説明

可搬型水力発電装置

【課題】 ヘドロ等の堆積物の沈殿を防止しつつも水車への石等の巻き込みも防止し、更に、水車の回転に伴う騒音を軽減するとともに、水路内を流れる浮遊物が水車に巻き込まれ又は挟まり込むことによる水車の回転停止を抑制して、その水車の回転停止によって水路から水が溢れ出ることも抑制する可搬型水力発電装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 水車2を回転させる水流が通過する流水経路22には隆起部22Cが設けられている。隆起部22Cは、その始端が流入口23の下縁辺にあり、かつ、その終端が水車軸7の中心P1の直下にあり、当該始端から終端までの区間にある流水経路22の底板22Aが流線型状に隆起することで形成されている。また、水車2の外周下端部(図2中のA部)にある羽根板2Bは、羽根先部2B2は羽根本体部2B3に対して水車2の回転方向である水流方向下流側(図2右下側)へ向けて直線的に斜設される平板状となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水路内に設置されて当該水路内の水流を用いて水車を回転させて発電を行う可搬型の水力発電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、農業用水路その他の灌漑用水路又は融雪溝、消雪溝、流雪溝その他の排雪用水路などの各種水路であって、その水路内幅及び水深(水路高)が比較的小さな小規模のものに設置され、そこを流れる水流により水車を回転させて発電を行う可搬型の水力発電装置が知られている。このような水力発電装置には、例えば、下記する特許文献1に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−114937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した特許文献1の水力発電装置では、筋状スクリーンの板状長尺部材に水路内を流れるゴミその他の浮遊物が引っ掛かり、当該筋状スクリーンが目詰まりを起こしてしまう。このため、水路内の水流が筋状スクリーンを通過できずに堰き止められて水車がスムーズに回転できなくなったり、又は、堰き止められた水が水路から大量に溢れ出てしまうという問題点があった。
【0005】
ここで、例えば、水力発電装置が灌漑用水路や排雪用水路に設置される場合には、水流に乗って野菜の切れ端や雪の塊が浮遊物として流れてくることが頻繁にある。このような場合に、水力発電装置の水車に浮遊物が巻き込まれ又は挟まって水車の回転が停止すると、水流が堰き止められ、水路から水が溢れ出て、隣接する道路面や田畑などの土地を冠水させてしまうという問題点もある。
【0006】
特に、水力発電装置が設置される水路が比較的小規模なものである場合に、上記したような浮遊物が水車に巻き込まれ又は挟まり込むことにより水路内の水流が堰き止められれば、瞬く間に水路から水が溢れ出て隣接地を冠水させる危険性もあり、無人の状態のままで水車を昼夜問わずに運転させることが実際上できないという問題点があった。
【0007】
また、水力発電装置を水路に設置して稼働させる場合、水路内を流れる水流と水車との衝突に伴う騒音が発生する。特に、特許文献1の水力発電装置のように、水車の外周下端部にある羽根部材が水流方向上流側に凹面状の湾曲を有する場合、当該羽根部材が水流内への入水する際に、その羽根部材の凸面状に湾曲した面で水面を叩くようにして入水するため、大きな騒音が発生するという問題点がある。
【0008】
しかも、このような湾曲を有する羽根部材を持つ水車にあっては、当該羽根部材の湾曲に衝突した水流が水飛沫を上げて掻き乱され易く、より大きな水流の衝突音を発生させるものと考えられる。このため、かかる騒音が住民の生活に悪影響を及ぼす恐れもあるため、例えば、住宅地内を流れる水路に水力発電装置を設置して昼夜問わずに発電することができないという問題点もあった。
【0009】
さらに、上記したように筋状スクリーンが目詰まりを起こして水路内の水流が堰き止められると、水力発電装置の上流側にヘドロ等の堆積物が沈殿して、水路内の水質を悪化させてしまうという問題点もある。仮に、水力発電装置を灌漑用水路に設置したことで灌漑用水の水質悪化を招くようであれば、灌漑用水路の本来の機能を損なうこととなり、このような状況で水力発電装置を稼働することは好ましいとは言えない。
【0010】
しかしながら、特許文献1の水力発電装置にあっては筋状スクリーンがなければ、水路内を水流に押されて転がってきた石等が水車に巻き込まれて、水車の回転が阻害されたり又は水車が故障若しくは破損する危険性もあるため、ヘドロ等の堆積物の沈殿を防止しつつも水車への石等の巻き込みを防止する好適な手段がないという問題点があった。
【0011】
そこで、本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、ヘドロ等の堆積物の沈殿を防止しつつも水車への石等の巻き込みも防止し、更に、水車の回転に伴う騒音を軽減するとともに、水路内を流れる浮遊物が水車に巻き込まれ又は挟まり込むことによる水車の回転停止を抑制して、その水車の回転停止によって水路から水が溢れ出ることも抑制する可搬型水力発電装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するために請求項1の可搬型水力発電装置は、水路内に設置可能に形成される可搬性を有したフレーム部材と、そのフレーム部材内に設けられ水路内の水流を通過させる流水経路と、その流水経路へ水流を流入させるため前記フレーム部材の前端に開口形成される流入口と、その流入口の下流側に配置されて前記フレーム部材に回転自在に支持され、かつ、複数の羽根板を有してその羽根板に前記流水経路内を通過する水流を受けることにより回転駆動される縦型下射式の水車とを備えてユニット化されているものであり、前記流水経路の底部における前記流入口から前記水車直下までの区間が流線型状に隆起して形成される隆起部と、その隆起部と前記水車の前記羽根板の先端との間に設けられ前記流水経路内の水流を上流側から下流側へ流通させる底部空隙と、その底部空隙を隔てて前記隆起部と対向する前記水車の羽根板の先端部であってその羽根板の本体部に対して鈍角状に曲折されて当該水車の回転方向へ向けて斜設される羽根先部とを備えている。
【0013】
この請求項1の可搬型水力発電装置によれば、フレーム部材を水路内に設置することにより、水路内を流通する水流が、このフレーム部材の前端に開口される流入口からフレーム部材内に設けられる流水経路へ流入し、その流入口の下流側に配置される水車へと送られる。流入口から流入した水流は、流水経路の隆起部を乗り越えて、縦型下射式の水車の外周下端部へ潜り込むように流れ込み、当該水車の外周下端部に位置する羽根板に衝突して、かかる水車を回転させる。
【0014】
請求項2の可搬型水力発電装置は、請求項1の可搬型水力発電装置において、前記隆起部は、その最前部に前記流入口の下縁辺から弓形凸面状に湾曲して急激に立ち上がる傾斜が大きな急斜区間を備えている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の可搬型水力発電装置によれば、流水経路の隆起部が流入口から水車直下までの区間に隆起形成されるので、この隆起部によって、水流で押し流されて水路の底部を転がってきた石等を堰き止めて、それらがフレーム部材内の流水経路へ侵入することを阻止でき、かかる石等が底部空隙に挟まり込んで水車の回転を阻害したり、水車の故障を招来することを防止できるという効果がある。
【0016】
しかも、かかる隆起部は、流入口から水車直下までの区間が流水経路の底部から流線型状に隆起した形態を有しているので、石等よりも比較的軽くて水流に乗りやすいヘドロ等の堆積物であれば、それを隆起部の手前で堆積させずに水流に乗せて流水経路へ流入させることができ、流入口の上流側にヘドロ等の堆積物が沈殿して水路内の水が淀むことを防止できるという効果がある。
【0017】
そして、水車の羽根板の羽根先部は、その羽根板の本体部に対して鈍角を成すように曲折されて水車の回転方向へ向けて斜設されるので、当該羽根板と水流との衝突により生じる水路内の水流の乱れが軽減され、羽根板と水流との衝突に伴う騒音が低減されるという効果がある。
【0018】
また、水車の羽根先部は、上記したように曲折されて水車の回転方向へ向けて斜設されるので、この羽根先部が水車の回転により隆起部上方から底部空隙内へ移動してくる際に、その羽根先部が底部空隙内へ侵入した大きな浮遊物を切断して、流水経路の下流側へ押し流すことができるという効果がある。
【0019】
したがって、例えば、水流に乗って野菜の切れ端や雪の塊が浮遊物として流れてくることあっても、これらを羽根先部により切断することで底部空隙に挟まり込むことを防止でき、水車の回転が停止して水路の水流の大半が堰き止められて水が溢れ出て、隣接する道路面が冠水するような事態を回避できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例である水力発電装置の側面図であって、水力発線装置が水路内に設置された状態を示したものである。
【図2】水力発電装置の縦断面図であって、図4のII−II線における断面図である。
【図3】流水経路の部分的な斜視図である。
【図4】水力発電装置の正面図である。
【図5】水力発電装置の背面図である。
【図6】水力発電装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。本実施形態の可搬型水力発電装置は、水路内を流れる水流により水車を回転させて発電を行うものである。この可搬型水力発電装置は、主として、農業用水路その他の灌漑用水路又は融雪溝、消雪溝、流雪溝その他の排雪用水路などの各種水路であって、その水路内幅及び水深(水路高)が比較的小さな小規模のものに設置される。
【0022】
また、かかる小規模水路は、道路の路側部に設置されるような比較的流量が少ない種類のものであれば良く、更に、その水路内の底面は、可搬型水力発電装置の設置時の安定性に配慮し、凹凸のない平坦なものであることが好ましく、好適には、U字溝で形成されていることが望ましい。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の一実施例である水力発電装置1の側面図であって、水力発電装置1が水路50内に設置された状態を示したものである。ここで、図1に示した矢印Xは、水路50内の水流方向を示しており、この水流方向は、水力発電装置1の前後方向(全長方向ともいう。)と一致している。
【0024】
図1に示すように、水力発電装置1は、主に、水路50内の水流により回転される大型かつ縦型の下射式(下掛式)の水車2と、その水車2を回転可能に支持するために複数本の鉄製材料(以下「枠材」ともいう。)で一体形成されたフレーム部材3と、その水車2の回転を増速する増速装置4と、その増速装置4を介して伝達される回転力により駆動されて発電を行う発電機5と、その発電機5により発電された電力を蓄電する蓄電池6とを備えている。
【0025】
この水力発電装置1は、後述するフレーム部材3のフレーム基礎部3Aの全幅及び開閉扉25の横幅に基づけば、概ね、水路高が約0.5m程度であって水路内幅が約0.5〜1m程度のサイズの水路50を設置場所とするものであり、例えば、当該水路50内に設置されて毎分40〜50mの流速で流れる水深20〜30cm程度の水流を用いて発電を行えるものである。
【0026】
また、水力発電装置1は、上記したフレーム部材3に、水車2、増速装置4、発電機5及び蓄電池6を搭載して搬送移動可能なユニットとしたものである。ここで、水力発電装置1は、水路50内に設置されて使用されるが、当該水力発電装置1の全体のうち、その外周の下端側に位置する部分(以下「外周下端部」という。)のみが水流内に沈水した状態となる。
【0027】
水車2は、その回転に伴って大きな慣性力を発生可能な大型サイズのものであり、例えば、外径が2000mm程度ある。このため、水力発電装置1が設置場所となる水路50に設置された場合、その水車2の大部分(その外径の約3/4以上の部分)は水路50外にはみ出た格好となる。
【0028】
また、この水車2は、側面視円形状の縦型(横軸型)水車であり、その横幅方向両側面が側面視円形状の側板2Aによりそれぞれ覆われている(図4〜図6参照。)。そして、この水車2の中心には、回転軸7(以下「水車軸7」という。)が水平方向に軸通されて固定されている。
【0029】
水車軸7は、フレーム部材3に固定される軸受8(以下「水車軸受8」という。)を介して回転自在に支持されている。このため、水車2は、フレーム部材3が水路50内に設置された場合、そのフレーム部材3の内部を通過する水路50内の水流を受けて、水車軸7を中心として、図1の反時計回りに縦回転される。
【0030】
フレーム部材3は、水車2、増速装置4、発電機5及び蓄電池6が搭載される構造体であって、水力発電装置1全体を吊上げるためのクレーン用フックが係合可能なアイフック9を有するフレーム吊上げ部3Cを備えている。なお、フレーム部材3の全長は約3m程度とされている。
【0031】
このフレーム部材3は、上記したフレーム吊上げ部3Cの他に、水路50内に設置されかつ水中に沈設されるフレーム基礎部3Aと、そのフレーム基礎部3Aに支えられて水路50外の上方で水車2、増速装置4、発電機5を支持するフレーム上枠部3Bとを備えている。
【0032】
フレーム基礎部3Aは、水車2を収容可能であって水流が内部を通過可能な空間を有した枠構造となっており、この枠構造内の空間の一部として後述する流水経路22が設けられている。また、フレーム基礎部3Aは、その全幅が上記した設置場所となる水路50の水路内幅より小さく形成されている(図4及び図5参照。)。例えば、フレーム基礎部3Aの全幅は約450mm程度とされており、それ以上の水路内幅を有する水路50内に設置することができる。
【0033】
フレーム上枠部3Bには、その上面に水車軸受8が設置固定されており、この水車軸受8を介して、当該フレーム部材3の前側(図1左側)に水車2が回転可能に支持されている。また、フレーム上枠部3Bには、フレーム基礎部3Aの枠構造内の空間に連通する平面視長方形状の開口部(図6参照。)が貫通形成されており、水車2は、このフレーム上枠部3Bの開口部を通じてフレーム基礎部3Aの枠構造内の空間に収まっている。
【0034】
さらに、フレーム上枠部3Bの後部には、増速装置4を支持する第1支持台3B1と、それより後方かつ低所にある第2支持台3B2が設けられている。
【0035】
増速装置4は、チェーン伝達及びVベルト伝達を併用して水車2の回転を増速する多段式の増速機構を用いており、原動スプロケット10、従動スプロケット11、その原動スプロケット10及び従動スプロケット11間に掛架されるチェーンベルト12、前段プーリ13、中段プーリ14、後段プーリ15、発電機用プーリ16、前段プーリ13及び中段プーリ14間に掛架される第1Vベルト17、及び、後段プーリ15と発電機用プーリ16との間に掛架される第2Vベルト18を備えている。
【0036】
原動スプロケット10は、水車2の一方の側板2A(図1手前側)と一体形成されており、水車軸7を中心に水車2と一体となって回転される。また、原動スプロケット10は、その外周部に無端環状のチェーンベルト12が掛けられており、このチェーンベルト12は、原動スプロケット10の外周部に設けられる複数の歯部(図示せず。)と係合されている。
【0037】
従動スプロケット11は、原動スプロケット10よりも小径サイズに形成されている。この従動スプロケット11の外周部には上記チェーンベルト12が掛けられており、このチェーンベルト12は当該外周部にある複数の歯部(図示せず。)に係合されている。また、従動スプロケット11の中心には回転軸S1が軸通固定されており、この従動スプロケット11の回転軸S1はフレーム上枠部3Bの第1支持台3B1に設置固定される軸受19を介して回転自在に支持されている。
【0038】
前段プーリ13は、従動スプロケット11よりも大径サイズでかつ原動スプロケット10よりも小径サイズに形成されている。この前段プーリ13の外周部には第1Vベルト17が掛けられており、この第1Vベルト17は前段プーリ13の外周部に凹設されるV溝に係合されている。また、前段プーリ13は、その中心に従動スプロケット11の回転軸S1が軸通固定されており、かかる回転軸S1を中心にして従動スプロケット11と一体となって回転される。
【0039】
中段プーリ14は、従動スプロケット11よりも小径サイズに形成されている。この中段プーリ14の外周部には第1Vベルト17が掛けられており、この第1Vベルト17は中段プーリ14の外周部に凹設されるV溝に係合されている。また、中段プーリ14の中心には回転軸S2が軸通固定されており、この中段プーリ14の回転軸S2はフレーム上枠部3Bの第2支持台3B2に設置固定される軸受20を介して回転自在に支持されている。
【0040】
後段プーリ15は、中段プーリ14よりも大径サイズでかつ従動スプロケット11と同径サイズに形成されている。この後段プーリ15の外周部には第2Vベルト18が掛けられており、この第2Vベルト18は後段プーリ15の外周部にあるV溝に係合されている。また、後段プーリ15は、その中心に中段プーリ14の回転軸S2が軸通固定されており、かかる回転軸S2を中心として中段プーリ14と一体となって回転される。
【0041】
発電機用プーリ16は、中段プーリ14よりも大径サイズでかつ後段プーリ15よりも小径サイズに形成されている。この発電機用プーリ16の外周部には第2Vベルト18が掛けられており、この第2Vベルト18は発電機用プーリ16の外周部にあるV溝に係合されている。また、発電機用プーリ16は、発電機5の回転軸S3に直接に連結固定されている。
【0042】
上記のように構成された増速装置4によれば、水路50内の水流により水車2が回転されると、水車2と一体となって原動スプロケット10が回転され、この回転によりチェーンベルト12を介して従動スプロケット11が回転され、この従動スプロケット11と一緒に前段プーリ13が回転され、この回転により第1Vベルト17を介して中段プーリ14が回転され、この中段プーリ14と一緒に後段プーリ15が回転され、この回転により第2Vベルト18を介して発電機用プーリ16が回転されて、発電機5の回転軸S3が回転される。
【0043】
発電機5は、その回転軸S3が発電機用プーリ16を介して回転されることで発電するように構成されており、発電された電力がケーブル21を通じて蓄電池6に充電されるようになっている。また、蓄電池6は、例えば、24Vの鉛蓄電池であり、発電機5と直列接続されている。
【0044】
蓄電池6は、フレーム基礎部3Aに別途設けられる載置板28の上に載置されており、この載置板28は、発電機5が載置される載置板27の真下に配設されている。また、この載置板28は、発電機5の載置板27の直下ではあるが、水路50の上端より上方に設けられており、水路50から溢れ出た水で蓄電池6に濡れることが防止されている。
【0045】
図2は、水力発電装置1の縦断面図であり、図3は、流水経路22の部分的な斜視図であり、図4のII−II線における断面図である。図2に示すように、水車2の内部には、合計24枚の羽根板2Bが水車軸7を中心として水車2の外周縁へ向けて放射状に設けられている。また、これらの羽根板2Bは、水車2の周方向に等間隔で設けられている。
【0046】
各羽根板2Bの基端部2B1(水車2の中心部側の部位(以下「羽根元部2B1」という。))は直角状に曲折されており、各羽根板2Bの先端部2B2(水車2の外周縁側の部位(以下「羽根先部2B2」という。))は断面視く字状に曲折されている。また、各羽根板2Bの羽根元部2B1及び羽根先部2B2を除く部位2B3(以下「羽根本体部2B3」という。)は、水車2の(水車軸7の)中心から外周縁へ向けて直線的に延びる平板状に形成されている。
【0047】
ここで、各羽根板2Bの羽根先部2B2は、例えば、外径が約2mある水車2のサイズにおいて約50mm程の長さ分だけ、その羽根本体部2B3に対して鈍角状に曲折され、水車2の回転方向(図2中の反時計回り方向)へ向けて斜設されている。本実施例の各羽根板2Bについては、その羽根先部2B2が羽根本体部2B3に対して約165°の角度(鈍角)を成すように曲折されている。
【0048】
特に、水車2の回転によりその外周下端部における図2中のA部に到来した羽根板2Bについて着目すれば、当該羽根板2Bの羽根本体部2B3が垂直姿勢となって水車2の垂直中心線Lに一致する一方、その羽根先部2B2は羽根本体部2B3に対して水車2の回転方向である水流方向下流側(図2右下側)へ向けて直線的に斜設される平板状となっている。
【0049】
このような斜設された羽根先部2B2を有する羽根板2Bによれば、水車2が回転して羽根先部2B2が水流内に入水する際に、その羽根先部2B2が先端から水中へ滑り込むように入水されるので、羽根板2Bの水中への入水時の抵抗が軽減され、その分、水流との衝突音も軽減される。
【0050】
しかも、入水後の羽根板2Bに衝突する水流は、羽根先部2B2の凸面状に湾曲した面(図2中のA部内の左側にある羽根先部2B2の湾曲面)に当たって、羽根板2Bを水車2の外周下端部を水路50下流側へ向けて押動するとともに、この羽根先部2B2の傾斜に沿って羽根先部2B2の最先端へ向けて潜り込むように誘導され、この誘導を介して羽根先部2B2を擦り抜けて水路50の下流側へスムーズに流される。この結果、当該羽根板2Bと水流との衝突により生じる水路50内の水流の乱れが軽減され、羽根板2Bと水流との衝突に伴う騒音が更に低減される。
【0051】
また、水車2は、その周方向に隣り合う羽根板2B同士の間に間隙がそれぞれ設けられている。これらの間隙の全ては、羽根板2Bの羽根元部2B1側が開放されており、水車2の中心部と連通されている。このため、羽根板2Bにより掬われた水が間隙内に残存したとき、その水を水車2の中心部を通じて水路50内へ落下させて排水できる。
【0052】
また、羽根元部2B1は、羽根本体部2B3に対して水車2の反回転方向側へ向けて直角に曲折されており、羽根先部2B2とは逆向きに曲折されている。つまり、全ての羽根板2Bは、水車2の回転により水車2の外周下端部を通過後上昇する過程で、その基端部2B1の曲折部分が下方へ向くようになっている(図2中のB部参照。)。このように曲折することで、羽根板2Bの上に残存する不要な水を水路50内へスムーズに落下させて排水できる。
【0053】
フレーム部材3は、上記したようにフレーム基礎部3Aが枠構造となっており、その枠構造の一部として、水車2の駆動力となる水流を通過させる流水経路22が組み込まれたものとなっている(図3参照。)。このフレーム部材3に配設される水車2は、その外周下端部が流水経路22内に嵌り込む格好となっている。
【0054】
図3に示すように、フレーム部材3のフレーム基礎部3Aの前端面は、その全面が水流の流入口23となっている。この流入口23は、フレーム基礎部3A内に設けられる流水経路22へ水路50内の水流を導入して取り込むための開口であり、流水経路22の入口として機能するものである。
【0055】
流水経路22は、水路50内の水流をフレーム部材3の前端から後端側へ向けて通過させる通路であり、かかる流水経路22内を通過する水流が水車2の外周下端部に位置する羽根板2Bに衝突することで水車2が回転されるようになっている。
【0056】
ここで、流水経路22は、フレーム基礎部3Aの底部を塞ぐ底板22Aと、フレーム基礎部3Aの横幅方向両側を塞ぐ一対の側壁板22B,22Bとを備えており、これらの底板22A及び一対の側壁板22B,22Bにより底部及び横幅方向両側が囲われかつ前後及び上方が開放された溝形構造となっている。
【0057】
つまり、水路50内を流れる水流は、流入口23から溝形構造を有する流水経路22内へ流入し、この溝形構造の流水経路22内を通過する際に、図2に示すように、そこに嵌り込んでいる水車2の外周下端部に位置する各羽根板2Bを押動して、当該水車2を回転させる。
【0058】
図2に戻って説明すると、流水経路22の底板22Aには隆起部22Cが形成されている。なお、この隆起部22Cは、フレーム基礎部3Aの下面からその頂上までの高さが100mm程度とされている。
【0059】
隆起部22Cは、その始端が流入口23の下縁辺にあり、かつ、その終端が水車軸7の中心の直下にあり、当該始端から終端までの区間にある流水経路22の底板22Aが流線型状に隆起することで形成されている。この流水経路22の隆起部22Cには、流入口23側から水流下流側へと順に、急斜区間22C1、緩斜区間22C2及び下降区間22C3が設けられている。
【0060】
急斜区間22C1は、その断面形状が弓形凸面状に湾曲形成され、隆起部22Cの最前部(始端)である流入口23から急激に立ち上がる最も傾斜(勾配)が大きな区間である。この急斜区間22C1は、水路50の底面から急激に立ち上がっているので、水流に押し流されて水路50底部を転がってきた石等を堰き止めて、それらがフレーム部材3内の流水経路22へ侵入することを阻止できる。
【0061】
ただし、底板22Aの隆起部22Cの急斜区間22C1は、流入口23から弓形凸面状に湾曲しているため、石等より比較的軽くて水流に乗りやすいヘドロ等の堆積物であれば水流に乗って当該隆起部22Cを乗り越えて流水経路22へ流入させることができる。このため、水力発電装置1の設置したことで、その上流側にヘドロ等の堆積物が沈殿して水路50内の水が淀むことを防止できる。
【0062】
緩斜区間22C2は、その断面形状が弓形凸面状に湾曲形成され、急斜区間22C1の後方に連続して設けられている。この緩斜区間22C2は、急斜区間22C1に比べて傾斜が緩やかに形成されており、急斜区間22C1の終端から水流方向下流側へ緩やかな曲面を描くように上昇して当該隆起部22Cの頂上に到達し、その頂上から水流方向下流側へ弓形凸面状の緩やかな曲面を描くように下降している。
【0063】
下降区間22C3は、その断面形状が弓形凹面状に湾曲形成され、上記緩斜区間22C2の後方に連続して下降傾斜され、かつ、急斜区間22C1に比べて緩やかに傾斜した区間である。
【0064】
この下降区間22C3においては、隆起部22Cと水車2の外周縁との間に間隔が一定した狭い空隙W1(以下「底部空隙W1」という。)が設けられており、この底部空隙W1が水車軸7の中心の直下まで連続して形成されている。なお、底部空隙W1の間隔は10mm程度とされている。
【0065】
つまり、底部空隙W1は、流水経路22の流入口23側から排水口24側まで連通した隙間として水車2と底板22Aとの間に設けられており、水車2を押動する水流が流水経路22における水車2の前方にある空間から水車2の後方にある空間へ擦り抜け可能な側面視円弧線状の流路となっている。
【0066】
このように隆起部22Cの底部(底板22A)は、上記した隆起部22Cが流入口23から水車軸7の中心の直下まで連続して形成され、この隆起部22Cの後方に水流方向下流側へ向けて水平に延設される平坦部22Dが更に連続して形成されている。また、この平坦部22Dは水車軸7の中心の直下から所定長さ分だけ水路50下流側へ延設されており、この平坦部22Dの終端は水車2全体の真下にある範囲を超えることなく途切れている。
【0067】
流水経路22の各側壁板22Bは、底板22Aの平坦部22Dの終端よりも更に後方へ延設されている。各側壁板22Bの高さは、流水経路22の流入口23側の方が流水経路22の排出口24側よりも高くなっている(図3参照。)。特に、各側壁板22Bのうち隆起部22Cが存在する範囲の高さは、水路高さより大きくされている。流入口23から流入して隆起部22Cを乗り越えようとする水流が流水経路22から水路50外へ溢れ出ることを抑制するためである。
【0068】
また、流水経路22を構成する底板22A及び一対の側壁板22Bを除けば、フレーム基礎部3Aの枠構造は単に骨組となる枠材が存在するだけで、フレーム基礎部3Aの底面、横幅方向両側面、後端面を塞ぐ部材は何も存在しない。このため、フレーム基礎部3Aの枠構造は、流水経路22を通過した水流を水路50下流側へ自由に排出でき、当該フレーム部材3内で水が滞留して水車2の回転を阻害することを防止できる。
【0069】
また、上記した底部空隙W1は、その縦幅(水車2の外周縁と底板22Aとの間の幅)が僅かしかなく、例えば10mm程度とされている。このため、水流に乗った浮遊物が隆起部22Cを乗り越えて底部空隙W1内へ侵入すると、水車2の羽根先部2B2と底板22Aとの間に挟まって、水車2の回転を妨げることが想定される。
【0070】
例えば、水力発電装置1が設置される水路50が農地周辺を流れる農業用水路や降雪地を流れる排雪用水路である場合には、水流に乗って野菜の切れ端や雪の塊が浮遊物として流れてくることが実際にあり、これらが底部空隙W1に挟まり込むと、水車2の回転が停止して水路50の水流が堰き止められ、水車2の停止後まもなく水路50から水が溢れ出て、隣接する道路面51が冠水することが想定される。
【0071】
特に、本実施例の水力発電装置1が設置される水路50は、その内幅が比較的狭い小規模なものであり、当該水力発電装置1の上流側にある水を全て流入口23から流水経路22へ送り込む態様で使用され、なおかつ、上記したように底部空隙W1が狭いこともあって、実際に、水車2の回転が停止してしまうと、水車2により堰き止められた水流が瞬く間に水路50から溢れ出てしまう恐れがある。
【0072】
しかも、このような浮遊物が流れてくる環境下にあって、むやみやたらに浮遊物が底部空隙W1に挟まり込んで水路50から水が大量に溢れ出るようでは、水力発電装置1の水車2を昼夜問わず無人で回転させ続ける訳にもいかない。
【0073】
しかしながら、本実施例の水力発電装置1の水車2は、その羽根先部2B2が上記した形態に曲折形成されるので(図2中のA部参照。)、かかる羽根先部2B2が水車2の回転により隆起部22C上方から底部空隙W1内へ移動してくる際に、その羽根先部2B2が底部空隙W1内へ侵入した大きな浮遊物を切断して、流水経路22の下流側へ押し流すことができる。
【0074】
しかも、水車2は、その大部分が水路50からはみ出る大型サイズものであり、かつ、全体が鉄板等の重量物で形成されるので、発生する慣性力も大きく、その羽根板2Bの羽根先部2B2による浮遊物の切断に必要な力を十分に発生することもできる。
【0075】
図4は、水力発電装置1の正面図であり、図5は、水力発電装置1の背面図である。図4及び図5では、水車2の各羽根板2Bの図示を省略しており、一対の開閉扉25,25が最も開かれた状態を2点鎖線で図示している。なお、本実施例では、各開閉扉25の幅が400mm程度とされており、一対の開閉扉25,25が最も開かれた状態で各開閉扉25の自由端間の幅は1250mm程度とされている。
【0076】
図4に示すように、フレーム基礎部3Aの前端面は全て流入口23として開口されている。また、図4及び図5に示すように、フレーム基礎部3Aの各柱板3A1は、水路50内を流れる水流から受ける抵抗を軽減するために横幅の小さな薄板状とされており、この柱板3A1の横幅は流水経路22の側壁板22Bと同じ厚みの鉄板が使用されている。また、このようにフレーム基礎部3Aの柱板3A1を板状とすることで、当該フレーム基礎部3Aの横幅に占める流入口23の横幅の割合が大きくされている。
【0077】
また、フレーム基礎部3Aの前端部の横幅方向両側にはそれぞれ蝶番26を介して開閉扉25が開閉自在に取着されている。これらの一対の開閉扉25,25は、フレーム基礎部3Aとの間に介在する蝶番26を介して垂直軸まわりに回動されて内向きに閉じられかつ外向きに開かれるようになっている。
【0078】
この一対の開閉扉25,25によれば、フレーム基礎部3Aの全幅に対して水路内幅が大きな場合に外向きに広げられ、その自由端を水路50内壁面に当接させることで、フレーム基礎部3Aと水路50の側壁との間にできる間隙を塞ぎ、それにより水路50内の水流をフレーム基礎部3Aの両横を素通りさせずに流入口23へ誘導することができる。
【0079】
フレーム上枠部3Bの全幅は、フレーム基礎部3Aの全幅より大きく形成されているが、フレーム上枠部3Bは、フレーム基礎部3Aが水路50内に設置された状態にあっても、その水路50よりも上方にはみ出た格好となるため、水路50の内壁面に接触干渉することがない。また、フレーム上枠部3Bの横幅方向両側には水車軸7を軸支する水車軸受8がそれぞれ固定されており、かかる両水車軸受8,8間に水車軸7が軸架されている。
【0080】
また、フレーム吊上げ部3Cは、フレーム部材3の横幅方向両側からそれぞれ垂直に立設される柱部3C1と、その柱部3C1間に架設固定される梁部3C2とを備えており、これらの2本の柱部3C1及び梁部3C2により正面視門形状に形成されている。また、このフレーム吊上げ部3Cは、各柱部3C1の下端がフレーム上枠部3Bにそれぞれ固着されており、その梁部3C2の横幅方向中央部にアイフック9が取着されている。
【0081】
図5に示すように、フレーム上枠部3Bの横幅方向両側には第1支持台3B1及び第2支持台3B2が各々一基ずつ立設されており、各第1支持台3B1には、従動スプロケット11及び前段プーリ13に共通の回転軸S1を軸支する軸受19がそれぞれ固定されており、かかる両軸受19,19間に当該回転軸S1が軸架されている。また、各第2支持台3B2には、中段プーリ14及び後段プーリ15に共通の回転軸S2を軸支する軸受20がそれぞれ固定されており、かかる両軸受20,20間に当該回転軸S2が軸架されている。
【0082】
図6は、水力発電装置1の平面図であり、図中では水車2における複数の羽根板2Bの図示を省略しており、更に、一対の開閉扉25,25が最も開かれた状態を2点鎖線で図示している。図6に示すように、フレーム上枠部3Bの後部には上記した載置板27が配設されており、この載置板27上には発電機5が載置固定されている。
【0083】
なお、蓄電池6の設置場所は、必ずしも発電機5とは別にフレーム基礎部3Aに設けられる載置板28の上でなくとも良く、発電機5と一緒に載置板27の上に配設するようにしても良い。
【0084】
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【符号の説明】
【0085】
1 水力発電装置(可搬型水力発電装置)
2 水車
2B 羽根板
2B1 羽根本体部(羽根板の本体部)
2B2 羽根先部(羽根板の先端部、羽根先部)
3 フレーム部材
22 流水経路
23 流入口
22C 隆起部
22C1 急斜区間
50 水路
W1 底部空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水路内に設置可能に形成される可搬性を有したフレーム部材と、そのフレーム部材内に設けられ水路内の水流を通過させる流水経路と、その流水経路へ水流を流入させるため前記フレーム部材の前端に開口形成される流入口と、その流入口の下流側に配置されて前記フレーム部材に回転自在に支持され、かつ、複数の羽根板を有してその羽根板に前記流水経路内を通過する水流を受けることにより回転駆動される縦型下射式の水車とを備えてユニット化されている可搬型水力発電装置において、
前記流水経路の底部における前記流入口から前記水車直下までの区間が流線型状に隆起して形成される隆起部と、
その隆起部と前記水車の前記羽根板の先端との間に設けられ前記流水経路内の水流を上流側から下流側へ流通させる底部空隙と、
その底部空隙を隔てて前記隆起部と対向する前記水車の羽根板の先端部であってその羽根板の本体部に対して鈍角状に曲折されて当該水車の回転方向へ向けて斜設される羽根先部とを備えていることを特徴とする可搬型水力発電装置。
【請求項2】
前記隆起部は、その最前部に前記流入口の下縁辺から弓形凸面状に湾曲して急激に立ち上がる傾斜が大きな急斜区間を備えていることを特徴とする請求項1記載の可搬型水力発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−157872(P2011−157872A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20204(P2010−20204)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(500384293)有限会社クラタ鉄工所 (1)
【Fターム(参考)】