説明

反応処理装置

【課題】複数の反応領域を備えた反応処理装置において、温度制御を高精度で行うことができる反応処理装置を提供すること。
【解決手段】複数の反応領域(A)と、該反応領域ごとに設けられた加熱部と、を備え、前記加熱部は、熱源と、反応領域(A)間の熱干渉を検出する熱干渉検出部と、前記熱干渉検出部により検出された温度情報に基づいて、前記熱源の加熱量を制御する加熱制御手段と、を少なくとも備える反応処理装置(1)とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応処理装置に関する。より詳しくは、複数の反応領域を備えた反応処理装置において、反応制御を高精度に行ない得る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の反応領域を設け、夫々の反応領域で夫々の所定反応を行ない得る反応処理装置は、種々の分野において用いられている。複数の反応領域で所定反応を行ない得る反応処理装置を用いることで、網羅的な解析を行なうことができる。幅広い用途に用いることができる。医療、環境科学、食品分析等をはじめとする幅広い分野への応用が期待されている。このような反応処理装置として、例えば、複数の反応領域を同一基板上に設け、この基板を用いて種々の反応を行なうこと等が考えられている。
【0003】
一方で、このような反応処理装置においては、それぞれの反応領域において正確な温度制御ができることが重要となる。これに関して、特許文献1や特許文献2には、反応処理装置の温度制御に関する技術が開示されている。また、微小領域に対する加熱を行なうために、半導体素子を用いること等も行われている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−298068号公報。
【特許文献2】特開2004−025426号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、複数の反応領域を備えた反応処理装置において、温度制御を高精度で行うことができる反応処理装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
まず、本発明は、複数の反応領域と、該反応領域ごとに設けられた加熱部と、を備え、 前記加熱部は、熱源と、反応領域間の熱干渉を検出する熱干渉検出部と、前記熱干渉検出部により検出された温度情報に基づいて、前記熱源の加熱量を制御する加熱制御手段と、を少なくとも備える反応処理装置を提供する。このように、前記熱干渉検出部を反応領域間に設けることで、反応領域同士の熱干渉を検出することができる。この熱干渉の影響を考慮することで、より正確な温度制御が可能となる。
次に、本発明は、前記熱干渉検出部は、隣接する反応領域間に配置された測温体によって、前記反応領域間の熱干渉を検出する反応処理装置を提供する。前記熱干渉検出部として少なくとも測温体を隣接する反応領域間に夫々配置することでより高精度の熱干渉検出が可能となる。
続いて、本発明は、前記複数の反応領域と、該反応領域に対応する加熱部とがマトリクス状に夫々配置され、前記加熱部の各熱源は、走査線とデータ線とに接続された発熱体であり、該発熱体は順次走査されることで発熱可能であり、かつ前記加熱部の各測温体は、対応する発熱体のスキャン方向側に夫々配置されている反応処理装置を提供する。反応領域とそれに対応する加熱部をマトリクス状に夫々配置し、各熱源を走査線とデータ線を用いて制御することで熱源制御が容易に行ないうる。これに加えて、各反応領域に対応する測温体を加熱されていく加熱方向側にそれぞれ配置することで、より正確な熱干渉の検出が可能となる。そして、本発明は、前記測温体は、PINダイオードを少なくとも備えている反応処理装置を提供する。
更に、本発明は、前記加熱部は、前記反応領域の温度を測定する温度検出部を更に備え、前記加熱制御手段は、前記熱干渉検出部により検出された温度情報と、前記温度検出部により検出された温度情報と、に基づいて、前記熱源の加熱量を制御する反応処理装置を提供する。熱干渉検出部だけでなく、反応領域の温度を測定する温度検出部を更に設けることで、各反応領域の温度制御を更に高精度に行うことができる。
また、本発明は、前記反応領域に対して所定波長の光を照射する光学手段と、前記光の照射により発生する測定対象光を検出可能である光検出部と、を更に備える反応処理装置を提供する。反応処理装置として、このような光学系を更に設けることでリアルタイムの解析が可能となる。そして、本発明は、前記反応領域において遺伝子増幅反応が行われる遺伝子増幅装置とすることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、複数の反応領域を備えた反応処理装置において、高精度の温度制御ができる。その結果、反応領域で行う所定反応を高精度で制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、添付図面に基づいて、本発明に係る反応処理装置の好適な実施形態について説明する。なお、添付図面に示された各実施形態は、本発明に係わる代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。なお、以下に使用する図面では、説明の便宜上、装置の構成等については簡素化して示している。
【0009】
図1は、本発明に係る反応処理装置の第1実施形態の概念図であり、図2は、同実施形態における加熱部を説明するための概念図である。この反応処理装置1のサイズや装置構造等は、用途等に応じて適宜選択可能であり、本発明の目的の範囲内で設計又は変更可能である。
【0010】
図1中の符号1は、本発明に係る反応処理装置を示している。該反応処理装置1は、複数の反応領域Aが配置され、各反応領域Aは夫々に加熱部を備えており、該加熱部は熱源Hと、熱干渉検出部に用いられる測温体Sを備えている。
【0011】
この熱源Hが発熱することで、対応する反応領域Aの加熱を行うことができる。しかし、このときの加熱によって反応領域Aの間で熱干渉が生じてしまう。反応処理装置1では、この熱干渉を熱干渉検出部の測温体Sにより検出することができる。更に、加熱制御手段(図示せず)によって、熱干渉検出部の測温体Sにより検出された温度情報に基づいて、熱源Hの加熱量を制御することができる。
【0012】
加熱部の構造等については特に限定されないが、好適には、薄膜トランジスタ(TFT)により形成され、スイッチング制御される熱源Hであることが望ましい。例えば、薄膜トランジスタが有するスイッチング機能を利用して、各反応領域Aの温度制御を個別に行うことができる。この温度制御は、薄膜トランジスタに印加する電圧をコントロールしてソース−ドレイン間の電流値を可変としてもよいし、ソース−ドレイン間の電流を定電流電源としてコントロールしてもよい。特に、熱源Hとしての薄膜トランジスタを用い、かつスイッチング素子としての薄膜トランジスタを用い、これらの薄膜トランジスタを同一回路内に形成することが望ましい。これによって、熱源Hとスイッチング制御とを同一回路内で一括制御できる。そして、好適には薄膜トランジスタ基板(TFT基板)を用いることが望ましく、これについては後述する。
【0013】
あるいは、加熱部の熱源Hは、発熱抵抗体で形成され、薄膜トランジスタによりスイッチング制御されるヒーターとしてもよい。即ち、薄膜トランジスタは、スイッチングとしてのみ利用してもよい。前記発熱抵抗体として、白金、モリブデン、タンタル、タングステン、炭化珪素、モリブデンシリサイド、ニッケル−クロム合金、鉄−クロム−アルミニウム合金等を用いることができる。この場合は、発熱抵抗体に流れる電流値を制御することで、温度制御が可能となる。また、本発明において用いられる薄膜トランジスタの種類については、特に限定されず、例えば、ポリ珪素や、α−珪素等のタイプを適宜使用できる。
【0014】
熱干渉検出部は、反応領域A間に起こりうる熱干渉を検出可能であればよく、その手法等については限定されず、例えば、熱検出可能な種々のセンサー等を用いることができる。そして、反応処理装置1の如き、熱干渉検出部として測温体Sを用い、この測温体Sを隣接する反応領域A同士の間に配置することができる。測温体Sとしては、例えば、温度と電気的信号値(電圧、抵抗、電流等)の一定の相関関係を有するものを用いることができる。この場合、測温体Sは、温度に応じて、検出される電気的信号の値が変動するため、この値に基づいて温度情報を検出することができる。測温体Sとしては、例えば、ダイオード特性を有する素子等を用いることができ、より好適には、PINダイオードを用いることが望ましい。
【0015】
加熱制御手段は、前記熱干渉検出部で検出された温度情報に基づいて、各熱源Hの加熱量の制御ができればよく、その構成や手法等は限定されない。例えば、図示はしないが、検出した電気的信号をアナログディジタルコンバーター(ADC)によりディジタル信号として変換し、ディジタルデータとしてCPUに取り込ませることができる。そして、このCPUによって演算処理して、目標温度とする最適な電流値となるべくディジタル信号をディジタルポテンショメータへ出力する。このようにして、熱干渉検出部によって検出した温度情報を踏まえて加熱制御にフィードバックさせることができる。
【0016】
本発明では、反応領域Aの温度を検出するための温度検出部を更に設けることが望ましい。この温度検出部によって検出された反応領域Aの温度情報と、前記熱干渉検出部により得られた熱干渉に関する温度情報との両方を踏まえて、前記加熱制御手段によって加熱制御することが望ましい。これによって温度制御をより正確に行うことができる。
【0017】
ここで、各反応領域Aにおける各加熱部の構成について図2等を参照しながら説明する。図2は、反応領域Aの温度を検出するための温度検出部を更に設けている。この温度検出部として測温体Hsを用いている。この測温体Hsによって検出された反応領域Aの温度情報と、前記熱干渉検出部の測温体Sにより得られた熱干渉に関する温度情報との両方を踏まえて、加熱制御手段によって加熱制御することができる。
【0018】
この場合、発熱体Hと測温体Hsの構成等については限定されず、目的や装置構造等を考慮して適宜好適な構成とすることができる。例えば、発熱体Hに隣接して測温体を設けてもよいし(図2の符号I,II参照)、あるいは発熱体Hの中央領域に測温体Hsを設けてもよい(図2の符号III参照)。
【0019】
図3は、本発明に係る反応処理装置の第2実施形態の概念図である。図3の符号2は、本発明に係る反応処理装置を示している。該反応処理装置2は、複数の反応領域Aがマトリクス状に配置され、これに対応して各加熱部がマトリクス状に配置されている構造である。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明し、共通する部分についてはその説明を割愛する。
【0020】
反応処理装置2は、各反応領域Aの各加熱部について、それぞれ複数の走査線とデータ線を含み、これらの交差部に加熱部のヒータユニットを夫々配置している。ヒータユニットもゲート線(X方向)とデータ線(Y方向)に沿ってマトリクス状に配置させている。このような構成とすることで、各熱源を一括制御することができる。
【0021】
走査駆動回路は、走査線を順次選択し(即ち、低レベルにし)、それに同期してデータ線駆動回路が各データ線に信号電流を印加することで、各ヒータユニットに対して行単位(走査線1,2・・・)で、加熱量情報を書き込むことができる。書き込み終了後には、各走査線を非選択(即ち、高レベル)にすれば、信号電流と同じ電流値の駆動電流が各ユニットを流れ続ける。このようにして各々の所望の大きさの電流を流すことができる。このようにして、各加熱部(のヒータユニット)を個別制御することができる。
【0022】
本発明では、更に、熱干渉検出部として測温体Sを用いており、これを対応する各加熱部の熱源の加熱方向側(図3の矢印参照)に配置していることを特徴の一としている。図3の場合には、反応領域Aの右隣の測温体Sで検出した温度情報が、この測温体Sの右隣に位置する反応領域Aの加熱制御に反映させることができる。
【0023】
各ヒータユニット間に温度センシングデバイスとして測温体Sを夫々配置し、この測温体Sにより熱干渉の影響度を夫々検出することができる。そして、測温体Sは、対応する発熱体のスキャン方向側に配置されることが望ましい。スキャン方向に沿って各発熱体の加熱制御は順次行なわれていくため、この方向(図3の矢印参照)に沿って順次加熱されていくことになる。
【0024】
このようにマトリクス状に配置することで、各加熱部の発熱動作を走査線単位で停止させることも可能であり、その結果簡便かつ速やかに温度を下げることもできる。このことは、特に、反応領域Aが微小なマイクロ空間である場合により顕著である。また、発熱時間の制御も可能であるため、微小な発熱制御も容易に行なうことができる。
【0025】
本発明ではこれらに加えて、前述した熱干渉検出を測温体S等を用いて行うため、温度検出を高精度に行うことができ、加熱量の書き込み量を補正することもできる。更には、熱干渉検出に加えて、反応領域Aの温度検出も測温体Hs等を用いて行うことができるため、より高精度に温度制御を行なうことができる。
【0026】
そして、反応領域Aについて、前記熱源としての発熱体Hと、前記温度検出部として用いられる測温体Hsと同一回路状に組み込むことができる。更には、測温体Sについても同一回路上に組み込むことができる。これにより、同一回路上において、これらを一括制御することが可能となり、装置構成としての小デバイス化にも貢献することができる。
【0027】
例えば、測温体SとしてPINダイオードを少なくとも用い、かつ測温体HsとしてもPINダイオードを用いることで、列方向にスキャンセンシングを行い、更に次回の電流書き込み時linに対して補正を行なうことで、熱干渉の影響度をリアルタイムに制御しながら加熱制御(電流制御)をすることが可能となる。
【0028】
本発明によれば、マトリクス状に反応領域Aを夫々配置した場合であっても、熱干渉の影響を排除するために、反応領域A同士の設置間隔を長くする必要もない。その結果、デバイスとしてもより省スペース化が可能となり、ひいては、より効率的に網羅的解析を行い得る反応処理装置として用いることができる。
【0029】
図4は、本発明に係る反応処理装置の第3実施形態の概略側面図である。図4中の符号3は、本発明に係る反応処理装置を示している。この反応処理装置3のサイズや層構造についても、目的に応じて適宜選定可能であり、反応処理装置3の形態構成についても本発明の目的に沿う範囲で設計又は変更可能である。この反応処理装置3は、光学測定系を更に備えていることを構造上の特徴の一としている。
【0030】
反応処理装置3の形態構成について説明する。反応処理装置3は、反応基板31と、前記反応基板31を加熱する加熱部32と、ペルチェ素子33と、光源34と、前記反応基板31に前記光源34から発せられる光L1,L2を導く導光板35と、測定対象光L3を検出する光検出部36と、特定の波長光のみを透過するフィルター膜37と、測定基板38と、を備えている。そして、加熱部32は、熱干渉検出部321を少なくとも備えている。
【0031】
本発明に係る反応処理装置で行いうる光学測定系については、種々の分光測定を採用することができ、その測定対象光を限定するものではない。例えば、蛍光測定や、散乱光測定や、IR測定、UV測定等、適宜好適な分光測定を採用することができる。例えば、反応処理装置3において蛍光測定を行うのであれば、蛍光物質で試料をラベリングし、特定波長の励起光を光源34から照射し、これによって発せられる蛍光を光検出部36で検出することができる。
【0032】
反応基板31は、複数の反応領域A1を備えており、この反応領域A1内で所定の反応を行なうことができる。本発明では、反応領域A1の形状等については特に限定されず、適宜好適な形状や容量とすることができる。
【0033】
反応領域A1の容量については特に限定されないが、好適には、マイクロ空間とすることが望ましく、好適には1μL以下の容量とすることが望ましい。このようなマイクロ空間とすることで、反応領域A1に必要な反応溶液の液量が少量ですむため、温度制御等を高精度で行なうことができ、かつ反応時間も短縮することができる。
【0034】
例えば、前記反応領域A1を300μm×300μm×300μm(反応領域容量:27nL)とする場合、約4万個の反応領域A1を反応基板31に設置するとしても、約6cm四方の面積のデバイスでよい。このようにデバイスとしての小型化が可能であるため、ヒトの遺伝子数に匹敵する数の反応領域A1をマトリクス状に反応基板31に配置させることもでき、網羅的解析をより容易にかつ簡便に行なうことができる(例えば、図1,2等参照)。
【0035】
反応基板31の材料等は、光L1を透過できる材料であれば特に限定されず、測定目的や加工容易性等を考慮して適宜選択できる。例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の透明樹脂やガラス等を用いることができ、蛍光検出を行う場合であれば低蛍光発光プラスチック等を反応基板31の材料として用いることができる。
【0036】
また、反応基板31は、加熱部32や光検出部36やフィルター膜37等と脱着可能としてもよい。あるいは、図示はしないが、反応基板31と加熱部32とを一体構造とし、これを脱着可能としてもよい。
【0037】
加熱部32は、反応基板31内の各反応領域A1を加熱する。これにより反応領域A1の温度制御を個別に行なう。更に、熱干渉検出部321も夫々備えていることで、加熱部32の加熱制御を高精度で行なうことができる。前記加熱部32により、前記反応領域A1ごとに加熱温度と加熱時間を個別に制御することで、前記反応領域A1内の増幅反応等をより高精度で制御できる。この加熱32(及び熱干渉検出部321等)の構成については、前述した構成を適宜採用することができる。
【0038】
本発明では、反応領域A1の温度制御を行なうためにペルチェ素子33を備えることが望ましい。ペルチェ素子で反応領域A1全体の温度制御を行ない、各加熱部32において各反応領域A1の温度をより精密に制御することができる。これにより、各反応領域A1の微小な温度のばらつきやズレ等を正確に制御できる。このようにペルチェ素子33を設けることで、温度制御を容易に行うことができる。その結果、高精度の温度制御を行なうことができる。
【0039】
例えば、PCR装置等として供されるような従来の反応処理装置には、サーマルサイクラー等による温度制御を行なうものもあり、これに関してグラディエント機構が付加されている場合もある。しかし、各反応領域中の試料の温度制御を個別かつ高精度にできないという問題等がある。これに対して、本発明に係る反応処理装置では、各反応領域A1にそれぞれ加熱部32を設け、更に熱干渉検出部321も備えることでこのような問題も解決することができる。
【0040】
一例として、上記のPCR反応を反応処理装置3で行なう場合には、PCRサイクルとして「熱変性、アニーリング(プライマーのハイブリダイゼーション)、伸長反応」のステップに応じて温度制御を行なう必要がある。例えば、予め、反応領域A1内の温度をPCRサイクルの最低温度(例えば、55℃)に維持しておくことができる。そして、ペルチェ素子33よって反応領域A1全体の温度サイクルを制御し、更に各加熱部32によって各反応領域A1の温度のばらつきやズレを個別に補正・制御することができる。このように反応領域A1全体の温度制御と、各反応領域A1個別の温度制御をそれぞれ行なうことで、より正確な温度制御を行なうことができる。
【0041】
そして、本発明では、前記複数の反応領域A1全てに特定波長の光L1を照射可能な光学手段として、光源34や、各反応領域A1に光L1,L2を導入するための導光板35を用いることができる。
【0042】
光源34は、特定波長の光を発光するものであればよく、その種類は特に限定されないが、好適には、白色もしくは単色のLEDやLDを用いることが望ましい。これにより、不要な紫外線や赤外線を含まない光を簡便に得ることができる。そして、光源34の設置場所や光源数については特に限定されない。即ち、図示はしないが、各反応領域A1に対応するように光源34を複数設け、各光源34が対応するそれぞれの反応領域A1に向かって光L1,L2を直接照射する構造としてもよい。この場合、例えば、各反応領域A1を光源34で直接照射できるため、光量をより多くとることや光量を個別に制御してすべての反応領域Aへ光L1,L2の照射を均一に行うことができる。
【0043】
導光板35は、光源34から発せられる光L1を反応基板31内の各反応領域A1に導くためのものである。前記導光板35内部のスペーサー351に光源34から発せられる光L1が導入される。そして、前記導光板35上部には反射膜352が設けられており、例えば、ダイクロックミラー等を用いることで反応基板31へ光L2を導入することができる。
【0044】
また、本発明では、導光板35の底部に、前記光L1,L2の波長光のみを透過するフィルター膜353を設けることが望ましい。これにより、光源34から発せられる光から光L2を効率よく取り出し、反応領域A1へ導くことができる。このフィルター膜353としては、例えば偏光フィルター等を用いることもできる。
【0045】
光検出部36は、反応領域A1に照射された光L1,2に応答して発せられる測定対象光L3を検出する。例えば、蛍光測定を行う場合であれば、励起することで発せられる蛍光を検出・測定する。本発明では、前記光検出部36の構成等については限定されず、例えば、フォトダイオードを用いることができる。
【0046】
光検出部36は、加熱部32と同じ基板上に形成されているが、異なる基板に形成されてもよいし、加熱部32と光検出部36とが積層された状態であってもよい。
【0047】
本発明では、各反応領域A1とこれに対応する各光検出部36との間に、前記測定対象光L3の波長光のみを透過するフィルター膜37を設けることが望ましい。所定の波長光のみを透過するフィルター膜37を、反応領域A1と光検出部36との間に設けることで、検出した測定対象光L3を効率よく取り出すことができるため、より高精度の分析を行なうことができる。このフィルター膜37としては、例えば偏光フィルター等を用いることができる。
【0048】
このように、本発明に係る反応処理装置3は光検出部36を有するため、リアルタイムの解析が可能となる。そして、光検出部36を各反応領域A1に対応して個別に設けることで、反応領域A1ごとに個別かつ高精度の検出が可能となる。
【0049】
そして、加熱部32や光検出部36を、測定基板38上に設けることができる。また、本発明では、前記測定基板38を設ける位置は、前記加熱部32や前記光検出部36の下方に限定されず、適宜好適な場所に設けることができる。本発明で用いられる前記測定基板38の材料等については、特に限定されず、例えばガラス製基板や種々の樹脂製基板等を用いることができる。
【0050】
更に、本発明に係る反応処理装置においては、光透明性を有するTFT基板を用いることが望ましい。例えば、光検出によって所定反応(例えば、生体反応等)をセンシングする際には、反応領域近傍に光検出部を構成するためには、光透明性を有するTFT基板に構成するほうが、所望の測定対象光(例えば、蛍光検出)を遮断する要因を抑えることができる。そして、光検出部の構成レイアウトに対する制限も緩和されるので、装置デバイスとしてのコンパクト化にも大きく貢献することができる。更に、TFT基板において熱制御を実行する回路構成とする際には、例えば、カレントミラー回路やカレントコピー回路等を形成することで、(各熱源の)特性のばらつきを抑制して、高精度に発熱量を供給する電流制限を実現できる、という利点も成立させることができる。
【0051】
通常、加熱手段としての薄膜トランジスタ基板(TFT基板)の上部や下部において、蛍光等の測定対象光を検出する場合には、光透過性を有し、かつ比較的大型の透明絶縁基板上にヒータマトリクスを構成すること等が考えられる。これは製造コストや製造プロセスの面で優れているという利点は有している。しかし、TFTは単結晶の半導体素子と比較して、より製造ばらつきや経時変化が大きいといった問題がある。しかしながら、本発明に係る反応処理装置では、熱干渉等を考慮した温度制御が可能であるため、このような問題についても解決することができる。
【0052】
図5は、本発明に係る反応処理装置の第4実施形態を側面視した概念図である。以下、既に述べた各実施形態との相違点を中心に説明し、共通する部分についてはその説明を割愛する。
【0053】
図5において符号4で示された反応処理装置は、反応基板41と、前記反応基板41を加熱する加熱部42と、ペルチェ素子43と、光源44と、前記反応基板41に光L1,L2を導く導光板45と、測定対象光L3を検出する光検出部46と、測定基板47と、を備えている。そして、加熱部42は、熱干渉検出部421を備えている。
【0054】
この反応処理装置4は、反応領域A2ごとに加熱部42や光検出部46を備えている点では、第3実施形態等と共通する。しかし、光L2を反応基板41の下方から照射して、反応領域A2内で反射させて測定対象光L3を検出する点等で相違する。ここで、反応領域A2の形状は、前記測定対象光L3を反射させるために曲面部分を有している。
【0055】
反応処理装置4では、光源44から発せられる光L1が、導光板45によって反応領域A2に照射される。導光板45では、スペーサー451を光L1が通過し、反射膜452とフィルター膜453により反応基板41に光L2が導入される。そして、この光L2が反応領域A2内の反応液中の試料等に照射されることで測定対象光L3を発する。この測定対象光L3は反応領域A2内の壁面で反射して、反応領域A2下方に設けられた光検出部46で検出・測定される。
【0056】
いままで述べた本発明に係る反応処理装置は、複数の反応領域において高精度の温度制御が可能であるため、幅広い用途に用いることができ、例えば、種々の化学反応や生化学反応等を行いうる反応処理装置として用いることができる。そのなかでも、特に、遺伝子増幅反応を行なうための反応処理装置として好適に用いることができる。
【0057】
遺伝子増幅反応を行なうには、目的とする遺伝子を増幅させる必要があるが、この際に高い精度の温度制御が要求される。温度制御が不十分であれば、目標とする遺伝子以外のものが増幅されたり、均一な増幅率が得られないといった問題が起こりうる。これに対して、本発明に係る反応処理装置によれば、高精度の温度制御を行なうことができ、かつ網羅的解析も可能であり、必要とする試料の小容量化等にも貢献できるため好適である。
【0058】
本発明において遺伝子増幅反応として種々の方法を行いうることができるが、とりわけPCR(polymerase chain reaction)法による場合に好適に用いることができる。PCR法は、少量のDNAを増幅する手法であるが、耐熱性のDNA合成酵素を用い,加熱によって,基質であるDNAの構造が変化することを利用して反応を行う。例えば、(1)増幅させたい目標DNA、(2)目標DNAと特異的に結合する少なくとも2種のオリゴヌクレオチドプライマ−、(3)緩衝液、(4)酵素、(5)dATP,dCTP,dGTP,dTTPのようなデオキシリボヌクレオチド三リン酸、等を用い、「熱変性→アニーリング(プライマーのハイブリダイゼーション)→伸長反応」のサイクルを繰り返すことで、前記目標DNAを所望する量まで増幅させること等ができる。
【0059】
この際、遺伝子増幅を高精度に制御するためには、反応温度の制御が重要となる。また、いわゆるRT−PCR反応(Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction;逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)等についても同様に行うことができるのも勿論である。
【0060】
PCR法では、「95℃(熱変性)→55℃(プライマーのハイブリダイゼーション)→72℃(DNA伸長)」といった温度サイクルを行うが、このサイクル毎に、各反応領域内のcDNAは2倍量に増幅されていく。そして、各反応領域にそれぞれ設置された加熱部32によって、各反応領域内の温度を設計したプライマー反応の最適値に制御できる。また、プライマーのハイブリダイゼーション時間やポリメラーゼ反応時間も制御できるため、不要な反応副産物の生成も制御できる。その結果、各反応領域内の遺伝子(cDNA)の増幅率を一定に揃えることができるため、精度のよいPCR反応を行なうことができる。
【0061】
即ち、本発明によれば、各反応領域の反応温度を個別に制御することで各反応領域における核酸の増幅率の違いも補正できる。これにより、各反応領域における核酸増幅反応の反応効率を一定に揃えることができる。その結果、複数の反応領域で複数の核酸増幅反応を行う場合であっても、一の検量線により各反応領域での核酸の増幅量を定量的に知ることができる。従って、本発明に係る核酸増幅装置では発現量の定量的な解析ができる。
【0062】
更に、所定の核酸増幅反応を行なうにあたり、その適切な反応温度条件が未知である場合であっても、増幅反応の初期の結果から適切な反応温度をフィードバックすることで、核酸増幅反応の反応効率を一定に揃えることができる。まず、増幅反応開始から一定時間内において、その増幅量とその際の温度の相関関係を検出する。そして、その結果を加熱部の温度制御機構にフィードバックすることで、増幅反応を行なうための適切な反応温度条件を決定することができる。
【0063】
一般的なリアルタイムPCR装置では、「熱変性→アニーリング→伸長反応」からなるサイクルを30サイクル程度行なうために25〜30分の反応時間を要する。その際、約2℃/秒の温度制御を行っている。これに対して、本発明の装置では、20℃以上/秒の温度制御が可能であるため、1サイクルあたり40秒程度の時間短縮が可能となり、30サイクル全体ではおよそ25分以下の反応時間が達成できる。
【0064】
また、本発明によれば、反応領域ごとに加熱部と光検出部とを設置することもできるため(図4,5等参照)、各反応領域を独立して加熱温度・加熱時間を制御でき、かつ個別に検出することができる。これにより、遺伝子等の発現量等についても、短時間でありながら高精度かつリアルタイムで解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係る反応処理装置の第1実施形態の概念図である。
【図2】本発明において用いられる加熱部の構成を説明するための概念図である。
【図3】本発明に係る反応処理装置の第2実施形態の概念図である。
【図4】本発明に係る反応処理装置の第3実施形態の概略側面図である。
【図5】本発明に係る反応処理装置の第4実施形態の概略側面図である。
【符号の説明】
【0066】
1,2,3,4 反応処理装置
31,41 反応基板
32,42 加熱部
321,421 熱干渉検出部
33,43 ペルチェ素子
34,44 光源
35,45 導光板
36,46 光検出部
37 フィルター膜
38,47 測定基板
H 熱源
Hs 測温体
S 測温体
A 反応領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の反応領域と、該反応領域ごとに設けられた加熱部と、を備え、
前記加熱部は、
熱源と、
反応領域間の熱干渉を検出する熱干渉検出部と、
前記熱干渉検出部により検出された温度情報に基づいて、前記熱源の加熱量を制御する加熱制御手段と、
を少なくとも備える反応処理装置。
【請求項2】
前記熱干渉検出部は、隣接する反応領域間に配置された測温体によって、前記反応領域間の熱干渉を検出することを特徴とする請求項1記載の反応処理装置。
【請求項3】
前記複数の反応領域と、該反応領域に対応する加熱部とがマトリクス状に夫々配置され、
前記加熱部の各熱源は、走査線とデータ線とに接続された発熱体であり、該発熱体は順次走査されることで発熱可能であり、かつ
前記加熱部の各測温体は、対応する前記発熱体のスキャン方向側に夫々配置されていることを特徴とする請求項2記載の反応処理装置。
【請求項4】
前記測温体は、PINダイオードを少なくとも備えていることを特徴とする請求項3記載の反応処理装置。
【請求項5】
前記加熱部は、前記反応領域の温度を測定する温度検出部を更に備え、前記加熱制御手段は、前記熱干渉検出部により検出された温度情報と、前記温度検出部により検出された温度情報と、に基づいて、前記熱源の加熱量を制御することを特徴とする請求項1記載の反応処理装置。
【請求項6】
前記反応領域に対して所定波長の光を照射する光学手段と、
前記光の照射により発生する測定対象光を検出可能である光検出部と、
を更に備えることを特徴とする請求項1記載の反応処理装置。
【請求項7】
前記反応領域において遺伝子増幅反応が行われる遺伝子増幅装置であることを特徴とする請求項6記載の反応処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−95755(P2009−95755A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269657(P2007−269657)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】