説明

可とう性多層チューブ及びその製造方法

【課題】気密性、水密性、耐汚染性、内表面のすべりやすさに優れているとともに、優れた生産性で製造が可能でかつ、近年の要請を満たすような、優れた柔軟性や耐キンク特性を有する可とう性多層チューブ、及びその可とう性多層チューブを優れた生産性で製造することができる可とう性多層チューブの製造方法を提供する。
【解決手段】融点が310℃以下の熱可塑性フッ素樹脂の充実構造からなる第1層と、その外周側に積層され、多孔質構造のPTFEからなる第2層を有し、前記第1層と第2層が熱融着されていることを特徴とする可とう性多層チューブ、及び芯材に、融点が310℃以下の熱可塑性フッ素樹脂の充実構造からなる樹脂チューブ、さらにその上に多孔質構造のPTFEからなる樹脂チューブ2を被せた後、310〜380℃に加熱して焼成する工程を有する可とう性多層チューブの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性及び耐屈曲性に優れるとともに、かつ内表面の滑り性や耐汚染性も優れ、医療用チューブ、特に内視鏡用鉗子ガイドチューブ等に好適に用いられる可とう性多層チューブ、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡用鉗子ガイドチューブ、体液流通用チューブ等の医療用チューブには、小さな曲げ半径でも屈曲し易い性質(優れた柔軟性)、及び屈曲を繰り返しても折れ(キンク)等の破損が生じない優れた耐屈曲性(耐キンク特性)が求められる。又、気密性や水密性、及び優れた耐汚染性、耐微生物性、有機物付着防止性も求められる。さらに、内視鏡用鉗子ガイドチューブに用いる場合等では、鉗子の挿入の抵抗とならないように内表面のすべりやすさ(優れた平滑性)が求められる。
【0003】
このような要請を満たすチューブとして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂等の可とう性樹脂からなり、多層構造の可とう性チューブが提案されている。例えば、特許文献1(請求項1等)では、充実構造のPTFEからなる第1層と、その外周面に積層された多孔質構造のPTFEからなる第2層とからなり、該第1層と第2層とは熱融着により一体化され、かつ該第1層の厚さが第1層と第2層の合計厚さの1/1000〜1/2の範囲にあることを特徴とする可とう性多層チューブが提案されている。
【0004】
この可とう性多層チューブは、PTFEからなるので、耐微生物性、有機物付着防止性等の耐汚染性に優れている。又、多層構造とし、第1層を充実構造のPTFEから形成して気密性、水密性、内表面の平滑性を得ているとともに、第2層を多孔質構造のPTFEから形成して屈曲しやすさ(柔軟性)や耐屈曲性を向上させている。さらに、第1層と第2層の間に、熱可塑性フッ素樹脂からなる接着剤層を設け、第1層と第2層の間の接着性を高める方法も記載されている。
【0005】
又、特許文献2(請求項1等)には、「熱可塑性樹脂の溶融押出成形により形成された厚さ100μm以下のチューブ壁を有する熱可塑性樹脂チューブの外周面に多孔質ポリテトラフルオロエチレン層を積層接着させた構造を有することを特徴とする可とう性に富む複合チューブ。」が開示されており、マイクロカテーテル用チューブとしての用途も開示されている(段落0008)。そして、そのチューブの内層としては、PTFEより融点の低いフッ素樹脂、例えば、PFA、EPE、FEP、PCTFE、ETFE、ECTFE、PVDF等を溶融押出したもの(従って、充実構造である。)が提案されている(段落0006)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許3184387号公報(請求項1)
【特許文献2】特許3955643号公報(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
チューブの内層には、優れた耐薬品性が求められ、この点ではフッ素樹脂は好ましい。しかし、前記のフッ素樹脂の充実構造からなる内層は硬く、内径1.5〜4mm程度、厚み10〜50μm程度の内視鏡用鉗子ガイドチューブ等の内層として前記のフッ素樹脂を用いた場合、医療用のチューブに対する近年の要請を考慮すると、柔軟性や耐屈曲性(耐キンク特性)が不十分との問題があった。特に、充実構造のPTFEは硬く耐キンク特性(耐屈曲性)は不十分である。そこで、より柔軟性や耐キンク特性に優れる可とう性チューブが望まれていた。
【0008】
又、特許文献1や2に記載されているチューブは、その製造に複雑な工程を要し高価になるとの問題があった。すなわち、外層の形成は、多孔質構造のPTFEフィルムをチューブ状に巻成固定化する方法により行われている。又、特許文献1では、充実構造を有するか又は焼成により充実構造となるPTFEフィルムを、芯材上に巻成固定化してPTFEフィルムの巻成体のチューブを形成し内層(第1層)とする方法が採用されている。しかし、これらの方法は、非常に複雑な製造工程を要し、生産性が低く、可とう性チューブが高価となる問題があった。
【0009】
本発明は、気密性、水密性、耐汚染性、内表面のすべりやすさに優れているとともに、優れた生産性での製造が可能であり、かつ、近年の要請を満たすような、優れた柔軟性や耐キンク特性を有する可とう性多層チューブを提供することを課題とする。本発明は、又、その可とう性多層チューブを優れた生産性で製造することができる可とう性多層チューブの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、第1層(内層)を、PTFEより低融点であって、そのチューブの300℃における収縮率が2〜15%であるフッ素樹脂の充実構造により構成すると、従来一般に使用されているようなチューブの収縮率が50%程度と大きいフッ素樹脂を使用した場合より優れた柔軟性や耐キンク特性が得られること、気密性、水密性、耐汚染性(耐微生物性、有機物付着防止)、内表面のすべりやすさについても、PTFEを内層に用いた場合と実用上問題となるような差はないことを見出した。本発明者は、さらに、PTFEより低融点であって、そのチューブの300℃における収縮率が2〜15%であるフッ素樹脂からなり充実構造のチューブを芯材に被せ、その上にさらにPTFE多孔質チューブを被せた後、300〜380℃で焼成し、その後芯材を除去する方法により、前記課題を達成する可とう性多層チューブが容易に得られることを見出し、本発明を完成した。即ち、前記の課題は以下に示す構成からなる発明により解決される。
【0011】
請求項1に記載の発明は、内径1.5〜4mmの可とう性多層チューブであって、融点が310℃以下でありかつそのチューブの300℃における収縮率が2〜15%である熱可塑性フッ素樹脂の充実構造からなる第1層と、その外周側に積層され、多孔質構造のPTFEからなる第2層を有し、前記第1層と第2層が熱融着されていることを特徴とする可とう性多層チューブである。
【0012】
この発明の可とう性多層チューブの内径は、内視鏡用鉗子ガイドチューブとして好適な1.5〜4mmの範囲である。このような太さのチューブの内層(第1層)を、前記のような従来のフッ素樹脂により形成した場合、柔軟性や耐屈曲性に劣る問題が生じやすく、とくに内層(第1層)の厚みが内視鏡用鉗子ガイドチューブとして好適な10〜50μmである場合この問題が大きかったが、融点が310℃以下でありかつそのチューブの300℃における収縮率が2〜15%である熱可塑性フッ素樹脂により内層(第1層)を形成することによりこの問題は抑制され、柔軟性や耐屈曲性が向上する。
【0013】
チューブの300℃における収縮率とは、熱可塑性フッ素樹脂からなるチューブを、300℃に加熱し収縮させたときのチューブの外径をa、加熱前の常温(例えば30℃)における外径をbとしたとき、[(b−a)/b]×100(%)で表される値を意味する。なお、後述のように、好ましくは、内層(第1層)を構成するチューブを芯材に被せた後、チューブを200〜300℃程度に加熱して収縮させる工程が設けられる。この工程における収縮率は、加熱の温度により変動するので加熱の温度を調整することによりこの工程における収縮率を調整することができる。例えば、300℃での収縮率が10〜15%のチューブは200℃では約5%の収縮率である。
【0014】
フッ素樹脂の充実構造からなるとは、無孔質のフッ素樹脂から形成されることを意味する。この可とう性多層チューブでは、その第1層が無孔質のフッ素樹脂から形成されているので、気密性、水密性に優れ、さらに耐汚染性(耐微生物性、有機物付着防止)、内表面のすべりやすさに優れている。これらの性質については、充実構造のPTFEを用いた場合と同様であり実用上問題となることはない。
【0015】
この可とう性多層チューブは、第1層の柔軟性や耐屈曲性が向上しており、かつ第2層は、従来の可とう性多層チューブと同様に多孔質構造のPTFEにより構成したので、従来の可とう性多層チューブより柔軟性や耐キンク特性に優れている。
【0016】
第2層を構成する多孔質のPTFEとしては、特許文献1に記載の可とう性多層チューブと同様に、特公昭51−18991号公報や特公昭56−17216号公報等に詳述されている方法により製造されたものを用いることができる。すなわち、例えば、次の1)〜4)ようにして製造された延伸PTFEチューブを用いることができる。
【0017】
1)PTFE微粒子をチューブ状に成形する。
2)加熱してPTFE微粒子を融着させる方法、又は加圧しながら押出しシェアをかけることによりPTFE微粒子同士を結合させる方法、等により所定の内外径のチューブを作製する。
3)そのチューブを一軸に又は二軸に延伸する。
4)PTFEの融点以上に加熱する。
【0018】
上記のチューブを延伸すると、PTFE微粒子の結晶から繊維が引き出され、孔が生じる。そして、PTFEの融点以上に加熱することで繊維の一部が融けて、塊状となった結節という構造が生まれ、これが冷えて固定されることで、繊維と結節から構成され全体として力学的強度を持ったPTFE多孔質体となる。第2層を形成するPTFE多孔質体としては、気孔率が40〜70%のものが好ましい。気孔率がこの範囲より小さい場合はチューブが硬くなり柔軟性が低下しやすく、一方この範囲より大きい場合はチューブが柔らかくなりキンク特性が悪く、曲げた時につぶれやすくなる。
【0019】
第1層と第2層間にはさらに、第1層と第2層間の接着力を向上させるための、熱可塑性樹脂からなる接着層を設けてもよい。又、耐キンク特性を向上させるために、PTFE多孔質体の未焼成シートからなるラッピング層を設けてもよい。
【0020】
請求項2に記載の発明は、融点が310℃以下でありかつそのチューブの300℃における収縮率が2〜15%である熱可塑性フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体又はテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の可とう性多層チューブである。
【0021】
融点が310℃以下でありかつそのチューブの収縮率が2〜15%である熱可塑性フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)等を挙げることができる。中でも、PFA、FEPは、溶融押出しによる薄肉チューブの製造が容易であり、又摩擦係数が小さく従ってチューブ内面の平滑性(すべりやすさ)が優れたものとなるので好ましい。
【0022】
特に、PFAは、薄肉での収縮チューブ化が可能であり、チューブ内面の平滑性(すべりやすさ)をより優れたものとしやすいので好ましい。
【0023】
請求項3に記載の発明は、前記第1層の厚さが、第1層と第2層の合計厚さの1/1000〜1/2の範囲にあることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の可とう性多層チューブである。
【0024】
第1層の厚さが、第1層と第2層の合計厚さの1/1000未満の場合は、第1層が薄すぎてその機能を充分に発揮し得ない場合が多い。すなわち、気密性、水密性、耐汚染性(耐微生物性、有機物付着防止)、内表面のすべりやすさが不十分となり易い。一方、1/2を超える場合は、第1層は充実構造であるため柔軟性が低下する傾向がある。
【0025】
なお、医療用チューブ、特に内視鏡用鉗子ガイドチューブに用いられる場合、第1層の厚さは、10〜50μm程度の範囲が好ましく、第2層の厚さは、0.2〜1.5mm程度の範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜1.0mmである。
【0026】
請求項4に記載の発明は、
外径が1.5〜4mmの芯材に、
融点が310℃以下でありかつそのチューブの300℃における収縮率が2〜15%である熱可塑性フッ素樹脂の充実構造からなり、前記芯材の外径より大きい内径を有する樹脂チューブ1を被せる工程1、
前記樹脂チューブ1の上に、前記樹脂チューブ1の外径より大きい内径を有し、多孔質構造のPTFEからなる樹脂チューブ2を被せる工程2、
工程2の後、310〜380℃に加熱して焼成する工程3、及び
工程3の後、芯材を除去する工程4、を有することを特徴とする可とう性多層チューブの製造方法である。
【0027】
芯材としては、SUS、銅等の金属からなる管や棒、石英やガラス等の棒等が用いられる。
【0028】
樹脂チューブ1は、焼成(工程3)により、本発明の可とう性多層チューブの第1層になる。従って、樹脂チューブ1を形成する融点が310℃以下の熱可塑性フッ素樹脂は、前記で説明されたものと同じであり、前記の例示と同じもの例えばPFAを用いることができる。
【0029】
樹脂チューブ1を芯材に被せる方法としては、樹脂チューブ1内に、芯材を挿入する方法を挙げることができる。芯材への挿入を可能にするため、樹脂チューブ1の内径は、芯材の外径より大きいが、その差は小さい方が好ましい。ただし差が小さすぎる場合は、芯材の挿入が困難になるので、挿入の容易さを考慮しながら差を小さくすることが好ましい。
【0030】
このようにして樹脂チューブ1が被せられた芯材上に、樹脂チューブ2が被せられる。樹脂チューブ2を被せる方法としては、樹脂チューブ2内に樹脂チューブ1を被せた芯材を挿入する方法を挙げることができる。この挿入を可能にするため、樹脂チューブ2の内径は、樹脂チューブ1の外径より大きいことが好ましいが、焼成工程で樹脂チューブ1と樹脂チューブ2の優れた接着性を得るためには、樹脂チューブ2の内径と樹脂チューブ1の外径の差は小さい方が好ましい。ただし差が小さい場合は、挿入が困難になる等の問題が生じるので、挿入の容易さを考慮しながら差を小さくすることが好ましい。
【0031】
樹脂チューブ2は、焼成(工程3)により、本発明の可とう性多層チューブの第2層になる。従って、樹脂チューブ2を構成する多孔質構造のPTFEとしては、前記で説明されたものと同じ多孔質構造のPTFEを用いることができる。
【0032】
工程1及び工程2の後、310〜380℃に加熱して樹脂を焼成する工程3が行われる。310〜380℃に加熱することにより、多孔質構造のPTFEからなる樹脂チューブ2は収縮する。又、融点が310℃以下の熱可塑性樹脂からなる樹脂チューブ1は、その融点以上に加熱されて溶融する、又は、その融点に近い温度まで加熱されて軟化する。その結果、樹脂チューブ1の樹脂が多孔質構造のPTFEの孔内に侵入することにより、樹脂チューブ1と樹脂チューブ2が熱融着される。なお、樹脂チューブ1と樹脂チューブ2の間に熱可塑性樹脂のシートが設けられる場合は、熱可塑性樹脂のシートが加熱により溶融し、樹脂チューブ1と樹脂チューブ2の間が熱融着される。
【0033】
焼成(工程3)後、芯材の引抜きが行われる。芯材が引抜かれ除去されることにより本発明の可とう性多層チューブが得られる。
【0034】
特許文献1、2に記載されていた製造方法においては、樹脂シートを芯材に巻き付ける工程が必要でありこの工程は非常に煩雑でその結果生産性は低かった。しかし、本発明の製造方法によれば、樹脂シートの巻き付けのような煩雑な工程は不要であり、従来方法に比べてはるかに高い生産性で安価に可とう性多層チューブを製造することができる。
【0035】
請求項5に記載の発明は、工程1と工程2の間に、樹脂チューブ1を熱収縮させる工程をさらに有することを特徴とする請求項4に記載の可とう性多層チューブの製造方法である。
【0036】
工程1と工程2の間に、樹脂チューブ1を熱収縮させる工程を設けることにより、本発明の可とう性多層チューブをさらに容易に製造できるので好ましい。このとき、樹脂チューブ1の収縮前の内径を、収縮後の内径が芯材の外径より小さくなるように選択すると、収縮により樹脂チューブ1を芯材に密着できるので、樹脂チューブ2の挿入が容易になる。なお、この場合は、収縮後の樹脂チューブ1の外径より大きな内径を有する樹脂チューブ2を使用することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の可とう性多層チューブは、気密性、水密性、耐汚染性、内表面のすべりやすさに優れているとともに、優れた柔軟性や耐キンク特性を有する。又、本発明の可とう性多層チューブは、優れた生産性での製造が可能であり従って安価にすることができる。この可とう性多層チューブは、本発明の可とう性多層チューブの製造方法により優れた生産性で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
次に、本発明を実施するための形態、特に最良の形態につき説明するが、本発明の範囲はこの形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を損ねない範囲で種々の変更を加えることは可能である。
【0039】
[本発明の可とう性多層チューブの製造の一態様]
(1)PFA収縮チューブの作製
PFA収縮チューブ(第1層)の製造は、従来から行われている熱可塑性樹脂の熱収縮チューブの製造と同様に行うことができる。例えば、通常の押出し成形機を用い、PFAペレットを溶融して、チューブ状に押出し、肉厚10〜50μm程度の薄膜のPFAチューブを作製する。その後、このPFAチューブをエアー圧で膨らませることにより、加熱により径方向に収縮するPFA収縮チューブとなる。このPFA収縮チューブの内径は、芯材への挿入を容易にするため、芯材の外径より0.1〜0.5mm程度大きいことが好ましい。医療用チューブの製造の場合は、通常、内径が1.5〜4mm程度のPFA収縮チューブが用いられる。
【0040】
このPFA収縮チューブは、充実構造(無孔質構造)であり、可とう性多層チューブの気密性、水密性を医療用チューブとして充分なものとすることができ、かつ内面の平滑性を優れたものとすることができる。
【0041】
(2)PTFE多孔質チューブの作製
PTFE多孔質チューブは、例えば、PTFEファインパウダー(PTFE微粒子)とナフサを混練し、予備成形したものを、押出し成形機に入れ、チューブ状に押出し、その後、チューブの長さ方向に延伸する方法により製造することができる。この延伸により、一軸延伸された多孔質膜からなるチューブが得られる。
【0042】
(3)PFA収縮チューブの被覆及び熱収縮(工程1)
前記(1)で得られたPFA収縮チューブにSUS棒(芯材)を挿入する。SUS棒としては、PFA収縮チューブの内径より少し細い目の外径を有するものが用いられる。具体的には、外径がPFA収縮チューブの内径より0.1〜0.5mm程度小さいものが好ましい。芯材としては、SUS棒の代わりに、銅や石英、ガラス等からなる棒も用いることができる。PFA収縮チューブをSUS棒に挿入した後、200〜300℃程度に加熱して、PFA収縮チューブをその径方向に収縮させる。
【0043】
(4)PTFE多孔質チューブの被覆
前記(2)で得られたPTFE多孔質チューブに、前記(3)で得られた、PFA収縮チューブにより被覆されたSUS棒を挿入する。PFA収縮チューブやPFA収縮チューブは、SUS棒より少し長いものとし、SUS棒の挿入後、チューブの長手方向の収縮を抑えるために、その両端(SUS棒より突き出た部分)を固定する。
【0044】
(5)焼成
その後、310〜380℃(好ましくは330〜370℃)の温度で、10〜50分程度加熱する。この加熱によりPTFE多孔質チューブはその径方向に収縮する。又、PFA収縮チューブは溶融するので、PFA収縮チューブとPTFE多孔質チューブは熱融着し一体化し、それぞれ、本発明の可とう性多層チューブの第1層及び第2層となる。冷却後、SUS棒を引き抜くことにより本発明の可とう性多層チューブが得られる。
【0045】
[本発明の可とう性多層チューブの一態様]
このようにして得られた可とう性多層チューブは、第1層が融点290℃のPFAからなり、充実構造(無孔質)の層であり、優れた気密性、水密性、内面の平滑性を有するものである。又、第2層が多孔質のPTFEからなり、かつ第1層はPTFEより柔軟性、耐キンク特性が優れるPFAからなるので、柔軟性、耐キンク特性も優れている。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の可とう性多層チューブは、気密性、水密性、耐汚染性、内表面のすべりやすさに優れているので、医療用チューブに好適に用いることができ、特に内視鏡用鉗子ガイドチューブとして好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径1.5〜4mmの可とう性多層チューブであって、融点が310℃以下でありかつそのチューブの300℃における収縮率が2〜15%である熱可塑性フッ素樹脂の充実構造からなる第1層と、その外周側に積層され、多孔質構造のPTFEからなる第2層を有し、前記第1層と第2層が熱融着されていることを特徴とする可とう性多層チューブ。
【請求項2】
融点が310℃以下でありかつそのチューブの300℃における収縮率が2〜15%である熱可塑性フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体又はテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の可とう性多層チューブ。
【請求項3】
前記第1層の厚さが、第1層と第2層の合計厚さの1/1000〜1/2の範囲にあることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の可とう性多層チューブ。
【請求項4】
外径が1.5〜4mmの芯材に、
融点が310℃以下でありかつそのチューブの300℃における収縮率が2〜15%である熱可塑性フッ素樹脂の充実構造からなり、前記芯材の外径より大きい内径を有する樹脂チューブ1を被せる工程1、
前記樹脂チューブ1の上に、前記樹脂チューブ1の外径より大きい内径を有し、多孔質構造のPTFEからなる樹脂チューブ2を被せる工程2、
工程2の後、310〜380℃に加熱して焼成する工程3、及び
工程3の後、芯材を除去する工程4、を有することを特徴とする可とう性多層チューブの製造方法。
【請求項5】
工程1と工程2の間に、樹脂チューブ1を熱収縮させる工程をさらに有することを特徴とする請求項4に記載の可とう性多層チューブの製造方法。

【公開番号】特開2012−153076(P2012−153076A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15912(P2011−15912)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】