説明

反応性有機媒体中のポリマー分散体、調製方法および使用

本発明は水および揮発性の有機溶媒を持たないポリマー分散体に関し、ガラスストランド用のサイジング組成物およびガラスストランドとそのようなストランドの集合体、特にグリッドもしくは織物用の被覆組成物向けのポリマー分散体に関する。
分散体は、反応性有機分散媒体中におけるラジカル開始剤の存在の下での、少なくとも1種のビニルモノマーの重合による生成物を含む。
分散体は、微細な実質的に球形の粒子の形態の、40μm未満の粒径の、20から70質量%のポリマーを含む。これは通常の貯蔵条件下で安定である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル分散重合により得られる、反応性有機媒質中のポリマー分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液のポリマーまたは懸濁液のポリマーは、特にポリマータイプの有機材料の補強用のガラスストランドの分野においては、サイジング組成物または被覆組成物を製造するのに広く用いられている。
【0003】
補強用に用いられるガラスストランドは、一般に工業的にはブッシング(bushing)の複数の穴から流れ出る溶融したガラスの流れから製造される。これらの流れは、連続したフィラメントの形態に機械的に引き出され、そして次いでベースストランドにまとめられ、それは続いて例えば回転する支持材に巻き取ることにより収集される。それらをまとめる前に、フィラメントはサイジング組成物を用いて、塗布ロールなどの適切な装置を通すことにより被覆される。
【0004】
サイジング組成物は、ガラスストランドの製造、そしてこれらのストランドを組み込む複合材料の製造に不可欠なものである。
【0005】
ストランドの製造の間に、サイジング組成物は、ガラスフィラメントが高速で種々のガイドや一緒にまとめるための部材で擦れるときに発生する磨耗からガラスフィラメントを保護し、またフィラメントを一緒に結合することにより結束性を与える。
【0006】
複合材料の製造の間に、サイジング組成物は、補強されるマトリックスによってストランドが含侵されることを可能にし、一方で、またガラスと該マトリックス間の接着を改善し、他方で、それ故に、よりよい機械的特性が得られるのに寄与する。
【0007】
ガラスストランドはそのままの状態で用いることが可能であり、あるいは補強されるマトリックスに組み込まれる前にまとめることもでき、例えば特にポリマーマトリックスを補強するのに用いる場合には、織物の形態で、または非ポリマーマトリックスが補強される場合にはグリッド(grid)の形態でまとめることができる。この場合においては、グリッドに被覆を施す必要があり、それによってグリッドが取扱操作に耐えられ、また最終の操作段階に至るまでその構造が損なわれないままでいることができる。
【0008】
サイジングまたは被覆組成物を製造するのに使用できるポリマー溶液、乳化液、分散液は、水または揮発性の有機溶媒をまさに大いに基礎にしている。
【0009】
実際は、サイジングまたは被覆中の水や有機溶媒の存在は、複合材料の補強の質に有害な影響があり、従って避けなければならない。
【0010】
水は乾燥によって取り除かれるが、その条件はその使われる組成物がサイジングか、または被覆かによって変わり、
・サイジングの場合には、乾燥は一般に100から130℃範囲の温度で、ストランドの状態によって決まる時間、切断されたストランドでの数秒間から、ストランドの巻き付けパッケージ(ロービング)での数時間まで実施される。ロービングの乾燥の段階は特定の大規模なプラントにおいて行われ、そしてその理由から、これはストランドの製造コストの重大な部分に相当している。
・被覆の場合には、乾燥は製造ライン上で、130から250℃の範囲の温度で、特に熱風または赤外線を用いて、数分間を超えない時間、好ましくは1から5分間実施される。
【0011】
乾燥は、プロセスにおいて重要な段階であり、これが製造ラインの速度に直接に影響する。もしも乾燥が、あまりにも速く、例えば時間を短縮するために高温で行われたら、ストランドの表面で組成物の膨れが発生する場合がある。
【0012】
いくつかの組成物は、成分の全てまたは一部を溶解することおよび/または分散することおよび/または乳化することのために有機溶媒の助けを必要とする。溶媒は、単独でまたは水溶液に、乳化液にそして分散液に、それらの性質を改善するために添加することができ、例えばガラスストランドを構成するフィラメントの間へのよりよい浸透をさせるために粘度を下げるために添加することができる。有機溶媒の使用は、それはより容易に除去するために一般に揮発性の有機溶媒であるが、その高い燃え易さ、および製造ラインにおいてサイジングや被覆を取扱う要員の健康へのより大きなリスクによって、付加的な予防処置をとることを必要とさせる。更に、流出物の大気への排出を最小限に低減するために、流出物の連続的な処理が可能なプラントを有することが必要となる。排出に関する規則はますます制限的になってきているので、処理コストは、プラントそのものに関してと、その運転に関しての両方で、常に増大している。
【0013】
たとえ市場で入手できる溶液、乳化液および分散液が、ポリマー濃度が比較的に濃縮(40から80質量%)されていたとしても、それらはなお水および/または有機溶媒を含んでおり、その結果、乾燥段階は避けることができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、ガラスストランド用のサイジング組成物、またはガラスストランドとそのようなガラスストランドの集合体用の被覆組成物に用いることのできる、水および揮発性有機溶媒を持っていないポリマー分散体を提供することである。
【0015】
本発明の他の目的は、通常の貯蔵条件において安定なままである、高含有量のポリマーを含むポリマー分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
これらの目的は、本発明による分散体によって達成され、この分散体は、反応性有機分散媒体中におけるラジカル開始剤の存在下での少なくとも1種のビニルモノマーの重合の生成物を含む。
【0017】
本発明によれば、ラジカルルートによって重合が可能な1種またはそれ以上のビニルモノマーの、その場での重合から得られるポリマーからなる有機ラテックスが形成され、このポリマーは、次の段階において他の化合物と反応することができる1つまたはそれ以上の反応性基を含む有機媒体中に分散しており、前記の基は、しかしながら、ラジカルルートでは重合することができない。いくつかの場合においては、ビニルモノマーの少ない割合のものは、それは10%以下の範囲であることができるが、反応性有機媒体と反応することができ、グラフト生成物を与え、それはポリマーが分散するのに役立つ。
【0018】
本発明による分散体は、ポリマーの溶解度パラメータ(δtp)と分散媒体の溶解度バラメータ(δtm)の差分が2相システムの形成を可能とするのに十分であれば、すぐに得られる。一般に、分散体は次の関係が満足されたときに得られる。
|δtp−δtm|≧4、好ましくは|δtp−δtm|≧5
【0019】
分散体は、少なくとも1種のビニルモノマー、ラジカル開始剤および反応性有機分散媒体を混合する段階、および20℃以上の、そして混合物中で最も低い沸点を有する化合物の沸点よりも低い温度で混合物を反応させる段階を含むプロセスによって調製される。ビニルモノマーは以下の式のモノマーから選ばれる。
【0020】
【化1】

【0021】
ここで、
・Xは、C1〜C18アルキル基、アリール基、好ましくはフェニル基、フェニル基は1つまたはそれ以上のC1〜C4アルキル置換基を含んでいてもよく、好ましくはトリル基、またはC7〜C10アリールアルキル基、好ましくはベンジル基であり、またYは、水素原子またはC1〜C4アルキル基であるか、
・Xは、OR基であり、ここでRはC1〜C18アルキル基またはC5〜C8シクロアルキル基、または以下の式で表される基、
【0022】
【化2】

【0023】
ここで、R1およびR2は水素原子、メチル基またはエチル基を表し、R1とR2は異なり、mとnは、これらは同じでも異なっていてもよいが、1、2、3もしくは4、好ましくは3もしくは4であり、zとtは、これらは同じでも異なっていてもよいが、4よりも大きく、z+tは80以下であり、またYは水素原子またはC1〜C4アルキル基であるか、
・Xは、OCOR1基であり、ここでR1はC1〜C12の、好ましくはC1〜C4の、アルキル基、C5〜C8シクロアルキル基、好ましくはシクロへキシル基、またはアリール基、好ましくはフェニル基であり、またYは水素原子を表し、
・Xは、COOR2基であり、ここでR2はC4〜C20アルキル基、C6〜C20の、好ましくはC4〜C12の、シクロアルキル基、アリール基、好ましくはフェニル基、またはC6〜C20アリールアルキル基、好ましくはベンジル基であり、またYは水素原子またはメチル基を表し、
・Xは、以下の式で表される基であり、
【0024】
【化3】

【0025】
また、Yは水素原子を表す。
【0026】
好ましくは、ビニルモノマーは、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ブチルアクリレート、オクチルアクリレート、ラウリルアクリレートおよびN−ビニルピロリドンから選ばれる。特に好ましくは、ビニルモノマーは、ビニルアセテート、ブチルアクリレート、オクチルアクリレートまたはN−ビニルピロリドンである。
【0027】
ラジカル開始剤は、熱で、または紫外線によって活性化することのできるラジカルルートの重合反応を開始することを可能とする、いずれかの知られたタイプの開始剤であることができる。好ましくは、開始剤は熱で活性化することができ、それは換言すると、開始剤が反応温度においてラジカルを放出することができ、好ましくは混合物中で最も低い沸点を有する化合物の沸点よりも10℃以上低い温度において、熱的に活性化することが出来る。一般に、開始剤は重合されるビニルモノマー中に優先的に可溶であることが必要であり、このことは換言すると、混合物の成分間の分配係数は前記のモノマーに有利である。そのような開始剤の例として、パーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、これらを単独で、またはFe(II)、Co(II)もしくはアスコルビン酸型の還元剤と組み合わせて(レドックス開始剤)、およびアゾ化合物を挙げることができる。好ましくは、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビスメチルブチロニトリルおよび4,4’−アゾビス(シアノペンタン酸)、そして有利にはラウロイルパーオキサイド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、および2,2’−アゾビスメチルブチロニトリルが選択される。
【0028】
ラジカル開始剤は、ビニルモノマーの0.5から6質量%、好ましくは1から4質量%、有利には1から3質量%の比率で投入される。
【0029】
有機分散媒体は、以下の少なくとも1つの反応性基を示す化合物から選ばれる:
−末端の位置に少なくとも1つのエポキシ基、好ましくは少なくとも2つのエポキシ基を含むシリコン、例えばグリシジル末端を含むポリ(アルキルシロキサン)。450から4000の範囲の、好ましくは600から3000の範囲の分子量を示すシリコンが有利であり、それはそのシリコンが組成物の粘度を著しくは増大させることなく、ビニルモノマーの良好な溶解または分散を可能にするためである。
【0030】
好ましくは、シリコンは次の式に相当し、
【0031】
【化4】

【0032】
ここで、nは3から45まで取り得て、好ましくは10から30であり、mは1から20まで取り得る。
−飽和のもしくは不飽和の、および線状の、分岐したもしくは環状の炭化水素から誘導されるポリオール、好ましくは、ポリオールは5000未満の分子量を示す。有利にはポリオール中の水酸基の数は6以下である。
【0033】
一例として、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールおよびシクロヘキサンジメタノールなどジオール、グリセロールおよび1,2,4−ブタントリオールなどのトリオール、エリスリトールおよびペンタエリスリトールなどのテトラオール、およびこれらの化合物の混合物を挙げることができる。
【0034】
有利には、分散媒体はα,ω−ジ−グリシジルポリジメチルシロキサンで、好ましくはほぼ2000の分子量を有するものか、またはエチレングリコールである。
【0035】
適切な場合、分散媒体の粘度が高いときには、少ない割合の有機化合物を加えることができ、それは希釈剤として働き、すなわち希釈剤はビニルモノマーおよび分散体とは反応することができないが、しかしながら選択的に重合が可能である。希釈剤は、例えば、20以下の炭素原子、好ましくは6から18の範囲の炭素原子、そして有利には8から16の範囲の炭素原子を含む脂肪族アルコールのエーテル、特にこれらの脂肪族アルコールのモノグリシジルエーテルおよびジグリシジルエーテルから選択される。希釈剤は分散媒体の化学的性質に従って選ばれ、例えば、2−プロパノールなどのアルコールは、分散媒体がエチレングリコールなどのグリコールであるときに選択される。一般に、希釈剤の比率は、分散媒体の30質量%を超えず、そして好ましくは15質量%未満にとどまる。
【0036】
混合物においては、分散媒体中でのモノマーの転相を避けるために、ビニルモノマーおよび分散媒体は70:30を超えない体積比で用いられる。好ましくは、この比率は60:40と30:70の間である。
【0037】
既に述べた通り、重合反応は、20℃以上の、そして混合物中で最も低い沸点を有する化合物の沸点よりも低い温度で行われる。反応条件、特に温度および継続時間は、ビニルモノマーの目的とする重合率、最終的なポリマーおよび開始剤の性質と量に応じて変わる。一般に、重合は40℃以上で、かつ混合物中で最も低い沸点を有する化合物の沸点よりも10℃以上低い、好ましくは60℃を超えない温度において、30分間から約10時間の範囲の時間で、好ましくは6時間未満行われる。これらの重合条件は、80%を超える、好ましくは85%を超えるビニルモノマーの重合率を得ることを可能にする。
【0038】
上記で明らかにしたレドックス開始剤を用いる他の実施態様では、反応温度は40℃を超えず、そして好ましくは30℃を超えない。
【0039】
適切な場合、残存ビニルモノマーの含有量は、温度を上げることによるよりも、反応の継続時間を増すことにより、または追加の量のラジカル開始剤を反応の最後に加えることにより低減することができ、温度の上昇は結果として残存ビニルモノマーの蒸発をもたらす可能性がある。
【0040】
得られた分散体中で、ポリマーは反応性有機媒体中に直接に分散していることがわかるが、このことが、周知の分散体では必要である、溶媒の除去という中間段階を回避することを可能にさせている。
【0041】
ポリマーは、微細な実質的に球形の粒子の形態で、大きさが40μm未満、好ましくは15μm以下、そしてより好ましくは3μm未満であることがわかるが、粒子は、ポリマーが高含有量であっても、分散媒体中で安定な分散体を形成する。これらの粒子はまた、0.05から3μmの範囲の平均粒径を中心とする狭い粒径分布を示す。
【0042】
上述した粒子の、大きさと分布の組み合わせが、ポリマーを20から70質量%、好ましくは30から60質量%、より好ましくは40から60質量%含む安定な分散体の生成に寄与する。
【0043】
分散体の粘度は一般に500000mPa・s以下であるが、それは目的とする用途に応じて適合させることができ、例えば、特に、開始時の混合物中のビニルモノマーの量、反応性有機分散媒体の粘度、ポリマーの分子量および粒子の大きさを調整することによって適合させることができる。
【0044】
このように、粘度は一般に、被覆の生成には、2000mPa・s未満、好ましくは50から1000mPa・sの範囲、またサイジングには250mPa・s未満、好ましくは30から150mPa・s程度となるように選択される。
【0045】
分散体は更に安定化剤を含むことができ、それは反応性媒体中でのポリマー粒子のよりよい分散を助け、そして貯蔵の間の沈降による分離を回避することを可能にする。安定化剤は一般に、ポリマー粒子に親和性を有する少なくとも1つの部分と反応性有機媒体に親和性を示す少なくとも1つの部分を含む構造を示す。
【0046】
安定化剤は、以下から選択することができ;
−アルキレンオキサイド共重合体、例えばエチレンオキサイドの共重合体およびプロピレンオキサイドの共重合体、特にジブロックもしくはトリブロック共重合体の形で。有利には、共重合体はポリ(エチレンオキサイド)/ポリ(プロピレンオキサイド)ジブロック共重合体である。これらの共重合体はグラフトすることが可能であり、そしてペンダント基は1つもしくはそれ以上のカルボキシル基またはスルホ基を含むことができ、
−アルキレンオキサイドと少なくとも1種の他の重合可能なモノマー、例えばスチレンおよびアルキルアクリレート、特にメチルアクリレートもしくはメチルメタクリレート、とのポリマー。ポリ(エチレンオキサイド)/ポリ(メチルメタクリレート)およびポリ(エチレンオキサイド)/ポリスチレンブロック共重合体が有利に使用され、
−ビニルアルコールポリマー、好ましくは3000から250000の範囲、有利には10000から200000の範囲、そしてより好ましくは25000から150000の範囲の分子量を有するもの。これらのポリマーは対応するポリ(ビニルアセテート)の加水分解により得られ、加水分解の程度は一般に98%以下である。ポリ(ビニルアルコール)は反応性媒体がポリオールをベースにしているときに特に使用され、
−シリコンポリマー、例えばアクリルもしくはメタクリル末端を含むポリジメチルシロキサンなどのポリ(アルキルシロキサン)、およびポリ(アルキレンオキサイド)、特にポリ(エチレンオキサイド)をグラフトされたポリジメチルシロキサンから選択することができる。
【0047】
安定化剤は、開始の反応物に、ビニルモノマーの35質量%以下の範囲、好ましくは20%質量以下の範囲の比率で加えることができる。
【0048】
全く意外にも、ビニルアセテートタイプのビニルモノマーの重合は、エポキシ基、特にグリシジル基を含む分散媒体中では、ポリマーのための安定化剤を加えること無しに実施できることが見出された。ビニルアセテートは、重合の条件下で、分散媒体のエポキシ基、特にグリシジル基と反応することができ、安定化剤として働く化合物を形成するように思われる。この化合物が、重合の過程の間に分散媒体の中で、その場で形成されるという事実は、それが外部からの安定化剤の添加の必要を回避することから特に有利である。
【0049】
本発明によるポリマー分散体は、20から25℃の範囲の温度において、通常の条件下で、数日間、実際は数ヶ月でも、一般には3から6ヶ月間、粒子の沈降が許容レベルの状態で、満足に貯蔵することができる。
【0050】
本発明による分散体は、次の利点を示す。
−分散体は水を含まず、そしてそれ故に、エネルギーを消費する乾燥段階が回避でき、
−分散体は揮発性の溶媒を含まず、そして環境に対して、そして運転員の健康に対して有害な汚染排出物の危険性を大いに低減し、
−残存ビニルモノマーの含有量は非常に小さく、分散体の質量の10%未満であり、好ましくは5%未満であり、
−分散体中のポリマーの含有量は高く、このことは低容量の貯蔵設備を持つことを可能にする。
【0051】
本発明による分散体は、既に示したようにサイジングまたは被覆組成物を調製するのに用いることができる。
【0052】
「サイジング組成物」という用語はガラスストランドの分野において通例受け入れられている意味を持ち、それは、ガラスフィラメントを引き出す間に、それらが1つまたはそれ以上のベースストランドへとまとめられる前に、ガラスフィラメント上に堆積することができる組成物を意味する。サイジング組成物はガラスフィラメントを、ストランドの製造の間の磨耗から保護し、また補強されるマトリックスによるストランドの含浸とガラスと該マトリックス間の結合を向上させる役目を果たしている。
【0053】
「被覆組成物」という用語は、繊維にした後のプロセスの種々の段階においてガラスストランド、例えば、巻き付けパッケージ(ロービング)に由来するストランド、またはそのようなストランドの集合体に適用することのできる組成物を意味しており、その集合体はより合わさっていてもいなくてもよく、例えば、織物、編物、グリッドまたは生地である。被覆の役割は、ストランドを結合し、またそれらが最終的に使われる時にそれらの強度を向上させることである。
【0054】
通常は、これらの組成物は特定の添加剤、特に分散媒体のエポキシ反応性基または水酸反応性基と反応することができる、少なくとも1種の化合物、例えばアミノ化合物やイソシアネートなどの添加物を、分散体へ加えることによって調製される。紫外線の影響の下で、トリアリールスルホニウム ヘキサフルオロアンチモネート、アンチモンのトリアリールスルホニウム ヘキサフルオロホスファート、アンチモンのトリアリールスルホニウム テトラフルオロボレート、ジアリールヨードニウム ヘキサフルオロアンチモネートおよびフェロセンタイプの誘導体などの化合物からスタートするルイス酸タイプの触媒作用によって反応することが可能な、シクロエポキシ化合物を添加することもまた可能である。
【0055】
サイジング組成物は、例えばE、C、AR(アルカリ耐性)、または低レベルホウ素(5%未満)など、どのような性質のガラスから形成されたフィラメントにも適用することができる。ガラスEおよび低レベルホウ素のガラスが好ましい。
【0056】
これらのフィラメントは大幅に変わることのできる直径を有しており、例えば5から24μm、好ましくは9から17μmである。最終のガラスストランドは、一般に10から4800texの範囲、好ましくは68から2400texの範囲の番手を有している。
【0057】
被覆組成物は、一例としてガラスストランドまたはそのようなストランドの集合体に適用され、特にグリッドまたは織物の形態で、例えばスプレーすることで、もしくは浴中への浸漬によって適用される。
【0058】
サイジング剤で被覆されたガラスストランドおよび被覆剤で処理されたストランドもしくはそのようなストランドの集合体は、サイジングもしくは被覆が架橋を得るために、処理、例えば熱処理または紫外線下での処理に付される。
【0059】
次の例は本発明を説明することを可能にするものであるが、しかしながら、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0060】
ビニルモノマー、反応性有機分散媒体、ラジカル開始剤および、適切であるならば、安定化剤を、機械的撹拌器、水循環リフラックスコンデンサー、窒素の循環を確かにするシステムおよびオイルバスを備えた反応器の中に導入した。
【0061】
反応混合物を、ビニルモノマーの沸点よりも10℃低い温度で、7時間、撹拌しながら(150rpm)加熱した。
【0062】
表1および表2の中に示した次の化合物を使用した。
【0063】
ビニルモノマー:
・VAC:ビニルアセテート
・VP:N−ビニルピロリドン
・BA:ブチルアクリレート
・OA:オクチルアクリレート
分散媒体:
・PDMS−DG:α,ω−ジグリシジルポリジメチルシロキサン(質量平均分子量(MW):2500);GoldshmidtからTegomer E−SI 2330の名称で販売されている。
・EG:エチレングリコール
ラジカル開始剤:
・ACPA:4,4’−アゾビス(シアノペンタン酸)
・AIBN:2,2’−アゾビスイソブチロニトリル
・AMBN:2,2’−アゾビスメチルブチロニトリル;デュポンからVazo(登録商標)67の名称で販売されている。
・BP:ベンゾイルパーオキサイド
・LP:ラウロイルパーオキサイド
安定化剤:
・PDMS-MA:メタクリル酸末端を含むポリジメチルシロキサン;信越からX22−174 DX(質量平均分子量(MW):4600)の名称で販売されている。
・PDMSgPEO:ポリ(エチレンオキサイド)がグラフトされたポリジメチルシロキサン;GoldshmidtからTegopren 5842の名称で販売されている。
・PMMA−PEO:ポリ(メチルメタクリレート)/ポリ(エチレンオキサイド)ブロック共重合体;GoldschmidtからMEの名称で販売されている。
・PS−PEO:ポリスチレン/ポリ(エチレンオキサイド)ブロック共重合体;GoldschmidtからSEの名称で販売されている。
・PVAL:ポリ(ビニルアセテート)から誘導されたポリ(ビニルアルコール)(加水分解率:88%;分子量:88000);GohsenolからGL 05の名称で販売されている。
希釈剤:
・LA−MG:ラウリルアルコールモノグリシジルエーテル;Huntsman ChemicalsからAraldite(登録商標)DY0391の名称で販売されている。
【0064】
得られた分散体から次の測定を行った。
−ポリマー粒子の平均粒径を、ナノメータで表して、光子相関分光法により、レーザ光の入射ビームで、そして90°の角度の下で散乱光の測定を、Coulter N4 Plus装置(3000nm以下のサイズに対して)とLS 230装置(2×106nm以下のサイズに対して)を用いて測定した。
−粘度を、mPa・sで、25℃で、ロータリー粘度計(Rheomat RM 180)を用いて測定した。
−安定性を、静止状態の下で、分散体の体積の25%が沈下により分離するのに対応する沈降時間を定めることにより測定した(t25、日で表した)。
−ビニルモノマーの重合率を1H−NMRで測定した。
【0065】
表1および表2に、ポリ(ビニルアセテート)分散体が、安定化剤の添加なしで、30日間以上(例6から8)、またポリマーがより低含有量では60日間を超えて(例1から5)、安定であることが見出されている。より高濃度の分散体では、8日間以上の安定を得るには安定化剤の添加が必要である(例30から34)。ビニルモノマーの重合率は90%以上である。
【0066】
ビニルピロリドンポリマーおよびアクリルポリマーの分散体への安定化剤の添加は、サイズの小さい粒子(1μm未満)を得ることを可能にし、また貯蔵の持続時間を増大させることを可能にする(例9および10;例23および24)。
【0067】
ポリマーの溶解度パラメータ(δtp)および分散媒体の溶解度パラメータ(δtm)は、D.W.Van Krevelenによって、著書”Properties of polymers”;Elsevier Science Publisher、1990年、212〜213ページに記載された方法に従って計算される。表1および表2の例についての差分|δtp−δtm|を以下に示した。
【0068】
|δtp−δtm|
例1〜8および30〜32 6.8
例9〜11および25 7.0
例12〜25 5.7
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性有機分散媒体中における、ラジカル開始剤の存在下での少なくとも1種のビニルモノマーの重合の生成物を含むことを特徴とする有機媒体中のポリマー分散体。
【請求項2】
ポリマーの溶解度パラメータ(δtp)と分散媒体の溶解度パラメータ(δtm)との差分が以下の関係:
|δtp−δtm|≧4、好ましくは|δtp−δtm|≧5
を満足することを示すことを特徴とする請求項1記載の分散体。
【請求項3】
ビニルモノマーが以下の式のモノマーから選ばれることを特徴とする請求項1または2記載の分散体であって、
【化1】

ここで、
・Xは、C1〜C18アルキル基、アリール基、好ましくはフェニル基、フェニル基は1つまたはそれ以上のC1〜C4アルキル置換基を含んでいてもよく、好ましくはトリル基、またはC7〜C10アリールアルキル基、好ましくはベンジル基であり、またYは、水素原子またはC1〜C4アルキル基であるか、
・Xは、OR基であり、ここでRはC1〜C18アルキル基またはC5〜C8シクロアルキル基、または以下の式で表される基、
【化2】

ここで、R1およびR2は水素原子、メチル基またはエチル基を表し、R1とR2は異なり、mとnは、これらは同じでも異なっていてもよいが、1、2、3もしくは4、好ましくは3もしくは4であり、zとtは、これらは同じでも異なっていてもよいが、4よりも大きく、z+tは80以下であり、またYは水素原子またはC1〜C4アルキル基を表すか、
・Xは、OCOR1基であり、ここでR1はC1〜C12の、好ましくはC1〜C4の、アルキル基、C5〜C8シクロアルキル基、好ましくはシクロへキシル基、またはアリール基、好ましくはフェニル基であり、またYは水素原子を表し、
・Xは、COOR2基であり、ここでR2はC4〜C20アルキル基、C6〜C20の、好ましくはC4〜C12の、シクロアルキル基、アリール基、好ましくはフェニル基、またはC6〜C20アリールアルキル基、好ましくはベンジル基であり、またYは水素原子またはメチル基を表し、
・Xは、以下の式で表される基であり、
【化3】

また、Yは水素原子を表す、分散体。
【請求項4】
ビニルモノマーが、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ブチルアクリレート、オクチルアクリレート、ラウリルアクリレートおよびN−ビニルピロリドンから選ばれることを特徴とする請求項3記載の分散体。
【請求項5】
有機分散媒体は、以下の少なくとも1つの反応性基を示す化合物から選ばれる:
・末端の位置に少なくとも1つのエポキシ基、好ましくは少なくとも2つのエポキシ基を含むシリコン、例えばグリシジル末端を含むポリ(アルキルシロキサン)、および
・飽和のもしくは不飽和のおよび線状の、分岐したもしくは環状の炭化水素から誘導されるポリオール、
を示す化合物から選ばれることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の分散体。
【請求項6】
分散媒体が以下の式:
【化4】

ここで、nは3から45まで取り得て、好ましくは10から30であり、mは1から20まで取り得る、
のシリコンであることを特徴とする請求項5記載の分散体。
【請求項7】
シリコンが450から4000の範囲の、好ましくは600から3000の範囲の分子量を有することを特徴とする請求項5または6記載の分散体。
【請求項8】
ポリオールが、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールおよびシクロヘキサンジメタノールなどのジオール、グリセロールおよび1,2,4−ブタントリオールなどのトリオール、エリスリトールおよびペンタエリスリトールなどのテトラオール、およびこれらの化合物の混合物から選ばれることを特徴とする請求項5記載の分散体。
【請求項9】
ポリマーが、微細な実質的に球形の粒子の形態であり、40μm未満、好ましくは15μm以下、そしてより好ましくは3μm未満の粒度であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の分散体。
【請求項10】
粒子が、0.05から3μmの範囲の平均粒径を中心にもつ狭い粒度分布を示すことを特徴とする請求項9記載の分散体。
【請求項11】
ポリマーを20から70質量%、好ましくは30から60質量%、そしてより好ましくは40から60質量%含むことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項記載の分散体。
【請求項12】
500000mPa・s未満、好ましくは2000mPa・s未満、そして有利には30から1000mPa・sの範囲の粘度を示すことを特徴とする請求項1から11のいずれか1項記載の分散体。
【請求項13】
以下のものから選ばれる安定剤:
・エチレンオキサイドの共重合体およびプロピレンオキサイドの共重合体などの、アルキレンオキサイド共重合体、
・アルキレンオキサイドと、スチレン、アルキルアクリレートもしくはアルキルメタクリレートなどの少なくとも1つの他の重合可能なモノマーとの共重合体、
・ビニルアルコールポリマー、
・シリコンポリマー、例えばアクリルもしくはメタクリル末端を含むポリ(アルキルシロキサン)、
を更に含むことを特徴とする請求項1から12のいずれか1項記載の分散体。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項記載の分散体の調製方法であって、
a)少なくとも1つのビニルモノマー、1つのラジカル開始剤および1つの反応性有機分散媒体を混合すること、および
b)20℃以上の、そして混合物中で最も低い沸点を有する化合物の沸点よりも低い温度で混合物を反応させること、
からなる段階を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
開始剤が、反応温度において、好ましくは混合物中で最も低い沸点を有する化合物の沸点よりも10℃以上低い温度において、熱的に活性化することが出来ることを特徴とする請求項14記載の分散体の調製方法。
【請求項16】
ラジカル開始剤が、パーオキサイド、ハイドロパーオキサイドおよびアゾ化合物から選ばれることを特徴とする請求項15記載の分散体の調製方法。
【請求項17】
ラジカル開始剤の量が、ビニルモノマーの0.5から6質量%、好ましくは1から4質量%であることを特徴とする請求項14から16のいずれか1項記載の分散体の調製方法。
【請求項18】
ビニルモノマーと分散媒体が、70:30を超えない、好ましくは60:40と30:70の範囲の体積比で用いられることを特徴とする請求項14から17のいずれか1項記載の分散体の調製方法。
【請求項19】
反応温度が、40℃以上、そして好ましくは60℃を超えないことを特徴とする請求項を特徴とする請求項14から18のいずれか1項記載の分散体の調製方法。
【請求項20】
レドックス開始剤が用いられ、また反応温度が40℃を超えず、好ましくは30℃を超えないことを特徴とする請求項14記載の分散体の調製方法。
【請求項21】
安定剤がビニルモノマーの質量の35%以下、好ましくは20%以下の範囲の比率で、段階a)の混合物に添加されることを特徴とする請求項14から20のいずれか1項記載の分散体の調製方法。
【請求項22】
請求項1から13のいずれか1項記載の分散体を含むことを特徴とする、ガラスフィラメントの被覆用のサイジング組成物。
【請求項23】
請求項1から13のいずれか1項記載の分散体を含むことを特徴とする、ガラスストランドまたはガラスストランドの集合体の被覆用の被覆組成物。
【請求項24】
請求項22記載のサイジング組成物で被覆されたガラスフィラメントを含むガラスストランド。
【請求項25】
請求項23記載の被覆組成物で被覆された、ガラスストランドまたは、特にはグリッド(grid)もしくは織物の形態であるガラスストランドの集合体。

【公表番号】特表2008−545830(P2008−545830A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512891(P2008−512891)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【国際出願番号】PCT/FR2006/050478
【国際公開番号】WO2007/003822
【国際公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(501399290)サン−ゴバン ベトロテックス フランス (33)
【Fターム(参考)】