説明

反応器

【課題】
目的は、多層流れにおける両端部分の混合性能を向上させ、流体成分を高速に混合させることができる反応収率の高い反応器を提供することにある。
【解決手段】
物質Aを含む流体1と、物質Bを含む流体2とを交互に配置した多層流を合流部3を経て反応流路4に流入させ、反応流路4の下流には曲がり管6が設置され、曲がり管6によって曲がる方向は流れの多層化方向と直角方向であり、反応流路4入口から曲がり管6入口までの距離8は、2流体の混合時間と流体の断面平均流速を乗じて算出される混合距離未満となるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学合成や化学分析などの分野において液体または気体を流路内で混合して反応させる流体混合流路および反応流路を備えた反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学合成や化学分析の分野において、MEMS(Micro Electro Mechanical System)と呼ばれるマイクロ加工技術により製作された、断面寸法が数十〜数百μmの流路から構成される反応器が使用されはじめている。このような反応器は、マイクロミキサ、又はマイクロリアクタと呼ばれる。
【0003】
マイクロリアクタでは、互いに反応する2種類以上の物質をそれぞれ含む流体を合流させ、微細流路内で互いに接触させて化学反応を生じさせる。マイクロリアクタは、流路の幅や高さが小さく、反応部の体積当たりの表面積が大きく、流路の容積が小さいため、物質の混合時間が短く、熱交換が速くなり、その結果、反応による副生成物が低減し、反応収率が高くなるといった効果がある。
【0004】
そして、〔特許文献1〕に記載のように、二種類の流体をそれぞれ複数の流れに分割して供給し、これらの流れを異種成分が交互に隣接するように合流させて、縮流することにより交互に配置して多層状態にしたときの1層分の流れの幅である拡散距離を小さくして、高速混合することにより反応吸収率を向上させるものがある。
【0005】
又、〔特許文献2〕に記載のように、複数の流体を供給する供給路と、合流させてから流動させる流動路とを共通の面内に設け、この流動路を共通面内で180°又は90°方向転換させて、その湾曲部分で流体を攪拌し、混合する流体成分の接触界面を増やし、反応収率の向上を図るものがある。
【0006】
【特許文献1】WO 02/16017 A2
【特許文献2】特開2005−77397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
〔特許文献1〕に記載の従来の技術では、混合させようとする異種の流体成分が交互になる多層流が流路に形成されることになる。この多層流の外側の層であって流路に接している流体成分の単層のうち、外側半分は混合すべきもう一方の流体が存在しなくなり混合が不均一になり、反応収率が低下する問題がある。
【0008】
〔特許文献2〕に記載の従来の技術では、〔特許文献1〕と同様の問題があるが、流動路の湾曲部分において、断面内に二次流れが生じるが、多層流の両側の外側の層同士が十分に混合せず反応収率が低下する問題がある。
【0009】
本発明の目的は、多層流れにおける両端部分の混合性能を向上させ、反応収率の高い反応器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の反応器は、多層流れにおける両端部分の混合性能を向上させるため、物質Aを含む流体と物資Bを含む流体を交互に配置させて多層状に合流させる合流部と、これら流体中の物質を混合させながら反応させる反応流路を有し、反応流路には、多層流を形成する方向と直角方向に曲がり部が設けられ、曲がり部が設置される位置は、混合時間tmと流体の断面平均流速Vを乗じて算出される混合距離Lm未満となるように構成する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、反応流路に曲がり部を設けて、反応流体の混合性を促進させることにより副反応を抑制し、高い反応収率を実現できる反応器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の各実施例では、それぞれ異種の物質を含む複数の流体を2層以上の多層状に流して合流させる合流部と、これらの流体を混合させながら反応させる反応流路を有し、反応流路の流体を多層化した方向の幅は10mm未満であり、流体を多層化した方向と直角方向に曲がり部が設けられており、また、反応流路入口から曲がり部入口までの距離は、流体の混合時間と流体の断面平均流速を乗じて算出される混合距離未満となる構造にする。
これにより、流路全体の混合時間が短縮され、反応における副生成物が低減されて、高い反応収率を実現できる反応器を提供することができる。
【実施例1】
【0013】
本発明の実施例1を図1により説明する。図1は、実施例1の反応器の構成図である。
【0014】
本実施例では、物質Aを含む流体1と、物質Bを含む流体2とが交互となるように配置され、それぞれ5つの流入部から10層の多層流となって合流部3に流入する例について説明する。
【0015】
合流部3は、多層方向の距離が徐々に小さくなる縮流構造となっており、流入部から流入した10層の多層流は、合流部3で多層化方向が縮流されて矩形の反応流路4に流入する。反応流路4は、矩形形状の直管5aから円形形状の曲がり管6に接続するための継手7、継手7に接続された円形形状の直管5b、直管5bに接続され多層流の積層方向とは直角の方向に曲げられた曲がり管6、曲がり管6に接続された円形形状の直管5cで構成されている。
【0016】
合流部3から矩形形状の直管5aに流入した隣接する2流体は混合し始め、混合した部分から反応が始まる。曲がり管6において、多層流は、多層化された方向と直角方向に曲がり角度12の180°で曲げられる。ここで、反応流路4の入口から曲がり管6の入口までの距離8は、隣接する2流体の混合時間と流体の断面平均流速を乗じて算出される混合距離未満となっている。このため、後述する主生成物Rと物質Bの副反応が生じにくい。
【0017】
多層流が反応流路4の下流側に流れるに従って混合は進むが、曲がり管6に流入すると流体に働く遠心力の作用により、図2に示すように流路断面内では二次流れ9が発生する。反応流路4の中央の流体は、曲がり管6の曲率半径の大きい外側方向に移動し、曲がり管6の外側壁面近傍の流れは、曲がり管6の曲率半径の小さい内側方向に移動する。
【0018】
その結果、図1の矢視A−A′断面である図3に示すように、直管5内を多層状に流れていた流体のうち混合し難い両端の流体10と流体11は、図1の矢視B−B′断面である図4に示すように、二次流れにより合流して混合する。これにより、流路全体の混合時間が短縮され、反応収率が向上する。
【0019】
ここで、物質Aが含まれる流体1と物質Bが含まれる流体2とが反応すると、数1に示すように主生成物Rが生成され、数2に示すように、主生成物Rと物質Bが反応して副生成物Sが生成される逐次反応を考える。
【0020】
(数1)
A+B → R (1)
【0021】
(数2)
R+B → S (2)
【0022】
マイクロリアクタの反応流路4に、物質Aを含む流体1と物質Bを含む流体2の2流体を流した場合の各物質の混合時間tmは、数3で表される。
【0023】
(数3)
m=W2/D (3)
【0024】
ここで、Dは拡散係数であり、層流条件では流体中の物質の分子拡散係数、乱流条件では乱流拡散係数を表す。また、Wは拡散距離であり、物質Aを含む流体1と物質Bを含む流体2をそれぞれ多数の層状の流れに分割して、それらを交互に配置することで多層流れとしたとき、1層当たりの幅(または隣り合う層の中心間距離)を表す。
【0025】
数3から分るように、混合時間は拡散距離Wの2乗に比例するため、流路幅が小さく多層流れの層数が多いほど混合時間が短くなる。
【0026】
一方、数1の主反応および数2の副反応の反応速度定数をそれぞれのk1[L/(mols)]およびk2[L/(mols)]、物質Aおよび物質Bの濃度を等濃度として反応させる場合の初期濃度をC0[mol/L]とすると、生成物Rの反応時間trは数4で与えられる。
【0027】
(数4)
r=1/(k10) (4)
【0028】
マイクロ流路内での数1および数2に示す逐次反応では、数5に示すように数3の混合時間と数4の反応時間の比である混合反応数φが減少するほど、反応律速の状態に近づき、原料Aに対する目的物質Rの生成量である反応収率は増大する。
【0029】
(数5)
φ=tm/tr=k102/D (5)
【0030】
したがって、主生成物Rの反応収率を向上させるためには、多層流の各層当りの幅を薄くすることにより拡散距離Wを小さくし、混合反応数φを小さくすればよいことが分る。このことから、本実施例では、合流部3の層数を増やし、縮流を大きくすることにより混合反応数φを小さくし、反応収率を向上させることができる。
【0031】
又、単に多層流としただけでは、多層状に配置した流体1と流体2が隣接する部分の物質Aと物質Bは混合するが、流路の両端部分では物質Aを含む流体1と物質Bを含む流体2が混合しないまま半分ずつ余ってしまう。このため、流路全体で両物質の混合が完了するためには、流路のそれぞれの端部分の物質が反対の端部分まで拡散する必要があり、混合時間が長くなる。しかし、本実施例によれば、二次流れにより短時間で混合することができる。
【0032】
多層化方向の流路幅は限定されないが、好ましくは10mm未満がよい。また、流れは層流または乱流のどちらでもよく、反応流路の形状は、矩形,円形等の任意形状が適用できる。また、曲がり管6の曲率半径および曲がりの角度は限定されないが、曲がり管6の曲率半径は小さく、曲がりの角度が大きいほど二次流れは強くなり、混合性が増大する。
【0033】
本実施例のように、曲がりの方向は多層化の方向と直角方向にすることにより、多層流れの両端の混合し難い流体1と流体2の混合は速くなるが、これ以外の方向でも曲がり管を設置しない場合より効果はある。
【0034】
このように、本実施例によれば、副反応を抑制して高収率で生産性の高い反応器を提供できる。
【実施例2】
【0035】
本発明の実施例2を図5により説明する。図5は、実施例2の反応器の構成図である。
【0036】
本実施例の反応器は、実施例1と同様に構成されているが、反応流路の構成が異なる。
本実施例では、反応流路4は矩形形状であり、合流部3に接続される反応流路4の直管5aに、多層流の積層方向とは直角の方向に直管5dが設置された構造となっている。
【0037】
直管5dの流路は、直角に折れ曲がった曲がり管であるが、この場合も流体に遠心力が働くため、曲がり管6と同様に二次流れが生じ、多層流れの両端の混合し難い流体1と流体2の混合は促進される。
【0038】
図5では、90°の直角曲がり部が一箇所の場合を示しているが、直管5dのさらに下流側に、合流部3の下流側の直管5aと平行となるように直管を設置すると、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【0039】
多層化方向の流路幅は限定されないが、好ましくは10mm未満がよい。また、流れは層流または乱流のどちらでもよく、反応流路の形状は、矩形,円形等の任意形状が適用できる。
【0040】
また、流路の折れ曲がる角度,折れ曲がる回数、および隣接した折れ曲がり部までの距離に関しては限定されないが、折れ曲がる角度が小さく、折れ曲がる回数が多く、隣接した折れ曲がり部までの距離が短いほど二次流れが強くなり、混合性が増大する。
【0041】
本実施例のように、折れ曲がりの方向は多層化の方向と軸が直角方向にすることにより、多層流れの両端の混合し難い流体1と流体2の混合は速くなるが、これ以外の方向でも折れ曲がり管を設置しない場合より効果はある。
【0042】
本実施例によれば、副反応を抑制して高収率で生産性の高い反応器を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
医薬品,化学工業製品の合成プロセスにおける流体中に含まれる複数の物質の反応において反応収率を向上させ、生産量を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施例1である反応器の構成図。
【図2】図1の矢視B−B′断面の二次流れを示す模式図。
【図3】図1の矢視A−A′断面の多層流の状態を示す模式図。
【図4】図1の矢視B−B′断面の2流体の混合状態を示す模式図。
【図5】本発明の実施例2である反応器の構成図。
【符号の説明】
【0045】
1,2 流体
3 合流部
4 反応流路
5 直管
6 曲がり管
7 継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の物質を含む第1の流体と、第2の物質を含む第2の流体を交互に配置して多層状態で合流させる合流部と、該合流部に接続され多層状態で合流された流体を混合させながら反応させる反応流路とを備え、該反応流路の一部に少なくとも一箇所以上の曲がり部または折れ曲がり部を有する反応器。
【請求項2】
前記反応流路の入口から前記曲がり部の入口までの距離が、前記第1の流体と第2の流体の物質の混合距離未満である請求項1に記載の反応流路。
【請求項3】
前記混合距離は、層流条件の場合、第1,第2の物質の拡散距離の2乗を物質の分子拡散係数で除した混合時間と流体の断面平均流速を乗じて算出される距離であり、乱流条件の場合、第1,第2の物質の拡散距離の2乗を流体の乱流拡散係数で除した混合時間と流体の断面平均流速を乗じて算出される距離である請求項2に記載の反応流路。
【請求項4】
前記曲がり部の曲がりの方向は、流体の多層化方向を軸としたとき、その軸に直角な方向である請求項1から3のいずれかに記載の反応流路。
【請求項5】
反応流路の多層方向の幅が10mm未満である請求項1から4のいずれかに記載の反応器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−42333(P2010−42333A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206517(P2008−206517)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】