双極性障害およびその他の認知障害の治療における、ケレリトリン、その類似体およびそれらの使用
本発明は、中でも双極性障害を含む、前頭前野皮質の認知障害の治療のために、医薬品組成物中のケレリトリンおよびケレリトリン類似体の使用に関する。本発明による医薬品組成物は、化学式(I)または化学式(II)(ここで、R1およびR2は、個別に、H、C1−C3アルキル、F、Cl、Br、I、OH、O(C1〜C6アルキル)、O−C(=O)−(C1〜C6)アルキル、またはC(=O)−O−(C1〜C6)アルキルから選択され;R3は、HまたはC1〜C6アルキル基であり;R4、R5、R6、R7およびR8は、個別に、H、C1〜C6アルキル、F、Cl、Br、I、OH、−(CH2)nO(C1〜C6)アルキル、−(CH2)nO−C(=O)−(C1〜C6)アルキル、または−(CH2)nC(=O)−O−(C1〜C6)アルキルから選択され;R9およびR10は、個別に、Hであるか、またはC1〜C6アルキルであり、あるいは一緒になって−(CH2)m−基を形成して5〜7員環を生成し;nは0〜5であり;mは1〜3であり;そして、A−は、任意に薬学上許容される担体、添加物または賦形剤と組み合わせた、製薬用塩の薬学上許容されるアニオン(それは四級化されたアミン基と塩を作る)である)の構造による、化合物または立体異性体、薬学上許容される塩、溶媒和化合物またはそれらの多形体の有効量を含む。
【化1】
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前頭前野皮質の機能障害を含む(中でも、双極性障害を含む)神経精神性障害の治療のための医薬組成物における、ケレリトリン(chelerythrine)およびケレリトリン類似体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
収斂する証拠は、細胞内のシグナル伝達酵素、プロテインキナーゼCの過活動が双極性障害において躁病の症候を引き起こすことを示している。躁病患者の大脳皮質には、高濃度のプロテインキナーゼCおよび高活性のプロテインキナーゼCの両方が存在し、全ての効果的抗躁病薬剤は、プロテインキナーゼC遮断活性を持つ(マンジ(Manji)およびレノックス(Lenox)(1999年)に概説されている)。たとえば、広く使われている抗躁病性、非選択的薬剤リチウムは、リン酸イノシトールフォスファターゼをブロックすることおよびホスホチジルイノシトールカスケイド(サン(Sun)ら、1992年)における前駆体(ミオイノシトール)の利用可能性を減少させることによって、プロテインキナーゼC活性を減少させる。確かに、双極性の患者のプロトン磁気共鳴分光学研究は、リチウム療法が右側の前頭前野皮質、躁病の徴候に大いに関連する脳領域におけるミオイノシトール濃度を減少させることを示した(下段参照)。最近の「コンセプトの証明」研究は、タモキシフェン、高濃度でプロテインキナーゼCブロッキング活性をもつ抗卵胞ホルモン化合物が、高用量で投与されると、躁病の徴候を改善することを示した(ベブチュク(Bebchuk)ら、2000年)が、これは、プロテインキナーゼC遮断が双極性障害において確かに治療的であることを示唆する。
【0003】
前頭前野皮質は、作動記憶を用いてヒトの行動を制御し、不適当な刺激を阻止し、そして被転導性を減らす(ゴールドマン−ラキッチ(Goldman−Rakic)、1996年;ロビンス(Robins)、1996年)。ヒトにおいては、右半球の前頭前野皮質は、不適当なインパルスを阻止するために特に重要であり、この皮質の減少した大きさは、脱抑制挙動と関連する(ケーシー(Casey)ら、1997年)。このように、躁病発症の間の重度脱抑制は、前頭前野皮質の機能障害の特徴を示す。これは、画像研究によって確認されてきた:双極性障害の患者には前頭前野皮質のサイズの縮小があり(ドレヴェツ(Drevets)ら、1997年)、右側の前頭前野皮質の内側/環状の部分は、双極性の患者において躁状態の間、極めて不活発である(ブラムバーグ(Blumberg)ら、1999年)。
【0004】
双極性の患者の躁病発症は、ストレスへの暴露によって引き起こされる(ハメン(Hammen)およびギトリン(Gitlin)、1997年)。(たとえば95dBを超える、非常に大きい雑音のような)環境侵襲要因、または薬理学的ストレス(部分的反転ベンゾジアゼピン作動薬、FG7142)は、サルおよびネズミにおいて前頭前野皮質の機能を損なうことができるが、一方、前頭前野皮質と無関係な認知能力には影響を持たない(アーンステン(Arnsten)、1998年;アーンステン(Arnsten)とゴールドマン−ラキッチ(Goldman−Rakic)、1998年;マーフィ(Murphy)ら、1996年)。同様に、ストレス性レベルの雑音にさらされたヒトは、前頭前野皮質の機能の欠損を示した(ハートリー(Hartley)およびアダムズ(Adams)、1974年)、特に被検者が侵襲要因に対する制御を経験しなかったときにそうである(グラス(Glass)ら、1971年)。ストレス曝露の間に高濃度のドーパミンおよびノルエピネフリンが全頭前野皮質に放出され、これらの過剰濃度のカテコールアミン類は、それぞれ、D1ドーパミン受容体およびアルファ−1アドレナリン受容体を刺激することによって、全頭前野皮質の機能を損なう(アーンステン(Arnsten)、2000年、に概説されている)。
【0005】
D1受容体の過剰刺激は、プロテインキナーゼAシグナル伝達経路の過度の活性化によって頭前野皮質機能を損ない(テイラー(Taylor)ら、1999年)、一方、アルファ−1受容体の過剰刺激は、プロテインキナーゼCのシグナル伝達経路の過剰刺激によって認知機能を損なう(図1、および下段参照)。躁病患者は、プロテインキナーゼCの過剰活動に特に影響されやすいので、これは、衝動性、被転導性および誤った判断(これらは躁病の重要な特徴である)のような、前頭前野皮質の機能障害および前頭前野皮質の機能障害の徴候に導く。
【0006】
ストレスの間に起こる前頭前野皮質の機能の欠損は、ノルアドレナリン性アルファ−1作動薬でもって前頭前野皮質を刺激することによって再現することができる。このように、血脳関門を横切るアルファ−1作動薬(アーンステン(Arnsten)とジェンツ(Jentsch)、1997年)または前頭前野皮質へのアルファ−1作動薬の直接の注入(アーンステン(Arnsten)ら、1999年;マオ(Mao)ら、1999年)は、サルおよびネズミにおける作動記憶能力を弱める。この障害は、アルファ−1アドレナリン受容拮抗体の全身投与または局所投与のいずれかによって逆転されることがある(同上;図2)。PFCへのアルファ−1アドレナリン受容拮抗体の直接注入は、またストレス誘発性認知欠損を防ぎ、こうして、ストレス反応におけるこの経路の重要性を実証する(バーンバウム(Birnbaum)ら、1999年、図3)。
【0007】
アルファ−1アドレナリン受容体は、通常、GqによってホスファチジルイノシトールカスケイドとプロテインキナーゼCの活性化に関連する(デュマン(Duman)およびネスラー(Nestler)、1995年;図1)。最近の実験は、ストレスおよびアルファ−1作動薬の両方が、この細胞内シグナル伝達経路の活性化を通して前頭前野皮質の機能を弱めることを示す。前頭前野皮質へのアルファ−1アドレナリン作動薬の注入によって引き起こされる障害は、ホスファチジルイノシトール回転を抑えると知られているリチウムの服用処置法によって逆転される(アーンステン(Arnsten)ら、1999年;図4)。同様に、サルへのリチウムの臨床的に意義のある用量の内服は、アルファ−1アドレナリン作動薬、シラゾリンによって、前頭前野皮質の認知障害を抑える(図5)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、制御できないストレスと関連した前頭前野皮質の機能障害を治療する選択的方法に対するニーズが存在する。同様に、ストレス曝露から認知能力を保護する選択的方法に対するニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
出願人は、動物試験において、制御できないストレスへの曝露がプロテインキナーゼCの活性化により前頭前野皮質の機能を損なうこと、および本発明に従っての、ケレリトリンまたはケレリトリン類似体の投与が有害なタンパク質キナーゼC活性化を阻止することを発見した。したがって、本発明は、CNS障害、特に制御できないストレスへの曝露によるプロテインキナーゼCの活性化に関連する、損なわれた前頭前野皮質の機能と関係するCNS障害、を患っている被検者を治療することにおいて役に立つ組成物および方法を提供する。特に、本発明は、以下に規定されるように、選択的なタンパク質キナーゼC阻害剤ケレリトリンまたはケレリトリン類似体の効果的量を被験者に投与することによって、そのような障害を患っている被検者を治療する組成物および方法を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、選択的なタンパク質キナーゼC阻害剤ケレリトリンまたはケレリトリン類似体の効果的量を被検者に投与することによって被検者の認知能力をアルファ−1受容体刺激またはストレス曝露から保護する方法を提供する。
【0011】
特許申請された本発明の組成物および方法によって治療されうるCNS障害は、双極性障害、重いうつ病性障害、精神分裂症、心的外傷後ストレス障害、不安障害、注意力欠如多動性障害およびアルツハイマー病(行動上の症状)を含む。
【0012】
一実施形態では、本発明は、有効量のケレリトリン(それは、下記の化学式を持つ)および立体異性体、薬学的に許容できる塩類、溶媒和化合物およびそれらの多形体を含む医薬品組成物を被検者に投与することによってプロテインキナーゼCの活性化と関連する、損なわれた前頭前野皮質の機能と関連する障害を患っている被検者を治療することを含む方法に関するものである。
【0013】
【化1】
【0014】
他の実施形態では、本発明は、化学式(I)または(II)、(ここで、R1およびR2は、個別にH、C1〜C3アルキル、F、Cl、Br、I、OH、O(C1〜C6アルキル)、O−C(=O)−(C1〜C6)アルキル、C(=O)−O−(C1〜C6)アルキル、より好ましくはO−アルキル、さらにより好ましくはOCH3であり、
R3は、HまたはC1〜C6アルキル基、好ましくはメチルまたはエチル、もっとも好ましくはメチルであり、
R4、R5、R6、R7およびR8は、個別に、H、C1〜C6アルキル、F、Cl、Br、I、OH、−(CH2)nO(C1〜C6アルキル)、−(CH2)nO−C(=O)−(C1〜C6)アルキル、−(CH2)nC(=O)−O−(C1〜C6)アルキルから選択され、
R9およびR10は、個別に、H、C1〜C6アルキル、好ましくはC1〜C3アルキルであるか、または、一緒になって−(CH2)m−基を形成して5〜7員環を生成し、
nは0〜5であり、
mは1〜3であり、
そして、A−は、四級化されたアミン基と塩を形成する、製薬用塩の薬学上許容されるアニオンであり、F−、Cl−、Br−、I−、サルフェート、サイトレート、タートレート、ホスフェートなど)の化合物、または立体異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物、およびそれらの多形体である)として本明細書において規定されている、ケレリトリン類似体の有効量を含む薬剤組成物を被検者に投与することによって、プロテインキナーゼCの活性化と関連する、損なわれた前頭前野皮質の機能と関連する障害を患っている被検者を治療することを含む方法に関するものである。
【0015】
【化2】
【0016】
好ましい実施形態では、本発明の組成物および方法は、ケレリトリンのマイナーな修飾体を表わす、化学式(I)〜(II)の化合物を使用する。
【0017】
本発明において有用な化合物は、本技術において容易に利用可能な方法によって合成される。たとえば、市販のイソキノリン類似体の誘導体化は、イソキノリン類似体の上に縮合される適当に誘導体化されたベンズアルデヒドと、第3および第4の環構造を(利用可能ならば、さらに、第5の環構造をさえ)容易に形成することができる。
【0018】
本発明のこれらおよびその他の特徴は、さらに以下の詳細な説明において記述される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本明細書に使用されるとき、以下の用語は、以下のそれぞれの意味を持つ。本発明を記述するために使用される他の用語は、それらが当業者によって通常使用されるのと同じ定義を持つ。どの定義においても挙げられている特定の例は、限定することが意図されているわけでは決してない。
【0020】
「炭化水素(Hydrocarbon)」は、置換または非置換の有機化合物を指す。
【0021】
「アセタール(Acetal)」は、2個のエーテル酸素が同じカーボンに結合している化合物を指す。「ケタール」は、ケトンから誘導されたアセタールである。
【0022】
「アシル(Acyl)」は、化学式RCOの化合物を意味する、ここで、Rは、脂肪族(炭素原子の直鎖によって特徴づけられる)、脂環式(少なくとも1個の環を含む飽和炭化水素)、または芳香族である。
【0023】
「アシロキシ(Acyloxy)」は、基、アルキル−C(O)O−、置換アルキル−C(O)O−、シクロアルキル−C(O)O−、置換シクロアルキル−C(O)O−、アリール−C(O)O−、ヘテロアリール−C(O)O−、およびヘテロ環式−C(O)O−を指し、ここにおいてアルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、アリール、ヘテロアリールおよびヘテロ環式は、本明細書に規定されているとおりである。
【0024】
「アルキル(Alkyl)」は、直鎖、分岐鎖、または環状鎖であってもよい、炭素と水素を含む完全に飽和した一価の炭化水素ラジカルを指す。アルキル基の実例は、メチル、エチル、n−ブチル、n−ヘプチル、イソプロピル、2−メチルプロピル、シクロプロピル、シクロプロピルメチル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロペンチルエチル、およびシクロヘキシルである。「シクロアルキル(cycloalkyl)」基は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルのような、環式アルキル基を指す。C1〜C7アルキル基は、本発明において好ましく使用される。
【0025】
「置換アルキル(Substituted alkyl)」は、1〜6個の炭素原子を含むアルキル、好ましくは1〜3個の炭素原子を含む低級アルキル、アリール、置換アリール、アシル、ハロゲン(すなわち、アルキルハロゲン、たとえばCF3)、ヒドロキシ、アルコキシ、アルコキシアルキル、アミノ、アルキルおよびジアルキルアミノ、アシルアミノ、アシロキシ、アリールオキシ、アリールオキシアルキル、カルボキシアルキル、カルボキシアミド、チオ、チオエーテル、飽和および不飽和の両方の環状炭化水素、ヘテロ環式炭化水素などのような1個以上の官能基を含む、上記のようなアルキルを指す。用語「置換シクロアルキル(Substituted cycloalkyl)」は、本発明を記述する目的のためには、基本的に、用語「置換アルキル」と同じ定義を持ち、この中に包含される。
【0026】
「アミン(Amine)」は、脂肪族アミン、芳香族アミン(たとえばアニリン)、飽和ヘテロ環式アミン(たとえばピペリジン)、およびアルキルモルホリンのような置換誘導体を指す。本明細書で使用される「アミン」は、ピリジンまたはプリンのような、窒素含有芳香族ヘテロ環式化合物を含む。
【0027】
「アラルキル(Aralkyl)」は、アリール置換基をもつアルキル基を指し、用語「アラルキレン(aralkylene)」は、アリール置換基をもつアルケニル基を指す。用語「アルカリール(alkaryl)」は、アルキル置換基を持つアリール基を指し、用語「アルカリーレン(alkarylene)」は、アルキル置換基をもつアリーレン基を指す。用語「アリーレン(arylene)」は、1,2−フェニレン、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン、1,2−ナフチレンなどによって例証される、アリール(置換アリールを含む)から誘導されたジラジカルを指す。
【0028】
「アルケニル(Alkenyl)」は、エテニル、n−プロペニル、イソプロペニル、n−ブテニル、イソブテニル、オクテニル、デセニルなどのような、必ずではないけれど、通常2〜約24個の炭素原子および少なくとも1個の二重結合を含む、分岐した、または分岐していない炭化水素基を指す。一般的に、再び必ずということはないけれど、本明細書におけるアルケニル基は、2〜約12個の炭素原子を含む。用語「低級アルケニル(lower alkenyl)」は、2〜6個の炭素原子、好ましくは2〜4個の炭素原子のアルケニル基を意味する。
【0029】
「置換アルケニル(Substituted alkenyl)」は、1個以上の置換基で置換されるアルケニルを指し、用語「ヘテロ原子含有アルケニル(heteroatom−containing alkenyl)」および「ヘテロアルケニル(heteroalkenyl)」は、少なくとも1個の炭素原子がヘテロ原子と置換されているアルケニルを指す。
【0030】
「アリール(Aryl)」は、1個の環(たとえば、フェニル)または複数の縮合環(たとえば、ナフチル)を持つ、置換された、または非置換の一価芳香族ラジカルを指す。その他の実例は、とりわけイミダゾリル、フリル、ピロリル、ピリジル、チエニルおよびインドリルのような、環の中に一個以上の窒素、酸素または硫黄原子を持つヘテロ環式芳香族環基を含む。したがって、本明細書で用いられる「アリール」は、1〜15個の炭素原子および1〜4個のヘテロ原子を含み、環系の少なくとも1個の環が芳香環である、モノ環状またはポリ環状系を持つ「ヘテロアリール(heteroaryl)」を含む。ヘテロ原子は、硫黄、窒素または酸素である。
【0031】
「置換アリール(Substituted aryl)」は、低級アルキル、アシル、アリール、ハロゲン、アルキルハロゲン(たとえば、CF3)、ヒドロキシ、アルコキシ、アルコキシアルキル、アミノ、アルキルおよびジアルキルアミノ、アシルアミノ、アシロキシ、アリールオキシ、アリールオキシアルキル、カルボキシアルキル、カルボキシアミド、チオ、チオエーテル、飽和および不飽和両方の環状炭化水素、ヘテロ環などのような、1個以上の官能基を含む、上記のようなアリールを指す。
【0032】
本明細書で用いられる「アルキニル(Alkynyl)」は、エチニル、n−プロピニル、イソプロピニル、n−ブチニル、イソブチニル、オクチニル、デシニルなどのような、2〜約24個の炭素原子および少なくとも1個の三重結合を通常(必ずではないけれど)含む、分岐または非分岐の炭化水素基を指す。一般的に、再び必ずではないけれど、本明細書におけるアルキニル基は、2〜約12個の炭素原子を含む。用語「低級アルキニルlower alkynyl)」は、2〜6個の炭素原子、好ましくは3または4個の炭素原子のアルキニル基を意味する。「置換アルキニル(Substituted alkynyl)」は、1個以上の置換基で置換されたアルキニルを指し、用語「ヘテロ原子含有アルキニル(heteroatom−containing alkynyl)」および「ヘテロアルキニル(heteroalkynyl)」は、少なくとも1個の炭素原子がヘテロ原子で置換されているアルキニルを指す。
【0033】
本明細書で用いられる「アルコキシ(Alkoxy)」は、エーテル結合を通して結合されているアルキル基を指し、すなわち、「アルコキシ」基は、−O−アルキルとして示されてもよい(ここでアルキルは、上で定義されている通りである)。「低級アルコキシ(lower alkoxy)」基は、1〜6個の、より好ましくは1〜4個の、炭素原子を含むアルコキシ基を意味する。
【0034】
「アレニル(Allenyl))」は、−CH=C=CH2なる構造を持つ分子セグメントを指すために本明細書で使用される。「アレニル」基は、非置換であっても、または1個以上の非水素置換基で置換されていてもよい。
【0035】
本明細書で用いられる「アノマー(Anomer)」は、アルデヒドまたはケトン位置で原子の再編成が起こる、新しい対称中心の創成から生じる環式炭水化物の、一対の異性体の1つを意味する。
【0036】
「ケレリトリン類似体(Chelerythrine analog)」は、前に規定されているような化学式(I)〜(IV)の化合物を意味する。
【0037】
「ハロ(halo)」および「ハロゲン(Halogen)」は、クロロ、ブロモ、フルオロまたはヨード置換基を指すために、従来の意味で使用される。用語「ハロアルキル(haloalkyl)」、「ハロアルケニル(haloalkenyl))」または「ハロアルキニル(haloalkynyl)」(あるいは「ハロゲン化アルキル(halogenated alkyl)」、「ハロゲン化アルケニル(halogenated alkenyl)」、または「ハロゲン化アルキニル(halogenated alkynyl)」)は、それぞれ、水素原子の少なくとも1個がハロゲン原子と置換されたアルキル、アルケニルまたはアルキニル基を指す。
【0038】
「ヘテロ環(Heterocycle)」または「ヘテロ環式の(heterocyclic)」は、1個以上の炭素原子が1個以上の、窒素、酸素または硫黄のようなヘテロ原子で置換された炭素環を指す。芳香族または非芳香族のヘテロ環上の置換可能な窒素は、任意に置換されてもよい。ヘテロ原子、NまたはSは、NO、SOおよびSO2のような酸化型で存在することもできる。ヘテロ環の例は、多数の他の化合物の中で、ピペリジン、ピロリジン、モルフォリン、チオモルホリン、ピペラジン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、2−ピロリドン、δ−バレロラクタム、δ−バレロラクトンおよび2−ケトピペラジンを含むが、これらに限定されない。
【0039】
「ヘテロ原子含有(Heteroatom−containing)」は、1個以上の炭素原子が炭素以外の原子(たとえば窒素、酸素、硫黄、リンまたはケイ素)と置換されている分子または分子断片(molecular fragment)を指す。「置換ヘテロ環(Substituted heterocycle)」は、低級アルキル、アシル、アリール、シアノ、ハロゲン、ヒドロキシ、アルコキシ、アルコキシアルキル、アミノ、アルキルおよびジアルキルアミノ、アシルアミノ、アシロキシ、アリールオキシ、アリールオキシアルキル、カルボキシアルキル、カルボキシアミド、チオ、チオエーテル、飽和および不飽和両方の環状炭化水素、ヘテロ環などのような1個以上の官能基を含む、上記のようなヘテロ環を指す。用語「置換された」が使用される、その他のケースでは、この定義に入る置換基は、そのような置換基が所定の化学物質中に存在するような、明細書ならびに状況の中で示される置換基の、その他の定義から、容易に集めることができる。本技術の中で通常の技能を持っている者は、それが芳香族であれ、非芳香族であれ、安定な、化学的に可能なヘテロ環中のヘテロ原子の最大数は、環のサイズ、不飽和度およびヘテロ原子の原子価数によって決定されることを認めるであろう。一般に、ヘテロ環が化学的に可能で安定である限り、ヘテロ環は1〜4個のヘテロ原子を持つことができる。
【0040】
「等電子体(isostere)」は、実質的に類似した電子配置を持つことの結果として実質的に類似した物性を持つ化合物を指す。
【0041】
「置換アルキル」または「置換アルケニル」における「置換(Substituted)」は、ヒドロカルビル(hydrocarbyl))、ヒドロカルビレン(hydrocarbylene))、アルキル、アルケニルまたはその他の基において、炭素原子に結合した少なくとも1個の水素原子がヒドロキシ、アルコキシ、チオ、アミノ、ハロ、シリルなどのような官能基である1個以上の置換基と置換されていることを意味する。用語「置換」が可能な置換基のリストの前に出てくるとき、該用語は、そのグループのあらゆる成員に適用されることが意図されている。
【0042】
「有効量(Effective amount)」は、意図された結果を生み出すために使用される、選択された化合物、中間体または反応体の量を指す。使用される化合物、中間体または反応体の正確な量は、選択された特定の化合物およびその使用目的、被検者の年齢および体重、投与経路などによって変わるであろうが、それは、日常の実験によって容易に決めることが可能である。病状または疾病状態の治療の場合、有効量とは、特定の病状または疾病状態を効果的に治療するために使用される量である。したがって、「有効量」は、双極性障害、重いうつ病性障害、精神分裂症、心的外傷後ストレス障害、不安障害、注意欠如多動性障害およびアルツハイマー病(行動上の症状)を含む(しかしこれらに限定されない)CNS障害を治療することにおいて有効なケレリトリンまたはケレリトリン類似体の量を含む。
【0043】
「不安障害(Anxiety disorders)」は、あらゆるタイプのうつ病、双極性障害、循環気質および気分変調のような情動障害、全般性不安障害、パニック、恐怖症および強迫性障害のような不安障害、心的外傷後ストレス障害を含むストレス障害、ストレス誘発性精神病の発症、心理社会的小人症、ストレス頭痛およびストレス関連の睡眠障害を含み、かつ麻薬中毒または薬物依存症を含むことができる。
【0044】
本発明は、ケレリトリンまたはケレリトリン類似体の化合物の薬学的に許容される酸付加塩を含む組成物を含む。本発明に有用な前記主剤の薬剤的に許容できる酸付加塩を調製するために使用される酸は、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素塩、硝酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、酸性クエン酸塩、酒石酸塩、酒石酸水素塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、蔗糖塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、およびパモン酸塩[すなわち1,1’−メチレン−ビス−(2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸塩)]のような、無毒性酸付加塩、すなわち薬理学的に許容できるアニオンを含む塩を形成する、それらである。
【0045】
本発明はまた、ケレリトリンまたはケレリトリン類似体の塩基付加塩を含む組成物を含む。本来酸性であるケレリトリン類似体の薬学的に許容される塩基性塩を調製する試薬として使用されうる化学塩基は、そのような化合物と無毒性塩基性塩を形成するものである。そのような無毒性塩基は、アルカリ金属陽イオン(たとえば、カリウムおよびナトリウム)およびアルカリ土類金属陽イオン(たとえば、カルシウムおよびマグネシウム)、N−メチルグルカミン−(メグルミン)のようなアンモニウムまたは水溶性アミン付加塩、ならびに薬学的に許容される有機アミンの低級アルカノールアンモニウムおよび他の塩基性塩、のような薬理学的に許容されるカチオンから誘導されるそれらを含むが、それらに限定されない。
【0046】
本発明の化合物は、すべての立体異性体(すなわちシスおよびトランス異性体)およびケレリトリンまたはケレリトリン類似体のすべての光学異性体(たとえば、RおよびSエナンチオマー)、ならびにラセミ、ジアステレオマーおよびそのような異性体の、その他の混合物、ならびに化合物の全ての多形体(polymorphs)を含む。
【0047】
本発明の組成物は、1個以上の薬学的に許容される担体を使用する従来の方法で処方され、また徐放性処方で投与されうる。これらの医薬品組成物で使用されうる薬学上許容される担体は、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミンのような血清タンパク質、リン酸塩のような緩衝物質、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和野菜脂肪酸の部分的グリセリド混合物、水、プロラミン硫酸塩のような塩類または電解質、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイダルシリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースベースの物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸塩、ワックス、ポリエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリエチレングリコールおよび羊毛脂を含むが、これらに限定されない。
【0048】
本発明の組成物は、経口的に、非経口的に、吸入スプレーによって、局所的に、直腸経由で、鼻腔経由で、口腔経由で、膣経由で、または、埋め込まれたリザーバーを通して、投与されてもよい。本明細書で使用される用語「腸管外性(parenteral)」は、皮下、静脈内、筋肉内、関節腔内、滑液包内、胸骨内、クモ膜下、肝臓内、病巣内、および頭蓋内、への注射または注入技術を含む。好ましくは、組成物は、経口、腹腔内、または静脈内投与される。
【0049】
本発明の組成物の無菌の注射可能形態は、水性または油性の懸濁液であることができる。これらの懸濁液は、適当な分散性または湿潤性薬剤および懸濁剤を使用して、当業者に知られている技術によって処方されてもよい。無菌の注射可能調合液はまた、無毒性非経口的に許容される希釈液または溶媒(たとえば1,3−ブタンジオールの溶液のような)での無菌の注射可能の溶液または懸濁液であることもできる。使用される許容可能なビヒクルおよび溶媒の中に、水、リンゲル液および生理食塩水がある。さらに、無菌の固定油は、溶媒または懸濁媒として従来から使用されている。この目的のために、人工のモノまたはジグリセリドを含む、刺激の少ない固定油はいずれでも、使用することができる。オレイン酸およびそのグリセリド誘導体のような脂肪酸は、注射液の調製に使用できるが、それらは、特にそのポリオキシエチル化された形での、オリーブ油またはヒマシ油のような、天然の薬学的に許容できる油である。これらの油溶液または懸濁液はまた、Ph.Helv(スイス薬局方)の、または類似のアルコールのような、長鎖アルコール希釈液または分散剤を含むことができる。
【0050】
本発明の医薬品組成物は、カプセル、錠剤、水性懸濁液または溶液を含む(しかしこれらに限定されない)なんらかの経口的に許容される用量で経口的に投与されてもよい。経口使用のための錠剤の場合に、通常使用される担体は、ラクトースおよびコーンスターチを含む。ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤もまた、通常添加される。カプセル形態での内服のためには、有用な希釈液は、ラクトースおよび乾燥コーンスターチを含む。水性懸濁液が経口使用のために必要とされるとき、活性成分は、乳化性のおよび懸濁性の薬剤と結合される。必要であれば、ある種の甘味剤、調味料または着色剤もまた添加されてもよい。
【0051】
あるいは、本発明の医薬品組成物は、直腸内投与のために坐薬の形で投与されうる。これらは、該薬剤を、室温で固体であるが、直腸温度では液状であり、したがって、直腸内で溶融して薬を放出する、適当な非刺激性賦形剤と混合することによって調製されうる。そのような物質は、カカオ脂、密蝋およびポリエチレングリコール類を含む。
【0052】
本発明の医薬品組成物はまた、局所的に投与されてもよい。これらの部位または臓器の各々に対して適切な局所製剤が容易に調製される。下部の腸管のための局所適用は、肛門座薬製剤(上記参照)において、または、適当な浣腸製剤において達成されうる。局所的に許容される経皮パッチもまた使用することができる。
【0053】
局所適用のためには、医薬品組成物は、1種以上の担体に懸濁または溶解した活性成分を含む適当な軟膏の中で処方されてもよい。本発明の化合物の局所的投与のための担体は、鉱油、流動ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックスおよび水を含むが、これらに限定されない。あるいは、医薬品組成物は、1種以上の薬学的に許容される担体に懸濁された、または溶解された活性成分を含む適当なローションまたはクリームの中で処方することができる。適当な担体は、鉱油、ソルビタンモノステアラート、ポリソルベート60、セチルエステル系ワックス、セテアリルアルコール、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコールおよび水を含むが、これらに限定されない。
【0054】
眼科用のためには、該医薬品組成物は、等張のpH調整無菌食塩水での超微粉砕懸濁液として、または、好ましくは、等張の、pH調整無菌食塩水の溶液(塩化ベンジルアルコニウムのような防腐剤入りまたはなしのいずれでも)として調製されてもよい。あるいは、眼科用のためには、該医薬品組成物は、ワセリンのような軟膏の中で調製されてもよい。
【0055】
本発明の医薬品組成物はまた、鼻エアゾールまたは鼻吸入によって投与されてもよい。そのような組成物は、製剤処方の技術でよく知られた技法によって調製され、ベンジルアルコールまたは他の適当な防腐剤、生物学的利用能を高めるための吸収促進剤、フルオロカーボンおよび/または他の従来の可溶化または分散化薬剤を使用して、食塩水の溶液として調製されてもよい。
【0056】
単一の剤形を作成するために担体物質と組み合わせられてもよい、本発明の医薬品組成物のケレリトリンまたはケレリトリン類似体の量は、治療されるホスト、特定の投与方法によって異なるであろう。好ましくは、該組成物は、約10ミリグラム〜約500ミリグラムの活性成分を含むように処方されなければならない。
【0057】
いずれか特定の患者に対する特定の投薬量および治療計画は、使用される特定の化合物の活性、年齢、体重、一般的健康状態、性、食事、投与の時間、排泄の頻度、薬の組合せ、および治療する医者の判断と治療されるべき特定の病気または症状の重篤度を含む、種々の要因によって変わるであろうこともまた、理解されるべきである。
【0058】
<ケレリトリンおよびケレリトリン類似体>
ベンゾフェナントリジンアルカロイドケレリトリン(1,2−ジメトキシ−12−メチル[1,3]ベンゾジオキソロ[5,6−c] フェナントリジニウム;C21H18NO4)(トッダリン(toddaline)としも知られている)は、Chelidonium majus L.、Zanthoxylum simulans、Sanguinaria candensis(または赤根草)、Macleaya cordata、Carydali Sevctocozii、Carydali ledebouni、Chelidonium majusm、および他のケシ科の植物種から、純粋な形で、または他のベンゾフェナントリジンアルカロイドとの混合物として、抽出可能である。Zanthoxylum simulans中の主要なアルカロイドは、ケレリトリンであり、少量のジヒドロ−およびオキシ−ケレリトリン、N−アセチラノミン、スキミアニン、ファガリン、シトステロールおよびセサミンを含む。
【0059】
本発明の代表的ケレリトリン類似体は、以下に記す一般的な合成方法に従って合成され、あとに続くスキームでさらに詳しく図示される。スキームは例証的であるので、本発明が、示されている化学反応および条件によって限定されていると解釈されてはならない。スキームに使用されている種々の出発原料の調製は、全く当業者の技術の範囲内にある。
【0060】
違った風に明記されていなければ、本明細書中の反応は、およそ大気圧で、そして、約0℃と反応に使用される有機溶剤の沸点との間の温度で起こる。ジクロロメタン、ジエチルエーテル、ジメチルホルムアミド、クロロホルムまたはテトラヒドロフランのような不活性の有機溶剤は、本明細書に開示されている反応において好ましい溶媒である。反応時間は、約1時間から約48時間までの範囲とすることができ、反応体は、任意に、掻き混ぜられるか、振盪されるか、または揺り動かされる。もし違った風に明記されていなければ、反応はワンポットで、または、段階的にされうる。
【0061】
純粋に説明的な例において、市販のイソキノリン類似体の誘導体化は、適切に誘導体化されたベンズアルデヒドまたは他の縮合可能な中間体(それらは、適切に置換されたイソキノリン類似体上に縮合して、ケレリトリンまたはケレリトリン類似体を生成する)と、第3および第4の環構造を(ならびに、適用可能ならば、第5の、1,3−ジオキソラン環構造も)容易に形成することができる。あるいは、求電子性のベンズアルデヒドは、アミン(アニリンまたは1−アミノナフチレン類似体)と縮合して、1,3−ジオキソラン部分あるいはその他の部分を含むケレリトリン環構造を生み出すことができる。1,2−ヒドロキシフェノール基は、ジブロモメタンまたは他の求電子性の化合物と縮合して、本発明による化合物の1,3−ジオキソラン部分を作成するためにヒドロキシフェノールの2個のヒドロキシル基の間にメチレン橋を導入することができる。本発明によって化合物を生み出す合成方法は、周知の技術であって、多くの他の実例があり、たとえば、ジェリー・マーチ(March,Jerry)著『アドバンスト・オルガニック・ケミストリィ(Advanced Organic Chemistry)』第2版(マグロウヒル(McGraw−Hill)出版社)において見つけることができる。
【0062】
<PKC活性化および前頭前野皮質の機能>
前頭前野皮質の機能に及ぼすPKC活性化の影響は、前頭前野皮質の完全性に決定的に依存している空間作動記憶作業を行っているラットおよびサルで調べられた。全手順は、エール大学組織的動物保護・利用委員会(Yale Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認された。ラットは、T迷路内の空間的遅延性交替作業(alternation task)に関して、または制御作業、空間識別に関して訓練され、それは、類似した運動性および刺激性の要求を持つが、後方皮質にのみ依存して、前頭前野皮質には依存していない。遅延性交替作業での能力は、試験の間の遅れの長さに依存している。遅れは、個々の動物能力を約70%の正確さに維持するために必要とされる遅れが起こり、薬の投与に続く、能力の改善または障害に対する余地を残している。
【0063】
行動のトレーニングの後で、ラットには、前頭前野皮質への薬剤注入が可能になるようにガイドカニューレを移植した(前頂部および頭面からの定位座標:後部+3.2mm、側面±0.75mm、腹面−1.7mm)。注入針は、注入サイトが頭蓋縫合線へ向かって腹面−4.5mmであるように、ガイドカニューレの下2.8mmに突き出た。ラットは、手術の1週間後で回復することを可能にされた。薬物療法は、動物が連続2日間安定した能力(60〜80%の正確さ)を達成したあとでのみ、施された。PKCは、フォルボール12−ミリステート 13−アセテート(PMA)を使用して直接活性化され、ケレリトリンで選択的に阻止された。ラットの前頭前野皮質へのPMAの局所注入(認知試験の10分前)は、顕著に作動記憶を損なわせた(図10A)。PMA誘発作動記憶障害は、ケレリトリンの混合投与によってブロックされ、単独で投与されるとき、それは能力に影響を示さなかった(図10A)。対照的に、PMA(PMA 5ピコグラム/0.5μl)は、対照空間識別作業(10秒遅延、ビヒクル後の平均能力発揮:92.0%±11.0%、PMA後の平均能力発揮:88.0%±13.0% 、p=0.587、Tdepテスト)の能力に何の影響も示さなかった。制御作業に及ぼすPMA影響の欠如は、遅延性交替(alternation)能力の障害が薬物療法の非選択的動作または動機付効果(それらは、両方の作業を変えると期待される)によらなかったことを立証する。代わりに、結果は、PKC活性化が著しく前頭前野皮質の認知能力を損なうことを示している。
【0064】
NEα−1アドレナリン受容体は、PI細胞内シグナル伝達経路に関連するGq−タンパクを通してPKCと明らかに結合する(図1)。以前の研究は、α−1アドレナリン受容体作動薬、フェニレフリンの前頭前野皮質への注入は、ラット(アーンステン(Arnsten)ら、1999年;図2、6および10B)およびサル(マオ(Mao)ら、1999年)の両方において作動記憶を損なう。同様に、シラゾリン、血脳関門を横切るα−1アドレナリン受容体作動薬の全身的注射は、サルの作動記憶を損なう(図5および10C)。このように、PKCは、ラットの前頭前野皮質にフェニレフリンを注入すること(認知試験の5分前)、または、サルへのシラゾリンの全身的投与(筋肉内注射、認知試験の30分前)によって間接的に活性化した。サルは、前もって、空間的遅延性応答作業、ヒト以外の霊長類の前頭前野皮質の機能を評価するために最も普通に使用される作業で訓練されていた。PKC阻害剤、ケレリトリンは、ラットの前頭前野皮質に(認知テストの5分前に)、または、サルに全身的に(内服、認知テストの60分前に)直接投与された。
【0065】
以前に観察されたように、α−1アドレナリン受容体作動薬は、ラットおよびサルの両方で顕著に認知能力を損なった(図10Bおよび10C)。この障害は、PKC阻害剤、ケレリトリンによって阻止され(図10Bおよび10C)、NEα−1アドレナリン受容体活性化がPI/PKC細胞内シグナル伝達カスケードの活性化を通して作動記憶を損なうことを示した。これらの知見は、NEおよび躁病の大きくなったレベルの間に以前の関係が示されると、特に意味深い。これらのデータは、一緒になって、PKCのホルボールエステルによる直接的活性化、またはPKCの、α−1アドレナリン受容体刺激を通しての間接的刺激が、前頭前野皮質の機能を損なうのに十分であることを証明する。
【0066】
<ストレスの有害効果をブロックすること>
ストレスへの曝露が躁病発症の始まりを引き起こし、そして症状の重篤度を上げうることが認められてきた。さらに、環境的または薬理学的(FG7142)ストレッサへの曝露は、前頭前野皮質に依存する作業に対する認知能力を損ない、一方で、ヒトおよび研究動物両方の制御、非前頭前野皮質に依存する作業にはなんら影響を示さない。ストレスの間、NE含有細胞は「緊張」モードで興奮して、前頭前野皮質を含む脳を通して高濃度のNEを放出する。この「緊張」モードは、貧しい認知能力および被転導性と関連しており、それは、おそらく、前頭前野皮質内のα−1アドレナリン受容体を刺激する高濃度のNE放出によって引き起こされる。
【0067】
不安誘発性ストレッサ、FG7142は、認知テストの30分前に、ラット(腹腔内注射)またはサル(筋肉内注射)に全身的に投与された。ケレリトリンは、ラットの前頭前野皮質に(認知テストの15分前)、または、サルに全身的に(内服、認知テストの60分前)直接投与された。以前に観察されたように、FG7142は、ラットおよびサルの両方の作動記憶を顕著に損なった(図11Aおよび11B)。この認知障害は、PKCのストレス誘発性活性化と合致して、ケレリトリンによって阻止された(図11Aおよび11B)。
【0068】
ラットにおけるケレリトリンの皮質性注入が前頭前野皮質の機能とは無関係であるストレス反応の他の面を逆転しなかったことを知ることは、重要である。たとえば、FG7142のようなストレッサは、効果的に遅延を延ばし、作業の記憶要求を高める、齧歯動物のすくみ性質を誘発する(図11C)。意外なことに、ラット前頭前野皮質へのケレリトリンの注入は、それらがストレスを受けた動物の応答時間にはなんら影響を示さなかったけれども、通常の認知能力を回復させた(図11C)。これらの知見は、PKCシグナル伝達の内因性(ストレス)ならびに外因性(PMA)活性化が前頭前野皮質の機能に有害な効果を記したことを強調しており、ストレス曝露がPKC活性を高めることによって躁病発症を引き起こすことを示唆する。
【0069】
前頭前野皮質へのα−1アドレナリン作用性作動薬注入によって誘発される障害は、ラットにおけるホスファチジルイノシトールターンオーバーを抑えると知られているリチウム投与療法によって改善される(アーンステン(Arnsten)ら、1999年;図4)。出願人は、サルにおいて、躁病患者を治療するために使用されるリチウム用量範囲(5〜7.5mg/kg、経口)がα−1作動薬、シラゾリンの全身投与によって誘発される障害を改善することができることを発見した(図5)。
【0070】
ラットの前頭前野皮質に直接注入された少量のケレリトリンの影響が調べられた。PFCへのケレリトリンの注入(0.3μg/0.5μl)は、単独では能力に対して効果を示さなかったが、α−1作動薬(図6および10B)またはストレス曝露(図7および11A)いずれかの有害効果を顕著に逆転させた。興味深いことに、高用量のケレリトリンの注入(3.0μg/0.5μl)は、この用量が、単独で注入されたとき、効果を示さなかったにもかかわらず、ストレス反応を逆転させなかった。これらのデータは、有益な薬効に対して、観察可能な副作用とは無関係な、規定された用量範囲があることを示す。これらの知見は、ストレス誘発性の前頭前野皮質の認知障害が前頭前野皮質におけるプロテインキナーゼCの活性化を含むという仮説を強く支持した。
【実施例】
【0071】
本発明は、以下の諸例ではさらに記述されるが、それは例証的であって、決して限定するものではない。
【0072】
(実施例1)
認知テストのおよそ45分前に、ケレリトリンの0、0.3または3.0mg/kg水溶液をラットに皮下注射した。それらは、認知テストの30分前に、薬理学的ストレッサ、FG7142(15mg/kg、腹腔内)またはビヒクルの注射を受ける。全ての薬物療法は少なくとも1週間隔で行われ、治療の順序は、動物の間でバランスをとられる。図8に図示したように、ケレリトリンの低用量の注射(0.3mg/kg、皮下、45分)は、ストレス曝露の有害な影響を顕著に逆転させた(p=0.018、n=4)。高用量のケレリトリン(3.0mg/kg)は、ストレスによる認知障害を逆転させなかった、しかし、それはそれ自体では挙動に影響を示さなかった(平均72.5%の正確さ、ビヒクルに類似)。家庭用おりの中での、そして、認知テストの間の慎重な挙動観察は、どちらの用量でもそれ自体ではケレリトリン投与による顕著な副作用を示さなかった。時折、動物は「少しのろいが普通」であると報告された。全ての評価は、動物の規範的挙動に非常に精通していたが、薬物治療条件を知らなかった実験者によってなされた。
【0073】
(実施例2)
ケレリトリンは、認知テストの前60分に0.03/kgまたは0.3mg/kgのいずれかの用量で、ストレス曝露の前30分に(FG7142 0.2〜1.0mg/kg、筋肉内)、アカゲザルに経口投与した。認知テストに加えて、サルはまた、鎮静状態、興奮、攻撃性、動機づけ、摂食、ならびに微細運動および粗大運動両方の能力、の変化に関して評価される。4匹のサルを試験した。ケレリトリン前処理は、前頭前野皮質の機能に対するストレスの有害な影響を顕著に逆転させた(図9;p<0.05、n=4)。半数のサルは、0.03mg/kgの投薬量で完全な保護を示した。他の半数は、完全な逆転のためには0.3mg/kgを必要とした。ケレリトリンそれ自身は、認知能力に効果を示さなかったし、どちらの用量でも副作用がなくうまく耐えられた。複合用量データは、図11に示されている。
【0074】
前述の説明および実施例が本発明を実行することを例証しているが、決して限定していないことは、当業者によってよく理解されるべきである。本明細書に提示された詳細のバリエーションは、特許請求の範囲の請求項によって規定されるような、本発明の精神および範囲から離れることなくなされうる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】ホスファチジルイノシトール/プロテインキナーゼC(PI/PKC)細胞内シグナル伝達カスケードおよびアルファ−1アドレナリン受容体活性化によるその活性化の概略図である。
【図2】ラット前頭前野皮質へのアルファ−1作動薬、フェニレフリンの注入が作動記憶を損なうこと、そして、この損傷がアルファ−1拮抗体、ウラピジルの混合注入によって防止されることを示す図である。
【図3】ストレス曝露が作動記憶を損なって、ラットで認知欠損を誘発すること、およびこの障害が前頭前野皮質への、アルファ−1拮抗体、ウラピジルの注入によって防止されることを示す図である。
【図4】ホスファチジルイノシトールターンオーバーを抑えると知られているリチウムの服用がラットの前頭前野皮質に注入されたアルファ−1作動薬の損傷効果を逆転することを示す図である。
【図5】リチウム(5〜7.5mg/kg、経口)の臨床に関連する服用量による前治療がアカゲザルへのアルファ−1作動薬、シラゾリンの全身的投与によって引き起こされる障害を逆転させることを示す図である。
【図6】フェニレフリンの投与に起因する作動記憶能力の障害がケレリトリンの混合注入によって顕著にブロックされることを示す図である。
【図7】ラットPFCへのケレリトリン(0.3μg/0.5μl)の混合注入がストレス曝露の有害効果を顕著に逆転させたことを示す図である。
【図8】ケレリトリンの全身的(皮下)投与が、ラットにおけるストレス曝露によって誘発された認知障害を顕著に減らすことを示す図である。
【図9】経口ケレリトリン(0.03〜0.3mg/kg、経口)が、アカゲザルにおけるストレスによって引き起こされる前頭前野皮質の機能障害を防ぐことを示す図である。
【図10】ケレリトリンによる処置が、A.ラット前頭前野皮質へのタンパク質キナーゼC活性化剤、PMAの注入;B.ラット前頭前野皮質へのアルファ−1作動薬、フェニレフリンの注入;およびC.アカゲザルにおけるアルファ−1作動薬、シラゾリンの投与;の有害効果を逆転させている、概略を示す図である。この図は、作動記憶に及ぼすPKC活性の(直接的または間接的)効果の要約を示す。Aでは、ホルボールエステル、PMAの前頭前野皮質への直接注入によってPKCの直接的活性化が、ラットにおけるビヒクル処置と比較して、遅延性交替能力を顕著に損なった(ANOVA−R;ビヒクル+ビヒクル対ピロメリト酸+ビヒクル:*F1,8=26.45、p=0.001)。PMAの用量は、遅延性交替テストを損なった個々の動物に対して求められた(範囲:0.05〜5pg/0.5μl)。PMA誘起作動記憶障害は、PKC阻害剤、ケレリトリンの混合注入によって逆転された(CHEL、0.3μg/0.5μl;PMA+ビヒクル対PMA+ケレリトリン:†F1,8=46.50、p<0.001)。ケレリトリンは、それ自体では効果を持たなかった。 B.α−1アドレナリン受容体作動薬、フェニレフリン(PE、0.1μg/0.5μl)の直接前頭前野皮質への注入によるPKCの間接的な活性化は、ラットにおけるビヒクル処置と比較して、顕著に遅延性交替能力を損なった(ビヒクル+ビヒクル対フェニレフリン+ビヒクル:*F1,8=11.10、p=0.01)。フェニレフリン誘起作動記憶障害は、ケレリトリンの混合注入によって逆転された(フェニレフリン+ビヒクル対フェニレフリン+ケレリトリン:†F1,8=8.0l、p<0.022)。ケレリトリンは、それ自体では効果を持たなかった。 C.サルにおいて、アルファ−1アドレナリン受容体作動薬、シラゾリン(CIRAZ)の全身投与によるPKCの間接的活性化は、ビヒクル処置と比較して遅延性応答能力を顕著に損なった(ビヒクル+ビヒクル対シラゾリン+ビヒクル:*F1,4=26.74、p=0.007)。シラゾリンの用量(範囲:0.001〜10μg/kg)は、遅延応答テストを確実に損なった各々の動物に対して決めた。シラゾリン誘発性作動記憶欠損は、ケレリトリン(0.03mg/kg;シラゾリン+ビヒクル対シラゾリン+ケレリトリン:†F1,4=11.10、p=0.008)を用いた前処理によって逆転した。ケレリトリンは、それ自体では効果を持たなかった。
【図11】ケレリトリンによる処置が、A.ラットにおけるストレス;B.サルにおけるストレスの有害効果を逆転させている概略を示す図である。C.は、ラット前頭前野皮質へのケレリトリンの注入がストレス誘発性すくみを逆転させなかったことを示す。この図は、ラットおよびサルにおけるストレス誘発性認知障害に及ぼすPKC抑制の効果を示す。Aでは、不安誘発性ストレッサ、FG7142(範囲:10〜20mg/kg)は、ラットにおいて、ビヒクル処置と比較して遅延性交替能力を損なった(ビヒクル+ビヒクル対FG7142+ビヒクル:*ANOVA−R、F1,10=25.095、p=0.001)。FG7142誘発性認知障害は、検定15分前の、PKC阻害剤、ケレリトリンの前頭前野皮質への注入によって逆転した(0.3μg/0.5μl;FG7142+ビヒクル対FG7142+ケレリトリン:†F1,10=10.170、p=0.010)。Bでは、サルにおいて、FG7142(レンジ:0.2〜2.0mg/kg)の注射が、ビヒクル処置と比較して、遅延性応答能力を顕著に損なった(ビヒクル+ビヒクル対FG7142+ビヒクル:*F1,5=20.69、p=0.006)。FG7142誘発認知障害は、PKC阻害剤、ケレリトリンによる前処置によって逆転した(0.03mg/kg;FG7142+ビヒクル対FG7142+ケレリトリン:†F1,4=21.23、p=0.006)。Cでは、FG7142投与の後で、ラットはしばしばストレス関連の挙動(たとえば、すくみおよび毛づくろい)を示す。これらの挙動は、前頭前野皮質の機能に依存しないで、各々の試験を完了する時間を長くすることができる(ビヒクル+ビヒクル対FG7142+ビヒクルのための各々の試験のための平均応答時間:*F1,10=12.264、p=0.006)。FG7142によって誘発された、この長くなった応答時間は、ケレリトリンによって阻止されなかった(FG7142+ビヒクル対FG7142+ケレリトリン:F1,10=0.283、p=0.606;ビヒクル+ビヒクル対FG7142+ケレリトリン:*F1,10=14.502、P=0.003)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、前頭前野皮質の機能障害を含む(中でも、双極性障害を含む)神経精神性障害の治療のための医薬組成物における、ケレリトリン(chelerythrine)およびケレリトリン類似体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
収斂する証拠は、細胞内のシグナル伝達酵素、プロテインキナーゼCの過活動が双極性障害において躁病の症候を引き起こすことを示している。躁病患者の大脳皮質には、高濃度のプロテインキナーゼCおよび高活性のプロテインキナーゼCの両方が存在し、全ての効果的抗躁病薬剤は、プロテインキナーゼC遮断活性を持つ(マンジ(Manji)およびレノックス(Lenox)(1999年)に概説されている)。たとえば、広く使われている抗躁病性、非選択的薬剤リチウムは、リン酸イノシトールフォスファターゼをブロックすることおよびホスホチジルイノシトールカスケイド(サン(Sun)ら、1992年)における前駆体(ミオイノシトール)の利用可能性を減少させることによって、プロテインキナーゼC活性を減少させる。確かに、双極性の患者のプロトン磁気共鳴分光学研究は、リチウム療法が右側の前頭前野皮質、躁病の徴候に大いに関連する脳領域におけるミオイノシトール濃度を減少させることを示した(下段参照)。最近の「コンセプトの証明」研究は、タモキシフェン、高濃度でプロテインキナーゼCブロッキング活性をもつ抗卵胞ホルモン化合物が、高用量で投与されると、躁病の徴候を改善することを示した(ベブチュク(Bebchuk)ら、2000年)が、これは、プロテインキナーゼC遮断が双極性障害において確かに治療的であることを示唆する。
【0003】
前頭前野皮質は、作動記憶を用いてヒトの行動を制御し、不適当な刺激を阻止し、そして被転導性を減らす(ゴールドマン−ラキッチ(Goldman−Rakic)、1996年;ロビンス(Robins)、1996年)。ヒトにおいては、右半球の前頭前野皮質は、不適当なインパルスを阻止するために特に重要であり、この皮質の減少した大きさは、脱抑制挙動と関連する(ケーシー(Casey)ら、1997年)。このように、躁病発症の間の重度脱抑制は、前頭前野皮質の機能障害の特徴を示す。これは、画像研究によって確認されてきた:双極性障害の患者には前頭前野皮質のサイズの縮小があり(ドレヴェツ(Drevets)ら、1997年)、右側の前頭前野皮質の内側/環状の部分は、双極性の患者において躁状態の間、極めて不活発である(ブラムバーグ(Blumberg)ら、1999年)。
【0004】
双極性の患者の躁病発症は、ストレスへの暴露によって引き起こされる(ハメン(Hammen)およびギトリン(Gitlin)、1997年)。(たとえば95dBを超える、非常に大きい雑音のような)環境侵襲要因、または薬理学的ストレス(部分的反転ベンゾジアゼピン作動薬、FG7142)は、サルおよびネズミにおいて前頭前野皮質の機能を損なうことができるが、一方、前頭前野皮質と無関係な認知能力には影響を持たない(アーンステン(Arnsten)、1998年;アーンステン(Arnsten)とゴールドマン−ラキッチ(Goldman−Rakic)、1998年;マーフィ(Murphy)ら、1996年)。同様に、ストレス性レベルの雑音にさらされたヒトは、前頭前野皮質の機能の欠損を示した(ハートリー(Hartley)およびアダムズ(Adams)、1974年)、特に被検者が侵襲要因に対する制御を経験しなかったときにそうである(グラス(Glass)ら、1971年)。ストレス曝露の間に高濃度のドーパミンおよびノルエピネフリンが全頭前野皮質に放出され、これらの過剰濃度のカテコールアミン類は、それぞれ、D1ドーパミン受容体およびアルファ−1アドレナリン受容体を刺激することによって、全頭前野皮質の機能を損なう(アーンステン(Arnsten)、2000年、に概説されている)。
【0005】
D1受容体の過剰刺激は、プロテインキナーゼAシグナル伝達経路の過度の活性化によって頭前野皮質機能を損ない(テイラー(Taylor)ら、1999年)、一方、アルファ−1受容体の過剰刺激は、プロテインキナーゼCのシグナル伝達経路の過剰刺激によって認知機能を損なう(図1、および下段参照)。躁病患者は、プロテインキナーゼCの過剰活動に特に影響されやすいので、これは、衝動性、被転導性および誤った判断(これらは躁病の重要な特徴である)のような、前頭前野皮質の機能障害および前頭前野皮質の機能障害の徴候に導く。
【0006】
ストレスの間に起こる前頭前野皮質の機能の欠損は、ノルアドレナリン性アルファ−1作動薬でもって前頭前野皮質を刺激することによって再現することができる。このように、血脳関門を横切るアルファ−1作動薬(アーンステン(Arnsten)とジェンツ(Jentsch)、1997年)または前頭前野皮質へのアルファ−1作動薬の直接の注入(アーンステン(Arnsten)ら、1999年;マオ(Mao)ら、1999年)は、サルおよびネズミにおける作動記憶能力を弱める。この障害は、アルファ−1アドレナリン受容拮抗体の全身投与または局所投与のいずれかによって逆転されることがある(同上;図2)。PFCへのアルファ−1アドレナリン受容拮抗体の直接注入は、またストレス誘発性認知欠損を防ぎ、こうして、ストレス反応におけるこの経路の重要性を実証する(バーンバウム(Birnbaum)ら、1999年、図3)。
【0007】
アルファ−1アドレナリン受容体は、通常、GqによってホスファチジルイノシトールカスケイドとプロテインキナーゼCの活性化に関連する(デュマン(Duman)およびネスラー(Nestler)、1995年;図1)。最近の実験は、ストレスおよびアルファ−1作動薬の両方が、この細胞内シグナル伝達経路の活性化を通して前頭前野皮質の機能を弱めることを示す。前頭前野皮質へのアルファ−1アドレナリン作動薬の注入によって引き起こされる障害は、ホスファチジルイノシトール回転を抑えると知られているリチウムの服用処置法によって逆転される(アーンステン(Arnsten)ら、1999年;図4)。同様に、サルへのリチウムの臨床的に意義のある用量の内服は、アルファ−1アドレナリン作動薬、シラゾリンによって、前頭前野皮質の認知障害を抑える(図5)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、制御できないストレスと関連した前頭前野皮質の機能障害を治療する選択的方法に対するニーズが存在する。同様に、ストレス曝露から認知能力を保護する選択的方法に対するニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
出願人は、動物試験において、制御できないストレスへの曝露がプロテインキナーゼCの活性化により前頭前野皮質の機能を損なうこと、および本発明に従っての、ケレリトリンまたはケレリトリン類似体の投与が有害なタンパク質キナーゼC活性化を阻止することを発見した。したがって、本発明は、CNS障害、特に制御できないストレスへの曝露によるプロテインキナーゼCの活性化に関連する、損なわれた前頭前野皮質の機能と関係するCNS障害、を患っている被検者を治療することにおいて役に立つ組成物および方法を提供する。特に、本発明は、以下に規定されるように、選択的なタンパク質キナーゼC阻害剤ケレリトリンまたはケレリトリン類似体の効果的量を被験者に投与することによって、そのような障害を患っている被検者を治療する組成物および方法を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、選択的なタンパク質キナーゼC阻害剤ケレリトリンまたはケレリトリン類似体の効果的量を被検者に投与することによって被検者の認知能力をアルファ−1受容体刺激またはストレス曝露から保護する方法を提供する。
【0011】
特許申請された本発明の組成物および方法によって治療されうるCNS障害は、双極性障害、重いうつ病性障害、精神分裂症、心的外傷後ストレス障害、不安障害、注意力欠如多動性障害およびアルツハイマー病(行動上の症状)を含む。
【0012】
一実施形態では、本発明は、有効量のケレリトリン(それは、下記の化学式を持つ)および立体異性体、薬学的に許容できる塩類、溶媒和化合物およびそれらの多形体を含む医薬品組成物を被検者に投与することによってプロテインキナーゼCの活性化と関連する、損なわれた前頭前野皮質の機能と関連する障害を患っている被検者を治療することを含む方法に関するものである。
【0013】
【化1】
【0014】
他の実施形態では、本発明は、化学式(I)または(II)、(ここで、R1およびR2は、個別にH、C1〜C3アルキル、F、Cl、Br、I、OH、O(C1〜C6アルキル)、O−C(=O)−(C1〜C6)アルキル、C(=O)−O−(C1〜C6)アルキル、より好ましくはO−アルキル、さらにより好ましくはOCH3であり、
R3は、HまたはC1〜C6アルキル基、好ましくはメチルまたはエチル、もっとも好ましくはメチルであり、
R4、R5、R6、R7およびR8は、個別に、H、C1〜C6アルキル、F、Cl、Br、I、OH、−(CH2)nO(C1〜C6アルキル)、−(CH2)nO−C(=O)−(C1〜C6)アルキル、−(CH2)nC(=O)−O−(C1〜C6)アルキルから選択され、
R9およびR10は、個別に、H、C1〜C6アルキル、好ましくはC1〜C3アルキルであるか、または、一緒になって−(CH2)m−基を形成して5〜7員環を生成し、
nは0〜5であり、
mは1〜3であり、
そして、A−は、四級化されたアミン基と塩を形成する、製薬用塩の薬学上許容されるアニオンであり、F−、Cl−、Br−、I−、サルフェート、サイトレート、タートレート、ホスフェートなど)の化合物、または立体異性体、薬学的に許容される塩、溶媒和物、およびそれらの多形体である)として本明細書において規定されている、ケレリトリン類似体の有効量を含む薬剤組成物を被検者に投与することによって、プロテインキナーゼCの活性化と関連する、損なわれた前頭前野皮質の機能と関連する障害を患っている被検者を治療することを含む方法に関するものである。
【0015】
【化2】
【0016】
好ましい実施形態では、本発明の組成物および方法は、ケレリトリンのマイナーな修飾体を表わす、化学式(I)〜(II)の化合物を使用する。
【0017】
本発明において有用な化合物は、本技術において容易に利用可能な方法によって合成される。たとえば、市販のイソキノリン類似体の誘導体化は、イソキノリン類似体の上に縮合される適当に誘導体化されたベンズアルデヒドと、第3および第4の環構造を(利用可能ならば、さらに、第5の環構造をさえ)容易に形成することができる。
【0018】
本発明のこれらおよびその他の特徴は、さらに以下の詳細な説明において記述される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本明細書に使用されるとき、以下の用語は、以下のそれぞれの意味を持つ。本発明を記述するために使用される他の用語は、それらが当業者によって通常使用されるのと同じ定義を持つ。どの定義においても挙げられている特定の例は、限定することが意図されているわけでは決してない。
【0020】
「炭化水素(Hydrocarbon)」は、置換または非置換の有機化合物を指す。
【0021】
「アセタール(Acetal)」は、2個のエーテル酸素が同じカーボンに結合している化合物を指す。「ケタール」は、ケトンから誘導されたアセタールである。
【0022】
「アシル(Acyl)」は、化学式RCOの化合物を意味する、ここで、Rは、脂肪族(炭素原子の直鎖によって特徴づけられる)、脂環式(少なくとも1個の環を含む飽和炭化水素)、または芳香族である。
【0023】
「アシロキシ(Acyloxy)」は、基、アルキル−C(O)O−、置換アルキル−C(O)O−、シクロアルキル−C(O)O−、置換シクロアルキル−C(O)O−、アリール−C(O)O−、ヘテロアリール−C(O)O−、およびヘテロ環式−C(O)O−を指し、ここにおいてアルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、アリール、ヘテロアリールおよびヘテロ環式は、本明細書に規定されているとおりである。
【0024】
「アルキル(Alkyl)」は、直鎖、分岐鎖、または環状鎖であってもよい、炭素と水素を含む完全に飽和した一価の炭化水素ラジカルを指す。アルキル基の実例は、メチル、エチル、n−ブチル、n−ヘプチル、イソプロピル、2−メチルプロピル、シクロプロピル、シクロプロピルメチル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロペンチルエチル、およびシクロヘキシルである。「シクロアルキル(cycloalkyl)」基は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルのような、環式アルキル基を指す。C1〜C7アルキル基は、本発明において好ましく使用される。
【0025】
「置換アルキル(Substituted alkyl)」は、1〜6個の炭素原子を含むアルキル、好ましくは1〜3個の炭素原子を含む低級アルキル、アリール、置換アリール、アシル、ハロゲン(すなわち、アルキルハロゲン、たとえばCF3)、ヒドロキシ、アルコキシ、アルコキシアルキル、アミノ、アルキルおよびジアルキルアミノ、アシルアミノ、アシロキシ、アリールオキシ、アリールオキシアルキル、カルボキシアルキル、カルボキシアミド、チオ、チオエーテル、飽和および不飽和の両方の環状炭化水素、ヘテロ環式炭化水素などのような1個以上の官能基を含む、上記のようなアルキルを指す。用語「置換シクロアルキル(Substituted cycloalkyl)」は、本発明を記述する目的のためには、基本的に、用語「置換アルキル」と同じ定義を持ち、この中に包含される。
【0026】
「アミン(Amine)」は、脂肪族アミン、芳香族アミン(たとえばアニリン)、飽和ヘテロ環式アミン(たとえばピペリジン)、およびアルキルモルホリンのような置換誘導体を指す。本明細書で使用される「アミン」は、ピリジンまたはプリンのような、窒素含有芳香族ヘテロ環式化合物を含む。
【0027】
「アラルキル(Aralkyl)」は、アリール置換基をもつアルキル基を指し、用語「アラルキレン(aralkylene)」は、アリール置換基をもつアルケニル基を指す。用語「アルカリール(alkaryl)」は、アルキル置換基を持つアリール基を指し、用語「アルカリーレン(alkarylene)」は、アルキル置換基をもつアリーレン基を指す。用語「アリーレン(arylene)」は、1,2−フェニレン、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン、1,2−ナフチレンなどによって例証される、アリール(置換アリールを含む)から誘導されたジラジカルを指す。
【0028】
「アルケニル(Alkenyl)」は、エテニル、n−プロペニル、イソプロペニル、n−ブテニル、イソブテニル、オクテニル、デセニルなどのような、必ずではないけれど、通常2〜約24個の炭素原子および少なくとも1個の二重結合を含む、分岐した、または分岐していない炭化水素基を指す。一般的に、再び必ずということはないけれど、本明細書におけるアルケニル基は、2〜約12個の炭素原子を含む。用語「低級アルケニル(lower alkenyl)」は、2〜6個の炭素原子、好ましくは2〜4個の炭素原子のアルケニル基を意味する。
【0029】
「置換アルケニル(Substituted alkenyl)」は、1個以上の置換基で置換されるアルケニルを指し、用語「ヘテロ原子含有アルケニル(heteroatom−containing alkenyl)」および「ヘテロアルケニル(heteroalkenyl)」は、少なくとも1個の炭素原子がヘテロ原子と置換されているアルケニルを指す。
【0030】
「アリール(Aryl)」は、1個の環(たとえば、フェニル)または複数の縮合環(たとえば、ナフチル)を持つ、置換された、または非置換の一価芳香族ラジカルを指す。その他の実例は、とりわけイミダゾリル、フリル、ピロリル、ピリジル、チエニルおよびインドリルのような、環の中に一個以上の窒素、酸素または硫黄原子を持つヘテロ環式芳香族環基を含む。したがって、本明細書で用いられる「アリール」は、1〜15個の炭素原子および1〜4個のヘテロ原子を含み、環系の少なくとも1個の環が芳香環である、モノ環状またはポリ環状系を持つ「ヘテロアリール(heteroaryl)」を含む。ヘテロ原子は、硫黄、窒素または酸素である。
【0031】
「置換アリール(Substituted aryl)」は、低級アルキル、アシル、アリール、ハロゲン、アルキルハロゲン(たとえば、CF3)、ヒドロキシ、アルコキシ、アルコキシアルキル、アミノ、アルキルおよびジアルキルアミノ、アシルアミノ、アシロキシ、アリールオキシ、アリールオキシアルキル、カルボキシアルキル、カルボキシアミド、チオ、チオエーテル、飽和および不飽和両方の環状炭化水素、ヘテロ環などのような、1個以上の官能基を含む、上記のようなアリールを指す。
【0032】
本明細書で用いられる「アルキニル(Alkynyl)」は、エチニル、n−プロピニル、イソプロピニル、n−ブチニル、イソブチニル、オクチニル、デシニルなどのような、2〜約24個の炭素原子および少なくとも1個の三重結合を通常(必ずではないけれど)含む、分岐または非分岐の炭化水素基を指す。一般的に、再び必ずではないけれど、本明細書におけるアルキニル基は、2〜約12個の炭素原子を含む。用語「低級アルキニルlower alkynyl)」は、2〜6個の炭素原子、好ましくは3または4個の炭素原子のアルキニル基を意味する。「置換アルキニル(Substituted alkynyl)」は、1個以上の置換基で置換されたアルキニルを指し、用語「ヘテロ原子含有アルキニル(heteroatom−containing alkynyl)」および「ヘテロアルキニル(heteroalkynyl)」は、少なくとも1個の炭素原子がヘテロ原子で置換されているアルキニルを指す。
【0033】
本明細書で用いられる「アルコキシ(Alkoxy)」は、エーテル結合を通して結合されているアルキル基を指し、すなわち、「アルコキシ」基は、−O−アルキルとして示されてもよい(ここでアルキルは、上で定義されている通りである)。「低級アルコキシ(lower alkoxy)」基は、1〜6個の、より好ましくは1〜4個の、炭素原子を含むアルコキシ基を意味する。
【0034】
「アレニル(Allenyl))」は、−CH=C=CH2なる構造を持つ分子セグメントを指すために本明細書で使用される。「アレニル」基は、非置換であっても、または1個以上の非水素置換基で置換されていてもよい。
【0035】
本明細書で用いられる「アノマー(Anomer)」は、アルデヒドまたはケトン位置で原子の再編成が起こる、新しい対称中心の創成から生じる環式炭水化物の、一対の異性体の1つを意味する。
【0036】
「ケレリトリン類似体(Chelerythrine analog)」は、前に規定されているような化学式(I)〜(IV)の化合物を意味する。
【0037】
「ハロ(halo)」および「ハロゲン(Halogen)」は、クロロ、ブロモ、フルオロまたはヨード置換基を指すために、従来の意味で使用される。用語「ハロアルキル(haloalkyl)」、「ハロアルケニル(haloalkenyl))」または「ハロアルキニル(haloalkynyl)」(あるいは「ハロゲン化アルキル(halogenated alkyl)」、「ハロゲン化アルケニル(halogenated alkenyl)」、または「ハロゲン化アルキニル(halogenated alkynyl)」)は、それぞれ、水素原子の少なくとも1個がハロゲン原子と置換されたアルキル、アルケニルまたはアルキニル基を指す。
【0038】
「ヘテロ環(Heterocycle)」または「ヘテロ環式の(heterocyclic)」は、1個以上の炭素原子が1個以上の、窒素、酸素または硫黄のようなヘテロ原子で置換された炭素環を指す。芳香族または非芳香族のヘテロ環上の置換可能な窒素は、任意に置換されてもよい。ヘテロ原子、NまたはSは、NO、SOおよびSO2のような酸化型で存在することもできる。ヘテロ環の例は、多数の他の化合物の中で、ピペリジン、ピロリジン、モルフォリン、チオモルホリン、ピペラジン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、2−ピロリドン、δ−バレロラクタム、δ−バレロラクトンおよび2−ケトピペラジンを含むが、これらに限定されない。
【0039】
「ヘテロ原子含有(Heteroatom−containing)」は、1個以上の炭素原子が炭素以外の原子(たとえば窒素、酸素、硫黄、リンまたはケイ素)と置換されている分子または分子断片(molecular fragment)を指す。「置換ヘテロ環(Substituted heterocycle)」は、低級アルキル、アシル、アリール、シアノ、ハロゲン、ヒドロキシ、アルコキシ、アルコキシアルキル、アミノ、アルキルおよびジアルキルアミノ、アシルアミノ、アシロキシ、アリールオキシ、アリールオキシアルキル、カルボキシアルキル、カルボキシアミド、チオ、チオエーテル、飽和および不飽和両方の環状炭化水素、ヘテロ環などのような1個以上の官能基を含む、上記のようなヘテロ環を指す。用語「置換された」が使用される、その他のケースでは、この定義に入る置換基は、そのような置換基が所定の化学物質中に存在するような、明細書ならびに状況の中で示される置換基の、その他の定義から、容易に集めることができる。本技術の中で通常の技能を持っている者は、それが芳香族であれ、非芳香族であれ、安定な、化学的に可能なヘテロ環中のヘテロ原子の最大数は、環のサイズ、不飽和度およびヘテロ原子の原子価数によって決定されることを認めるであろう。一般に、ヘテロ環が化学的に可能で安定である限り、ヘテロ環は1〜4個のヘテロ原子を持つことができる。
【0040】
「等電子体(isostere)」は、実質的に類似した電子配置を持つことの結果として実質的に類似した物性を持つ化合物を指す。
【0041】
「置換アルキル」または「置換アルケニル」における「置換(Substituted)」は、ヒドロカルビル(hydrocarbyl))、ヒドロカルビレン(hydrocarbylene))、アルキル、アルケニルまたはその他の基において、炭素原子に結合した少なくとも1個の水素原子がヒドロキシ、アルコキシ、チオ、アミノ、ハロ、シリルなどのような官能基である1個以上の置換基と置換されていることを意味する。用語「置換」が可能な置換基のリストの前に出てくるとき、該用語は、そのグループのあらゆる成員に適用されることが意図されている。
【0042】
「有効量(Effective amount)」は、意図された結果を生み出すために使用される、選択された化合物、中間体または反応体の量を指す。使用される化合物、中間体または反応体の正確な量は、選択された特定の化合物およびその使用目的、被検者の年齢および体重、投与経路などによって変わるであろうが、それは、日常の実験によって容易に決めることが可能である。病状または疾病状態の治療の場合、有効量とは、特定の病状または疾病状態を効果的に治療するために使用される量である。したがって、「有効量」は、双極性障害、重いうつ病性障害、精神分裂症、心的外傷後ストレス障害、不安障害、注意欠如多動性障害およびアルツハイマー病(行動上の症状)を含む(しかしこれらに限定されない)CNS障害を治療することにおいて有効なケレリトリンまたはケレリトリン類似体の量を含む。
【0043】
「不安障害(Anxiety disorders)」は、あらゆるタイプのうつ病、双極性障害、循環気質および気分変調のような情動障害、全般性不安障害、パニック、恐怖症および強迫性障害のような不安障害、心的外傷後ストレス障害を含むストレス障害、ストレス誘発性精神病の発症、心理社会的小人症、ストレス頭痛およびストレス関連の睡眠障害を含み、かつ麻薬中毒または薬物依存症を含むことができる。
【0044】
本発明は、ケレリトリンまたはケレリトリン類似体の化合物の薬学的に許容される酸付加塩を含む組成物を含む。本発明に有用な前記主剤の薬剤的に許容できる酸付加塩を調製するために使用される酸は、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素塩、硝酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、酸性クエン酸塩、酒石酸塩、酒石酸水素塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、蔗糖塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、およびパモン酸塩[すなわち1,1’−メチレン−ビス−(2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸塩)]のような、無毒性酸付加塩、すなわち薬理学的に許容できるアニオンを含む塩を形成する、それらである。
【0045】
本発明はまた、ケレリトリンまたはケレリトリン類似体の塩基付加塩を含む組成物を含む。本来酸性であるケレリトリン類似体の薬学的に許容される塩基性塩を調製する試薬として使用されうる化学塩基は、そのような化合物と無毒性塩基性塩を形成するものである。そのような無毒性塩基は、アルカリ金属陽イオン(たとえば、カリウムおよびナトリウム)およびアルカリ土類金属陽イオン(たとえば、カルシウムおよびマグネシウム)、N−メチルグルカミン−(メグルミン)のようなアンモニウムまたは水溶性アミン付加塩、ならびに薬学的に許容される有機アミンの低級アルカノールアンモニウムおよび他の塩基性塩、のような薬理学的に許容されるカチオンから誘導されるそれらを含むが、それらに限定されない。
【0046】
本発明の化合物は、すべての立体異性体(すなわちシスおよびトランス異性体)およびケレリトリンまたはケレリトリン類似体のすべての光学異性体(たとえば、RおよびSエナンチオマー)、ならびにラセミ、ジアステレオマーおよびそのような異性体の、その他の混合物、ならびに化合物の全ての多形体(polymorphs)を含む。
【0047】
本発明の組成物は、1個以上の薬学的に許容される担体を使用する従来の方法で処方され、また徐放性処方で投与されうる。これらの医薬品組成物で使用されうる薬学上許容される担体は、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミンのような血清タンパク質、リン酸塩のような緩衝物質、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和野菜脂肪酸の部分的グリセリド混合物、水、プロラミン硫酸塩のような塩類または電解質、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイダルシリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースベースの物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸塩、ワックス、ポリエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリエチレングリコールおよび羊毛脂を含むが、これらに限定されない。
【0048】
本発明の組成物は、経口的に、非経口的に、吸入スプレーによって、局所的に、直腸経由で、鼻腔経由で、口腔経由で、膣経由で、または、埋め込まれたリザーバーを通して、投与されてもよい。本明細書で使用される用語「腸管外性(parenteral)」は、皮下、静脈内、筋肉内、関節腔内、滑液包内、胸骨内、クモ膜下、肝臓内、病巣内、および頭蓋内、への注射または注入技術を含む。好ましくは、組成物は、経口、腹腔内、または静脈内投与される。
【0049】
本発明の組成物の無菌の注射可能形態は、水性または油性の懸濁液であることができる。これらの懸濁液は、適当な分散性または湿潤性薬剤および懸濁剤を使用して、当業者に知られている技術によって処方されてもよい。無菌の注射可能調合液はまた、無毒性非経口的に許容される希釈液または溶媒(たとえば1,3−ブタンジオールの溶液のような)での無菌の注射可能の溶液または懸濁液であることもできる。使用される許容可能なビヒクルおよび溶媒の中に、水、リンゲル液および生理食塩水がある。さらに、無菌の固定油は、溶媒または懸濁媒として従来から使用されている。この目的のために、人工のモノまたはジグリセリドを含む、刺激の少ない固定油はいずれでも、使用することができる。オレイン酸およびそのグリセリド誘導体のような脂肪酸は、注射液の調製に使用できるが、それらは、特にそのポリオキシエチル化された形での、オリーブ油またはヒマシ油のような、天然の薬学的に許容できる油である。これらの油溶液または懸濁液はまた、Ph.Helv(スイス薬局方)の、または類似のアルコールのような、長鎖アルコール希釈液または分散剤を含むことができる。
【0050】
本発明の医薬品組成物は、カプセル、錠剤、水性懸濁液または溶液を含む(しかしこれらに限定されない)なんらかの経口的に許容される用量で経口的に投与されてもよい。経口使用のための錠剤の場合に、通常使用される担体は、ラクトースおよびコーンスターチを含む。ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤もまた、通常添加される。カプセル形態での内服のためには、有用な希釈液は、ラクトースおよび乾燥コーンスターチを含む。水性懸濁液が経口使用のために必要とされるとき、活性成分は、乳化性のおよび懸濁性の薬剤と結合される。必要であれば、ある種の甘味剤、調味料または着色剤もまた添加されてもよい。
【0051】
あるいは、本発明の医薬品組成物は、直腸内投与のために坐薬の形で投与されうる。これらは、該薬剤を、室温で固体であるが、直腸温度では液状であり、したがって、直腸内で溶融して薬を放出する、適当な非刺激性賦形剤と混合することによって調製されうる。そのような物質は、カカオ脂、密蝋およびポリエチレングリコール類を含む。
【0052】
本発明の医薬品組成物はまた、局所的に投与されてもよい。これらの部位または臓器の各々に対して適切な局所製剤が容易に調製される。下部の腸管のための局所適用は、肛門座薬製剤(上記参照)において、または、適当な浣腸製剤において達成されうる。局所的に許容される経皮パッチもまた使用することができる。
【0053】
局所適用のためには、医薬品組成物は、1種以上の担体に懸濁または溶解した活性成分を含む適当な軟膏の中で処方されてもよい。本発明の化合物の局所的投与のための担体は、鉱油、流動ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックスおよび水を含むが、これらに限定されない。あるいは、医薬品組成物は、1種以上の薬学的に許容される担体に懸濁された、または溶解された活性成分を含む適当なローションまたはクリームの中で処方することができる。適当な担体は、鉱油、ソルビタンモノステアラート、ポリソルベート60、セチルエステル系ワックス、セテアリルアルコール、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコールおよび水を含むが、これらに限定されない。
【0054】
眼科用のためには、該医薬品組成物は、等張のpH調整無菌食塩水での超微粉砕懸濁液として、または、好ましくは、等張の、pH調整無菌食塩水の溶液(塩化ベンジルアルコニウムのような防腐剤入りまたはなしのいずれでも)として調製されてもよい。あるいは、眼科用のためには、該医薬品組成物は、ワセリンのような軟膏の中で調製されてもよい。
【0055】
本発明の医薬品組成物はまた、鼻エアゾールまたは鼻吸入によって投与されてもよい。そのような組成物は、製剤処方の技術でよく知られた技法によって調製され、ベンジルアルコールまたは他の適当な防腐剤、生物学的利用能を高めるための吸収促進剤、フルオロカーボンおよび/または他の従来の可溶化または分散化薬剤を使用して、食塩水の溶液として調製されてもよい。
【0056】
単一の剤形を作成するために担体物質と組み合わせられてもよい、本発明の医薬品組成物のケレリトリンまたはケレリトリン類似体の量は、治療されるホスト、特定の投与方法によって異なるであろう。好ましくは、該組成物は、約10ミリグラム〜約500ミリグラムの活性成分を含むように処方されなければならない。
【0057】
いずれか特定の患者に対する特定の投薬量および治療計画は、使用される特定の化合物の活性、年齢、体重、一般的健康状態、性、食事、投与の時間、排泄の頻度、薬の組合せ、および治療する医者の判断と治療されるべき特定の病気または症状の重篤度を含む、種々の要因によって変わるであろうこともまた、理解されるべきである。
【0058】
<ケレリトリンおよびケレリトリン類似体>
ベンゾフェナントリジンアルカロイドケレリトリン(1,2−ジメトキシ−12−メチル[1,3]ベンゾジオキソロ[5,6−c] フェナントリジニウム;C21H18NO4)(トッダリン(toddaline)としも知られている)は、Chelidonium majus L.、Zanthoxylum simulans、Sanguinaria candensis(または赤根草)、Macleaya cordata、Carydali Sevctocozii、Carydali ledebouni、Chelidonium majusm、および他のケシ科の植物種から、純粋な形で、または他のベンゾフェナントリジンアルカロイドとの混合物として、抽出可能である。Zanthoxylum simulans中の主要なアルカロイドは、ケレリトリンであり、少量のジヒドロ−およびオキシ−ケレリトリン、N−アセチラノミン、スキミアニン、ファガリン、シトステロールおよびセサミンを含む。
【0059】
本発明の代表的ケレリトリン類似体は、以下に記す一般的な合成方法に従って合成され、あとに続くスキームでさらに詳しく図示される。スキームは例証的であるので、本発明が、示されている化学反応および条件によって限定されていると解釈されてはならない。スキームに使用されている種々の出発原料の調製は、全く当業者の技術の範囲内にある。
【0060】
違った風に明記されていなければ、本明細書中の反応は、およそ大気圧で、そして、約0℃と反応に使用される有機溶剤の沸点との間の温度で起こる。ジクロロメタン、ジエチルエーテル、ジメチルホルムアミド、クロロホルムまたはテトラヒドロフランのような不活性の有機溶剤は、本明細書に開示されている反応において好ましい溶媒である。反応時間は、約1時間から約48時間までの範囲とすることができ、反応体は、任意に、掻き混ぜられるか、振盪されるか、または揺り動かされる。もし違った風に明記されていなければ、反応はワンポットで、または、段階的にされうる。
【0061】
純粋に説明的な例において、市販のイソキノリン類似体の誘導体化は、適切に誘導体化されたベンズアルデヒドまたは他の縮合可能な中間体(それらは、適切に置換されたイソキノリン類似体上に縮合して、ケレリトリンまたはケレリトリン類似体を生成する)と、第3および第4の環構造を(ならびに、適用可能ならば、第5の、1,3−ジオキソラン環構造も)容易に形成することができる。あるいは、求電子性のベンズアルデヒドは、アミン(アニリンまたは1−アミノナフチレン類似体)と縮合して、1,3−ジオキソラン部分あるいはその他の部分を含むケレリトリン環構造を生み出すことができる。1,2−ヒドロキシフェノール基は、ジブロモメタンまたは他の求電子性の化合物と縮合して、本発明による化合物の1,3−ジオキソラン部分を作成するためにヒドロキシフェノールの2個のヒドロキシル基の間にメチレン橋を導入することができる。本発明によって化合物を生み出す合成方法は、周知の技術であって、多くの他の実例があり、たとえば、ジェリー・マーチ(March,Jerry)著『アドバンスト・オルガニック・ケミストリィ(Advanced Organic Chemistry)』第2版(マグロウヒル(McGraw−Hill)出版社)において見つけることができる。
【0062】
<PKC活性化および前頭前野皮質の機能>
前頭前野皮質の機能に及ぼすPKC活性化の影響は、前頭前野皮質の完全性に決定的に依存している空間作動記憶作業を行っているラットおよびサルで調べられた。全手順は、エール大学組織的動物保護・利用委員会(Yale Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認された。ラットは、T迷路内の空間的遅延性交替作業(alternation task)に関して、または制御作業、空間識別に関して訓練され、それは、類似した運動性および刺激性の要求を持つが、後方皮質にのみ依存して、前頭前野皮質には依存していない。遅延性交替作業での能力は、試験の間の遅れの長さに依存している。遅れは、個々の動物能力を約70%の正確さに維持するために必要とされる遅れが起こり、薬の投与に続く、能力の改善または障害に対する余地を残している。
【0063】
行動のトレーニングの後で、ラットには、前頭前野皮質への薬剤注入が可能になるようにガイドカニューレを移植した(前頂部および頭面からの定位座標:後部+3.2mm、側面±0.75mm、腹面−1.7mm)。注入針は、注入サイトが頭蓋縫合線へ向かって腹面−4.5mmであるように、ガイドカニューレの下2.8mmに突き出た。ラットは、手術の1週間後で回復することを可能にされた。薬物療法は、動物が連続2日間安定した能力(60〜80%の正確さ)を達成したあとでのみ、施された。PKCは、フォルボール12−ミリステート 13−アセテート(PMA)を使用して直接活性化され、ケレリトリンで選択的に阻止された。ラットの前頭前野皮質へのPMAの局所注入(認知試験の10分前)は、顕著に作動記憶を損なわせた(図10A)。PMA誘発作動記憶障害は、ケレリトリンの混合投与によってブロックされ、単独で投与されるとき、それは能力に影響を示さなかった(図10A)。対照的に、PMA(PMA 5ピコグラム/0.5μl)は、対照空間識別作業(10秒遅延、ビヒクル後の平均能力発揮:92.0%±11.0%、PMA後の平均能力発揮:88.0%±13.0% 、p=0.587、Tdepテスト)の能力に何の影響も示さなかった。制御作業に及ぼすPMA影響の欠如は、遅延性交替(alternation)能力の障害が薬物療法の非選択的動作または動機付効果(それらは、両方の作業を変えると期待される)によらなかったことを立証する。代わりに、結果は、PKC活性化が著しく前頭前野皮質の認知能力を損なうことを示している。
【0064】
NEα−1アドレナリン受容体は、PI細胞内シグナル伝達経路に関連するGq−タンパクを通してPKCと明らかに結合する(図1)。以前の研究は、α−1アドレナリン受容体作動薬、フェニレフリンの前頭前野皮質への注入は、ラット(アーンステン(Arnsten)ら、1999年;図2、6および10B)およびサル(マオ(Mao)ら、1999年)の両方において作動記憶を損なう。同様に、シラゾリン、血脳関門を横切るα−1アドレナリン受容体作動薬の全身的注射は、サルの作動記憶を損なう(図5および10C)。このように、PKCは、ラットの前頭前野皮質にフェニレフリンを注入すること(認知試験の5分前)、または、サルへのシラゾリンの全身的投与(筋肉内注射、認知試験の30分前)によって間接的に活性化した。サルは、前もって、空間的遅延性応答作業、ヒト以外の霊長類の前頭前野皮質の機能を評価するために最も普通に使用される作業で訓練されていた。PKC阻害剤、ケレリトリンは、ラットの前頭前野皮質に(認知テストの5分前に)、または、サルに全身的に(内服、認知テストの60分前に)直接投与された。
【0065】
以前に観察されたように、α−1アドレナリン受容体作動薬は、ラットおよびサルの両方で顕著に認知能力を損なった(図10Bおよび10C)。この障害は、PKC阻害剤、ケレリトリンによって阻止され(図10Bおよび10C)、NEα−1アドレナリン受容体活性化がPI/PKC細胞内シグナル伝達カスケードの活性化を通して作動記憶を損なうことを示した。これらの知見は、NEおよび躁病の大きくなったレベルの間に以前の関係が示されると、特に意味深い。これらのデータは、一緒になって、PKCのホルボールエステルによる直接的活性化、またはPKCの、α−1アドレナリン受容体刺激を通しての間接的刺激が、前頭前野皮質の機能を損なうのに十分であることを証明する。
【0066】
<ストレスの有害効果をブロックすること>
ストレスへの曝露が躁病発症の始まりを引き起こし、そして症状の重篤度を上げうることが認められてきた。さらに、環境的または薬理学的(FG7142)ストレッサへの曝露は、前頭前野皮質に依存する作業に対する認知能力を損ない、一方で、ヒトおよび研究動物両方の制御、非前頭前野皮質に依存する作業にはなんら影響を示さない。ストレスの間、NE含有細胞は「緊張」モードで興奮して、前頭前野皮質を含む脳を通して高濃度のNEを放出する。この「緊張」モードは、貧しい認知能力および被転導性と関連しており、それは、おそらく、前頭前野皮質内のα−1アドレナリン受容体を刺激する高濃度のNE放出によって引き起こされる。
【0067】
不安誘発性ストレッサ、FG7142は、認知テストの30分前に、ラット(腹腔内注射)またはサル(筋肉内注射)に全身的に投与された。ケレリトリンは、ラットの前頭前野皮質に(認知テストの15分前)、または、サルに全身的に(内服、認知テストの60分前)直接投与された。以前に観察されたように、FG7142は、ラットおよびサルの両方の作動記憶を顕著に損なった(図11Aおよび11B)。この認知障害は、PKCのストレス誘発性活性化と合致して、ケレリトリンによって阻止された(図11Aおよび11B)。
【0068】
ラットにおけるケレリトリンの皮質性注入が前頭前野皮質の機能とは無関係であるストレス反応の他の面を逆転しなかったことを知ることは、重要である。たとえば、FG7142のようなストレッサは、効果的に遅延を延ばし、作業の記憶要求を高める、齧歯動物のすくみ性質を誘発する(図11C)。意外なことに、ラット前頭前野皮質へのケレリトリンの注入は、それらがストレスを受けた動物の応答時間にはなんら影響を示さなかったけれども、通常の認知能力を回復させた(図11C)。これらの知見は、PKCシグナル伝達の内因性(ストレス)ならびに外因性(PMA)活性化が前頭前野皮質の機能に有害な効果を記したことを強調しており、ストレス曝露がPKC活性を高めることによって躁病発症を引き起こすことを示唆する。
【0069】
前頭前野皮質へのα−1アドレナリン作用性作動薬注入によって誘発される障害は、ラットにおけるホスファチジルイノシトールターンオーバーを抑えると知られているリチウム投与療法によって改善される(アーンステン(Arnsten)ら、1999年;図4)。出願人は、サルにおいて、躁病患者を治療するために使用されるリチウム用量範囲(5〜7.5mg/kg、経口)がα−1作動薬、シラゾリンの全身投与によって誘発される障害を改善することができることを発見した(図5)。
【0070】
ラットの前頭前野皮質に直接注入された少量のケレリトリンの影響が調べられた。PFCへのケレリトリンの注入(0.3μg/0.5μl)は、単独では能力に対して効果を示さなかったが、α−1作動薬(図6および10B)またはストレス曝露(図7および11A)いずれかの有害効果を顕著に逆転させた。興味深いことに、高用量のケレリトリンの注入(3.0μg/0.5μl)は、この用量が、単独で注入されたとき、効果を示さなかったにもかかわらず、ストレス反応を逆転させなかった。これらのデータは、有益な薬効に対して、観察可能な副作用とは無関係な、規定された用量範囲があることを示す。これらの知見は、ストレス誘発性の前頭前野皮質の認知障害が前頭前野皮質におけるプロテインキナーゼCの活性化を含むという仮説を強く支持した。
【実施例】
【0071】
本発明は、以下の諸例ではさらに記述されるが、それは例証的であって、決して限定するものではない。
【0072】
(実施例1)
認知テストのおよそ45分前に、ケレリトリンの0、0.3または3.0mg/kg水溶液をラットに皮下注射した。それらは、認知テストの30分前に、薬理学的ストレッサ、FG7142(15mg/kg、腹腔内)またはビヒクルの注射を受ける。全ての薬物療法は少なくとも1週間隔で行われ、治療の順序は、動物の間でバランスをとられる。図8に図示したように、ケレリトリンの低用量の注射(0.3mg/kg、皮下、45分)は、ストレス曝露の有害な影響を顕著に逆転させた(p=0.018、n=4)。高用量のケレリトリン(3.0mg/kg)は、ストレスによる認知障害を逆転させなかった、しかし、それはそれ自体では挙動に影響を示さなかった(平均72.5%の正確さ、ビヒクルに類似)。家庭用おりの中での、そして、認知テストの間の慎重な挙動観察は、どちらの用量でもそれ自体ではケレリトリン投与による顕著な副作用を示さなかった。時折、動物は「少しのろいが普通」であると報告された。全ての評価は、動物の規範的挙動に非常に精通していたが、薬物治療条件を知らなかった実験者によってなされた。
【0073】
(実施例2)
ケレリトリンは、認知テストの前60分に0.03/kgまたは0.3mg/kgのいずれかの用量で、ストレス曝露の前30分に(FG7142 0.2〜1.0mg/kg、筋肉内)、アカゲザルに経口投与した。認知テストに加えて、サルはまた、鎮静状態、興奮、攻撃性、動機づけ、摂食、ならびに微細運動および粗大運動両方の能力、の変化に関して評価される。4匹のサルを試験した。ケレリトリン前処理は、前頭前野皮質の機能に対するストレスの有害な影響を顕著に逆転させた(図9;p<0.05、n=4)。半数のサルは、0.03mg/kgの投薬量で完全な保護を示した。他の半数は、完全な逆転のためには0.3mg/kgを必要とした。ケレリトリンそれ自身は、認知能力に効果を示さなかったし、どちらの用量でも副作用がなくうまく耐えられた。複合用量データは、図11に示されている。
【0074】
前述の説明および実施例が本発明を実行することを例証しているが、決して限定していないことは、当業者によってよく理解されるべきである。本明細書に提示された詳細のバリエーションは、特許請求の範囲の請求項によって規定されるような、本発明の精神および範囲から離れることなくなされうる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】ホスファチジルイノシトール/プロテインキナーゼC(PI/PKC)細胞内シグナル伝達カスケードおよびアルファ−1アドレナリン受容体活性化によるその活性化の概略図である。
【図2】ラット前頭前野皮質へのアルファ−1作動薬、フェニレフリンの注入が作動記憶を損なうこと、そして、この損傷がアルファ−1拮抗体、ウラピジルの混合注入によって防止されることを示す図である。
【図3】ストレス曝露が作動記憶を損なって、ラットで認知欠損を誘発すること、およびこの障害が前頭前野皮質への、アルファ−1拮抗体、ウラピジルの注入によって防止されることを示す図である。
【図4】ホスファチジルイノシトールターンオーバーを抑えると知られているリチウムの服用がラットの前頭前野皮質に注入されたアルファ−1作動薬の損傷効果を逆転することを示す図である。
【図5】リチウム(5〜7.5mg/kg、経口)の臨床に関連する服用量による前治療がアカゲザルへのアルファ−1作動薬、シラゾリンの全身的投与によって引き起こされる障害を逆転させることを示す図である。
【図6】フェニレフリンの投与に起因する作動記憶能力の障害がケレリトリンの混合注入によって顕著にブロックされることを示す図である。
【図7】ラットPFCへのケレリトリン(0.3μg/0.5μl)の混合注入がストレス曝露の有害効果を顕著に逆転させたことを示す図である。
【図8】ケレリトリンの全身的(皮下)投与が、ラットにおけるストレス曝露によって誘発された認知障害を顕著に減らすことを示す図である。
【図9】経口ケレリトリン(0.03〜0.3mg/kg、経口)が、アカゲザルにおけるストレスによって引き起こされる前頭前野皮質の機能障害を防ぐことを示す図である。
【図10】ケレリトリンによる処置が、A.ラット前頭前野皮質へのタンパク質キナーゼC活性化剤、PMAの注入;B.ラット前頭前野皮質へのアルファ−1作動薬、フェニレフリンの注入;およびC.アカゲザルにおけるアルファ−1作動薬、シラゾリンの投与;の有害効果を逆転させている、概略を示す図である。この図は、作動記憶に及ぼすPKC活性の(直接的または間接的)効果の要約を示す。Aでは、ホルボールエステル、PMAの前頭前野皮質への直接注入によってPKCの直接的活性化が、ラットにおけるビヒクル処置と比較して、遅延性交替能力を顕著に損なった(ANOVA−R;ビヒクル+ビヒクル対ピロメリト酸+ビヒクル:*F1,8=26.45、p=0.001)。PMAの用量は、遅延性交替テストを損なった個々の動物に対して求められた(範囲:0.05〜5pg/0.5μl)。PMA誘起作動記憶障害は、PKC阻害剤、ケレリトリンの混合注入によって逆転された(CHEL、0.3μg/0.5μl;PMA+ビヒクル対PMA+ケレリトリン:†F1,8=46.50、p<0.001)。ケレリトリンは、それ自体では効果を持たなかった。 B.α−1アドレナリン受容体作動薬、フェニレフリン(PE、0.1μg/0.5μl)の直接前頭前野皮質への注入によるPKCの間接的な活性化は、ラットにおけるビヒクル処置と比較して、顕著に遅延性交替能力を損なった(ビヒクル+ビヒクル対フェニレフリン+ビヒクル:*F1,8=11.10、p=0.01)。フェニレフリン誘起作動記憶障害は、ケレリトリンの混合注入によって逆転された(フェニレフリン+ビヒクル対フェニレフリン+ケレリトリン:†F1,8=8.0l、p<0.022)。ケレリトリンは、それ自体では効果を持たなかった。 C.サルにおいて、アルファ−1アドレナリン受容体作動薬、シラゾリン(CIRAZ)の全身投与によるPKCの間接的活性化は、ビヒクル処置と比較して遅延性応答能力を顕著に損なった(ビヒクル+ビヒクル対シラゾリン+ビヒクル:*F1,4=26.74、p=0.007)。シラゾリンの用量(範囲:0.001〜10μg/kg)は、遅延応答テストを確実に損なった各々の動物に対して決めた。シラゾリン誘発性作動記憶欠損は、ケレリトリン(0.03mg/kg;シラゾリン+ビヒクル対シラゾリン+ケレリトリン:†F1,4=11.10、p=0.008)を用いた前処理によって逆転した。ケレリトリンは、それ自体では効果を持たなかった。
【図11】ケレリトリンによる処置が、A.ラットにおけるストレス;B.サルにおけるストレスの有害効果を逆転させている概略を示す図である。C.は、ラット前頭前野皮質へのケレリトリンの注入がストレス誘発性すくみを逆転させなかったことを示す。この図は、ラットおよびサルにおけるストレス誘発性認知障害に及ぼすPKC抑制の効果を示す。Aでは、不安誘発性ストレッサ、FG7142(範囲:10〜20mg/kg)は、ラットにおいて、ビヒクル処置と比較して遅延性交替能力を損なった(ビヒクル+ビヒクル対FG7142+ビヒクル:*ANOVA−R、F1,10=25.095、p=0.001)。FG7142誘発性認知障害は、検定15分前の、PKC阻害剤、ケレリトリンの前頭前野皮質への注入によって逆転した(0.3μg/0.5μl;FG7142+ビヒクル対FG7142+ケレリトリン:†F1,10=10.170、p=0.010)。Bでは、サルにおいて、FG7142(レンジ:0.2〜2.0mg/kg)の注射が、ビヒクル処置と比較して、遅延性応答能力を顕著に損なった(ビヒクル+ビヒクル対FG7142+ビヒクル:*F1,5=20.69、p=0.006)。FG7142誘発認知障害は、PKC阻害剤、ケレリトリンによる前処置によって逆転した(0.03mg/kg;FG7142+ビヒクル対FG7142+ケレリトリン:†F1,4=21.23、p=0.006)。Cでは、FG7142投与の後で、ラットはしばしばストレス関連の挙動(たとえば、すくみおよび毛づくろい)を示す。これらの挙動は、前頭前野皮質の機能に依存しないで、各々の試験を完了する時間を長くすることができる(ビヒクル+ビヒクル対FG7142+ビヒクルのための各々の試験のための平均応答時間:*F1,10=12.264、p=0.006)。FG7142によって誘発された、この長くなった応答時間は、ケレリトリンによって阻止されなかった(FG7142+ビヒクル対FG7142+ケレリトリン:F1,10=0.283、p=0.606;ビヒクル+ビヒクル対FG7142+ケレリトリン:*F1,10=14.502、P=0.003)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者のCNS障害または損なわれた認知能力を治療する方法であって、
それを必要とする前記被検者に、下の構造式、
【化1】
(ここで、
R1およびR2は、個別にH、C1〜C3アルキル、F、Cl、Br、I、OH、O(C1〜C6アルキル)、O−C(=O)−(C1〜C6)アルキル、またはC(=O)−O−(C1〜C6)アルキルであり、
R3は、HまたはC1〜C6アルキル基であり、
R4、R5、R6、R7およびR8は、個別に、H、C1〜C6アルキル、F、Cl、Br、I、OH、−(CH2)nO(C1〜C6アルキル)、−(CH2)nO−C(=O)−(C1〜C6)アルキル、または−(CH2)nC(=O)−O−(C1〜C6)アルキルから選択され、
R9およびR10は、個別に、H、C1〜C6アルキルであるか、または、一緒になって−(CH2)m−基を形成して5〜7員環を生成し、
nは0〜5であり、
mは1〜3であり、
そして、A−は、任意に薬学上許容できる担体添加物または賦形剤と組み合わせて、四級化されたアミン基と塩を形成する製薬用塩の薬学上許容されるアニオンである)
による、化合物または立体異性体、薬学上許容される塩、溶媒和化合物またはそれらの多形体を含む医薬品組成物の有効量を投与することを含む方法。
【請求項2】
R1およびR2が両方ともOCH3基であり、R3がCH3基であり、R4、R5、R6、R7およびR8が各々Hであり、R9およびR10が各々H、CH3であるか、または、一緒になって−CH2−基を形成して5員環を生成し、
A−がCl−、サイトレート(citrate)またはホスフェート(phosphate)である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
R9およびR10が一緒になって−CH2−基を形成して5員環を生成する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記CNS障害が双極性障害である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記CNS障害が不安障害である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記CNS障害がストレス誘発性である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記CNS障害が注意欠如多動性障害(ADHD)である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記CNS障害が精神分裂症である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記被検者が損なわれた認知能力に対して治療される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記CNS障害が高められたPKC活性と関連する、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記損なわれた認知能力がストレスによって誘発されるか、または悪化させられる、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記医薬品組成物が経口投与され、前記被検者がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記医薬品組成物が経口投与され、前記被検者がヒトである、請求項9記載の方法。
【請求項14】
前記医薬品組成物が経口投与され、前記被検者がヒトである、請求項10記載の方法。
【請求項15】
下の構造式、
【化2】
(ここで、
R1およびR2は、個別にH、C1〜C3アルキル、F、Cl、Br、I、OH、O(C1〜C6アルキル)、O−C(=O)−(C1〜C6)アルキル、またはC(=O)−O−(C1〜C6)アルキルであり、
R3は、HまたはC1〜C6アルキル基であり、
R4、R5、R6、R7およびR8は、個別に、H、C1〜C6アルキル、F、Cl、Br、I、OH、−(CH2)nO(C1〜C6アルキル)、−(CH2)nO−C(=O)−(C1〜C6)アルキル、または−(CH2)nC(=O)−O−(C1〜C6)アルキルから選択され、
R9およびR10は、個別に、H、C1〜C6アルキルであるか、または、一緒になって−(CH2)m−基を形成して5〜7員環を生成し、
nは0〜5であり、
mは1〜3であり、
そして、A−は、任意に薬学上許容できる担体、添加物または賦形剤と組み合わせて、四級化されたアミン基と塩を形成する製薬用塩の薬学上許容されるアニオンである)
による、化合物または立体異性体、薬学上許容される塩、溶媒和化合物またはそれらの多形体の有効量を含む医薬品組成物。
【請求項16】
R1およびR2が両方ともOCH3基であり、R3がCH3基であり、R4、R5、R6、R7およびR8が各々Hであり、R9およびR10が各々H、CH3であるか、または、一緒になって−CH2−基を形成して5員環を生成し、
A−がCl−、サイトレートまたホスフェートである、請求項14記載の組成物。
【請求項17】
R9およびR10が一緒になって−CH2−基を形成し、5員環を生成する、請求項15記載の組成物。
【請求項18】
高くなったPKC活性と関連する躁病発症に悩む被験者に請求項15記載の組成物の治療上効果のある量を投与することを含む治療方法。
【請求項19】
前記躁病発症がまたストレス誘発性である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
請求項15記載の医薬品組成物の治療的有効量を被検者に投与することによって、前記被検者を、CNS障害を発現させることから保護することを含む方法。
【請求項21】
下の構造式、
【化3】
(ここで、
R1およびR2は、個別にH、C1〜C3アルキル、F、Cl、Br、I、OH、O(C1〜C6アルキル)、O−C(=O)−(C1〜C6)アルキル、またはC(=O)−O−(C1〜C6)アルキルであり、
R3は、HまたはC1〜C6アルキル基であり、
R4、R5、R6、R7およびR8は、個別に、H、C1〜C6アルキル、F、Cl、Br、I、OH、−(CH2)nO(C1〜C6)アルキル、−(CH2)nO−C(=O)−(C1〜C6)アルキル、または−(CH2)nC(=O)−O−(C1〜C6)アルキルから選択され、
R9およびR10は、個別に、H、C1〜C6アルキルであるか、または、一緒になって−(CH2)m−基を形成して5〜7員環を生成し、
nは0〜5であり、
mは1〜3であり、
そして、A−は、任意に薬学上許容できる担体、添加物または賦形剤と組み合わせて、四級化されたアミン基と塩を形成する、製薬用塩の薬学上許容されるアニオンである)
による、化合物または立体異性体、薬学上許容される塩、溶媒和化合物またはそれらの多形体の、CNS障害の治療のための薬剤の製造における使用。
【請求項22】
R1およびR2が両方ともOCH3基であり、R3がCH3基であり、R4、R5、R6、R7およびR8が各々Hであり、R9およびR10が各々H、CH3であるか、または、一緒になって−CH2−基を形成して5員環を生成し、
そして、A−は、Cl−、サイトレートまたはホスフェートである、請求項21記載の使用。
【請求項23】
R9およびR10が一緒になって−CH2−基を形成して5員環を生成する、請求項21記載の使用。
【請求項1】
被験者のCNS障害または損なわれた認知能力を治療する方法であって、
それを必要とする前記被検者に、下の構造式、
【化1】
(ここで、
R1およびR2は、個別にH、C1〜C3アルキル、F、Cl、Br、I、OH、O(C1〜C6アルキル)、O−C(=O)−(C1〜C6)アルキル、またはC(=O)−O−(C1〜C6)アルキルであり、
R3は、HまたはC1〜C6アルキル基であり、
R4、R5、R6、R7およびR8は、個別に、H、C1〜C6アルキル、F、Cl、Br、I、OH、−(CH2)nO(C1〜C6アルキル)、−(CH2)nO−C(=O)−(C1〜C6)アルキル、または−(CH2)nC(=O)−O−(C1〜C6)アルキルから選択され、
R9およびR10は、個別に、H、C1〜C6アルキルであるか、または、一緒になって−(CH2)m−基を形成して5〜7員環を生成し、
nは0〜5であり、
mは1〜3であり、
そして、A−は、任意に薬学上許容できる担体添加物または賦形剤と組み合わせて、四級化されたアミン基と塩を形成する製薬用塩の薬学上許容されるアニオンである)
による、化合物または立体異性体、薬学上許容される塩、溶媒和化合物またはそれらの多形体を含む医薬品組成物の有効量を投与することを含む方法。
【請求項2】
R1およびR2が両方ともOCH3基であり、R3がCH3基であり、R4、R5、R6、R7およびR8が各々Hであり、R9およびR10が各々H、CH3であるか、または、一緒になって−CH2−基を形成して5員環を生成し、
A−がCl−、サイトレート(citrate)またはホスフェート(phosphate)である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
R9およびR10が一緒になって−CH2−基を形成して5員環を生成する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記CNS障害が双極性障害である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記CNS障害が不安障害である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記CNS障害がストレス誘発性である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記CNS障害が注意欠如多動性障害(ADHD)である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記CNS障害が精神分裂症である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記被検者が損なわれた認知能力に対して治療される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記CNS障害が高められたPKC活性と関連する、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記損なわれた認知能力がストレスによって誘発されるか、または悪化させられる、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記医薬品組成物が経口投与され、前記被検者がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記医薬品組成物が経口投与され、前記被検者がヒトである、請求項9記載の方法。
【請求項14】
前記医薬品組成物が経口投与され、前記被検者がヒトである、請求項10記載の方法。
【請求項15】
下の構造式、
【化2】
(ここで、
R1およびR2は、個別にH、C1〜C3アルキル、F、Cl、Br、I、OH、O(C1〜C6アルキル)、O−C(=O)−(C1〜C6)アルキル、またはC(=O)−O−(C1〜C6)アルキルであり、
R3は、HまたはC1〜C6アルキル基であり、
R4、R5、R6、R7およびR8は、個別に、H、C1〜C6アルキル、F、Cl、Br、I、OH、−(CH2)nO(C1〜C6アルキル)、−(CH2)nO−C(=O)−(C1〜C6)アルキル、または−(CH2)nC(=O)−O−(C1〜C6)アルキルから選択され、
R9およびR10は、個別に、H、C1〜C6アルキルであるか、または、一緒になって−(CH2)m−基を形成して5〜7員環を生成し、
nは0〜5であり、
mは1〜3であり、
そして、A−は、任意に薬学上許容できる担体、添加物または賦形剤と組み合わせて、四級化されたアミン基と塩を形成する製薬用塩の薬学上許容されるアニオンである)
による、化合物または立体異性体、薬学上許容される塩、溶媒和化合物またはそれらの多形体の有効量を含む医薬品組成物。
【請求項16】
R1およびR2が両方ともOCH3基であり、R3がCH3基であり、R4、R5、R6、R7およびR8が各々Hであり、R9およびR10が各々H、CH3であるか、または、一緒になって−CH2−基を形成して5員環を生成し、
A−がCl−、サイトレートまたホスフェートである、請求項14記載の組成物。
【請求項17】
R9およびR10が一緒になって−CH2−基を形成し、5員環を生成する、請求項15記載の組成物。
【請求項18】
高くなったPKC活性と関連する躁病発症に悩む被験者に請求項15記載の組成物の治療上効果のある量を投与することを含む治療方法。
【請求項19】
前記躁病発症がまたストレス誘発性である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
請求項15記載の医薬品組成物の治療的有効量を被検者に投与することによって、前記被検者を、CNS障害を発現させることから保護することを含む方法。
【請求項21】
下の構造式、
【化3】
(ここで、
R1およびR2は、個別にH、C1〜C3アルキル、F、Cl、Br、I、OH、O(C1〜C6アルキル)、O−C(=O)−(C1〜C6)アルキル、またはC(=O)−O−(C1〜C6)アルキルであり、
R3は、HまたはC1〜C6アルキル基であり、
R4、R5、R6、R7およびR8は、個別に、H、C1〜C6アルキル、F、Cl、Br、I、OH、−(CH2)nO(C1〜C6)アルキル、−(CH2)nO−C(=O)−(C1〜C6)アルキル、または−(CH2)nC(=O)−O−(C1〜C6)アルキルから選択され、
R9およびR10は、個別に、H、C1〜C6アルキルであるか、または、一緒になって−(CH2)m−基を形成して5〜7員環を生成し、
nは0〜5であり、
mは1〜3であり、
そして、A−は、任意に薬学上許容できる担体、添加物または賦形剤と組み合わせて、四級化されたアミン基と塩を形成する、製薬用塩の薬学上許容されるアニオンである)
による、化合物または立体異性体、薬学上許容される塩、溶媒和化合物またはそれらの多形体の、CNS障害の治療のための薬剤の製造における使用。
【請求項22】
R1およびR2が両方ともOCH3基であり、R3がCH3基であり、R4、R5、R6、R7およびR8が各々Hであり、R9およびR10が各々H、CH3であるか、または、一緒になって−CH2−基を形成して5員環を生成し、
そして、A−は、Cl−、サイトレートまたはホスフェートである、請求項21記載の使用。
【請求項23】
R9およびR10が一緒になって−CH2−基を形成して5員環を生成する、請求項21記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2007−506784(P2007−506784A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−528278(P2006−528278)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【国際出願番号】PCT/US2004/031567
【国際公開番号】WO2005/030143
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(506101920)イエール ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【国際出願番号】PCT/US2004/031567
【国際公開番号】WO2005/030143
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(506101920)イエール ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]