説明

可動式キャブの非常降下装置

【課題】キャブ内に高圧系統の油圧管路を引き込むことなく実施でき、かつ電気系統のトラブルによりキャブを降下させることができないという事態を回避することが可能となる可動式キャブの非常降下装置を提供する。
【解決手段】作業機のパイロット油圧ポンプ35の吐出油を蓄えるアキュムレータ50を設ける。キャブを昇降させる油圧シリンダ30のボトム室30aと油タンク48との間の管路に非常用切換弁44を設ける。この非常用切換弁44は、ボトム室30aと油タンク48との間を遮断する遮断位置と、ボトム室30aと油タンク48とを連通させる連通位置とで切換え可能とする。非常用切換弁44の手動式操作弁53をキャブ内に設ける。この手動式操作弁53の手動操作によりアキュムレータ50内パイロット圧油を非常用切換弁44の油圧操作室44aに供給して非常用切換弁44を連通位置に切換える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機における昇降式キャブ等の可動式キャブをエンジントラブル等の非常時に降下させるための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
旋回フレーム上にパワーユニットやキャブを搭載すると共に、旋回フレームに多関節アームやブームを取付け、その先端に作業具を取付けて構成される作業機において、キャブ上からの視界を良好にするため、キャブを持ち上げ可能に構成したリフトキャブ式のものがある。このリフトキャブ式の作業機としては、例えば多関節アームの先端にフォークやグラップルバケットを取付けて廃材や資材等の積み込み積み下ろし、あるいは集積等を行なう作業機や、多関節アームの先端にマグネットを取付けて構成されるリフティングマグネット機や、港湾作業機等がある。
【0003】
このようなリフトキャブ式作業機において、エンジントラブルや燃料切れ等によりパワーユニットの原動機が停止すると、キャブを上下動させる昇降用油圧シリンダを作動させることができなくなるので、通常、キャブを上げ状態から自重により降下させる非常降下装置が備えられている。このようなキャブの非常降下装置として、特許文献1に記載のように、キャブを上下動させる昇降用油圧シリンダのボトム室とロッド室との間を接続するバイパス管を設け、そのバイパス管に非常用切換弁を設けたものがある。この従来構成の非常降下装置においては、非常時にはその非常用切換弁を開いてボトム室とロッド室とを連通させることにより、キャブの自重によって生じるボトム室側の圧油がロッド室内に還流し、一部は油タンクに流してキャブを降下させる。
【0004】
ここで、非常用切換弁としては、特許文献1に記載の電磁操作式のものと、手動式のものとがある。これらのうち、電磁操作式のものは、非常用切換弁として電磁操作式切換弁を使用すると共に、キャブ内に操作用のスイッチを設け、オペレータがこのスイッチを操作することにより、前記電磁操作式切換弁を連通側に切換える方式のものである。また、手動式のものは、前記バイパス管をキャブ内に引き込むと共に、手動操作式の非常用切換弁をキャブ内に設け、その非常用切換弁をオペレータが手動で操作することによって前記ボトム室とロッド室および油タンクとを連通させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−104795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非常用切換弁を操作するスイッチをキャブ内に設け、スイッチ操作により電磁操作式切換弁でなる非常用切換弁を切換える方式の従来の非常降下装置は、油圧系統のみならず電気操作系統も故障した場合には非常用切換弁の切換えができず、キャブの降下ができなくなるという問題点がある。また、キャブ内に手動式の非常用切換弁を設けたものは、昇降用油圧シリンダを昇降させる高圧系の油圧管路をキャブ内に引き込むことになるので、キャブ内で配管が故障した場合にはキャブ内に作動油が勢い良く噴出するおそれがある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑み、キャブ内に高圧系統の管路を引き込むことなく実施でき、かつ電気系統のトラブルによりキャブを降下させることができないという事態を回避することが可能となる可動式キャブの非常降下装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の可動式キャブの非常降下装置は、作業機の旋回フレームに油圧シリンダにより高さまたは傾斜角度が変更可能に取付けられた可動式キャブの非常降下装置において、
作業機のパイロット油圧ポンプの吐出油を蓄えるアキュムレータと、
少なくとも前記油圧シリンダのボトム室と油タンクとの間の管路に設けられ、前記ボトム室と前記油タンクとを遮断する遮断位置と、前記ボトム室と前記油タンクとを連通させる連通位置とで切換え可能な非常用切換弁と、
前記キャブ内に設けられ、手動操作により前記アキュムレータに蓄えられたパイロット圧油を前記非常用切換弁の油圧操作室に供給して前記非常用切換弁を前記連通位置に切換え可能な操作弁とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、原動機停止や燃料切れ等の非常停止時においても、キャブ内に設けた操作弁を手動によって切換えることにより、アキュムレータに蓄えられたパイロット圧油が非常用切換弁の油圧操作室に供給されて非常用切換弁が連通位置に切換わり、油圧シリンダのボトム室が油タンクとロッド室に連通するので、油圧シリンダをキャブの自重により降下させることができる。
【0010】
また、キャブ内に設置する操作弁は手動によって切換え可能なものであるため、電気系統の機器やラインを必要としない。このため、電気系統のトラブルによりキャブを降下させることができないという事態を回避することが可能となる。また、アキュムレータは低圧のパイロット圧油を蓄えておくものであり、キャブ内に設けた操作弁は、低圧の圧油を切換えるものであるため、故障によって圧油が勢い良く噴出する事態が発生せず、安全性が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の可動式キャブの非常降下装置を適用する作業機の一例を示す側面図である。
【図2】図1の要部拡大側面図である。
【図3】本発明による可動式キャブの非常降下装置の一実施の形態を示す油圧回路図である。
【図4】本発明の可動式キャブの非常降下装置を適用するキャブの他の例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明の可動式キャブの非常降下装置を適用する作業機の一例を示す側面図である。図1に示すように、この作業機は、下部走行体1上に旋回装置2を介して旋回フレーム3を設置し、この旋回フレーム3上にキャブ4、パワーユニット5およびカウンタウエイト6等を搭載して上部旋回体7を構成する。旋回フレーム3には作業用フロント8を取付ける。
【0013】
この作業用フロント8は、旋回フレーム3にブームシリンダ10により俯仰可能に取付けられたブーム11と、このブーム11にアームシリンダ12により回動可能に取付けられたアーム13と、このアーム13の先端に作業具シリンダ14とアームリンク15および作業具リンク16を介して回動可能に取付けられた作業具17とを備える。この実施の形態においては、作業具17がリフティングマグネットである場合について示す。このリフティングマグネットは、ケース内に電磁石を内蔵し、この電磁石の着磁、消磁により鉄屑等のスクラップあるいは鉄製資材の吸着、離脱を行なわせてこれらのスクラップ等を移動や積み込み、積み下ろしを行なうものである。なお、作業具17としてフォークやグラップルバケット等の作業具を取付けて荷役作業等を行なう作業機として構成する場合もある。
【0014】
キャブ4は、旋回フレーム3に昇降装置20により高さを変更可能に取付けられる。図2はこの昇降装置20の構成を拡大して示している。図2において、21は旋回フレーム3に立設したキャブ支持枠、22はキャブ4の基枠であり、支持枠21と基枠22との間は上下2本の同長のリンク23,24により、その一端をそれぞれ支持枠21にピン25,26により連結し、他端をそれぞれピン27,28により連結して取付けられる。すなわち支持枠21、基枠22およびリンク23,24により平行リンクを構成する。30はキャブ4を昇降させるための昇降用油圧シリンダである。この昇降用油圧シリンダ30は、その一端を支持枠21にピン32により連結し、他端を基枠22またはリンクリンク23,24のいずれかにピン33により連結して取付けられる。
【0015】
このキャブ4は、休車時には2点鎖線で示すようにキャブ4を旋回フレーム3上に載置した低い位置に保たれる。一方、作業時には、昇降用油圧シリンダ30を伸長させることにより、リンク23,24を上げ方向に回動させ、キャブ4を実線で示すように高い位置に保持することができ、前記作業具17による作業箇所を含む視界を広くすることができる。図1、図2において、53はオペレータが非常時に操作してキャブ4を降下させるために設けた操作弁であり、その詳細については後述する。
【0016】
図3は本発明による可動式キャブの非常降下装置の一実施の形態を示す油圧回路図である。図3において、34は前記パワーユニット5に備えられた原動機駆動の主油圧ポンプ、35は同じく原動機駆動のパイロット油圧ポンプである。なお原動機としては、エンジンのみならず、電動モータを使用する場合もある。主油圧ポンプ34は作業機の走行、旋回、作業用フロント8の動作等のための油圧アクチュエータを作動させる作動油を発生させるものである。また、パイロット油圧ポンプ35は、主として、前記油圧アクチュエータのコントロール弁の操作室にパイロット圧油を供給してコントロール弁を切換えるために設置される。
【0017】
36,37はそれぞれ主油圧ポンプ34、パイロット油圧ポンプ35からそれぞれ吐出される圧油の最高圧を設定するリリーフ弁である。リリーフ弁36に設定されるリリーフ圧、すなわち主油圧ポンプ34の吐出圧油のリリーフ圧は例えば20MPaに設定される。また、リリーフ弁37に設定されるリリーフ圧、すなわちパイロット油圧ポンプ35から吐出されるパイロット圧油のリリーフ圧はリリーフ弁36のリリーフ圧より低い例えば4MPaに設定される。
【0018】
38は昇降用油圧シリンダ30のコントロール弁であり、このコントロール弁38は主油圧ポンプ34から吐出される作動油の流路を切換えることにより、油圧シリンダ30を伸縮させてキャブ4を昇降させるものである。39はダブルパイロットチェック弁であり、このダブルパイロットチェック弁39は、コントロール弁38からそれぞれ油圧シリンダ30のボトム室30a、ロッド室30bに至る管路40,41に挿入されたパイロットチェック弁42,43からなる。
【0019】
44は非常用切換弁であり、この非常用切換弁44は燃料切れまたは電源喪失あるいは故障等により原動機が停止し、これにより主油圧ポンプ34が停止した際に油圧シリンダ30を自重により収縮させてキャブ4を降下させるものである。この非常用切換弁44は2位置切換弁でなり、そのポンプポートPは、油圧シリンダ30のボトム室30aに可変絞り弁46を有する管路47により接続され、タンクポートTは油タンク48に接続される。また、二次側ポートA,Bは互いに短絡される。この実施の形態の非常用切換弁44は油圧操作室44aと操作用ソレノイド44bとを有するが、油圧操作室44aのみを操作手段として有するものであってもよい。
【0020】
50はパイロット油圧ポンプ35の吐出油を蓄えるアキュムレータであり、51はパイロット油圧ポンプ35の停止時にアキュムレータ50に蓄えられたパイロット圧油の流出を防止するチェック弁である。53はキャブ4内に設置された操作弁であり、この実施の形態の操作弁53は手動式操作杆53aと操作用ソレノイド53bとを有するものであるが、手動式操作杆53aのみを操作手段として有するものであってもよい。
【0021】
この構成において、昇降用油圧シリンダ30が伸長してキャブ4が高い位置にある時、操作弁53を操作しない通常状態においては、非常用切換弁44は図示の下位置にあり、昇降用油圧シリンダ30のボトム室30aは油タンク48やロッド室30bに対して遮断されている。原動機停止や燃料切れ等により主油圧ポンプ34が停止すると、コントロール弁38の切換えができず、コントロール弁38の切換えによる昇降用油圧シリンダ30の収縮はできず、キャブ4の降下はできない。
【0022】
しかしオペレータがキャブ4内にある操作弁53の操作杆53aを操作して操作弁53を図示の下位置から上位置に切換えると、アキュムレータ50に蓄えられていたパイロット圧油が管路55、操作弁53、管路56を通して非常用切換弁44の油圧操作室44aに供給され、非常用切換弁44が上位置に切換わる。このため、ボトム室30aに接続された管路47は、非常用切換弁44を通して油タンク48に連通する。このため、キャブ4の自重によってボトム室30aに生じている油圧により、ボトム室30aの圧油は油タンク48に流出して油圧シリンダ30が収縮し、その結果、キャブ4が降下する。なおこの時、ロッド室30bに対し、油タンク48からの油が中立位置にあるコントロール弁38およびダブルパイロットチェック弁39のパイロットチェック弁43を通して供給される。
【0023】
この実施の形態によれば、キャブ4内に設置する操作弁53は手動によって切換え可能なものであるため、電気系統の機器やラインを必要としない。このため、電気系統の故障の際にもキャブを自重により降下させることができる。また、アキュムレータ50はリリーフ弁37により設定される例えば4MPa程度の低圧のパイロット圧油を蓄えておくものであり、したがってキャブ4内に設けられてこのアキュムレータ50内のパイロット圧油を中継する操作弁53は、低圧の圧油を切換えるものである。このため、キャブ4内の管路に故障が生じた場合であっても、圧油が勢い良く噴出する事態が発生しないため、安全性が高まる。
【0024】
なお、この実施の形態においては、ボトム室30aと非常用切換弁44とを接続する管路47に可変絞り弁46を設けているので、この可変絞り弁46の開度を調整することにより、非常時におけるキャブ4の降下速度を好適な速度に調整することが可能である。この可変絞り弁46は固定絞りであっても構わない。
【0025】
本発明を適用する可動キャブは、図1、図2に示した平行リンク機構を用いたものではなく、旋回フレーム3に立設したガイド支柱に沿って昇降可能にキャブ4を取付け、油圧シリンダによってキャブをガイド支柱に沿って昇降させるものであってもよい。
【0026】
また、解体機のように、高所に作業箇所がある場合には、図4に示すように、旋回フレーム3にキャブ4の後部の支軸60を中心に傾動可能に設置し、旋回フレーム3とキャブ4との間にキャブ4を傾動させる傾動用油圧シリンダ61を設け、作業時には、油圧シリンダ61を伸長させることにより、キャブ4を斜め上向きに傾斜させる構成の作業機にも適用できる。このように、キャブ4を傾斜させる構成においても、キャブ4を傾斜させた状態においては、傾動用油圧シリンダ61のボトム室にはキャブ4の自重による油圧が発生しているため、この圧油を油タンク側に抜くことにより、キャブ4が傾斜しない姿勢となるように降下させることができる。なお、図3に示す実施の形態においては、非常用切換弁44の切換えにより油圧シリンダ30のボトム室30aを油タンク48に連通させたが、ロッド室30b側に連通して還流させても良い。
【0027】
本発明は前記したリフティングマグネット機やスクラップ処理機あるいは解体機のみならず、クレーンその他のキャブの高さや姿勢を変更する必要のある各種の作業機に適用することが可能である。また本発明は、自走式作業機ではなく、据付式作業機にも適用可能である。また、本発明を実施する場合、上記実施の形態に限らず、本発明の要旨を変更しない範囲において、種々の変更、付加が可能である。
【符号の説明】
【0028】
1:下部走行体、2:旋回装置、3:旋回フレーム、4:キャブ、5:パワーユニット、6:カウンタウエイト、8:作業用フロント、20:昇降装置、21:キャブ支持枠、22:キャブ基枠、23,24:リンク、30:昇降用油圧シリンダ、30a:ボトム室、30b:ロッド室、34:主油圧ポンプ、35:パイロット油圧ポンプ、36,37:リリーフ弁、38:コントロール弁、39:ダブルパイロットチェック弁、44:非常用切換弁、44a:油圧操作室、46:可変絞り弁、48:油タンク、50:アキュムレータ、53:操作弁、53a:手動式操作杆、60:支軸、61:傾動用油圧シリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機の旋回フレームに油圧シリンダにより高さまたは傾斜角度が変更可能に取付けられた可動式キャブの非常降下装置において、
作業機のパイロット油圧ポンプの吐出油を蓄えるアキュムレータと、
少なくとも前記油圧シリンダのボトム室と油タンクとの間の管路に設けられ、前記ボトム室と前記油タンクとを遮断する遮断位置と、前記ボトム室と前記油タンクとを連通させる連通位置とで切換え可能な非常用切換弁と、
前記キャブ内に設けられ、手動操作により前記アキュムレータに蓄えられたパイロット圧油を前記非常用切換弁の油圧操作室に供給して前記非常用切換弁を前記連通位置に切換え可能な操作弁とを備えたことを特徴とする可動式キャブの非常降下装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−14914(P2013−14914A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147594(P2011−147594)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】