可変分波器
【課題】 歩留りの向上および特性の安定化を図ることが可能な小型可変分波器を提供する。
【解決手段】 小型可変分波器は、ベース媒体としてのSiO2層2と、導波路アレイと、外部屈折率変調手段としてのヒータ4、ヒートシンク5とを備える。導波路アレイはSiO2層2上に配置される。導波路アレイは、複数の導波路としてのSi細線導波路3からなる。ヒータ4およびヒートシンク5は、導波路アレイにおいて、Si細線導波路3の延びる方向と垂直な方向に、複数のSi細線導波路3の間で可変な屈折率勾配を形成する。Si細線導波路3は、Si細線導波路3の延びる方向において1次元フォトニック結晶構造を有する。
【解決手段】 小型可変分波器は、ベース媒体としてのSiO2層2と、導波路アレイと、外部屈折率変調手段としてのヒータ4、ヒートシンク5とを備える。導波路アレイはSiO2層2上に配置される。導波路アレイは、複数の導波路としてのSi細線導波路3からなる。ヒータ4およびヒートシンク5は、導波路アレイにおいて、Si細線導波路3の延びる方向と垂直な方向に、複数のSi細線導波路3の間で可変な屈折率勾配を形成する。Si細線導波路3は、Si細線導波路3の延びる方向において1次元フォトニック結晶構造を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、可変分波器に関し、より特定的には、光学的ブロッホ振動を用いた可変分波器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量光通信ネットワークの需要がますます増大している。当該需要に応える技術の1つとして、波長分割多重伝送がある。また、このような技術の利用に伴って主要デバイスの変遷が起こり、可変分波器などの光制御デバイスが必要になってきている。このような可変分波器としては、光学的ブロッホ振動やフォトニック結晶を用いたものが知られている。
【0003】
光学的ブロッホ振動を用いた可変分波器は、例えば非特許文献1及び2に示される。図24は、非特許文献1に開示された可変分波器を示す斜視模式図である。図25は、図24に示した可変分波器において、X軸方向での位置と屈折率勾配との関係を示すグラフである。また、図26は、非特許文献2に開示された可変分波器を示す平面模式図である。以下、図24〜図26を参照して、従来の可変分波器を説明する。
【0004】
非特許文献1に記載の可変分波器では、図24に示すように、基板121上に周期的に間隔を隔てて配置された導波路122により導波路アレイが形成されている。導波路アレイの上部及び下部は電極123で覆われている。電極123には端子126bが接続されている。また、基板121には端子126aが接続されている。導波路122の間隔は一定である。各導波路122はZ軸方向に均一な構造となっている。
ここで、端子126a、126b間に電圧V0を印加して、電極123に電流Iを流すと、X軸方向に電圧変化が生じる。この結果、周期的な導波路アレイによる周期的な屈折率変化に加えて、図25に示すように、この電圧変化により線形的な屈折率勾配Δnが生じる。この時、導波路の一端から光を入射すると、光の伝搬が高屈折率側へ動く。このX軸方向の振動を光学的ブロッホ振動と呼ぶ。
ここで、電圧V0を変化させると、屈折率勾配Δnが変わり、この結果光学的ブロッホ振動の振幅が変わる。このため、出力導波路をスイッチングできる。つまり、印加電圧V0により出力ポートの位置を制御できる。
【0005】
また、非特許文献2に記載の可変分波器では、図26に示すように、基板131上に平行に並べられた導波路132により導波路アレイが形成されている。導波路アレイでは、X軸の正の方向に向かうにつれて、導波路132の幅が徐々に大きくなる。一方、X軸の正の方向に向かうにつれて、隣接する導波路132の間隔は小さくなっている。また、各導波路132はZ軸方向に均一構造になっている。
【0006】
図26に示した可変分波器では、導波路アレイにおける導波路132の間隔と導波路132の幅との変化が、周期的な屈折率変化及び有効屈折率の変化による屈折率勾配を与えている。その結果、導波路132の一端から光を入射すると、光学的ブロッホ振動が発現する。この時、入射光のパワーを大きくすると、非線形効果が生じ、入射された光は線形的な屈折率勾配に従わなくなる。この結果、光学的ブロッホ振動の振幅が変化するため、出力導波路をスイッチングできる。すなわち、入射光のパワーを変更することにより、出力ポートを制御できる。
【0007】
この他、分波器の原理として、上記光学的ブロッホ振動以外にフォトニック結晶を用いたデバイスも知られている。ここで、フォトニック結晶とは、屈折率の異なる2種類以上の材料が、光の波長程度の周期性をもって配列された人工構造体のことを言う。このフォトニック結晶では、固体結晶において周期的ポテンシャル分布により、電子のエネルギーに対するバンド構造が形成されるのと同様に、光子のエネルギーに対するバンド構造が形成される。フォトニック結晶は、PBG(Photonic Band Gap)、異方性、分散性という応用上重要な3つの特徴を持っている。
【0008】
このようなフォトニック結晶を用いた分波器は、例えば特許文献1及び2に示されている。特許文献1は、AWG(Arrayed Waveguide Grating)とフォトニック結晶とを組み合わせて用いた光波長合分波器を開示する。すなわち、特許文献1では、AWGの出力側スラブ導波路を直角に横切るように形成した溝内に、格子変調型フォトニック結晶波長選択フィルタを挿入することで、低コスト化を実現し、かつ、クロストークの低減が図れ、各チャネルからの出力光の損失を均一にすることができるとしている。特許文献1では、分波機能はAWGを利用しており、低コストでクロストークを低減できるように、フォトニック結晶から成るフィルタを付加している。
【0009】
特許文献2は、スーパープリズム現象を用いた波長分波回路を開示する。スーパープリズム現象とは、フォトニック結晶の分散性に起因した現象であり、フォトニック結晶内でわずかな波長の違いにより伝搬角が大きく変化する現象を言う。特許文献2に開示された技術は、このスーパープリズム現象を利用することにより、結晶内部の伝搬角を大きく変化させ、波長に応じた伝送経路の切り分けを行なうことを特徴とする。この結果、特許文献2では、AWGのように個別に導波路を形成する必要がなくなり、且つ、高速化、高集積化、伝送効率の向上などを図ることができるとしている。
【特許文献1】特開2003−255160号公報
【特許文献2】特開2003−43277号公報
【非特許文献1】「オプティクスレターズ(OPTICS LETTERS)」、(米国)、米国光学会(Optical Society of America)、1998年11月1日、第23巻第21号、p.1701-1703
【非特許文献2】「フィジカルレビューレターズ(PHYSICAL REVIEW LETTERS)、(米国)、米国物理学会(The American Physical Society)、1999年12月6日、第83巻第23号、p.4756-4759
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述した非特許文献1、非特許文献2、特許文献1、特許文献2などに示された従来技術にはそれぞれ次のような問題点がある。
【0011】
非特許文献1、非特許文献2に開示された技術に関しては、一般に光学的ブロッホ振動により、光の進行がX軸方向に振動する際に、1周期だけ振動する間に、光がZ軸方向に伝搬する距離(以下、1周期伝搬長と呼ぶ)は10mm以上と長くなるため、素子サイズが大きくなる。よって可変分波器を作製する場合、歩留りの低下や生産性の悪化という問題が発生する可能性が高くなる。特に、EB(電子ビーム)露光で当該可変分波器を作製しようとした場合、各々のチップをEB露光工程の1フィールド内で作製するのは不可能であるため、可変分波器の構造内部にフィールド境界が位置することになる。この結果、形成された可変分波器の特性が不安定になる恐れがあった。
【0012】
また、特許文献1、特許文献2に開示された技術に関しては、光伝送路中で光路を切り替える機能が付加されておらず、可変機構に関する言及は一切成されていない。すなわち、特許文献1に開示された技術に関しては、一旦基板上にAWGを作製すると、出力側スラブ導波路の形状、アレイ導波路などの構造を変えることはできない。つまり、各出力導波路における出力波長はそれぞれ決まってしまい、変更することは通常不可能である。同様に、特許文献2に開示された技術に関しては、一旦フォトニック結晶を作製すると、フォトニック結晶の孔の形状や大きさ、格子定数などの構造を変えることはできない。つまり、各波長が出力される位置は固定されてしまい、柔軟な切り替えができなくなる。
【0013】
本発明は、上記のような課題を解決するために成されたものであり、この発明の目的は、可変機構を具備すること、および素子サイズを小さくすること、を可能にすることにより、歩留りの向上および特性の安定化を図ることが可能な小型可変分波器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に従った可変分波器は、ベース媒体と、導波路アレイと、外部屈折率変調手段とを備える。導波路アレイはベース媒体上に配置される。導波路アレイは、離散的に並列に配置された複数の導波路からなる。外部屈折率変調手段は、導波路アレイにおいて、導波路の延びる方向と垂直な方向に、複数の導波路の間で可変な屈折率勾配を形成する。導波路は、導波路の延びる方向において1次元フォトニック結晶構造を有する。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明によれば、導波路アレイに形成した1次元フォトニック結晶構造に起因した光の進行方向への群速度を遅延させることにより、素子を小型化して作製することができる。この結果、各々のチップを1フィールド内でのEB露光で作製できるため、特性が安定し、歩留まりも向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0017】
(実施の形態1)
図1は本発明による小型可変分波器の実施の形態1を示す平面模式図である。図2は、図1の線分II−IIにおける断面模式図である。図1および図2を参照して、本発明による小型可変分波器の実施の形態1を説明する。
【0018】
図1および図2に示す小型可変分波器は、SOI(Silicon On Insulator)基板を用いたSi細線導波路アレイから成る小型可変分波器である。図2に示すように、Si基板1上にSiO2層2が積層されている。SiO2層2上に、上部Si層13(図3参照)から成るSi細線導波路3が複数形成されている。複数のSi細線導波路3は、図1からも分かるようにZ軸方向に並列に延びるように形成されている。また、複数のSi細線導波路3は、X軸方向に所定の間隔を隔てて並ぶように離散的に(周期的に)配置されている。つまり、複数のSi細線導波路3は、互いに並行に延びるように形成されるとともに、隣接するSi細線導波路3の間隔はほぼ一定となっている。Si基板1およびSiO2層2のX軸方向における端面には、ヒータ4およびヒートシンク5が接続されている。ヒータ4は、Si基板1およびSiO2層2のX軸の正の方向における端面に配置されている。ヒートシンク5は、ヒータ4が配置された端面と反対側に位置する端面(Si基板1およびSiO2層2のX軸の負の方向における端面)に配置されている。なお、ヒータ4としては、電熱線(抵抗発熱線)やペルチェ素子など、熱を発生させることができる部材であれば任意の部材を用いることができる。また、ヒートシンク5としては、ペルチェ素子や、銅ブロックなどの熱伝導率の高い材料からなる放熱体など、導波路アレイから熱を除去することができる部材であれば任意の部材を用いることができる。
【0019】
図1に示すように、Si細線導波路3の上部表面には、Si細線導波路3の延在方向に沿って、複数の空孔6が周期的に形成されている。この周期的に配置された空孔6により、1次元フォトニック結晶構造が形成されている。なお、図1では、光の進行方向をZ軸方向、Si細線導波路3の延在方向と垂直な方向をX軸方向としている。ここで、X軸方向が光学的ブロッホ振動の振動方向となる。
【0020】
次に、図3〜図6を参照して、Si細線導波路からなる導波路アレイの作製方法を説明する。図3〜図6は、図1および図2に示した小型可変分波器の実施の形態1の作製方法を説明するための断面模式図である。
【0021】
まず、図3に示すように、Si基板1上にSiO2層2を形成する。SiO2層2は厚みが3μm、屈折率が1.4である。このSiO2層2上に上部Si層13を形成する。この上部Si層13の厚みは0.25μm、屈折率は3.5である。Si基板1、SiO2層2および上部Si層13によりSOI基板が構成される。この上部Si層13上にレジスト膜14を塗布する。このようにして、図3に示すような構造を得る。
【0022】
ここで、SiO2層2の厚みを3μmと十分に厚くしたのは、上部Si層13に光を入射した際にSi基板1へのモードリークを抑制するためである。なお、SiO2層2の厚みは1μm以上であればよく、より好ましくは3μm以上である。また、以下の説明では、SOI基板を用いて、SiO2層2上に上部Si層13から成るSi細線導波路3(図2参照)を並べて導波路アレイを形成した場合を示しているが、クラッド層と、当該クラッド層よりも屈折率の大きい材料からなる導波路層と、により光を閉じ込め、導波路層が1次元フォトニック結晶構造を形成できる材質であれば、どのような材料を用いてもよい。
【0023】
次に、図4に示すように、EB露光を用いて、周期的な導波路アレイと周期的な1次元フォトニック結晶構造(空孔6(図1参照))を形成するためのレジストパターンをレジスト膜14により形成する。なお、このレジスト膜14により形成されたレジストパターンには、図示していないが空孔6を形成するための開口部も形成されている。さらに、図5に示すように、上述したレジストパターンを形成するレジスト膜14をマスクとして用いて、上部Si層13をエッチングにより部分的に除去することにより、上部Si層13(図4参照)から成るSi細線導波路3を形成する。形成されたSi細線導波路3は、図5の紙面に垂直な方向に、互いに並列に延びるように形成されている。このとき、Si細線導波路3の上部表面にも複数の空孔6が形成される。
【0024】
その後、図6に示すように、残ったレジスト膜14を剥離液で除去する。そして、最後に導波路アレイの両端に図1および図2に示すようにヒータ4とヒートシンク5を配置する。このようにして、図1および図2に示した小型可変分波器を作製できる。なお、作製した各Si細線導波路3は、X軸方向(図1参照)での幅を0.5μm、高さを0.25μm、Z軸方向(図1参照)での長さを500μmとした。また、隣接するSi細線導波路の間隔は、いずれのSi細線導波路間でも一定であり、ここでは当該間隔が0.5μmとなるように、周期的に導波路アレイを形成した。また、空孔6の径は0.3μm、繰返し周期は0.5μmとした。なお、この繰返し周期とは、隣接する空孔6の中心同士の間の距離を言う。
【0025】
次に、図7および図8を参照して、図1に示した小型可変分波器の導波路アレイにおける光の伝搬について説明する。図7は、図1および図2に示した小型可変分波器の導波路アレイにおける光の伝搬について説明するための模式図である。図8は、図7に示した小型可変分波器の導波路アレイにおける各Si細線導波路3の屈折率nrの分布を示すグラフである。
【0026】
図7に示すように、1つのSi細線導波路3の端部から矢印23に示すように光が入射した場合を考える。この光は、図7中の光強度分布26で示されるように、1つのSi細線導波路3を中心にして広がった状態となる。また、図8から分かるように、周期的な導波路アレイにより周期的な屈折率変化が形成され、さらに、ヒータ4とヒートシンク5によるX軸方向の温度勾配の結果として屈折率勾配が形成されている。
【0027】
上述のように、1つのSi細線導波路3の端部から矢印23に示すように1つのSi細線導波路3を中心にして広がった光が入射した場合、図7の曲線22で示すように、導波路アレイにおける周期的な屈折率変化と屈折率勾配により光学的ブロッホ振動が発現する。このため、入射した光は周期的な振動運動を繰り返す。そして、導波路アレイのZ軸方向である光の進行方向の端面の任意の出力ポートから出力される。このとき、X軸方向への光の振動は、曲線26に示される1つのSi細線導波路3を中心にして広がった光の端部が、隣接するSi細線導波路3に滲み出すことにより生じる。
【0028】
次に、図1および図2に示した小型可変分波器について、可変分波器としての機能を説明する。図7のように1つのSi細線導波路3を中心にして広がった光が入射したとき、ヒータ4とヒートシンク5との温度を制御して導波路アレイにおける温度勾配を変える。この結果、図8の屈折率勾配を変化させることができる。これにより、隣接するSi細線導波路3への入射光の滲み出し具合が変わることになる。そのため、光学的ブロッホ振動の振幅が変わり、上記出力ポートとは異なる出力ポートから光を出力することができる。すなわち、本発明による小型可変分波器では、屈折率勾配の変調により、出力ポートをスイッチングすることができる。
【0029】
次に、図9を参照して、本発明による小型可変分波器の分波器としての機能を説明する。図9は、本発明による小型可変分波器の機能を説明するための平面模式図である。以下では、波長λ1、λ2(λ1<λ2)の光を小型可変分波器へ入射させた場合の分波方法について示すが、本発明による小型可変分波器では、3種類以上の波長の光の分波に関しても同様に行なうことができる。
【0030】
今、図9の矢印23で示すように、1つのSi細線導波路3を中心にして広がった波長λ1とλ2(λ1<λ2)の光を入射させた場合を考える。この場合、各々の波長の光は光学的ブロッホ振動により図9に示した曲線27、28に示すような経路で伝搬していく。このとき、隣接するSi細線導波路3への光の滲み出し具合は光の波長λ1、λ2に依存する。このため、波長λ2の光のほうが波長λ1の光より滲み出し具合が大きくなり、結果的に振動の振幅も大きくなる。すなわち、波長λ1の光と波長λ2の光とは各々異なる経路(曲線27、28で示した経路)をたどる。そして、図9の点線29で示した部分に出力ポートを設置すると、上述した波長λ1の光と波長λ2の光との分波を容易に行なうことができる。
【0031】
次に、図10および図11を参照して1次元フォトニック結晶構造に起因した群速度遅延効果について説明する。図10は、Si細線導波路3において1次元フォトニック結晶構造を形成していない場合の導波路アレイからなる可変分波器を示す平面模式図である。図11は、Si細線導波路3において1次元フォトニック結晶構造を形成した場合の導波路アレイから成る可変分波器を示す平面模式図である。以下では、導波路アレイを構成するSi細線導波路3に1次元フォトニック結晶構造が形成された場合と、形成されていない場合とについて、必要とされる伝搬長を比較する。
【0032】
ここで、図10に示したSi細線導波路3はZ軸方向に一様な媒質である。このため、Si細線導波路3中の光の群速度は光速cをSiの屈折率nrで割った値となり、群速度遅延は起こらない。このとき、1つのSi細線導波路3aの端面33から光を出力する場合には、図10に示すZ1の伝搬長を要し、Z1=10mmであった。
【0033】
一方、図11に示した可変分波器では、Si細線導波路3はZ軸方向にフォトニック結晶構造が形成されているため、Si細線導波路3中の光の群速度は周期構造に起因する分散関係に従った値となる。このとき、分散関係の傾きが小さい周波数(たとえば、1.26×1015Hz)の光を入射すると、群速度を遅延させることができる。このため、図10に示した場合と同様に1つのSi細線導波路3aの端面33から光を出力しても伝搬長はZ2(Z2<Z1)という、相対的に短い距離で足りる。本実施の形態の構造ではZ2=400μmとすることができる。この場合、図10に示した可変分波器における伝搬長Z1に比べて、伝搬長を1/25に低減できる。
【0034】
このため、図1に示した本願発明による可変分波器では、Si細線導波路3に1次元フォトニック結晶構造を形成することにより、群速度遅延が得られるようにしている。この結果、Z軸方向への光の伝搬長をより短くして光を出力することができる。したがって、可変分波器の素子サイズを小型化することができる。その結果、小型可変分波器を実現できる。
【0035】
また、EB露光の1フィールドは500μm角である一方、本発明による小型可変分波器はこれより小さいサイズで作製できる。このため、EB露光の1フィールド内に収まるように素子(可変分波器)を作製できる。この結果、可変分波器を作製する際、1つの可変分波器の内部においてフィールド間のつなぎ部を配置する必要がない。その結果、可変分波器の特性が安定し、歩留まりも向上する。
【0036】
なお、図1に示した可変分波器では、図6からも分かるように、Si細線導波路3を形成するためのエッチングを行なう際に、SiO2層2上に形成された上部Si層13の一部を、SiO2層2の上部表面が露出するまで除去している。この結果、Si細線導波路3は、SiO2層2上に所定の間隔を隔てて分離された状態となっている。しかし、図12に示すように、Si細線導波路3を形成する際に、SiO2層2の上部表面が露出するまでエッチングを行なわず、Si層の一部を残存させてもよい。
【0037】
図12は、図1に示した本発明による小型可変分波器の実施の形態1の第1の変形例を示す断面模式図である。図12を参照して、本発明による小型可変分波器の実施の形態1の第1の変形例を説明する。なお、図12は図2に対応する。
【0038】
図12に示した小型可変分波器は、基本的には図1および図2に示した可変分波器と同様の構造を備えるが、SiO2層2の上部表面が露出するまでエッチングを行なわなかったことに因る上部Si層13の残存部21が配置されている。このとき、SiO2層2の上部表面から残存部21の上部表面までの高さが、SiO2層2の上部表面からSi細線導波路3の上部表面までの高さより低くなっている。SiO2層2の上部表面からSi細線導波路3の上部表面までの高さと、SiO2層2の上部表面から残存部21の上部表面までの高さとの差は、たとえば0.1μmとすることができる。
【0039】
つぎに、図13を参照して、図12に示した可変分波器の作製方法を説明する。図13は、図12に示した小型可変分波器の作製方法を説明するための断面模式図である。図13は図6に対応する。
【0040】
まず、図3および図4に示した工程を実施した後、レジスト膜14(図4参照)をマスクとして上部Si層13を部分的にエッチングにより除去する。このとき、上部Si層13の上部表面から0.1μmの厚さとなる部分のみ、エッチングにより除去する。この結果、図13に示すように、各Si細線導波路3と、それと隣接するSi細線導波路3と、の間に位置する上部Si層13の残存部21を形成することができる。この後、レジスト膜14の除去など、図6において説明した可変分波器の作製方法と同様の工程を実施することで、図12に示した可変分波器を得ることができる。
【0041】
このように、各Si細線導波路3と、それと隣接するSi細線導波路3と、の間に上部Si層13の残存部21を配置することにより、図13の点線42で示した断面(残存部21を横切るとともに、Si細線導波路3の延在方向に沿った平面での断面)における有効屈折率を、図6の点線12で示した断面における有効屈折率より大きくできる。この結果、Si細線導波路3と、上部Si層13をエッチングした部分である空気層及び残存部21を含む領域(以下、間隙と呼ぶ)との屈折率差Δnを小さくできる。また、残存部21の厚みを変更することで、点線42で示した断面における有効屈折率を任意に変更できるので、上記屈折率差Δnの値も任意に変更できる。これにより、隣接するSi細線導波路3への光の滲み出し具合を大きく調整できる。
【0042】
なお、図12に示した可変分波器では、残存部21をSi細線導波路3と同じ材料により構成したが、残存部21を構成する材料としてSi細線導波路3の材料と異なる任意の材料を用いてもよい。この場合、図1に示したようなSi細線導波路3を形成した後、隣接するSi細線導波路3の間に残存部21となる材料を充填するといった作製方法を用いてもよい。
【0043】
図14は、図1に示した本発明による小型可変分波器の実施の形態1の第2の変形例を示す平面模式図である。図14を参照して、本発明による小型可変分波器の実施の形態1の第2の変形例を説明する。なお、図14は図1に対応する。
【0044】
図14に示した小型可変分波器は、基本的に図1に示した可変分波器と同様の構造を備えるが、Si細線導波路3に形成された1次元フォトニック結晶構造を成す複数の空孔6の配置の仕方が異なる。図1に示した可変分波器では、1次元フォトニック結晶構造を成す複数の空孔6の直径をすべて同一にし、また、空孔6はほぼ均一な間隔で配置されている。一方、図14に示した可変分波器では、Si細線導波路3が、空孔を媒体で埋めたドナー型欠陥61(空孔6が形成されるべき領域であるが、当該空孔6が形成されていない領域)を周期的に導入した結合欠陥導波路となっている。この場合、光の群速度を図1に示した実施の形態1よりもさらに遅延させることができる。この結果、可変分波器をさらに小型化することができる。
【0045】
なお、上述のように、ドナー型欠陥61は、図14に示すように空孔6を形成しない構成(Si細線導波路3の材質と同じ材質により当該部分が充填された状態)としているが、当該ドナー型欠陥61は、このドナー型欠陥61が形成されるべき領域に一度空孔6を形成し、当該空孔6を別の媒体で充填することにより形成してもよい。この別の媒体としては、Si細線導波路3を構成する材料と同じ材料を用いてもよいが、Si細線導波路3を構成する材料とは異なる材料を用いてもよい。
【0046】
図15は、図1に示した本発明による小型可変分波器の実施の形態1の第3の変形例を示す平面模式図である。図15を参照して、本発明による小型可変分波器の実施の形態1の第3の変形例を説明する。なお、図15は図1に対応する。
【0047】
図15に示した小型可変分波器は、基本的に図1に示した可変分波器と同様の構造を備えるが、Si細線導波路3に形成された1次元フォトニック結晶構造を成す空孔6の大きさが、すべて同じというわけではないという点で異なる。具体的には、図15に示したSi細線導波路3では、1次元フォトニック結晶構造を構成する空孔6の列に、周期的にその直径を他の空孔6より大きくした空孔(アクセプタ型欠陥62)を配置している。このアクセプタ型欠陥62を構成する空孔の直径は、たとえば0.4μmとすることができる。この場合、光の群速度を図1に示した実施の形態1よりもさらに遅延させる効果がある。なお、図15では、アクセプタ型欠陥62が2つの空孔6を隔てて周期的に配置されているが、このアクセプタ型欠陥62の配置周期は任意に変更できる。また、アクセプタ型欠陥62を構成する空孔の直径は、上述した0.4μmに限らず、他の空孔6の直径と異なる値であれば任意の数値を採用できる。また、上述した実施の形態1では、Si細線導波路3の本数が7本である可変分波器の例を示したが、Si細線導波路3の本数は7本以外の任意の数であってもよい。
【0048】
(実施の形態2)
図16は本発明による小型可変分波器の実施の形態2を示す斜視模式図である。図17は、図16に示した小型可変分波器において各電極に印加される電圧V1〜V7と、電極のX軸方向での位置との関係を示すグラフである。図16および図17を参照して、本発明による小型可変分波器の実施の形態2を説明する。
【0049】
図16に示した小型可変分波器は、Si基板1と、Si基板1上に形成されたSiO2層2と、SiO2層2上に形成された、導波路アレイを構成する複数のSi細線導波路3と、それぞれのSi細線導波路3上に形成された電極74とを備える。Si細線導波路3の構成は、図1に示した小型可変分波器におけるSi細線導波路3と同様である。また、電極74からSi細線導波路3の下部表面にまで到達するように、空孔6が形成されている。この図16では、光の進行方向をZ軸方向、Si細線導波路3の延在方向に対して垂直な方向をX軸方向、Si細線導波路3の層厚方向(Si基板1の主表面に対して垂直な方向)をY軸方向としている。X軸方向が光学的ブロッホ振動の振動方向となる。複数の電極74には、それぞれ異なる電圧を印加することが可能な電源75が接続されている。それぞれの電源75は、電極74およびSi基板1の裏面側と導電線により接続されている。図16において、V1〜V7は各Si細線導波路3に設置された電極74に印加される電圧を示す。
【0050】
図16に示した小型可変分波器における電極74の形成方法としては、たとえば以下のような方法を用いることができる。まず、SiO2層2上にSi細線導波路3となるべき上部Si層13を形成し、当該上部Si層13上に電極74を構成する導電層を形成する。この導電層上に、図3に示すようなレジスト膜14を形成する。当該レジスト膜14に対して露光・現像処理を行なうことにより、レジスト膜14により所定のパターンを形成する。このパターンが形成されたレジスト膜14をマスクとして、上記導電層および上部Si層13をエッチングにより部分的に除去する。その後、レジスト膜14を除去する。この結果、図16に示すようなSi細線導波路3および電極74を形成できる。なお、このエッチングにおいて空孔6も同時に形成される。
【0051】
図16に示した小型可変分波器では、図17に示すように上述した電圧V1〜V7の値をそれぞれの電極毎に変えることで、導波路アレイにおける周期的な屈折率変化と屈折率勾配を与える。ここで、図17では、縦軸が電極74に印加される電圧の値を示し、横軸が電極74の位置(Si細線導波路3の位置)を示す。
【0052】
たとえば、電圧V1〜V7の値を、V1=4.8V、V2=4.5V、V3=4.2V、V4=3.9V、V5=3.6V、V6=3.3V、V7=3.0Vとし、当該電圧をそれぞれの電極74に印加する。このように、X軸の正の方向に向けて、電極74に印加される電圧の値を相対的に大きな値から徐々に小さくする(線形的に電圧の値を低くする)ような電圧の設定により、導波路アレイにおいて周期的な屈折率変化と屈折率勾配を与えることができる。たとえば、上述のような電圧V1〜V7の設定における、各Si細線導波路3での屈折率は、屈折率の小さいSi細線導波路3から順番に、3.45、3.46、3.47、3.48、3.49、3.50、3.51となる。なお、電圧の設定内容は、導波路アレイにおいて屈折率勾配を与えることができれば、上述のような電圧設定以外の設定であってもよい。つまり、図16に示した小型可変分波器では、各Si細線導波路3に印加する電圧V1〜V7の値を変えることにより、各Si細線導波路3の屈折率を変えて屈折率勾配を変調させることができる。このような屈折率勾配の変調により、導波路アレイのZ軸方向の端面において光が出射する位置(ポート)の変更(スイッチング)を行なうことができる。このような電気光学効果を用いたスイッチングは応答時間が非常に速いため、本発明の実施の形態1に示した熱光学効果によるスイッチングよりも高速にスイッチングを行なうことができる。なお、出力ポートの設置などは、上述した本発明による小型可変分波器の実施の形態1の場合と同様に行なうことができる。
【0053】
(実施の形態3)
図18は本発明による小型可変分波器の実施の形態3を示す平面模式図である。図19は、図18の線分XIX−XIXにおける断面模式図である。図18および図19を参照して、本発明による小型可変分波器の実施の形態3を説明する。
【0054】
図18および図19に示した小型可変分波器は、基本的に図1および図2に示した小型可変分波器と同様の構造を備えるが、Si細線導波路83の幅W1〜W7、空孔6a〜6gの直径、および隣接するSi細線導波路83の間隔L1〜L6が変化している点が異なる。図18から分かるように、X軸方向に沿って、図18の紙面左側に位置する導波路アレイの一方端側から、当該一方端と反対側に位置する他方端側に向かうにつれて、Si細線導波路83の幅W1〜W7および空孔6a〜6gの直径は、徐々に大きくなるように設定されている。一方、X軸方向に沿って、上記一方端側から他方端側に向かうにつれて、上記間隔L1〜L6は徐々に小さくなるように設定されている。このようなSi細線導波路83からなる導波路アレイの構造は、いわゆるチャープ構造と呼ばれる。
【0055】
図18および図19に示した小型可変分波器では、Si細線導波路83の幅W1〜W7の値を、たとえば左端からW1=0.3μm、W2=0.4μm、W3=0.5μm、W4=0.6μm、W5=0.7μm、W6=0.8μm、W7=0.9μm、とすることができる。また、隣接するSi細線導波路83の間隔L1〜L6の値を、左端からL1=0.6μm、L2=0.5μm、L3=0.4μm、L4=0.3μm、L5=0.2μm、L7=0.1μmとすることができる。また、空孔6a〜6gの直径については、左端から空孔6aの直径=0.2μm、空孔6bの直径=0.26μm、空孔6cの直径=0.33μm、空孔6dの直径=0.4μm、空孔6eの直径=0.46μm、空孔6fの直径=0.53μm、空孔6gの直径=0.6μm、とした。このような構成とすることにより、各Si細線導波路83の有効屈折率を変えることができる。たとえば、上記のような構成において、各Si細線導波路83での有効屈折率は、屈折率の小さいSi細線導波路83から順番に、3.45、3.46、3.47、3.48、3.49、3.50、3.51となる。この結果、導波路アレイに周期的な屈折率変化と屈折率勾配を与えている。なお、各Si細線導波路83の幅W1〜W7、隣接するSi細線導波路83の間隔L1〜L6及び空孔6a〜6gの直径については、Si細線導波路83に屈折率勾配を与えることができれば上述した値以外の任意の値を用いてもよい。
【0056】
図18および図19に示した小型可変分波器における分波方法及びスイッチング方法は、基本的に図1に示した小型可変分波器の実施の形態1における方法と同様である。しかし、図18および図19に示すように、導波路アレイをチャープ構造にしているので、図18および図19に示した小型可変分波器では、図1に示した小型可変分波器のように温度勾配を用いなくても屈折率勾配を与えることができる。このため、ヒータ4とヒートシンク5における消費電力を図1に示した小型可変分波器よりも小さくすることができる。
【0057】
なお、図18および図19に示した小型可変分波器では、ヒータ4とヒートシンク5及びチャープ構造により屈折率勾配を与えたが、図16に示した本発明による小型可変分波器の実施の形態2と同様に、Si細線導波路83上に電極を形成して、当該電極に電圧を印加する手法を用いてもよい。なお、この場合も、チャープ構造が屈折率勾配を形成することに寄与するので、所望の屈折率勾配を得るために必要な電圧あるいは消費電力を、図16に示した小型可変分波器より小さくすることができる。
【0058】
(実施の形態4)
図20は本発明による小型可変分波器の実施の形態4を示す平面模式図である。図20を参照して、本発明による小型可変分波器の実施の形態4を説明する。
【0059】
図20に示した小型可変分波器は、基本的には図18および図19に示した小型可変分波器と同様の構造を備えるが、Si細線導波路83からなる導波路アレイにSOA(Semiconductor Optical Amplifier)96を付加した点が異なる。図20に示した小型可変分波器では、SOA96を導波路アレイの一端に設置し、そこから光を導波路アレイに入射する。
【0060】
図20に示した小型可変分波器では、SOA96の光増幅効果により入射光のパワーを大きくしていくと、非線形効果が誘起される。この結果、導波路アレイに入射した光は線形的な屈折率勾配に従わなくなり、当該光の伝搬経路が変わる。すなわち、図20に示した小型可変分波器では、SOA96とヒータ4とヒートシンク5とを制御することにより導波路アレイから出射する光の出力位置(出力ポート)のスイッチングを行なうことができる。また、図20に示した小型可変分波器では、図18および図19に示した本発明による小型可変分波器の実施の形態3の構造において、光の入力ポートにSOA96を付加しているので、導波路アレイへの光の入力時における光の損失を補償したり、高速なスイッチングを行なうことができる。なお、ヒータ4とヒートシンク5はSOA96の補助として付加したが、これらのヒータ4およびヒートシンク5を設置しない構成としてもよい。また、ヒータ4およびヒートシンク5に替えて、図16に示したような電極をSi細線導波路83に設置してもよい。
【0061】
(実施の形態5)
図21は本発明による小型可変分波器の実施の形態5を示す平面模式図である。図22は、図21の線分XXII−XXIIにおける断面模式図である。図21および図22を参照して、本発明による小型可変分波器の実施の形態5を説明する。
【0062】
図21および図22に示した小型可変分波器は、基本的には図1および図2に示した小型可変分波器と同様の構成を備えるが、各Si細線導波路3の上部表面上にSiN層107a〜107gが形成されている点が異なる。SiN層107a〜107gから各Si細線導波路3まで貫通するように、空孔106が形成されている。図21では、光の進行方向をZ軸方向、Si細線導波路3(SiN層107a〜107g)の延びる方向に対して垂直な方向をX軸方向としている。X軸方向が光学的ブロッホ振動の振動方向となる。
【0063】
次に、図21および図22に示した小型可変分波器の作製方法を説明する。図21および図22に示した小型可変分波器では、上部Si層13(図4参照)から成るSi細線導波路3上に、まずSiN層を0.25μmずつ均一に積層する。このような均一な厚みのSiN層を形成する手法としては、たとえば、図3に示すようにSiO2層2上に上部Si層13を形成したあと、続いて厚みが0.25μmのSiN層を形成する。そして、当該SiN層上に図3に示すようなレジスト膜14を形成する。そして、図4などに示すように、露光・現像工程を実施することにより所定のパターンをレジスト膜14により形成する。当該レジスト膜14をマスクとしてエッチングを行ない、上記SiN層および上部Si層13を部分的に除去することにより、Si細線導波路3およびSiN層を形成する。その後、レジスト膜を除去する。このようにして、上述したSi細線導波路3上にSiN層が形成された構造を得ることができる。
【0064】
次に、Si細線導波路3からなる導波路アレイを備える小型可変分波器において、各Si細線導波路3を順にフッ化水素溶液に浸していき、SiN層のウェットエッチングを行なう。このとき、Si細線導波路3毎に、当該Si細線導波路3をフッ化水素溶液中に浸漬する時間を18秒、15秒、12秒、9秒、6秒、3秒、0秒、といった異なる値とした。これにより、図22に示すように、SiN層107a〜107gの厚みは、左端からSiN層107aの厚み=0.13μm、SiN層107bの厚み=0.15μm、SiN層107cの厚み=0.17μm、SiN層107dの厚み=0.19μm、SiN層107eの厚み=0.21μm、SiN層107fの厚み=0.23μm、SiN層107gの厚み=0.25μm、となった。上記のような構成において、各Si細線導波路3での有効屈折率は、有効屈折率の小さいSi細線導波路3から順番に、3.45、3.46、3.47、3.48、3.49、3.50、3.51となる。なお、Si細線導波路3毎にフッ化水素溶液中に浸漬する時間を変更する方法としては、たとえば、浸漬対象とするSi細線導波路3のみを露出させるような被覆膜を小型可変分波器の表面に形成し、その後当該小型可変分波器をフッ化水素溶液に所定時間だけ浸漬するといった方法を用いることができる。また、フッ化水素溶液中に浸す時間は、Si細線導波路3からなる導波路アレイに屈折率勾配を与えることができれば、上述した数値に限られるものではなく、他の任意の値を用いることができる。
【0065】
ここで、SiN層107a〜107gの屈折率は、Si層から成るSi細線導波路3の屈折率よりも小さく、空気の屈折率よりも大きい。そのため、左端のSiN層107aが形成されたSi細線導波路3から、右端のSiN層107gが形成されたSi細線導波路3に向けて、徐々にSi細線導波路3の有効屈折率を大きくすることができる。この結果、導波路アレイにおいて周期的な屈折率変化と屈折率勾配を与えることができる。
【0066】
また、図21および図22に示した小型可変分波器では、光の出力ポートのスイッチング方法については図1および図2に示した小型可変分波器と同様の方法を用いる。しかし、図21および図22に示した小型可変分波器では、各Si細線導波路3上にSiN層107a〜107gを積層しているため、ヒータ4およびヒートシンク5により形成される温度勾配を用いなくても、導波路アレイに屈折率勾配を与えることができる。その結果、ヒータ4とヒートシンク5における消費電力を図1および図2に示した小型可変分波器よりも小さくできる。なお、上述のように、SiN層107a〜107gを形成する工程において、フッ化水素溶液を用いてウェットエッチングを行ったが、SiN層107a〜107gを形成する方法としては他の任意の手法を用いることができる。また、SiN層107a〜107g以外の材質からなる層を、Si細線導波路3上に形成してもよい。また、各Si細線導波路3の有効屈折率を変更することができれば、SiN層107a〜107gの厚みではなく、たとえばSiN層107a〜107gの幅やSi細線導波路3上に積層する層の組成などをSi細線導波路3毎に変更してもよい。
【0067】
(実施の形態6)
図23は本発明による小型可変分波器の実施の形態6を示す断面模式図である。図23を参照して、本発明による小型可変分波器の実施の形態6を説明する。なお、図23は図19に対応する。
【0068】
図23に示した小型可変分波器は、基本的に図18および図19に示した小型可変分波器と同様の構造を備えるが、Si細線導波路83からなる導波路アレイをSiOx(0<x<2)層116で覆っている点が異なる。このSiOx層116は、Si細線導波路83に形成された空孔6a〜6g(図18参照)の内部にも充填されている。ここで、SiOx層116は、おおよそSiとSiO2との間の物性を有し、xの値によりその屈折率を変えることができる。そのため、当該xの値を変更することで、Si層から成るSi細線導波路83とSiOx層116との屈折率差Δnを任意に制御できる。これにより、導波路アレイにおいて、隣接するSi細線導波路83への光の滲み出し具合を制御できる。
【0069】
このようにすれば、図13に示すような、隣接するSi細線導波路3との間に位置する残存部21を形成して上部Si層13に対するエッチング深さを制御する、といった加工を行なう必要がない。つまり、図23に示した小型可変分波器では、SiOx層116のxの値を任意に変更することにより、Si細線導波路83とSiOx層116との屈折率差Δnを変えて、隣接するSi細線導波路83への光の滲み出し具合を容易に制御することができる。
【0070】
次に、上記の実施の形態と一部重複するものもあるが、本発明の特徴的な構成を羅列的に挙げて説明する。
【0071】
この発明に従った可変分波器としての小型可変分波器は、ベース媒体としてのSiO2層2と、導波路アレイと、外部屈折率変調手段(図1に示すヒータ4、ヒートシンク5、図16に示す電極74)とを備える。導波路アレイはSiO2層2上に配置される。導波路アレイは、SiO2層2よりも屈折率が大きいか又は等しい複数の導波路としてのSi細線導波路3、83からなる。外部屈折率変調手段は、導波路アレイにおいて、Si細線導波路3、83の延びる方向と垂直な方向に、複数のSi細線導波路3、83の間で可変な屈折率勾配を形成する。Si細線導波路3、83は、Si細線導波路3、83の延びる方向において1次元フォトニック結晶構造を有する。
【0072】
このようにすれば、導波路アレイにおける屈折率勾配を制御できる外部屈折率変調手段を、光が出射する位置のSi細線導波路3、83である出力導波路のスイッチングを行なうための可変機構として具備し、且つ導波路アレイを構成するSi細線導波路3、83に形成した1次元フォトニック結晶構造に起因して、Si細線導波路3、83での光の進行方向への群速度を遅延させることができる。このため、素子(可変分波器)を小型化して作製することができる。
【0073】
ここで、可変分波器を小型化できるという効果は、フォトニック結晶が通常の媒質とは異なる光の分散関係を形成することに起因する。つまり、この光の分散関係はフォトニック結晶の周期性によって変調され、PBG(Photonic Band Gap)近傍のバンド端ではバンドの傾きが小さくなることから、光の群速度を非常に小さくすることができる。すなわち、導波路アレイを透過する光の波長に対して、群速度が小さくなるように1次元フォトニック結晶構造を形成すると、光の進行方向への群速度を遅延させることができる。このため、光学的ブロッホ振動の1周期伝搬長を短くできるので、可変分波器の小型化を図ることができる。その結果、各々の可変分波器となるチップを1フィールド内でのEB露光で作製できるため、フィールドの境界部が、可変分波器となるチップ内に配置されることは無い。そのため、このような境界部に起因する可変分波器の特性の劣化を防止できる。この結果、可変分波器の特性が安定するので、可変分波器の歩留りも向上する。
【0074】
上記小型可変分波器において、外部屈折率変調手段は、図1などに示すように、加熱部材としてのヒータ4と冷却部材としてのヒートシンク5とを含んでいてもよい。ヒータ4は、導波路アレイにおいてSi細線導波路3、83が延びる方向に対して垂直な方向(X軸方向)における一方端部に位置してもよい。ヒータ4はSi細線導波路3、83を加熱する。ヒートシンク5は、導波路アレイにおいて一方端部と反対側に位置する他方端部においてSi細線導波路3、83を冷却する。この場合、ヒータ4とヒートシンク5とを制御するだけで容易に導波路アレイの屈折率勾配を変えることができる。
【0075】
上記小型可変分波器において、外部屈折率変調手段は、図16に示すように、複数の電極74を含んでいてもよい。複数の電極74は、複数のSi細線導波路3のそれぞれに接続される。また、小型可変分波器において、外部屈折率変調手段は、電源部材としての電源75を備えていてもよい。電源75は、複数の電極74それぞれに異なる電圧を印加することが可能であってもよい。
【0076】
この場合、各Si細線導波路3に接続されたそれぞれの電極74に、導波路アレイにおいて電圧勾配が発生するように(電源75を用いて)所定の電圧を印加することにより、導波路アレイにおいて屈折率勾配を発生させることができる。そして、このような電極74を用いると、屈折率勾配を発生させるための電圧の印加のON/OFFを非常に速く行なうことができる。つまり、ヒータ4やヒートシンク5を用いて熱的条件を利用する場合より、屈折率勾配の制御を高速に行なうことができる。この結果、ヒータ4やヒートシンク5を用いる場合より、出力導波路(光が出力される出力ポートとなるSi細線導波路3)のスイッチングを高速に行なうことができる。
【0077】
上記小型可変分波器において、Si細線導波路3は、1次元フォトニック結晶構造に、図14や図15に示したような、欠陥(ドナー型欠陥61またはアクセプタ型欠陥62)が周期的に導入された結合欠陥導波路であってもよい。この場合、Si細線導波路3における光の進行方向の群速度をより遅延させることができる。この結果、小型可変分波器のサイズをより小さくすることができる。
【0078】
上記小型可変分波器において、導波路アレイは、図18などに示すように、Si細線導波路83の延びる方向(Z軸方向)に対して垂直方向(X軸方向)における一方端部(図18においてヒートシンク5が配置された側の端部)から他方端部(ヒータ4が配置された側の端部)へ向かうにつれて、Si細線導波路83の幅W1〜W7が徐々に大きくなる一方、隣接するSi細線導波路83の間隔L1〜L6は徐々に小さくなる、チャープ構造を有していてもよい。
【0079】
この場合、導波路アレイをチャープ構造にすると、外部屈折率変調手段を用いない状態であっても導波路アレイにおいて屈折率勾配を形成できる。そのため、外部屈折率変調手段としてヒータ4、ヒートシンク5、あるいは電極74などを用いた場合に、所定の屈折率勾配を発生させるためにヒータ4、ヒートシンク5、電極74などでの消費電力を、チャープ構造を用いない場合より小さくできる。
【0080】
上記小型可変分波器において、導波路アレイは、図21などに示すように、Si細線導波路3上に積層された媒体層としてのSiN層107a〜107gを含んでいてもよい。媒体層としてのSiN層107a〜107gは、Si細線導波路3を構成する材料(Si)の屈折率より小さい屈折率を有する。Si細線導波路3の延びる方向(Z軸方向)に対して垂直方向(X軸方向)における一方端部(ヒートシンク5が配置された側の端部)から他方端部(ヒータ4が配置された側の端部)へ向かうにつれて、媒体層としてのSiN層107a〜107gの厚みは徐々に厚くなっている。なお、媒体層の材料としては、Si細線導波路3を構成する材料より小さい屈折率を有する材料であれば、任意の材料を用いることができる。
【0081】
この場合、上述のようなSiN層107a〜107gを形成することにより、外部屈折率変調手段を用いない状態であっても導波路アレイにおいて屈折率勾配を形成できる。そのため、外部屈折率変調手段としてヒータ4、ヒートシンク5あるいは電極74などを用いた場合に、所定の屈折率勾配を発生させるためにヒータ4、ヒートシンク5、電極74などでの消費電力を、SiN層107a〜107gを形成していない場合より小さくできる。
【0082】
上記小型可変分波器において、導波路アレイは、図12に示すように複数のSi細線導波路3の間に配置された残存部21を有していてもよい。
【0083】
この場合、Si細線導波路3と、隣接するSi細線導波路3の間隙と、の間の屈折率差Δnを小さくできる。また、残存部21の厚みを変更することで、残存部21を含む断面(図13の点線42で示した断面)における有効屈折率を任意に変更できるので、上記屈折率差Δnの値も任意に変更できる。これにより、隣接するSi細線導波路3への光の滲み出し具合を大きく調整できる。
【0084】
上記小型可変分波器において、導波路アレイは、図23に示すように複数のSi細線導波路83を覆うように形成された被覆層としてのSiOx層116を含んでいてもよい。被覆層としてのSiOx層116は、Si細線導波路83を構成する材料の屈折率より小さい屈折率を有する材料からなっていることが、光を閉じ込めるという点で好ましい。なお、被覆層としては、Si細線導波路83を構成する材料の屈折率より小さい屈折率を有する材料であればSiOxと異なる他の任意の材料を用いてもよい。
【0085】
この場合、被覆層としてのSiOx層116(0<x<2)を構成する材料の組成などを制御して当該材料の特性を変えると、導波路アレイとSiOx層116との屈折率差Δnを調整することができる。たとえば、上述したSiOx層116の場合、SiOxのO(酸素)の組成Xの値を任意に変更することで、SiOx層116の屈折率を容易に変更できる。この結果、容易に隣接するSi細線導波路83への光の滲み出し具合を制御できる。
【0086】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明による小型可変分波器の実施の形態1を示す平面模式図である。
【図2】図1の線分II−IIにおける断面模式図である。
【図3】図1および図2に示した小型可変分波器の実施の形態1の作製方法の第1工程を説明するための断面模式図である。
【図4】図1および図2に示した小型可変分波器の実施の形態1の作製方法の第2工程を説明するための断面模式図である。
【図5】図1および図2に示した小型可変分波器の実施の形態1の作製方法の第3工程を説明するための断面模式図である。
【図6】図1および図2に示した小型可変分波器の実施の形態1の作製方法の第4工程を説明するための断面模式図である。
【図7】図1および図2に示した小型可変分波器の導波路アレイにおける光の伝搬について説明するための模式図である。
【図8】図7に示した小型可変分波器の導波路アレイにおける各Si細線導波路の屈折率の分布を示すグラフである。
【図9】本発明による小型可変分波器の分波器としての機能を説明する図である。
【図10】Si細線導波路において1次元フォトニック結晶構造を形成していない場合の導波路アレイからなる可変分波器を示す平面模式図である。
【図11】Si細線導波路において1次元フォトニック結晶構造を形成した場合の導波路アレイから成る可変分波器を示す平面模式図である。
【図12】図1に示した本発明による小型可変分波器の実施の形態1の第1の変形例を示す断面模式図である。
【図13】図12に示した小型可変分波器の作製方法を説明するための断面模式図である。
【図14】図1に示した本発明による小型可変分波器の実施の形態1の第2の変形例を示す平面模式図である。
【図15】図1に示した本発明による小型可変分波器の実施の形態1の第3の変形例を示す平面模式図である。
【図16】本発明による小型可変分波器の実施の形態2を示す斜視模式図である。
【図17】図16に示した小型可変分波器において各電極に印加される電圧と、電極のX軸方向での位置との関係を示すグラフである。
【図18】本発明による小型可変分波器の実施の形態3を示す平面模式図である。
【図19】図18の線分XIX−XIXにおける断面模式図である。
【図20】本発明による小型可変分波器の実施の形態4を示す平面模式図である。
【図21】本発明による小型可変分波器の実施の形態5を示す平面模式図である。
【図22】図21の線分XXII−XXIIにおける断面模式図である。
【図23】本発明による小型可変分波器の実施の形態6を示す断面模式図である。
【図24】非特許文献1に開示された可変分波器を示す斜視模式図である。
【図25】図24に示した可変分波器において、X軸方向での位置と屈折率勾配との関係を示すグラフである。
【図26】非特許文献2に開示された可変分波器を示す平面模式図である。
【符号の説明】
【0088】
1 Si基板、2 SiO2層、3,3a,83 Si細線導波路、4 ヒータ、5 ヒートシンク、6,6a〜6g,106 空孔、12 点線、13 上部Si層、14 レジスト膜、21 残存部、22 曲線、23 矢印、26 光強度分布、27,28 曲線、29,42 点線、33 端面、61 ドナー型欠陥、62 アクセプタ型欠陥、74 電極、75 電源、107a〜107g SiN層、116 SiOx層。
【技術分野】
【0001】
この発明は、可変分波器に関し、より特定的には、光学的ブロッホ振動を用いた可変分波器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量光通信ネットワークの需要がますます増大している。当該需要に応える技術の1つとして、波長分割多重伝送がある。また、このような技術の利用に伴って主要デバイスの変遷が起こり、可変分波器などの光制御デバイスが必要になってきている。このような可変分波器としては、光学的ブロッホ振動やフォトニック結晶を用いたものが知られている。
【0003】
光学的ブロッホ振動を用いた可変分波器は、例えば非特許文献1及び2に示される。図24は、非特許文献1に開示された可変分波器を示す斜視模式図である。図25は、図24に示した可変分波器において、X軸方向での位置と屈折率勾配との関係を示すグラフである。また、図26は、非特許文献2に開示された可変分波器を示す平面模式図である。以下、図24〜図26を参照して、従来の可変分波器を説明する。
【0004】
非特許文献1に記載の可変分波器では、図24に示すように、基板121上に周期的に間隔を隔てて配置された導波路122により導波路アレイが形成されている。導波路アレイの上部及び下部は電極123で覆われている。電極123には端子126bが接続されている。また、基板121には端子126aが接続されている。導波路122の間隔は一定である。各導波路122はZ軸方向に均一な構造となっている。
ここで、端子126a、126b間に電圧V0を印加して、電極123に電流Iを流すと、X軸方向に電圧変化が生じる。この結果、周期的な導波路アレイによる周期的な屈折率変化に加えて、図25に示すように、この電圧変化により線形的な屈折率勾配Δnが生じる。この時、導波路の一端から光を入射すると、光の伝搬が高屈折率側へ動く。このX軸方向の振動を光学的ブロッホ振動と呼ぶ。
ここで、電圧V0を変化させると、屈折率勾配Δnが変わり、この結果光学的ブロッホ振動の振幅が変わる。このため、出力導波路をスイッチングできる。つまり、印加電圧V0により出力ポートの位置を制御できる。
【0005】
また、非特許文献2に記載の可変分波器では、図26に示すように、基板131上に平行に並べられた導波路132により導波路アレイが形成されている。導波路アレイでは、X軸の正の方向に向かうにつれて、導波路132の幅が徐々に大きくなる。一方、X軸の正の方向に向かうにつれて、隣接する導波路132の間隔は小さくなっている。また、各導波路132はZ軸方向に均一構造になっている。
【0006】
図26に示した可変分波器では、導波路アレイにおける導波路132の間隔と導波路132の幅との変化が、周期的な屈折率変化及び有効屈折率の変化による屈折率勾配を与えている。その結果、導波路132の一端から光を入射すると、光学的ブロッホ振動が発現する。この時、入射光のパワーを大きくすると、非線形効果が生じ、入射された光は線形的な屈折率勾配に従わなくなる。この結果、光学的ブロッホ振動の振幅が変化するため、出力導波路をスイッチングできる。すなわち、入射光のパワーを変更することにより、出力ポートを制御できる。
【0007】
この他、分波器の原理として、上記光学的ブロッホ振動以外にフォトニック結晶を用いたデバイスも知られている。ここで、フォトニック結晶とは、屈折率の異なる2種類以上の材料が、光の波長程度の周期性をもって配列された人工構造体のことを言う。このフォトニック結晶では、固体結晶において周期的ポテンシャル分布により、電子のエネルギーに対するバンド構造が形成されるのと同様に、光子のエネルギーに対するバンド構造が形成される。フォトニック結晶は、PBG(Photonic Band Gap)、異方性、分散性という応用上重要な3つの特徴を持っている。
【0008】
このようなフォトニック結晶を用いた分波器は、例えば特許文献1及び2に示されている。特許文献1は、AWG(Arrayed Waveguide Grating)とフォトニック結晶とを組み合わせて用いた光波長合分波器を開示する。すなわち、特許文献1では、AWGの出力側スラブ導波路を直角に横切るように形成した溝内に、格子変調型フォトニック結晶波長選択フィルタを挿入することで、低コスト化を実現し、かつ、クロストークの低減が図れ、各チャネルからの出力光の損失を均一にすることができるとしている。特許文献1では、分波機能はAWGを利用しており、低コストでクロストークを低減できるように、フォトニック結晶から成るフィルタを付加している。
【0009】
特許文献2は、スーパープリズム現象を用いた波長分波回路を開示する。スーパープリズム現象とは、フォトニック結晶の分散性に起因した現象であり、フォトニック結晶内でわずかな波長の違いにより伝搬角が大きく変化する現象を言う。特許文献2に開示された技術は、このスーパープリズム現象を利用することにより、結晶内部の伝搬角を大きく変化させ、波長に応じた伝送経路の切り分けを行なうことを特徴とする。この結果、特許文献2では、AWGのように個別に導波路を形成する必要がなくなり、且つ、高速化、高集積化、伝送効率の向上などを図ることができるとしている。
【特許文献1】特開2003−255160号公報
【特許文献2】特開2003−43277号公報
【非特許文献1】「オプティクスレターズ(OPTICS LETTERS)」、(米国)、米国光学会(Optical Society of America)、1998年11月1日、第23巻第21号、p.1701-1703
【非特許文献2】「フィジカルレビューレターズ(PHYSICAL REVIEW LETTERS)、(米国)、米国物理学会(The American Physical Society)、1999年12月6日、第83巻第23号、p.4756-4759
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述した非特許文献1、非特許文献2、特許文献1、特許文献2などに示された従来技術にはそれぞれ次のような問題点がある。
【0011】
非特許文献1、非特許文献2に開示された技術に関しては、一般に光学的ブロッホ振動により、光の進行がX軸方向に振動する際に、1周期だけ振動する間に、光がZ軸方向に伝搬する距離(以下、1周期伝搬長と呼ぶ)は10mm以上と長くなるため、素子サイズが大きくなる。よって可変分波器を作製する場合、歩留りの低下や生産性の悪化という問題が発生する可能性が高くなる。特に、EB(電子ビーム)露光で当該可変分波器を作製しようとした場合、各々のチップをEB露光工程の1フィールド内で作製するのは不可能であるため、可変分波器の構造内部にフィールド境界が位置することになる。この結果、形成された可変分波器の特性が不安定になる恐れがあった。
【0012】
また、特許文献1、特許文献2に開示された技術に関しては、光伝送路中で光路を切り替える機能が付加されておらず、可変機構に関する言及は一切成されていない。すなわち、特許文献1に開示された技術に関しては、一旦基板上にAWGを作製すると、出力側スラブ導波路の形状、アレイ導波路などの構造を変えることはできない。つまり、各出力導波路における出力波長はそれぞれ決まってしまい、変更することは通常不可能である。同様に、特許文献2に開示された技術に関しては、一旦フォトニック結晶を作製すると、フォトニック結晶の孔の形状や大きさ、格子定数などの構造を変えることはできない。つまり、各波長が出力される位置は固定されてしまい、柔軟な切り替えができなくなる。
【0013】
本発明は、上記のような課題を解決するために成されたものであり、この発明の目的は、可変機構を具備すること、および素子サイズを小さくすること、を可能にすることにより、歩留りの向上および特性の安定化を図ることが可能な小型可変分波器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に従った可変分波器は、ベース媒体と、導波路アレイと、外部屈折率変調手段とを備える。導波路アレイはベース媒体上に配置される。導波路アレイは、離散的に並列に配置された複数の導波路からなる。外部屈折率変調手段は、導波路アレイにおいて、導波路の延びる方向と垂直な方向に、複数の導波路の間で可変な屈折率勾配を形成する。導波路は、導波路の延びる方向において1次元フォトニック結晶構造を有する。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明によれば、導波路アレイに形成した1次元フォトニック結晶構造に起因した光の進行方向への群速度を遅延させることにより、素子を小型化して作製することができる。この結果、各々のチップを1フィールド内でのEB露光で作製できるため、特性が安定し、歩留まりも向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0017】
(実施の形態1)
図1は本発明による小型可変分波器の実施の形態1を示す平面模式図である。図2は、図1の線分II−IIにおける断面模式図である。図1および図2を参照して、本発明による小型可変分波器の実施の形態1を説明する。
【0018】
図1および図2に示す小型可変分波器は、SOI(Silicon On Insulator)基板を用いたSi細線導波路アレイから成る小型可変分波器である。図2に示すように、Si基板1上にSiO2層2が積層されている。SiO2層2上に、上部Si層13(図3参照)から成るSi細線導波路3が複数形成されている。複数のSi細線導波路3は、図1からも分かるようにZ軸方向に並列に延びるように形成されている。また、複数のSi細線導波路3は、X軸方向に所定の間隔を隔てて並ぶように離散的に(周期的に)配置されている。つまり、複数のSi細線導波路3は、互いに並行に延びるように形成されるとともに、隣接するSi細線導波路3の間隔はほぼ一定となっている。Si基板1およびSiO2層2のX軸方向における端面には、ヒータ4およびヒートシンク5が接続されている。ヒータ4は、Si基板1およびSiO2層2のX軸の正の方向における端面に配置されている。ヒートシンク5は、ヒータ4が配置された端面と反対側に位置する端面(Si基板1およびSiO2層2のX軸の負の方向における端面)に配置されている。なお、ヒータ4としては、電熱線(抵抗発熱線)やペルチェ素子など、熱を発生させることができる部材であれば任意の部材を用いることができる。また、ヒートシンク5としては、ペルチェ素子や、銅ブロックなどの熱伝導率の高い材料からなる放熱体など、導波路アレイから熱を除去することができる部材であれば任意の部材を用いることができる。
【0019】
図1に示すように、Si細線導波路3の上部表面には、Si細線導波路3の延在方向に沿って、複数の空孔6が周期的に形成されている。この周期的に配置された空孔6により、1次元フォトニック結晶構造が形成されている。なお、図1では、光の進行方向をZ軸方向、Si細線導波路3の延在方向と垂直な方向をX軸方向としている。ここで、X軸方向が光学的ブロッホ振動の振動方向となる。
【0020】
次に、図3〜図6を参照して、Si細線導波路からなる導波路アレイの作製方法を説明する。図3〜図6は、図1および図2に示した小型可変分波器の実施の形態1の作製方法を説明するための断面模式図である。
【0021】
まず、図3に示すように、Si基板1上にSiO2層2を形成する。SiO2層2は厚みが3μm、屈折率が1.4である。このSiO2層2上に上部Si層13を形成する。この上部Si層13の厚みは0.25μm、屈折率は3.5である。Si基板1、SiO2層2および上部Si層13によりSOI基板が構成される。この上部Si層13上にレジスト膜14を塗布する。このようにして、図3に示すような構造を得る。
【0022】
ここで、SiO2層2の厚みを3μmと十分に厚くしたのは、上部Si層13に光を入射した際にSi基板1へのモードリークを抑制するためである。なお、SiO2層2の厚みは1μm以上であればよく、より好ましくは3μm以上である。また、以下の説明では、SOI基板を用いて、SiO2層2上に上部Si層13から成るSi細線導波路3(図2参照)を並べて導波路アレイを形成した場合を示しているが、クラッド層と、当該クラッド層よりも屈折率の大きい材料からなる導波路層と、により光を閉じ込め、導波路層が1次元フォトニック結晶構造を形成できる材質であれば、どのような材料を用いてもよい。
【0023】
次に、図4に示すように、EB露光を用いて、周期的な導波路アレイと周期的な1次元フォトニック結晶構造(空孔6(図1参照))を形成するためのレジストパターンをレジスト膜14により形成する。なお、このレジスト膜14により形成されたレジストパターンには、図示していないが空孔6を形成するための開口部も形成されている。さらに、図5に示すように、上述したレジストパターンを形成するレジスト膜14をマスクとして用いて、上部Si層13をエッチングにより部分的に除去することにより、上部Si層13(図4参照)から成るSi細線導波路3を形成する。形成されたSi細線導波路3は、図5の紙面に垂直な方向に、互いに並列に延びるように形成されている。このとき、Si細線導波路3の上部表面にも複数の空孔6が形成される。
【0024】
その後、図6に示すように、残ったレジスト膜14を剥離液で除去する。そして、最後に導波路アレイの両端に図1および図2に示すようにヒータ4とヒートシンク5を配置する。このようにして、図1および図2に示した小型可変分波器を作製できる。なお、作製した各Si細線導波路3は、X軸方向(図1参照)での幅を0.5μm、高さを0.25μm、Z軸方向(図1参照)での長さを500μmとした。また、隣接するSi細線導波路の間隔は、いずれのSi細線導波路間でも一定であり、ここでは当該間隔が0.5μmとなるように、周期的に導波路アレイを形成した。また、空孔6の径は0.3μm、繰返し周期は0.5μmとした。なお、この繰返し周期とは、隣接する空孔6の中心同士の間の距離を言う。
【0025】
次に、図7および図8を参照して、図1に示した小型可変分波器の導波路アレイにおける光の伝搬について説明する。図7は、図1および図2に示した小型可変分波器の導波路アレイにおける光の伝搬について説明するための模式図である。図8は、図7に示した小型可変分波器の導波路アレイにおける各Si細線導波路3の屈折率nrの分布を示すグラフである。
【0026】
図7に示すように、1つのSi細線導波路3の端部から矢印23に示すように光が入射した場合を考える。この光は、図7中の光強度分布26で示されるように、1つのSi細線導波路3を中心にして広がった状態となる。また、図8から分かるように、周期的な導波路アレイにより周期的な屈折率変化が形成され、さらに、ヒータ4とヒートシンク5によるX軸方向の温度勾配の結果として屈折率勾配が形成されている。
【0027】
上述のように、1つのSi細線導波路3の端部から矢印23に示すように1つのSi細線導波路3を中心にして広がった光が入射した場合、図7の曲線22で示すように、導波路アレイにおける周期的な屈折率変化と屈折率勾配により光学的ブロッホ振動が発現する。このため、入射した光は周期的な振動運動を繰り返す。そして、導波路アレイのZ軸方向である光の進行方向の端面の任意の出力ポートから出力される。このとき、X軸方向への光の振動は、曲線26に示される1つのSi細線導波路3を中心にして広がった光の端部が、隣接するSi細線導波路3に滲み出すことにより生じる。
【0028】
次に、図1および図2に示した小型可変分波器について、可変分波器としての機能を説明する。図7のように1つのSi細線導波路3を中心にして広がった光が入射したとき、ヒータ4とヒートシンク5との温度を制御して導波路アレイにおける温度勾配を変える。この結果、図8の屈折率勾配を変化させることができる。これにより、隣接するSi細線導波路3への入射光の滲み出し具合が変わることになる。そのため、光学的ブロッホ振動の振幅が変わり、上記出力ポートとは異なる出力ポートから光を出力することができる。すなわち、本発明による小型可変分波器では、屈折率勾配の変調により、出力ポートをスイッチングすることができる。
【0029】
次に、図9を参照して、本発明による小型可変分波器の分波器としての機能を説明する。図9は、本発明による小型可変分波器の機能を説明するための平面模式図である。以下では、波長λ1、λ2(λ1<λ2)の光を小型可変分波器へ入射させた場合の分波方法について示すが、本発明による小型可変分波器では、3種類以上の波長の光の分波に関しても同様に行なうことができる。
【0030】
今、図9の矢印23で示すように、1つのSi細線導波路3を中心にして広がった波長λ1とλ2(λ1<λ2)の光を入射させた場合を考える。この場合、各々の波長の光は光学的ブロッホ振動により図9に示した曲線27、28に示すような経路で伝搬していく。このとき、隣接するSi細線導波路3への光の滲み出し具合は光の波長λ1、λ2に依存する。このため、波長λ2の光のほうが波長λ1の光より滲み出し具合が大きくなり、結果的に振動の振幅も大きくなる。すなわち、波長λ1の光と波長λ2の光とは各々異なる経路(曲線27、28で示した経路)をたどる。そして、図9の点線29で示した部分に出力ポートを設置すると、上述した波長λ1の光と波長λ2の光との分波を容易に行なうことができる。
【0031】
次に、図10および図11を参照して1次元フォトニック結晶構造に起因した群速度遅延効果について説明する。図10は、Si細線導波路3において1次元フォトニック結晶構造を形成していない場合の導波路アレイからなる可変分波器を示す平面模式図である。図11は、Si細線導波路3において1次元フォトニック結晶構造を形成した場合の導波路アレイから成る可変分波器を示す平面模式図である。以下では、導波路アレイを構成するSi細線導波路3に1次元フォトニック結晶構造が形成された場合と、形成されていない場合とについて、必要とされる伝搬長を比較する。
【0032】
ここで、図10に示したSi細線導波路3はZ軸方向に一様な媒質である。このため、Si細線導波路3中の光の群速度は光速cをSiの屈折率nrで割った値となり、群速度遅延は起こらない。このとき、1つのSi細線導波路3aの端面33から光を出力する場合には、図10に示すZ1の伝搬長を要し、Z1=10mmであった。
【0033】
一方、図11に示した可変分波器では、Si細線導波路3はZ軸方向にフォトニック結晶構造が形成されているため、Si細線導波路3中の光の群速度は周期構造に起因する分散関係に従った値となる。このとき、分散関係の傾きが小さい周波数(たとえば、1.26×1015Hz)の光を入射すると、群速度を遅延させることができる。このため、図10に示した場合と同様に1つのSi細線導波路3aの端面33から光を出力しても伝搬長はZ2(Z2<Z1)という、相対的に短い距離で足りる。本実施の形態の構造ではZ2=400μmとすることができる。この場合、図10に示した可変分波器における伝搬長Z1に比べて、伝搬長を1/25に低減できる。
【0034】
このため、図1に示した本願発明による可変分波器では、Si細線導波路3に1次元フォトニック結晶構造を形成することにより、群速度遅延が得られるようにしている。この結果、Z軸方向への光の伝搬長をより短くして光を出力することができる。したがって、可変分波器の素子サイズを小型化することができる。その結果、小型可変分波器を実現できる。
【0035】
また、EB露光の1フィールドは500μm角である一方、本発明による小型可変分波器はこれより小さいサイズで作製できる。このため、EB露光の1フィールド内に収まるように素子(可変分波器)を作製できる。この結果、可変分波器を作製する際、1つの可変分波器の内部においてフィールド間のつなぎ部を配置する必要がない。その結果、可変分波器の特性が安定し、歩留まりも向上する。
【0036】
なお、図1に示した可変分波器では、図6からも分かるように、Si細線導波路3を形成するためのエッチングを行なう際に、SiO2層2上に形成された上部Si層13の一部を、SiO2層2の上部表面が露出するまで除去している。この結果、Si細線導波路3は、SiO2層2上に所定の間隔を隔てて分離された状態となっている。しかし、図12に示すように、Si細線導波路3を形成する際に、SiO2層2の上部表面が露出するまでエッチングを行なわず、Si層の一部を残存させてもよい。
【0037】
図12は、図1に示した本発明による小型可変分波器の実施の形態1の第1の変形例を示す断面模式図である。図12を参照して、本発明による小型可変分波器の実施の形態1の第1の変形例を説明する。なお、図12は図2に対応する。
【0038】
図12に示した小型可変分波器は、基本的には図1および図2に示した可変分波器と同様の構造を備えるが、SiO2層2の上部表面が露出するまでエッチングを行なわなかったことに因る上部Si層13の残存部21が配置されている。このとき、SiO2層2の上部表面から残存部21の上部表面までの高さが、SiO2層2の上部表面からSi細線導波路3の上部表面までの高さより低くなっている。SiO2層2の上部表面からSi細線導波路3の上部表面までの高さと、SiO2層2の上部表面から残存部21の上部表面までの高さとの差は、たとえば0.1μmとすることができる。
【0039】
つぎに、図13を参照して、図12に示した可変分波器の作製方法を説明する。図13は、図12に示した小型可変分波器の作製方法を説明するための断面模式図である。図13は図6に対応する。
【0040】
まず、図3および図4に示した工程を実施した後、レジスト膜14(図4参照)をマスクとして上部Si層13を部分的にエッチングにより除去する。このとき、上部Si層13の上部表面から0.1μmの厚さとなる部分のみ、エッチングにより除去する。この結果、図13に示すように、各Si細線導波路3と、それと隣接するSi細線導波路3と、の間に位置する上部Si層13の残存部21を形成することができる。この後、レジスト膜14の除去など、図6において説明した可変分波器の作製方法と同様の工程を実施することで、図12に示した可変分波器を得ることができる。
【0041】
このように、各Si細線導波路3と、それと隣接するSi細線導波路3と、の間に上部Si層13の残存部21を配置することにより、図13の点線42で示した断面(残存部21を横切るとともに、Si細線導波路3の延在方向に沿った平面での断面)における有効屈折率を、図6の点線12で示した断面における有効屈折率より大きくできる。この結果、Si細線導波路3と、上部Si層13をエッチングした部分である空気層及び残存部21を含む領域(以下、間隙と呼ぶ)との屈折率差Δnを小さくできる。また、残存部21の厚みを変更することで、点線42で示した断面における有効屈折率を任意に変更できるので、上記屈折率差Δnの値も任意に変更できる。これにより、隣接するSi細線導波路3への光の滲み出し具合を大きく調整できる。
【0042】
なお、図12に示した可変分波器では、残存部21をSi細線導波路3と同じ材料により構成したが、残存部21を構成する材料としてSi細線導波路3の材料と異なる任意の材料を用いてもよい。この場合、図1に示したようなSi細線導波路3を形成した後、隣接するSi細線導波路3の間に残存部21となる材料を充填するといった作製方法を用いてもよい。
【0043】
図14は、図1に示した本発明による小型可変分波器の実施の形態1の第2の変形例を示す平面模式図である。図14を参照して、本発明による小型可変分波器の実施の形態1の第2の変形例を説明する。なお、図14は図1に対応する。
【0044】
図14に示した小型可変分波器は、基本的に図1に示した可変分波器と同様の構造を備えるが、Si細線導波路3に形成された1次元フォトニック結晶構造を成す複数の空孔6の配置の仕方が異なる。図1に示した可変分波器では、1次元フォトニック結晶構造を成す複数の空孔6の直径をすべて同一にし、また、空孔6はほぼ均一な間隔で配置されている。一方、図14に示した可変分波器では、Si細線導波路3が、空孔を媒体で埋めたドナー型欠陥61(空孔6が形成されるべき領域であるが、当該空孔6が形成されていない領域)を周期的に導入した結合欠陥導波路となっている。この場合、光の群速度を図1に示した実施の形態1よりもさらに遅延させることができる。この結果、可変分波器をさらに小型化することができる。
【0045】
なお、上述のように、ドナー型欠陥61は、図14に示すように空孔6を形成しない構成(Si細線導波路3の材質と同じ材質により当該部分が充填された状態)としているが、当該ドナー型欠陥61は、このドナー型欠陥61が形成されるべき領域に一度空孔6を形成し、当該空孔6を別の媒体で充填することにより形成してもよい。この別の媒体としては、Si細線導波路3を構成する材料と同じ材料を用いてもよいが、Si細線導波路3を構成する材料とは異なる材料を用いてもよい。
【0046】
図15は、図1に示した本発明による小型可変分波器の実施の形態1の第3の変形例を示す平面模式図である。図15を参照して、本発明による小型可変分波器の実施の形態1の第3の変形例を説明する。なお、図15は図1に対応する。
【0047】
図15に示した小型可変分波器は、基本的に図1に示した可変分波器と同様の構造を備えるが、Si細線導波路3に形成された1次元フォトニック結晶構造を成す空孔6の大きさが、すべて同じというわけではないという点で異なる。具体的には、図15に示したSi細線導波路3では、1次元フォトニック結晶構造を構成する空孔6の列に、周期的にその直径を他の空孔6より大きくした空孔(アクセプタ型欠陥62)を配置している。このアクセプタ型欠陥62を構成する空孔の直径は、たとえば0.4μmとすることができる。この場合、光の群速度を図1に示した実施の形態1よりもさらに遅延させる効果がある。なお、図15では、アクセプタ型欠陥62が2つの空孔6を隔てて周期的に配置されているが、このアクセプタ型欠陥62の配置周期は任意に変更できる。また、アクセプタ型欠陥62を構成する空孔の直径は、上述した0.4μmに限らず、他の空孔6の直径と異なる値であれば任意の数値を採用できる。また、上述した実施の形態1では、Si細線導波路3の本数が7本である可変分波器の例を示したが、Si細線導波路3の本数は7本以外の任意の数であってもよい。
【0048】
(実施の形態2)
図16は本発明による小型可変分波器の実施の形態2を示す斜視模式図である。図17は、図16に示した小型可変分波器において各電極に印加される電圧V1〜V7と、電極のX軸方向での位置との関係を示すグラフである。図16および図17を参照して、本発明による小型可変分波器の実施の形態2を説明する。
【0049】
図16に示した小型可変分波器は、Si基板1と、Si基板1上に形成されたSiO2層2と、SiO2層2上に形成された、導波路アレイを構成する複数のSi細線導波路3と、それぞれのSi細線導波路3上に形成された電極74とを備える。Si細線導波路3の構成は、図1に示した小型可変分波器におけるSi細線導波路3と同様である。また、電極74からSi細線導波路3の下部表面にまで到達するように、空孔6が形成されている。この図16では、光の進行方向をZ軸方向、Si細線導波路3の延在方向に対して垂直な方向をX軸方向、Si細線導波路3の層厚方向(Si基板1の主表面に対して垂直な方向)をY軸方向としている。X軸方向が光学的ブロッホ振動の振動方向となる。複数の電極74には、それぞれ異なる電圧を印加することが可能な電源75が接続されている。それぞれの電源75は、電極74およびSi基板1の裏面側と導電線により接続されている。図16において、V1〜V7は各Si細線導波路3に設置された電極74に印加される電圧を示す。
【0050】
図16に示した小型可変分波器における電極74の形成方法としては、たとえば以下のような方法を用いることができる。まず、SiO2層2上にSi細線導波路3となるべき上部Si層13を形成し、当該上部Si層13上に電極74を構成する導電層を形成する。この導電層上に、図3に示すようなレジスト膜14を形成する。当該レジスト膜14に対して露光・現像処理を行なうことにより、レジスト膜14により所定のパターンを形成する。このパターンが形成されたレジスト膜14をマスクとして、上記導電層および上部Si層13をエッチングにより部分的に除去する。その後、レジスト膜14を除去する。この結果、図16に示すようなSi細線導波路3および電極74を形成できる。なお、このエッチングにおいて空孔6も同時に形成される。
【0051】
図16に示した小型可変分波器では、図17に示すように上述した電圧V1〜V7の値をそれぞれの電極毎に変えることで、導波路アレイにおける周期的な屈折率変化と屈折率勾配を与える。ここで、図17では、縦軸が電極74に印加される電圧の値を示し、横軸が電極74の位置(Si細線導波路3の位置)を示す。
【0052】
たとえば、電圧V1〜V7の値を、V1=4.8V、V2=4.5V、V3=4.2V、V4=3.9V、V5=3.6V、V6=3.3V、V7=3.0Vとし、当該電圧をそれぞれの電極74に印加する。このように、X軸の正の方向に向けて、電極74に印加される電圧の値を相対的に大きな値から徐々に小さくする(線形的に電圧の値を低くする)ような電圧の設定により、導波路アレイにおいて周期的な屈折率変化と屈折率勾配を与えることができる。たとえば、上述のような電圧V1〜V7の設定における、各Si細線導波路3での屈折率は、屈折率の小さいSi細線導波路3から順番に、3.45、3.46、3.47、3.48、3.49、3.50、3.51となる。なお、電圧の設定内容は、導波路アレイにおいて屈折率勾配を与えることができれば、上述のような電圧設定以外の設定であってもよい。つまり、図16に示した小型可変分波器では、各Si細線導波路3に印加する電圧V1〜V7の値を変えることにより、各Si細線導波路3の屈折率を変えて屈折率勾配を変調させることができる。このような屈折率勾配の変調により、導波路アレイのZ軸方向の端面において光が出射する位置(ポート)の変更(スイッチング)を行なうことができる。このような電気光学効果を用いたスイッチングは応答時間が非常に速いため、本発明の実施の形態1に示した熱光学効果によるスイッチングよりも高速にスイッチングを行なうことができる。なお、出力ポートの設置などは、上述した本発明による小型可変分波器の実施の形態1の場合と同様に行なうことができる。
【0053】
(実施の形態3)
図18は本発明による小型可変分波器の実施の形態3を示す平面模式図である。図19は、図18の線分XIX−XIXにおける断面模式図である。図18および図19を参照して、本発明による小型可変分波器の実施の形態3を説明する。
【0054】
図18および図19に示した小型可変分波器は、基本的に図1および図2に示した小型可変分波器と同様の構造を備えるが、Si細線導波路83の幅W1〜W7、空孔6a〜6gの直径、および隣接するSi細線導波路83の間隔L1〜L6が変化している点が異なる。図18から分かるように、X軸方向に沿って、図18の紙面左側に位置する導波路アレイの一方端側から、当該一方端と反対側に位置する他方端側に向かうにつれて、Si細線導波路83の幅W1〜W7および空孔6a〜6gの直径は、徐々に大きくなるように設定されている。一方、X軸方向に沿って、上記一方端側から他方端側に向かうにつれて、上記間隔L1〜L6は徐々に小さくなるように設定されている。このようなSi細線導波路83からなる導波路アレイの構造は、いわゆるチャープ構造と呼ばれる。
【0055】
図18および図19に示した小型可変分波器では、Si細線導波路83の幅W1〜W7の値を、たとえば左端からW1=0.3μm、W2=0.4μm、W3=0.5μm、W4=0.6μm、W5=0.7μm、W6=0.8μm、W7=0.9μm、とすることができる。また、隣接するSi細線導波路83の間隔L1〜L6の値を、左端からL1=0.6μm、L2=0.5μm、L3=0.4μm、L4=0.3μm、L5=0.2μm、L7=0.1μmとすることができる。また、空孔6a〜6gの直径については、左端から空孔6aの直径=0.2μm、空孔6bの直径=0.26μm、空孔6cの直径=0.33μm、空孔6dの直径=0.4μm、空孔6eの直径=0.46μm、空孔6fの直径=0.53μm、空孔6gの直径=0.6μm、とした。このような構成とすることにより、各Si細線導波路83の有効屈折率を変えることができる。たとえば、上記のような構成において、各Si細線導波路83での有効屈折率は、屈折率の小さいSi細線導波路83から順番に、3.45、3.46、3.47、3.48、3.49、3.50、3.51となる。この結果、導波路アレイに周期的な屈折率変化と屈折率勾配を与えている。なお、各Si細線導波路83の幅W1〜W7、隣接するSi細線導波路83の間隔L1〜L6及び空孔6a〜6gの直径については、Si細線導波路83に屈折率勾配を与えることができれば上述した値以外の任意の値を用いてもよい。
【0056】
図18および図19に示した小型可変分波器における分波方法及びスイッチング方法は、基本的に図1に示した小型可変分波器の実施の形態1における方法と同様である。しかし、図18および図19に示すように、導波路アレイをチャープ構造にしているので、図18および図19に示した小型可変分波器では、図1に示した小型可変分波器のように温度勾配を用いなくても屈折率勾配を与えることができる。このため、ヒータ4とヒートシンク5における消費電力を図1に示した小型可変分波器よりも小さくすることができる。
【0057】
なお、図18および図19に示した小型可変分波器では、ヒータ4とヒートシンク5及びチャープ構造により屈折率勾配を与えたが、図16に示した本発明による小型可変分波器の実施の形態2と同様に、Si細線導波路83上に電極を形成して、当該電極に電圧を印加する手法を用いてもよい。なお、この場合も、チャープ構造が屈折率勾配を形成することに寄与するので、所望の屈折率勾配を得るために必要な電圧あるいは消費電力を、図16に示した小型可変分波器より小さくすることができる。
【0058】
(実施の形態4)
図20は本発明による小型可変分波器の実施の形態4を示す平面模式図である。図20を参照して、本発明による小型可変分波器の実施の形態4を説明する。
【0059】
図20に示した小型可変分波器は、基本的には図18および図19に示した小型可変分波器と同様の構造を備えるが、Si細線導波路83からなる導波路アレイにSOA(Semiconductor Optical Amplifier)96を付加した点が異なる。図20に示した小型可変分波器では、SOA96を導波路アレイの一端に設置し、そこから光を導波路アレイに入射する。
【0060】
図20に示した小型可変分波器では、SOA96の光増幅効果により入射光のパワーを大きくしていくと、非線形効果が誘起される。この結果、導波路アレイに入射した光は線形的な屈折率勾配に従わなくなり、当該光の伝搬経路が変わる。すなわち、図20に示した小型可変分波器では、SOA96とヒータ4とヒートシンク5とを制御することにより導波路アレイから出射する光の出力位置(出力ポート)のスイッチングを行なうことができる。また、図20に示した小型可変分波器では、図18および図19に示した本発明による小型可変分波器の実施の形態3の構造において、光の入力ポートにSOA96を付加しているので、導波路アレイへの光の入力時における光の損失を補償したり、高速なスイッチングを行なうことができる。なお、ヒータ4とヒートシンク5はSOA96の補助として付加したが、これらのヒータ4およびヒートシンク5を設置しない構成としてもよい。また、ヒータ4およびヒートシンク5に替えて、図16に示したような電極をSi細線導波路83に設置してもよい。
【0061】
(実施の形態5)
図21は本発明による小型可変分波器の実施の形態5を示す平面模式図である。図22は、図21の線分XXII−XXIIにおける断面模式図である。図21および図22を参照して、本発明による小型可変分波器の実施の形態5を説明する。
【0062】
図21および図22に示した小型可変分波器は、基本的には図1および図2に示した小型可変分波器と同様の構成を備えるが、各Si細線導波路3の上部表面上にSiN層107a〜107gが形成されている点が異なる。SiN層107a〜107gから各Si細線導波路3まで貫通するように、空孔106が形成されている。図21では、光の進行方向をZ軸方向、Si細線導波路3(SiN層107a〜107g)の延びる方向に対して垂直な方向をX軸方向としている。X軸方向が光学的ブロッホ振動の振動方向となる。
【0063】
次に、図21および図22に示した小型可変分波器の作製方法を説明する。図21および図22に示した小型可変分波器では、上部Si層13(図4参照)から成るSi細線導波路3上に、まずSiN層を0.25μmずつ均一に積層する。このような均一な厚みのSiN層を形成する手法としては、たとえば、図3に示すようにSiO2層2上に上部Si層13を形成したあと、続いて厚みが0.25μmのSiN層を形成する。そして、当該SiN層上に図3に示すようなレジスト膜14を形成する。そして、図4などに示すように、露光・現像工程を実施することにより所定のパターンをレジスト膜14により形成する。当該レジスト膜14をマスクとしてエッチングを行ない、上記SiN層および上部Si層13を部分的に除去することにより、Si細線導波路3およびSiN層を形成する。その後、レジスト膜を除去する。このようにして、上述したSi細線導波路3上にSiN層が形成された構造を得ることができる。
【0064】
次に、Si細線導波路3からなる導波路アレイを備える小型可変分波器において、各Si細線導波路3を順にフッ化水素溶液に浸していき、SiN層のウェットエッチングを行なう。このとき、Si細線導波路3毎に、当該Si細線導波路3をフッ化水素溶液中に浸漬する時間を18秒、15秒、12秒、9秒、6秒、3秒、0秒、といった異なる値とした。これにより、図22に示すように、SiN層107a〜107gの厚みは、左端からSiN層107aの厚み=0.13μm、SiN層107bの厚み=0.15μm、SiN層107cの厚み=0.17μm、SiN層107dの厚み=0.19μm、SiN層107eの厚み=0.21μm、SiN層107fの厚み=0.23μm、SiN層107gの厚み=0.25μm、となった。上記のような構成において、各Si細線導波路3での有効屈折率は、有効屈折率の小さいSi細線導波路3から順番に、3.45、3.46、3.47、3.48、3.49、3.50、3.51となる。なお、Si細線導波路3毎にフッ化水素溶液中に浸漬する時間を変更する方法としては、たとえば、浸漬対象とするSi細線導波路3のみを露出させるような被覆膜を小型可変分波器の表面に形成し、その後当該小型可変分波器をフッ化水素溶液に所定時間だけ浸漬するといった方法を用いることができる。また、フッ化水素溶液中に浸す時間は、Si細線導波路3からなる導波路アレイに屈折率勾配を与えることができれば、上述した数値に限られるものではなく、他の任意の値を用いることができる。
【0065】
ここで、SiN層107a〜107gの屈折率は、Si層から成るSi細線導波路3の屈折率よりも小さく、空気の屈折率よりも大きい。そのため、左端のSiN層107aが形成されたSi細線導波路3から、右端のSiN層107gが形成されたSi細線導波路3に向けて、徐々にSi細線導波路3の有効屈折率を大きくすることができる。この結果、導波路アレイにおいて周期的な屈折率変化と屈折率勾配を与えることができる。
【0066】
また、図21および図22に示した小型可変分波器では、光の出力ポートのスイッチング方法については図1および図2に示した小型可変分波器と同様の方法を用いる。しかし、図21および図22に示した小型可変分波器では、各Si細線導波路3上にSiN層107a〜107gを積層しているため、ヒータ4およびヒートシンク5により形成される温度勾配を用いなくても、導波路アレイに屈折率勾配を与えることができる。その結果、ヒータ4とヒートシンク5における消費電力を図1および図2に示した小型可変分波器よりも小さくできる。なお、上述のように、SiN層107a〜107gを形成する工程において、フッ化水素溶液を用いてウェットエッチングを行ったが、SiN層107a〜107gを形成する方法としては他の任意の手法を用いることができる。また、SiN層107a〜107g以外の材質からなる層を、Si細線導波路3上に形成してもよい。また、各Si細線導波路3の有効屈折率を変更することができれば、SiN層107a〜107gの厚みではなく、たとえばSiN層107a〜107gの幅やSi細線導波路3上に積層する層の組成などをSi細線導波路3毎に変更してもよい。
【0067】
(実施の形態6)
図23は本発明による小型可変分波器の実施の形態6を示す断面模式図である。図23を参照して、本発明による小型可変分波器の実施の形態6を説明する。なお、図23は図19に対応する。
【0068】
図23に示した小型可変分波器は、基本的に図18および図19に示した小型可変分波器と同様の構造を備えるが、Si細線導波路83からなる導波路アレイをSiOx(0<x<2)層116で覆っている点が異なる。このSiOx層116は、Si細線導波路83に形成された空孔6a〜6g(図18参照)の内部にも充填されている。ここで、SiOx層116は、おおよそSiとSiO2との間の物性を有し、xの値によりその屈折率を変えることができる。そのため、当該xの値を変更することで、Si層から成るSi細線導波路83とSiOx層116との屈折率差Δnを任意に制御できる。これにより、導波路アレイにおいて、隣接するSi細線導波路83への光の滲み出し具合を制御できる。
【0069】
このようにすれば、図13に示すような、隣接するSi細線導波路3との間に位置する残存部21を形成して上部Si層13に対するエッチング深さを制御する、といった加工を行なう必要がない。つまり、図23に示した小型可変分波器では、SiOx層116のxの値を任意に変更することにより、Si細線導波路83とSiOx層116との屈折率差Δnを変えて、隣接するSi細線導波路83への光の滲み出し具合を容易に制御することができる。
【0070】
次に、上記の実施の形態と一部重複するものもあるが、本発明の特徴的な構成を羅列的に挙げて説明する。
【0071】
この発明に従った可変分波器としての小型可変分波器は、ベース媒体としてのSiO2層2と、導波路アレイと、外部屈折率変調手段(図1に示すヒータ4、ヒートシンク5、図16に示す電極74)とを備える。導波路アレイはSiO2層2上に配置される。導波路アレイは、SiO2層2よりも屈折率が大きいか又は等しい複数の導波路としてのSi細線導波路3、83からなる。外部屈折率変調手段は、導波路アレイにおいて、Si細線導波路3、83の延びる方向と垂直な方向に、複数のSi細線導波路3、83の間で可変な屈折率勾配を形成する。Si細線導波路3、83は、Si細線導波路3、83の延びる方向において1次元フォトニック結晶構造を有する。
【0072】
このようにすれば、導波路アレイにおける屈折率勾配を制御できる外部屈折率変調手段を、光が出射する位置のSi細線導波路3、83である出力導波路のスイッチングを行なうための可変機構として具備し、且つ導波路アレイを構成するSi細線導波路3、83に形成した1次元フォトニック結晶構造に起因して、Si細線導波路3、83での光の進行方向への群速度を遅延させることができる。このため、素子(可変分波器)を小型化して作製することができる。
【0073】
ここで、可変分波器を小型化できるという効果は、フォトニック結晶が通常の媒質とは異なる光の分散関係を形成することに起因する。つまり、この光の分散関係はフォトニック結晶の周期性によって変調され、PBG(Photonic Band Gap)近傍のバンド端ではバンドの傾きが小さくなることから、光の群速度を非常に小さくすることができる。すなわち、導波路アレイを透過する光の波長に対して、群速度が小さくなるように1次元フォトニック結晶構造を形成すると、光の進行方向への群速度を遅延させることができる。このため、光学的ブロッホ振動の1周期伝搬長を短くできるので、可変分波器の小型化を図ることができる。その結果、各々の可変分波器となるチップを1フィールド内でのEB露光で作製できるため、フィールドの境界部が、可変分波器となるチップ内に配置されることは無い。そのため、このような境界部に起因する可変分波器の特性の劣化を防止できる。この結果、可変分波器の特性が安定するので、可変分波器の歩留りも向上する。
【0074】
上記小型可変分波器において、外部屈折率変調手段は、図1などに示すように、加熱部材としてのヒータ4と冷却部材としてのヒートシンク5とを含んでいてもよい。ヒータ4は、導波路アレイにおいてSi細線導波路3、83が延びる方向に対して垂直な方向(X軸方向)における一方端部に位置してもよい。ヒータ4はSi細線導波路3、83を加熱する。ヒートシンク5は、導波路アレイにおいて一方端部と反対側に位置する他方端部においてSi細線導波路3、83を冷却する。この場合、ヒータ4とヒートシンク5とを制御するだけで容易に導波路アレイの屈折率勾配を変えることができる。
【0075】
上記小型可変分波器において、外部屈折率変調手段は、図16に示すように、複数の電極74を含んでいてもよい。複数の電極74は、複数のSi細線導波路3のそれぞれに接続される。また、小型可変分波器において、外部屈折率変調手段は、電源部材としての電源75を備えていてもよい。電源75は、複数の電極74それぞれに異なる電圧を印加することが可能であってもよい。
【0076】
この場合、各Si細線導波路3に接続されたそれぞれの電極74に、導波路アレイにおいて電圧勾配が発生するように(電源75を用いて)所定の電圧を印加することにより、導波路アレイにおいて屈折率勾配を発生させることができる。そして、このような電極74を用いると、屈折率勾配を発生させるための電圧の印加のON/OFFを非常に速く行なうことができる。つまり、ヒータ4やヒートシンク5を用いて熱的条件を利用する場合より、屈折率勾配の制御を高速に行なうことができる。この結果、ヒータ4やヒートシンク5を用いる場合より、出力導波路(光が出力される出力ポートとなるSi細線導波路3)のスイッチングを高速に行なうことができる。
【0077】
上記小型可変分波器において、Si細線導波路3は、1次元フォトニック結晶構造に、図14や図15に示したような、欠陥(ドナー型欠陥61またはアクセプタ型欠陥62)が周期的に導入された結合欠陥導波路であってもよい。この場合、Si細線導波路3における光の進行方向の群速度をより遅延させることができる。この結果、小型可変分波器のサイズをより小さくすることができる。
【0078】
上記小型可変分波器において、導波路アレイは、図18などに示すように、Si細線導波路83の延びる方向(Z軸方向)に対して垂直方向(X軸方向)における一方端部(図18においてヒートシンク5が配置された側の端部)から他方端部(ヒータ4が配置された側の端部)へ向かうにつれて、Si細線導波路83の幅W1〜W7が徐々に大きくなる一方、隣接するSi細線導波路83の間隔L1〜L6は徐々に小さくなる、チャープ構造を有していてもよい。
【0079】
この場合、導波路アレイをチャープ構造にすると、外部屈折率変調手段を用いない状態であっても導波路アレイにおいて屈折率勾配を形成できる。そのため、外部屈折率変調手段としてヒータ4、ヒートシンク5、あるいは電極74などを用いた場合に、所定の屈折率勾配を発生させるためにヒータ4、ヒートシンク5、電極74などでの消費電力を、チャープ構造を用いない場合より小さくできる。
【0080】
上記小型可変分波器において、導波路アレイは、図21などに示すように、Si細線導波路3上に積層された媒体層としてのSiN層107a〜107gを含んでいてもよい。媒体層としてのSiN層107a〜107gは、Si細線導波路3を構成する材料(Si)の屈折率より小さい屈折率を有する。Si細線導波路3の延びる方向(Z軸方向)に対して垂直方向(X軸方向)における一方端部(ヒートシンク5が配置された側の端部)から他方端部(ヒータ4が配置された側の端部)へ向かうにつれて、媒体層としてのSiN層107a〜107gの厚みは徐々に厚くなっている。なお、媒体層の材料としては、Si細線導波路3を構成する材料より小さい屈折率を有する材料であれば、任意の材料を用いることができる。
【0081】
この場合、上述のようなSiN層107a〜107gを形成することにより、外部屈折率変調手段を用いない状態であっても導波路アレイにおいて屈折率勾配を形成できる。そのため、外部屈折率変調手段としてヒータ4、ヒートシンク5あるいは電極74などを用いた場合に、所定の屈折率勾配を発生させるためにヒータ4、ヒートシンク5、電極74などでの消費電力を、SiN層107a〜107gを形成していない場合より小さくできる。
【0082】
上記小型可変分波器において、導波路アレイは、図12に示すように複数のSi細線導波路3の間に配置された残存部21を有していてもよい。
【0083】
この場合、Si細線導波路3と、隣接するSi細線導波路3の間隙と、の間の屈折率差Δnを小さくできる。また、残存部21の厚みを変更することで、残存部21を含む断面(図13の点線42で示した断面)における有効屈折率を任意に変更できるので、上記屈折率差Δnの値も任意に変更できる。これにより、隣接するSi細線導波路3への光の滲み出し具合を大きく調整できる。
【0084】
上記小型可変分波器において、導波路アレイは、図23に示すように複数のSi細線導波路83を覆うように形成された被覆層としてのSiOx層116を含んでいてもよい。被覆層としてのSiOx層116は、Si細線導波路83を構成する材料の屈折率より小さい屈折率を有する材料からなっていることが、光を閉じ込めるという点で好ましい。なお、被覆層としては、Si細線導波路83を構成する材料の屈折率より小さい屈折率を有する材料であればSiOxと異なる他の任意の材料を用いてもよい。
【0085】
この場合、被覆層としてのSiOx層116(0<x<2)を構成する材料の組成などを制御して当該材料の特性を変えると、導波路アレイとSiOx層116との屈折率差Δnを調整することができる。たとえば、上述したSiOx層116の場合、SiOxのO(酸素)の組成Xの値を任意に変更することで、SiOx層116の屈折率を容易に変更できる。この結果、容易に隣接するSi細線導波路83への光の滲み出し具合を制御できる。
【0086】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明による小型可変分波器の実施の形態1を示す平面模式図である。
【図2】図1の線分II−IIにおける断面模式図である。
【図3】図1および図2に示した小型可変分波器の実施の形態1の作製方法の第1工程を説明するための断面模式図である。
【図4】図1および図2に示した小型可変分波器の実施の形態1の作製方法の第2工程を説明するための断面模式図である。
【図5】図1および図2に示した小型可変分波器の実施の形態1の作製方法の第3工程を説明するための断面模式図である。
【図6】図1および図2に示した小型可変分波器の実施の形態1の作製方法の第4工程を説明するための断面模式図である。
【図7】図1および図2に示した小型可変分波器の導波路アレイにおける光の伝搬について説明するための模式図である。
【図8】図7に示した小型可変分波器の導波路アレイにおける各Si細線導波路の屈折率の分布を示すグラフである。
【図9】本発明による小型可変分波器の分波器としての機能を説明する図である。
【図10】Si細線導波路において1次元フォトニック結晶構造を形成していない場合の導波路アレイからなる可変分波器を示す平面模式図である。
【図11】Si細線導波路において1次元フォトニック結晶構造を形成した場合の導波路アレイから成る可変分波器を示す平面模式図である。
【図12】図1に示した本発明による小型可変分波器の実施の形態1の第1の変形例を示す断面模式図である。
【図13】図12に示した小型可変分波器の作製方法を説明するための断面模式図である。
【図14】図1に示した本発明による小型可変分波器の実施の形態1の第2の変形例を示す平面模式図である。
【図15】図1に示した本発明による小型可変分波器の実施の形態1の第3の変形例を示す平面模式図である。
【図16】本発明による小型可変分波器の実施の形態2を示す斜視模式図である。
【図17】図16に示した小型可変分波器において各電極に印加される電圧と、電極のX軸方向での位置との関係を示すグラフである。
【図18】本発明による小型可変分波器の実施の形態3を示す平面模式図である。
【図19】図18の線分XIX−XIXにおける断面模式図である。
【図20】本発明による小型可変分波器の実施の形態4を示す平面模式図である。
【図21】本発明による小型可変分波器の実施の形態5を示す平面模式図である。
【図22】図21の線分XXII−XXIIにおける断面模式図である。
【図23】本発明による小型可変分波器の実施の形態6を示す断面模式図である。
【図24】非特許文献1に開示された可変分波器を示す斜視模式図である。
【図25】図24に示した可変分波器において、X軸方向での位置と屈折率勾配との関係を示すグラフである。
【図26】非特許文献2に開示された可変分波器を示す平面模式図である。
【符号の説明】
【0088】
1 Si基板、2 SiO2層、3,3a,83 Si細線導波路、4 ヒータ、5 ヒートシンク、6,6a〜6g,106 空孔、12 点線、13 上部Si層、14 レジスト膜、21 残存部、22 曲線、23 矢印、26 光強度分布、27,28 曲線、29,42 点線、33 端面、61 ドナー型欠陥、62 アクセプタ型欠陥、74 電極、75 電源、107a〜107g SiN層、116 SiOx層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース媒体と、
前記ベース媒体上に配置され、前記ベース媒体よりも屈折率が大きいか又は等しい複数の導波路からなる導波路アレイと、
前記導波路アレイにおいて、前記導波路の延びる方向と垂直な方向に、前記複数の導波路の間で可変な屈折率勾配を形成する外部屈折率変調手段とを備え、
前記導波路は、前記導波路の延びる方向において1次元フォトニック結晶構造を有する、可変分波器。
【請求項2】
前記外部屈折率変調手段は、
前記導波路アレイにおいて前記導波路が延びる方向に対して垂直な方向における一方端部に位置し、前記導波路を加熱する加熱部材と、
前記導波路アレイにおいて前記一方端部と反対側に位置する他方端部において前記導波路を冷却する冷却部材とを含む、請求項1に記載の可変分波器。
【請求項3】
前記外部屈折率変調手段は、
前記複数の導波路のそれぞれに接続された複数の電極を含む、請求項1に記載の可変分波器。
【請求項4】
前記導波路は、前記1次元フォトニック結晶構造に、欠陥が周期的に導入された結合欠陥導波路である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の可変分波器。
【請求項5】
前記導波路アレイは、前記導波路の延びる方向に対して垂直方向における一方端部から他方端部へ向かうにつれて、導波路の幅が徐々に大きくなる一方、隣接する導波路の間隔は徐々に小さくなる、チャープ構造を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の可変分波器。
【請求項6】
前記導波路アレイは、
前記導波路を構成する材料の屈折率より小さい屈折率を有する材料からなり、前記導波路上に積層された媒体層を含み、
前記導波路の延びる方向に対して垂直方向における一方端部から他方端部へ向かうにつれて、前記媒体層の厚みは徐々に厚くなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の可変分波器。
【請求項7】
前記導波路アレイは、
前記導波路を構成する材料の屈折率より小さい屈折率を有する材料からなり、前記複数の導波路を覆うように形成された被覆層を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の可変分波器。
【請求項8】
前記被覆層を構成する材料はSiOx(0<x<2)である、請求項7に記載の可変分波器。
【請求項1】
ベース媒体と、
前記ベース媒体上に配置され、前記ベース媒体よりも屈折率が大きいか又は等しい複数の導波路からなる導波路アレイと、
前記導波路アレイにおいて、前記導波路の延びる方向と垂直な方向に、前記複数の導波路の間で可変な屈折率勾配を形成する外部屈折率変調手段とを備え、
前記導波路は、前記導波路の延びる方向において1次元フォトニック結晶構造を有する、可変分波器。
【請求項2】
前記外部屈折率変調手段は、
前記導波路アレイにおいて前記導波路が延びる方向に対して垂直な方向における一方端部に位置し、前記導波路を加熱する加熱部材と、
前記導波路アレイにおいて前記一方端部と反対側に位置する他方端部において前記導波路を冷却する冷却部材とを含む、請求項1に記載の可変分波器。
【請求項3】
前記外部屈折率変調手段は、
前記複数の導波路のそれぞれに接続された複数の電極を含む、請求項1に記載の可変分波器。
【請求項4】
前記導波路は、前記1次元フォトニック結晶構造に、欠陥が周期的に導入された結合欠陥導波路である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の可変分波器。
【請求項5】
前記導波路アレイは、前記導波路の延びる方向に対して垂直方向における一方端部から他方端部へ向かうにつれて、導波路の幅が徐々に大きくなる一方、隣接する導波路の間隔は徐々に小さくなる、チャープ構造を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の可変分波器。
【請求項6】
前記導波路アレイは、
前記導波路を構成する材料の屈折率より小さい屈折率を有する材料からなり、前記導波路上に積層された媒体層を含み、
前記導波路の延びる方向に対して垂直方向における一方端部から他方端部へ向かうにつれて、前記媒体層の厚みは徐々に厚くなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の可変分波器。
【請求項7】
前記導波路アレイは、
前記導波路を構成する材料の屈折率より小さい屈折率を有する材料からなり、前記複数の導波路を覆うように形成された被覆層を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の可変分波器。
【請求項8】
前記被覆層を構成する材料はSiOx(0<x<2)である、請求項7に記載の可変分波器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2006−162683(P2006−162683A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−350088(P2004−350088)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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