説明

受信アンテナ装置および妨害波除去方法

【課題】 妨害波を安定して抑圧することが可能な受信アンテナ装置を提供する。
【解決手段】 スタックアンテナ1は、放送波を受信する複数の要素アンテナ10と、この要素アンテナ10を並列配置して支柱30に支持する支持部材20とを備え、要素アンテナ10のアンテナ軸を中心に、当該要素アンテナ10の偏波面が受信対象の放送波である希望波の偏波面に対して所定角度傾くように、支持部材20が要素アンテナ10を支持していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放送波である希望波を受信するための受信アンテナ装置および当該受信アンテナ装置を用いて前記放送波から妨害波を除去する妨害波除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地上波テレビ放送では、放送波が互いに干渉することを避けるため、予め定められた地域ごとに、隣接する地域における放送波の使用周波数が異なるようにチャンネルが割り当てられている。
また、使用周波数が過密な地域においては、さらに、放送波の交差偏波(垂直偏波および水平偏波)を使用することで互いの干渉を抑圧した上で、同一周波数を近接地域で使用する場合がある。例えば、UHF(Ultra High Frequency)30チャンネルが垂直偏波でアナログテレビ放送に利用されている地域の隣接地域では、UHF30チャンネルが水平偏波でデジタルテレビ放送に利用される場合がある。ここで、交差偏波識別度(正偏波成分と逆偏波成分の比)が、十数dB程度あった場合、当該地域では、隣接地域の電波からこの十数dB分差し引いたレベルの妨害を受けることになる。通常、隣接地域の電波は伝播していく過程で減衰するため、妨害波となることは少ないが、一方の地域における放送波の電力が大きくなると、他方の地域の妨害波となることは避けられない。
【0003】
そこで、一般的には、図3に示すような、スタックアンテナ1Cによって、妨害波Uを抑圧している(例えば、特許文献1参照)。図3は、従来のスタックアンテナの構成を説明するための図であって、(a)はスタックアンテナを構成するアンテナ部の斜視図および回路部の構成図、(b)はアンテナ部を希望波の到来方向からみたときの正面図である。
【0004】
このスタックアンテナ1Cは、導波器11、ダイポール給電部12および反射器13を備えた、並列に配置された複数(ここでは2つ)の要素アンテナ10と、要素アンテナ10を支持する支持部材20と、支持部材20を支持する地平面に対して垂直方向に立設した支柱30とからなるアンテナ部2Cと、減衰器31(31a,31b)、位相調節器32および合成器33を備えた回路部3とを備えている。
このスタックアンテナ1Cは、各要素アンテナ10で受信した受信信号を減衰器31で減衰し、位相調節器32で各受信信号の位相を調節し、さらに、合成器33で位相が調節された受信信号を合成することで、妨害波Uの到来方向(図中「β°」)に不感帯となる角度(ヌル点)を一致させて妨害波Uを抑圧している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、希望波と妨害波とにそれぞれ向けたアンテナを用意し、それぞれの受信信号を妨害波がキャンセルされるように重み付けして加算する妨害波除去受信アンテナシステムが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開昭53−16560号公報(図1)
【特許文献2】特開平11−251820号公報(段落0008〜0017、図1および図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図3に示したような一般的なスタックアンテナ1Cでは、要素アンテナ10の偏波面と、同一偏波の到来波に対しては、すべての角度(電波到来角)において、ほぼ同等の振幅・位相特性を得ることができる。一方、要素アンテナ10の偏波面と、直交する偏波(交差偏波)の到来波に対しては、いずれの電波到来角においても、ほとんど相関のない振幅・位相となる。
【0007】
したがって、希望波Dに対して任意の方位角(β°)から到来する妨害波Uにおいて、希望波Dと同一の偏波成分に対しては、減衰器31(31a,31b)の減衰量[dB]と、位相調節器32の移相量[度(°)]とを“0”近傍の値としたまま要素アンテナのアンテナ間隔dを適切に選ぶことで、妨害波Uの到来方向(方位角β°)に、不感帯となる角度(ヌル点)を一致させて妨害波Uの成分を抑圧することはできる。
【0008】
しかし、妨害波Uが交差偏波成分を持つ場合、減衰器31(31a,31b)の減衰量[dB]と、位相調節器32の移相量[度]とを広範囲に調節しなければ、妨害波を抑圧することができない。例えば、交差偏波を含む妨害波成分を抑圧できる条件が、減衰器31(31a,31b)の減衰量がともに0dBで、位相調節器32の移相量が180°であった場合、妨害波を抑圧することはできても、希望波方向の感度もゼロになってしまうため、希望波が受信不能となってしまうという問題がある。
【0009】
また、従来の妨害波除去受信アンテナシステムは、重み付けの条件が環境によって左右され、非常に不安定なものである。例えば、その条件は、電波伝搬を伴う偏波面の回転、風等によるアンテナの揺らぎ等の影響を受けやすく、その条件に適さなければ妨害波を除去することができないという問題がある。
【0010】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、同一周波数の妨害波が問題となる地域において、当該妨害波を安定して抑圧することが可能な受信アンテナ装置および妨害波除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するために創案されたものであり、まず、請求項1に記載の受信アンテナ装置は、放送波を受信する複数の要素アンテナと、この要素アンテナを並列配置して支柱に支持する支持部材とを備えた受信アンテナ装置において、前記要素アンテナのアンテナ軸を中心に、当該要素アンテナの偏波面が受信対象の放送波である希望波の偏波面に対して所定角度傾くように、前記支持部材が前記要素アンテナを支持する構成とした。
【0012】
かかる構成によれば、受信アンテナ装置は、放送波を受信する要素アンテナの偏波面が、希望波の偏波面に対して、所定角度の傾きを持っている。この傾きを設けることで、任意の到来方向から到来する妨害波が、希望波の偏波面に対する交差偏波であった場合でも、妨害波の到来方向にヌル点を一致させる位相の調節量(移相量)が180°になることがなく、希望波方向の感度を確保することができる。
【0013】
また、請求項2に記載の受信アンテナ装置は、放送波を受信する複数の要素アンテナと、この要素アンテナを並列配置して支柱に支持する支持部材とを備えた受信アンテナ装置において、前記要素アンテナのアンテナ軸を中心に、当該要素アンテナの偏波面が受信対象の放送波である希望波の偏波面に対して所定角度傾くように、前記支持部材が前記支柱に対して前記所定角度傾けて当該支柱に連接される構成とした。
【0014】
かかる構成によれば、受信アンテナ装置は、要素アンテナを支持する支持部材のみを、支柱に対して所定角度傾けることで、個々の要素アンテナがそれぞれアンテナ軸を中心に、当該要素アンテナの偏波面が受信対象の放送波である希望波の偏波面に対して所定角度傾くことになる。これによって、任意の到来方向から到来する妨害波が、希望波の偏波面に対する交差偏波であった場合でも、妨害波の到来方向にヌル点を一致させる位相の調節量(移相量)が180°になることがなく、希望波方向の感度を確保することができる。
【0015】
さらに、請求項3に記載の受信アンテナ装置は、請求項1または請求項2に記載の受信アンテナ装置において、前記所定角度であるαが、0°<α<45°の範囲であることを特徴とする。
【0016】
かかる構成によれば、受信アンテナ装置は、放送波を受信する要素アンテナの偏波面の、希望波の偏波面に対する傾き角度αを、0°<α<45°の範囲とする。この傾き角度の範囲は、妨害波が希望波の交差偏波である場合であっても、希望波の到来方向への利得を確保する範囲となる。この傾き角度が45°以上である場合は、逆に妨害波の利得を高めることになってしまう。
【0017】
また、請求項4に記載の妨害波除去方法は、放送波を複数の要素アンテナで受信する受信アンテナ装置における、妨害波を除去する妨害波除去方法であって、前記要素アンテナのアンテナ軸を中心に、当該要素アンテナの偏波面を受信対象の放送波である希望波の偏波面に対して所定角度傾けた状態で、前記放送波を前記要素アンテナで受信する受信工程と、この受信工程で受信された各受信信号の信号レベルを減衰する減衰工程と、この減衰工程で減衰された各受信信号の位相を調節するとともに、前記各受信信号を合成する位相調節・合成工程と、を含んでいることを特徴とする。
【0018】
かかる手順によれば、妨害波除去方法は、受信工程において、受信対象の放送波である希望波の偏波面に対して所定角度傾けられた要素アンテナから放送波を受信する。そして、妨害波除去方法は、減衰工程において、放送波の信号レベルを回路処理可能な受信レベルに減衰する。
そして、妨害波除去方法は、位相調節・合成工程において、減衰工程で減衰された各受信信号の位相を、妨害波の到来方向にヌル点を一致させるように調節し、合成する。このとき、受信信号は、予め受信工程において、要素アンテナの偏波面を希望波の偏波面に対して所定角度傾けた状態で受信されたものであるため、調節量(移相量)が180°になることがない。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、以下に示す優れた効果を奏するものである。
請求項1または請求項4に記載の発明によれば、各要素アンテナで受信した受信信号の位相調節量が180°になることがなく、確実に希望波方向の感度を確保することができるため、希望波の感度を確保したまま、妨害波を安定して抑圧することができる。また、偏波面に傾きを持たせているため、位相を調節するための移相量が少なくて済み、設置、調整を容易に行うことができる。
【0020】
請求項2に記載の発明によれば、各要素アンテナで受信した受信信号の位相調節量が180°になることがなく、確実に希望波方向の感度を確保することができるため、希望波の感度を確保したまま、妨害波を安定して抑圧することができる。また、偏波面に傾きを持たせているため、位相を調節するための移相量が少なくて済み、設置、調整を容易に行うことができる。さらに、本発明によれば、支持部材のみに傾きを持たせるため、個々の要素アンテナに同じ傾きを持たせる場合に比べて、傾きを設定する部位が一箇所で済むため、精度の安定性、製造コストの低減が図れる。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、妨害波が希望波の交差偏波である場合、妨害波への利得よりも希望波への利得を高めた状態を確保できるため、安定して希望波を受信することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[スタックアンテナ(受信アンテナ装置)の構成:第1実施形態]
まず、図1を参照して、本発明に係るスタックアンテナ(受信アンテナ装置)の構成について説明する。図1は、本発明に係る第1実施形態のスタックアンテナの構成を説明するための図であって、(a)はスタックアンテナを構成するアンテナ部の斜視図および回路部の構成図、(b)はスタックアンテナを希望波の到来方向からみたときの正面図である。
図1に示したスタックアンテナ1は、地上波として放送される放送波(放送信号)を受信するものである。図1(a)に示すように、スタックアンテナ1は、アンテナ部2と、回路部3とを備えている。なお、ここでは、希望波Dが水平偏波、妨害波Uが垂直偏波であるものとして説明を行う。
【0023】
アンテナ部2は、同一構成の複数(ここでは2つ)の要素アンテナ10と、各要素アンテナ10を支持する支持部材20と、支柱30とを備えている。
要素アンテナ10は、放送波(放送信号)を受信するアンテナであって、主に、導波器11と、ダイポール給電部12と、反射器13とを備える一般的なダイポールアンテナである。各要素アンテナ10は、接続金具(図示せず)等を介して支持部材20に固定されている。
【0024】
この要素アンテナ10は、受信すべき希望波Dの到来方向に指向された状態で、その到来方向とは直交する方向に沿って、所定のアンテナ間隔dだけ離間して平行に配置(並列配置)される。また、要素アンテナ10は、アンテナ軸を中心に、受信の対象となる希望波Dの偏波面に対して所定の角度α(°)傾くように支持されている。すなわち、要素アンテナ10は、要素アンテナ10のすべての構成素子(導波器11、ダイポール給電部12、反射器13等)が、図1(b)に示すように、希望波Dの偏波面(ここでは、水平偏波)に対して、等しく所定角度α(°)傾いて支持されている。この理由については後記することとする。
なお、要素アンテナ10のダイポール給電部12には、当該要素アンテナ10が受信した放送信号を伝送するための伝送ケーブルが接続され、その伝送ケーブルの他端は、後記する回路部3に接続されている。
【0025】
支持部材20は、要素アンテナ10を固定して支持するものであって、要素アンテナ10と同数のアンテナ支持材21と、中間支持材22とを備え、各支持材(アンテナ支持材21、中間支持材22)は、ステンレス鋼等で構成されている。
アンテナ支持材21は、要素アンテナ10をアンテナ軸を中心に前記した所定角度だけ傾けて、図示を省略した接続器具によって、固定して支持するものである。
【0026】
中間支持材22は、各アンテナ支持材21が、受信すべき希望波Dの到来方向とは直交する方向に沿って、所定のアンテナ間隔dだけ離間して平行となるように、各アンテナ支持材21の下端部を固定して支持するものである。
【0027】
支柱30は、要素アンテナ10と、支持部材20とを支持するものであって、軸線が地平面に対して垂直となるように立設して配置され、家屋の屋上等に固定される。ここでは、支柱30は、中間支持材22の軸線(長尺方向)において中間となる位置に、接続金具等を介して、中間支持材22を固定する。
【0028】
回路部3は、複数の要素アンテナ10で受信した放送波(放送信号)の位相を調節し、合成することで、妨害波Uの成分を抑圧した受信信号を出力するものである。ここでは、回路部3は、要素アンテナ10の数に対応した減衰器31(ここでは、減衰器31a,31b)と、位相調節器32と、合成器33とを備えている。なお、回路部3は、支柱30や屋内に取り付けられるものである。
【0029】
減衰器31は、要素アンテナ10から、伝送ケーブルを介して入力される放送信号の信号レベル(高周波レベル)を減衰させるもので、一般的なアッテネータである。
なお、ここでは、要素アンテナ10aから入力される放送信号を位相の基準となる放送信号とし、減衰器31aは、要素アンテナ10aから入力された放送信号を減衰したのち、合成器33に出力する。
また、減衰器31bは、要素アンテナ10bから入力された放送信号を減衰したのち、位相調節器32に出力する。
【0030】
位相調節器32は、要素アンテナ10aで受信された放送信号の位相を調節するものである。ここでは、位相調節器32は、減衰器31aで減衰された放送信号の位相を調節し、合成器33に出力する。
【0031】
合成器33は、減衰器31で減衰された位相の基準となる放送信号と、位相調節器32で位相が調節された放送信号とを合成するものである。この合成器33で合成された受信信号が、テレビ受像機(図示せず)等に出力される。
すなわち、スタックアンテナ1では、当該スタックアンテナ1の設置者が、位相調節器32で移相量を調節することで、妨害波Uの到来方向(β°)に、不感帯となる角度(ヌル点)を一致させる。これによって、妨害波Uの成分を抑圧することができる。
【0032】
(要素アンテナの希望波偏波面に対する傾き(角度α)の存在理由)
以下、図1、図4および図5を参照して、要素アンテナ10に傾きを設ける理由について説明を行う。図4は、2アンテナ出力の合成原理を示す図である。図5は、位相を調節した際の2アンテナ出力の合成原理を示す図であって、(a)は従来のスタックアンテナにおいて位相を調節したときの合成原理、(b)は本発明に係るスタックアンテナにおいて位相を調節したときの合成原理を示している。
【0033】
スタックアンテナ1は、図1に示すように、要素アンテナ10が、指向方向(アンテナ軸方向)において、受信の対象となる希望波Dの偏波面に対して所定の角度α°傾くように支持されている。
このように、要素アンテナ10に所定角度の傾きを設けることで、任意の方位角(到来方向)β°から到来する妨害波Uが、希望波Dの偏波面に対する交差偏波であった場合でも、位相調節器32の移相量が180°になることがなく、希望波D方向の感度がゼロになることがない。このため、スタックアンテナ1では、希望波Dが受信不能となることがない。
【0034】
また、妨害波Uが、希望波Dと直交する場合、各要素アンテナ10の指向性は、水平偏波の指向性とほぼ等しくなるとともに、各要素アンテナ10の指向特性の差(位相調整量)が小さくなる。このため、位相調節器32における移相量が少なくて済み、位相の調節時間を短縮させることができる。
さらに、妨害波Uの偏波面が回転したとしても、各要素アンテナ10から出力される妨害波成分は、同じ割合で出力レベルが変動するため、妨害波成分の抑圧性能はほとんど変わらない。
【0035】
ここで、図4および図5を参照して、要素アンテナ10に傾きを設けることで、位相調整量が少なくなる原理を説明する。図4は、一般的な2アンテナ出力の合成原理を示し、(a)と(b)とにそれぞれの異なるアンテナ(要素アンテナ)の垂直・水平偏波成分を示している。このように、(a)と(b)とでは、垂直偏波成分に関しては逆位相となっているが、水平偏波成分に関しては無相関となっているため、(c)に示すように、水平偏波成分の合成ベクトルVHのみが合成出力として出力されることになる。
【0036】
図5(a)は、一方のアンテナの振幅と位相とを調節し、水平偏波成分が等振幅、逆位相となるように調節したときの合成原理を示している。ここでは、(a−1)と(a−2)とにそれぞれの異なるアンテナ(要素アンテナ)の垂直・水平偏波成分を示し、(a−3)に、(a−2)で示した水平偏波成分の振幅と位相とを調節(移相量φ)した垂直・水平偏波成分を示している。この場合、(a−1)と(a−3)との各成分を合成することで、垂直偏波成分の合成ベクトルVV1(a−4)が合成出力として出力されることになる。
【0037】
図5(b)は、本発明のスタックアンテナ1における合成原理であって、図5(a)と同様に、一方のアンテナの振幅と位相とを調節し、水平偏波成分が等振幅、逆位相となるように調節したときの合成原理を示している。この場合、(b−1)、(b−2)に示すように、両アンテナから出力される水平偏波成分の振幅(矢印の長さ)は、図5(a)に比べ大きくなるが、水平偏波成分の垂直偏波成分に対する位相差(水平偏波成分と垂直偏波成分のなす角)は両アンテナでほぼ等しくなる。したがって、(b−3)に示すように、(b−2)のアンテナ出力の水平偏波成分の振幅・移相を(b−1)のアンテナに合わせる際の移相量φ(位相調整量)は、(a−3)の場合に比べて小さくなる。なお、この場合、(b−1)と(b−3)との各成分を合成することで、垂直偏波成分の合成ベクトルVV2(b−4)が合成出力として出力されることになる。
【0038】
以上、要素アンテナ10に所定角度の傾きを設ける理由について説明したが、この所定角度αは、希望波Dの偏波面に対して0°<α<45°の範囲であることが望ましい。角度αが0°の場合は、図3で説明した従来のスタックアンテナ1Cと同様となり、希望波Dが受信不能となってしまうという問題が発生してしまう。また、角度αが45°以上となると、妨害波Uが、希望波Dの交差偏波である場合に、逆に妨害波Uへの利得を高めることになり、希望波Dの偏波の利得が低下し、受信レベルが劣化してしまうためである。なお、角度αは、好ましくは5°〜40°の範囲、さらに好ましくは10°〜30°の範囲である。
【0039】
以上、スタックアンテナ1の構成について説明したが、本発明は、この構成に限定されるものではない。例えば、ここでは、希望波Dの偏波が水平偏波であることとして説明を行ったが、希望波Dの偏波が垂直偏波である場合は、各要素アンテナ10を、アンテナ軸を中心に90°回転させて取り付けることで、同様の効果を得ることができる。また、ここでは、各要素アンテナ10のアンテナ高を同じ高さとしているが、高度差を設けることとしてもよい。さらに、ここでは、要素アンテナの数を2としたが、3以上としてもよい。
また、図1では、各要素アンテナ10をアンテナ軸を中心に所定角度回転させた状態としたが、要素アンテナ10を回転させるのではなく、支持部材20を所定角度回転させた状態で支持することとしてもよい。あるいは、支持部材20を所定角度を有した取り付け金具で支柱30に連結することとしてもよい。
【0040】
[スタックアンテナ(受信アンテナ装置)の構成:第2実施形態]
ここで、図2を参照して、図1の支持部材20を所定角度(α)回転させたスタックアンテナの構成について説明する。図2は、本発明に係る第2実施形態のスタックアンテナの構成を説明するための図であって、(a)はスタックアンテナを構成するアンテナ部の斜視図および回路部の構成図、(b)はアンテナ部を希望波の到来方向からみたときの正面図である。
なお、図2に示したスタックアンテナ1Bの個々の構成については、図1で説明したものと同一であるため、同一の符号を付し、説明を省略する。以下、スタックアンテナ1Bと、図1のスタックアンテナ1との差異点のみを説明する。
【0041】
図2(a)に示すように、スタックアンテナ1Bにおいて、各要素アンテナ10の偏波面が、アンテナ支持材21の要素アンテナ10に接続される軸方向と垂直となるように、アンテナ支持材21が要素アンテナ10を支持している。
また、スタックアンテナ1Bにおいて、中間支持材22が、支柱30に対して所定角度αだけ傾いた状態で、支柱30に支持されている。
このように、中間支持材22を傾けることで、要素アンテナ10と、支持部材20とが、所定角度αだけ傾いて支持されることになる。すなわち、図2(b)に示すように、個々の要素アンテナ10を個別に傾けなくても、要素アンテナ10の偏波面が個々に所定角度αだけ回転した状態となる。
【0042】
このスタックアンテナ1Bは、個々の要素アンテナ10をアンテナ軸を中心として回転させず、支持部材20のみを支柱30に対して回転させるため、所定角度αを形成する場合に、1軸のみが回転対象となる。このため、スタックアンテナ1Bは、個々の要素アンテナ10を同一の角度に形成する場合に比べて、製造が容易で、製造コストを削減することができる。
【0043】
[スタックアンテナによる妨害波除去方法]
次に、図1を参照して、スタックアンテナ1を用いた妨害波の除去方法の動作手順について説明する。なお、本動作は、図2のスタックアンテナ1Bにおいても同様の動作となる。
また、ここでは、スタックアンテナ1は、各要素アンテナ10が、放送波を送出している放送局(中継基地局)の方向に予め調整して設置されているものとする。
【0044】
〔受信工程〕
まず、スタックアンテナ1は、受信対象の放送波である希望波Dの偏波面に対して所定角度傾けた状態で支持されている要素アンテナ10によって、放送波を受信する。この放送波には、当該スタックアンテナ1が設置されている地域を対象としたチャンネル(希望波D)に、隣接地域を対象としたチャンネル(妨害波U)が混入している。
【0045】
〔減衰工程〕
そして、スタックアンテナ1は、各要素アンテナ10で受信した放送波(放送信号)である高周波を、減衰器31によって回路で処理可能な信号レベルに減衰させる。
【0046】
〔位相調節・合成工程〕
そして、スタックアンテナ1は、位相調節器32によって、減衰器31bで減衰された放送信号の位相を調節し、合成器33によって、減衰器31bで減衰された放送信号と、位相調節器32で位相が調節された放送信号とを合成する。
このとき、スタックアンテナ1の設置者は、位相調節器32の調節により、妨害波Uの到来方向(β)に、不感帯となる角度(ヌル点)を一致させる。
これによって、スタックアンテナ1は、放送波を受信する際に、放送波から希望波D以外の妨害波Uを抑圧した受信信号を出力することができる。
このとき、要素アンテナ10が、希望波Dの偏波面に対して所定角度傾けた状態で支持されているため、位相調節器32における移相量の調節が少なくて済む。
【0047】
[スタックアンテナの性能評価]
ここで、図6を参照(適宜図1、図2参照)して、実験によるスタックアンテナ1の性能評価について説明する。図6は、スタックアンテナの性能評価表を示し、(a)は、従来のスタックアンテナにおける性能評価、(b)は、本実施形態のスタックアンテナにおける性能評価を示している。また、ここでは、スタックアンテナ1(1B)における要素アンテナ10が、希望波Dの偏波面に対して、17°回転したものを使用している。
【0048】
また、条件として、アンテナ高3.8mの位置にスタックアンテナを取り付け、UHF16チャンネル(水平偏波)を受信したときの受信信号の電圧(受信端子電圧)を求めている。また、妨害波が存在しない場合のUHF16チャンネルの水平偏波の基準端子電圧が、74.34[dBμ]であったとする。
また、ここでは、要素アンテナ10の指向方向(アンテナ軸方向)に対して、30°および150°のそれぞれの方向から妨害波Uとして垂直偏波を混入している。
【0049】
このとき、図6(a)に示すように、従来のスタックアンテナでは、30°方向から妨害波Uが混入したとき、受信端子電圧が37.43[dBμ]となり、垂直偏波妨害を抑圧した度合いを示す交差偏波妨害抑圧度(基準値−受信端子電圧)が36.91[dB]となった。なお、このときの位相の調節を行った移相量はマイナス126.3[°]であった。
また、150°方向から妨害波Uが混入したとき、受信端子電圧が33.31[dBμ]となり、交差偏波妨害抑圧度が41.01[dB]となった。なお、このときの位相の調節を行った移相量はマイナス169.0[°]であった。
【0050】
一方、図6(b)に示すように、本発明のスタックアンテナ1(1B)では、30°方向から妨害波Uが混入したとき、受信端子電圧が48.57[dBμ]となり、交差偏波妨害抑圧度が25.77[dB]となった。なお、このときの位相の調節を行った移相量はプラス29.6[°]であった。
また、150°方向から妨害波Uが混入したとき、受信端子電圧が46.36[dBμ]となり、交差偏波妨害抑圧度が27.98[dB]となった。なお、このときの位相の調節を行った移相量はプラス97.6[°]であった。
【0051】
この図6(a)および図6(b)に示すように、交差偏波妨害抑圧度においては、本発明のスタックアンテナ1(1B)は、従来のスタックアンテナに比べて劣化しているが、位相の調節を行った移相量は、大きく減少している。このように、本発明は、移相量を減少させることができ、妨害波Uを抑圧することはできても、希望波方向の感度がゼロになってしまうという従来の問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る第1実施形態のスタックアンテナの構成を説明するための図であって、(a)はスタックアンテナを構成するアンテナ部の斜視図および回路部の構成図、(b)はアンテナ部を希望波の到来方向からみたときの正面図である。
【図2】本発明に係る第2実施形態のスタックアンテナの構成を説明するための図であって、(a)はスタックアンテナを構成するアンテナ部の斜視図および回路部の構成図、(b)はアンテナ部を希望波の到来方向からみたときの正面図である。
【図3】従来のスタックアンテナの構成を説明するための図であって、(a)はスタックアンテナを構成するアンテナ部の斜視図および回路部の構成図、(b)はアンテナ部を希望波の到来方向からみたときの正面図である。
【図4】2アンテナ出力の合成原理を示す図である。
【図5】位相を調節した際の2アンテナ出力の合成原理を示す図であって、(a)は従来のスタックアンテナにおいて位相を調節したときの合成原理、(b)は本発明に係るスタックアンテナにおいて位相を調節したときの合成原理を示している。
【図6】スタックアンテナの性能評価表を示し、(a)は、従来のスタックアンテナにおける性能評価、(b)は、本実施形態のスタックアンテナにおける性能評価を示している。
【符号の説明】
【0053】
1 スタックアンテナ(受信アンテナ装置)
2 アンテナ部
3 回路部
10 要素アンテナ
11 導波器
12 ダイポール給電部
13 反射器
20 支持部材
21 アンテナ支持材
22 中間支持材
30 支柱
31 減衰器
32 位相調節器
33 合成器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放送波を受信する複数の要素アンテナと、この要素アンテナを並列配置して支柱に支持する支持部材とを備えた受信アンテナ装置において、
前記要素アンテナのアンテナ軸を中心に、当該要素アンテナの偏波面が受信対象の放送波である希望波の偏波面に対して所定角度傾くように、前記支持部材が前記要素アンテナを支持していることを特徴とする受信アンテナ装置。
【請求項2】
放送波を受信する複数の要素アンテナと、この要素アンテナを並列配置して支柱に支持する支持部材とを備えた受信アンテナ装置において、
前記要素アンテナのアンテナ軸を中心に、当該要素アンテナの偏波面が受信対象の放送波である希望波の偏波面に対して所定角度傾くように、前記支持部材が前記支柱に対して前記所定角度傾けて当該支柱に連接されていることを特徴とする受信アンテナ装置。
【請求項3】
前記所定角度であるαは、0°<α<45°の範囲であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受信アンテナ装置。
【請求項4】
放送波を複数の要素アンテナで受信する受信アンテナ装置における、妨害波を除去する妨害波除去方法であって、
前記要素アンテナのアンテナ軸を中心に、当該要素アンテナの偏波面を受信対象の放送波である希望波の偏波面に対して所定角度傾けた状態で、前記放送波を前記要素アンテナで受信する受信工程と、
この受信工程で受信された各受信信号の信号レベルを減衰する減衰工程と、
この減衰工程で減衰された各受信信号の位相を調節するとともに、前記各受信信号を合成する位相調節・合成工程と、
を含んでいることを特徴とする妨害波除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−28406(P2007−28406A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210140(P2005−210140)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】