受信機
【課題】別途取得した航法データを用いて、追尾可否の判断を行う受信機を提供することにある。
【解決手段】受信機は、例えば、GPS受信機等に適用することができる。当該受信機は、受信手段が衛星から衛星信号を受信し、周波数変換手段が上記衛星信号を中間周波数に変換し、積算手段が参照用信号と上記変換信号とを積算することにより、積算信号を出力し、基準信号生成手段が、所定周波数の基準信号を生成し、追尾判定用相関値出力手段が積算信号と基準信号との相関値である追尾判定用相関値を出力する。予測データ取得手段は、航法データの予測データを取得する。追尾判定手段は、追尾判定用相関値と予測データとを比較する比較処理を行い、比較処理の結果に基づいて追尾判定を行う。
【解決手段】受信機は、例えば、GPS受信機等に適用することができる。当該受信機は、受信手段が衛星から衛星信号を受信し、周波数変換手段が上記衛星信号を中間周波数に変換し、積算手段が参照用信号と上記変換信号とを積算することにより、積算信号を出力し、基準信号生成手段が、所定周波数の基準信号を生成し、追尾判定用相関値出力手段が積算信号と基準信号との相関値である追尾判定用相関値を出力する。予測データ取得手段は、航法データの予測データを取得する。追尾判定手段は、追尾判定用相関値と予測データとを比較する比較処理を行い、比較処理の結果に基づいて追尾判定を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、追尾状態を判定する受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
GPS(Global Positioning System)衛星から受信する衛星信号には、一般的にノイズも含まれている。受信機が衛星信号を変換して得た変換信号と、受信機自身で発信したPRNコードとの積算を行う場合において、上記衛星信号にノイズが多く含まれているとき、上記受信機は、ノイズに埋もれた信号を検出するために積算期間を長くする必要がある。
【0003】
なお、航法データの1ビットの周期は、PRNコード1周期(1msec)の20倍の20msecである。そのため、受信機は、航法データによるコード反転の影響を避けるために、20msec以内で積分を行わなければならず、十分な高感度化を実現することができない。
【0004】
そこで、航法データを何らかの方法で推定しデータ反転の影響を取り除くことによって、衛星信号を長時間に亘って位相積分し、GPS受信機の高感度化を図る方法も提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1のスペクトラム拡散信号受信装置では、推定した航法データから特定した位相反転情報を用いて、位相積分する。これにより、特許文献1に係るスペクトラム拡散信号受信装置は、コード反転箇所を特定することができ、コード反転の影響を回避して長期間積算を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−64983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に係るスペクトラム拡散信号受信装置は、推定した航法データを用いて、長期間積算を実現することができるが、衛星信号の信号電力が著しく低い場合、衛星信号と、スペクトラム拡散信号受信装置で発生させている信号との位相差を検出することが不可能となり、追尾することができないという問題点がある。
【0008】
ところで、複数の衛星から取得した衛星信号について、追尾しているか否かを判断すれば、どの衛星信号を用いて測位すべきかを判断することができるので、追尾することができるか否かを判断することが望まれる。特許文献1に記載のスペクトラム拡散信号受信装置は、航法データを用いて高感度化を図ることについて記載されているが、追尾判定の可否について判断することについては、記載されていない。
【0009】
本発明が解決しようとする課題としては、上記のようなものが例として挙げられる。本発明の目的は、別途取得した航法データを用いて、追尾可否の判断を行う受信機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、受信機であって、衛星信号を受信する受信手段と、前記衛星信号を中間周波数に変換する周波数変換手段と、前記周波数変換手段によって変換された信号と、衛星を特定するための参照用信号とを積算し、積算信号を生成する積算手段と、所定周波数の基準信号を生成する基準信号生成手段と、前記積算信号と前記基準信号との相関値である追尾判定用相関値を出力する追尾判定用相関値出力手段と、航法データの予測データを取得する予測データ取得手段と、前記追尾判定用相関値と前記予測データとを比較する比較処理を行い、前記比較処理の結果に基づいて追尾判定を行う追尾判定手段と、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】受信機の概念構成図である。
【図2】一般的なキャリアループのブロック図である。
【図3】先行技術文献のキャリアループのブロック図である。
【図4】本願発明にかかるキャリアループのブロック図である。
【図5】ノイズがない場合における相関値の例である。
【図6】信号電力が相対的に大きい状態における相関値の例である。
【図7】信号電力が相対的に小さい状態における相関値の例である。
【図8】信号電力が極端に小さい状態における相関値の例である。
【図9】信号電力の変化を示すグラフである。
【図10】位相差が大きい場合の相関値の例である。
【図11】第1期間及び第2期間の関係を示す図である。
【図12】追尾判定方法のフローチャートである。
【図13】第1期間及び第2期間の開始時期について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の1つの観点は、受信機であって、衛星信号を受信する受信手段と、前記衛星信号を中間周波数に変換する周波数変換手段と、前記周波数変換手段によって変換された信号と、衛星を特定するための参照用信号とを積算し、積算信号を生成する積算手段と、所定周波数の基準信号を生成する基準信号生成手段と、前記積算信号と前記基準信号との相関値である追尾判定用相関値を出力する追尾判定用相関値出力手段と、航法データの予測データを取得する予測データ取得手段と、前記追尾判定用相関値と前記予測データとを比較する比較処理を行い、前記比較処理の結果に基づいて追尾判定を行う追尾判定手段と、を備える。
【0013】
上記の受信機は、例えば、GPS受信機等に適用することができる。当該受信機は、受信手段が衛星から衛星信号を受信し、周波数変換手段が上記衛星信号を中間周波数に変換し、積算手段が参照用信号と上記変換信号とを積算することにより、積算信号を出力し、基準信号生成手段が、所定周波数の基準信号を生成し、追尾判定用相関値出力手段が積算信号と基準信号との相関値である追尾判定用相関値を出力する。予測データ取得手段は、航法データの予測データを取得する。ここでいう予測データとは、航法データを予測したデータをいう。追尾判定手段は、追尾判定用相関値と予測データとを比較する比較処理を行い、比較処理の結果に基づいて追尾判定を行う。
【0014】
一般的に、GPS受信機では、衛星信号がフロントエンドを介した結果、出力される中間周波数信号に対して、参照用信号に対応するPRNコードが掛け合わされ、コード成分が除去される。その信号に対して位相が90度ずれた2種類の基準信号であるローカルキャリア信号をVCO(Voltage Controlled Oscillator)で発生して掛け合わせる。これらをローパスフィルタに通した出力がI相関値、Q相関値として得られる。
【0015】
GPS受信機は、上記I相関値及びQ相関値を位相比較器に通すことによって、衛星信号と基準信号との位相差を検出し、当該位相差が一定期間小さい状態の場合、追尾していると判断する。なお、上記I相関値とQ相関値を座標軸上にプロットした場合、プロットした点及び原点からなる直線と、I相関値の軸の直線とからなる角度が位相差になる。また、追尾しているとき、I相関値の符号は航法データビットに相当する。
【0016】
上記衛星信号の信号電力の大小や衛星信号に含まれるノイズの影響により、実際のI相関値やQ相関値に誤差が生じるため、位相差を適切に取得することはできない。ただし、位相差が小さい場合、ノイズにより実際のI相関値と異なるI相関値を算出したとしても、算出したI相関値の符号は、実際の航法データと同じになる。
【0017】
また、位相差が大きく、追尾できていない場合、衛星信号に含まれるノイズの影響により、誤差を含むI相関値は、実際の航法データと異なる符号になる傾向にある。
【0018】
このことから、本願発明に係る受信機は、上記の傾向に基づいて衛星信号から生成した積算信号と基準信号との相関値である追尾判定用相関値の符号と、外部の装置等から取得した航法データを予測したデータである予測データとを比較した結果により、追尾しているか否かを判断しているので、適切に追尾判断を行うことが可能となる。
【0019】
上記の受信機の一態様では、前記比較処理は、所定期間である第1期間における前記予測データと、前記追尾判定用相関値との一致率に基づく結果を出力する。このように、受信機は、第1期間内における予測データと追尾判定用相関値との一致率に基づいて追尾しているか否かを判断しているので、第1期間に比してごくわずかな期間で追尾できない状態となっている場合でも、適切に追尾している状態を検出することができる。なお、第1期間は、設計により、動的に定められることが望ましい。また、一致率の閾値も設計により動的に定められるべきであるが、50%前後の場合、ランダムに計測した結果と変わらないため50%以上が望ましい(例えば、70%〜80%等)。
【0020】
上記の受信機の他の一態様では、前記比較処理は、前記第1期間に比して長い期間である第2期間の間に、前記第1期間内における前記一致率が、一致率の閾値である一致率閾値を超えた回数に基づいた結果を出力する。この場合、受信機は、ある第1期間内で受信した衛星信号の信号電力が低いことにより、追尾していないと判断してしまうことを回避することができ、ある第1期間の一致率のみで追尾状態を判断する場合に比して適切に追尾状態の判断をすることができる。
【0021】
一般的に、受信する衛星信号の電力の大きさは、受信機を搭載している移動体の位置変化や、時間変化等によりダイナミックに変動する。よって、一時期の予測データと、追尾判定用相関値の符号との比較結果だけで追尾しているか否かを判断しても判断結果に誤りがある可能性が高い。
【0022】
しかし、第1期間に比して長い期間である第2期間の間に、第1期間内における一致率が、一致率閾値を超えた回数に基づいて追尾しているか否かを判断すれば、受信機は、上述のように電力の大きさがダイナミックに変動している場合においても、適切に追尾状態の判断をすることができる。
【0023】
上記の受信機の他の一態様では、前記第2期間は、前記第1期間中の一致率が、前記一致率閾値を超えたタイミングで開始する。この場合、受信機は、第1期間中の一致率が閾値を超えたタイミングで開始することにより、追尾している状態を検出する可能性を向上させることができる。
【0024】
上記の受信機の他の一態様では、前記第1期間は、キャリアループの積算期間より短い。この場合、受信機は、追尾判定に時間がかかってしまうことを回避することができる。
【0025】
上記の受信機の他の一態様では、前記第1期間が開始された後、当該第1期間が終了する前に別の第1期間を開始する。この場合、受信機は、並列に第1期間を設定することになり、追尾判定を行う回数が増えるので、追尾している状態を検出する可能性を向上させることができる。
【0026】
上記の受信機の他の一態様では、前記第2期間が開始された後、前記第2期間が終了する前に別の第2期間を開始する。この場合、受信機は、並列に第2期間を設定することになり、追尾判定を行う回数が増えるので、追尾している状態を検出する可能性を向上させることができる。
【実施例】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。
【0028】
[本願発明の受信機の概念構成]
本願発明の受信機100の概念構成を図1に示す。本実施例では、受信機100は、GPS受信機とする。受信機100は、アンテナ10、フロントエンド20、キャリアループ30、及びコードループ50を有する。アンテナ10が受信した衛星信号は、フロントエンド20で処理しやすい周波数に変換され、キャリアループ30とコードループ50に入力される。以下、フロントエンド20で変換された信号を「中間周波数信号」ともいう。本実施例の衛星信号は、GPS衛星から受信した衛星信号とする。なお、キャリアループ30やコードループ50は、測位に必要とする衛星個数分以上あるものとする。
【0029】
キャリアループ30は、衛星信号のキャリアの位相を追尾するためのものである。一方、コードループ50は衛星信号のPRNコードの位相を追尾するためのものである。両者は同時に動作し、キャリアループ30にはコードループ50の出力が接続され、余計なコード成分が除去される。
【0030】
受信機100内の積算器31は、中間周波数信号である信号S1と、コードループ50から送られてきたPRNコードC1とを積算し、その結果信号S1からコード成分が除去された信号S2が生成される。そして信号S2は、キャリアループ30へ入力される。
【0031】
本願発明にかかる受信機100は、キャリアループ30内で追尾しているか否かの判定である追尾判定を行い、追尾判定結果を出力することを特徴とする。以下に、一般的なキャリアループの構成や先行技術文献1のスペクトラム拡散信号受信装置のキャリアループの構成について説明した後に、本願発明にかかるキャリアループ30の構成について説明する。
【0032】
[一般的なキャリアループ等の構成]
最初に、一般的なキャリアループであるキャリアループ300の構成を図2に示す。なお、キャリアループ300は、コスタスループで実装されている。
【0033】
キャリアループ300は、積算器32及び33と、ローパスフィルタ34及び35と、位相比較器36と、ループフィルタ37と、VCO(Voltage Controlled Oscillator)38と、π/2移相器39とを有する。
【0034】
キャリアループ300では、積算器31から出力された信号S2が積算器32及び33へ入力される。
【0035】
上記積算器32には、VCO38で発生したローカルキャリア信号である信号LS1が入力される。また、VCO38で発生した信号LS1がπ/2移相器39でπ/2遅延され、当該遅延されたローカルキャリア信号である信号LS2が積算器33へ入力される。
【0036】
積算器32では、信号S2と信号LS1とが積算される。また、積算器33においてπ/2移相器39で遅延された信号LS2と、信号S2とが積算される。
【0037】
上記の積算器32の出力結果をローパスフィルタ34で処理した結果として、信号S2と信号LS1との相関値であるI相関値が得られる。また、上記の積算器33の出力結果をローパスフィルタ35で処理した結果として、信号S2と信号LS2との相関値であるQ相関値が得られる。そして、I相関値及びQ相関値は、位相比較器36へ入力される。
【0038】
位相比較器36は、I相関値及びQ相関値に基づいて信号S2と信号LS1との位相差(当該位相差を以下、単に「位相差」とも呼ぶ)を検出し、この位相差をループフィルタ37を介してVCO38へ供給する。これにより、VCO38が制御されてVCO38からの出力される信号LS1の位相が信号S2に同期するようになる。I相関値及びQ相関値を用いて位相差を検出する方法については、後述する。
【0039】
キャリアループの目的はローカルキャリアの位相を制御してQ相関値を0にすることであり、それは衛星信号である信号S2とローカルキャリア信号である信号LS2との位相差を0にすることに相当する。位相差がほぼ0のとき、I相関値の符号は航法データのビットに相当する。位相比較器36で、Q相関値だけでなくI相関値も利用している理由は、I相関値を利用して未知の航法データの影響を取り除き、単純な正弦(sin)波同士の積算に置き換えるためである。VCO38から出力される信号LS2と、信号S2との位相差が一定期間に渡って十分小さい状態を、「追尾」していると言う。
【0040】
次に、特許文献1のスペクトラム拡散信号受信装置内のキャリアループであるキャリアループ400の構成を図3に示す。図2に示した一般的なキャリアループ300と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0041】
キャリアループ400は、I相関値を使用しない代わりに、予測した航法データ(以下、「予測航法データ」とも呼ぶ)を用いる構成となる。ここでいう予測航法データの例として、過去に取得した航法データを所定の正規化処理した信号等がある。この場合、キャリアループ400では、予測航法データからI相関値を予測し得るため、従来に比して弱い信号でも追尾することが可能となる。
【0042】
[本願発明のキャリアループの構成]
次に、本願発明のキャリアループ30の構成について図4に示す。図2に示す一般的なコスタスループ300や図3に示す特許文献1のキャリアループ400と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0043】
キャリアループ30は、上述のコスタスループ300に判定器40を加えており、外部サーバ等から予測航法データを取得している。
【0044】
判定器40は、入力されたI相関値の符号と予測航法データとを比較して、当該比較結果に基づいて追尾しているか否かの結果を出力する。なお、判定器40の出力結果は、受信機100が有する測位計算手段(図示しない)へ送信する。測位計算手段は、判定器40が出力した結果を参照し、追尾しているのであれば、追尾しているキャリアループ30に対応する衛星の衛星信号を用いて測位を行う。このように、判定器40が追尾しているか否かの結果を出力することにより、受信機100は、測位に用いる衛星信号を特定することができる。
【0045】
本実施例では、アンテナ10が、受信手段として機能し、フロントエンド20が周波数変換手段として機能し、積算器32及びLPF34が追尾判定用相関値出力手段として機能し、判定器40が追尾判定手段として機能する。また、信号S1が中間周波数信号として機能し、PRNコードC1が参照用信号として機能し、信号S2が積算信号として機能し、信号LS1が基準信号として機能し、予測航法データが予測データとして機能し、I相関値が追尾判定用相関値として機能する。
【0046】
以下に、キャリアループ300等で行うI相関値及びQ相関値を用いて位相差を検出する方法を説明した後に、本願発明の特徴部分について説明する。
【0047】
[相関値を用いて位相差を検出する方法]
キャリアループ300等が行う、I相関値及びQ相関値を用いて位相差を検出する方法を説明する。ノイズのない純粋な衛星信号を受信している場合、I相関値及びQ相関値を座標軸上にプロットすると図5のようになる。図5のグラフは、横軸をI相関値の軸(以下、「I軸」とも呼ぶ)とし、縦軸をQ相関値の軸(以下、「Q軸」とも呼ぶ)としている。プロットした点(点P1又は点P2)と原点とからなる直線と、I相関値の軸とからなる角度(角度Ang1又は角度Ang2)は、信号S2と信号LS1との位相差に相当する。すなわち、I相関値及びQ相関値が分かれば位相差が分かる。位相比較器36はこれを利用して位相差を検出している。また点P1と原点との距離である距離D1、点P2と原点との距離である距離D2は、信号電力によって決まり、信号電力が大きくなるほど距離D1、D2は長くなる。
【0048】
I軸のプラスとマイナスの両方に点がプロットされている理由は、掛け合わされている未知の航法データによるためである。航法データが1のときはI>0、−1のときはI<0となる。追尾できている状態では、I相関値の符号を見ることにより航法データを検出することが可能となる。
【0049】
以下、図5のようなノイズのない衛星信号によるI>0の相関値を「正の真値」、I<0の相関値を「負の真値」と表現する。
【0050】
実際には処理する信号にはノイズが載っているため、図6に示すように、相関値は真値の周りに分布することになる(例えば、点P10や点P11等)。この分布の広がりの大きさはノイズ電力によって決まるものであり、受信機の系とLPFの設計によって決まると考えてよい。ノイズ電力が大きいほど分布の広がりは大きくなる。
【0051】
前述したように真値と原点との距離は信号電力によって決まるため、ノイズ電力と信号電力の相対的な関係から、I、Q相関値分布の特徴を大きく次の3つの状態に分けて考えることができる。
【0052】
(状態A)信号電力が相対的に大きい状態
(状態B)信号電力が相対的に小さい状態
(状態C)信号電力が極端に小さい状態
状態Aの場合、図6に示すように、相関値が分布する。このような状態では、キャリアループ300を搭載した一般的なGPS受信機は、I相関値を参照すれば、そのプロットが正の真値、負の真値のどちらに対応したものであるか判断できるため、分布の中心から位相差を検出することが可能である。
【0053】
状態Bの場合、相関値は図7のように分布する。正の真値に対応した相関値も、I<0のエリアに分布してしまっている(例えば、点P12等)。その逆も同様である。こうした状況では、I相関値を見ても正の真値、負の真値どちらに対応したものなのかが判断できないため、上記の一般的なGPS受信機は、位相差を検出することが困難となる。
【0054】
しかし、GPS受信機が、各プロットの対応する真値の正負についての情報を取得すれば、状態Bでも分布の中心を検出できるため、位相差を検出することが可能となる。
【0055】
対応する真値の正負を知る方法として、航法データを何らかの方法で予測し、プロットの正負をI相関値から判定するのではなく、予測した航法データビットから判定することが、特許文献1で提案されている。予測する方法としては、航法データの繰り返しを利用した予測、外部サーバからの取得による予測等が提案されている。これにより、特許文献1に記載のスペクトラム拡散信号受信装置は、高感度化を図っている。
【0056】
状態Cでは、相関値は、図8のように分布する。このような状態では、たとえ対応する真値の正負が分かったとしても、信号電力が極端に弱いことより、点P1又は点P2が原点に極端に近い位置にプロットされることとなる。従って、図5に示した角度Ang1又は角度Ang2を適切に算出することが困難となり、一般的なGPS受信機や特許文献1に記載のスペクトラム拡散信号受信装置は、分布の中心から位相差を正しく検出することは、困難となる。
【0057】
カーナビゲーションシステムに搭載されるGPS受信機を考えた場合、衛星信号の強度は、上記カーナビゲーションシステムを搭載する車の走行による周囲の環境変化(例えば、時間経過や位置変更等)によってダイナミックに変化する。図9に時間経過や位置変更等の環境変化によって、信号電力がダイナミックに変化する例を示す。縦軸は信号電力の強度を示し、横軸は、環境変化を示す。
【0058】
このような信号電力の変化の中で、従来の一般的なGPS受信機では、状態Aの時の衛星信号を利用して追尾を行ったり、特許文献1に記載のスペクトラム拡散信号受信装置では、状態A又は状態Bの時の衛星信号を利用して追尾を行ったりする。
【0059】
特許文献1に記載のスペクトラム拡散信号受信装置のような高感度受信機であったとしても、状態Cの割合が多くなるような環境では、位相差を算出することが困難であるため、適切に追尾することができない。また予測方法によっては、予測した航法データ自体が間違っていることも考えられ、そのような場合も、特許文献1に記載のスペクトラム拡散信号受信装置は、追尾することはできない。このことを考慮すると、いずれのGPS受信機であっても、追尾できているか否かを判定することが重要となる。
【0060】
状態Aの場合、GPS受信機は、I、Q相関値の関係を参照することにより、追尾しているか否かの判定が比較的簡単に行える。すなわちQ相関値に対してI相関値の絶対値が十分に大きい状態が続いたら追尾していると判断することができる。
【0061】
しかし、予測した航法データを利用して状態Bの状況下で、GPS受信機が衛星信号も追尾しようとしているときには、ノイズの影響を受けているためI、Q相関値の関係だけで追尾を判定することは困難であり、これまで具体的な追尾判定方法の提案はされていなかった。また、図9のようにダイナミックに信号電力が変化する状況での判定方法についても具体的な提案はされていなかった。
【0062】
[本願発明の特徴]
本願の発明の特徴を第1の特徴と第2の特徴とに分けて以下に記載する。
【0063】
(第1の特徴)
本願発明に係る受信機100は、予測航法データを利用して追尾を行っている間に、予測航法データとI相関値の符号との一致率に基づいて追尾判定を行う。前述したようにノイズがない状態でのI相関値の符号が航法データに相当することを利用して、受信機100は、追尾判定を行う。
【0064】
図7から分かるように、状態Bに該当する信号電力であっても位相差が小さい場合には、正の真値に対応する相関値はI>0のエリアに、負の真値に対応する相関値はI<0のエリアに分布する確率が高い。つまり予測航法データが正しければ、予測航法データとI相関値の符号とが一致する可能性が高い。
【0065】
それに対し、状態Bの信号電力で位相差が大きい場合には、相関値の分布は図10のようになる。図10に示すように、位相差が大きいことによりQ軸付近に点P1又は点P2がプロットされるため、衛星信号に載っているノイズの影響を受けると正の真値に対応する相関値がI>0のエリアに分布する確率が低くなってしまう。その逆も同様である。つまり、予測航法データとI相関値の符号が一致する可能性が低くなる。
【0066】
また、位相差が小さい場合でも、予測航法データ自体が間違っている場合には、予測航法データと、I相関値の符号とが一致する可能性は低くなる。このような状況では、誤った予測航法データを用いて追尾しようとしても位相差が大きくなってしまうことから、追尾できていないと判断して良いと考えられる。
【0067】
従って、以下の(1)及び(2)を導くことができる。
【0068】
(1)「位相差が小さく、かつ予測航法データが正しい」場合は、予測航法データとI相関値の符号とが一致する可能性が高い。
【0069】
(2)「位相差が大きい、又は予測航法データが間違っている」場合は、予測航法データとI相関値の符号とが一致する可能性が低い。
【0070】
以上のことから、ある一定期間での予測航法データとI相関値の符号との一致率が一致率の閾値である一致率閾値よりも高い場合に、受信機100は、「その期間で連続して位相差が小さい」、つまり「追尾できている」と判定する。以下、この期間を「第1期間」と定義する。第1期間を長くすれば、長くするほど、また、一致率閾値を高くすれば高くするほど、実際には、追尾できていないのに追尾判定OKとしてしまう「誤判定」の可能性は、少なくなる。しかし、逆に追尾できているのになかなか追尾判定OKとできないことになるため、第1期間の長さや一致率閾値は適切に設計する必要がある。本実施例では、第1期間を100msec〜150msec程度とする。一致率閾値も設計により適切に定められるべきであるが、50%前後の場合、ランダムに計測した結果と変わらないため50%以上が望ましい(例えば、70%〜80%等)。
【0071】
上述のように、本願発明の受信機100の判定器40は、上記の第1期間内における予測航法データとI相関値の符号とを比較し、比較結果に基づいて追尾判定を行う。この場合、受信機100は、追尾しているときの航法データとI相関値の符号との関連性に基づいて、追尾判定を行うので、適切に追尾しているか否かを判断することが可能となる。
【0072】
また、受信機100は、第1期間内における予測航法データとI相関値の符号との一致率に基づいて追尾しているか否かを判断しているので、第1期間に比してごくわずかな期間で状態Cとなっている場合でも、適切に追尾している状態を検出することができる。
【0073】
(第2の特徴)
本願発明の受信機100は、「ある一定期間での予測航法データとI相関値の符号の一致率が一致率閾値よりも高い」という状態が、より長い対象期間の中で局所的に複数回発生することを検出して追尾できていると判定する。
【0074】
図8に示したように状態Cでは、位相差の大きさによらずI相関値の分布が正と負をほぼランダムにとるようになる。すなわち、予測航法データが正しかったとしても、予測航法データとI相関値の符号との一致率は低くなる。よって、ダイナミックに信号電力が変化する環境で第1の特徴の手法を単純に使おうとすると、ある第1期間中の大部分が状態Cである場合に、一致率が低くなりなかなか追尾判定OKとならない可能性がある。これを避けるために単純に第1期間の長さを短くすると、前述したように誤判定の可能性が高くなってしまう。
【0075】
そこで、第1期間に比してより長い対象期間を設定し、その中で第1期間の長さで局所的に一致率が高くなる状態が既定回数(以下、当該規定回数を「回数閾値」とも呼ぶ)発生したら追尾できていると判定する。これによれば、受信機100は、第1期間を短くして当該第1期間に状態Cが含まれる可能性を下げることができると共に、誤判定の可能性も低く抑えることができる。この長い対象期間を「第2期間」と表現する。第2期間も第1期間と同様、設計により動的に定められるべきである。本実施例では、第2期間を、1秒とする。
【0076】
この手法の例を図11に示す。この例では、「第2期間中に、一致率がm(一致率閾値)を超えた第1期間がn(回数閾値)回以上含まれたら追尾判定OKとする」という条件の例を示している。本実施例では、一致率閾値を超えた第1期間が、第2期間に含まれる第1期間計測回数の半分以上に達した場合に、追尾判定OKとする。
【0077】
[追尾判定方法ついて]
次に、上記の本願発明の第1及び第2の特徴を反映した追尾判定方法について、図12に示すフローチャートを用いて説明する。なお、図12に示すフローチャートは、第2期間の開始から終了までの処理を表している。
【0078】
判定器40は、最初に、カウンタを0に設定する(ステップS1)。このカウンタは、第2期間中の追尾判定用のカウンタである。外部サーバ等から予測航法データが入力されることにより、受信機100は、予測航法データを取得する(ステップS2)。積算器32で信号S2と信号LS1とが積算された結果をローパスフィルタ34で処理することにより、受信機100は、I相関値を算出する(ステップS3)。上記予測航法データ及びI相関値が判定器40に入力され、判定器40は、当該予測航法データとI相関値の符号との一致判定を行う(ステップS4)。
【0079】
第1期間が終了していない場合で(ステップS5;No)、第2期間が終了していない場合(ステップS11;No)、ステップS2へ移動する。
【0080】
第1期間が終了している場合(ステップS5;Yes)、判定器40は、第1期間における一致率を算出する(ステップS6)。一致率が一致率閾値を超えている場合(ステップS7;Yes)、判定器40は、カウンタをインクリメントする(ステップS8)。一致率が一致率閾値を超えていない場合(ステップS7;No)、ステップS11へ移る。
【0081】
カウンタをインクリメントした結果、カウンタが回数閾値を超えた場合(ステップS9;Yes)、判定器40は、追尾していることを意味する追尾判定OKに対応する値を出力し、処理を終了する。
【0082】
ステップS11において、第2期間が終了していた場合(ステップS11;Yes)、第2期間の間で、カウンタが回数閾値に達していないので、判定器40は、追尾していないことを意味する追尾判定NGに対応する値を出力し(ステップS12)、処理を終了する。
【0083】
以上説明したように、受信機100は、衛星信号を受信する受信手段と、衛星信号を中間周波数に変換する周波数変換手段と、周波数変換手段によって変換された信号と、衛星を特定するための参照用信号とを積算し、積算信号を生成する積算手段と、所定周波数の基準信号を生成する基準信号生成手段と、前記積算信号と前記基準信号との相関値である追尾判定用相関値を出力する追尾判定用相関値出力手段と、航法データの予測データを取得する予測データ取得手段と、追尾判定用相関値と前記予測データとを比較する比較処理を行い、比較処理の結果に基づいて追尾判定を行う追尾判定手段と、を備える。
【0084】
本願発明に係る受信機100は、追尾している場合における、衛星信号から生成した積算信号と基準信号との相関値である追尾判定用相関値の符号と、外部の装置等から取得した航法データを予測したデータである予測データとの関連性に基づいて追尾判定を行っているので、適切に追尾判定を行うことができる。
【0085】
[他の実施例]
上述の実施例では、判定器40が、第1期間内における予測航法データとI相関値の符号との一致率に基づいて追尾しているか否かを判定する場合について述べたが、本発明は、これに限られず、単純に予測航法データとI相関値の符号とが一致するか否かに基づいて追尾しているか否か判定するようにしても良い。
【0086】
上述の実施例では、判定器40は、第2期間内で第1期間内における一致率閾値を超えた回数が、回数閾値に達した場合に追尾していると判断する場合について述べたが、本発明は、これに限られず、第1期間内における一致率閾値を超えた場合に、追尾していると判断するようにしても良い。この場合、第1期間内における予測航法データとI相関値の符号との一致率に基づいて、受信機100が追尾しているか否かを判断すれば、第1期間に比して、ごくわずかな期間で状態Cとなっている場合でも、適切に追尾している状態を検出することができる。
【0087】
上述の実施例では、判定器40は、ある第1期間がスタートした後に、当該第1期間が終了するまで別の第1期間がスタートしない場合について述べたが、本発明は、これに限られず、図13に示すように、ある第1期間がスタートしてから、当該第1期間が終了する前に、別の第1期間をスタートさせるようにしても良い。この場合、受信機100は、並列に第1期間を設定することになり、追尾判定を行う回数が増えるので、追尾している状態を検出する可能性を向上させることができる。
【0088】
上述の実施例では、特に述べなかったが、図13に示すように第1期間内における一致率が一致率閾値を超えた段階から第2期間を開始するようにしても良い。この場合、受信機100は、第1期間中の一致率が一致率閾値を超えたタイミングで開始することにより、追尾状態を検出する可能性を向上させることができる。
【0089】
上述の実施例では、特に述べなかったが、図13に示すように、第2期間が開始された後、第2期間が終了する前に別の第2期間を開始するようにしても良い。この場合、受信機100は、並列に第2期間を設定することになり、追尾判定を行う回数が増えるので、追尾している状態を検出する可能性を向上させることができる。
【0090】
上述の実施例では、特に述べなかったが、I相関値の符号と予測航法データとの一致判断の周期を、ローパスフィルタ34の積算期間より短くする方が良い。特許文献1にかかるスペクトラム拡散信号受信装置では予測航法データを利用して積算期間を航法データの1ビットに相当する20msecよりも大きくすることが提案されている。このようにローパスフィルタ34を利用する場合、I相関値の符号と予測航法データの一致状況を判断する周期をローパスフィルタ34の積算期間と同じにしてしまうと追尾判定に時間がかかってしまう。
【0091】
そこで、受信機100は、ローパスフィルタ34の積算途中から比較用にI相関値を取り出し、それを用いて本発明の手法を適用することもできる。これにより、受信機100は、ローパスフィルタの設計に関わらず適切に追尾判定を行うことができる。具体例として、受信機100がローパスフィルタ34で積算期間を100msecとしている場合に、10msec毎に比較用にI相関値を取り出す等がある。この場合、受信機100は、追尾判定に時間がかかってしまうことを回避することができる。
【0092】
上述の実施例では、予測航法データを外部サーバから取得する場合について述べたが、本発明は、これに限られず、過去に取得した航法データを予測航法データとして使うようにしても良いし、受信機100が有する他のキャリアループ30が出力した航法データを予測航法データとして取得するようにしても良い。
【0093】
上述の実施例では、受信機100を、GPSの受信機として適用する場合について述べたが、本発明は、これに限られず、例えば、Galileoに代表されるGPS以外の測位衛星システムにおける受信機にも適用することができる。
【符号の説明】
【0094】
10 アンテナ
20 フロントエンド
30 キャリアループ
40 判定部
50 コードループ
100 受信機
【技術分野】
【0001】
本発明は、追尾状態を判定する受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
GPS(Global Positioning System)衛星から受信する衛星信号には、一般的にノイズも含まれている。受信機が衛星信号を変換して得た変換信号と、受信機自身で発信したPRNコードとの積算を行う場合において、上記衛星信号にノイズが多く含まれているとき、上記受信機は、ノイズに埋もれた信号を検出するために積算期間を長くする必要がある。
【0003】
なお、航法データの1ビットの周期は、PRNコード1周期(1msec)の20倍の20msecである。そのため、受信機は、航法データによるコード反転の影響を避けるために、20msec以内で積分を行わなければならず、十分な高感度化を実現することができない。
【0004】
そこで、航法データを何らかの方法で推定しデータ反転の影響を取り除くことによって、衛星信号を長時間に亘って位相積分し、GPS受信機の高感度化を図る方法も提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1のスペクトラム拡散信号受信装置では、推定した航法データから特定した位相反転情報を用いて、位相積分する。これにより、特許文献1に係るスペクトラム拡散信号受信装置は、コード反転箇所を特定することができ、コード反転の影響を回避して長期間積算を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−64983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に係るスペクトラム拡散信号受信装置は、推定した航法データを用いて、長期間積算を実現することができるが、衛星信号の信号電力が著しく低い場合、衛星信号と、スペクトラム拡散信号受信装置で発生させている信号との位相差を検出することが不可能となり、追尾することができないという問題点がある。
【0008】
ところで、複数の衛星から取得した衛星信号について、追尾しているか否かを判断すれば、どの衛星信号を用いて測位すべきかを判断することができるので、追尾することができるか否かを判断することが望まれる。特許文献1に記載のスペクトラム拡散信号受信装置は、航法データを用いて高感度化を図ることについて記載されているが、追尾判定の可否について判断することについては、記載されていない。
【0009】
本発明が解決しようとする課題としては、上記のようなものが例として挙げられる。本発明の目的は、別途取得した航法データを用いて、追尾可否の判断を行う受信機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、受信機であって、衛星信号を受信する受信手段と、前記衛星信号を中間周波数に変換する周波数変換手段と、前記周波数変換手段によって変換された信号と、衛星を特定するための参照用信号とを積算し、積算信号を生成する積算手段と、所定周波数の基準信号を生成する基準信号生成手段と、前記積算信号と前記基準信号との相関値である追尾判定用相関値を出力する追尾判定用相関値出力手段と、航法データの予測データを取得する予測データ取得手段と、前記追尾判定用相関値と前記予測データとを比較する比較処理を行い、前記比較処理の結果に基づいて追尾判定を行う追尾判定手段と、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】受信機の概念構成図である。
【図2】一般的なキャリアループのブロック図である。
【図3】先行技術文献のキャリアループのブロック図である。
【図4】本願発明にかかるキャリアループのブロック図である。
【図5】ノイズがない場合における相関値の例である。
【図6】信号電力が相対的に大きい状態における相関値の例である。
【図7】信号電力が相対的に小さい状態における相関値の例である。
【図8】信号電力が極端に小さい状態における相関値の例である。
【図9】信号電力の変化を示すグラフである。
【図10】位相差が大きい場合の相関値の例である。
【図11】第1期間及び第2期間の関係を示す図である。
【図12】追尾判定方法のフローチャートである。
【図13】第1期間及び第2期間の開始時期について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の1つの観点は、受信機であって、衛星信号を受信する受信手段と、前記衛星信号を中間周波数に変換する周波数変換手段と、前記周波数変換手段によって変換された信号と、衛星を特定するための参照用信号とを積算し、積算信号を生成する積算手段と、所定周波数の基準信号を生成する基準信号生成手段と、前記積算信号と前記基準信号との相関値である追尾判定用相関値を出力する追尾判定用相関値出力手段と、航法データの予測データを取得する予測データ取得手段と、前記追尾判定用相関値と前記予測データとを比較する比較処理を行い、前記比較処理の結果に基づいて追尾判定を行う追尾判定手段と、を備える。
【0013】
上記の受信機は、例えば、GPS受信機等に適用することができる。当該受信機は、受信手段が衛星から衛星信号を受信し、周波数変換手段が上記衛星信号を中間周波数に変換し、積算手段が参照用信号と上記変換信号とを積算することにより、積算信号を出力し、基準信号生成手段が、所定周波数の基準信号を生成し、追尾判定用相関値出力手段が積算信号と基準信号との相関値である追尾判定用相関値を出力する。予測データ取得手段は、航法データの予測データを取得する。ここでいう予測データとは、航法データを予測したデータをいう。追尾判定手段は、追尾判定用相関値と予測データとを比較する比較処理を行い、比較処理の結果に基づいて追尾判定を行う。
【0014】
一般的に、GPS受信機では、衛星信号がフロントエンドを介した結果、出力される中間周波数信号に対して、参照用信号に対応するPRNコードが掛け合わされ、コード成分が除去される。その信号に対して位相が90度ずれた2種類の基準信号であるローカルキャリア信号をVCO(Voltage Controlled Oscillator)で発生して掛け合わせる。これらをローパスフィルタに通した出力がI相関値、Q相関値として得られる。
【0015】
GPS受信機は、上記I相関値及びQ相関値を位相比較器に通すことによって、衛星信号と基準信号との位相差を検出し、当該位相差が一定期間小さい状態の場合、追尾していると判断する。なお、上記I相関値とQ相関値を座標軸上にプロットした場合、プロットした点及び原点からなる直線と、I相関値の軸の直線とからなる角度が位相差になる。また、追尾しているとき、I相関値の符号は航法データビットに相当する。
【0016】
上記衛星信号の信号電力の大小や衛星信号に含まれるノイズの影響により、実際のI相関値やQ相関値に誤差が生じるため、位相差を適切に取得することはできない。ただし、位相差が小さい場合、ノイズにより実際のI相関値と異なるI相関値を算出したとしても、算出したI相関値の符号は、実際の航法データと同じになる。
【0017】
また、位相差が大きく、追尾できていない場合、衛星信号に含まれるノイズの影響により、誤差を含むI相関値は、実際の航法データと異なる符号になる傾向にある。
【0018】
このことから、本願発明に係る受信機は、上記の傾向に基づいて衛星信号から生成した積算信号と基準信号との相関値である追尾判定用相関値の符号と、外部の装置等から取得した航法データを予測したデータである予測データとを比較した結果により、追尾しているか否かを判断しているので、適切に追尾判断を行うことが可能となる。
【0019】
上記の受信機の一態様では、前記比較処理は、所定期間である第1期間における前記予測データと、前記追尾判定用相関値との一致率に基づく結果を出力する。このように、受信機は、第1期間内における予測データと追尾判定用相関値との一致率に基づいて追尾しているか否かを判断しているので、第1期間に比してごくわずかな期間で追尾できない状態となっている場合でも、適切に追尾している状態を検出することができる。なお、第1期間は、設計により、動的に定められることが望ましい。また、一致率の閾値も設計により動的に定められるべきであるが、50%前後の場合、ランダムに計測した結果と変わらないため50%以上が望ましい(例えば、70%〜80%等)。
【0020】
上記の受信機の他の一態様では、前記比較処理は、前記第1期間に比して長い期間である第2期間の間に、前記第1期間内における前記一致率が、一致率の閾値である一致率閾値を超えた回数に基づいた結果を出力する。この場合、受信機は、ある第1期間内で受信した衛星信号の信号電力が低いことにより、追尾していないと判断してしまうことを回避することができ、ある第1期間の一致率のみで追尾状態を判断する場合に比して適切に追尾状態の判断をすることができる。
【0021】
一般的に、受信する衛星信号の電力の大きさは、受信機を搭載している移動体の位置変化や、時間変化等によりダイナミックに変動する。よって、一時期の予測データと、追尾判定用相関値の符号との比較結果だけで追尾しているか否かを判断しても判断結果に誤りがある可能性が高い。
【0022】
しかし、第1期間に比して長い期間である第2期間の間に、第1期間内における一致率が、一致率閾値を超えた回数に基づいて追尾しているか否かを判断すれば、受信機は、上述のように電力の大きさがダイナミックに変動している場合においても、適切に追尾状態の判断をすることができる。
【0023】
上記の受信機の他の一態様では、前記第2期間は、前記第1期間中の一致率が、前記一致率閾値を超えたタイミングで開始する。この場合、受信機は、第1期間中の一致率が閾値を超えたタイミングで開始することにより、追尾している状態を検出する可能性を向上させることができる。
【0024】
上記の受信機の他の一態様では、前記第1期間は、キャリアループの積算期間より短い。この場合、受信機は、追尾判定に時間がかかってしまうことを回避することができる。
【0025】
上記の受信機の他の一態様では、前記第1期間が開始された後、当該第1期間が終了する前に別の第1期間を開始する。この場合、受信機は、並列に第1期間を設定することになり、追尾判定を行う回数が増えるので、追尾している状態を検出する可能性を向上させることができる。
【0026】
上記の受信機の他の一態様では、前記第2期間が開始された後、前記第2期間が終了する前に別の第2期間を開始する。この場合、受信機は、並列に第2期間を設定することになり、追尾判定を行う回数が増えるので、追尾している状態を検出する可能性を向上させることができる。
【実施例】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。
【0028】
[本願発明の受信機の概念構成]
本願発明の受信機100の概念構成を図1に示す。本実施例では、受信機100は、GPS受信機とする。受信機100は、アンテナ10、フロントエンド20、キャリアループ30、及びコードループ50を有する。アンテナ10が受信した衛星信号は、フロントエンド20で処理しやすい周波数に変換され、キャリアループ30とコードループ50に入力される。以下、フロントエンド20で変換された信号を「中間周波数信号」ともいう。本実施例の衛星信号は、GPS衛星から受信した衛星信号とする。なお、キャリアループ30やコードループ50は、測位に必要とする衛星個数分以上あるものとする。
【0029】
キャリアループ30は、衛星信号のキャリアの位相を追尾するためのものである。一方、コードループ50は衛星信号のPRNコードの位相を追尾するためのものである。両者は同時に動作し、キャリアループ30にはコードループ50の出力が接続され、余計なコード成分が除去される。
【0030】
受信機100内の積算器31は、中間周波数信号である信号S1と、コードループ50から送られてきたPRNコードC1とを積算し、その結果信号S1からコード成分が除去された信号S2が生成される。そして信号S2は、キャリアループ30へ入力される。
【0031】
本願発明にかかる受信機100は、キャリアループ30内で追尾しているか否かの判定である追尾判定を行い、追尾判定結果を出力することを特徴とする。以下に、一般的なキャリアループの構成や先行技術文献1のスペクトラム拡散信号受信装置のキャリアループの構成について説明した後に、本願発明にかかるキャリアループ30の構成について説明する。
【0032】
[一般的なキャリアループ等の構成]
最初に、一般的なキャリアループであるキャリアループ300の構成を図2に示す。なお、キャリアループ300は、コスタスループで実装されている。
【0033】
キャリアループ300は、積算器32及び33と、ローパスフィルタ34及び35と、位相比較器36と、ループフィルタ37と、VCO(Voltage Controlled Oscillator)38と、π/2移相器39とを有する。
【0034】
キャリアループ300では、積算器31から出力された信号S2が積算器32及び33へ入力される。
【0035】
上記積算器32には、VCO38で発生したローカルキャリア信号である信号LS1が入力される。また、VCO38で発生した信号LS1がπ/2移相器39でπ/2遅延され、当該遅延されたローカルキャリア信号である信号LS2が積算器33へ入力される。
【0036】
積算器32では、信号S2と信号LS1とが積算される。また、積算器33においてπ/2移相器39で遅延された信号LS2と、信号S2とが積算される。
【0037】
上記の積算器32の出力結果をローパスフィルタ34で処理した結果として、信号S2と信号LS1との相関値であるI相関値が得られる。また、上記の積算器33の出力結果をローパスフィルタ35で処理した結果として、信号S2と信号LS2との相関値であるQ相関値が得られる。そして、I相関値及びQ相関値は、位相比較器36へ入力される。
【0038】
位相比較器36は、I相関値及びQ相関値に基づいて信号S2と信号LS1との位相差(当該位相差を以下、単に「位相差」とも呼ぶ)を検出し、この位相差をループフィルタ37を介してVCO38へ供給する。これにより、VCO38が制御されてVCO38からの出力される信号LS1の位相が信号S2に同期するようになる。I相関値及びQ相関値を用いて位相差を検出する方法については、後述する。
【0039】
キャリアループの目的はローカルキャリアの位相を制御してQ相関値を0にすることであり、それは衛星信号である信号S2とローカルキャリア信号である信号LS2との位相差を0にすることに相当する。位相差がほぼ0のとき、I相関値の符号は航法データのビットに相当する。位相比較器36で、Q相関値だけでなくI相関値も利用している理由は、I相関値を利用して未知の航法データの影響を取り除き、単純な正弦(sin)波同士の積算に置き換えるためである。VCO38から出力される信号LS2と、信号S2との位相差が一定期間に渡って十分小さい状態を、「追尾」していると言う。
【0040】
次に、特許文献1のスペクトラム拡散信号受信装置内のキャリアループであるキャリアループ400の構成を図3に示す。図2に示した一般的なキャリアループ300と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0041】
キャリアループ400は、I相関値を使用しない代わりに、予測した航法データ(以下、「予測航法データ」とも呼ぶ)を用いる構成となる。ここでいう予測航法データの例として、過去に取得した航法データを所定の正規化処理した信号等がある。この場合、キャリアループ400では、予測航法データからI相関値を予測し得るため、従来に比して弱い信号でも追尾することが可能となる。
【0042】
[本願発明のキャリアループの構成]
次に、本願発明のキャリアループ30の構成について図4に示す。図2に示す一般的なコスタスループ300や図3に示す特許文献1のキャリアループ400と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0043】
キャリアループ30は、上述のコスタスループ300に判定器40を加えており、外部サーバ等から予測航法データを取得している。
【0044】
判定器40は、入力されたI相関値の符号と予測航法データとを比較して、当該比較結果に基づいて追尾しているか否かの結果を出力する。なお、判定器40の出力結果は、受信機100が有する測位計算手段(図示しない)へ送信する。測位計算手段は、判定器40が出力した結果を参照し、追尾しているのであれば、追尾しているキャリアループ30に対応する衛星の衛星信号を用いて測位を行う。このように、判定器40が追尾しているか否かの結果を出力することにより、受信機100は、測位に用いる衛星信号を特定することができる。
【0045】
本実施例では、アンテナ10が、受信手段として機能し、フロントエンド20が周波数変換手段として機能し、積算器32及びLPF34が追尾判定用相関値出力手段として機能し、判定器40が追尾判定手段として機能する。また、信号S1が中間周波数信号として機能し、PRNコードC1が参照用信号として機能し、信号S2が積算信号として機能し、信号LS1が基準信号として機能し、予測航法データが予測データとして機能し、I相関値が追尾判定用相関値として機能する。
【0046】
以下に、キャリアループ300等で行うI相関値及びQ相関値を用いて位相差を検出する方法を説明した後に、本願発明の特徴部分について説明する。
【0047】
[相関値を用いて位相差を検出する方法]
キャリアループ300等が行う、I相関値及びQ相関値を用いて位相差を検出する方法を説明する。ノイズのない純粋な衛星信号を受信している場合、I相関値及びQ相関値を座標軸上にプロットすると図5のようになる。図5のグラフは、横軸をI相関値の軸(以下、「I軸」とも呼ぶ)とし、縦軸をQ相関値の軸(以下、「Q軸」とも呼ぶ)としている。プロットした点(点P1又は点P2)と原点とからなる直線と、I相関値の軸とからなる角度(角度Ang1又は角度Ang2)は、信号S2と信号LS1との位相差に相当する。すなわち、I相関値及びQ相関値が分かれば位相差が分かる。位相比較器36はこれを利用して位相差を検出している。また点P1と原点との距離である距離D1、点P2と原点との距離である距離D2は、信号電力によって決まり、信号電力が大きくなるほど距離D1、D2は長くなる。
【0048】
I軸のプラスとマイナスの両方に点がプロットされている理由は、掛け合わされている未知の航法データによるためである。航法データが1のときはI>0、−1のときはI<0となる。追尾できている状態では、I相関値の符号を見ることにより航法データを検出することが可能となる。
【0049】
以下、図5のようなノイズのない衛星信号によるI>0の相関値を「正の真値」、I<0の相関値を「負の真値」と表現する。
【0050】
実際には処理する信号にはノイズが載っているため、図6に示すように、相関値は真値の周りに分布することになる(例えば、点P10や点P11等)。この分布の広がりの大きさはノイズ電力によって決まるものであり、受信機の系とLPFの設計によって決まると考えてよい。ノイズ電力が大きいほど分布の広がりは大きくなる。
【0051】
前述したように真値と原点との距離は信号電力によって決まるため、ノイズ電力と信号電力の相対的な関係から、I、Q相関値分布の特徴を大きく次の3つの状態に分けて考えることができる。
【0052】
(状態A)信号電力が相対的に大きい状態
(状態B)信号電力が相対的に小さい状態
(状態C)信号電力が極端に小さい状態
状態Aの場合、図6に示すように、相関値が分布する。このような状態では、キャリアループ300を搭載した一般的なGPS受信機は、I相関値を参照すれば、そのプロットが正の真値、負の真値のどちらに対応したものであるか判断できるため、分布の中心から位相差を検出することが可能である。
【0053】
状態Bの場合、相関値は図7のように分布する。正の真値に対応した相関値も、I<0のエリアに分布してしまっている(例えば、点P12等)。その逆も同様である。こうした状況では、I相関値を見ても正の真値、負の真値どちらに対応したものなのかが判断できないため、上記の一般的なGPS受信機は、位相差を検出することが困難となる。
【0054】
しかし、GPS受信機が、各プロットの対応する真値の正負についての情報を取得すれば、状態Bでも分布の中心を検出できるため、位相差を検出することが可能となる。
【0055】
対応する真値の正負を知る方法として、航法データを何らかの方法で予測し、プロットの正負をI相関値から判定するのではなく、予測した航法データビットから判定することが、特許文献1で提案されている。予測する方法としては、航法データの繰り返しを利用した予測、外部サーバからの取得による予測等が提案されている。これにより、特許文献1に記載のスペクトラム拡散信号受信装置は、高感度化を図っている。
【0056】
状態Cでは、相関値は、図8のように分布する。このような状態では、たとえ対応する真値の正負が分かったとしても、信号電力が極端に弱いことより、点P1又は点P2が原点に極端に近い位置にプロットされることとなる。従って、図5に示した角度Ang1又は角度Ang2を適切に算出することが困難となり、一般的なGPS受信機や特許文献1に記載のスペクトラム拡散信号受信装置は、分布の中心から位相差を正しく検出することは、困難となる。
【0057】
カーナビゲーションシステムに搭載されるGPS受信機を考えた場合、衛星信号の強度は、上記カーナビゲーションシステムを搭載する車の走行による周囲の環境変化(例えば、時間経過や位置変更等)によってダイナミックに変化する。図9に時間経過や位置変更等の環境変化によって、信号電力がダイナミックに変化する例を示す。縦軸は信号電力の強度を示し、横軸は、環境変化を示す。
【0058】
このような信号電力の変化の中で、従来の一般的なGPS受信機では、状態Aの時の衛星信号を利用して追尾を行ったり、特許文献1に記載のスペクトラム拡散信号受信装置では、状態A又は状態Bの時の衛星信号を利用して追尾を行ったりする。
【0059】
特許文献1に記載のスペクトラム拡散信号受信装置のような高感度受信機であったとしても、状態Cの割合が多くなるような環境では、位相差を算出することが困難であるため、適切に追尾することができない。また予測方法によっては、予測した航法データ自体が間違っていることも考えられ、そのような場合も、特許文献1に記載のスペクトラム拡散信号受信装置は、追尾することはできない。このことを考慮すると、いずれのGPS受信機であっても、追尾できているか否かを判定することが重要となる。
【0060】
状態Aの場合、GPS受信機は、I、Q相関値の関係を参照することにより、追尾しているか否かの判定が比較的簡単に行える。すなわちQ相関値に対してI相関値の絶対値が十分に大きい状態が続いたら追尾していると判断することができる。
【0061】
しかし、予測した航法データを利用して状態Bの状況下で、GPS受信機が衛星信号も追尾しようとしているときには、ノイズの影響を受けているためI、Q相関値の関係だけで追尾を判定することは困難であり、これまで具体的な追尾判定方法の提案はされていなかった。また、図9のようにダイナミックに信号電力が変化する状況での判定方法についても具体的な提案はされていなかった。
【0062】
[本願発明の特徴]
本願の発明の特徴を第1の特徴と第2の特徴とに分けて以下に記載する。
【0063】
(第1の特徴)
本願発明に係る受信機100は、予測航法データを利用して追尾を行っている間に、予測航法データとI相関値の符号との一致率に基づいて追尾判定を行う。前述したようにノイズがない状態でのI相関値の符号が航法データに相当することを利用して、受信機100は、追尾判定を行う。
【0064】
図7から分かるように、状態Bに該当する信号電力であっても位相差が小さい場合には、正の真値に対応する相関値はI>0のエリアに、負の真値に対応する相関値はI<0のエリアに分布する確率が高い。つまり予測航法データが正しければ、予測航法データとI相関値の符号とが一致する可能性が高い。
【0065】
それに対し、状態Bの信号電力で位相差が大きい場合には、相関値の分布は図10のようになる。図10に示すように、位相差が大きいことによりQ軸付近に点P1又は点P2がプロットされるため、衛星信号に載っているノイズの影響を受けると正の真値に対応する相関値がI>0のエリアに分布する確率が低くなってしまう。その逆も同様である。つまり、予測航法データとI相関値の符号が一致する可能性が低くなる。
【0066】
また、位相差が小さい場合でも、予測航法データ自体が間違っている場合には、予測航法データと、I相関値の符号とが一致する可能性は低くなる。このような状況では、誤った予測航法データを用いて追尾しようとしても位相差が大きくなってしまうことから、追尾できていないと判断して良いと考えられる。
【0067】
従って、以下の(1)及び(2)を導くことができる。
【0068】
(1)「位相差が小さく、かつ予測航法データが正しい」場合は、予測航法データとI相関値の符号とが一致する可能性が高い。
【0069】
(2)「位相差が大きい、又は予測航法データが間違っている」場合は、予測航法データとI相関値の符号とが一致する可能性が低い。
【0070】
以上のことから、ある一定期間での予測航法データとI相関値の符号との一致率が一致率の閾値である一致率閾値よりも高い場合に、受信機100は、「その期間で連続して位相差が小さい」、つまり「追尾できている」と判定する。以下、この期間を「第1期間」と定義する。第1期間を長くすれば、長くするほど、また、一致率閾値を高くすれば高くするほど、実際には、追尾できていないのに追尾判定OKとしてしまう「誤判定」の可能性は、少なくなる。しかし、逆に追尾できているのになかなか追尾判定OKとできないことになるため、第1期間の長さや一致率閾値は適切に設計する必要がある。本実施例では、第1期間を100msec〜150msec程度とする。一致率閾値も設計により適切に定められるべきであるが、50%前後の場合、ランダムに計測した結果と変わらないため50%以上が望ましい(例えば、70%〜80%等)。
【0071】
上述のように、本願発明の受信機100の判定器40は、上記の第1期間内における予測航法データとI相関値の符号とを比較し、比較結果に基づいて追尾判定を行う。この場合、受信機100は、追尾しているときの航法データとI相関値の符号との関連性に基づいて、追尾判定を行うので、適切に追尾しているか否かを判断することが可能となる。
【0072】
また、受信機100は、第1期間内における予測航法データとI相関値の符号との一致率に基づいて追尾しているか否かを判断しているので、第1期間に比してごくわずかな期間で状態Cとなっている場合でも、適切に追尾している状態を検出することができる。
【0073】
(第2の特徴)
本願発明の受信機100は、「ある一定期間での予測航法データとI相関値の符号の一致率が一致率閾値よりも高い」という状態が、より長い対象期間の中で局所的に複数回発生することを検出して追尾できていると判定する。
【0074】
図8に示したように状態Cでは、位相差の大きさによらずI相関値の分布が正と負をほぼランダムにとるようになる。すなわち、予測航法データが正しかったとしても、予測航法データとI相関値の符号との一致率は低くなる。よって、ダイナミックに信号電力が変化する環境で第1の特徴の手法を単純に使おうとすると、ある第1期間中の大部分が状態Cである場合に、一致率が低くなりなかなか追尾判定OKとならない可能性がある。これを避けるために単純に第1期間の長さを短くすると、前述したように誤判定の可能性が高くなってしまう。
【0075】
そこで、第1期間に比してより長い対象期間を設定し、その中で第1期間の長さで局所的に一致率が高くなる状態が既定回数(以下、当該規定回数を「回数閾値」とも呼ぶ)発生したら追尾できていると判定する。これによれば、受信機100は、第1期間を短くして当該第1期間に状態Cが含まれる可能性を下げることができると共に、誤判定の可能性も低く抑えることができる。この長い対象期間を「第2期間」と表現する。第2期間も第1期間と同様、設計により動的に定められるべきである。本実施例では、第2期間を、1秒とする。
【0076】
この手法の例を図11に示す。この例では、「第2期間中に、一致率がm(一致率閾値)を超えた第1期間がn(回数閾値)回以上含まれたら追尾判定OKとする」という条件の例を示している。本実施例では、一致率閾値を超えた第1期間が、第2期間に含まれる第1期間計測回数の半分以上に達した場合に、追尾判定OKとする。
【0077】
[追尾判定方法ついて]
次に、上記の本願発明の第1及び第2の特徴を反映した追尾判定方法について、図12に示すフローチャートを用いて説明する。なお、図12に示すフローチャートは、第2期間の開始から終了までの処理を表している。
【0078】
判定器40は、最初に、カウンタを0に設定する(ステップS1)。このカウンタは、第2期間中の追尾判定用のカウンタである。外部サーバ等から予測航法データが入力されることにより、受信機100は、予測航法データを取得する(ステップS2)。積算器32で信号S2と信号LS1とが積算された結果をローパスフィルタ34で処理することにより、受信機100は、I相関値を算出する(ステップS3)。上記予測航法データ及びI相関値が判定器40に入力され、判定器40は、当該予測航法データとI相関値の符号との一致判定を行う(ステップS4)。
【0079】
第1期間が終了していない場合で(ステップS5;No)、第2期間が終了していない場合(ステップS11;No)、ステップS2へ移動する。
【0080】
第1期間が終了している場合(ステップS5;Yes)、判定器40は、第1期間における一致率を算出する(ステップS6)。一致率が一致率閾値を超えている場合(ステップS7;Yes)、判定器40は、カウンタをインクリメントする(ステップS8)。一致率が一致率閾値を超えていない場合(ステップS7;No)、ステップS11へ移る。
【0081】
カウンタをインクリメントした結果、カウンタが回数閾値を超えた場合(ステップS9;Yes)、判定器40は、追尾していることを意味する追尾判定OKに対応する値を出力し、処理を終了する。
【0082】
ステップS11において、第2期間が終了していた場合(ステップS11;Yes)、第2期間の間で、カウンタが回数閾値に達していないので、判定器40は、追尾していないことを意味する追尾判定NGに対応する値を出力し(ステップS12)、処理を終了する。
【0083】
以上説明したように、受信機100は、衛星信号を受信する受信手段と、衛星信号を中間周波数に変換する周波数変換手段と、周波数変換手段によって変換された信号と、衛星を特定するための参照用信号とを積算し、積算信号を生成する積算手段と、所定周波数の基準信号を生成する基準信号生成手段と、前記積算信号と前記基準信号との相関値である追尾判定用相関値を出力する追尾判定用相関値出力手段と、航法データの予測データを取得する予測データ取得手段と、追尾判定用相関値と前記予測データとを比較する比較処理を行い、比較処理の結果に基づいて追尾判定を行う追尾判定手段と、を備える。
【0084】
本願発明に係る受信機100は、追尾している場合における、衛星信号から生成した積算信号と基準信号との相関値である追尾判定用相関値の符号と、外部の装置等から取得した航法データを予測したデータである予測データとの関連性に基づいて追尾判定を行っているので、適切に追尾判定を行うことができる。
【0085】
[他の実施例]
上述の実施例では、判定器40が、第1期間内における予測航法データとI相関値の符号との一致率に基づいて追尾しているか否かを判定する場合について述べたが、本発明は、これに限られず、単純に予測航法データとI相関値の符号とが一致するか否かに基づいて追尾しているか否か判定するようにしても良い。
【0086】
上述の実施例では、判定器40は、第2期間内で第1期間内における一致率閾値を超えた回数が、回数閾値に達した場合に追尾していると判断する場合について述べたが、本発明は、これに限られず、第1期間内における一致率閾値を超えた場合に、追尾していると判断するようにしても良い。この場合、第1期間内における予測航法データとI相関値の符号との一致率に基づいて、受信機100が追尾しているか否かを判断すれば、第1期間に比して、ごくわずかな期間で状態Cとなっている場合でも、適切に追尾している状態を検出することができる。
【0087】
上述の実施例では、判定器40は、ある第1期間がスタートした後に、当該第1期間が終了するまで別の第1期間がスタートしない場合について述べたが、本発明は、これに限られず、図13に示すように、ある第1期間がスタートしてから、当該第1期間が終了する前に、別の第1期間をスタートさせるようにしても良い。この場合、受信機100は、並列に第1期間を設定することになり、追尾判定を行う回数が増えるので、追尾している状態を検出する可能性を向上させることができる。
【0088】
上述の実施例では、特に述べなかったが、図13に示すように第1期間内における一致率が一致率閾値を超えた段階から第2期間を開始するようにしても良い。この場合、受信機100は、第1期間中の一致率が一致率閾値を超えたタイミングで開始することにより、追尾状態を検出する可能性を向上させることができる。
【0089】
上述の実施例では、特に述べなかったが、図13に示すように、第2期間が開始された後、第2期間が終了する前に別の第2期間を開始するようにしても良い。この場合、受信機100は、並列に第2期間を設定することになり、追尾判定を行う回数が増えるので、追尾している状態を検出する可能性を向上させることができる。
【0090】
上述の実施例では、特に述べなかったが、I相関値の符号と予測航法データとの一致判断の周期を、ローパスフィルタ34の積算期間より短くする方が良い。特許文献1にかかるスペクトラム拡散信号受信装置では予測航法データを利用して積算期間を航法データの1ビットに相当する20msecよりも大きくすることが提案されている。このようにローパスフィルタ34を利用する場合、I相関値の符号と予測航法データの一致状況を判断する周期をローパスフィルタ34の積算期間と同じにしてしまうと追尾判定に時間がかかってしまう。
【0091】
そこで、受信機100は、ローパスフィルタ34の積算途中から比較用にI相関値を取り出し、それを用いて本発明の手法を適用することもできる。これにより、受信機100は、ローパスフィルタの設計に関わらず適切に追尾判定を行うことができる。具体例として、受信機100がローパスフィルタ34で積算期間を100msecとしている場合に、10msec毎に比較用にI相関値を取り出す等がある。この場合、受信機100は、追尾判定に時間がかかってしまうことを回避することができる。
【0092】
上述の実施例では、予測航法データを外部サーバから取得する場合について述べたが、本発明は、これに限られず、過去に取得した航法データを予測航法データとして使うようにしても良いし、受信機100が有する他のキャリアループ30が出力した航法データを予測航法データとして取得するようにしても良い。
【0093】
上述の実施例では、受信機100を、GPSの受信機として適用する場合について述べたが、本発明は、これに限られず、例えば、Galileoに代表されるGPS以外の測位衛星システムにおける受信機にも適用することができる。
【符号の説明】
【0094】
10 アンテナ
20 フロントエンド
30 キャリアループ
40 判定部
50 コードループ
100 受信機
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星信号を受信する受信手段と、
前記衛星信号を中間周波数に変換する周波数変換手段と、
前記周波数変換手段によって変換された信号と、衛星を特定するための参照用信号とを積算し、積算信号を生成する積算手段と、
所定周波数の基準信号を生成する基準信号生成手段と、
前記積算信号と前記基準信号との相関値である追尾判定用相関値を出力する追尾判定用相関値出力手段と、
航法データの予測データを取得する予測データ取得手段と、
前記追尾判定用相関値と前記予測データとを比較する比較処理を行い、前記比較処理の結果に基づいて追尾判定を行う追尾判定手段と、を備えることを特徴とする受信機。
【請求項2】
前記比較処理は、所定期間である第1期間における前記予測データと、前記追尾判定用相関値との一致率に基づく結果を出力することを特徴とする請求項1に記載の受信機。
【請求項3】
前記比較処理は、前記第1期間に比して長い期間である第2期間の間に、前記第1期間内における前記一致率が、一致率の閾値である一致率閾値を超えた回数に基づいた結果を出力することを特徴とする請求項2に記載の受信機。
【請求項4】
前記第2期間は、前記第1期間中の一致率が前記一致率閾値を超えたタイミングで開始することを特徴とする請求項3に記載の受信機。
【請求項5】
前記第1期間は、キャリアループの積算期間より短いことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の受信機。
【請求項6】
前記第1期間が開始された後、当該第1期間が終了する前に別の第1期間を開始することを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一項に記載の受信機。
【請求項7】
前記第2期間が開始された後、前記第2期間が終了する前に別の第2期間を開始することを特徴とする請求項3乃至6のいずれか一項に記載の受信機。
【請求項1】
衛星信号を受信する受信手段と、
前記衛星信号を中間周波数に変換する周波数変換手段と、
前記周波数変換手段によって変換された信号と、衛星を特定するための参照用信号とを積算し、積算信号を生成する積算手段と、
所定周波数の基準信号を生成する基準信号生成手段と、
前記積算信号と前記基準信号との相関値である追尾判定用相関値を出力する追尾判定用相関値出力手段と、
航法データの予測データを取得する予測データ取得手段と、
前記追尾判定用相関値と前記予測データとを比較する比較処理を行い、前記比較処理の結果に基づいて追尾判定を行う追尾判定手段と、を備えることを特徴とする受信機。
【請求項2】
前記比較処理は、所定期間である第1期間における前記予測データと、前記追尾判定用相関値との一致率に基づく結果を出力することを特徴とする請求項1に記載の受信機。
【請求項3】
前記比較処理は、前記第1期間に比して長い期間である第2期間の間に、前記第1期間内における前記一致率が、一致率の閾値である一致率閾値を超えた回数に基づいた結果を出力することを特徴とする請求項2に記載の受信機。
【請求項4】
前記第2期間は、前記第1期間中の一致率が前記一致率閾値を超えたタイミングで開始することを特徴とする請求項3に記載の受信機。
【請求項5】
前記第1期間は、キャリアループの積算期間より短いことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の受信機。
【請求項6】
前記第1期間が開始された後、当該第1期間が終了する前に別の第1期間を開始することを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一項に記載の受信機。
【請求項7】
前記第2期間が開始された後、前記第2期間が終了する前に別の第2期間を開始することを特徴とする請求項3乃至6のいずれか一項に記載の受信機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−276355(P2010−276355A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126297(P2009−126297)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】
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