収差補正荷電粒子ビーム発生装置
【課題】荷電粒子ビームの無球面収差化・色消し化・エネルギー単色化を回転対称構造のレンズのみを使って行う荷電粒子ビーム発生装置を提供する。
【解決手段】19から出た種々のエネルギー値を有するイオン線は10に入射し、つぎに、3に入射する。3を出たイオン線のうち18の中心孔を通り抜けたイオン線のみが4に入射し、4で集束されて2を照射する。3の励起電圧を調節することで無球面収差化がなされる。10の励起電圧を調節することで色消し化、もしくは、エネルギーの単色化がなされる。本発明の解決手段は、(1)2つ以上のレンズを使って19の像を2の上に投影すること、(2)19と2との間には、19と2を含めて少なくとも3つ以上のビームクロスオーバーを産むようにレンズを励起すること、(3)クロスオーバーの少なくとも1つはレンズの作用領域の内部に設けること、である。各レンズの励起強度は荷電粒子線の軌道計算を行って決める。
【解決手段】19から出た種々のエネルギー値を有するイオン線は10に入射し、つぎに、3に入射する。3を出たイオン線のうち18の中心孔を通り抜けたイオン線のみが4に入射し、4で集束されて2を照射する。3の励起電圧を調節することで無球面収差化がなされる。10の励起電圧を調節することで色消し化、もしくは、エネルギーの単色化がなされる。本発明の解決手段は、(1)2つ以上のレンズを使って19の像を2の上に投影すること、(2)19と2との間には、19と2を含めて少なくとも3つ以上のビームクロスオーバーを産むようにレンズを励起すること、(3)クロスオーバーの少なくとも1つはレンズの作用領域の内部に設けること、である。各レンズの励起強度は荷電粒子線の軌道計算を行って決める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子顕微鏡(以下、透過型電子顕微鏡をTEM,走査型電子顕微鏡をSEMと呼ぶ)や電子線描画装置(以下、EB)、ならびにイオンビーム集束装置(以下、FIB)等のように、荷電粒子線源から発生した電子線、あるいはイオン線で構成された荷電粒子ビームを荷電粒子線制御用レンズを使ってTEMにおいては観察用蛍光板、SEM,EB,FIBにおいては観察用、もしくは微細加工用の試料(以下、サンプル)に照射する装置において、その荷電粒子線制御用レンズの発生するレンズ収差を極力小さくすることによってTEMにおいては極力高分解能のサンプル像を与え、また、SEM,EB,FIBにおいては極力細いサンプル照射用ビームを産み出す荷電粒子ビーム発生装置を製作するための設計技術に係わる。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビーム発生装置は荷電粒子線源から発射された荷電粒子線群を電界や磁界の力で作用する荷電粒子線制御用レンズを用いて荷電粒子照射体上に集束する、すなわち、該荷電粒子線源の荷電粒子光学像を荷電粒子照射体上に投影する装置である。電子顕微鏡は光学顕微鏡の原理に倣って産み出された。そこで、細く絞られた、すなわち、電子顕微鏡においては高い解像力を与える電子ビームを得るには、光学顕微鏡におけると同様に、発生するレンズ収差のできるだけ小さい荷電粒子線制御用レンズを使う必要がある。ビーム性能を低下させる主な収差には荷電粒子線が光学系の中心軸(以下、光軸)から離れた部分を走行することによって産み出される幾何学的収差、すなわち、球面収差と、荷電粒子線群は、通常、エネルギーの違った多数の荷電粒子線からできているのでエネルギーの違いに対するレンズの集束効果の違いにより発生するエネルギー的収差、すなわち、色収差とがある。電子顕微鏡の発明が光学顕微鏡の原理に基づいて行われたものであるから、電子線制御技術の高性能化は顕微鏡やカメラなど光学機器の先進技術に倣ってなされてきた。球面収差を無くすには、光学機器では「非球面レンズ」が使われる。ところが、荷電粒子線用レンズでは、荷電粒子線に対する屈折作用が荷電粒子線の走行経路に沿った広い範囲にわたって、しかもその強度を変化させながら存在するため、荷電粒子線の屈折面をガラスレンズ表面のように自由な形に、すなわち、球面収差が発生しない形に設計することは出来ない事と思われてきた。また、1936年にはドイツのシェルツァー博士が「回転対称構造の電磁界レンズでは球面収差を無くすことはできない」との学術論文を発表していた
リフト・フュア・フィジーク誌、第101巻、593ページ、1936年発行)。そこで、近年には、4重極型質量分析器に用いられているような、棒状の磁極を光軸の周囲に4極から12極配置した、光軸に関しては非回転対称の構造をした多数の磁極からなる、いわゆる、多極子レンズを2段、もしくは4段、重ねて用いた収差補正器が開発され、使われるようになった。また、カメラや望遠鏡などに使われている色収差の小さい「色消しレンズ」も電子顕微鏡の分野では多極子レンズを使って製作されている。さらに、エネルギーの不揃いは電子ビームの細束化を妨げ、また、干渉性能や元素分析性能を低下させるので、エネルギーの揃った電子線群で造られた、すなわち、光学で言うところの単色の電子ビームを取り出したい場合もあるが、その目的に対しても、従来は、プリズムに類似した非回転対称構造の電子線エネルギー分析器がエネルギーフィルターとして使われている。すなわち、細い荷電粒子ビームを得るに有用な無球面収差レンズ、色消しレンズ、エネルギーフィルターの全てが電子線制御の分野では光軸に関して非回転対称構造の装置で造られている。回転対称構造の装置に比べて、非回転対称構造の装置は、はるかに多数の部品、すなわち、棒状電磁極等の電気的制御素子を必要とし、しかもそれらを電子線行路に沿って高い精度で組み上げる必要がある。そのため、上述の多極子収差補正器のアイデアは約70年前に提案されたものでありながら、その実用化にはコンピュータ制御技術の進捗・導入を待って約60年の歳月を必要とした。しかもこの収差補正器は、2006年6月現在では、日本国内では製造されていず、電子顕微鏡製造会社はドイツから補正器を輸入して顕微鏡に取り付け、収差補正電子顕微鏡としてユーザーに提供している段階にある。EBやFIBにおいては収差補正装置の実用化は世界的にも未だなされていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
以上に述べたように、電子顕微鏡の無球面収差化、色消し、ならびにエネルギーの単色化を行う装置は、すでに市販されている。しかしながらそれらの装置は多数の制御素子を高精度に組み立てる必要があるので製造には多大のコストを必要としている。また、磁界型の多極子レンズでは電子に比べて質量がはるかに大きいイオンのビームは制御することができず、電界型の多極子レンズでは構造の複雑さに由来して耐電圧裕度が懸念されるので、電界型の多極子レンズがFIBの収差補正器に応用される可能性は極めて小さいことと思われる。もし、これらの装置が、これまで電子ビームやイオンビームを制御するのに使われてきた回転対称構造の、従来の、荷電粒子線制御用レンズで作ることができれば、必要とする制御素子の数を極めて少なくすることができ、低価格で、かつ、使いやすい装置が提供できるようになる。少ない制御素子数の装置は長時間動作に対する安定性や信頼性の点でも有利である。しかもこの装置はFIBにも適用できるものとなる。
【問題を解決するための手段】
【0004】
「電子線集束」、「電子線回折」、「電子線ホログラフィ」、ならびに「位相差電子顕微鏡」など、「収差除去」を除く全ての電子顕微鏡技術が電子と光の「波動性」の共通性質を活用して、光学分野で開発された技術に倣って開発されてきた。なぜ「収差除去」だけが例外なのだろう? 光学分野では常用されている、回転対称構造のレンズを使った、「非球面レンズ」や「色消しレンズ」に関しても、それらの物理とそれらのレンズ設計の方法とを勉学すれば、それは荷電粒子線制御の分野にも応用できるのではないか?と考えた。 光学レンズの設計は計算機を駆使して光線追跡を行う事により成される。 すなわち、まず、計算機の中にレンズの表面形状、すなわち、光の屈折面の形状を構築し、光線追跡を行って、目標仕様に合った表面形状にレンズを加工する。先に荷電粒子線光学系にこの手法を応用しようとすると、荷電粒子線の屈折面は、ガラス表面のようにはっきりした境界では定義できず、その結果、その形状を自由に制御できない問題点のありそうなことを述べた。 しかしながら、レンズへの入射粒子線とレンズからの出射粒子線の延長線の交点で形成される曲面を考えると、その曲面は、荷電粒子線の実効的な屈折面を与えていることに気がついた。この曲面の形状は、粒子線の軌道を計算すれば容易に知ることのできるものである。この形状を計算機を使って調べていると、もし、このレンズを2つのレンズで構成し、それら2つのレンズの作用強さの割合を違えると、その2つのレンズでできた複合レンズの与える屈折面の形状は種々に違ったものになることを見出した。すなわち、2つの荷電粒子用レンズの励起条件を変えると屈折面の形状を変えることができる。ちょうど光学レンズの設計でなされているのと同様に、コンピュータを使って荷電粒子線の軌道追跡を行えば、この複合レンズの屈折面の形状を種々に変える事により、無球面収差化、色消し化に必用なレンズ条件が見つかる可能性がある。すなわち、本発明で使用した[問題を解決するための手段]は、(1)2つ以上の回転対称構造の荷電粒子線制御用レンズ(以下、ラウンドレンズ)とそれらの制御手段を準備し、(2)計算機を使って荷電粒子線の軌道を計算し、(3)荷電粒子線の照射体位置での軌道の収差(光軸からのズレ)を計算して、(4)収差が最小となるようにラウンドレンズの動作条件を設計することであった。
以下、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0005】
図1は本発明の収差補正荷電粒子ビーム発生装置を球面収差補正TEMの対物レンズの球面収差補正に適用した本発明の実施の1形態である。図1の横軸座標、z、は対物レンズ4の中心位置を基準(z=0.0mm)とし、かつ、電子の進行方向を正値にとってミリメートル単位で表している。 顕微鏡で観察しようとするサンプル2は4の中心に置かれている。図の上部分には4と球面収差補正レンズ3からなる複合レンズの部分で計算した電子軌道6と磁束密度分布5が描かれ、下部分には、3,4の磁界レンズの構造と2、ならびにレンズを励起する2つの制御電源(励起強度をExobj、ExCsと表示)が箱型で描かれている。4は磁極間隔4mm,孔径6mmの磁界レンズで作られており、z=0.0mmの位置に磁極間隙の中央が位置する。 3は磁極間隔1mm、孔径2mmの磁界レンズで作られており、z=300mmの位置に磁極間隙の中央が位置する。
【0006】
4は電子顕微鏡のピント合わせに使われ、3は球面収差補正に使用される。 3はコイル8に流す電流で励起される。磁界レンズの場合、電子線屈折効果の大きさ、すなわち、屈折角はコイルに流す電流値と電子線のエネルギー値とに関係するので制御電源28の内部に記した磁界レンズ3の励起強さ、ExCsはA/√Vの単位で表される。左方より光軸にほぼ平行に4に入射した電子線29は2を透過するときにサンプルを構成する原子と衝突して種々の角度に散乱し、4の集束作用によりその角度を変更して4を出てゆく。その様子を電子線軌道図中に太い矢印で示した。この電子線群は4と3とで構成された複合レンズの集束作用により、zi=300.25mmの位置に2の各位置での電子線透過度の違いを示す模様、すなわち、サンプル像、を拡大して結像するように4はExobjで、3はExCsで励起されている。 この実施例では2の模様が16.4倍の大きさに拡大されて結像するようにExobjとExCsとが選ばれている。この拡大像は、図1には描かれていないが、図1の右方に設置された複数個の投影レンズによりさらに拡大され、たとえば10万倍の倍率に拡大されて蛍光板上に結像し、蛍光の濃淡模様の透過電子顕微鏡像を産み出す。顕微鏡の使用に際しては、オペレータは、まず、3を計算機で求められた所定の強さに励起し、傾向板上の像のピントが合うように4の励起強度、Exobjを調節する。ExCsの値が違えばピント合わせに必用なExobjも違ってくることはいうまでもない。 図2は図1の複合レンズがzi=300.25mmの位置に2を結像するとき、この像面に発生する球面収差を、球面収差係数Csの値に数値化し、それをExCsの大きさに対して計算して描いた図である。像のボケ具合、すなわち、ボケの大きさはCsに比例する。レンズ4のCsは図2のExCsがたとえば28.85A/√Vより大きい部分に示されているよう、0.7mmである。像のボケの程度を1/3以下に改善すると、蛍光板には分解能が3倍高い、かなり明瞭な像が得られるようになる。図2はExCsを28.75A/√Vから28.77A/√V
に抑えることができることを示している。もし、ExCsを28.726A/√Vもしくは28.758A/√Vに選べばこのTEMは球面収差のない,すなわち、Cs=0.0mmのシャープな像を蛍光板上に与える。
【0007】
図1ではz=0.0mmに置かれた物点(zo)も、z=300.25mmに設定された像点(zi)も磁場の中、すなわち、磁界レンズがレンズ作用をする領域の中に在る。 球面収差補正が完全に実施される、すなわち、0.0mmのCsを得るに必要な光学系の条件を調べた。 図3はzoもziも磁界レンズの作用領域の外、すなわち、zo=−3mm,zi=302mmに置いて計算したCs対ExCsである。計算を行った40A/√V以下の全てのExCsに対してCsは正値であり、Csがゼロ値、もしくは負値になることはない。 この結果は、[背景技術]の章で述べたシェルツァー理論、すなわち、「ラウンドレンズを使う限りCsは必ず正値であって球面収差補正はできない」との解析計算結果をデジタル計算で確認した事柄に該当する。 「ラウンドレンズを使っても球面収差補正ができる」ことを示した図2の結果とは何が違うか? 図1の実施例では物点も像点も磁場の中、すなわち、レンズの中にある。1936年には計算機が使えなかったので、像位置での収差を計算するには、部分積分法を利用して解析計算を簡単化する必要があった。 部分積分法では積分範囲のある物理量の積分値をゼロとおけることが要求されるので、収差計算に応用する場合には、物点と像点でのレンズ作用の強さがゼロであること、すなわち、物点も像点もレンズの外にあるというが前提となっている。計算機で複雑な計算ができるようになった今日では、部分積分法によって収差計算を簡単化する必要はなく、電子軌道を忠実に追跡する事により、物点、あるいは、像点、あるいはその双方がレンズの中にあるようなレンズの場合にも収差計算ができるようになっている。その結果、図2に示したよう、Csがゼロ値や負値となるレンズ条件も見つかる。図1の光学系の構造で、zoとziの位置を種々に変えて完全な収差補正が可能、すなわち、Csをゼロとするに必要なzoとziの位置条件を調べると、zoとziのうち、少なくとも1つはレンズの作用領域の中にある必要のあることが分かった。 なお、シェルツァー理論が部分積分法を利用して導出された経過は先に掲げた参考文献の第596ページに記されている。理論の適用範囲を示したシェルツァー博士のこの記述が本発明を計画した1つの端緒であったことを付記したい。
【0008】
図4は本発明の収差補正荷電粒子ビーム発生装置を球面収差補正SEMに適用した本発明の実施の1形態を示している。図4の横軸に記した数値は電子源1から観察しようとするサンプル2にいたる光軸に沿った距離(z)をサンプル位置を原点(z=0.0mm)に選んでミリメートル単位で表わしている。 このSEMは電子銃7、球面収差補正レンズ3、ならびに、対物レンズ4の3つのラウンドレンズで構成されている。1の電子光学像が2の上に投影される。 4は直径4mmの孔を有し、かつ、4mmの間隔をあけて配置した1対の磁極で造られ、磁極間隙の中央部、z=0.0mmに2が置かれている。この対物レンズの球面収差係数Csは0.67mmである。z=−310mmの位置には直径2mmの中心孔を有した磁極を2mm離して設置した磁界型の球面収差補正レンズ3が置かれている。3は28により3の内部と外部の2つの位置A、Bにビームのクロスオーバーを発生させるような強い強度で励起されている。
【0009】
図4には3をExCs=38.49A/√Vで励起してこのSEMのCsがゼロ、すなわち、球面収差が完全に除去されたときの1から2にいたる光軸に沿った磁束密度分布5と電子線軌道6とが磁界計算と軌道計算との結果を使って描かれている。38.49A/√Vという値は電子軌道計算と球面収差計算とを行い、Csを0.0mmとするに必要な3の励起強度として求めた。 この無球面収差状態での電子線軌道について説明する。1より引き出された電子線は電子線通過孔を有する3枚の円盤状電極でできた7により所定のエネルギー、100keVに加速され、かつ、光軸に平行な電子線となって3に入る。 38.49A/√VのExCsで励起された3により、電子線は3の中央部、z=−310mmと3の外部のz=−222.6mmの2つの位置A,Bで光軸と交差するように曲げられる。すなわち、1より種々の角度で放出された電子線群で形成される電子ビームはz=−310mmとz=−222.6mmの2つの位置でクロスオーバーを持つ。 その後電子ビームは4に入り、4の作用で2の上に集束する。この集束点もビームのクロスオーバーであることはいうまでもない。すなわち、このSEMは球面収差補正レンズと対物レンズの2つのレンズの中にクロスオーバーを産み出している。 このSEMの球面収差をゼロとするに必要なExCsの値を知るために、ExCsを種々に変えた場合のCsを計算した。 その結果を図5に示すが、その図は、このSEMでは3をExCs=38.45A/√V、あるいは38.49A/√Vに励起するとCsが0.0mm、すなわち、球面収差がゼロとなることを示している。 これら2つの励起強度のうち38.45A/√Vの励起強度は、ExCsの変化に対するCsの変化があまりに急峻なので、実用には適しそうにない。図5にはExCsに対する色収差係数Ccの変化も描いているが、その理由は後ほど述べる。
【0010】
図5は、図2を使って行ったのと同様に、球面収差補正に必要とする28の電流値設定精度を求めるためにも使用する。すなわち、球面収差によるサンプル照射ビームのボケの量を収差補正前の1/3以下にするには、補正前の4のCsが0.67mmであるから、図5より|Cs|を0.67×0.33=0.22mm以下にするExCsの範囲を求めると、ExCsは38.48A/√V以上38.50A/√V以下の大きさに設定する必要のあることが分かる。言い換えると、この実施例で球面収差によるビームのボケを1/3以下に小さくするには、(38.50−38.48)/38.49=500ppmより厳密な電源安定度と電流値調節精度を必要とする。
【0011】
本実施例に示したように対物レンズの前方(電子源側)に別のレンズを設置し、そのレンズの励起強度を選ぶことにより、SEMの球面収差をゼロにすることが出来る理由を以下に説明する。光学機器で使われている非球面レンズの球面収差除去原理を応用している。非球面レンズでは、球面収差をなくすため、光線の屈折場所、すなわち、レンズの表面を球面ではなく、図6に示すような、その曲率が光軸から離れるにしたがって次第に変化する形状に加工して使っている。
【0012】
すでに述べたように荷電粒子線を屈折させる荷電粒子用レンズではガラスレンズと違って屈折作用が光軸に沿って広い範囲に、しかも連続的に強さが変化する様式で発生しているので、ただ1個のレンズを使う限り、屈折面の形状を任意に選ぶことはできない。 したがって光学レンズとは違って、ただ1つのレンズを使う限りそのレンズの球面収差を無くすことはできない。 ところが、そのレンズの前方に他のレンズを置いて、そのレンズの励起強度、ExCsを変えると、その2つのレンズでできた複合レンズへの入射電子線と出射電子線との交点で形成される実効的な屈折面の形状は違えることが出来、その結果、複合レンズのCsはExCsの値に応じて違ってくることを本発明者は見いだした。 図7は3と4とからなる複合レンズに光軸に平行に入射した電子線が4によって2の上に集束される時違ったExCsに対して複合レンズの屈折面がどのように変化するかを電子軌道を計算して描いたものである。 ExCsを1.0A/√Vに励起すると図4.1に示すよう曲率の小さい、すなわち、平面に近い屈折面9を与える。このときのCsを計算するとCsは25.5mmである。ExCsを2.8A/√Vに上げると図4.2のように光軸から離れるにつれて曲率が次第に大きくなる曲面状の屈折面を与える。このときのCsは113mmと大きい。屈折面は球面収差を考慮に入れない、現実にはない、
では曲率がゼロの平面として描かれている。図7において、曲率の小さい屈折面が小さいCsを与え、曲率の大きい屈折面が大きいCsを与えていることはこの事柄に対応している。 この図7の光学系では、サンプルは磁界の外に設置されている。すなわちCs=25.5mmとCs=113mmを与える図4.1、図4.2の電子軌道は図に見られるようサンプル位置にのみビームのクロスオーバーを有しているがその位置は磁界の外にある。30mm離れた2つのレンズからなるこの光学系を使って、Csをゼロとするに必要な3の励起条件を求めるためExCsを種々に変え、それらに対するCsを計算した結果を図8に示す。図8ではExCsを0.0A/√Vから30.0A/√Vまでの範囲でかえているが、その変更範囲の中では、Csはゼロにはならなかった。すなわち、Csは負値をとることはなく、図3と同様に、シェルツァー理論どおりの変化を示した。サンプル位置や電子源位置、ならびに、レンズ間距離を変えて計算を進めると、Csをゼロとする光学系を得るには、「サンプル位置と電子源位置とを含めて、光学系の中には少なくとも3つのビームクロスオーバーを与えるように光学系を強く励起し、かつ、それらのクロスオーバーのうち、少なくとも1つは磁界の中に設け、かつ、3と4の2つのレンズは十分の距離をあけて設置する」必要のあることが分かった。 先に示したCs=0.0mmが得られる図4の光学系では2つのレンズの間隔を310mmあけ、かつ、z=−300mmとz=0.0mmの付近に発生させている2つのクロスオーバーは磁界の中にある。さらに図4の光学系を使って無球面収差化に必要な条件を調査すると、3と4との間に必要とする距離Lは3に入射する電子線の3の入り口での光軸からの距離、すなわち3の入り口での電子軌道の離軸距離Rに関係することがわかった。無収差化にはRが大きいほど大きいLを必要とする。図4では7から光軸に平行に出た電子線が3に入射している。光軸に平行ではなく、光軸に向かって傾斜して3の前方でクロスオーバーを作るような様式で3に入射する光学系を設計する事により3の入り口での離軸距離Rを小さくし、その結果、Lを短くできることが分かった。 しかも都合の良いことには、Csをゼロにするに必要なExCsの値を小さくし、かつ、Cs対ExCs曲線の、Cs=0.0mmでの勾配を緩やかに出来ることも見つけた。
【0013】
図9は3の前方、電子源側にクロスオーバー形成用レンズ10を置き、このレンズにより電子線を光軸方向に屈折させ、3の中心点から10mm前方(電子源側)で光軸と交差した後に3に入射するように光学系を構成し、かつ、3を7.005A/√Vに励磁したときの電子軌道を計算した本発明の1実施形態である。このExCsの値、すなわち、図4の実施例に比べるとはるかに低いExCsの値で図9のSEMは無球面収差状態となっている。 しかも3と4とのレンズ間距離は110mmで図4の3と4のレンズ間距離に比べると約1/3に短い。
【0014】
図10は図9の光学系の与えるCs,と色収差係数CcをExCsに対して計算した結果である。図10においてCsが0.0mmになる点(ExCs=7.005A/√V)でのCs対ExCs曲線の勾配は図5での勾配に比べて極めて小さい。 この勾配が小さければ小さいほど装置の無球面収差化に必要とする電源調節精度は低いものでよく、ユーザーには使いやすい装置となる。以上に述べた、これらの、(1)必要とするレンズ間距離が短くてよい特長、ならびに(2)Cs対ExCs曲線の勾配が小さい特長は、球面収差補正に必要とするビームクロスオーバーの1つを3の直前、図9では3の前方10mmの位置に設けることによって得られたものである。
【0015】
一方、図10は図4の光学系による球面収差補正に比べて1つの欠点があることをも示している。 それは、図9の光学系で球面収差補正を行うと、球面収差補正時の色収差係数、Ccが大きくなってしまうことである。図5に示されたよう、図4の光学系を用いた球面収差補正ではCsを0.0mmとするExCs=38.49A/√Vの励磁ではCcは−2.2mmであったのに対し、図10では−5.9mm(ExCs=7.005A/√V)に大きくなっている。 色収差によるビームボケの量もCcの大きさに比例する。 色収差はエネルギーの低い電子線ほど、あるいは、ガラスレンズでは、波長の長い光線ほどそれにレンズは強く作用するというレンズ作用の本質に基づく収差なのでそれをゼロにすることはできない。 色収差を小さくするには、カメラや望遠鏡では「色消しレンズ」が使われている。 「色消しレンズ」は2つのレンズを用意し、波長の異なる2つの光線、たとえば赤色光線と緑色光線、に対するその複合レンズの焦点距離が一致するように2つのレンズを組み合わせる。光線に関する物理量、「波長」は電子線に関する物理量、「エネルギー値」に該当する。電子ビームの球面収差補正に関して「非球面レンズ」の技法が応用できたことから類推して、Ccを小さくするためにも光学の「色消しレンズ」の設計方法が適用できないことか?と考えた。光学系を設定するとその光学系での、エネルギー値の異なる2つの電子線に対する焦点距離は容易に計算できる。また、それら2つの電子線に対する焦点距離を一致させるに必要とするであろう光学系の動作条件の変更には図9に与えたクロスオーバー形成用レンズの励磁、ExCcを変更する事により可能なことのように思われた。
【0016】
図9の光学系は1から出た電子線が7により100keVに加速され、2の上に集束するよう設計されている。電界放出電子源が放出する電子線には幅、0.4eVのエネルギーのバラツキがあると考えているので、2を照射する電子ビームは(100keV−0.2eV)から(100keV+0.2eV)の範囲のエネルギーを有する電子線群で出来ている。そこで、ExCsはCsをゼロとする7.005A/√Vに設定し、10の励磁、ExCcの種々の値を変えてそれぞれのExCcに対して99.9998keVと100.0002keVの電子線に対する焦点距離、f1,f2を計算し、それらの差、Δf(=f1−f2)をExCcに対してプロットした。 結果を図11に示す。
【0017】
ExCc=7.5A/√Vに励磁すれば、Δf=0.0nmとなり、図9の光学系は99.9998keVと100.0002keVの電子線に同じ焦点距離を与える、つまり、これらのエネルギー値の電子線に対しては光学で言うところの「色消し状態」を与える電子ビームを産んでいる。 この光学系動作条件でのCcは図11が示すように、−2.0mmで当初の−5.9mmに比べると小さくなっている。ただしこの電子光学条件では装置は無球面収差状態にはなく、図11が示すように−0.47mmのCsが残っている。 そこで、今度はExCcを7.5A/√Vに設定して、ExCsを変えてCs、Cc対ExCs曲線を計算すると図12を得る。
【0018】
図12はExCsを7.3A/√Vに励磁するとCs=0.0mmの無球面収差状態に戻すことができることを示している。 しかも、このときのCcは−1.6mmと−5.9mmに比べて絶対値で1/4程度に小さい。ただし、−0.055nmのΔfが発生し、「色消し状態」ではなくなっている。以上に示したこれらの手順、すなわちExCcを選んでΔfをゼロにする図11の操作と、ExCsを選んでCsをゼロにする図12の操作とを交互に繰り返すと、Δf=0.0nm,Cs=0.0mmの「色消し」、かつ、「無球面収差」の電子ビームが得られる。 図13はそのようにして得た、色消し、かつ、無球面収差電子ビーム光学系の実施の1形態を示す図で、図にはレンズ構成と電子線軌道が描かれ、10と3に必要とする励起強度も示されている。 すなわち、ExCcは7.479A/√Vに励磁されExCsは7.309A/√Vに励磁されている。このSEMのCs,Ccはそれぞれ、0.0mm,−1.6mmである。
【0019】
先に述べたように、また、図11、図12に示したように、色消し光学系はCcをその光学系が与えうる最小値にするものではあってもゼロにするものではない。したがってさらに色収差を小さくするにはエネルギーのそろった電子線を発射する電子源を使用するか、あるいは、エネルギーのそろった電子線のみを抽出してサンプルに照射する必要がある。後者の方法には従来は非回転対称構造のエネルギーフィルターが利用されてきた。もし、ラウンドレンズを使ってエネルギーフィルターが造れれば構造が簡単で、かつ、イオンビームにも容易に応用できるエネルギーフィルターが得られる。エネルギーフィルターの動作原理を考えてみると、それは、色収差の大きいレンズを使って電子軌道を種々の方向に分散させ、光軸に近い部分を走行する電子線のみを使っている事に他ならない。色消し前の図9の光学系が図4の光学系に比べてはるかに大きいCcを与えた理由を考えてみると、電子線が3に入射するときの離軸距離Rを短くしたことによったものであることに気がついた。 電子軌道を計算してみると、小さいRを与える事によって3は大きな色収差、すなわち、エネルギー値の違いによる軌道の分散(エネルギー分散)を産み出すことが分かった。 この知見を利用すればエネルギーフィルターをラウンドレンズで造ることができる。
【0020】
図14は10と3とからなる磁界レンズの光学系に1.0keVから1.2keVの範囲のエネルギーを有する電子で構成された電子線群が左方から光軸に平行に入射したとき、エネルギーの違った電子線のそれぞれの軌道(13〜17)を計算して描いたものである。10はz=−30mmの位置にその中心を置き、z=−3.6mmの位置に1.0keVのエネルギーの電子線がクロスオーバーを持つように励起されている。3はz=0.0mmの位置にその中心を置き、z=+30mmの位置に1.0keVの電子線がクロスオーバーを持つように励起されている。図に示したようにz=30mmの位置に直径1.4mmの孔を持つ絞り18を挿入すると1.05keVより大きい値のエネルギーを持つ電子、13,14,15はこの絞りでカットされ、エネルギーが1.00keVから1.05keVの間にある電子線のみがこの絞りを通り抜ける。 当初は1.0keVから1.2keVの範囲のエネルギーの電子線群で構成されていた電子ビームが18の後では1.0keVから1.05keVの範囲のエネルギーの電子線のみで構成されるようになる。図14から推測されるように、3によるエネルギー分散の大きさは、3での離軸距離Rを10の励起、ExCcによって変更することにより広範囲に変えれることが確認された。この結果に基づいてラウンドレンズで構成するエネルギーフィルター付無球面収差FIBを設計した。この1実施形態を図15に示す。
【0021】
図15のFIBは液体金属イオン源19、イオン銃20、10、3、4、18、2の構成要素でできている。イオンビームを制御するには電界レンズを使う必要がある。電界レンズはその中心にイオンビーム通過用の孔を開けた3枚の円盤状の電極を並べる構成で出来ており、その中央電極に電圧を印加することでイオンビームを集束する。図15には3を励起してこのFIBを無球面収差状態にしたときのエネルギーの異なるイオン線群の軌道が描かれている。すなわち、Gaをイオン種に選んだ19から引き出したイオン線が20によって20keVに加速され、かつ、z=−418mmの位置にクロスオーバーを結ぶように集束されている。このイオンビームは10によって3の中心電極から20mm前方のz=−280mmの位置にクロスオーバーを持つように集束される。 図に示したところのCs=0.0mmの球面収差補正状態は、3の中央電極にVCs=18.9kVを印加する事によって得られている。 この電圧印加により3はこのFIBのCsをゼロにするとともに、3から出てゆくイオン線をそのエネルギー値に応じて分散させている。図15には、19.9996keVから20.0009keVの範囲のエネルギーを有するイオン線、21、22,23,24,25,26,27が3により分散されている様子が描かれている。z=−60mmの位置には直径11μmの孔を有する絞りが設けられ、20keVから20.0007keVの範囲のエネルギーを有するイオン線のみがその孔を通り抜けて4により集束されて2を照射する。
【0022】
エネルギーフィルターの効果を知るために2を照射するイオンビームの断面形状を計算する。Gaイオン源の大きさを直径50nm、Gaイオン源から発射するイオンの有するエネルギー幅を10eV、単位立体角当りのイオン放出量を20μA/srと仮定して、イオン源から光軸に対して0.4mrad以下の角度で出た電流値10pAのイオン線群によって形成されるイオンビームの2の位置での断面に沿った電流密度分布、すなわち、ビームの断面形状(ビームプロファイル)を計算した。そのために、初期エネルギーと出発位置、ならびに発射角がそれぞれ50個ずつ異なる50×50×50個のイオン線の軌道を計算し、2を照射する単位面積あたりのイオンの個数 対 照射位置のヒストグラムを求めた。図16は図15において18は設置しない、ただし、球面収差補正は実行されている状態でのビームプロファイルを描いたものである。このFIBの結像倍率は0.79であり、かつ、Gaイオン源には直径50nmの円盤電極を仮定しているので、もし収差がなければプロファイルはその幅が50×0.79=40nmの矩形を示すはずであるが、図16は色収差によって少しなまった形をしている。
【0023】
図17はエネルギーフィルター絞りを挿入した条件で得られるビームプロファイルを計算したものである。図17は図16に比べてはるかに幅40nmの矩形に近い形をしている。矩形プロファイルを持つイオンビームは微細加工には特に都合が良い。すなわち、シャープな溝やシャープな断面を作ることが出来、計画したところの寸法仕様に合わせて高精度に加工できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、カメラなどの光学機器分野で開発された非球面レンズと、色消しレンズの設計技術が、荷電粒子線光学分野にも応用できることが明らかになった。 すなわち、従来は、荷電粒子ビームに対しては、ラウンドレンズを使っていては収差補正は出来ないものとされてきたが、本発明により、それが出来ることが示された。多極子レンズを使った収差補正装置に比べると、ラウンドレンズを使った収差補正装置ははるかに少ない価格で製作することができる。 また、電気的調整箇所が極めて少ないので、使いやすく、かつ、長時間動作させても安定度を損ないにくい装置が提供できるようになった。 さらに本発明で使用する収差補正用レンズは磁界型レンズには限られていず、イオンビームを制御するために従来から使ってきた電界型レンズを使っても良い。その結果、イオンビーム装置に対しても収差補正とエネルギーフィルタリングとができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】 球面収差補正をTEMの対物レンズ部分に施した本発明実施の1形態と、球面収差補正時におけるその部分の磁束密度分布ならびに電子軌道
【図2】 図1のTEMの対物レンズ−収差補正レンズ光学系におけるCs対ExCs
【図3】 図1の光学系において物点zoも像点ziもレンズの作用領域の外部(zo=−3mm,zi=302mm)に置いた場合のCs対ExCs
【図4】 球面収差補正SEM実施の1形態と球面収差補正時の電子軌道。
【図5】 図4のSEMにおけるCs,Cc対ExCs。
【図6】 光学機器の無球面収差化に使われている非球面レンズの説明図。
【図7】 ExCsの違いによる電子線屈折面の形状変化。
【図8】 図7の光学系においてExCsを変えたときのCs対ExCs。
【図9】 離軸距離調節を目的としたクロスオーバー形成用レンズ付SEMの球面収差補正状態における電子線軌道図。
【図10】 図9のSEMに対するCs,Cc対ExCs。
【図11】 図9のSEMに対するΔf,Cs,Cc対ExCc。
【図12】 図9のSEMのExCcを7.5A/√Vに設定して、ExCsを変えたときのCs,Cc,Δf,対ExCs。
【図13】 色消し・無球面収差SEMの1実施形態。
【図14】 磁界型ラウンドレンズで造るエネルギーフィルター。
【図15】 エネルギーフィルタ付無球面収差FIBに応用した本発明の1実施形態。
【図16】 図15に示したFIBでエネルギーフィルタ絞りは使わずに、ただし、VCsは1.102kVに励起して球面収差は無くしたときのビームプロファイル(サンプル照射ビームの断面形状)。
【図17】 無球面収差、かつ、エネルギーフィルター絞りを使用した状態でのビームプロファイル。
【符号の説明】
【0026】
1・・・電子源、2・・・サンプル、3・・・球面収差補正レンズ、4・・・対物レンズ、5・・・磁束密度分布、6・・・電子軌道、7・・・電子銃、8・・・コイル、9・・・屈折面、10・・・クロスオーバー形成用レンズ、13・・・1.20keVのエネルギーの電子の軌道、14・・・1.15keV電子線軌道、15・・・1.10keV電子線軌道、16・・・1.05keV電子線軌道、17・・・1.00keV電子線軌道、18・・・絞り、19・・・液体金属イオン源、20・・・イオン銃、21・・・19.9996keVイオン線軌道、22・・・19.9998keVイオン線軌道、23・・・20keVイオン線軌道、24・・・20.0002keVイオン線軌道、25・・・20.0004keVイオン線軌道、26・・・20.0007keVイオン線軌道、27・・・20.0009keVイオン線軌道 28・・・制御電源 29・・・TEMの対物レンズに入射するサンプル照明用電子線
【技術分野】
【0001】
本発明は電子顕微鏡(以下、透過型電子顕微鏡をTEM,走査型電子顕微鏡をSEMと呼ぶ)や電子線描画装置(以下、EB)、ならびにイオンビーム集束装置(以下、FIB)等のように、荷電粒子線源から発生した電子線、あるいはイオン線で構成された荷電粒子ビームを荷電粒子線制御用レンズを使ってTEMにおいては観察用蛍光板、SEM,EB,FIBにおいては観察用、もしくは微細加工用の試料(以下、サンプル)に照射する装置において、その荷電粒子線制御用レンズの発生するレンズ収差を極力小さくすることによってTEMにおいては極力高分解能のサンプル像を与え、また、SEM,EB,FIBにおいては極力細いサンプル照射用ビームを産み出す荷電粒子ビーム発生装置を製作するための設計技術に係わる。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビーム発生装置は荷電粒子線源から発射された荷電粒子線群を電界や磁界の力で作用する荷電粒子線制御用レンズを用いて荷電粒子照射体上に集束する、すなわち、該荷電粒子線源の荷電粒子光学像を荷電粒子照射体上に投影する装置である。電子顕微鏡は光学顕微鏡の原理に倣って産み出された。そこで、細く絞られた、すなわち、電子顕微鏡においては高い解像力を与える電子ビームを得るには、光学顕微鏡におけると同様に、発生するレンズ収差のできるだけ小さい荷電粒子線制御用レンズを使う必要がある。ビーム性能を低下させる主な収差には荷電粒子線が光学系の中心軸(以下、光軸)から離れた部分を走行することによって産み出される幾何学的収差、すなわち、球面収差と、荷電粒子線群は、通常、エネルギーの違った多数の荷電粒子線からできているのでエネルギーの違いに対するレンズの集束効果の違いにより発生するエネルギー的収差、すなわち、色収差とがある。電子顕微鏡の発明が光学顕微鏡の原理に基づいて行われたものであるから、電子線制御技術の高性能化は顕微鏡やカメラなど光学機器の先進技術に倣ってなされてきた。球面収差を無くすには、光学機器では「非球面レンズ」が使われる。ところが、荷電粒子線用レンズでは、荷電粒子線に対する屈折作用が荷電粒子線の走行経路に沿った広い範囲にわたって、しかもその強度を変化させながら存在するため、荷電粒子線の屈折面をガラスレンズ表面のように自由な形に、すなわち、球面収差が発生しない形に設計することは出来ない事と思われてきた。また、1936年にはドイツのシェルツァー博士が「回転対称構造の電磁界レンズでは球面収差を無くすことはできない」との学術論文を発表していた
リフト・フュア・フィジーク誌、第101巻、593ページ、1936年発行)。そこで、近年には、4重極型質量分析器に用いられているような、棒状の磁極を光軸の周囲に4極から12極配置した、光軸に関しては非回転対称の構造をした多数の磁極からなる、いわゆる、多極子レンズを2段、もしくは4段、重ねて用いた収差補正器が開発され、使われるようになった。また、カメラや望遠鏡などに使われている色収差の小さい「色消しレンズ」も電子顕微鏡の分野では多極子レンズを使って製作されている。さらに、エネルギーの不揃いは電子ビームの細束化を妨げ、また、干渉性能や元素分析性能を低下させるので、エネルギーの揃った電子線群で造られた、すなわち、光学で言うところの単色の電子ビームを取り出したい場合もあるが、その目的に対しても、従来は、プリズムに類似した非回転対称構造の電子線エネルギー分析器がエネルギーフィルターとして使われている。すなわち、細い荷電粒子ビームを得るに有用な無球面収差レンズ、色消しレンズ、エネルギーフィルターの全てが電子線制御の分野では光軸に関して非回転対称構造の装置で造られている。回転対称構造の装置に比べて、非回転対称構造の装置は、はるかに多数の部品、すなわち、棒状電磁極等の電気的制御素子を必要とし、しかもそれらを電子線行路に沿って高い精度で組み上げる必要がある。そのため、上述の多極子収差補正器のアイデアは約70年前に提案されたものでありながら、その実用化にはコンピュータ制御技術の進捗・導入を待って約60年の歳月を必要とした。しかもこの収差補正器は、2006年6月現在では、日本国内では製造されていず、電子顕微鏡製造会社はドイツから補正器を輸入して顕微鏡に取り付け、収差補正電子顕微鏡としてユーザーに提供している段階にある。EBやFIBにおいては収差補正装置の実用化は世界的にも未だなされていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
以上に述べたように、電子顕微鏡の無球面収差化、色消し、ならびにエネルギーの単色化を行う装置は、すでに市販されている。しかしながらそれらの装置は多数の制御素子を高精度に組み立てる必要があるので製造には多大のコストを必要としている。また、磁界型の多極子レンズでは電子に比べて質量がはるかに大きいイオンのビームは制御することができず、電界型の多極子レンズでは構造の複雑さに由来して耐電圧裕度が懸念されるので、電界型の多極子レンズがFIBの収差補正器に応用される可能性は極めて小さいことと思われる。もし、これらの装置が、これまで電子ビームやイオンビームを制御するのに使われてきた回転対称構造の、従来の、荷電粒子線制御用レンズで作ることができれば、必要とする制御素子の数を極めて少なくすることができ、低価格で、かつ、使いやすい装置が提供できるようになる。少ない制御素子数の装置は長時間動作に対する安定性や信頼性の点でも有利である。しかもこの装置はFIBにも適用できるものとなる。
【問題を解決するための手段】
【0004】
「電子線集束」、「電子線回折」、「電子線ホログラフィ」、ならびに「位相差電子顕微鏡」など、「収差除去」を除く全ての電子顕微鏡技術が電子と光の「波動性」の共通性質を活用して、光学分野で開発された技術に倣って開発されてきた。なぜ「収差除去」だけが例外なのだろう? 光学分野では常用されている、回転対称構造のレンズを使った、「非球面レンズ」や「色消しレンズ」に関しても、それらの物理とそれらのレンズ設計の方法とを勉学すれば、それは荷電粒子線制御の分野にも応用できるのではないか?と考えた。 光学レンズの設計は計算機を駆使して光線追跡を行う事により成される。 すなわち、まず、計算機の中にレンズの表面形状、すなわち、光の屈折面の形状を構築し、光線追跡を行って、目標仕様に合った表面形状にレンズを加工する。先に荷電粒子線光学系にこの手法を応用しようとすると、荷電粒子線の屈折面は、ガラス表面のようにはっきりした境界では定義できず、その結果、その形状を自由に制御できない問題点のありそうなことを述べた。 しかしながら、レンズへの入射粒子線とレンズからの出射粒子線の延長線の交点で形成される曲面を考えると、その曲面は、荷電粒子線の実効的な屈折面を与えていることに気がついた。この曲面の形状は、粒子線の軌道を計算すれば容易に知ることのできるものである。この形状を計算機を使って調べていると、もし、このレンズを2つのレンズで構成し、それら2つのレンズの作用強さの割合を違えると、その2つのレンズでできた複合レンズの与える屈折面の形状は種々に違ったものになることを見出した。すなわち、2つの荷電粒子用レンズの励起条件を変えると屈折面の形状を変えることができる。ちょうど光学レンズの設計でなされているのと同様に、コンピュータを使って荷電粒子線の軌道追跡を行えば、この複合レンズの屈折面の形状を種々に変える事により、無球面収差化、色消し化に必用なレンズ条件が見つかる可能性がある。すなわち、本発明で使用した[問題を解決するための手段]は、(1)2つ以上の回転対称構造の荷電粒子線制御用レンズ(以下、ラウンドレンズ)とそれらの制御手段を準備し、(2)計算機を使って荷電粒子線の軌道を計算し、(3)荷電粒子線の照射体位置での軌道の収差(光軸からのズレ)を計算して、(4)収差が最小となるようにラウンドレンズの動作条件を設計することであった。
以下、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0005】
図1は本発明の収差補正荷電粒子ビーム発生装置を球面収差補正TEMの対物レンズの球面収差補正に適用した本発明の実施の1形態である。図1の横軸座標、z、は対物レンズ4の中心位置を基準(z=0.0mm)とし、かつ、電子の進行方向を正値にとってミリメートル単位で表している。 顕微鏡で観察しようとするサンプル2は4の中心に置かれている。図の上部分には4と球面収差補正レンズ3からなる複合レンズの部分で計算した電子軌道6と磁束密度分布5が描かれ、下部分には、3,4の磁界レンズの構造と2、ならびにレンズを励起する2つの制御電源(励起強度をExobj、ExCsと表示)が箱型で描かれている。4は磁極間隔4mm,孔径6mmの磁界レンズで作られており、z=0.0mmの位置に磁極間隙の中央が位置する。 3は磁極間隔1mm、孔径2mmの磁界レンズで作られており、z=300mmの位置に磁極間隙の中央が位置する。
【0006】
4は電子顕微鏡のピント合わせに使われ、3は球面収差補正に使用される。 3はコイル8に流す電流で励起される。磁界レンズの場合、電子線屈折効果の大きさ、すなわち、屈折角はコイルに流す電流値と電子線のエネルギー値とに関係するので制御電源28の内部に記した磁界レンズ3の励起強さ、ExCsはA/√Vの単位で表される。左方より光軸にほぼ平行に4に入射した電子線29は2を透過するときにサンプルを構成する原子と衝突して種々の角度に散乱し、4の集束作用によりその角度を変更して4を出てゆく。その様子を電子線軌道図中に太い矢印で示した。この電子線群は4と3とで構成された複合レンズの集束作用により、zi=300.25mmの位置に2の各位置での電子線透過度の違いを示す模様、すなわち、サンプル像、を拡大して結像するように4はExobjで、3はExCsで励起されている。 この実施例では2の模様が16.4倍の大きさに拡大されて結像するようにExobjとExCsとが選ばれている。この拡大像は、図1には描かれていないが、図1の右方に設置された複数個の投影レンズによりさらに拡大され、たとえば10万倍の倍率に拡大されて蛍光板上に結像し、蛍光の濃淡模様の透過電子顕微鏡像を産み出す。顕微鏡の使用に際しては、オペレータは、まず、3を計算機で求められた所定の強さに励起し、傾向板上の像のピントが合うように4の励起強度、Exobjを調節する。ExCsの値が違えばピント合わせに必用なExobjも違ってくることはいうまでもない。 図2は図1の複合レンズがzi=300.25mmの位置に2を結像するとき、この像面に発生する球面収差を、球面収差係数Csの値に数値化し、それをExCsの大きさに対して計算して描いた図である。像のボケ具合、すなわち、ボケの大きさはCsに比例する。レンズ4のCsは図2のExCsがたとえば28.85A/√Vより大きい部分に示されているよう、0.7mmである。像のボケの程度を1/3以下に改善すると、蛍光板には分解能が3倍高い、かなり明瞭な像が得られるようになる。図2はExCsを28.75A/√Vから28.77A/√V
に抑えることができることを示している。もし、ExCsを28.726A/√Vもしくは28.758A/√Vに選べばこのTEMは球面収差のない,すなわち、Cs=0.0mmのシャープな像を蛍光板上に与える。
【0007】
図1ではz=0.0mmに置かれた物点(zo)も、z=300.25mmに設定された像点(zi)も磁場の中、すなわち、磁界レンズがレンズ作用をする領域の中に在る。 球面収差補正が完全に実施される、すなわち、0.0mmのCsを得るに必要な光学系の条件を調べた。 図3はzoもziも磁界レンズの作用領域の外、すなわち、zo=−3mm,zi=302mmに置いて計算したCs対ExCsである。計算を行った40A/√V以下の全てのExCsに対してCsは正値であり、Csがゼロ値、もしくは負値になることはない。 この結果は、[背景技術]の章で述べたシェルツァー理論、すなわち、「ラウンドレンズを使う限りCsは必ず正値であって球面収差補正はできない」との解析計算結果をデジタル計算で確認した事柄に該当する。 「ラウンドレンズを使っても球面収差補正ができる」ことを示した図2の結果とは何が違うか? 図1の実施例では物点も像点も磁場の中、すなわち、レンズの中にある。1936年には計算機が使えなかったので、像位置での収差を計算するには、部分積分法を利用して解析計算を簡単化する必要があった。 部分積分法では積分範囲のある物理量の積分値をゼロとおけることが要求されるので、収差計算に応用する場合には、物点と像点でのレンズ作用の強さがゼロであること、すなわち、物点も像点もレンズの外にあるというが前提となっている。計算機で複雑な計算ができるようになった今日では、部分積分法によって収差計算を簡単化する必要はなく、電子軌道を忠実に追跡する事により、物点、あるいは、像点、あるいはその双方がレンズの中にあるようなレンズの場合にも収差計算ができるようになっている。その結果、図2に示したよう、Csがゼロ値や負値となるレンズ条件も見つかる。図1の光学系の構造で、zoとziの位置を種々に変えて完全な収差補正が可能、すなわち、Csをゼロとするに必要なzoとziの位置条件を調べると、zoとziのうち、少なくとも1つはレンズの作用領域の中にある必要のあることが分かった。 なお、シェルツァー理論が部分積分法を利用して導出された経過は先に掲げた参考文献の第596ページに記されている。理論の適用範囲を示したシェルツァー博士のこの記述が本発明を計画した1つの端緒であったことを付記したい。
【0008】
図4は本発明の収差補正荷電粒子ビーム発生装置を球面収差補正SEMに適用した本発明の実施の1形態を示している。図4の横軸に記した数値は電子源1から観察しようとするサンプル2にいたる光軸に沿った距離(z)をサンプル位置を原点(z=0.0mm)に選んでミリメートル単位で表わしている。 このSEMは電子銃7、球面収差補正レンズ3、ならびに、対物レンズ4の3つのラウンドレンズで構成されている。1の電子光学像が2の上に投影される。 4は直径4mmの孔を有し、かつ、4mmの間隔をあけて配置した1対の磁極で造られ、磁極間隙の中央部、z=0.0mmに2が置かれている。この対物レンズの球面収差係数Csは0.67mmである。z=−310mmの位置には直径2mmの中心孔を有した磁極を2mm離して設置した磁界型の球面収差補正レンズ3が置かれている。3は28により3の内部と外部の2つの位置A、Bにビームのクロスオーバーを発生させるような強い強度で励起されている。
【0009】
図4には3をExCs=38.49A/√Vで励起してこのSEMのCsがゼロ、すなわち、球面収差が完全に除去されたときの1から2にいたる光軸に沿った磁束密度分布5と電子線軌道6とが磁界計算と軌道計算との結果を使って描かれている。38.49A/√Vという値は電子軌道計算と球面収差計算とを行い、Csを0.0mmとするに必要な3の励起強度として求めた。 この無球面収差状態での電子線軌道について説明する。1より引き出された電子線は電子線通過孔を有する3枚の円盤状電極でできた7により所定のエネルギー、100keVに加速され、かつ、光軸に平行な電子線となって3に入る。 38.49A/√VのExCsで励起された3により、電子線は3の中央部、z=−310mmと3の外部のz=−222.6mmの2つの位置A,Bで光軸と交差するように曲げられる。すなわち、1より種々の角度で放出された電子線群で形成される電子ビームはz=−310mmとz=−222.6mmの2つの位置でクロスオーバーを持つ。 その後電子ビームは4に入り、4の作用で2の上に集束する。この集束点もビームのクロスオーバーであることはいうまでもない。すなわち、このSEMは球面収差補正レンズと対物レンズの2つのレンズの中にクロスオーバーを産み出している。 このSEMの球面収差をゼロとするに必要なExCsの値を知るために、ExCsを種々に変えた場合のCsを計算した。 その結果を図5に示すが、その図は、このSEMでは3をExCs=38.45A/√V、あるいは38.49A/√Vに励起するとCsが0.0mm、すなわち、球面収差がゼロとなることを示している。 これら2つの励起強度のうち38.45A/√Vの励起強度は、ExCsの変化に対するCsの変化があまりに急峻なので、実用には適しそうにない。図5にはExCsに対する色収差係数Ccの変化も描いているが、その理由は後ほど述べる。
【0010】
図5は、図2を使って行ったのと同様に、球面収差補正に必要とする28の電流値設定精度を求めるためにも使用する。すなわち、球面収差によるサンプル照射ビームのボケの量を収差補正前の1/3以下にするには、補正前の4のCsが0.67mmであるから、図5より|Cs|を0.67×0.33=0.22mm以下にするExCsの範囲を求めると、ExCsは38.48A/√V以上38.50A/√V以下の大きさに設定する必要のあることが分かる。言い換えると、この実施例で球面収差によるビームのボケを1/3以下に小さくするには、(38.50−38.48)/38.49=500ppmより厳密な電源安定度と電流値調節精度を必要とする。
【0011】
本実施例に示したように対物レンズの前方(電子源側)に別のレンズを設置し、そのレンズの励起強度を選ぶことにより、SEMの球面収差をゼロにすることが出来る理由を以下に説明する。光学機器で使われている非球面レンズの球面収差除去原理を応用している。非球面レンズでは、球面収差をなくすため、光線の屈折場所、すなわち、レンズの表面を球面ではなく、図6に示すような、その曲率が光軸から離れるにしたがって次第に変化する形状に加工して使っている。
【0012】
すでに述べたように荷電粒子線を屈折させる荷電粒子用レンズではガラスレンズと違って屈折作用が光軸に沿って広い範囲に、しかも連続的に強さが変化する様式で発生しているので、ただ1個のレンズを使う限り、屈折面の形状を任意に選ぶことはできない。 したがって光学レンズとは違って、ただ1つのレンズを使う限りそのレンズの球面収差を無くすことはできない。 ところが、そのレンズの前方に他のレンズを置いて、そのレンズの励起強度、ExCsを変えると、その2つのレンズでできた複合レンズへの入射電子線と出射電子線との交点で形成される実効的な屈折面の形状は違えることが出来、その結果、複合レンズのCsはExCsの値に応じて違ってくることを本発明者は見いだした。 図7は3と4とからなる複合レンズに光軸に平行に入射した電子線が4によって2の上に集束される時違ったExCsに対して複合レンズの屈折面がどのように変化するかを電子軌道を計算して描いたものである。 ExCsを1.0A/√Vに励起すると図4.1に示すよう曲率の小さい、すなわち、平面に近い屈折面9を与える。このときのCsを計算するとCsは25.5mmである。ExCsを2.8A/√Vに上げると図4.2のように光軸から離れるにつれて曲率が次第に大きくなる曲面状の屈折面を与える。このときのCsは113mmと大きい。屈折面は球面収差を考慮に入れない、現実にはない、
では曲率がゼロの平面として描かれている。図7において、曲率の小さい屈折面が小さいCsを与え、曲率の大きい屈折面が大きいCsを与えていることはこの事柄に対応している。 この図7の光学系では、サンプルは磁界の外に設置されている。すなわちCs=25.5mmとCs=113mmを与える図4.1、図4.2の電子軌道は図に見られるようサンプル位置にのみビームのクロスオーバーを有しているがその位置は磁界の外にある。30mm離れた2つのレンズからなるこの光学系を使って、Csをゼロとするに必要な3の励起条件を求めるためExCsを種々に変え、それらに対するCsを計算した結果を図8に示す。図8ではExCsを0.0A/√Vから30.0A/√Vまでの範囲でかえているが、その変更範囲の中では、Csはゼロにはならなかった。すなわち、Csは負値をとることはなく、図3と同様に、シェルツァー理論どおりの変化を示した。サンプル位置や電子源位置、ならびに、レンズ間距離を変えて計算を進めると、Csをゼロとする光学系を得るには、「サンプル位置と電子源位置とを含めて、光学系の中には少なくとも3つのビームクロスオーバーを与えるように光学系を強く励起し、かつ、それらのクロスオーバーのうち、少なくとも1つは磁界の中に設け、かつ、3と4の2つのレンズは十分の距離をあけて設置する」必要のあることが分かった。 先に示したCs=0.0mmが得られる図4の光学系では2つのレンズの間隔を310mmあけ、かつ、z=−300mmとz=0.0mmの付近に発生させている2つのクロスオーバーは磁界の中にある。さらに図4の光学系を使って無球面収差化に必要な条件を調査すると、3と4との間に必要とする距離Lは3に入射する電子線の3の入り口での光軸からの距離、すなわち3の入り口での電子軌道の離軸距離Rに関係することがわかった。無収差化にはRが大きいほど大きいLを必要とする。図4では7から光軸に平行に出た電子線が3に入射している。光軸に平行ではなく、光軸に向かって傾斜して3の前方でクロスオーバーを作るような様式で3に入射する光学系を設計する事により3の入り口での離軸距離Rを小さくし、その結果、Lを短くできることが分かった。 しかも都合の良いことには、Csをゼロにするに必要なExCsの値を小さくし、かつ、Cs対ExCs曲線の、Cs=0.0mmでの勾配を緩やかに出来ることも見つけた。
【0013】
図9は3の前方、電子源側にクロスオーバー形成用レンズ10を置き、このレンズにより電子線を光軸方向に屈折させ、3の中心点から10mm前方(電子源側)で光軸と交差した後に3に入射するように光学系を構成し、かつ、3を7.005A/√Vに励磁したときの電子軌道を計算した本発明の1実施形態である。このExCsの値、すなわち、図4の実施例に比べるとはるかに低いExCsの値で図9のSEMは無球面収差状態となっている。 しかも3と4とのレンズ間距離は110mmで図4の3と4のレンズ間距離に比べると約1/3に短い。
【0014】
図10は図9の光学系の与えるCs,と色収差係数CcをExCsに対して計算した結果である。図10においてCsが0.0mmになる点(ExCs=7.005A/√V)でのCs対ExCs曲線の勾配は図5での勾配に比べて極めて小さい。 この勾配が小さければ小さいほど装置の無球面収差化に必要とする電源調節精度は低いものでよく、ユーザーには使いやすい装置となる。以上に述べた、これらの、(1)必要とするレンズ間距離が短くてよい特長、ならびに(2)Cs対ExCs曲線の勾配が小さい特長は、球面収差補正に必要とするビームクロスオーバーの1つを3の直前、図9では3の前方10mmの位置に設けることによって得られたものである。
【0015】
一方、図10は図4の光学系による球面収差補正に比べて1つの欠点があることをも示している。 それは、図9の光学系で球面収差補正を行うと、球面収差補正時の色収差係数、Ccが大きくなってしまうことである。図5に示されたよう、図4の光学系を用いた球面収差補正ではCsを0.0mmとするExCs=38.49A/√Vの励磁ではCcは−2.2mmであったのに対し、図10では−5.9mm(ExCs=7.005A/√V)に大きくなっている。 色収差によるビームボケの量もCcの大きさに比例する。 色収差はエネルギーの低い電子線ほど、あるいは、ガラスレンズでは、波長の長い光線ほどそれにレンズは強く作用するというレンズ作用の本質に基づく収差なのでそれをゼロにすることはできない。 色収差を小さくするには、カメラや望遠鏡では「色消しレンズ」が使われている。 「色消しレンズ」は2つのレンズを用意し、波長の異なる2つの光線、たとえば赤色光線と緑色光線、に対するその複合レンズの焦点距離が一致するように2つのレンズを組み合わせる。光線に関する物理量、「波長」は電子線に関する物理量、「エネルギー値」に該当する。電子ビームの球面収差補正に関して「非球面レンズ」の技法が応用できたことから類推して、Ccを小さくするためにも光学の「色消しレンズ」の設計方法が適用できないことか?と考えた。光学系を設定するとその光学系での、エネルギー値の異なる2つの電子線に対する焦点距離は容易に計算できる。また、それら2つの電子線に対する焦点距離を一致させるに必要とするであろう光学系の動作条件の変更には図9に与えたクロスオーバー形成用レンズの励磁、ExCcを変更する事により可能なことのように思われた。
【0016】
図9の光学系は1から出た電子線が7により100keVに加速され、2の上に集束するよう設計されている。電界放出電子源が放出する電子線には幅、0.4eVのエネルギーのバラツキがあると考えているので、2を照射する電子ビームは(100keV−0.2eV)から(100keV+0.2eV)の範囲のエネルギーを有する電子線群で出来ている。そこで、ExCsはCsをゼロとする7.005A/√Vに設定し、10の励磁、ExCcの種々の値を変えてそれぞれのExCcに対して99.9998keVと100.0002keVの電子線に対する焦点距離、f1,f2を計算し、それらの差、Δf(=f1−f2)をExCcに対してプロットした。 結果を図11に示す。
【0017】
ExCc=7.5A/√Vに励磁すれば、Δf=0.0nmとなり、図9の光学系は99.9998keVと100.0002keVの電子線に同じ焦点距離を与える、つまり、これらのエネルギー値の電子線に対しては光学で言うところの「色消し状態」を与える電子ビームを産んでいる。 この光学系動作条件でのCcは図11が示すように、−2.0mmで当初の−5.9mmに比べると小さくなっている。ただしこの電子光学条件では装置は無球面収差状態にはなく、図11が示すように−0.47mmのCsが残っている。 そこで、今度はExCcを7.5A/√Vに設定して、ExCsを変えてCs、Cc対ExCs曲線を計算すると図12を得る。
【0018】
図12はExCsを7.3A/√Vに励磁するとCs=0.0mmの無球面収差状態に戻すことができることを示している。 しかも、このときのCcは−1.6mmと−5.9mmに比べて絶対値で1/4程度に小さい。ただし、−0.055nmのΔfが発生し、「色消し状態」ではなくなっている。以上に示したこれらの手順、すなわちExCcを選んでΔfをゼロにする図11の操作と、ExCsを選んでCsをゼロにする図12の操作とを交互に繰り返すと、Δf=0.0nm,Cs=0.0mmの「色消し」、かつ、「無球面収差」の電子ビームが得られる。 図13はそのようにして得た、色消し、かつ、無球面収差電子ビーム光学系の実施の1形態を示す図で、図にはレンズ構成と電子線軌道が描かれ、10と3に必要とする励起強度も示されている。 すなわち、ExCcは7.479A/√Vに励磁されExCsは7.309A/√Vに励磁されている。このSEMのCs,Ccはそれぞれ、0.0mm,−1.6mmである。
【0019】
先に述べたように、また、図11、図12に示したように、色消し光学系はCcをその光学系が与えうる最小値にするものではあってもゼロにするものではない。したがってさらに色収差を小さくするにはエネルギーのそろった電子線を発射する電子源を使用するか、あるいは、エネルギーのそろった電子線のみを抽出してサンプルに照射する必要がある。後者の方法には従来は非回転対称構造のエネルギーフィルターが利用されてきた。もし、ラウンドレンズを使ってエネルギーフィルターが造れれば構造が簡単で、かつ、イオンビームにも容易に応用できるエネルギーフィルターが得られる。エネルギーフィルターの動作原理を考えてみると、それは、色収差の大きいレンズを使って電子軌道を種々の方向に分散させ、光軸に近い部分を走行する電子線のみを使っている事に他ならない。色消し前の図9の光学系が図4の光学系に比べてはるかに大きいCcを与えた理由を考えてみると、電子線が3に入射するときの離軸距離Rを短くしたことによったものであることに気がついた。 電子軌道を計算してみると、小さいRを与える事によって3は大きな色収差、すなわち、エネルギー値の違いによる軌道の分散(エネルギー分散)を産み出すことが分かった。 この知見を利用すればエネルギーフィルターをラウンドレンズで造ることができる。
【0020】
図14は10と3とからなる磁界レンズの光学系に1.0keVから1.2keVの範囲のエネルギーを有する電子で構成された電子線群が左方から光軸に平行に入射したとき、エネルギーの違った電子線のそれぞれの軌道(13〜17)を計算して描いたものである。10はz=−30mmの位置にその中心を置き、z=−3.6mmの位置に1.0keVのエネルギーの電子線がクロスオーバーを持つように励起されている。3はz=0.0mmの位置にその中心を置き、z=+30mmの位置に1.0keVの電子線がクロスオーバーを持つように励起されている。図に示したようにz=30mmの位置に直径1.4mmの孔を持つ絞り18を挿入すると1.05keVより大きい値のエネルギーを持つ電子、13,14,15はこの絞りでカットされ、エネルギーが1.00keVから1.05keVの間にある電子線のみがこの絞りを通り抜ける。 当初は1.0keVから1.2keVの範囲のエネルギーの電子線群で構成されていた電子ビームが18の後では1.0keVから1.05keVの範囲のエネルギーの電子線のみで構成されるようになる。図14から推測されるように、3によるエネルギー分散の大きさは、3での離軸距離Rを10の励起、ExCcによって変更することにより広範囲に変えれることが確認された。この結果に基づいてラウンドレンズで構成するエネルギーフィルター付無球面収差FIBを設計した。この1実施形態を図15に示す。
【0021】
図15のFIBは液体金属イオン源19、イオン銃20、10、3、4、18、2の構成要素でできている。イオンビームを制御するには電界レンズを使う必要がある。電界レンズはその中心にイオンビーム通過用の孔を開けた3枚の円盤状の電極を並べる構成で出来ており、その中央電極に電圧を印加することでイオンビームを集束する。図15には3を励起してこのFIBを無球面収差状態にしたときのエネルギーの異なるイオン線群の軌道が描かれている。すなわち、Gaをイオン種に選んだ19から引き出したイオン線が20によって20keVに加速され、かつ、z=−418mmの位置にクロスオーバーを結ぶように集束されている。このイオンビームは10によって3の中心電極から20mm前方のz=−280mmの位置にクロスオーバーを持つように集束される。 図に示したところのCs=0.0mmの球面収差補正状態は、3の中央電極にVCs=18.9kVを印加する事によって得られている。 この電圧印加により3はこのFIBのCsをゼロにするとともに、3から出てゆくイオン線をそのエネルギー値に応じて分散させている。図15には、19.9996keVから20.0009keVの範囲のエネルギーを有するイオン線、21、22,23,24,25,26,27が3により分散されている様子が描かれている。z=−60mmの位置には直径11μmの孔を有する絞りが設けられ、20keVから20.0007keVの範囲のエネルギーを有するイオン線のみがその孔を通り抜けて4により集束されて2を照射する。
【0022】
エネルギーフィルターの効果を知るために2を照射するイオンビームの断面形状を計算する。Gaイオン源の大きさを直径50nm、Gaイオン源から発射するイオンの有するエネルギー幅を10eV、単位立体角当りのイオン放出量を20μA/srと仮定して、イオン源から光軸に対して0.4mrad以下の角度で出た電流値10pAのイオン線群によって形成されるイオンビームの2の位置での断面に沿った電流密度分布、すなわち、ビームの断面形状(ビームプロファイル)を計算した。そのために、初期エネルギーと出発位置、ならびに発射角がそれぞれ50個ずつ異なる50×50×50個のイオン線の軌道を計算し、2を照射する単位面積あたりのイオンの個数 対 照射位置のヒストグラムを求めた。図16は図15において18は設置しない、ただし、球面収差補正は実行されている状態でのビームプロファイルを描いたものである。このFIBの結像倍率は0.79であり、かつ、Gaイオン源には直径50nmの円盤電極を仮定しているので、もし収差がなければプロファイルはその幅が50×0.79=40nmの矩形を示すはずであるが、図16は色収差によって少しなまった形をしている。
【0023】
図17はエネルギーフィルター絞りを挿入した条件で得られるビームプロファイルを計算したものである。図17は図16に比べてはるかに幅40nmの矩形に近い形をしている。矩形プロファイルを持つイオンビームは微細加工には特に都合が良い。すなわち、シャープな溝やシャープな断面を作ることが出来、計画したところの寸法仕様に合わせて高精度に加工できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、カメラなどの光学機器分野で開発された非球面レンズと、色消しレンズの設計技術が、荷電粒子線光学分野にも応用できることが明らかになった。 すなわち、従来は、荷電粒子ビームに対しては、ラウンドレンズを使っていては収差補正は出来ないものとされてきたが、本発明により、それが出来ることが示された。多極子レンズを使った収差補正装置に比べると、ラウンドレンズを使った収差補正装置ははるかに少ない価格で製作することができる。 また、電気的調整箇所が極めて少ないので、使いやすく、かつ、長時間動作させても安定度を損ないにくい装置が提供できるようになった。 さらに本発明で使用する収差補正用レンズは磁界型レンズには限られていず、イオンビームを制御するために従来から使ってきた電界型レンズを使っても良い。その結果、イオンビーム装置に対しても収差補正とエネルギーフィルタリングとができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】 球面収差補正をTEMの対物レンズ部分に施した本発明実施の1形態と、球面収差補正時におけるその部分の磁束密度分布ならびに電子軌道
【図2】 図1のTEMの対物レンズ−収差補正レンズ光学系におけるCs対ExCs
【図3】 図1の光学系において物点zoも像点ziもレンズの作用領域の外部(zo=−3mm,zi=302mm)に置いた場合のCs対ExCs
【図4】 球面収差補正SEM実施の1形態と球面収差補正時の電子軌道。
【図5】 図4のSEMにおけるCs,Cc対ExCs。
【図6】 光学機器の無球面収差化に使われている非球面レンズの説明図。
【図7】 ExCsの違いによる電子線屈折面の形状変化。
【図8】 図7の光学系においてExCsを変えたときのCs対ExCs。
【図9】 離軸距離調節を目的としたクロスオーバー形成用レンズ付SEMの球面収差補正状態における電子線軌道図。
【図10】 図9のSEMに対するCs,Cc対ExCs。
【図11】 図9のSEMに対するΔf,Cs,Cc対ExCc。
【図12】 図9のSEMのExCcを7.5A/√Vに設定して、ExCsを変えたときのCs,Cc,Δf,対ExCs。
【図13】 色消し・無球面収差SEMの1実施形態。
【図14】 磁界型ラウンドレンズで造るエネルギーフィルター。
【図15】 エネルギーフィルタ付無球面収差FIBに応用した本発明の1実施形態。
【図16】 図15に示したFIBでエネルギーフィルタ絞りは使わずに、ただし、VCsは1.102kVに励起して球面収差は無くしたときのビームプロファイル(サンプル照射ビームの断面形状)。
【図17】 無球面収差、かつ、エネルギーフィルター絞りを使用した状態でのビームプロファイル。
【符号の説明】
【0026】
1・・・電子源、2・・・サンプル、3・・・球面収差補正レンズ、4・・・対物レンズ、5・・・磁束密度分布、6・・・電子軌道、7・・・電子銃、8・・・コイル、9・・・屈折面、10・・・クロスオーバー形成用レンズ、13・・・1.20keVのエネルギーの電子の軌道、14・・・1.15keV電子線軌道、15・・・1.10keV電子線軌道、16・・・1.05keV電子線軌道、17・・・1.00keV電子線軌道、18・・・絞り、19・・・液体金属イオン源、20・・・イオン銃、21・・・19.9996keVイオン線軌道、22・・・19.9998keVイオン線軌道、23・・・20keVイオン線軌道、24・・・20.0002keVイオン線軌道、25・・・20.0004keVイオン線軌道、26・・・20.0007keVイオン線軌道、27・・・20.0009keVイオン線軌道 28・・・制御電源 29・・・TEMの対物レンズに入射するサンプル照明用電子線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線源が産み出した荷電粒子線群を少なくとも1つの荷電粒子線用集束レンズを用いて集束し、荷電粒子線照射体上に照射する荷電粒子ビーム発生装置において、該荷電粒子線源と該荷電粒子線用集束レンズとの間に回転対称構造のレンズ収差補正用荷電粒子線制御レンズ(以下、球面収差補正レンズと呼ぶ)と該球面収差補正レンズの励起条件を任意の値に設定する制御手段とを設け、該球面収差補正レンズの励起条件を選ぶことにより、該荷電粒子ビーム発生装置が発生する球面収差を該球面収差補正レンズ設置以前の球面収差の値に比べて、1/3以下の値に減ずることを特徴とする収差補正荷電粒子ビーム発生装置。
【請求項2】
請求項1記載の収差補正荷電粒子ビーム発生装置において、それを構成する複数のレンズは該荷電粒子線源が置かれた位置、ならびに、該荷電粒子線照射体が置かれた位置を含めて少なくとも3箇所以上の位置に該荷電粒子線群の軌道の交叉点、すなわち、該荷電粒子線群の形成する荷電粒子ビームの包絡線の交点(以下、ビームクロスオーバーと呼ぶ)を形成し、それらのビームクロスオーバーのうち、少なくとも1つのクロスオーバーは設置されている荷電粒子線制御用レンズの作用領域の内部、すなわち、該レンズが該荷電粒子線群の進行方向を制御するために発生している電磁界の存在する部分に位置することを特徴とする収差補正荷電粒子ビーム発生装置。
【請求項3】
請求項2記載の収差補正荷電粒子ビーム発生装置において、該荷電粒子線源と該球面収差補正レンズとの間に回転対称構造のクロスオーバー形成用レンズとこのレンズの励起条件を任意の値に設定する制御手段とを設け、このレンズを励起する事により、該クロスオーバー形成用レンズと該球面収差補正レンズとの間に少なくとも1つのクロスオーバーを産み出すことを特徴とした収差補正荷電粒子ビーム発生装置。
【請求項4】
請求項3に記載の収差補正荷電粒子ビーム発生装置において、該クロスオーバー形成用レンズを、任意に選んだ相異なる2つのエネルギー値の荷電粒子線に対する該荷電粒子ビーム発生装置の焦点距離が等しくなるように励起して、ちょうどガラス光学における色消しレンズに対応した、色消し荷電粒子ビームを産み出すことを特徴とした収差補正荷電粒子ビーム発生装置。
【請求項5】
請求項3に記載の収差補正荷電粒子ビーム発生装置において、該球面収差補正レンズと該荷電粒子線照射体との間にその中央部に小孔を有する金属板で作製した荷電粒子線用絞りを設け、該球面収差補正レンズによって進行方向が分散されたエネルギー値の異なる種々の荷電粒子線のうち該小孔を通過した荷電粒子線のみが該荷電粒子線照射体を照射することを特徴とした収差補正荷電粒子ビーム発生装置。
【請求項1】
荷電粒子線源が産み出した荷電粒子線群を少なくとも1つの荷電粒子線用集束レンズを用いて集束し、荷電粒子線照射体上に照射する荷電粒子ビーム発生装置において、該荷電粒子線源と該荷電粒子線用集束レンズとの間に回転対称構造のレンズ収差補正用荷電粒子線制御レンズ(以下、球面収差補正レンズと呼ぶ)と該球面収差補正レンズの励起条件を任意の値に設定する制御手段とを設け、該球面収差補正レンズの励起条件を選ぶことにより、該荷電粒子ビーム発生装置が発生する球面収差を該球面収差補正レンズ設置以前の球面収差の値に比べて、1/3以下の値に減ずることを特徴とする収差補正荷電粒子ビーム発生装置。
【請求項2】
請求項1記載の収差補正荷電粒子ビーム発生装置において、それを構成する複数のレンズは該荷電粒子線源が置かれた位置、ならびに、該荷電粒子線照射体が置かれた位置を含めて少なくとも3箇所以上の位置に該荷電粒子線群の軌道の交叉点、すなわち、該荷電粒子線群の形成する荷電粒子ビームの包絡線の交点(以下、ビームクロスオーバーと呼ぶ)を形成し、それらのビームクロスオーバーのうち、少なくとも1つのクロスオーバーは設置されている荷電粒子線制御用レンズの作用領域の内部、すなわち、該レンズが該荷電粒子線群の進行方向を制御するために発生している電磁界の存在する部分に位置することを特徴とする収差補正荷電粒子ビーム発生装置。
【請求項3】
請求項2記載の収差補正荷電粒子ビーム発生装置において、該荷電粒子線源と該球面収差補正レンズとの間に回転対称構造のクロスオーバー形成用レンズとこのレンズの励起条件を任意の値に設定する制御手段とを設け、このレンズを励起する事により、該クロスオーバー形成用レンズと該球面収差補正レンズとの間に少なくとも1つのクロスオーバーを産み出すことを特徴とした収差補正荷電粒子ビーム発生装置。
【請求項4】
請求項3に記載の収差補正荷電粒子ビーム発生装置において、該クロスオーバー形成用レンズを、任意に選んだ相異なる2つのエネルギー値の荷電粒子線に対する該荷電粒子ビーム発生装置の焦点距離が等しくなるように励起して、ちょうどガラス光学における色消しレンズに対応した、色消し荷電粒子ビームを産み出すことを特徴とした収差補正荷電粒子ビーム発生装置。
【請求項5】
請求項3に記載の収差補正荷電粒子ビーム発生装置において、該球面収差補正レンズと該荷電粒子線照射体との間にその中央部に小孔を有する金属板で作製した荷電粒子線用絞りを設け、該球面収差補正レンズによって進行方向が分散されたエネルギー値の異なる種々の荷電粒子線のうち該小孔を通過した荷電粒子線のみが該荷電粒子線照射体を照射することを特徴とした収差補正荷電粒子ビーム発生装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2007−335385(P2007−335385A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−192164(P2006−192164)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(503211910)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(503211910)
【Fターム(参考)】
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