説明

原料選定システム、該システムで選ばれた原料を使用する加工食品の製造方法

【課題】大腸菌群を死滅させ得ない工程を製造工程に含む加工食品において、大腸菌群陰性を保証する。
【解決手段】大腸菌群を死滅させ得る殺菌工程を経ずに加工食品に配合される食品原料を選定するシステムであって、大腸菌群陰性が適正な根拠に基づき規格化されている原料であることを確認する工程を有するシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工食品の大腸菌群が陰性であることを保証するための食品原料を選定するシステム、及び大腸菌群を死滅させ得ない工程を製造工程に含む加工食品において大腸菌群を陰性にするための加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年企業の品質保証体制に対する世間の関心度が高まり、食品の微生物に対する安全性を今まで以上に明確な根拠に基づいて確立しておく必要が生じてきた。特に大腸菌群は、その性質から環境衛生管理上の尺度を示す汚染指標菌と考えられており、この菌が加工食品中から大量に検出された場合には、食品原料及び製造工程での非衛生的な異常が発生したことが原因と考えられる。自社の管理下で製造する加工食品については、微生物が混入する可能性のある製造工程を把握・管理し、適切な処置を行うことで、製造工程中での大腸菌群汚染は防止できる。しかし、該加工食品に使用する食品原料の大腸菌群汚染については、供給先の品質管理レベルに左右されることになり、該食品原料の品質規格に大腸菌群陰性であることが求められる場合は適切な供給先を選定する必要がある。例えば、レトルト食品のように、食品製造工程の最終段階で十分な殺菌が行われる加工食品では、配合する食品原料が大腸菌群陰性でなくても、大腸菌群は該殺菌工程で死滅されるため、大腸菌群が陰性である食品を提供することができる。しかしながら、例えば乾燥具材を主体とする食品や粉末原料の混合製品等については、食品の品質(風味、外観等)を確保するために製造工程中に大腸菌群を死滅させるだけの殺菌工程を有することができない。このような加工食品については、製造工程での二次汚染を防止し、かつ大腸菌群陰性の食品原料を配合することが必要になる。一般的に食品原料の品質規格は供給先が製品規格書に該当する文書で、規格項目を保証するというような形式を採っているが、大腸菌群陰性が規格化された食品原料であるのにもかかわらず、大腸菌群検査を行うと陽性になるケースが実際にある。その原因を追及すると供給先がその規格に対して適正な根拠を有していないことが確認できた。また先般食品原料の調達先が海外を含めて多様化し、食品原料を海外の工場で製造して国内に輸入するケースも増加しており、加工食品の微生物、特に製造工程中に大腸菌群を死滅させるだけの殺菌工程が無い加工食品の大腸菌群に対する安全性を確立するためには、配合する食品原料の大腸菌群陰性を保証するための包括的で、迅速かつ実効性の高いシステムの構築が必要になってきた。しかしこのような包括的で、迅速かつ実効性の高いシステムは一般的に構築されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、加工食品の製造において、大腸菌群陰性を保証するための包括的で、迅速かつ実効性の高いシステム、および大腸菌群を陰性にするための加工食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、以下のシステムおよび方法を提供するものである。
1. 大腸菌群を死滅させ得る殺菌工程を経ずに加工食品に配合される食品原料を選定するシステムであって、大腸菌群陰性が適正な根拠に基づき規格化されている原料であることを確認する工程を有するシステム。
2. 前記確認工程により大腸菌群陰性であることが確認された食品原料をポジティブリスト化し、該リストに掲載されている原料のみを使用するように運用される、項1に記載のシステム。
3. 大腸菌群陰性の根拠が適正であるか否かを以下の基準(A)または(B)に従い判断することを特徴とする項1または2に記載のシステム:
基準(A):食品原料の製造工程中に湿熱工程が含まれる場合、該湿熱工程が下記式(I)の殺菌指標を満たし、かつ、品質管理体制が適切であれば、大腸菌群陰性の根拠は適切であると判定する;
t≧30×10(68−T)/8.18 (I)
(式中、Tは食品原料の湿熱処理時の温度であり、tは食品原料の湿熱処理時間である)
基準(B):食品原料の製造工程に湿熱工程が含まれない場合、食品原料の元原料の大腸菌群陰性規格の有無および受入れ検査体制を含む食品原料の製造工程を把握し、必要に応じて工場視察および/または細菌検査結果も含めて食品原料の大腸菌群陰性の根拠が適切か否かを判定する。
4. 前記品質管理体制を製造ラインの洗浄方法、製造ラインの拭き取り検査、出荷前微生物検査、元原料の微生物検査からなる群から選ばれる少なくとも1種の項目を含む調査結果に基づき評価する項3に記載の方法。
5. 少なくとも1種の食品原料を、大腸菌群を死滅させ得ない工程で添加することを特徴とする加工食品の製造方法であって、項1〜4のいずれかに記載のシステムにより大腸菌群陰性であると確認された食品原料のみを、大腸菌群を死滅させ得ない工程で添加することを特徴とする大腸菌群陰性の加工食品の製造方法。
6. 前記加工食品がルウ製品であり、加熱・冷却混合手段として、一組の連絡して設けられた2基のバッチ式加熱混合手段1及びバッチ式冷却混合手段2を用い、以下の工程;
(1)油脂と小麦粉を品温100℃以上に加熱混合処理して小麦粉ルウを製造する工程、
(2)該小麦粉ルウを、バッチ式加熱混合手段1よりバッチ式冷却混合手段2に移す工程、
(3)大腸菌群が陰性でない食品原料をバッチ式冷却混合手段2に97℃以上で投入する工程、及び/又は、バッチ式冷却混合手段2に任意の温度で前記請求項1〜4のいずれかに記載のシステムにより大腸菌群陰性であると確認された食品原料を添加する工程、
を含むことを特徴とする項5に記載の方法。
7. 小麦粉ルウをバッチ式冷却混合手段2に移してから、4時間以内にルウの品温を65℃以下まで冷却混合する工程をさらに包含する、項5または6に記載の方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、大腸菌群を死滅させ得ない工程を製造工程に含む加工食品において、大腸菌群陰性を保証することが可能になる。より具体的には、前記加工食品に配合する原料の選定時に、大腸菌群陰性が適正な根拠に基づき規格化されている原料を選定することで、原料由来の大腸菌群汚染をなくすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本明細書において、「大腸菌群を死滅させ得る殺菌工程を経ずに加工食品に配合される食品原料」とは、加工食品の製造工程において、大腸菌群を死滅させ得る殺菌工程を経ずに配合される原料のことを意味し、原料自体が製造される際に大腸菌群を死滅させ得る殺菌工程を経たものであっても当該食品原料に含まれる。
【0007】
本発明において、大腸菌群を死滅させ得ない工程を製造工程に含む加工食品としては、ルウ製品、乾燥具材製品、粉末飲料製品、粉末製品、粉末顆粒製品、食用油脂を含む食品等が挙げられる。
【0008】
本発明において、加工食品としては、具体的には以下のものが挙げられる:
ルウ製品:カレールウ、ハッシュドビーフルウ、ハヤシルウ、シチュールウ、スープルウ、ソースルウ等、
乾燥具材製品:AD野菜、AD果実、AD畜産品、AD魚介類、FD野菜、FD果実、FD畜産品、FD魚介類等を混合充填した製品、
粉末飲料製品:粉末ココア、粉末スープ、粉末ジュース等、
粉末製品:野菜炒めの素、八宝菜の素、粉末炒飯の素、とろみ粉、粉末だし等
粉末顆粒製品:カレー、ハッシュドビーフ、ハヤシ、シチュー、スープ、ソース等。
【0009】
本明細書中で「AD」とは、エアドライのことで、熱風によって食品を乾燥させる方法である。「FD」とは、フリーズドライのことで、食品を凍結させた状態で水分のみを蒸発させる乾燥方法である。
【0010】
これらの製品については、大腸菌群陰性が適正な根拠をもって規格化されている食品原料を選定し、大腸菌群を死滅させ得ない製造工程に選定された食品原料を少なくとも1種以上添加し、製造工程での二次汚染を防止した上で、製品の大腸菌群陰性を保証することができる。
【0011】
このような大腸菌群陰性の食品原料は、大腸菌群陰性の食品原料のみを掲載したポジティブリストを作成し、大腸菌群を死滅させ得る殺菌工程を経ずに加工食品に配合される食品原料として該ポジティブリストに掲載された食品原料のみを使用することで、最終の加工食品においても大腸菌群陰性を保証することができる。該リスト外であっても大腸菌群陰性であることが明らかな原料であれば使用可能であるが、大腸菌群陰性であることが明らかな原料であってもポジティブリストに掲載するのが望ましい。
【0012】
大腸菌群陰性の食品原料の選定基準を満たすか否かの判断及びポジティブリストへの掲載手続きは、限定されるものではないが、例えば以下の方法で行うことができる。
大腸菌群陰性根拠の判断方法
原料の製造工程に湿熱下での加熱工程がある場合、該湿熱条件が下記式(I)の条件を満たすか否かを検討する。前記原料の前処理工程における加熱時の物性・性状を種々検討した結果、これらの原料の大腸菌群に対する安全性を評価するための指標となる下記式(I)を見出した。前記原料の大腸菌群に対する安全性の評価は、前記原料の製造工程における加熱(殺菌)温度に対して大腸菌群に対する安全性を確保するために必要な加熱時間を算出し、実際の加熱時間と比較評価することにより行う。
【0013】
下記式(I)の殺菌指標を満たし、かつ品質管理体制が適正であれば、大腸菌群陰性と判断してもよい。品質管理体制は、例えば、品質管理に関する調査票を作成し、その判断基準をもとに評価することができる。
t≧30×10(68−T)/8.18 (I)
(式中、Tは食品原料の湿熱処理時の温度であり、tは食品原料の湿熱処理時間である)
なお、加熱工程が湿熱下であるか否かの判断が難しい場合があるが、そのような場合は製造工程を詳細に把握することで、湿熱殺菌であるかどうかを判断することができる。
【0014】
式(I)の具体的な使用条件を図1に示す。図1において、指標直線(◆を結ぶ直線)より上のポイントになるように実際の殺菌時間の設定が出来ていれば、大腸菌群陰性であると判断できる。
【0015】
例えば、AD具材製造工程のうち、水浸漬後の熱風乾燥は湿熱殺菌工程と見ることができる。また、FD工程や、水浸漬のない熱風乾燥工程は湿熱殺菌工程とは見なさない。
【0016】
品質管理体制の評価については、限定されるものではないが、例えば品質管理に関する調査票を作成または取り寄せ、その適正判断基準をもとに、大腸菌群陰性根拠の適正を判断する。
【0017】
品質管理に関する調査票の具体的な内容(例えば原料の選別基準、および製造工程における二次汚染の防止等)としては、例えば以下の基準I〜IVが挙げられる。
【0018】
下記の基準I〜IVのすべての項目に適切な記載があることが望ましい。但し、基準Iについては、基準II〜IVを根拠としても良い。
【0019】
また、原料の選別基準は、製造工場毎に適正判断を行うのが原則である。例えば、中間原料までを中国で生産し、日本に輸入する場合、中国工場、日本工場ともに原料の選別基準に適合するか否かを確認する。これは、日本国内の2以上の工場で製造する場合も同様である。
【0020】
基準I:大腸菌群陰性の根拠は、可能な限り詳細に調査票に記入する。
【0021】
記載事項に問題がないことを確認する。以下の基準II〜IVの取組みにより、大腸菌群陰性の原料を使用又は大腸菌群の十分な加熱殺菌がされており、かつ当該製造工場での大腸菌群汚染がないことが明らかになれば、大腸菌群陰性の原料であることを確認または保証できる。
【0022】
例えば、原料の製造工程中に、原料選定基準の殺菌指標式(I)により算出された時間以上のブランチング工程があり、かつ、製造ラインでの大腸菌群汚染もないことが確認された場合、大腸菌群陰性の原料の選別基準を満たすと判断される。但し、製造ラインでは、基準IIに示す方法で衛生的な生産を行い、殺菌後のラインは完全な密閉系であり、かつラインでの微生物の増殖がない、ことなどが確認される。別の例としては、製品保存中に速やかに大腸菌群が死滅することが示された場合(例えばアルコールを溶媒とする原料や食用油脂を主成分とする原料等)、大腸菌群陰性と判断できる(この場合には データの提示が通常必要とされる)。さらに他の例としては、製造工程中に殺菌剤(例えば次亜塩素酸Na)による殺菌を行うことが記載されている場合、原料選定基準に合格すると考え得る(但し、この場合には、当該殺菌により大腸菌群が陰性であることを示すデータの提示が通常必要になる。)
基準II(1) 製造ライン(施設設備・機械器具)の洗浄・消毒方法
洗浄・消毒方法と洗浄剤の濃度、洗浄・消毒の温度、時間、頻度の確認を行う。その上で、以下の表1の判断目安を参考に原料選別基準に適合するか否かを判断する。
【0023】
製造ラインの特徴上、該項目の記載が十分にできない場合には、基準II-2の製造ラインの拭き取り検査の実施実態を含めて判断するのが望ましい。
【0024】
【表1】

【0025】
本明細書中で「CIP」とは、Cleaning In Placeの略称であり、定置洗浄のことである。CIP洗浄は、機器や部品を分解することなく、設備構成の中に洗浄機能を組み込ませて構築を行い、洗剤溶液の科学エネルギー・熱エネルギー・運動エネルギーを利用して洗浄する方法をいう。
【0026】
基準II(2) 製造ライン(施設設備・機械器具)の拭き取り検査について
基準II(1)を満足しない場合、拭き取り検査の実施により製造ラインの汚染がないことを確認してもよい。拭き取り検査は、常法により行い、例えば1度/月以上の頻度での実施が望ましい。
【0027】
拭き取り検査を実施しない場合、納得できる理由が明記されていてもよい。
【0028】
拭き取り検査では、大腸菌群(DESO培地等を使用する)が陰性であれば基準IIを満たすものとする。
【0029】
基準III 出荷前 微生物検査
試験方法としては、大腸菌群推定試験(DESO培地使用)、大腸菌群推定試験(BGLB培地使用)等が挙げられる。
【0030】
微生物検査が規格値の場合、バッチまたはロット毎に微生物検査を実施し、規格値内であることを確認すればよい。
【0031】
微生物検査が保証値の場合には大腸菌群陰性である根拠について納得性があるかを検討する。
本明細書中で「規格値」とは、出荷判定基準のことであり、その値がその範囲内に収まることを保証する項目である。また「保証値」とは、その値がその範囲内に収まることを保証する項目であるが、出荷判定の為の定期的な分析・検査による確認は実施していない項目である。
【0032】
基準IV 元原料受け入れ微生物検査
大腸菌群を殺滅する工程が原料製造ラインにない場合は、元原料の受入れ微生物検査、又は大腸菌群陰性が保証されている元原料の使用が必要である。
【0033】
例えば、ロット毎に元原料の微生物検査結果(例えばDESO培地等による細菌検査で大腸菌群陰性)を確認して使用すれば、基準IVに合格と判定する。
【0034】
或いは、以下のように原料の大腸菌群の陰性根拠が明確である場合には、元原料の受入れ微生物検査の実施が無くても、基準IVに合格と判定する。
・製造工程中で大腸菌群は殺滅されるため(←基準Iに根拠記載が必要)
・大腸菌群陰性が保証されている元原料を使用し、衛生的な生産体制を確立しているため
・食品保存中に大腸菌群が死滅するため(← データの提示が必要)
上記の基準II〜IVは、湿熱加熱工程がある場合(基準(A))の品質管理体制と湿熱加熱工程がない場合(基準(B))の食品原料の製造工程を把握の両方に適用可能である。
【0035】
以上において、通常行うべき大腸菌群陰性根拠の判断方法を記したが、必要に応じて工場視察や細菌検査を実施し、総合的に陰性根拠を確認するのが望ましい。
【0036】
なお、ポジティブリストに掲載した大腸菌群陰性の食品原料に関し、関連書類(原料納入規格書、及び品質管理体制に関する調査票とその他付属資料(殺菌データなど))をファイリングして記録を残すことが望ましい。
【0037】
次に、加工食品としてルウ製品を例に取り、その製造方法について説明する。
本発明においては、連絡して設けられた1基のバッチ式加熱混合手段及び1基のバッチ式冷却混合手段を併設して備え、該加熱手段の処理物を冷却混合手段へ移送する為の移送手段とを備えて構成される。
【0038】
つまり本発明は、上記のように、上記の装置を用いて、上記工程(2)により設定通り加熱混合処理された小麦粉ルウに大腸菌群が陰性でない食品原料を97℃以上で加えることで、65℃以下まで冷却されるまでにその余熱により大腸菌群が殺菌される。
【0039】
本明細書中で「小麦粉ルウ」とは、澱粉系原料(小麦粉、澱粉等)と油脂とを品温100℃以上に加熱混合(通常100〜150℃)したものである。本発明の小麦粉ルウは、油脂及び澱粉系原料に加えて、カレー粉、食塩、砂糖等の調味料を含有し得る。原料の風味・香りを引き立たせ、かつ相互に馴染ませる効果を適切に得る上で小麦粉ルウ40〜70重量部(通常、油脂40〜55部及び澱粉系原料45〜60部からなる。なお、以下重量部を部と略称する)を用いると良い。
【0040】
本発明で使用される混合装置の基本態様は次の構成からなる(図2)。混合装置は、連絡して設けられたバッチ式加熱混合手段1と1基のバッチ式冷却混合手段2を備えてなる。バッチ式加熱混合手段1は、壁面に熱媒ジャケット(図示せず)を備える等、原料を加熱するための適宜手段を備え、必要に応じて原料を撹拌するための撹拌手段3を備える。バッチ式冷却混合手段2は、小麦粉ルウや風味原料混合物等の原料を冷却するための冷媒ジャケットを備える等原料を冷却するための適宜手段を備え、必要に応じて原料を撹拌するための撹拌手段4を備える。また原料の品温低下を抑えるための熱媒ジャケットを備えることも出来る。バッチ式加熱混合手段1は、圧送ポンプ等の移送装置5によりバルブ6を介して移送管で連絡され、要するにバッチ式加熱混合手段1からバッチ式冷却混合手段2に処理物の移送を可能にするように連絡すればよい。図示した装置では、バッチ式加熱混合手段1からバッチ式冷却混合手段2に処理物が移送され、バッチ式冷却混合手段2の下流側にはストレージタンク、充填装置等が適宜設けられる。本明細書中で「ストレージタンク」とは、冷却混合処理後充填処理する前に、一旦ルウをストックするためのタンクのことである。ストレージタンクに移送されたルウ中の食塩、砂糖等の粉体原料の沈降を抑制するため、ストレージタンクに撹拌装置を設けて、ルウを撹拌することが望ましい。
【0041】
これによりルウの製造工程において、工程(1)バッチ式加熱混合手段1で小麦粉ルウを製造後、工程(2)バッチ式冷却混合手段2に移し、工程(3)大腸菌群が陰性でない食品原料をバッチ式冷却混合手段2に97℃以上で投入し、及び/又は、バッチ式冷却混合手段2に大腸菌群陰性が確認された食品原料を任意の温度で投入する。必要な場合には、4時間以内にルウの品温を65℃以下まで冷却混合することができる。
【0042】
なお、工程(3)と工程(4)の添加順序は任意であり、先に大腸菌群陰性が確認された食品原料を投入し、その後に大腸菌群が陰性でない食品原料を投入しても良い。また、大腸菌群が陰性でない食品原料を使用しない場合には、当然に工程(2)の後に工程(4)を行う。
【0043】
大腸菌群陰性が確認された食品原料は、原料の風味特性に合わせた温度で投入される。大腸菌群陰性が確認された食品原料は既に上記システムにより大腸菌群陰性が保証されているので、どの温度で投入しても最終製品の大腸菌群陰性に影響しない。例えば、97℃以上の温度で投入しないと風味特性を発揮できない場合や、70℃以下で投入しないと風味が損なわれる場合等では、そのような適切な温度で投入される。
【0044】
本発明でバッチ式冷却混合手段2に投入する大腸菌群が陰性でない食品原料は、97℃以上、好ましくは97〜135℃、より好ましくは97〜115℃、より好ましくは97〜105℃で投入する。上記範囲より高温であると、原料に焦げ風味がでやすい等の問題がある。97℃未満で大腸菌群が陰性でない食品原料を投入すると、製造工程中での余熱による大腸菌群の殺菌効果が十分に得られないため、大腸菌群の残存率が10の5乗分の1を上回り、大腸菌群が陰性である製品を提供できなくなってしまう。一般に商業的にある特定の菌が無い状態、すなわち無菌と言われるのは、ある特定の菌数の残存率が10の5乗分の1以下を言い、本発明においても大腸菌群の残存率が10の5乗分の1以下である時に大腸菌群が陰性である食品を提供できたと言える。
【0045】
本発明の好ましい実施形態においては、バッチ式加熱混合手段1で小麦粉ルウを製造後、バッチ式冷却混合手段2に移してから、4時間以内、好ましくは3時間以内、より好ましくは2時間以内にルウの品温が65℃以下まで冷却混合する。上記時間より長くなるとルウに配合される種々の食品原料のロースト感が増すため、ルウ製品全体の風味に大きく影響する。また工業レベルで行う場合作業効率が悪くなり、エネルギーロスとなる等の問題が生じるため好ましくない。また冷却混合処理は、小麦粉ルウを含む全部の原料を混合処理して、各原料の風味を引き立たせ、かつ相互に馴染ませるために行う。この効果を得る上で、冷却混合処理をルウの品温が65℃以下、好ましくは50〜65℃まで行うのがよい。上記品温より低温になると、ルウの粘度が上昇するため、充填装置により容器に充填できなくなる。(固体脂の融点以上で原料が溶融状態でないと充填できない)。上記品温より高いと、充填装置により容器に充填し、固化させた時に、固化するのに時間を要し、ルウ表面の油脂が粗大結晶化を起こしたり、ルウ表面に油浮きを生じることがあるので望ましくない。
【0046】
また大腸菌群が陰性でない食品原料の投入量は、大腸菌群100個/gの食品原料をルウ中の20重量%以下、好ましくは15重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。これ以上投入量が増えると製造工程中での余熱による大腸菌群の殺菌効果が十分に得られないため、大腸菌群の残存率が10の5乗分の1を上回り、大腸菌群が陰性である製品を提供できなくなってしまう。
【0047】
例えば、上記の装置を用いて、大腸菌群100個/gの食品原料をルウ中に10重量%配合されるように97℃で投入し、その他大腸菌群陰性が適正な根拠に基づき規格化されていると確認された食品原料と冷却混合を行い、50分後にルウの品温が65℃になった。75℃でのF値は95分であった。この時のルウ中の大腸菌群の残存率は10の5.4乗分の1であり、実質的に大腸菌群陰性のルウ製品が得られることが確認される。
【0048】
本明細書中で「Z値」は、D値の10倍の変化に対応する温度変化のことである。「D値」は一定温度で微生物を加熱した時、生菌数を10分の1に減少させる為に必要な時間である。また「F値」は一定数の微生物を殺滅するために必要な加熱時間のことである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】大腸菌群の殺菌温度と殺菌時間の関係を示す。
【図2】本発明で使用される混合装置の基本態様を示した図を示す。
【符号の説明】
【0050】
1 加熱混合手段
2 冷却混合手段
3 攪拌手段
4 攪拌手段
5 移送装置
6 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腸菌群を死滅させ得る殺菌工程を経ずに加工食品に配合される食品原料を選定するシステムであって、大腸菌群陰性が適正な根拠に基づき規格化されている原料であることを確認する工程を有するシステム。
【請求項2】
前記確認工程により大腸菌群陰性であることが確認された食品原料をポジティブリスト化し、該リストに掲載されている原料のみを使用するように運用される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
大腸菌群陰性の根拠が適正であるか否かを以下の基準(A)または(B)に従い判断することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシステム:
基準(A):食品原料の製造工程中に湿熱工程が含まれる場合、該湿熱工程が下記式(I)の殺菌指標を満たし、かつ、品質管理体制が適切であれば、大腸菌群陰性の根拠は適切であると判定する;
t≧30×10(68−T)/8.18 (I)
(式中、Tは食品原料の湿熱処理時の温度であり、tは食品原料の湿熱処理時間である)
基準(B):食品原料の製造工程に湿熱工程が含まれない場合、食品原料の元原料の大腸菌群陰性規格の有無および受入れ検査体制を含む食品原料の製造工程を把握し、必要に応じて工場視察および/または細菌検査結果も含めて食品原料の大腸菌群陰性の根拠が適切か否かを判定する。
【請求項4】
前記品質管理体制を製造ラインの洗浄方法、製造ラインの拭き取り検査、出荷前微生物検査、元原料の微生物検査からなる群から選ばれる少なくとも1種の項目を含む調査結果に基づき評価する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1種の食品原料を、大腸菌群を死滅させ得ない工程で添加することを特徴とする加工食品の製造方法であって、請求項1〜4のいずれかに記載のシステムにより大腸菌群陰性であると確認された食品原料のみを、大腸菌群を死滅させ得ない工程で添加することを特徴とする大腸菌群陰性の加工食品の製造方法。
【請求項6】
前記加工食品がルウ製品であり、加熱・冷却混合手段として、一組の連絡して設けられた2基のバッチ式加熱混合手段1及びバッチ式冷却混合手段2を用い、以下の工程;
(1)油脂と小麦粉を品温100℃以上に加熱混合処理して小麦粉ルウを製造する工程、
(2)該小麦粉ルウを、バッチ式加熱混合手段1よりバッチ式冷却混合手段2に移す工程、
(3)大腸菌群が陰性でない食品原料をバッチ式冷却混合手段2に97℃以上で投入する工程、及び/又は、バッチ式冷却混合手段2に任意の温度で前記請求項1〜4のいずれかに記載のシステムにより大腸菌群陰性であると確認された食品原料を添加する工程、
を含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
小麦粉ルウをバッチ式冷却混合手段2に移してから、4時間以内にルウの品温を65℃以下まで冷却混合する工程をさらに包含する、請求項5または6に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−271341(P2006−271341A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−99933(P2005−99933)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】