説明

受動光ネットワーク通信システム及び受動光ネットワーク用符号化復号化モジュール

【課題】分岐に伴う光信号のパワー損失を抑えて光信号パワーの利用効率を上げることができる受動光ネットワーク通信システムを提供する。
【解決手段】光終端装置から送出された光符号分割多重により符号化した光信号が第1伝送路を介して第1サーキュレータの第1ポートに供給され、第2ポートから第1SSFBGに供給される。第1SSFBGは光信号を復号化して第1サーキュレータの第2ポートに出力し、第1サーキュレータは復号化された光信号を第3ポートから第2伝送路を介して加入者側の光終端装置に供給する。光終端装置から送出された光信号は第2伝送路を介して第1サーキュレータの第3ポートに供給され、第4ポートから第2SSFBGに供給される。第2SSFBGはその光信号を符号化して第1サーキュレータの第4ポートに出力し、第1サーキュレータは符号化された光信号を第1ポートから第1伝送路を介して光終端装置に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワーク通信システムであり、特に、光符号分割多重技術を用いた受動光ネットワーク通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットの普及等により通信需要が急速に増大しており、それに対応して光ファイバを用いた高速で大容量のネットワークが整備されつつある。そして、通信の大容量化のために、1本の光ファイバ伝送路に複数チャネル分の光パルス信号をまとめて伝送する光多重技術が重要視されている。
【0003】
光多重技術の1つとして光符号分割多重(OCDM:Optical Code Division Multiplexing)が研究されている。OCDMは、1つのチャネルが時間スロット、或いは波長といった物理資源を占有しないこと、符号化復号化を行う素子として受動素子が利用可能であること、及びチャネル間の同期を取る必要がないこと、という優れた特徴を有している。すなわち、OCDMを用いることにより、1つのチャネルが物理資源を占有しないので通信資源の節約が可能であり、受動素子が利用可能であることから符号化復号化を光信号のままで実行可能となり高速の処理が実現される。また、チャネル間の同期を取るための機能を必要としないので、システムの構成が簡略化される。これらの特徴のため、OCDMは加入者系におけるブロードバンドネットワークへの適用技術として期待されている。
【0004】
加入者系光ネットワークでは、1つの通信局側の光終端装置(OLT:Optical Line Terminal)に1つ又は複数の加入者側の光終端装置(ONU:Optical Network Unit)が接続され、ONU−OLT間の光通信を介して加入者と外部ネットワークとの間で情報の送受信が行われる。伝送路は光ファイバを用いて構成され、廉価な受動部品であるスターカプラに光ファイバを接続することにより、複数のONUとOLTとの間の多元接続が可能となる。例えば、図1に示すように、OLT11に伝送路12を介してスターカプラ13が接続され、スターカプラ13には伝送路14−1〜14−5を介してONU15−1〜15−5が接続されたネットワークシステムが構築される。このように、受動部品(光ファイバ、スターカプラ)のみを用いて構成される光ネットワークを受動光ネットワーク(PON:Passive Optical Network)と呼び、通信需要と技術革新に応じてこれまでいくつかの方式が標準化され、特に時間圧縮多重をベースとした方式(例えば、Broadband−PON,Ethernet−PON)が実用化されている。
【0005】
特許文献1及び非特許文献1には、OCDMを用いたPONシステム例が示されている。この例では、OLT内で、マルチポート光符号器と呼ばれる光符号器を用い、1つの光符号器で全チャネルの信号を符号化あるいは復号化することで、装置構成の簡素化を図っている。ONUでは、超格子構造型ファイバブラッグ回折格子(SSFBG:Super-Structured Fiber Bragg Grating)とサーキュレータを用いて必要なチャネルの信号のみを符号化或いは復号化し、装置構成の簡素化を図っている。ネットワークのトポロジーはスター型である。下り系、つまりOLTからONUに向かう通信に対しては、OLTから送信されるOCDM信号が1つのスターカプラによってパワー分岐され、全ONUに到着する。上り系、つまりONUからOLTに向かう通信に対しては、全ONUから送信される単一チャネル符号化信号が1つのスターカプラによってパワー結合され、1つのOCDM信号としてOLTに到着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−24733号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】N. Kataoka et al., "Field Trial of Duplex, 10 Gbps x 8-User DPSK-OCDMA System Using a Single 16x16 Multi-Port Encoder/Decoder and 16-Level Phase-Shifted SSFBG Encoder/Decoders," Journal of LightwaveTechnology Vol. 27, No. 3, February 1, 2009 pp. 299-305
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
1つの通信局が収容できることができる加入者数を増加させることは、OLT数の増加の抑制、それ故に設置スペースの削減、電力消費の抑制につながるため、望ましい。そのために、光ネットワークを設計する上での1つの要求として、システムのロスバジェットの増加が挙げられる。ロスバジェットを増加させるためには、(A)送信パワーを上げる、(B)受光感度を下げる、(C)光信号パワーの利用効率を上げることで、伝送距離の拡大、分岐数の増加に伴う損失の増加に対処することになる。(A)の対処では送信機の消費電力が増大し、(B)の対処では受信機を構成するデバイスが高仕様のために高価となるので、次に(C)の対処について議論する。
【0009】
上述OCDM−PONの下り系においては、複数チャネルの同時配信のためにOLTから送信される多重信号をスターカプラで分岐させ、その分岐された光信号がONUに達すると、チャネル分離のために多重信号が復号化される。よって、多重信号に含まれている各チャネルのパワーが全て等しいとすると、送信から受信の間で光信号はスターカプラにより(分岐数)分の1にパワーが減少(分岐損失)し、更に復号器により(多重チャネル数)分の1にパワーが減少する。スターカプラの分岐数は、通常、最初に設置したときに固定されるため、最初のシステム構築時に分岐数を決定すると、以後、加入者の増減、多重数の増減があるとしても、上述の分岐損失はそのままである。
【0010】
そこで、本発明の目的は、分岐に伴う光信号のパワー損失を抑えて光信号パワーの利用効率を上げることができる受動光ネットワーク通信システム及び受動光ネットワーク用符号化復号化モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の受動光ネットワーク通信システムは、複数のチャネルの情報を光符号分割多重により符号化した光信号を第1伝送路に送出し、前記第1伝送路を介して供給された光信号を復号化して前記複数のチャネルの情報を受信する通信局側の光終端装置と、前記複数のチャネルのうちのいずれか1のチャネルの光信号を第2伝送路について送受信する加入者側の光終端装置と、第1の一端及び第1の他端を有し、前記光符号分割多重により符号化した光信号が前記第1の一端に供給されると前記1のチャネルの光信号を復号化して前記第1の一端から出力し、前記1のチャネル以外のチャネルの光信号を前記第1の他端から出力する第1SSFBG(超格子構造型ファイバブラッグ回折格子)と、第2の一端及び第2の他端を有し、前記1のチャネルの光信号が前記第2の一端に供給されると前記1のチャネルの光信号を符号化して前記第2の一端から出力し、前記第2の他端に供給された光信号を前記第2の一端から出力する第2SSFBGと、第1ないし第4ポートを有し、前記第1伝送路を介して前記第1ポートに供給された光信号を前記第2ポートから前記第1SSFBGの前記第1の一端に出力し、前記第1SSFBGの前記第1の一端から前記第2ポートに供給される復号化された光信号を前記第3ポートから第2伝送路に出力し、前記第2伝送路を介して前記第3ポートに供給された光信号を前記第4ポートから前記第2SSFBGの前記第2の一端に出力し、前記第2SSFBGの前記第2の一端から前記第4ポートに供給される符号化された光信号を前記第1ポートから前記第1伝送路に出力する第1サーキュレータと、第5ないし第7ポートを有し、前記第1SSFBGの前記第1の他端から前記第5ポートに供給される光信号を前記第6ポートから出力し、前記第6ポートに供給される符号化された光信号を前記第7ポートから前記第2SSFBGの前記第2の他端に出力する第2サーキュレータと、を備えることを特徴としている。
【0012】
本発明の受動光ネットワーク用符号化復号化モジュールは、第1の一端及び第1の他端を有し、光符号分割多重により符号化された光信号が前記第1の一端に供給されると所定のチャネルの光信号を復号化して前記第1の一端から出力し、前記所定のチャネル以外のチャネルの光信号を前記第1の他端から出力する第1SSFBG(超格子構造型ファイバブラッグ回折格子)と、第2の一端及び第2の他端を有し、前記所定のチャネルの光信号が前記第2の一端に供給されると前記所定のチャネルの光信号を符号化して前記第2の一端から出力し、前記第2の他端に供給された光信号を前記第2の一端から出力する第2SSFBGと、第1ないし第4ポートを有し、前記第1ポートに供給された光信号を前記第2ポートから前記第1SSFBGの前記第1の一端に出力し、前記第1SSFBGの前記第1の一端から前記第2ポートに供給される復号化された光信号を前記第3ポートから出力し、前記第3ポートに供給された光信号を前記第4ポートから前記第2SSFBGの前記第2の一端に出力し、前記第2SSFBGの前記第2の一端から前記第4ポートに供給される符号化された光信号を前記第1ポートから出力する第1サーキュレータと、第5ないし第7ポートを有し、前記第1SSFBGの前記第1の他端から前記第5ポートに供給される光信号を前記第6ポートから出力し、前記第6ポートに供給される符号化された光信号を前記第7ポートから前記第2SSFBGの前記第2の他端に出力する第2サーキュレータと、を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の受動光ネットワーク通信システム及び受動光ネットワーク用符号化復号化モジュールによれば、分岐数によって固定される損失が光信号に影響を及ぼさないので、光信号のパワー利用効率を高くすることができる。また、通信局側の光終端装置及び加入者側の光終端装置各々に単一伝送路を接続するだけで双方向の通信を実現することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来の受動光ネットワーク通信システムを示す概略図である。
【図2】本発明の実施例として受動光ネットワーク通信システムを示す図である。
【図3】光符号分割多重の符号化及び復号化を説明する図である。
【図4】SSFBGの動作を説明する図である。
【図5】本発明の他の実施例として受動光ネットワーク通信システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0016】
図2は本発明の実施例としてOCDM技術が適用された受動光ネットワーク通信システムを示している。この受動光ネットワーク通信システムは、1つのOLT101と、符号化復号化部100−1,100−2と、ONU108,118と、伝送路102,112,107,117とを備えている。なお、この実施例においては加入者が2のシステムを示しているに過ぎず、加入者数に応じて符号化復号化部、ONU及び伝送路は追加される。この点については後述する。
【0017】
OLT101は図1に示したOLTと同様に、通信局側に配置される光終端装置であり、加入者側の光終端装置であるONU108、118と光信号の送受信を行なう手段である。OLT101は特許文献1等に開示された例えば、光送受信機、マルチポート光符号器等の機器を用いて構成することができる。伝送路102は第1伝送路であり、その一端がOLT101に接続され、他端が符号化復号化部100−1に接続され、光信号をOLT101と符号化復号化部100−1との間で双方向に伝搬する媒体である。伝送路102としては光ファイバを用いることができる。伝送路112は、その一端が符号化復号化部100−1に接続され、他端が符号化復号化部100−2に接続されており、伝送路102と同様の媒体である。
【0018】
符号化復号化モジュールである符号化復号化部100−1は、伝送路102を介して到着した光信号の多重信号からONU108へ送信されるべきチャネルの信号成分を復号化して伝送路107に出力し、それ以外のチャネルの信号成分は通過させて伝送路112に出力する。また、ONU108から伝送路107を介して到着した送信信号を符号化して伝送路102に出力し、伝送路112から到着した符号化信号を通過させて伝送路102に出力する。
【0019】
符号化復号化部100−1は、サーキュレータ103,106(第1及び第2サーキュレータ)とSSFBG(Super-Structured Fiber Bragg Grating:超格子構造型ファイバブラッグ回折格子)104,105(第2及び第1SSFBG)とを備えている。サーキュレータ103は4つの入出力ポート(第1ないし第4ポート)を有し、特定のポート間で光信号を通過させる手段である。伝送路102に接続されたポートを103−1、SSFBG105に接続されたポートを103−2、伝送路107に接続されたポートを103−3、SSFBG104に接続されたポートを103−4とする。ポート103−1から入力された光信号はポート103−2から出力され、ポート103−2から入力された光信号は103−3から出力され、ポート103−3から入力された光信号はポート103−4から出力され、そして、ポート103−4から入力された光信号はポート103−1から出力され、それ以外のポート間の経路では光信号は入出力されない。
【0020】
サーキュレータ106は3つの入出力ポート(第5ないし第7ポート)を有し、特定のポート間で光信号を通過させる手段である。SSFBG 105に接続されたポートを106−1、伝送路112に接続されたポートを106−2、SSFBG104に接続されたポートを106−3とする。ポート106−1から入力された光信号はポート106−2から出力され、ポート106−2から入力された光信号はポート106−3から出力され、それ以外のポート間の経路では光信号は入出力されない。
【0021】
SSFBG104は入力光信号を符号化する手段であり、入出力ポート(第2の一端及び第2の他端)を2つ有している。一方のポートがサーキュレータ103のポート103−4に接続され、他方のポートがサーキュレータ106のポート106−3に接続されている。
【0022】
SSFBG105は入力光信号を復号化する手段であり、入出力ポート(第1の一端及び第1の他端)を2つ有している。一方のポートがサーキュレータ103のポート103−2に、他方のポートがサーキュレータ106のポート106−1に接続されている。
【0023】
伝送路107は光信号を伝搬する第2伝送路であり、その一端がサーキュレータ103に接続され、他端がONU108に内蔵されているサーキュレータ109に接続されている。これは光ファイバを用いて実現することができる。
【0024】
ONU108は加入者側に配置される光終端装置であり、通信局側の光終端装置(OLT101)と光信号の送受信を行なう手段である。ONU108は上記のサーキュレータ109の他に、光送信機(Tx)110と、光受信機(Rx)111とを備えている。
【0025】
サーキュレータ109は3つの入出力ポート(第8〜第10ポート)を有し、特定のポート間で光信号を通過させる手段である。光送信機110に接続されたポートを109−1、伝送路107に接続されたポートを109−2、光受信機111に接続されたポートを109−3とする。ポート109−1から入力された光信号はポート109−2から出力され、ポート109−2から入力された光信号はポート109−3から出力され、それ以外のポート間の経路では光信号は入出力されない。
【0026】
光送信機110は送信情報を光信号に変換して出力する。光受信機111は受信した光信号を電気信号に変換し、受信情報を復元する。加入者数が1のネットワークシステムであるならば、OLT101と、符号化復号化部100−1と、ONU108と、伝送路102,107とによって構成することができる。更に、符号化復号化部100−2と、ONU118と、伝送路112,117とからなる部分の追加により、加入者数を1だけ増やすことができる。符号化復号化部100−2と、ONU118と、伝送路112,117とは符号化復号化部100−1と、ONU108と、伝送路102,107と同様に構成されている。すなわち、符号化復号化部100−1と、ONU108と、伝送路102,107に相当する部分を追加する毎に加入者を1人増やすことができる。
【0027】
なお、符号化復号化部100−2はサーキュレータ113,116とSSFBG114,115とを備えており、伝送路112を介して到着した光信号の多重信号からONU118へ送信されるべきチャネルの信号成分を復調化して伝送路117に出力し、それ以外のチャネルの信号成分は通過させて後段に出力する。また、ONU118から伝送路117を介して到着した送信信号を符号化して伝送路112に出力し、後段から到着した符号化信号を通過させて伝送路112に出力する。
【0028】
このように加入者数に対応して同一構成部分を順次接続することができ、バス型トポロジーのネットワークを構築することができる。
【0029】
ここで、かかる構成の受動光ネットワーク通信システムの動作を説明する前に、その動作の理解を容易にするために、符号化及び復号化の原理及びSSFBG型光符号器について図3及び図4を用いて説明する。なお、符号化の原理については様々な方式が提案されているが、ここでは本発明に関係する方式についてのみ説明する。
【0030】
図3(a)は符号化の過程を示している。送信情報信号は、送信する情報に従って変調された光である。例えば、2値ディジタル情報に対しては通常、論理1を示すビット、論理0を示すビットが光パルスの有無に対応付けられ、送信する情報に従った順番で通信速度に対応した繰り返し周期でその光パルスが順次伝搬される。説明を簡略化するために図3では送信情報信号として1つのパルスのみを示している。
【0031】
送信情報信号は、受信側で多重化されたチャネルを識別するために、チャネル毎に、位相情報も含めて異なる波形に2次変調される。この2次変調を符号化と呼ぶ。符号化された光信号を本明細書では略して符号化信号と呼ぶ。パルス状の波形をもつ元の光信号は、時間位置及び位相が異なる複数のパルスに分割される。この分割数をチップ数、分割されたパルスの1つ1つをチップパルスと呼ぶ。全チップパルス間の位相関係がチャネルを識別するパラメータとなる(この識別子を”符号パターン”、或いは単に”符号”と呼ぶ場合がある)。このような符号化の方式はコヒーレント時間拡散と呼ばれる。特許文献1及び本実施例ではコヒーレント時間拡散方式を採用し、更に、隣接チップパルス間の位相差は全て等しいという特徴をもつ。この位相差をθという記号で表す。
【0032】
図3(b)は復号化の過程を示している。符号化信号は、符号化の過程と同様の光変調を受ける。この光変調を復号化と呼び、復号化された光信号を本明細書では略して復号化信号と呼ぶ。パルス列状の波形をもつ符号化信号は、時間位置が異なる複数のパルス列に分割され、それらパルス列間にも位相差が生じる。符号化の過程と同様に特許文献1及び本実施例では隣接パルス列間の位相差は全て等しいという特徴をもつ。この位相差をφという記号で表す(この識別子も”符号パターン”、或いは単に”符号”と呼ぶ場合がある)。このように分割されたパルス列の一部が同一時刻で重なっているので、そのパルスが重なる時刻では、個々のパルスの複素電界振幅の足し算の結果として新たにパルスが得られる。その複素電界振幅の足し算がパルスの存在する時間範囲で行われる結果、次の2通りの光波形が得られる。符号化の過程における符号θと復号化の過程における符号φが等しい場合には、それ以外の場合に比べて大きなピーク強度をもつ波形が得られる。その波形は自己相関波形と呼ばれる。θとφが異なる場合、特定のピーク強度を持たない波形が得られる。その波形は相互相関波形と呼ばれる。本方式では、自己相関波形をもつ信号の平均パワーは相互相関波形をもつ信号の平均パワーより大きくなり、その比が大きい程チャネル識別能力が高いといえる。
【0033】
図4はSSFBGを用いた符号化の動作を示している。入力される光信号701は図4の時間−入力信号強度特性で示されるように、パルス状の波形であるとする。この光信号701はサーキュレータ702を介してSSFBG703に入力される。SSFBG703はN個の単位格子704を縦続につなぎ合せた構成である。ここで、Nはチップ数であり、単位格子704を入力側から順に704−1,740−2,……,704−Nと表記する。単位格子704は、ブラッグ反射波長に等しい波長をもつ光信号を一部透過し一部反射する。単位格子704の全てのブラッグ反射波長が等しく、入力信号701の波長が単位格子704のブラッグ反射波長に等しいと、単位格子はそれぞれSSFBG703内の違う位置に存在するので、入力光信号701はN箇所で反射されて再び結合される。ここで単位格子704−i(i=1〜N)で反射される光を705−iとする。この光705−iは図3で説明したチップパルスとなる。サーキュレータ702を介してSSFBG703で反射された光信号を取り出すことで、図4の時間−出力信号強度特性に示されるように、N個のパルスから構成される強度波形をもつ出力光信号706が得られる。
【0034】
単位格子704−jと704−(j+1)との間の距離をL(j=1〜N−1)とする。このとき、チップパルス705−jと705−(j+1)との時間間隔Tcは、単位格子704−jと704−(j+1)との間の往復伝搬時間に等しいので、
【0035】
【数1】

【0036】
となる。ここで、cは真空中の光速、λは信号光波長(=単位格子のブラッグ反射波長)、neffはSSFBGの実効屈折率である。
【0037】
チップパルス705−jと705−(j+1)との位相差θは、
【0038】
【数2】

【0039】
となる。ここで、λは信号光波長(=単位格子のブラッグ反射波長)、nは整数である。この位相差θが符号パターンとなる。
【0040】
SSFBGを用いた復号化の動作は、入力信号701を符号化信号として同様に説明される。
【0041】
ここで、SSFBGにおいて入力光波長と単位格子のブラッグ反射波長が等しいとする。単位格子704の屈折率プロファイルを調整することにより、その単位格子の反射率を調整することができる。その反射率を小さくすればするほど、出力光のパワーが小さくなり、SSFBGの逆の出力から放射される光(透過光と呼ぶ)のパワーが大きくなる。
【0042】
次に、図2の受動光ネットワーク通信システムの動作を説明する。上記した符号化及び復号化が図2のシステムにおいて適用される。
【0043】
先ず、下り系(OLT101から各ONU108,118への向き)通信の動作について説明する。
【0044】
OLT101は全チャネルの光送信機(図示せず)から発せられた光信号を符号化し、その符号化信号を結合することによって1つの伝送路102に多重信号を送出する。その多重信号は伝送路102、そしてサーキュレータ103を通過し、SSFBG105に入力される。その多重信号の一部の信号成分(ONU108に割り当てられたチャネルの信号部分)がSSFBG105の中で反射され、SSFBG105の入力ポートと同じポートから復号化された状態で出力される。その復号化信号はサーキュレータ103を経て伝送路107に送出される。その復号化信号はONU108に入力される。ONU108の中では、サーキュレータ109によって上り信号と下り信号の伝搬向きが分けられており、下り信号である入力復号化信号はサーキュレータ109を経て光受信機111に入力され、そこで電気信号に変換され、受信情報が復元される。
【0045】
伝送路102からSSFBG105に入力された多重信号の残りの信号成分はSSFBG105を透過し、サーキュレータ106を経て伝送路112に送出される。
【0046】
伝送路112で伝搬される残りの多重信号成分はサーキュレータ113を通過してSSFBG115に入力される。その残りの多重信号成分の一部の信号成分がSSFBG115の中で反射され、SSFBG115の入力ポートと同じポートから復号化された状態で出力される。その復号化信号はサーキュレータ113を経て伝送路117に送出される。その復号化信号はONU118に入力される。ONU118の中では、下り信号である入力復号化信号はサーキュレータ109を経て光受信機111に入力され、そこで電気信号に変換され、受信情報が復元される。
【0047】
次いで、上り系(各ONU108,118からOLT101への向き)通信の動作について説明する。
【0048】
ONU108は、光送信機110から発せられた光信号を、サーキュレータ109を経て伝送路107に送出する。その光信号は伝送路107、そしてサーキュレータ103を通過してSSFBG104に入力される。その入力された光信号はSSFBG104の中で反射され、SSFBG104の入力ポートと同じポートから符号化された状態で出力される。その符号化信号(ONU108に割り当てられたチャネルの符号化された光信号)はサーキュレータ103を経て伝送路102に送出される。一方、SSFBG104の入力ポートとは反対側のポートから、SSFBG104に入力された光信号の一部が透過されて出力される。その出力信号はサーキュレータ106のポート106−3に入力されるが、ポート106−3に入力される光信号はどこにも出力されない。よって、サーキュレータ106は、この透過光が他の上り系の信号或いは下り系の信号への干渉となることを防ぐことができる。
【0049】
ONU118から出力される光信号は伝送路117、そしてサーキュレータ113を通過してSSFBG114に入力される。その入力された光信号はSSFBG114の中で反射され、SSFBG114の入力ポートと同じポートから符号化された状態で出力される。その符号化信号がサーキュレータ113を経て伝送路112に送出される。その符号化信号はサーキュレータ106を経てSSFBG104に入力される。その入力された信号の一部はSSFBGlO4を透過し、入力ポートとは反対側のポートから出力される。その符号化信号はサーキュレータ103を経て伝送路102に送出される。一方、SSFBG104の入カポートと同じポートから、SSFBG104に入力された符号化信号の一部が反射されて出力される。その出力信号はサーキュレータ106のポート106−3に入力されるが、ポート106−3に入力される信号はどこにも出力されない。よって、サーキュレータ106は、この反射光が他の上り系の信号あるいは下り系の信号への干渉となるのを防ぐことができる。
【0050】
以上のように、ONU108から出力され符号化された信号とONU118から出力され符号化された光信号の両方とも、伝送路102に到達し、両者が結合されることにより、多重信号となる。更に、ONUをシステムに増設する場合でも同様に、伝送路102には全チャネルの符号化信号が、伝送路112にはONU108に対応するチャネル以外の符号化信号が、それ以降の伝送路でも同様に符号化信号が結合され多重信号となる。OLT101は、その多重信号を復号化して全チャネルに分配し、各チャネルはその復号化信号を電気信号に変換することにより、受信情報を復元することができる。
【0051】
よって、上記した実施例においては、下り系において信号を分配する、或いは上り系において信号を結合する機能と、チャネル識別のための符号化或いは復号化の機能とを単一のデバイス(上記の符号化復号化部100−1,100−2)にまとめて実現することができる。よって、システム全体として部品点数が少なくなる。また、分岐数によって固定される損失が光信号に影響を及ぼさないので、符号器或いは復号器の反射率及び透過率の設計次第で光信号のレベルダイヤを自由に設定でき、これにより光信号のパワー利用効率が高くなる。また、実施例のPONは双方向伝送のシステムであるため、伝送路のファイバ、伝送路設置場所を削減することができる。また、上記した実施例では、分岐数を固定するようなスターカプラを用いていないので、加入者を容易に増減することができ、バス型トポロジーを用いて、様々な広範囲な地点にいる加入者を収容することができる。
【0052】
図5は本発明の他の実施例として受動光ネットワーク通信システムを示している。この受動光ネットワーク通信システムは、1つのOLT201と、符号化復号化部200−1,200−2と、スターカプラ208,218、ONU210−1〜210−m(mは自然数),220−1〜220−n(nは自然数、m=n及びm≠nのいずれでも良い)と、伝送路202,212,207,217,209−1〜209−m,219−1〜219−nとを備えている。
【0053】
符号化復号化部200−1は、サーキュレータ203,206とSSFBG204,205とを備えている。符号化復号化部200−2は、サーキュレータ213,216とSSFBG214,215とを備えている。
【0054】
OLT201、符号化復号化部200−1,200−2、及び伝送路202,212,207,217は図2のシステムのOLT101、符号化復号化部100−1,100−2、及び伝送路102,112,107,117各々に等しい手段である。ONU210−1〜210−m,220−1〜220−n各々についてもONU108,118に等しい手段である。
【0055】
スターカプラ208は伝送路207から入力される光信号を分岐させて伝送路209−1〜209−mへ出力する、或いは伝送路209−1〜209−mから入力される光信号を結合して伝送路207へ出力する。同様に、スターカプラ218は伝送路217から入力される光信号を分岐させて伝送路219−1〜219−nへ出力する、或いは伝送路219−1〜219−nから入力される光信号を結合して伝送路217へ出力する。
【0056】
ONU210−1〜210−mは伝送路209−1〜209−mに各々接続されている。ONU220−1〜220−nは伝送路219−1〜219−nに各々接続されている。
【0057】
かかる図5の受動光ネットワーク通信システムにおいては、OLT201は全チャネルの光送信機(図示せず)から発せられた光信号を符号化し、その符号化信号を結合することによって伝送路202に多重信号を送出する。その多重信号の一部の信号成分が符号化復号化部200−1で復号化されて伝送路207に送出される。その復号化信号はスターカプラ208によって分岐され、分岐後の復号化信号は伝送路209−1〜209−mを各々経てONU210−1〜210−mに到達する。また、符号化復号化部200−1を通過した多重信号の残りの信号成分が伝送路212を介して復号化部200−1に供給され、残りの信号成分のうちの一部の信号成分が符号化復号化部200−2で復調化されて伝送路217に送出される。その復号化信号はスターカプラ218によって分岐され、分岐後の復号化信号は伝送路219−1〜219−nを各々経てONU220−1〜220−mに到達する。
【0058】
ONU210−1〜210−m各々から出力される光信号は伝送路209−1〜209−mを介してスターカプラ208によって結合され、結合された信号は伝送路207を介して符号化復号化部200−1に供給される。符号化復号化部200−1はその結合された信号を符号化して伝送路202に出力する。ONU220−1〜220−n各々から出力される光信号は伝送路219−1〜219−nを介してスターカプラ218によって結合され、結合された信号は伝送路217を介して符号化復号化部200−2に供給される。符号化復号化部200−2はその結合された信号を符号化して伝送路212に出力する。その伝送路212の符号化信号は符号化復号化部200−1を通過して伝送路202に送出される。伝送路202に各々出力された符号化信号が結合されることにより、多重信号となってOLT201に供給される。なお、上記スターカプラ208にて結合される際、ONU210−1とONU210−mとからの光信号は、TDM(時分割多重)又はWDM(波長分割多重)等により多重化されるため、例えば、ONU210−1とONU210−mとからの光信号同士による干渉等は回避される。
【0059】
なお、符号化復号化部200−1,200−2各々の動作は図2のシステムの符号化復号化部100−1,100−2各々の動作と同一であるので、ここでの説明は省略している。
【0060】
また、符号化復号化部200−2のサーキュレータ216のポート(図5に216−2)に、伝送路202、符号化復号化部200−1、伝送路207、スターカプラ208、伝送路209−1〜209−m、及びONU210−1〜210−mからなる部分(又は伝送路212、符号化復号化部200−2、伝送路217、スターカプラ218、伝送路219−1〜219−n、及びONU220−1〜220−nからなる部分)の追加接続により、加入者数を増加させることができる。すなわち、図2のシステムに複数のPONシステムを接続する構成によってより大きなネットワークを構築することができる。
【0061】
図5の受動光ネットワーク通信システムにおいては、ネットワーク拡張を図1に示した如き従来のPONとOCDMとを組み合わせで実現しているので、異なるSSFBGで符号化/復号化される従来のPONシステム間では同期が不要となり、システム制御及び管理の面では既存システムを再利用することができる。また、時間軸のみの多重であるために加入者が増加すると加入者当りの通信速度が減少する従来のPONシステムに比べて加入者の増加による通信速度の減少を抑えることができる。よって、少しずつの設備投資で効率的にネットワークを拡張することができる。








【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のチャネルの情報を光符号分割多重により符号化した光信号を第1伝送路に送出し、前記第1伝送路を介して供給された光信号を復号化して前記複数のチャネルの情報を受信する通信局側の光終端装置と、
前記複数のチャネルのうちのいずれか1のチャネルの光信号を第2伝送路について送受信する加入者側の光終端装置と、
第1の一端及び第1の他端を有し、前記光符号分割多重により符号化した光信号が前記第1の一端に供給されると前記1のチャネルの光信号を復号化して前記第1の一端から出力し、前記1のチャネル以外のチャネルの光信号を前記第1の他端から出力する第1SSFBG(超格子構造型ファイバブラッグ回折格子)と、
第2の一端及び第2の他端を有し、前記1のチャネルの光信号が前記第2の一端に供給されると前記1のチャネルの光信号を符号化して前記第2の一端から出力し、前記第2の他端に供給された光信号を前記第2の一端から出力する第2SSFBGと、
第1ないし第4ポートを有し、前記第1伝送路を介して前記第1ポートに供給された光信号を前記第2ポートから前記第1SSFBGの前記第1の一端に出力し、前記第1SSFBGの前記第1の一端から前記第2ポートに供給される復号化された光信号を前記第3ポートから第2伝送路に出力し、前記第2伝送路を介して前記第3ポートに供給された光信号を前記第4ポートから前記第2SSFBGの前記第2の一端に出力し、前記第2SSFBGの前記第2の一端から前記第4ポートに供給される符号化された光信号を前記第1ポートから前記第1伝送路に出力する第1サーキュレータと、
第5ないし第7ポートを有し、前記第1SSFBGの前記第1の他端から前記第5ポートに供給される光信号を前記第6ポートから出力し、前記第6ポートに供給される符号化された光信号を前記第7ポートから前記第2SSFBGの前記第2の他端に出力する第2サーキュレータと、を備えることを特徴とする受動光ネットワーク通信システム。
【請求項2】
前記加入者側の光終端装置の追加毎に、前記第1伝送路、前記第2伝送路、前記第1SSFBG、前記第2SSFBG、前記第1サーキュレータ、及び第2サーキュレータからなる部分を更に備え、その部分が前記第2サーキュレータの前記第6ポートに接続され、バス型トポロジーのネットワークを構築することを特徴とする請求項1記載の受動光ネットワーク通信システム。
【請求項3】
前記加入者側の光終端装置は、送信情報を光信号に変換して前記1のチャネルの光信号として送出する光送信機と、
前記1のチャネルの復号化された光信号を受信して情報を示す電気信号に変換する光受信機と、
第8ないし第10ポートを有し、前記光送信機から出力された光信号を前記第8ポートから前記第9ポートを介して前記第2伝送路に出力し、前記第2伝送路を介して供給された前記1のチャネルの復号化された光信号を前記第9ポートから前記第10ポートを介して前記光受信機に供給する第3サーキュレータと、を備えることを特徴とする請求項1記載の受動光ネットワーク通信システム。
【請求項4】
前記第2伝送路に接続されたスターカプラと、各々に前記加入者側の光終端装置が接続された複数の第3伝送路とを更に備え、前記スターカプラは前記第2伝送路を介して供給される復号化された光信号を分岐させて前記複数の第3伝送路を介して前記加入者側の光終端装置各々に供給し、前記加入者側の光終端装置各々から前記複数の第3伝送路を介して供給される光信号を結合させて前記第2伝送路に出力することを特徴とする請求項1記載の受動光ネットワーク通信システム。
【請求項5】
第1の一端及び第1の他端を有し、光符号分割多重により符号化された光信号が前記第1の一端に供給されると所定のチャネルの光信号を復号化して前記第1の一端から出力し、前記所定のチャネル以外のチャネルの光信号を前記第1の他端から出力する第1SSFBG(超格子構造型ファイバブラッグ回折格子)と、
第2の一端及び第2の他端を有し、前記所定のチャネルの光信号が前記第2の一端に供給されると前記所定のチャネルの光信号を符号化して前記第2の一端から出力し、前記第2の他端に供給された光信号を前記第2の一端から出力する第2SSFBGと、
第1ないし第4ポートを有し、前記第1ポートに供給された光信号を前記第2ポートから前記第1SSFBGの前記第1の一端に出力し、前記第1SSFBGの前記第1の一端から前記第2ポートに供給される復号化された光信号を前記第3ポートから出力し、前記第3ポートに供給された光信号を前記第4ポートから前記第2SSFBGの前記第2の一端に出力し、前記第2SSFBGの前記第2の一端から前記第4ポートに供給される符号化された光信号を前記第1ポートから出力する第1サーキュレータと、
第5ないし第7ポートを有し、前記第1SSFBGの前記第1の他端から前記第5ポートに供給される光信号を前記第6ポートから出力し、前記第6ポートに供給される符号化された光信号を前記第7ポートから前記第2SSFBGの前記第2の他端に出力する第2サーキュレータと、を備えたことを特徴とする受動光ネットワーク用符号化復号化モジュール。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−217331(P2011−217331A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86179(P2010−86179)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ETHERNET
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/広域加入者系光ネットワーク技術の研究開発 課題イ 適応ネットワーク構成技術」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】