説明

反応器を使用して吸熱反応を経て原料を化学転化させるための方法

【課題】反応器を使用して吸熱反応を経て原料(通常は炭化水素原料)を化学転化させるための方法を提供する。
【解決手段】反応器を使用して吸熱反応を経て原料を化学転化させるための方法であって、原料を該反応器内に導入し、前記触媒床の上流側の部分に位置する触媒に対して下流側に位置する触媒をより早めにまたはより頻繁に流しかつ新しいものに取り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応器を使用して吸熱反応を経て原料を化学転化させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学工業、石油工業および石油化学工業では、たとえば、クラッキング反応、脱水素反応あるいは炭化水素のリフォーミング反応など、各種の吸熱化学反応が採用されている。
【0003】
それらの反応の中には可逆性のものもあり、熱力学的な平衡によって、制限を受ける。そのような場合、反応が吸熱性であるために触媒床の中で冷却が起こり、反応物の転化が阻害される。
【0004】
高い転化率を得るための1つの方法は、触媒床に加熱のための表面を備えるかまたは、ゾーンに分画した複数の触媒床を用いて反応物流体を再加熱するものである。
【0005】
多くの場合、特に炭化水素の脱水素の場合には、反応の間に触媒が少なくとも部分的にたとえばコーキングによって失活するので、連続的または一定時間毎に触媒を抜き出して、新触媒または再生触媒と置き換えねばならない。
【0006】
炭化水素の接触リフォーミングのような方法では、反応原料を複数の触媒床反応器に次々と移動させ、それら反応器と反応器の間で中間体を再加熱することで、反応が吸熱性であるために反応流体の温度が下がることに対する補償を行うことは、よく知られている。触媒は1つの反応器から他の反応器へ、原料流に対して、並流または向流の方向に流し、その後再生してリサイクルする。この触媒は、効率的に使用し、均一にコーキングを起こしたものを再生にかける。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、反応器を使用して吸熱反応を経て原料(通常は炭化水素原料)を化学転化させるための方法を提供することであり、本方法において使用される反応器はその反応器の内部に熱を供給する手段を備え、それよって、反応ゾーンを極めてコンパクトにし、触媒を効果的に使用することも可能となっている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のために、本発明は反応器を使用して吸熱反応を経て原料を化学転化させるための方法であって、
原料を該反応器内に導入し、ここで、該反応器は、上端と下端の間に実質的に垂直な触媒床を含み、該反応器は、
・該反応器の上端の近傍に、固相触媒を導入するための少なくとも1つの手段;
・該原料を反応器内に導入し、それを実質的に水平方向に触媒床の各触媒ゾーンを順次通過させるように流し、反応器から排出させるための手段;
・前記反応器の非触媒ゾーンに組み込まれた、前記原料を加熱するための手段:
の組み合わせを含み、該反応器は、
・その下端の近傍に、その下端の近傍に、触媒を抜き出すための少なくとも1つの手段であって、抜き出しは、該原料の流れ方向に関して該触媒床の上流側の部分と下流側の部分とで異ならしめられる手段も含み、
・該触媒床は、原料を加熱するための非触媒ゾーンにより分けられた複数の触媒ゾーンを含む、反応器であり、
前記触媒床の上流側の部分に位置する触媒に対して下流側に位置する触媒をより早目にまたはより頻繁に流しかつ新しいものに取り替える、方法である。
【0009】
具体的にはこの転化方法は、炭化水素系の原料に使用することができる。
【0010】
より具体的には、本発明の方法は、パラフィン系炭化水素系の原料を接触脱水素するための方法である。
【0011】
この反応器は、触媒床に埋め込んだ加熱表面を有する反応器−交換器であってよく、また、反応原料を加熱するための非触媒ゾーンによって分けられた複数の触媒床を含むものであってもよい。これらのゾーンのそれぞれで、反応原料が熱交換器を横切り、熱交換器は伝熱流体の供給を受ける。
【0012】
使用可能な伝熱流体をあげてみると、たとえば絶対圧で0.5MPaから1.20MPaまでの間、好ましくは0.6MPから1MPaまでの間の加圧水蒸気(限度はある)、水素または水素含有ガスでたとえば水素リッチなリサイクルガスなどである。これらは、方法によっては、触媒を保護するために反応原料を稀釈するために用いられる。未転化の原料そのものを使用することも可能であるし、溶融塩や液状ナトリウムなどの流体を使用することも可能である。
【0013】
触媒を抜き出し量を変えながら抜き出すための手段は通常、連続的および断続的抜き出し手段からなる群より選択される。
【0014】
この触媒床は、原料を加熱するための非触媒ゾーンにより分けられた複数の触媒ゾーンから構成されているのが好ましい。
【0015】
本発明の好適な構成においては、最も上流での触媒の抜き出し手段は、少なくとも1つの下流の抜き出し手段、特に最も下流に位置する抜き出し手段とは、その抜き出し量が少ないという点で異なっている(上流および下流という概念は、原料の流れの方向に基づいてのものである)。
【0016】
典型的には、この原料は炭化水素系の原料であって、添加した希釈剤(たとえば、水蒸気、水素、窒素またはそれらのガスの混合物)を同伴していることが多い。
【0017】
本発明の具体的な実施方法では、この化学転化方法は、パラフィン系炭化水素系の原料を接触脱水素するための方法である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の方法に使用される反応器の例を示す垂直縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の方法に使用される反応器Rの例示であり、これにより本発明が限定されるものではない。
【0020】
反応の原料は、配管1を通して反応器Rに導入する;原料は、順に、触媒床3a、次いで熱交換器4a、それから第2の触媒床3b、次いで第2の熱交換器4b、それから最後である第3の触媒床3cと横切ったあと、最後に配管2を通って反応器から出ていく。触媒は反応器の中に、その頂部から配管9を通ってで導入する。それが3つの触媒床3a、3b、3cに分配され、その中を重力にしたがって下方へと流れていく。それぞれの触媒床には、触媒を排出するための個別のホッパーがあり、それぞれ、触媒床3aには7a、触媒床3bには7b、触媒床3cには7cである。
【0021】
触媒床それぞれの底部にある抜き出しバルブ8a、8b、8cによって、それぞれの触媒床の中を連続で流れてきた使用済みの触媒を個別に抜き出すことができる。触媒の排出には、配管80a、80bおよび80cを使用する。
【0022】
熱交換器4aおよび4bには、配管5、5aおよび5bから伝熱流体を導入するが、この流体は配管6a、6bおよび6を通って交換器から出ていく。
【0023】
触媒床3aおよび3bの上部から、配管10,10aおよび10bを通してガス状の希釈剤の流れを導入する。このガスの果たす役割は、原料が触媒床3aから触媒床3bに熱交換器4aをバイパスして流れてしまったり、同様に原料が触媒床3bから触媒床3cに熱交換器4bをバイパスして流れてしまったりするのを防止するためのバリアーガスとなることである。そのようなバイパス流れは、原料のトータルの転化率にとっては極めて有害である。それは、加熱手段をバイパスした原料の部分は、ほんのわずかしか転化されないからである。
【0024】
典型的には、ここで使用するガスは原料の希釈剤となるものでよく、たとえば水蒸気や水素リッチなリサイクルガスでよい。
【0025】
装置の機能は次の通りである。
【0026】
反応温度にまで予熱しておいた原料流は、3つの触媒床(またはゾーン)3a、3b、3cを順に横切っていくが、それらの間には2つの中間再加熱ステップがある。
【0027】
触媒は、配管9から導入され、配管80a、80b、80cを通して、連続的または断続的に抜き出される。
【0028】
本発明にしたがえば、反応器の中では、触媒床3cを流れる触媒は、触媒床3aを流れる触媒よりも早めに新しいものと取り替える(リニューアルする)のが好ましい。典型的には反応ゾーンの最後ほど、すなわち上流の触媒床3aよりも下流の触媒床3cの方が、触媒が、より急速に劣化、失活、コーキングを起こしやすい。3cを3bよりも早めに新しいものと取り替え、さらに3b自体も触媒床3aよりも早めに新しいものと取り替えるのが好ましい。
【0029】
このようにすれば本発明では、触媒を効果的に使用することが可能となり、触媒は、比較的一定の失活状態で抜き出される。
【0030】
操作を連続的に行う場合には、バルブ8a、8b、8cを用いて触媒の抜き出し量(程度)を異ならしめることができる。
【0031】
操作を断続的に行う場合には、一定時間毎に触媒ゾーンに応じて、抜き出す触媒の量を変える(原料の流れ方向に関して下流のゾーンほど、抜き出す割合を高くする)。
【0032】
下流ゾーン3cではゾーン3bよりも、および/または、ゾーン3bではゾーン3aよりも、頻繁に触媒を抜き出すようにすることも可能である。触媒を抜き出す頻度と量を調整していくことも可能である。
【0033】
最終的には、使用済みの触媒を一定量(たとえば、それぞれの触媒床の10から33容量%)を抜き出したり、個々の触媒床(またはゾーン)3a、3bまたは3cの全量を新しいものと取り替えたりすることもできる。この場合、ゾーン3cの触媒は、ゾーン3aの触媒よりは頻繁に新しいものと取り替えるのが好ましい。
【0034】
本発明の反応器では、熱交換ゾーンによって分画された触媒ゾーンを、2から約20含むことができる。
【0035】
反応流体を、原料の流れに対して交差流となるように、横方向に導入して水平に流すこともできる。
【0036】
触媒床の厚みを薄く、たとえば5〜10cmとすることもできるし、中程度の厚み、たとえば10から80cmの間とすることも可能であり、また、方法における必要に合わせて、空間速度を高くすることも低くすることもできる(たとえば、10〜250h−1)。その温度は方法に依存するが、多くは250℃から950℃まで、好ましくは約400℃から約700℃の間である。これらの数値は、本発明を限定するものではない。
【0037】
触媒床が1つのみであったり、複数の触媒床が平行になっていたりしても、原料流と触媒流が交差しているような場合については、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0038】
本発明の方法に使用される反応器では、触媒の存在下に、それぞれの触媒ゾーンに必要な熱量を供給しながら、原料を化学転化させることができる。本発明の反応器はまた、少なくとも部分的に失活した触媒を、異なる抜き出し量で抜き出していくこともできる。
【0039】
本発明の方法に使用される反応器は、触媒活性を高く維持し、および/または、所望の製品を高い生産性で得ることができる。
【0040】
本発明は特に、炭化水素のリフォーミング、エチルベンゼンの脱水素、および、パラフィン類、たとえばプロパン、n−ブタン、イソブタン、炭素原子数が10から14の1級直鎖パラフィンの脱水素、およびアルキルベンゼン製造のためのオレフィン類の製造のための脱水素、あるいは他の化学反応のために応用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1,2,5,5a,5b,6,6a,6b,80a,80b,80c,9,10,10a,10b:配管
3a,3b,3c:触媒床
4a,4b:熱交換器
7a,7b,7c:ホッパー
8a,8b,8c:バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器を使用して吸熱反応を経て原料を化学転化させるための方法であって、
原料を該反応器内に導入し、ここで、該反応器は、上端と下端の間に実質的に垂直な触媒床を含み、該反応器は、
・該反応器の上端の近傍に、固相触媒を導入するための少なくとも1つの手段;
・該原料を反応器内に導入し、それを実質的に水平方向に触媒床の各触媒ゾーンを順次通過させるように流し、反応器から排出させるための手段;
・前記反応器内に組み込まれた、前記原料を加熱するための手段:
の組み合わせを含み、該反応器は、
・その下端の近傍に、その下端の近傍に、触媒を抜き出すための少なくとも1つの手段であって、抜き出しは、該原料の流れ方向に関して該触媒床の上流側の部分と下流側の部分とで異ならしめられる手段も含み、
・該触媒床は、原料を加熱するための非触媒ゾーンにより分けられた複数の触媒ゾーンを含む、反応器であり、
前記触媒床の上流側の部分に位置する触媒に対して下流側に位置する触媒をより早めにまたはより頻繁に流しかつ新しいものに取り替える、方法。
【請求項2】
触媒量の異なる抜き出しが、触媒床の下流側の部分と上流側の部分とで抜き出した触媒の比較的一定の失活状態を得るように、実施される、請求項1による化学転化方法。
【請求項3】
前記原料が炭化水素系の原料である、請求項1または2に記載の化学転化方法。
【請求項4】
パラフィン系炭化水素系の原料の接触脱水素を実施する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の化学転化方法。
【請求項5】
原料が、添加した希釈剤を同伴している請求項1から4までのいずれか1項に記載の化学転化方法。
【請求項6】
炭化水素のリフォーミングを実施する請求項1、2、3および5のいずれか1項に記載の化学転化方法。
【請求項7】
エチルベンゼンの脱水素を実施する請求項1から5までのいずれか1項に記載の化学転化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−51960(P2010−51960A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238922(P2009−238922)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【分割の表示】特願2002−545817(P2002−545817)の分割
【原出願日】平成13年11月7日(2001.11.7)
【出願人】(500393413)アンスティテュ フランセ デュ ペトロール (32)
【Fターム(参考)】