説明

反射層を有する石英ガラス部材及びその製造方法

反射層を有する石英ガラス部材を製造する方法は既知である。石英ガラスから成り、拡散リフレクタとして機能する反射層は、石英ガラスから成る基体の表面の少なくとも一部上に作製される。順に、これを出発点として、石英ガラス部材上に均質なSiO2反射層を費用効率が高く再現可能に作製可能にする方法を特定するため、エネルギーキャリアに供給され、該エネルギーキャリアにより初期溶融されるか又は溶融され、且つ基体上に堆積されるSiO2粒子を用いた溶射によって反射層を作製することが、本発明により提案される。本方法によって得られる石英ガラス部材の場合、SiO2反射層は、溶射によって作製され且つ不透明作用を有しており、クラックの不存在及び均質性によって区別される層として形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスの基体表面の少なくとも一部に、乱反射(拡散)リフレクタとして機能する石英ガラスの反射層を作製する、反射層を有する石英ガラス部材の製造方法に関する。
【0002】
さらに、本発明は、乱反射(拡散)リフレクタとして機能するSiO2反射層で少なくとも一部が被覆された表面を有する石英ガラスから成る基体を備えた、反射層を有する石英ガラス部材に関する。
【背景技術】
【0003】
石英ガラスから成る部材は、例えば、クラッド管、電球のようなランプ、又は紫外線、赤外線及び可視スペクトルの範囲のランプ及び放射体用のかぶせ板又はリフレクタキャリアの製造、リアクタ形態の化学装置エンジニアリング又は半導体製造、並びに半導体部材を取り扱うための石英ガラス製の装置、キャリアトレイ、ジャー、るつぼ、防護遮蔽体、又は管、ロッド、板、フランジ、リング若しくはブロックのような単純な石英ガラス部材といった多くの用途に用いられる。
【0004】
ランプでは、放出された作用放射線の時間定常性及び効率が重要な役割を果たす。ヒーターでも同様に、小さい熱損失が一般に望まれる。放射損失を最小限にするために、光放射装置及び放射加熱器にリフレクタを設ける。このリフレクタは、対応する放射装置にしっかりと接続されているか、又は放射装置とは別個のリフレクタ部材である。
【0005】
透過率を減らすか又は透過する光波スペクトルを変えるには、電球を、例えば酸エッチングによって、又はクレイとシリカとの混合物のような光散乱性粒状粉末で電球内部を被覆することによってマット加工することが知られている。これまで、リフレクタ材料が損傷を受けることなく又は反射度を著しく減少することなく化学的に侵食性の環境において使用することができる特に高品質なリフレクタの表面は、金から成っている。しかしながら、金の反射層は、高価である上に、温度又は熱衝撃に対して限られた程度しか耐性を示さない。さらに、反射は、波長に著しく依存する上に、UV範囲で大きく減少する。
【0006】
これらの欠点は、石英ガラスの反射率を変化させる目的で石英ガラス表面を被覆する特許文献1による方法によって回避される。その文献は、リフレクタ及び上述のタイプの製造方法も示している。
【0007】
この公報では、乱反射層が少なくとも部分的に不透明な石英ガラスから成るべきであることが示唆されている。その反射層は、非晶質SiO2粒子を含有する高充填キャスタブル水性SiO2スリップが生成されるスリップ法により作製される。非晶質SiO2粒子は、SiO2顆粒を湿式粉砕することによって生成され、最大500μmまでの範囲の粒径を有し、1μm〜50μmの範囲の粒径を有するSiO2粒子が最大の体積分率を占める。
【0008】
SiO2スリップをスリップ層の形態で石英ガラスの基体上に塗布し、続いてスリップ層を乾燥させて、ガラス化して、ほぼ不透明な石英ガラス層を形成する。ベース体上へのスリップ層の塗布に関して、噴霧、静電支持噴霧(elektrostatisch unterstuetztes Spruehen)、フローコーティング、スピニング、浸漬及び分散液コーティングが提案されている。
【0009】
このように作製された石英ガラス層は、広範な波長範囲にわたる放射線に対する拡散リフレクタとして使用可能である。しかしながら、既知の高充填スリップの流動挙動は上記コーティング技法の幾つかに適さないため、均質な被覆の再現可能な製造は、個々のケースにおいて困難であることが見出されている。さらに、ここでは、スリップ層を塗布すること、乾燥させること及びガラス化することを含む多段階プロセスが伴う。全てのプロセス工程において、欠陥、したがって材料の損失が起こる可能性がある。本明細書では、完全に固化していない層に対する収縮クラック及び機械的損傷について特に言及するものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】ドイツ特許第10 2004 051 846号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、石英ガラス部材上に均質なSiO2反射層を、費用効率が高く再現可能に作製可能にする方法を示すことである。
【0012】
さらに、本発明の目的は、本方法によって得られ、クラックの無い均質なSiO2反射層によって区別される石英ガラス部材を提供することである。
【0013】
製造方法に関して、上記のタイプの方法からの本発明の目的は、SiO2粒子をエネルギー源へと供給し、該エネルギー源により初期溶融するか又は溶融し、且つ基体上に堆積する溶射によって反射層が作製される本発明に従って達成される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明による方法において、反射層は溶射によって作製される。本発明において、SiO2粒子は、粉末、ゾル又は懸濁液(分散液)等の流体塊の形態でエネルギー源へと供給され、そこで少なくとも部分的に溶融され、且つ準備された基体の表面に高速で散布されて被覆となる。エネルギー源は、通常、酸素ガス炎又はプラズマジェットであるが、アーク、レーザー光等として構成されるものであってもよい。
【0015】
SiO2粒子は、適切な反射度を有さずに形成されるほぼ透明な表層(この層は乱反射用反射層として役に立たない)を伴うことなく、溶融されるか又は初期溶融され、基体上に堆積されることが重要である。しかしながら、反射層の一部に限定される透明性は、許容可能であり、それどころか例えば、表面領域をシーリングするのに望ましいことがある。透明性によって低下する層の不透明度は、より厚い層厚によって相殺することができる。
【0016】
本発明による方法において、基体の表面は被覆され、層は単一の操作で固化される。これは、その多段階手法に起因する既知の方法に付随する問題や、固化していない層に対して起こり得る破損をも回避する。より具体的には、収縮によって生じるクラックが起きない。
【0017】
本発明による方法のおかげで、不透明効果、安定した接着及び均質な密度を示し、特にクラックがなく、さらに接着強度によって区別され、且つ広範囲の波長にわたる放射線の拡散リフレクタとして好適であるSiO2表層を作製することが可能であることが見出された。
【0018】
低エネルギー火炎溶射法又はアーク溶射法、及び高エネルギープラズマ溶射法の双方の助けで達成することができる温度で、SiO2粒子の適切な軟化が起こる。
【0019】
したがって、プラズマジェット又はレーザー光がエネルギー源として用いられるプラズマ溶射によって反射層を作製することが、本方法の第1の好ましい変法で意図される。
【0020】
溶融された又は初期溶融されたSiO2粒子を基体表面に散布する際に、プラズマ溶射は比較的高いエネルギー投入及び高速を可能にする。結果的に、比較的厚く且つ安定して接着する反射層を短時間に作製することができる。
【0021】
概して、SiO2粒子は、粉末の形態で又は懸濁液の形態で(懸濁液プラズマ溶射(SSP))プラズマ火炎に供給される。これとは別に、いわゆるSPPS(溶液前駆体プラズマ溶射)法も可能である。この方法では、前駆体化合物がSiO2合成のためにプラズマ火炎に供給され、SiO2への酸化がプラズマ火炎中又は基体の表面への堆積中に起こる。SSP法では、特に微粒子を使用することができ、これは、薄層、例えばシーリングに用いられる仕上げ緻密層の製造を容易にする。
【0022】
代替的であって同様に有利な方法において、反射層は、アーク又は酸素ガス炎をエネルギー源として用いる火炎溶射によって作製される。
【0023】
火炎溶射法では、プラズマ溶射法よりも容易に温度制御を行うことができるため、反射層の所定の不透明度が正確且つ再現可能に観測されるはずである。さらに、この方法は、基体への低いエネルギー投入によって区別される。
【0024】
SiO2粒子が200μm以下、好ましくは100μm以下の範囲の粒径を有する場合に有用であり、ここでは1μm〜60μmの範囲の粒径を有するSiO2粒子が最大の体積分率を占めることが判明した。
【0025】
反射層は、一般的に、SiO2粒子の複数の溶射層から成る。200μmを超える粒径を有するSiO2粒子が用いられる場合、薄い反射層はほとんど作製できない一方、他方では、粒子が、短時間の有効な昇温時間内にエネルギー源から十分なエネルギーを吸収することができないというリスクが存在する。このため、層の焼結が困難になる。それに反して、1μm未満の小粒子を取り扱うことは難しく、射出ノズル、バーナーノズル又は他のタイプのノズルを詰まらせる傾向にある。
【0026】
特に好ましくは、SiO2粒子が、50μm未満、好ましくは40μm未満、特に好ましくは30μm未満のD50値により区別される粒径分布を有する。
【0027】
観測される反射層の不透明度に関して、完全で透明な溶融をもたらすことなく、可能であれば基体の変形を伴うことなくSiO2粒子を焼結することが可能である。上記の径範囲の粒子は、この観点から有利な焼結挙動を示す。それらは、高い焼結活性を示し、そのため比較的低い温度ですぐに焼結する一方で、この場合、透明な石英ガラスへの特に高速のガラス化をもたらし、塑性変形によって支持される物質移動プロセスが、かなりの程度まで起きないため、基体は損傷しないか又はほぼ損傷しない。
【0028】
これに関連して、SiO2粒子が、マルチモーダル粒径分布を有し、径分布の第1の最大値が2μm〜6μmの範囲であり、且つ第2の最大値が20μm〜60μmの範囲である場合に有利であることも判明した。
【0029】
好ましくは、SiO2粒子の少なくとも3分の1が球状とされる。
【0030】
不透明焼結後の球状粒子が、特に赤外波長範囲における高反射の一因となることが見出されている。
【0031】
本発明の方法の特に好ましい変法では、SiO2粒子が凝集して2μm〜300μmの範囲、好ましくは100μm未満の径を有する顆粒となっている顆粒形態でSiO2粒子をエネルギー源に供給する。
【0032】
SiO2粒子が顆粒形態に固定されている場合には、取り扱い、特にエネルギー源への供給が容易となる。これは、30μm未満の粒径を有する超微細SiO2粒子にも特に当てはまり、本発明による方法を実施するのに特に好適である。
【0033】
さらに、SiO2粒子のSiO2含量が少なくとも99.9重量%である場合に有用であることが判明した。
【0034】
この出発材料は、汚染又は結晶化の如何なるリスクも示さない。不純物含量は好ましくは1重量ppm未満である。
【0035】
本発明の方法の特に好ましい発展型では、反射層が50μm〜3000μmの範囲、好ましくは100μm〜800μmの範囲の層厚で作製される。
【0036】
作製されるSiO2反射層が厚いほど、放射線の反射は完全となる。さらに、例えば、シーリング又は層からの粒子の発生を防止するために高密度の反射層が要求される用途では、付随して起こる層の不透明度の低下が、より厚い厚さによって相殺される。しかしながら、3000μmを超える層厚を有する反射層は、かなりの労力を要することによってのみ作製され、(実質的に不透明な層の場合には)層厚をより厚くすることの追加の効果は一般に殆どない。一方、50μm未満の厚さを有するSiO2反射層の場合、層の不透明度のわずかな違いが反射度に顕著な影響を示すため、再現可能な方法で所定の乱反射を観測することが困難である。
【0037】
特に、厚い層を製造するためには、反射層を生成するのに複数の連続する積み重ね層を適用する手法が好ましい。
【0038】
特定の性質を有する反射層の製造のために、SiO2粒子にドーパントが与えられているか、又はSiO2粒子とは別に、ドーパントをエネルギー源へと供給する。
【0039】
このように作製される反射層は、特定の使用目的に適応する付加的な機能性をリフレクタ部材に与えることができるか、又はその製造を簡単にすることができる1つ又は複数のドーパントを含有する。この例は、反射の適合、特定波長範囲における選択的な吸収を有するドーパントによる断熱、石英ガラスの粘度を増大させるドーパントに起因する寿命の増大、耐化学薬品性の改善、又は部材によってもたらされる汚染のリスクの低減、及び特にプラズマ法では、プラズマの主な放出波長範囲における放射線を吸収するドーパントによるプラズマの結合の改善(die Verbesserung der Einkopplung des Plasmas)である。
【0040】
さらなる有利な用途は、高温で揮発性のドーパントの使用により達成される。
【0041】
反射層の焼結温度範囲、又はエネルギー源の作用温度範囲の温度で、揮発性ドーパントは、ガスの形成又は放出を伴って蒸発するか、昇華するか又は解離する。ガスは、反射層を通過して、高い不透明度の発生及び維持を容易にする。
【0042】
ZrO2、Al23、ZrSiO4、希土類金属の酸化物化合物、炭化物化合物又は窒化物化合物、SiC及びSi34から成る群から選択される化合物の1つ以上が、好ましいドーパントとして使用される。
【0043】
ドーパントは、層中に均質に分布されていてもよく、あるいは別個の積み重ね層、例えば中間層中に濃縮された形態で含有されていてもよい。同様に、ドーパントの濃度勾配を有する層が好適である。石英ガラスにアルミニウムを添加することにより、反射層中にAl23が形成され、これが、石英ガラスの耐エッチング性及び温度安定性を向上させ、被覆された石英ガラス部材の実用寿命が延びる。窒素又は炭素の添加は、それらが石英ガラス構造体中に窒化物又は炭化物の形態で組み込まれ、ガラス構造の補強をもたらすので、例えば、耐エッチング性の改善は同様の作用を示す。Si34は高温で容易に分解し得るため、ガスの形成を介した反射層における高い不透明度の設定を容易にする。
【0044】
好ましくは、SiO2粒子は非晶質である。
【0045】
初めから非晶質であるSiO2粒子の使用は、このように被覆された部材の廃棄につながる可能性のある、反射層の作製の準備における結晶形成リスクを低減する。
【0046】
SiO2粒子が、ケイ素含有前駆体化合物から、好ましくは窒素を追加的に含有する前駆体化合物から作製される場合に有利であることが判明した。
【0047】
SiO2含有前駆体化合物のための好適な出発物質は、例えば、TEOS又はシロキサンである。シラザンはさらに窒素を含有する。反射層の石英ガラス中に窒素を組み込むことにより、その熱安定性が高まり、耐エッチング性が改善される。
【0048】
これに関して、窒素含有ガスの存在下、特にNH3又はN2Oの存在下で溶射を行う手法が特に好ましい。
【0049】
溶射は、例えば、エネルギー源としてプラズマ火炎を活用して、このプラズマ火炎へ窒素含有ガスを供給することによって行うことができる。この処理は、窒素含有表層を作製するための最終的な処理としても特に適している。
【0050】
反射層を有する石英ガラス部材に関して、上記のタイプの部材からの上記の目的は、SiO2反射層が、溶射によって作製され、且つ不透明作用を示す層として形成された本発明により達成される。
【0051】
本発明による石英ガラス部材は、溶射によって形成され、且つ全体的に又は部分的に不透明である、ドープされたか又はドープされていない石英ガラスから成る反射層を備える。不透明な石英ガラスは、拡散光リフレクタとして機能する。
【0052】
この部材は、好ましくは、プロセスリアクタ、ランプ又はリフレクタの製造において用いられ、管、電球、チャンバ、外殻、球形部材又は楕円形部材、板、断熱材等の形態で存在する。石英ガラス部材は、リフレクタと一体化された光放射装置の一部、若しくはリフレクタと一体化され、SiO2被覆層によって形成された加熱リアクタの一部であるか、又は石英ガラス部材は、別個のリフレクタを形成し、光放射装置又は加熱リアクタと組み合わせて用いられる。
【0053】
石英ガラス部材は、本発明による方法によって得られ、その不透明性に加えて、反射層は、高い接着力、光学特性の高い均質性、特に、均質な孔分布と、均質な高い密度と、並びに優れた耐薬品性及び耐熱性、機械強度及び高い耐熱衝撃性とによって主に定められる拡散層としての作用により区別される。特に留意すべきことは、クラックの不存在及び均質な密度分布である。
【0054】
これは、広範囲にわたる波長の放射線に対する拡散リフレクタとして適している。反射層の不透明性は、200nm〜2500nmの範囲の波長における直接分光透過率が2%未満である場合に注目される。
【0055】
基体の材料に関して、SiO2反射層は好ましくは、種特異的(arteigenem)材料から成る。本発明において、「種特異的」とは、ガラス物質のSiO2含量が基体のSiO2含量と1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下だけ異なることを意味する。「種特異的材料」の使用により、部材の石英ガラスと反射層の石英ガラスとの熱膨張係数を可能な限り近似させることが可能となり、同時に特に高い接着がもたらされる。
【0056】
本発明による石英ガラス部材の有利な発展型は従属請求項から明らかとなる。従属請求項に示される部材の発展型が、本発明の方法に関する従属請求項に示される手法を転記している限りでは、対応する方法の請求項に関する上記の所見について言及して補足的に説明する。他の従属請求項に概説されるような本発明による石英ガラス部材の設計を以下でより詳細に説明する。
【0057】
本発明の石英ガラス部材の好ましい実施形態において、基体は、放射線放出体を収容する石英ガラスのクラッド体として構成される。
【0058】
ここで、石英ガラスのクラッド体は、加熱コイル、カーボンリボン又は放射線放出ガス充填体等の放射線放出体を覆っており、同時にクラッド体の一部に乱反射SiO2反射層が設けられる。ここではSiO2被覆層はクラッド体の放射線放出体と反対の外側に設けられているため、放射線放出体の損傷、又はクラッド体の内側の大気圧の減損が回避される。
【0059】
SiO2反射層は、1000nm〜2000nmの波長範囲において、少なくとも0.6、好ましくは少なくとも0.8の反射係数を有する。
【0060】
反射係数とは、反射放射線に対する、リフレクタ上に垂直に入射する放射線の強度比を意味する。ウルブリヒト球が、乱反射放射線を測定するのに適している。
【0061】
高純度の合成SiO2出発材料を用いる場合には、UV波長範囲における高い反射度も達成される。
【0062】
ここで、実施形態及び図面を参照して本発明を以下でより詳細に説明する。図面は概略図である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】ウエハの処理のためのリアクタ、不透明な石英ガラスの層により形成されたリアクタの外壁を示す正面図である。
【図2】光放射装置用の石英ガラスのクラッド管、不透明な石英ガラスの反射層で被覆されたクラッド管の円筒状外表面を示す図である。
【図3】図1及び図2に示される反射層の反射曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
図1は、半導体製造におけるエッチングプロセス又はCVDプロセスに用いられるようなドーム型リアクタ1の概略縦断面図である。
【0065】
リアクタ1は、透明な石英ガラスから成るドーム型ベース体2から成り、これには不透明な石英ガラスの外層3が設けられ、また、その底部側面には不透明な石英ガラスのフランジ5が設けられている。
【0066】
石英ガラスリアクタは、420mmの外径、800mmの高さ及び4mmの壁厚を有する。外層3は、以下でさらに詳細に説明するような溶射によって製造される。外層3の厚さは約350μmである。これは、広範な波長範囲にわたる高い乱反射を示し、金の反射層とは異なり、リアクタが誘導加熱される場合にも当該リアクタ1上で用いることができる。このとき、金の反射層は、結合エネルギー(eingekoppelte Energie)によってすぐに崩壊するであろう。
【0067】
この用途に関して、熱は外側に放射されずにリアクタ1の内側に残存するので、エネルギーの消費及び周囲の設備部に対する温度負荷を減らし、またリアクタ1の内側で可能な限り均質な温度分布を達成するために、IR反射特性に対して特に注意を払う必要がある。
【0068】
ここで本発明による方法を参照して外層3の製造をより詳細に一例として説明する。
【0069】
ベース体2の層基材は、サンドブラストされた後、30%フッ化水素酸で洗浄され、他の表面不純物、特にアルカリ化合物及びアルカリ土類化合物が除去される。
【0070】
約50μmの平均粒径を有する球状の非晶質SiO2一次粒子から成る合成SiO2の粉末を調製する。SiO2一次粒子を2重量%の窒化ケイ素粉末(α−Si34)と混合し、VE水中に分散させる。1リットルの重量を1310g及び粘度を150mPasに設定した後、従来の噴霧乾燥機を用いてこの懸濁液を遠心噴霧する。ここで、32μmのD50値と、0.6g/lの孔体積と、約20nmの平均孔径とによって区別される径分布を有する球状のSiO2噴霧顆粒が得られる。400℃で乾燥させた後、この顆粒を800℃に加熱することによって熱的に固化させる。
【0071】
この顆粒は、Ar−H2プラズマ及び45kWのプラズマ出力を備えた真空プラズマ溶射設備において、不透明な外層3としてベース体2上で加工される。ここで、添加したSi34は、SiO2と、顆粒中に部分的に閉じ込められ且つ顆粒の高密度焼結及び透明性を防ぐ窒素含有ガスとに分解される。このように達成される多孔率は、作製される外層3の乱反射に対して大きく寄与する。
【0072】
図2は、UV波長範囲において用いられるエキシマ光放射装置用のクラッド管20の径断面を概略的に示すものである。クラッド管20の主な放射方向は本実施形態では下向きであり、方向を示す矢印21で示されている。不透明な被覆23の形態のリフレクタを厚さ約1mmで、主な伝播方向21と反対側のクラッド管20の上部側面22上に形成する。ここで上記被覆の製造を以下でより詳細に説明する。
【0073】
クラッド管20の層基材は、サンドブラストされた後、30%フッ化水素酸で洗浄されて、表面不純物、特にアルカリ化合物及びアルカリ土類化合物が排除される。
【0074】
バイモーダル粒径分布を有する球状の非晶質SiO2粒子から成る合成SiO2の粉末混合物を調製する。粉末の50重量%は、約15μmの平均粒径を有するSiO2粒子から成り、且つ残りの50重量%は、約40μmの平均粒径を有するSiO2粒子から成る。粉末混合物は、アセチレン−酸素燃焼混合物を用いた燃焼火炎溶射によってクラッド管20の上部側面22上に不透明な被覆23として塗布される。ここでは、クラッド管の表面を溶射ノズルから約150mm離す。
【0075】
図3は、不透明なSiO2不透明層の形態で実施例2(図2)によって作製された拡散リフレクタの200nm〜2800nmの波長範囲における反射挙動を示すものである。ここでは、「Spektralon」の乱反射に基づく反射度「R(%)」を図のy軸にプロットし、作用放射線(nm)の波長λをx軸にプロットしてある。反射はウルブリヒト球を用いて測定したものである。
【0076】
石英ガラス基体上の厚さ1mmの金層(曲線32)と対比して、曲線31は厚さ350μmのSiO2不透明層の反射挙動を示す。約200nm〜2100nmの波長範囲において、ドープされていないSiO2のSiO2不透明層が80%を超える略一様な反射度Rを有することが見てとれる。この乱反射はこの波長範囲において現在用いられている金被覆の乱反射よりも常に高い(しかしながら、金被覆は鏡面反射の一部ももたらすことを念頭に置いておかなければならない)。200nmで、SiO2不透明層の乱反射は、使用される比較標準(Spektralon)を超えるため、これはさらに短い波長のVUV範囲にも同じことが言えると予想される。しかしながら、VUV範囲に対する乱反射を測定する確立された方法は存在しない。
【0077】
Deep−UV範囲におけるこの高い反射は、図2による部材を、例えば、UV滅菌産業分野におけるUVランプにも使用する可能性を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラスの基体表面の少なくとも一部に、乱反射(拡散)リフレクタとして機能する石英ガラスの反射層を作製する、反射層を有する石英ガラス部材の製造方法であって、SiO2粒子をエネルギー源へと供給し、該エネルギー源により部分的又は完全に溶融し、且つ該基体上に堆積させる溶射によって該反射層を作製することを特徴とする反射層を有する石英ガラス部材の製造方法。
【請求項2】
プラズマジェット又はレーザー光を前記エネルギー源として使用するプラズマ溶射によって前記反射層を作製することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アーク又は酸素ガス炎を前記エネルギー源として使用する火炎溶射によって前記反射層を作製することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記SiO2粒子が、200μm以下、好ましくは100μm以下の範囲の粒径を有し、1μm〜60μmの範囲の粒径を有するSiO2粒子が、最大の体積分率を占めることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記SiO2粒子が、50μm未満、好ましくは40μm、特に好ましくは30μm未満のD50値により区別される粒径分布を有することを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記SiO2粒子の少なくとも3分の1を球状とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記SiO2粒子が凝集して2μm〜300μmの範囲、好ましくは100μm未満の径を有する顆粒となっている顆粒形態で前記SiO2粒子を前記エネルギー源へと供給することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記SiO2粒子のSiO2含量が少なくとも99.9重量%であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
50μm〜3000μmの範囲、好ましくは100μm〜800μmの範囲の層厚を有する反射層を作製することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記反射層を作製するために、いくつかの連続する積み重ね層が適用されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記SiO2粒子にドーパントが与えられているか、又は非晶質SiO2粒子とは別に、ドーパントを前記エネルギー源に供給することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
高温で揮発性のドーパントを使用することを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ZrO2、Al23、ZrSiO4、希土類金属の酸化物化合物、炭化物化合物又は窒化物化合物、SiC及びSi34から成る群から選択される化合物の1つ以上をドーパントとして使用することを特徴とする請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記SiO2粒子が非晶質であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ケイ素含有前駆体化合物から、好ましくは窒素を追加的に含有する前駆体化合物から前記SiO2粒子を作製することを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
窒素含有ガスの存在下で、特にNH3又はN2Oの存在下で溶射を行うことを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
乱反射(拡散)リフレクタとして機能するSiO2反射層で少なくとも一部が被覆された表面を有する石英ガラスから構成される基体を備えた、反射層を有する石英ガラス部材であって、前記SiO2反射層が、溶射によって作製され且つ不透明作用を示す層として形成されていることを特徴とする反射層を有する石英ガラス部材。
【請求項18】
前記SiO2反射層のSiO2含量が少なくとも99.9重量%であることを特徴とする請求項17に記載の部材。
【請求項19】
前記反射層が、50μm〜3000μm、好ましくは100μm〜800μmの範囲の層厚を有することを特徴とする請求項17又は18に記載の部材。
【請求項20】
前記反射層が複数の連続する積み重ね層から成ることを特徴とする請求項17〜19のいずれか一項に記載の部材。
【請求項21】
前記SiO2反射層が、石英ガラスに紫外、可視又は赤外スペクトル範囲の光吸収をもたらす少なくとも1つのドーパントを含有することを特徴とする請求項17〜20のいずれか一項に記載の部材。
【請求項22】
前記SiO2反射層が、ZrO2、Al23、ZrSiO4、希土類金属の酸化物化合物、炭化物化合物又は窒化物化合物、SiC及びSi34から成る群から選択される少なくとも1つのドーパントを含有することを特徴とする請求項17〜21のいずれか一項に記載の部材。
【請求項23】
前記ドーパントが、別個の積み重ね層に含有されるか、又はドーパントの濃度勾配を有する層に含有されることを特徴とする請求項22に記載の部材。
【請求項24】
前記基体が、放射線放出体を収容する石英ガラスのクラッド体として構成されることを特徴とする請求項17〜23のいずれか一項に記載の部材。
【請求項25】
前記SiO2反射層が、1000nm〜2000nmの波長範囲において、少なくとも0.6、好ましくは少なくとも0.8の反射係数を有することを特徴とする請求項17〜24のいずれか一項に記載の部材。
【請求項26】
前記SiO2反射層が合成SiO2から成ることを特徴とする請求項17〜25のいずれか一項に記載の部材。
【請求項27】
前記SiO2反射層が少なくとも表面付近領域で窒素を含有することを特徴とする請求項17〜26のいずれか一項に記載の部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−513198(P2010−513198A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542004(P2009−542004)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際出願番号】PCT/EP2007/063874
【国際公開番号】WO2008/077807
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(599089712)ヘレウス・クアルツグラース・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンディット・ゲゼルシャフト (21)
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quarzglas GmbH & Co. KG
【出願人】(000190138)信越石英株式会社 (183)
【Fターム(参考)】