説明

可撓性ワイヤ

【課題】曲がった状態でも高速回転のトルクを伝達できるコンパクトな構造の可撓性ワイヤを提供する。
【解決手段】可撓性ワイヤAは、可撓性のアウタチューブ1の内部に、両端がそれぞれ入力端2aおよび出力端2bとなる可撓性のインナワイヤ2を複数の転がり軸受3によって回転自在に支持する。隣合う転がり軸受3間に、これら転がり軸受3に対して予圧を与えるばね要素4I,4Oを設ける。インナワイヤ2の出力端2bに連結して、このインナワイヤ2の回転を減速して出力する減速機構22を設ける。ばね要素は、内輪用ばね要素4Iと外輪用ばね要素4Oをインナワイヤ2の長さ方向にわたり交互に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、医療用機器等において、遠隔操作される作動機器に対してトルクを伝達するのに適した可撓性ワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
離れた位置にある作動機器の遠隔操作には、駆動源の動力、主にトルクを作動機器に伝達する可撓性の動力伝達手段(例えば特許文献1、2)が用いられる。
特許文献1に記載の動力伝達手段は、検査用ブローブ装置に設けられたものであり、回転駆動源であるモータからスリップリングを介して送られてくるトルクを、検査用の探触子に伝達するフレキシブルシャフトと、このフレキシブルシャフトの外周に軸方向に一定間隔で配置された複数の軸受と、上記フレキシブルシャフトおよび複数の軸受を包含する保護チューブとしてのコイルばねとを有する。
特許文献2に記載の動力伝達手段は、内視鏡用処置具に設けられたものであり、先端に処置用の部材が取付けられたワイヤと、このワイヤが内部に挿通された可撓性を有する管状部材と、この管状部材に対して前記ワイヤを回転自在に支持する軸受とを有する。
特許文献3には、フレキシブルシャフト(詳細不明)の出力側に連結される歯車装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−19860号公報
【特許文献2】特開2004−72215号公報
【特許文献3】特開2004−232767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2の動力伝達手段は、フレキシブルシャフトまたは可撓性のワイヤを支持する軸受に与圧が与えられていない。そのため、フレキシブルシャフトまたは可撓性のワイヤの固有振動数が低くなり、高速回転させることができないと考えられる。
また、ワイヤの場合、十分な可撓性を持たせるにはワイヤを細くする必要がある。しかし、細いワイヤは、捩り強度が低いため、大きなトルクを伝達することができない。しかも、捩りの影響で、入力側と出力側とで回転位相差が生じやすく、回転角を制御しにくい。
【0005】
この発明は、曲がった状態でも高速回転のトルクを伝達できるコンパクトな構造の可撓性ワイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明にかかる可撓性ワイヤは、可撓性のアウタチューブの内部に、両端がそれぞれ回転の入力端および出力端となる可撓性のインナワイヤを複数の転がり軸受によって回転自在に支持し、隣合う転がり軸受間に、これら転がり軸受に対して予圧を与えるばね要素を設け、前記インナワイヤの出力端と連結されてインナワイヤの回転を減速して出力する減速機構を設けたことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、インナワイヤの回転を減速して出力する減速機構を設けたため、インナワイヤで伝達するトルクが小さくても、大きなトルクを発生できる。インナワイヤで伝達するトルクが小さければ、細いインナワイヤを使用することができる。そのため、コンパクトな構造で、可撓性の高い可撓性ワイヤを実現できる。また、隣合う転がり軸受間に、これら転がり軸受に対して予圧を与えるばね要素を設けたことにより、インナワイヤの固有振動数が低くなることを抑えられ、インナワイヤを高速回転させることが可能である。
【0008】
この発明において、前記ばね要素は、前記転がり軸受の内輪に予圧を与える内輪用ばね要素と、外輪に予圧を与える外輪用ばね要素とを有し、これら内輪用ばね要素と外輪用ばね要素を前記インナワイヤの長さ方向にわたり交互に配置するのが良い。
内輪用ばね要素と外輪用ばね要素をインナワイヤの長さ方向にわたり交互に配置することで、アウタチューブの径を大きくせずに、ばね要素を設けることができる。
【0009】
この発明において、前記インナワイヤを回転させる回転駆動源を、インナワイヤの前記入力端と連結して設けてもよい。
回転駆動源を設ければ、インナワイヤにトルクを効率良く与えることができる。
【0010】
前記減速機構の出力側に、この減速機構で減速された回転出力により最終出力部を回転させる回転機構を設けてもよい。また、前記減速機構の出力側に、この減速機構で減速された回転出力を直動運動に変換して最終出力部を直線運動させる直動機構を設けてもよい。
前述したように、この可撓性ワイヤは、減速機構を設けたことで大きなトルクを発生できる。そのため、減速機構の出力側に回転機構を設けた場合は、この回転機構の最終出力部を大きさトルクで回転させることができ、直動機構を設けた場合は、この直動機構の最終出力部を大きさ推力で作動させることができる。また、回転機構や直動機構に生じる摩擦に対しても、その摩擦に打ち勝つ力を発生できるため、インナワイヤの捩れ剛性が低くても、スティックスリップが起こりにくい。
【0011】
上記回転機構や直動機構を設ける場合、前記回転機構または直動機構の動作位置を検出する位置検出手段を設けるのが望ましい。
位置検出手段を設ければ、その位置検出手段の出力値によるフィードバック制御が可能となり、作動機器等の遠隔操作の制御対象に対する位置決め精度が向上する。インナワイヤの回転が減速機構によって減速して出力され、回転機構または直動機構に現れるインナワイヤの捩れの影響が小さくなるため、位置決め検出手段の位置決め分解能を高く保つことができ、高精度なフィードバック制御をできる。
【0012】
この発明において、前記アウタチューブの両端またはいずれか一方端に、アウタチューブを他の部材に着脱自在に結合する継手を設けるのが良い。継手を設ければ、可撓性ワイヤを他の部材に容易に結合できる。
【0013】
前記継手は、例えば、内周に前記インナワイヤが挿通される貫通孔が形成され、外周に雄ねじ部が形成され、軸方向の一端部が前記アウタチューブの内径部に嵌合する筒状の雄ねじ部材と、内周に前記雄ねじ部材の雄ねじ部に螺合する雌ねじ部が形成され、軸方向の一端部が前記アウタチューブの外径部に嵌合する筒状の雌ねじ部材とを有し、これら雄ねじ部材および雌ねじ部材のいずれか一方に、前記他の部材に結合する結合手段を設けたものとする。
この構成の継手によれば、雄ねじ部材の軸方向の一端部をアウタチューブの内径部に嵌合させ、かつ雌ねじ部材の軸方向の一端部をアウタチューブの外径部に嵌合させた状態で、雄ねじ部材の雄ねじ部と雌ねじ部材の雌ねじ部とを螺合させることにより、雄ねじ部材および雌ねじ部材のそれぞれの前記一端部がアウタチューブを内外から挟み込んで固定する。そして、雄ねじ部材および雌ねじ部材のいずれか一方に設けた結合手段を、結合対象となる他の部材に結合する。これにより、アウタチューブと他の部材とが結合される。雄ねじ部と雌ねじ部の螺合を外すことで、雄ねじ部材および雌ねじ部材の各一端部からアウタチューブが解放され、アウタチューブと他の部材との結合が解除される。これらアウタチューブと他の部材との結合操作およびその解除操作は容易である。また、アウタチューブと継手を結合した状態で、雄ねじ部材の結合手段により可撓性ワイヤと他の部材との結合操作および解除操作を行う。これら可撓性ワイヤと他の部材との結合操作およびその解除操作は容易となる。
【0014】
この発明において、前記インナワイヤの両端またはいずれか一方端に、これらインナワイヤの端部に対向して回転自在に支持された回転軸と連結するカップリングを設けるのが良い。カップリングを設ければ、インナワイヤを回転軸に容易に連結することができる。
【0015】
前記カップリングは、例えば、前記インナワイヤと一体回転するワイヤ側部材と、前記回転軸と一体回転する軸側部材とを有し、これらワイヤ側部材および軸側部材の互いに対向する端面にそれぞれ設けた径方向溝とこの径方向溝に係合可能な突起とが互いに係合することで、前記インナワイヤと前記回転軸とを回転伝達可能に連結するものとする。
このカップリングの構成によれば、インナワイヤと回転軸とを連結する際には、対向して設けたワイヤ側部材および軸側部材を互いに接近するように軸方向に相対移動させて、径方向溝と突起とを係合させる。インナワイヤと回転軸との連結を外す際には、ワイヤ側部材および軸側部材を互いに離れるように軸方向に相対移動させて、径方向溝と突起との係合を解除する。これらインナワイヤと回転軸との連結操作およびその解除操作は容易である。
【0016】
この発明において、前記アウタチューブ内に前記転がり軸受の潤滑剤を封入するか、または流通させてもよい。
アウタチューブ内に転がり軸受の潤滑剤を封入するか、または流通させることで、転がり軸受の転がり性能を良好な状態に維持できる。
【発明の効果】
【0017】
この発明の可撓性ワイヤは、可撓性のアウタチューブの内部に、両端がそれぞれ回転の入力端および出力端となる可撓性のインナワイヤを複数の転がり軸受によって回転自在に支持し、隣合う転がり軸受間に、これら転がり軸受に対して予圧を与えるばね要素を設け、前記インナワイヤの出力端と連結されてインナワイヤの回転を減速して出力する減速機構を設けたため、コンパクトな構造でありながら、曲がった状態でも高速回転のトルクを伝達できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(A)はこの発明の一実施形態にかかる可撓性ワイヤの断面図、(B)はIB部の拡大図、(C)はIC部の拡大図である。
【図2】(A)は同可撓性ワイヤのカップリングの分離状態の断面図、(B)はIIB矢視図、(C)はIIC矢視図である。
【図3】同カップリングの連結状態の断面図である。
【図4】(A)はこの発明の異なる実施形態にかかる可撓性ワイヤの断面図、(B)はIVB部の拡大図、(C)はIVC部の拡大図である。
【図5】この発明の可撓性ワイヤの使用例を示す断面図である。
【図6】この発明の可撓性ワイヤの異なる使用例を示す断面図である。
【図7】(A)はこの発明のさらに異なる実施形態にかかる可撓性ワイヤの断面図、(B)はVIIB部の拡大図、(C)はVIIC部の拡大図である。
【図8】この発明のさらに異なる実施形態にかかる可撓性ワイヤの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の一実施形態を図1に示す。この可撓性ワイヤAは、可撓性のアウタチューブ1と、このアウタチューブ1の内部の中心位置に設けられた可撓性のインナワイヤ2と、このインナワイヤ2を前記アウタチューブ1に対して回転自在に支持する複数の転がり軸受3とを備える。インナワイヤ2の両端は、それぞれ回転の入力端2aおよび出力端2bとなる。インナワイヤ2の出力端2b側には、後述する減速機構22が設けられている。アウタチューブ1は、例えば樹脂製である。インナワイヤ2の材質としては、例えば金属、樹脂、グラスファイバー等が用いられる。インナワイヤ2は単線であっても、撚り線であってもよい。
【0020】
各転がり軸受3はアウタチューブ1の中心線に沿って一定の間隔を開けて配置されており、隣合う転がり軸受3間に、これら転がり軸受3に対して予圧を与えるばね要素4I,4Oが設けられている。ばね要素4I,4Oは、例えば圧縮コイルばねであり、インナワイヤ2の外周を巻線が囲むように設けられる。ばね要素は、転がり軸受3の内輪に予圧を発生させる内輪用ばね要素4Iと、外輪に予圧を発生させる外輪用ばね要素4Oとがあり、これらが交互に配置されている。
【0021】
前記アウタチューブ1の両端には、このアウタチューブ1を他の部材に結合する継手5が設けられている。継手5は、雄ねじ部材6と雌ねじ部材13とで構成される。
雄ねじ部材6は、内周に貫通孔7が形成された筒状の部材であって、軸方向中央部の外周に雄ねじ部8が形成されている。雄ねじ部材6の軸方向の一方端には、内径および外径が同一径で軸方向に延びる円筒部9が設けられている。この円筒部9の外径は、アウタチューブ1の内径部に嵌合する寸法とされている。また、軸方向の他方端には、外径側に拡がるフランジ部10が設けられている。このフランジ部10は他の部材に結合する結合手段であって、円周方向複数箇所に、ボルト等の固定具を挿入するための通孔11が形成されている。前記貫通孔7は、円筒部9側からフランジ部9側に向かって、小径部7a、中径部7b、大径部7cの順に段階的に内径が大きくなっている。中径部7bには、インナワイヤ2を回転自在に支持する転がり軸受12が嵌め込まれる。
【0022】
雌ねじ部材13は、円筒状部14と、この円筒状部14の一端から内径側へ延びるつば状部15とを有する筒状の部材であって、円筒状部14の内周先端側に、前記雄ねじ部材6の雄ねじ部8に螺合する雌ねじ部16が形成されている。つば状部15の内径は、アウタチューブ1が外周に嵌合する寸法とされている。
【0023】
アウタチューブ1を他の部材に結合する際には、まず、雄ねじ部材6の円筒部9をアウタチューブ1の内径部に嵌合させ、かつ雌ねじ部材13のつば状部15をアウタチューブ1の同一端の外径部に嵌合させた状態で、雄ねじ部材6の雄ねじ部8と雌ねじ部材13の雌ねじ部16とを螺合させる。これにより、雄ねじ部材6の円筒部9と雌ねじ部材13のつば状部15とで、アウタチューブ1の一端を内外から挟み込んで固定する。インナワイヤ2は、雄ねじ部材6の貫通孔7に挿通し、貫通孔7の中径部7bに嵌め込んだ転がり軸受12によって支持させる。次いで、雄ねじ部材6のフランジ部10を、結合対象である他の部材(図示せず)に結合する。この結合は、通孔11に挿通したボルト等の固定具(図示せず)によって行う。以上で、アウタチューブ1と他の部材との結合が完了し、図1の状態となる。
この状態から、雄ねじ部8と雌ねじ部16の螺合を外すことで、雄ねじ部材6の円筒部9および雌ねじ部材13のつば状部15による拘束からアウタチューブ1が解放され、アウタチューブ1と結合対象部材との結合が解除される。これらアウタチューブ1と他の部材との結合操作およびその解除操作は容易である。
また、アウタチューブ1と継手5を結合した状態で、雄ねじ部材6の結合手段(フランジ部10)により可撓性ワイヤAと他の部材との結合操作および解除操作を行っても良い。これら可撓性ワイヤAと他の部材との結合操作およびその解除操作はさらに容易となる。
【0024】
前記インナワイヤ2の入力端2aおよび出力端2bには、入力軸、出力軸等の回転軸18と連結するカップリング19が設けられている。図例のカップリング19は、軸方向に貫通する貫通孔19aを有し、この貫通孔19aと外周との間に軸方向に離れて2つのねじ孔19bを設けてある。前記貫通孔19aにインナワイヤ2および回転軸18を両側から挿入し、ねじ孔19bに螺着したボルト等のねじ部材(図示せず)の先端をインナワイヤ2および回転軸18に押し付けることで、これらインナワイヤ2および回転軸18をカップリング19に固定して、インナワイヤ2と回転軸18とを連結する。
【0025】
カップリング19は、インナワイヤ2と回転軸18とを回転伝達可能に連結できればよく、上記以外の構成であってもよい。例えば、図2および図3に示す構成とすることができる。このカップリング19は、インナワイヤ2と一体回転するワイヤ側部材20と、回転軸18と一体回転する軸側部材21とを有する。ワイヤ側部材20とインナワイヤ2、および軸側部材21と回転軸18は、それぞれ圧入により固定されるか、またはボルト等の固定具(図示せず)により固定される。これらワイヤ側部材20および軸側部材21の対向する端面には、互いに係合する径方向溝20aと、この径方向溝20aに係合する突起21aとがそれぞれ設けられている。この図例では、径方向溝20aおよび突起21aが、それぞれ円周方向の2箇所に設けられている。
【0026】
インナワイヤ2と回転軸18とを連結するには、図2(A)のように対向して設けたワイヤ側部材20および軸側部材21を互いに接近するように軸方向に相対移動させて、図3のように径方向溝20aと突起21aとを互いに係合させる。それにより、ワイヤ側部材20と軸側部材21とがトルクを伝達可能に連結される。インナワイヤ2と回転軸18との連結を外すには、上記と逆に、ワイヤ側部材20および軸側部材21を互いに離れるように軸方向に相対移動させて、径方向溝20aと突起21aとの係合を解除する。これらインナワイヤ2と回転軸18との連結操作およびその解除操作は容易である。
【0027】
この可撓性ワイヤAの出力側には、インナワイヤ2の回転を減速する減速機構22が設けられている。この減速機構22は、減速機ハウジング22cの前後にそれぞれ突出する入力軸22aと出力軸22bを回転自在に支持し、減速機ハウジング22c内に、入力軸22aの回転を減速して出力軸22bに伝達する回転減速伝達系(図示せず)を設けたものである。図例では、入力軸22aと出力軸22bとが同一軸上に配置されている。減速機構22の回転減速伝達系としては、遊星歯車機構、波動歯車(ハーモニックドライブ)等が採用される。減速機構22の入力軸22aは、インナワイヤ2の出力側にカップリング19を介して連結された前記回転軸18に連結される。減速機構22の出力軸22bは、外部の作動機器(図示せず)に連結される。
【0028】
この構成の可撓性ワイヤAは、インナワイヤ2の出力側にこのインナワイヤ2の回転を減速して出力する減速機構22を設けたため、インナワイヤ2で伝達するトルクが小さくても、大きなトルクを発生できる。インナワイヤ2で伝達するトルクが小さければ、細いインナワイヤ2を使用することができる。そのため、コンパクトな構造で、可撓性の高い可撓性ワイヤAを実現できる。また、隣合う転がり軸受3間に、これら転がり軸受3に対して予圧を与えるばね要素4I,4Oを設けたことにより、インナワイヤ2の固有振動数が低くなることを抑えられ、インナワイヤ2を高速回転させることが可能である。内輪用ばね要素4Iおよび外輪用ばね要素4Oは、インナワイヤ2の長さ方向にわたり交互に配置されているため、アウタチューブ1の径を大きくせずに、ばね要素4I,4Oを設けることができる。
【0029】
図4はこの発明の異なる実施形態を示す。この可撓性ワイヤBは、出力側の継手5と減速機構22とを直接連結したものである。減速機構22は減速機ハウジング22cと一体のフランジ部23を有し、このフランジ部23に、継手5の通孔11に対応する固定具挿通用の通孔24が複数設けられている。継手5の通孔11はねじ孔になっている。継手5のフランジ部10と減速機構22のフランジ部23とを当接させ、減速機構22側から通孔24に挿通したボルト25を、ねじ孔である通孔11に螺着させることで、継手5と減速機構22とを連結する。
【0030】
また、この可撓性ワイヤBは、インナワイヤ2の出力端2bが減速機構22の入力軸22aに直接連結される。すなわち、インナワイヤ2の出力端2bには、前記カップリング19の代わりに歯車26が設けられ、この歯車26が入力軸22aに設けた歯車27と噛み合っている。この例では、歯車26は外歯歯車であり、歯車27は内歯歯車である。
【0031】
この構成の可撓性ワイヤBは、減速機構22を他の部材に固定して使用する。固定方法は限定しない。この構成によると、部品点数が少なくなるため、全体的にコンパクトにできる。それ以外は、前記実施形態と同じ構成である。なお、継手5の雄ねじ部材6と減速機構22とを別部材とせずに、減速機構22と雄ねじ部材6を一体化させてもよい。具体的には、減速機構ハウジング22cに、雄ねじ部8と円筒部9とを設ければよい。
【0032】
図5はこの発明の可撓性ワイヤの使用例を示す。この例は、図4の可撓性ワイヤBにより、最終出力部が回転部である回転機構30を遠隔操作するようにしたものである。回転機構30は、両端が軸受31で支持されたウォーム32と、このウォーム32と噛み合うウォームホイール33、このウォームホイール33を支持する最終出力部としての回転軸34と、ウォームホイール33の回転角を検出する位置検出手段であるロータリエンコーダ35とを備える。可撓性ワイヤBにおける減速機構22の出力軸22bが、カップリング36を介して、ウォーム32の一端と連結されている。回転軸34には、工具、計測具等の作業機器が直接または間接的に取付けられる。
【0033】
インナワイヤ2の入力端2aにカップリング19を介して回転駆動源37が連結され、この回転駆動源37によりインナワイヤ2が回転させられる。回転駆動源37は、図示しない制御装置により制御される。インナワイヤ2のトルクが、減速機構22で減速されて回転機構30に伝達されて、回転軸34が回転する。減速機構22を設けたことで大きなトルクを発生できるため、回転軸34を大きさトルクで回転させることができる。また、回転機構30に生じる摩擦に対しても、その摩擦に打ち勝つ力を発生できるため、インナワイヤ2の捩れ剛性が低くても、スティックスリップが起こりにくい。
【0034】
図6は可撓性ワイヤの異なる使用例を示す。この例は、図4の可撓性ワイヤBにより、最終出力部が直動部である直動機構40を遠隔操作するようにしたものである。直動機構40は、両端が軸受41で支持されたボールねじ42と、このボールねじ42に螺合するナット43とでなるボールねじ機構44を備え、前記ナット43に最終出力部としての直動部材45がボルト等(図示せず)で固定されている。ボールねじ機構44により、ボールねじ42の回転運動が直線運動に変換されて、直動部材45がボールねじ42の軸方向に直線移動する。直動部材45にはリニアスケール46が設置され、このリニアスケール46の目盛を位置検出手段であるリニアエンコーダ47により検出する。可撓性ワイヤBにおける減速機構22の出力軸22bが、カップリング36を介して、ボールねじ42の一端と連結されている。直動部材45には、工具、計測具等の作業機器が直接または間接的に取付けられる。
【0035】
インナワイヤ2の入力側にカップリング19を介して回転駆動源37が連結され、この回転駆動源37によりインナワイヤ2が回転させられる。回転駆動源37は、図示しない制御装置により制御される。インナワイヤ2のトルクが、減速機構22で減速されて直動機構40に伝達されて、直動部材45が直線運動する。減速機構22を設けたことで大きなトルクを発生できるため、直動部材45による大きさ推力が得られる。また、直動機構40に生じる摩擦に対しても、その摩擦に打ち勝つ力を発生できるため、インナワイヤ2の捩れ剛性が低くても、スティックスリップが起こりにくい。
【0036】
上記回転機構30や直動機構40の遠隔操作にあたっては、前記制御装置に手動で制御指令を入力して回転駆動源37の出力量を制御してもよいが、ロータリエンコーダ35またはリニアエンコーダ47の出力値を前記制御装置にフィードバックして、回転駆動源37の出力量を自動で制御させれば、遠隔操作の制御対象である前記機器の位置決め精度を向上させることができる。また、インナワイヤ2の回転が減速機構22によって減速されて、回転機構30または直動機構40に現れるインナワイヤ2の捩れの影響が小さくなるため、ロータリエンコーダ35またはリニアエンコーダ47の位置決め分解能を高く保つことができ、高精度なフィードバック制御をできる。そのため、回転機構30や直動機構40を精度良く遠隔操作することができる。
【0037】
図5および図6は可撓性ワイヤBを用いた例を示すが、可撓性ワイヤAを用いても、回転機構30や直動機構40を精度良く遠隔操作することができる。
【0038】
これら可撓性ワイヤA,Bは、医療、機械加工等の分野で作業機器を遠隔操作するための回転力伝達手段として用いるのに適する。これら可撓性ワイヤA,Bを用いることで、作業機器の正確な位置決めや正確な動作が可能になる。
【0039】
この発明の可撓性ワイヤは、アウタチューブ1内に転がり軸受3の潤滑剤を封入しても良い。図7は、可撓性ワイヤが図1に示す可撓性ワイヤAである場合の例を示す。同図において、インナワイヤ2の入力端2aおよび出力端2bと継手5との間にシール部材50を設けて、アウタチューブ1内をシール構造とすることで、潤滑剤が外部に漏れることを防止する。図例では、インナワイヤ2の入力端2aおよび出力端2bの外周に嵌合する筒状部材51と、継手5における雄ねじ部材6との間に、シール部材50を介在させてある。シール部材50を設ける代わりに、インナワイヤ2の入力端2aおよび出力端2bと継手5との間に滑り軸受(図示せず)を設けて、アウタチューブ1内をシール構造としても良い。潤滑剤としては、流動性の無いグリースを使用するのが良い。このように、アウタチューブ1内に潤滑剤を封入すれば、転がり軸受3の転がり性能を良好な状態に維持できる。
【0040】
また、図8に示すように、アウタチューブ1内に転がり軸受3の潤滑剤を流通させるようにしても良い。前記同様に、インナワイヤ2の入力端2aおよび出力端2bと継手5との間にシール部材(図示せず)を設けて、アウタチューブ1内をシール構造とすると共に、アウタチューブ1の両端に潤滑剤の入口52および出口53をそれぞれ設けて、潤滑剤供給装置54から供給される潤滑剤が前記入口52からアウタチューブ1内に入り、前記出口53からアウタチューブ1外へ出るようにしてある。出口53から出た潤滑剤を潤滑剤供給装置54に回収して、潤滑剤を循環させるようにしても良い。潤滑剤としては、流動性の高い潤滑油を使用するのが良い。このように、アウタチューブ1内を潤滑剤が流れる流路とすることにより、別の潤滑経路を設けることなく、転がり軸受3の潤滑を行うことができる。この場合も、転がり軸受3の転がり性能を良好な状態に維持できる。
【符号の説明】
【0041】
A,B…可撓性ワイヤ
1…アウタチューブ
2…インナワイヤ
2a…入力端
2b…出力端
3…転がり軸受
4I…内輪用ばね要素
4O…外輪用ばね要素
5…継手
6…雄ねじ部材
7…貫通孔
8…雄ねじ部
10…フランジ部(結合手段)
13…雌ねじ部材
16…雌ねじ部
18…回転軸
19…カップリング
20…ワイヤ側部材
20a…径方向溝
21…軸側部材
21a…突起
22…減速機構
22a…入力軸
22b…出力軸
30…回転機構
35…ロータリエンコーダ(位置検出手段)
37…回転駆動源
40…直動機構
47…リニアエンコーダ(位置検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性のアウタチューブの内部に、両端がそれぞれ回転の入力端および出力端となる可撓性のインナワイヤを複数の転がり軸受によって回転自在に支持し、隣合う転がり軸受間に、これら転がり軸受に対して予圧を与えるばね要素を設け、前記インナワイヤの出力端と連結されてインナワイヤの回転を減速して出力する減速機構を設けたことを特徴とする可撓性ワイヤ。
【請求項2】
請求項1において、前記ばね要素は、前記転がり軸受の内輪に予圧を与える内輪用ばね要素と、外輪に予圧を与える外輪用ばね要素とを有し、これら内輪用ばね要素と外輪用ばね要素を前記インナワイヤの長さ方向にわたり交互に配置した可撓性ワイヤ。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記インナワイヤを回転させる回転駆動源を、インナワイヤの前記入力端と連結して設けた可撓性ワイヤ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記減速機構の出力側に、この減速機構で減速された回転出力により最終出力部を回転させる回転機構を設けた可撓性ワイヤ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記減速機構の出力側に、この減速機構で減速された回転出力を直動運動に変換して最終出力部を直線運動させる直動機構を設けた可撓性ワイヤ。
【請求項6】
請求項4または請求項5において、前記回転機構または前記直動機構の動作位置を検出する位置検出手段を設けた可撓性ワイヤ。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記アウタチューブの両端またはいずれか一方端に、アウタチューブを他の部材に着脱自在に結合する継手を設けた可撓性ワイヤ。
【請求項8】
請求項7において、前記継手は、内周に前記インナワイヤが挿通される貫通孔が形成され、外周に雄ねじ部が形成され、軸方向の一端部が前記アウタチューブの内径部に嵌合する筒状の雄ねじ部材と、内周に前記雄ねじ部材の雄ねじ部に螺合する雌ねじ部が形成され、軸方向の一端部が前記アウタチューブの外径部に嵌合する筒状の雌ねじ部材とを有し、これら雄ねじ部材および雌ねじ部材のいずれか一方に、前記他の部材に結合する結合手段を設けた可撓性ワイヤ。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記インナワイヤの両端またはいずれか一方端に、これらインナワイヤの端部に対向して回転自在に支持された回転軸と連結するカップリングを設けた可撓性ワイヤ。
【請求項10】
請求項9において、前記カップリングは、前記インナワイヤと一体回転するワイヤ側部材と、前記回転軸と一体回転する軸側部材とを有し、これらワイヤ側部材および軸側部材の互いに対向する端面にそれぞれ設けた径方向溝とこの径方向溝に係合可能な突起とが互いに係合することで、前記インナワイヤと前記回転軸とを回転伝達可能に連結するものである可撓性ワイヤ。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記アウタチューブ内に前記転がり軸受の潤滑剤を封入するか、または流通させた可撓性ワイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−127646(P2011−127646A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284980(P2009−284980)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ハーモニックドライブ
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】