説明

口腔内速崩壊錠

【課題】実用的な錠剤の硬度を有し、口腔内での速やかな崩壊性を維持し、且つ薬物の苦味を抑制し得る、製剤が変色しない、口腔内速崩壊錠を提供する。
【解決手段】苦味を有する薬物と軽質無水ケイ酸からなる混合物をコーティング剤で被覆した粒子(コート粒子)と、エリスリトール、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、アスパルテーム及びアセスルファムカリウムを含有する混合物にヒドロキシプロピルセルロース水溶液を噴霧することにより得られる粒子(造粒品)と、結晶セルロースからなる混合物を打錠することにより得られる口腔内速崩壊錠であり、特にアセトアミノフェンの苦味を抑制した口腔内速崩壊錠である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苦味を有する薬物について、その苦味を抑え、舌触りが良好であり、且つ良好な風味を有する口腔内速崩壊錠に関する。
【背景技術】
【0002】
苦味のある薬物を、高齢者、小児など嚥下力の弱い患者が、水なしでも容易に服用できるようにするために、苦味をマスクした口腔内速崩壊錠が開発・検討されている。
例えば、内服固形製剤に配合されたアセトアミノフェンの不快な呈味を抑制するという目的で、アスパルテームを配合したり、アスパルテームと酸味を呈する物質を併用して配合したりする技術が開発されてきている。
しかしながら、単にアスパルテームを配合する方法(特許文献1)ではアセトアミノフェンの不快な呈味は充分に抑制されておらず、またグリチルリチン酸に他の甘味剤を併用する方法(特許文献2)によってもその効果は充分ではなかった。
【0003】
また、アスパルテームと酸味を呈する物質を併用する方法(特許文献3)では、アセトアミノフェン、アスパルテーム及び酸味を呈する物質が単に混ざり合っているだけであり、経時的にアセトアミノフェンの配合に起因する製剤の変色を生じ、安定性の点で問題があった。
【0004】
さらには、アセトアミノフェンを配合した顆粒とアスパルテーム及び酸味を呈する物質を配合した顆粒を別々に造粒し、両者を混合することによりアセトアミノフェンの不快な呈味を抑制し、かつ、製剤の経時的な変色を防止したアセトアミノフェン配合内服固形製剤(特許文献4)が報告されている。
しかしながら、良好な風味と経時的な安定性を兼ね備え、舌触りが良好なものであって、且つ、摩損度の低い、実用的なアセトアミノフェン配合口腔内速崩壊錠は、未だ開発されていない。
【0005】
口腔内速崩壊錠に求められる錠剤物性として、製品強度を確保するための硬度と口腔内での崩壊性があげられる。しかし、これらの物性全てを同時に満たすことは、一般的に困難である。
例えば、錠剤の硬度を高くすると咀嚼性や崩壊性が損なわれ、逆に咀嚼性や崩壊性を向上させるため硬度を低く調整すると、錠剤が脆くなり、製造時或いは保管時に割れやすいものとなる。
【0006】
したがって、これらの点を改良する技術も種々提案されており、例えばその一つとして、湿らせた糖類と薬物と水を混合し打錠して、その後乾燥させることによる口腔内速崩壊錠の製造方法が提案されている(特許文献5)。しかしながら、上記方法にあっては、乾燥工程を経なければならず、特別な設備が必要である等の製造上に課題がある。
その他、種々の方法が提案(特許文献6〜9)されているが、いまだ満足する口腔内速崩壊錠が得られていないのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開平2−56416号公報
【特許文献2】特開平6−298668号公報
【特許文献3】特開2000−290199号公報
【特許文献4】特開2001−294524号号公報
【特許文献5】特開平5−271054号公報
【特許文献6】特開平10−182436号公報
【特許文献7】特開平10−298062号公報
【特許文献8】特開2000−273039号公報
【特許文献9】再公表97−47287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる現状を鑑み、苦味を有する薬物について、その苦味を抑え、良好な風味並びに舌触りを有し、錠剤として摩損度の低い実用的な硬度を有し、経時的に安定であって取り扱いが容易であり、製剤が変色しない等の特徴を有する口腔内速崩壊錠及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
かかる課題を解決するために本発明者等は鋭意検討した結果、苦味を有する薬物と軽質無水ケイ酸を含有する混合物をコーティング剤で被覆した粒子と、甘味剤を有する造粒物を別々に製造し、これに他の賦形剤等を加えて打錠した錠剤が、上記の目的を達成するものであることを新規に見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、上記の課題を解決するための、本発明の基本的態様である請求項1に記載の発明は、以下の構成からなる。
下記(a)〜(c)の混合物を打錠することにより得られる口腔内速崩壊錠。
(a)苦味を有する薬物と軽質無水ケイ酸を含有する混合物をコーティング剤で被覆した粒子(コート粒子)、
(b)エリスリトール、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、甘味剤を含有する混合物にヒドロキシプロピルセルロース水溶液を噴霧することにより得られる粒子(造粒品)、
(c)結晶セルロース。
【0011】
更に別の態様として、本発明の請求項2に記載の発明は、以下の構成からなる。
下記(a)〜(e)の混合物を打錠することにより得られる口腔内速崩壊錠。
(a)苦味を有する薬物と軽質無水ケイ酸を含有する混合物をコーティング剤で被覆した粒子(コート粒子)、
(b)エリスリトール、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、甘味剤を含有する混合物にヒドロキシプロピルセルロース水溶液を噴霧することにより得られる粒子(造粒品)、
(c)結晶セルロース、
(d)清涼化剤と、デンプン類、セルロース類からなる群から選ばれる1種以上からなる混合粉砕品、
(e)着色剤と、デンプン類、セルロース類からなる群から選ばれる1種以上からなる色素倍散末。
【0012】
最も具体的な本発明は、甘味剤がアスパルテーム、アセスルファムカリウムからなる群から選ばれる1種以上である口腔内速崩壊錠であり、苦味を有する薬物がアセトアミノフェンである口腔内速崩壊錠である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、薬物の苦味が抑えられた、良好な風味、舌触りが良好、摩損度の低い実用的な錠剤の硬度を有する口腔内速崩壊錠が提供される。かかる口腔内速崩壊錠は、経時的に安定性なものであり、取り扱いが容易で、製剤が変色しない等の特徴を有する。
したがって、高齢者、小児など嚥下力の弱い患者が、水なしでも容易に服用できる、薬物の苦味を抑えた口腔内速崩壊錠が提供できる点で、特に優れたものである。
【0014】
特に、苦味を有する薬物を、軽質無水ケイ酸と共に混合し、これをコーティング剤で被覆したコート粒子とし、錠剤に打錠することで、薬物の苦味を抑えた口腔内速崩壊錠が提供される点に特徴があり、それにより、経時的な安定性に優れ、生体内吸収性も良好な口腔内速崩壊錠となる利点を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明により提供される口腔内速崩壊錠は、上記した如く、その基本は、下記(a)〜(c)成分の混合物を、又は下記(a)〜(e)成分の混合物を打錠することにより得られるものである。
(a)苦味を有する薬物と軽質無水ケイ酸を含有する混合物をコーティング剤で被覆した粒子(コート粒子)、
(b)エリスリトール、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、甘味剤を含有する混合物にヒドロキシプロピルセルロース水溶液を噴霧することにより得られる粒子(造粒品)、
(c)結晶セルロース、
(d)清涼化剤と、デンプン類、セルロース類からなる群から選ばれる1種以上からなる混合粉砕品、
(e)着色剤と、デンプン類、セルロース類からなる群から選ばれる1種以上からなる色素倍散末。
【0016】
コート粒子となる(a)成分は、苦味のある薬物を、軽質無水ケイ酸と共に混合し、コーティング剤で被覆した粒子である。軽質無水ケイ酸と共にコーティング剤を被覆することにより、粒子の崩壊性が優れたものとなる一方、薬物の苦味を被覆した点に特徴を有するものである。
すなわち、本発明の口腔内速崩壊錠が、服用後口腔内で直ちに崩壊したとしても、コート粒子はその苦味を被覆したまま吸収部位である胃又は腸管組織まで運搬され、そこで良好な生体内吸収性を示すよう調製されている。
【0017】
コート粒子の調製に使用する軽質無水ケイ酸は、特に限定されず、一般的に製剤分野で使用されている軽質無水ケイ酸を使用することができ、例えばエアロジル等である。
【0018】
コーティング剤としては、含有させる薬物に応じ、各種の高分子物質を使用することができ、例えば水不溶性高分子物質、胃溶性高分子物質、腸溶性高分子物質、あるいはワックス状物質等が挙げられる。
水不溶性高分子物質としては、例えばエチルセルロース、アクアコート(商品名、旭化成社製)等の水不溶性セルロースエーテル;アクリル酸エチル・メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体(例えば、商品名:オイドラギットRS、レーム社製)、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル共重合体分散液(例えば、商品名:オイドラギットNE30D、レーム社製)等の水不溶性アクリル酸系共重合体等が挙げられる。
【0019】
胃溶性高分子物質としては、例えばポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート等の胃溶性ポリビニル誘導体;メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体(例えば、商品名:オイドラギットE、レーム社製)等の胃溶性アクリル酸系共重合体等が挙げられる。
【0020】
また、腸溶性高分子物質としては、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシメチルエチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース等の腸溶性セルロース誘導体;メタアクリル酸・メタアクリル酸メチル共重合体(例えば、商品名:オイドラギットL100、オイドラギットS、いずれもレーム社製)、メタアクリル酸・アクリル酸エチル共重合体(例えば、商品名:オイドラギットL100−55、オイドラギットL30D55、レーム社製)等の腸溶性アクリル酸系共重合体等が挙げられる。
【0021】
ワックス状物質としては、例えば硬化ひまし油、硬化ヤシ油、牛脂等の固形油脂;ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等の高級脂肪酸;セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。
これら高分子物質は、1種又は2種以上を適宜組み合わせて用いることもできる。
【0022】
本発明にあっては、特に好ましくは水不溶性高分子物質であるアクリル酸エチル・メタクリル酸メチル共重合体分散液(例えば、商品名:オイドラギットNE30D、レーム社製)である。
【0023】
これらの高分子物質を、苦味のある薬物及び軽質無水ケイ酸の混合にコーティングしコート粒子を調製するが、コーティングに用いる溶解液としては、水及び/又は有機溶媒等であり、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、クロロエタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、アセトニトリル等のニトリル類、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類を挙げることができる。
これらの媒体は1種又は2種類以上を適宜な割合で混合して用いてもよい。
【0024】
なお、本発明のコート粒子にあっては、その組成として、所望であれば、さらに他の成分、例えば、結晶乳糖、グラニュー糖、食塩、コーンスターチ、二酸化ケイ素(シリカゲル)等を加えることもできる。
【0025】
前記コート粒子は、薬物と軽質無水ケイ酸の混合物を、それ自体公知の方法により、被覆剤で被覆することにより得られる。コート粒子の粒子径は、口腔内でのザラツキ感を感じない範囲であれば特に制限されない。例えば通常平均粒子径として約0.1〜約350μmが好ましく、約5〜約250μmがより好ましく、約50〜約250μmがさらに好ましい。粒子径が350μmより大きくなると、口腔内のザラツキ感等の違和感を強く認識するようになってしまう。
【0026】
本発明においては、コート粒子の特性を阻害しない範囲で、通常用いられる可塑剤を添加することもできる。また、コート粒子からの薬物溶出を容易にするために、前記したコーティング剤である水不溶性高分子物質、胃溶性高分子物質、腸溶性高分子物質等の高分子物質、ワックス状物質等に加えて、水溶性高分子物質、糖類、塩類等を配合することができる。
そのような水溶性高分子物質として、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどが挙げられ、これら水溶性高分子物質及び糖類は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
なお、水溶性高分子物質、糖類の配合量は、コート粒子からの薬物の溶出速度を制御するよう、適宜調整することができる。
【0027】
本発明のコート粒子の調製は、一般的な撹拌造粒法又は転動流動造粒法により行うことができる。調製された粒子をさらに流動層造粒機でこの粒子の流動がスムーズに行なわれるまで、通風し、通風後、粒子を解砕機で解砕整粒し、流動層造粒機によって乾燥させ、さらに篩過することによりコート粒子を製造ずることができる。
流動層造粒機の温度範囲は特に制限されないが、水を用いたコーティングの場合には品温が約40℃〜約60℃、有機溶媒を用いた場合には約30℃〜約60℃付近の温度となるように、設定温度、さらには噴霧液量、噴霧風量等を設定する。コーティングする薬物の濃度、高分子物質の比率、量等は、目標とする溶出の速度に応じて適宜調整できる。
【0028】
一方、(b)成分である造粒品は、エリスリトール、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及び甘味剤を含有する混合物にヒドロキシプロピルセルロース水溶液を噴霧することにより得られる造粒品である。
この造粒品として配合する成分は、本発明の口腔内速崩壊性の錠剤が服用後口腔内で崩壊した場合に、配合したエリスリトール、並びに甘味剤によりその服用時の不快感を軽減させると共に、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースにより舌触りを良好なものとする特性を発揮する。
【0029】
使用する甘味剤としては、アスパルテーム、アセスルファムカリウムを挙げることができ、これらは市販品を適宜利用することが可能であり、その1種又は両者を併用して使用することができる。
また、エリスリトール、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースにあっても、市販品を適宜利用することができる。
【0030】
この造粒品の調製は、具体的には以下のようにして行うことができる。
すなわち、エリスリトール、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、更に甘味剤としてアスパルテーム及びアセスルファムカリウムの両者を流動層造粒機に仕込み、混合する。次いでヒドロキシプロピルセルロースの水溶液を、例えば、トップスプレー法にて噴霧し、造粒を行い、噴霧終了後、乾燥し、篩過することにより、造粒品を調製することができる。
【0031】
本発明が提供する口腔内速崩壊性錠は、上記のようにして調製された(a)成分であるコート粒子と、(b)成分である造粒品とを、賦形剤として結晶セルロースとを混合し、打錠するか、さらにこれに加えて、メントール等の清涼化剤及びデンプン類及び/又はセルロース類からなる混合粉砕品、着色剤及びデンプン類及び又はセルロース類からなる色素倍散末と混合し、打錠することにより製造される。
【0032】
清涼化剤及びデンプン類、セルロース類からなる混合粉砕品は、本発明にあっては清涼剤として添加されるものであり、服用後口腔内において崩壊した段階で、清涼感を与えるために添加される。清涼化剤としては、例えばl−メントール、2−又は3−置換−p−メンタンジオール、N−置換−p−メンタン−3−カルボクサミド、3−置換−p−メンタン、トリアルキル置換シクロヘキサンカルボキシアマイド等の1種で又は2種以上を併用して用いることができる。好ましくは、清涼感を強く感じさせるl−メントールである。具体的には、l−メントール及びトウモロコシデンプンを混合した後、粉砕機を通し、篩過することにより、清涼剤としての混合粉砕品を得ることができる。
【0033】
また、色素倍散末は、色素とデンプン類、セルロース類等を乳鉢で混合して、色素倍散末を調製することができる。
色素としては、例えば、食用黄色5号、食用赤色2号、食用青色2号等の食用色素;赤色3号アルミニウムレーキ等の食用レーキ色素;ベンガラ等が挙げられる。
上記、デンプン類としては、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、馬鈴薯デンプン、タピオカデンプン、α化デンプン、部分α化デンプン、ハイアミロースデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、デンプン加水分解物、酢酸デンプン、リン酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、カルボキシメチルデンプン、リン酸架橋デンプン、酸化デンプン、ジアルデヒドデンプン、酸処理デンプン、次亜塩素酸ソーダ処理デンプン等が挙げられる。
セルロース類としては、結晶セルロース、粉末セルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム等が挙げられる。
これら賦形剤は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0034】
用いる結晶セルロースの使用量は、混合するコート粒子、造粒品の使用量等により異なり一概に限定することはできないが、通常、最終的に得られる口腔内速崩壊性錠1錠あたり、10〜80重量%である。
【0035】
なお、錠剤として打錠する段階で、さらに他の各種添加剤を配合させることもできる。そのような添加剤としては、例えば、更に別の賦形剤、崩壊剤、結合剤、酸味料、発泡剤、人工甘味料、香料、滑沢剤、着色剤、安定化剤などが挙げられる。かかる添加剤は1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0036】
他の賦形剤として、医薬的に許容される糖又は糖アルコールを挙げることもできる。糖又は糖アルコールとしては、具体的には例えばキシリトール、エリスリトール、グルコース、マンニトール、白糖、又は乳糖が挙げられる。その中でもエリスリトールが特に好ましい。また、かかる糖類は1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。また、滑沢剤としてはステアリン酸、ステアリン酸マグネシウムが挙げられる。
【0037】
かかる賦形剤を使用する場合の配合量は、薬物の用量が小さい場合、賦形剤の配合量を多くし、また薬物の用量が大きい場合、賦形剤の配合量を少なくするなどにより、所望の大きさの錠剤となるよう適宜調整することができる。配合量としては、例えば、結晶セルロースと合わせて、1錠あたり、10〜80重量%である。
崩壊剤としては、例えば、コーンスターチ等のデンプン類、カルメロースカルシウム、部分アルファー化デンプン、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0038】
酸味料では、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられる。
発泡剤では、例えば、重曹等が挙げられる。また、甘味料としては、例えば、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、アスパルテーム、ステビア、ソーマチン等が挙げられる。香料では、例えば、レモン、レモンライム、オレンジ、メントール等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、タルク、ステアリン酸等が挙げられる。着色剤では、例えば、食用黄色5号、食用赤色2号、食用青色2号等の食用色素;食用レーキ色素;ベンガラ等が挙げられる。これらの添加剤は、1種又は2種以上組み合わせて、適宜適量添加することができる。
【0039】
本発明の口腔内速崩壊錠に含有される薬物としては、苦味を有する治療学的上、あるいは予防学的上、有効な活性成分であれば特に制限されない。例えば催眠鎮静剤、睡眠導入剤、抗不安剤、抗てんかん剤、抗うつ薬、抗パーキンソン剤、精神神経用剤、中枢神経系用薬、局所麻酔剤、骨格筋弛緩剤、自律神経剤、解熱鎮痛消炎剤、鎮けい剤、鎮量剤、強心剤、不整脈用剤、利尿剤、血圧降下剤、血管収縮剤、血管拡張剤、循環器官用薬、高脂血症剤、呼吸促進剤、鎮咳剤、去たん剤、鎮咳去たん剤、気管支拡張剤、止しゃ剤、整腸剤、消化性潰瘍用剤、健胃消化剤、制酸剤、下剤、利胆剤、消化器官用薬、副腎ホルモン剤、ホルモン剤、泌尿器官用剤、ビタミン剤、止血剤、肝臓疾患用剤、通風治療剤、糖尿病用剤、抗ヒスタミン剤、抗悪性腫瘍剤、化学療法剤、抗生物質、抗菌剤、総合感冒剤、滋養強壮保健薬、骨粗しょう症薬等が挙げられる。
【0040】
なお、薬物の粒子径は特に限定されないが、高密度粉末であることが好ましい。また、薬物の配合量は、通常治療上有効な量であれば特に制限されないが、通常、錠剤の全重量に対して50w/w%以下であることが好ましい。
【0041】
本発明により提供される口腔内速崩壊錠は、口腔内崩壊時間が30〜60秒未満であり、摩損度は、錠剤の摩損度試験(日本薬局方)100回転で0.4%以下であり、また、苛酷試験終了後も、崩壊性を維持しつつ、実用的な錠剤の硬度を有し、変色しない製剤である。
【0042】
本発明によって、特に薬物としてアセトアミノフェノンの苦味を被覆剤で被覆した口腔内速崩壊錠が提供される。
すなわち、本発明が提供する口腔内速崩壊錠は、薬物であるアセトアミンフェンをコーティング剤により被覆しているので、アセトアミノフェンの苦味を抑制したものであり、さらに、エリスリトール、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、甘味剤(例えば、アスパルテーム、アセスルファムカリウム)の配合量を調整することにより、苦味を抑え、且つ甘味を調整し得た口腔内崩壊錠である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を具体的実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例1:
(工程1)
アセトアミノフェン高密度粉[商品名、タイコ ヘルスケア ジャパン(株)製]300g、軽質無水ケイ酸[アエロジル200、商品名、日本アエロジル(株)製]10gを撹拌造粒機[VG−01、(株)パウレック製]に仕込み、混合した(ブレード350rpm、クロススクリュ1500rpm)。次に、混合しながらオイドラギットNE30D[商品名、デグサ ジャパン(株)製]88gを注液し、アセトアミノフェン高密度粉をコーティングした。次に、得られたコート粒子を流動層造粒機[MP−01、(株)パウレック製]でコート粒子の流動がスムーズに行なわれるまで、通風した(給気温度35℃、給気風量70m/hr)。通風後、コート粒子を解砕機[TC−150型、深江パウテック(株)製]で解砕整粒し(スクリーンφ1mm、ロータ回転数3000rpm)、流動層造粒機[MP−01、(株)パウレック製]によってコート粒子を乾燥させ(給気温度70℃、給気風量40m/hr、乾燥終点・製品温度50℃)、篩(目開き500μm)で篩過した。
【0045】
(工程2)
エリスリトール[日研化成(株)製]200g、結晶セルロース[セオラスPH−101、商品名、旭化成ケミカルズ(株)製]50g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース[L−HPC(LH−21)、商品名、信越化学工業(株)製]70g、アスパルテーム[味の素(株)製]10g、アセスルファムカリウム(ニュートリノヴァ社製)15gを流動層造粒機[MP−01、(株)パウレック製]に仕込み、また、ヒドロキシプロピルセルロース[HPC−SSL、商品名、日本曹達(株)]10.8gを精製水49.2gに溶かし、トップスプレー法にて溶液を38.89g噴霧し(噴霧液量10g/min、噴霧空気圧1.2MPa、給気風量40m/hr、給気温度55℃)、噴霧終了後、乾燥し(給気風量30m/hr、給気温度75℃、乾燥終点・製品温度50℃)、篩(目開き850μm)で篩過して、造粒品を得た。
【0046】
(工程3)
l−メントール[小林桂(株)製]50g、トウモロコシデンプン50gを、ビニール袋内で混合した後、粉砕機(P−14フリッチェ社製)を通し(スクリーンなし、ロータ回転数2000rpm)、篩(目開き1180μm)で篩過して、メントール混合粉砕品を得た。
【0047】
(工程4)
赤色3号アルミニウムレーキ(三栄原 エフ・エフ・アイ製)2g、結晶セルロース(セオラスPH−101、商品名、旭化成ケミカルズ製)18gを乳鉢で混合して、色素倍散末を得た。
【0048】
(工程5)
前記各工程で得られたコート粒子336.4g、造粒品352.0g、メントール混合粉砕品2.24g、色素倍散末0.45gに、結晶セルロース(セオラスPH−302、商品名、旭化成ケミカルズ製)199.04g、とステアリン酸マグネシウム(太平化成産業製)4.47gを混合後、ロータリー打錠機(畑鉄工所製、HATA RT3A)を用いて1錠あたりアセトアミノフェン300mgを含む894.6mgの錠剤を製した。このときの打錠末の比容積は2.34(mL/g)であった。
【0049】
(錠剤の硬度、摩損度、口腔内崩壊時間)
常法に従って、錠剤の硬度、摩損度、口腔内崩壊時間を測定した。
得られた錠剤は硬度7.0kp(n=10)、摩損度0.35%(100回転)、口腔内崩壊時間52秒(n=3)と良好な値を示した。また、錠剤の成形性も良く、苛酷試験の結果は、後記する比較例より良好な結果となった。
【0050】
実施例2:
(工程1〜4)
前記実施例1に準拠して調製した。
【0051】
(工程5)
前記各工程で得られたコート粒子336.4g、造粒品352.0g、メントール混合粉砕品2.12g、色素倍散末0.42gに、結晶セルロース(セオラスPH−302、商品名、旭化成ケミカルズ製)155.40g、とステアリン酸マグネシウム(太平化成産業製)4.25gを混合後、ロータリー打錠機(畑鉄工所製、HATA RT3A)を用いて1錠あたりアセトアミノフェン300mgを含む850.6mgの錠剤を製した。
(錠剤の硬度、摩損度、口腔内崩壊時間)
実施例1と同様に実生産可能な硬度、摩損度、口腔内崩壊時間となった。
【0052】
実施例3:
(工程1)
前記実施例1に準拠して調製した。
【0053】
(工程2)
エリスリトール[日研化成(株)製]200g、結晶セルロース[セオラスPH−101、商品名、旭化成ケミカルズ(株)製]57.5g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース[L−HPC(LH−21)、商品名、信越化学工業(株)製]70g、アスパルテーム[味の素(株)製]2.5g、アセスルファムカリウム(ニュートリノヴァ社製)15gを流動層造粒機[MP−01、(株)パウレック製]に仕込み、また、ヒドロキシプロピルセルロース[HPC−SSL、商品名、日本曹達(株)]10.8gを精製水49.2gに溶かし、トップスプレー法にて溶液を38.89g噴霧し(噴霧液量10g/min、噴霧空気圧1.2MPa、給気風量40m/hr、給気温度55℃)、噴霧終了後、乾燥し(給気風量30m/hr、給気温度75℃、乾燥終点・製品温度50℃)、篩(目開き850μm)で篩過して、造粒品を得た。
【0054】
(工程3〜5)
前記実施例1に準拠して、1錠あたりアセトアミノフェン300mgを含む894.6mgの錠剤を製した。このときの打錠末の比容積は2.34(mL/g)であった。
【0055】
(錠剤の硬度、摩損度、口腔内崩壊時間)
実施例1と同様に実生産可能な硬度、摩損度、口腔内崩壊時間となり、また、苦味も抑制された製剤となった。
【0056】
比較例1:
前記実施例1の工程1で、軽質無水ケイ酸に加え、さらに、D−マンニトールを106g添加し、以下実施例1と同様に処理して得たコート粒子と、前記実施例1の工程2で得た造粒品を用い、工程3のメントール混合粉砕品、工程4の色素倍散末、工程5のステアリン酸マグネシウムの1錠中の比率を実施例1に準拠させ、また、工程5においてセオラスPH−302を198.20g使用して、アセトアミノフェン300mgを含む1000.60mgの錠剤を得た。
得られた錠剤は、実施例1で得られる錠剤に比べると、1錠重量が大きく、若干錠剤が厚いため崩壊が遅く、また、コート粒子中にD−マンニトールが配合されているため、成形性に劣るものであった。このときの打錠末の比容積は2.07(mL/g)であった。
【0057】
比較例2〜8:
上記比較例1に準じ、後記する表1に記載の処方により、それぞれ比較例2〜8のアセトアミノフェン含有の錠剤を調製した。
なお、比較例2〜7は、コート粒子成分として、軽質無水ケイ酸に加え、さらに、D−マンニトールを添加したものであり、比較例8は、コート粒子成分として、軽質無水ケイ酸に加え、さらに、ラウリル硫酸ナトリウム及び乳糖を添加したものである。
【0058】
比較例2で得られた錠剤は、実施例1で得られる錠剤に比べると、1錠重量が大きく、若干錠剤が厚いため崩壊が遅く、また、コート粒子中にD−マンニトールが配合されているため成形性に劣るものであった。また、比較例1と比較すると、配合工程でセオラスPH−101を使用しているため、比較例1より嵩高く、打錠時に臼への充填量が上限近くとなった。
【0059】
比較例3の打錠末の比容積は2.43(mL/g)であった。この処方では、造粒品を調製時、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)の配合量が1錠中10mgになるようにHPC溶液を噴霧したために嵩高いものとなった。それに伴い、打錠末の比容積も高くなり、打錠時に臼に入りきらなかった。
【0060】
比較例4の打錠末の比容積は2.65(mL/g)であった。この処方では、結晶セルロースの配合量が少ないため、成形性が若干悪く錠剤に傷がついていた。
【0061】
比較例5では、工程2の調製において、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)に代えてデンプングリコール酸ナトリウム[エキスプロタブ、木村産業(株)]を使用しているが、この処方では臼への付着が見られた。使用したエキスプロタブは、吸湿性があり,水を加えると膨潤し粘稠なのり状の液となるため,臼への付着の原因になっていると予想された。
【0062】
比較例6では、工程2の調製において、結晶セルロースに代えてマンニトール[パーテックM200:登録商標、メルク(株)製]を使用し、さらに、L−HPCに代えてカルメロース[商品名 NS−300、五徳薬品(株)製]を使用し、HPC−SSLを使用せず、且つ造粒品にすることなく、さらに工程3においてコーンスターチに代えてD−マンニトールを使用し、工程5の結晶セルロースを使用しない他は、実施例1に準拠して処理した錠剤であるが、この錠剤の成形性は劣るものであった。コート粒子以外は直打であったためと思われる。
【0063】
比較例7では、工程2の調製において、結晶セルロースをD−マンニトールに代え、さらにL−HPCに代えて、カルメロース[商品名 NS−300、五徳薬品(株)製]を使用し、造粒し、また工程5において、結晶セルロースをカルメロースに代えたものであるが、得られた錠剤は、傷を有するものであった。D−マンニトールの成形性が、結晶セルロースよりも劣るためと考えられる。
【0064】
比較例8では、工程2の調製において、結晶セルロースを乳糖に代え、さらにL−HPCに代えてカルメロース[商品名 NS−300、五徳薬品(株)製]を使用し、造粒し、また工程5において、結晶セルロースをカルメロースに代えたものであるが、得られた錠剤は苛酷試験により変色が観察された。原因としては、アスパルテームと乳糖とのメイラード反応によるものと推定される。
【0065】
本発明の実施例1〜3及び比較例1〜8で得られた錠剤の配合成分名、配合量、1錠あたりの重量及び打錠末の比容積(mL/g)を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
口腔内崩壊試験は、健康な成人男子5名の口腔内に前記実施例1〜3及び比較例1〜8で得られた錠剤を水なしで含ませ、錠剤が口腔内の唾液のみで完全に崩壊、分散するまでの時間を測定した。
実施例1の錠剤は50〜55秒の範囲内で、実施例2の錠剤は45〜55秒の範囲内で、また実施例3の錠剤は40〜50秒の範囲内で崩壊、分散し、良好な口腔内崩壊性を示すものであった。
【0068】
口腔内味覚(苦味)試験は、健康な成人男子5名の口腔内に前記実施例1〜3及び比較例2〜8で得られた錠剤を水なしで含ませ、錠剤が口腔内の唾液のみで完全に崩壊、分散した時点で苦味の有無について試験した。
実施例1〜3の錠剤の苦味は抑えられていた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の口腔内速崩壊錠は、薬物の苦味が抑えられた、良好な風味、舌触りが良好、摩損度の低い実用的な錠剤の硬度を有する口腔内速崩壊錠である。
かかる口腔内速崩壊錠は、経時的に安定性なものであり、取り扱いが容易で、製剤が変色しない等の特徴を有する。
したがって、高齢者、小児など嚥下力の弱い患者が、水なしでも容易に服用できる、薬物の苦味を抑えた口腔内速崩壊錠が提供できる点で、特に優れたものである。
【0070】
また、本発明は、特にアセトアミンフェンをコーティングすることにより有効成分であるアセトアミノフェンの苦味を抑制し、さらに、エリスリトール、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、甘味剤(例えば、アスパルテーム、アセスルファムカリウム)からなる造粒物を適宜配合することにより、苦味を抑え、良好な風味と経時的な安定性を兼ね備え、舌触りが良好な、且つ、摩損度の低い、実用的なアセトアミノフェン配合口腔内速崩壊錠であり、産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(c)の混合物を打錠することにより得られる口腔内速崩壊錠。
(a)苦味を有する薬物と軽質無水ケイ酸を含有する混合物をコーティング剤で被覆した粒子(コート粒子)、
(b)エリスリトール、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、甘味剤を含有する混合物にヒドロキシプロピルセルロース水溶液を噴霧することにより得られる粒子(造粒品)、
(c)結晶セルロース。
【請求項2】
下記(a)〜(e)の混合物を打錠することにより得られる口腔内速崩壊錠。
(a)苦味を有する薬物と軽質無水ケイ酸を含有する混合物をコーティング剤で被覆した粒子(コート粒子)、
(b)エリスリトール、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、甘味剤を含有する混合物にヒドロキシプロピルセルロース水溶液を噴霧することにより得られる粒子(造粒品)、
(c)結晶セルロース、
(d)清涼化剤と、デンプン類、セルロース類からなる群から選ばれる1種以上からなる混合粉砕品、
(e)着色剤と、デンプン類、セルロース類からなる群から選ばれる1種以上からなる色素倍散末。
【請求項3】
甘味剤がアスパルテーム、アセスルファムカリウムからなる群から選ばれる1種以上である請求項1又は2に記載の口腔内速崩壊錠。
【請求項4】
苦味を有する薬物がアセトアミノフェンである請求項1、2又は3に記載の口腔内速崩壊錠。

【公開番号】特開2008−162989(P2008−162989A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−3(P2007−3)
【出願日】平成19年1月1日(2007.1.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年10月28日 社団法人 富山県薬剤師会発行の「第46回北陸信越薬剤師大会 第39回北陸信越薬剤師学術大会 第8回富山県薬学会年会 講演要旨集」に発表
【出願人】(594105224)東亜薬品株式会社 (15)
【Fターム(参考)】