反応槽容積を効率的に使用したメラニン前駆体の製造方法
【課題】発泡を抑制しながら、酵素による酸化反応を効率よく実施し、メラニン前駆体を高い収率で製造する方法を提供する。
【解決手段】3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)アラニン(DOPA)及びこれらの類縁体からなる群から選択される少なくとも1種の基質化合物、及び酸化酵素またはこの酵素を含む微生物を含有する反応液に酸素を供給しながら閉鎖系で酸化反応を行うことで、メラニン前駆体を製造する。
【解決手段】3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)アラニン(DOPA)及びこれらの類縁体からなる群から選択される少なくとも1種の基質化合物、及び酸化酵素またはこの酵素を含む微生物を含有する反応液に酸素を供給しながら閉鎖系で酸化反応を行うことで、メラニン前駆体を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素を用いた酸化反応を利用して、発泡を抑えながら反応槽容積を有効に利用してメラニン前駆体を効率的に製造する方法に関する
【背景技術】
【0002】
メラニン前駆体は、空気中の酸素による酸化反応により重合しメラニン色素に変換することが知られており、これを利用して空気酸化型染毛剤等の色素成分として使用されている。
【0003】
かかるメラニン前駆体の製造方法としては、化学合成反応による方法があるが、副反応による収率の低下、目的反応生成物の単離に要する時間的負担、反応溶剤の残留による安全性や環境への悪影響が懸念されるなどといった問題がある。一方、酵素反応によりメラニン前駆体を製造する方法としては、例えば特許文献1に、チロシンや3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)アラニン(以下、単に「DOPA」ともいう。)等の基質化合物を、カテコールオキシダーゼ活性を示す細胞を用いて酸化してメラニン前駆体に変換する方法が記載されており、かかる方法によれば、上記化学合成反応の場合に生じる問題がなく、比較的効率よくメラニン前駆体が取得できる。
【0004】
かかる酵素酸化反応を進行させるためには、酸素の供給が必須である。反応速度が遅いと基質化合物の残存を招き、また反応が進みすぎると一旦生成したメラニン前駆体が更に酸化重合してメラニンに変換されるため、いずれも目的とするメラニン前駆体の収率が低下するという問題が生じる。このため、メラニン前駆体を効率よく高い収率で製造するためには、酸素の供給を適度にコントロールすることが重要である。
【0005】
一般に、酵素酸化反応において酸素を供給する方法として、反応液を撹拌する方法、反応液中に積極的に通気(空気供給)する方法、または両者を併用する方法が用いられる。しかしながら、いずれの方法も反応液を発泡させる要因となる。一旦反応液に生じた泡は徐々に増加するため、泡を含めた反応液の液面(泡面)は反応とともに上昇する。このため、通常特許文献2または非特許文献1に記載のように、反応槽に仕込む反応液の量は、反応槽容積の6割程度に調整するのが常識となっている。
【0006】
反応時の発泡を抑制する方法として、消泡剤が広く使用されている。しかしながら、消泡剤は一時的には効果があるもの、持続的な効果は認められず、また多量に使用すると、生成したメラニン前駆体の精製に支障が生じる場合がある。
【0007】
このため、酵素酸化反応において酸素を供給しながらも発泡を抑制し、反応槽容積を有効に利用してメラニン前駆体を効率よく製造するための方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−158304号公報
【特許文献2】特許第3526602号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】生物工学実験書(培風館、1992年、第216頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、酵素を用いた酸化反応を利用して、発泡を抑えながらも効率的にメラニン前駆体を製造する方法を提供することを目的とする。より詳細には、本発明は、酵素を用いた酸化反応において、反応中に生じる発泡を抑えることで反応槽への仕込み量を増大可能とし、反応槽容積を有効に利用して大容量で効率よく目的のメラニン前駆体を製造するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を進めていたところ、基質化合物としてDOPA等を用いて酵素酸化反応するにあたり、通気に酸素(純酸素)を用いることにより発泡が有意に抑制できること(実験例1)、また閉鎖系で反応液に酸素(純酸素)を通気しながら反応を行うことで、発泡が有意に抑制できるとともに、生じた発泡による液面/泡面の上昇による影響(例えば、反応槽からの反応液の漏洩等)も無視できること(実験例3)を見出し、その結果、反応槽に仕込む反応液の量を、従来6割程度が限度であったものを、9割程度まで増大可能であり、上記目的に適ったメラニン前駆体の製造方法が提供できることを確認した。
【0012】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施態様を包含するものである。
(I-1)DOPA及びその類縁体からなる群から選択される少なくとも1種の基質化合物、及び酸化酵素またはこの酵素を含む微生物を含有する反応液に酸素、好ましくは純酸素を供給しながら、閉鎖系で酸化反応を行うことを特徴とする、メラニン前駆体の製造方法。
(I-2)上記酸化酵素がカテコールオキシダーゼ活性を有する酵素である、(I-1)記載の製造方法。
(I-3)上記カテコールオキシダーゼ活性を有する酵素がチロシナーゼである、(I-2)記載の製造方法。
(I-4)上記メラニン前駆体が、ドーパクロム、5,6-ジヒドロキシインドールカルボン酸、若しくは5,6-ジヒドロキシインドール、またはこれらの化合物を2種以上含む混合物である(I-1)乃至(I-3)に記載する製造方法。
(I-5)反応液中の溶存酸素量が常時1ppm以上になるように、言い換えると1ppmを下回らないように、酸素を供給することを特徴とする、(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載する製造方法。
(I-6)反応液を、反応容器にその容積70容量%以上の割合で収容し、酸化反応を行うことを特徴とする(I-1)乃至(I-5)のいずれかに記載する製造方法。
(I-7)反応液の発泡を抑制しながら基質化合物を酸化する方法である、(I-1)乃至(I-6)のいずれかに記載する製造方法。
【0013】
なお、上記基質化合物を用いて酵素酸化反応を利用してメラニン前駆体を製造する場合、酸素供給しすぎて酸化反応が進みすぎると、生成したメラニン前駆体が重合してさらにメラニンに変換されてしまう。このため、メラニン前駆体の製造を目的とする場合は、反応液に酸素を供給しながら閉鎖系で酸化反応するにあたり、反応終点を見極めながら、酸素供給をコントロールする必要がある。
【0014】
本発明者らは、かかる観点から鋭意検討しているなかで、上記反応において反応液のpHを経時的に測定し、反応液中の基質化合物(DOPAまたはその類縁体)の残留量とメラニン前駆体の生成量との関係をみたところ、反応液のpH低下が上昇に転じる時点と、反応液中の基質化合物の残留量がなくなりメラニン前駆体の生成量が最大になる時点、すなわち反応終点とがほぼ一致することを見出し、反応液のpH低下が上昇に転じる時点を指標とすることで上記酵素酸化反応の終点が決定できることを確認した。
【0015】
この点から、本発明は下記に掲げる実施形態をも包含する。
(I-8)下記(1)及び(2)の工程を有するメラニン前駆体の製造方法であって、
(1)反応液にアルカリまたは酸を供給して反応液のpHを5〜6に維持する工程、
(2)反応液のpHを連続して測定し、測定値の経時的変化をモニターする工程;
pHの経時的変化の傾向の切り替わりを反応終了の指標として、酸素の供給を停止することを特徴とする、
(I-1)乃至(I-7)のいずれかに記載する製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、酵素酸化反応において従来より問題となっていた発泡を持続的に抑制することができ、仕込液量を増やしながらも発泡による反応液の漏洩を防止することができる。このため、発泡による反応液面/泡面の上昇を考慮する必要がなく、反応容器(反応槽)への仕込み量を反応容器の容積の最大9割程度まで増やすことができる。このため、本発明の方法によれば、酵素酸化反応を利用して、反応槽容積を有効に利用して一回の処理で従来より多量の処理ができるため、効率よくメラニン前駆体を製造することができる。
【0017】
また、本発明によれば、発泡の影響を無視することが出来るため、消泡剤を使用しないですむか、または消泡剤の使用量を低減することができる。その結果、消泡剤による悪影響(例えば、生成物への消泡剤混入による影響、消泡剤除去による生成物収率の低下など)を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】DOPAを基質化合物とするメラニン前駆体(ドーパクロム、5,6-ジヒドロキシインドールカルボン酸、5,6-ジヒドロキシインドール)およびメラニンの生合成経路を示す図である。
【図2】実験例1で使用した反応システムの概略図である。具体的には、反応液3に通気しながら酵素酸化反応を行う反応システムの概略図である。ここでは反応槽2に設けられたpH測定部6が、アルカリ供給部4および酸供給部5と連動しており、反応液のpHが5〜6になるようにオンラインで制御部17によりコントロールされている(実験例1)。
【図3】実験例1において、図2に示す反応システムを用いて、酸素(純酸素)を反応液に通気して酵素酸化反応させた際の、液面および泡面の位置を経時的に示した図である。
【図4】実験例2で使用した反応システムの概略図である。具体的には、反応液3に通気しながら酵素酸化反応を行う反応システムの概略図である。ここでは反応槽2に設けられたpH測定部6が、アルカリ供給部4および酸供給部5と連動しており、反応液のpHが5〜6になるようにオンラインで制御部17によりコントロールされている。また酸素供給部11と撹拌部8が、反応液3の溶存酸素測定部7と連動しており、反応液3の溶存酸素が1ppmを下回らないように、酸素供給速度(酸素供給量)及び撹拌速度がオンラインでコントロールされている(実験例2)。
【図5】実験例2の結果を示す。(A)は、反応開始から40分間にわたる反応における酸素供給速度(L/min)と撹拌速度(rpm)の経時的変化を、(B)は反応液3の溶存酸素濃度(ppm)の経時的変化を示す。
【図6】実験例2において、反応液の液面の位置と泡面の位置を経時的に測定した結果を示す。
【図7】実験例2の酵素酸化反応において、反応開始から40分間の反応における反応液中のL-DOPA(基質化合物)およびドーパクロム(メラニン前駆体)の濃度(mM)の経時的変化を示す。
【図8】実験例3の酵素酸化反応において、反応開始から40分間の反応における反応液中のL-DOPA(基質化合物)およびドーパクロム(メラニン前駆体)の濃度(mM)の経時的変化を示す。
【図9】実験例3に酵素酸化反応において、反応開始から40分間にわたる反応における酸素供給速度(L/min)と酸素累積供給量(mol)の経時的変化を示す。
【図10】実験例3に酵素酸化反応における、反応槽2内の圧力(MPa)の経時的変化を示す。
【図11】実験例3に酵素酸化反応における、反応液3の溶存酸素濃度(ppm)の経時的変化を示す。
【図12】実験例4の結果を示す。(A)反応液へのアルカリ(6N NaOH水溶液)および酸(3N H2SO4水溶液)添加の状況と、反応液のpHの経時的変化を示す図である。(B)反応液へのアルカリ添加量(累積量)(mL)および酸添加量(累積量)(mL)を、反応開始から40分間にかけて経時的に示した図である。
【図13】実験例4の酵素酸化反応において、反応液中の基質化合物L-DOPA(基質化合物)の残存量とドーパクロム(メラニン前駆体)の生成量を経時的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(A)基質化合物
本発明の製造方法において、基質化合物としては、DOPA及びDOPA類縁体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を使用する。DOPA及びDOPA類縁体は、L体(3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-L-アラニン)(以下、「L-DOPA」とも称する)又はD体(3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-D-アラニン)のいずれであってもよい。DOPA類縁体としては、ドーパミン(Dopamine)や、DOPAの低級(炭素数1〜4)アルキルエステル、およびα−低級(炭素数1〜4)アルキルDOPA等が挙げられ、これらの異性体であってもよい。中でも、天然型メラニン前駆体が得られる点で、L-DOPAを用いることが好ましく、酵素に対する親和性の点でもL-DOPAを用いることが好ましい。
【0020】
基質化合物は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
なお、かかる基質化合物は、製造するメラニン前駆体の種類に応じて適宜選択することができる。
【0022】
例えば、メラニン前駆体としてドーパクロムを製造する場合は、基質化合物としてDOPAを使用することが好ましい。この場合、後述する酸化反応をアスコルビン酸や亜ジチオン酸等の還元剤を用いて停止させて反応生成物を還元することで、更にメラニン前駆体として5,6-ジヒドロキシインドリン-2-カルボン酸を得ることができる。
【0023】
また生成したドーパクロムを含む反応液をそのまま保持しておくと自発的な脱炭酸により5,6-ジヒドロキシインドールを取得することができる。あるいは酵素反応に使用する微生物の細胞に含まれるドーパクロムトートメラーゼにより、または非酵素的な異性化により、ドーパクロムから5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸が生成する。これにより、ドーパクロム、5,6-ジヒドロキシインドール及び5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸を含むメラニン前駆体を取得することができる。
【0024】
さらに、メラニン前駆体として5,6-ジヒドロキシインドリンを製造する場合は、基質化合物としてドーパミンを使用することが好ましい。この場合、反応を亜ジチオン酸などの還元剤を用いて反応を停止及び還元させることにより、ドーパミンの酸化により生成したドーパミンのキノン体を経て5,6-ジヒドロキシインドリンを取得することができる。また、この反応液を更に保持すればジヒドロキシインドールを取得することができる。また黒色以外のメラニンを生成するメラニン前駆体を製造する場合は、基質化合物として、DOPAのアルキルエステル、具体的にはDOPAエチルエステル等を用いることが好ましい。
【0025】
なお、後述する酸化反応に使用する場合の基質化合物の濃度は、反応開始液中の濃度として通常10〜60mM程度を挙げることができる。好ましくは、15〜40mM程度である。例えば、メラニン前駆体を製造する場合、上記範囲であれば、未反応の基質化合物の残存が少なく、十分量のメラニン前駆体を得ることができるとともに、それが重合してメラニンが生成することによるメラニン前駆体の収率低下を抑えることができる。
【0026】
(B)酵素
本発明の製造方法に使用する酵素は、前述する基質化合物を酸化する作用を有するものであればよい。具体的には、酸化酵素を挙げることができる。中でも好ましくはカテコールオキシダーゼ活性を有する酵素である。
【0027】
ここでカテコールオキシダーゼ活性とは、カテコールの酸化によるo-キノンの生成を触媒する活性をいい、かかるカテコールオキシダーゼ活性を有する酵素としては、モノフェノールオキシダーゼ、ジフェノールオキシダーゼ、o-ジフェノラーゼ、およびチロシナーゼ等が含まれる。
【0028】
メラニン前駆体、およびメラニンを製造する場合において、カテコールオキシダーゼ活性を有する酵素として、より好ましくはチロシナーゼを挙げることができる。チロシナーゼは、L-DOPAに対して親和性が高いため、これを基質化合物とすることで、図1に示す反応経路を通じて天然型のメラニン前駆体(好ましくは、ドーパクロム、5,6-ジヒドロキシインドールカルボン酸、若しくは5,6-ジヒドロキシインドール、またはこれらを2種以上含む混合物)を効率よく製造することができる。
【0029】
本発明で用いる酵素(以下、「酸化酵素」と称する。)は、どのような生物に由来する酵素であってもよいが、特に、発現効率が良く、かつ宿主細胞内で安定であることから、糸状菌に由来する酵素が好ましい。より好ましくは糸状菌に由来するチロシナーゼである。
【0030】
かかる糸状菌としては、アスペルギルス(Aspergillus)属、ニューロスポラ(Neurospora)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、トリコデルマ(Trichoderma)属及びペニシリウム(Penicillium)属等が挙げられる。中でも、熱に対して比較的安定であり、かつ安全性が確かめられている点で、アスペルギルス属糸状菌のチロシナーゼが好ましく、具体的には、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)のmelB遺伝子(特開2002-191366号公報)、melD遺伝子(特開2004-201545号公報)又はmelO遺伝子(Molecular cloning and nucleotide sequence of the protyrosinase gene, melO, from Aspergillus oryzae and expression of the gene in yeast cells.Biochim Biophys Acta. 1995 Mar 14;1261(1):151-154)でコードされるチロシナーゼまたはかかるチロシナーゼと実質的に同一である酵素を挙げることができる。
【0031】
なお、上記チロシナーゼと「実質的に同一」とは、これらの遺伝子(melB遺伝子、melD遺伝子又はmelO遺伝子)によってコードされるチロシナーゼのアミノ酸配列と、70%以上、更に好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上が同一のアミノ酸配列を有し、かつカテコールオキシダーゼ活性、好ましくはチロシナーゼ活性を有している酵素をいう。このような酵素は、DOPAからドーパクロムへの反応収率が高く、効率的に酸化反応を行うことができるため、反応液中のDOPA残存量を低くすることができる。
【0032】
なお、上記酵素は、そのままの状態で反応に使用することができるが、酵素の安定性向上、使用後の分離の容易さ、反応系へのタンパク質混入の回避の点から、固定化酵素の形態で使用することもできる。酵素の固定化方法は特に限定されず、例えば、固定化担体により酵素分子間を架橋する方法、アルギン酸ゲルのようなゲルに内包させる方法等の公知の固定化方法が挙げられる。酵素は、生物由来の夾雑物を含む粗標品でもよく、精製酵素でもよいが、固定化する場合は精製されたものであることが望ましい。
【0033】
(C)微生物
本発明の製造方法には、上記酵素に代えて上記酵素を産生する微生物を使用することもできる。
【0034】
本発明で使用される微生物は、少なくとも上記酸化酵素、好ましくはカテコールオキシダーゼ活性を有する酵素、より好ましくはチロシナーゼを産生し得るものであればよく、この限りにおいて特に制限されない。すなわち、 (a)本来的に「酸化酵素」を産生し得る微生物であってもよいし、また(b) 「酸化酵素」を産生し得る能力を外来的に付与された微生物であってもよい。さらに(c)内在性または外来性の別を問わず、「酸化酵素」活性を高める処理が施された微生物であってもよい。好ましくは(b)または(c)の微生物である。
【0035】
かかる微生物としては、大腸菌、酵母、および糸状菌等を挙げることができる。なかでも、安全で、さらに単細胞であり、かつ細胞の沈降速度が速いため、比較的低速回転の遠心分離で反応後の細胞を分離できる点で、酵母を用いることが好ましい。酵母の中でも、特に、菌体が堅牢であるために菌体由来のタンパク質の反応液中への流出が抑えられ、かつ遺伝子操作が容易である点で、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)が好ましい。
【0036】
(b)の微生物は、例えば、タンパク質の大量発現用に通常用いられているベクターに「酸化酵素」をコードする遺伝子(「酸化酵素」遺伝子)をクローニングし、当該ベクターを宿主細胞に導入することによって調製することができ、斯くして上記遺伝子を宿主染色体に組み込むか、又はこれをプラスミド状態で有する微生物を取得することができる。
【0037】
上記(c)の微生物としては下記の微生物を挙げることができる:
(c-1)「酸化酵素」遺伝子を本来発現させているプロモーターよりも高活性のプロモーターの下でこの遺伝子を発現させている微生物。
(c-2)「酸化酵素」遺伝子を複数コピー有する微生物。
(c-3)「酸化酵素」遺伝子の変異体を有することにより高い酵素活性(好ましくはカテコールオキシダーゼ活性、より好ましくはチロシナーゼ活性)を示す微生物。
【0038】
(c-1)で使用される高活性のプロモーターとしては、制限されないが、例えばSED1プロモーター、ADH1プロモーター、PGKプロモーター、GAPDHプロモーター、TDH1プロモーター、PHO5プロモーター、GAL4プロモーター、GAL10プロモーター、及びCUP1プロモーターなどが挙げられる。中でも、SED1プロモーター、ADH1プロモーター、PGKプロモーター、及びGAPDHプロモーターが好ましく、SED1プロモーターがより好ましい。
【0039】
(c-2)の微生物は、例えば「酸化酵素」遺伝子を複数コピー保持する可能性のある2倍体以上の細胞に「酸化酵素」遺伝子を導入することによって調製することができる。また、例えば醸造用酵母やパン酵母等の実用酵母の中には、3倍体や4倍体の細胞も存在するため、これらも好適に使用できる。このようにして、微生物に導入する「酸化酵素」遺伝子のコピー数を多くすることにより、より高い酵素活性(好ましくはカテコールオキシダーゼ活性、より好ましくはチロシナーゼ活性)を有する微生物とすることができる。
【0040】
(c-3)の微生物としては、「酸化酵素」遺伝子の変異により、酵素活性(好ましくはカテコールオキシダーゼ活性、より好ましくはチロシナーゼ活性)が高くなった微生物、又はこのような変異「酸化酵素」遺伝子を導入した微生物を使用することができる。このようにして、天然型酵素より高い活性を示す変異型酵素とすることにより、高い酵素活性、好ましくは高いカテコールオキシダーゼ活性、より好ましくは高いチロシナーゼ活性を示す微生物とすることができる。
【0041】
なお、本発明では、上記微生物として、液体培養で得られる微生物を水で洗浄して調製した微生物懸濁液を使用することもできる。かかる微生物懸濁液は、例えば次の手順(1)〜(4)により調製することができる。
(1)微生物を常法により液体培養した後、培養液を遠心分離して培地を除去する。
(2)この微生物を水に懸濁して遠心分離し、上清を除去する。
(3)(2)の工程を繰り返すことにより、微生物を洗浄する。
(4)(3)で得られた微生物を水に懸濁したものを微生物懸濁液とする。
【0042】
このように微生物を洗浄することにより、微生物懸濁液の電気伝導度を好ましくは0.8mS/cm以下、より好ましくは0.73 mS/cm以下、さらに好ましくは0.2〜0.5 mS/cm になるように調製することで、培養液からの不純物の混入を減少させることができる。なお、微生物懸濁液の電気伝導度の測定は、微生物懸濁液を遠心分離し、得られた上清について市販の電気伝導度計(例えば、電気伝導率計B-173:堀場製作所製など)を用いて測定することで実施することができる。
【0043】
(D)酵素または微生物の活性化処理
なお、酸化酵素、特にチロシナーゼが活性を示すためには、触媒活性中心に2価銅イオンが配位することが必要である。このため、酵素酸化反応に、酸化酵素、または当該酵素を産生する微生物のいずれを用いる場合でも、これらの酵素又は微生物を、予め2価銅イオンで処理することにより、酸化酵素の触媒活性中心に2価銅イオンを配位させることが好ましい。かかる方法として、具体的には、酸化酵素又は微生物を0.1〜2mM程度の硫酸銅溶液等に懸濁し、30〜40℃程度で0.5〜2時間程度静置する方法を挙げることができる。
【0044】
また、酸化酵素の中でもチロシナーゼ、特にアスペルギルス・オリゼ由来のチロシナーゼは、pH2.8〜3.2程度の酸性溶液で処理することにより、成熟化し、活性化する。従って、チロシナーゼまたは当該酵素を産生する微生物を用いる場合も、例えば、20〜200mM程度の酢酸ナトリウム緩衝溶液(pH3)に懸濁し、0〜40℃程度で0.5〜1時間程度静置することが好ましい。また、酸化酵素は、トリプシン等の特定のペプチド結合を選択的に切断するエンドペプチダーゼのようなプロテアーゼで処理することによっても活性化することができる。
【0045】
なお、酸化酵素を産生する微生物を用いる場合は、上記活性化処理の前に予め微生物に対して細胞障害処理を施し、その生存率を91%以下、好ましくは70%以下に低下しておくことが好ましい。かかる細胞障害処理としては、界面活性剤を用いた処理、冷凍処理、および乾燥処理を挙げることができる。活性化処理前にかかる処理を施して生存率を低下しておくことで、より高いカテコールオキシダーゼ活性を有する微生物を調製することができる。
【0046】
かかる細胞障害処理として好ましくは界面活性剤処理である。ここで界面活性剤としては、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤および両性界面活性剤を挙げることができるが、好ましくは陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤および非イオン系界面活性剤であり、より好ましくは陽イオン系界面活性剤である。陽イオン系界面活性剤の中でも、特に好ましくは第4級アンモニウム塩である。当該第4級アンモニウム塩としては、特に制限をされないが、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルジメチルエチルベンジルアンモニウムクロライド、アルキルジメチルメチルベンジルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、デシルイソノニルジメチルアンモニウム塩、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムカーボネート、ジデシルメチルポリオキシエチレンアンモニウムプロピネートなどを挙げることができる。これらは1種単独で使用してもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。好ましくは、塩化ベンザルコニウム、ジデシルジメチルアンモニウム塩、ジオクチルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライドである。なお第4級アンモニウム塩の塩としては、制限をされないが、クロライド塩、炭酸塩、リン酸塩、ブロマイド塩などを挙げることができる。好ましくはクロライド塩である。
【0047】
後述する酵素酸化反応に基質化合物として1molのL-DOPAを用いる場合、酸化酵素または当該酵素を発現する微生物は、酵素活性に換算して、通常5×105 U/mol以上、好ましくは5×106 U/mol以上、より好ましくは5×106 U/mol〜5×107 U/molの割合で使用することが好ましい。また基質化合物として同様にL-DOPAを用い、酸化酵素を発現する微生物(好ましくは酵母)は、反応系において0.1 U/OD600以上、更には0.5 U/OD600以上、特に1〜5U/OD600となる割合で用いることが好ましい。
【0048】
なお、酵素又は微生物のカテコールオキシダーゼ活性は、酵素又は細胞と0.8μmolのDOPAを含む溶液1mLを30℃で5分間反応させた場合の475nmにおける吸光度を光路長1cmあたり1増加させる活性を1Uとして計算される。また微生物のカテコールオキシダーゼ活性は、これを反応に用いた菌体の湿重量(mg)で除したもの(U/mg)とすることもできる。
【0049】
(E)酵素酸化反応
本発明において酸化反応は、前述する基質化合物と酸化酵素または当該酵素を産生する微生物を含有する反応液に酸素を供給しながら、閉鎖系で行うことを特徴とする。
【0050】
ここで用いる酸素は、純度が90%以上の酸素(高純度酵素)、好ましくは純度100%の酸素(純酵素)であることが好ましい。実験例1に示すように、反応液への通気にかかる酸素を使用することで、有意に反応液の発泡を抑制することができる。酸素の供給方法は、特に制限されず、反応液を撹拌することで反応液に酸素を取り込む方法、および反応液に酸素を積極的に通気する方法、およびこれらを併用する方法を挙げることができる。なお、反応開始直後は、酵素酸化反応に大量の酸素が必要であるため、大量に通気することが好ましい。反応に際しては、反応液中の溶存酸素濃度を監視することが好ましい。好ましくは反応液の溶存酸素量が1ppmを下回らないように調整することが好ましい。この場合の上限は、実験例2に示すように特に制限されないが、好ましくは45ppmを挙げることができる。
【0051】
なお、酵素酸化反応の終了は、酵素酸化反応による酸素消費が低下して反応液中の溶存酸素濃度が下がらなくなることを指標とすることができ、この場合に酸素通気量および攪拌速度を減少させることが好ましい。
【0052】
上記酸素通気や撹拌により反応液中に大量の泡が生じる場合は、シリコーン樹脂のような消泡剤を添加してもよいが、酵素酸化反応を閉鎖系で行うことで、かかる発泡の影響を無視することができる。この場合、従来の反応槽仕込量の許容量(発泡分の容積を考慮して設定)である60容量%を超えて反応液を仕込むことができる。反応槽に仕込む反応液の量として、70容量%以上、好ましくは80容量%以上、より好ましくは90容量%以上に設定することができる。
【0053】
ここで「酵素酸化反応を閉鎖系で行う」とは、酸素供給口、酸供給口およびアルカリ供給口以外の開口部をすべて閉止した状態で、酸化反応を行うことを意味する。ここで酸素供給口からの酸素供給は、酸化反応中、連続して行われてもよいし、間欠的(不連続)に行われてもよい。但し、間欠的に酸素供給が行われる場合、供給をストップしている間は、酸素供給口は閉止されることが好ましい(通気時のみ開口)。また、酸供給口からの酸供給及びアルカリ供給口からのアルカリ供給もそれがストップしている間は、これらの供給口は閉止されていることが好ましい(供給時のみ開口)。なお、通気源として酸素(好ましくは純酸素)を用いる本発明の酸化反応によれば、閉鎖系で行っても供給した酸素を反応系が吸収するため、反応槽の内圧が許容以上に上昇することなく、実施することができる。
【0054】
なお、酵素酸化反応は、バッチ式又は連続式の何れであってもよい。未反応の基質化合物と生成物を分離できる点でバッチ式が好ましい。目的とする生成物の種類にもよるが、バッチ式の場合の反応時間は、通常10分〜2時間程度とするのが好ましく、30分〜1時間程度とするのがより好ましい。
【0055】
なお、メラニン前駆体を製造する場合、あまりに長時間反応させると、生成したメラニン前駆体がさらに重合してメラニンとなるため、メラニン前駆体の収率が低下する。このため、メラニンの生成を抑制して高い収率でメラニン前駆体を取得するためには、反応終点を的確に把握することが好ましい。なお、反応終点は、実験例4に示すように、反応液中のpHの経時的変化をオンラインでモニターし、その傾向が切り替わった時点を指標として決定することができる。
【0056】
連続式の場合は、酸化酵素または酸化酵素を産生する微生物を含有する反応液を収容した反応容器に、10〜60mM程度、特に15〜40mM程度になるように基質化合物を供給しつつ、酸素を供給しながら、閉鎖系で反応を進め、反応液を連続的に回収することによって実施することができる。この場合、酸化酵素またはそれを産生する微生物として、固定化酵素または固定化微生物を使用することができる。
【0057】
なお、当該酵素酸化反応において、反応液は、基質化合物が溶解してなるものでもよいが、非溶解状態で含まれていることが好ましい。これは、基質化合物を反応液に完全に溶解するためには、強酸を用いて反応液のpHを1〜3に調整しなくてはならず、この場合、酵素反応前に再び強アルカリを用いて中和する必要があるからである。また、この場合、必然的に反応液中に無機塩類の含有量が増加することになり、これが生成されるメラニン前駆体の夾雑物となる。また反応液の調製に用いる水は、特に制限されないが、イオン交換水を用いることが好ましい。イオン交換水を用いることで、前述する反応液中の無機塩類の含有量をさらに減少させることができ、生成されるメラニン前駆体の夾雑物をより低減することができる。
【0058】
さらに酸化反応に使用する上記微生物は、微生物懸濁液の状態で用いることが好ましい。当該微生物懸濁液は、培養後、水、好ましくはイオン交換水での洗浄を繰り返すことによって調製することができる。具体的には、前述する微生物を常法により液体培養した後、培養液を遠心分離し培地を除去し、次いでこの微生物を水に懸濁して、再び遠心分離して上清を除去する。この最後の工程(水への懸濁および遠心分離による上清の除去)を繰り返すことにより微生物を洗浄する。斯くして得られた微生物を水、好ましくはイオン交換水に懸濁したものを微生物懸濁液とする。
【0059】
微生物懸濁液は、上記洗浄処理により電気伝導度が0.8 mS/cm以下になるように調整されることが好ましい。好ましくは0.73 mS/cm以下、更に好ましくは0.20〜0.50 mS/cmである。かかる電気伝導度を有するように調整した微生物懸濁液は、前述する酵素活性を充足することを条件として、通常、反応液の10容量%程度、若しくはそれ以下の割合で使用することができる。微生物懸濁液を反応液の10容量%を超えて配合する場合は、10容量%に換算した場合に、その電気伝導度が0.8 mS/cm以下になるように調整することが好ましい。このように洗浄した微生物を用いることで、反応液に培養液からの不純物の混入を減少させることができ、また微生物懸濁液の電気伝導度を0.8 mS/cm以下にすることで、得られるメラニン前駆体に含まれる5,6-ジヒドロキシインドールに対する5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸の量をHPLC分析による面積比において10/100以下、好ましくは9/100以下、より好ましくは6/100〜8/100まで低減させることができる。
【0060】
ちなみに微生物懸濁液の電気伝導度の測定は、微生物懸濁液を遠心分離し、得られた上清を慣用の電気伝導度計(例えば、電気伝導度計B-173:堀場製作所製)により測定することによって実施することができる。
【0061】
反応温度は、前述する酸化酵素またはそれを産生する微生物が基質化合物の酵素酸化反応を触媒できる範囲であればよく、特に限定されないが、通常15〜35℃程度を挙げることができる。好ましくは20〜30℃程度である。上記範囲内であれば、十分に酸化反応が進行するとともに、酸化酵素が失活し難いという利点がある。
【0062】
また反応液のpHは、前述する酸化酵素またはそれを産生する微生物が基質化合物の酵素酸化反応を触媒できる範囲であればよく、特に限定されないが、通常pH4〜9程度に維持することが好ましい。
【0063】
メラニン前駆体を製造する場合、基質化合物を効率よく酸化するとともに、メラニン前駆体の重合によるメラニン生成を抑えて、反応液中に収率良くメラニン前駆体を蓄積させる点から、通常pH5〜6程度、好ましくはpH5.3〜5.9程度に維持することが好ましい。反応液のpHは、緩衝液を用いて調整する方法もあるが、反応液中の塩濃度が高いと、生成したメラニン前駆体が重合してメラニン生成が促進される場合があるため、反応液に水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等のアルカリの水溶液、又は硫酸や塩酸等の酸の水溶液を添加することにより調整することが好ましい。アルカリとして好ましくは水酸化ナトリウム等の強アルカリの水溶液を、酸として好ましくは硫酸や塩酸等の強酸の水溶液を挙げることができる。
【0064】
反応液中のpHの調整は、具体的には、反応液のpHを、pH電極などのpH測定器を用いて連続的に測定し、反応液のpHが5を下回る場合にはアルカリを添加し、反応液のpHが6を上回る場合には酸を添加することで、実施することができる。より好ましくは、例えば図2や4に示すように、反応液3を収容した反応容器(反応槽)2に取り付けられたpH測定部6(pH電極に相当)で連続的に反応液3のpHが測定できるようにし、且つその測定値が反応液3へのアルカリ供給部4および酸供給部5に連動しており、反応液3のpHが5を下回る場合にはアルカリ供給部4からアルカリ水溶液が自動的に添加され、また反応液のpHが6を上回る場合には酸供給部5から酸水溶液が自動的に添加されることで、常に反応液のpHがpH5〜6の範囲内になるように、制御部17により制御されていることが好ましい。なお、pHの測定には、例えば水素電極、キンヒドロン電極、アンチモン電極、ガラス電極またはガラス複合電極を使用することができる。また、pH制御には自動制御機能がついているpH制御装置を使用することができる。
【0065】
かかる酵素酸化反応により、前述するDOPAまたはその類縁体が酸化されて、メラニン前駆体を製造することができる。ここでメラニン前駆体としては、メラニンの構成モノマー(例えば、ドーパクロム、5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸、5,6-ジヒドロキシインドール、5,6-ジヒドロキシインドリン、5,6-ジヒドロキシインドリン-2-カルボン酸など)、並びにこれらのモノマーが2〜5分子程度重合してなる水溶性オリゴマーまたはそれらの化合物を少なくとも2以上含む混合物を挙げることができる。好ましくはドーパクロム、5,6-ジヒドロキシインドール、および5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸である。
【0066】
なお、本発明においてメラニン前駆体とは、上記化合物の少なくとも1種を意味し、1種単独の化合物であっても、2種以上を含む混合物であってもよい。
【0067】
基質化合物としてDOPAを用いる場合、反応終了後の溶液はpH6〜pH9の範囲になるように調整し、不活性ガス雰囲気下で保存することが好ましい。この場合、上記酵素反応により基質化合物(DOPA)が酸化されてドーパクロムが生成するが、上記保存条件下で、ドーパクロムから、非酵素的な異性化反応により5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸または5,6-ジヒドロキシインドールが生成する。通常、この反応は24時間以内に完了する。ここで不活性ガスとして、窒素ガス、アルゴンガス等が利用できる。これにより、5,6-ジヒドロキシインドールを主要成分とし、5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸を含むメラニン前駆体含有溶液を得ることができる。なお、5,6-ジヒドロキシインドールや5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸は、空気と接触することで容易に酸化されてメラニンになるため、取り扱いは不活性ガス雰囲気下で行う必要がある。
【0068】
(F)メラニン前駆体の回収
斯くして調製されたメラニン前駆体を含む反応液には、メラニン前駆体のほかに、使用した酸化酵素又は微生物、更には通気及び撹拌により細胞が破損して生じたタンパク質又は細胞から流出したタンパク質や、メラニン前駆体が重合したメラニンも含まれる。従って、必要に応じて、反応液からメラニン前駆体以外の成分を除去してもよい。例えば酸化酵素や微生物細胞の除去は、限外ろ過等のろ過、遠心分離等の手段により行うことができる。また、タンパク質やメラニンの除去は、限外ろ過、ゲルろ過クロマトグラフィー等の手段により行うことができる。
【0069】
なお、調製されたメラニン前駆体は、必要に応じてさらに、(i)pH調整処理、(ii)水溶性有機溶媒の添加、(iii)無機塩の添加、(iv)緩衝液による処理、(v)酸化防止剤の添加等の処理を行ってもよい。かかる処理を行うことで、メラニン前駆体溶液中の5,6-ジヒドロキシインドール及び5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸のいずれかの濃度を高めることができる。これらの処理は、2種以上を組み合わせて用いてもよく、特に上記(i)pH調整時に(ii)〜(v)のいずれか1以上を組み合わせると、より効率的に5,6-ジヒドロキシインドール及び5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸の濃度を高めることができる。
【0070】
また、メラニン前駆体含有溶液は、さらに必要に応じて、逆浸透膜濃縮、スプレードライ、凍結乾燥、減圧濃縮等の公知の方法で水分を除去するか又は乾燥することで、濃縮状態または乾燥状態(乾燥粉末)に調製することもできる。また、メラニン前駆体含有溶液にそのまま、または濃縮後、防腐を目的としてエタノール等の低級アルコールを添加することもできる。
【0071】
なお、この場合、エタノールの濃度が高いほど、高い防腐効果が得られる反面、メラニン前駆体含有溶液中に含まれ得る無機塩類の溶解度が低下し、低温保管時の不溶物析出の可能性が高まる。これを考慮すると、好ましいエタノール濃度は18〜22重量%である。この範囲でエタノールを含むことによって不溶物の析出防止と防腐効果を同時に満たすことができる。より好ましくは19〜21重量%、最も好ましくは20重量%程度である。なお、当該メラニン前駆体含有溶液には、本発明の効果が妨げられない限りにおいて、水およびエタノール以外の極性溶媒が含まれていてよい。かかる極性溶媒としては、例えばメタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール等の炭素数1〜6の低級アルコール、およびアセトン等を挙げることができる。
【0072】
メラニン前駆体含有溶液は、制限されないが、それに含まれるメラニン前駆体(好ましくは、5,6-ジヒドロキシインドール)の濃度が、好ましくは0.8〜1.2重量%、より好ましくは0.9〜1.1重量%、さらに好ましくは1重量%程度になるように調整されることが好ましい。かかる5,6-ジヒドロキシインドールの含有量は、HPLC分析法で、5,6-ジヒドロキシインドール標準品を用いて、絶対検量線法により測定(定量)することができる。
【0073】
またメラニン前駆体含有溶液は、塩化物イオン濃度が300ppm以下になるように調整することが好ましい。塩化物イオン濃度を300ppm以下にすることで、これを金属製の容器に収納した場合でも金属を腐食させる危険性を低下させることができる。好ましくは100ppm以下、より好ましくは20〜60ppmである。当該塩化物イオン濃度は、HPLC分析法により測定することができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実験例を挙げる。しかし、本発明はこれらの実験例になんら限定されるものではない。
【0075】
なお、下記の実験例1〜3に使用した微生物懸濁液の調製方法、反応液中のL-DOPAおよびドーパクロムの定量方法を下記に示す。
【0076】
参考例1 微生物懸濁液の調製
(1)カテコールオキシダーゼ産生微生物(melB産生酵母)の調製
カテコールオキシダーゼとしてチロシナーゼ(melB)、微生物として酵母(Saccharomyces cerevisiae)を用いて、カテコールオキシダーゼ産生微生物を調製した。なお、チロシナーゼ(melB)は麹菌Aspergillus oryzaeから単離された酵素である(特許第3903125号公報)。そのアミノ酸配列、並びにそれをコードするmelB遺伝子のクローニング方法およびその塩基配列も、上記特許第3903125号公報に記載されている。
【0077】
(a)チロシナーゼ遺伝子(melB遺伝子)のクローニング
特許第3903125号公報の記載に従って、麹菌Aspergillus oryzaeからmelB遺伝子をクローニングした。具体的には、麹菌Aspergillus oryzae OSI-1013株(受託番号FERM P-16528、平成9年11月20日に日本国茨城県つくば市東1-1-1 つくばセンター 中央第6に住所を有する独立行政法人産業技術総合研究所・特許生物寄託センター(旧:工業技術院生命工学工業技術研究所・特許微生物寄託センター)に寄託)を蒸米に接種し、製麹した麹を1.5g秤量し、液体窒素中で完全に破砕した。日本ジーン社製ISOGENを用いて、これから240μgの全RNAを抽出した。120μgの全RNAからタカラバイオ株式会社製Oligotex-dT30<Super>を用いて、1μgのmRNAを精製した。このmRNAを、Clontech社製SMART cDNA Library Construction KitによりcDNAライブラリーを作成し、PCRによりmelB cDNAのみを増幅した。得られたPCR産物はアガロースゲル電気泳動で、目的の約1.8Kbpのバンドのみが増幅されていることを確認した。また、塩基配列解析の結果、正常にイントロン配列が取り除かれていることも確認した。なお、特許第3903125号公報の配列番号2に記載されているmelB遺伝子の塩基配列のうち、1〜1436番目の塩基配列はプロモーター領域、3636〜4174番目の塩基配列はターミネーター領域に相当し、1437〜3635番目の塩基配列は、melB cDNAに相当するコーティング領域に相当する。
【0078】
(b)酵母への組み込み
上記(a)で得られたmelB cDNAを、酵母Saccharomyces cerevisiae用発現ベクター(特開2003-265177号公報)に発現可能な状態で接続した。具体的には、特開2003-265177号公報の記載に準じて、SED1プロモーターとADH1ターミネーターを持つ上記発現ベクターのプロモーター直下のSmaI部位に、上記(a)で取得したmelB cDNAを挿入した。URA3マーカー内部に存在するStuI部位で切断することにより得られるmelB cDNAを含む断片を導入用カセットとして精製した。
【0079】
これを定法に従って、酵母(Saccharomyces cerevisiae)に導入し、melB産生酵母を調製した。なお、酵母は、清酒の醸造に用いられる実用酵母・協会9号由来のウラシル要求性株については、日本醸造教会から入手できる清酒の醸造に用いられる実用酵母・協会9号の5−フルオロオロチジン酸耐性を利用した公知の陽性選択方法により取得することができる。
【0080】
(2)微生物懸濁液の調製
上記で得られたmelB産生酵母(組換え酵母)を常法に従って培養し、遠心分離によって菌体を回収し、蒸留水で洗浄した。次いで、菌体(湿重量約100mg)に0.1mMの硫酸銅を含む水溶液1mLを加え、40℃で20分間保持した。その後、遠心分離により菌体を回収し、これを50mMの酢酸緩衝液(NaOAc-HCl)(pH3.0)1mLに懸濁し、室温で10分間静置した。その後、遠心分離により菌体を回収し、過剰な銅イオンを除去するため、20mMのEDTA溶液(KOHを使用してpH5に調整)で洗浄し、遠心分離して菌体を回収した。斯くして活性化処理された菌体を水1mLに懸濁して、これを微生物懸濁液とした。
【0081】
参考例2 L-DOPAおよびドーパクロムの定量
(1)試験液の処理
測定する試験液の遠心上清0.5mlと3%(w/v)アスコルビン酸ナトリウム水溶液0.5mlを混和する。本溶液を65℃で15分間加熱後、0.1%(w/v)りん酸水溶液9.0mlを添加してよく混ぜる。かかる処理により、試験液中に含まれているドーパクロムは全量5,6―ジヒドロキシインドールに変換され定量することができる。
【0082】
(2)HPLC分析
斯くして調製した試験液の遠心上清を下記条件のHPLCに供し、標準化合物(L-DOPA:和光純薬社製、5,6―ジヒドロキシインドール:BIO SYNTH社製)で作成した検量線から、反応液中のL-DOPAおよびドーパクロムの濃度を測定する。
【0083】
<HPLC条件>
HPLC装置:Waters社製HPLC Alliance2695-2996
カラム:Waters社製SunfireC18(4.6×150mm)
移動相:A液−1.5%(w/v)リン酸溶液、B液−99.9%メタノール(B液が初発0%、5分後に50%となるようにグラジエントを設定)
試験液注入量:10μl
流速:1.0ml/min
検出:極大吸収波長である280nmにおける吸光度でモニター。
【0084】
実験例1 開放系反応
以下、図2に示す反応システムの概略図を参考にして説明する。
【0085】
(1)反応システムの説明
当該反応システム1は、反応液3を収容した反応槽2、反応液にアルカリを供給するアルカリ供給部4、反応液3に酸を供給する酸供給部5、反応液3のpHをモニターするpH測定部6、酸素供給部11、反応槽2からの排気を制御する排気バルブ14を少なくとも備えている。ここでアルカリ供給部4と酸供給部5はpH測定部6と連動しており、反応液3のpHが常に5〜6、好ましくはpH5.3付近に維持されるように、制御部17によりオンラインでコントロールされている。すなわち、反応液3のpHが5より低くなる場合はアルカリ供給部4からアルカリ水溶液が自動添加されて反応液3のpHが5.3付近になるように調整され、逆に反応液3のpHが6より高くなる場合は酸供給部5から酸水溶液が自動添加されて反応液3のpHが5.3付近になるように調整される。なお、ここでは、アルカリ水溶液として6Nの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を、酸水溶液として3Nの硫酸水溶液を使用した。
【0086】
反応槽2は、上面が気密または液密性の開閉蓋で覆われているが、少なくともアルカリ供給部4、酸供給部5、酸素供給部11および排気バルブ14と開閉可能な状態で連結している。
【0087】
(2)上記反応システムを使用した酸化反応
pH測定部6を備えた10L容量の反応槽2に、イオン交換水2.7L、L-DOPA48gを仕込み、アルカリ供給部4から6NのNaOH水溶液を添加して、反応液のpHを5.3付近になるように調整した。これに参考例1に記載する方法で調製した微生物懸濁液0.3L(酵素活性1,080kU)を添加して、反応を開始した(反応液3の総量3L)。反応は、反応液3の温度を25℃前後に調整し、酸素供給部11から純酸素を1L/minの割合で供給しながら、撹拌下(400rpm)で行った。また排気バルブ14は開放し、排気口を通じて反応槽2と空気が連通する状態で反応を行った(開放系反応)。なお、前述するように、反応は、反応液3のpHが5.3付近になるように、アルカリ供給部4から6NのNaOH水溶液の添加が、また酸供給部5から3NのH2SO4水溶液の添加が、自動制御されている。
【0088】
なお、図2において、圧力調整部12は、酸素供給部11から供給される酸素の圧力を段階的に減圧するための調整部である。なおここでは、酸素供給部11の圧力(数十MPa)をまず0.5MPa程度に大まかに減圧し、装置に入る前に、さらに0.2MPa程度まで減圧した。反応槽2への酸素供給は、反応液3中の溶存酸素濃度(DO)および流量計15をみながら、ニードルバルブ13の開閉を調節して行った。圧力計16を確認することで、反応槽2への酸素過剰供給が防止される。また反応終了時に内圧を確認することで、安全に作業を行うことができる。
【0089】
図3に、純酸素を通気(1L/min)しながら酸化反応を行った反応液について、液面の位置と泡面の位置を経時的に測定した結果を示す。
【0090】
空気供給を酸素供給に変更することで、反応初期(反応開始から10分間程度まで)の発泡を抑制することが出来た。しかし、抑制できるのは反応前半までで、反応後半になると泡が発生し出し、またその泡は経時的に増加した。なお、酸素供給の反応系において反応開始から12分目と18分目に消泡剤(アデカネートB-3022:株式会社ADEKA製)を0.5mL添加したが、持続的な消泡効果は認められなかった。
【0091】
実験例2 開放系反応/酸素供給制御
図4に示す反応システムの概略図を参考にして説明する。
(1)反応システムの説明
当該反応システム1は、反応液3を収容した反応槽2、反応液にアルカリを供給するアルカリ供給部4、反応液に酸を供給する酸供給部5、反応液のpHをモニターするpH測定部6、反応液の溶存酸素を測定する溶存酸素測定部7、撹拌部8、酸素供給部11、反応液への酸素供給量を測定する流量計15および反応槽2からの排気を制御する排気バルブ14を少なくとも備えている。
【0092】
ここでアルカリ供給部4と酸供給部5はpH測定部6と連動しており、反応液のpHが常に5〜6、好ましくはpH5.3付近に維持されるように、制御部17によりオンラインでコントロールされている。すなわち、反応液3のpHが5より低くなる場合はアルカリ供給部4からアルカリ水溶液が自動添加されて反応液3のpHが5.3付近になるように調整され、逆に反応液3のpHが6より高くなる場合は酸供給部5から酸水溶液が自動添加されて反応液3のpHが5.3付近になるように調整されている。なお、ここでは、アルカリ水溶液として6NのNaOH水溶液を、酸水溶液として3Nの硫酸水溶液を使用した。
【0093】
また、反応液3の溶存酸素濃度が1ppmを下回らないように、酸素供給部11からの酸素供給速度および撹拌部8の撹拌速度を調整しながら行った。
【0094】
なお、反応槽2は、上面が気密または液密性の開閉蓋で覆われているが、少なくともアルカリ供給部4、酸供給部5、酸素供給部11および排気バルブ14と開閉可能な状態で連結している。
【0095】
(2)上記反応システムを使用した酸化反応
pH測定部6および溶存酸素測定部7を備えた10L容量の反応槽2に、イオン交換水2.7L、L-DOPA48gを仕込み、アルカリ供給部4から6NのNaOH水溶液を添加して、反応液のpHを5.3付近になるように調整した。これに参考例1に記載する方法で調製した微生物懸濁液0.3L(酵素活性1,080kU)を添加して、反応を開始した(反応液3の総量3L)。反応は、反応液3の温度を25℃前後に調整し、また反応液3の溶存酸素濃度が1ppmを下回らないように、酸素供給部11からの酸素供給速度および撹拌部8の撹拌速度を調整しながら行った。また排気バルブ14は開放し、排気口を通じて反応槽2と空気が連通する状態で反応を行った(開放系反応)。なお、前述するように、反応は、反応液のpHが5.3付近になるように、アルカリ供給部4から6NのNaOH水溶液の添加が、また酸供給部5から3NのH2SO4水溶液の添加が、自動制御されている。
【0096】
図4において、圧力調整部12は、酸素供給部11から供給される酸素の圧力を段階的に減圧するための調整部である。ここでは、酸素供給部11の圧力(数十MPa)をまず0.5MPa程度に大まかに減圧し、装置に入る前に、さらに0.2MPa程度まで減圧した。反応槽2への酸素供給は、反応液3中の溶存酸素濃度(DO)および流量計15をみながら、ニードルバルブ13の開閉を調節して行った。圧力計16を確認することで、反応槽2への酸素過剰供給が防止される。また反応終了時に内圧を確認することで、安全に作業を行うことができる。
【0097】
図5(A)に、反応開始から40分間にわたる反応における酸素供給速度(L/min)(図中「―○―」で示す)と撹拌速度(rpm)(図中、「−−」で示す)の経時的変化を、また図5(B)に反応液の溶存酸素濃度(DO)(ppm)の経時的変化を示す。
【0098】
なお、本実験では溶存酸素測定部7として溶存酸素計を付帯している10L容量の反応槽2(丸菱バイオエンジ社製(MDL-8C))を使用した。また電極として、東亜DKK社製ガルバニ型溶存酸素電極(OX-3200またはOE-8PT2)を使用した。電極は、予め、無酸素液(飽和亜硫酸ナトリウム溶液)に浸して0に合わせ、次いで十分に酸素を通気した純水中に浸して指示値が安定したら飽和DO値(100%)に設定したものを使用した。これにより、反応液中の溶存酸素飽和渡(%)を測定することができる。
【0099】
また図6に、反応液の液面の位置と泡面の位置を経時的に測定した結果を示す。
【0100】
この結果からわかるように、反応中盤から後半にかけて撹拌速度と酸素供給速度を低く抑えることで、反応後半にみられる泡の発生(実験例1参照)が抑制できることが確認された。しかし、発泡のため最大で仕込み量の1.5倍まで液面が上昇したことから、開放系においては反応液の量(仕込み量)を反応槽の容積の6割程度に抑える必要があることが判明した。
【0101】
図7に、反応開始から40分間の反応における反応液中のL-DOPA(基質化合物)(図中、「―◇―」で示す)およびドーパクロム(メラニン前駆体)(図中、「―□―」で示す)の濃度変化(mM)を示す。なお、反応液中のL-DOPAおよびドーパクロムの定量は参考例2に記載する方法で行った。図7の結果から、反応開始から15分くらいで反応液中のL-DOPAがほぼ完全に消費され、その酸化物であるドーパクロムの生成量(反応液中のドーパクロムの蓄積量)が最大になることが分かる。すなわち、この結果から、この反応系では約15分でL-DOPAの酸化反応が終了することがわかる。また、図5(B)の結果から、反応液の溶存酸素濃度が過剰であっても、L-DOPAからドーパクロムへの酸化反応並びに反応液の起泡化に特に悪影響しないことが確認された。
【0102】
実験例3 閉鎖系反応/酸素供給制御
実験例2で使用した図4に示す反応システムと同様の反応システムを用いて、酸素反応を行った。
【0103】
具体的には、pH測定部6および溶存酸素測定部7を備えた30L容量(実測容積31.9L)の反応槽2に、イオン交換水23L、L-DOPA324gを仕込み、アルカリ供給部4から6NのNaOH水溶液を添加して、反応液のpHを5.3付近になるように調整した。これに参考例1に記載する方法で調製した微生物懸濁液4.05L(酵素活性14,580kU)を添加して、反応を開始した(反応液3の総量27L)(反応槽2の実測容積の約85容量%に相当)。反応は、反応液3の温度を25℃前後に調整し、また反応液3の溶存酸素濃度が1ppmを下回らないように、酸素供給部11からの酸素供給速度および撹拌部8の撹拌速度を調整しながら行った。また排気バルブ14は全閉し、反応槽からの空気の流出および反応槽への空気の流入をすべて遮断し、閉鎖状態で反応を行った(閉鎖系反応)。なお、実験例2と同様に、反応は、反応液のpHが5.3付近になるように、アルカリ供給部4から6NのNaOH水溶液の添加が、また酸供給部5から3NのH2SO4水溶液の添加が、自動制御されている。
【0104】
閉鎖系で反応することで、反応槽容積の85%仕込みでも発泡による反応液の噴出を気にすることなく反応を遂行することが可能となり、反応経過にも特に問題は見られなかった。
【0105】
図8に、反応開始から40分間の反応における反応液中のL-DOPA(基質化合物)(図中、「―◇―」で示す)およびドーパクロム(メラニン前駆体)(図中、「―□―」で示す)の濃度変化(mM)を示す。なお、反応液中のL-DOPAおよびドーパクロムの定量は参考例2に記載する方法で行った。図8の結果から、反応開始から10分くらいで反応液中のL-DOPAがほぼ完全に消費され、その酸化物であるドーパクロムの生成量(反応液中のドーパクロムの蓄積量)が最大になることが分かる。すなわち、この結果から、この反応系では約10分でL-DOPAの酸化反応が終了することがわかる。
【0106】
生成したドーパクロムは、酸素の存在下で酸化重合してメラニンが生成する。このため、メラニン生成を抑制するために、反応終了時に速やかに反応液中の溶存酸素量がゼロになるように酸素供給量をコントロールした。
【0107】
図9に、反応開始から40分間にわたる反応における酸素供給速度(L/min)(図中、「―○―」で示す)と酸素累積供給量(mol)(図中、「―■―」で示す)の経時的変化を、図10に反応槽2内の圧力(MPa)の経時的変化を、図11に反応液3の溶存酸素濃度(ppm)の経時的変化をそれぞれ示す。
【0108】
なお、図9に示すように、13分の時点で酸素を再供給し、反応液中に残存するDOPAを完全に酸化させた。図10の13分以降に見られる槽内圧力の増加および図11の13分以降に見られる反応液中の溶存酸素量の増加はこの影響によるものである。
【0109】
以上のことから、閉鎖系かつ増液した反応であっても、溶存酸素濃度と槽内圧力を指標にすることで、実験例2で行った開放系反応と同等の反応結果を得られることが可能となった。
【0110】
以上、実験例1〜3の結果から、酵素酸化反応を酸素供給の下、閉鎖系で行うことで、反応中の発泡を抑制することができ、その結果、反応液の仕込量を反応槽容積の90容量%程度、好ましくは85容量%程度まで増やすことができることが確認できた。従来の反応液の仕込量は反応槽容積の60容量%程度であることから、本発明の方法によれば、一度の反応操作で大量処理が可能になり、その結果、目的生成物を効率よく製造することができることがわかる。また、本発明によれば、発泡の影響は無視できるため、消泡剤を使用する必要がない。
【0111】
なお、目的生成物が、実験例1〜3に示すようにドーパクロム等のメラニン前駆体である場合、これらは酸素の存在下で、反応液中で酸化重合してメラニンに変換されてしまう。このため、本発明の酵素酸化反応を用いてメラニン前駆体を製造する場合は、反応終了を的確に見極めて、その時点で速やかに反応液中の溶存酸素量がゼロになるように酸素供給量をコントロールする必要がある。
【0112】
以下、実験例4において、本発明の製造方法(酵素酸化反応)を用いて、L-DOPA(基質化合物)からメラニン前駆体を製造する方法において、反応終了時を見極める方法について説明する。
【0113】
実験例4 反応液のpHをモニターする方法
図2に示す反応システムの概略図を参考にして説明する。
【0114】
この例においては、実験例1に示すように、反応槽3に設けられたpH測定部6により、反応液3のpHが連続的に測定されて、経時的に反応液3のpHがモニタリングされているとともに、その結果が、制御部17によりアルカリ供給部4と酸供給部5と伝達され、その結果、アルカリ供給部4からの反応液へのアルカリ水溶液の供給および酸供給部5からの反応液への酸水溶液の供給が制御されている。
【0115】
pH測定部6を備えた30L容量の反応槽2に、イオン交換水23.4L、L-DOPA324gを仕込み、アルカリ供給部4から6NのNaOH水溶液を添加して、反応液のpHを5.3付近になるように調整した。これに参考例1に記載する方法で調製した微生物懸濁液4.05L(酵素活性1,400kU)を添加して、反応を開始した(反応液3の総量27L)。反応は、反応液3の温度を25℃前後に調整し、酸素供給部11から酸素を10L/minの割合で供給しながら、撹拌下(400rpm)で行った。また排気バルブ14は全閉し、閉鎖系(密閉系)で反応を行った。なお、前述するように、反応は、反応液のpHが5.3付近になるように、アルカリ供給部4から6NのNaOH水溶液の添加が、また酸供給部5から3NのH2SO4水溶液の添加が、自動制御されている。
【0116】
図12(A)に、反応液のpHをpH測定部6で経時的に測定した結果(pHの経時的変化)と、反応液3へのNaOH水溶液とH2SO4水溶液の添加状況を示す。これからわかるように、反応開始から10分までは、反応液3のpHが低下傾向にあるためNaOH水溶液が自動添加されている。このとき、NaOH水溶液を添加すると一時的に反応液のpHは上昇するが直ちにpH5.3より低くなることがわかる。これを繰り返していくと反応開始から10〜12分くらいで、NaOH水溶液を添加してもpHが低くならず、12〜13分くらいで逆にpHが上昇する傾向を示し出す(図12(A)参照)。この時点で、アルカリ供給部4からのNaOH水溶液の供給から酸供給に切り替わり、酸供給部5から3NのH2SO4水溶液が添加される。
【0117】
図12(B)に反応開始から40分間の反応において、反応時間と6NのNaOH水溶液(―□―)および3NのH2SO4水溶液(―○―)の添加量(累積量)の関係を示す。この結果から、反応の前半(本実施例では反応開始から10〜12分位まで)は反応液のpHが下降する傾向があるためpH5.3付近に維持するにはアルカリ水溶液の添加が必要であるのに対して、反応の後半(本実施例では反応12〜13分以後)は反応液のpHが上昇する傾向にあるためpH5.3付近に維持するには酸水溶液の添加が必要であることがわかる。
【0118】
図13に、反応開始から40分間の反応における反応液中のL-DOPA(基質化合物)(図中、「―◇―」で示す)およびメラニン前駆体であるドーパクロム(図中、「―□―」で示す)の濃度変化(mM)を示す。なお、反応液中のL-DOPAおよびドーパクロムの定量は参考例2に記載する方法で行った。図13の結果から、反応開始から10分くらいで反応液中のL-DOPAがほぼ完全に消費され、かつドーパクロムの生成量(反応液中のドーパクロムの蓄積量)が最大になることが分かる。
【0119】
すなわち、この結果から、反応液にアルカリまたは酸を供給して反応液のpHを5.3付近に維持するように制御した反応システムにおいて、反応液のpHの経時的変化をモニターすることで反応終点が判断できること、具体的には反応液のpH低下が上昇に転じ、反応液へのアルカリ供給が酸供給に切り替わることを反応終点の指標とすることができることが分かる。従って、高い収率でメラニン前駆体(ドーパクロム)を取得するためには、この時点で、反応液の溶存酸素量がゼロになるように酸素供給量をコントロールすることが好ましい。
【符号の説明】
【0120】
1.反応システム
2.反応槽
3.反応液
4.アルカリ供給部
5.酸供給部
6.pH測定部
7.酸素溶存量測定部(DO測定部)
8.撹拌部
11.酸素供給部
12.圧力調整部
13.ニードルバルブ
14.排気バルブ
15.流量計
16.圧力計
17.制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素を用いた酸化反応を利用して、発泡を抑えながら反応槽容積を有効に利用してメラニン前駆体を効率的に製造する方法に関する
【背景技術】
【0002】
メラニン前駆体は、空気中の酸素による酸化反応により重合しメラニン色素に変換することが知られており、これを利用して空気酸化型染毛剤等の色素成分として使用されている。
【0003】
かかるメラニン前駆体の製造方法としては、化学合成反応による方法があるが、副反応による収率の低下、目的反応生成物の単離に要する時間的負担、反応溶剤の残留による安全性や環境への悪影響が懸念されるなどといった問題がある。一方、酵素反応によりメラニン前駆体を製造する方法としては、例えば特許文献1に、チロシンや3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)アラニン(以下、単に「DOPA」ともいう。)等の基質化合物を、カテコールオキシダーゼ活性を示す細胞を用いて酸化してメラニン前駆体に変換する方法が記載されており、かかる方法によれば、上記化学合成反応の場合に生じる問題がなく、比較的効率よくメラニン前駆体が取得できる。
【0004】
かかる酵素酸化反応を進行させるためには、酸素の供給が必須である。反応速度が遅いと基質化合物の残存を招き、また反応が進みすぎると一旦生成したメラニン前駆体が更に酸化重合してメラニンに変換されるため、いずれも目的とするメラニン前駆体の収率が低下するという問題が生じる。このため、メラニン前駆体を効率よく高い収率で製造するためには、酸素の供給を適度にコントロールすることが重要である。
【0005】
一般に、酵素酸化反応において酸素を供給する方法として、反応液を撹拌する方法、反応液中に積極的に通気(空気供給)する方法、または両者を併用する方法が用いられる。しかしながら、いずれの方法も反応液を発泡させる要因となる。一旦反応液に生じた泡は徐々に増加するため、泡を含めた反応液の液面(泡面)は反応とともに上昇する。このため、通常特許文献2または非特許文献1に記載のように、反応槽に仕込む反応液の量は、反応槽容積の6割程度に調整するのが常識となっている。
【0006】
反応時の発泡を抑制する方法として、消泡剤が広く使用されている。しかしながら、消泡剤は一時的には効果があるもの、持続的な効果は認められず、また多量に使用すると、生成したメラニン前駆体の精製に支障が生じる場合がある。
【0007】
このため、酵素酸化反応において酸素を供給しながらも発泡を抑制し、反応槽容積を有効に利用してメラニン前駆体を効率よく製造するための方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−158304号公報
【特許文献2】特許第3526602号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】生物工学実験書(培風館、1992年、第216頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、酵素を用いた酸化反応を利用して、発泡を抑えながらも効率的にメラニン前駆体を製造する方法を提供することを目的とする。より詳細には、本発明は、酵素を用いた酸化反応において、反応中に生じる発泡を抑えることで反応槽への仕込み量を増大可能とし、反応槽容積を有効に利用して大容量で効率よく目的のメラニン前駆体を製造するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を進めていたところ、基質化合物としてDOPA等を用いて酵素酸化反応するにあたり、通気に酸素(純酸素)を用いることにより発泡が有意に抑制できること(実験例1)、また閉鎖系で反応液に酸素(純酸素)を通気しながら反応を行うことで、発泡が有意に抑制できるとともに、生じた発泡による液面/泡面の上昇による影響(例えば、反応槽からの反応液の漏洩等)も無視できること(実験例3)を見出し、その結果、反応槽に仕込む反応液の量を、従来6割程度が限度であったものを、9割程度まで増大可能であり、上記目的に適ったメラニン前駆体の製造方法が提供できることを確認した。
【0012】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施態様を包含するものである。
(I-1)DOPA及びその類縁体からなる群から選択される少なくとも1種の基質化合物、及び酸化酵素またはこの酵素を含む微生物を含有する反応液に酸素、好ましくは純酸素を供給しながら、閉鎖系で酸化反応を行うことを特徴とする、メラニン前駆体の製造方法。
(I-2)上記酸化酵素がカテコールオキシダーゼ活性を有する酵素である、(I-1)記載の製造方法。
(I-3)上記カテコールオキシダーゼ活性を有する酵素がチロシナーゼである、(I-2)記載の製造方法。
(I-4)上記メラニン前駆体が、ドーパクロム、5,6-ジヒドロキシインドールカルボン酸、若しくは5,6-ジヒドロキシインドール、またはこれらの化合物を2種以上含む混合物である(I-1)乃至(I-3)に記載する製造方法。
(I-5)反応液中の溶存酸素量が常時1ppm以上になるように、言い換えると1ppmを下回らないように、酸素を供給することを特徴とする、(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載する製造方法。
(I-6)反応液を、反応容器にその容積70容量%以上の割合で収容し、酸化反応を行うことを特徴とする(I-1)乃至(I-5)のいずれかに記載する製造方法。
(I-7)反応液の発泡を抑制しながら基質化合物を酸化する方法である、(I-1)乃至(I-6)のいずれかに記載する製造方法。
【0013】
なお、上記基質化合物を用いて酵素酸化反応を利用してメラニン前駆体を製造する場合、酸素供給しすぎて酸化反応が進みすぎると、生成したメラニン前駆体が重合してさらにメラニンに変換されてしまう。このため、メラニン前駆体の製造を目的とする場合は、反応液に酸素を供給しながら閉鎖系で酸化反応するにあたり、反応終点を見極めながら、酸素供給をコントロールする必要がある。
【0014】
本発明者らは、かかる観点から鋭意検討しているなかで、上記反応において反応液のpHを経時的に測定し、反応液中の基質化合物(DOPAまたはその類縁体)の残留量とメラニン前駆体の生成量との関係をみたところ、反応液のpH低下が上昇に転じる時点と、反応液中の基質化合物の残留量がなくなりメラニン前駆体の生成量が最大になる時点、すなわち反応終点とがほぼ一致することを見出し、反応液のpH低下が上昇に転じる時点を指標とすることで上記酵素酸化反応の終点が決定できることを確認した。
【0015】
この点から、本発明は下記に掲げる実施形態をも包含する。
(I-8)下記(1)及び(2)の工程を有するメラニン前駆体の製造方法であって、
(1)反応液にアルカリまたは酸を供給して反応液のpHを5〜6に維持する工程、
(2)反応液のpHを連続して測定し、測定値の経時的変化をモニターする工程;
pHの経時的変化の傾向の切り替わりを反応終了の指標として、酸素の供給を停止することを特徴とする、
(I-1)乃至(I-7)のいずれかに記載する製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、酵素酸化反応において従来より問題となっていた発泡を持続的に抑制することができ、仕込液量を増やしながらも発泡による反応液の漏洩を防止することができる。このため、発泡による反応液面/泡面の上昇を考慮する必要がなく、反応容器(反応槽)への仕込み量を反応容器の容積の最大9割程度まで増やすことができる。このため、本発明の方法によれば、酵素酸化反応を利用して、反応槽容積を有効に利用して一回の処理で従来より多量の処理ができるため、効率よくメラニン前駆体を製造することができる。
【0017】
また、本発明によれば、発泡の影響を無視することが出来るため、消泡剤を使用しないですむか、または消泡剤の使用量を低減することができる。その結果、消泡剤による悪影響(例えば、生成物への消泡剤混入による影響、消泡剤除去による生成物収率の低下など)を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】DOPAを基質化合物とするメラニン前駆体(ドーパクロム、5,6-ジヒドロキシインドールカルボン酸、5,6-ジヒドロキシインドール)およびメラニンの生合成経路を示す図である。
【図2】実験例1で使用した反応システムの概略図である。具体的には、反応液3に通気しながら酵素酸化反応を行う反応システムの概略図である。ここでは反応槽2に設けられたpH測定部6が、アルカリ供給部4および酸供給部5と連動しており、反応液のpHが5〜6になるようにオンラインで制御部17によりコントロールされている(実験例1)。
【図3】実験例1において、図2に示す反応システムを用いて、酸素(純酸素)を反応液に通気して酵素酸化反応させた際の、液面および泡面の位置を経時的に示した図である。
【図4】実験例2で使用した反応システムの概略図である。具体的には、反応液3に通気しながら酵素酸化反応を行う反応システムの概略図である。ここでは反応槽2に設けられたpH測定部6が、アルカリ供給部4および酸供給部5と連動しており、反応液のpHが5〜6になるようにオンラインで制御部17によりコントロールされている。また酸素供給部11と撹拌部8が、反応液3の溶存酸素測定部7と連動しており、反応液3の溶存酸素が1ppmを下回らないように、酸素供給速度(酸素供給量)及び撹拌速度がオンラインでコントロールされている(実験例2)。
【図5】実験例2の結果を示す。(A)は、反応開始から40分間にわたる反応における酸素供給速度(L/min)と撹拌速度(rpm)の経時的変化を、(B)は反応液3の溶存酸素濃度(ppm)の経時的変化を示す。
【図6】実験例2において、反応液の液面の位置と泡面の位置を経時的に測定した結果を示す。
【図7】実験例2の酵素酸化反応において、反応開始から40分間の反応における反応液中のL-DOPA(基質化合物)およびドーパクロム(メラニン前駆体)の濃度(mM)の経時的変化を示す。
【図8】実験例3の酵素酸化反応において、反応開始から40分間の反応における反応液中のL-DOPA(基質化合物)およびドーパクロム(メラニン前駆体)の濃度(mM)の経時的変化を示す。
【図9】実験例3に酵素酸化反応において、反応開始から40分間にわたる反応における酸素供給速度(L/min)と酸素累積供給量(mol)の経時的変化を示す。
【図10】実験例3に酵素酸化反応における、反応槽2内の圧力(MPa)の経時的変化を示す。
【図11】実験例3に酵素酸化反応における、反応液3の溶存酸素濃度(ppm)の経時的変化を示す。
【図12】実験例4の結果を示す。(A)反応液へのアルカリ(6N NaOH水溶液)および酸(3N H2SO4水溶液)添加の状況と、反応液のpHの経時的変化を示す図である。(B)反応液へのアルカリ添加量(累積量)(mL)および酸添加量(累積量)(mL)を、反応開始から40分間にかけて経時的に示した図である。
【図13】実験例4の酵素酸化反応において、反応液中の基質化合物L-DOPA(基質化合物)の残存量とドーパクロム(メラニン前駆体)の生成量を経時的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(A)基質化合物
本発明の製造方法において、基質化合物としては、DOPA及びDOPA類縁体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を使用する。DOPA及びDOPA類縁体は、L体(3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-L-アラニン)(以下、「L-DOPA」とも称する)又はD体(3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-D-アラニン)のいずれであってもよい。DOPA類縁体としては、ドーパミン(Dopamine)や、DOPAの低級(炭素数1〜4)アルキルエステル、およびα−低級(炭素数1〜4)アルキルDOPA等が挙げられ、これらの異性体であってもよい。中でも、天然型メラニン前駆体が得られる点で、L-DOPAを用いることが好ましく、酵素に対する親和性の点でもL-DOPAを用いることが好ましい。
【0020】
基質化合物は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
なお、かかる基質化合物は、製造するメラニン前駆体の種類に応じて適宜選択することができる。
【0022】
例えば、メラニン前駆体としてドーパクロムを製造する場合は、基質化合物としてDOPAを使用することが好ましい。この場合、後述する酸化反応をアスコルビン酸や亜ジチオン酸等の還元剤を用いて停止させて反応生成物を還元することで、更にメラニン前駆体として5,6-ジヒドロキシインドリン-2-カルボン酸を得ることができる。
【0023】
また生成したドーパクロムを含む反応液をそのまま保持しておくと自発的な脱炭酸により5,6-ジヒドロキシインドールを取得することができる。あるいは酵素反応に使用する微生物の細胞に含まれるドーパクロムトートメラーゼにより、または非酵素的な異性化により、ドーパクロムから5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸が生成する。これにより、ドーパクロム、5,6-ジヒドロキシインドール及び5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸を含むメラニン前駆体を取得することができる。
【0024】
さらに、メラニン前駆体として5,6-ジヒドロキシインドリンを製造する場合は、基質化合物としてドーパミンを使用することが好ましい。この場合、反応を亜ジチオン酸などの還元剤を用いて反応を停止及び還元させることにより、ドーパミンの酸化により生成したドーパミンのキノン体を経て5,6-ジヒドロキシインドリンを取得することができる。また、この反応液を更に保持すればジヒドロキシインドールを取得することができる。また黒色以外のメラニンを生成するメラニン前駆体を製造する場合は、基質化合物として、DOPAのアルキルエステル、具体的にはDOPAエチルエステル等を用いることが好ましい。
【0025】
なお、後述する酸化反応に使用する場合の基質化合物の濃度は、反応開始液中の濃度として通常10〜60mM程度を挙げることができる。好ましくは、15〜40mM程度である。例えば、メラニン前駆体を製造する場合、上記範囲であれば、未反応の基質化合物の残存が少なく、十分量のメラニン前駆体を得ることができるとともに、それが重合してメラニンが生成することによるメラニン前駆体の収率低下を抑えることができる。
【0026】
(B)酵素
本発明の製造方法に使用する酵素は、前述する基質化合物を酸化する作用を有するものであればよい。具体的には、酸化酵素を挙げることができる。中でも好ましくはカテコールオキシダーゼ活性を有する酵素である。
【0027】
ここでカテコールオキシダーゼ活性とは、カテコールの酸化によるo-キノンの生成を触媒する活性をいい、かかるカテコールオキシダーゼ活性を有する酵素としては、モノフェノールオキシダーゼ、ジフェノールオキシダーゼ、o-ジフェノラーゼ、およびチロシナーゼ等が含まれる。
【0028】
メラニン前駆体、およびメラニンを製造する場合において、カテコールオキシダーゼ活性を有する酵素として、より好ましくはチロシナーゼを挙げることができる。チロシナーゼは、L-DOPAに対して親和性が高いため、これを基質化合物とすることで、図1に示す反応経路を通じて天然型のメラニン前駆体(好ましくは、ドーパクロム、5,6-ジヒドロキシインドールカルボン酸、若しくは5,6-ジヒドロキシインドール、またはこれらを2種以上含む混合物)を効率よく製造することができる。
【0029】
本発明で用いる酵素(以下、「酸化酵素」と称する。)は、どのような生物に由来する酵素であってもよいが、特に、発現効率が良く、かつ宿主細胞内で安定であることから、糸状菌に由来する酵素が好ましい。より好ましくは糸状菌に由来するチロシナーゼである。
【0030】
かかる糸状菌としては、アスペルギルス(Aspergillus)属、ニューロスポラ(Neurospora)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、トリコデルマ(Trichoderma)属及びペニシリウム(Penicillium)属等が挙げられる。中でも、熱に対して比較的安定であり、かつ安全性が確かめられている点で、アスペルギルス属糸状菌のチロシナーゼが好ましく、具体的には、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)のmelB遺伝子(特開2002-191366号公報)、melD遺伝子(特開2004-201545号公報)又はmelO遺伝子(Molecular cloning and nucleotide sequence of the protyrosinase gene, melO, from Aspergillus oryzae and expression of the gene in yeast cells.Biochim Biophys Acta. 1995 Mar 14;1261(1):151-154)でコードされるチロシナーゼまたはかかるチロシナーゼと実質的に同一である酵素を挙げることができる。
【0031】
なお、上記チロシナーゼと「実質的に同一」とは、これらの遺伝子(melB遺伝子、melD遺伝子又はmelO遺伝子)によってコードされるチロシナーゼのアミノ酸配列と、70%以上、更に好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上が同一のアミノ酸配列を有し、かつカテコールオキシダーゼ活性、好ましくはチロシナーゼ活性を有している酵素をいう。このような酵素は、DOPAからドーパクロムへの反応収率が高く、効率的に酸化反応を行うことができるため、反応液中のDOPA残存量を低くすることができる。
【0032】
なお、上記酵素は、そのままの状態で反応に使用することができるが、酵素の安定性向上、使用後の分離の容易さ、反応系へのタンパク質混入の回避の点から、固定化酵素の形態で使用することもできる。酵素の固定化方法は特に限定されず、例えば、固定化担体により酵素分子間を架橋する方法、アルギン酸ゲルのようなゲルに内包させる方法等の公知の固定化方法が挙げられる。酵素は、生物由来の夾雑物を含む粗標品でもよく、精製酵素でもよいが、固定化する場合は精製されたものであることが望ましい。
【0033】
(C)微生物
本発明の製造方法には、上記酵素に代えて上記酵素を産生する微生物を使用することもできる。
【0034】
本発明で使用される微生物は、少なくとも上記酸化酵素、好ましくはカテコールオキシダーゼ活性を有する酵素、より好ましくはチロシナーゼを産生し得るものであればよく、この限りにおいて特に制限されない。すなわち、 (a)本来的に「酸化酵素」を産生し得る微生物であってもよいし、また(b) 「酸化酵素」を産生し得る能力を外来的に付与された微生物であってもよい。さらに(c)内在性または外来性の別を問わず、「酸化酵素」活性を高める処理が施された微生物であってもよい。好ましくは(b)または(c)の微生物である。
【0035】
かかる微生物としては、大腸菌、酵母、および糸状菌等を挙げることができる。なかでも、安全で、さらに単細胞であり、かつ細胞の沈降速度が速いため、比較的低速回転の遠心分離で反応後の細胞を分離できる点で、酵母を用いることが好ましい。酵母の中でも、特に、菌体が堅牢であるために菌体由来のタンパク質の反応液中への流出が抑えられ、かつ遺伝子操作が容易である点で、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)が好ましい。
【0036】
(b)の微生物は、例えば、タンパク質の大量発現用に通常用いられているベクターに「酸化酵素」をコードする遺伝子(「酸化酵素」遺伝子)をクローニングし、当該ベクターを宿主細胞に導入することによって調製することができ、斯くして上記遺伝子を宿主染色体に組み込むか、又はこれをプラスミド状態で有する微生物を取得することができる。
【0037】
上記(c)の微生物としては下記の微生物を挙げることができる:
(c-1)「酸化酵素」遺伝子を本来発現させているプロモーターよりも高活性のプロモーターの下でこの遺伝子を発現させている微生物。
(c-2)「酸化酵素」遺伝子を複数コピー有する微生物。
(c-3)「酸化酵素」遺伝子の変異体を有することにより高い酵素活性(好ましくはカテコールオキシダーゼ活性、より好ましくはチロシナーゼ活性)を示す微生物。
【0038】
(c-1)で使用される高活性のプロモーターとしては、制限されないが、例えばSED1プロモーター、ADH1プロモーター、PGKプロモーター、GAPDHプロモーター、TDH1プロモーター、PHO5プロモーター、GAL4プロモーター、GAL10プロモーター、及びCUP1プロモーターなどが挙げられる。中でも、SED1プロモーター、ADH1プロモーター、PGKプロモーター、及びGAPDHプロモーターが好ましく、SED1プロモーターがより好ましい。
【0039】
(c-2)の微生物は、例えば「酸化酵素」遺伝子を複数コピー保持する可能性のある2倍体以上の細胞に「酸化酵素」遺伝子を導入することによって調製することができる。また、例えば醸造用酵母やパン酵母等の実用酵母の中には、3倍体や4倍体の細胞も存在するため、これらも好適に使用できる。このようにして、微生物に導入する「酸化酵素」遺伝子のコピー数を多くすることにより、より高い酵素活性(好ましくはカテコールオキシダーゼ活性、より好ましくはチロシナーゼ活性)を有する微生物とすることができる。
【0040】
(c-3)の微生物としては、「酸化酵素」遺伝子の変異により、酵素活性(好ましくはカテコールオキシダーゼ活性、より好ましくはチロシナーゼ活性)が高くなった微生物、又はこのような変異「酸化酵素」遺伝子を導入した微生物を使用することができる。このようにして、天然型酵素より高い活性を示す変異型酵素とすることにより、高い酵素活性、好ましくは高いカテコールオキシダーゼ活性、より好ましくは高いチロシナーゼ活性を示す微生物とすることができる。
【0041】
なお、本発明では、上記微生物として、液体培養で得られる微生物を水で洗浄して調製した微生物懸濁液を使用することもできる。かかる微生物懸濁液は、例えば次の手順(1)〜(4)により調製することができる。
(1)微生物を常法により液体培養した後、培養液を遠心分離して培地を除去する。
(2)この微生物を水に懸濁して遠心分離し、上清を除去する。
(3)(2)の工程を繰り返すことにより、微生物を洗浄する。
(4)(3)で得られた微生物を水に懸濁したものを微生物懸濁液とする。
【0042】
このように微生物を洗浄することにより、微生物懸濁液の電気伝導度を好ましくは0.8mS/cm以下、より好ましくは0.73 mS/cm以下、さらに好ましくは0.2〜0.5 mS/cm になるように調製することで、培養液からの不純物の混入を減少させることができる。なお、微生物懸濁液の電気伝導度の測定は、微生物懸濁液を遠心分離し、得られた上清について市販の電気伝導度計(例えば、電気伝導率計B-173:堀場製作所製など)を用いて測定することで実施することができる。
【0043】
(D)酵素または微生物の活性化処理
なお、酸化酵素、特にチロシナーゼが活性を示すためには、触媒活性中心に2価銅イオンが配位することが必要である。このため、酵素酸化反応に、酸化酵素、または当該酵素を産生する微生物のいずれを用いる場合でも、これらの酵素又は微生物を、予め2価銅イオンで処理することにより、酸化酵素の触媒活性中心に2価銅イオンを配位させることが好ましい。かかる方法として、具体的には、酸化酵素又は微生物を0.1〜2mM程度の硫酸銅溶液等に懸濁し、30〜40℃程度で0.5〜2時間程度静置する方法を挙げることができる。
【0044】
また、酸化酵素の中でもチロシナーゼ、特にアスペルギルス・オリゼ由来のチロシナーゼは、pH2.8〜3.2程度の酸性溶液で処理することにより、成熟化し、活性化する。従って、チロシナーゼまたは当該酵素を産生する微生物を用いる場合も、例えば、20〜200mM程度の酢酸ナトリウム緩衝溶液(pH3)に懸濁し、0〜40℃程度で0.5〜1時間程度静置することが好ましい。また、酸化酵素は、トリプシン等の特定のペプチド結合を選択的に切断するエンドペプチダーゼのようなプロテアーゼで処理することによっても活性化することができる。
【0045】
なお、酸化酵素を産生する微生物を用いる場合は、上記活性化処理の前に予め微生物に対して細胞障害処理を施し、その生存率を91%以下、好ましくは70%以下に低下しておくことが好ましい。かかる細胞障害処理としては、界面活性剤を用いた処理、冷凍処理、および乾燥処理を挙げることができる。活性化処理前にかかる処理を施して生存率を低下しておくことで、より高いカテコールオキシダーゼ活性を有する微生物を調製することができる。
【0046】
かかる細胞障害処理として好ましくは界面活性剤処理である。ここで界面活性剤としては、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤および両性界面活性剤を挙げることができるが、好ましくは陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤および非イオン系界面活性剤であり、より好ましくは陽イオン系界面活性剤である。陽イオン系界面活性剤の中でも、特に好ましくは第4級アンモニウム塩である。当該第4級アンモニウム塩としては、特に制限をされないが、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルジメチルエチルベンジルアンモニウムクロライド、アルキルジメチルメチルベンジルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、デシルイソノニルジメチルアンモニウム塩、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムカーボネート、ジデシルメチルポリオキシエチレンアンモニウムプロピネートなどを挙げることができる。これらは1種単独で使用してもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。好ましくは、塩化ベンザルコニウム、ジデシルジメチルアンモニウム塩、ジオクチルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライドである。なお第4級アンモニウム塩の塩としては、制限をされないが、クロライド塩、炭酸塩、リン酸塩、ブロマイド塩などを挙げることができる。好ましくはクロライド塩である。
【0047】
後述する酵素酸化反応に基質化合物として1molのL-DOPAを用いる場合、酸化酵素または当該酵素を発現する微生物は、酵素活性に換算して、通常5×105 U/mol以上、好ましくは5×106 U/mol以上、より好ましくは5×106 U/mol〜5×107 U/molの割合で使用することが好ましい。また基質化合物として同様にL-DOPAを用い、酸化酵素を発現する微生物(好ましくは酵母)は、反応系において0.1 U/OD600以上、更には0.5 U/OD600以上、特に1〜5U/OD600となる割合で用いることが好ましい。
【0048】
なお、酵素又は微生物のカテコールオキシダーゼ活性は、酵素又は細胞と0.8μmolのDOPAを含む溶液1mLを30℃で5分間反応させた場合の475nmにおける吸光度を光路長1cmあたり1増加させる活性を1Uとして計算される。また微生物のカテコールオキシダーゼ活性は、これを反応に用いた菌体の湿重量(mg)で除したもの(U/mg)とすることもできる。
【0049】
(E)酵素酸化反応
本発明において酸化反応は、前述する基質化合物と酸化酵素または当該酵素を産生する微生物を含有する反応液に酸素を供給しながら、閉鎖系で行うことを特徴とする。
【0050】
ここで用いる酸素は、純度が90%以上の酸素(高純度酵素)、好ましくは純度100%の酸素(純酵素)であることが好ましい。実験例1に示すように、反応液への通気にかかる酸素を使用することで、有意に反応液の発泡を抑制することができる。酸素の供給方法は、特に制限されず、反応液を撹拌することで反応液に酸素を取り込む方法、および反応液に酸素を積極的に通気する方法、およびこれらを併用する方法を挙げることができる。なお、反応開始直後は、酵素酸化反応に大量の酸素が必要であるため、大量に通気することが好ましい。反応に際しては、反応液中の溶存酸素濃度を監視することが好ましい。好ましくは反応液の溶存酸素量が1ppmを下回らないように調整することが好ましい。この場合の上限は、実験例2に示すように特に制限されないが、好ましくは45ppmを挙げることができる。
【0051】
なお、酵素酸化反応の終了は、酵素酸化反応による酸素消費が低下して反応液中の溶存酸素濃度が下がらなくなることを指標とすることができ、この場合に酸素通気量および攪拌速度を減少させることが好ましい。
【0052】
上記酸素通気や撹拌により反応液中に大量の泡が生じる場合は、シリコーン樹脂のような消泡剤を添加してもよいが、酵素酸化反応を閉鎖系で行うことで、かかる発泡の影響を無視することができる。この場合、従来の反応槽仕込量の許容量(発泡分の容積を考慮して設定)である60容量%を超えて反応液を仕込むことができる。反応槽に仕込む反応液の量として、70容量%以上、好ましくは80容量%以上、より好ましくは90容量%以上に設定することができる。
【0053】
ここで「酵素酸化反応を閉鎖系で行う」とは、酸素供給口、酸供給口およびアルカリ供給口以外の開口部をすべて閉止した状態で、酸化反応を行うことを意味する。ここで酸素供給口からの酸素供給は、酸化反応中、連続して行われてもよいし、間欠的(不連続)に行われてもよい。但し、間欠的に酸素供給が行われる場合、供給をストップしている間は、酸素供給口は閉止されることが好ましい(通気時のみ開口)。また、酸供給口からの酸供給及びアルカリ供給口からのアルカリ供給もそれがストップしている間は、これらの供給口は閉止されていることが好ましい(供給時のみ開口)。なお、通気源として酸素(好ましくは純酸素)を用いる本発明の酸化反応によれば、閉鎖系で行っても供給した酸素を反応系が吸収するため、反応槽の内圧が許容以上に上昇することなく、実施することができる。
【0054】
なお、酵素酸化反応は、バッチ式又は連続式の何れであってもよい。未反応の基質化合物と生成物を分離できる点でバッチ式が好ましい。目的とする生成物の種類にもよるが、バッチ式の場合の反応時間は、通常10分〜2時間程度とするのが好ましく、30分〜1時間程度とするのがより好ましい。
【0055】
なお、メラニン前駆体を製造する場合、あまりに長時間反応させると、生成したメラニン前駆体がさらに重合してメラニンとなるため、メラニン前駆体の収率が低下する。このため、メラニンの生成を抑制して高い収率でメラニン前駆体を取得するためには、反応終点を的確に把握することが好ましい。なお、反応終点は、実験例4に示すように、反応液中のpHの経時的変化をオンラインでモニターし、その傾向が切り替わった時点を指標として決定することができる。
【0056】
連続式の場合は、酸化酵素または酸化酵素を産生する微生物を含有する反応液を収容した反応容器に、10〜60mM程度、特に15〜40mM程度になるように基質化合物を供給しつつ、酸素を供給しながら、閉鎖系で反応を進め、反応液を連続的に回収することによって実施することができる。この場合、酸化酵素またはそれを産生する微生物として、固定化酵素または固定化微生物を使用することができる。
【0057】
なお、当該酵素酸化反応において、反応液は、基質化合物が溶解してなるものでもよいが、非溶解状態で含まれていることが好ましい。これは、基質化合物を反応液に完全に溶解するためには、強酸を用いて反応液のpHを1〜3に調整しなくてはならず、この場合、酵素反応前に再び強アルカリを用いて中和する必要があるからである。また、この場合、必然的に反応液中に無機塩類の含有量が増加することになり、これが生成されるメラニン前駆体の夾雑物となる。また反応液の調製に用いる水は、特に制限されないが、イオン交換水を用いることが好ましい。イオン交換水を用いることで、前述する反応液中の無機塩類の含有量をさらに減少させることができ、生成されるメラニン前駆体の夾雑物をより低減することができる。
【0058】
さらに酸化反応に使用する上記微生物は、微生物懸濁液の状態で用いることが好ましい。当該微生物懸濁液は、培養後、水、好ましくはイオン交換水での洗浄を繰り返すことによって調製することができる。具体的には、前述する微生物を常法により液体培養した後、培養液を遠心分離し培地を除去し、次いでこの微生物を水に懸濁して、再び遠心分離して上清を除去する。この最後の工程(水への懸濁および遠心分離による上清の除去)を繰り返すことにより微生物を洗浄する。斯くして得られた微生物を水、好ましくはイオン交換水に懸濁したものを微生物懸濁液とする。
【0059】
微生物懸濁液は、上記洗浄処理により電気伝導度が0.8 mS/cm以下になるように調整されることが好ましい。好ましくは0.73 mS/cm以下、更に好ましくは0.20〜0.50 mS/cmである。かかる電気伝導度を有するように調整した微生物懸濁液は、前述する酵素活性を充足することを条件として、通常、反応液の10容量%程度、若しくはそれ以下の割合で使用することができる。微生物懸濁液を反応液の10容量%を超えて配合する場合は、10容量%に換算した場合に、その電気伝導度が0.8 mS/cm以下になるように調整することが好ましい。このように洗浄した微生物を用いることで、反応液に培養液からの不純物の混入を減少させることができ、また微生物懸濁液の電気伝導度を0.8 mS/cm以下にすることで、得られるメラニン前駆体に含まれる5,6-ジヒドロキシインドールに対する5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸の量をHPLC分析による面積比において10/100以下、好ましくは9/100以下、より好ましくは6/100〜8/100まで低減させることができる。
【0060】
ちなみに微生物懸濁液の電気伝導度の測定は、微生物懸濁液を遠心分離し、得られた上清を慣用の電気伝導度計(例えば、電気伝導度計B-173:堀場製作所製)により測定することによって実施することができる。
【0061】
反応温度は、前述する酸化酵素またはそれを産生する微生物が基質化合物の酵素酸化反応を触媒できる範囲であればよく、特に限定されないが、通常15〜35℃程度を挙げることができる。好ましくは20〜30℃程度である。上記範囲内であれば、十分に酸化反応が進行するとともに、酸化酵素が失活し難いという利点がある。
【0062】
また反応液のpHは、前述する酸化酵素またはそれを産生する微生物が基質化合物の酵素酸化反応を触媒できる範囲であればよく、特に限定されないが、通常pH4〜9程度に維持することが好ましい。
【0063】
メラニン前駆体を製造する場合、基質化合物を効率よく酸化するとともに、メラニン前駆体の重合によるメラニン生成を抑えて、反応液中に収率良くメラニン前駆体を蓄積させる点から、通常pH5〜6程度、好ましくはpH5.3〜5.9程度に維持することが好ましい。反応液のpHは、緩衝液を用いて調整する方法もあるが、反応液中の塩濃度が高いと、生成したメラニン前駆体が重合してメラニン生成が促進される場合があるため、反応液に水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等のアルカリの水溶液、又は硫酸や塩酸等の酸の水溶液を添加することにより調整することが好ましい。アルカリとして好ましくは水酸化ナトリウム等の強アルカリの水溶液を、酸として好ましくは硫酸や塩酸等の強酸の水溶液を挙げることができる。
【0064】
反応液中のpHの調整は、具体的には、反応液のpHを、pH電極などのpH測定器を用いて連続的に測定し、反応液のpHが5を下回る場合にはアルカリを添加し、反応液のpHが6を上回る場合には酸を添加することで、実施することができる。より好ましくは、例えば図2や4に示すように、反応液3を収容した反応容器(反応槽)2に取り付けられたpH測定部6(pH電極に相当)で連続的に反応液3のpHが測定できるようにし、且つその測定値が反応液3へのアルカリ供給部4および酸供給部5に連動しており、反応液3のpHが5を下回る場合にはアルカリ供給部4からアルカリ水溶液が自動的に添加され、また反応液のpHが6を上回る場合には酸供給部5から酸水溶液が自動的に添加されることで、常に反応液のpHがpH5〜6の範囲内になるように、制御部17により制御されていることが好ましい。なお、pHの測定には、例えば水素電極、キンヒドロン電極、アンチモン電極、ガラス電極またはガラス複合電極を使用することができる。また、pH制御には自動制御機能がついているpH制御装置を使用することができる。
【0065】
かかる酵素酸化反応により、前述するDOPAまたはその類縁体が酸化されて、メラニン前駆体を製造することができる。ここでメラニン前駆体としては、メラニンの構成モノマー(例えば、ドーパクロム、5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸、5,6-ジヒドロキシインドール、5,6-ジヒドロキシインドリン、5,6-ジヒドロキシインドリン-2-カルボン酸など)、並びにこれらのモノマーが2〜5分子程度重合してなる水溶性オリゴマーまたはそれらの化合物を少なくとも2以上含む混合物を挙げることができる。好ましくはドーパクロム、5,6-ジヒドロキシインドール、および5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸である。
【0066】
なお、本発明においてメラニン前駆体とは、上記化合物の少なくとも1種を意味し、1種単独の化合物であっても、2種以上を含む混合物であってもよい。
【0067】
基質化合物としてDOPAを用いる場合、反応終了後の溶液はpH6〜pH9の範囲になるように調整し、不活性ガス雰囲気下で保存することが好ましい。この場合、上記酵素反応により基質化合物(DOPA)が酸化されてドーパクロムが生成するが、上記保存条件下で、ドーパクロムから、非酵素的な異性化反応により5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸または5,6-ジヒドロキシインドールが生成する。通常、この反応は24時間以内に完了する。ここで不活性ガスとして、窒素ガス、アルゴンガス等が利用できる。これにより、5,6-ジヒドロキシインドールを主要成分とし、5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸を含むメラニン前駆体含有溶液を得ることができる。なお、5,6-ジヒドロキシインドールや5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸は、空気と接触することで容易に酸化されてメラニンになるため、取り扱いは不活性ガス雰囲気下で行う必要がある。
【0068】
(F)メラニン前駆体の回収
斯くして調製されたメラニン前駆体を含む反応液には、メラニン前駆体のほかに、使用した酸化酵素又は微生物、更には通気及び撹拌により細胞が破損して生じたタンパク質又は細胞から流出したタンパク質や、メラニン前駆体が重合したメラニンも含まれる。従って、必要に応じて、反応液からメラニン前駆体以外の成分を除去してもよい。例えば酸化酵素や微生物細胞の除去は、限外ろ過等のろ過、遠心分離等の手段により行うことができる。また、タンパク質やメラニンの除去は、限外ろ過、ゲルろ過クロマトグラフィー等の手段により行うことができる。
【0069】
なお、調製されたメラニン前駆体は、必要に応じてさらに、(i)pH調整処理、(ii)水溶性有機溶媒の添加、(iii)無機塩の添加、(iv)緩衝液による処理、(v)酸化防止剤の添加等の処理を行ってもよい。かかる処理を行うことで、メラニン前駆体溶液中の5,6-ジヒドロキシインドール及び5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸のいずれかの濃度を高めることができる。これらの処理は、2種以上を組み合わせて用いてもよく、特に上記(i)pH調整時に(ii)〜(v)のいずれか1以上を組み合わせると、より効率的に5,6-ジヒドロキシインドール及び5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸の濃度を高めることができる。
【0070】
また、メラニン前駆体含有溶液は、さらに必要に応じて、逆浸透膜濃縮、スプレードライ、凍結乾燥、減圧濃縮等の公知の方法で水分を除去するか又は乾燥することで、濃縮状態または乾燥状態(乾燥粉末)に調製することもできる。また、メラニン前駆体含有溶液にそのまま、または濃縮後、防腐を目的としてエタノール等の低級アルコールを添加することもできる。
【0071】
なお、この場合、エタノールの濃度が高いほど、高い防腐効果が得られる反面、メラニン前駆体含有溶液中に含まれ得る無機塩類の溶解度が低下し、低温保管時の不溶物析出の可能性が高まる。これを考慮すると、好ましいエタノール濃度は18〜22重量%である。この範囲でエタノールを含むことによって不溶物の析出防止と防腐効果を同時に満たすことができる。より好ましくは19〜21重量%、最も好ましくは20重量%程度である。なお、当該メラニン前駆体含有溶液には、本発明の効果が妨げられない限りにおいて、水およびエタノール以外の極性溶媒が含まれていてよい。かかる極性溶媒としては、例えばメタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール等の炭素数1〜6の低級アルコール、およびアセトン等を挙げることができる。
【0072】
メラニン前駆体含有溶液は、制限されないが、それに含まれるメラニン前駆体(好ましくは、5,6-ジヒドロキシインドール)の濃度が、好ましくは0.8〜1.2重量%、より好ましくは0.9〜1.1重量%、さらに好ましくは1重量%程度になるように調整されることが好ましい。かかる5,6-ジヒドロキシインドールの含有量は、HPLC分析法で、5,6-ジヒドロキシインドール標準品を用いて、絶対検量線法により測定(定量)することができる。
【0073】
またメラニン前駆体含有溶液は、塩化物イオン濃度が300ppm以下になるように調整することが好ましい。塩化物イオン濃度を300ppm以下にすることで、これを金属製の容器に収納した場合でも金属を腐食させる危険性を低下させることができる。好ましくは100ppm以下、より好ましくは20〜60ppmである。当該塩化物イオン濃度は、HPLC分析法により測定することができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実験例を挙げる。しかし、本発明はこれらの実験例になんら限定されるものではない。
【0075】
なお、下記の実験例1〜3に使用した微生物懸濁液の調製方法、反応液中のL-DOPAおよびドーパクロムの定量方法を下記に示す。
【0076】
参考例1 微生物懸濁液の調製
(1)カテコールオキシダーゼ産生微生物(melB産生酵母)の調製
カテコールオキシダーゼとしてチロシナーゼ(melB)、微生物として酵母(Saccharomyces cerevisiae)を用いて、カテコールオキシダーゼ産生微生物を調製した。なお、チロシナーゼ(melB)は麹菌Aspergillus oryzaeから単離された酵素である(特許第3903125号公報)。そのアミノ酸配列、並びにそれをコードするmelB遺伝子のクローニング方法およびその塩基配列も、上記特許第3903125号公報に記載されている。
【0077】
(a)チロシナーゼ遺伝子(melB遺伝子)のクローニング
特許第3903125号公報の記載に従って、麹菌Aspergillus oryzaeからmelB遺伝子をクローニングした。具体的には、麹菌Aspergillus oryzae OSI-1013株(受託番号FERM P-16528、平成9年11月20日に日本国茨城県つくば市東1-1-1 つくばセンター 中央第6に住所を有する独立行政法人産業技術総合研究所・特許生物寄託センター(旧:工業技術院生命工学工業技術研究所・特許微生物寄託センター)に寄託)を蒸米に接種し、製麹した麹を1.5g秤量し、液体窒素中で完全に破砕した。日本ジーン社製ISOGENを用いて、これから240μgの全RNAを抽出した。120μgの全RNAからタカラバイオ株式会社製Oligotex-dT30<Super>を用いて、1μgのmRNAを精製した。このmRNAを、Clontech社製SMART cDNA Library Construction KitによりcDNAライブラリーを作成し、PCRによりmelB cDNAのみを増幅した。得られたPCR産物はアガロースゲル電気泳動で、目的の約1.8Kbpのバンドのみが増幅されていることを確認した。また、塩基配列解析の結果、正常にイントロン配列が取り除かれていることも確認した。なお、特許第3903125号公報の配列番号2に記載されているmelB遺伝子の塩基配列のうち、1〜1436番目の塩基配列はプロモーター領域、3636〜4174番目の塩基配列はターミネーター領域に相当し、1437〜3635番目の塩基配列は、melB cDNAに相当するコーティング領域に相当する。
【0078】
(b)酵母への組み込み
上記(a)で得られたmelB cDNAを、酵母Saccharomyces cerevisiae用発現ベクター(特開2003-265177号公報)に発現可能な状態で接続した。具体的には、特開2003-265177号公報の記載に準じて、SED1プロモーターとADH1ターミネーターを持つ上記発現ベクターのプロモーター直下のSmaI部位に、上記(a)で取得したmelB cDNAを挿入した。URA3マーカー内部に存在するStuI部位で切断することにより得られるmelB cDNAを含む断片を導入用カセットとして精製した。
【0079】
これを定法に従って、酵母(Saccharomyces cerevisiae)に導入し、melB産生酵母を調製した。なお、酵母は、清酒の醸造に用いられる実用酵母・協会9号由来のウラシル要求性株については、日本醸造教会から入手できる清酒の醸造に用いられる実用酵母・協会9号の5−フルオロオロチジン酸耐性を利用した公知の陽性選択方法により取得することができる。
【0080】
(2)微生物懸濁液の調製
上記で得られたmelB産生酵母(組換え酵母)を常法に従って培養し、遠心分離によって菌体を回収し、蒸留水で洗浄した。次いで、菌体(湿重量約100mg)に0.1mMの硫酸銅を含む水溶液1mLを加え、40℃で20分間保持した。その後、遠心分離により菌体を回収し、これを50mMの酢酸緩衝液(NaOAc-HCl)(pH3.0)1mLに懸濁し、室温で10分間静置した。その後、遠心分離により菌体を回収し、過剰な銅イオンを除去するため、20mMのEDTA溶液(KOHを使用してpH5に調整)で洗浄し、遠心分離して菌体を回収した。斯くして活性化処理された菌体を水1mLに懸濁して、これを微生物懸濁液とした。
【0081】
参考例2 L-DOPAおよびドーパクロムの定量
(1)試験液の処理
測定する試験液の遠心上清0.5mlと3%(w/v)アスコルビン酸ナトリウム水溶液0.5mlを混和する。本溶液を65℃で15分間加熱後、0.1%(w/v)りん酸水溶液9.0mlを添加してよく混ぜる。かかる処理により、試験液中に含まれているドーパクロムは全量5,6―ジヒドロキシインドールに変換され定量することができる。
【0082】
(2)HPLC分析
斯くして調製した試験液の遠心上清を下記条件のHPLCに供し、標準化合物(L-DOPA:和光純薬社製、5,6―ジヒドロキシインドール:BIO SYNTH社製)で作成した検量線から、反応液中のL-DOPAおよびドーパクロムの濃度を測定する。
【0083】
<HPLC条件>
HPLC装置:Waters社製HPLC Alliance2695-2996
カラム:Waters社製SunfireC18(4.6×150mm)
移動相:A液−1.5%(w/v)リン酸溶液、B液−99.9%メタノール(B液が初発0%、5分後に50%となるようにグラジエントを設定)
試験液注入量:10μl
流速:1.0ml/min
検出:極大吸収波長である280nmにおける吸光度でモニター。
【0084】
実験例1 開放系反応
以下、図2に示す反応システムの概略図を参考にして説明する。
【0085】
(1)反応システムの説明
当該反応システム1は、反応液3を収容した反応槽2、反応液にアルカリを供給するアルカリ供給部4、反応液3に酸を供給する酸供給部5、反応液3のpHをモニターするpH測定部6、酸素供給部11、反応槽2からの排気を制御する排気バルブ14を少なくとも備えている。ここでアルカリ供給部4と酸供給部5はpH測定部6と連動しており、反応液3のpHが常に5〜6、好ましくはpH5.3付近に維持されるように、制御部17によりオンラインでコントロールされている。すなわち、反応液3のpHが5より低くなる場合はアルカリ供給部4からアルカリ水溶液が自動添加されて反応液3のpHが5.3付近になるように調整され、逆に反応液3のpHが6より高くなる場合は酸供給部5から酸水溶液が自動添加されて反応液3のpHが5.3付近になるように調整される。なお、ここでは、アルカリ水溶液として6Nの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を、酸水溶液として3Nの硫酸水溶液を使用した。
【0086】
反応槽2は、上面が気密または液密性の開閉蓋で覆われているが、少なくともアルカリ供給部4、酸供給部5、酸素供給部11および排気バルブ14と開閉可能な状態で連結している。
【0087】
(2)上記反応システムを使用した酸化反応
pH測定部6を備えた10L容量の反応槽2に、イオン交換水2.7L、L-DOPA48gを仕込み、アルカリ供給部4から6NのNaOH水溶液を添加して、反応液のpHを5.3付近になるように調整した。これに参考例1に記載する方法で調製した微生物懸濁液0.3L(酵素活性1,080kU)を添加して、反応を開始した(反応液3の総量3L)。反応は、反応液3の温度を25℃前後に調整し、酸素供給部11から純酸素を1L/minの割合で供給しながら、撹拌下(400rpm)で行った。また排気バルブ14は開放し、排気口を通じて反応槽2と空気が連通する状態で反応を行った(開放系反応)。なお、前述するように、反応は、反応液3のpHが5.3付近になるように、アルカリ供給部4から6NのNaOH水溶液の添加が、また酸供給部5から3NのH2SO4水溶液の添加が、自動制御されている。
【0088】
なお、図2において、圧力調整部12は、酸素供給部11から供給される酸素の圧力を段階的に減圧するための調整部である。なおここでは、酸素供給部11の圧力(数十MPa)をまず0.5MPa程度に大まかに減圧し、装置に入る前に、さらに0.2MPa程度まで減圧した。反応槽2への酸素供給は、反応液3中の溶存酸素濃度(DO)および流量計15をみながら、ニードルバルブ13の開閉を調節して行った。圧力計16を確認することで、反応槽2への酸素過剰供給が防止される。また反応終了時に内圧を確認することで、安全に作業を行うことができる。
【0089】
図3に、純酸素を通気(1L/min)しながら酸化反応を行った反応液について、液面の位置と泡面の位置を経時的に測定した結果を示す。
【0090】
空気供給を酸素供給に変更することで、反応初期(反応開始から10分間程度まで)の発泡を抑制することが出来た。しかし、抑制できるのは反応前半までで、反応後半になると泡が発生し出し、またその泡は経時的に増加した。なお、酸素供給の反応系において反応開始から12分目と18分目に消泡剤(アデカネートB-3022:株式会社ADEKA製)を0.5mL添加したが、持続的な消泡効果は認められなかった。
【0091】
実験例2 開放系反応/酸素供給制御
図4に示す反応システムの概略図を参考にして説明する。
(1)反応システムの説明
当該反応システム1は、反応液3を収容した反応槽2、反応液にアルカリを供給するアルカリ供給部4、反応液に酸を供給する酸供給部5、反応液のpHをモニターするpH測定部6、反応液の溶存酸素を測定する溶存酸素測定部7、撹拌部8、酸素供給部11、反応液への酸素供給量を測定する流量計15および反応槽2からの排気を制御する排気バルブ14を少なくとも備えている。
【0092】
ここでアルカリ供給部4と酸供給部5はpH測定部6と連動しており、反応液のpHが常に5〜6、好ましくはpH5.3付近に維持されるように、制御部17によりオンラインでコントロールされている。すなわち、反応液3のpHが5より低くなる場合はアルカリ供給部4からアルカリ水溶液が自動添加されて反応液3のpHが5.3付近になるように調整され、逆に反応液3のpHが6より高くなる場合は酸供給部5から酸水溶液が自動添加されて反応液3のpHが5.3付近になるように調整されている。なお、ここでは、アルカリ水溶液として6NのNaOH水溶液を、酸水溶液として3Nの硫酸水溶液を使用した。
【0093】
また、反応液3の溶存酸素濃度が1ppmを下回らないように、酸素供給部11からの酸素供給速度および撹拌部8の撹拌速度を調整しながら行った。
【0094】
なお、反応槽2は、上面が気密または液密性の開閉蓋で覆われているが、少なくともアルカリ供給部4、酸供給部5、酸素供給部11および排気バルブ14と開閉可能な状態で連結している。
【0095】
(2)上記反応システムを使用した酸化反応
pH測定部6および溶存酸素測定部7を備えた10L容量の反応槽2に、イオン交換水2.7L、L-DOPA48gを仕込み、アルカリ供給部4から6NのNaOH水溶液を添加して、反応液のpHを5.3付近になるように調整した。これに参考例1に記載する方法で調製した微生物懸濁液0.3L(酵素活性1,080kU)を添加して、反応を開始した(反応液3の総量3L)。反応は、反応液3の温度を25℃前後に調整し、また反応液3の溶存酸素濃度が1ppmを下回らないように、酸素供給部11からの酸素供給速度および撹拌部8の撹拌速度を調整しながら行った。また排気バルブ14は開放し、排気口を通じて反応槽2と空気が連通する状態で反応を行った(開放系反応)。なお、前述するように、反応は、反応液のpHが5.3付近になるように、アルカリ供給部4から6NのNaOH水溶液の添加が、また酸供給部5から3NのH2SO4水溶液の添加が、自動制御されている。
【0096】
図4において、圧力調整部12は、酸素供給部11から供給される酸素の圧力を段階的に減圧するための調整部である。ここでは、酸素供給部11の圧力(数十MPa)をまず0.5MPa程度に大まかに減圧し、装置に入る前に、さらに0.2MPa程度まで減圧した。反応槽2への酸素供給は、反応液3中の溶存酸素濃度(DO)および流量計15をみながら、ニードルバルブ13の開閉を調節して行った。圧力計16を確認することで、反応槽2への酸素過剰供給が防止される。また反応終了時に内圧を確認することで、安全に作業を行うことができる。
【0097】
図5(A)に、反応開始から40分間にわたる反応における酸素供給速度(L/min)(図中「―○―」で示す)と撹拌速度(rpm)(図中、「−−」で示す)の経時的変化を、また図5(B)に反応液の溶存酸素濃度(DO)(ppm)の経時的変化を示す。
【0098】
なお、本実験では溶存酸素測定部7として溶存酸素計を付帯している10L容量の反応槽2(丸菱バイオエンジ社製(MDL-8C))を使用した。また電極として、東亜DKK社製ガルバニ型溶存酸素電極(OX-3200またはOE-8PT2)を使用した。電極は、予め、無酸素液(飽和亜硫酸ナトリウム溶液)に浸して0に合わせ、次いで十分に酸素を通気した純水中に浸して指示値が安定したら飽和DO値(100%)に設定したものを使用した。これにより、反応液中の溶存酸素飽和渡(%)を測定することができる。
【0099】
また図6に、反応液の液面の位置と泡面の位置を経時的に測定した結果を示す。
【0100】
この結果からわかるように、反応中盤から後半にかけて撹拌速度と酸素供給速度を低く抑えることで、反応後半にみられる泡の発生(実験例1参照)が抑制できることが確認された。しかし、発泡のため最大で仕込み量の1.5倍まで液面が上昇したことから、開放系においては反応液の量(仕込み量)を反応槽の容積の6割程度に抑える必要があることが判明した。
【0101】
図7に、反応開始から40分間の反応における反応液中のL-DOPA(基質化合物)(図中、「―◇―」で示す)およびドーパクロム(メラニン前駆体)(図中、「―□―」で示す)の濃度変化(mM)を示す。なお、反応液中のL-DOPAおよびドーパクロムの定量は参考例2に記載する方法で行った。図7の結果から、反応開始から15分くらいで反応液中のL-DOPAがほぼ完全に消費され、その酸化物であるドーパクロムの生成量(反応液中のドーパクロムの蓄積量)が最大になることが分かる。すなわち、この結果から、この反応系では約15分でL-DOPAの酸化反応が終了することがわかる。また、図5(B)の結果から、反応液の溶存酸素濃度が過剰であっても、L-DOPAからドーパクロムへの酸化反応並びに反応液の起泡化に特に悪影響しないことが確認された。
【0102】
実験例3 閉鎖系反応/酸素供給制御
実験例2で使用した図4に示す反応システムと同様の反応システムを用いて、酸素反応を行った。
【0103】
具体的には、pH測定部6および溶存酸素測定部7を備えた30L容量(実測容積31.9L)の反応槽2に、イオン交換水23L、L-DOPA324gを仕込み、アルカリ供給部4から6NのNaOH水溶液を添加して、反応液のpHを5.3付近になるように調整した。これに参考例1に記載する方法で調製した微生物懸濁液4.05L(酵素活性14,580kU)を添加して、反応を開始した(反応液3の総量27L)(反応槽2の実測容積の約85容量%に相当)。反応は、反応液3の温度を25℃前後に調整し、また反応液3の溶存酸素濃度が1ppmを下回らないように、酸素供給部11からの酸素供給速度および撹拌部8の撹拌速度を調整しながら行った。また排気バルブ14は全閉し、反応槽からの空気の流出および反応槽への空気の流入をすべて遮断し、閉鎖状態で反応を行った(閉鎖系反応)。なお、実験例2と同様に、反応は、反応液のpHが5.3付近になるように、アルカリ供給部4から6NのNaOH水溶液の添加が、また酸供給部5から3NのH2SO4水溶液の添加が、自動制御されている。
【0104】
閉鎖系で反応することで、反応槽容積の85%仕込みでも発泡による反応液の噴出を気にすることなく反応を遂行することが可能となり、反応経過にも特に問題は見られなかった。
【0105】
図8に、反応開始から40分間の反応における反応液中のL-DOPA(基質化合物)(図中、「―◇―」で示す)およびドーパクロム(メラニン前駆体)(図中、「―□―」で示す)の濃度変化(mM)を示す。なお、反応液中のL-DOPAおよびドーパクロムの定量は参考例2に記載する方法で行った。図8の結果から、反応開始から10分くらいで反応液中のL-DOPAがほぼ完全に消費され、その酸化物であるドーパクロムの生成量(反応液中のドーパクロムの蓄積量)が最大になることが分かる。すなわち、この結果から、この反応系では約10分でL-DOPAの酸化反応が終了することがわかる。
【0106】
生成したドーパクロムは、酸素の存在下で酸化重合してメラニンが生成する。このため、メラニン生成を抑制するために、反応終了時に速やかに反応液中の溶存酸素量がゼロになるように酸素供給量をコントロールした。
【0107】
図9に、反応開始から40分間にわたる反応における酸素供給速度(L/min)(図中、「―○―」で示す)と酸素累積供給量(mol)(図中、「―■―」で示す)の経時的変化を、図10に反応槽2内の圧力(MPa)の経時的変化を、図11に反応液3の溶存酸素濃度(ppm)の経時的変化をそれぞれ示す。
【0108】
なお、図9に示すように、13分の時点で酸素を再供給し、反応液中に残存するDOPAを完全に酸化させた。図10の13分以降に見られる槽内圧力の増加および図11の13分以降に見られる反応液中の溶存酸素量の増加はこの影響によるものである。
【0109】
以上のことから、閉鎖系かつ増液した反応であっても、溶存酸素濃度と槽内圧力を指標にすることで、実験例2で行った開放系反応と同等の反応結果を得られることが可能となった。
【0110】
以上、実験例1〜3の結果から、酵素酸化反応を酸素供給の下、閉鎖系で行うことで、反応中の発泡を抑制することができ、その結果、反応液の仕込量を反応槽容積の90容量%程度、好ましくは85容量%程度まで増やすことができることが確認できた。従来の反応液の仕込量は反応槽容積の60容量%程度であることから、本発明の方法によれば、一度の反応操作で大量処理が可能になり、その結果、目的生成物を効率よく製造することができることがわかる。また、本発明によれば、発泡の影響は無視できるため、消泡剤を使用する必要がない。
【0111】
なお、目的生成物が、実験例1〜3に示すようにドーパクロム等のメラニン前駆体である場合、これらは酸素の存在下で、反応液中で酸化重合してメラニンに変換されてしまう。このため、本発明の酵素酸化反応を用いてメラニン前駆体を製造する場合は、反応終了を的確に見極めて、その時点で速やかに反応液中の溶存酸素量がゼロになるように酸素供給量をコントロールする必要がある。
【0112】
以下、実験例4において、本発明の製造方法(酵素酸化反応)を用いて、L-DOPA(基質化合物)からメラニン前駆体を製造する方法において、反応終了時を見極める方法について説明する。
【0113】
実験例4 反応液のpHをモニターする方法
図2に示す反応システムの概略図を参考にして説明する。
【0114】
この例においては、実験例1に示すように、反応槽3に設けられたpH測定部6により、反応液3のpHが連続的に測定されて、経時的に反応液3のpHがモニタリングされているとともに、その結果が、制御部17によりアルカリ供給部4と酸供給部5と伝達され、その結果、アルカリ供給部4からの反応液へのアルカリ水溶液の供給および酸供給部5からの反応液への酸水溶液の供給が制御されている。
【0115】
pH測定部6を備えた30L容量の反応槽2に、イオン交換水23.4L、L-DOPA324gを仕込み、アルカリ供給部4から6NのNaOH水溶液を添加して、反応液のpHを5.3付近になるように調整した。これに参考例1に記載する方法で調製した微生物懸濁液4.05L(酵素活性1,400kU)を添加して、反応を開始した(反応液3の総量27L)。反応は、反応液3の温度を25℃前後に調整し、酸素供給部11から酸素を10L/minの割合で供給しながら、撹拌下(400rpm)で行った。また排気バルブ14は全閉し、閉鎖系(密閉系)で反応を行った。なお、前述するように、反応は、反応液のpHが5.3付近になるように、アルカリ供給部4から6NのNaOH水溶液の添加が、また酸供給部5から3NのH2SO4水溶液の添加が、自動制御されている。
【0116】
図12(A)に、反応液のpHをpH測定部6で経時的に測定した結果(pHの経時的変化)と、反応液3へのNaOH水溶液とH2SO4水溶液の添加状況を示す。これからわかるように、反応開始から10分までは、反応液3のpHが低下傾向にあるためNaOH水溶液が自動添加されている。このとき、NaOH水溶液を添加すると一時的に反応液のpHは上昇するが直ちにpH5.3より低くなることがわかる。これを繰り返していくと反応開始から10〜12分くらいで、NaOH水溶液を添加してもpHが低くならず、12〜13分くらいで逆にpHが上昇する傾向を示し出す(図12(A)参照)。この時点で、アルカリ供給部4からのNaOH水溶液の供給から酸供給に切り替わり、酸供給部5から3NのH2SO4水溶液が添加される。
【0117】
図12(B)に反応開始から40分間の反応において、反応時間と6NのNaOH水溶液(―□―)および3NのH2SO4水溶液(―○―)の添加量(累積量)の関係を示す。この結果から、反応の前半(本実施例では反応開始から10〜12分位まで)は反応液のpHが下降する傾向があるためpH5.3付近に維持するにはアルカリ水溶液の添加が必要であるのに対して、反応の後半(本実施例では反応12〜13分以後)は反応液のpHが上昇する傾向にあるためpH5.3付近に維持するには酸水溶液の添加が必要であることがわかる。
【0118】
図13に、反応開始から40分間の反応における反応液中のL-DOPA(基質化合物)(図中、「―◇―」で示す)およびメラニン前駆体であるドーパクロム(図中、「―□―」で示す)の濃度変化(mM)を示す。なお、反応液中のL-DOPAおよびドーパクロムの定量は参考例2に記載する方法で行った。図13の結果から、反応開始から10分くらいで反応液中のL-DOPAがほぼ完全に消費され、かつドーパクロムの生成量(反応液中のドーパクロムの蓄積量)が最大になることが分かる。
【0119】
すなわち、この結果から、反応液にアルカリまたは酸を供給して反応液のpHを5.3付近に維持するように制御した反応システムにおいて、反応液のpHの経時的変化をモニターすることで反応終点が判断できること、具体的には反応液のpH低下が上昇に転じ、反応液へのアルカリ供給が酸供給に切り替わることを反応終点の指標とすることができることが分かる。従って、高い収率でメラニン前駆体(ドーパクロム)を取得するためには、この時点で、反応液の溶存酸素量がゼロになるように酸素供給量をコントロールすることが好ましい。
【符号の説明】
【0120】
1.反応システム
2.反応槽
3.反応液
4.アルカリ供給部
5.酸供給部
6.pH測定部
7.酸素溶存量測定部(DO測定部)
8.撹拌部
11.酸素供給部
12.圧力調整部
13.ニードルバルブ
14.排気バルブ
15.流量計
16.圧力計
17.制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)アラニン(DOPA)及びその類縁体からなる群から選択される少なくとも1種の基質化合物、及び酸化酵素またはこの酵素を含む微生物を含有する反応液に酸素を供給しながら閉鎖系で酸化反応を行うことを特徴とする、メラニン前駆体の製造方法。
【請求項2】
上記酸化酵素がカテコールオキシダーゼ活性を有する酵素である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
上記カテコールオキシダーゼ活性を有する酵素がチロシナーゼである、請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
反応液中の溶存酸素量が常時1ppm以上になるように酸素を供給することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載する製造方法。
【請求項5】
反応液を、反応容器に、その容積70容量%以上の割合で収容し、酸化反応を行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載する製造方法。
【請求項6】
反応液の発泡を抑制しながら基質化合物を酸化する方法である、請求項1乃至5のいずれかに記載する製造方法。
【請求項7】
下記(1)及び(2)の工程を有するメラニン前駆体の製造方法であって、
(1)反応液にアルカリまたは酸を供給して反応液のpHを5〜6に維持する工程、
(2)反応液のpHを連続して測定し、測定値の経時的変化をモニターする工程;
上記pH経時的変化の傾向の切り替わりを反応終了の指標として、酸素の供給を停止することを特徴とする、
請求項1乃至6のいずれかに記載する製造方法。
【請求項1】
3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)アラニン(DOPA)及びその類縁体からなる群から選択される少なくとも1種の基質化合物、及び酸化酵素またはこの酵素を含む微生物を含有する反応液に酸素を供給しながら閉鎖系で酸化反応を行うことを特徴とする、メラニン前駆体の製造方法。
【請求項2】
上記酸化酵素がカテコールオキシダーゼ活性を有する酵素である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
上記カテコールオキシダーゼ活性を有する酵素がチロシナーゼである、請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
反応液中の溶存酸素量が常時1ppm以上になるように酸素を供給することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載する製造方法。
【請求項5】
反応液を、反応容器に、その容積70容量%以上の割合で収容し、酸化反応を行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載する製造方法。
【請求項6】
反応液の発泡を抑制しながら基質化合物を酸化する方法である、請求項1乃至5のいずれかに記載する製造方法。
【請求項7】
下記(1)及び(2)の工程を有するメラニン前駆体の製造方法であって、
(1)反応液にアルカリまたは酸を供給して反応液のpHを5〜6に維持する工程、
(2)反応液のpHを連続して測定し、測定値の経時的変化をモニターする工程;
上記pH経時的変化の傾向の切り替わりを反応終了の指標として、酸素の供給を停止することを特徴とする、
請求項1乃至6のいずれかに記載する製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−45307(P2011−45307A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197401(P2009−197401)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000165251)月桂冠株式会社 (88)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000165251)月桂冠株式会社 (88)
【Fターム(参考)】
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