説明

口腔用組成物

【課題】 むし歯予防効果に優れる口腔用剤の提供。
【解決手段】 式(A)
【化1】


(式中、Rは炭素数1〜5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、Gはガラクトース残基を示し、nは1〜30の整数を示す。)で表される化合物を含有する口腔用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、むし歯予防効果に優れる口腔用組成物及びフゾバクテリウム属細菌とう蝕原因菌との共凝集抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕は、病原性細菌の歯面への付着、定着により発症へと向かう口腔内感染症としての一面を有する。口腔細菌の歯面への定着機構は、先ず、唾液の薄膜(ペリクル)によって覆われたエナメル質表面に、ストレプトコッカス オラリス、ストレプトコッカス サンガイス、ストレプトコッカス ゴードニィ、アクチノマイセス ナエスランディ等の初期定着細菌が吸着する。そして、これら初期定着細菌は増殖に伴って互いに共凝集(co-aggregation)を起こし、歯垢(プラーク)の形成を開始する。次いで、プラークの成熟化に伴い、微生物菌叢が通性嫌気性菌から偏性嫌気性菌へと遷移し、フゾバクテリウム ヌクレアタムに代表される偏性嫌気性菌が初期定着細菌に共凝集する。そして、当該フゾバクテリウム ヌクレアタムにアクチノバシルス アクノマイセテムコミタンス、ポルフィロモナス ジンジバリス、プレボテラ インターメディア等の歯周病関連細菌がさらに共凝集し、定着すると考えられている。さらに、Takemotoらは、う蝕関連細菌であるストレプトコッカス ミュータンス、ストレプトコッカス ソブリナス等もフゾバクテリウム ヌクレアタムと共凝集することから、同様の定着機序を有することを示唆した(非特許文献1)。
【0003】
斯かる共凝集は、細菌同士のレクチン・レセプター型相互作用、非特異的静電気的相互作用や粘着性多糖合成による付着作用、非特異性疎水的相互作用によって引き起こされるものである。プラークを形成する口腔細菌は、腸内細菌や皮膚常在細菌と異なり口腔特有の菌叢からなることから、病原性細菌の歯面への定着においては、レクチン・レセプター型相互作用が特に重要な役割を果たしていると考えられている。このレクチン・レセプター型相互作用とは、通常細菌表層結合タンパク質であるアドヘシンと他の細菌表層上のレセプター構造との立体特異的な相互作用であり、その多くは炭化水素特異的結合を呈する。
【0004】
歯垢を形成する細菌の最も一般的なレクチンはラクトース感受性アドヘシンであり、ラクトース中のβ−ガラクトシドを特異的に認識する。ラクトース感受性アドヘシンは広汎な口腔細菌に存在し、アクチノマイセス属、ストレプトコッカス属、ポルフィロモナス属、プレヴォテラ属、フゾバクテリウム属、ヘモフィリス属、カプノサイトファーガ属、ヴェイロネラ属、ナイセリア属、セレノモナス属などの共凝集に関与している。(非特許文献2)
【0005】
口腔内感染症の予防手段としては、従来から、病原性細菌の歯面への定着を阻害することが有力であると考えられており、例えばガラクトースやラクトースを用いて歯垢の歯牙付着抑制効果を図ること(特許文献1)、抗菌性を有する炭素数10〜16の脂肪酸の少なくとも1種とフルクトース又はガラクトースとがエステル結合した脂肪酸糖エステルを用いること(特許文献2)等が報告されている。
【特許文献1】特公昭58−11924号公報
【特許文献2】特開2000−159675号公報
【非特許文献1】Journal of Periodontal Research 、 Vol.30、p252−257
【非特許文献2】Infection and Immunity , Vol.57 , p3194−3203
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のガラクトースやラクトースは口内で口腔細菌によりう蝕の原因となる酸を生成する点で好ましくなく、特許文献2に記載の脂肪酸糖エステルも、口腔用組成物の配合成分や口腔内において加水分解を受けると、フルクトースやガラクトースを生成するため、同様の問題があった。
従って、本発明の目的は、う蝕原因菌に対する強力な共凝集抑制作用を有し、歯垢の形成を防止し、かつ口腔内で酸を生成しない成分を含有する口腔用組成物を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、種々の成分について、フゾバクテリウム ヌクレアタム属細菌とう蝕原因菌の共凝集の抑制や口腔内での酸の生成について検討したところ、式(A)で表される化合物が強力な共凝集抑制作用を有し、かつ口腔内で酸を生成しないことから、これを配合すればう蝕予防に有用な口腔用組成物が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、 式(A)
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Rは炭素数1〜5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、Gはガラクトース残基を示し、nは1〜30の整数を示す。)で表される化合物を含有する口腔用組成物を提供するものである。
また、本発明は、式(A)で表される化合物を有効成分とするフゾバクテリウム属細菌とう蝕原因菌との共凝集抑制剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組成物を用いれば、歯垢中のう蝕原因菌を共凝集抑制作用により低減し、かつ酸を生成しないので、歯垢が脆弱化し、プラークコントロールが容易になり、むし歯等の予防が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に用いられる式(A)で表される化合物は、炭素数1〜5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基に、1つ以上のガラクトース残基がα−配置もしくはβ−配置でエーテル結合した化合物である。炭素数1〜5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基等が挙げられる。
ガラクトースの縮合度を示すnは、1〜30の整数であるが、共凝集抑制効果の点から1〜6が好ましく、1〜3がより好ましい。また、糖鎖末端がガラクトース残基であれば、途中のガラクトース残基はグルコース残基等に置換されていても良い。
【0013】
式(A)で表される化合物は、フィッシャー法によってD−ガラクトースから塩化水素等の酸触媒存在下における無水アルコール中で比較的簡単に合成することができる。(bid.,Vol.27,p2481)
【0014】
式(A)で表される化合物は、常在菌であるフゾバクテリウム属細菌とう蝕原因菌との共凝集を強力に抑制する。ここで、フゾバクテリウム属細菌としては、フゾバクテリウム ヌクレアタム、フゾバクテリウム ルージー等が挙げられる。また、う蝕原因菌としては、ストレプトコッカス ミュータンス、ストレプトコッカス ソブリナス等が挙げられる。
【0015】
従来既知の脂肪酸糖エステルは口腔内で分解してう蝕の原因となる酸を生成するが、本発明で用いられる式(A)で表される化合物は、後記実施例に示すように、口腔内で分解されず、う蝕の源となる酸を生成しない。
【0016】
式(A)で表される化合物の本発明口腔用組成物全体中の含有量は0.005〜50質量%が好ましく、より好ましくは0.01〜10質量%、さらに好ましくは0.05〜5質量%である。
【0017】
本発明の口腔用組成物は、共凝集抑制効果の面からさらに直鎖状糖アルコールを含有することが好ましい。直鎖状糖アルコールとしては、炭素原子数4〜12の糖アルコールが好ましく、例えばソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、パラチニット、ラクチトールを挙げることができる。直鎖状糖アルコールの本発明口腔用組成物全体中の含有量は4〜60質量%が好ましく、さらに好ましくは10〜50質量%である。
【0018】
また、直鎖状糖アルコールは、式(A)1質量部に対して0.1〜1000質量部含有することが好ましく、特に液状歯磨剤では0.1〜500質量部、洗口剤では1〜1000質量部含有することが好ましい。
【0019】
また、式(A)で表わされる化合物は無色透明であり、かつ水に対する溶解性が極めて良好なため、低粘度の液状歯磨や洗口剤、マウスウォッシュなどに容易に分散・溶解が可能であり、また長期保存後も水層との分離はない。さらに、用時に水に溶かす製剤の有効成分として好適である。
【0020】
本発明の口腔用組成物には、前記必須成分のほか、その形態に応じて種々の公知成分を配合することができる。配合可能な公知成分として、例えば湿潤剤、粘結剤、歯質強化剤、殺菌剤、pH調整剤、界面活性剤、酵素類、抗炎症剤、血行促進剤、甘味剤、防腐剤、着色剤、色素類、香料等を適宜使用することができる。
【0021】
本発明の口腔用組成物は、式(A)で表される化合物を配合し、常法により製造することができ、練歯磨、潤製歯磨、粉歯磨、液状歯磨、口腔パスタ、洗口液、マウスウォッシュ、うがい用錠剤、義歯洗浄用錠剤、歯肉マッサージクリーム、チューインガム、トローチ、キャンディ等の形態とすることができ、特に低粘度の液状歯磨、洗口液やマウスウォッシュや、水に溶かせて使用するうがい用錠剤や義歯洗浄剤に最適である。
【実施例】
【0022】
実施例1(共凝集抑制効果)
(1)使用菌株
う蝕原因菌としてストレプトコッカス ソブリナス B13株を用い、フゾバクテリア属細菌としてフソバクテリウム ヌクレアタム ポリモルヒュムATCC10953株を用いた。
【0023】
(2)共凝集測定法
ストレプトコッカス ソブリナスは、ブレインハートインジュ−ジョン液体培地に植菌後37℃の嫌気条件下にて24時間培養した。フゾバクテリウム ヌクレアタム ポリモルヒュムは、GAMブイヨン液体培地に植菌後37℃の嫌気条件下で48時間培養した。培養終了後、遠心分離にて集菌し、共凝集用緩衝液(1mM トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.1mM 塩化カルシウム、0.1mM 塩化マグネシウム、0.15M 塩化ナトリウム)で2回洗浄した。洗浄後、フゾバクテリウム ヌクレアタム及びストレプトコッカス ソブリナスは600nmの波長における吸光度(OD)が2.0になるよう共凝集用緩衝液で調整し菌懸濁液を得た。式(A)で表される化合物など試験物質は終濃度が1〜0.05%になるように共凝集用緩衝液で予め調整した。それ以外の試験物質は、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、ラクチトール(以上東和化学製)、エリスリトール(日研化学製)、還元パラチノース(新三井製糖製)、β−ラウリルグルコシド、スクロースモノラウレート(以上同仁製薬製)ラクトース、ガラクトース、スクロース、グルコース、フルクトース、エチル−α−D−グルコシド(以上和光純薬製)、を用いた。ガラクトースラウレートは公知の方法により製造した(特開2000−159675号公報)。共凝集試験は、No.2のRIAチューブ(旭テクノグラス社製)を用い、フゾバクテリウム ヌクレアタム菌懸濁液400μl、ストレプトコッカス ソブリナス菌懸濁液200μlおよび2%試験物質溶液200μlを順次混和した。共凝集抑制活性の有無は、混和後、室温にて30分静置し、菌塊の沈殿が認められなかったものについて共凝集抑制活性有り(+)、僅かに菌塊の沈殿が認められたものについて共凝集抑制活性やや有り(±)、認められなかったものを共凝集抑制活性無し(−)とした。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
(3)結果
表1及び表2に示すように、スクロース、グルコース、フルクトース、エチル−α−D−グルコシド、β−ラウリルグルコシド、スクロースモノラウレートでは共凝集による明確な沈殿が認められたが、エチル−β−D−ガラクトシドとα,β−ブチルガラクトシドに低濃度においても共凝集による沈殿は認められず、ラクトース、ガラクトースやガラクトースラウレートと同程度の共凝集抑制効果が認められた。また、直鎖状糖アルコールであるソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マンニトール、還元パラチノースらラクチトールも共凝集による沈殿が認められず、共凝集抑制活性を有することが明らかであった。また
【0027】
実施例2
採取した歯垢に対して各種の共凝集抑制剤を適用した後のpH変化を測定することにより、これらの成分が口腔内で分解されて酸を生成するか否かを判定した。すなわち、1週間に亘り歯磨き等全ての口腔衛生習慣を停止した後、デンタルスケーラーを用いて歯面に付着したプラークを物理的に採取した。採取した歯垢はただちに生理食塩水で5質量%に希釈後分散し、歯垢懸濁液を調製した。歯垢懸濁液0.5mlに各種共凝集抑制剤を0.9%なるよう添加し希塩酸もしくは希水酸化ナトリウム液でpHを7に調整後、37℃でのpHの変動を60分間追跡した。pHは堀場製作所製のTWIN−B212型pHメーターを用いて測定した。
【0028】
その結果、図1で示すように、ラクトース、ガラクトースやガラクトースラウレートは歯垢懸濁液に混和後ただちにpH低下が認められたため、口腔内で分解されて酸を生成することがわかる。一方、エチル−β−D−ガラクトシドやα,β−ブチルガラクトシドは、添加後pHがほとんど変化せず、口腔細菌により口腔内で分解せず、酸を生成しないことがわかる。
【0029】
実施例3
本発明の液状歯磨の処方は、以下の通りである。
ソルビトール 40 質量%
無水ケイ酸 25 質量%
濃グリセリン 10 質量%
エチル−β−D−ガラクトシド 4 質量%
ラウリル硫酸ナトリウム 1 質量%
歯磨き用香料 1 質量%
ヒドロキシエチルセルロース 0.4 質量%
フッ化ナトリウム 0.2 質量%
サッカリンナトリウム 0.2 質量%
キサンタンガム 0.1 質量%
精製水 残部
計 100 質量%
【0030】
実施例4
本発明の液状歯磨の処方は、以下の通りである。
ラクチトール 26 質量%
無水ケイ酸 20 質量%
濃グリセリン 10 質量%
エリスリトール 5 質量%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.2 質量%
歯磨き用香料 1 質量%
エチル−β−D−ガラクトシド 0.5 質量%
フッ化ナトリウム 0.2 質量%
サッカリンナトリウム 0.2 質量%
キサンタンガム 0.2 質量%
キサンタンガム 0.2 質量%
精製水 残部
計 100 質量%
【0031】
実施例5
本発明のマウスウォッシュの処方は、以下の通りである。
エタノール 15 質量%
キシリトール 7 質量%
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 2 質量%
サッカリンナトリウム 0.5 質量%
n−ブチルガラクトシド(α/β=1/1) 0.2 質量%
洗口剤用香料 0.2 質量%
安息香酸ナトリウム 0.1 質量%
精製水 残部
計 100 質量%
【0032】
実施例6
本発明の義歯洗浄剤の処方は、以下の通りである。
過炭酸ナトリウム 25 質量%
パラチニット 15 質量%
クエン酸 8 質量%
クエン酸ナトリウム 8 質量%
エデト酸二ナトリウム 5 質量%
n−ブチルガラクトシド(α/β=1/1) 3 質量%
ポリエチレングリコール6000 2 質量%
ステアリン酸マグネシウム 1 質量%
炭酸水素ナトリウム 残部
計 100 質量%
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】洗口剤適用後の口腔内pH変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(A)
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、Gはガラクトース残基を示し、nは1〜30の整数を示す。)で表される化合物を含有する口腔用組成物。
【請求項2】
さらに直鎖状糖アルコールを含有する請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
式(A)
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、Gはガラクトース残基を示し、nは1〜30の整数を示す。)
で表される化合物を有効成分とするフゾバクテリウム属細菌とう蝕原因菌との共凝集抑制剤。

【図1】
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【公開番号】特開2006−182692(P2006−182692A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−377332(P2004−377332)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】