説明

反応装置中への反応物の噴射を最適化するための装置および方法

【課題】反応装置の開口部に接続される放出オリフィス部分の内部を延びる流体導路から成る、オレフィンのスラリー重合に適したループ反応装置中に噴射される反応物流の通路を区画するインジェクターノズルと、オレフィン重合反応に適したループ反応装置中への反応物の噴射での使用。
【解決手段】放出オリフィス部分の上記通路が非円形の横断面を有し且つ上記流体導路が円形の横断面を有する。インジェクターノズルがループ反応装置のエルボ部分またはエルボ部分に接続したパイプセグメントに沿ったエルボ部分の出口の内側の3つの1/4円上に接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンのスラリー重合用反応装置中への反応物の噴射方法の改良に関するものである。
本発明の第1の観点は、オレフィンのスラリー重合プロセスに適したループ反応装置中へ反応物を噴射するためのインジェクターノズル (injector nozzle) の設計を改良することにある。
本発明の別の観点は、オレフィン重合に適したループ反応装置中へ反応物を噴射するためのインジェクターノズルの使用にある。
【背景技術】
【0002】
オレフィン重合、例えばエチレン重合はモノマー、希釈剤、触媒、任意成分のコモノマー、任意成分の汚染防止剤のような反応添加物を用い、ループ反応装置を用いて作られることが多い。重合は一般にスラリー条件下で実行され、製品は一般に任意成分のコモノマー、任意成分の反応添加物を含む希釈剤(以下、単に希釈剤)中に懸濁した固体粒子から成る。反応装置中のスラリー内容物はポンプによって連続的に循環され、ポリマー固体粒子は液体希釈剤中に懸濁状態に維持され、製品はバッチ状態で駆動される沈殿レグ(settling legs)を介して定期的に回収される。
【0003】
重合プロセスの単一の反応装置であるか、重合プロセスの一連の反応装置の最後の反応装置である場合には、ポリマー製品はフラッシュラインを介してフラッシュタンクへ吐出され、そこで希釈剤と未反応モノマーの大部分がフラッシュ分離され、再循環される。ポリマー粒子は乾燥され、添加物が加えられ、最後には押し出されてペレットにされる。反応装置が重合プロセスの少なく他の連続反応装置と直列に連結されている場合には、製品は上記の他の反応装置と連結した移送ラインに吐出される。この方法で毎年何百万トンのエチレンポリマーが世界で製造されている。
【0004】
ある反応装置からのポリマーの生産性は滞在時間の定義を逆に考えて、その反応装置中でのポリマー平均滞在時間に対するその反応装置中に含まれるポリマーの量の比で記載することができる。生産量を増加させる周知の方法の一つは滞在時間を減らすことであるが、そうすると、ポリマーの性質が変ってしまう。生産量を増やす他の方法は反応装置中のポリマー量を増加させることである。これは反応装置の寸法が同じ場合、反応装置中の固体濃度を増加させることを意味する。
【0005】
イソブタン希釈剤中でのオレフィンポリマー、例えばエチレンポリマーの商業的生産では、歴史的に、反応装置中の最大固体濃度は高密度エチレンポリマーの場合に37〜40重量%程度であり、プロセスの改良を行なっても42〜46重量%程度の値である。この濃度以上になると反応装置内部が不安定になるため、固体濃度を減らす必要がある。所定プロセス条件群に対する最大値がいずれにせよ、固体濃度の改善は必要である。
【0006】
不安定状態は濃度が高い位置から局部的に始まり、それから反応装置内部の全体へ伝播する傾向があるので、反応装置内部の不均一性は達成可能な生産性に対して有害である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、反応装置内部を循環するスラリーの均一性を改善するにある。
本発明の他の目的は、反応装置中のポリマーの固体含有量を増加させることにある。
本発明のさよに他の目的は、重合反応物の反応装置中での分散および混合を最適化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は本発明の装置および方法で達成される。
本発明の第1の観点から、本発明はインジェクターノズルのデザインに関するものである。本発明のオレフィンのスラリー重合に適したループ反応装置中に噴射される反応物流の通路を区画するインジェクターノズルは基本的に反応装置の開口部に接続される放出オリフィス部分の内部を延びる流体導路から成り、放出オリフィス部分の上記通路は非円形の横断面を有し且つ上記流体導路が円形の横断面を有する。
【0009】
本発明はさらに、インジェクターノズルが反応装置のエルボ部分またはその上方で内側の3つの1/4円上に接続される、オレフィン重合反応に適したループ反応装置中に反応物を噴射するためのインジェクターノズルの使用に関するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のインジェクターノズルは、ループ反応装置中に反応物を最適に噴射できるという利点を有している。本発明のインジェクターノズルは分散を最大にでき、インジェクターノズルを囲んだ領域中への反応物の噴射と混合を最適化することができる。
本発明の別の態様では、本発明はオレフィンのスラリーループ反応装置中に反応物を噴射するためのインジェクターノズルに適した位置に関を提供する。
【0011】
噴射ノズルの位置の影響はポリマー製品生産で観測される上記のいくつかの制限から説明できる。特定の理論に拘束されることはないが、反応装置のあるセクションへのインジェクターノズルの取付け位置が不適当であると、反応速度が高くなる帯域ができ、局部的にホットスポットができる。例えば、反応物を不適当な帯域へ噴射すると、限られた容積のスラリー流の反応性が局部的且つ急激に増大し、生産上にいくつかの問題が生じる。
反応装置上でのインジェクターノズルの適切な位置を決定することは噴射された反応物の配布と混合パターンに足して重要である。同様に、インジェクターノズルの幾何学形状を最適化することで流動中のスラリー中への反応物の噴射条件が改善でき、従って、上記パラメータを最適化することで重合反応の生産性を上げることができる。
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明が下記の説明に限定されるものではない。
本発明は反応装置、好ましくはループ反応装置中に反応物を噴射するためのインジェクターノズルに関するものであり、このインジェクターノズルは基本的に反応装置の開口に接続される放出オリフィス部分中を延びた流体導路から成り、放出オリフィス部分の通路は非円形の横断面を有し、上記流体導路の通路は円形の横断面を有する。
【0013】
以下、[図2][図3][図4][図5]を参照して本発明のインジェクターノズルの通路に適した幾何学形状の例を説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
[図2]〜[図5]に示す放出オリフィス部分の通路は短い寸法2Ryと長い寸法2Rxとを有する非円形の断面面を有している。RxはRyより長い。本発明の一実施例ではRxはRyより少なくとも10%長い。
【0014】
[図2]は本発明の一実施例のインジェクターノズルの通路11.1を示し、流体導路9.1の通路は半径rを有する円形であり、この流体導路9.1は滑らかに湾曲した遷移部を通って横断面形状が楕円の放出オリフィス部分8.1の通路の中へ延びている。この放出オリフィス部分8.1は長い半径Rxと短い半径Ryとを有する
[図3]は本発明の他の一実施例のインジェクターノズルの通路11.2を示す。この場合の流体導路9.2の通路は半径rを有する円形であり、この流体導路9.2は滑らかに湾曲した遷移部を通って横断面形状がひし形の放出オリフィス部分8.2の通路の中へ延びている。この放出オリフィス部分8.2は長い対角線Rxと短い対角線Ryとを有する。
【0015】
[図4]は本発明の他の一実施例のインジェクターノズルの通路11.3を示す。この場合の流体導路9.3の通路は半径rを有する円形であり、この流体導路9.2は滑らかに湾曲した遷移部を通って横断面形状が長方形の放出オリフィス部分8.3の通路の中へ延びている。この放出オリフィス部分8.3は長辺Rxと短辺Ryとを有する。
【0016】
[図5]は本発明の他の一実施例のインジェクターノズルの通路11.4を示す。この場合の流体導路9.4の通路は半径rを有する円形であり、この流体導路9.2は滑らかに湾曲した遷移部を通って横断面形状が楕円の放出オリフィス部分8.4の通路の中へ延びている。この放出オリフィス部分8.4は長い半径Rxと短い半径Ryとを有する。
【0017】
[図6]は[図2]に示した通路11.1を規定する本発明のインジェクターノズル19の一実施例の横断面図である。このインジェクターノズル19は壁12を有している。本発明の一実施例のインジェクタノズル19は円筒形で、直径は2Rxより少なくとも5%長い。本発明の他の実施例では、[図6]に示すように、インジェクターノズル19の壁12はフランジ13を備えている。
【0018】
[図2]〜[図6]に示すように、流体導路の通路から放出オリフィス部分の通路への遷移部分は滑らかであり、円錐形か、ピラミッド形状をしているのが好ましい。「滑らか」とは反応物を噴射した時に流れの方向に尖った角度がない、湾曲または平らな表面を意味する。
【0019】
本発明の一実施例では、Rx/rの比は≧1にすることができる。本発明の他の実施例では、Rx/rの比は≦1にすることができる。本発明のさらに他の実施例では放出オリフィス部分の通路の寸法Rxは流体導路の通路の半径r の0.8〜5倍、好ましくは1〜4倍、より好ましくは1.5〜3.5倍にすることができる。本発明のさらに他の実施例では放出オリフィス部分の通路の寸法Ryは流体導路の通路の半径r の0.25〜1.25倍、好ましくは1〜0.5倍にすることができる。本発明ではRxはRyより少なくとも1.1倍長く、好ましくは1.5倍長い。
【0020】
上記の寸法比の全てにおいて、本発明では流体導路の通路のrは、短い軸方向長さの中間の大小のパイプ部分を考察に入れずに、少なくとも半径の5倍の距離にわたってノズルに至るパイプの内径と理解しなければならない。
【0021】
本発者は、驚くことに、ループ反応装置中を循環するスラリー中への反応物の導入、分散および混合を最適化するには、Rx/r、Ry/rおよびRx/Ryの寸法比と幾何形状が重要であるということを発見した。
【0022】
図示していない本発明の一実施例では噴射された反応物中にガス、好ましい実施例では特に泡を分散させる装置をインジェクターノズルが有している。この装置は流れに合った開口を有するグリッドまたはスクリーンにすることができる。
【0023】
本発明のインジェクターノズルは、希釈剤と未反応モノマーとから成る液体媒体中に懸濁した粒状のポリマー固体のスラリーからなる流れが作られる任意プロセスに適した反応装置中に反応物を噴射するのに使用される。こうした反応プロセスは一般に重合で得られる粒子として公知であるが、それに限定されるものではない。
【0024】
本発明は特に、ループ反応装置中でポリマー、特にポリエチレンを生産するオレフィン重合方法に適している。その場合には液体媒体中、通常は反応希釈剤および未反応モノマー中に懸濁した粒状のポリマー固体のスラリーからなるポリマー流が作られる。
【0025】
本発明は特に、上記反応装置の適切な位置から反応装置中に反応物を噴射するための適切な幾何形状を有するインジェクターノズルと、反応装置上でのインジェクターノズルの位置決め方法とを提供する。
【0026】
上記反応装置中の重合プロセスは重合されるモノマーを含む希釈剤中でのオレフィン、例えばC2〜C8オレフィンの触媒重合から成り、重合スラリーはループ反応装置中を循環され、このループ反応装置に出発原料が供給され、そこから形成されたポリマーが除去される。適したモノマーの例は2〜8つの炭素原子を有する分子、例えばエチレン、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ブタジエン、イソプレン、1-ヘキセンなどであるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
重合反応は50〜120℃、好ましくは70〜115℃、より好ましくは80〜110℃の温度で、20〜100バール、好ましくは30〜50バール、より好ましくは37〜45バールの圧力で実行できる。
好ましい実施例では本発明はエチレンの重合にイソブタン希釈剤が適している。適切なエチレン重合にはエチレンの単独重合、エチレンとそれより高次の1-オレフィンコモノマー、例えば1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンまたは1-デセンとの共重合が含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明の実施例のコモノマーは1-ヘキセンである。
【0028】
エチレンは、触媒、任意成分の共触媒、任意成分のコモノマー、任意成分の水素および任意成分のその他の添加物の存在下で液体希釈剤中で重合され、それによって重合スラリーができる。
「重合スラリー」「ポリマースラリー」とは少なくともポリマー固体粒子と液相とを含む実質的に多重相の組成物を意味し、第3の相(ガス)が少なくとも局部的に存在していてよく、液相が連続相である。固体は触媒と重合されたオレフィン、例えばポリエチレンを含む。液体はエチレンのような溶解したモノマーを含む不活性希釈剤、例えばイソブタンと、任意成分の一種以上のコモノマー、分子量制御剤、水素、帯電防止剤、汚染防止剤、スカベンジャー、その他の添加物である。
【0029】
用語「反応物」にはモノマーと不活性希釈剤とが含まれ、さらにコモノマーや分子量制御剤を任意成分をさらに含むことができる。
適した希釈剤(溶媒またはモノマーに対して)は周知であり、不活性であるか少なくとも本質的に不活性で、反応条件の下の液体である炭化水素である。適した炭化水素にはイソブタン、n-ブタン、プロパン、n-ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、イソヘキサンおよびn-ヘキサンが含まれ、イソブタンが好ましい。
適した触媒も周知である。適切な触媒の例はシリカに支持された酸化クロム、チグラー触媒、チグラー−ナッタ触媒として知られた有機金属触媒、メタロセン触媒等が含まれるが、これらに限定されるものではない。共触媒とは重合反応中に触媒と一緒に用いられて触媒の活性を改善するために使われる材料を意味する。
【0030】
一般に、重合はスラリー条件下に実行され、得られたポリマー製品は一般に希釈剤中に懸濁した固体粒子から成る。この重合スラリーはトラフエルボを介して互いに接続されたジャケット付きの垂直パイプセクションから成るループ反応装置中を循環する。重合熱は水冷ジャケットを介して除去される。重合は本発明に従って単一または並列または直列に接続された少なくとも2つのループ反応装置で実行できる。ループ反応装置は液体充填モード(liquid full mode)で運転される。直列で使う場合には最初の反応装置の一つ以上の沈殿レグのような連結手段を介して連結できる。
【0031】
生じたポリマーは固形分濃度が反応装置本体中に比べて増加している少なくとも一つの沈殿レグを介して所定量の希釈剤と一緒にループ反応装置から抜き出される。
沈殿レグは「製品回収帯域」と連続流体連結させるか、間欠的な流体連通を可能にする弁のような装置を介して「製品回収帯域」から分離できる。この「製品回収帯域」には加熱された(または加熱されていない)フラッシュライン、フラッシュタンク、サイクロン、フィルタおよび関連する蒸気回収系、固体回収系、他の反応装置または直列に連結された上記の他の反応装置への移送ライン等が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
沈殿レグの下流に反応装置が存在しない場合には、抜き出したスラリーを減圧し、例えば加熱された(または加熱されていない)フラッシュラインを介してフラッシュタンクへ送り、そこでポリマーが未反応モノマーおよび/またはコモノマーおよび希釈剤から分離される。ポリマーの脱気はパージカラムでさらに完全に行なうことができる。沈殿レグの下流に少なくとも一つの反応装置が存在する場合には抜き出したスラリーを移送ラインを介して次の反応装置へ移す。この移送は下流の反応装置の沈殿レグの出口の圧力より低い圧力の位置にスラリーを噴射することによって行うことができる。
【0033】
ループ反応のセクション上での位置を正しく決定することによって反応装置上の正しい位置にインジェクターノズルを位置決めることができる。これに適した位置はポンプの下流のエルボ部分の出口、それに結合した垂直なパイプセグメントに沿った所、対応するパイプまたは連結パイプの中心軸線帯域内およびそれに連結したパイプである。あまり適していない帯域はエルボ部分の曲率の外側と、同様なエルボ部分に接続された垂直パイプ上である。
【0034】
噴射された反応物の物理特性には反応する物質の物理状態、例えばガスか液体かこれらの両方の混合物かが含まれる。その他の物理特性には反応物の粘度、濃度および流れが含まれる。さらに、流量率、温度および反応物質の噴射圧力等の特性も含まれる。
インジェクターノズルの幾何学形状の変更にはインジェクターノズルの形状、寸法の変更と、その全面設計変更があるが、これらに限定されるものではない。
噴射が可能な反応装置の部分は反応装置のパイプにジャケットが付いていない部分である。インジェクターノズルに適した好ましい位置は反応装置に設けたポンプ部分の下流である。反応装置のエルボ部分は一般にフランジ等の手段を介して反応装置の他の部分に接続される。インジェクターノズルを取付けることができる反応装置の適切な部分はエルボ部分の出口であり、好ましくは上記フランジと反応装置のジャケットが付けられた部分との間の位置である。
【0035】
本発明の一実施例では、ループ反応装置上のインジェクターノズルの位置はエルボ部分の出口上またはその所で、反応装置に対して方位で内側の3つの1/4円上に位置しているのが好ましい。これは例えば循環ポンプのモータの上方に位置した90°の角度の所ではないということを意味する。
従って、本発明はさらに、インジェクターノズルが反応装置のエルボ部分上またはその上方の内側の3つの1/4円に接続された、ループ反応装置に反応物を噴射するためのインジェクターノズルの使用に関するものである。特に、インジェクターノズルは反応装置のエルボ部分上またはエルボ部分に結合したパイプセグメントに沿ったその出口の内側の3つの1/4円に接続される。
【0036】
本発明の一実施例ではインジェクターノズルが、エルボの曲率半径の最大で2倍の距離、好ましくは1倍に等しい距離の所のエルボ部分の出口に接続され、最も好ましくはエルボ半径曲率の出口で接続される。
上記のインジェクターノズルの幾何学形状だけが重要なのでなく、反応物を循環するスラリー中にいつ、どのように導入するかに関する反応装置上のインジェクターノズルの位置も重要である。例えば、反応装置の垂直パイプ上のインジェクターノズルの放出オリフィス部分の横方向位置で反応物の分布と混合のパターンを改善でき、従って、ポリマー製品の生産量を増加させることができる。
【0037】
本発明はさらに、オレフィン重合方法に適したループ反応装置にも関するものである。このループ反応装置は液体希釈剤と固体ポリマー粒子とからなるポリマースラリーに適した流路を規定する互いに連結された複数のパイプと、重合触媒と希釈剤を反応装置中に導入する手段と、ループ反応装置中をポリマースラリーを循環させるのに適した少なくとも一つのポンプと、反応装置のパイプに連結された、ポリマースラリーを沈殿させるのに適した一つまたは複数の沈殿レグ(沈殿脚)と、反応装置のエルボ部分上またはその上方の内側の3つの1/4円に接続されたインジェクターノズルとからなる。
[図1]は本発明で使用される互いに接続された複数のパイプ7から成るループ反応装置1の概念図である。図にはループ反応装置1が6本の垂直管で示してあるが、パイプ7の数はそれより多くても少なくてもよく、例えば少なくとも4本のパイプにすることができ、ループ反応装置1は4本〜20本にすることができる。
パイプ・セグメント7の垂直部分に熱ジャケット17を備えるのが好ましい。重合熱は反応装置の上記ジャケット中を循環する冷却水で除去できる。反応物質はライン3を介して反応装置1中に供給される。
【0038】
本発明ではこのライン3上のインジェクターノズルが位置Aで示す反応装置のエルボ部分の内側の3つの1/4円の所に連結されている。従来は反応物は位置Bで示すパイプ7の外側から噴射されていた。
触媒は任意成分の触媒活性化剤と一緒に管路25を介して反応装置1中に噴射される。本発明の一実施例では、触媒は循環ポンプの直ぐ上流に導入できる。
重合スラリーは一つ以上のポンプ、例えば軸流ポンプ2によってループ反応装置1の全体を図示した矢印6の方向へ直接循環される。このポンプは電動機5で駆動できる。「ポンプ」とは流体を圧縮し、駆動し、圧力を上げることができるピストンや回転羽根4のような任意の装置を意味する
【0039】
反応装置1は上記パイプ7に接続した一つ以上の沈殿レグ(settling leg)10をさらに備えている。[図1]には4つの沈殿レグしか示していないが、本発明は一つ以上の沈殿レグを有するループ反応装置に適用される。本発明の実施例のループ反応装置は1〜20の沈殿レグ、好ましくは4〜12の沈殿レグ、さらに好ましくは6〜10の沈殿レグを有している。
沈殿レグ10は分離弁(isolation valves)26を備えているのが好ましい。この分離弁26は通常状態下では開状態で、例えば沈殿レグを運転から分離する時に閉じられる。沈殿レグは製品取出し弁または排出弁27を備えることもできる。排出弁27は完全に開いたときにポリマースラリーを連毒的または定期的に放出できるものであれば任意タイプの弁にすることができる。沈殿レグ中に沈殿したポリマースラリーと一つ以上の製品回収ライン18を介して例えば製品回収帯域に放出される。
【0040】
本発明の一実施例のインジェクタノズルは、ループ反応装置に配置した時の噴射位置の近くの噴射方向が、反応装置中の流れの主方向に対して直角な面に対して0°以外の角度を成す。
[図7]はエルボ部分と真直ぐな部分とから成るループ反応装置の概念図で、フィードライン3のインジェクターノズル23はエルボ部分の上方で内側の3つの1/4円(inner three quarter circle)上に連結されている。
[図8]は[図7]のループ反応装置の上記部分のX−X線による横断面図で、インジェクターノズル23に適した連結位置が曲線15で図示してある。
「内側の3つの1/4円(inner three quarter circle)」とは上記軸線X−Xに対して45°〜315°の角度を含む円である。ここで、0°は噴射位置に最も近い位置にあるループ反応装置のエルボの中央面内で外を向く方向である。
【0041】
[図7]に示すようにインジェクターノズル23はループ反応装置のエルボ部分の上方で45°〜315°の間の角度で配置できる(図8)。より好ましくは、インジェクターノズル23は90°〜270°の角度の間の角度で配置される。最も好ましくは、インジェクターノズル23は120°〜240°の間の角度に位置決めされる。ここで、0°は噴射位置に最も近い位置にあるループ反応装置のエルボの中央面内で外を向く方向である。
図示していないが、ループ反応装置のパイプ上へのインジェクターノズルの取付け角度はパイプの縦軸線A−Aに対して90°とは異なる角度でもよい。
本発明の他の実施例は、本発明のインジェクターノズルを有するオレフィン重合プロセスに適したループ反応装置を対象にする。このループ反応は相互に連結した複数のパイプと、反応装置中へ重合触媒と希釈剤とを導入する手段と、ループ反応装置中でポリマースラリーの循環を維持するのに適した少なくとも一つのポンプと、反応装置のパイプに連結した一つ以上の沈殿レグと、インジェクタノズルとから成り、このインジェクタノズルは基本的に円形横断面の通路を有する流体導路から成り、この流体導路は非円形横断面の通路を有する放出オリフィス部分の中へ延びており、放出オリフィス部分は、放出オリフィス部分の通路の最も短い寸法が噴射位置で反応装置中の流体の主たる流れの方向と平行になるように、反応装置に接続されている。
【0042】
[図9]は本発明の一実施例を示し、[図6]のインジェクタノズル19をループ反応装置のパイプ7に締付けた状態を示す横断面図である。このインジェクターノズルはフランジ13を備えた円筒状の壁12を有している。この円筒状の壁12はパイプ7から放射状に延びたハウジング14に嵌るようになっている。ハウジング14はパイプ7の開口24に連通している。ハウジング14はフランジ22をさらに備えている。インジェクターノズルのフランジ13は適当な結合手段を用いてハウジング14上にインジェクタノズル19を固定するのに有利である。図では円筒プレート21を用い、ボルト16とネジ20でパイプにロック状態が維持されている。これに適した結合手段にはボルト、クランプ、ラッチ、くぎ、ピン、リベット、ネジ等が含まれるが、これらに限定されるものではない。インジェクターノズルの壁は反応装置内部へ突き出たり、ハウジング14に未密封部分が残らないように製造しなければならない。
【0043】
本発明の一実施例では、インジェクターノズルの放出オリフィス部分の通路の最も短い寸法Ryが噴射位置の高さで反応装置中の流体の主要な流れの方向と平行になるように、本発明のインジェクターノズルを反応装置に接続する。
[図10]はこの実施例の概念図で、本発明のインジェクターノズルを備えた、開口24を有するループ反応装置のパイプ7の部分的横断面図である。インジェクターノズルは中実な外壁12を有し、非円形横断面の通路を有する放出オリフィス部分8.1を有している。放出オリフィス部分は、上記通路の最も短い寸法2Ryが矢印6で示す噴射位置の高さでの反応装置中の流体の主要な流れ方向と平行となるように、反応装置に接続されている。
本発明のさらに他の実施例では、インジェクターノズルが多重ループ反応装置で使われる。例えば[図11]に示すダブルループ反応装置で使うことができる。
【0044】
[図11]は互いに直列に接続された2つの単一ループ反応装置100、116を示している。両方の反応装置100、116とも互いに接続された複数のパイプ104から成る。パイプセグメント104の縦方向セグメントは熱ジャケット105を備えているのが好ましい。反応物質はライン107を介して反応装置100に供給される。本発明ではライン107のインジェクターノズルが反応装置100および/または116のエルボ部分上またはその上方で内側の3つの1/4円上に接続される。触媒は任意成分の助触媒または活性化剤と一緒にライン106を介して反応装置100および116の一方または両方から噴射できる。
重合スラリーは一つ以上のポンプ(例えば軸流ポンプ101)によって矢印108で示す方向にループ反応装置100および116の全体を循環される。このポンプには電動機102から電力が供給できる。ポンプには回転インペラ103を取付けることができる。
【0045】
反応装置100、116は一つ以上の沈殿レグ109を備えている。これらの沈殿レグ109は反応装置100、116のパイプ104に接続している。沈殿ラグ109は分離弁(isolation valves)110を備えているのが好ましい。沈殿ラグは製品取出し弁または排出弁111を備えることもでき、また、下流のセクションに直接連結することもできる。反応装置100の沈殿レグ109の出口の下流には移送ライン112を設け、好ましくはピストン弁115を用いて沈殿レグ109中に沈殿したポリマースラリーを他の反応装置116へ移すことができる。
多重ループ反応装置を並列構成で使われなければならない場合には、移送ライン112に沿って三方弁114を設け、流れを製品回収帯域へ変えることができる。反応装置116の沈殿レグ109中に沈殿したポリマースラリーは一つ以上の製品回収ライン113を介して例えば製品回収帯域へ取出すことができる。
【0046】
驚くことに、インジェクターノズルの取付け位置を正しくすることによってポリマー製品の生産性が増加した。この驚くべき効果は、反応前に反応物を完全可溶化させ、反応装置中に分散させるための平均時間が長くなることで説明できる。特定の理論に拘束されるものではないが、従来のインジェクターノズルの位置は[図1]の位置Bであり、この位置Bが不安定性が早期に開始(トリガー)する原因であり、そのためポリマー製品の生産性に限界が生じる。
【0047】
本発明方法を用いることによってインジェクターノズルをループ反応装置上に正しく位置決めでき、生産処理能力を改善できる。さらに、本発明方法を用いることによって反応装置への反応物の導入と混合が改善され、インジェクターノズルの正しい幾何学形状を決めることができ、反応物の分布を均一にすることができる。
本発明方法を用いることによってインジェクターノズルの正しい幾何学形状と反応装置のパイプ上での適切な位置とを組み合わせることができる。それによって反応物の導入を最適化でき、循環スラリー中での反応物の分布を均一化でき、それによって重合反応の生産性を増加することができる。
【0048】
本発明のインジェクターノズルの上記改良とオレフィン重合用ループ反応装置でのインジェクターノズルの上記使用とによって、ポンプパワーを不安定にせずに、最大固体濃度に増加させ、それを維持することができる。さらに、ループ反応装置中の固体重量パーセントが増加し、触媒滞在時間が長くなり、触媒の生産性が増加する。この触媒滞在時間の改善によって粒子の比容積が改善し、それによって、反応装置から取り出される固体の重量パーセントが増え、再循環装置での希釈剤の処理コストが低下する。
以上、本発明を好ましい実施例に関して詳細に説明したが、他の変形例にすることもできる。従って、本発明の範囲は上記の実施例に限定されるのではない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施例のループ反応装置の概念図。
【図2】本発明の一実施例のインジェクターノズルの通路を示す透視図。
【図3】本発明の他の実施例のインジェクターノズルの通路を示す透視図。
【図4】本発明のさらに他の実施例のインジェクターノズルの通路を示す透視図。
【図5】本発明のさらに他の実施例のインジェクターノズルの通路を示す透視図。
【図6】図2の通路を有するインジェクターノズルの横断面図。
【図7】本発明の一実施例のインジェクターノズルを備えたループ反応装置の一部の概念的な透視図。
【図8】図7のループ反応装置の上記部分のX−X線に沿った横断面図。
【図9】ループ反応装置に固定された図6のインジェクターノズルの横断面図。
【図10】図6のノズルが設けられたループ反応装置の部分の部分横断面図。
【図11】ダブルループ重合反応装置の概念図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応装置の開口部に接続される放出オリフィス部分の内部を延びる流体導路から成る、オレフィンのスラリー重合に適したループ反応装置中に噴射される反応物流の通路を区画するインジェクターノズルにおいて、
上記放出オリフィス部分の上記通路が非円形の横断面を有し且つ上記流体導路が円形の横断面を有することを特徴とするインジェクターノズル。
【請求項2】
上記放出オリフィス部分の通路の横断面が卵形、好ましくは短い半径Ryと長い半径Rxとを有する楕円である請求項1に記載のインジェクターノズル。
【請求項3】
上記放出オリフィス部分の通路の横断面が、幅が2Ryで長さが2Rxの長方形である請求項1に記載のインジェクターノズル。
【請求項4】
上記放出オリフィス部分の通路の横断面が、長い方の対角線が2Rxで短い方の対角線が2Ryである菱形である請求項1に記載のインジェクターノズル。
【請求項5】
上記放出オリフィス部分の通路のRxが上記流体導路の通路の半径rの0.8〜5倍、好ましくは1〜4倍、さらに好ましくは1.5〜3.5倍である請求項1〜4のいずれか一項に記載のインジェクターノズル。
【請求項6】
上記放出オリフィス部分の通路のRyが上記流体導路の通路の半径rの1.25〜0.25倍、好ましくは1〜0.5倍である請求項1〜5のいずれか一項に記載のインジェクターノズル。
【請求項7】
RxがRyより少なくとも1.1倍、好ましくは少なくとも1.5倍長い請求項1〜6のいずれか一項に記載のインジェクターノズル。
【請求項8】
上記流体導路の通路から上記放出オリフィス部分の通路への遷移部分が滑らかで、好ましくは円錐形かピラミッド形である請求項1〜7のいずれか一項に記載のインジェクターノズル。
【請求項9】
噴射された反応物中のガスを分散させるのに適した装置をさらに有する請求項1〜8のいずれか一項に記載のインジェクターノズル。
【請求項10】
前記インジェクターノズルが、直径が2Rxより少なくとも5%長い円筒である請求項1〜9のいずれか一項に記載のインジェクターノズル。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のインジェクタを有する、オレフィン重合反応に適したループ反応装置。
【請求項12】
放出オリフィス部分の通路の最も短い寸法が上記ループ反応装置中の流体の主要な流れの方向と平行になるように、インジェクターノズルの放出オリフィス部分が上記ループ反応装置に接続される請求項11に記載のループ反応装置。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のインジェクターノズルの、オレフィン重合反応に適したループ反応装置中への反応物の噴射での使用。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のインジェクターノズルの、オレフィン重合反応に適したループ反応装置中への反応物の噴射での使用であって、上記インジェクターノズルがループ反応装置のエルボ部分またはエルボ部分に接続したパイプセグメントに沿ったエルボ部分の出口の内側の3つの1/4円上に接続されている使用。
【請求項15】
上記パイプセグメントが垂直である請求項14に記載の使用。
【請求項16】
上記インジェクターノズルが噴射位置の近くでループ反応装置中の主要な流れの方向に直角な面に対して0°以外の角度を成す噴射方向を有する請求項13または15に記載の使用。
【請求項17】
噴射位置に最も近い位置にあるループ反応装置のエルボの中央面内で外を向く方向を0°とした場合、上記インジェクターノズルが45°〜315°、好ましくは90°〜270°、さらに好ましくは120°〜240°の角度でループ反応装置のエルボ部分またはその出口に接続される請求項13〜16のいづれか一項に記載の使用。
【請求項18】
上記インジェクターノズルが、エルボの曲率の最大で2倍に等しい距離の所、好ましくはエルボの曲率の1倍に等しい距離の所、さらに好ましくはエルボの曲率の出口の所に接続される請求項13〜17のいづれか一項に記載の使用。
【請求項19】
放出オリフィス部分の通路の最も短い寸法が噴射位置で反応装置の主要な流れ方向に平行になるように上記インジェクターノズルの放出オリフィス部分が反応装置に接続される請求項13〜18のいずれか一項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2007−522319(P2007−522319A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−552633(P2006−552633)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【国際出願番号】PCT/EP2005/050627
【国際公開番号】WO2005/077518
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(504469606)トータル・ペトロケミカルズ・リサーチ・フエリユイ (180)
【Fターム(参考)】