説明

反射型調光素子、並びに、反射型調光素子を用いた反射型調光部材及び複層ガラス

【課題】透明状態において、無色に近い状態であって、且つ、高い光透過率を有する反射型調光素子を提供すること。また、当該反射型調光素子を用いた反射型調光部材及び複層ガラスを提供すること。
【解決手段】水素化による透明状態と脱水素化による反射状態との間で状態が可逆的に変化するクロミック特性を有する調光層10と、調光層10における水素化、脱水素化を促進する触媒層20とを備える反射型調光素子において、調光層10は、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムのうち1種以上の金属と、マグネシウムとの合金からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光層を備える反射型調光素子、並びに、反射型調光素子を用いた反射型調光部材及び複層ガラスに関する。調光層は、水素化による透明状態と、脱水素化による反射状態との間で状態が可逆的に変化するクロミック特性を有する。本発明は、建物や乗り物における太陽光透過率を制御するための窓材料技術として有用である。
【背景技術】
【0002】
一般に、建物において窓(開口部)は大きな熱の出入り場所になっている。例えば、冬の暖房時の熱が窓から流失する割合は48%程度であり、夏の冷房時に窓から熱が流入する割合は71%程度にも達する。したがって、窓における光・熱を適切に制御することにより、膨大な省エネルギー効果を得ることができる。
【0003】
調光ガラスは、このような目的で開発されたものであり、光・熱の流入・流出を制御する機能を有している。
【0004】
このような調光ガラスの調光を行う方式には、いくつかの種類がある。それらのうち、 1)電流・電圧の印加により可逆的に光透過率の変化する材料をエレクトロクロミック材料といい、2)温度により光透過率が変化する材料をサーモクロミック材料といい、また、3)雰囲気ガスの制御により光透過率が変化する材料をガスクロミック材料という。この中でも、調光層に酸化タングステン薄膜を用いたエレクトロクロミック調光ガラスの研究が最も進んでおり、現在、ほぼ実用化段階に達しており、市販品も出されている。
【0005】
この調光層に酸化タングステン薄膜を用いたエレクトロクロミック調光ガラスは、調光層で光を吸収することにより調光を行うことをその原理としている。従って、調光層が光を吸収することにより熱を持ち、それがまた室内に再放射されるため、省エネルギー効果が低くなってしまう。これをなくすためには、光を吸収することにより調光を行うのではなく、光を反射することにより調光を行う必要がある。つまり、透明状態と反射状態との間で状態が可逆的に変化するような特性を有する材料が望まれていた。
【0006】
このような特性を有する材料は長らく見つかっていなかったが、1996年にオランダのグループにより、イットリウムやランタンなどの希土類金属の水素化及び脱水素化により透明状態と反射状態との間で状態が可逆的に変化することが発見され、このような材料を用いたミラーが「調光ミラー」と命名された(例えば、非特許文献1参照)。これらの希土類金属の水素化及び脱水素化による光透過率の変化は大きく、調光ミラー特性に優れている。しかし、この調光ミラーは材料として希土類金属を用いるため、窓のコーティングなどに用いる場合、資源やコストに問題があった。
【0007】
反射型の調光特性(調光ミラー特性)を有する材料としては、これまで、イットリウムやランタン等の希土類金属、ガドリニウム等の希土類金属とマグネシウムの合金、及びマグネシウムと遷移金属の合金(例えば、特許文献1参照)が知られている。これらの材料の中で、資源やコストの観点から、窓ガラスのコーティングに適しているのはマグネシウムと遷移金属の合金である。特に透明状態において、高い光透過率を持つ合金として、マグネシウム・ニッケル合金が報告されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、これらの材料は程度の差こそあれ、透明状態において、無色透明ではなく、黄色から茶色の色がついており、これが窓ガラスへ適用する際に障害となりうる。この色つきの問題点を解決するためにマグネシウム・チタン合金を用いた反射型調光素子が開発された(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6647166号明細書
【特許文献2】特許3968432号公報
【特許文献3】特開2008−152070号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Huiberts,et al.,Nature,Vol.380,231(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のマグネシウム・チタン合金を用いた反射型調光素子では、透明状態における光透過率が、従来のマグネシウム・ニッケル合金を用いた反射型調光素子に比べ低いという問題があった。
【0011】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであって、透明状態において、無色に近い状態であって、且つ、高い光透過率を有する反射型調光素子を提供することを目的とする。また、本発明は、当該反射型調光素子を用いた反射型調光部材及び複層ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、第1の発明は、水素化による透明状態と脱水素化による反射状態との間で状態が可逆的に変化するクロミック特性を有する調光層と、前記調光層における水素化、脱水素化を促進する触媒層とを備える反射型調光素子において、
前記調光層は、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムのうち1種以上の金属と、マグネシウムとの合金からなる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明に係る反射型調光素子であって、
前記調光層の組成が、Mg1−xCa(0.02<x<0.20)である。
【0014】
第3の発明は、第1の発明に係る反射型調光素子であって、
前記調光層の組成が、Mg1−xSr(0.02<x<0.50)である。
【0015】
第4の発明は、第1の発明に係る反射型調光素子であって、
前記調光層の組成が、Mg1−xBa(0.02<x<0.80)である。
【0016】
第5の発明は、第1〜第4のいずれかの発明に係る反射型調光素子であって、
前記触媒層は、パラジウム、白金、パラジウム合金、又は白金合金からなる。
【0017】
第6の発明は、第1〜第5のいずれかの発明に係る反射型調光素子であって、
前記触媒層を基準として、前記調光層とは反対側に、水素透過性及び撥水性の保護層を備える。
【0018】
第7の発明は、第1〜第5のいずれかの発明に係る反射型調光素子であって、
前記触媒層を基準として、前記調光層とは反対側に、透明電極を備え、
前記触媒層と前記透明電極との間に電解液を封入したものである。
【0019】
第8の発明は、第7の発明に係る反射型調光素子であって、
前記触媒層と前記電解液との間に、水素透過性及び撥水性の保護層を備える。
【0020】
第9の発明は、第1〜第8のいずれかの発明に係る反射型調光素子であって、
前記調光層の膜厚が、10nm〜200nmである。
【0021】
第10の発明は、第1〜第9のいずれかの発明に係る反射型調光素子であって、
前記触媒層の膜厚が、1nm〜10nmである。
【0022】
第11の発明は、第1〜第10のいずれかの発明に係る反射型調光素子を備える反射型調光部材であって、
前記調光層を基準として前記触媒層とは反対側に透明部材を備える。
【0023】
第12の発明は、第11の発明に係る反射型調光部材であって、
前記透明部材として、ガラス又はプラスチックを用いる。
【0024】
第13の発明は、少なくとも2枚のガラス板を備える複層ガラスにおいて、
前記2枚のガラス板の一方は、内側面に、第1〜第6のいずれかの発明の反射型調光素子を備える。
【0025】
第14の発明は、第13の発明に係る複層ガラスであって、
前記2枚のガラス板の間隙に、水素、及び、酸素若しくは空気を給排気する雰囲気制御器を備える。
【0026】
第15の発明は、少なくとも2枚のガラス板を備える複層ガラスにおいて、
前記2枚のガラス板の間隙に、第7又は第8の発明の反射型調光素子を備える。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、透明状態において、無色に近い状態であって、且つ、高い光透過率を有する反射型調光素子を提供することができる。また、当該反射型調光素子を用いた反射型調光部材及び複層ガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の反射型調光素子の第1実施形態を示す断面図である。
【図2】反射型調光素子の第2実施形態を示す断面図である。
【図3】反射型調光素子の第3実施形態を示す断面図である。
【図4】反射型調光素子の第4実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明の反射型調光部材の第1実施形態を示す断面図である。
【図6】反射型調光部材の第2実施形態を示す断面図である。
【図7】本発明の複層ガラスの第1実施形態を示す断面図である。
【図8】複層ガラスの第2実施形態を示す断面図である。
【図9】複層ガラスの第3実施形態を示す断面図である。
【図10】反射状態及び透明状態における、反射型調光部材の反射スペクトル及び透過スペクトルを示す図である。
【図11】透明状態の反射型調光部材における、可視光透過率とマグネシウム・カルシウム合金薄膜の組成との関係を示す図である。
【図12】透明状態の反射型調光部材における、透過光のXYZ表色系における色度座標とマグネシウム・カルシウム合金薄膜の組成との関係を示す図である。
【図13】透明状態の反射型調光部材における、可視光透過率とマグネシウム・ストロンチウム合金薄膜の組成との関係を示す図である。
【図14】透明状態の反射型調光部材における、透過光のXYZ表色系における色度座標とマグネシウム・ストロンチウム合金薄膜の組成との関係を示す図である。
【図15】透明状態の反射型調光部材における、可視光透過率とマグネシウム・バリウム合金薄膜の組成との関係を示す図である。
【図16】透明状態の反射型調光部材における、透過光のXYZ表色系における色度座標とマグネシウム・バリウム合金薄膜の組成との関係を示す図である。
【図17】実施例28の反射型調光部材における、反射状態と透明状態との間の状態のスイッチング回数とレーザ光透過率との関係を示す図である。
【図18】図17のレーザ光透過率の測定に用いた測定装置の構成を示す断面図である。
【図19】比較例1の反射型調光部材における、反射状態と透明状態との間の状態のスイッチング回数とレーザ光透過率との関係を示す図である。
【図20】実施例29の反射型調光部材における、反射状態と透明状態との間の状態のスイッチング回数とレーザ光透過率との関係を示す図である。
【図21】実施例30の反射型調光部材における、反射状態と透明状態との間の状態のスイッチング回数とレーザ光透過率との関係を示す図である。
【図22】実施例31の反射型調光部材における、反射状態と透明状態との間の状態のスイッチング回数とレーザ光透過率との関係を示す図である。
【図23】反射型調光部材における、スイッチング応答性とマグネシウム・カルシウム合金薄膜の組成との関係を示す図である。
【図24】実施例35の複層ガラスの状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。尚、本発明は、後述の実施形態(実施例)に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、後述の実施形態(実施例)に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0030】
図1は、本発明の反射型調光素子の第1実施形態を示す断面図である。第1実施形態の反射型調光素子は、調光層10、及び触媒層20を備える。
【0031】
調光層10は、水素化による透明状態と脱水素化による反射状態(金属状態)との間で状態が可逆的に変化するクロミック特性を有する。即ち、調光層10は、光透過率を調節する機能を有する。調光層10は、その特徴的な構成として、アルカリ土類金属であるカルシウム、ストロンチウム、及びバリウムのうち1種以上の金属と、マグネシウムとの合金からなる。
【0032】
これらの合金は、水素を吸蔵することにより無色の透明状態になり、水素を放出することにより銀色の反射状態になる。これらの合金のうち、マグネシウム・カルシウム合金は、難燃性材料として知られており、マグネシウム・チタン合金及びマグネシウム・ニッケル合金に比べて、大気中で安定に存在する。尚、調光層10は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム以外の元素を微量成分(不可避成分)として含んでいてもよい。
【0033】
調光層10の水素化、脱水素化を行う方法は、2種類ある。第1の方法は、一般にガスクロミック方式と呼ばれ、水素を含むガスに調光層10をさらして水素化を行い、酸素を含むガス(空気)に調光層10をさらして脱水素化を行う方法である。第2の方法は、一般にエレクトロクロミック方式と呼ばれ、電解質(電解液)を用いて調光層10の水素化、脱水素化を行う方法である。
【0034】
調光層10のクロミック特性は、調光層10の組成に依存する。詳しくは後述するが、調光層10がマグネシウム・カルシウム合金からなる場合、調光層10の組成はMg1−xCa(0.02<x<0.20)が好ましく、Mg1−xCa(0.03<x<0.09)が特に好ましい。0.02以下又は0.20以上であると、透明状態における光透過率が十分ではない。
【0035】
調光層10がマグネシウム・ストロンチウム合金からなる場合、調光層10の組成はMg1−xSr(0.02<x<0.50)が好ましく、Mg1−xSr(0.15<x<0.25)が特に好ましい。0.02以下又は0.50以上であると、透明状態における光透過率が十分ではない。
【0036】
調光層10がマグネシウム・バリウム合金からなる場合、調光層10の組成はMg1−xBa(0.02<x<0.80)が好ましく、Mg1−xBa(0.20<x<0.70)が特に好ましい。0.02以下又は0.80以上であると、透明状態における光透過率が十分ではない。
【0037】
調光層10の膜厚は、通常、10nm〜200nmである。10nm未満であると、反射状態における光反射率が十分ではなく、一方、200nm超であると、透明状態における光透過率が十分ではない。
【0038】
調光層10の形成方法には、一般的な方法が用いられる。例えば、調光層10の形成方法には、スパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相蒸着法(CVD)、めっき法が用いられる。
【0039】
触媒層20は、調光層10上に形成され、調光層10における水素化、脱水素化を促進する機能を有する。触媒層20によって、透明状態から反射状態への十分なスイッチング速度、及び反射状態から透明状態への十分なスイッチング速度が確保される。
【0040】
触媒層20は、例えば、パラジウム、白金、パラジウム合金、又は白金合金からなる。特に、水素透過性の高いパラジウムが好適に用いられる。
【0041】
触媒層20の膜厚は、通常、1nm〜10nmである。1nm未満であると、触媒としての機能が十分に発現されず、一方、10nm超であると、触媒としての機能の向上に変化がなく、且つ、光透過率が十分ではない。
【0042】
触媒層20の形成方法には、一般的な方法が用いられる。例えば、触媒層20の形成方法には、スパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相蒸着法(CVD)、めっき法が用いられる。
【0043】
詳しくは後述するが、調光層10として上記合金を用いた反射型調光素子は、透明状態において、マグネシウム・ニッケル合金を用いた場合に比べて無色に近い状態であり、且つ、マグネシウム・ニッケル合金又はマグネシウム・チタン合金を用いた場合に比べて高い光透過性を有する。従って、調光層10として上記合金を用いることによって、透明状態において、無色に近い状態であって、且つ、高い光透過率を有する反射型調光素子を提供することができる。
【0044】
図2は、反射型調光素子の第2実施形態を示す断面図である。第2実施形態の反射型調光素子は、第1実施形態とは異なり、保護層30を更に備える。その他の構成は、第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0045】
保護層30は、触媒層20を基準として、調光層10とは反対側に形成され、触媒層20と協働して、水や酸素による調光層10の酸化を防止する機能を有する。触媒層20は、調光層10の酸化を防止する機能も有しているが、上記膜厚の触媒層20では酸化防止機能が十分ではないため、保護層30を形成して調光層10の酸化を防止する。
【0046】
保護層30には、水素(プロトン)に対して透過性で水に対して非透過性(撥水性)の特性を有する材料が用いられる。例えば、保護層30には、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、酢酸セルロース等のポリマーや、酸化チタン薄膜等の無機薄膜が用いられる。
【0047】
保護膜30の形成方法には、一般的な方法が用いられる。例えば、保護膜30の形成方法には、ポリマーを分散させた分散液を塗布、乾燥する方法、無機物をスパッタリング法より成膜する方法が用いられる。
【0048】
図3は、反射型調光素子の第3実施形態を示す断面図である。第3実施形態の反射型調光素子は、第1実施形態とは異なり、電解液40、透明電極50を更に備える。その他の構成は、第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0049】
電解液40は、触媒層20と後述の透明電極50との間に封入される。電解液40に電界を作用させると、調光層10にプロトン(水素イオン)が導入されたり、調光層10からプロトンが放出されたりする。電解液40には、周知の材料が用いられ、例えば、水酸化ナトリウム水溶液が用いられる。
【0050】
透明電極50は、電解液40に電界を作用させる機能を有する。透明電極50には、例えば、ITO膜が好適に用いられる。
【0051】
図4は、反射型調光素子の第4実施形態を示す断面図である。第4実施形態の反射型調光素子は、第3実施形態とは異なり、触媒層20と電解液40との間に保護層30を更に備えるので、電解液40による調光層10の酸化を防止することができる。その他の構成は、第3実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0052】
図5、図6は、本発明の反射型調光部材の第1、第2実施形態を示す断面図である。第1、第2実施形態の反射型調光部材は、図1、図3に示す反射型調光素子を備え、調光層10を基準として触媒層20とは反対側に透明部材(透明基板)2を備える。尚、反射型調光部材は、図2又は図4に示す反射型調光素子を備えてもよい。
【0053】
透明部材2は、反射型調光素子の土台としての機能を有する。また、透明部材2は、水や酸素による調光層10の酸化を防止する機能を有することが好ましい。透明部材2は、シートやフィルムの形態であってよく、フレキシブル性を有してよい。
【0054】
透明部材2には、例えば、ガラス、又はプラスチックが用いられる。プラスチックとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ナイロン、アクリルが好適に用いられる。
【0055】
これにより、調光機能を有する反射型調光部材が得られる。この反射型調光部材は、建物や乗り物の窓ガラスだけでなく、様々な種類の物品に広く適用することができる。例えば、プライバシー保護を目的とした遮蔽物、反射状態と透明状態とのスイッチングを利用した装飾物、及び玩具等に調光ミラー機能を付加することができる。
【0056】
図7は、本発明の複層ガラスの第1実施形態を示す断面図である。第1実施形態の複層ガラスは、2枚のガラス板4、6を備え、一方のガラス板4は、内側面に、図1に示す反射型調光素子を備える。即ち、一方のガラス板4の内側面には、順次、調光層10、触媒層20が形成されている。尚、触媒層20を基準として、調光層10とは反対側に保護層30が形成されていてもよい。尚、双方のガラス板4、6のそれぞれの内側面に、順次、調光層10、触媒層20が形成されていてもよい。
【0057】
複層ガラスは、図7に示すように、2枚のガラス板4、6の間隙に、ガス充填室Sを備え、開口部がシール部材により封止されている。ガス充填室Sには、予めアルゴンガスが封入されている。雰囲気制御器60は、ガス充填室Sに、水素、及び、酸素若しくは空気を給排気するものである。例えば、雰囲気制御器60は、水を電気分解して水素や酸素を給気し、真空ポンプを用いてガス充填室S内のガスを外部に排気する。
【0058】
水素がガス充填室Sに供給されると、調光層10が触媒層20を介して水素化されて透明状態になる。また、酸素若しくは空気がガス充填室Sに供給されると、調光層10が触媒層20を介して脱水素化されて反射状態になる。従って、ガス充填室Sの雰囲気を雰囲気制御器60により制御することにより、透明状態と反射状態との間で状態を可逆的に制御することができる。また、給排気を中断すると、そのままの状態を保つことができる。これにより、ガスクロミック方式で調光を行う複層ガラスが得られる。
【0059】
現在、住宅における複層ガラスの普及が進んできており、新築の家では複層ガラスを使うことが主流になりつつある。複層ガラスの内側に反射型調光素子を備えることで、内部の空間をスイッチング用のガス充填室Sとして利用することができる。
【0060】
図8は、複層ガラスの第2実施形態を示す断面図である。第2実施形態の複層ガラスは、2枚のガラス板4、6を備え、2枚のガラス板4、6の間隙に、図3に示す反射型調光素子を備える。即ち、複層ガラスは、順次、ガラス板4、第1透明電極70、調光層10、触媒層20、電解液40、第2透明電極50、ガラス板6を備える。尚、複層ガラスは、触媒層20と電解液40との間に保護層30を備えてもよい。
【0061】
第2実施形態の複層ガラスでは、第2透明電極50を接地し、第1透明電極70にマイナス3V程度の電圧を加え、電解液40に電界を作用させると、電解液40中のプロトンが調光層10に導入され、調光層10が水素化され透明状態になる。また、第2透明電極50を接地し、第1透明電極70にプラス1V程度の電圧を加え、電界を反転させると、調光層10からプロトンが放出され、調光層10が反射状態に戻る。従って、第1透明電極70と第2透明電極50との間の電圧を制御することにより、透明状態と反射状態との間で状態を可逆的に制御(スイッチング)することができる。また、電圧の印加を解除すると、プロトンの導入、放出が中断され、そのままの状態を保つことができる。これにより、エレクトロクロミック方式で調光を行う複層ガラスが得られる。
【0062】
図9は、複層ガラスの第3実施形態を示す断面図である。第3実施形態の複層ガラスは、第2実施形態と同様に、2枚のガラス板4、6の間隙に、図3に示す反射型調光素子を備える。しかし、第3実施形態では、第2実施形態とは異なり、第1透明電極70がなく、第1透明電極70の代わりに、調光層10に電圧を印加する。
【0063】
調光層10は、反射状態(金属状態)では、当然に、導電率が高く、電極としての機能を有する。また、調光層10は、透明状態でも、ある程度の導電性を示し、電極としての機能を有する。従って、複層ガラスは、第1透明電極70がなくても、調光層10に電圧を印加して、調光層10と第2透明電極50との間の電圧を制御することにより、透明状態と反射状態との間で状態を可逆的に制御(スイッチング)することができる。
【0064】
この場合、第1透明電極70がないので、構造を簡略化することができる。スイッチングの応答性は、第1透明電極70を備える複層ガラスの方が優れているが、第1透明電極70を用いない複層ガラスは、透明状態における光透過率をその分高めることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例に沿って本発明を更に詳細に説明する。
(実施例1)
実施例1では、図5に示す反射型調光部材を作製した。具体的には、厚さ1mmのガラス基板(透明部材2)上に、順次、厚さ48nmのマグネシウム・カルシウム合金薄膜(調光層10)、厚さ5nmのパラジウム薄膜(触媒層20)を成膜した。
【0066】
マグネシウム・カルシウム合金薄膜やパラジウム薄膜の成膜には、多元成膜が可能なマグネトロンスパッタ装置を用いた。3つのスパッタ銃に、ターゲットとしてそれぞれ、金属マグネシウム、金属カルシウム、金属パラジウムをセットした。ガラス基板を洗浄後、真空装置の中にセットして真空排気を行った。成膜にあたっては、まず、マグネシウムとカルシウムを同時にスパッタしてマグネシウム・カルシウム合金薄膜を作製した。スパッタ中のアルゴンガス圧は、1Paであり、直流スパッタ法によりマグネシウムに32W、カルシウムに6Wのパワーを加えてスパッタを行った。その後、同じ真空条件で、6Wのパワーを加えてパラジウム薄膜の蒸着を行った。作製したマグネシウム・カルシウム合金薄膜の組成は、ラザフォード後方散乱法で解析した結果、Mg1−xCa(x=0.059)であった。
【0067】
作製した反射型調光部材は、金属光沢の反射状態になっているが、パラジウム薄膜の表面をアルゴンで4体積%に希釈した1気圧の水素ガス(以下、「水素含有ガス」という)にさらすと、マグネシウム・カルシウム合金薄膜の水素化により、透明状態に変化した。この状態で、パラジウム薄膜の表面を大気にさらすと、マグネシウム・カルシウム合金薄膜の脱水素化により、元の反射状態に戻った。このように、作製した反射型調光部材は、水素化による透明状態と、脱水素化による反射状態との間で状態が可逆的に変化した。
【0068】
実施例1の反射型調光部材の反射状態及び透明状態における、反射スペクトル及び透過スペクトルを測定した。反射状態における各スペクトルは、反射型調光部材の作製後そのままの状態(反射状態)で室温にて分光光度計により測定した。透明状態における各スペクトルは、反射状態における各スペクトルを測定した後、試料まわりを水素含有ガスに室温で5分間さらした状態で室温にて分光光度計により測定した。測定結果を図10に示す。
【0069】
図10から明らかなように、実施例1の反射型調光部材は、透明状態と反射状態とで、反射率が大きく変化しているので、反射型のクロミック特性を有していることがわかる。また、透明状態における透過スペクトル及び反射スペクトルがフラットであるので、透明状態がほとんど無色に近い状態であることがわかる。
【0070】
(実施例2〜11)
実施例2〜11では、それぞれ、マグネシウム・カルシウム合金薄膜の成膜の際に、金属マグネシウム及び金属カルシウムのターゲットに加えるパワーを変更し、マグネシウム・カルシウム合金薄膜の組成を変更した他は、実施例1と同様にして、反射型調光部材を作製した。作製したマグネシウム・カルシウム合金薄膜の組成は、ラザフォード後方散乱法で解析した結果、それぞれ、Mg1−xCa(x=0.021、0.029、0.036、0.044、0.053、0.059、0.068、0.075、0.117、0.184)であった。
【0071】
先ず、実施例2〜11の反射型調光部材の透明状態における可視光透過率を求めた。ここで、「可視光透過率」とは、JISR3106記載の可視光透過率をいう。可視光透過率は、実施例1と同様にして分光光度計により測定した分光透過率を用いて計算した。測定結果を図11に示す。尚、比較のため、実施例1と同様にして作製した、マグネシウム・ニッケル合金薄膜(Mg0.80Ni0.20)とパラジウム薄膜とを備える反射型調光部材の可視光透過率を実線で図11に示し、マグネシウム・チタン合金薄膜(Mg0.82Ti0.18)とパラジウム薄膜とを備える反射型調光部材の可視光透過率を点線で図11に示す。
【0072】
図11から明らかなように、可視光透過率は、マグネシウム・カルシウム合金薄膜の組成に依存した。マグネシウム・カルシウム合金薄膜の組成がMg1−xCa(0.02<x<0.20)である場合に、マグネシウム・ニッケル合金薄膜及びマグネシウム・チタン合金薄膜を用いた場合に比べて、可視光透過率が高いことが判った。また、マグネシウム・カルシウム合金薄膜の組成がMg1−xCa(0.02<x<0.09)である場合に、特に可視光透過率が高いことが判った。
【0073】
次いで、実施例2〜11の反射型調光部材の透明状態における透過光の色度を求めた。光源には、JIS Z8701記載のD65標準光の光源を用いた。測定結果を図12に示す。尚、比較のため、実施例1と同様にして作製した、マグネシウム・ニッケル合金薄膜(Mg0.80Ni0.20)とパラジウム薄膜とを備える反射型調光部材の透過光の色度、及び、マグネシウム・チタン合金薄膜(Mg0.82Ti0.18)とパラジウム薄膜とを備える反射型調光部材の透過光の色度を図12に併せて示す。
【0074】
図12から明らかなように、透過光の色度座標は、マグネシウム・カルシウム合金薄膜の組成に依存した。マグネシウム・カルシウム合金薄膜の組成がMg1−xCa(0.02<x<0.20)である場合に、透過光の色は、白色(無色)若しくは青白い色であり、ユーザに違和感を与え難い白色(無色)若しくは寒色であった。尚、マグネシウム・ニッケル合金薄膜を用いた場合、透過光の色は、特許文献2で報告されているように、黄色若しくは茶色であり、ユーザに違和感を与え易い暖色であった。また、マグネシウム・カルシウム合金薄膜の組成がMg1−xCa(0.02<x<0.13)である場合に、マグネシウム・チタン合金薄膜を用いた場合と、透過光の色特性が略同一であった。
【0075】
(実施例12〜20)
実施例12〜20では、それぞれ、調光層10としてマグネシウム・カルシウム合金薄膜の代わりに、マグネシウム・ストロンチウム合金薄膜を成膜した他は、実施例1と同様にして、反射型調光部材を作製した。具体的には、スパッタ銃に、ターゲットとして金属カルシウムの代わりに、金属ストロンチウムをセットした。実施例12〜20では、それぞれ、金属マグネシウム及び金属ストロンチウムのターゲットに加えるパワーを変更し、マグネシウム・ストロンチウム合金薄膜の組成を変更した。作製したマグネシウム・ストロンチウム合金薄膜の組成は、ラザフォード後方散乱法で解析した結果、それぞれ、Mg1−xSr(x=0.049、0.070、0.095、0.095、0.125、0.144、0.173、0.201、0.239)であった。
【0076】
先ず、実施例12〜20の反射型調光部材の透明状態における可視光透過率を求めた。可視光透過率の求め方は、実施例2と同様とした。結果を図13に示す。尚、比較のため、実施例1と同様にして作製した、マグネシウム・ニッケル合金薄膜(Mg0.80Ni0.20)とパラジウム薄膜とを備える反射型調光部材の可視光透過率を実線で図13に示し、マグネシウム・チタン合金薄膜(Mg0.82Ti0.18)とパラジウム薄膜とを備える反射型調光部材の可視光透過率を点線で図13に示す。
【0077】
図13から明らかなように、可視光透過率は、マグネシウム・ストロンチウム合金薄膜の組成に依存した。マグネシウム・ストロンチウム合金薄膜の組成がMg1−xSr(0.02<x<0.50)である場合に、マグネシウム・ニッケル合金薄膜及びマグネシウム・チタン合金薄膜を用いた場合に比べて、可視光透過率が高いことが判った。また、マグネシウム・ストロンチウム合金薄膜の組成がMg1−xSr(0.15<x<0.25)である場合に、特に可視光透過率が高いことが判った。
【0078】
次いで、実施例12〜20の反射型調光部材の透明状態における透過光の色度を求めた。透過光の色度の求め方は、実施例2と同様とした。結果を図14に示す。尚、比較のため、実施例1と同様にして作製した、マグネシウム・ニッケル合金薄膜(Mg0.80Ni0.20)とパラジウム薄膜とを備える反射型調光部材の透過光の色度、及び、マグネシウム・チタン合金薄膜(Mg0.82Ti0.18)とパラジウム薄膜とを備える反射型調光部材の透過光の色度を図14に併せて示す。
【0079】
図14から明らかなように、透過光の色度座標は、マグネシウム・ストロンチウム合金薄膜の組成に依存した。マグネシウム・ストロンチウム合金薄膜の組成がMg1−xSr(0.02<x<0.50)である場合に、透過光の色は、白色(無色)若しくは青白い色であり、ユーザに違和感を与え難い白色(無色)若しくは寒色であった。
【0080】
(実施例21〜27)
実施例21〜27では、それぞれ、調光層10としてマグネシウム・カルシウム合金薄膜の代わりに、マグネシウム・バリウム合金薄膜を成膜した他は、実施例1と同様にして、反射型調光部材を作製した。具体的には、スパッタ銃に、ターゲットとして金属カルシウムの代わりに、金属バリウムをセットした。実施例21〜27では、それぞれ、金属マグネシウム及び金属バリウムのターゲットに加えるパワーを変更し、マグネシウム・バリウム合金薄膜の組成を変更した。作製したマグネシウム・バリウム合金薄膜の組成は、ラザフォード後方散乱法で解析した結果、それぞれ、Mg1−xBa(x=0.147、0.221、0.295、0.328、0.443、0.550、0.739)であった。
【0081】
先ず、実施例21〜27の反射型調光部材の透明状態における可視光透過率を求めた。可視光透過率の求め方は、実施例2と同様とした。結果を図15に示す。尚、比較のため、実施例1と同様にして作製した、マグネシウム・ニッケル合金薄膜(Mg0.80Ni0.20)とパラジウム薄膜とを備える反射型調光部材の可視光透過率を実線で図15に示し、マグネシウム・チタン合金薄膜(Mg0.82Ti0.18)とパラジウム薄膜とを備える反射型調光部材の可視光透過率を点線で図15に示す。
【0082】
図15から明らかなように、可視光透過率は、マグネシウム・バリウム合金薄膜の組成に依存した。マグネシウム・バリウム合金薄膜の組成がMg1−xBa(0.02<x<0.80)である場合に、マグネシウム・ニッケル合金薄膜及びマグネシウム・チタン合金薄膜を用いた場合に比べて、可視光透過率が高いことが判った。また、マグネシウム・バリウム合金薄膜の組成がMg1−xBa(0.20<x<0.70)である場合に、特に可視光透過率が高いことが判った。
【0083】
次いで、実施例21〜27の反射型調光部材の透明状態における透過光の色度を求めた。透過光の色度の求め方は、実施例2と同様とした。結果を図16に示す。尚、比較のため、実施例1と同様にして作製した、マグネシウム・ニッケル合金薄膜(Mg0.80Ni0.20)とパラジウム薄膜とを備える反射型調光部材の透過光の色度、及び、マグネシウム・チタン合金薄膜(Mg0.82Ti0.18)とパラジウム薄膜とを備える反射型調光部材の透過光の色度を図16に併せて示す。
【0084】
図16から明らかなように、透過光の色度座標は、マグネシウム・バリウム合金薄膜の組成に依存したが、図12や図14と比較すると明らかなように、その依存性が比較的小さかった。マグネシウム・バリウム合金薄膜の組成がMg1−xBa(0.02<x<0.80)である場合に、透過光の色は、白色(無色)若しくは青白い色であり、ユーザに違和感を与え難い白色(無色)若しくは寒色であった。
【0085】
(実施例28、比較例1)
実施例28、比較例1では、それぞれ、マグネシウム・カルシウム合金薄膜の成膜の際に、金属マグネシウム及び金属カルシウムのターゲットに加えるパワーを変更し、マグネシウム・カルシウム合金薄膜の組成を変更した他は、実施例1と同様にして、反射型調光部材を作製した。作製したマグネシウム・カルシウム合金薄膜の組成は、ラザフォード後方散乱法で解析した結果、それぞれ、Mg1−xCa(x=0.130、0.270)であった。
【0086】
実施例28の反射型調光部材のレーザ光透過率を測定した。レーザ光透過率の測定には、図18に示すように、反射型調光部材のパラジウム薄膜20に、スペーサを介して、もう1枚のガラス板(厚さ1mm)6を貼り合わせたものを用いた。2枚のガラス板4、6の間隙に水素含有ガスを30秒間流し、次いで水素含有ガスのフローを5分間停止した。水素含有ガスのフローを停止すると、空気が開口部から2枚のガラス板4、6の間隙に流入する。これを1サイクルとする水素含有ガスのフロー制御を所定回数繰り返し行い、その間1秒毎にレーザ光透過率を測定した。光源としては波長670nmの半導体レーザを用い、受光素子としてはシリコンフォトダイオードを用いた。測定結果を図17に示す。
【0087】
図17から明らかなように、透明状態におけるレーザ光透過率と反射状態におけるレーザ光透過率との差は、スイッチング回数に比例して小さくなった。ここで、スイッチング回数は反射型調光部材の状態が反射状態から透明状態を経て再び反射状態に戻った回数をいい、反射状態は水素含有ガスのフローを開始する直前の状態をいい、透明状態は水素含有ガスのフローを停止する直前の状態をいう。透明状態におけるレーザ光透過率と反射状態におけるレーザ光透過率との差が10%以上を維持したスイッチング回数(以下、「スイッチングの耐久回数」という)は、39回であった。
【0088】
比較例1の反射型調光部材におけるレーザ光透過率を測定した。レーザ光透過率の測定は、実施例28と同様にして行った。測定結果を図19に示す。
【0089】
図19から明らかなように、スイッチングの耐久回数は、92回であった。図19と図17とを比較すると明らかなように、マグネシウム・カルシウム合金薄膜を用いた場合、Ca組成比xが大きくなるほど、スイッチングの耐久回数が大きくなる傾向が見られた。尚、比較例1の反射型調光部材は、Ca組成比xが大き過ぎるので、透明状態における透過光の色が黄色であった。
【0090】
(実施例29)
実施例29では、マグネシウム・ストロンチウム合金薄膜の成膜の際に、金属マグネシウム及び金属ストロンチウムのターゲットに加えるパワーを変更し、マグネシウム・ストロンチウム合金薄膜の組成を変更した他は、実施例12と同様にして、反射型調光部材を作製した。作製したマグネシウム・ストロンチウム合金薄膜の組成は、ラザフォード後方散乱法で解析した結果、Mg1−xSr(x=0.170)であった。
【0091】
実施例29の反射型調光部材におけるレーザ光透過率を測定した。レーザ光透過率の測定は、実施例28と同様にして行った。測定結果を図20に示す。
【0092】
図20から明らかなように、スイッチングの耐久回数は、176回であった。図20と図19とを比較すると明らかなように、マグネシウム・ストロンチウム合金薄膜を用いた場合、マグネシウム・カルシウム合金薄膜を用いた場合に比較して、スイッチングに対する耐久性に優れていることが判った。尚、実施例29の反射型調光部材は、マグネシウム・ストロンチウム合金薄膜のSr組成比xが適切な範囲内であるので、透明状態における透過光の色が白色(無色)であった。
【0093】
(実施例30)
実施例30では、マグネシウム・バリウム合金薄膜の成膜の際に、金属マグネシウム及び金属バリウムのターゲットに加えるパワーを変更し、マグネシウム・バリウム合金薄膜の組成を変更した他は、実施例21と同様にして、反射型調光部材を作製した。作製したマグネシウム・バリウム合金薄膜の組成は、ラザフォード後方散乱法で解析した結果、Mg1−xBa(x=0.300)であった。
【0094】
実施例30の反射型調光部材におけるレーザ光透過率を測定した。レーザ光透過率の測定は、実施例28と同様にして行った。測定結果を図21に示す。
【0095】
図21から明らかなように、スイッチングの耐久回数は、131回であった。図21と図19とを比較すると明らかなように、マグネシウム・バリウム合金薄膜を用いた場合、マグネシウム・カルシウム合金薄膜を用いた場合に比較して、スイッチングに対する耐久性に優れていることが判った。尚、実施例30の反射型調光部材は、マグネシウム・バリウム合金薄膜のBa組成比xが適切な範囲内であるので、透明状態における透過光の色が白色(無色)であった。
【0096】
(実施例31)
実施例31では、調光層10としてマグネシウム・カルシウム合金薄膜の代わりに、マグネシウム・カルシウム・ストロンチウム・バリウム合金薄膜を成膜した他は、実施例1と同様にして、反射型調光部材を作製した。具体的には、5つのスパッタ銃に、ターゲットとしてそれぞれ、金属マグネシウム、金属カルシウム、金属ストロンチウム、金属バリウム、金属パラジウムをセットした。作製したマグネシウム・カルシウム・ストロンチウム・バリウム合金薄膜の組成は、ラザフォード後方散乱法で解析した結果、Mg1−x−y−zCaSrBa(x=0.050、y=0.070、z=0.130)であった。
【0097】
実施例31の反射型調光部材におけるレーザ光透過率を測定した。レーザ光透過率の測定は、実施例28と同様にして行った。測定結果を図22に示す。
【0098】
図22から明らかなように、スイッチングの耐久回数は、285回であった。図22と図19〜図21とを比較すると明らかなように、マグネシウム・カルシウム・ストロンチウム・バリウム合金薄膜を用いた場合、2成分系の合金薄膜を用いた場合に比較して、スイッチングに対する耐久性に優れていることが判った。尚、実施例31の反射型調光部材は、透明状態における透過光の色が白色(無色)であった。
【0099】
(実施例32〜実施例34)
実施例32〜実施例34では、それぞれ、マグネシウム・カルシウム合金薄膜の成膜の際に、金属マグネシウム及び金属カルシウムのターゲットに加えるパワーを変更し、マグネシウム・カルシウム合金薄膜の組成を変更した他は、実施例1と同様にして、反射型調光部材を作製した。作製したマグネシウム・カルシウム合金薄膜の組成は、ラザフォード後方散乱法で解析した結果、それぞれ、Mg1−xCa(x=0.040、0.062、0.077)であった。
【0100】
実施例32〜実施例34の反射型調光部材のスイッチング応答性を測定した。スイッチング応答性の測定には、図18に示すように、反射型調光部材のパラジウム薄膜20に、スペーサを介して、もう1枚のガラス板(厚さ1mm)6を貼り合わせたものを用いた。2枚のガラス板4、6の間隙に、経過時間が10秒のタイミングで水素含有ガスを流し始め、経過時間が70秒のタイミングで水素含有ガスのフローを止めた。水素含有ガスのフローを止めると、空気が開口部から2枚のガラス板4、6の間隙に流入する。このようにして、2枚のガラス板4、6の間隙の雰囲気を制御し、スイッチング応答性を調べた。結果を図23に示す。
【0101】
図23から明らかなように、反射状態から透明状態へのスイッチング応答性は、マグネシウム・カルシウム合金薄膜の組成に依存しなかった。また、反射状態から透明状態へのスイッチング速度は、透明状態から反射状態へのスイッチング速度よりも速かった。
【0102】
一方、透明状態から反射状態へのスイッチング応答性は、マグネシウム・カルシウム合金薄膜の組成に依存した。Ca組成比xが大きくなるほど、スイッチング速度が速くなる傾向が見られた。図示しないが、実施例2と同様にして作製した、カルシウムを含まないマグネシウム薄膜の場合、スイッチング速度が非常に遅く、2時間程で反射状態に戻った。
【0103】
(実施例35)
実施例35では、図9に示すエレクトロクロミック方式の複層ガラスを作製した。具体的には、先ず、マグネシウム・カルシウム合金薄膜の成膜の際に、金属マグネシウム及び金属カルシウムのターゲットに加えるパワーを変更し、マグネシウム・カルシウム合金薄膜の組成を変更した他は、実施例1と同様にして、反射型調光部材を作製した。作製したマグネシウム・カルシウム合金薄膜の組成は、ラザフォード後方散乱法で解析した結果、Mg1−xCa(x=0.075)であった。このようにして、厚さ1mmの一方のガラス基板に、厚さ48nmのマグネシウム・カルシウム合金薄膜(Mg1−xCa(x=0.075))、厚さ5nmのパラジウム膜を成膜した。次いで、厚さ1mmの他方のガラス基板に、スパッタリング法により厚さ200nmのITO膜を成膜した。最後に、一方のガラス板のパラジウム膜と、他方のガラス板のITO膜との間に電解液(水酸化ナトリウム水溶液)を封入してエレクトロクロミック方式の複層ガラスを作製した。
【0104】
図24は、実施例35の複層ガラスの状態を示す写真であり、(a)は反射状態を示す写真、(b)は透明状態を示す写真である。マグネシウム・カルシウム合金薄膜側にマイナス3Vの電圧を加えると、反射状態から透明状態に変化した。また、マグネシウム・カルシウム合金薄膜側にプラス1Vの電圧を加えると、透明状態から反射状態に戻った。
【符号の説明】
【0105】
2 透明部材
4、6 ガラス板
10 調光層
20 触媒層
30 保護層
40 電解液
50、70 透明電極
60 雰囲気制御器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化による透明状態と脱水素化による反射状態との間で状態が可逆的に変化するクロミック特性を有する調光層と、前記調光層における水素化、脱水素化を促進する触媒層とを備える反射型調光素子において、
前記調光層は、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムのうち1種以上の金属と、マグネシウムとの合金からなる反射型調光素子。
【請求項2】
前記調光層の組成が、Mg1−xCa(0.02<x<0.20)である請求項1記載の反射型調光素子。
【請求項3】
前記調光層の組成が、Mg1−xSr(0.02<x<0.50)である請求項1記載の反射型調光素子。
【請求項4】
前記調光層の組成が、Mg1−xBa(0.02<x<0.80)である請求項1記載の反射型調光素子。
【請求項5】
前記触媒層は、パラジウム、白金、パラジウム合金、又は白金合金からなる請求項1〜4いずれか一項記載の反射型調光素子。
【請求項6】
前記触媒層を基準として、前記調光層とは反対側に、水素透過性及び撥水性の保護層を備える請求項1〜5いずれか一項記載の反射型調光素子。
【請求項7】
前記触媒層を基準として、前記調光層とは反対側に、透明電極を備え、
前記触媒層と前記透明電極との間に電解液を封入した請求項1〜5いずれか一項記載の反射型調光素子。
【請求項8】
前記触媒層と前記電解液との間に、水素透過性及び撥水性の保護層を備える請求項7記載の反射型調光素子。
【請求項9】
前記調光層の膜厚が、10nm〜200nmである請求項1〜8いずれか一項記載の反射型調光素子。
【請求項10】
前記触媒層の膜厚が、1nm〜10nmである請求項1〜9いずれか一項記載の反射型調光素子。
【請求項11】
請求項1〜10いずれか一項記載の反射型調光素子を備える反射型調光部材であって、
前記調光層を基準として前記触媒層とは反対側に透明部材を備える反射型調光部材。
【請求項12】
前記透明部材として、ガラス又はプラスチックを用いる請求項11記載の反射型調光部材。
【請求項13】
少なくとも2枚のガラス板を備える複層ガラスにおいて、
前記2枚のガラス板の一方は、内側面に、請求項1〜6いずれか一項記載の反射型調光素子を備える複層ガラス。
【請求項14】
前記2枚のガラス板の間隙に、水素、及び、酸素若しくは空気を給排気する雰囲気制御器を備える請求項13記載の複層ガラス。
【請求項15】
少なくとも2枚のガラス板を備える複層ガラスにおいて、
前記2枚のガラス板の間隙に、請求項7又は8記載の反射型調光素子を備える複層ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図23】
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【図17】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図24】
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【公開番号】特開2010−66747(P2010−66747A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121889(P2009−121889)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月29日 社団法人電気化学会主催の「電気化学会第76回大会」に文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年5月14日 インターネットアドレス「http://www.aip.org/」「http://apl.aip.org/」「http://link.aip.org/link/?APPLAB/94/191910/1」に発表
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】