説明

口腔用組成物の抗骨喪失および抗付着喪失作用

口腔の疾患および病気を処置するのに有用な化合物を同定するための方法を本明細書で記述する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[0001] 歯周炎は、部分的には、歯周の有機マトリックスの異常な、および過度の分解により特性付けられる。このマトリックスには、歯肉、歯周靭帯、セメント質および歯槽骨が含まれる。そのマトリックスの破壊の少なくとも一部は、亜鉛依存性エンドペプチダーゼ類のファミリーであるマトリックスメタロプロテイナーゼ類(MMP類)の過剰産生により仲介される。MMP類は類骨(osteoid)(すなわち、石灰化されていない新しく合成された骨マトリックス)を分解し、次いでマトリックスを分解することにより骨吸収も促進する。これらの事象は結果として歯肉後退、ポケット形成、付着の喪失、および最終的には歯の喪失を含む歯周炎の臨床症状をもたらす。
【発明の概要】
【0002】
[0002] 本発明は、それを必要とする哺乳類において歯周炎を処置するための方法であって、その哺乳類の口の中の細胞をMMP−9およびMMP−13からなるグループから選択される少なくとも1種類のマトリックスメタロプロテイナーゼを下方制御する薬剤と接触させることを含む方法を含み、ここでそのメタロプロテイナーゼの下方制御は歯周炎と関係する少なくとも1種類の症状の低減と相関する。
【0003】
[0003] 本発明は哺乳類において歯周炎を処置するのに有用である化合物を同定する方法も含み、その方法は、細胞を試験化合物と接触させ、その試験化合物がMMP−9およびMMP−13からなるグループから選択される少なくとも1種類のマトリックスメタロプロテイナーゼを下方制御するかどうかを決定することを含み、ここでそのマトリックスメタロプロテイナーゼ類の少なくとも1種類の下方制御はその試験化合物が歯周炎を処置するのに有用であることを示すものである。
【0004】
[0004] 本発明は、それを必要とする哺乳類において歯周炎を処置する方法であって、その哺乳類の口腔にその哺乳類の口腔において少なくとも1種類のマトリックスメタロプロテイナーゼを下方制御するのに有効である量の2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルを含む口腔用組成物を投与することを含む方法も含み、そのマトリックスメタロプロテイナーゼはMMP−9およびMMP−13からなるグループから選択され、ここでそのマトリックスメタロプロテイナーゼの下方制御は結果としてその哺乳類における歯周炎の処置をもたらす。
【0005】
[0005] 本発明はさらに、それを必要とする哺乳類の口腔においてマトリックスメタロプロテイナーゼ活性の病的過剰を低減させる方法であって、その哺乳類の口腔にその哺乳類の口腔においてマトリックスメタロプロテイナーゼ活性を低減させるために有効である量の2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルを含む口腔用組成物を投与することを含む方法を含み、そのマトリックスメタロプロテイナーゼはMMP−9およびMMP−13からなるグループから選択され、ここでそのマトリックスメタロプロテイナーゼ活性の阻害は結果として結合組織のマトリックスタンパク質構成要素の過剰な分解の抑制をもたらす。
【0006】
[0006] 本発明は、それを必要とする哺乳類の口腔においてマトリックスメタロプロテイナーゼの病的過剰を低減させる方法であって、その哺乳類の口腔にその哺乳類の口腔においてマトリックスメタロプロテイナーゼのレベルを低減させるために有効である量の2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルを含む口腔用組成物を投与することを含む方法を含み、ここでそのマトリックスメタロプロテイナーゼのレベルの抑制は結果として結合組織のマトリックスタンパク質構成要素の過剰な分解の抑制をもたらし、ここでそのマトリックスメタロプロテイナーゼはMMP−9およびMMP−13からなるグループから選択される。
【0007】
[0007] 1態様において、方法は以下のものを含む口腔用組成物を含む:0〜36重量%のシリカ性研磨剤;0.25重量%〜0.35重量%の、ハロゲン化ジフェニルエーテル類、ハロゲン化サリチルアニリド類、安息香酸エステル類(benxoic esters)、ハロゲン化カルバニリド類およびフェノール化合物からなるグループから選択される実質的に水に不溶性の非陽イオン性抗細菌剤;ならびに有効量の0.01重量%〜4.0重量%の抗細菌増進剤、それは口の歯および歯肉表面への前記の抗細菌剤の送達および接着、ならびに口の歯および歯肉表面上での前記の抗細菌剤の保持を増進し、ここで前記の抗細菌増進剤は(i)マレイン酸または無水マレイン酸と別の不活性なエチレン的に(ethylenically)不飽和な重合可能な単量体とのコポリマー、もしくは(ii)ポリ(ベータ−スチレン−ホスホン酸)またはポリ(アルファ−スチレンホスホン酸)ポリマーまたはどちらかのスチレンホスホン酸と別のエチレン的に不飽和な単量体とのコポリマーであり、その組成物は、場合によりさらに25ppm〜5,000ppmのフッ化物イオンを供給するのに十分な量のフッ化物イオンを提供する源を含む。1態様において、口腔用組成物は0.01〜36重量%のシリカ性研磨剤を含む。別の態様において、口腔用組成物はシリカ性研磨剤を含まない。
【0008】
[0008] 1態様において、方法は抗歯石に有効な量の少なくとも1種類の水溶性の線状の分子的に脱水されたポリリン酸塩を不可欠な抗歯石剤として、抗プラークに有効な量の実質的に水に不溶性の非陽イオン性抗細菌化合物を不可欠な抗プラーク剤として、および場合により、25ppm〜5,000ppmのフッ化物イオンを供給するのに十分な量のフッ化物イオンを提供する源を含む口腔用組成物を含む。1観点において、2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルは組成物中に1ppmから100ppmまでの濃度で存在する。
【0009】
[0009] 1態様において、口腔用組成物はマウスウォッシュ(mouthwash)またはマウスリンス(mouthrinse)である。1観点において、マウスウォッシュまたはマウスリンスはシリカ性研磨剤を含まない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】[0010] 図1は、TNFαに誘導される単球のMMP−9産生における2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルの作用を図説する。
【図2】[0011] 図2は、PTHに誘導される骨芽細胞のMMP−13産生における2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルの作用を図説する。
【図3】[0012] 図3は、PTHに誘導される骨芽細胞のMMP−13産生における本発明の歯磨剤の作用を図説する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[0013] 歯周炎における3種類の主要な破壊的MMP類はMMP−8、MMP−9、およびMMP−13である。MMP−8およびMMP−13はコラゲナーゼであり、MMP−9はゼラチナーゼである。3種類の酵素は全て、病気にかかった歯周組織および歯肉溝滲出液中に見出しうる。これらの酵素のレベルは歯周炎の臨床指標に正に相関している。すなわち、MMP−8、MMP−9、およびMMP−13の少なくとも1種類の上昇した、または“正常より上の”レベルは、歯周炎を示すものである。その測定は、MMP−8、MMP−9、およびMMP−13の酵素、RNA、または生物学的活性についてなされてよい。
【0012】
[0014] 本明細書で述べられるように、ここで、2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテル(トリクロサン)を含む口腔用組成物は哺乳類の口腔においてMMP−8、MMP−9、およびMMP−13の少なくとも1種類のレベルを低減させるために用いることができることが示される。1態様において、その口腔用組成物は歯磨剤である。別の態様において、その口腔用組成物はとりわけマウスウォッシュ、パッチ、またはゲルを構成する。別の観点において、抗細菌化合物は哺乳類の口腔においてMMP−8、MMP−9、およびMMP−13の少なくとも1種類のレベルを低減させるために用いることができる。
【0013】
[0015] 全体において用いられるように、範囲はその範囲内にあるそれぞれおよび全ての値を記述するための略記として用いられる。範囲内のあらゆる値は、範囲の末端として選択することができる。加えて、本明細書において引用される全ての参考文献をそのまま本明細書に援用する。本開示における定義および引用された参考文献の定義において不一致がある場合には、本開示が統制する。
【0014】
[0016] 本明細書において用いられる用語“歯周炎”は、歯肉、歯周靭帯、セメント質および歯槽骨を含む歯周の有機マトリックスの異常な、および過度の分解を指す。歯周炎の臨床症状には、歯肉後退、ポケット形成、マトリックスの付着の喪失、歯および骨の喪失が含まれるが、それらに限定されない。歯周炎は早期歯周炎、中等度歯周炎または進行性歯周炎として特性付けることができる。しかし、当業者には理解されるであろうが、歯周炎は本明細書で述べられるそれらの症状および続発症のみに限定されるべきでは無い。早期歯周炎は、とりわけ以下の症状の1種類以上により臨床的に示される:プロービング(probing)の際の出血;ポケット(3〜4mm)の存在;限局性の後退の領域;付着の喪失(3〜4mm);骨の喪失(例えば水平方向);およびクラスI分岐部侵入領域(class I furcation invasion areas)。中等度歯周炎は、とりわけ以下の症状の1種類以上により臨床的に示される:ポケット(4〜6mm)の存在;付着の喪失(4〜6mm)の存在;プロービングの際の出血;グレードIおよび/またはグレードII分岐部侵入領域;クラスI歯牙動揺;骨の喪失(例えば水平方向および/または垂直方向);ならびに支持歯槽骨の1/3の喪失(すなわち、1:1の歯冠歯根比)。進行性歯周炎は以下の症状の1種類以上により臨床的に示される:プロービングの際の出血;ポケット(6mmを超える)の存在;付着の喪失(6mmを超える);グレードIIおよび/またはグレードIII分岐部侵入領域;クラスIIおよび/またはクラスIII歯牙動揺;骨の喪失(例えば水平方向および/または垂直方向);ならびに支持歯槽骨の1/3を超える喪失(すなわち、2:1以上の歯冠歯根比)。歯周炎は以下のものを含む下位分類に分けられるが、それらに限定されない:成人性歯周炎(例えばプラークと関係するもの);早発性歯周炎(例えば青春期前、若年性、急速進行性、および同様のもの);全身性疾患と関係する歯周炎;壊死性潰瘍性歯周炎;難治性歯周炎;インプラント周囲炎(peri−implantitis)および同様のもの。
【0015】
[0017] 本明細書で用いられる用語“処置”は、哺乳類を本発明の口腔用組成物と、および/または本発明の方法に従って接触させた際の、有害な病気の検出可能な改善および/またはその病気の症状の減少を指す。
【0016】
[0018] 用語“歯周炎の処置”は、哺乳類における歯周炎の予防、および哺乳類における歯周炎と関係する1種類以上の前から存在する病気の進行の抑制を含むことは理解されるであろう。本明細書で用いられる用語“抑制する”および“抑制”は、療法的処置および/または予防が結果としてもたらすような、歯周炎の、処置無しでのその病気と比較した部分的な抑制または完全な抑制を指す。従って、本発明に従う歯周炎の処置は、本明細書で述べた症状および/または続発症の1種類以上の低減、抑制、改善、減少、減弱、休止、または消失を含む。
【0017】
[0019] 本明細書で用いられる“病的過剰”は、許容される正常なレベルを上回る活性を指す。例えば、マトリックスメタロプロテイナーゼ活性の“病的過剰”は、疾患では無い状態で通常見られるレベルを上回るマトリックスメタロプロテイナーゼ活性のレベルである。本明細書で用いられる“マトリックスメタロプロテイナーゼ活性の病的過剰”は、歯周炎と関係するマトリックスメタロプロテイナーゼ活性のレベルである。
【0018】
[0020] 本明細書で用いられる用語“下方制御する”は、酵素活性の低下、酵素活性のレベルの低下、タンパク質および/またはそのようなタンパク質をコードする核酸のレベルの低下、またはタンパク質、例えばMMP−8、MMP−9、およびMMP−13の内の1種類以上の存在の生化学的作用の低下を指す。
【0019】
[0021] 1観点において、本発明は、それを必要とする哺乳類の口腔においてMMP−8、MMP−9、およびMMP−13の少なくとも1種類の病的過剰を低減させる方法であって、その哺乳類の口腔にその哺乳類の口腔においてマトリックスメタロプロテイナーゼのレベルを低減させるのに有効である量の2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルを含む口腔用組成物を投与することを含む方法を提供し、ここでそのマトリックスメタロプロテイナーゼのレベルの抑制は結果として結合組織のマトリックスタンパク質構成要素の過剰な分解の抑制をもたらす。
【0020】
[0022] MMP、例えばMMP−8、MMP−9またはMMP−13は、本明細書で述べるように口腔において多数の方式の1つで低減させることができる。1態様において、MMPは、本明細書の他の箇所で述べるように、MMPを核酸レベルで下方制御することにより口腔において低減させることができる。そのような低減は、結果としてMMPをコードする核酸(例えばmRNA)および口腔中へと発現されるMMP酵素の1種類以上の低減をもたらすことができる。MMPをコードするmRNAの低減は、例えば、当業者には理解されるであろうが、本明細書で述べられる開示で武装した際に、多数の技法の内の1種類以上により達成することができる。例にはMMPをコードするmRNAの転写の低減およびMMPをコードするmRNAの分解/排除が含まれる。
【0021】
[0023] 別の態様において、MMPは口腔中でMMP酵素の量を直接低減させることにより低減させることができる。MMP酵素の低減は、当業者には理解されるであろうが、本明細書で述べられる開示で武装した際に、多数の技法の内の1種類以上により達成することができる。例には、とりわけ小分子阻害剤によるその酵素の阻害、天然の、または生物由来の(biologically−derived)分子による阻害、その酵素のタンパク質分解による分解、およびその酵素の口腔からの親和性に基づく排除が含まれる。MMP−8、MMP−9またはMMP−13の内の1種類以上を低減させる薬剤は、本明細書で記述される薬剤、例えば2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテル(トリクロサン)であってよく、またはそれは別の抗細菌剤であってよい。別の観点において、薬剤は抗細菌剤以外の何かであってよい。そのように、本発明は歯周炎に悩む人を処置する方法を提供する。
【0022】
[0024] 本発明の1観点において、それを必要とする哺乳類の口腔においてマトリックスメタロプロテイナーゼ活性の病的過剰を低減させるための方法であって、その哺乳類の口腔にその哺乳類の口腔においてMMP−8、MMP−9およびMMP−13の少なくとも1種類のマトリックスメタロプロテイナーゼ活性を低減させるために有効である量の2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルを含む口腔用組成物を投与することを含む方法を提供し、ここでそのマトリックスメタロプロテイナーゼ活性の阻害は結果として結合組織のマトリックスタンパク質構成要素の過剰な分解の抑制をもたらす。別の観点において、その哺乳類の口腔に2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルを含む口腔用組成物を投与することは、その哺乳類の口腔においてMMP−8、MMP−9およびMMP−13の少なくとも1種類のレベルを低減させるのに有効である量で行われ、ここでそのマトリックスメタロプロテイナーゼのレベルの低減は結果としてそのマトリックスメタロプロテイナーゼの全体的な酵素活性の低減をもたらし、それは結果として結合組織のマトリックスタンパク質構成要素の過剰な分解の抑制をもたらす。1態様において、1種類以上のMMP類の病的過剰は、哺乳類の口腔におけるMMPの量の低減に関して本明細書の他の箇所で記述されているように低減させることができる。すなわち、MMPは核酸およびタンパク質レベルの一方または両方で低減させることができる。本明細書の他の箇所で記述されているように、1種類以上のそのようなMMPの病的過剰の低減は、哺乳類における歯周炎の処置を提供することができる。
【0023】
[0025] 別の観点において、本発明は、それを必要とする哺乳類の口腔においてMMP−8、MMP−9およびMMP−13の少なくとも1種類の活性を低減させる方法であって、その哺乳類の口腔にその哺乳類の口腔においてマトリックスメタロプロテイナーゼのレベルを低減させるために有効である量の2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルを含む口腔用組成物を投与することを含む方法を提供し、ここでそのマトリックスメタロプロテイナーゼのレベルの抑制は結果として結合組織のマトリックスタンパク質構成要素の過剰な分解の抑制をもたらす。1態様において、その1種類以上のMMP類の活性は、哺乳類の口腔におけるMMPタンパク質の量の低減に関して本明細書の他の箇所で記述されているように低減させることができる。すなわち、MMPを核酸およびタンパク質レベルの一方または両方で低減させ、それにより口腔におけるそのMMP類の活性を、そのMMPの活性を直接低減させることにより、またはMMPのタンパク質および/または核酸のレベルを低減させることにより間接的に、のどちらかで低減させることができる。
【0024】
[0026] 別の観点において、本発明は、それを必要とする哺乳類において歯周炎を処置する方法であって、その哺乳類の口腔中の細胞をMMP−8、MMP−9およびMMP−13の少なくとも1種類の一方または両方を下方制御する薬剤と接触させることを含む方法を提供する。本発明に従って、そのメタロプロテイナーゼの下方制御は歯周炎と関係する少なくとも1種類の症状の低減と相関する。
【0025】
[0027] MMP、例えばMMP−8、MMP−9またはMMP−13は、核酸レベルで下方制御することができる。限定的では無い例として、MMPは本発明に従ってMMPをコードするmRNAを下方制御することにより下方制御することができる。1態様において、本発明の方法は、哺乳類の口腔をMMP−8、MMP−9、またはMMP−13の内の1種類以上を下方制御する薬剤と接触させることを含む。MMP−8、MMP−9、またはMMP−13の内の1種類以上を下方制御する薬剤は、本明細書で記述される薬剤、例えばトリクロサンであってよく、またはそれは別の抗細菌剤であってよい。別の観点において、薬剤は抗細菌剤以外の何かであってよい。そのように、本発明は歯周炎に悩む人を処置する方法を提供する。
【0026】
[0028] 別の観点において、本発明はそれを必要とする哺乳類において歯周炎を処置する方法を提供する。1態様において、それを必要とする哺乳類において歯周炎を処置する方法は、その哺乳類の口腔にMMP−8、MMP−9およびMMP−13の少なくとも1種類を下方制御するのに有効である量の2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルを含む口腔用組成物を投与することを含み、ここで、マトリックスメタロプロテイナーゼの下方制御は結果としてその哺乳類における歯周炎の処置をもたらす。別の態様において、それを必要とする哺乳類において歯周炎を処置する方法は、その哺乳類の口腔にMMP−8、MMP−9およびMMP−13の少なくとも1種類のレベルを低減させるのに有効である量の2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルを含む口腔用組成物を投与することを含み、ここで、マトリックスメタロプロテイナーゼのレベルの低減は結果としてその哺乳類における歯周炎の処置をもたらす。さらに別の態様において、それを必要とする哺乳類において歯周炎を処置する方法は、その哺乳類の口腔にMMP−8、MMP−9およびMMP−13の少なくとも1種類の活性のレベルを低減させるのに有効である量の2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルを含む口腔用組成物を投与することを含み、ここで、マトリックスメタロプロテイナーゼ活性のレベルの低減は結果としてその哺乳類における歯周炎の処置をもたらす。
【0027】
[0029] その哺乳類の口腔に口腔用組成物を投与することにより歯周炎を処置する方法において、1種類以上のMMP類の活性は、哺乳類の口腔におけるMMPの量の低減に関して本明細書の他の箇所で記述されているように低減させることができる。すなわち、MMPを核酸およびタンパク質レベルの一方または両方で低減させ、それにより口腔においてそのMMP類の活性を低減させることができる。同様に、MMPの下方制御またはMMPのレベルの低減は、本明細書の他の箇所で詳細に記述されているように、核酸およびタンパク質レベルのどちらかまたは両方における作用により影響を受ける可能性がある。
【0028】
[0030] 別の観点において、本発明は、それを必要とする哺乳類において歯周炎を処置するのに有用な化合物を同定する方法であって、細胞を試験化合物と接触させ、その試験化合物がMMP−8、MMP−9およびMMP−13の少なくとも1種類の一方または両方を下方制御するかどうかを決定することを含む方法を提供する。そのマトリックスメタロプロテイナーゼ類の少なくとも1種類の下方制御は、その試験化合物が歯周炎を処置するのに有用であることを示すものである。
【0029】
[0031] 1態様において、歯周炎を処置する方法は、本明細書で記述されるスクリーニングアッセイにより同定された薬剤、または歯周炎の1種類以上のマーカーを抑制する薬剤の組み合わせを投与することを含み、ここでその薬剤の少なくとも1種類は本明細書で記述されるスクリーニングアッセイにより同定された薬剤である。
【0030】
[0032] 1態様において、本発明は、歯周炎の処置のための方法であって、療法上有効量の歯周疾患および/または歯周障害を抑制する薬剤をそのような処置を必要とする対象に投与する段階を含む方法を提供する。本明細書で定められる薬剤の療法上有効量(すなわち、有効な投与量)は、0.001から30mg/kg体重まで、好ましくは0.01から25mg/kg体重まで、より好ましくは0.1から20mg/kg体重まで、さらにもっと好ましくは1から10mg/kg体重まで、2から9mg/kg体重まで、3から8mg/kg体重まで、4から7mg/kg体重まで、または5から6mg/kg体重までの範囲である。当業者は、疾患または障害の重症度、以前の処置、対象の全身の健康状態および/または年齢、および存在する他の疾患を含むがそれらに限定されない特定の要因が、対象を効果的に処置するのに必要な投与量に影響を及ぼす可能性があることを理解するであろう。さらに、療法上有効量の阻害剤を用いた対象の処置は単独の処置を含むことができ、または、好ましくは一連の処置を含むことができる。処置のために用いられる有効な投与量は個々の処置の過程にわたって増加または減少してよいことも理解されるであろう。投与量の変化は、本明細書で記述されるような診断アッセイの結果からもたらされてよい。
【0031】
[0033] 当業者は、どのように歯周炎の存在を検出するかを理解するであろう。加えて、当業者は、どのようにMMP−8、MMP−9、またはMMP−13の内の1種類以上の高いレベルを確認するかを理解するであろう。哺乳類において歯周炎が存在することまたは存在しないことを検出するための代表的な方法は、試験対象の口腔から生物学的試料を得て、その生物学的試料においてマーカーの核酸またはその核酸によりコードされるマーカーペプチドの存在が検出されるように、その生物学的試料を、本明細書で記述される歯周炎のマーカー(すなわちMMP−8、MMP−9、またはMMP−13)、例えばマーカーの核酸(例えば、とりわけmRNA、ゲノムDNA)またはそのマーカーの核酸によりコードされるマーカーペプチド(例えば、とりわけペプチド断片またはタンパク質)の1種類以上を検出することができる化合物または薬剤と接触させることを含む。1態様において、マーカーのmRNAまたはゲノムDNAを検出するための薬剤は、マーカーのmRNAまたはゲノムDNAにハイブリダイズすることができる標識された核酸のプローブである。その核酸のプローブは、例えば、完全長のマーカーの核酸またはその一部であることができる。本発明の診断アッセイにおける使用に関する他の適切なプローブを本明細書で記述する。別の態様において、歯周炎のマーカーの活性をそのマーカーを検出するための手段として用いる(すなわちMMP−8、MMP−9、またはMMP−13の活性)。マーカーの活性を検出するための、現在知られている、または後に開発されるあらゆるアッセイを、本明細書に含める。
【0032】
[0034] 別の態様において、マーカーペプチドを検出するための薬剤はマーカーペプチドに結合することができる抗体、例えば検出可能な標識を有する抗体である。抗体はポリクローナルまたはモノクローナルであることができる。完全な抗体、またはその断片(例えばFabまたはF(ab’))を用いることができる。プローブまたは抗体に関する用語“標識された”は、検出可能な物質をそのプローブまたは抗体に結合させる(すなわち物理的に連結させる)ことによるそのプローブまたは抗体の直接的な標識、および直接標識されている別の試薬との反応性によるそのプローブまたは抗体の間接的な標識を含むことを意図する。間接的な標識の例には、蛍光標識された二次抗体を用いる一次抗体の検出、およびそれを蛍光標識されたストレプトアビジンにより検出することができるようなDNAプローブのビオチンによる末端標識が含まれる。
【0033】
[0035] 本明細書で用いられる用語“生物学的試料”は、対象の口腔から分離された組織、細胞および生物学的流体、ならびに対象の口腔内に存在する組織、細胞および流体を含むことを意図する。すなわち、本発明の検出法は、インビトロおよびインビボにおいて生物学的試料中のマーカーのmRNA、ペプチド(例えばタンパク質)、またはゲノムDNAを検出するために用いることができる。限定的では無い例として、マーカーのmRNAの検出のためのインビトロの技法にはノーザンハイブリダイゼーションおよびインサイチューハイブリダイゼーションが含まれる。マーカーペプチドの検出のためのインビトロの技法には酸素結合免疫吸着検査法(ELISA)、ウェスタンブロット、免疫沈降および免疫蛍光が含まれる。マーカーのゲノムDNAの検出のためのインビトロの技法にはサザンハイブリダイゼーションが含まれる。マーカーペプチドの検出のためのインビボの技法には、対象の口腔中への標識された抗マーカー抗体の導入が含まれる。例えば、その抗体は、対象中でのそれの存在および位置を標準的な画像化技法により検出することができる放射性マーカーで標識することができる。
【0034】
[0036] 1態様において、その方法はさらに、対照の対象から対照生物学的試料を得ること、マーカーのペプチド、mRNA、またはゲノムDNAの存在がその生物学的試料中で検出されるように、その対照試料をマーカーのペプチド、mRNA、またはゲノムDNAを検出することができる化合物または薬剤と接触させること、および対照試料中のマーカーのペプチド、mRNA、またはゲノムDNAの存在を試験試料中のマーカーのペプチド、mRNA、またはゲノムDNAの存在と比較することを含む。あるいは、試験試料中のマーカーのペプチド、mRNA、またはゲノムDNAの存在をデータベース中の、またはカルテ上の情報と比較して、結果として検出または診断をもたらすことができる。別の態様において、その方法はさらに歯周炎を有する対象から得られた対照生物学的試料を用いることを含み、ここでその対照試料は歯周炎の発症より前(すなわち、その対象が健康であった、または“正常な”、歯周炎では無い状態にあった時)にその対象から得られた。
【0035】
[0037] 限定的では無い例として、細胞をTNFαと接触させることによりMMP−9のレベルをインビトロで確認することができる。1態様において、細胞は単球である。細胞をTNFαと接触させた後、MMP−9のレベルをタンパク質または核酸レベルのどちらかで検出する。1観点において、抗細菌剤の存在下でも細胞をTNFαと接触させることによりMMP−9のレベルをインビトロで確認する。1態様において、その抗細菌剤は2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルである。別の態様において、薬剤はドキシサイクリンである。別の観点において、薬剤は抗細菌剤以外の何かであってよい。1態様において、薬剤はMMP阻害剤である。
【0036】
[0038] 本発明の態様において、MMP−9のレベルを検出することによるMMP−9の下方制御の測定は、薬剤、例えば抗細菌剤の存在下で細胞をTNFαと接触させ、抗細菌剤の非存在下で細胞をTNFαと接触させることによりインビトロで確認されたMMP−9のレベルを比較することによりインビトロで確認され、ここでその実験条件はその他の点では同じである。抗細菌剤の存在下でのMMP−9のタンパク質、核酸または酵素活性の、抗細菌剤の非存在下におけるよりも低いレベルは、その抗細菌化合物がMMP−9を下方制御することを示すものである。本明細書で述べられる開示に基づいて、その同じ方法をMMP−8および/またはMMP−13を評価するために用いてよいことは理解されるであろう。
【0037】
[0039] MMP−8、MMP−9および/またはMMP−13の下方制御のインビトロでの測定はインビボでの作用、観察または結果に相関させることができることは理解されるであろう。1観点において、インビトロで測定されるメタロプロテイナーゼの下方制御は、歯周炎の処置、インビボでメタロプロテイナーゼおよび/またはメタロプロテイナーゼ活性の病的過剰を低減させる方法、ならびに歯周炎を処置する、および/またはインビボでメタロプロテイナーゼおよび/またはメタロプロテイナーゼ活性の病的過剰を低減させるのに有用な化合物を同定する方法を含むがそれらに限定されないインビボでの観察を確証するものである。例えば、Golub et al., Inflamm. Res. (1997) 46:310-9, Preshaw et al., J. Clin. Periodontol. (2004) 31:697-707; Mantyla et al., J. Periodontal. Res. (2003) 38:436-439; Lorencini et al., Histol. Histopathol. (2009) 24:157-166;およびPozo et al., J. Periodontal Res. (2005) 40:199-207を参照。別の観点において、インビトロで測定されるメタロプロテイナーゼの下方制御は、歯周炎の処置、インビボでメタロプロテイナーゼおよび/またはメタロプロテイナーゼ活性の病的過剰を低減させる方法、ならびに歯周炎を処置する、および/またはインビボでメタロプロテイナーゼおよび/またはメタロプロテイナーゼ活性の病的過剰を低減させるのに有用な化合物を同定する方法を含むがそれらに限定されないインビボでの結果を予測するものである。
【0038】
[0040] 別の限定的では無い例として、細胞を副甲状腺ホルモン(PTH)と接触させることによりMMP−13のレベルをインビトロで確認することができる。1態様において、細胞は骨芽細胞である。細胞をPTHと接触させた後、MMP−13のレベルをタンパク質または核酸レベルのどちらかで検出する。1観点において、抗細菌剤の存在下でも細胞をPTHと接触させることによりMMP−13のレベルをインビトロで確認する。1態様において、その抗細菌剤は2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルである。抗細菌剤の存在下でのMMP−13タンパク質、核酸または酵素活性の、抗細菌剤の非存在下におけるよりも低いレベルは、その抗細菌化合物がMMP−13を下方制御することを示すものである。
【0039】
[0041] 1観点において、本明細書で述べた口腔用組成物の歯周炎を処置する能力は、2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルのメタロプロテイナーゼの下方制御への作用をその口腔用組成物のメタロプロテイナーゼの下方制御への作用と比較することにより確認される。別の観点において、あらゆる口腔用組成物の歯周炎を処置する能力は、その口腔用組成物の作用を、インビボまたはインビトロのどちらかで、本明細書で述べた口腔用組成物の作用と比較することにより確認される。
【0040】
[0042] 本発明はさらに、本発明の方法における使用のための口腔用組成物、例えば、とりわけ歯磨剤、ゲル、パッチ、マウスウォッシュ、またはスプレーを含む。1観点において、口腔用組成物は抗細菌剤を含む。典型的な態様において、その抗細菌剤は非陽イオン性抗細菌剤である。例えば米国特許第5,288,480号を参照、それをそのまま本明細書に援用する。その非陽イオン性抗細菌剤は、口腔用組成物中に0.25〜0.35重量%、好ましくは0.3%の有効抗プラーク量で存在する。その抗細菌剤は実質的に水に不溶性であり、これはその溶解度が25℃の水中で1重量%未満であることを意味し、さらに0.1%未満であってよい。例えば口腔用組成物がマウスウォッシュである場合、抗細菌剤の濃度は別の歯磨剤、例えば練り歯磨きにおいて用いられる濃度の10分の1を超えるまで低減させてよい。1態様において、その抗細菌剤は2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテルである。別の態様において、その口腔用組成物は2種類以上の抗細菌剤を含む。
【0041】
[0043] 1態様において、抗細菌増進剤(AEA)はその抗細菌剤の口の表面への送達およびそれの口の表面上での保持を増進する。1観点において、AEAは接着性物質を含む。本発明のAEA物質に有用である物質および組成物の記述に関して、ならびに本発明において有用な口腔用組成物、例えば歯磨組成物の一般的な記述に関して、米国特許第5,288,480号を参照。限定的では無い例として、組成物中の接着性物質は100,000〜2,500,000(両端を含む)の数平均分子量を有するポリマーである。1観点において、その接着性物質はポリビニルホスホン酸、ポリ(1−ホスホノプロペン)スルホン酸、ポリ(ベータスチレンホスホン酸)、アルファスチレンホスホン酸、合成陰イオン性ポリマー性ポリカルボキシレート、無水マレイン酸、マレイン酸、およびメチルビニルエーテルのポリマーから選択される。別の観点において、その接着性分子はメチルビニルエーテルおよび無水マレイン酸のポリマーである。抗細菌増進剤は口腔用組成物の0.01重量%〜4.0重量%であるレベルで用いることができる。
【0042】
[0044] 本明細書で用いられる“送達増進基”は、AEA(抗細菌剤を運んでいる)を口(例えば歯および歯肉)の表面に付着させ、または実質的に、接着により、凝集により(cohesively)、もしくは他の方式で結合させ、それにより抗細菌剤をそのような表面に“送達する”基を指す。一般に疎水性である有機性の保持増進基は、その抗細菌剤をAEAに付着させ、またはそうでなければ結合させ、それによりその抗細菌剤のAEAへの、および間接的に口の表面上での保持を促進する。一部の場合において、特にAEAが架橋されたポリマーである場合、その抗細菌剤の付着はAEAによるそれの物理的な捕捉(entrapment)により起こり、その構造はそのような捕捉のための多くの部位を生得的に提供する。架橋されたポリマーにおけるより高い分子量、より疎水的な架橋部分の存在は、その抗細菌剤のその架橋されたAEAポリマーへの、またはその架橋されたAEAポリマーによるその抗細菌剤の物理的捕捉をさらにもっと促進する。
【0043】
[0045] 1態様において、前記の抗細菌剤の口の歯および歯肉表面への送達および接着、ならびにそれの口の歯および歯肉表面上での保持を増進する抗細菌増進剤は、(i)マレイン酸または無水マレイン酸と別の不活性なエチレン的に不飽和な重合可能な単量体とのコポリマー、もしくは(ii)ポリ(ベータ−スチレン−ホスホン酸)またはポリ(アルファ−スチレンホスホン酸)ポリマーまたはどちらかのスチレンホスホン酸と別のエチレン的に不飽和な単量体とのコポリマーである。しかし、当業者は本発明がその特定の抗細菌増進剤により限定されないことおよび他の抗細菌増進剤が本発明に含まれることを理解するであろう。
【0044】
[0046] 典型的な歯磨剤において、湿潤剤を有する水相を含む口に許容可能なビヒクルが存在する。水は典型的には少なくとも3重量%、一般には3〜35%の量で存在し、湿潤剤、好ましくはグリセリンおよび/またはソルビトールは典型的には合計でその歯磨剤の6.5〜75重量%または80重量%、より典型的には10〜75%の量で存在する。本発明において必須では無いが、ここで、場合により0.25〜0.35%の水に不溶性の非陽イオン性抗細菌剤が存在し、その抗細菌剤の唾液中での可溶化を助ける追加の成分がその水−湿潤剤ビヒクルに組み込まれてよい。そのような任意の可溶化剤には、湿潤剤ポリオール類、例えばプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、およびヘキシレングリコール、セロソルブ類(cellosolves)、例えばメチルセロソルブおよびエチルセロソルブ、直鎖中に少なくとも12個の炭素を含む植物油およびワックス、例えばオリーブ油、ヒマシ油およびワセリン、ならびにエステル類、例えば酢酸アミル、酢酸エチルおよび安息香酸ベンジルが含まれる。本明細書で用いられる“プロピレングリコール”には、1,2−プロピレングリコールおよび1,3−プロピレングリコールが含まれる。かなり大きな量のポリエチレングリコール、特に600以上の分子量のものは、ポリエチレングリコールが非陽イオン性抗細菌剤の抗細菌活性を効果的に阻害するため、避けるべきである。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)600は、25トリクロサン:1PEG600の重量比でトリクロサンと一緒に存在する場合、トリクロサンの抗細菌活性をポリエチレングリコールの非存在下で発揮される抗細菌活性から10〜20分の1に低減させる。
【0045】
[0047] 口腔用組成物のpHは、一般には4.5〜10、別の観点では6.5〜7.5の範囲にある。本発明の組成物は、5未満のpHで歯のエナメル質を実質的に脱灰する、または他の方式で損傷すること無く口に適用することができることは注目に値する。そのpHは、酸(例えばクエン酸または安息香酸)もしくは塩基(例えば水酸化ナトリウム)で制御する、または緩衝する(例えばクエン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、または炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等を用いて)ことができる。
【0046】
[0048] あらゆる研磨性微粒子を用いてよく、それは炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム(例えばリン酸二カルシウム二水和物)、硫酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、シリカ(例えば水和シリカ)、酸化鉄、酸化アルミニウム、パーライト、プラスチック粒子、例えばポリエチレン、およびそれらの組み合わせから選択されてよい。特に、その研磨剤はリン酸カルシウム(例えばリン酸二カルシウム二水和物)、硫酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、シリカ(例えば水和シリカ)、ピロリン酸カルシウムおよび組み合わせから選択されてよい。沈降シリカ類またはシリカゲル類のようなあらゆるタイプのシリカを用いてよい。商業的に入手可能なシリカ類、例えばIneos Silicas、英国ウォリントンから入手可能なINEOS AC43が好ましい。他の研磨剤も本発明に従って用いることができる。米国特許第4,358,437号において述べられているように、研磨剤の形の粉末型炭酸カルシウムはそのような研磨剤の1つの重要な種類を構成している。これらの研磨剤の例は、製粉した石灰石もしくは大理石、白亜類、例えばアラレ石、方解石またはそれらの混合物、および合成的に沈降させた白亜類、例えば水道(waterworks)白亜である。一般に、その炭酸カルシウムは40ミクロン未満、好ましくは15ミクロン未満の重量中央値直径(weight median diameter)を有しているべきである。第2の種類の研磨剤は粉末状シリカ類、特に米国特許第3,538,230号において定義されているシリカキセロゲル類である。
【0047】
[0049] 1態様において、口腔用組成物はシリカ性研磨剤を含む。その研磨剤はシリカ性物質、例えば含水シリカゲル、シリカキセロゲルまたは複合非晶質アルカリ金属アルミノシリケートもしくはジルコノシリケートまたは沈降シリカであってよい。コロイド状シリカ材料には、商標SYLOIDの下で売られているコロイド状シリカ材料、例えばSYLOID 72およびSYLOID 74として売られてきたコロイド状シリカ材料が含まれる。沈降シリカ類には、商標ZEODENTの下で売られている沈降シリカ類、例えばZEODENT 113およびZEODENT 115およびZEODENT 119が含まれる。
【0048】
[0050] マウスウォッシュまたはマウスリンスは一般に研磨性(abrasive)微粒子または研磨性(polishing)微粒子を含まないであろう。パッチは一般に研磨性(abrasive)微粒子または研磨性(polishing)微粒子を含まないであろう。
【0049】
[0051] それによりこの発明の利点が得られた理論に束縛されるわけではないが、抗細菌剤(例えば2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテル)のための特別な可溶化物質の非存在下においてさえも、薬剤の量が0.25重量%〜0.35重量%であり、ポリカルボキシレートが存在する場合、MMP−8、MMP−9またはMMP−13の少なくとも1種類の下方制御を経て歯周炎の処置を達成するのに十分な薬剤が存在すると信じられる。これは本明細書で記述される他の水に不溶性の非陽イオン性抗細菌剤に同様に適用可能である。
【0050】
[0052] 口腔用組成物(例えば歯磨剤)は、フッ化物イオンの源、またはフッ素を提供する構成要素を、抗齲食剤として、25ppm〜5,000ppmのフッ化物イオンを供給するのに十分な量で含んでいてもよい。これらの化合物は、水中でわずかに可溶性であってよく、または完全に水溶性であってよい。それらは、水中でフッ化物イオンを放出するそれらの能力により、および口腔用製剤の他の化合物との望まれない反応が実質的に無いことにより特性付けられる。これらの物質の中には、無機フッ化物塩類、例えば可溶性アルカリ金属、アルカリ土類金属塩類、例えば(or example)フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化カルシウム、フッ化銅、例えばフッ化第一銅(cuprous fluoride)、フッ化亜鉛、フッ化バリウム、フルオロケイ酸ナトリウム、フルオロケイ酸アンモニウム、フルオロジルコン酸ナトリウム、フルオロジルコン酸アンモニウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノ−およびジ−フルオロリン酸アルミニウム、ならびにフッ素化ナトリウムカルシウムピロホスフェートがある。アルカリ金属およびスズフッ化物類、例えばフッ化ナトリウムおよびフッ化第一スズ、モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)ならびにそれらの混合物が好ましい。典型的には、アルカリ金属フッ化物の場合、この構成要素は製剤の重量に基づいて2重量%まで、好ましくは0.05%〜1%の範囲の量で存在する。モノフルオロリン酸ナトリウムの場合、その化合物は0.1〜3%、1態様において0.7〜0.8%の量で存在してよい。
【0051】
[0053] 1観点において、組成物はさらに、スズイオン剤;フッ化物化合物;フッ化ナトリウム;クロルヘキシジン;アレキシジン;ヘキセチジン;サンギナリン;塩化ベンザルコニウム;サリチルアニリド;臭化ドミフェン;塩化セチルピリジニウム(CPC);塩化テトラデシルピリジニウム(TPC);塩化N−テトラデシル−4−エチルピリジニウム(TDEPC);オクテニジン;デルモピノール(delmopinol);オクタピノール(octapinol);ナイシン(nisin);亜鉛イオン剤;銅イオン剤;精油;フラノン類;バクテリオシン類、エチルラウロイルアルギネート(ethyllauroyl arginate)、マグノリアの抽出物、金属イオン源、アルギニン、重炭酸アルギニン、ホノキオール(honokiol)、マゴノール(magonol)、ウルソール酸(ursolic acid)、ウルシック酸(ursic acid)、モリン、シーバックソーンの抽出物、過酸化物、酵素、ツバキ抽出物、フラボノイド、フラバン、ハロゲン化ジフェニルエーテル、クレアチン、およびプロポリスから選択される薬剤を含む。
【0052】
[0054] 本発明の一部の態様は、口腔の疾患または病気を処置するのに有用な化合物を同定する方法を提供し、その方法は以下のことを含む:口腔の疾患または病気を患う哺乳類から第1の歯肉試料を得て;前記の哺乳類の口腔から第2の歯肉試料を得て;前記の第1の試料を試験化合物と接触させ;前記の第2の歯肉試料を陽性対照と接触させ、ここで前記の陽性対照は1種類以上のマトリックスメタロプロテイナーゼ類の発現を下方制御することが知られている化合物であり;前記のマトリックスメタロプロテイナーゼ類の1種類以上の発現が前記の試験化合物により下方制御される程度を測定し;前記のマトリックスメタロプロテイナーゼ類の1種類以上の発現が前記の陽性対照により下方制御される程度を測定し;そして、前記のマトリックスメタロプロテイナーゼ類の1種類以上の発現が前記の試験化合物により下方制御される程度を前記のマトリックスメタロプロテイナーゼ類の1種類以上の発現が前記の陽性対照により下方制御される程度と比較する;ここで、前記のマトリックスメタロプロテイナーゼ類の1種類以上の発現を前記の陽性対照と同等の、またはより大きな程度まで下方制御する試験化合物は口腔の疾患または病気を処置するのに有用な化合物である。
【0053】
[0055] 他の態様において、その1種類以上のマトリックスメタロプロテイナーゼ類は次のものからなるグループから選択される:MMP−8、MMP−9、およびMMP−13。さらなる態様において、その陽性対照はMMP−8、MMP−9、およびMMP−13の発現を下方制御する。
【0054】
[0056] 一部の態様において、その口腔の疾患または病気は歯肉炎または歯周炎である。他の態様において、その陽性対照はハロゲン化ジフェニルエーテルである。さらに他の態様において、その陽性対照はトリクロサンである。
【0055】
[0057] 一部の態様において、その試験化合物は前記のマトリックスメタロプロテイナーゼ類の1種類以上の発現を前記の陽性対照より大きな程度まで下方制御する。さらなる態様において、その試験化合物はMMP−9、およびMMP−13の発現を前記の陽性対照より大きな程度まで下方制御する。さらにそれ以上の態様は、その試験化合物がMMP−8、MMP−9、およびMMP−13の発現をその陽性対照より大きな程度まで下方制御する方法を提供する。
【0056】
[0058] 一部の態様において、その陽性対照はMMP−8の発現を下方制御する。一部の態様において、その陽性対照はMMP−9の発現を下方制御する。さらに他の態様において、その陽性対照はMMP−13の発現を下方制御する。
【0057】
[0059] 本発明は下記の実施例においてさらに記述される。その実施例は単に説明的なものであり、記述され、特許請求される本発明の範囲を限定するものでは決して無い。
【実施例】
【0058】
実施例1:MMP−9の調製および特性付け
[0060] U937細胞およびRPMI 1640培養培地はATCCから得た。ヒトMMP−9 ELISAキット(QUANTIKINE)はR&D Systemsから得た。ウシ胎児血清(FBS)はVWRから得て、ペニシリン−ストレプトマイシン溶液および腫瘍壊死因子α(TNFα)はSigmaから得た。
【0059】
[0061] ヒト白血病U937単球性リンパ腫細胞を、10%FBSおよび1%ペニシリン−ストレプトマイシン溶液を補ったRPMI 1640培地中で培養した。細胞を5%CO2および95%空気を含む加湿した雰囲気中で37℃で培養した。処置の前に、細胞を1%FBSを含むRPMI中に一夜移した。細胞を48ウェルプレート上に蒔いた。細胞培養培地は、TNFα(250ng/mL)、トリクロサン(1ppm)のどちらかを、もしくは両方の薬剤を一緒に含んでいた、または薬剤を含んでいなかった(対照)。処置の後、細胞を24時間培養した。馴化培地(Conditioned media)を集め、分析まで−80℃で保管した。馴化培地の試料に対して、市販のELISAプロトコルに従ってMMP−9に関する酸素結合免疫吸着検査法(ELISA)を行った(図1)。
【0060】
[0062] TNFαで刺激したU937細胞は、MMP−9のレベルの増大をもたらした。1ppmでのトリクロサンは、TNFαで刺激したU937細胞においてMMP−9のレベルを有意に低減させた。
【0061】
[0063] 表1:トリクロサンのMMP−9産生への作用を示す、図1に関するデータ。
【0062】
【表1】

【0063】
実施例2:MMP−13の調製および特性付け
[0064] 副甲状腺ホルモン(ラットPTH 1−34)はSigmaから購入した。UMR 106−01細胞を、25mM Hepes pH7.4、1%非必須アミノ酸、100ユニット/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、5%ウシ胎児血清を補ったイーグル最小必須培地(EMEM)中で培養した。リアルタイム定量RT−PCRを次の方法に従って実施した:UMR 106−01細胞を12ウェルプレート中で蒔き、細胞培養培地中で2〜3日培養した。細胞がコンフルエントになったら、細胞飢餓(cell starvation)のため、細胞培養培地を一夜1%ウシ胎児血清と交換した。細胞をトリクロサンまたはトリクロサンを含む歯磨剤(例えば米国特許第4,894,220号、第5,032,386号、および関連する特許を参照)と共に15分間前保温し、次いでPTH(10−8M)と共に4時間保温した。
【0064】
[0065] PTHで刺激した、またはPTH無しのUMR 106−01細胞からTRIzol試薬を用いて全RNAを単離した。InvitrogenのSUPERSCRIPTキットを用いて、製造業者の説明書に従って全RNA(0.1μg)を逆転写してcDNAにした。プライマーを用いてcDNAに対してPCRを実施し、それの配列を表2に示す。それぞれのプライマー(0.2μM)および12.5μlのPlatinum SYBR Green qPCR SuperMix UDG (Invitrogen)を含むPCR混合物(22.5μl)に2.5μlのcDNAを添加することにより、全てのcDNAを増幅した。反応物を50℃で2分間前保温してUDGによりdUを含むDNAの混入を除去し(decontaminate)、次いで95℃で2分間前保温してUDGを不活性化し、Taqを活性化した。PCRプログラムは、95℃における変性を15秒間、60℃におけるプライマーのアニーリングおよび伸長を30秒間、を49サイクル続けた。遺伝子発現の相対的定量を2−デルタデルタCT法(2−delta delta CT method)を用いることにより決定し、ここで遺伝子発現の倍率変化は対照試料と比較してである。全ての試料はβ−アクチンに対して標準化された。
【0065】
[0066] 全ての結果を三つ組み(triplicate)測定の平均±標準誤差(S.E.)として表し、全ての実験を少なくとも3回繰り返した。Studentのt検定を用いて統計分析を行った。
【0066】
[0067] PTHで刺激したUMR細胞は、MMP−13の発現の増大をもたらした。10ppm、4ppm、および1ppmでのトリクロサンは、PTHで刺激したUMR細胞においてMMP−13の発現を有意に低減させた。10ppmのトリクロサンを含むトリクロサン含有歯磨剤スラリーは、PTHで刺激したUMR細胞においてMMP−13の発現を有意に低減させた。
【0067】
[0068] 表2:プライマー配列。
【0068】
【表2】

【0069】
[0069] 表3:トリクロサンがMMP−13の発現を阻害することを示す、図2に関するデータ
【0070】
【表3】

【0071】
[0070] 表4:トリクロサン含有歯磨剤がMMP−13の発現を阻害することを示す、図3に関するデータ
【0072】
【表4】

【0073】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔の疾患または病気を処置するのに有用な化合物を同定する方法であって、その方法が以下の:
口腔の疾患または病気を患う哺乳類から第1の歯肉試料を得て;
前記の哺乳類の口腔から第2の歯肉試料を得て;
前記の第1の試料を試験化合物と接触させ;
前記の第2の歯肉試料を陽性対照と接触させ、ここで前記の陽性対照は1種類以上のマトリックスメタロプロテイナーゼ類の発現を下方制御することが知られている化合物であり;
前記のマトリックスメタロプロテイナーゼ類の1種類以上の発現が前記の試験化合物により下方制御される程度を測定し;
前記のマトリックスメタロプロテイナーゼ類の1種類以上の発現が前記の陽性対照により下方制御される程度を測定し;そして
前記のマトリックスメタロプロテイナーゼ類の1種類以上の発現が前記の試験化合物により下方制御される程度を前記のマトリックスメタロプロテイナーゼ類の1種類以上の発現が前記の陽性対照により下方制御される程度と比較する;
ことを含み、前記のマトリックスメタロプロテイナーゼ類の1種類以上の発現を前記の陽性対照と同等の、またはより大きな程度まで下方制御する試験化合物が口腔の疾患または病気を処置するのに有用な化合物である、前記方法。
【請求項2】
前記の1種類以上のマトリックスメタロプロテイナーゼ類がMMP−8、MMP−9、およびMMP−13からなるグループから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記の陽性対照がMMP−8、MMP−9、およびMMP−13の発現を下方制御する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記の口腔の疾患または病気が歯肉炎または歯周炎である、前記の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記の陽性対照がハロゲン化ジフェニルエーテルである、前記の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
陽性対照がトリクロサンである、前記の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記の試験化合物が前記のマトリックスメタロプロテイナーゼ類の1種類以上の発現を前記の陽性対照より大きな程度まで下方制御する、前記の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記の試験化合物がMMP−9、およびMMP−13の発現を前記の陽性対照より大きな程度まで下方制御する、前記の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記の試験化合物がMMP−8、MMP−9、およびMMP−13の発現を前記の陽性対照より大きな程度まで下方制御する、前記の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記の陽性対照がMMP−8の発現を下方制御する、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記の陽性対照がMMP−9の発現を下方制御する、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記の陽性対照がMMP−13の発現を下方制御する、請求項2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−524884(P2012−524884A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503715(P2012−503715)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【国際出願番号】PCT/US2010/029670
【国際公開番号】WO2010/115031
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(590002611)コルゲート・パーモリブ・カンパニー (147)
【氏名又は名称原語表記】COLGATE−PALMOLIVE COMPANY
【Fターム(参考)】