説明

原着ポリ乳酸仮撚糸及びその製造方法並びにカーペット

【課題】嵩高性に優れ、高タフネスで耐摩耗性及び伸縮性に優れた原着ポリ乳酸仮撚糸を提供する。
【解決手段】この発明の原着ポリ乳酸仮撚糸は、断面形状が略円形状または円形状の単繊維を有し、着色剤を0.01〜3質量%含有し、相対粘度が2.8〜3.8であるポリ乳酸捲縮糸であって、強度が1.75〜3.5cN/dtex、伸度が35〜60%、総繊度が500〜2000dtex、単糸繊度が1.5〜20dtex、熱水収縮率が2〜8%、乾熱捲縮率が5〜20%であるポリ乳酸捲縮糸が仮撚加工されて得られたポリ乳酸仮撚糸からなり、前記ポリ乳酸仮撚糸は、強度が1.5〜2.65cN/dtex、伸度が25〜50%、熱水収縮率が4〜12%、乾熱捲縮率が20〜50%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、嵩高性に優れ、高タフネスで耐摩耗性及び伸縮性に優れた原着ポリ乳酸仮撚糸及びその製造方法、並びに該仮撚糸を用いて構成された、十分なボリューム感を有し、風合いや耐摩耗性及び耐へたり性に優れたカーペットに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は、トウモロコシ等の澱粉から得られる乳酸を原料とする生分解性樹脂であり、微生物等により水と二酸化炭素に分解されることから、自然の物質循環サイクルに適合していて地球環境にやさしい素材として注目されている。このような生分解性樹脂であるポリ乳酸繊維を用いて、車両用オプションマット、家庭用ロールカーペットやラグ等を製作することが検討されている。このポリ乳酸を用いた糸で、現行のナイロン捲縮糸、ポリプロピレン捲縮糸、ポリエステル捲縮糸と同等又は同等以上の物性が得られれば、カーペット用途は勿論のこと、他のインテリア用素材として幅広く展開できることが期待されるところである。
【0003】
しかしながら、従来のポリ乳酸捲縮糸を使用したカーペットは、嵩高性に劣り、摩耗しやすく、へたり易いという欠点があった。このような欠点を抱えていることから、ごく限られた用途にしか実用化されていないのが実状である。これは、ポリ乳酸捲縮糸の強度や伸度等の糸物性および捲縮特性が、現行のナイロン捲縮糸、ポリプロピレン捲縮糸、ポリエステル捲縮糸と比較して劣っているためである。
【0004】
一方、従来、ポリ乳酸捲縮糸及びその製造方法に関し特許文献1〜3が公知である。特許文献1には、先染め用のポリ乳酸捲縮糸として、強度、捲縮伸長率、捲縮潜在化率、加圧熱水処理後の強力保持率が特定範囲にあるものを用いることにより、染色によって生ずる捲縮糸の強度や捲縮特性の低下を改善できることが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、単繊維の長軸と短軸の長さの比から求めた単繊維断面の扁平率が3〜8で、該単繊維が単繊維繊度5〜25dtexのポリ乳酸繊維で構成されたポリ乳酸扁平捲縮糸を用いることにより、柔らかで嵩高性があり、清涼感がある独特の風合いを有したカーペットを構成できることが記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、原着ポリ乳酸捲縮糸として、単繊維が変形度1.5〜5.5の異形断面形状を有し、かつ相対粘度、強度、捲縮伸長率、捲縮潜在化率、交絡数、交絡点強度が特定範囲にあるものを用いることにより、カーペットとして嵩高性、耐摩耗性、耐へたり性を改善できることが記載されている。
【0007】
また、ポリ乳酸仮撚糸及びその製造方法に関しては特許文献4〜6が公知である。特許文献4には、脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを繊維全体に対して0.1〜5.0質量%含有するポリ乳酸繊維からなる、90℃強度≧0.3cN/dtex、CR≧10%、未解撚数≦3個/10mの特性を備えたポリ乳酸仮撚糸は、工程通過性や生産性に優れ、高温環境下での使用や摩耗性の要求される分野での使用に耐えうるとともに、捲縮特性や寸法安定性に優れていることが記載されている。
【0008】
また、特許文献5には、50重量%以上がポリ乳酸よりなる繊維形成性重合体を溶融紡糸してなるマルチフィラメントを、引取速度4000m/分以上の速度で引き取って得られた未延伸糸を供給原糸とし、摩擦仮撚加工において仮撚ヒーターにて熱セットを行い、冷却ゾーンにて構造固定を行った後、施撚ゾーンにて撚りを施す際の加撚張力(T1)と解撚張力(T2)の比(T2/T1)を3.0以下とし、また施撚体表面速度と糸条走行速度の比(施撚体表面速度/糸条走行速度)を1.0〜2.5の範囲にすることを特徴とするポリ乳酸仮撚糸の製造方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献6には、50重量%以上がポリ乳酸よりなる仮撚糸であって、その沸騰水収縮率が14%以下であり、CR値が10%以上であり、かつ残留トルクが110T/m以下であるポリ乳酸仮撚糸を用いれば、高熱収縮率で低嵩高性である欠点を改善し、残留トルクを低減せしめ得て、布帛にした際の品位を向上できることが記載されている。
【特許文献1】特開2005−8997号公報
【特許文献2】特開2005−48303号公報
【特許文献3】特開2005−60850号公報
【特許文献4】特開2004−218182号公報
【特許文献5】特開2004−232170号公報
【特許文献6】特開2005−200800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載されたポリ乳酸捲縮糸は、先染め用のポリ乳酸捲縮糸に関するものであり、該先染め用のポリ乳酸捲縮糸は、染色による加圧熱水処理により、その強度、伸度、捲縮特性は必ず低下する。特に、黒に代表される濃色の場合には、高温熱水(例えば120〜130℃)にて染色することが不可欠であり、このために物性低下が顕著である。従って、特許文献1に記載のポリ乳酸捲縮糸を用いて濃色系のカーペットを構成した場合には、その嵩高性、耐摩耗性、耐へたり性の改善の程度はまだ不十分であった。
【0011】
また、特許文献2に記載の技術で得られたポリ乳酸扁平捲縮糸は、糸物性が不十分であり、特に糸強度が不足しており、このために該ポリ乳酸扁平捲縮糸を用いて構成されたカーペットは、耐摩耗性及び耐へたり性に劣っており、このためにその用途はごく限られたものにならざるを得ない。
【0012】
また、特許文献3に記載された原着ポリ乳酸捲縮糸を用いて構成されたカーペットは、その嵩高性、耐摩耗性、耐へたり性の改善の程度はまだ不十分であり、例えば自動車用オプションマット、自動車用ラインマット、タイルカーペット、家庭用ロールカーペットを構成した場合においてその嵩高性、耐摩耗性、耐へたり性等の耐久性は実用レベルにおいて十分に満足できるものではなかった。なお、特許文献3では、ポリ乳酸繊維の配向・結晶と関係した熱水収縮率等については全く言及されていない。
【0013】
また、特許文献4〜6に記載された原着ポリ乳酸仮撚糸は、編物・織物用途への使用に適するものとして開発されたものであり、即ち仮撚加工後の総繊度が500dtexより細い太さで使用されることを前提にしたものであり、例えばこれら原着ポリ乳酸仮撚糸をカーペット用に適した500〜2000dtexの太さに構成してカーペットを製作する場合には、原着ポリ乳酸仮撚糸を3本から12本合撚糸する必要があり実用的でない。また、カーペットとしての嵩高性、耐へたり性は、実用レベルにおいて十分に満足できるものではなかった。
【0014】
この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、嵩高性に優れ、高タフネスで耐摩耗性及び伸縮性に優れた原着ポリ乳酸仮撚糸及びその製造方法を提供し、また該仮撚糸を用いた、十分なボリューム感を有し、風合いが良好で、嵩高性、耐摩耗性、耐へたり性に優れたカーペットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0016】
[1]断面形状が略円形状または円形状の単繊維を有し、着色剤を0.01〜3質量%含有し、相対粘度が2.8〜3.8であるポリ乳酸捲縮糸であって、強度が1.75〜3.5cN/dtex、伸度が35〜60%、総繊度が500〜2000dtex、単糸繊度が1.5〜20dtex、熱水収縮率が2〜8%、乾熱捲縮率が5〜20%であるポリ乳酸捲縮糸が仮撚加工されて得られたポリ乳酸仮撚糸からなり、
前記ポリ乳酸仮撚糸は、強度が1.5〜2.65cN/dtex、伸度が25〜50%、熱水収縮率が4〜12%、乾熱捲縮率が20〜50%であることを特徴とする原着ポリ乳酸仮撚糸。
【0017】
[2]前記単繊維の断面形状が異形度1.5未満の略円形状または円形状である前項1に記載の原着ポリ乳酸仮撚糸。
【0018】
[3]前記着色剤として、無機顔料及び有機顔料からなる群より選ばれた少なくとも1種の顔料が用いられている前項1または2に記載の原着ポリ乳酸仮撚糸。
【0019】
[4]前項1〜3のいずれか1項に記載の原着ポリ乳酸仮撚糸を構成繊維の少なくとも一部に用いて構成されたカーペット。
【0020】
[5]着色剤及びポリ乳酸を含有し、着色剤含有率が0.01〜3質量%で相対粘度が2.8〜3.8であるポリ乳酸組成物を紡糸して、単繊維の断面形状が異形度1.5未満の略円形状または円形状である紡糸糸を得る紡糸工程と、
前記紡糸糸を70〜125℃に設定された延伸ローラにより3〜6倍に延伸する工程と、
前記延伸された紡糸糸を100〜150℃に設定された熱セットローラにより熱セットする工程と、
前記熱セットされた延伸糸に加熱流体捲縮付与装置を用いて90〜160℃の加熱流体を接触させることによって糸に捲縮を付与する捲縮工程と、
前記捲縮工程を経た捲縮糸を該糸のガラス転移温度よりも低い温度まで冷却する工程と、
前記冷却工程を経た捲縮糸を、オーバーフィード率−20〜−5%の条件下で100〜140℃に設定された熱処理装置で熱処理して仮撚する仮撚工程と、
前記仮撚工程を経た糸を、オーバーフィード率10〜50%の条件下で100〜130℃に設定された熱処理装置で熱処理する熱処理工程とを包含することを特徴とする原着ポリ乳酸仮撚糸の製造方法。
【0021】
[6]着色剤及びポリ乳酸を含有し、着色剤含有率が0.01〜3質量%で相対粘度が2.8〜3.8であるポリ乳酸組成物を紡糸口金から押出して断面形状が異形度1.5未満の略円形状または円形状のフィラメントを得、該フィラメントを冷風で冷却した後、フィラメントを油剤で被覆することによって紡糸糸を得る紡糸工程と、
前記紡糸糸を70〜125℃に設定された延伸ローラにより3〜6倍に延伸する工程と、
前記延伸された紡糸糸を100〜150℃に設定された熱セットローラにより熱セットする工程と、
前記熱セットされた延伸糸に加熱流体捲縮付与装置を用いて90〜160℃の加熱流体を接触させることによって糸に捲縮を付与する捲縮工程と、
前記捲縮工程を経た捲縮糸を該糸のガラス転移温度よりも低い温度まで冷却する工程と、
前記冷却工程を経た捲縮糸を、オーバーフィード率−20〜−5%の条件下で100〜140℃に設定された熱処理装置で熱処理して仮撚する仮撚工程と、
前記仮撚工程を経た糸を、オーバーフィード率10〜50%の条件下で100〜130℃に設定された熱処理装置で熱処理する熱処理工程とを包含することを特徴とする原着ポリ乳酸仮撚糸の製造方法。
【0022】
[7]前記熱セットローラの温度を「S」とし、前記加熱流体捲縮付与装置における加熱流体の温度を「R」としたとき、下記関係式
30℃≧ S−R ≧−10℃
を満足する前項5または6に記載の原着ポリ乳酸仮撚糸の製造方法。
【0023】
[8]前記延伸された紡糸糸を100℃以上であって且つポリ乳酸の軟化点温度以下の温度に設定された熱セットローラにより熱セットする前項5〜7のいずれか1項に記載の原着ポリ乳酸仮撚糸の製造方法。
【0024】
[9]前記熱セットされた延伸糸に加熱流体捲縮付与装置を用いて90℃以上であって且つポリ乳酸の結晶化温度以下の温度の加熱流体を接触させることによって糸に捲縮を付与する前項5〜8のいずれか1項に記載の原着ポリ乳酸仮撚糸の製造方法。
【0025】
[10]前記冷却工程と前記仮撚工程の間に、該冷却工程を経た捲縮糸に交絡処理装置を用いて交絡処理する交絡工程を有することを特徴とする前項5〜9のいずれか1項に記載の原着ポリ乳酸仮撚糸の製造方法。
【0026】
[11]前記仮撚をピン仮撚装置を用いて行う前項5〜10のいずれか1項に記載の原着ポリ乳酸仮撚糸の製造方法。
【0027】
[12]断面形状が略円形状または円形状の単繊維を有し、着色剤を0.01〜3質量%含有し、相対粘度が2.8〜3.8であるポリ乳酸捲縮糸であって、強度が1.75〜3.5cN/dtex、伸度が35〜60%、総繊度が500〜2000dtex、単糸繊度が1.5〜20dtex、熱水収縮率が2〜8%、乾熱捲縮率が5〜20%であるポリ乳酸捲縮糸を、オーバーフィード率−20〜−5%の条件下で100〜140℃に設定された熱処理装置で熱処理して仮撚する仮撚工程と、
前記仮撚工程を経た糸を、オーバーフィード率10〜50%の条件下で100〜130℃に設定された熱処理装置で熱処理する熱処理工程とを包含することを特徴とする原着ポリ乳酸仮撚糸の製造方法。
【0028】
[13]前記仮撚をピン仮撚装置を用いて行う前項12に記載の原着ポリ乳酸仮撚糸の製造方法。
【0029】
[14]前項5〜13のいずれか1項に記載の製造方法で製造された原着ポリ乳酸仮撚糸。
【0030】
[15]前項14に記載の原着ポリ乳酸仮撚糸を構成繊維の少なくとも一部に用いて構成されたカーペット。
【発明の効果】
【0031】
[1]の発明に係る原着ポリ乳酸仮撚糸は、原着捲縮糸を構成する単繊維の断面形状を特定構成に限定すると共に、相対粘度を特定範囲に限定し、かつ強度、伸度、総繊度、単糸繊度、熱水収縮率及び乾熱捲縮率をそれぞれ特定範囲に限定し、このような特定の原着ポリ乳酸捲縮糸が仮撚加工されて得られたものであるから、強度が1.5〜2.65cN/dtex、伸度が25〜50%、熱水収縮率が4〜12%、乾熱捲縮率が20〜50%であり、高タフネスで、嵩高性、耐摩耗性及び耐へたり性に優れると共に伸縮性にも優れている。
【0032】
[2]の発明では、単繊維の断面形状が異形度1.5未満の略円形状または円形状であるから、耐摩耗性をさらに向上させることができる。
【0033】
[3]の発明では、着色剤として、無機顔料及び有機顔料からなる群より選ばれた少なくとも1種の顔料が用いられているから、染料等の他の着色剤を用いる場合と比べて、耐熱性、耐光性、耐候性を向上させることができる利点がある(即ち染料は熱分解しやすいので耐熱性が十分に得られない)。
【0034】
[4]の発明のカーペットは、[1]〜[3]のいずれかの構成の原着ポリ乳酸仮撚糸を構成繊維の少なくとも一部に用いて構成されているから、十分なボリューム感を有し、風合いが良好で、嵩高性、耐摩耗性、耐へたり性に優れている。
【0035】
[5]の発明では、特定条件の工程を経て得られた捲縮糸を、オーバーフィード率−20〜−5%の条件下で100〜140℃に設定された熱処理装置で熱処理して仮撚した後、オーバーフィード率10〜50%の条件下で100〜130℃に設定された熱処理装置で熱処理するので、嵩高性、耐摩耗性及び耐へたり性に優れると共に伸縮性にも優れた原着ポリ乳酸仮撚糸を製造することができる。また、紡糸原料として原着ポリ乳酸を用いているから、後工程として加熱処理のある染色工程を設けなくて済み、これにより加熱処理による悪影響(機械的強度の低下等)を回避できる利点がある。更に、捲縮糸を該糸のガラス転移温度よりも低い温度まで冷却するので、十分な捲縮を付与できる。
【0036】
[6]の発明では、特定条件の工程を経て得られた捲縮糸を、オーバーフィード率−20〜−5%の条件下で100〜140℃に設定された熱処理装置で熱処理して仮撚した後、オーバーフィード率10〜50%の条件下で100〜130℃に設定された熱処理装置で熱処理するので、嵩高性、耐摩耗性及び耐へたり性に優れると共に伸縮性にも優れた原着ポリ乳酸仮撚糸を製造することができる。また、紡糸原料として原着ポリ乳酸を用いているから、後工程として加熱処理のある染色工程を設けなくて済み、これにより加熱処理による悪影響(機械的強度の低下等)を回避できる利点がある。また、ポリ乳酸組成物を紡糸口金から押出してフィラメントを得、該フィラメントを冷風で冷却した後、フィラメントを油剤で被覆することによって紡糸糸を得るから、生産効率良く紡糸糸を製造できると共に、油剤の被覆により糸に平滑性や帯電防止性を付与することができる。更に、捲縮糸を該糸のガラス転移温度よりも低い温度まで冷却するので、十分な捲縮を付与することができる。
【0037】
[7]の発明では、熱セットローラの温度を「S」とし、加熱流体捲縮付与装置における加熱流体の温度を「R」としたとき、下記関係式
30℃≧ S−R ≧−10℃
を満足する条件で製造するので、得られる仮撚糸の強度及び伸度ともに向上させることができる。
【0038】
[8]の発明では、延伸された紡糸糸を100℃以上であって且つポリ乳酸の軟化点温度以下の温度に設定された熱セットローラにより熱セットするから、ポリ乳酸として適度な結晶化を発現させ得て仮撚糸の強度及び伸度ともに向上させることができる。
【0039】
[9]の発明では、熱セットされた延伸糸に加熱流体捲縮付与装置を用いて90℃以上であって且つポリ乳酸の結晶化温度以下の温度の加熱流体を接触させることによって糸に捲縮を付与するから、配向結晶化したポリ乳酸繊維の捲縮付与時の繊維へのダメージが低減され、これにより、得られる原着ポリ乳酸仮撚糸の強度及び伸度を向上させることができる。
【0040】
[10]の発明では、冷却工程を経た捲縮糸に交絡処理装置を用いて交絡処理するから、タフト時の仮撚糸のタフト性を向上させることができる。
【0041】
[11]の発明では、仮撚をピン仮撚装置を用いて行うから、嵩高性、耐摩耗性及び耐へたり性に優れると共に伸縮性にも優れた原着ポリ乳酸仮撚糸を安定して高品質で製造することができる。
【0042】
[12]の発明では、特定構成の捲縮糸を、オーバーフィード率−20〜−5%の条件下で100〜140℃に設定された熱処理装置で熱処理して仮撚した後、オーバーフィード率10〜50%の条件下で100〜130℃に設定された熱処理装置で熱処理するので、嵩高性、耐摩耗性及び耐へたり性に優れると共に伸縮性にも優れた原着ポリ乳酸仮撚糸を製造することができる。
【0043】
[13]の発明では、仮撚をピン仮撚装置を用いて行うから、嵩高性、耐摩耗性及び耐へたり性に優れると共に伸縮性にも優れた原着ポリ乳酸仮撚糸を安定して高品質で製造することができる。
【0044】
[14]の発明では、嵩高性、耐摩耗性及び耐へたり性に優れると共に伸縮性にも優れた原着ポリ乳酸仮撚糸が提供される。
【0045】
[15]の発明では、十分なボリューム感を有し、風合いが良好で、嵩高性、耐摩耗性、耐へたり性に優れたカーペットが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
この発明に係る原着ポリ乳酸仮撚糸は、断面形状が略円形状または円形状の単繊維を有し、着色剤を0.01〜3質量%含有し、相対粘度が2.8〜3.8であるポリ乳酸捲縮糸であって、強度が1.75〜3.5cN/dtex、伸度が35〜60%、総繊度が500〜2000dtex、単糸繊度が1.5〜20dtex、熱水収縮率が2〜8%、乾熱捲縮率が5〜20%であるポリ乳酸捲縮糸が仮撚加工されて得られたポリ乳酸仮撚糸からなり、該仮撚糸は、強度が1.5〜2.65cN/dtex、伸度が25〜50%、熱水収縮率が4〜12%、乾熱捲縮率が20〜50%であることを特徴とする。
【0047】
この発明に係る原着ポリ乳酸仮撚糸は、断面形状が略円形状または円形状の単繊維を有するものであり、相対粘度が2.8〜3.8である。また、この発明の原着ポリ乳酸仮撚糸は、着色剤及びポリ乳酸を含有したポリ乳酸組成物からなる。
【0048】
この発明の原着ポリ乳酸仮撚糸の原料として用いられるポリ乳酸組成物を構成するポリ乳酸は、L−乳酸を主成分とする乳酸モノマーを重合してなるポリ乳酸である。前記乳酸モノマー中の90質量%以上がL−乳酸からなる構成を採用するのが好ましい。即ち、前記乳酸モノマー中に10質量%を超えない範囲でD−乳酸を含有していても良い。使用する乳酸モノマーの光学純度(L体の光学純度)が90%以上であれば、そのポリマー(ポリ乳酸)は結晶性となり好ましく、使用する乳酸モノマーの光学純度(L体の光学純度)が97%以上であれば、融点が170℃前後となり、より一層好ましい。また、この発明の効果を阻害しない範囲であれば、乳酸以外の成分を共重合したものを用いても良い。乳酸以外の成分を共重合した場合、ポリマー分子鎖の全繰り返し単位の70質量%以上100質量%未満、好ましくは80質量%以上100質量%未満、より好ましくは90質量%以上100質量%未満を乳酸単位とする。
【0049】
この発明の原着ポリ乳酸仮撚糸の相対粘度(RV)は2.8〜3.8である必要がある。ここで、前記相対粘度は、20℃、フェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比)の混合溶液で測定した値である。前記相対粘度が2.8未満ではポリ乳酸仮撚糸に十分な強度や伸度を付与することができないし、カーペット用途に適した耐摩耗性を付与することができない。一方、前記相対粘度が3.8を超えると、溶融粘度が高くなり過ぎる結果、紡糸温度を上げる必要が生じ、その結果、得られるポリ乳酸仮撚糸の相対粘度が溶融前のレベルよりもかなり低下し、強度が十分に向上しないし、また製糸し難くなるという問題を生じる。中でも、原着ポリ乳酸仮撚糸の相対粘度は3.0〜3.6であるのが好ましい。
【0050】
また、この発明の原着ポリ乳酸仮撚糸の原料として用いられるポリ乳酸組成物は、着色剤を0.01〜3質量%含有した構成である。このような濃度に設定することにより、仮撚糸に適当な濃度の色を付与することができて意匠性を向上できる。また0.01質量%以上とすることで顔料ムラに起因した色斑の発生を防止できると共に3質量%以下とすることで糸切れ発生を十分に防止することができる。中でも、着色剤の含有率は0.05〜1質量%であるのが好ましい。また、着色剤は、通常用いられる分散剤(オレフィン系化合物等)と併用して用いても良い。
【0051】
なお、この発明の効果を阻害しない範囲であれば、前記ポリ乳酸組成物には、ポリ乳酸以外の他のポリマー(ポリマー粒子を含む)の他、艶消し剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、消臭剤、抗菌剤、抗酸化剤、耐熱剤、耐光剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤を必要に応じて含有せしめても良い。
【0052】
この発明の原着ポリ乳酸仮撚糸は、その構成単繊維の断面形状が略円形状または円形状(即ち丸断面糸)である。このような断面形状にすることによって摩擦等があっても摩耗し難いものとなる、即ち摩擦に強い糸が得られる。中でも、前記単繊維の断面形状が異形度1.5未満(即ち1を超えて1.5未満)の略円形状または円形状であるのが好ましい。異形度が1.5以上であると、ポリ乳酸仮撚糸のカバーリング特性は向上するが、異形度が高いために、ポリ乳酸の硬くて脆い性状が出やすくなり、糸の耐摩耗性が低下するので、好ましくない。なお、前記異形度とは、単糸断面の外接円直径(B)と内接円直径(A)の比B/Aである(図3参照)。
【0053】
更に、この発明の原着ポリ乳酸仮撚糸は、下記(1)〜(6)の特性を満足する原着ポリ乳酸捲縮糸が仮撚加工されて得られた仮撚糸であって、
(1)強度:1.75〜3.5cN/dtex
(2)伸度:35〜60%
(3)総繊度:500〜2000dtex
(4)単糸繊度:1.5〜20dtex
(5)熱水収縮率:2〜8%
(6)乾熱捲縮率:5〜20%
次の(7)〜(10)の特性を備える仮撚糸である。
(7)強度が1.5〜2.65cN/dtex
(8)伸度が25〜50%
(9)熱水収縮率が4〜12%
(10)乾熱捲縮率が20〜50%。
【0054】
前記仮撚加工に使用する原着ポリ乳酸捲縮糸の強度は1.75〜3.5cN/dtexである。前記捲縮糸の強度が1.75cN/dtex未満ではカーペットにした時に仮撚糸の一部がすり切れてしまうことがあり、カーペット用途に適した耐摩耗性を付与することができない。中でも、前記原着ポリ乳酸捲縮糸の強度は2.0〜3.25cN/dtexであるのが好ましく、さらには2.25〜3.25cN/dtexであるのがより好ましい。
【0055】
また、前記仮撚加工に使用する原着ポリ乳酸捲縮糸の伸度は35〜60%である。前記捲縮糸の伸度が35%未満ではカーペットにした時に仮撚糸の一部がすり切れてしまうことがあり、カーペット用途に適した耐摩耗性を付与することができない。中でも、前記原着ポリ乳酸捲縮糸の伸度は40〜55%であるのが好ましい。
【0056】
また、前記仮撚加工に使用する原着ポリ乳酸捲縮糸の総繊度は500〜2000dtexの範囲である。このような範囲であれば、タフテッドカーペット等のカーペット用途に特に適した糸となるが、特にこのような用途への使用に限定されるものではない。中でも、前記原着ポリ乳酸捲縮糸の総繊度は600〜1800dtexの範囲であるのが好ましく、これはタフテッドカーペット用途に特に最適な総繊度の範囲である。
【0057】
また、前記仮撚加工に使用する原着ポリ乳酸捲縮糸の単糸繊度は1.5〜20dtexの範囲である。単糸繊度が1.5dtex未満では、捲縮糸を安定に仮撚加工することが困難であり、また仮撚糸を用いて構成したカーペットは嵩高性が不十分なものとなる。一方、単糸繊度が20dtexを超えると、本発明の原着ポリ乳酸仮撚糸の糸物性を得るのが困難となるし、ポリ乳酸の硬くて脆いという性状が出やすくなって該仮撚糸を用いて構成したカーペットは耐摩耗性が不十分なものとなる。このような傾向は、同じ単糸繊度では、ポリ乳酸繊維の断面形状の異形度が大きくなるのに伴って顕著となる。従って、単繊維の異形度は小さい方が好ましい。中でも、前記原着ポリ乳酸捲縮糸の単糸繊度は1.75〜15dtexの範囲であるのが好ましく、より好ましくは2.0〜10dtexの範囲である。なお、単糸繊度1.5〜20dtexの範囲内において、単糸繊度が細くなる程、ポリ乳酸の硬くて脆いという性状がより軽減され得て、原着ポリ乳酸仮撚糸の強度や伸度をより向上させることができると共に、カーペットとした時の耐摩耗性も向上させることができる。
【0058】
また、前記仮撚加工に使用する原着ポリ乳酸捲縮糸の熱水収縮率は2〜8%の範囲である。熱水収縮率が2%未満では、ポリ乳酸捲縮糸の結晶化度が高くなり、ポリ乳酸の硬くて脆いという性状が出やすくなり、仮撚加工において仮撚糸の強度と伸度がバランス良く発現しないし、カーペットとした時の耐摩耗性が不十分である。一方、熱水収縮率が8%を超えると、該原着ポリ乳酸捲縮糸を仮撚加工した仮撚糸の熱水収縮率を12%以下にすることが困難となる。中でも、前記原着ポリ乳酸捲縮糸の熱水収縮率は3〜6%の範囲であるのが好ましい。
【0059】
また、前記仮撚加工に使用する原着ポリ乳酸捲縮糸の乾熱捲縮率は5〜20%の範囲である。この乾熱捲縮率は、原着ポリ乳酸捲縮糸の嵩高性を示すパラメーターであり、原着ポリ乳酸捲縮糸を100℃の熱風で処理して捲縮を発現させ、その捲縮の程度を示した値である。乾熱捲縮率が5%未満では、捲縮が不十分であり、カーペットとした時の嵩高性が不十分となるし、耐ヘタリ性に劣ったものとなる。一方、乾熱捲縮率が20%を超えるポリ乳酸捲縮糸では、カーペットを構成した時にフェルト様になり好ましい風合いにならない。中でも、前記原着ポリ乳酸捲縮糸の乾熱捲縮率は8〜16%の範囲であるのが好ましく、この場合には、仮撚加工時におけるボビンからの原着ポリ乳酸捲縮糸の引き出しがスムーズに行われるものとなる。
【0060】
また、前記仮撚加工に使用する原着ポリ乳酸捲縮糸の交絡(エンタングル)回数は、20〜40個/mが好ましく、より好ましくは25〜35個/mである。このような交絡回数で交絡処理することにより、仮撚加工時におけるボビンからの捲縮糸の引き出し性及び仮撚糸の巻き取り性を向上させることができ、このように糸道の安定化を十分に図ることができる。
【0061】
しかして、前記原着ポリ乳酸捲縮糸が仮撚加工されて得られた本発明の原着ポリ乳酸仮撚糸は、強度が1.5〜2.65cN/dtexで且つ伸度が25〜50%である。強度が1.5cN/dtex未満または伸度が25%未満であると、カーペットにした時に耐摩耗性に劣り、カーペットの使用中に仮撚糸の一部がすり切れてしまうことがある。中でも、前記原着ポリ乳酸仮撚糸は、強度が1.75〜2.4cN/dtexで且つ伸度が27〜45%であるのが好ましく、この場合には強度が1.75cN/dtex以上で且つ伸度が27%以上であることで高タフネスの仮撚糸となる。特に好ましいのは強度が2.0〜2.4cN/dtexで且つ伸度が30〜40%である原着ポリ乳酸仮撚糸である。なお、前記原着ポリ乳酸捲縮糸を仮撚加工して仮撚糸の強度を2.65cN/dtexより大きく、伸度を50%より大きくすることは困難である。
【0062】
また、前記原着ポリ乳酸捲縮糸が仮撚加工されて得られた本発明の原着ポリ乳酸仮撚糸は、熱水収縮率が4〜12%である。熱水収縮率が4%未満では、ポリ乳酸仮撚糸の結晶化度が高くなり、ポリ乳酸の硬くて脆いという性状が出やすくなり、仮撚糸としての強度と伸度がバランス良く発現しないし、カーペットとした時の耐摩耗性が不十分である。一方、熱水収縮率が12%を超えると、仮撚工程での熱セット処理時に糸収縮が発生するし、また例えばカーペット製造における工程管理の困難性が増大する。中でも、前記原着ポリ乳酸仮撚糸の熱水収縮率は5〜10%の範囲であるのが好ましい。
【0063】
また、前記原着ポリ乳酸捲縮糸が仮撚加工されて得られた本発明の原着ポリ乳酸仮撚糸は、乾熱捲縮率が20〜50%である。この乾熱捲縮率は、原着ポリ乳酸仮撚糸の嵩高性を示すパラメーターであり、原着ポリ乳酸仮撚糸を100℃の熱風で処理して捲縮を発現させ、その捲縮の程度を示した値である。仮撚糸の乾熱捲縮率が20%未満では、捲縮発現が不十分であり、カーペットとした時の嵩高性が不十分となるし、耐ヘタリ性に劣ったものとなる。一方、乾熱捲縮率が50%を超える仮撚糸は、現在の製造技術では得られ難いし、得られたとしてもカーペットを構成した際にフェルト様になり好ましい風合いにならない。中でも、前記原着ポリ乳酸仮撚糸の乾熱捲縮率は25〜45%の範囲であるのが好ましい。
【0064】
また、前記着色剤としては、例えば、無機顔料、有機顔料等が挙げられ、仮撚糸に色彩を与え得るものであれば特に限定されない。前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、亜鉛華、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタン・コバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−鉄系ブラウン等の酸化物、紺青等のフェロシアン化物、群青等の珪酸塩、炭酸カルシウム等の炭酸塩、マンガンバイオレット等の燐酸塩、カーボンブラック、アルミニウム粉、ブロンズ粉、チタン粉末被覆雲母等が挙げられる。また、前記有機顔料としては、例えば、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン、臭素化銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系、ペリレンスカーレット、ペリレンレア、ペリレンマルーン等のペリレン系、イソインドリノン系等が挙げられる。
【0065】
中でも、無機顔料及び有機顔料からなる群より選ばれた少なくとも1種の顔料を用いるのが好ましい。中でも特に好ましいのは、前記着色剤として、カーボンブラック、酸化物系無機顔料、フェロシアン化物系無機顔料、珪酸塩系無機顔料、炭酸塩系無機顔料、燐酸塩系無機顔料、フタロシアニン系有機顔料、ペリレン系有機顔料及びイソインドリノン系有機顔料からなる群より選ばれた少なくとも1種の顔料を用いる構成である。
【0066】
次に、上記特徴を備えた原着ポリ乳酸仮撚糸(38)を製造する方法について順に説明する。
【0067】
まず、前記仮撚加工に使用される原着ポリ乳酸捲縮糸の製造方法について説明する。ポリ乳酸を紡糸して紡糸糸を得る(紡糸工程)。例えば、図1に示すように、ポリ乳酸投入口(10)からポリ乳酸を投入すると共に着色剤投入口(11)から着色剤(顔料等)を投入してベント(13)付き押出機(12)内で溶融混練した後、紡糸ヘッド(14)の先端に取り付けられた紡糸口金(15)から押出してフィラメントを形成する。この時、得られるフィラメントの断面形状が異形度1.5未満の略円形状または円形状になるように紡糸口金(15)の孔の形状を適切に設計する。また、着色剤の混合量は、着色剤含有率が0.01〜3質量%の範囲となるようにする。前記押出機(12)における溶融混練温度は210〜235℃に設定するのが好ましい。前記ポリ乳酸としては、相対粘度が2.8〜3.8であるものを用いる。好ましくは3.0〜3.6であるものを用いる。前記相対粘度は、20℃、フェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比)の混合溶液で測定した値である。相対粘度が2.8〜3.8であるものを用いる理由は、前述したのと同様である。なお、前記着色剤としては、前項で挙示したもの等を用いる。また、前記着色剤としては、着色剤を予めポリ乳酸に添加したマスターバッチとしたものを使用しても良い。また、着色剤は、通常用いられる分散剤(オレフィン系化合物等)と併用して用いても良い。
【0068】
ポリ乳酸は、一般には、そのポリマー中の公定水分率が0.4〜0.5質量%(4000〜5000ppm)である。ポリ乳酸を溶融紡糸に用いるためには、ポリ乳酸中の含有水分率が0.01質量%(100ppm)以下であるのが好ましく、0.005質量%(50ppm)以下であるのがより好ましい。従って、例えば、真空熱風乾燥機を使用して100〜130℃で約5時間以上乾燥することによってポリ乳酸中の水分を低減する。なお、前記押出機(12)としてベント付き二軸押出機を用いる場合には、未乾燥ポリ乳酸の使用が十分に可能であり、ポリ乳酸の相対粘度を保持しながら溶融紡糸することができる。
【0069】
なお、前記紡糸口金(15)の孔の形状や寸法は、ポリ乳酸の溶融粘度、紡糸温度、紡糸後の冷却条件等を考慮して、目的とする原着ポリ乳酸捲縮糸(6)が得られるように設計する。
【0070】
次に、前記紡糸口金(15)から押出されたフィラメントを冷風吹付装置(16)からの冷風によって冷却する(図1参照)。冷風の温度は、10〜30℃であるのが好ましく、より好ましくは15〜25℃である。
【0071】
しかる後、前記フィラメントに油剤付与装置(17)でもって油剤を付与した後、糸を集束して紡糸糸を得る。前記油剤としては、特に限定されるものではないが、例えば平滑剤を主成分とし、乳化剤、帯電防止剤等を含有するもの等が挙げられる。好ましい油剤組成を例示すると、例えば前記平滑剤としてはネオペンチルグリコールジオレエートが好ましく、前記乳化剤としてはポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシアルキレンソルビタンエステルが好ましく、前記帯電防止剤としてはポリオキシエチレンアルキルホスフェート塩が好ましい。また、必要に応じ、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤が前記油剤に添加されていても良い。前記油剤における各成分の好適な含有比率は、平滑剤35〜75質量%、乳化剤20〜60質量%、帯電防止剤0.5〜8質量%である。
【0072】
前記油剤を付与することによって、原着ポリ乳酸捲縮糸の製造における紡糸・延伸工程における強度や伸度の安定的確保及び捲縮工程における捲縮の発現状態の安定性の確保を図ることができる。また、この発明の原着ポリ乳酸仮撚糸を用いたカーペットの静電気発生の抑制、糸表面の摩擦係数低減を図ることができ、これにより該カーペット表皮の耐摩耗性をさらに向上させることができる。
【0073】
次いで、前記紡糸糸を所定の速度で回転する引き取りローラ(1)で捲回して引き取る。前記引き取りローラ(1)の引き取り速度は400〜1000m/分であるのが好ましい。引き取り速度が400m/分未満では紡糸時の糸条張力が低くなり過ぎるので好ましくない。一方、引き取り速度が1000m/分を超えると、延伸速度及び捲縮加工が高速となることから、現行の実用プロセスでは製造が困難である。
【0074】
次いで、前記引き取りローラ(1)で引き取られた紡糸糸を、ローラ群(2)(3)(4)を用いて1段または2段以上の多段で熱延伸する。即ち、まず、前記引き取られた紡糸糸を予熱ローラ(2)に導き、この予熱ローラ(2)で紡糸糸の予熱を行う。この時、予熱ローラ(2)の温度を55〜95℃の範囲に設定するのが好ましい。このような温度範囲に設定した場合には均一な予備加熱を実現することができる。中でも、前記予熱ローラ(2)の温度は55〜70℃の範囲に設定するのがより好ましい。
【0075】
しかる後、前記紡糸糸を予熱ローラ(2)から延伸ローラ(3)に導く。この時、延伸ローラ(3)の温度を70〜125℃の範囲に設定する。70℃未満では延伸ムラが生じやすいし、十分に延伸することが困難で糸切れを生じやすい。一方125℃を超えると工程途中で糸に弛みを生じる。前記延伸ローラ(3)の温度は85〜120℃の範囲に設定するのが好ましく、特に好適なのは95〜120℃である。なお、上記温度範囲内において、延伸ローラ(3)の温度は予熱ローラ(2)の温度よりも高い温度に設定する。
【0076】
また、延伸倍率は3〜6倍とする。3倍未満では十分な強度が得られなくなるし、6倍を超えると毛羽が顕著に発生するものとなる。中でも、前記延伸倍率は3.5〜5.0倍とするのが好ましい。
【0077】
前記延伸ローラ(3)の温度を70〜125℃の範囲に設定し、かつ延伸倍率を3〜6倍に設定することにより、本発明の原着ポリ乳酸仮撚糸の高強度・高伸度及び高捲縮特性を得ることが可能となり、これにより該仮撚糸をカーペットの構成糸として使用した時のカーペットとしての優れた嵩高性、耐摩耗性を実現できる。
【0078】
しかる後、前記紡糸糸を延伸ローラ(3)から熱セットローラ(4)に導き、ここで熱セットする。この時、熱セットローラ(4)の温度を100〜150℃の範囲に設定する。このような温度範囲に設定することにより、ポリ乳酸繊維として適度な結晶化を発現させ得て捲縮糸の強度及び伸度ともに向上させることができる。中でも、前記熱セットローラ(4)の温度は105〜140℃の範囲に設定するのが好ましく、さらに好適なのは110〜130℃であり、最も好適なのは110〜125℃である。また、前記熱セットローラ(4)の温度は、100〜150℃の範囲内で、前記延伸ローラ(3)の温度よりも高い温度に設定するのが好ましい。
【0079】
特に、原着ポリ乳酸捲縮糸の高強度・高伸度及び高捲縮特性を得るためには、前記熱セットローラ(4)の温度をポリ乳酸の軟化点温度(Ts)以下の温度に設定するのが好ましい。即ち、前記熱セットローラ(4)の温度は、100℃以上であって且つポリ乳酸の軟化点温度(Ts)以下の温度に設定するのが好ましい。ポリ乳酸の軟化点温度は130℃程度であるから、換言すれば、前記熱セットローラ(4)の温度は、100〜130℃に設定するのが好ましい。中でも、前記熱セットローラ(4)の温度は、110〜130℃に設定するのがより好ましく、110〜125℃が特に好ましい。
【0080】
次に、前記熱セットが行われた延伸糸を加熱流体捲縮付与装置(5)に導き、該捲縮付与装置(5)によって糸に捲縮を与え嵩高性を付与する(捲縮工程)。前記加熱流体捲縮付与装置(5)は、糸に加熱流体を接触させることによって糸に捲縮を付与せしめる装置であり、前記加熱流体の温度は90〜160℃の範囲に設定する。90℃未満では十分な捲縮を付与できないし、160℃を超えると単糸を融着させることがある。
【0081】
本実施形態では、前記加熱流体捲縮付与装置(5)は、加熱高圧流体を糸条に噴射して単糸をランダムに交絡させ、3次元クリンプを形成させる加熱流体噴射ノズル装置と、捲縮糸に対して加熱流体の下に圧縮熱処理を行う圧縮熱処理装置とを備えている。圧縮熱処理装置は、金属製板を一定の間隔で積層配置した環状の装置であり、加熱加圧流体は金属製板間より外部へ吸引される。この圧縮熱処理装置内で、糸条は折り畳まれ、積層されながら、一定時間滞留して熱処理される。
【0082】
前記加熱流体捲縮付与装置(5)で使用する加熱流体としては、例えば過熱蒸気、加熱空気等が挙げられる。中でも、加熱空気を使用するのが好ましい。また、前記加熱空気の温度は90〜160℃の範囲に設定されるが、中でも、100〜140℃の範囲であるのが好ましく、105〜125℃の範囲であるのが特に好ましい。なお、前記加熱流体の温度は、90〜160℃の範囲内で、加熱流体の圧力、流量、捲縮処理対象のポリ乳酸糸の繊度、捲縮処理速度等に応じて適切な条件を選択すれば良い。
【0083】
更に、原着ポリ乳酸捲縮糸の高強度・高伸度及び高捲縮特性を得るためには、前記加熱流体の温度は、ポリ乳酸の結晶化温度(Tc)以下の温度に設定するのが好ましい。このように加熱流体の温度を、90℃以上であって且つポリ乳酸の結晶化温度(Tc)以下の温度に設定すれば、配向結晶化したポリ乳酸繊維の捲縮付与時の繊維へのダメージが低減され、所望の捲縮特性が確実に得られるものとなる。なお、ポリ乳酸の結晶化温度は115〜120℃程度であるから、換言すれば、前記加熱流体の温度は90〜120℃に設定するのが好ましい。中でも、前記加熱流体の温度は90〜115℃に設定するのが特に好ましい。
【0084】
また、前記熱セットローラ(4)の温度を「S」とし、前記加熱流体捲縮付与装置(5)における加熱流体の温度を「R」としたとき、下記関係式
30℃≧ S−R ≧−10℃
を満足することが特に好ましい。このような条件を満足する場合には、得られる原着ポリ乳酸捲縮糸の強度及び伸度ともに向上させることができる。中でも、下記関係式
20℃≧ S−R ≧−10℃
を満足することがより好ましく、特に好ましいのは15℃≧S−R≧−10℃の関係を満足する構成である。
【0085】
次に、前記加熱流体捲縮付与装置(5)で捲縮が付与された捲縮糸(6)を冷却ドラム(20)で冷却する。本実施形態では、この冷却ドラム(20)上に噴出された捲縮糸(6)は、冷却ドラム(20)表面に穿設された孔で吸引冷却されながら移送される。この冷却により、前記捲縮糸(6)を該糸のガラス転移温度(Tg)(57〜60℃)よりも低い温度まで冷却するのが望ましい。これにより、時間が経過しても捲縮が緩まない十分な捲縮が付与された原着ポリ乳酸捲縮糸を製造することができる。中でも、前記捲縮糸(6)を冷却ドラム(20)で30〜55℃まで冷却するのが好ましい。
【0086】
しかる後、前記捲縮糸を交絡処理装置(21)のノズルを通過させて交絡処理する。交絡ノズルから走行捲縮糸条に対して略直角方向から0.2〜0.5MPaの高圧空気を噴射させて交絡処理するのが良い。交絡数および交絡の強さは、交絡ノズルの性能、高圧圧空の圧力及び流量、走行糸条の繊度及び張力等によって変化するので、交絡条件を適宜設定して製造する。
【0087】
次いで、交絡処理後の捲縮糸をワインダー(22)に巻き取る。この時の巻き取り張力は、0.10cN/dtex以下とするのが好ましい。中でも、巻き取り張力は0.02〜0.07cN/dtexの範囲であるのがより好ましく、さらには0.03〜0.05cN/dtexの範囲が特に好ましい。
【0088】
次に、このようにして製造された原着ポリ乳酸捲縮糸(6)を仮撚加工して原着ポリ乳酸仮撚糸(38)を製造する方法について説明する(図2参照)。
【0089】
仮撚加工する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ピン仮撚、ベルト仮撚、ディスク仮撚などが挙げられる。本発明では、仮撚糸の総繊度が500〜2000dtexであるので、ピン仮撚で仮撚するのが好ましく、この場合には嵩高性、耐摩耗性及び耐へたり性に優れると共に伸縮性にも優れた原着ポリ乳酸仮撚糸(38)を安定して高品質で製造することができる利点がある。なお、この仮撚加工工程は、仮撚工程(50)及び熱処理工程(51)を有する。
【0090】
まず、前記得られた捲縮糸(6)を施撚体(33)に導く過程において第1熱処理装置(第1ヒーター)(32)で熱処理して仮撚する(仮撚工程)。例えば、前記得られた捲縮糸(6)をフィードローラ(31)を介して施撚体(33)に導く過程において、捲縮糸(6)をオーバーフィード率−20〜−5%の条件下で100〜140℃に設定された第1熱処理装置(第1ヒーター)(32)で熱処理して仮撚する(図2参照)。前記施撚体(33)として、本実施形態では、ピン仮撚装置を用いている。
【0091】
前記第1熱処理装置(32)の温度は100〜140℃の範囲に設定する。前記第1熱処理装置(32)の温度が140℃を超えると次の熱処理工程(51)での糸の走行が不安定となる。また100℃未満では仮撚温度が低いために仮撚加工の効果が十分に発現されなくなる。中でも、前記第1熱処理装置(32)の温度は105〜135℃の範囲に設定するのが好ましい。
【0092】
前記仮撚工程(50)でのオーバーフィード率は−20〜−5%の範囲に設定する。この仮撚工程(50)でのオーバーフィード率が−20%よりさらに負側の値になると引張力が強くなり過ぎて途中で糸切れが発生しやすくなる。また該オーバーフィード率が−5%より正側の値になると糸の緩みが発生して糸の走行状態が不安定になる。中でも、前記仮撚工程(50)でのオーバーフィード率は−18〜−8%の範囲に設定するのが好ましい。なお、前記仮撚工程(50)でのオーバーフィード率とは、{ローラ(31)のフィード速度−ローラ(34)のフィード速度}/ローラ(34)のフィード速度×100で求められる値である。
【0093】
前記仮撚工程(50)における撚数(回/m)は、必要とする原着ポリ乳酸仮撚糸の捲縮特性が得られるように設定するが、800〜1600回/mに設定するのが好ましい。特に、ピン仮撚で仮撚する場合には撚数は900〜1500回/mに設定するのが好ましく、特に好適なのは1000〜1400回/mである。
【0094】
次いで、前記仮撚された糸を第2熱処理装置(第2ヒーター)(36)で熱処理する(熱処理工程)。例えば、前記仮撚された糸を第1デリベリローラ(34)及び第2デリベリローラ(35)を介して第3デリベリローラ(37)に導く過程において、該仮撚された糸をオーバーフィード率10〜50%の条件下で100〜130℃に設定された第2熱処理装置(第2ヒーター)(36)で熱処理することによって、原着ポリ乳酸仮撚糸(38)を得る(図2参照)。
【0095】
前記第2熱処理装置(36)の温度は100〜130℃の範囲に設定する。前記第2熱処理装置(36)の温度が130℃を超えると熱処理工程(51)での糸の走行が不安定となる。また100℃未満では熱処理温度の低さのために熱水収縮率が高くなる。中でも、前記第2熱処理装置(36)の温度は、105〜125℃の範囲に設定するのが好ましい。
【0096】
また、前記第2熱処理装置(36)の温度は、前記第1熱処理装置(32)の温度よりも低く設定するのが好ましく、この場合には仮撚による捲縮発現状態を十分に維持しながら原着ポリ乳酸仮撚糸の熱水収縮率を4〜12%の範囲に入れることができる。
【0097】
前記熱処理工程(51)でのオーバーフィード率は10〜50%の範囲に設定する。この熱処理工程(51)でのオーバーフィード率が50%を超えると糸の走行状態が不安定になる。また該オーバーフィード率が10%未満では得られる原着ポリ乳酸仮撚糸の乾熱捲縮率の発現が不十分となる。中でも、前記熱処理工程(51)でのオーバーフィード率は15〜40%の範囲に設定するのが好ましい。なお、前記熱処理工程(51)でのオーバーフィード率とは、{ローラ(35)のフィード速度−ローラ(37)のフィード速度}/ローラ(35)のフィード速度×100で求められる値である。
【0098】
なお、この発明に係る原着ポリ乳酸仮撚糸は、上記例示した製造方法で製造されたものに特に限定されるものではない。
【0099】
この発明の原着ポリ乳酸仮撚糸及びこの発明の製造方法で得られた原着ポリ乳酸仮撚糸は、嵩高性に優れ、高タフネスで耐摩耗性に優れていると共に伸縮性にも優れているから、例えばカーペットの構成糸として好適に用いられる。例えば、この原着ポリ乳酸仮撚糸を用いてカーペットを製造するに際し、タフト後の熱セット(通常は乾熱処理及び/又は蒸気処理)によって潜在化している原着ポリ乳酸仮撚糸の捲縮を発現させることで、十分な嵩高性を有し、耐摩耗性及び耐ヘタリ性に優れたカーペットとなる。しかして、この発明の原着ポリ乳酸仮撚糸を用いて構成したカーペット及びこの発明の製造方法で得られた原着ポリ乳酸仮撚糸を用いて構成したカーペットは、十分な嵩高性及び十分なボリューム感を有したものとなると共に耐摩耗性及び耐ヘタリ性にも優れたものとなる。例えば、得られた原着ポリ乳酸仮撚糸は、基布にタフトされてカーペットに構成される。前記基布としては、特に限定されるものではないが、例えばポリエステル不織布、ポリプロピレン不織布の他、ポリ乳酸繊維からなる不織布等が挙げられる。中でも、前記基布としてはポリ乳酸繊維からなる不織布を用いるのが好ましく、この場合には、使用後廃棄された際にタフトカーペットの全体が微生物等により分解されるので地球環境保護に十分に貢献することができる。
【0100】
この発明の原着ポリ乳酸仮撚糸は、撚糸、無撚糸いずれの状態で用いても良く、また例えば無撚糸を他の無撚糸とエアーエンタングル設備で混繊して混繊糸形態で用いることもできる。また、この発明の原着ポリ乳酸仮撚糸は、他のナイロン捲縮糸、ポリプロピレン捲縮糸、ポリエステル捲縮糸等と合撚して合撚糸となし、これをカーペットの構成糸として用いることもできる。環境対応のリサイクルを十分に考慮すると、カーペットの他の構成素材(原着ポリ乳酸仮撚糸以外の素材)としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)等のポリエステルを用いるのが好ましい。
【0101】
また、この発明の原着ポリ乳酸仮撚糸を2または3本用い、上撚り、下撚りを施して撚り仮撚糸(撚り数は150〜250回/mが好ましい)とした後、100〜125℃の熱風処理又は90〜115℃の真空蒸気熱処理を行うことによって、撚り止めを行うと共に仮撚糸の嵩高性、耐摩耗性及び耐へたり性をさらに向上せしめた原着ポリ乳酸糸を得て、該原着ポリ乳酸糸をタフトして高級カーペットを構成することもできる。
【0102】
ここで用いられた用語及び説明は、この発明に係る実施形態を説明するために用いられたものであって、この発明はこれに限定されるものではない。この発明は請求の範囲内であれば、その精神を逸脱するものでない限りいかなる設計的変更をも許容するものである。
【実施例】
【0103】
次に、この発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0104】
<実施例1>
図1に示す構成からなる製造装置を用いて原着ポリ乳酸捲縮糸を製造した。即ち、まずポリ乳酸投入口(10)からポリ乳酸チップ(L−乳酸98質量%とD−乳酸2質量%からなる乳酸モノマーの重合体、重量平均分子量140000、相対粘度3.2、ガラス転移温度Tg:57℃、融点Tm:170℃、軟化点温度Ts:130℃、結晶化温度Tc:115℃)100質量部を投入する一方、着色剤投入口(11)からカーボンブラックのマスターバッチ(前記ポリ乳酸75質量%、カーボンブラック25質量%の組成)4質量部を投入してベント(13)付き2軸押出機(12)内で脱気しながら230℃で溶融混練した後、2軸押出機(12)の先端に取り付けられた紡糸口金(15)の96個の円形断面(丸断面)のノズルから紡糸ビーム温度225℃で押出して3口金分をまとめて紡糸した。
【0105】
次に、紡糸された糸条を冷風吹付装置(16)からの冷風(20℃70%RH)によって冷却・固化し、丸断面フィラメント288本からなるマルチフィラメント糸を得た。次いで、前記糸条に油剤付与装置(17)でもって油剤を付与し、糸を集束し、速度462m/分の速度で回転する非加熱の引き取りローラ(1)に捲回して引き取った後、速度465m/分・温度60℃に設定された予熱ローラ(2)で糸の予熱を行った。
【0106】
しかる後、前記紡糸糸を速度489m/分・温度115℃に設定された延伸ローラ(3)に捲回し、速度2200m/分・温度120℃に設定された熱セットローラ(4)との間で延伸を行った。延伸倍率は4.5倍であった。熱セットローラ(4)の温度は、ポリ乳酸の軟化点温度Tsよりも低い120℃とした。
【0107】
次に、熱セットが行われた延伸糸を加熱流体捲縮付与装置(5)内に導き、110℃、0.6MPaの加熱加圧空気を接触させて糸に捲縮を付与した後、この捲縮糸を冷却ドラム(20)で30℃まで冷却した。前記加熱加圧空気の温度は、ポリ乳酸の結晶化温度Tcよりも低い110℃とした。次いで、捲縮糸に交絡処理装置(21)で30個/mの交絡処理を行い、0.05cN/dtexの巻き取り張力で速度1910m/分のワインダー(22)に巻き取って、原着ポリ乳酸捲縮糸(6)を得た。
【0108】
得られた原着ポリ乳酸捲縮糸(6)は、総繊度1178dtex/288フィラメント(単糸繊度4.1dtex)の丸断面(異形度1.05)糸で、相対粘度が3.0、強度が2.72cN/dtex、伸度が43.5%、熱水収縮率が5.8%、乾熱捲縮率が10.8%であった。
【0109】
次に、図2に示す構成からなる仮撚加工装置(日本スピンドル製造株式会社製のピン仮撚装置;高速仮撚機NH−82型)を用いて上記原着ポリ乳酸捲縮糸(6)から原着ポリ乳酸仮撚糸(38)を製造した。即ち、前記得られた捲縮糸(6)をフィードローラ(31)を介して施撚体(33)に導く過程において、捲縮糸(6)をオーバーフィード率−18.0%で130℃に設定された第1熱処理装置(第1ヒーター)(32)で熱処理して仮撚(撚り回数1180回/m)した後、該糸を第1デリベリローラ(34)及び第2デリベリローラ(35)を介して第3デリベリローラ(37)に導く過程において、該仮撚された糸をオーバーフィード率27.0%で110℃に設定された第2熱処理装置(第2ヒーター)(36)で熱処理することによって、原着ポリ乳酸仮撚糸(38)を得た。
【0110】
得られた原着ポリ乳酸仮撚糸(38)は、強度が1.93cN/dtex、伸度が35.1%、熱水収縮率が6.6%、乾熱捲縮率が27.6%であった。
【0111】
得られた原着ポリ乳酸仮撚糸を2本用い、撚り数180回/mで下撚りと上撚りを施し合撚糸とした後、115℃の熱風処理で撚り止めを行い、カーペット用のパイル糸とした。このパイル糸を用いて、ゲージ:1/8(2.54cm/8針)、ステッチ:42本/10cm、パイル長さ:10mm、パイル部目付:1000g/m2の規格でカットパイルを備えたタフテッドカーペットを作製した。
【0112】
<実施例2、3>
仮撚加工工程の製造条件を表1に示す値に設定した以外は、実施例1と同様にして原着ポリ乳酸仮撚糸(38)を製造した。得られた原着ポリ乳酸仮撚糸の特性は表1に示したとおりである。この原着ポリ乳酸仮撚糸を用いて実施例1と同様にしてタフテッドカーペットを作製した。
【0113】
<実施例4>
紡糸口金(15)として、96個の円形断面(丸断面)のノズルを備えた紡糸口金を用いた以外は、実施例1と同様にして原着ポリ乳酸捲縮糸(6)を得た。
【0114】
得られた原着ポリ乳酸捲縮糸(6)は、総繊度1448dtex/192フィラメント(単糸繊度7.5dtex)の丸断面(異形度1.05)糸で、相対粘度が3.0、強度が2.47cN/dtex、伸度が46.6%、熱水収縮率が4.5%、乾熱捲縮率が11.2%であった。
【0115】
次に、図2に示す構成からなる仮撚加工装置(日本スピンドル製造株式会社製のピン仮撚装置;高速仮撚機NH−82型)を用いて上記原着ポリ乳酸捲縮糸から原着ポリ乳酸仮撚糸を製造した。即ち、前記得られた捲縮糸(6)をフィードローラ(31)を介して施撚体(33)に導く過程において、捲縮糸(6)をオーバーフィード率−15.0%で130℃に設定された第1熱処理装置(第1ヒーター)(32)で熱処理して仮撚(撚り回数1050回/m)した後、該糸を第1デリベリローラ(34)及び第2デリベリローラ(35)を介して第3デリベリローラ(37)に導く過程において、該仮撚された糸をオーバーフィード率35.5%で110℃に設定された第2熱処理装置(第2ヒーター)(36)で熱処理することによって、原着ポリ乳酸仮撚糸(38)を得た。
【0116】
得られた原着ポリ乳酸仮撚糸(38)は、強度が1.85cN/dtex、伸度が36.5%、熱水収縮率が5.4%、乾熱捲縮率が33.6%であった。
【0117】
得られた原着ポリ乳酸仮撚糸を2本用い、撚り数180回/mで下撚りと上撚りを施し合撚糸とした後、95℃の真空蒸気で熱処理して撚り止めを行い、カーペット用のパイル糸とした。このパイル糸を用いて、ゲージ:1/8(2.54cm/8針)、ステッチ:36本/10cm、パイル長さ:10mm、パイル部目付:1000g/m2の規格でカットパイルを備えたタフテッドカーペットを作製した。
【0118】
<実施例5、6>
仮撚加工工程の製造条件を表1に示す値に設定した以外は、実施例4と同様にして原着ポリ乳酸仮撚糸(38)を製造した。得られた原着ポリ乳酸仮撚糸の特性は表1に示したとおりである。この原着ポリ乳酸仮撚糸を用いて実施例4と同様にしてタフテッドカーペットを作製した。
【0119】
<実施例7>
単繊維の断面形状が異形度1.4の略円形状である糸を用いた以外は、実施例4と同様にして原着ポリ乳酸捲縮糸(6)を製造した。この捲縮糸を用いて、仮撚加工工程の製造条件を表1に示す値に設定した以外は、実施例4と同様にして原着ポリ乳酸仮撚糸(38)を製造した。得られた原着ポリ乳酸仮撚糸の特性は表1に示したとおりである。この原着ポリ乳酸仮撚糸を用いて実施例4と同様にしてタフテッドカーペットを作製した。
【0120】
【表1】

【0121】
<比較例1>
実施例1で得られた原着ポリ乳酸捲縮糸(6)をそのまま用いて(仮撚加工を省略して)実施例1と同様にしてタフテッドカーペットを作製した。
【0122】
<比較例2>
紡糸口金(15)として、32個の略Y字形状断面のノズルを備えた紡糸口金を用いた以外は、実施例1と同様にして原着ポリ乳酸捲縮糸を製造した。
【0123】
得られた原着ポリ乳酸捲縮糸は、総繊度1100dtex/96フィラメント(単糸繊度11.5dtex)の異形度2.2の異形断面糸で、相対粘度が3.0、強度が1.54cN/dtex、伸度が32.0%、熱水収縮率が4.1%、乾熱捲縮率が12.3%であった。
【0124】
仮撚加工工程の製造条件を表2に示す値に設定した以外は、実施例1と同様にして原着ポリ乳酸仮撚糸を製造した。得られた原着ポリ乳酸仮撚糸の特性は表2に示したとおりである。この原着ポリ乳酸仮撚糸を用いて実施例1と同様にしてタフテッドカーペットを作製した。
【0125】
<比較例3>
図1に示す構成からなる製造装置におけるポリ乳酸投入口(10)からポリ乳酸チップ(L−乳酸98質量%とD−乳酸2質量%からなる乳酸モノマーの重合体、重量平均分子量220000、相対粘度4.0)100質量部を投入する一方、着色剤投入口(11)からカーボンブラックのマスターバッチ(前記ポリ乳酸75質量%、カーボンブラック25質量%の組成)4質量部を投入してベント(13)付き2軸押出機(12)内で脱気しながら230℃で溶融混練した。2軸押出機(12)の出口でのポリ乳酸の溶融粘度が高すぎるために、ポリマー管温度225℃の紡糸ヘッド(14)までのポリマー管内での圧力損失が大きく、紡糸ヘッド(14)出口でポリ乳酸の吐出量ムラが顕著に発生した。そこで、2軸押出機(12)の温度を235℃に、ポリマー管温度を250℃に設定した。これによりポリ乳酸の吐出量は安定したが、紡糸ヘッド(14)出口でポリ乳酸が黄変し、しかも熱分解と思われる発煙も発生し、良好状態に紡糸することができなかった。
【0126】
<比較例4、5、7>
仮撚加工工程の製造条件を表2に示す値に設定した以外は、実施例1と同様にして原着ポリ乳酸仮撚糸の製造を試みたが、仮撚工程において糸が切れたため、仮撚糸を製造することはできなかった。
【0127】
<比較例6>
仮撚加工工程の製造条件を表2に示す値に設定した以外は、実施例1と同様にして原着ポリ乳酸仮撚糸を製造した。得られた原着ポリ乳酸仮撚糸の特性は表2に示したとおりである。この原着ポリ乳酸仮撚糸の乾熱捲縮率は13.5%であり、捲縮発現性が不十分であった。この原着ポリ乳酸仮撚糸を用いて実施例1と同様にしてタフテッドカーペットを作製した。
【0128】
【表2】

【0129】
<比較例8>
仮撚加工工程の製造条件を表3に示す値に設定した以外は、実施例1と同様にして原着ポリ乳酸仮撚糸を製造した。得られた原着ポリ乳酸仮撚糸の特性は表3に示したとおりである。この原着ポリ乳酸仮撚糸の熱水収縮率は13.7%であった。この原着ポリ乳酸仮撚糸を用いて実施例1と同様にしてタフテッドカーペットを作製した。
【0130】
<比較例9、11>
仮撚加工工程の製造条件を表3に示す値に設定した以外は、実施例1と同様にして原着ポリ乳酸仮撚糸の製造を試みたが、熱処理工程において糸の弛みが発生したため、仮撚糸を良好に製造することはできなかった。
【0131】
<比較例10>
仮撚加工工程の製造条件を表3に示す値に設定した以外は、実施例1と同様にして原着ポリ乳酸仮撚糸を製造した。得られた原着ポリ乳酸仮撚糸の特性は表3に示したとおりである。この原着ポリ乳酸仮撚糸の乾熱捲縮率は14.7%であり、捲縮発現性が不十分であった。この原着ポリ乳酸仮撚糸を用いて実施例1と同様にしてタフテッドカーペットを作製した。
【0132】
【表3】

【0133】
なお、各原着ポリ乳酸捲縮糸及び各原着ポリ乳酸仮撚糸の特性は下記測定法に基づいて測定した。また、得られたタフテッドカーペットの嵩高性及び耐摩耗性は下記評価法に基づいて評価した。これらの結果を表1〜3に示す。
【0134】
<相対粘度測定法>
フェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比)の混合溶液に試料を1g/dLの濃度となるよう溶解せしめ、20℃でウベローデ粘度管を用いて相対粘度を測定した。
【0135】
<重量平均分子量測定法>
試料を10mg/mLの濃度になるようクロロホルムに溶解せしめ、クロロホルムを溶媒として、東ソー製HLC8120GPCによりGPC分析を行い、重量平均分子量Mwを測定した。検出器はRI(赤外分光器)を用い、分子量の標準物質としてはポリスチレンを使用した。
【0136】
<L−乳酸の比率測定法>
ポリ乳酸を加水分解し、メタノール性水酸化ナトリウム溶液(濃度1.0N)を溶媒として高速液体クロマトグラフィー(HPLC:島津製作所LC10AD型)を使用してL−乳酸の比率を求めた。
【0137】
<異形度評価法>
単糸を切断後、光学顕微鏡を用いて単糸の外接円直径(B)と内接円直径(A)を測定して、B/Aの値を異形度とした(図3参照)。
【0138】
<強伸度測定法>
USTER社製TENSORAPID3の引張試験機を用い、試料長25cm、引張速度30cm/分の条件で強力(cN)と伸度(%)を測定した。強度(cN/dtex)は、強力(cN)を総繊度で除した値である。
【0139】
<繊度測定法>
JIS L1013に準拠して測定した。
【0140】
<熱水収縮率測定法>
熱水収縮率(%)は、JIS L1013のカセ収縮率(A法)に準拠して測定した。まず、ボビンパッケージからカセ取りした原着ポリ乳酸捲縮糸を試料とする。この試料糸に総繊度dtex×0.882mN(90mg/dtex)の張力を与える荷重をかけ10秒経過した後に、試料長さ(Ls1)を測定する。無荷重状態にて98℃の熱水に30分間浸漬した後、一昼夜自然乾燥させる。この乾燥後の捲縮糸を熱水処理後の原着ポリ乳酸捲縮糸とする。この熱水処理後の原着ポリ乳酸捲縮糸に、総繊度dtex×0.882mN(90mg/dtex)の張力を与える荷重をかけ10秒経過した後に、試料長さ(Ls2)を測定する。
熱水収縮率(%)={(Ls1−Ls2)/Ls1}×100
上記式より熱水収縮率(%)を求める。
【0141】
<乾熱捲縮率測定法>
ボビンパッケージからカセ取りした原着ポリ乳酸捲縮糸を、無荷重状態で100℃の熱風で10分間処理した後、10分間自然放置する。この糸を乾熱処理後の原着ポリ乳酸捲縮糸とする。この乾熱処理後の原着ポリ乳酸捲縮糸に、総繊度dtex×0.882mN(90mg/dtex)の張力を与える定荷重をかけ10秒経過した後に、試料長さ(Lc1)を測定する。次いで、前記乾熱処理後の原着ポリ乳酸捲縮糸に、総繊度dtex×0.0176mN(1.8mg/dtex)の張力を与える定荷重をかけ10秒経過した後に、試料長さ(Lc2)を測定する。
乾熱捲縮率(%)={(Lc1−Lc2)/Lc1}×100
上記式より乾熱捲縮率(%)を求める。
【0142】
<仮撚糸の評価>
本発明の原着ポリ乳酸仮撚糸の規定範囲(強度が1.5〜2.65cN/dtex、伸度が25〜50%、熱水収縮率が4〜12%、乾熱捲縮率が20〜50%)の全てを満たすものを「○」とし、上記4特性のうち少なくとも1つの特性が規定範囲を逸脱しているものを「×」とした。
【0143】
<嵩高性評価>
カーペットを真上から見た時に、パイル表皮の隙間から基布が見える状態を目視で評価し、基布が全く見えないものを「◎◎」、基布が見えにくいものを「◎」、基布がある程度見えるものを「○」、基布がよく見えるものを「×」とした。
【0144】
<耐摩耗性評価>
カーペットの耐摩耗性は、JIS L1096.17.3に規定のテーバー型摩耗試験機を用いて評価した。即ち、H−18摩耗輪を使用し、この摩耗輪に9.8Nの荷重をかけ試験台を1000回回転させて試験片を摩耗させ、その摩耗状態を目視により評価した。摩耗の非常に少ないものを「◎」、摩耗の少ないものを「○」、摩耗がある程度あるものを「△」、摩耗が多いものを「×」とした。
【0145】
表1から明らかなように、この発明の原着ポリ乳酸仮撚糸を用いて構成された実施例1〜7のカーペットは、十分な嵩高性が得られると共に耐摩耗性に優れていた。これに対し、比較例1のカーペットは嵩高性が不十分であり、比較例2のカーペットは耐摩耗性に劣っていた。
【0146】
また、この発明の製造方法における仮撚加工条件の規定範囲を逸脱する比較例4、5、7では、仮撚工程において糸が切れたために仮撚糸を製造することはできなかった。また、この発明の製造方法における仮撚加工条件の規定範囲を逸脱する比較例9、11では、熱処理工程において糸の弛みが発生したため、仮撚糸を良好に製造することはできなかった。また、この発明の製造方法における仮撚加工条件の規定範囲を逸脱する比較例6では、乾熱捲縮率が13.5%で捲縮発現が不十分であり、同比較例8では熱水収縮率が12%を上回っており、また同比較例10では乾熱捲縮率が14.7%で捲縮発現が不十分であり、比較例6、8、10のいずれにおいても、強度が1.5〜2.65cN/dtex、伸度が25〜50%、熱水収縮率が4〜12%、乾熱捲縮率が20〜50%である本発明の原着ポリ乳酸仮撚糸を製造することはできなかった。
【0147】
また、比較例6の仮撚糸は乾熱捲縮率が13.5%であり20%を下回っているため、該仮撚糸を用いて構成された比較例6のカーペットは嵩高性が不十分であった。また、比較例8の仮撚糸は熱水収縮率が13.7%であり12%を上回っているため、該仮撚糸を用いて構成された比較例8のカーペットは収縮ムラが発生し筋となりやすく品質上問題があった。また、比較例10の仮撚糸は乾熱捲縮率が14.7%であり20%を下回っているため、該仮撚糸を用いて構成された比較例10のカーペットは嵩高性が不十分であり、カーペットを真上から見たとき基布がある程度見える状態であった。
【産業上の利用可能性】
【0148】
この発明の原着ポリ乳酸仮撚糸及びこの発明の製造方法で得られた原着ポリ乳酸仮撚糸は、例えばカーペットの構成糸として好適に用いられる。例えば、ロールカーペット、ピースカーペット、タイルカーペット、自動車用ラインカーペット、自動車用オプションマット、家庭用ラグ・マット等の構成糸として好適に用いられる。この発明の原着ポリ乳酸仮撚糸でカーペットのパイルを構成する場合、そのパイル形態は特に限定されず、ループパイル、カットパイル、カットアンドループパイル等どのようなパイル形状も採用できる。また、タフテッドカーペットのみならず、織物カーペット、編物カーペット、刺繍カーペット、接着カーペット等の構成糸としても使用できる。本発明の原着ポリ乳酸仮撚糸を用いて構成されたカーペットは、使用後廃棄された場合には微生物等により分解されるので地球環境保全に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】この発明に係る原着ポリ乳酸仮撚糸の製造方法で用いられる捲縮糸製造装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】この発明に係る原着ポリ乳酸仮撚糸の製造方法で用いられる仮撚加工装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】糸の異形度の説明図である。
【符号の説明】
【0150】
2…予熱ローラ
3…延伸ローラ
4…熱セットローラ
5…加熱流体捲縮付与装置
6…捲縮糸
20…冷却ドラム
21…交絡処理装置
32…第1熱処理装置
36…第2熱処理装置
38…原着ポリ乳酸仮撚糸
50…仮撚工程
51…熱処理工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状が略円形状または円形状の単繊維を有し、着色剤を0.01〜3質量%含有し、相対粘度が2.8〜3.8であるポリ乳酸捲縮糸であって、強度が1.75〜3.5cN/dtex、伸度が35〜60%、総繊度が500〜2000dtex、単糸繊度が1.5〜20dtex、熱水収縮率が2〜8%、乾熱捲縮率が5〜20%であるポリ乳酸捲縮糸が仮撚加工されて得られたポリ乳酸仮撚糸からなり、
前記ポリ乳酸仮撚糸は、強度が1.5〜2.65cN/dtex、伸度が25〜50%、熱水収縮率が4〜12%、乾熱捲縮率が20〜50%であることを特徴とする原着ポリ乳酸仮撚糸。
【請求項2】
前記単繊維の断面形状が異形度1.5未満の略円形状または円形状である請求項1に記載の原着ポリ乳酸仮撚糸。
【請求項3】
前記着色剤として、無機顔料及び有機顔料からなる群より選ばれた少なくとも1種の顔料が用いられている請求項1または2に記載の原着ポリ乳酸仮撚糸。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の原着ポリ乳酸仮撚糸を構成繊維の少なくとも一部に用いて構成されたカーペット。
【請求項5】
着色剤及びポリ乳酸を含有し、着色剤含有率が0.01〜3質量%で相対粘度が2.8〜3.8であるポリ乳酸組成物を紡糸して、単繊維の断面形状が異形度1.5未満の略円形状または円形状である紡糸糸を得る紡糸工程と、
前記紡糸糸を70〜125℃に設定された延伸ローラにより3〜6倍に延伸する工程と、
前記延伸された紡糸糸を100〜150℃に設定された熱セットローラにより熱セットする工程と、
前記熱セットされた延伸糸に加熱流体捲縮付与装置を用いて90〜160℃の加熱流体を接触させることによって糸に捲縮を付与する捲縮工程と、
前記捲縮工程を経た捲縮糸を該糸のガラス転移温度よりも低い温度まで冷却する工程と、
前記冷却工程を経た捲縮糸を、オーバーフィード率−20〜−5%の条件下で100〜140℃に設定された熱処理装置で熱処理して仮撚する仮撚工程と、
前記仮撚工程を経た糸を、オーバーフィード率10〜50%の条件下で100〜130℃に設定された熱処理装置で熱処理する熱処理工程とを包含することを特徴とする原着ポリ乳酸仮撚糸の製造方法。
【請求項6】
着色剤及びポリ乳酸を含有し、着色剤含有率が0.01〜3質量%で相対粘度が2.8〜3.8であるポリ乳酸組成物を紡糸口金から押出して断面形状が異形度1.5未満の略円形状または円形状のフィラメントを得、該フィラメントを冷風で冷却した後、フィラメントを油剤で被覆することによって紡糸糸を得る紡糸工程と、
前記紡糸糸を70〜125℃に設定された延伸ローラにより3〜6倍に延伸する工程と、
前記延伸された紡糸糸を100〜150℃に設定された熱セットローラにより熱セットする工程と、
前記熱セットされた延伸糸に加熱流体捲縮付与装置を用いて90〜160℃の加熱流体を接触させることによって糸に捲縮を付与する捲縮工程と、
前記捲縮工程を経た捲縮糸を該糸のガラス転移温度よりも低い温度まで冷却する工程と、
前記冷却工程を経た捲縮糸を、オーバーフィード率−20〜−5%の条件下で100〜140℃に設定された熱処理装置で熱処理して仮撚する仮撚工程と、
前記仮撚工程を経た糸を、オーバーフィード率10〜50%の条件下で100〜130℃に設定された熱処理装置で熱処理する熱処理工程とを包含することを特徴とする原着ポリ乳酸仮撚糸の製造方法。
【請求項7】
前記熱セットローラの温度を「S」とし、前記加熱流体捲縮付与装置における加熱流体の温度を「R」としたとき、下記関係式
30℃≧ S−R ≧−10℃
を満足する請求項5または6に記載の原着ポリ乳酸仮撚糸の製造方法。
【請求項8】
前記延伸された紡糸糸を100℃以上であって且つポリ乳酸の軟化点温度以下の温度に設定された熱セットローラにより熱セットする請求項5〜7のいずれか1項に記載の原着ポリ乳酸仮撚糸の製造方法。
【請求項9】
前記熱セットされた延伸糸に加熱流体捲縮付与装置を用いて90℃以上であって且つポリ乳酸の結晶化温度以下の温度の加熱流体を接触させることによって糸に捲縮を付与する請求項5〜8のいずれか1項に記載の原着ポリ乳酸仮撚糸の製造方法。
【請求項10】
前記冷却工程と前記仮撚工程の間に、該冷却工程を経た捲縮糸に交絡処理装置を用いて交絡処理する交絡工程を有することを特徴とする請求項5〜9のいずれか1項に記載の原着ポリ乳酸仮撚糸の製造方法。
【請求項11】
前記仮撚をピン仮撚装置を用いて行う請求項5〜10のいずれか1項に記載の原着ポリ乳酸仮撚糸の製造方法。
【請求項12】
断面形状が略円形状または円形状の単繊維を有し、着色剤を0.01〜3質量%含有し、相対粘度が2.8〜3.8であるポリ乳酸捲縮糸であって、強度が1.75〜3.5cN/dtex、伸度が35〜60%、総繊度が500〜2000dtex、単糸繊度が1.5〜20dtex、熱水収縮率が2〜8%、乾熱捲縮率が5〜20%であるポリ乳酸捲縮糸を、オーバーフィード率−20〜−5%の条件下で100〜140℃に設定された熱処理装置で熱処理して仮撚する仮撚工程と、
前記仮撚工程を経た糸を、オーバーフィード率10〜50%の条件下で100〜130℃に設定された熱処理装置で熱処理する熱処理工程とを包含することを特徴とする原着ポリ乳酸仮撚糸の製造方法。
【請求項13】
前記仮撚をピン仮撚装置を用いて行う請求項12に記載の原着ポリ乳酸仮撚糸の製造方法。
【請求項14】
請求項5〜13のいずれか1項に記載の製造方法で製造された原着ポリ乳酸仮撚糸。
【請求項15】
請求項14に記載の原着ポリ乳酸仮撚糸を構成繊維の少なくとも一部に用いて構成されたカーペット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−297733(P2007−297733A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125764(P2006−125764)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(390014487)住江織物株式会社 (294)
【Fターム(参考)】