可撓性容器
【課題】可撓性容器の本体に直接、金属光沢を有する加飾を容易に付与することができ、しかも、その金属光沢部分にクラックが生じたり、剥離したりすることがなく、長期に渡ってその金属光沢部分が美麗に保たれる可撓性容器の提供をする。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレート（ＰＥＴ）系樹脂をボトル形状に成形しているベース体３に、アクリル系樹脂からなるアンダーコート層４、スパッタリングによってインジウム蒸着を行い形成された金属光沢層５、無色透明のアクリル系樹脂からなるトップコート層６が、この順で積層した構成とし、その表面にインジウムに由来する金属光沢Ｓを備えるようにした。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレート（ＰＥＴ）系樹脂をボトル形状に成形しているベース体３に、アクリル系樹脂からなるアンダーコート層４、スパッタリングによってインジウム蒸着を行い形成された金属光沢層５、無色透明のアクリル系樹脂からなるトップコート層６が、この順で積層した構成とし、その表面にインジウムに由来する金属光沢Ｓを備えるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、日焼け止めローション、リキッドファンデーション、乳液、クレンジング等の比較的粘度の高い液状またはゲル状の内容物を収容し、使用時に内容物を押出して使用するのに好適な可撓性容器に関するものである。
【背景技術】
【０００２】
可撓性を有する樹脂形成品は、成形の容易さ、軽量性、耐久性などの多くの利点を有していることから、化粧料の容器として広く用いられている。このような可撓性容器の中でも、比較的粘度の高い液状またはゲル状の化粧料等の内容物を収容する容器として、可撓性容器本体がスクイズ性を有する、いわゆるスクイズ容器が広く用いられている。このスクイズ容器は、蓋を取り外して、容器の胴部を手指で押すことで、内容物を容易に取り出すことができ、再び蓋を取り付ければ容易に密封することができるものである。しかし、このようなスクイズ性を有する可撓性容器は、その胴部が使用の度に変形と復元を繰り返すため、容器自体が加飾もこの変化に対応できる耐久性を有していなければならない。
【０００３】
一方、化粧料の収容に用いられる可撓性容器には、単に機能性だけでなく、見栄えがよい、商品イメージを反映したデザインであるという意匠性も要求される。そこで、商品イメージを反映させ、高級感を与えるために、容器の表面に金属蒸着を行い、その表面に金属光沢を現す加飾を行うことも考えられる。しかし、容器本体に直接金属蒸着を行うと、金属蒸着層には可撓性容器ほどの可撓性がないため、手指で容器を圧迫して使用（スクイズ）すると、容器の変形に追従することができず、クラックの発生や剥離が生じ、外観を損ねてしまう。この問題は、可撓性容器の全周のように、広い面積に金属蒸着による加飾を行う場合、とりわけ顕著である。したがって、このような可撓性容器の表面に、耐久性のある金属光沢による装飾を直接施すことはできなかった。
【０００４】
なお、容器本体に直接金属蒸着による加飾を行うのではなく、例えば、スクイズ性を有する可撓性容器の胴部に、接着層と金属蒸着層を含む加飾層と合成樹脂からなる保護フィルムとを積層させた転写フィルムを用いて装飾を施す技術は開示されている（例えば、特許文献１参照）。しかしながら、上記特許文献１のように、転写フィルムを用いたものは、まず上記の転写フィルムを作製しなければならず、作業工程が煩雑になるという問題がある。また、この転写フィルムをずれることなく巻き付け、可撓性容器の全周に金属蒸着層等を転写するのは容易ではない。さらに、保護フィルム等をスクイズ容器の上に接着させているから、繰返し使用すると、接着部分がずれたり、端から剥がれるおそれもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００５】
【特許文献１】特開２００７−３２６２２４号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００６】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、可撓性容器の本体に直接、金属光沢を有する加飾を容易に付与することができ、しかも、その金属光沢部分にクラックが生じたり、剥離したりすることがなく、長期に渡ってその金属光沢部分が美麗に保たれる可撓性容器の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【０００７】
上記目的を達成するため、本発明は、可撓性を有する樹脂成形品からなる容器本体の表面に、アンダーコート層と金属光沢層とがこの順で形成されており、上記金属光沢層がスパッタリングによって形成されたインジウム蒸着層からなる可撓性容器を第１の要旨とする。
【０００８】
また、本発明は、そのなかでも特に、上記金属光沢層の表面に、直接もしくは他の層を介して、トップコート層が形成されている可撓性容器を第２の要旨とし、上記可撓性容器が、ブロー成形容器もしくはチューブ容器である可撓性容器を第３の要旨とする。
【発明の効果】
【０００９】
本発明は、可撓性を有する樹脂成形品からなる容器本体の表面に、アンダーコート層と金属光沢層とがこの順で形成されたもので、上記金属光沢層として、スパッタリングによって形成されたインジウム蒸着層を用いることにより、上記可撓性容器の表面に直接、金属光沢を有する装飾を実現したものである。この構成によれば、従来のように、可撓性容器とは別に転写フィルムを作製したり、転写したりする必要がなくなるため、作業の効率化を図ることができ、コストの削減を図ることができる。また、スパッタリングによって形成されたインジウム蒸着層は、一般に用いられる金属蒸着層（例えば、アルミ蒸着層）よりも、層厚を薄くすることができるため、容器本体表面にアンダーコート層を介して薄い層厚のインジウム蒸着層を形成すると、可撓性容器本体の胴部を指の腹で押してその部分にだけ圧力を掛けることを何度も繰り返しても（押圧により屈曲と復元を繰返しても）、インジウムが展性に富むことと相俟って、上記インジウム蒸着層を、可撓性容器本体の屈曲に追従できるほど強固に密着させることができる。そのため、上記インジウム蒸着層はクラックが発生したり、剥離したりすることがなく、容器本体表面の美麗な外観を長期間保つことができる。また、直接、容器本体に金属光沢を有する装飾を施すことができるため、転写や貼り付けなどの装飾によるものと比べても、装飾のずれや剥がれなどが発生せず、美麗な外観が得られるという利点を有する。
【００１０】
そして、上記金属光沢層の表面に、直接もしくは他の層を介して、トップコート層が形成されている可撓性容器である場合には、上記トップコート層によって、蒸着層の傷，剥離，摩耗を防止できるため、美麗な外観をより長寿命とすることができるとともに、可撓性容器自体の耐久性をも高めることができる。
【００１１】
また、本発明のなかでも、特に、可撓性容器がブロー成形によって得られたものである場合には、より軽量で、低コストとすることができるようになり、可撓性容器が使用時の容器本体の胴部の変形度合いが高いチューブ容器である場合には、装飾のずれや剥がれなどが発生せず、美麗な外観の長寿命化を実現できるという本発明の効果がより顕著に現われるようになる。
【００１２】
なお、本発明において、可撓性容器とは、可撓性を有する樹脂からなる容器を意味するものである。容器が可撓性を有している限り、容器表面に施された金属光沢を有する加飾に、クラックの発生や剥離が生じるという問題が発生するため、本発明はこれを解決するものである。このような可撓性容器としては、例えば、日焼け止めローション，乳液等を収容するブロー成形容器、クリームファンデーション，クレンジング等を収容するチューブ容器などがあげられる。そして、このような可撓性容器の中でも、手指で容器の胴部を押して、内容物を取り出す、いわゆるスクイズ容器が特に好ましく用いられる。
【図面の簡単な説明】
【００１３】
【図１】本発明の一実施例の説明図である。
【図２】上記実施例の一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【００１４】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。
【００１５】
図１は、本発明を実施するための形態である日焼け止めローションのボトルである。この図において、１は可撓性を有する容器本体、２はその蓋体である。上記蓋体２の内側には、容器本体１の雄ねじ部ａに対応する雌ねじが形成されており（図示を省略している）、この雌ねじを可撓性容器本体１の雄ねじ部ａと組み合わせることにより、内容物を密封することができるようになっている。また、手指で容器本体１の胴部を圧迫することで内容物を取り出すことができるようになっている。そして、この容器本体１の全周表面には金属光沢Ｓが備えられている。
【００１６】
より詳しく説明すると、上記容器本体１は、図２にその断面図を示すように、ポリエチレンテレフタレート（ＰＥＴ）系樹脂をボトル形状に成形しているベース体３に、アクリル系樹脂からなるアンダーコート層４、スパッタリングによってインジウム蒸着を行い形成された金属光沢層５、無色透明のアクリル系樹脂からなるトップコート層６が、この順で積層した構成になっており、全体が可撓性を有している。そして、その表面にインジウムに由来する金属光沢Ｓを備えている。なお、図２において、上記各部位は模式的に表されており、実際の厚み、形状、大きさなどとは異なっている。
【００１７】
上記金属光沢Ｓを備えた容器本体１は、例えば、つぎのようにして得ることができる。まず、可撓性を有する成形品（ボトル状）であるベース体３を、ブロー成形によって成形する。このベース体３の胴体部分の厚みは０．８ｍｍである。そして、上記ベース体３の雄ねじ部ａを除く外周（以下、単に「外周」とする）全体に、アンダーコート剤を塗布・乾燥させて、上記ベース体３の外周全体に、アンダーコート層４（厚さ１０μｍ）を形成する。さらにその上に、スパッタリングによってインジウム蒸着を行い、金属光沢層５（厚さ０．０４μｍ）を形成し、ついで、トップコート剤を塗布・乾燥して、トップコート層６（厚さ８μｍ）を形成する。このようにして、容器表面が金属光沢Ｓによって加飾された容器本体１を得ることができる。
【００１８】
この方法によれば、従来のように、まず金属蒸着層等を含む転写フィルムを製作、転写するという２段階の工程が不要となり、効率よく容器本体１の表面に金属光沢Ｓを付与することができるという利点を有する。そして、容器本体１の表面に直接、金属蒸着によって金属光沢を付与することができるため、転写や貼り付けなどの装飾によるものと比べて、装飾のずれや剥がれなどが発生せず、美麗な外観を長期間に渡って保つことができる。また、金属光沢層を薄くすることができ、かつ、この層がアンダーコート層の上に積層されているため、容器本体１の屈曲にも追従できるほど各層と容器本体１の間を、強固に密着させることができる。よって、使用の度に容器本体の胴部を指の腹で押して、その部分にだけ圧を加えても、金属光沢層にクラックが発生したり、剥離したりすることがなく、美麗な外観を長期間保つことができる。さらに、容器本体１の最表面がトップコート層６によって保護されているため、金属光沢層５の傷，剥離，摩耗を防止でき、美麗な外観をより長寿命とすることができるとともに、容器本体１自体の耐久性をも高めることができる。さらに、成形品であるベース体３がブロー成形によって賦形されたものであるから、容器本体１をより軽量とすることができ、また、低コストで製造することができる。
【００１９】
なお、上記の例において、可撓性を有する成形品であるベース体３として、ＰＥＴを用いているが、これに限らず、その他の合成樹脂等を用いることができる。なかでも、合成樹脂として、ＰＥＴ、ポリプロピレン（ＰＰ）、ポリエチレン（ＰＥ）を用いると、成形性、耐久性、軽量性の点で好ましい。
【００２０】
また、上記の例において、ベース体３は、ブロー成形によって形成されたブロー成形容器であるが、これに代えて、チューブ容器を用いてもよい。このようなチューブ容器は、例えば、押出し成形、射出成形等によって成形することができる。
【００２１】
上記アンダーコート層４は、アクリル系樹脂を主成分とするアンダーコート用樹脂組成物からなるが、これに代えて、ベース体３と金属光沢層５との密着性を高めるために用いられる、シリコン系などの一般的なアンダーコート用樹脂組成物を用いることもできる。そして、その厚みは、通常、１０μｍ以下であることが好適である。すなわち、厚すぎると、ベース体３と金属光沢層５との接着性が悪くなるおそれがあり、またアンダーコート層４の重量が意味なく増加することになり、その結果、可撓性容器全体の軽量化を阻害するおそれがあるからである。なお、主成分とは、全体の過半を占める成分のことをいい、全体が主成分のみからなる場合をも含む意味である。
【００２２】
金属光沢層５は、金属材料としてインジウムを用い、スパッタリングを行うことにより得ることができる。このように、スパッタリングによる蒸着を行うことで、高精度でシビアな層厚をコントロールすることができ、真空蒸着では実現できないごく薄い層厚（例えば、０．０３〜０．０４μｍ）を実現することができる。そして、蒸着させる金属として、インジウムを用いることにより、高級感のある金属光沢を得ることができ、スパッタリングによる蒸着を行うことと相俟って、容器本体１を繰返しスクイズしても、クラックが発生したり、剥離することのない耐久性のある加飾を実現することができる。
【００２３】
さらに、上記の例では、トップコート層６は、無色透明のアクリル系塗料を塗布することによって形成されているが、これに代えて、他のトップコート用塗料を用いることもできる。なお、必要に応じ、このトップコート層６を形成する各種の塗料に着色剤を含有させ、色調を出すようにすることもできる。この場合、上記金属光沢層５の金属光沢との組合せによって、よりデザイン、色調の幅が広がるようになる。また、トップコート層６は、金属光沢層５の酸化防止、腐食・摩耗の防止等の保護膜の機能を有し、容器本体１の耐久性向上を実現するものであるが、さらに紫外光劣化を防止するため、ＵＶカット剤等を上記各種トップコート用塗料に添加してもよい。また、その厚みは１０〜２０μｍにすることが好適である。すなわち、薄すぎると、その下の金属光沢層５等を保護するのに充分な効果を発揮できないおそれがあり、厚すぎると、保護の効果は充分であるものの、容器本体１全体の重量が増加して、軽量性を失うおそれがあるからである。
【００２４】
なお、上記の例では、本発明を日焼け止めローションのボトルの容器本体に適用したものであるが、金属光沢Ｓを施す対象は、このようなボトルの容器本体に限らず、各種の可撓性を有する樹脂成形品、あるいは可撓性を有する樹脂成形品に他の部材を組み合わせた成形品等に適応可能である。例えば、飲食品（マヨネーズ、スポーツ飲料等）が収容されたスクイズボトル、歯磨き粉等が収容されたラミネートチューブ等に広く応用することができる。
【実施例】
【００２５】
つぎに、本発明の実施例について、比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【００２６】
まず、実施例および比較例の説明に先立ち、下記に示す成形品を製造した。
〔成形品〕
日焼け止めローション収容用ブローボトル
・材料：低密度ポリエチレン（ＬＤＰＥ） ・胴体部分の厚み：０．８ｍｍ
【００２７】
〔実施例１〕
アクリル系樹脂を主成分とするアンダーコート用樹脂組成物を、上記成形品に、５〜１５μｍの厚みになるよう塗布し、その上に、インジウムを０．０４μｍの厚みになるようスパッタリング蒸着し、さらに、アクリル系塗料からなるトップコート剤を５〜１５μｍの厚みとなるよう塗布し、目的の可撓性容器を得た。
【００２８】
〔比較例１〕
アンダーコート用樹脂組成物を塗布しなかった以外は実施例１と同様にして、目的の可撓性容器を得た。
【００２９】
〔比較例２〕
スパッタリング蒸着に代えて、真空蒸着を行った以外は実施例１と同様にして、目的の可撓性容器を得た。このときの金属光沢層の厚みは０．１〜０．２μｍであった。
【００３０】
〔比較例３〕
インジウムに代えて、アルミニウムを用いた以外は実施例１と同様にして、目的の可撓性容器を得た。このときの金属光沢層の厚みは０．０８〜０．１μｍであった。
【００３１】
これらの実施例品および比較例品について、上記可撓性容器における金属光沢層の「追従性」および「密着性」の評価を行なった。評価は、モニター１０名（女性１０名）が、手指で容器の胴部を５００および１０００回押した後の容器外観について、「追従性」については金属光沢層の「クラックの発生」の有無を、「密着性」については金属光沢層の「剥離」の有無を、それぞれ観察することにより行なった。その結果を後記の〔表１〕に示す。
【００３２】
〔追従性：クラックの発生〕
モニター１０名が目視により観察し、クラックの発生が、◎…発生していない、○…わずかに認める、△…発生した、×…発生が非常に目立つ、の４段階で評価し、その平均的な評価を求めた。
〔密着性：剥離の発生〕
モニター１０名が目視により観察し、剥離の発生が、◎…発生していない、○…わずかに認める、△…発生した、×…発生が非常に目立つ、の４段階で評価し、その平均的な評価を求めた。
【００３３】
【表１】
【００３４】
上記の結果から、実施例品は、どちらの評価についても概ね良好であるから、金属光沢層に追従性があり、密着性に富むことがわかる。また、比較例品は、これらの評価の双方が共に良好であるものがなく、実施例品に比べ劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【００３５】
本発明は、日焼け止めローション等の比較的粘度の高い液状またはゲル状の内容物を収容し、内容物を押出して使用するのに好適な可撓性容器に適する。また、可撓性を有する樹脂成形品に他の部材を組み合わせた成形品に使用することもできる。
【符号の説明】
【００３６】
１ 容器本体
３ ベース体
４ アンダーコート層
５ 金属光沢層
６ トップコート層
Ｓ 金属光沢
【技術分野】
【０００１】
本発明は、日焼け止めローション、リキッドファンデーション、乳液、クレンジング等の比較的粘度の高い液状またはゲル状の内容物を収容し、使用時に内容物を押出して使用するのに好適な可撓性容器に関するものである。
【背景技術】
【０００２】
可撓性を有する樹脂形成品は、成形の容易さ、軽量性、耐久性などの多くの利点を有していることから、化粧料の容器として広く用いられている。このような可撓性容器の中でも、比較的粘度の高い液状またはゲル状の化粧料等の内容物を収容する容器として、可撓性容器本体がスクイズ性を有する、いわゆるスクイズ容器が広く用いられている。このスクイズ容器は、蓋を取り外して、容器の胴部を手指で押すことで、内容物を容易に取り出すことができ、再び蓋を取り付ければ容易に密封することができるものである。しかし、このようなスクイズ性を有する可撓性容器は、その胴部が使用の度に変形と復元を繰り返すため、容器自体が加飾もこの変化に対応できる耐久性を有していなければならない。
【０００３】
一方、化粧料の収容に用いられる可撓性容器には、単に機能性だけでなく、見栄えがよい、商品イメージを反映したデザインであるという意匠性も要求される。そこで、商品イメージを反映させ、高級感を与えるために、容器の表面に金属蒸着を行い、その表面に金属光沢を現す加飾を行うことも考えられる。しかし、容器本体に直接金属蒸着を行うと、金属蒸着層には可撓性容器ほどの可撓性がないため、手指で容器を圧迫して使用（スクイズ）すると、容器の変形に追従することができず、クラックの発生や剥離が生じ、外観を損ねてしまう。この問題は、可撓性容器の全周のように、広い面積に金属蒸着による加飾を行う場合、とりわけ顕著である。したがって、このような可撓性容器の表面に、耐久性のある金属光沢による装飾を直接施すことはできなかった。
【０００４】
なお、容器本体に直接金属蒸着による加飾を行うのではなく、例えば、スクイズ性を有する可撓性容器の胴部に、接着層と金属蒸着層を含む加飾層と合成樹脂からなる保護フィルムとを積層させた転写フィルムを用いて装飾を施す技術は開示されている（例えば、特許文献１参照）。しかしながら、上記特許文献１のように、転写フィルムを用いたものは、まず上記の転写フィルムを作製しなければならず、作業工程が煩雑になるという問題がある。また、この転写フィルムをずれることなく巻き付け、可撓性容器の全周に金属蒸着層等を転写するのは容易ではない。さらに、保護フィルム等をスクイズ容器の上に接着させているから、繰返し使用すると、接着部分がずれたり、端から剥がれるおそれもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００５】
【特許文献１】特開２００７−３２６２２４号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００６】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、可撓性容器の本体に直接、金属光沢を有する加飾を容易に付与することができ、しかも、その金属光沢部分にクラックが生じたり、剥離したりすることがなく、長期に渡ってその金属光沢部分が美麗に保たれる可撓性容器の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【０００７】
上記目的を達成するため、本発明は、可撓性を有する樹脂成形品からなる容器本体の表面に、アンダーコート層と金属光沢層とがこの順で形成されており、上記金属光沢層がスパッタリングによって形成されたインジウム蒸着層からなる可撓性容器を第１の要旨とする。
【０００８】
また、本発明は、そのなかでも特に、上記金属光沢層の表面に、直接もしくは他の層を介して、トップコート層が形成されている可撓性容器を第２の要旨とし、上記可撓性容器が、ブロー成形容器もしくはチューブ容器である可撓性容器を第３の要旨とする。
【発明の効果】
【０００９】
本発明は、可撓性を有する樹脂成形品からなる容器本体の表面に、アンダーコート層と金属光沢層とがこの順で形成されたもので、上記金属光沢層として、スパッタリングによって形成されたインジウム蒸着層を用いることにより、上記可撓性容器の表面に直接、金属光沢を有する装飾を実現したものである。この構成によれば、従来のように、可撓性容器とは別に転写フィルムを作製したり、転写したりする必要がなくなるため、作業の効率化を図ることができ、コストの削減を図ることができる。また、スパッタリングによって形成されたインジウム蒸着層は、一般に用いられる金属蒸着層（例えば、アルミ蒸着層）よりも、層厚を薄くすることができるため、容器本体表面にアンダーコート層を介して薄い層厚のインジウム蒸着層を形成すると、可撓性容器本体の胴部を指の腹で押してその部分にだけ圧力を掛けることを何度も繰り返しても（押圧により屈曲と復元を繰返しても）、インジウムが展性に富むことと相俟って、上記インジウム蒸着層を、可撓性容器本体の屈曲に追従できるほど強固に密着させることができる。そのため、上記インジウム蒸着層はクラックが発生したり、剥離したりすることがなく、容器本体表面の美麗な外観を長期間保つことができる。また、直接、容器本体に金属光沢を有する装飾を施すことができるため、転写や貼り付けなどの装飾によるものと比べても、装飾のずれや剥がれなどが発生せず、美麗な外観が得られるという利点を有する。
【００１０】
そして、上記金属光沢層の表面に、直接もしくは他の層を介して、トップコート層が形成されている可撓性容器である場合には、上記トップコート層によって、蒸着層の傷，剥離，摩耗を防止できるため、美麗な外観をより長寿命とすることができるとともに、可撓性容器自体の耐久性をも高めることができる。
【００１１】
また、本発明のなかでも、特に、可撓性容器がブロー成形によって得られたものである場合には、より軽量で、低コストとすることができるようになり、可撓性容器が使用時の容器本体の胴部の変形度合いが高いチューブ容器である場合には、装飾のずれや剥がれなどが発生せず、美麗な外観の長寿命化を実現できるという本発明の効果がより顕著に現われるようになる。
【００１２】
なお、本発明において、可撓性容器とは、可撓性を有する樹脂からなる容器を意味するものである。容器が可撓性を有している限り、容器表面に施された金属光沢を有する加飾に、クラックの発生や剥離が生じるという問題が発生するため、本発明はこれを解決するものである。このような可撓性容器としては、例えば、日焼け止めローション，乳液等を収容するブロー成形容器、クリームファンデーション，クレンジング等を収容するチューブ容器などがあげられる。そして、このような可撓性容器の中でも、手指で容器の胴部を押して、内容物を取り出す、いわゆるスクイズ容器が特に好ましく用いられる。
【図面の簡単な説明】
【００１３】
【図１】本発明の一実施例の説明図である。
【図２】上記実施例の一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【００１４】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。
【００１５】
図１は、本発明を実施するための形態である日焼け止めローションのボトルである。この図において、１は可撓性を有する容器本体、２はその蓋体である。上記蓋体２の内側には、容器本体１の雄ねじ部ａに対応する雌ねじが形成されており（図示を省略している）、この雌ねじを可撓性容器本体１の雄ねじ部ａと組み合わせることにより、内容物を密封することができるようになっている。また、手指で容器本体１の胴部を圧迫することで内容物を取り出すことができるようになっている。そして、この容器本体１の全周表面には金属光沢Ｓが備えられている。
【００１６】
より詳しく説明すると、上記容器本体１は、図２にその断面図を示すように、ポリエチレンテレフタレート（ＰＥＴ）系樹脂をボトル形状に成形しているベース体３に、アクリル系樹脂からなるアンダーコート層４、スパッタリングによってインジウム蒸着を行い形成された金属光沢層５、無色透明のアクリル系樹脂からなるトップコート層６が、この順で積層した構成になっており、全体が可撓性を有している。そして、その表面にインジウムに由来する金属光沢Ｓを備えている。なお、図２において、上記各部位は模式的に表されており、実際の厚み、形状、大きさなどとは異なっている。
【００１７】
上記金属光沢Ｓを備えた容器本体１は、例えば、つぎのようにして得ることができる。まず、可撓性を有する成形品（ボトル状）であるベース体３を、ブロー成形によって成形する。このベース体３の胴体部分の厚みは０．８ｍｍである。そして、上記ベース体３の雄ねじ部ａを除く外周（以下、単に「外周」とする）全体に、アンダーコート剤を塗布・乾燥させて、上記ベース体３の外周全体に、アンダーコート層４（厚さ１０μｍ）を形成する。さらにその上に、スパッタリングによってインジウム蒸着を行い、金属光沢層５（厚さ０．０４μｍ）を形成し、ついで、トップコート剤を塗布・乾燥して、トップコート層６（厚さ８μｍ）を形成する。このようにして、容器表面が金属光沢Ｓによって加飾された容器本体１を得ることができる。
【００１８】
この方法によれば、従来のように、まず金属蒸着層等を含む転写フィルムを製作、転写するという２段階の工程が不要となり、効率よく容器本体１の表面に金属光沢Ｓを付与することができるという利点を有する。そして、容器本体１の表面に直接、金属蒸着によって金属光沢を付与することができるため、転写や貼り付けなどの装飾によるものと比べて、装飾のずれや剥がれなどが発生せず、美麗な外観を長期間に渡って保つことができる。また、金属光沢層を薄くすることができ、かつ、この層がアンダーコート層の上に積層されているため、容器本体１の屈曲にも追従できるほど各層と容器本体１の間を、強固に密着させることができる。よって、使用の度に容器本体の胴部を指の腹で押して、その部分にだけ圧を加えても、金属光沢層にクラックが発生したり、剥離したりすることがなく、美麗な外観を長期間保つことができる。さらに、容器本体１の最表面がトップコート層６によって保護されているため、金属光沢層５の傷，剥離，摩耗を防止でき、美麗な外観をより長寿命とすることができるとともに、容器本体１自体の耐久性をも高めることができる。さらに、成形品であるベース体３がブロー成形によって賦形されたものであるから、容器本体１をより軽量とすることができ、また、低コストで製造することができる。
【００１９】
なお、上記の例において、可撓性を有する成形品であるベース体３として、ＰＥＴを用いているが、これに限らず、その他の合成樹脂等を用いることができる。なかでも、合成樹脂として、ＰＥＴ、ポリプロピレン（ＰＰ）、ポリエチレン（ＰＥ）を用いると、成形性、耐久性、軽量性の点で好ましい。
【００２０】
また、上記の例において、ベース体３は、ブロー成形によって形成されたブロー成形容器であるが、これに代えて、チューブ容器を用いてもよい。このようなチューブ容器は、例えば、押出し成形、射出成形等によって成形することができる。
【００２１】
上記アンダーコート層４は、アクリル系樹脂を主成分とするアンダーコート用樹脂組成物からなるが、これに代えて、ベース体３と金属光沢層５との密着性を高めるために用いられる、シリコン系などの一般的なアンダーコート用樹脂組成物を用いることもできる。そして、その厚みは、通常、１０μｍ以下であることが好適である。すなわち、厚すぎると、ベース体３と金属光沢層５との接着性が悪くなるおそれがあり、またアンダーコート層４の重量が意味なく増加することになり、その結果、可撓性容器全体の軽量化を阻害するおそれがあるからである。なお、主成分とは、全体の過半を占める成分のことをいい、全体が主成分のみからなる場合をも含む意味である。
【００２２】
金属光沢層５は、金属材料としてインジウムを用い、スパッタリングを行うことにより得ることができる。このように、スパッタリングによる蒸着を行うことで、高精度でシビアな層厚をコントロールすることができ、真空蒸着では実現できないごく薄い層厚（例えば、０．０３〜０．０４μｍ）を実現することができる。そして、蒸着させる金属として、インジウムを用いることにより、高級感のある金属光沢を得ることができ、スパッタリングによる蒸着を行うことと相俟って、容器本体１を繰返しスクイズしても、クラックが発生したり、剥離することのない耐久性のある加飾を実現することができる。
【００２３】
さらに、上記の例では、トップコート層６は、無色透明のアクリル系塗料を塗布することによって形成されているが、これに代えて、他のトップコート用塗料を用いることもできる。なお、必要に応じ、このトップコート層６を形成する各種の塗料に着色剤を含有させ、色調を出すようにすることもできる。この場合、上記金属光沢層５の金属光沢との組合せによって、よりデザイン、色調の幅が広がるようになる。また、トップコート層６は、金属光沢層５の酸化防止、腐食・摩耗の防止等の保護膜の機能を有し、容器本体１の耐久性向上を実現するものであるが、さらに紫外光劣化を防止するため、ＵＶカット剤等を上記各種トップコート用塗料に添加してもよい。また、その厚みは１０〜２０μｍにすることが好適である。すなわち、薄すぎると、その下の金属光沢層５等を保護するのに充分な効果を発揮できないおそれがあり、厚すぎると、保護の効果は充分であるものの、容器本体１全体の重量が増加して、軽量性を失うおそれがあるからである。
【００２４】
なお、上記の例では、本発明を日焼け止めローションのボトルの容器本体に適用したものであるが、金属光沢Ｓを施す対象は、このようなボトルの容器本体に限らず、各種の可撓性を有する樹脂成形品、あるいは可撓性を有する樹脂成形品に他の部材を組み合わせた成形品等に適応可能である。例えば、飲食品（マヨネーズ、スポーツ飲料等）が収容されたスクイズボトル、歯磨き粉等が収容されたラミネートチューブ等に広く応用することができる。
【実施例】
【００２５】
つぎに、本発明の実施例について、比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【００２６】
まず、実施例および比較例の説明に先立ち、下記に示す成形品を製造した。
〔成形品〕
日焼け止めローション収容用ブローボトル
・材料：低密度ポリエチレン（ＬＤＰＥ） ・胴体部分の厚み：０．８ｍｍ
【００２７】
〔実施例１〕
アクリル系樹脂を主成分とするアンダーコート用樹脂組成物を、上記成形品に、５〜１５μｍの厚みになるよう塗布し、その上に、インジウムを０．０４μｍの厚みになるようスパッタリング蒸着し、さらに、アクリル系塗料からなるトップコート剤を５〜１５μｍの厚みとなるよう塗布し、目的の可撓性容器を得た。
【００２８】
〔比較例１〕
アンダーコート用樹脂組成物を塗布しなかった以外は実施例１と同様にして、目的の可撓性容器を得た。
【００２９】
〔比較例２〕
スパッタリング蒸着に代えて、真空蒸着を行った以外は実施例１と同様にして、目的の可撓性容器を得た。このときの金属光沢層の厚みは０．１〜０．２μｍであった。
【００３０】
〔比較例３〕
インジウムに代えて、アルミニウムを用いた以外は実施例１と同様にして、目的の可撓性容器を得た。このときの金属光沢層の厚みは０．０８〜０．１μｍであった。
【００３１】
これらの実施例品および比較例品について、上記可撓性容器における金属光沢層の「追従性」および「密着性」の評価を行なった。評価は、モニター１０名（女性１０名）が、手指で容器の胴部を５００および１０００回押した後の容器外観について、「追従性」については金属光沢層の「クラックの発生」の有無を、「密着性」については金属光沢層の「剥離」の有無を、それぞれ観察することにより行なった。その結果を後記の〔表１〕に示す。
【００３２】
〔追従性：クラックの発生〕
モニター１０名が目視により観察し、クラックの発生が、◎…発生していない、○…わずかに認める、△…発生した、×…発生が非常に目立つ、の４段階で評価し、その平均的な評価を求めた。
〔密着性：剥離の発生〕
モニター１０名が目視により観察し、剥離の発生が、◎…発生していない、○…わずかに認める、△…発生した、×…発生が非常に目立つ、の４段階で評価し、その平均的な評価を求めた。
【００３３】
【表１】
【００３４】
上記の結果から、実施例品は、どちらの評価についても概ね良好であるから、金属光沢層に追従性があり、密着性に富むことがわかる。また、比較例品は、これらの評価の双方が共に良好であるものがなく、実施例品に比べ劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【００３５】
本発明は、日焼け止めローション等の比較的粘度の高い液状またはゲル状の内容物を収容し、内容物を押出して使用するのに好適な可撓性容器に適する。また、可撓性を有する樹脂成形品に他の部材を組み合わせた成形品に使用することもできる。
【符号の説明】
【００３６】
１ 容器本体
３ ベース体
４ アンダーコート層
５ 金属光沢層
６ トップコート層
Ｓ 金属光沢
【特許請求の範囲】
【請求項１】
可撓性を有する樹脂成形品からなる容器本体の表面に、アンダーコート層と金属光沢層とがこの順で形成されており、上記金属光沢層がスパッタリングによって形成されたインジウム蒸着層からなることを特徴とする可撓性容器。
【請求項２】
上記金属光沢層の表面に、直接もしくは他の層を介して、トップコート層が形成されている請求項１記載の可撓性容器。
【請求項３】
上記可撓性容器が、ブロー成形容器もしくはチューブ容器である請求項１または２記載の可撓性容器。
【請求項１】
可撓性を有する樹脂成形品からなる容器本体の表面に、アンダーコート層と金属光沢層とがこの順で形成されており、上記金属光沢層がスパッタリングによって形成されたインジウム蒸着層からなることを特徴とする可撓性容器。
【請求項２】
上記金属光沢層の表面に、直接もしくは他の層を介して、トップコート層が形成されている請求項１記載の可撓性容器。
【請求項３】
上記可撓性容器が、ブロー成形容器もしくはチューブ容器である請求項１または２記載の可撓性容器。
【図１】
【図２】
【図２】
【公開番号】特開２０１１−４６４３７（Ｐ２０１１−４６４３７Ａ）
【公開日】平成２３年３月１０日（２０１１．３．１０）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００９−１９８６８０（Ｐ２００９−１９８６８０）
【出願日】平成２１年８月２８日（２００９．８．２８）
【出願人】（０００１５８７８１）紀伊産業株式会社 (327)
【出願人】（５０９２４４１７８）株式会社シーケン (1)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２３年３月１０日（２０１１．３．１０）
【国際特許分類】
【出願日】平成２１年８月２８日（２００９．８．２８）
【出願人】（０００１５８７８１）紀伊産業株式会社 (327)
【出願人】（５０９２４４１７８）株式会社シーケン (1)
【Ｆターム（参考）】
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