説明

反応性非イオン界面活性剤及びマイクロカプセル組成物

【課題】 乳化粒子の安定性に優れた乳化物を形成することのできる反応性非イオン界面活性剤、さらには煩雑な操作を行なうことなく、容易に調製することのできるマイクロカプセル組成物を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で示される反応性非イオン界面活性剤。
−Si−(OR(OR4−(m+n) (1)
(式中、Rは炭素数1〜20の炭化水素基、Rは多価アルコール残基、Rは1価アルコール残基、nは1又は2、mは1〜3、2≦m+n≦4であり、Rにおける炭素数の和は8〜36である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は反応性非イオン界面活性剤、特に乳化物における乳化粒子の安定性向上、さらにはマイクロカプセルにおける製造方法の簡易化に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乳化に関する研究が数多く行なわれており、現在までに非常に多くの乳化剤が開発、報告されている。通常、使用される乳化剤の種類は、その目的に応じて適宜選択されるものであるが、特に化粧品として用いる場合には、人体への刺激性の点から、非イオン性界面活性剤が好適に用いられている。
【0003】
乳化剤としては、通常、経時や高温による乳化粒子の合一やクリーミング等を抑える、所謂乳化安定性の向上が所望されているものの、必ずしも満足のいくものが得られていないのが現状である。このため、従来の乳化化粧料においては、例えば、高級アルコール等の乳化安定化剤を別途配合することで、乳化界面膜の強化を図り、乳化安定性を高めることが広く行なわれている。
【0004】
また、例えば、高分子や固体油分を用いて乳化物の界面膜を固体化し、内相成分を安定化するマイクロカプセル化技術も多数報告されている(例えば、特許文献1参照)が、これらは製法が非常に煩雑であり、温度や共存成分に対する乳化膜の安定性も十分なものとは言えなかった。また、テトラエトキシシラン等のシランカップリング剤を用いて、乳化物の界面膜上にシリカ固体膜を形成する方法も知られている(例えば、特許文献2参照)ものの、これらのシランカップリング剤は水不溶性であることから製法がかなり限定されてしまい、さらには乳化剤を別途添加する必要があるため、使用する乳化剤の種類によってはシリカ膜の形成が困難であるという問題があった。
【0005】
一方で、例えば、アルキルトリエトキシシランをポリエチレングリコールで置換した水溶性界面活性物質を用いた繊維の撥水処理剤に関する方法(例えば、特許文献3参照)も知られているものの、これは処理剤に作用させた繊維を100〜150℃の加熱処理でポリエチレングリコール残基の加水分解とシリカの縮合を行うものであって、乳化物の安定化及びマイクロカプセルにおける製造方法の簡易化に関するものではない。
【0006】
【特許文献1】特開2001−97818号公報
【特許文献2】特開2001−38193号公報
【特許文献3】米国特許2476307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術の課題に鑑みて行なわれたものであり、その目的は、乳化粒子の安定性に優れた乳化物を形成することのできる反応性非イオン界面活性剤、さらには煩雑な操作を行なうことなく、容易に調製することのできるマイクロカプセル組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記従来技術の課題に鑑み、本発明者らが鋭意検討を行なった結果、アルコキシシランと多価アルコールとの置換反応により得られた水溶性のシラン誘導体を反応性非イオン界面活性剤として用いることにより、乳化粒子の安定性が非常に優れた乳化物を形成することができることを見出した。さらに、この水溶性のシラン誘導体は、界面活性能を有するとともに、自身の加水分解・脱水縮合反応によりシリカネットワーク構造を形成するため、乳化物の界面膜上をシリカによって固体化したマイクロカプセル組成物を容易に調製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明にかかる反応性非イオン界面活性剤は、下記一般式(1)で示されるものである。
−Si−(OR(OR4−(m+n) (1)
(式中、Rは炭素数1〜20の炭化水素基、Rは多価アルコール残基、Rは1価アルコール残基、nは1又は2、mは1〜3、2≦m+n≦4であり、Rにおける炭素数の和は8〜36である。)
【0010】
また、前記反応性非イオン界面活性剤において、下記数式(1)により示されるHLB値が3.0〜20.0であることが好適である。
HLB=(Σ無機性値/Σ有機性値)×10 (1)
また、前記反応性非イオン界面活性剤において、前記Rが下記一般式(2)で示される官能基であることが好適である。
−(R(OH)−O)−H (2)
(式中、Rは炭素数1〜6の炭化水素基、xは0〜5、yは1〜30である。)
【0011】
また、前記反応性非イオン界面活性剤において、前記Rがエチレングリコール残基、プロピレングリコール残基、グリセリン残基、ブチレングリコール残基、ヘキサンジオール残基、ジエチレングリコール残基、ジプロピレングリコール残基、ジグリセリン残基、ジブチレングリコール残基、ジヘキサンジオール残基のいずれかであることが好適である。
【0012】
また、本発明にかかる乳化組成物は、前記反応性非イオン界面活性剤を含有することを特徴とするものである。
また、本発明にかかるマイクロカプセル組成物は、前記反応性非イオン界面活性剤を含有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる反応性非イオン界面活性剤によれば、乳化粒子の安定性に優れた乳化物を形成することができる。さらに、本発明にかかる反応性非イオン界面活性剤によれば、煩雑な操作を行なうことなく、容易にマイクロカプセルを調製することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明にかかる反応性非イオン界面活性剤は、下記一般式(1)で示されることを特徴とするものである
−Si−(OR(OR4−(m+n) (1)
(式中、Rは炭素数1〜20の炭化水素基、Rは多価アルコール残基、Rは1価アルコール残基、nは1又は2、mは1〜3、2≦m+n≦4であり、Rにおける炭素数の和は8〜36である。)
【0015】
本発明にかかる反応性非イオン界面活性剤において、上記一般式(1)におけるRは、炭素数1〜20の炭化水素基であればよく、特に限定されるものではない。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基等が挙げられ、これらは直鎖状、分岐状いずれのものでもよい。また、これらの炭化水素基の一部が塩素原子、フッ素原子、アミノ基、メルカプト基等により置換されていてもよく、さらにカルボニル基、エポキシ基等の官能基を有していてもよい。なお、本発明にかかる反応性非イオン界面活性剤は、通常、炭化水素基を含有するアルコキシシランと多価アルコールとの置換反応により調製することができ、Rは、使用する炭化水素基含有アルコキシシランによって異なる。また、ケイ素原子上に結合するRの数を表すnは、1又は2である。nが2である場合、Rは同一であっても異なっていてもよい。なお、上記一般式(1)において、Rにおける炭素数の和は8〜36である。すなわち、nが1である場合には、Rは炭素数8〜20であり、nが2である場合、すなわち1分子中にRが2つ存在する場合には、2つのRにおける炭素数の和が8〜36となるように調整する必要がある。炭素数の和が7以下であると、界面活性能が不十分である場合があり、炭素数の和が37以上であると、水への溶解性に劣る場合がある。
【0016】
上記一般式(1)におけるRとしては、例えば、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等のシクロアルキル基、ヘキセニル基、フェニル基、トリル基、ベンジル基、スチリル基、トリデカクロロヘキシル基、トリデカフルオロヘキシル基、アミノヘキシル基、アミノオクチル基、メルカプトオクチル基、メタクリロキシプロピル基等が挙げられる。また、nが2である場合、Rにおける炭素数の和は8〜36の範囲であればよく、例えば、2つのヘキシル基、あるいはドデシル基とメチル基、オレイル基とデシル基等の組み合わせであってもよい。
【0017】
本発明にかかる反応性非イオン界面活性剤において、上記一般式(1)におけるRは、多価アルコールの残基であり、多価アルコールにおける1つの水酸基が除かれた形として示される。Rとしては、縮合度2以下の多価アルコールであることが好ましい。なお、本発明にかかる反応性非イオン界面活性剤は、通常、炭化水素基を含有するアルコキシシランと多価アルコールとの置換反応により調製することができ、Rは、使用する多価アルコールの種類によって異なる。例えば、多価アルコールとしてエチレングリコールを用いた場合、Rは、−CH−CH−OHとなる。本発明にかかる反応性非イオン性界面活性剤において、ケイ素原子上に結合する−ORの数を表すmは1から3である。mが2以上である場合、Rは同一であっても異なっていてもよい。また、上記一般式(1)において、1≦m+n≦4である。
【0018】
なお、上記一般式(1)におけるRは、下記一般式(2)で示される官能基であることが好適である。
−(R(OH)−O)−H (2)
(式中、Rは炭素数1〜6の炭化水素基、xは0〜5、yは1〜30である。)
ここで、前記したように、上記一般式(1)におけるRは、使用する多価アルコールの種類によって異なるものである。すなわち、本発明にかかる反応性非イオン界面活性剤を製造するに当たって、使用する多価アルコールの種類が、炭素数1〜6の炭化水素基及びOH基が1から6の多価アルコールであるか、あるいはその縮合体(縮合数は2から30)であることが好適である。
【0019】
上記一般式(1)におけるRとしては、例えば、エチレングリコール残基、ジエチレングリコール残基、プロピレングリコール残基、ジプロピレングリコール残基、ブチレングリコール残基、ヘキシレングリコール残基、グリセリン残基、ジグリセリン残基、ネオペンチルグリコール残基、トリメチロールプロパン残基、ペンタエリスリトール残基、マルチトール残基等が挙げられる。これらのうち、乳化あるいはカプセル化の観点から、Rがエチレングリコール残基、プロピレングリコール残基、グリセリン残基、ブチレングリコール残基、ヘキサンジオール残基、ジエチレングリコール残基、ジプロピレングリコール残基、ジグリセリン残基、ジブチレングリコール残基、ジヘキサンジオール残基のいずれかであることが好ましい。
【0020】
本発明にかかる反応性非イオン界面活性剤において、上記一般式(1)におけるRは、1価アルコールの残基であり、1価アルコールにおける水酸基が除かれた形、すなわち一般的な炭化水素基として示される。なお、本発明にかかる反応性非イオン界面活性剤は、通常、炭化水素基を含有するハロゲン化シランあるいはアルコキシシランと多価アルコールとの置換反応により調製するものであるが、部分的に多価アルコールが置換され、一部1価アルコール残基が残った化合物が生成する場合がある。すなわち、上記一般式(1)におけるRは、原料アルコキシシランにおけるアルコキシ基、あるいは原料ハロゲン化シランのハロゲン基が溶媒として用いられる1価アルコールにより置換され生成したアルコキシ基に由来するものである。本発明にかかる反応性非イオン界面活性剤において、ケイ素原子上に結合する−ORの数は、4−(m+n)で表される。ここで、−ORで示される1価アルコール残基は、本発明において必須の官能基ではなく、例えば、上記一般式(1)において、m+nが4となる場合には、化合物中に−ORが存在していなくとも構わない。
【0021】
上記一般式(1)におけるRとしては、例えば、メタノール残基、エタノール残基、プロパノール残基、ブタノール残基等が挙げられる。
【0022】
本発明にかかる反応性非イオン界面活性剤としては、より具体的には、C17−Si−(O−CH−CH−OH)、C17−Si−(O−CH−CH−CH(OH)−CH、C1021−Si−(O−CH−CH−OH)、C1225−Si−(O−CH−CH−CH(OH)−CH、C1225−(CH−)Si−(O−CH−CH−OH)等が挙げられる。
【0023】
本発明にかかる反応性非イオン界面活性剤は、例えば、炭素数1〜20の炭化水素基を含有する炭化水素基含有アルコキシシランと、多価アルコールとを、固体触媒の共存下で反応させることによって調製することができる。なお、炭化水素基含有アルコキシシランと多価アルコールとの置換反応において、塩酸やp−トルエンスルホン酸等の均一系触媒(溶媒に溶解させて用いる触媒)を用いた場合には、生成物中に触媒が溶解して残存してしまい、生成物と触媒との分離が非常に困難となる。また、触媒を用いない場合、常温では置換反応が進行せず、100℃以上の高温条件下で反応を行なう必要があるが、実用性に乏しく、また高沸点溶媒を用いた場合、その残存が懸念される。これに対して、固体触媒を用いた場合には、生成物からの触媒の分離が容易であり、さらに常温下で反応を行なうことができるため、実用性が高い。このため、本発明にかかる反応性非イオン界面活性剤は、固体触媒の共存下で反応を行なうことにより調製することが好適である。
【0024】
本発明に用いられる炭化水素基含有アルコキシシランは、ケイ素原子上に、1つ又は2つの炭化水素基(炭素数1〜20)、及び3つ又は2つのアルコキシ基が結合したものであればよく、特に限定されるものではない。なお、炭素数1〜20の炭化水素基は、上記一般式(1)におけるRと同一である。本発明に用いられる炭化水素基含有アルコキシシランとしては、例えば、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ジオクチルトリエトキシシラン、ドデシルメチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0025】
多価アルコールは、分子中に2つ以上の水酸基を有する化合物であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、マルチトール等が挙げられる。これらのうち、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、ジブチレングリコール、ジヘキサンジオールのいずれかを用いるのが好ましい。
【0026】
固体触媒は、用いられる原料成分、反応溶媒、及び反応生成物に対して不溶な固体状の触媒であり、ケイ素原子上の置換基交換反応に対して活性を有する酸点及び/又は塩基点を有する固体であればよい。本発明に用いられる固体触媒としては、例えば、イオン交換樹脂、及び各種無機固体酸/塩基触媒が挙げられる。
【0027】
固体触媒として用いられるイオン交換樹脂としては、例えば、酸性陽イオン交換樹脂及び塩基性陰イオン交換樹脂が挙げられる。これらのイオン交換樹脂の基体をなす樹脂としてはスチレン系、アクリル系、メタクリル系樹脂等が挙げられ、また、触媒活性を示す官能基としてはスルホン酸、アクリル酸、メタクリル酸、4級アンモニウム、3級アミン、1,2級ポリアミン等が挙げられる。また、イオン交換樹脂の基体構造としては、ゲル型、ポーラス型、バイポーラス型等から、目的に応じて選択することができる。
【0028】
酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト IRC76、FPC3500、IRC748、IRB120B Na、IR124 Na、200CT Na(以上、ロームアンドハース社製)、ダイヤイオン SK1B、PK208(以上、三菱化学社製)、Dow EX モノスフィア650C、マラソンC、HCR−S、マラソンMSC(以上、ダウ・ケミカル社製)等が挙げられる。また、塩基性陰イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト IRA400J CL、IRA402BL CL、IRA410J CL、IRA411 CL、IRA458RF CL、IRA900J CL、IRA910CT CL、IRA67、IRA96SB(以上、ロームアンドハース社製)、ダイヤイオン SA10A、SAF11AL、SAF12A、PAF308L(以上、三菱化学社製)、Dow EX モノスフィア550A、マラソンA、マラソンA2、マラソンMSA(以上、ダウ・ケミカル社製)等が挙げられる。
【0029】
固体触媒として用いられる無機固体酸/塩基触媒としては、特に限定されるものではない。無機固体酸触媒としては、Al、SiO、ZrO、TiO、ZnO、MgO、Cr等の単元系金属酸化物、SiO−Al、SiO−TiO、SiO−ZrO、TiO−ZrO、ZnO−Al、Cr−AlO3、SiO−MgO、ZnO−SiO等の複合系金属酸化物、NiSO、FeSO等の金属硫酸塩、FePO等の金属リン酸塩、HSO/SiO等の固定化硫酸、HPO/SiO等の固定化リン酸、HBO/SiO等の固定化ホウ酸、活性白土、ゼオライト、カオリン、モンモリロナイト等の天然鉱物又は層状化合物、AlPO−ゼオライト等の合成ゼオライト、HPW1240・5HO、HPW1240等のヘテロポリ酸等が挙げられる。また、無機固体塩基触媒としては、NaO、KO、RbO、CsO、MgO、CaO、SrO、BaO、La、ZrO、ThO等の単元系金属酸化物、NaCO、KCO、KHCO、KNaCO、CaCO、SrCO、BaCO、(NHCO、NaWO・2HO、KCN等の金属塩、Na−Al、K−SiO等のアルカリ金属担持金属酸化物、Na−モルデナイト等のアルカリ金属担持ゼオライト、SiO−MgO、SiO−CaO、SiO−SrO、SiO−ZnO、SiO−Al、SiO−ThO、SiO−TiO、SiO−ZrO、SiO−MoO、SiO−WO、Al−MgO、Al−ThO、Al−TiO、Al−ZrO、ZrO−ZnO、ZrO−TiO、TiO−MgO、ZrO−SnO等の複合系金属酸化物等が挙げられる。
【0030】
固体触媒は、反応終了後にろ過あるいはデカンテーション等の処理を行なうことによって、容易に生成物と分離することができる。
【0031】
また、反応の際の温度条件は特に限定されるものではないが、常温下あるいは冷却下で行なうことが好ましい。なお、常温下あるいは冷却下とは、加熱等の特別な温度調節操作を行なわない条件下であることを意味し、より具体的には、−5〜35℃の温度範囲である。
【0032】
反応時には溶媒を用いなくてもよいが、必要に応じて各種溶媒を用いても構わない。反応に用いる溶媒としては、特に限定されるものではなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸メチル、アセトン、メチルエチルケトン、セロソルブ、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエステル、エーテル、ケトン系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒、さらにはクロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒が挙げられる。ここで、原料として用いるテトラアルコキシシランの加水分解縮合反応を抑制するため、溶媒は予め脱水しておくことが好ましい。また、これらのうちで、反応時に副生成するエタノール等のアルコールと共沸混合物を形成して系外へと除去することで反応を促進することのできるアセトニトリル、トルエン等を用いることが好ましい。
【0033】
また、本発明にかかる反応性非イオン界面活性剤において、下記数式(1)により示されるHLB値が3.0〜20.0であることが好適である。
HLB=(Σ無機性値/Σ有機性値)×10 (1)
反応性非イオン界面活性剤のHLB値が、上記数値の範囲を逸脱する場合には、界面活性剤として使用可能な範囲が狭くなり、処方設計が著しく制限される場合がある。
【0034】
なお、上記数式(1)に示されるHLB値は、小田らによるHLB算出方法として、当業者において広く知られていられるものである(小田良平ほか、”界面活性剤の合成とその応用”、槇書店(1964))。ここで、反応性非イオン界面活性剤中の各置換基における上記「無機性値」、「有機性値」としては、下記表1に示す藤田らの提唱した有機概念図に基づいた値(甲田善生:”有機概念図―基礎と応用―”、三共出版(1985),桂博二:油化学、36(12)、961(1987))を用い、小田らによる上記数式(1)によりHLB値を算出する。
【0035】
【表1】

【0036】
さらに、本発明にかかる反応性非イオン界面活性剤において、無機性値が200〜650、有機性値が160〜700であることが望ましい。これをHLB値と合わせて表示したのが図1である。本発明における特に好適な反応性非イオン界面活性剤は、図1の破線内にて明示される。
【0037】
本発明にかかる反応性非イオン界面活性剤は、界面活性能を有しているとともに、自身の加水分解・脱水縮合反応により、シリカネットワーク構造を形成するため、乳化界面膜上においてシリカ固体膜を形成することができる。このため、本発明にかかる反応性非イオン界面活性剤を用いて、任意の水相成分、油相成分を乳化することによって、乳化界面膜が強化され、内相成分が著しく安定化された乳化組成物が得られる。さらに、当該乳化組成物の界面膜をシリカにより完全に固体化することによって、内相成分がシリカ固体膜によりカプセル化される。このため、例えば、他の界面活性剤や有機溶媒の添加・除去等の煩雑な操作を行なうことなく、容易にマイクロカプセル組成物を調製することが可能となる。
【実施例1】
【0038】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0039】
本発明者らは、まず最初に、オクチルトリエトキシシランとエチレングリコールを用い、エチレングリコールを置換したシラン誘導体の調製を試み、その物性についての評価を行った。
比較例1
オクチルトリエトキシシラン(特級:東京化成社製)11.06g(0.04mmol)と、エチレングリコール(特級:和光純薬社製)7.45mg(0.12mmol)とを混合攪拌したが、反応は全く起こらなかった。これを5質量%となるようにイオン交換水にて希釈したところ、完全に分離し、水に不溶であることが確認された。さらにこの混合液0.25mlを、イオン交換水2.5mlと流動パラフィン2.5mlとの混合溶媒中に添加し、30秒間上下に振り、水/油の混合状態を観察したところ、水/油はすぐに分離し、乳化状態にはならなかった。
【0040】
実施例1
オクチルトリエトキシシラン(特級:東京化成社製)11.06g(0.04mmol)、エチレングリコール(特級:和光純薬社製)7.45mg(0.12mmol)、及び酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)1.0gをアセトニトリル80ml中に加え、室温にて24時間攪拌した。ろ過によりイオン交換樹脂を分離した後、溶媒をエバポレータにて除去し、透明な溶液を得た。これを5質量%となるようにイオン交換水にて希釈したところ、白濁し、分散していることが確認された。さらに得られた溶液0.25mlを、イオン交換水2.5mlと流動パラフィン2.5mlとの混合溶媒中に添加し、30秒間上下に振り、水/油の混合状態を観察したところ、水/油は乳化状態となり、5分経過した後も安定であった。
【0041】
上記比較例1より、触媒を用いない場合には、反応は全く起こらず、原料オクチルトリエトキシシランが水不溶性のまま残存していた。
これに対して、固体触媒としてイオン交換樹脂を用いた実施例1においては、水溶性のエチレングリコール置換シラン誘導体を得ることができた。さらに、得られた水溶性シラン誘導体は、優れた乳化能を示すことが確認された。
【0042】
つづいて、本発明者らは、各種のアルキルアルコキシシランと多価アルコールを用いて水溶性シラン誘導体の調製を試み、その物性についての評価を行なった。
実施例2
オクチルトリエトキシシラン(特級:東京化成社製)11.06g(0.04モル)、1,3−ブチレングリコール10.82mg(0.12モル)、及び酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)1.0gをアセトニトリル80ml中に加え、室温にて24時間攪拌した。ろ過によりイオン交換樹脂を分離した後、溶媒をエバポレータにて除去し、透明な溶液を得た。これを5質量%となるようにイオン交換水にて希釈したところ、白濁し、分散していることが確認された。さらに得られた溶液0.25mlを、イオン交換水2.5mlと流動パラフィン2.5mlとの混合溶媒中に添加し、30秒間上下に振り、水/油の混合状態を観察したところ、水/油は乳化状態となり、5分経過した後も安定であった。
【0043】
実施例3
デシルトリエトキシシラン(LS5258:信越化学社製)10.50g(0.04モル)、1,3−ブチレングリコール10.82mg(0.12モル)、及び酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)1.0gをアセトニトリル80ml中に加え、室温にて24時間攪拌した。ろ過によりイオン交換樹脂を分離した後、溶媒をエバポレータにて除去し、透明な溶液を得た。これを5質量%となるようにイオン交換水にて希釈したところ、白濁し、分散していることが確認された。さらに得られた溶液0.25mlを、イオン交換水2.5mlと流動パラフィン2.5mlとの混合溶媒中に添加し、30秒間上下に振り、水/油の混合状態を観察したところ、水/油は乳化状態となり、5分経過した後も安定であった。
【0044】
実施例4
ドデシルトリエトキシシラン(LS6570:信越化学社製)13.30g(0.04モル)、1,3−ブチレングリコール10.82mg(0.12モル)、及び酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)1.0gをアセトニトリル80ml中に加え、室温にて24時間攪拌した。ろ過によりイオン交換樹脂を分離した後、溶媒をエバポレータにて除去し、透明な溶液を得た。これを5質量%となるようにイオン交換水にて希釈したところ、白濁し、分散していることが確認された。さらに得られた溶液0.25mlを、イオン交換水2.5mlと流動パラフィン2.5mlとの混合溶媒中に添加し、30秒間上下に振り、水/油の混合状態を観察したところ、水/油は乳化状態となり、5分経過した後も安定であった。
【0045】
実施例5
ドデシルメチルジエトキシシラン(LS6360:信越化学社製)12.10g(0.04モル)、1,3−ブチレングリコール10.82mg(0.12モル)、及び酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)1.0gをアセトニトリル80ml中に加え、室温にて24時間攪拌した。ろ過によりイオン交換樹脂を分離した後、溶媒をエバポレータにて除去し、透明な溶液を得た。これを5質量%となるようにイオン交換水にて希釈したところ、白濁し、分散していることが確認された。さらに得られた溶液0.25mlを、イオン交換水2.5mlと流動パラフィン2.5mlとの混合溶媒中に添加し、30秒間上下に振り、水/油の混合状態を観察したところ、水/油は乳化状態となり、5分経過した後も安定であった。
【0046】
実施例6
オクチルトリエトキシシラン(特級:東京化成社製)12.10g(0.04モル)、1,6−ヘキサンジオール(特級:和光純薬社製)14.18mg(0.12モル)、及び酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)1.0gをアセトニトリル80ml中に加え、室温にて24時間攪拌した。ろ過によりイオン交換樹脂を分離した後、溶媒をエバポレータにて除去し、透明な溶液を得た。これを5質量%となるようにイオン交換水にて希釈したところ、白濁し、分散していることが確認された。さらに得られた溶液0.25mlを、イオン交換水2.5mlと流動パラフィン2.5mlとの混合溶媒中に添加し、30秒間上下に振り、水/油の混合状態を観察したところ、水/油は乳化状態となり、5分経過した後も安定であった。
【0047】
実施例7
オクチルトリエトキシシラン(特級:東京化成社製)12.10g(0.04モル)、1,3−ブチレングリコール10.82mg(0.12モル)、及び酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)1.0gをアセトニトリル80ml中に加え、70℃にて24時間還流攪拌した。ろ過によりイオン交換樹脂を分離した後、溶媒をエバポレータにて除去し、透明な溶液を得た。これを5質量%となるようにイオン交換水にて希釈したところ、白濁し、分散していることが確認された。さらに得られた溶液0.25mlを、イオン交換水2.5mlと流動パラフィン2.5mlとの混合溶媒中に添加し、30秒間上下に振り、水/油の混合状態を観察したところ、水/油は乳化状態となり、5分経過した後も安定であった。
【0048】
実施例8
オクタデシルトリエトキシシラン(LS6970:信越化学社製)16.67g(0.04モル)、1,3−ブチレングリコール10.82mg(0.12モル)、及び酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)1.0gをアセトニトリル80ml中に加え、70℃にて24時間還流攪拌した。ろ過によりイオン交換樹脂を分離した後、溶媒をエバポレータにて除去し、透明な溶液を得た。これを5質量%となるようにイオン交換水にて希釈したところ、完全に分離し、水に不溶であることが確認された。さらに得られた溶液0.25mlを、イオン交換水2.5mlと流動パラフィン2.5mlとの混合溶媒中に添加し、30秒間上下に振り、水/油の混合状態を観察したところ、水/油は乳化状態となり、5分経過した後も安定であった。
【0049】
上記実施例2〜8において得られた水溶性の多価アルコール置換シラン誘導体は、優れた乳化能を有していることが確認された。
上記実施例及び比較例についてまとめたものを下記表2に示す。
【表2】

【0050】
上記表1に示されるように、炭素数1〜18の炭化水素基を含有する炭化水素基含有アルコキシシランと、多価アルコールとを、固体触媒の共存下で反応させることによって、得られた水溶性のシラン誘導体は、優れた界面活性能を有することが確認された。
【0051】
実施例9
オクチルトリエトキシシラン165.9g(0.6モル)と、エチレングリコール149g(2.4モル)とを混合し、無溶媒下、固体触媒として強酸性イオン交換樹脂(アンバーリスト15DRY:ロームアンドハース社製)2.92gを添加した後、110℃で混合攪拌した。7時間反応を続け、反応中に還流加熱によりエタノールを42.34g(0.92モル)留去した。固体触媒をろ過分離し、室温で冷却すると透明二相の液体を得た。どちらの相の化合物もオクチルトリエトキシシランよりも親水性が高く、界面活性能を示したが、下相の化合物の方がより界面活性能が高かった。二相どちらもオクチルトリエトキシシランのエチレングリコール置換体であるが置換度が違うため二相に分離したものと考えられる。
【0052】
図2〜4に、上記実施例9により得られた上相の化合物0.2gを、水1gと油1gの混合液に加え30回振とう後、1分静置したものの写真図を示す(図2:シリコーン油(ジメチルポリシロキサン),図3:流動パラフィン,図4:エステル油(トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル))。図2〜4より、実施例9のエチレングリコール置換体を用いた場合には、いずれの種類の油においても水−油が均一に分散して白濁しており、優れた界面活性能が得られていることがわかった。
【0053】
また、この水溶性シラン誘導体は、自身の加水分解・脱水縮合反応によりシリカネットワーク構造を形成し、これにより乳化界面膜が強化され、乳化安定性に優れた乳化組成物を得ることができる。さらに、この乳化物の界面膜をシリカによって完全に固体化することによって、内相成分がシリカ固体膜によりカプセル化したマイクロカプセル組成物を容易に調製できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明にかかる反応性非イオン界面活性剤における好適な範囲(HLBが3〜20、無機性値が200〜650、有機性値が160〜700)を無機性−有機性プロットにより図示したものである。
【図2】水/シリコーン油(ジメチルポリシロキサン)中に(A:無添加,B:オクチルトリエトキシシラン,C:実施例9のエチレングリコール置換体)を添加した混合溶液の写真図である。
【図3】水/流動パラフィン中に(A:無添加,B:オクチルトリエトキシシラン,C:実施例9のエチレングリコール置換体)を添加した混合溶液の写真図である。
【図4】水/エステル油(トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル)中に(A:無添加,B:オクチルトリエトキシシラン,C:実施例9のエチレングリコール置換体)を添加した混合溶液の写真図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される反応性非イオン界面活性剤。
−Si−(OR(OR4−(m+n) (1)
(式中、Rは炭素数1〜20の炭化水素基、Rは多価アルコール残基、Rは1価アルコール残基、nは1又は2、mは1〜3、2≦m+n≦4であり、Rにおける炭素数の和は8〜36である。)
【請求項2】
請求項1に記載の反応性非イオン界面活性剤において、下記数式(1)により示されるHLB値が3.0〜20.0であることを特徴とする反応性非イオン界面活性剤。
HLB=(Σ無機性値/Σ有機性値)×10 (1)
【請求項3】
請求項1又は2に記載の反応性非イオン界面活性剤において、前記Rが下記一般式(2)で示される官能基であることを特徴とする反応性非イオン界面活性剤。
−(R(OH)−O)−H (2)
(式中、Rは炭素数1〜6の炭化水素基、xは0〜5、yは1〜30である。)
【請求項4】
請求項4に記載の反応性非イオン界面活性剤において、前記Rがエチレングリコール残基、プロピレングリコール残基、グリセリン残基、ブチレングリコール残基、ヘキサンジオール残基、ジエチレングリコール残基、ジプロピレングリコール残基、ジグリセリン残基、ジブチレングリコール残基、ジヘキサンジオール残基のいずれかであることを特徴とする反応性非イオン界面活性剤。
【請求項5】
請求項1から4に記載のいずれかの反応性非イオン界面活性剤を含有することを特徴とする乳化組成物。
【請求項6】
請求項1から4に記載のいずれかの反応性非イオン界面活性剤を含有することを特徴とするマイクロカプセル組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−69205(P2007−69205A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−219903(P2006−219903)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】