説明

口腔用組成物及び口腔用組成物の製造方法

【課題】口腔内にフッ化物イオンを滞留させ、口腔用組成物中におけるフッ化物イオンの保存安定性に優れた口腔用組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)、カルシウム塩(B)及びフッ化物塩(C)を含有する水溶液中で形成される複合体であって、複合体中のリン酸イオン:カルシウムイオン:フッ化物イオンのモル比が、0.05〜4:0.25〜20:1である複合体を配合してなる口腔用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔用組成物及び口腔用組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯牙の主成分はハイドロキシアパタイト(Ca5(OH)(PO43)であり、口腔中においては、通常、リン酸イオンやカルシウムイオンの溶出(脱灰)と、リン酸カルシウムやハイドロキシアパタイトへの結晶化(再石灰化)が平衡状態にある。虫歯はこの平衡状態が口腔細菌の産生する有機酸により酸性化することで脱灰方向へと進むことから生じる。従って、平衡をハイドロキシアパタイト形成方向へ傾けることにより、即ち、カルシウムイオンやリン酸イオンを供給することで再石灰化を促進することができる。さらに、フッ化物イオンが存在することで、酸により脱灰しにくいフルオロアパタイトを形成するため、1ppm程度あれば初期う蝕を修復する効果があることも知られている。
【0003】
そのため、従来からフッ化物イオンを、水道水への微量添加(1ppm程度)、歯磨剤、洗口剤や歯間フロスへの配合、歯科医師による歯面への塗布等が行われてきている。中でも、う蝕予防効果は、水道水添加が効果的であることが言われているが、日本では規制により行われていない。一方、歯磨剤や洗口剤へ配合した場合には、唾液で流され口腔内にとどまることができないため、その効果は著しく低下する。しかしながら、歯磨剤や洗口剤の使用上の簡便性、経済性等から、広く使用されている。つまり、この手段(歯磨剤、洗口剤)を用いてう蝕を修復することが望まれており、これを実現する口腔用組成物の開発が必要とされている。
【0004】
歯磨剤や洗口剤に配合したフッ化物イオンの滞留性を向上させるために、再石灰化成分であるカルシウムイオン、フッ化物イオンを共存させる方法もとられている。しかしながら、カルシウムイオンとフッ化物イオンは特に反応性が高く、共存させると歯牙に対して作用する以前に不溶性物質であるフッ化カルシウムとなり、十分な効果を発揮することができない。また、フッ化物イオンとカルシウムイオンを口腔内で又は口腔への適用直前に当該2つの組成物を混合することより口腔内でフッ化カルシウムを生成させる形態の口腔用剤が提案されている(特許文献1:特開昭52−61236号公報参照、特許文献2:特開昭58−219107号公報参照、特許文献3:特開2003−128529号公報参照、特許文献4:特表平10−511956号公報参照、特許文献5:特表2002−500174号公報参照)。しかしながら、フッ化物イオンとして口腔内に入るため、すぐに唾液で流され再石灰化予防効果を得ることができない。また、無水キャリア中でのフッ化物イオンとカルシウムイオンを共存させておき、口腔内に適用されると唾液中にてフッ化カルシウムを生成させる形態の口腔用剤が提案されているが(特許文献6:特表2004−510802号公報参照)、十分に混合されずに口腔内に入るため、すぐに唾液に流されて再石灰化予防効果を得ることができない。さらに、フッ化物イオン供給化合物とモノフルオロリン酸イオン供給化合物の両方を配合した口腔衛生組成物(特許文献7:特開昭50−88244号号公報参照)や歯クリーム組成物(特許文献8:特開昭56−99408号公報参照)、フッ化物イオン供給化合物とモノフルオロリン酸イオン供給化合物、非晶質沈降シリカゲル、0.004重量%(40ppm)までのカルシウムイオンを供給するカルシウム源及びフィチン酸アルカリを含む歯みがき剤(特許文献9:特公平6−27060号公報参照)等の一剤型組成物も提案されているが、唾液に流され口腔内に滞留できないため、充分な効果は得られていない。
以上のことから、口腔内にフッ化物イオンを滞留させる技術が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特開昭52−61236号公報
【特許文献2】特開昭58−219107号公報
【特許文献3】特開2003−128529号公報
【特許文献4】特表平10−511956号公報
【特許文献5】特表2002−500174号公報
【特許文献6】特表2004−510802号公報
【特許文献7】特開昭50−88244号号公報
【特許文献8】特開昭56−99408号公報
【特許文献9】特公平6−27060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、う蝕の予防・修復を目的として、口腔内にフッ化物イオンを滞留させ、口腔用組成物中におけるフッ化物イオンの保存安定性に優れた口腔用組成物、及び口腔用組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)、カルシウム塩(B)及びフッ化物塩(C)を、水溶液中において特定の順序で混合することにより、リン原子、カルシウム原子及びフッ素原子を含有する複合体が形成されることを知見した。また、複合体中のリン酸イオン:カルシウムイオン:フッ化物イオンのモル比を0.05〜4:0.25〜20:1にし、上記複合体を予め調製して口腔用組成物に配合することで、口腔内にフッ化物イオンを滞留させることができ、口腔用組成物中におけるフッ化物イオンの保存安定性を向上させることができることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0008】
従って、本発明は下記発明を提供する。
[1].水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)、カルシウム塩(B)及びフッ化物塩(C)を含有する水溶液中で形成される複合体であって、複合体中のリン:カルシウム:フッ素の原子数比が、0.05〜4:0.25〜20:1である複合体を配合してなる口腔用組成物。
[2].複合体が、水中で(A)成分、(B)成分、(C)成分、又は(A)成分、(C)成分、(B)成分の順で(A)〜(C)成分を混合することにより得られうる複合体である[1]記載の口腔用組成物。
[3].下記(I)、(II)、(III)又は(IV)
(I)水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)水溶液に、カルシウム塩(B)水溶液を添加後、さらにフッ化物塩(C)水溶液を添加する
(II)水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)水溶液に、フッ化物塩(C)水溶液を添加後、さらにカルシウム塩(B)水溶液を添加する
(III)精製水に、水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)を添加後、カルシウム塩(B)を添加し、さらにフッ化物塩(C)を添加する
(IV)精製水に、水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)を添加後、フッ化物塩(C)を添加し、さらにカルシウム塩(B)を添加する
から得られうる複合体であって、複合体中のリン:カルシウム:フッ素の原子数比が、0.05〜4:0.25〜20:1である予め調製された複合体を配合してなる口腔用組成物。
[4].(A)成分が、ピロリン酸カリウム又はトリポリリン酸ナトリウムであることを特徴とする[1]、[2]又は[3]記載の口腔用組成物。
[5].(B)成分が、塩化カルシウムであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の口腔用組成物。
[6].(C)成分が、フッ化ナトリウムであることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の口腔用組成物。
[7].下記(I)、(II)、(III)及び(IV)
(I)水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)水溶液に、カルシウム塩(B)水溶液を添加後、さらにフッ化物塩(C)水溶液を添加する
(II)水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)水溶液に、フッ化物塩(C)水溶液を添加後、さらにカルシウム塩(B)水溶液を添加する
(III)精製水に、水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)を添加後、カルシウム塩(B)を添加し、さらにフッ化物塩(C)を添加する
(IV)精製水に、水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)を添加後、フッ化物塩(C)を添加し、さらにカルシウム塩(B)を添加する
から選ばれ、リン:カルシウム:フッ素の原子数比において、0.05〜4:0.25〜20:1で上記(A)〜(C)を添加して混合液を得る工程と、この混合液を配合する工程とを含む口腔用組成物の調製方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、口腔内にフッ化物イオンを滞留させることができ、口腔用組成物中におけるフッ化物イオンの保存安定性に優れた口腔用組成物、及び口腔用組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<(A)成分>
本発明の(A)成分は水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
水溶性ポリリン酸塩としては、下記一般式(1)
n+2n3n+1 (1)
(但し、MはNa又はKを示し、nは2以上の整数である。)
で表される直鎖状のポリリン酸塩及び下記一般式(2)
(MPO3m (2)
(但し、MはNa又はKを示し、mは3以上の整数である。)
で表される環状のポリリン酸塩が挙げられる。
【0011】
一般式(1)で表される直鎖状のポリリン酸塩としては、重合度n=2のピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、n=3のトリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム、n=4のテトラポリリン酸ナトリウムやテトラポリリン酸カリウム等の直鎖状のポリリン酸塩が挙げられる。
【0012】
一般式(2)で表される環状のポリリン酸塩としては、重合度m=3のトリメタリン酸ナトリウム、トリメタリン酸カリウム、m=4のテトラメタリン酸ナトリウム、テトラメタリン酸カリウム、m=6のヘキサメタリン酸ナトリウムやヘキサメタリン酸カリウム等の環状ポリリン酸塩等が挙げられる。
【0013】
フィチン酸化合物は、myo−イノシトールのヘキサリン酸エステルのことで、植物界に広く存在する有機リン酸エステルであり、本発明においては、フィチン酸そのものでもよく、また、その遊離酸基を塩基で中和したものやエステル化したものでもよい。具体的な化合物としては、フィチン酸、フィチン酸ナトリウム、フィチン酸カリウム、フィチン酸リチウム、フィチン酸マグネシウム、フィチン酸アンモニウム、フィチン酸のエタノールアミン中和物、フィチン酸とアルコールのエステル類等が挙げられる。
【0014】
(A)成分としては、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸カリウムが好ましい。
【0015】
<(B)成分>
本発明の(B)成分はカルシウム塩であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。カルシウム塩としては水溶性カルシウム塩が好ましく、例えば、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、ギ酸カルシウム、フマル酸カルシウム、乳酸カルシウム、酪酸カルシウム及びイソ酪酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、マレイン酸カルシウム、プロピロン酸カルシウム、吉草酸カルシウム等が挙げられる。この中でも、塩化カルシウムが好ましい。
【0016】
<(C)成分>
本発明の(C)成分はフッ化物塩であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。フッ化物塩としては、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム等のアルカリ金属フッ化物、フルオロジルコン酸ナトリウム、フルオロジルコン酸カリウム、フルオロジルコン酸アンモニウム、フルオロジルコン酸錫等のフルオロジルコン酸塩、フッ化アンモニウム、フッ化錫、フッ化インジウム、フッ化ジルコニウム、フッ化銅、フッ化ニッケル、フッ化パラジウム、フルオロケイ酸塩、フルオロホウ酸塩、フルオロ亜錫酸塩等が挙げられる。この中でも、フッ化ナトリウムが好ましい。
【0017】
<複合体>
本発明の複合体は、水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸(A)、カルシウム塩(B)及びフッ化物塩(C)を含有する水溶液中で形成され、複合体中のリン:カルシウム:フッ素の原子数比が、0.05〜4:0.25〜20:1である複合体である。複合体は、水中で、(A)成分、(B)成分、(C)成分、又は(A)成分、(C)成分、(B)成分の順で混合して得ることができ、例えば、下記(I)、(II)、(III)又は(IV)により得られうる複合体であって、複合体中のリン:カルシウム:フッ素の原子数比が、0.05〜4:0.25〜20:1である予め調製された複合体である。
(I)水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)水溶液に、カルシウム塩(B)水溶液を添加後、さらにフッ化物塩(C)水溶液を添加する。
(II)水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)水溶液に、フッ化物塩(C)水溶液を添加後、さらにカルシウム塩(B)水溶液を添加する。
(III)精製水に、水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)を添加後、カルシウム塩(B)を添加し、さらにフッ化物塩(C)を添加する。
(IV)精製水に、水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)を添加後、フッ化物塩(C)を添加し、さらにカルシウム塩(B)を添加する。
【0018】
リン、カルシウム及びフッ素原子を含む複合体が形成されず、不溶性物質であるフッ化カルシウムが形成されても、フッ化物イオンを放出することができず、フッ化ナトリウム等の水溶性のフッ化物では、口腔内で適用した場合にすぐに洗い流されてしまい、口腔内にフッ化物イオンを滞留させることができない。上記、水溶液中で形成されたリン、カルシウム及びフッ素原子を含む複合体は、口腔内への付着性を有し、かつフッ化物イオンを放出することができるため、口腔内にフッ化物イオンを長時間にわたり滞留させることができる。
【0019】
複合体中のリン:カルシウム:フッ素の原子数比が、0.05〜4:0.25〜20:1であり、0.10〜3:0.3〜15:1が好ましく、0.1〜2:0.5〜10:1がより好ましく、特に好ましくは0.3〜2:1〜10:1である。リン:カルシウム:フッ素の原子数比が0.05〜4:0.25〜20:1の範囲外になると、口腔内にフッ化物イオンを滞留させる効果が不十分となる。
【0020】
複合体の調製方法としては、水中で、(A)成分、(B)成分、(C)成分、又は(A)成分、(C)成分、(B)成分の順で混合すればよく、上記(I)、(II)、(III)及び(IV)から選ばれ、リン:カルシウム:フッ素の原子数比において、0.05〜4:0.25〜20:1で上記(A)〜(C)を添加して、(A)〜(C)混合液を調製する方法が挙げられる。この中でも、特に(I)の方法が好ましい。(A)〜(C)成分の配合量は目的とする上記原子数比に応じて選定される。水溶液中で予め(A)〜(C)成分のみを混合するという操作を行わずに、口腔用組成物中に別々に配合した場合や、上記順序以外の方法、例えば、カルシウム塩(B)水溶液又はフッ化物塩(C)水溶液添加後に、水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸(A)水溶液を添加すると、複合体は形成されない。
【0021】
(I)又は(II)の場合
水溶液中の各成分の濃度は、最終濃度に合わせ適宜選定されるが、水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸(A)水溶液(以下、水溶液(A))は、0.1〜40質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜20質量%であり、カルシウム塩(B)水溶液(以下、水溶液(B))は、0.1〜45質量%が好ましく、より好ましくは1.0〜20質量%であり、フッ化物塩(C)水溶液(以下、水溶液(C))は、0.1〜4.1質量%が好ましく、より好ましくは1.0〜4.0質量%である。水溶液(A)、水溶液(B)及び水溶液(C)の添加は、撹拌しながら行うことが好ましく、水溶液(A)を精製水に添加してもよい。
【0022】
(III)、(IV)の場合
(A)〜(C)成分の添加は撹拌しながら行うことが好ましい。
【0023】
添加時の温度は特に限定されず、15〜30℃であり、添加後の混合液のpH(25℃)は2.5〜5.4、好ましくは3.0〜5.0に調整することが好ましい。なお、pH調整は、(I)又は(II)の場合、水溶液(A)、水溶液(B)及び水溶液(C)をそれぞれ調整してもよく、添加後の混合液を調整してもよいが、水溶液(A)、(B)及び(C)をそれぞれ添加前に調整して、最終的な混合液が上記pHの範囲になるように調整することが好ましい。
(III)又は(IV)の場合は、精製水に(A)成分を添加後、又は(B)成分を添加後にそれぞれ調整してもよく、添加後の混合液を調整してもよいが、精製水に(A)を添加後、又は(B)を添加後にそれぞれ調整して、最終的な混合液が上記pHの範囲になるように調整することが好ましい。
【0024】
pH調整剤としては、塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸水素ナトリウム等が挙げられ、また、ピロリン酸等のポリリン酸を(A)成分として、pH調整剤を兼ねて用いてもよい。
【0025】
複合体の形成は、X線結晶構造解析による結晶子径と、熱量測定(TG−DTA測定)による450℃付近のリン酸基近傍の結晶水が脱離する際の発熱ピークを観測することで確認できる。つまり、複合体が形成すると、CaF2に帰属する回折ピークから求められる結晶子径がリン酸基との複合化により、10nm未満になる。また、結晶水のピークが生じることは、X線結晶構造解析で見られるCaF2がカルシウムとフッ化物イオンのみからなる結晶ではなく、リン酸基が相互作用した複合体を形成していることを示している。
【0026】
具体的には下記方法(1)で結晶子径が10nm未満であり、かつ下記方法(2)で450℃の発熱ピークの存在により、複合体の形成が確認される。
(1)結晶子径
試料を、X線構造回折装置(光源Cu:Kα、40kV、20mA、発散スリット1/2deg、散乱スリット1/2deg、受光スリット0.15mm、スキャンスピード4.000°/min、2θ=2.000〜80.000°)で測定し、以下の式(Scherrerの式)より結晶子径を算出し、複合体形成の有無を評価した。
L=Kλ/(βcosθ)
L:結晶子径、K:係数0.9、β:半値幅、λ:1.54056Å、θ:回折角
(2)TG−DTA測定(発熱ピーク)
昇温スピード:5℃/min、測定範囲:25℃〜600℃
【0027】
<口腔用組成物>
本発明の口腔用組成物は、上記予め調製された複合体を配合してなる口腔用組成物である。口腔用組成物としては、上記(A)〜(C)混合液を用いてもよいが、予め調製された(A)〜(C)混合液に、後述の口腔用組成物に通常含まれる成分を適宜配合してもよい。
【0028】
(A)成分の配合量は、口腔用組成物中0.004〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.01〜2質量%である。0.004質量%に満たないと添加効果が得られない場合があり、10質量%を超えると、味が悪くなる場合がある。
【0029】
(B)成分の配合量は、口腔用組成物中0.01〜15質量%が好ましく、より好ましくは0.05〜10質量%である。0.01質量%に満たないと添加効果が得られないおそれがあり、15質量%を超えると味が悪くなる場合がある。
【0030】
(C)成分の配合量は、口腔用組成物中0.01〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.05〜1質量%である。配合量が0.01質量%に満たないと添加効果が得られない。
【0031】
例えば、特に好ましい例としては、(A)成分としてピロリン酸カリウム、(B)成分として塩化カルシウム、(C)成分としてフッ化ナトリウムを用いて、リン:カルシウム:フッ素の原子数比0.3〜2:1〜10:1の複合体を形成して配合する場合、(A)0.027〜2.3質量%(歯磨剤;0.20〜2.3質量%、洗口剤;0.027〜1.4質量%)、(B)0.05〜6.8質量%(歯磨剤;0.4〜6.8質量%、洗口剤;0.05〜4.1質量%)、(C)0.02〜0.25質量%(歯磨剤;0.15〜0.25質量%、洗口剤;0.02〜0.15質量%)であり、(A)成分としてトリポリリン酸ナトリウム、(B)成分として塩化カルシウム、(C)成分としてフッ化ナトリウムを用いて、リン:カルシウム:フッ素の原子数比0.3〜2:1〜10:1の複合体を形成して配合する場合、(A)0.02〜1.65質量%(歯磨剤;0.15〜1.65質量%、洗口剤;0.02〜0.99質量%)、(B)0.05〜6.8質量%(歯磨剤;0.4〜6.8%、洗口剤;0.05〜4.1質量%)、(C)0.02〜0.25質量%(歯磨剤;0.15〜0.25質量%、洗口剤;0.02〜0.15質量%)が挙げられる。
【0032】
口腔用組成物としては、上記複合体の他に研磨剤、粘稠剤及び界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上の成分を配合することができ、練り歯磨、液状歯磨等の歯磨剤、デンタルクリーム、デンタル美白パック、洗口剤、デンタル美白液、ガム等に調製することができる。本発明の口腔用組成物には、研磨剤、粘結剤、粘稠剤、界面活性剤、甘味料、香料、保存料、ガムベース、エタノール、水等を、本発明の効果を損なわない範囲で常用量を配合し得る。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができ、口腔用組成物の種類に応じた成分を配合することができ、歯磨剤としては粘稠剤、洗口剤としては粘稠剤又はエタノール、ガムとしてはガムベースを配合することが好ましい。
【0033】
研磨剤としては、シリカゲル、沈降シリカ、アルミノシリケート等のシリカ系研磨剤、第2リン酸カルシウム2水和物及び無水和物、第3リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、第3リン酸カルシウム、第4リン酸カルシウム、無水ケイ酸、含水ケイ酸、ケイ酸チタニウム、ケイ酸ジルコニウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、その他の合成樹脂等が挙げられる。研磨剤の口腔用組成物中の配合量は、通常3〜90質量%である。
【0034】
粘結剤としては、カラギーナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコール等のアルギン酸誘導体、キサンタンガム、ジュエランガム、トラガントガム、カラヤガム等のガム類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー等の合成粘結剤、シリカゲル、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、合成ケイ酸ナトリウム・マグネシウム等の無機粘結剤等が挙げられる。
【0035】
粘稠剤としては、グリセリン、ソルビット、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、キシリトール、マルチール、ラクチトール、エリスリトール等の多価アルコール等が挙げられる。粘稠剤の口腔用組成物中の配合量は、通常1〜70質量%である。
【0036】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等が挙げられ、具体的には、ラウリル硫酸ナトリウム、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム、N−アシルサルコシネート、N−アシルグルタメート、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、N−アシルタウレート、ショ糖脂肪酸エステル、アルキロールアマイド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンスルビタンモノステアレート、プロピレンオキサイド−エチレンオキサイドブロックポリマー等が挙げられる。界面活性剤の口腔用組成物中の配合量は、通常0.01〜7質量%である。
【0037】
甘味料としては、サッカリンナトリウム、ステビオサイド、ステビアエキス、パラメトキシシンナミックアルデヒド、ネオヘスペリジルヒドロカルコン、ペルラルチン、グリチルリチン、ソーマチン、アスパラチルフェニルアラニンメチルエステル等が挙げられる。
【0038】
香料成分としては、メントール、アネトール、カルボン、オイゲノール、リモネン、n−デシルアルコール、シトロネロール、α−テルピネオール、シネオール、リナロール、エチルリナロール、ワニリン、チモール、ペパーミント油、スペアミント油、ウインターグリーン油、カシア油、クローブ油、丁字油、ユーカリ油等の香料を単独で又は組み合わせて配合し得るほか、サッカリンナトリウム、ステビオサイド、グリチルリチン、ペリラルチン、ソーマチン等が挙げられる。
【0039】
また、クロルヘキシジンベンゼトニウムクロライド、ベンザルコニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、デカニウムクロライド等の陽イオン性殺菌剤、トリクロサン、ヒノキチオール、イソプロピルメチルフェノール等のフェノール性化合物、デキストラナーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、アミラーゼ、プロテアーゼ、溶菌酵素、スーパーオキサイドディスムターゼ等の酵素、ビタミンE、ビタミンB6等のビタミン類、トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸、アルミにウムクロルヒドロキスルアラントイン、ジヒドロコレスタノール、グリチルリチン酸類、グリチルレチン酸、ビサボロール、グリセロフォスフェート、クロロフィル、塩化ナトリウム等の公知の有効成分を1種又は2種以上配合し得る。
【0040】
本発明は、水中で、(A)成分、(B)成分、(C)成分、又は(A)成分、(C)成分、(B)成分の順で、かつリン:カルシウム:フッ素の原子数比において、0.05〜4:0.25〜20:1で上記(A)〜(C)成分を添加して混合液を得る工程と、この混合液を配合する工程とを含む口腔用組成物の製造方法を提供する。具体的には下記製造方法を提供する。
下記(I)、(II)、(III)及び(IV)
(I)水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)水溶液に、カルシウム塩(B)水溶液を添加後、さらにフッ化物塩(C)水溶液を添加する
(II)水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)水溶液に、フッ化物塩(C)水溶液を添加後、さらにカルシウム塩(B)水溶液を添加する
(III)精製水に、水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)を添加後、カルシウム塩(B)を添加し、さらにフッ化物塩(C)を添加する
(IV)精製水に、水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)を添加後、フッ化物塩(C)を添加し、さらにカルシウム塩(B)を添加する
から選ばれ、リン:カルシウム:フッ素の原子数比において、0.05〜4:0.25〜20:1で上記(A)〜(C)成分を添加して混合液を得る工程と、この混合液を配合する工程とを含む口腔用組成物の製造方法を提供する。
【0041】
上記(A)〜(C)成分を添加して(A)〜(C)成分混合液を得る工程及び好適な範囲は、上記複合体の調製方法と同様であり、(A)〜(C)成分の配合量は目的とする配合比率に合わせて適宜選定される。この(A)〜(C)混合液を配合する工程としては、上記予め調製された(A)〜(C)混合液と、研磨剤、粘稠剤及び界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上とを混合する方法等が挙げられる。歯磨剤としては粘稠剤、洗口剤としては粘稠剤又はエタノール、ガムとしてはガムベースを配合することが好ましい。より具体的な、(A)〜(C)混合液を配合する工程の例としては、(A)〜(C)混合液に、多価アルコール等の水溶性成分を添加後、別途調製した、多価アルコールに粘結剤を分散させた溶液を添加し、さらに界面活性剤及び研磨剤を添加する方法等が挙げられる。
【実施例】
【0042】
以下、調製例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において特に明記のない場合は、組成の「%」は質量%を示す。
【0043】
[調製例1〜34、比較調製例1〜10]
表1〜6に示す(A)成分2.0%水溶液、(B)成分5.0%水溶液、(C)成分2.0%水溶液を調製した。表中の最終濃度及び混合液pHとなるように、精製水中に表中の添加順序で撹拌しながら添加し、(A)〜(C)成分の混合液を得た。なお、添加順序は表中の番号順であり、表中の「混合液の調製方法」は下記方法である。
(I)水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)水溶液に、カルシウム塩(B)水溶液を添加後、さらにフッ化物塩(C)水溶液を添加する。
(II)水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)水溶液に、フッ化物塩(C)水溶液を添加後、さらにカルシウム塩(B)水溶液を添加する。
(III)精製水に、水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)を添加後、カルシウム塩(B)を添加し、さらにフッ化物塩(C)を添加する。
(IV)精製水に、水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)を添加後、フッ化物塩(C)を添加し、さらにカルシウム塩(B)を添加する。
【0044】
上記混合液中に複合体が形成されているか否かを下記方法で確認した。
(1)結晶子径
調製例で得られた(A)〜(C)成分の混合液をろ過(ADVANTEC製 孔径0.1μm)し、乾燥後、X線構造回折装置((株)理学電機製 RINT2100)を用いて測定した。条件は、光源Cu:Kα、40kV、20mA、発散スリット1/2deg、散乱スリット1/2deg、受光スリット0.15mm、スキャンスピード4.000°/min、2θ=2.000〜80.000°)であり、結晶子径を算出した。
複合体が形成した場合、CaF2に帰属するd=3.1546(111)の回折ピークから求められる結晶子径が、リン酸化合物との複合化により10nm未満になる。以下の式(Scherrerの式)より結晶子径を算出し、複合体形成の有無を評価した。
L=Kλ/(βcosθ)
L:結晶子径、K:係数0.9、β:半値幅、λ:1.54056Å、θ:回折角
<評価基準>
◎:L<5nm
○:5nm≦L<10nm
△:10nm≦L<30nm
×:30nm≦L又は結晶ピークなし
【0045】
(2)TG−DTA測定(発熱ピーク)
調製例で得られた(A)〜(C)成分の混合液をろ過(ADVANTEC製 孔径0.1μm)し、TG−DTA測定を行った。条件は昇温スピード:5℃/min、測定範囲:25℃−600℃)で行った。複合体が形成されると、複合体中に含まれるリン酸基近傍の結晶水が脱離するため、450℃付近に脱離する際の発熱ピークが見られることから、ピークの有無を以下の基準で評価した。図1に調製例17、ピロリン酸カルシウム及びCaF2のTG−DTA測定結果を示す。
<評価基準>
○:発熱ピークあり
×:発熱ピークなし
なお、上記評価により結晶子径が「○」又は「◎」、かつTG−DTA測定が「○」のものを複合体形成有りとした。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【0051】
【表6】

【0052】
[実施例1〜17、比較例1〜9]
表7〜9に示す組成の歯磨剤を下記方法で調製した。
表中に記載の調製例と同様の方法で、最終濃度となるように(A)〜(C)の混合液を予め調製した。この混合液に、水溶性成分(キシリトール、70%ソルビット液等)を添加し溶解させたA相を調製した。一方、プロピレングリコール中に、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム等を常温で溶解・分散させたB相を調製した。次に、撹拌中のA相の中にB相を添加混合しC相を調製した。C相中に、香料、無水ケイ酸、酸化チタン、酸化アルミニウム、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、及びその他の成分(ラウリル硫酸ナトリウム等)を添加し、1.5Lニーダー(石山工作所製)を用い常温で混合し、4kPaまで減圧し脱泡を行うことで、練り歯磨剤1.0kgを得た。得られた歯磨剤について、下記評価を行った。結果を表中に併記する。
【0053】
(3)フッ化物イオン(F-)滞留性
唾液コートした基板上でのフッ化物イオン(F-)滞留性を評価した。
ポリエチレン板(以下、PE板と略す)(8cm×5cm)上に、ヒトの吐出唾液2mLを添加し、30分間処理した。その後、イオン交換水で洗浄を行い、ペリクル化PE板を作製した。
歯磨剤10gを吐出唾液30gに分散し歯磨分散液Aを得た。この歯磨分散液Aを2g、ペリクル化PE板に載せて30分間処理し、吐出唾液15gで洗浄を行い、処理後クエン酸バッファーでペリクル化PE板に吸着している複合体を可溶化させ、そのフッ化物イオン(F-)濃度を測定した。
フッ化物イオン(F-)濃度測定は、各試料をフッ化物イオン(F-)濃度が1000ppm以内に入るように、予めクエン酸バッファーで5倍希釈した。これを、フッ化物イオンを吸着させないように、ポリスチレン製の24穴プレートに約0.5g入れて、F-濃度測定装置(サーモエレクトロン製 Orion 9609BNWPフッ素複合電極)を使用して、室温で測定し、3分後の値をF-濃度とした。測定値から以下評価基準を用い、フッ化物イオン(F-)滞留性を評価した。
<評価基準>
◎:1ppm≦F-濃度
○:0.5ppm≦F-濃度<1ppm
△:0.1ppm≦F-濃度<0.5ppm
×:F-濃度<0.1ppm
【0054】
(4)フッ化物イオン(F-)保存安定性
歯磨剤中のフッ化物イオン(F-)の保存安定性について評価した。
40℃・3ヶ月間保存した歯磨剤4gを蒸留水36gに分散し、歯磨分散液Bとした。
この歯磨剤分散液Bのフッ化物イオン(F-)濃度を測定した。フッ化物イオン(F-)濃度測定は、上記(3)フッ化物イオン(F-)滞留性で記載の方法を用いた。測定値から以下評価基準に従い、フッ化物イオン(F-)保存安定性を評価した。
<評価基準>
-濃度変化率=(1−F-濃度測定値)/F-濃度理論濃度)×100
◎:0%≦F-濃度変化率<5.0%
○:5.0%≦F-濃度変化率<10%
△:10%≦F-濃度変化率<20%
×:20%≦F-濃度
【0055】
【表7】

【0056】
【表8】

【0057】
【表9】

【0058】
実施例10及び比較例9の歯磨剤のフッ化物イオン(F-)滞留放出性について、下記方法で評価した。
(5)フッ化物イオン(F-)滞留放出性
歯磨剤1gを人工唾液3g(CaCl2=1.5mmol/L、KH2PO4=5.0mmol/L、酢酸=100mmol/L、NaCl=100mmol/L、残部=水;pH7.0)を混合し(口腔内で4倍希釈される歯磨剤を想定)、歯磨分散液Cを得た。この歯磨分散液Cを0.2g、プライマリアコートされた100mmのスタンダードディッシュ(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社;口腔粘膜、ペリクル等の口腔内環境を想定)に注入した。これを30分間処理した後、人工唾液(滴下速度0.32mL/min)を6時間滴下し、オーバーフローで流した(落下速度0.32mL/min)。6時間後、容器に残存した溶液を回収し、そのフッ化物イオン(F-)濃度を測定した。フッ化物イオン(F-)濃度測定は、上記(3)フッ化物イオン(F-)滞留性で記載の方法を用いた。フッ化物イオン(F-)濃度と残存溶液量とから、下記式に基づき残存溶液中のフッ化物イオン(F-)量を算出した。
フッ化物イオン(F-)量(μg)=残存溶液量(g)×残存溶液のフッ化物イオン(F-)濃度(ppm)
得られたフッ化物イオン(F-)量から、以下評価基準に従い、フッ化物イオン(F-)滞留放出性を評価した。結果を表10に示す。
<評価基準>
◎:10.0μg≦フッ化物イオン(F-)量
○:5.0μg≦フッ化物イオン(F-)量<10.0μg
△:1.0μg≦フッ化物イオン(F-)量<5.0μg
×:フッ化物イオン(F-)量<1.0μg
この評価系において「○」以上の結果が得られるということは、フッ化カルシウムのようなフッ化物イオンを放出できないものではなく、かつ口腔内で適用した場合にすぐに洗い流しまう水溶性のフッ化ナトリウム等ではない複合体の形成が示唆される。
【0059】
【表10】

【0060】
[実施例18,19、比較例10,11]
表11に示す組成の液状歯磨剤を以下の方法で調製した。
表11に示す(A)成分2.0%水溶液、(B)成分5.0%水溶液、(C)成分2.0%水溶液を調製し、それぞれpH7に調整した。精製水中にこれらの水溶液を、表中の最終濃度となるように、表中に示す調製法の添加順序と同様に撹拌しながら添加し、(A)〜(C)成分の混合液を得た。この混合液に、甘味料(サッカリンナトリウム等)、粘稠剤(グリセリン等(プロピレングリコール以外))等の水溶性物質を溶解させた後、予めプロピレングリコールに粘結剤(キサンタンガム、ポリアクリル酸ナトリウム等)、保存料(パラオキシ安息香酸ブチル等)を分散させておいた液を加え撹拌した。その後、香料、無水ケイ酸を順次加え、さらに減圧下(4kPa)で撹拌し、液状練歯磨組成物を得た。製造にはユニミキサー(FM−SR−25,POWEREX CORPORATION社)を用いた。
得られた液状歯磨剤について、上記評価(3)及び(4)の評価を行った。結果を表中に併記する。
【0061】
【表11】

【0062】
[実施例20,21、比較例12,13]
表12に示す組成の洗口剤を以下の方法で調製した。
表12に示す(A)成分2.0%水溶液、(B)成分5.0%水溶液、(C)成分2.0%水溶液を調製し、それぞれpH7に調整した。精製水中にこれらの水溶液を、表中の最終濃度となるように、表中に示す調製法の添加順序と同様に撹拌しながら添加し、(A)〜(C)成分の混合液を得た。さらに、この混合液に、表12に示す洗口剤成分を順に撹拌しながら添加し、複合体配合洗口剤を調製した。
得られた洗口剤について、上記評価(3)及び(4)と同様の評価を行った。なお、評価(3)については、洗口剤2gを、ペリクル化PE板に載せて30分間処理し、洗口剤を除去後、クエン酸バッファーでペリクル化PE板に吸着している複合体を可溶化させ、そのフッ化物イオン(F-)濃度を測定した。結果を表中に併記する。
【0063】
【表12】

【0064】
[実施例22,23]
表13に示す組成のガムを以下の方法で調製した。
表13に示す(A)成分2.0%水溶液、(B)成分5.0%水溶液、(C)成分2.0%水溶液を調製し、それぞれpH7に調整した。精製水中にこれらの水溶液を、表中の最終濃度となるように、表中に示す調製法の添加順序と同様に撹拌しながら添加し、(A)〜(C)成分の混合液を得た。次に、ガムベース用樹脂を主成分とし、ワックス、乳化剤、充填剤等からなるガムベースに、調製した混合液、さらに必要により所定量の甘味料(キシリトール等)、香料等の添加剤を加えた。50℃前後にてニーダーを用いて均一に混練し、次いで、板状に切断し、複合体配合ガムを調製した。
得られたガムについて、上記評価(3)及び(4)と同様に評価を行ったところ、いずれも優れたフッ化物イオン(F-)滞留性とフッ化物イオン(F-)保存安定性が認められた。
【0065】
【表13】

【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】調製例17、ピロリン酸カルシウム及びCaF2のTG−DTA測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)、カルシウム塩(B)及びフッ化物塩(C)を含有する水溶液中で形成される複合体であって、複合体中のリン:カルシウム:フッ素の原子数比が、0.05〜4:0.25〜20:1である複合体を配合してなる口腔用組成物。
【請求項2】
複合体が、水中で(A)成分、(B)成分、(C)成分、又は(A)成分、(C)成分、(B)成分の順で(A)〜(C)成分を混合することにより得られうる複合体である請求項1記載の口腔用組成物。
【請求項3】
下記(I)、(II)、(III)又は(IV)
(I)水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)水溶液に、カルシウム塩(B)水溶液を添加後、さらにフッ化物塩(C)水溶液を添加する
(II)水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)水溶液に、フッ化物塩(C)水溶液を添加後、さらにカルシウム塩(B)水溶液を添加する
(III)精製水に、水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)を添加後、カルシウム塩(B)を添加し、さらにフッ化物塩(C)を添加する
(IV)精製水に、水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)を添加後、フッ化物塩(C)を添加し、さらにカルシウム塩(B)を添加する
から得られうる複合体であって、複合体中のリン:カルシウム:フッ素の原子数比が、0.05〜4:0.25〜20:1である予め調製された複合体を配合してなる口腔用組成物。
【請求項4】
(A)成分が、ピロリン酸カリウム又はトリポリリン酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の口腔用組成物。
【請求項5】
(B)成分が、塩化カルシウムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項6】
(C)成分が、フッ化ナトリウムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項7】
下記(I)、(II)、(III)及び(IV)
(I)水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)水溶液に、カルシウム塩(B)水溶液を添加後、さらにフッ化物塩(C)水溶液を添加する
(II)水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)水溶液に、フッ化物塩(C)水溶液を添加後、さらにカルシウム塩(B)水溶液を添加する
(III)精製水に、水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)を添加後、カルシウム塩(B)を添加し、さらにフッ化物塩(C)を添加する
(IV)精製水に、水溶性ポリリン酸塩又はフィチン酸化合物(A)を添加後、フッ化物塩(C)を添加し、さらにカルシウム塩(B)を添加する
から選ばれ、リン:カルシウム:フッ素の原子数比において、0.05〜4:0.25〜20:1で上記(A)〜(C)を添加して混合液を得る工程と、この混合液を配合する工程とを含む口腔用組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−137863(P2009−137863A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314573(P2007−314573)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】