説明

受信機

【課題】
GNSSでは20msec毎にI相とQ相の相関信号の反転が起こり得るので、測位データが未知である場合には、コヒーレント相関は20msecを超えて実施することができなかった。
【解決手段】
基地局GNSS信号受信部が受信したデータから第1の測位データの取得をする基地局データ検出部と、基地局データ検出部からGNSS信号を生成する基地局GNSS信号生成部と、移動局から伝送された該移動局が受信したGNSS信号を受信する移動局GNSS信号受信部と、基地局GNSS信号生成部が生成した生成データと移動局GNSS信号受信部が受信した受信データの相関演算を行うことにより第2の測位データを取得する相関部と、第1の測位データと第2の測位データの差分を計算する誤差検出部とから成り、基地局GNSS信号生成部が第1の測位データを第2の測位データに一致するよう補正することを特徴とする受信機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPS(Global Positioning System)衛星より送信される測位データを受信し復調する際の、高感度化および高精度化に関する。
【背景技術】
【0002】
GPS受信装置は、GPS衛星から送られてくる測位データを受信し、位置などを計測する装置で、例えば、携帯端末やカーナビゲーションシステムの位置測定に利用されている。
【0003】
GPS衛星は、C/Aコード(Coarse and Acquisition Code)と呼ばれる測位データを送信している。一方、GPS受信装置では、複数のGPS衛星から送信される前記の測位データを復調し、GPS衛星からGPS受信装置に到達するまでの電波の伝搬時間を測定している。そして、測定された電波の伝搬時間から、複数のGPS衛星に対するそれぞれの擬似距離を計算し、これをもとに自己の位置などを計測している。
【0004】
GPS衛星は、L1帯の周波数帯域で電波信号を送信する。この電波信号は、擬似雑音符号PNコードと測位データがDSスペクトラム拡散変調方式により変調されている。受信機においては、これを受信して測位や測量を行う(特許文献1)。
【0005】
GPS受信装置では、L1帯の測位信号は信号処理回路で同期が取られる。L1波帯の測位信号で伝送される測位データの1ビット長は20msecであることから、同期処理においては、C/Aコードの1ms毎の開始点の内から適当な一点を選び、そこから20msec間の受信信号をコヒーレント加算、つまりコヒーレント相関をとり、これを数パターン用意して加算結果を比較することでビット同期をとるための処理が為されていた。
【0006】
また、GPSでは20msec毎にI(搬送波正位相)とQ(搬送波90度位相)の相関信号の反転が起こり得るので、測位データが未知である場合には、前記コヒーレント相関は20msecを超えて実施することができない。
【0007】
このような受信信号同士のコヒーレント加算による相関計算方法は、ビット同期を的確にし、測位データを高精度に抽出する場合に影響を与えるが、また一方で、GPS信号の高感度化という課題に関しては、前記高精度化と同様に、受信信号と前記PNコードのコヒーレント相関をとる方法が制限を与える。
【0008】
この場合も、測位データが未知である場合には、20msec毎にI相とQ相の相関信号の反転が起こりえるため、時間幅を20msec以下にしなければならない。
【0009】
従来はこのように、20msecを超えたコヒーレント相関の計算が出来ないといった制限下で、衛星毎に、コード位相の同期を保持する際に一般に用いられるディレイロックループを用いてコード位相を、また、同期信号の代表的な生成方式であるところのコスタスループを用いてキャリア周波数やキャリア位相さらに測位データを検出し、これらディレイロックループとコスタスループは互いに独立に動作していた。
【0010】
前記のようにコード検出とキャリア検出を独立に行うと、図6に示す信号の関係図において、航法データ601におけるコードの追尾信号603とキャリアの追尾信号605の位相関係が一意に定まらない。従って、例えば、複数環境下で受信信号を追尾する場合、ある一つの環境下の追尾信号と他の環境下での追尾信号の位相関係はランダムであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−142501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかるに前記のように、測位データの1ビットの時間、つまり20msec以上の時間幅でコヒーレント相関を取ることができないという欠点は、高精度化、高感度化に対して、大きな制限となる。
【0013】
そこで、コヒーレント相関ではなく、二乗した数値で相関演算をして波形の反転の影響を減ずるノンコヒーレント相関を用いる方法も考えられるが、ノンコヒーレント相関による高感度化は、コヒーレント相関による高感度化の半分程度しか効果が無く、本手法では長時間の相関を求めなければ精度の向上が見込めないため、GPS測位をリアルタイムに行うという実用には則さない。
【0014】
また、相関演算を実施するための参照信号を、解析地点とは異なる場所における受信信号にしようとしても、前記のように、コード追尾とキャリア追尾が独立して行われていたために、それぞれの地点での受信信号の位相が一意に定まらず、相関結果が高精度化につながらなかった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するために、本発明は、
移動無線システムにおける基地局の受信機であって、
基地局GNSS信号受信部と、
前記基地局GNSS信号受信部が受信したデータから第1の測位データの取得をする基地局データ検出部と、
前記基地局データ検出部からGNSS信号を生成する基地局GNSS信号生成部と、
移動局から伝送された該移動局が受信したGNSS信号を受信する移動局GNSS信号受信部と、
前記基地局GNSS信号生成部が生成した生成データと前記移動局GNSS信号受信部が受信した受信データの相関演算を行うことにより第2の測位データを取得する相関部と、
前記第1の測位データと前記第2の測位データの差分を計算する誤差検出部と、
から成り、
前記誤差検出部が検出した誤差を用いて前記基地局GNSS信号生成部が前記第1の測位データを前記第2の測位データに一致するよう補正することを特徴とする受信機である。
【0016】
また、本発明は、前記相関部の相関演算時間幅は、測位データの1ビット長より長いことを特徴とする受信機である。
【0017】
また、本発明は、前記基地局データ検出部が第1の測位データを検出する場合、および、前記相関部が第2の測位データを検出する場合において、コード位相の検出はディレイロックループを用い、キャリア周波数とキャリア位相およびその他のデータの検出はコスタスループを用いることを特徴とする受信機である。
【発明の効果】
【0018】
従来の手法では、測位データが未知であったためにコヒーレント相関を20msec以下の時間幅で行わねばならないという制限があったが、本発明によれば、測位データを既知のものとして扱えるために、コヒーレント相関の時間幅を20msec以上とすることが可能になった。
【0019】
このことにより、GPS携帯電話等の移動局におけるGPS測位の高精度化が可能となる。例えば1secの時間幅でコヒーレント相関を取ると、10log(1/0.02)つまり17dBの改善となるのである。
【0020】
このような高感度化により、移動局の利用範囲を大幅に拡大できるため、利用者のメリットも大きい。また、通常の受信信号強度下での利用を前提とする場合には、高感度化する分はアンテナゲインの低減の補償に利用することが可能になる。
【0021】
つまり、アンテナゲインを低減しても従来と同様の利得を得られることであり、このことにより、装置の小型化やコストダウンを実現できる。
【0022】
また、本発明において、受信環境の優れた場所に設置された基地局は、コード追尾信号とキャリア追尾信号が同一発振器から生成されていることによりそれぞれの位相が一意に定まるため、移動局の受信信号に対して該基地局の受信信号を相関のための参照信号として用いる場合に、高精度化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来のGNSSシステムである。
【図2】本発明にかかるGNSSシステムである。
【図3】従来の相関器の制限を示したものである。
【図4】本発明にかかる相関器を示したものである。
【図5】本発明により直接波の検出が容易になることを示したものである。
【図6】航法データとコード信号とキャリア信号の関係を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0024】
本発明の好適な実施の形態について、図を参照しながら、携帯電話システムを例に、GPSよりも広義なGNSS(Global Navigation Satellite System)を用いて説明する。
【0025】
図1はGNSS携帯電話システムの一般的な形態である。つまり移動局101が受信したGNSS信号を用いて測位計算を基地局111にて行うものである。
【0026】
移動局101においては、GNSS信号をGNSSアンテナ103で受信し、受信部105でディジタル信号に変換する。そして該ディジタル信号をGNSS信号送信部107が基地局への送信周波数に変調し、送信アンテナ109を介して送信する。
【0027】
基地局111においては、移動局101の送信アンテナ109から送信されたGNSS信号を受信アンテナ113で受信し、GNSS信号受信部115でディジタル信号に変換しGNSS信号を取り出す。
【0028】
さらに、前記GNSS信号から、コード位相/キャリア周波数・位相/データ検出部で、コード位相、キャリア周波数、キャリア位相を検出し測位データを取得する。この検出方法は一般的なものであり、衛星毎に、ディレイロックループによってコード位相を、また、コスタスループによってキャリア周波数、キャリア位相を得るものである。
【0029】
さらに、測位計算部119では、前記測位データを元に、複数の衛星からのコード擬似距離や衛星位置を求め、移動局の位置を計算するものである。
【0030】
なお、可視衛星の番号や、可視衛星毎のキャリアドップラー周波数の推定値を基地局で求め、これを移動局に送る手段や、基地局で行っていたコード位相/キャリア周波数・位相/データ検出部117の処理を移動局が実施する手段など、GNSS携帯電話システムの形態は様々なものが考えられている。
【0031】
次に図2は本発明にかかる好適な実施の形態を示したものである。
【0032】
本発明の特徴は、基地局の受信環境の優れた場所に設置したGNSS受信機がGNSS信号を受信し、該受信信号によって、移動局が受信したGNSS信号を解析する場合に測位データを既知として扱えることであり、このことによって前記のような測位データの1ビット幅の範囲内で信号処理をしなければならないという条件が緩和され、相関時間を長時間化して測位の高精度化が実現出来ることにある。
【0033】
まず、GNSS信号は移動局101のGNSSアンテナ103と、基地局217の受信環境に優れた場所に設置したGNSSアンテナ201で受信し、それぞれ受信部105および203でディジタル化される。
【0034】
移動局101においては、受信機105によってディジタル化されたGNSS信号をGNSS信号送信部107から送信アンテナ109を介して基地局217に送信する。また、基地局217においては、受信機203によってディジタル化されたGNSS信号を用いて、コード位相/キャリア周波数・位相/データ検出部205がコード位相とキャリア周波数とキャリア位相を検出し、測位データを取得する。
【0035】
コード位相/キャリア周波数・位相/データ検出部205においては、例えばコード位相の検出はディレイロックループ(DLL)で同期保持され実現し、キャリア周波数やキャリア位相の検出はコスタスループ(Costas Loop)で同期追跡され実現する。
【0036】
なお、前記ディレイロックループとコスタスループを実施するにあたって、それぞれの同期クロックは一つの発振器から生成することとし、また、優れた受信環境に設置されていることから、検出されるコード信号とキャリア信号の位相関係は一意に決定される。従って、不慮の信号であるところの反射波などのフェージング信号の影響を受けることなく、コード信号とキャリア信号が得られるといった副次的な効果が発生する。
【0037】
次に、基地局217において、前記コード周波数、キャリア周波数、キャリア位相、および測位データを検出した後、GNSS信号生成部209が衛星毎にGNSS信号を生成する。
【0038】
一方、移動局101が受信したGNSS信号は基地局217のGNSS信号受信部115に伝送されている。前記基地局が生成した衛星毎のGNSS信号と移動局が受信したGNSS信号を用いて相関器207で相関演算を行い、衛星を特定する。
【0039】
ここで、前記のようにコード信号とキャリア信号の位相は、一意に決定されるように同期追跡されたものであるから、これらを前記相関演算の参照信号とする本手段では、精度の向上が見込める。
【0040】
従来の技術では測位データが未知であったから、前記のように測位データの1ビット幅であるところの20msec以上の時間幅でコヒーレント相関を演算することが出来なかったが、本発明によれば、基地局における高S/N比でのGNSS信号の受信により、コード位相/キャリア周波数・位相/データ検出部205が測位データを取得しているため、移動局からのGNSS信号を解析する際には前記測位データを既知として扱うことができるため、前記20msecの時間幅の制限は受けない。
【0041】
次に、相関器207によって求まった相関値によってコード位相誤差検出部211がコード位相誤差を、また、キャリア周波数・位相誤差検出部213によってキャリア周波数誤差とキャリア位相誤差を検出する。
【0042】
なお、コード位相誤差検出部211においては、ディレイロックループ等が用いるコード位相誤差検出方法によりコード位相誤差を検出し、キャリア周波数・位相誤差検出部213においては、コスタスループ等が用いるキャリア周波数・位相誤差検出方法によりキャリア周波数誤差とキャリア位相誤差を検出する。
【0043】
次に、前記検出されたコード位相誤差、キャリア周波数誤差、およびキャリア位相誤差をGNSS信号生成部209にフィードバックし、該GNSS信号生成部209で衛星毎のGNSS信号を修正する。このフィードバックループによってGNSS信号生成部209が生成するGNSS信号は移動局101が受信したGNSS信号と等価になるため、測位計算部215は該GNSS信号生成部209が生成したGNSS信号を用いて移動局101の測位計算をすることが可能になる。
【0044】
以上説明したように、従来の測位計算においては、図3に示すように、移動局が受信した受信信号とPNコードを比較していたため、測位データが未知であるから相反転の可能性により20msec以下のコヒーレント相関演算によって同期処理が為されていたが、本発明では、図4に示すように、基地局が受信した全ての可視衛星からの受信信号を相関対象とすれば、その中に移動局が受信対象とする衛星も含まれるため、測位データは既知のものとして扱うことが可能となり、コヒーレント相関時間を任意長にすることが可能になるのである。
【0045】
また、図5に示すように、基地局は受信環境に優れた位置に設置しているためGNSS衛星からは直接波のみが到来しているが、移動局には直接波と反射波が到来するマルチパスの状況になることが考えられる。
【0046】
このような場合であっても、本発明によれば、移動局のマルチパス波と基地局の直接波との相関演算を実施するのであるから、相関値が最も強くなる移動局の受信波は直接波であり、移動局の受信信号の中から直接波を検出することが容易になり、このことからも測位の高度化が可能になる。
【0047】
なお、本発明においては、移動局の送信アンテナと基地局の受信アンテナの間で通信される信号のプロトコルについては、これをなんら限定するものではない。
【0048】
また、基地局において、移動局の受信信号から得られたGNSS信号と基地局の受信信号から得られたGNSS信号の相関を取り、各種誤差を検出する際の誤差検出手段については、これをなんら限定するものではない。
【0049】
また、GNSS信号から測位を計算する手段については、これをなんら限定するものではない。
【0050】
さらに、本発明にかかるGNSS信号生成部等の各演算部の設置場所に関して、これが移動局内であっても基地局内であってもよく、実施の一例として基地局内に置いたが、この手段に限定するものではない。
【符号の説明】
【0051】
101…移動局、 103…移動局のGNSSアンテナ、
105…移動局の受信部、 107…移動局のGNSS信号送信部、
109…移動局の送信アンテナ、 111…従来の基地局、
113…基地局の受信アンテナ、 115…基地局のGNSS信号受信部、
117…基地局のコード位相/キャリア周波数・位相/データ検出部、
119…基地局の従来の測位計算部、
201…基地局のGNSSアンテナ、 203…基地局の受信部、
205…本発明にかかる基地局のコード位相/キャリア周波数・位相/データ検出部、
207…基地局の相関器、 209…基地局のGNSS信号生成部、
211…基地局のコード位相誤差検出部、
213…基地局のキャリア周波数・位相誤差検出部、
215…本発明にかかる基地局の測位計算部、
217…本発明にかかる基地局、
601…航法データ、 603…コード信号、 605…キャリア信号。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動無線システムにおける基地局の受信機であって、
基地局GNSS信号受信部と、
前記基地局GNSS信号受信部が受信したデータから第1の測位データの取得をする基地局データ検出部と、
前記基地局データ検出部からGNSS信号を生成する基地局GNSS信号生成部と、
移動局から伝送された該移動局が受信したGNSS信号を受信する基地局に設けられた移動局GNSS信号受信部と、
前記基地局GNSS信号生成部が生成した生成データと前記移動局GNSS信号受信部が受信した受信データの相関演算を行うことにより第2の測位データを取得する相関部と、
前記第1の測位データと前記第2の測位データの差分を計算する誤差検出部と、
から成り、
前記誤差検出部が検出した誤差を用いて前記基地局GNSS信号生成部が前記第1の測位データを前記第2の測位データに一致するよう生成データを補正することを特徴とする受信機。
【請求項2】
前記相関部の相関演算時間幅は、測位データの1ビット長より長いことを特徴とする請求項1に記載の受信機。
【請求項3】
前記基地局データ検出部が第1の測位データを検出する際に、コード位相の同期追尾検出はディレイロックループを用い、キャリア周波数とキャリア位相の同期追尾検出はコスタスループを用いるものであり、
前記ディレイロックループを実施するための追尾信号と、前記コスタスループを実施するための追尾信号は同一の発振器から生成するものであることを特徴とする請求項1に記載の受信機。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−8012(P2012−8012A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144398(P2010−144398)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】