説明

口腔用組成物

【解決手段】
(A)大豆又は小麦由来のタンパク加水分解物を1.0〜4.0質量%、(B)塩化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、乳酸亜鉛、グルコン酸亜鉛及びクエン酸亜鉛から選ばれる水溶性亜鉛化合物を0.5〜2.0質量%含有し、(A)成分と(B)成分の質量比(A/B)が1.5〜2.0であることを特徴とする口腔用組成物。
【効果】本発明の優れた歯石形成抑制効果と良好な使用感(亜鉛化合物由来の金属味などの違和感等の改善)を有するものである。特に、亜鉛化合物の配合濃度を通常配合量より低減させても、上記タンパク加水分解物を併用することで、優れた歯石形成抑制効果と良好な使用感を兼ね備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯石形成抑制成分である水溶性亜鉛化合物と、グルタミン酸,アスパラギン酸などの酸性アミノ酸を多量に含む大豆又は小麦由来のタンパク加水分解物とを特定割合で配合することで、歯石形成抑制効果に優れ、かつ水溶性亜鉛化合物由来の金属味が改善されて良好な使用感を有する口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯石の形成は、歯周疾患の遠因と考えられ、また、口臭の大きな要因にもなっている。一方で、その除去には術者の多大な労力と患者の苦痛が伴う。更に、頻度の歯石除去は健全な歯質の研削に繋がり歯質に大きなダメージを与える。これらのことから歯石の形成の予防は、歯科学的に意義が大きい。
【0003】
近年、歯石成分がリン酸カルシウムの結晶(主にハイドロキシアパタイトや第二リン酸カルシウム)からできていることに着目して、その結晶成長を抑制するという観点から、亜鉛化合物(クエン酸亜鉛、塩化亜鉛)の応用技術が開発されている(非特許文献1)。これら亜鉛化合物の亜鉛イオン(プラス電荷)は、リン酸カルシウムの結晶表面のマイナス電荷の部位(リン酸基、水酸基)に強く静電的に吸着してミネラルイオンの石灰化形成を抑制する作用を有する。
【0004】
しかしながら、これら亜鉛化合物による歯石形成抑制効果は、まだ十分とは言えないものであり一層の効果向上が望まれる。しかし、より高い効果を得るためにこれら亜鉛化合物を高い濃度で製剤に配合すると、使用感に問題が起こってしまう(亜鉛化合物由来の金属味が発現する)という課題があった。これに関連して、亜鉛化合物の強い金属味を低減させる方法として、以前から水に難溶性の酸化亜鉛(ZnO:必ずしも歯石形成抑制の目的ではない)を配合した組成物も知られているが、酸化亜鉛の歯石形成抑制効果は、本出願人の試験結果では全く不十分なものであった。口腔用組成物に配合された亜鉛化合物の使用感を改善するための特定の技術は未だ開発されておらず、多くは香料によるマスキングに依存している。しかし、このマスキングによる使用感の改善にも限界(強い香料や特殊な香料の配合など)があることも事実である。従って、歯石形成抑制効果が高く、使用感に優れた新たな技術の開発が望まれていた。
【0005】
一方、亜鉛化合物とタンパク加水分解物を組み合わせた、人体へ適用可能な組成物が開示されている。例えば、亜鉛化合物を含む酵母にタンパク加水分解物と特定の植物抽出物などを加えた骨代謝を改善する飲料水(特許文献1:特開2002−363086号公報)、亜鉛化合物を含む酵母にタンパク加水分解物と特定の植物抽出物などを加えた抗酸化剤(特許文献2:特開2003−81744号公報)、テアニンに亜鉛化合物とタンパク加水分解物などを加えたストレス抑制剤(特許文献3:特開2003−321355号公報)、ポリグルタミン酸に亜鉛化合物とタンパク加水分解物などを加えた帯電抑制剤(特許文献4:特開2005−008837号公報)、シコン色素に亜鉛化合物とタンパク加水分解物などを加えた低アレルギー化粧料組成物及び消炎・鎮痛剤(特許文献5:特開2003−277641号公報)、アスコルビン酸エステルに亜鉛化合物とタンパク加水分解物などを加えたアスコルビン酸エステルの安定化組成物(特許文献6:特開2005−187465号公報、特許文献7:特開2005−187466号公報)、更には特定の炭化水素化合物に亜鉛化合物とタンパク加水分解物などを加えた耐塩性の化粧料組成物(特許文献8:特開2005−239633号公報)などである。これらの特許技術による歯石形成抑制効果は、全く言及されていない。
【0006】
【非特許文献1】JM ten Cate 著「Recent Advances in the study of Dental Calculus」、IRL Press (Oxford)、 ISBN 0−19−963122−0、1989、P143−258.
【特許文献1】特開2002−363086号公報
【特許文献2】特開2003−81744号公報
【特許文献3】特開2003−321355号公報
【特許文献4】特開2005−008837号公報
【特許文献5】特開2003−277641号公報
【特許文献6】特開2005−187465号公報
【特許文献7】特開2005−187466号公報
【特許文献8】特開2005−239633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、優れた歯石形成抑制効果を発揮し、かつ良好な使用感を有する、亜鉛化合物を含有する口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、特定の水溶性亜鉛化合物と、グルタミン酸,アスパラギン酸などの酸性アミノ酸を多量に含む大豆又は小麦由来のタンパク加水分解物とを特定の割合で口腔用組成物に配合することで、これら両成分が相乗的に作用して、水溶性亜鉛化合物の配合量を増加させなくても、あるいは水溶性亜鉛化合物の配合量が少なくても、優れた歯石形成抑制効果を発揮し、かつ、更なる使用感の改善ができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従来、歯石形成抑制成分の一つである亜鉛化合物(特にクエン酸亜鉛、塩化亜鉛)を口腔内で使用した場合、亜鉛由来の金属味による違和感等が生じるため使用感に改善の余地があった。その改善策として亜鉛化合物の配合量(亜鉛化合物の口腔用組成物への通常の配合量は組成物全体の0.5〜2.0質量%、亜鉛としては0.17〜0.96質量%)を減らすことが考えられるが、配合量を減らせば歯石形成抑制効果は低下してしまう。また、より高い歯石形成抑制効果を得るために亜鉛化合物の配合量を増やすと更に使用感が悪化してしまう。よって、亜鉛化合物含有の口腔用組成物においては、優れた歯石形成抑制効果と良好な使用感とを兼ね備えたものを得ることは困難であった。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑み、亜鉛化合物を配合しても使用感の問題がほとんどなく、かつ優れた歯石形成抑制効果が発揮されるべく鋭意検討した結果、大豆又は小麦由来のタンパク加水分解物と特定の水溶性亜鉛化合物とを併用することで、両成分の相乗効果によって、亜鉛化合物由来の金属味による違和感等がほとんどなく良好な使用感を有し、かつ従来にない高い歯石形成抑制効果が発揮されることを見出した。
【0011】
本発明において、大豆又は小麦由来のタンパク加水分解物による歯石形成抑制効果の作用メカニズムは、下記のように推測される。即ち、大豆又は小麦由来のタンパク加水分解物には、ペプチド分子の中にグルタミン酸分子,アスパラギン酸分子などの酸性アミノ酸が多量(全アミノ酸の約40%)に含まれ、この酸性アミノ酸のカルボキシル基(マイナス電荷)がリン酸カルシウムの表面(プラス電荷)に強く静電的に吸着し、ミネラルイオンの石灰化形成を抑制していると考えられる。
また、亜鉛化合物による歯石形成抑制効果の作用メカニズムは、上記したように亜鉛化合物の亜鉛イオン(プラス電荷)がリン酸カルシウムの結晶表面のマイナス電荷の部位(リン酸基、水酸基)に強く静電的に吸着して、ミネラルイオンの石灰化形成を抑制する作用を有するものである。
本発明では、大豆又は小麦由来のタンパク加水分解物と水溶性亜鉛化合物との併用によって、これら両成分がリン酸カルシウムの結晶表面のマイナスとプラス電荷の両部位に吸着することより、上記したような相乗的な作用効果が得られるものと推測される。
【0012】
なお、タンパク加水分解物、亜鉛化合物は、それぞれ口腔用組成物への配合成分として知られている(特許文献1〜8参照)が、上記のように特定のタンパク加水分解物と水溶性亜鉛化合物とを特定割合で併用することで、優れた歯石形成抑制効果及び良好な使用感を兼ね備えた口腔用組成物が得られることは、本発明者の新知見である。
【0013】
従って、本発明は、(A)大豆又は小麦由来のタンパク加水分解物を1.0〜4.0質量%、(B)塩化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、乳酸亜鉛、グルコン酸亜鉛及びクエン酸亜鉛から選ばれる水溶性亜鉛化合物を0.5〜2.0質量%含有し、(A)成分と(B)成分の質量比(A/B)が1.5〜2.0であることを特徴とする口腔用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の口腔用組成物は、グルタミン酸,アスパラギン酸などの酸性アミノ酸を多量に含む大豆又は小麦由来のタンパク加水分解物と特定の水溶性亜鉛化合物とを特定割合で配合することで、優れた歯石形成抑制効果と良好な使用感(亜鉛化合物由来の金属味などの違和感等の改善)を有するものである。特に、亜鉛化合物の配合量が少なくても、これらタンパク加水分解物を併用することで、優れた歯石形成抑制効果と良好な使用感を兼ね備える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明につき更に詳細に説明すると、本発明の口腔用組成物は、(A)大豆又は小麦由来のタンパク加水分解物と、(B)特定の水溶性亜鉛化合物を含有してなることを特徴とするものである。
【0016】
本発明で使用される(A)成分のタンパク加水分解物としては、分解物中にグルタミン酸、アスパラギン酸などの酸性アミノ酸が多く含まれることが好ましく、これら酸性アミノ酸を多量に含む大豆又は小麦由来のタンパク加水分解物が使用される。
【0017】
本発明に用いられるタンパク加水分解物は、原料の大豆又は小麦を酸又はアルカリ、酵素、酸化・還元剤などを用いて分解処理することで得ることができる。
具体的には、酸による分解処理は、希酸(塩酸、リン酸、硫酸などの無機酸又は酢酸、クエン酸等の有機酸)を約60〜120℃に加熱し10分以上処理することが好ましい。
アルカリによる分解処理は、希アルカリ液(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの無機性アルカリ剤)を約60〜180℃に加熱し10分以上処理することが好ましい。
酵素による分解処理は、プロテアーゼ活性(例えば、ペプシン、パパインなどの酵素)を有する酵素液中で行われ、それぞれの至適pHにて約10〜60℃にて10分以上行うことが好ましい。
酸化還元剤による分解処理は、酸化還元剤の希釈液にて約10〜100℃にて10分以上行うことが好ましい。酸化還元薬剤としては、亜硫酸塩、過酸化水素、次亜塩素酸塩、エルソルビタン、ヒドラジンなどの化合物が使用できる。
上記分解処理法は、単独で行っても二つ以上併用してもよい。
このようにして得られた大豆又は小麦由来のタンパク加水分解物は、精製(脱塩、脱臭、脱色など)して使用するのが好ましい。得られたタンパク加水分解物には、分解条件や精製条件によって種々の分子量を持つ分子(アミノ酸、アミノ酸オリゴマー、ペプチド)が存在する。
【0018】
更に、これらタンパク加水分解物の数平均分子量は300〜4,000の範囲が好ましい。より好ましい範囲は500〜2,000である。数平均分子量が300未満では、アミノ酸が2個程度結合した状態で存在しており、歯面への吸着力は相対的に小さく歯石形成抑制効果が不十分となる場合があり、5,000を超えると、分子構造的に立体障害が顕著になり、その結果、やはり吸着力が低下して歯石形成抑制効果も低下してしまう場合がある。
【0019】
なお、これらのタンパク加水分解物の数平均分子量は、分子中の総窒素量、アミノ酸態窒素量、構成アミノ酸の平均分子量をもとに下記式で計算したものである。
下記式において、構成アミノ酸の平均分子量は、通常のアミノ酸分析により求めた構成アミノ酸の存在比率(%)に各アミノ酸の分子量を掛け合わせたものを示し、総窒素量は化粧品原料基準一般試験法の窒素定量法第一法あるいはガスクロマトグラフィー(GC)、アミノ態窒素量は、ホルモール滴定法によって測定できる。
【0020】
【数1】

【0021】
このような大豆又は小麦由来のタンパク加水分解物としては、工業的に入手できるものとして成和化成(株)の製品がある。これらの大豆又は小麦由来のタンパク加水分解物には、グルタミン酸、アスパラギン酸などの酸性アミノ酸が全アミノ酸の約40%も占めることから、本発明に特に好ましく使用される。ちなみにこれら以外のタンパク加水分解物(例えば、コラーゲン(グリシン、プロリン、ヒドロキシプロリンに富む)、シルク(グリシン、アラニン、セリンに富む))では、このような高い濃度の酸性アミノ酸は含有されていない。
例えば小麦由来のタンパク加水分解物として、商品名:プロモイスWG(数平均分子量:700)、あるいは大豆由来のタンパク加水分解物として商品名:プロモイスWSと同WS−H(数平均分子量:700)が好適に使用できる。これら製品は、いずれも25%水溶液として入手できる。なお、同社の製品でなくても、大豆又は小麦由来で同様な特徴を有するタンパク加水分解物であれば、本発明に使用できる。また、これらの大豆又は小麦由来のタンパク加水分解物は、1種類を単独で使用しても2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
(A)大豆又は小麦のタンパク加水分解物の配合量(純分換算)は、組成物全体の1.0〜4.0%(質量%、以下同様。)であり、特に2.0〜3.0%が好ましい。配合量が1.0%に満たないと、亜鉛化合物の有効性(歯石形成抑制効果)の顕著な向上は見られない。また、4.0%を超えても歯石形成抑制効果の向上は飽和する傾向にあり、また、タンパク加水分解物由来の独特の味が強くなりすぎてしまう。
【0023】
本発明においては、(B)成分として水溶性亜鉛化合物を配合する。ここで、亜鉛化合物としては、組成物中で遊離の亜鉛イオンを供給するもので、生体に為害作用がなく水溶性であれば使用可能であるが、水にほとんど溶解しないもの(例えば酸化亜鉛)や強い錯体を形成するもの(例えばステアリル酸などの脂肪酸亜鉛)、それ自身で特異な刺激の強いもの(例えばフェノール硫酸亜鉛)は使用できない。本発明の(B)成分としては、水溶性の無機及び有機酸化合物が配合量を少なくできる点から好ましく、無機塩として塩化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛が、有機酸亜鉛として酢酸亜鉛、乳酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、クエン酸亜鉛が使用される(いずれも和光純薬工業株式会社製)。これらの中では、製剤への配合性や味などの使用感から、無機塩としては塩化亜鉛、有機酸亜鉛としては酢酸亜鉛、乳酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、クエン酸亜鉛が好ましく使用され、とりわけ塩化亜鉛、クエン酸亜鉛、乳酸亜鉛、グルコン酸亜鉛が好ましい。なお、これらの水溶性の無機又は有機酸亜鉛化合物は、1種を単独で使用しても、2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0024】
(B)水溶性亜鉛化合物の配合量は、組成物全体の0.5〜2.0%であり、特に0.5〜1.5%が好ましい。亜鉛化合物の配合量が0.5%未満では、(A)成分のタンパク加水分解物を水溶性亜鉛化合物の配合量に対して2倍以上配合しても有効性(歯石形成抑制効果)の顕著な向上は見られず、満足な歯石形成抑制効果が発揮されず、配合量が2.0%を越える場合では、有効性は満足できるが、多量(4.0%を超える配合量)のタンパク加水分解物を配合しても使用感の更なる改善が見られない。
【0025】
更に、本発明においては、(A)大豆又は小麦由来のタンパク加水分解物の配合量(純分換算)と(B)水溶性亜鉛化合物の配合割合(A/B)は、質量比で1.5〜2.0である。配合比が1.5に満たないと亜鉛化合物の有効性に対するタンパク加水分解物の添加効果は不十分であり、また使用感も十分改善されない。2.0を超えると、亜鉛化合物の有効性に対するタンパク加水分解物の添加効果は飽和傾向となり、また、タンパク加水分解物由来の独特の味が強くなりすぎてしまう。
【0026】
本発明の口腔用組成物は、練歯磨、潤製歯磨、液体歯磨等の歯磨剤、洗口剤、口中清涼剤、うがい用錠剤、義歯用洗浄剤、トローチ、チューインガム等の各種形態に調製することができ、それぞれの組成物は、その特徴に応じ、上記必須成分に加えてその他の任意成分を本発明の効果を損ねない範囲で使用し、通常の方法で調製することができる。
【0027】
任意成分としては、口腔用組成物の種類に応じた適宣な成分が用いられる。例えば、研磨剤、粘結剤、粘稠剤、甘味料、防腐剤、香料、着色剤、pH調整剤、賦形剤、各種薬効成分等を配合することができる。
【0028】
この場合、研磨剤として、例えば無水ケイ酸等のシリカ系研磨剤、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、アルミノシリケート、第二リン酸カルシウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、不溶性メタリン酸カリウム、酸化チタン、合成樹脂等が必要に応じて好適に使用される。これら研磨剤は1種又は2種以上配合し得る(配合量は通常、組成物全体の3〜90%)。
【0029】
また、界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム等のアルキル基の炭素数が8〜18である高級アルキル硫酸エステルの水溶性塩、ラウリルモノグリセライドスルフォン酸ナトリウム、ココナッツモノグリセライドスルフォン酸ナトリウム等の脂肪酸基の炭素数が10〜18である高級脂肪酸モノグリセライドスルフォン酸の水溶性塩、オレフィンスルフォン酸、パラフィンスルフォン酸や、その他のアニオン活性剤、ステアリルモノグリセライド、ショ糖モノ及びジラウレート等の脂肪酸基の炭素数が12〜18であるショ糖脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステル、ラクチトール脂肪酸エステル、マルチトール脂肪酸エステル、ステアリン酸モノグリセライド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、エチレングリコ−ル約60モルが付加したソルビタンモノステアレート縮合物、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの重合物及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノラウリルエステル等の誘導体といったノニオン活性剤、ベタイン型、アミノ酸型等の両性活性剤などの界面活性剤が用いられる(通常配合量は組成物全体の0.01〜7%)。
【0030】
粘結剤としては、カラゲナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロースナトリウムなどのセルロース誘導体、アルギン酸ナトリウムなどのアルカリ金属アルギネート、アルギン酸プロピレングリコールエステル、キサンタンガム、トラガカントガム、カラヤガム、アラビアガムなどのガム類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドンなどの合成粘結剤、ゲル化性シリカ、ゲル化性アルミニウムシリカ、ビーガム、ラポナイトなどの無機粘結剤等の1種又は2種以上が配合され得る(配合量は通常、組成物全体の0.5〜10%)。
【0031】
粘稠剤としては、ソルビット、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キシリット、マルチット、ラクチット等の1種又は2種以上を配合し得る(配合量通常1〜50%)。
【0032】
更に甘味剤として、サッカリンナトリウム、ステピオサイド、キシリトール、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、グリチルリチン、ペリラルチン、タウマチン、アスパラチルフェニルアラニンメチルエステル、p−メトキシシンナミックアルデヒド、サイクラミン酸ナトリウム等、防腐剤としてp−ヒドロキシメチルベンゾイックアシド、p−ヒドロキシエチルベンゾイックアシド、p−ヒドロキシプロピルベンゾイックアシド、p−ヒドロキシブチルベンゾイックアシド、安息香酸ナトリウム、低級脂肪酸モノグリセライド等、香料としてウインターグリーン油、スペアミント油、ペパーミント油、サッサフラス油、丁字油、ユーカリ油等が配合され得る。
【0033】
また、ゼラチン、ペプトン、アルブミン、増白剤、シリコーン、色素、その他成分を配合し得る。更にまた、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズなどのフッ化物、イプシロンアミノカプロン酸、トラネキサム酸、デキストラナーゼ、プロテアーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、溶菌酵素、リテックエンザイム等の酵素、クロルヘキシジン塩類、ジヒドロコレステロール、グリチルレチン塩類、グリチルレチン酸、カロペプタイド、ビタミン類、抗菌剤、硝酸カリウムなどの知覚過敏症鈍麻剤等の有効成分を1種又は2種以上配合し得る。
【0034】
本発明の口腔用組成物のpHは、口腔内及び人体に安全性上問題ない範囲であれば、特に限定されるものではないが、望ましくはpH6〜9であり、更に望ましくは7〜9である。なお、必要に応じて、pH調整剤として、酢酸、塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸、リン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等を適量配合し得る。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、各例中の各成分の配合量(%)はいずれも質量百分率である。
【0036】
〔実施例、比較例〕
表1〜3に示す組成の歯磨剤、洗口剤を下記方法により調製し、下記の試験を行って評価した。結果を表1〜3に示す。
【0037】
(1)歯磨剤の調製(実施例1〜12、比較例1〜12)
精製水中に水溶性成分(タンパク加水分解物、水溶性亜鉛化合物、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、サッカリンナトリウム、キシリトール、グリセリン、70%ソルビット等)を常温で混合溶解させたA相を調製した。
【0038】
なお、実施例におけるタンパク加水分解物は、小麦由来のもの(商品名:プロモイスWG、数平均分子量:700)、あるいは大豆由来のもの(商品名:プロモイスWS、数平均分子量:700、商品名:WS−H、数平均分子量:700)を使用した。これらのタンパク加水分解物の数平均分子量は、総窒素量については化粧品原料基準一般試験法の窒素定量法第一法を、アミノ態窒素量についてはホルモール滴定法を用いて測定し、前記した式(〔数1〕)により算出した。一方、比較成分としては、大豆タンパク質を加水分解していないもの(不二製油株式会社品のニューフジプローE;大豆タンパク粉末「91.2%純度」)、及び酸性アミノ酸の含有量が少ないペプチドの例としてシルクペプチド(グリシン、アラニン、セリンなどの中性アミノ酸が全アミノ酸の約8割を占める:株式会社成和化成品のプロモイス−シルク1000P、数平均分子量約1,000)、及び数平均分子量が5,000のシルクパウダー(カネボウ(株)のシルクパウダーFD)を使用した。アミノ酸混合物は、市販の試薬より調製)(酸性アミノ酸としてグルタミン酸10%、アスパラギン酸10%、中性アミノ酸としてグリシン80%から構成(計100%))した。
また、亜鉛化合物の比較成分として、水にほとんど溶解しない酸化亜鉛とステアリル酸亜鉛(いずれも和光純薬工業(株)製)を使用した。
【0039】
次いで、プロピレングリコール中に、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の油溶性成分を常温で溶解・分散させたB相を調製した。次に、撹拌中のA相の中にB相を添加混合し、C相を調製した。C相中に、香料、無水ケイ酸等の研磨剤、その他の成分(ラウリル硫酸ナトリウム等)を添加し、1.5Lニーダー(石山工作所製)を用いて常温にて混合し、4kPaまで減圧し脱泡を行い、歯磨剤1.0kgを得た。
【0040】
(2)洗口剤の調製(実施例13〜15)
スリーワンモーターと回転羽根を有する撹拌機を装着したステンレス製容器に、規定量の精製水を投入し、配合成分のうち水溶性成分(タンパク加水分解物、水溶性亜鉛化合物、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、サッカリンナトリウム、キシリトール、グリセリン等)を撹拌しながら投入、溶解させた。同時にスリーワンモーターと回転羽根を有する撹拌機を装着した別のステンレス製容器に、規定量のエタノール等の有機溶剤を投入し、配合成分のうち油溶性成分を撹拌しながら投入、溶解させた。更に、水溶性成分を溶解させた容器に上記油溶性成分を加え、1分〜30分撹拌し、均一溶液とし洗口剤を得た。
【0041】
(3)試験法
歯石予防歯磨剤の効果について、臨床試験での有効性が報告されている水溶性亜鉛化合物として、塩化亜鉛が知られている(配合濃度:約2%)。その場合、現実問題として使用感に改善が必要となる。そこで、本発明の実施例では、歯磨剤又は洗口剤への配合量を減らして使用感を改善した処方で効果を試験したが、2%配合組成の場合と比べて歯石予防効果の減少を引き起こした。この効果の減少を補強することを目的として、この処方に大豆又は小麦由来のタンパク加水分解物を一定量配合し、表1(実施例)に示した組成にて歯磨剤を処方した。なお、比較例は表2に示すとおりの組成である。
洗口剤の組成は表3に示すとおりである。
【0042】
各歯磨剤、洗口剤について、下記に示す方法にて歯石形成抑制効果と使用感を評価した。なお、評価は、2%の塩化亜鉛を配合した下記組成の歯磨剤Iの場合と比較した。なお、洗口剤の場合は、歯磨剤のように使用中に唾液で希釈されることが少ないことから、塩化亜鉛の配合濃度を1.0%とした下記組成の洗口剤Iを調製し、これとの比較により評価した。
【0043】
塩化亜鉛2%配合の歯磨剤Iの組成:
塩化亜鉛 2.0%
無水ケイ酸 20.0
プロピレングリコール 3.0
カルボキシメチルセルロースナトリウム 2.0
グリセリン 30.0
キシリトール 8.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0
サッカリンナトリウム 0.02
香料 0.8
トリクロサン 0.3
イソプロピルメチルフェノール 0.1
フッ化ナトリウム 0.2
精製水 バランス
合計 100.0%
pH 7.5(塩酸又は水酸化ナトリウムで調整)
【0044】
塩化亜鉛1.0%配合の洗口剤Iの組成:
塩化亜鉛 1.0%
グリセリン 10.0
キシリトール 3.0
エタノール 8.0
サッカリンナトリウム 0.1
クエン酸 0.01
クエン酸ナトリウム 0.3
香料 0.3
トリクロサン 0.15
イソプロピルメチルフェノール 0.1
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.2
精製水 バランス
合計 100.0%
pH 7.5(塩酸又は水酸化ナトリウムで調整)
【0045】
歯石形成抑制効果の評価
ヒトエナメル質の代わりに、同様な性状を有する牛エナメル質を用いた。牛エナメル質をサンドペーパ(#1,500)にて研磨して光沢のある平らな表面とし、その表面を1×1mmの面積を除いてマニキュアで被覆し、これを試験サンプルとした。評価対象歯磨剤(実施例及び比較例)をそれぞれ蒸留水にて2倍に希釈し、そのスラリー中に試験サンプルを3分間浸漬した。余剰のスラリーを除くため試験サンプルを軽く水洗し、人工プラーク液(2mL)に浸漬した(37℃、24時間)。洗口剤の場合は、蒸留水で希釈することなく、試験サンプルを洗口剤に1分間浸漬した。余剰の洗口剤液を除くため試験サンプルを軽く水洗し、人工プラーク液(2mL)に浸漬した(37℃、24時間)。この人工プラーク液に含まれるカルシウムイオンとリン酸イオンとの結合によって歯石様の物質(種々のリン酸カルシウムの複合体)が形成、牛エナメル質表面に沈着する。この時、評価対象歯磨剤や洗口剤に含まれる活性成分によって歯石様の物質の形成が抑制される。
【0046】
ここで用いた人工プラーク液は、文献(Journal Dental research 67(12):1468−1475,1988)を参考に調製した(人工プラーク液:CaCl2=4.1mM、KH2PO4=15.5mM、酢酸=100mM、NaCl=100mM、pH6.35:1規定水酸化ナトリウム水溶液にて調整、試薬はすべて和光純薬工業(株)製である。
【0047】
歯石様の物質の形成抑制効果は、電子顕微鏡観察法にて行った。即ち、24時間後に人工プラーク液から試験サンプルを取り出し、十分洗浄・乾燥後、サンプル表面に対し金蒸着を施した。これを電子顕微鏡で観察すると、サンプル表面は針状のリン酸カルシウムの結晶によって被覆されているのが認められた。
【0048】
なお、被覆率は、得られた形成物の電子顕微鏡画像について汎用の画像解析装置を用いて解析して求めた。具体的には、電子顕微鏡画像において沈着物が存在している領域は黒く映り、沈着物の存在していない領域は白っぽく映る。この領域の差異を区分する閾値(輝度)を設定し、全観察領域を二値化した。そして、全観察領域に対する沈着物が占める領域の割合を被覆率(%)とした。ここでの被覆率の値は、各評価対象歯磨剤及び洗口剤について試験サンプルは3個を用いた時の平均値である。この被覆程度を以下の4段階の評価点で評価した。
【0049】
有効性評価点 被覆率(%)
4 0〜 24
3 25〜 49
2 50〜 74
1 75〜100
【0050】
即ち、被覆率が75〜100%の場合は評価点を1点(効果なし、又は少ない)、50〜74%の被覆率の場合を2点、25〜49%の被覆率の場合を3点、0〜24%の被覆率の場合を4点とした。なお、上記塩化亜鉛2.0%配合の歯磨剤(但し、洗口剤の場合は、歯磨剤での2倍希釈を考慮して1.0%配合)で処置した場合での被覆程度は2点であったので、これより高い評価点の場合を本発明の基準とした。
【0051】
使用感
5人の健常人に各歯磨剤を使用させた。通常のハブラシの植毛部に約1gの歯磨剤を取り3分間歯磨きさせ、その後、約10mLの水道水で3回口濯ぎささせ、使用感を記入用紙に記入させた。
使用感評価基準は、上記塩化亜鉛2.0%配合の歯磨剤Iで磨いた場合の使用感を1点(亜鉛由来の金属味等の違和感等を強く感じる)とし、また、塩化亜鉛を配合していない通常の歯磨剤で磨いた場合の使用感を3点(金属味等を全く感じない)とし、その中間として2点(ごくわずかしか感じない)として、2点および3点の評価点を本発明の基準とし、5人の平均値(四捨五入した整数値)を算出した。なお、シルクペプチドを多く配合した場合(4.0%を超える)、同成分由来の特異の味が強くなり、亜鉛由来の使用感に問題がなくても、全体として使用感に問題があると判断され場合も評価点1点とした(下記評価基準参照)。
【0052】
洗口剤の場合は、歯磨剤の場合に準じて実施したが、洗口剤の使用量は5mL、洗口時間は1分、口濯ぎは軽く1回とした。そして、上記塩化亜鉛1.0%配合の洗口剤Iで洗口した場合の使用感を1点とし、上記の歯磨剤の場合と同様に評価した。
【0053】
使用感の評価基準:
評価点 亜鉛由来の金属味等の違和感 シルクペプチド由来の特異な味 該当性
3 全く感じない 全く感じない 両方に該当
2 ごくわずかしか感じない ごくわずかしか感じない 両方に該当
1 強く感じる 強く感じる 両方又はどちら
か一方が該当
【0054】
総合評価
歯石形成抑制効果と使用感の2つの評価を下記基準で総合評価した。
総合評価の評価基準:
◎ 有効性が4点で使用感評価点が3点の場合
○ 有効性と使用感評価点がともに3点の場合
又は有効性が4点で使用感評価点が2点の場合
× 有効性の基準点(3点)と使用感の基準点(2点)が同時に満たされない場合
【0055】
【表1】

【0056】
*1;プロモイスWG(株式会社成和化成品、25%水溶液を使用(表中の配合量は純分換算した配合量を示した))
*2;プロモイスWS(株式会社成和化成品、25%水溶液を使用(表中の配合量は純分換算した配合量を示した))
*3;プロモイスS−H(株式会社成和化成品、25%水溶液を使用(表中の配合量は純分換算した配合量を示した))
【0057】
【表2】

【0058】
*1;プロモイスWG(株式会社成和化成品:25%水溶液を使用(表中の配合量は純分換算した配合量を示した))
*4;ニューフジプローE(不二製油品:加水分解していない大豆タンパク)
*5;プロモイス−シルク1000P(株式会社成和化成品:酸性アミノ酸の含有量は少なく、グリシンなど中性アミノ酸が主体のタンパク加水分解物)
*6;シルクパウダーFD(カネボウ(株):数平均分子量は5,000)
*7;アミノ酸混合物(市販の試薬より調製)(酸性アミノ酸としてグルタミン酸10%、アスパラギン酸10%、中性アミノ酸としてグリシン80%から構成(計100%))
【0059】
【表3】

【0060】
*1;プロモイスWG(株式会社成和化成品、25%水溶液を使用(表中の配合量は純分換算した配合量を示した)
*2;プロモイスWS(株式会社成和化成品、25%水溶液を使用(表中の配合量は純分換算した配合量を示した)
*3;プロモイスS−H(株式会社成和化成品、25%水溶液を使用(表中の配合量は純分換算した配合量を示した))

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)大豆又は小麦由来のタンパク加水分解物を1.0〜4.0質量%、(B)塩化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、乳酸亜鉛、グルコン酸亜鉛及びクエン酸亜鉛から選ばれる水溶性亜鉛化合物を0.5〜2.0質量%含有し、(A)成分と(B)成分の質量比(A/B)が1.5〜2.0であることを特徴とする口腔用組成物。

【公開番号】特開2008−74774(P2008−74774A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256725(P2006−256725)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】