図3は図1の回路構成に基づいて計算した結果を一覧にした図である。図3(a)はM
=1の場合の計算結果を示し、図3(b)はM=10の場合の計算結果を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1 原子共鳴器、2 VCXO、3 周波数制御器、4 PLL回路、5 1/R分周器
、6 VCO、7 1/Mプリスケーラ、8 K/L分周器、9 位相比較器、10 L
PF、40 原子発振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子共鳴周波数と入力されたマイクロ波の周波数との差を周波数誤差信号として出力す
る原子共鳴器と、該原子共鳴周波数に同期した周波数の信号を出力する電圧制御型圧電発
振器と、前記周波数誤差信号に応じた制御信号を生成し、前記電圧制御型圧電発振器の出
力信号の周波数を制御する周波数制御器と、前記電圧制御型圧電発振器の出力信号を基準
信号として、ループ内の発振器からの出力信号との位相差が一定になるよう、ループ内発
振器にフィードバック制御をかけて発振をさせるPLL回路と、を備えた原子発振器であ
って、
前記PLL回路は、前記電圧制御型圧電発振器の出力周波数を1/Rに分周する1/R
分周器と、
前記電圧制御型圧電発振器の出力信号の周波数に同期した周波数の前記マイクロ波を生
成する電圧制御発振器と、
該電圧制御発振器から出力されるマイクロ波の周波数を分周する1/Mプリスケーラと

該1/Mプリスケーラの出力周波数をK/Lに分周するK/L分周器と、
前記1/R分周器の出力とK/L分周器の出力との位相差を出力する位相比較器と、
該位相比較器の出力に基づいて直流分を取り出すLPFと、を備え、
前記K/L分周器は、前記1/R分周器の出力をFpd、前記1/Mプリスケーラの出
力をFpoとすると、前記K/L分周器の分周比K/LをFpo/Fpdにより決定する
ことを特徴とする原子発振器。
【請求項2】
前記K/L分周器がフラクショナル分周器により構成されていることを特徴とする請求
項1に記載の原子発振器。
【請求項3】
前記PLL回路をモジュール化したことを特徴とする請求項1又は2に記載の原子発振
器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−244120(P2011−244120A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112881(P2010−112881)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】