説明

反応性紫外線吸収剤及び硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液、紫外線遮蔽膜並びに該紫外線遮蔽膜が形成された紫外線遮蔽機能を有する基材

【課題】ブリードアウトの少ない常温で硬化可能な新規な反応性紫外線吸収剤及び該反応性紫外線吸収剤を含有した硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液、該塗布液を硬化させてなる密着性に優れ、経時変化の少ない紫外線遮蔽膜、並びに該紫外線遮蔽膜が形成された紫外線遮蔽機能を有する基材を提供する。
【解決手段】ヒドロキシ基とアルコキシシリル基を有するベンゾフェノン誘導体とシリルオキシ基とアルコキシシリル基を有するベンゾフェノン誘導体の混合物からなる反応性紫外線吸収剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な紫外線吸収剤及び該紫外線吸収剤を含有した紫外線遮蔽膜形成用塗布液、紫外線遮蔽膜並びに該紫外線遮蔽膜が形成された紫外線遮蔽機能を有する基材に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光線、蛍光灯、ブラウン管などの光線中で波長が400nm以下の短波長領域の紫外線は、日焼け、しみ、発癌、視力障害など人体への悪影響や、物品に対しても機械的強度の低下、色褪せ等外観の劣化、印刷物の色調の低下なども引き起こす。
【0003】
こうした種々の問題、とりわけ建築物や自動車の窓からの紫外線による内部の劣化、織物などの色褪せ、人体への日焼けなどを防止するため、窓からの紫外線の透過を抑制することが求められている。こうした紫外線遮蔽のために、紫外線吸収剤を練り込んだり、紫外線吸収剤を含有する塗布液を用いて紫外線遮蔽膜を基材上に形成し、紫外線遮蔽機能を持たせたガラス、プラスチック、フィルムなどが使用されている。また、既に使用されている窓や基材に対しても紫外線吸収剤を含有する塗布液を用いて紫外線遮蔽膜を形成し、紫外線遮蔽機能を持たせることが行われている。
【0004】
従来使用されている紫外線吸収剤には、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系などがあるが、これら従来の紫外線吸収剤は単独で塗膜を形成することができず、バインダー成分に添加する添加剤としての用途が主である。また、これらの紫外線吸収剤は長期間使用すると蒸散などが起こり、基材の紫外線遮蔽能が低下する問題があった。このため基材の紫外線遮蔽能を長時間持続させるためには紫外線吸収剤を多量に使用することが必要になるが、多量の紫外線吸収剤を使用すると紫外線吸収剤が表面にしみ出したり(ブリードアウト)、基材に曇りが生じたりするという問題があった。
【0005】
このため、紫外線吸収剤にケイ素を導入することで固定化することが提案されており、ある程度の改善が得られている。とりわけ、耐熱性、耐光性に優れるシリコーン樹脂に組み込めるよう、ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤とアルコキシシランを反応させる試みは多く行われている。
【0006】
例えば、特許第4092522号公報(特許文献1)には、ヒドロキシベンゾフェノンとエポキシ基を有するアルコキシシランをアンモニウム塩触媒存在下に反応させて得られる硬化性紫外線吸収剤が開示されている。また、特開2000−160130号公報(特許文献2)には、テトラヒドロキシベンゾフェノンとイソシアノ基を有するアルコキシシランをスズ触媒存在下に反応させて得られる硬化性紫外線吸収剤が開示されている。前者においてはPh−O−CH2−CH(OH)−、後者においてはPh−O−C(O)−NH−の構造で結合が形成されるため、いずれの場合も最終生成物の親水性が高くなり加水分解を受けやすく、紫外線吸収膜を基材表面に形成しても耐湿耐久密着性が不十分であり、また触媒が最終生成物の中に残存し、保存安定性が非常に悪くなるという欠点を持っていた。
【0007】
また、特開平7−278525号公報,特許第3648280号公報(特許文献3,4)には、ヒドロキシベンゾフェノンをアリルエーテル化してヒドロシランを反応させ、アルコキシシランを1つだけ有する硬化性紫外線吸収剤と、それから得られた紫外線吸収膜が開示されている。しかし、ヒドロキシベンゾフェノンアルキルエーテルアルコキシシランは、非常に大きな置換基を持つアルコキシシランであるため、逆に加水分解を受けにくく、単独での製膜性が非常に悪くなり、密着性も不十分であるという欠点を持っていた。
【0008】
一方、特開昭57−21390号公報(特許文献5)には、ベンゾフェノン骨格にアミド結合を介してアルコキシシリル基を導入した紫外線吸収剤が開示されているが、これを用いた組成物は、基材との密着性が不十分であった。
また、特開昭57−21476号公報(特許文献6)には、本発明のベンゾフェノン誘導体(I−a)を包含し得る紫外線吸収剤が記載されているが、開示されている方法で得られた紫外線吸収剤は、縮合し易いため、高分子化、ゲル化し易いという大きな問題があった。
更に、特開昭58−213075号公報(特許文献7)には、上記特許文献6のゲル化防止のために、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を異種のものとした紫外線吸収剤が開示されているが、製造工程が複雑になるという問題があった。
【0009】
【特許文献1】特許第4092522号公報
【特許文献2】特開2000−160130号公報
【特許文献3】特開平7−278525号公報
【特許文献4】特許第3648280号公報
【特許文献5】特開昭57−21390号公報
【特許文献6】特開昭57−21476号公報
【特許文献7】特開昭58−213075号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ブリードアウトの少ない常温で硬化可能な新規な反応性紫外線吸収剤及び該反応性紫外線吸収剤を含有した硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液、該塗布液を硬化させてなる密着性に優れ、経時変化の少ない紫外線遮蔽膜、並びに該紫外線遮蔽膜が形成された紫外線遮蔽機能を有する基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ヒドロキシ基とアルコキシシリル基を有するベンゾフェノン誘導体とシリルオキシ基とアルコキシシリル基を有するベンゾフェノン誘導体の混合物が、ゲル化し難く、保存安定性に優れると共に、ブリードアウトの少ない常温で硬化可能な反応性紫外線吸収剤となり得ることを見出した。この反応性紫外線吸収剤は、加水分解性のないアルキルエーテル結合でケイ素とベンゾフェノンを結ぶことで、他の基材との結合性に優れ、単独で使用した場合でも、製膜性と密着性に優れた紫外線の吸収膜を簡単に作製することが可能となることを知見した。
更に、該反応性紫外線吸収剤、希釈溶媒及び硬化触媒を含有した硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液は常温で硬化可能であり、該塗布液を硬化させることにより、密着性に優れ、経時変化の少ない硬質な紫外線遮蔽膜が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
即ち、本発明の反応性紫外線吸収剤は、紫外線吸収能を持つベンゾフェノン骨格に対し反応性のアルコキシシリル基を有し、この結合する化学構造が加水分解性に抵抗性があるため、優れた密着性を発現する膜を形成可能な構造を有し、該反応性紫外線吸収剤を含有してなる硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液を基材に塗布、硬化させてなる紫外線遮蔽膜は、紫外線吸収剤のブリードアウトがなく、紫外線吸収能の劣化も少ないものとなり得る。
【0013】
従って、本発明は、下記に示す反応性紫外線吸収剤及び硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液、紫外線遮蔽膜並びに該紫外線遮蔽膜が形成された紫外線遮蔽機能を有する基材を提供する。
〔請求項1〕
下記一般式(I)
【化1】

〔式中、A1はA2〜A10で表されるいずれかの基、A2〜A9は水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、又は下記式(a)
−O−(CH2m+2−SiR11n(OR123-n (a)
(式中、R11,R12は炭素数1〜5のアルキル基を示す。mは1〜5の整数、nは0〜2の整数を示す。)
で示される基であり、A1〜A9の少なくとも1つは式(a)で示される基であり、A10はヒドロキシ基又は下記式(b)
−OSiR11n(OR123-n (b)
(R11,R12,nは上記と同じである。)
で示される基である。〕
において、A10がヒドロキシ基であるベンゾフェノン誘導体(I−a)と、A10が式(b)で示される基であるベンゾフェノン誘導体(I−b)の混合物からなる反応性紫外線吸収剤。
〔請求項2〕
ベンゾフェノン誘導体(I−a)とベンゾフェノン誘導体(I−b)の割合が、質量比として50:50〜99:1である請求項1記載の反応性紫外線吸収剤。
〔請求項3〕
式(a)及び式(b)において、R12が、メチル基又はエチル基である請求項1又は2記載の反応性紫外線吸収剤。
〔請求項4〕
反応性紫外線吸収剤、希釈溶媒、硬化触媒を含有した常温で硬化可能な硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液において、前記反応性紫外線吸収剤の少なくとも一部が請求項1〜3のいずれか1項に記載の反応性紫外線吸収剤であることを特徴とする硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液。
〔請求項5〕
硬化触媒が、チタン化合物又はアルミニウム化合物である請求項4に記載の紫外線遮蔽膜形成用塗布液。
〔請求項6〕
請求項4又は5に記載の紫外線遮蔽膜形成用塗布液を基材に塗布、硬化させてなる紫外線遮蔽膜。
〔請求項7〕
請求項6に記載の紫外線遮蔽膜が形成された紫外線遮蔽機能を有する基材。
【発明の効果】
【0014】
本発明の反応性紫外線吸収剤は保存安定性に優れ、これを用いた硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液は常温で硬化し、紫外線吸収剤のブリードアウトがなく、ガラスやプラスチックとの密着性に優れ、外部からの引っかきや経時で傷や脱離することのない紫外線遮蔽膜を形成できる。これにより、基材に長期間安定な紫外線遮蔽機能を付与することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の反応性紫外線吸収剤は、下記一般式(I)において、A10がヒドロキシ基であるベンゾフェノン誘導体(I−a)と、A10が式(b)で示される基であるベンゾフェノン誘導体(I−b)の混合物からなる。
【0016】
【化2】

〔式中、A1はA2〜A10で表されるいずれかの基、A2〜A9は水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、又は下記式(a)
−O−(CH2m+2−SiR11n(OR123-n (a)
(式中、R11,R12は炭素数1〜5のアルキル基を示す。mは1〜5の整数、nは0〜2の整数を示す。)
で示される基であり、A1〜A9の少なくとも1つは式(a)で示される基であり、A10はヒドロキシ基又は下記式(b)
−OSiR11n(OR123-n (b)
(R11,R12,nは上記と同じである。)
で示される基である。〕
【0017】
上記式中、A1は後述するA2〜A10で表されるいずれかの基である。A2〜A9は、水素原子、ヒドロキシ基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基等の炭素数1〜5のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の炭素数1〜5のアルコキシ基、又は下記式(a)で示される基であり、A1〜A9の少なくとも1つは式(a)で示される基である。
【0018】
−O−(CH2m+2−SiR11n(OR123-n (a)
式(a)中、R11,R12は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基等の炭素数1〜5のアルキル基を示し、R11はメチル基が好ましく、R12はメチル基、エチル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。mは1〜5、好ましくは1〜3の整数、nは0〜2の整数、好ましくは0又は1、特に好ましくは0である。
【0019】
10は、ヒドロキシ基又は下記式(b)で示される基である。
−OSiR11n(OR123-n (b)
式(b)中のR11,R12,nは上記と同じである。
【0020】
これらの中で、A1は水素原子又はA10、即ちヒドロキシ基又は式(b)で示される基が好ましく、A2、A4〜A7、A9は水素原子が好ましく、A3は水素原子、式(a)で示される基が好ましく、A8は式(a)で示される基であることが好ましい。
【0021】
本発明の紫外線吸収剤は、一般式(I)において、A10がヒドロキシ基であるベンゾフェノン誘導体(I−a)と、A10が式(b)で示される基であるベンゾフェノン誘導体(I−b)との混合物である。
ベンゾフェノン誘導体(I−a)は、紫外線吸収剤としては公知の物質であり、これは弱酸性であるヒドロキシ基と酸により容易に加水分解・縮合し、高分子化、ゲル化し易く、保存安定性に問題があるが、A10のヒドロキシ基を−SiR11n(OR123-nでブロックしたベンゾフェノン誘導体(I−b)と共存させることにより、保存安定性が著しく向上し、これを用いた塗布液は安定した硬化被膜が得られる。
【0022】
本発明の紫外線吸収剤において、ベンゾフェノン誘導体(I−a)とベンゾフェノン誘導体(I−b)の割合は、質量比として、50:50〜99:1であることが好ましく、より好ましくは60:40〜98:2、特に80:20〜97:3であることが好ましい。ベンゾフェノン誘導体(I−a)の割合が多すぎると保存安定性が不十分となることがあり、ベンゾフェノン誘導体(I−a)の割合が少なすぎると紫外線吸収性が低下したり、コスト的に不利になることがある。
【0023】
本発明の紫外線吸収剤は、ベンゾフェノン誘導体(I−a)とベンゾフェノン誘導体(I−b)を別々に製造して混合してもよいが、下記方法により製造することが好ましい。
【0024】
下記一般式(II)
【化3】

(式中、R1〜R9は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基等の炭素数1〜5のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の炭素数1〜5のアルコキシ基、又はヒドロキシ基で、R1〜R9の少なくとも1つはヒドロキシ基であり、R10はヒドロキシ基である。)
で表される2つ以上のヒドロキシ基を有するベンゾフェノンと、下記一般式(III)
【化4】

(式中、Xはヨウ素原子、臭素原子又は塩素原子から選ばれるハロゲン原子で、mは1〜5、好ましくは1〜3の整数を示す。)
で表される脂肪族不飽和基含有化合物を反応させて、下記式(c)
−O−(CH2m−CH=CH2 (c)
(式中、mは上記と同じ。)
で表される脂肪族不飽和基を有するベンゾフェノンを合成した後、これに下記一般式(IV)
H−SiR11n(OR123-n (IV)
(式中、R11,R12は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基等の炭素数1〜5のアルキル基を示す。nは0〜2の整数、好ましくは0又は1である。)
で表されるヒドロ基を有するアルコキシシランを、白金触媒の存在下で反応させることにより得られる。
【0025】
本発明の原料である上記一般式(II)で表わされる2つ以上のヒドロキシ基を有するベンゾフェノンは、2つ以上のヒドロキシ基を有するフェノール類と、芳香族カルボン酸類との反応により、ポリヒドロキシベンゾフェノン類として容易に製造することができる(例えば、特開平5−70397号公報参照)。
【0026】
具体的には、R10はヒドロシリル基、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,4,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,3,4−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,3,4,4’−ペンタヒドロキシベンゾフェノン、2,3−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−4’−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−3,4−ジメトキシベンゾフェノン、2,3−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4−メトキシ−2,2’,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、4−ブトキシ−2,2’,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、及び3,4−ジメトキシ−2,2’,4’−トリヒドロキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0027】
上記式(c)で表される脂肪族不飽和基を有するベンゾフェノンは、一般式(II)で表される2つ以上のヒドロキシ基を有するベンゾフェノンのヒドロキシ基と、一般式(III)で表される脂肪族不飽和基含有化合物のハロゲン原子とを反応させることにより、エーテル結合を有するベンゾフェノンとして容易に製造することができる。
【0028】
これは、上記一般式(II)で表される化合物と、アリルクロライドやアリルブロマイド、アリルヨージドのような上記一般式(III)で表される化合物とを、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属アルコキサイド、アルカリ土類金属アルコキサイド、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アミン類のような塩基の存在下に、必要に応じて、ケトン、エステル、エーテル等の反応に不活性な溶媒中で、又は無溶媒で反応させることにより、上記式(c)で表される脂肪族不飽和基を有するベンゾフェノンを容易に合成することができる。反応は、室温〜約200℃の範囲で行い得るが、好ましくは50℃〜150℃で行われる。通常、反応は、120℃程度の加温下の場合、約30分〜10時間程度で完了する。
【0029】
ここで、上記一般式(II)で表される化合物と、上記一般式(III)で表される化合物との反応割合は、一般式(II)で表される化合物中のヒドロキシ基が、一般式(III)で表される化合物中のハロゲン原子に対してモル比で過剰になるように反応させればよい。好ましくは、ヒドロキシ基n個有する一般式(II)で表される化合物1モルに対して一般式(III)で表される化合物中のハロゲン原子(通常1個)を(n−1)モル以上((n−1)+0.5)モル以下、特に(n−1)モル以上((n−1)×1.1)モル以下とすることが好ましい。例えば、一般式(II)で表される化合物が2個のヒドロキシ基を有する場合、一般式(III)で表される化合物は、一般式(II)で表される化合物1モルに対して1〜1.5モル、特に1〜1.1モル、一般式(II)で表される化合物が3個のヒドロキシ基を有する場合、一般式(III)で表される化合物は、一般式(II)で表される化合物1モルに対して2〜2.5モル、特に2〜2.2モルとすることが好ましい。
【0030】
得られる反応物(式(c)で表される脂肪族不飽和基を有するベンゾフェノン)は、一般式(I)において、式(a)で表される基が式(c)で表される基に置き換わったものである。
【0031】
次に、得られた式(c)で表される脂肪族不飽和基を有するベンゾフェノンの脂肪族不飽和基と、上記一般式(IV)で表されるヒドロ基を有するアルコキシシランのヒドロシリル基とを、塩化白金酸あるいはシロキサン系の触媒の存在下に、必要に応じて、トルエン、テトラヒドロフラン等の反応に不活性な溶媒中で、又は無溶媒で反応させることにより、本発明の紫外線吸収剤を容易に合成することができる。
【0032】
上記一般式(IV)で表されるヒドロ基を有するアルコキシシランは、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等を1〜3個有するヒドロシラン化合物であり、具体的には、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、トリブトキシシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシメチルシラン、ジプロポキシメチルシラン、ジブトキシメチルシラン等が例示でき、トリメトキシシラン、トリエトキシシランが好ましい。
【0033】
上記反応は、室温〜約200℃の範囲で行い得るが、好ましくは約30℃〜約100℃で行われる。トリメトキシシランを用いる場合、反応は、常温〜60℃程度の加温下で約30分〜2時間程度で完了する。
【0034】
ここで、上記式(c)で表される脂肪族不飽和基を有するベンゾフェノンと、上記一般式(IV)で表されるアルコキシシランとの反応割合は、上記式(c)で表される脂肪族不飽和基を有するベンゾフェノンの脂肪族不飽和基1モルに対して、上記一般式(IV)で表されるアルコキシシランが過剰となるように反応させればよく、好ましくは1.01〜2モル、特に好ましくは1.1〜1.5モルである。この範囲で反応させることにより、上記式(c)で表される脂肪族不飽和基を有するベンゾフェノン中に存在するヒドロキシ基の一部又は全部と式(IV)で表されるアルコキシシランが反応して式(b)で示される基が生成され、これにより上記ベンゾフェノン誘導体(I−a)とベンゾフェノン誘導体(I−b)の望ましい比率の混合物を得ることができる。
【0035】
次に、本発明の第二の態様である硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液は、反応性紫外線吸収剤、希釈溶媒、硬化触媒を含有してなるものであり、該反応性紫外線吸収剤の少なくとも一部又は全部として上記反応性紫外線吸収剤を配合してなるものである。該硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液は、常温で硬化可能なものであり、シリコーンハードコート又はトップコートとして定義されるコーティング組成物として使用することができる。
【0036】
本発明の硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液は、反応性紫外線吸収剤として、上記反応性紫外線吸収剤を少なくとも含有するものであるが、その硬化は反応性紫外線吸収剤のアルコキシシリル基の加水分解と、それに続くシラノールの縮合重合による高分子化によって起こり、他のバインダー成分は必ずしも必須ではなく、該反応性紫外線吸収剤のみで硬化膜を形成し、このように紫外線吸収剤自体が重合して形成した塗膜は、堅牢であって、紫外線吸収剤のブリードアウトはない。また、使用目的により、その用途のコーティング剤に使用されているバインダー成分を配合してもよい。
【0037】
硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液に使用する反応性紫外線吸収剤としては、上述した反応性紫外線吸収剤を単独で使用してもよいが、他の紫外線吸収剤と併用してもよい。併用する紫外線吸収剤としては特に限定されないが、例えば、ZnO、CeO2、TiO2などの無機紫外線吸収剤を用いることができる。
なお、他の紫外線吸収剤と併用する場合、本発明の上記反応性紫外線吸収剤の使用量は、反応性紫外線吸収剤中30〜100質量%、特に50〜100質量%の範囲で用いることが好ましい。本発明の上記反応性紫外線吸収剤の使用量が少なすぎると紫外線吸収性能に優れた硬化被膜の形成が行われない場合がある。
【0038】
また、硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液中の反応性紫外線吸収剤の含有量は、通常の使用においては5〜60質量%であることが望ましい。含有量が5質量%未満であると塗布硬化して得られる紫外線遮蔽膜の紫外線遮蔽能が低くなる場合があり、60質量%を超えるとその他の固形分を添加しない場合でも塗布液の粘度が上昇し、塗布性が悪化するおそれがある。
なお、本発明の上記反応性紫外線吸収剤以外の紫外線吸収剤を併用する場合は、塗布液中の反応性紫外線吸収剤濃度はこれより低くてもよく、1〜12質量%、特に1〜6質量%の添加濃度で十分実用性のある硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液が得られる。
【0039】
また、この反応性紫外線吸収剤には湿気硬化性があり、常温での硬化速度を実用的なものとするために、硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液に硬化触媒を添加する。硬化触媒としては、塩酸、硫酸、パラトルエンスルホン酸のような酸、トリエチルアミン、トリブチルアミン、テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイドのような塩基、ジブチルスズオクテート、アルミニウムアセチルアセトネート、チタンテトラブトキサイドのようなスズ化合物やアルミニウム化合物、チタン化合物のような金属化合物を触媒としていずれを用いてもよいが、中でもチタン化合物、アルミニウム化合物が好ましく、とりわけチタンテトラブトキサイドやアルミニウムアセチルアセトネートが好ましい。
【0040】
硬化触媒の使用量は触媒量でよいが、好ましくは本発明の紫外線吸収剤100質量部に対して0.01〜10質量部、特に0.1〜5質量部であることが好ましい。硬化触媒の添加量が少なすぎると硬化が不十分となることがあり、多すぎると塗布液がゲル化し易くなることがある。
【0041】
硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液中の希釈溶媒は特に限定されるものではなく、塗布条件や塗布環境、塗布液中の固形分の種類に合わせて選択可能であり、例えば、メタノール、エタノール、イソブチルアルコール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール類、酢酸メチルや酢酸エチル等のエステル類、メチルエチルケトンやシクロヘキサノン等のケトン類など各種溶媒が使用可能である。また用途によって1種又は2種以上の溶媒を組み合わせて使用したり、ダイアセトンアルコールのようなケトンとアルコールを一分子内に有する化合物でもよい。特に、基板としてポリカーボネート樹脂を用いる場合、基板を侵さず、反応性紫外線吸収剤をよく溶解させる溶剤として、ダイアセトンアルコールが好ましい。
希釈溶媒の使用量は、他のバインダー樹脂を用いない場合は、本発明の紫外線吸収剤100質量部に対して100〜2,000質量部、特に200〜1,000質量部であることが好ましい。他のバインダー樹脂を用いる場合は、塗布液中の固形分濃度が5〜50質量%となる量とすることが好ましい。
【0042】
また、硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液中の反応性紫外線吸収剤以外の固形分として、コロイダルシリカ、Al23、TiO2、ZrO2等の無機超微粒子、種々のシランカップリング剤等を1種又は2種以上添加してもよい。これによって塗布液の塗布性の改良、塗布膜の硬度の改良、基材への密着力の改良などがなされる。
反応性紫外線吸収剤以外の固形分量としては、硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液中0〜50質量%、特に1〜30質量%とすることが好ましい。
【0043】
本発明の硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液は、上記各成分を常法に準じて混合することにより調製できる。
このようにして得られた本発明の硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液を、ガラス、プラスチック、フィルムなどの基材に塗布し、常温で硬化させることによって基材上に長期間安定な紫外線遮蔽能を持つ紫外線遮蔽膜を形成することができる(本発明の第三の態様)。
【0044】
本発明の第四の態様では、上記の硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液を、シリコーンハードコート又はUV硬化性コーティングとして固体基材の表面に塗布することにより、耐摩耗性及び耐紫外線性の改善された被覆固体基材を与える。かかる被覆固体基材は、往々にして耐候性基材と呼ばれる。
【0045】
本発明において、使用し得る固体基材には、ポリカーボネート、ポリ(メタクリル酸メチル)をはじめとするアクリル系ポリマー類、ポリ(エチレンテレフタレート)やポリ(ブチレンテレフタレート)のようなポリエステル類、ポリアミド類、ポリイミド類、アクリロニトリル−スチレン共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリスチレンとポリフェニレンエーテルのブレンド、ブチレート、ポリエチレンなどのポリマー基材が含まれる。熱可塑性プラスチック基材は、顔料を含んでいても含んでいなくてもよい。更に、固体基材には、金属基材、ガラス、セラミック及びテキスタイルも包含される。また、これら基材を各種塗料で塗装した面でもよい。
【0046】
硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液の塗布方法は、特に限定されるものではなく、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、布や刷毛による方法等、処理液を平坦にかつ薄く均一に塗布できる方法であればいかなる方法でもよい。基材上に形成された紫外線遮蔽膜は基材に長期間安定な紫外線遮蔽機能を付与すると共に、基材そのものの紫外線による劣化を抑制する。このようにして紫外線遮蔽膜が形成された基材は長期間安定な紫外線遮蔽機能を有する。
【0047】
また、上記固体基材に塗布される硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液のコーティングの厚さに関しては何ら制限はなく、使用目的や使用用途により適宜選択すればよいが、0.5〜50μmの厚さである場合が多く、好ましくは1〜15μmの厚さである。
【実施例】
【0048】
以下、合成例、調製例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0049】
以下にまず、反応性紫外線吸収剤の合成例を示す。
なお、4−アリロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノンについては、アルドリッチ社より入手した。
【0050】
[合成例1]アリル化紫外線吸収剤の調製
温度計、加熱還流装置の付いたフラスコに、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン100g(0.406mol)とメチルイソブチルケトン(MIBKと略記)500gを入れ、撹拌することで溶解させた。これに、アリルブロマイド100g(0.82mol)と無水炭酸カリウム138g(1mol)を加え、激しく撹拌しながら、外部からオイルバスにより110℃で5時間加熱した。
生成した臭化カリウムの塩を濾過により除いた。この反応溶液は、減圧ストリップにより溶媒MIBKを除いたところ、約100gの2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアリロキシベンゾフェノンの赤色高粘度オイルを得た。これに、メタノールを加えて結晶化させた後、濾過することで88.6g(0.272mol)の黄色固体の2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアリロキシベンゾフェノンを得た(収率67%、融点95℃)。
【0051】
[合成例2]シリル化紫外線吸収剤(1)の調製
2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアリロキシベンゾフェノン32.6g(0.1mol)を70mlのトルエン中に懸濁した。これに白金触媒PL50−T(信越化学工業(株)製)を2滴加え、温度を65℃に上げて29.3g(0.24mol)のトリメトキシシランを加えた。
温度を約65〜85℃に約1〜2時間保ち、しかる後に反応混合物を冷却し、ワコーゲルC−100の5gを加え、白金触媒を吸着させた後、濾過し、溶剤を減圧ストリップにより除き、赤色のオイル状物51.9g(0.091mol)を得た。主生成物のNMRスペクトルは、2,2’−置換−4,4’−ビス(トリメトキシシリルプロポキシ)ベンゾフェノンの構造と一致した(収率91%)。組成質量比は、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ビス(トリメトキシシリルプロポキシ)ベンゾフェノン:2−ヒドロキシ−2’−トリメトキシシリルオキシ−4,4’−ビス(トリメトキシシリルプロポキシ)ベンゾフェノン:2,2’−ビス(トリメトキシシリルオキシ)−4,4’−ビス(トリメトキシシリルプロポキシ)ベンゾフェノン=71:11:17の混合物であった。このシランを、UVsilane(1)と略記する。
【0052】
[合成例3]シリル化紫外線吸収剤(2)の調製
4−アリロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン25.4g(0.1mol)を70mlのトルエン中に懸濁した。これに白金触媒PL50−T(信越化学工業(株)製)を2滴加え、温度を65℃に上げて31.7g(0.26mol)のトリメトキシシランを加えた。
温度を約65〜85℃に約1〜2時間保ち、しかる後に反応混合物を冷却し、ワコーゲルC−100の5gを加え、白金触媒を吸着させた後、濾過し、溶剤を減圧ストリップにより除き、黄色のオイル状物34.8g(0.092mol)を得た。主生成物のNMRスペクトルは、2−置換−4−トリメトキシシリルプロポキシベンゾフェノンの構造と一致した(収率92%)。組成質量比は、2−ヒドロキシ−4−トリメトキシシリルプロポキシベンゾフェノン:2−トリメトキシシリルオキシ−4−トリメトキシシリルプロポキシベンゾフェノン=90:10の混合物であった。このシランを、UVsilane(2)と略記する。
【0053】
[比較合成例1]シリル化紫外線吸収剤(3)の調製
4−アリロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン25.4g(0.1mol)を70mlのトルエン中に懸濁した。これに白金触媒PL50−T(信越化学工業(株)製)を2滴加え、温度を40℃に上げて24.4g(0.2mol)のトリメトキシシランを加えた。
温度を約35〜45℃に約1〜2時間保ち、しかる後に反応混合物を冷却し、ワコーゲルC−100の5gを加え、白金触媒を吸着させた後、濾過し、溶剤を減圧ストリップにより除き、橙色のオイル状物23.4g(0.062mol)を得た。主生成物のNMRスペクトルは、一部未反応の原料を含む2−ヒドロキシ−4−トリメトキシシリルプロポキシベンゾフェノンの構造と一致した(収率62%)。このシランを、UVsilane(3)と略記する。
【0054】
これらのシリル化紫外線吸収剤のUV吸収スペクトル極大波長(0.01質量%THF溶液)を測定し、表1に示した。分子内にフェノール性水酸基を多く持つものは、近赤外領域により大きな吸収を持つことがわかる。
【0055】
【表1】

【0056】
以下に、反応性紫外線吸収剤を用いた塗布液の実施例を示す。
[調製例1]
10gの反応性紫外線吸収剤UVsilane(1)と90gのメチルエチルケトン(MEK)を混合撹拌し、均一に溶解した。更に、硬化触媒としてアルミニウムアセチルアセトネート0.2gを加えて混合撹拌し、硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液(1−M−Alと略記)を得た。
【0057】
[調製例2]
10gの反応性紫外線吸収剤UVsilane(1)と90gのメチルエチルケトン(MEK)を混合撹拌し、均一に溶解した。更に、硬化触媒としてテトラブトキシチタネート0.2gを加えて混合撹拌し、硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液(1−M−Tiと略記)を得た。
【0058】
[比較調製例1]
10gの反応性紫外線吸収剤UVsilane(3)と90gのメチルエチルケトン(MEK)を混合撹拌し、均一に溶解した。更に、硬化触媒としてアルミニウムアセチルアセトネート0.2gを加えて混合撹拌し、硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液(3−M−Alと略記)を得た。
【0059】
[比較調製例2]
10gの反応性紫外線吸収剤UVsilane(3)と90gのメチルエチルケトン(MEK)を混合撹拌し、均一に溶解した。更に、硬化触媒としてテトラブトキシチタネート0.2gを加えて混合撹拌し、硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液(3−M−Tiと略記)を得た。
【0060】
[調製例3]
10gの反応性紫外線吸収剤UVsilane(2)と90gのメチルエチルケトン(MEK)を混合撹拌し、均一に溶解した。更に、硬化触媒としてアルミニウムアセチルアセトネート0.2gを加えて混合撹拌し、硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液(2−M−Alと略記)を得た。
【0061】
[調製例4]
10gの反応性紫外線吸収剤UVsilane(2)と90gのメチルエチルケトン(MEK)を混合撹拌し、均一に溶解した。更に、硬化触媒としてテトラブトキシチタネート0.2gを加えて混合撹拌し、硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液(2−M−Tiと略記)を得た。
【0062】
上記調製例で得られた塗布液の組成及び溶液物性の結果を表2に示した。なお、塗布液の物性(外観、屈折率、粘度、不揮発分)は下記方法により評価した。
《外観》
塗布液を透明なガラス瓶に入れ、色、容態等を目視にて観察した。
《屈折率》
屈折率計RX−7000α(アタゴ社製)を用いて、25℃での屈折率を測定した。
《粘度》
細管式動粘度計(柴田科学社製)を用いて、25℃の粘度を測定した。
《不揮発分》
アルミシャーレに試料を入れ、105℃のオーブンに3時間保管した後の質量減少率から計算した。
【0063】
[実施例1〜4、比較例1,2]
調製例で得られた硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液を3mmのソーダライム系ガラス基板上にかけ流すことで全面に塗布し、常温(25℃)で1日硬化して紫外線遮蔽膜を得た。
【0064】
得られた紫外線遮蔽膜の外観、膜厚、表面状態、UVカット波長、密着性、硬さを下記方法により測定し、これら膜物性の結果を表2に記した。
《外観》
ガラス基板表面に形成された膜を目視により観察した。
《膜厚》
膜厚は、ミツトヨ製マイクロメータで測定した。
《表面状態》
ガラス基板表面に形成された膜を指で触り、べとつき感がないものを良好、指で押した後が残り、べとつき感があるものをタックありとした。
《UVカット波長》
(株)日立製作所製Spectrophotometer U−3310で測定した。
紫外線遮蔽膜の透過率を(株)日立製作所製の分光光度計を用いて測定し、紫外線透過を遮蔽するカットオフを算出した。なお、ガラス基板のUVカット波長は、280nmである。
《密着性》
1cm×1cmの領域に6本×6本の25個の碁盤目状に切れ込みを入れ、セロハンテープ(日東電工社製)で剥離試験を行い、全く剥がれないものを良好又は100%とし、剥がれたものは、剥がれない部分の面積%を記載した。
《硬さ》
塗布硬化してから1日後に膜表面の観察を行い、爪で膜に傷が付くかどうかを調べ、下記基準で評価した。
○:膜が爪で全く傷が付かない、×:膜が爪で傷が付く、NG:測定できず
【0065】
UVsilane(3)を含む塗布液からは、Al触媒であってもTi触媒であっても良好な膜が得られないのに対し、UVsilane(1)あるいは(2)を含む塗布液からは、とりわけアルミニウム触媒を用いた場合に、良好な膜が得られた。
【0066】
【表2】

【0067】
[UVsilane]
UVsilane(1):合成例2で得られたシリル化紫外線吸収剤
UVsilane(2):合成例3で得られたシリル化紫外線吸収剤
UVsilane(3):比較合成例1で得られたシリル化紫外線吸収剤
[溶剤]
MEK:メチルエチルケトン
[触媒]
Al:Al(acac)3
Ti:テトラブトキシチタネート
【0068】
[調製例5]
10gの反応性紫外線吸収剤UVsilane(1)と90gのダイアセトンアルコール(DAA)を混合撹拌し、均一に溶解した。更に、硬化触媒としてテトラブトキシチタネート0.2gを加えて混合撹拌し、硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液(1−D−Tiと略記)を得た。
【0069】
[調製例6]
10gの反応性紫外線吸収剤UVsilane(2)と90gのダイアセトンアルコール(DAA)を混合撹拌し、均一に溶解した。更に、硬化触媒としてテトラブトキシチタネート0.2gを加えて混合撹拌し、硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液(2−D−Tiと略記)を得た。
【0070】
[比較調製例3]
10gの反応性紫外線吸収剤UVsilane(3)と90gのダイアセトンアルコール(DAA)を混合撹拌し、均一に溶解した。更に、硬化触媒としてテトラブトキシチタネート0.2gを加えて混合撹拌し、硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液(3−D−Tiと略記)を得た。
【0071】
上記調製例で得られた塗布液の組成及び溶液物性の結果を表3に示した。なお、塗布液の物性(外観、粘度、不揮発分)は上述した方法により評価した。
【0072】
[実施例5,6、比較例3]
調製例で得られた硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液を0.5mmのポリカーボネート基板(三菱エンジニアリングプラスチック社製、ユーピロンシートNF2000 0.5mm クリヤ)上にかけ流すことにより全面に塗布し、105℃で1時間硬化して紫外線遮蔽膜を得た。
【0073】
得られた紫外線遮蔽膜の外観、膜厚、硬さ、密着性、煮沸密着性を下記方法により測定し、これら膜物性の結果を表3に記した。
《外観》
ポリカーボネート基板上に形成された膜の状態を目視にて観察した。
《膜厚》
膜厚は、Filmetrics社製Thin film analyzer F20で測定した。
《硬さ》
硬化後、室温まで放冷した後に、爪で膜に傷が付くかどうかを調べ、下記基準で評価した。
○:膜が爪で全く傷が付かない、 △:膜が爪でほんのわずか傷が付く、
×:膜が爪で傷が付く、 NG:測定できず
《密着性》
碁盤目テープ密着試験により測定した。カッターで碁盤目状の傷を付け、テープにより密着性を調べた。
《煮沸密着性》
この膜を100℃の煮沸水中で2時間浸漬処理を行い、上記と同様にして碁盤目密着試験を行い、耐久性を調べた。
【0074】
UVsilane(3)を含む塗布液からは、硬度も不十分で初期の密着性が得られず良好な膜が得られないのに対し、UVsilane(2)を含む塗布液からは、硬度、初期の密着性の項目において、良好な膜が得られた。更に、UVsilane(1)を含む塗布液からは、煮沸密着性においても優れた特性を示し、密着耐久性の項目において、良好な膜が得られた。
【0075】
【表3】

【0076】
[UVsilane]
UVsilane(1):合成例2で得られたシリル化紫外線吸収剤
UVsilane(2):合成例3で得られたシリル化紫外線吸収剤
UVsilane(3):比較合成例1で得られたシリル化紫外線吸収剤
[溶剤]
DAA:ダイアセトンアルコール
[触媒]
Ti:テトラブトキシチタネート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

〔式中、A1はA2〜A10で表されるいずれかの基、A2〜A9は水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、又は下記式(a)
−O−(CH2m+2−SiR11n(OR123-n (a)
(式中、R11,R12は炭素数1〜5のアルキル基を示す。mは1〜5の整数、nは0〜2の整数を示す。)
で示される基であり、A1〜A9の少なくとも1つは式(a)で示される基であり、A10はヒドロキシ基又は下記式(b)
−OSiR11n(OR123-n (b)
(R11,R12,nは上記と同じである。)
で示される基である。〕
において、A10がヒドロキシ基であるベンゾフェノン誘導体(I−a)と、A10が式(b)で示される基であるベンゾフェノン誘導体(I−b)の混合物からなる反応性紫外線吸収剤。
【請求項2】
ベンゾフェノン誘導体(I−a)とベンゾフェノン誘導体(I−b)の割合が、質量比として50:50〜99:1である請求項1記載の反応性紫外線吸収剤。
【請求項3】
式(a)及び式(b)において、R12が、メチル基又はエチル基である請求項1又は2記載の反応性紫外線吸収剤。
【請求項4】
反応性紫外線吸収剤、希釈溶媒、硬化触媒を含有した常温で硬化可能な硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液において、前記反応性紫外線吸収剤の少なくとも一部が請求項1〜3のいずれか1項に記載の反応性紫外線吸収剤であることを特徴とする硬化性紫外線遮蔽膜形成用塗布液。
【請求項5】
硬化触媒が、チタン化合物又はアルミニウム化合物である請求項4に記載の紫外線遮蔽膜形成用塗布液。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の紫外線遮蔽膜形成用塗布液を基材に塗布、硬化させてなる紫外線遮蔽膜。
【請求項7】
請求項6に記載の紫外線遮蔽膜が形成された紫外線遮蔽機能を有する基材。

【公開番号】特開2010−111715(P2010−111715A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283039(P2008−283039)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】