説明

反射型マスクおよび露光装置

【課題】反射型マスクの裏面に形成された導電膜と、マスク固定用の静電チャックとの接合の結果、発生する異物や接合面の劣化を防止できる反射型マスクおよび露光装置を提供する。
【解決手段】EUVマスク12は、基材上にEUV光を反射する多層反射膜及び吸収膜を形成し、基材の裏面に導電膜及び保護被膜を均一に塗布したもので、EUV露光装置のマスクステージ13に吸着させる。EUVマスク12と露光装置内の静電チャックが、炭素原子を基本骨格とする保護被膜を介して接触することで、EUVマスク裏面の導電膜と静電チャック双方の表面劣化、異物の発生、固着を防ぐ。同時に、静電チャック側に残留した異物は装置内で洗浄用光源17からエネルギー線18を照射することで除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射型マスクおよび露光装置に係り、より具体的には、ガラス基板の成膜面上に反射膜および吸収膜が形成され、該成膜面に対する裏面を接触することで保持する反射型マスクおよび露光装置の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体産業において、Si(シリコン)基板等に集積回路を形成する上で必要な微細パターンの転写技術として、可視光や紫外光を用いたフォトリソグラフィ法が用いられている。半導体集積回路は性能および生産性を向上させるために微細化、高集積化が進んでおり、回路パターンを形成するためのリソグラフィ技術についても、より微細なパターンを高精度に形成するための技術開発が進められている。
【0003】
これに伴い、パターン形成に使用される露光装置の光源についても短波長化が進められ、波長13.5ナノメートル(nm)の極端紫外光(Extreme Ultra Violet光;以下、「EUV光」と表記する。)を用いた装置及びパターン転写のプロセスが開発されている。
【0004】
EUV光は、空気を含むあらゆる物質に対して吸収されやすく、かつ屈折率が1に近いため、従来の可視光または紫外光を用いたフォトリソグラフィのような屈折光学系を使用することができない。このため、EUV光を光源に用いたリソグラフィ装置(以下、「EUV露光装置」と表記する。)では、真空環境下において反射光学系、すなわち反射型フォトマスク(以下、「EUVマスク」と表記する。)とミラーを用いる構造となっている。
【0005】
従来のEUV露光装置は、図4に示すように主として、EUV光源、照明光学系、マスクステージ、投影(結像)光学系、EUV感光性樹脂(レジスト)を塗布したウェハ(感応性基板)ステージ等によって構成される。図4において、1はEUV光源、2〜11はミラー、12’はEUVマスク、13はマスクステージ、14はウェハ、15はウェハステージ、16は筐体を示している。なお、EUV光は大気に吸収されて減衰するため、その光路はすべて所定の真空度に維持されている。
【0006】
EUVマスク原版(マスクブランクス)の場合、図3に示すように基材(通常は低熱膨張ガラス基板)103上に、EUV光を反射する反射層と、EUV光を吸収する吸収層とがこの順で形成された構造を有している。反射層は、EUV光に対する反射性を持たせるため、2つの異なる層(高屈折層と低屈折層)から成り、界面で反射した光線の位相を合わせるように膜厚が設計された数十層からなる多層反射膜102が使用される。吸収膜101には、EUV光に対する吸収係数の高い材料、具体的には例えば、クロム(Cr)やタンタル(Ta)を主成分とする材料が用いられる。また、基材103の裏面には、基材103よりも高い誘電率および導電性を有する導電膜104が形成される。
【0007】
製造されたEUVマスク12’は、図4に示したEUV露光装置内に装填されるが、露光装置が反射光学系かつ、マスクに対して6度程度の角度を持った光を入射する光学系であるため、EUVマスク12’のパターン形成面が厚み方向、すなわち垂直方向に変位すると、ウェハ14上での結像位置がずれてしまうという問題がある。
【0008】
また、EUVマスク12’上で反射されなかったEUV光は、EUVマスク12’に吸収され、熱に変わるためマスクの熱膨張による結像位置ずれも問題となる。以上2点の問題を解消するために、EUVマスク原版(ブランクス)には非常に高い平坦度を有する低熱膨張基材が求められる。
【0009】
同時に、基材103上に成膜された膜の応力に起因するマスク全体の撓みを矯正するために、真空環境下に置かれたEUV露光装置のマスクステージ13は、通常の光リソグラフィ露光装置と同様にウェハステージ15の対極に位置し、セラミック、石英などの材質から構成される静電チャックにてマスクの裏面を全面吸着し、マスクの自重全てを静電チャックで支えるだけでなく、平坦度を静電チャック面の形状に一様に規定する構造となっている。
【0010】
基材103を構成するガラス基板は誘電率および導電率が低いため、十分なチャック力を得るには高電圧を印加する必要があり、絶縁破壊を生じる危険性がある。このような問題を解消するため、通常はガラス基板よりも高い誘電率および高い導電率を有する材料の膜(導電膜104)を、パターン形成面と逆側に形成して、EUVマスク12’のチャック力を高めることが行われている。
【0011】
基材103のチャック力を高める目的で形成される導電膜104としては、Crを主成分とする膜が主に採用されている。導電性を有する物質は、ガラス等の絶縁物に対し比較にならない程大きな誘電率を有している。
【0012】
上述のようにEUVマスク12’は、静電チャックと基材103の裏面に形成された導電膜104との間には非常に強い吸着力がかけられる。そのため、剛性の高い物質同士が貼り合わされることになり、吸着するEUVマスク12’の裏面導電膜104に異物が食い込み、固着することが数々の実験により確認されている。
【0013】
固着した異物は、静電チャックと導電膜のいずれかの面に付着していた物質の他、強いチャック力によりチャック構成材や導電膜の一部が剥がれた無機物であり、一度露光装置から取り出したEUVマスク12’は洗浄薬液のみならずスクラブ洗浄等、物理力を加えた洗浄によっても、完全に除去することが不可能であることが多い。
【0014】
洗浄を実施してもEUVマスク12’の裏面に固着し、残留した異物は、EUV露光装置のマスクステージ13に再びチャッキングされた際に、意図せぬマスクの表面の微細な反りを引き起こし、転写精度が悪化するという問題がある。その上、EUVマスク12’の吸着を繰り返すことにより、静電チャック表面の劣化も懸念され、チャック自体の平坦度が変化してしまう恐れもある。
【0015】
このような問題を解決するため、EUVマスクの裏面導電膜をエッチング液にてわずかに除去することで異物を除去する方法が提唱されている(例えば、特許文献1参照。)。また、露光装置内に付着した異物を除去する方法として、EUV光の光路上に載置されるミラーに付着した異物を除去する方法も提唱されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2010−286632号公報
【特許文献2】特許第4539335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、特許文献1では裏面導電膜に固着した異物のみが除去可能であり、静電チャック側に付着した異物や、着脱を繰り返して生じた静電チャックの劣化に関しては考慮されていない。また、特許文献2に関しても、EUV露光装置内のミラー表面に付着した異物を除去することが目的であり、静電チャック上に付着した異物に関しては考慮されていない。
【0018】
上述した従来技術の問題点を解決するために、本発明は静電チャックによる吸着保持の結果、導電膜の表面に固着する異物を抑えるとともに、付着した異物を容易に除去し、かつ静電チャックの劣化を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の請求項1に記載の反射型マスクは、基材と、前記基板の表面に形成されて極端紫外光を反射する高屈折層と低屈折層とからなる多層反射層と、前記多層反射層の上に形成されて極端紫外光を吸収する吸収層と、前記基板の下面に形成された導電膜と、前記導電膜の下面に均一に塗布される保護被膜とを備えたことを特徴とする。
【0020】
請求項2の発明は、請求項1記載の反射型マスクにおいて、保護被膜は、構成元素としてケイ素、フッ素、金属元素を含まない有機高分子により構成されることを特徴とする。
【0021】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の反射型マスクにおいて、物理的外力を加えない手段によって保護皮膜を除去可能に構成したことを特徴とする。
【0022】
請求項4に記載の露光装置は、前記請求項1ないし3の何れか1項に記載の反射型マスクをマスク保持部により保持し、該反射型マスクに形成されたパターンを感応基板上に露光転写する露光装置であって、前記マスク保持部は、前記反射型マスクに保護皮膜を介して接触することを特徴とする。
【0023】
請求項5の発明は、請求項4に記載の露光装置であって、前記マスク保持部に保持された反射型マスクにエネルギー線を照射する手段を備えていることを特徴とする。
【0024】
請求項6の発明は、請求項4又は5に記載の露光装置であって、前記マスク保持部近傍に酸素原子、水素原子のいずれか、もしくは両方から構成される物質を導入する機構を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の反射型マスクおよび露光装置を用いれば、着脱が繰り返されるEUVマスク裏面と静電チャック面で発生していた無機異物の発生を抑制することができ、マスク側裏面に固着した無機異物に関しても、保護被膜を除去する工程で容易に除去することが可能となる。
【0026】
これにより、無機異物起因のマスク表面の微細な反りを抑制することが可能になり、マスクの転写精度を高めることができる。さらには、既に着脱等で静電チャック表面およびマスク裏面に劣化が生じているマスクおよびマスクステージに対し本発明を適用することによって、異物に対して緩衝作用をもつ保護被膜がマスク表面の微細な反りを抑制するため、マスクの転写精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例に係る反射型マスクの構造の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例に係る反射型マスク露光装置の構成の一例を示す図である。
【図3】従来の反射型マスクの構造の一例を示す断面図である。
【図4】従来の反射型マスク露光装置の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0028】
以下、本発明のマスクおよび露光装置を添付の図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の実施例に係るEUVマスク12の断面図である。反射型マスクであるEUVマスク12は、露光時に吸収されたEUV光が熱エネルギーに変化するため、基材103は通常のフォトマスクで使用される合成石英ではなく、TiOをドープした低熱膨張ガラスなどが使用される。基材103の上にはEUV光に対して透過性が高く、高屈折率層と低屈折率層を交互に積層させたEUV光を反射する多層反射膜102が形成される。一例としてシリコン(Si)膜とモリブデン(Mo)膜とを交互に積層させたSi/Mo多層膜が挙げられる。
【0029】
多層反射膜102上に形成される吸収膜101の構成材料としては、EUV光に対する吸収係数の高い材料が選択され、具体的にはTaおよびその窒化物で構成されることが多い。また多層反射膜102と吸収膜101との間、もしくは吸収膜101上にその他の機能膜が形成されていてもよい。
【0030】
一例を挙げると、多層反射膜102表面の酸化を防止するために、非図示の保護(キャッピング)膜が多層反射膜102上に形成されている場合があり、ルテニウム(Ru)を主原料とする合金、Siなどから構成される。また、マスクパターン検査時のコントラストを高めるために、マスクパターン検査に用いる検査光波長に対する反射率が低い非図示の低反射層が吸収膜101上に形成される場合もある。
【0031】
基材103の裏面には、基材103よりも高い誘電率および導電性を有する導電膜104が形成される。一例として、Crを主成分とする膜が用いられる場合が多い。本発明では、このEUVマスク12において、パターン面の反対側に炭素原子を基本骨格とする保護被膜105を均一に塗布することを特徴とする。
【0032】
塗布方法にはダイコート、スリットコートなど様々な方法があるが、片面に均一に保護被膜105を塗布する手段としてはスピンコート法が望ましい。保護被膜105の種類としては、ケイ素、フッ素、金属元素を含まない有機高分子、例えばポリオレフィンや、PMMA等のアクリル系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルなどが例として挙げられる。
【0033】
これら保護被膜105は、酸化反応に代表される分解反応時に、酸化ケイ素、フッ素ポリマー、難溶解性金属酸化物などの不揮発性物質を生成して表面に固着することがないため、有機溶剤やフォトマスクの洗浄に用いられる様々な酸、アルカリ系薬液を用いた洗浄液にて容易に保護被膜105を除去することができる。
【0034】
このように保護被膜105を形成したEUVマスク12を、図2に示すEUV露光装置のマスクステージ13に吸着させる。図2において、1はEUV光源、2〜11はミラー、12はEUVマスク、13はマスクステージ(マスク保持部)、14はウェハ、15はウェハステージ、16は筐体、17は洗浄用光源、18は洗浄用光源17から照射されるエネルギー線、19はEUVマスク12を洗浄するガスあるいは薬液が充填されたボンベを示している。また、20はボンベ19を開閉制御するバルブである。更に筐体16内には、EUVマスク12の洗浄時に発生するガスをEUV露光装置外へ排出する真空ポンプ(図示せず)が設けられる。なお、EUV光は大気に吸収されて減衰するため、その光路はすべて所定の真空度に維持されている。
【0035】
上記マスクステージ13は、保護被膜105を介してEUVマスク裏面の導電膜104を静電気力により吸着する。保護被膜105がある場合は、無い場合に比べチャックと導電膜104間の距離が変化するだけでなく、静電チャック−導電膜104間を満たす媒質も変化することになる。上記に例示した有機高分子は、基材103であるガラスと同程度、真空の2〜3倍程度の誘電率である。このため、静電チャックに印加する電圧値をこれに合わせ、吸着力を適宜調整する必要がある。
【0036】
このようにEUVマスク裏面の導電膜104と静電チャックを備えたマスクステージ13は、有機物から構成される保護被膜105を介して接触することになり、裏面導電膜104に直接異物が固着することが防止できる。露光後はEUVマスク12を表面に付着した炭素化合物を除去するためのマスク洗浄工程において、酸、アルカリ系薬液を用いればマスク裏面の保護被膜105を除去することができる。
【0037】
また、EUVマスク裏面に固着した異物は、上記マスク洗浄工程において保護被膜105が除去されると同時に、裏面導電膜104から除去される。洗浄が完了したEUVマスク裏面に再度保護被膜105を形成することで、裏面を保護する被膜は何度でも再生することが可能となる。
【0038】
また、保護被膜105を形成したEUVマスク12をマスクステージ13から脱離する際に、保護被膜105の一部がマスクステージ13側に付着、残留することが考えられる。このマスクステージ13に対し、紫外線に代表されるような保護被膜105に対して反応性、分解性が高いエネルギー線を照射し、合わせて酸素(酸素原子)、水素(水素原子)のいずれか、もしくは両方を含む気体をマスクステージ13の近傍へ導入する機構を露光装置に設けることで、マスクステージ13に残留した有機物が除去される。
【0039】
具体的には、マスクステージ13に洗浄用光源17から照射したエネルギー線18の働きにより、付着した保護被膜105は導入されたエネルギー線の働きにより分解されて分子量が低下するとともに、マスクステージ近傍に導入されたガスが分解されて酸素、水素ラジカルが発生する。この酸素、水素ラジカルが、マスクステージ13に付着した保護被膜105と反応することによって二酸化炭素、メタン等のガス状物質に変化し、筐体16に組み込まれている非図示の真空ポンプよりEUV露光装置外へ排出されることで、マスクステージ13上の有機物は分解、排出される。
【0040】
なお、上記図2ではエネルギー線18を生成するユニットをEUV露光装置内に導入し、照射しているが、装置外にエネルギー線を導入する機構を設けるなど、本発明の範囲を超えない範囲で変形、改造が可能である。
【符号の説明】
【0041】
1…光源、2〜11…ミラー、12、12’…EUVマスク、13…マスクステージ、14…ウェハ、15…ウェハステージ、16…筐体、17…洗浄用光源、18…エネルギー線、19…ボンベ、20…バルブ、101…吸収膜、102…多層反射膜、103…基材、104…導電膜、105…保護被膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基板の表面に形成されて極端紫外光を反射する高屈折層と低屈折層とからなる多層反射層と、前記多層反射層の上に形成されて極端紫外光を吸収する吸収層と、前記基板の下面に形成された導電膜と、前記導電膜の下面に均一に塗布される保護被膜とを備えたことを特徴とする反射型マスク。
【請求項2】
前記保護被膜は、構成元素としてケイ素、フッ素、金属元素を含まない有機高分子により構成されることを特徴とする請求項1に記載の反射型マスク。
【請求項3】
前記保護被膜は、物理的外力を加えない手段によって除去可能に構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の反射型マスク。
【請求項4】
前記請求項1ないし3の何れか1項に記載の反射型マスクをマスク保持部により保持し、該反射型マスクに形成されたパターンを感応基板上に露光転写する露光装置であって、
前記マスク保持部は、前記反射型マスクに保護皮膜を介して接触することを特徴とする露光装置。
【請求項5】
請求項4に記載の露光装置であって、前記マスク保持部に保持された反射型マスクにエネルギー線を照射する手段を備えていることを特徴とする露光装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の露光装置であって、前記マスク保持部近傍に酸素原子、水素原子のいずれか、もしくは両方から構成される物質を導入する機構を備えていることを特徴とする露光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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