説明

口腔用組成物

【課題】フソバクテリウム菌のう蝕原因菌や歯周病関連細菌に対する強力な共凝集抑制作用を有するとともに、長期間安定な口腔用組成物を提供する。
【解決手段】式(A)


(式中、Rは置換されてもよい炭素数6〜16の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、Gはガラクトース残基を示し、Eは水素原子又はメチル基を示し、mは0〜200の整数を示し、nは1〜30の整数を示す。)で表される化合物を含有し、pHが5.5〜9である口腔用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、むし歯予防効果及び歯周病予防効果に優れ、かつ安定な口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕は、病原性細菌の歯面への付着、定着により発症へと向かう口腔内感染症としての一面を有する。口腔細菌の歯面への定着機構は、先ず、唾液の薄膜(ペリクル)によって覆われたエナメル質表面に、ストレプトコッカス オラリス、ストレプトコッカス サンガイス、ストレプトコッカス ゴードニィ、アクチノマイセス ナエスランディ等の初期定着細菌が吸着する。そして、これら初期定着細菌は増殖に伴って互いに共凝集(co−aggregation)を起こし、歯垢(プラーク)の形成を開始する。次いで、プラークの成熟化に伴い、微生物菌叢が通性嫌気性菌から偏性嫌気性菌へと遷移し、フソバクテリウム ヌクレアタムに代表される偏性嫌気性菌が初期定着細菌に共凝集する。そして、当該フソバクテリウム ヌクレアタムにアクチノバシルス アクチノマイセテムコミタンス、ポルフィロモナス ジンジバリス、プレヴォテラ インターメディア等の歯周病関連細菌がさらに共凝集し、定着すると考えられている。さらに、Takemotoらは、う蝕関連細菌であるストレプトコッカス ミュータンス、ストレプトコッカス ソブリナス等もフソバクテリウム ヌクレアタムと共凝集することから、同様の定着機序を有することを示唆した(非特許文献1)。
【0003】
斯かる共凝集は、細菌同士のレクチン・レセプター型相互作用、非特異的静電気的相互作用や粘着性多糖合成による付着作用、非特異性疎水的相互作用によって引き起こされるものである。プラークを形成する口腔細菌は、腸内細菌や皮膚常在細菌と異なり口腔特有の菌叢からなることから、病原性細菌の歯面への定着においては、レクチン・レセプター型相互作用が特に重要な役割を果たしていると考えられている。このレクチン・レセプター型相互作用とは、通常細菌表層結合タンパク質であるアドヘシンと他の細菌表層上のレセプター構造との立体特異的な相互作用であり、その多くは炭化水素特異的結合を呈する。
【0004】
歯垢を形成する細菌の最も一般的なレクチンはラクトース感受性アドヘシンであり、ラクトース中のβ−ガラクトシドを特異的に認識する。ラクトース感受性アドヘシンは広汎な口腔細菌に存在し、アクチノマイセス属、ストレプトコッカス属、ポルフィロモナス属、プレヴォテラ属、フソバクテリウム属、ヘモフィリス属、カプノサイトファーガ属、ヴェイロネラ属、ナイセリア属、セレノモナス属などの共凝集に関与している(非特許文献2)。
【0005】
とりわけ、フソバクテリウム属細菌は共凝集に係わるラクトース感受性アドヘシンを多数発現し、ペリクルに吸着した初期定着菌とストレプトコッカス ソブリナスなどのう蝕原因菌や、ポルフィロモナス ジンジバリスやプレヴォテラ インターメディアなどの推定歯周病関連細菌とを“橋架け”する細菌として重要視されている(非特許文献2)。
【0006】
そして口腔内感染症の予防手段としては、病原性細菌の歯面への定着を阻害することが有力であると考えられており、例えばガラクトースやラクトースを用いて歯垢の歯牙付着抑制効果を図ること(特許文献1)、抗菌性を有する炭素数10〜16の脂肪酸の少なくとも1種とフルクトース又はガラクトースとがエステル結合した脂肪酸糖エステルを用いること(特許文献2)等が報告されている。
【特許文献1】特公昭58−11924号公報
【特許文献2】特開2000−159675号公報
【非特許文献1】Journal of Periodontal Research、Vol.30、p252−257
【非特許文献2】Infection and Immunity,Vol.57,p3194−3203
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この課題を解決すべく検討した結果、ガラクトースにアルキル基がエーテル結合したアルキルガラクトシドが、フソバクテリウム属細菌と、う蝕原因菌又は歯周病原因菌との共凝集に対して優れた抑制作用を有し、むし歯や歯周病予防用口腔用組成物として有用であることを見出した。しかしながら、このアルキルガラクトシドも高温条件下においては分解することもあり、保存条件に影響されずに長期間安定な製剤設計が必要であることが判明した。
従って、本発明の目的は、アルキルガラクトシドを含有し、安定性の良好な口腔用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、アルキルガラクトシドの安定配合性について検討したところ、pHを5.5〜9に調整すれば高温条件で長期間保存しても分解しないことを見出した。さらに、pH5.5〜9に調整したアルキルガラクトシド含有組成物は、口腔用品に広く配合されるアニオン界面活性剤の口腔粘膜への刺激性を顕著に低減することも見出した。さらには、アルキルガラクトシドとアニオン界面活性剤を併用した系では、メントールの可溶化能が向上し、メントール結晶の析出がなく、清涼感の優れた口腔用組成物が得られることも見出した。
【0009】
本発明は、式(A)
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Rは置換されてもよい炭素数6〜16の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を示し、Gはガラクトース残基を示し、Eは水素原子又はメチル基を示し、mは0〜200の整数を示し、nは1〜30の整数を示す。)で表される化合物を含有し、pHが5.5〜9である口腔用組成物を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、式(C)
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Rは置換されてもよい平均炭素数6〜16の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を示し、Gはガラクトース残基を示し、Eは水素原子又はメチル基を示し、xは0〜200の数を示し、yは1〜30の数を示す。)で表される化合物を含有し、pHが5.5〜9である口腔用組成物を提供するものである。
【0015】
さらに本発明は、アニオン界面活性剤を含有する上記口腔用組成物、及びアニオン界面活性剤及びメントールを含有する上記口腔用組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の口腔用組成物は、歯垢中に存在するフソバクテリウム属細菌等のう蝕原因菌や歯周病関連細菌に対する共凝集抑制効果に優れ、かつ長期保存安定性に優れている。また、アニオン界面活性剤を配合しても口腔粘膜に対する刺激が低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に用いられる式(A)で表される化合物は、炭素数6〜16のアルキル基に直接又は1つ以上のオキシエチレン基若しくはオキシプロピレン基を介して、1つ以上のガラクトース残基がα−配置もしくはβ−配置でエーテル結合した化合物である。当該アルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のいずれでもよく、具体的にはn−ヘキシル基;n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基等の各種ヘプチル基;n−オクチル基、1,1,2−トリメチルペンチル基、1,1,4−トリメチルペンチル基、2,2−ジメチルヘキシル基、1−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基等の各種オクチル基;n−ノニル基、1−メチルオクチル基、6−メチルオクチル基、8−メチルオクチル基等の各種ノニル基;n−デシル基、3,7−ジメチルオクチル基、1−メチルノニル基、8−メチルノニル基等の各種デシル基;n−ウンデシル基、1−メチルデシル基、2−メチルデシル基、9−メチルデシル基等の各種ウンデシル基;n−ドデシル基、2−ブチルオクチル基、1−メチルウンデシル基、10−メチルウンデシル基等の各種ドデシル基;n−トリデシル基、1−メチルドデシル基、11−メチルドデシル基等の各種トリデシル基;n−テトラデシル基、1−メチルトリデシル基、12−メチルトリデシル基等の各種テトラデシル基;n−ペンタデシル基、1−メチルテトラデシル基、13−メチルテトラデシル基等の各種ペンタデシル基;n−ヘキサデシル基、2−ヘキシルデシル基、1−メチルペンタデシル基、14−メチルペンタデシル基等の各種ヘキサデシル基等が挙げられる。これらアルキル基のうち、香味、口腔内での滞留性、起泡性の面から、炭素数8〜14が好ましく、特に炭素数10〜14の直鎖又は分岐鎖、もしくはそれらの混合物が好ましく、直鎖ではドデシル基(ラウリル基)単独のアルキル基組成、もしくはデシル基、ドデシル基、テトラデシル基からなる混合アルキル基組成が特に好ましく、分岐鎖では2−エチルヘキシル基単独のアルキル基組成、もしくは分岐デシル異性体からなる混合アルキル基組成、直鎖及び分岐鎖の混合物としてはウンデシル基及び2−メチルデシル基の混合物が特に好ましい。また、アルキル基の1個以上の水素原子は、置換基で置換されてもよく、当該置換基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子(例、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素など)、ニトロ基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数1〜6のハロアルコキシ基が挙げられる。
また、本発明で用いられる式(A)で表される化合物のガラクトースは、ピラノース型、フラノース型又はそれらの混合物のいずれも含まれる。mは、0〜200の整数を示すが、共凝集抑制作用の面から0〜12が好ましく、0〜3がより好ましい。ガラクトースの縮合度を示すnは、1〜30の整数であるが、起泡性の面から1〜6が好ましく、1〜3がより好ましい。
【0018】
また、本発明に用いられる化合物は、式(A)においてEが水素原子である、式(B)
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、Rは置換されてもよい炭素数6〜16の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を示し、Gはガラクトース残基を示し、mは0〜200の整数を示し、nは1〜30の整数を示す。)で表される化合物が好ましい。
【0021】
また、本発明で用いられる化合物は、2種類以上の化合物を含む混合物であってもよい。かかる混合物である式(C)において、Rの置換されてもよいアルキル基は平均炭素数6〜16のアルキル基であるが、香味、口腔内での滞留性、起泡性の面から好ましくは平均炭素数10〜14である。平均重合度xは0〜200の数であるが、0〜12の数が好ましく、0〜3の数がより好ましい。ガラクトースの平均縮合度yは1〜30の数であるが、共凝集抑制作用の面から1〜10の数が好ましく、1〜3の数がより好ましい。尚、ガラクトースの平均縮合度yは、ゲル浸透クロマトグラフィーなどの分析法から得られる各縮合度の成分の組成比をもとに算出することができる。例えば、ガラクトースの縮合度1〜zのアルキルガラクトシド混合物の場合、縮合度zのガラクトシドのモル比がaz(a1+a2+a3+・・・+az=1)であるとすると、ガラクトースの平均縮合度はy=a1×1+a2×2+・・・+az×z=Σ(az×z)で表される。
また、オキシエチレン基又はオキシプロピレン基の平均重合度xやRで表されるアルキル基の平均炭素数も同様にして算出することができる。
【0022】
式(A)〜(C)で表される化合物は、堀らの方法(薬学雑誌,Vol.79,No.1,p80−83)や後述する参考例1〜6に記載のガラクトースとアルコールとの合成により製造することができる。
【0023】
式(A)〜(C)で表される化合物は、常在菌であるフソバクテリウム属細菌とう蝕原因菌との共凝集を強力に抑制する。ここで、フソバクテリウム属細菌としては、フソバクテリウム ヌクレアタム、フソバクテリウム ルージー等が挙げられる。また、う蝕原因菌としては、ストレプトコッカス ミュータンス、ストレプトコッカス ソブリナス等が挙げられる。歯周病関連細菌としては、アクチノバチルス アクチノミセテムコミタンスやポルフィロモナス ジンジバリス、プレヴォテラ インターメディアなどが挙げられる。
【0024】
式(A)〜(C)で表される化合物の本発明口腔用組成物全体中の含有量は、共凝集抑制作用及び安定性の点から0.05〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.2〜5質量%である。
【0025】
本発明の口腔用組成物のpHは、保存安定性及び口腔粘膜刺激性の点から、5.5〜9であるが、特に6〜9であることが好ましい。pHが5以下では、アルキルガラクトシド(式(A)〜(C))が分解するため好ましくない。また、pHが9を超えると口腔粘膜に対する刺激がある。この口腔粘膜刺激性はアニオン界面活性剤を配合した場合に顕著となる。本発明口腔用組成物のpHを5.5〜9に調整するには、極端な酸性もしくは塩基性を示す成分を配合しない、あるいは酸性成分と塩基性成分を上記pHの範囲に収まるように組み合わせることも可能であるが、口腔用剤に用いられるpH調整剤を用いることもできる。かかるpH調整剤としては、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸、コハク酸、酢酸、リン酸、ピロリン酸、グリセロリン酸、これらのカリウム塩、ナトリウム塩及びアンモニウム塩等の各種塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩酸等が挙げられる。これらは口腔用剤のpHを5.5〜9に調整できるよう、単独又は2種以上を組み合わせて配合することができる。その配合量は通常、0.01〜2質量%である。本発明の口腔用組成物のpHは、洗口剤等の液状組成物の場合は直接測定できるが、練歯磨剤等の場合には10質量%水溶液として測定する。
【0026】
本発明の口腔用組成物においては、アルキルガラクトシドを含有し、かつpHが5.5〜9に調整されているため、アニオン界面活性剤を含有させても粘膜刺激性が低減できる。ここでアニオン界面活性剤としては、高級脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル塩、N−アシルアミノ酸塩、アルキルメチルタウリン塩、スルホコハク酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。これらのアニオン界面活性剤のアルキル部分又は脂肪族アシル部分の炭素数は8〜24が好ましい。
これらのアニオン界面活性剤のうち、N−アシルサルコシン塩、アルキルメチルタウリン塩及びアルキル硫酸塩から選ばれる1種又は2種以上がより好ましく、N−C8−C24アシルサルコシン塩、C8−C24アシルメチルタウリン塩及びC8−C24アルキル硫酸塩から選ばれる1種又は2種以上が特に好ましい。
【0027】
本発明口腔用組成物全体中のアニオン界面活性剤の含有量は、洗浄性能及び粘膜刺激性の点から0.05〜2.0質量%、さらに0.1〜1.8質量%、特に0.2〜1.6質量%が好ましい。
【0028】
また、本発明の口腔用組成物は、アルキルガラクトシドを含有しているために、清涼化剤として汎用されるメントールを配合した場合に低温条件下でも結晶が析出せず、メントールの溶解安定性が良好である。また、通常メントールの溶解性を向上させるためにはアニオン界面活性剤が配合されるが、本発明においてはアニオン界面活性剤自体の粘膜刺激性を低減できると同時に、アニオン界面活性剤の配合量が少ない場合でも十分にメントールの溶解性が向上する。すなわちアニオン界面活性剤の配合量を低減化できることから、粘膜刺激性が相乗的に低減化される。
【0029】
メントールとしては、l−メントールが好ましい。メントールを含有していれば、ペパーミント油、ハッカ油等の精油も使用できる。メントールの本発明口腔用組成物全体中の含有量は、清涼化効果の点から、0.01〜2質量%、さらに0.02〜1.5質量%、特に0.05〜1.0質量%が好ましい。
【0030】
また、本発明者の検討によれば、炭素数4〜12の糖アルコールは、フソバクテリウム属細菌とう蝕原因菌との結合を遅延させる作用を有し、かつ口腔内で酸を生成しない。すなわち、これらの糖アルコールを併用することにより、本発明の共凝集抑制剤としての効果を向上させることができる。従って、本発明の口腔用組成物は、共凝集抑制効果の面から炭素数4〜12の糖アルコールを含有することが好ましい。炭素数4〜12の糖アルコールとしては、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、パラチニット、ラクチトール等を挙げることができる。炭素数4〜12の糖アルコールの本発明口腔用組成物全体中の含有量は4〜60質量%が好ましく、さらに好ましくは10〜50質量%である。
【0031】
式(A)〜(C)で表される化合物と炭素数4〜12の糖アルコールとの併用は香味の面からも有用である。炭素数4〜12の糖アルコールは、化合物(A)〜(C)1質量部に対して1〜500質量部含有することが好ましく、特に練歯磨剤では5〜400質量部、洗口剤では10〜200質量部含有することが好ましい。
【0032】
本発明の口腔用組成物には、前記成分のほか、その形態に応じて種々の成分を配合することができる。配合可能な成分として、例えば湿潤剤、粘結剤、歯質強化剤、殺菌剤、酵素類、抗炎症剤、血行促進剤、甘味剤、防腐剤、着色剤、色素類、香料等を適宜使用することができる。また、本発明の効果を損なわない限り、式(A)〜(C)で表される化合物及びアニオン界面活性剤以外の界面活性剤を配合することもできる。
【0033】
本発明の口腔用組成物は、式(A)〜(C)で表される化合物及びpH調整剤、さらに必要によりメントール、アニオン界面活性剤、前記糖アルコールを配合し、常法により製造することができ、粉歯磨、液状歯磨、練歯磨、潤製歯磨、口腔パスタ等のペースト状洗浄剤、洗口液、マウスウォッシュ等の液状洗浄剤、うがい用錠剤、歯肉マッサージクリーム、チューインガム、トローチ、キャンディ等の食品等の形態とすることができる。
【実施例】
【0034】
参考例1 α,β−ラウリルガラクトシドの製造
D−ガラクトースとラウリルアルコールを触媒量のパラトルエンスルホン酸1水和物存在下、加熱、減圧条件で脱水しながら反応させた。得られた混合物をシリカゲルカラムにより精製し、ガラクトース縮合度1〜3のラウリルガラクトシドを得た。ゲル浸透クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、1H−NMRによる分析の結果、得られたラウリルガラクトシドのガラクトースの平均縮合度は1.48であり、成分中のラウリルモノガラクトシドの組成はピラノシド/フラノシド=83/17、そのうちピラノシドのα/β比は75/25であった。これをα,β−ラウリルガラクトシドとして参考例7及び実施例1〜6の試験物質として用いた。
【0035】
参考例2 β−トリオキシエチレンラウリルガラクトシドの製造
ペンタアセチル−D−ガラクトースとトリオキシエチレンモノラウリルエーテルを三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体存在下、ジクロロメタン中、室温で反応させた。溶媒を減圧下で留去した後、シリカゲルカラムで精製することによりβ−トリオキシエチレンラウリル−2,3,4,6−テトラアセチルガラクトシドを得た。これをナトリウムメトキシドにより脱アセチル化して、β−トリオキシエチレンラウリルガラクトシドを得た。1H−NMR(400MHz,CDCl3)0.88(t,3H),1.2−1.35(m,18H),1.57(m,2H),3.35−3.8(overlapped,13H),3.84(t,2H),3.97−4.07(overlapped,3H),4.17(d,1H),4.29(d,J=7.6Hz,1H),4.41(d,1H)。これをβ−トリオキシエチレンラウリルガラクトシド(ガラクトース縮合度は1)として後述の参考例及び実施例に用いた。
【0036】
参考例3 α−及びβ−オクチルガラクトシドの製造
参考例1と同様にオクチルアルコールを原料として製造したα,β−オクチルガラクトシドをカラムにより精製し、α−オクチルガラクトシド及びβ−オクチルガラクトシドを得た。α体:0.78(t,3H),1.1−1.3(m,10H),1.47(m,2H),3.45−3.70(overlapped,7H),4.63(d,J=2.8Hz,1H)、β体:0.86(t,3H),1.2−1.35(m,10H),1.51(m,2H),3.25−3.75(overlapped,7H),4.09(d,J=7.6Hz,1H)。これらをそれぞれα−オクチルガラクトシド、β−オクチルガラクトシド(いずれもガラクトース縮合度は1)として後述の参考例及び実施例に用いた。
【0037】
参考例4 α,β−2−エチルヘキシルガラクトシドの製造
D−ガラクトースと2−エチルヘキサノールを触媒量のパラトルエンスルホン酸1水和物存在下、加熱、減圧条件で脱水しながら反応させた。反応後、水酸化ナトリウム水溶液を加えて触媒を中和し、得られた混合物からろ過により未反応のD−ガラクトースを除去した。ろ液から未反応のアルコールを減圧下で留去することで2−エチルヘキシルガラクトシドを得た。ゲル浸透クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、1HNMRによる分析の結果、得られた2−エチルヘキシルガラクトシドのガラクトースの平均縮合度は1.16であり、組成物中のモノガラクトシドの組成はピラノシド/フラノシド=40/60、そのうちピラノシドのα/β比は70/30であった。これをα,β−2−エチルヘキシルガラクトシドとして後述の参考例及び実施例に用いた。
【0038】
参考例5 α,β−デシルガラクトシドの製造
参考例4の2−エチルヘキサノールをデカノール異性体混合物(デカノール、協和発酵ケミカル(株))に変更した以外は参考例4に従い、デシルガラクトシドを得た。得られたデシルガラクトシドのガラクトースの平均縮合度は1.15であり、組成物中のモノガラクトシドの組成はピラノシド/フラノシド=46/54、そのうちピラノシドのα/β比は67/33であった。これをα,β−デシルガラクトシドとして後述の参考例及び実施例に用いた。
【0039】
参考例6 α,β−ウンデシルガラクトシドの製造
参考例4の2−エチルヘキサノールをウンデカノール異性体混合物(ダイヤドール11、三菱化学(株))に変更した以外は参考例4に従い、ウンデシルガラクトシドを得た。得られたウンデシルガラクトシドのガラクトースの平均縮合度は1.16であり、組成物中のモノガラクトシドの組成はピラノシド/フラノシド=52/48、そのうちピラノシドのα/β比は71/29であった。これをα,β−ウンデシルガラクトシドとして後述の参考例及び実施例に用いた。
【0040】
参考例7(共凝集抑制効果)
(1)使用菌株
フソバクテリウム属細菌としてフソバクテリウム ヌクレアタム ポリモルヒュムATCC10953株(以下Fnp菌)、フソバクテリウム ヌクレアタム フジフォームJCM11024(以下Fnf菌)、フソバクテリウム ペリオドンティカムATCC33693株(以下Fp菌)、フソバクテリウム ヴァリウムATCC8501株(以下Fv菌)、フソバクテリウム モルティフェルムATCC25557株(以下Fm菌)を用いた。共凝集反応の対細菌としては、う蝕原因菌としてストレプトコッカス ソブリナス B13株(以下Ss菌)を、歯周病関連細菌としてアクチノバチラス・アクチノミセテムコミタンスJCM2434株(以下Aa菌)を用いた。
【0041】
(2)共凝集測定法
Ss菌及びAa菌は、ブレインハートインフュージョン液体培地に植菌後37℃の嫌気条件下にて24時間培養した。フソバクテリウム属細菌は、GAMブイヨン液体培地に植菌後37℃の嫌気条件下で48時間培養した。培養終了後、遠心分離にて集菌し、pH8.0の共凝集用緩衝液(1mM トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.1mM 塩化カルシウム、0.1mM 塩化マグネシウム、0.15M 塩化ナトリウム)で2回洗浄した。洗浄後、フソバクテリウム属細菌は600nmの波長における濁度(OD:UV−1600、UV-Visible spectrophotometer((株)島津製作所))が1.0になるよう、Ss菌及びAa菌は0.5になるよう共凝集用緩衝液で調整し菌懸濁液を得た。式(A)で表される化合物など試験物質は1.6%(wt/vol%)になるように共凝集用緩衝液で予め調整した。比較物質として、ラクトース、ガラクトース、スクロース、グルコース、マルトース(以上、和光純薬工業(株))、β−ラウリルマルトシド(以上、同仁製薬(株))、C10:C14アルキルグルコシド(コグニスジャパン)を用いた共凝集試験は、丸底96穴マイクロプレート(TPP社)を用い、いずれかのフソバクテリウム属細菌懸濁液100μL、Ss菌もしくはAa菌懸濁液50μL及び1.6%(wt/vol%)試験物質溶液50μLを順次混和した。室温にて一昼夜静置後、試験物質を添加していない対照群において凝集塊の生じたものを共凝集能あり(※)とし、凝集塊の生じなかったものは共凝集能なし(×)とした。共凝集抑制活性の有無は、対照群において共凝集活性の認められた組み合わせに試験物質を添加後、凝集塊の沈殿が認められなかったものについて共凝集抑制活性有り(+)、認められたものを共凝集抑制活性無し(−)とした。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
(3)結果
表1に示すように、供試したフソバクテリウム属細菌の中で、Fnp菌、Fnf菌及びFp菌にSs菌やAa菌との共凝集能が認められ、病原菌の定着に大きな影響があるフソバクテリウム属細菌と考えられた。Fv菌やFm菌はこれらの菌に対する共凝集能が認められず、ガラクトース感受性アドヘシンを発現していないと考えられた。
Fnp菌、Fnf菌、Fp菌の共凝集能の認められたフソバクテリウム3菌株について、共凝集抑制試験を行った結果を表2〜4に示した。スクロース、グルコース、マルトース、C10:14アルキルグルコシド、β−ラウリルマルトシドでは共凝集による明確な凝集塊が認められたが、α,β−ラウリルガラクトシド、β−トリオキシエチレンラウリルガラクトシド、α−オクチルガラクトシド、β−オクチルガラクトシド、α,β−2−エチルヘキシルガラクトシド、α,β−デシルガラクトシド、α,β−ウンデシルガラクトシドはラクトースやガラクトース同様に共凝集抑制活性を有することが明らかとなった。
【0047】
実施例1(アルキルガラクトシドのpH安定性)
α,β−ラウリルガラクトシドが2質量%、ラウリル硫酸ナトリウム(pH4のみ硬化ヒマシ油を使用)が1質量%になるようにpH4〜10の0.5Mの各種緩衝液もしくは精製水(pH7)に溶解後、50℃において1ヶ月間保存した。ラウリルガラクトシドの分解率は、遊離ガラクトースをHPLCを用いて定量することにより判定した。
遊離ガラクトース測定方法
製造直後及び保存終了後の試験歯磨剤組成物10gを精秤し、0.5Mのホウ酸緩衝液を加えて正確に100mLとし、十分に振り混ぜた。その一部をろ過し高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に適用した。HPLCのカラムはポリマー系イオン交換カラムを用い、溶離液は0.5Mのホウ酸緩衝液を65℃、0.4mL/分の溶出速度で用いた。前記ガラクトースの検出はRI検出器により行い、定量はあらかじめ作成しておいた検量線を用いて行った。
【0048】
【表5】

【0049】
表5に示すように、アルキルガラクトシドは、pH5.5より小さい場合には高温で長期間保存することにより、徐々に分解が進行していくことがわかる。
【0050】
実施例2(口腔粘膜刺激試験)
クエン酸もしくは炭酸ナトリウムを用いてpH調整した0.1質量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液にα,β−ラウリルガラクトシド0.05質量%を添加したサンプル15mLで20秒含嗽後、イオン交換水で数回含嗽した。1時間後に80mLのイオン交換水を5回ぐらいに分けて強く含嗽し、含嗽液全量をヘマトクリット管に移し、800rpmで3分間遠心分離した。沈降物の体積を剥離粘膜量(表6)とした。試験は1週間おきに、3名のパネラーで行った。
【0051】
【表6】

【0052】
表6に示すように、pH9を超えると粘膜が剥離し、粘膜刺激性が強くなることがわかる。表5及び表6から、アルキルガラクトシドを含有する口腔用組成物は、pH5.5〜9に調整することにより、長期間安定性で粘膜刺激性が低いことがわかる。
【0053】
実施例3(低温下でのメントールの結晶析出性)
0.5質量%のラウリル硫酸ナトリウム水溶液、0.8質量%のラウロイルサルコシンナトリウム水溶液又はラウロイルメチルタウリンナトリウム水溶液を各々調製した。これに等量のプロピレングリコールで溶解したl−メントールを0.35質量%になるよう添加し、更に終濃度が0.5質量%になるように下記表7のα,β−ラウリルガラクトシド等を各種の成分を加え、60℃にて均一になるまで攪拌した。室温まで冷却後、PET製容器に充填し、5℃にて低温保存した。2週間後、取り出した各サンプルは室温に戻され、目視にて針状メントールの結晶の有無を評価した。
【0054】
【表7】

【0055】
表7に示すように、アルキルガラクトシド及びアニオン界面活性剤を含有する本発明口腔用組成物は、メントールの溶解性を向上させ、低温保存してもメントールの結晶を析出させなかった。
【0056】
実施例4
本発明の練歯磨(pH6.8)の処方は、以下の通りである。
ソルビトール 35 質量%
無水ケイ酸 20 質量%
濃グリセリン 5 質量%
α,β−ラウリルガラクトシド 5 質量%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1 質量%
歯磨き用香料(l−メントール65質量%を含む) 1 質量%
フッ化ナトリウム 0.2質量%
サッカリンナトリウム 0.2質量%
精製水 残部
計 100 質量%
【0057】
実施例5
本発明の練歯磨(pH7.2)の処方は、以下の通りである。
ソルビトール 28 質量%
無水ケイ酸 20 質量%
濃グリセリン 8 質量%
エリスリトール 5 質量%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.2質量%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1 質量%
歯磨き用香料(l−メントール65質量%を含む) 1 質量%
α,β−ラウリルガラクトシド 0.5質量%
フッ化ナトリウム 0.2質量%
サッカリンナトリウム 0.2質量%
リン酸水素二ナトリウム 0.1質量%
リン酸二水素ナトリウム 0.1質量%
精製水 残部
計 100 質量%
【0058】
実施例6
本発明の練歯磨(pH6)の処方は、以下の通りである。
ソルビトール 25 質量%
無水ケイ酸 20 質量%
プロピレングリコール 6 質量%
ラクチトール 5 質量%
ラウロイルサルコシンナトリウム 1.2質量%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1 質量%
無水リンゴ酸 1 質量%
歯磨き用香料(l−メントール65質量%を含む) 1 質量%
α,β−2−エチルヘキシルガラクトシド 0.5質量%
フッ化ナトリウム 0.2質量%
サッカリンナトリウム 0.2質量%
48%水酸化ナトリウム液 微量
精製水 残部
計 100 質量%
【0059】
実施例7
本発明の練歯磨(pH9)の処方は、以下の通りである。
ソルビトール 28 質量%
ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(40)共重合体 16 質量%
無水ケイ酸 12 質量%
パラチニット 10 質量%
濃グリセリン 8 質量%
ラウロイルメチルタウリンナトリウム 1.2質量%
歯磨き用香料(l−メントール65質量%を含む) 1 質量%
α,β−ウンデシルガラクトシド 0.8質量%
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.7質量%
サッカリンナトリウム 0.2質量%
48%水酸化ナトリウム液 微量
精製水 残部
計 100 質量%
【0060】
実施例8
本発明の練歯磨(pH7.4)の処方は、以下の通りである。
ソルビトール 28 質量%
無水ケイ酸 15 質量%
ポリエチレングリコール400 8 質量%
キシリトール 5 質量%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.2質量%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1 質量%
歯磨き用香料(l−メントール65質量%を含む) 1 質量%
α,β−デシルガラクトシド 0.1質量%
フッ化ナトリウム 0.2質量%
サッカリンナトリウム 0.2質量%
リン酸水素二ナトリウム 0.1質量%
リン酸二水素ナトリウム 0.1質量%
精製水 残部
計 100 質量%
【0061】
実施例9
本発明のマウスウォッシュ(pH7.8)の処方は、以下の通りである。
エタノール 15 質量%
キシリトール 7 質量%
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 2 質量%
サッカリンナトリウム 0.5質量%
β−オクチルガラクトシド 0.2質量%
洗口剤用香料(l−メントール65質量%を含む) 0.2質量%
安息香酸ナトリウム 0.1質量%
リン酸水素二ナトリウム 0.1質量%
精製水 残部
計 100 質量%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(A)
【化1】

(式中、Rは置換されてもよい炭素数6〜16の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を示し、Gはガラクトース残基を示し、Eは水素原子又はメチル基を示し、mは0〜200の整数を示し、nは1〜30の整数を示す。)で表される化合物を含有し、pHが5.5〜9である口腔用組成物。
【請求項2】
式(C)
【化2】

(式中、Rは置換されてもよい平均炭素数6〜16の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を示し、Gはガラクトース残基を示し、Eは水素原子又はメチル基を示し、xは0〜200の数を示し、yは1〜30の数を示す。)で表される化合物を含有し、pHが5.5〜9である口腔用組成物。
【請求項3】
さらに炭素数4〜12の糖アルコールを含有する請求項1又は2に記載の口腔用組成物。
【請求項4】
さらにアニオン界面活性剤を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項5】
さらにメントールを含有する請求項4記載の口腔用組成物。
【請求項6】
アニオン界面活性剤が、N−アシルサルコシン塩、アシルメチルタウリン塩及びアルキル硫酸塩から選ばれる1種又は2種以上である請求項4又は5に記載の口腔用組成物。

【公開番号】特開2007−291086(P2007−291086A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83235(P2007−83235)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】